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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1372595
審判番号 不服2020-8677  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-23 
確定日 2021-04-01 
事件の表示 特願2017-204372「情報処理システム、及び、情報処理システムによる制御方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 5月23日出願公開、特開2019- 79175〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯
本願は,平成29年10月23日の出願であって,平成30年12月28日付けで拒絶理由通知がされ,平成31年3月11日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ,令和1年8月20日付けで拒絶理由通知(最後)がされ,令和1年10月15日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,令和2年3月18日付けで令和1年10月15日付けの手続補正が却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,令和2年6月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2.令和2年6月23日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年6月23日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所を示すために,請求人が付したものである。)

「【請求項1】
隣に配置された他のセルと接続可能な3つ以上の端子と,入力した信号について情報処理を行う情報処理部と,前記情報処理が行われた信号を記憶するとともに,記憶した信号のうち最も古い信号を出力するレジスタと,前記入力した信号を通過させる経路と,前記情報処理を行った信号を出力するか,前記入力した信号を前記経路を介して出力するかを選択するとともに,選択した信号を前記端子のうちの何れから出力するかを選択する選択部と,を備えるセルを複数有し,所望の情報処理を行うセルアレイと,
前記セルの何れかに不具合が発生した場合に,少なくとも前記不具合が発生したセルを除くセルに,セル内の接続に関する情報を送信することで,前記不具合が発生したセルを使用せずに前記不具合が発生する前と同一の所望の情報処理を前記セルアレイにさせる接続信号送信装置と,
を備える情報処理システム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成31年3月11日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
隣に配置された他のセルと接続可能な3つ以上の端子と,入力した信号について情報処理を行う情報処理部と,前記情報処理が行われた信号を記憶するレジスタと,前記入力した信号を通過させる経路と,前記情報処理を行った信号を出力するか,前記入力した信号を前記経路を介して出力するかを選択するとともに,選択した信号を前記端子のうちの何れから出力するかを選択する選択部と,を備えるセルを複数有し,所望の情報処理を行うセルアレイと,
前記セルの何れかに不具合が発生した場合に,少なくとも前記不具合が発生したセルを除くセルに,セル内の接続に関する情報を送信することで,前記不具合が発生したセルを使用せずに前記不具合が発生する前と同一の所望の情報処理を前記セルアレイにさせる接続信号送信装置と,
を備える情報処理システム。」

2.補正の適否
本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「レジスタ」について,「記憶した信号のうち最も古い信号を出力する」との限定を付加するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1.(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献,引用発明
ア.引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由において引用された,特開昭61-201365号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は,当審において付加したものである。以下,同じ。)

a.「〔産業上の利用分野〕
本発明は,複数のプロセッサエレメントをメッシュ状に結合して処理を分散させることにより,高度の並列処理を実現する並列処理システムに係り,特に或るプロセッサエレメントに障害が生じた場合のシステムの自動再構成方式に関する。」(第1頁右下欄1?6行)

b.「第2図は,かゝる並列処理システムの概略構成を示したもので,1はコントロールユニット(CU),2はプロセッサエレメント(PE)である。CU1はコントロール線3とステータス線4とデータ線5で各PE2と接続され,各PE2の状態をステータス線4で入手し,コントロール線3で各PE2を制御し,さらにデータ線5で必要によりプログラム,データを送受する。PE2は演算を実行する演算部と各PE間のデータ転送を行う転送部とCUとのインタフェース部を有している。」(第1頁右下欄12行?第2頁左上欄1行)

c.「〔問題点を解決するための手段〕
本発明は,メッシュ状に結合された複数のPEと各PEを制御するCUとからなる並列処理システムにおいて,任意の行および/または列のPEを予備にすると共に,各PEに障害を検出しその障害箇所をCUに報告する手段とCUの指示によってスルー状態(前段PEからの転送データをそのまゝ後段PEに転送する状態)または非スルー状態(前段PEからの転送データを入力し,演算したのち後段PEに転送する状態)にする手段を設ける。」(第2頁右上欄11行?同頁左下欄1行)

d.「〔発明の実施例〕
第1図は本発明の一実施例であってPEの構成を示したものである。第1図において,6はPE間のデータ転送を行う転送部,7は演算を実行する演算部である。転送部6はバッファ8,1/4セレクタ9,1/2セレクタ10,制御フリップフロップ(FF)11,1/2セレクタ12を具備している。4個のバッファ8はそれぞれ上下左右のPEからの転送データを保持し,制御FF11はCUからの制御信号(12のセレクト信号)を保持する。演算部7は演算ユニット13,メモリ14,プロセッサ15を具備している。」(第2頁左下欄11行?同頁右下欄2行)

e.「はじめ,第3図の例について説明する。第3図はPE間のパス系で障害が発生した場合の障害発生前と後のシステム状態を示したものである。16は各PE2のスルー/非スルー状態を保持しているレジスタで,CUl上に用意される。18は予備列のPE群,19は障害箇所である。」(第2頁右下欄5?10行)

f.「第3図(a)(再構成前)のレジスタ16は,この状態を示し,“1”は非スルー状態,“0”はスルー状態である。このレジスタ16の状態に対応して第1図に示すPE2の制御FF11がCU1によってセットされる。すなわち,レジスタ16の対応するビットが“1”ならば,該当PEの制御FF11は“1”,“0”ならば“0”にセットされる。制御FF11が“0”の場合,セレクタ12はバッファ8からのデータを選択し,“1”の場合はセレクタ10からのデータを選択する。従って,制御FF11が“0”,すなわちCU1からスルー状態が指示された場合,PE2は右PEからのデータを左PEへ,左PEからのデータを右PEへ,上PEからのデータを下PEへ,下PEからのデータを上PEへそのまゝ,ダイレクトに転送する。」(第2頁右下欄18行?第3頁左上欄13行)

g.「次に,初期設定後,各PE2は内部演算を実行し,必要に応じてPE間とのデータ転送を行う。いま,同一パターンの右方向の隣接転送を例とする。すなわち,A→B,B→C,C→(D)→A,E→F,F→G,G→(H)→E,I→J,J→K,K→(L)→I,M→N,N→O,O→(P)→Mの転送を行うとする。PE間転送方式としては,次の2つがあるが,本発明はどちらの場合でも適用できる。
(1)(当審注:原文では,丸数字で表記されているが,括弧付きの数字で表記した。) クロックと非同期に行う。すなわち,あるプロトコルでもってハンドシェイク的に行う。この場合,スルー状態によるPE間転送への影響は波形上のなまりであって,ディレイ上の問題はない。
(2)クロックに同期して行う。すなわち,通信上のディレイは,クロック内に納まる必要がある。したがって,スルー状態が連続して続く場合,ディレイがクロック内に納まる様に,前もってどれ位までスルー状態が許されるかを見積もっておく必要がある。」(第3頁右上欄15行?同頁左下欄14行)

h.「各PE2はPE間転送によって演算に必要なデータがそろった時点で演算を行う,すなわち,第1図において,PE5(当審注:「PE5」は,「PE2」の誤記と認められる。)はセレクタ9により必要な方向からのデータを選択し,演算ユニット13に取り込む。また,演算結果を他PEに転送する場合は,演算ユニット13のデータをセレクタ10を介して各隣接PEに転送する。CU1からロードされたプログラムはメモリ14に格納されており,該プログラムに従いプロセッサ15は演算ユニット13の動作を制御する。また,メモリ14は演算の中途データ等を格納するのにも使われる。」(第3頁右下欄6?17行)

i.「第4図では,予備系の行と列,すなわち,D,L,M,N,O,P(当審注:「D,L,M,N,O,P」は「D,H,L,M,N,O,P」の明らかな誤記である。)として,残りのPEで3×3のメッシュ群を構成している。従って,再構成前のレジスタ16の状態は,第4図(a)のようになり,同一パターンで右方向の隣接転送を例にとると,A→B,B→C,C→(D)→A,E→F,G→(H)→E(当審注:「E→F,G→(H)→E」は「E→F,F→G,G→(H)→E」の明らかな誤記である。),i→J,J→K,K→(L)→iで転送を行う。
次に,GのPEで障害が発生し,それが転送部の障害でPE間転送の正常性が保証されない場合,Gと同じ行および列のPE群を予備のPE群18に切り換える必要がある。即ち,CU1は,スルー状態にすべきPE群として,行方向はE,F,G,Hを,列方向はC,G,K,Oをそれぞれ決定し,また,予備PE群18のD,L,M,N,Pを非スルー状態に設定して,PEを再構成する。第4図(b)のレジスタ16は該再構成後の状態を示す。従って,再構成後の同一パターンで右方向の隣接転送は,第4図(b)に示すように,A→B,B→(C)→D,D→A,i→J,J→(K)→L,L→i,M→N,N→(O)→P,P→Mとなる。」(第4頁左下欄6行?同頁右下欄7行)

j.「第5図はCU側の障害処理フローをまとめて示したものである。即ち,CU1は各PE2からの障害報告の有無を常に監視しており(ステップ101),障害報告を受信すると,障害箇所を判別する(ステップ102)。そして,PE間のパス系あるいはPE間の演算部の障害の場合は,あらかじめ定めてある予備行または列のPE群を非スルー状態にし(ステップ103),障害の生じたPEと同じ行または列のPE群をスルー状態にする(ステップ104)。PE間の転送部の障害の場合は,予備行と予備列の両方のPE群を非スルー状態にし(ステップ105),障害の生じたPEと同じ行,列のPE群をスルー状態にする(ステップl06)。次にPEヘプログラムの再初期設定を行い(ステップ107),再開始指示を送出する(ステップ108)。」(第4頁右下欄8行?第5頁左上欄3行)

k.「〔発明の効果〕
以上,説明したように,本発明はPEにスルー/非スルー用のハードウェアを付加する事により,PEに障害が発生しても,予備系のPEに切り換え,システムを再構成する事により,システムをダウンさせる事なしに容易に再実行が可能となる。」(第5頁左上欄18行?同頁右上欄3行)

l.「第1図



m.「第2図



n.「第4図



(イ)上記a.の記載から,引用文献1には,「複数のプロセッサエレメントをメッシュ状に結合して処理を分散させることにより,高度の並列処理を実現する並列処理システム」が記載されていると認められる。

(ウ)上記b.の記載と上記m.で引用した第2図の記載から,引用文献1には,「並列処理システム」は,「コントロールユニット(CU)1と複数のプロセッサエレメント(PE)2とを備え」ることが記載されていると認められる。

(エ)上記b.の記載から,引用文献1には,「CU1はコントロール線3とステータス線4とデータ線5で各PE2と接続され,各PE2の状態をステータス線4で入手し,コントロール線3で各PE2を制御し,さらにデータ線5で必要によりプログラム,データを送受する」ものであることが記載されていると認められる。

(オ)上記d.の記載と上記l.で引用した第1図の記載から,引用文献1には,「PEは,PE間のデータ転送を行う転送部6と演算を実行する演算部7を備え」,「転送部6はバッファ8,1/4セレクタ9,1/2セレクタ10,制御フリップフロップ(FF)11,1/2セレクタ12を具備して」おり,「4個のバッファ8はそれぞれ上下左右のPEからの転送データを保持し,制御FF11はCUからの制御信号(12のセレクト信号)を保持する」ものであり,「演算部7は演算ユニット13,メモリ14,プロセッサ15を具備して」いることが記載されていると認められる。

(カ)上記e.の記載から,引用文献1には,「各PE2のスルー/非スルー状態を保持しているレジスタ16がCUl上に用意され」ることが記載されていると認められる。

(キ)上記c.の記載から,引用文献1には,「スルー状態とは,前段PEからの転送データをそのまゝ後段PEに転送する状態であり,非スルー状態とは,前段PEからの転送データを入力し,演算したのち後段PEに転送する状態であ」ることが記載されていると認められる。

(ク)上記f.の記載から,引用文献1には,「レジスタ16は,“1”は非スルー状態,“0”はスルー状態を示し,このレジスタ16の状態に対応してPE2の制御FF11がCU1によってセットされ,すなわち,レジスタ16の対応するビットが“1”ならば,該当PEの制御FF11は“1”,“0”ならば“0”にセットされ,制御FF11が“0”の場合,セレクタ12はバッファ8からのデータを選択し,“1”の場合はセレクタ10からのデータを選択し,従って,制御FF11が“0”,すなわちCU1からスルー状態が指示された場合,PE2は右PEからのデータを左PEへ,左PEからのデータを右PEへ,上PEからのデータを下PEへ,下PEからのデータを上PEへそのまゝ,ダイレクトに転送する」ようになっていることが記載されていると認められる。

(ケ)上記g.の記載から,引用文献1には,「各PE2は内部演算を実行し,必要に応じてPE間とのデータ転送を行うところ,PE間転送方式として,クロックと非同期に行う,すなわち,あるプロトコルでもってハンドシェイク的に行う方式と,クロックに同期して行う方式とのどちらでも適用でき」ることが記載されていると認められる。

(コ)上記h.の記載と上記l.で引用した第1図の記載から,引用文献1には,「PE2はセレクタ9により必要な方向からのデータを選択し,演算ユニット13に取り込み,また,演算結果を他PEに転送する場合は,演算ユニット13のデータをセレクタ10を介して各隣接PEに転送」することが記載されていると認められる。

(サ)上記i.の「第4図では,予備系の行と列,すなわち,D,L,M,N,O,P(当審注:「D,L,M,N,O,P」は「D,H,L,M,N,O,P」の明らかな誤記である。)として,残りのPEで3×3のメッシュ群を構成している」との記載と上記n.で引用した第4図の記載から,引用文献1には,「A?Pの16個のPE2からなる4×4のメッシュ群」が記載されていると認められる。
また,上記i.の記載と上記n.で引用した第4図(a)のレジスタ16の記載から,引用文献1には,「再構成前のレジスタ16の状態は,A=1,B=1,C=1,D=0,E=1,F=1,G=1,H=0,i=1,J=1,K=1,L=0,M=0,N=0,O=0,P=0であ」ることが記載されていると認められる。
以上のことと,上記iの記載から,引用文献1には,「A?Pの16個のPE2からなる4×4のメッシュ群のうち,予備系の行と列,すなわち,D,H,L,M,N,O,Pとして,残りのPEで3×3のメッシュ群を構成し,従って,再構成前のレジスタ16の状態は,A=1,B=1,C=1,D=0,E=1,F=1,G=1,H=0,i=1,J=1,K=1,L=0,M=0,N=0,O=0,P=0であり,同一パターンで右方向の隣接転送を例にとると,A→B,B→C,C→(D)→A,E→F,F→G,G→(H)→E,i→J,J→K,K→(L)→iで転送を行」うことが記載されていると認められる。

(シ)上記i.の記載から,引用文献1には,「次に,GのPEで障害が発生し,それが転送部の障害でPE間転送の正常性が保証されない場合,Gと同じ行および列のPE群を予備のPE群18に切り換える必要があり,CU1は,スルー状態にすべきPE群として,行方向はE,F,G,Hを,列方向はC,G,K,Oをそれぞれ決定し,また,予備PE群18のD,L,M,N,Pを非スルー状態に設定して,PEを再構成」することが記載されていると認められる。
また,上記i.の記載と上記n.で引用した第4図(b)のレジスタ16の記載から,引用文献1には,「レジスタ16は該再構成後の状態として,A=1,B=1,C=0,D=1,E=0,F=0,G=0,H=0,i=1,J=1,K=0,L=1,M=1,N=1,O=0,P=1を示し,再構成後の同一パターンで右方向の隣接転送は,A→B,B→(C)→D,D→A,i→J,J→(K)→L,L→i,M→N,N→(O)→P,P→Mとな」ることが記載されていると認められる。


(ス)上記j.の記載から,引用文献1には,「CU側の障害処理フローでは,CU1は各PE2からの障害報告の有無を常に監視しており,障害報告を受信すると,障害箇所を判別し,PE間の転送部の障害の場合は,予備行と予備列の両方のPE群を非スルー状態にし,障害の生じたPEと同じ行,列のPE群をスルー状態にし,次にPEヘプログラムの再初期設定を行い,再開始指示を送出」することが記載されていると認められる。

(セ)上記k.の記載から,引用文献1には,「PEに障害が発生しても,予備系のPEに切り換え,システムを再構成する事により,システムをダウンさせる事なしに容易に再実行が可能となる」ことが記載されていると認められる。

(ソ)したがって,引用文献1の上記各記載及び図面の記載を総合すると,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「複数のプロセッサエレメントをメッシュ状に結合して処理を分散させることにより,高度の並列処理を実現する並列処理システムであって,
コントロールユニット(CU)1と複数のプロセッサエレメント(PE)2とを備え,
CU1はコントロール線3とステータス線4とデータ線5で各PE2と接続され,各PE2の状態をステータス線4で入手し,コントロール線3で各PE2を制御し,さらにデータ線5で必要によりプログラム,データを送受するものであり,
PEは,PE間のデータ転送を行う転送部6,演算を実行する演算部7を備え,
転送部6はバッファ8,1/4セレクタ9,1/2セレクタ10,制御フリップフロップ(FF)11,1/2セレクタ12を具備しており,4個のバッファ8はそれぞれ上下左右のPEからの転送データを保持し,制御FF11はCUからの制御信号(12のセレクト信号)を保持するものであり,演算部7は演算ユニット13,メモリ14,プロセッサ15を具備しており,
各PE2のスルー/非スルー状態を保持しているレジスタ16がCUl上に用意され,
ここで,スルー状態とは,前段PEからの転送データをそのまゝ後段PEに転送する状態であり,非スルー状態とは,前段PEからの転送データを入力し,演算したのち後段PEに転送する状態であり,
レジスタ16は,“1”は非スルー状態,“0”はスルー状態を示し,このレジスタ16の状態に対応してPE2の制御FF11がCU1によってセットされ,すなわち,レジスタ16の対応するビットが“1”ならば,該当PEの制御FF11は“1”,“0”ならば“0”にセットされ,制御FF11が“0”の場合,セレクタ12はバッファ8からのデータを選択し,“1”の場合はセレクタ10からのデータを選択し,従って,制御FF11が“0”,すなわちCU1からスルー状態が指示された場合,PE2は右PEからのデータを左PEへ,左PEからのデータを右PEへ,上PEからのデータを下PEへ,下PEからのデータを上PEへそのまゝ,ダイレクトに転送するようになっており,
各PE2は内部演算を実行し,必要に応じてPE間とのデータ転送を行うところ,PE間転送方式として,クロックと非同期に行う,すなわち,あるプロトコルでもってハンドシェイク的に行う方式と,クロックに同期して行う方式とのどちらでも適用でき,
PE2はセレクタ9により必要な方向からのデータを選択し,演算ユニット13に取り込み,また,演算結果を他PEに転送する場合は,演算ユニット13のデータをセレクタ10を介して各隣接PEに転送し,
A?Pの16個のPE2からなる4×4のメッシュ群のうち,予備系の行と列,すなわち,D,H,L,M,N,O,Pとして,残りのPEで3×3のメッシュ群を構成し,従って,再構成前のレジスタ16の状態は,A=1,B=1,C=1,D=0,E=1,F=1,G=1,H=0,i=1,J=1,K=1,L=0,M=0,N=0,O=0,P=0であり,同一パターンで右方向の隣接転送を例にとると,A→B,B→C,C→(D)→A,E→F,F→G,G→(H)→E,i→J,J→K,K→(L)→iで転送を行い,
次に,GのPEで障害が発生し,それが転送部の障害でPE間転送の正常性が保証されない場合,Gと同じ行および列のPE群を予備のPE群18に切り換える必要があり,CU1は,スルー状態にすべきPE群として,行方向はE,F,G,Hを,列方向はC,G,K,Oをそれぞれ決定し,また,予備PE群18のD,L,M,N,Pを非スルー状態に設定して,PEを再構成し,レジスタ16は該再構成後の状態として,A=1,B=1,C=0,D=1,E=0,F=0,G=0,H=0,i=1,J=1,K=0,L=1,M=1,N=1,O=0,P=1を示し,再構成後の同一パターンで右方向の隣接転送は,A→B,B→(C)→D,D→A,i→J,J→(K)→L,L→i,M→N,N→(O)→P,P→Mとなり,
CU側の障害処理フローでは,CU1は各PE2からの障害報告の有無を常に監視しており,障害報告を受信すると,障害箇所を判別し,PE間の転送部の障害の場合は,予備行と予備列の両方のPE群を非スルー状態にし,障害の生じたPEと同じ行,列のPE群をスルー状態にし,次にPEヘプログラムの再初期設定を行い,再開始指示を送出し,
PEに障害が発生しても,予備系のPEに切り換え,システムを再構成する事により,システムをダウンさせる事なしに容易に再実行が可能となる,
並列処理システム。」

イ.引用文献2
(ア)原査定の拒絶の理由において引用された,特開2012-221149号公報(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は,当審において付加したものである。以下,同じ。)

o.「【0076】
図23は,プロセッサエレメントの回路図の一例である。プロセッサエレメントPE50は,入力信号INaと,入力信号INbとに所定の演算処理を実行する演算器50aと,演算器50aの後段に設けられ,演算器50の出力を保持し出力するレジスタREGoとを有する。
【0077】
出力段に設けられたレジスタREGoは,リコンフィグ可能な集積回路装置がパイプライン・並列処理に適した回路構造で大量の演算処理やデータ処理を実行するために設けられたリタイミング用のレジスタである。なお,入力段に設けられたレジスタREGa,REGbもリタイミング用のレジスタであるが必ずしも必要なレジスタではない。」

(イ)上記o.の記載から,引用文献2には,「プロセッサエレメントにおいて,パイプライン・並列処理等で大量の演算処理やデータ処理を実行するために,出力段にリタイミング用のレジスタを設ける技術」が記載されていると認められる。

ウ.参考文献1
(ア)当審において新たに引用する,特開平5-290000号公報(以下,「参考文献1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は,当審において付加した。以下,同じ。)

p.「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,複数のプロセッシングエレメントを備えた並列計算機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図7は例えば「特願平3-049565」に示された従来の分散共有メモリ方式並列計算機を示すシステム構成図である。図において,1はプロセッシングエレメント(以下,PEともいう)である。PEは並列計算機の基本単位であり,並列計算機は任意個のPEにより構成される。2はプロセッサ(MPU)であり,5は各PEに分散配置された分散共有メモリである。6はシステム全体のPEを接続するシステムバスである。29はPEからの出力データをバッファすると共に転送タイミングを制御する機能を持ったFIFOレジスタ(以下,FIFOともいう)である。30はシステム全体のデータ転送を制御するデータ転送制御用プロセッサ(以下,転送用PEともいう)である。この構成において,分散配置された共有メモリは全てのPEが全てのアドレスをアクセスできるが,同じPE内に配置されたメモリアドレスは高速にアクセスできる。
【0003】次に動作について説明する。このシステムにおいては,各PEがプログラムを実行する際に必要とするデータは自PE内の分散共有メモリ内に置くことを基本としている。この方針により,演算とデータの関係が自PE内に閉じている限りは,データをシステムバス経由でアクセスする必要がないので,メモリを高速にアクセスできる。しかし,1つのプロセスを複数PEで分担して実行する際にはほとんどの場合にPE間でのデータ交換が必要となる。このシステムでは,このデータ交換を効率良く実行するために,専用に設けたデータ転送制御用プロセッサ30がPE間のデータ転送を全て担当している。まず,各PEでの演算結果を他のPEに転送する必要が生じるとMPUはそのデータをFIFO29に格納する。転送用PE30にはあらかじめ各PEがデータをFIFOに格納する順番とそのデータの転送先が転送用プログラムにより示されており,各演算担当PEのMPUの動作とは非同期にデータ転送動作を実行できる。また,FIFO29は転送用PE30に対し要求されたデータの有無を示す割り込み制御機構を備えているので,転送用PE30は最小限の同期オーバヘッドで転送を行うことができる。
【0004】このシステムを従来の集中配置型共有メモリ+キャッシュ方式(以下,集中方式と呼ぶ)と比較すると,集中方式ではPE間のデータ転送にキャッシュからメモリへの書き戻しと,メモリからキャッシュへの書き込みの2回のバス上のデータ転送が必要となっていた。また,集中方式では各PEの演算にデータが必要になってからメモリからキャッシュへの転送が発生するために転送タイミングが固定的で,転送動作が競合する可能性が高く,その競合が直接演算の待ちにつながっていた。それに対し,ここに示した分散共有メモリ方式ではデータ転送の回数が半分になると共に,データ転送のタイミングの自由度が向上し,実質的なバス性能が向上する。」

(イ)上記p.の記載から,参考文献1には,「複数のプロセッシングエレメントを備えた並列計算機において,並列計算機の基本単位であるPEに,PEからの出力データをバッファすると共に転送タイミングを制御する機能を持ったFIFOレジスタを設ける技術」が記載されていると認められる。

(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア.引用発明の「並列処理システム」は,「複数のプロセッサエレメントをメッシュ状に結合して処理を分散させることにより,高度の並列処理を実現する」ものであるところ,「分散」された「処理」を実行する「複数のプロセッサエレメント」は,本件補正発明の「複数」の「セル」に対応することから,引用発明の「メッシュ状に結合」された「複数のプロセッサエレメント」は,本件補正発明の“セルを複数有し,所望の情報処理を行うセルアレイ”に対応する。

イ.引用発明の「プロセッサエレメント(PE)2」は,「制御FF11が“0”,すなわちCU1からスルー状態が指示された場合」,「PE2は右PEからのデータを左PEへ,左PEからのデータを右PEへ,上PEからのデータを下PEへ,下PEからのデータを上PEへそのまゝ,ダイレクトに転送するようになって」いることから,右PE,左PE,上PE,下PEの4つのPE,すなわち,“隣に配置された他のセル”と“接続可能”な“4つの端子”を備えているといえる。
したがって,引用発明の「プロセッサエレメント(PE)2」と本件補正発明の「セル」とは,“隣に配置された他のセルと接続可能な3つ以上の端子”を備える点で一致する。

ウ.引用発明の「PE」が備える「演算部7」は,「演算を実行する」ものであり,「非スルー状態」では,「前段PEからの転送データを入力し」て「演算」を実行するものであるから,本件補正発明の「入力した信号について情報処理を行う情報処理部」に相当する。

エ.引用発明では,「制御FF11が“0”の場合」,「セレクタ12はバッファ8からのデータを選択し」,「制御FF11が“0”,すなわちCU1からスルー状態が指示された場合,PE2は右PEからのデータを左PEへ,左PEからのデータを右PEへ,上PEからのデータを下PEへ,下PEからのデータを上PEへそのまゝ,ダイレクトに転送するようになって」いるところ,引用発明の,「セレクタ12」が「バッファ8からのデータを選択し」た場合の「右PEからのデータを左PEへ,左PEからのデータを右PEへ,上PEからのデータを下PEへ,下PEからのデータを上PEへそのまゝ,ダイレクトに転送する」“経路”が,本件補正発明の「入力した信号を通過させる経路」に相当する。
また,引用発明の「セレクタ12」で「選択」される「セレクタ10からのデータ」は,「演算結果を他PEに転送する場合」に,「各隣接PEに転送」される「演算ユニット13のデータ」であるから,本件補正発明の「前記情報処理を行った信号」に相当する。
また,引用発明の「セレクタ12」で「選択」される「バッファ8からのデータ」は,「制御FF11が“0”,すなわちCU1からスルー状態が指示された場合」に,「右PEからのデータを左PEへ,左PEからのデータを右PEへ,上PEからのデータを下PEへ,下PEからのデータを上PEへ」「そのまゝ,ダイレクトに転送」されるデータであるから,本件補正発明の「前記(入力した信号を通過させる)経路を介して出力」される「前記入力した信号」に相当する。
以上のことから,引用発明の「制御FF11が“0”の場合」,「バッファ8からのデータを選択し」,「“1”の場合はセレクタ10からのデータを選択」する「セレクタ12」は,本件補正発明の「前記情報処理を行った信号を出力するか,前記入力した信号を前記経路を介して出力するかを選択する」「選択部」に相当する。

オ.上記ア.?エ.の検討から,引用発明の「メッシュ状に結合」された「複数のプロセッサエレメント」と本件補正発明の「セルを複数有し,所望の情報処理を行うセルアレイ」とは,後記する点で相違するものの,“隣に配置された他のセルと接続可能な3つ以上の端子と,入力した信号について情報処理を行う情報処理部と,前記入力した信号を通過させる経路と,前記情報処理を行った信号を出力するか,前記入力した信号を前記経路を介して出力するかを選択する選択部と,を備えるセルを複数有し,所望の情報処理を行うセルアレイ”である点で一致する。

カ.引用発明の「GのPEで障害が発生」した“場合”は,本件補正発明の「前記セルの何れかに不具合が発生した場合」に相当し,また,引用発明の「GのPE」は,本件補正発明の「前記不具合が発生したセル」に相当する。
引用発明では,「GのPEで障害が発生」した場合,「CU1」は,「Gと同じ行および列のPE群を予備のPE群18に切り換える」ために,「スルー状態にすべきPE群として,行方向はE,F,G,Hを,列方向はC,G,K,Oをそれぞれ決定し,また,予備PE群18のD,L,M,N,Pを非スルー状態に設定して,PEを再構成し」ているところ,当該再構成を行うために,「CUl上に用意され」ている「レジスタ16の状態」を「再構成前」の「A=1,B=1,C=1,D=0,E=1,F=1,G=1,H=0,i=1,J=1,K=1,L=0,M=0,N=0,O=0,P=0」から,「再構成後」の「A=1,B=1,C=0,D=1,E=0,F=0,G=0,H=0,i=1,J=1,K=0,L=1,M=1,N=1,O=0,P=1」に変更し,「このレジスタ16の状態に対応してPE2の制御FF11がCU1によってセットされ,すなわち,レジスタ16の対応するビットが“1”ならば,該当PEの制御FF11は“1”,“0”ならば“0”にセットされ,制御FF11が“0”の場合,セレクタ12はバッファ8からのデータを選択し,“1”の場合はセレクタ10からのデータを選択」するようになるものである。
ここで,引用発明の「セレクタ12」が「バッファ8からのデータを選択」するか「セレクタ10からのデータを選択」するかは,“セル内の接続”を切り替えているということができ,当該切り替えを行うために「レジスタ16」に設定される“0”,“1”の情報は,本件補正発明の「セル内の接続に関する情報」に相当する。
そして,引用発明では,「レジスタ16の対応するビットが“1”ならば,該当PEの制御FF11は“1”,“0”ならば“0”にセットされ」るから,当該“0”,“1”のビットは,レジスタ16を有する「CU1」から制御FF11を有する「PE」に“送信”されているといえる。
また,レジスタ16の状態は,C,E,F,G,Kにおいて,再構成前の“1”から再構成後の“0”に変更され,また,D,L,M,Nにおいて,再構成前の“0”から再構成後の“1”に変更されているところ,これら変更された,C,E,F,G,K,D,L,M,NのPEは,「GのPE」を含んではいるものの,“少なくとも”「GのPE」を“除くPE”に上記“0”,“1”のビットを“送信”していることに変わりはないから,引用発明のレジスタ16の状態が変更された「C,E,F,G,K,D,L,M,N」の「PE」に“0”,“1”のビットを“送信”することは,本件補正発明の「少なくとも前記不具合が発生したセルを除くセルに,セル内の接続に関する情報を送信する」ことに相当する。
また,引用発明の「レジスタ16」に設定される“0”,“1”の情報(セル内の接続に関する情報)を“送信”する「CU1」は,本件補正発明の「セル内の接続に関する情報を送信する」「接続信号送信装置」に相当する。
したがって,引用発明と本件補正発明とは,“前記セルの何れかに不具合が発生した場合に,少なくとも前記不具合が発生したセルを除くセルに,セル内の接続に関する情報を送信する”“接続信号送信装置”を備えている点で一致する。

キ.引用発明では,「GのPEで障害が発生」した場合,「CU1」は,「Gと同じ行および列のPE群を予備のPE群18に切り換え」るために,「レジスタ16」の「再構成後の状態」を「A=1,B=1,C=0,D=1,E=0,F=0,G=0,H=0,i=1,J=1,K=0,L=1,M=1,N=1,O=0,P=1」とし,これにより,レジスタ16の値が“1”である“A,B,D,i,J,L,M,N,Pの9個のPE”により3×3のメッシュ群を再構成し,さらに,「CU1」は,「PEヘプログラムの再初期設定を行い,再開始指示を送出する」ものであるところ,上記“A,B,D,i,J,L,M,N,Pの9個のPE”からなる「3×3のメッシュ群」は,“GのPE”を“使用”しておらず,また,上記「再開始指示」に応じて,「高度の並列処理」,すなわち,“所望の情報処理”を“再開始”させるものと認められるから,引用発明と本件補正発明とは,“前記不具合が発生したセルを使用せずに所望の情報処理を前記セルアレイにさせる”点で一致している。
また,引用発明は,「PEに障害が発生しても,予備系のPEに切り換え,システムを再構成する事により,システムをダウンさせる事なしに容易に再実行が可能となる」ものであるから,障害の発生後に実行される“所望の情報処理”は,障害の発生前,すなわち,“不具合が発生する前”に実行される“情報処理”と“同一”の“情報処理であるといえる。
してみれば,引用発明と本件補正発明とは,“前記不具合が発生したセルを使用せずに前記不具合が発生する前と同一の所望の情報処理を前記セルアレイにさせる”点で一致している。

ク.上記カ.及びキ.より,引用発明と本件補正発明とは,“前記セルの何れかに不具合が発生した場合に,少なくとも前記不具合が発生したセルを除くセルに,セル内の接続に関する情報を送信することで,前記不具合が発生したセルを使用せずに前記不具合が発生する前と同一の所望の情報処理を前記セルアレイにさせる接続信号送信装置”を備えている点で一致する。

ケ.上記ア.?ク.の検討から,引用発明の「並列処理システム」は,後記する点で相違するものの,本件補正発明の「情報処理システム」に対応する。

したがって,本件補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。

(一致点)
「隣に配置された他のセルと接続可能な3つ以上の端子と,入力した信号について情報処理を行う情報処理部と,前記入力した信号を通過させる経路と,前記情報処理を行った信号を出力するか,前記入力した信号を前記経路を介して出力するかを選択する選択部と,を備えるセルを複数有し,所望の情報処理を行うセルアレイと,
前記セルの何れかに不具合が発生した場合に,少なくとも前記不具合が発生したセルを除くセルに,セル内の接続に関する情報を送信することで,前記不具合が発生したセルを使用せずに前記不具合が発生する前と同一の所望の情報処理を前記セルアレイにさせる接続信号送信装置と,
を備える情報処理システム。」

(相違点1)
本件補正発明のセルは,「前記情報処理が行われた信号を記憶するとともに,記憶した信号のうち最も古い信号を出力するレジスタ」を備えているのに対して,引用発明のプロセッサエレメント(PE)2は,そのようなレジスタを備えることは記載されていない点。

(相違点2)
本件補正発明のセルは,「選択した信号を前記端子のうちの何れから出力するかを選択する選択部」を備えているのに対して,引用発明のプロセッサエレメント(PE)2は,そのような選択部を備えることは記載されていない点。

(4)判断

上記相違点について検討する。

(相違点1)について
例えば,引用文献2には,「プロセッサエレメントにおいて,パイプライン・並列処理等で大量の演算処理やデータ処理を実行するために,出力段にリタイミング用のレジスタを設ける技術」が記載され,また,参考文献1には,「複数のプロセッシングエレメントを備えた並列計算機において,並列計算機の基本単位であるPEに,PEからの出力データをバッファすると共に転送タイミングを制御する機能を持ったFIFOレジスタを設ける技術」が記載されているように,複数のプロセッサエレメント(PE)を用いて並列処理を実行する構成において,各プロセッサエレメント(PE)に,データの転送タイミングを制御するためのレジスタを設けることは,当該技術分野における周知技術であるものと認められ,当該データの転送タイミングを制御するためのレジスタとして,FIFOレジスタを用いることも,参考文献1に記載されている。
そして,引用発明,引用文献2及び参考文献1は,いずれも,複数のプロセッサエレメントを用いて並列処理を実行するという同一の技術分野に属するものである。
してみると,複数のプロセッサエレメントを用いて並列処理を実行する引用発明の並列処理システムにおいて,データの転送タイミングを制御するためにFIFOレジスタを設けるように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2)について
引用発明の「PE2」は,「セレクタ9により必要な方向からのデータを選択し,演算ユニット13に取り込み,また,演算結果を他PEに転送する場合は,演算ユニット13のデータをセレクタ10を介して各隣接PEに転送し」ており,また,「制御FF11が“0”の場合,セレクタ12はバッファ8からのデータを選択し,“1”の場合はセレクタ10からのデータを選択し,従って,制御FF11が“0”,すなわちCU1からスルー状態が指示された場合,PE2は右PEからのデータを左PEへ,左PEからのデータを右PEへ,上PEからのデータを下PEへ,下PEからのデータを上PEへそのまゝ,ダイレクトに転送するようになって」いることからすると,「セレクタ12」が「セレクタ10からのデータを選択し」た場合には,4つの「セレクタ12」は,それぞれ対応する左右上下の4つのPEの全てに「セレクタ10からのデータ」を転送し,受信側のPEの「セレクタ9」により「必要な方向からのデータを選択し,演算ユニット13に取り込」んでいるものと認められるところ,PEのデータを接続されている全てのPEに転送し,当該転送されたデータを受信側のPEで選択するように構成するか,出力側のPEで選択された転送先のみに転送するように構成するかは,当業者が適宜選択しうる設計的事項であると認められる。
してみると,引用発明において,出力側のPEで選択された転送先のみに転送するように構成するために,「選択した信号を前記端子のうちの何れから出力するかを選択する選択部」を備えるように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献2や参考文献1に記載される周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

したがって,本件補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上検討したとおり,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
令和2年6月23日付けの手続補正(本件補正)は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし5に係る発明は,平成31年3月11日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,上記第2の[理由]1.(2)に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1に係る発明は,引用文献1(特開昭61-201365号公報)に記載された発明及び引用文献2に記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3.引用文献,引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明並びに引用文献2の記載事項は,上記第2の[理由]2.(2)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は,上記第2の[理由]2.で検討した本件補正発明の発明特定事項である「レジスタ」についての限定を省いたものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,上記第2の[理由]2.(4)に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-01-22 
結審通知日 2021-01-26 
審決日 2021-02-12 
出願番号 特願2017-204372(P2017-204372)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三坂 敏夫大桃 由紀雄加藤 優一  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 須田 勝巳
塚田 肇
発明の名称 情報処理システム、及び、情報処理システムによる制御方法  
代理人 松沼 泰史  
代理人 森 隆一郎  
代理人 伊藤 英輔  
代理人 棚井 澄雄  

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