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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C25B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C25B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C25B
管理番号 1372660
異議申立番号 異議2019-700488  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-19 
確定日 2020-12-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6438739号発明「電解方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6438739号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕、〔4?7〕について訂正することを認める。 特許第6438739号の請求項1、2、4、5、7に係る特許を維持する。 特許第6438739号の請求項3、6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6438739号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成26年11月 6日の出願であって、平成30年11月22日にその特許権の設定登録がされ、同年12月19日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?7(全請求項)に係る特許について、令和 1年 6月19日に特許異議申立人 池端英樹(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議申立て後の手続きの経緯は次のとおりである。
令和 1年 9月26日付け 取消理由通知
同年11月27日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年12月20日付け 訂正請求があった旨の通知
令和 2年 1月28日 意見書(申立人)
同年 3月 2日付け 訂正拒絶理由通知
同年 3月 9日 特許権者との電話による応対
同年 5月11日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 6月10日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 8月24日付け 訂正請求があった旨の通知
なお、令和 2年 3月 2日付け訂正拒絶理由通知に対して、その指定期間内に特許権者から意見書は提出されなかった。
また、令和 2年 8月24日付けで訂正請求があった旨を申立人に通知したが、その指定期間内に申立人から意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否
1 本件訂正請求の趣旨、及び訂正の内容について
令和 2年 6月10日にされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正を求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(訂正箇所には当審が下線を付した。)
なお、令和 1年11月27日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。

(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、「前記電解セルへ通電する時に、前記陰極及び前記陽極に電解液を供給して、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にする」とあるのを、「前記電解セルへ通電する時に、前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にし、前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得る」に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項4に、「前記陰極及び前記陽極に電解液を供給して、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段とを備え」とあるのを、「前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段とを備え、かつ、前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ることができ」に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(5)訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項7に「請求項4?6のいずれか一項に記載のシステム。」とあるのを「請求項4又は5に記載のシステム。」に訂正する。

2 本件訂正についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に、「前記電解セルへ通電する時に、前記陰極及び前記陽極に電解液を供給して、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にする」とあるのを、訂正後の請求項1では、「前記電解セルへ通電する時に、前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にし、」と記載することにより、陰極及び陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にするために具体的な態様を限定するとともに、同じく訂正後の請求項1に「前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得る」と記載することにより、陰極・陽極間の電気絶縁を得るための特定事項を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(ウ)新規事項追加の有無について
本件特許に係る出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の段落【0016】には、「本発明における電解システムを用いて電解を行う際には、陰極室及び陽極室を、電解液によって充填せずに、陰極及び陽極に電解液をかけ流すことにより通電を確保するとともに、電解の原料である水(電解液の溶媒)を供給する。このかけ流しの態様としては、例えば、陰極及び陽極の上端部近傍から供給された電解液が、陰極及び陽極に接触した後、重力によって下方へ流れる際に前記陰極及び陽極の全面を濡らす場合を好ましく例示することができる。」と記載され、同じく段落【0018】には、「本発明の電解方法においては、前記陰極室及び陽極室(当審注:それぞれ「陰極」、「陽極」を誤記したものであると認める。)への電解液のかけ流しを停止することが好ましい。このことにより、陰極・陽極間の電気絶縁を得ることができるから、電解セルへの通電が停止された場合であっても逆電流が流れることがなくなる。」と記載されているから、訂正事項1は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(イ)新規事項追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正である。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項4に、「前記陰極及び前記陽極に電解液を供給して、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段とを備え」とあるのを、訂正後の請求項4では、「前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段とを備え」と記載することにより、陰極及び陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にするために具体的な態様を限定するとともに、同じく訂正後の請求項4に「前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ることができ」と記載することにより、陰極・陽極間の電気絶縁を得るための特定事項を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項3は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(ウ)新規事項追加の有無について
本件明細書等の段落【0016】には、「本発明における電解システムを用いて電解を行う際には、陰極室及び陽極室を、電解液によって充填せずに、陰極及び陽極に電解液をかけ流すことにより通電を確保するとともに、電解の原料である水(電解液の溶媒)を供給する。このかけ流しの態様としては、例えば、陰極及び陽極の上端部近傍から供給された電解液が、陰極及び陽極に接触した後、重力によって下方へ流れる際に前記陰極及び陽極の全面を濡らす場合を好ましく例示することができる。」と記載され、同じく段落【0018】には、「本発明の電解方法においては、前記陰極室及び陽極室(当審注:それぞれ「陰極」、「陽極」を誤記したものであると認める。)への電解液のかけ流しを停止することが好ましい。このことにより、陰極・陽極間の電気絶縁を得ることができるから、電解セルへの通電が停止された場合であっても逆電流が流れることがなくなる。」と記載されているから、訂正事項3は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

エ 訂正事項4について
(ア)訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(イ)新規事項追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項4は、請求項を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正である。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

オ 訂正事項5について
(ア)訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項7が請求項4?6のいずれかの記載を引用する記載であるところ、訂正後の請求項6の削除(訂正事項4)に伴って、削除された請求項を引用しないようにする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項5は、削除された請求項を引用しないようにするための訂正にすぎないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内での訂正である。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?3について、訂正前の請求項2、3はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものである。
また、本件訂正前の請求項4?7について、訂正前の請求項5、7は請求項4を直接又は間接的に引用するものであって、請求項4の訂正に連動して訂正されるものであり、かつ、訂正前の請求項7は請求項6を引用するものであって、請求項6の訂正に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正前の請求項1?3、請求項4?7は、それぞれ一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1?3〕、〔4?7〕をそれぞれ訂正単位とする訂正の請求をするものである。

(3)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1?5について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(4)本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕、〔4?7〕について訂正することを認める。

第3 本件発明、及び本件明細書等の記載
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?7に係る発明(以下、順に「本件発明1」?「本件発明7」といい、総称して、「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、並びに前記陰極室と陽極室とを区画する隔膜を具備する電解セルを備える電解システムを用い、前記電解セルへ通電する時に、前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にし、前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ることを特徴とする、電解方法。
【請求項2】
前記陰極及び前記陽極への前記電解液の供給量が、前記陰極又は陽極の表面積当たり、単位時間当たり、0.001?100L/(m^(2)・分)である、請求項1に記載の電解方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、並びに前記陰極室と陽極室とを区画する隔膜を具備する電解セルと、前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段とを備え、かつ、前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ることができ、そして水の電気分解に用いられることを特徴とする、システム。
【請求項5】
燃料電池としても用いられる、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
前記隔膜が、親水化処理された多孔膜である、請求項4又は5に記載のシステム。」

2 本件明細書等の記載
本件明細書等には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付した。また、「・・・」は記載の省略を示す。以下、同様。

(1)「【0006】
本発明の目的は、電解システム中の電解セルへの通電が停止された場合に、導電路を容易、迅速、且つ確実に遮断して、逆電流の発生を可及的に防止することのできる、電解方法を提供することである。」

(2)「【0011】
本発明において使用する電解システムは、少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、並びに前記陰極室と陽極室とを区画する隔膜を具備する電解セルを備える。
上記の電解システムは、陰極室及び陽極室が電解液によって充填されない状態で電解を行う。上記の電解システムを用いて電解を行う際には、陰極及び陽極に電解液をかけ流すことにより通電を確保する。ここで「かけ流す」とは、陰極及び陽極が、常に流動する電解液によって濡れている状態の創出を意味する。従って、本発明における電解システムは、上記電解セルの他に、前記陰極及び陽極に電解液をかけ流すための手段を更に備えることが好ましい。
【0012】
本明細書における「かけ流す」には、「使い捨てる」の意味は含まれない。従って、本発明の方法においてかけ流された電解液は、循環再利用してもかまわない。
前記の陰極、陽極、隔膜、及び電解液としては、それぞれ、水の電気分解において使用される公知の材料を、制限なく使用することができる。・・・」

(3)「【0016】
本発明における電解システムを用いて電解を行う際には、陰極室及び陽極室を、電解液によって充填せずに、陰極及び陽極に電解液をかけ流すことにより通電を確保するとともに、電解の原料である水(電解液の溶媒)を供給する。このかけ流しの態様としては、例えば、陰極及び陽極の上端部近傍から供給された電解液が、陰極及び陽極に接触した後、重力によって下方へ流れる際に前記陰極及び陽極の全面を濡らす場合を好ましく例示することができる。電解液をかけ流す手段としては、電解セル内にノズルを設け、ノズルから液を垂らす方法等を挙げることができる。例えば、スプレーノズルを挙げることができる。
前記スプレーノズルとしては、例えば、点状、充円形状、円環状、楕円形状、多角形状、扁平状、渦巻き状、膜状等の任意のスプレーパターンを示すノズル(供給口)を、1個又は2個以上から成るノズル(群)を有するスプレーノズルを挙げることができる。
【0017】
電解液をかけ流す手段は、該供給手段から供給される電解液によって陰極及び陽極の全面が濡れることとなる位置に設置することが好ましい。具体的には、電解液の供給口が陰極及び陽極それぞれの上端近傍となるように設置することである。電解液の供給口は、陰極用供給口と陽極用供給口とを別個独立のものとして設置してもよいし、陰極陽極共用の供給口として設置してもよい。・・・」

(4)「【0018】
本発明の電解方法においては、前記陰極室及び陽極室への前記電解液のかけ流しを停止することが好ましい。このことにより、陰極・陽極間の電気絶縁を得ることができるから、電解セルへの通電が停止された場合であっても逆電流が流れることがなくなる。かけ流しの停止は任意の方法、例えば送液ポンプの停止、流路の閉鎖等により、行うことができる。・・・」

(5)「【0025】
図1のシステムを用いて電解を行う場合、循環ポンプ50の機能により、電解液(例えば水酸化カリウム水溶液、図示せず)を陰極液貯蔵タンク31及び陽極液貯蔵タンク32から汲み出して、共通の電解液供給ライン60を介して陰極11及び陽極21にそれぞれ供給してかけ流しを行う。このシステムにおいて、電解液は、陰極気液分離室12を介して陰極11に、陽極気液分離室22を介して陽極極20に、それぞれ最上部から供給される。供給された電解液は、自重で下降する際に陰極11及び陽極21の全面を濡らし、電解セル10への通電により水の電気分解を可能とする。後、電解液は循環ポンプ50の機能によって再利用される。
【0026】
電解セル10への通電が停止された際には、例えば循環ポンプ50の停止、若しくは停止弁41及び42の閉鎖、又はこれらの双方によって、陰極11及び陽極21への電解液かけ流しを停止することにより、陰極11・陽極21間の絶縁が容易に得られるから、通電停止時にも逆電流が流れることはない。電解セル10への通電が再開された時には、停止弁41及び42を開放し、循環ポンプ50を再稼働させることにより、電解を継続することができる。
【0027】
図1のシステムは、電解液を前記陰極液貯蔵タンク31及び陽極液貯蔵タンク32中に収納し、陰極室1に水素を、陽極室2に酸素を、それぞれ供給することにより、燃料電池としても利用することができる。」

(6)「



第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1?5号証を提出し、以下の理由により、請求項1?7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。なお、以下において、本件訂正前の請求項1?7に係る発明を順に「本件特許発明1」?「本件特許発明7」といい、総称して、「本件特許発明」ということがある。

1 申立理由1
(1)申立理由1-1(取消理由として採用)
本件特許発明1、3?6は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)申立理由1-2(取消理由として採用)
本件特許発明1?6は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)申立理由1-3(取消理由として採用)
本件特許発明7は、甲第1号証に記載された発明、及び甲2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 申立理由2
(1)申立理由2-1(取消理由として採用)
本件特許発明1、3、4は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2-2(取消理由として採用)
本件特許発明1、3、4は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)申立理由2-3(取消理由として一部採用)
本件特許発明2は、甲第3号証に記載された発明、及び甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(4)申立理由2-4(取消理由として採用)
本件特許発明7は、甲第3号証に記載された発明、及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

3 申立理由3
(1)申立理由3-1(取消理由として一部採用)
本件特許発明1、3、4は、甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)申立理由3-2(取消理由として一部採用)
本件特許発明1?4は、甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3-3(取消理由として採用)
本件特許発明7は、甲第5号証に記載された発明、及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

4 申立理由4
(1)申立理由4-1(取消理由として採用)
本件特許発明1、2、4?7は、電解セルへの通電が停止された時が特定されておらず、発明の詳細な説明に記載された「通電が停止された場合に、逆電流の発生を可及的に防止する」という発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)申立理由4-2(取消理由として採用)
発明の詳細な説明には、陰極室及び陽極室を電解液によって充填せずに、陰極及び陽極の上端部付近から供給された電解液が重力によって下方へ流れるようにかけ流すことにより通電を確保する態様が記載されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件特許発明1?7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

5 申立理由5(取消理由として一部採用)
本件特許発明5?7に係る発明は、明確であるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2010-153218号公報
甲第2号証:特開2008-144262号公報
甲第3号証:特開2014-91838号公報
甲第4号証:特開2006-183113号公報
甲第5号証:特開平10-28970号公報

第5 取消理由通知で通知された取消理由の概要
令和1年 9月26日付け取消理由通知、及び令和 2年 5月11日付け取消理由通知(決定の予告)で通知された取消理由の概要は、以下のとおりである。

1 取消理由1(新規性進歩性;甲第1号証を主引例としたもの)
(1)本件特許発明1、3?6は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)本件特許発明1?6は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)本件特許発明7は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 取消理由2(新規性進歩性;甲第3号証を主引例としたもの)
(1)本件特許発明1、3、4は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)本件特許発明1?4は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)本件特許発明7は、甲第3号証に記載された発明、及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

3 取消理由3(新規性進歩性;甲第5号証を主引例としたもの)
(1)本件特許発明1、4は、甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)本件特許発明1、2、4は、甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)本件特許発明7は、甲第5号証に記載された発明、及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

4 取消理由4(サポート要件)
本件特許発明1?7は、(i)電解を行う際に、陰極室及び陽極室を電解液によって充填せずに、陰極及び陽極に電解液をかけ流すことにより通電を確保し、かつ(ii)電解セルへの通電が停止された時に、陰極室及び陽極室への電解液の供給を停止して(陰極・陽極間の)電気絶縁を得る点が特定されていないため、本件特許発明が解決しようとする課題について必ずしも解決できるとはいえず、発明の詳細な説明において上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているものであり、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

5 取消理由5(明確性要件)
請求項6の記載が、(i)「少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、並びに前記陰極室と陽極室とを区画する隔膜を具備する電解セル」と、「前記陰極及び前記陽極に電解液を供給して、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段」とを備え、それのみによって、燃料電池として用いられるシステム、及び(ii)陰極室に水素を、陽極室に酸素を、それぞれ供給することにより、「陰極及び陽極に電解液を供給して、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態」でない状態を創出して、燃料電池として利用することを可能とするシステムのいずれを意味するものであるのか明確でないため、本件特許発明6、7は明確であるとはいえないものであるから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

第6 当審の判断
1 取消理由1?3(新規性進歩性)について
(1)甲号証の記載事項
ア 甲第1号証(特開2010-153218号公報)の記載事項
(ア)「【請求項1】
固体高分子形の水電解装置と燃料電池とを一体化して、水電解装置運転と燃料電池運転との運転モードの切り替え可能な可逆セルを、水電解装置運転から燃料電池運転へと運転モードを切り替える方法において、水電解装置運転の終了後、燃料電池運転を行う前に、可逆セル内部の反応ガス流路に気体を供給して、流路内に残留した電解水をセル内部から排出し、
その後、燃料電池運転時に酸化剤極となる側の反応ガス流路にのみ空気を供給し、セル内部基材を乾燥させることを特徴とする、可逆セルの運転切り替え方法。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形の水電解装置と燃料電池のセルを一体化した可逆セルにおいて、水電解運転から燃料電池運転への運転を切り替える、切り替え方法に関するものである。」

(ウ)「【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、不活性ガス及びその供給設備を必要とせずに、水電解運転から燃料電池運転への運転切り替えを短時間にかつ簡潔に行うことを目的としている。」

(エ)「【0022】
以下本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、可逆セル1の内部を模式的に示しており、図2は、この可逆セル1の水平断面を示している。この可逆セル1は、図2に示したように、最も外側に各々給・集電板2、3が配置されている。給・集電板2、3間の中心には、電極触媒層によって構成される2枚の電極部4a、4b間に、固体電解質材料によって構成されるイオン交換膜4cが配置されて、複合化した発電ユニットであるMEA4が構成されている。各電極部4a、4bの外側には、例えば多孔質の材料からなる集電体5、6が配置されている。本実施の形態においては、これらMEA4と集電体5、6とでセル内部基材が構成されている。電極部4aは、水電解運転時にはカソードとなり、電極部4bは、水電解運転時にはアノードとなる。
【0023】
集電体5と給・集電板2との間には空間S_(1)が形成され、集電体6と給・集電板3との間には空間S_(2)が形成されている。各空間S_(1)、S_(2)内には、各々断面が波型のセパレータ7が各々配置されている。そしてこの可逆セル1は水冷方式による冷却方法を採用しており、空間S_(1)に配置されたセパレータ7によって、空間S_(1)には、冷却水流路11と流路12が交互に形成されている。一方、空間S_(2)に配置されたセパレータ7によって、空間S_(2)にも、冷却水流路13と流路14が交互に形成されている。冷却水は、冷却水流路11とヒートポンプ介装の恒温水槽(図示せず)や冷却塔(図示せず)を循環し、可逆セル1の入り口で例えば60℃を維持するように運転される。
【0024】
再び図1に戻ってさらに説明すると、流路12の両端部には、流通口12a、12bが形成され、流路14の両端部には、流通口14a、14bが形成されている。
【0025】
次にこのような構成を有する可逆セル1のガス系統、排出系統等について説明する。図3に示したように、流通口12aには,流路31が接続され,流通口14aには,流路41が接続され,流通口14bには,流路51が接続され,流通口12bには,流路61が各々接続されている。各流路31、41、51、61、並びに後述のバイパス流路45、47はたとえばステンレス鋼の配管によって構成される。
【0026】
流路31には、水電解運転時の純水貯蔵タンクとなるタンク32を介して、流路33、34が接続されている。流路33、34には、各々弁33a、34aが設けられている。
【0027】
流路41には、水電解運転時の純水貯蔵タンクとなるタンク42を介して、流路43、44が接続されている。流路43、44には、各々弁43a、44aが設けられている。また流路41と流路43との間には、タンク42をバイパスするバイパス流路45が接続され、バイパス流路45には弁45aが設けられている。流路43の端部には、水電解運転から燃料電池運転への運転切替時に、パージガスでありまた酸化剤としても作用する空気を供給するブロア46が設けられている。
【0028】
流路51には、弁51aが設けられており、また流路51とタンク42との間には流路52が接続され、流路52には、ポンプ53及び弁52aが設けられている。ポンプ53は、水電解運転時にタンク42に貯蔵してある純水を可逆セル1に供給するものである。また流路41と流路51との間には、流路52とは別のバイパス流路47が接続され、バイパス流路47には弁47aが設けられている。
【0029】
流路61には、弁61aが設けられており、また流路61とタンク32との間には流路62が接続され、流路62には、ポンプ63及び弁62aが設けられている。ポンプ63は、水電解運転時にタンク32に貯蔵してある純水を可逆セル1に供給するものである。なお水電解運転時において、流路12内には、純水を供給する必要がないので、ポンプ63、弁62aは本来的には、設置しなくてもよいものであるが、万が一の場合の膜の乾燥防止、並びに発生水素を水で押し流すために、本実施の形態ではこれらポンプ63、弁62aが設けられている。特に万が一の場合の膜の乾燥防止についていえば、水電解運転時においては、燃料極側の水が十分ではない場合には、局所的に膜が乾燥して破損するおそれがある。かかる点に鑑み、水電解運転時においてもこれらポンプ63、弁62aを用いて燃料極側にも適宜水を供給しておくことで、そのような事態を未然に防止することができる。」

(オ)「【0032】
次にこのような主たる構成を有する可逆セル1の運転方法について説明する。
(燃料電池運転時)
弁33a、43a、51a、61aは開放され、弁34a、44a、45a、47a、52a、62aは、閉鎖される。そして流路33へ燃料(水素ガス)を導入し、タンク32において加湿を行った後に流路31、流通口12aを通じて可逆セル1に導入する。また流路43へ酸化剤(酸素ガスまたは空気)を導入し、タンク42において加湿を行った後に流通口14aを通じて可逆セル1に導入する。これによって可逆セル1のセル内部基材では、発電反応が起こり、電極部4aから電源設備72を通じて電極部4bへと電子が流れ、電流が発生する。なお発電反応においては外部の負荷に応じた量のガスが消費され、余剰の燃料(水素ガス)は、流通口12b、流路61を介して排出され、余剰の酸化剤(酸素ガスまたは空気)は、流通口14b、流路51を介して排出される。図1における太矢印は、その場合の反応ガスの流れを示している。
【0033】
(水電解運転時)
弁33a、43a、51a、45a、47a、61aは閉鎖され、弁34a、44a、52a、62aは開放される。そしてタンク32に貯蔵した純水がポンプ63で吸込まれ、流路61、流通口12bを通じて可逆セル1内部に導入され、タンク42に貯蔵した純水がポンプ53で吸込まれ、流路51、流通口14bを通じて可逆セル1内部に導入される。一方、電源設備72からは、集電体5、6に与える電流が供給され(電子は集電体6→電源設備72→集電体5に流れる)、図1に示した流路14内の水は、電気分解され、供給された電流に応じた量の酸素と水素が発生する。」

(カ)「【0036】
すなわち、水電解装置運転が終了すると(ステップP1)、まず弁33a、43a、51a、61aのみが開放され、他の弁は全て閉鎖される(ステップP2)。そして電源設備72の回路を遮断した状態で、可逆セル1に残留した水を排出するために、燃料(水素ガス)を流路31から流通口12aを通じて可逆セル1内に導入し、酸化剤または空気を流路41から流通口14aを通じて可逆セル1内に導入する(ステップP3)。すなわちこれらのガスによる圧力差で流路内の水を系外に押し出すことに排出する。この時間は、数秒程度であり、またその際の流量は、例えば特開2007-115588号公報に開示された方法を採用して決定してもよい。前記した排出が完了した後は、電源設備72の回路の遮断を解除する。」

(キ)「
【図1】



(ク)「
【図2】



イ 甲第2号証(特開2008-144262号公報)の記載事項
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水電解装置に使用するためのイオン透過性隔膜に関し、特にイオン透過性隔膜を電極間に挟持した構造を有するアルカリ水電解装置に使用するためのイオン透過性隔膜に関する。」

(イ)「【0012】
本発明は、上記従来の課題を解決し、アルカリ水電解装置に使用するための電気抵抗の低いイオン透過性隔膜を提供することを目的とする。」

(ウ)「【0020】
図1において、イオン透過性隔膜1は、メッシュ状の電極2,3の間に挟みこまれる形で保持されており、このメッシュ状の電極2,3は、電導部材2A,3Aを介して、それぞれバイポーラ電極4,5の陽極側4A及び陰極側5Aにそれぞれ接続される。これにより、イオン透過性隔膜1間に電圧がかかるようになっている。なお、図1中において、6は電解槽であり、Wはアルカリ溶液としての水酸化カリウム(KOH)溶液である。
【0021】
このイオン透過性隔膜1を形成する膜材料1Aとしては、膜を介してイオンのみを通過させ、ガスの通過や拡散がなく、アルカリ溶液中で物理的、化学的に耐久性のあるものであれば、特に制限されるものではない。
【0022】
例えば、膜材料1Aとしては、親水性無機材料と、ポリサルフォン、ポリプロピレン、フッ化ポリビニリデン等から選択される有機結合材料とを含むフィルム形成性混合物中に、伸張させた有機繊維布を内在させたものであることが好ましい。
【0023】
親水性無機材料としては、フルオロアパタイト(FAP)又はヒドロキシアパタイト(HAP)等のリン酸カルシウム化合物を用いることが好ましく、これらの親水性無機材料は、粒状体を用いることが好ましい。この親水性無機材料の粒状体は、粒径5μm以下であることが好ましく、特に粒径1μm以下の微粒子であることが好ましい。したがって、この粒状体を予め乳鉢でより細かく粉砕してもよい。
【0024】
また、上記リン酸カルシウム化合物以外の親水性無機材料としては、フッ化カルシウム(CaF_(2))が好適である。このフッ化カルシウムも上述のリン酸カルシウム化合物と同様に1μm以下の微粒子であることが好ましい。また、このフッ化カルシウムは、工業薬品として市販されているものを利用することができるだけでなく、工業的に回収されるものを利用することができる。例えば、フッ素含有排水の処理工程において、フッ素はCaF_(2)として固定化された上で除去されるので、これを再利用することができる。
【0025】
また、有機繊維布としては、ポリプロピレンからなるメッシュ、又はエチレンとモノクロロトリフルオロエチレン等の予めハロゲン化されたエチレンとの共重合体からなるメッシュ等を用いることができる。この有機繊維布としては、織布又は不織布を用いることができ、その繊維径は1mm以下であることが好ましく、特に繊維径が0.5mm以下であることが好ましい。また、有機繊維布の織目の寸法は特に制限はないが、4mm^(2)以下であることが好ましく、特に1mm^(2)以下であることが好ましい。
【0026】
上述したような親水性無機材料、有機結合材料及び有機繊維布により構成される膜材料1Aは、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、有機溶剤に有機結合材料を溶解させ、これに親水性無機材料を分散させて懸濁液(スラリー)を調製する。この懸濁液(スラリー)をガラス板等の不活性材料からなる平滑面上に所定の厚さに均一に塗布することで湿潤シートを製造する。そして、この湿潤シートに有機繊維布を伸張した状態で浸漬し、有機繊維布の伸張を維持したまま、蒸発や水浴中での浸出等により有機溶剤を除去した後、平滑面に残った膜材料1Aを剥離する。」

(エ)「【0038】
このとき、イオン透過性隔膜1には、親水性に優れた無機材料(無機湿潤性物質)が含まれており、この膜材料1Aが多孔質構造を有していることで、水酸化カリウム溶液中のイオンは迅速に移動するため、イオン透過性隔膜1の電気抵抗が低下し、アルカリ水電解を効率よく行うことができる。
【0039】
しかも、この膜材料1Aの多孔質構造は緻密であり、溶液は通過するが、陽極側で発生する酸素ガスの気泡、及び陰極側で発生する水素ガスの気泡は、イオン透過性隔膜1を通過できないため、これらの気体が相互に混入するおそれがない。したがって、陰極側から得られる水素ガスの純度を高く維持することができる。」

ウ 甲第3号証(特開2014-91838号公報)の記載事項
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極を収容する陽極室と、陰極を収容する陰極室と、前記陽極室に陽極液を供給する陽極液供給用マニホールドと、前記陰極室に陰極液を供給する陰極液供給用マニホールドと、を有するイオン交換膜電解槽の逆電流防止方法において、
前記イオン交換膜電解槽の運転停止後に、陽極液タンクから前記陽極液供給用マニホールドに陽極液を供給する陽極液供給管、および、陰極液タンクから前記陰極液供給用マニホールドに陰極液を供給する陰極液供給管のうち少なくとも一方に、前記陽極液または前記陰極液よりも電気伝導率の低い低導電性物質を注入することを特徴とするイオン交換膜電解槽の逆電流防止方法。
【請求項2】
前記低導電性物質が純水である請求項1記載のイオン交換膜電解槽の逆電流防止方法。
【請求項3】
前記イオン交換膜電解槽の運転停止後に、前記陰極液の循環を停止する請求項1または2記載のイオン交換膜電解槽の逆電流防止方法。
【請求項4】
前記イオン交換膜電解槽の運転停止後に、前記陽極液供給管、および前記陰極液供給管のうち少なくとも一方を不活性ガスで置換する請求項1?3のうちいずれか一項記載のイオン交換膜電解槽の逆電流防止方法。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換膜電解槽(以下、単に「電解槽」とも称する)の逆電流防止方法に関し、詳しくは、イオン交換膜電解槽の運転停止後に生じる逆電流を防止することができるイオン交換膜電解槽の逆電流防止方法に関する。」

(ウ)「【0009】
そこで、本発明の目的は、イオン交換膜電解槽の運転停止後に生じる逆電流を防止することができるイオン交換膜電解槽の逆電流防止方法を提供することにある。」

(エ)「【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、2槽の複極式イオン交換膜電解槽を電気的に接続したイオン交換膜電解槽の一例の概略構成図であり、図2は、バイポーラエレメントの一例の概略構成図である。以下、本発明の電解槽の逆電流の防止方法を、食塩の電解を例に説明する。図1に示すイオン交換膜電解槽100は、点線で囲まれた電解槽Aと電解槽Bとが、電気的に接続されることにより構成されている。図示する各電解槽A、Bは、複数のバイポーラエレメント101がイオン交換膜102を介して積層されてなり、直列に配置された複数のバイポーラエレメント101の両端にはエンドアノードエレメント103およびエンドカソードエレメント104がそれぞれ配置されている。
【0016】
図2に示すように、バイポーラエレメント101は、陽極105が陽極隔壁106から間隔をあけて配置された陽極室107と、陰極108が陰極隔壁109から間隔をあけて配置された陰極室110と、が一体的に形成されてなり、陽極105および陰極108は、それぞれ陽極隔壁106に設けられた陽極リブ111および陰極隔壁109に設けられた陰極リブ112に保持されている。また、陽極室107および陰極室110の上部には、それぞれ陽極室側気液分離手段113および陰極室側気液分離手段114が設けられている。図示例においては、陽極室107の下部に、陽極液供給部115が設けられており、陽極室側気液分離手段113には、濃度が低下した陽極液(塩水)を排出する陽極液排出部116が設けられている。また、陰極室110の下部には、陰極液供給部117が設けられており、陰極室側気液分離手段114には、濃度が増大した陰極液(水酸化ナトリウム水溶液)を排出する陰極液排出部118が設けられている。
【0017】
図1に示す例によれば、複数個のバイポーラエレメント101の陽極液排出部116、および陰極液排出部118は、それぞれ陽極液排出用マニホールド119および陰極液排出用マニホールド120に接続されている。また、陽極室107に陽極液を供給する陽極液供給用マニホールド121は、陽極液供給バルブ122を介して、陽極液供給タンクである供給塩水タンク123と接続されており、陰極室110に陰極液を供給する陰極液供給用マニホールド124は、陰極液供給バルブ125を介して、陰極液タンクである循環苛性タンク126に接続されている。なお、陽極液排出用マニホールド119で回収された陽極液は、溶存している塩素ガス(Cl_(2))が脱塩素塔で除去され、塩濃度の調整等を経て、供給塩水タンク123に送られる。また、陰極液排出用マニホールド120で回収された陰極液は、循環苛性タンク126に送られ、一部は電解槽に循環し、一部の苛性ソーダ(NaOH)は製品として取出される。
【0018】
図1に示すような2槽の複極式イオン交換膜電解槽を電気的に接続した構成を有するイオン交換膜電解槽100を用いて食塩水を電気分解する場合、電解槽100の運転を停止すると、上述の通り、陽極室107中の溶存塩素と陰極室110中の水素とが駆動力となって、バイポーラエレメント101および各マニホールド等の配管に逆電流が生じる。そこで、本発明の逆電流防止方法においては、電解槽100の運転停止後、供給塩水タンク123から陽極液供給用マニホールド121に陽極液を供給する陽極液供給管127、および、循環苛性タンク126から陰極液供給用マニホールド124に陰極液を供給する陰極液供給管128のうち少なくとも一方に、陽極液または陰極液よりも電気伝導率の低い低導電性物質を注入する。
【0019】
陽極液供給管127や陰極液供給管128に陽極液または陰極液よりも電気伝導率の低い低導電性物質を注入することで、配管内の液の電気抵抗が大きくなる。これにより、電解槽100の運転停止後に、内部起電力を持った各バイポーラエレメント101とマニホールド等の配管との間で形成される電気回路を流れる逆電流を低減することができる。なお、逆電流は、電解槽100の運転停止後の液温度が高く、電解液中の活性物質濃度が高い間は起電力が高くて顕著であるため、陽極液供給管127や陰極液供給管128への低導電性物質の注入は、運転停止後速やかに行うことが望ましい。
【0020】
上述のとおり、従来、食塩水の電解槽の逆電流の防止技術においては、電解液中の活性物質の除去を主目的として、電解槽100の運転停止後に、陽極室107および陰極室110に電解液を注入してきた。これに対して、本発明の逆電流防止方法においては、陽極液または陰極液よりも電気伝導率の低い低導電性物質を、陽極液供給管127および陰極液供給管128のうち少なくとも一方に注入し、配管内の電解液の電気抵抗を増大させて逆電流を低減させている。また、低導電性物質を注入することは、活性物質(Cl_(2)、H_(2))を除去することにもつながり、さらに、低導電性物質を注入することで、電解槽温度を下げることができる点でも優れている。
【0021】
本発明の逆電流防止方法においては、低導電性物質としては、陽極液または陰極液よりも電気伝導率が小さく、逆電流を防止できるものであれば特に制限はなく、例えば、水を好適に用いることができる。低導電性物質として水を用いる場合、電気伝導率が10^(-5)Ω^(-1)cm^(-1)以下のものが特に好適であり、純水、イオン交換水、ボイラー蒸気ドレン、苛性・塩水蒸発設備からの凝縮水等を好適に用いることができる。また、低導電性物質として不活性ガスを用いる場合は、窒素ガス(N_(2))、ヘリウムガス(He)、アルゴン(Ar)等を好適に用いることができる。図1に示す例においては、純水タンク129a、129bが配置され、それぞれ、陽極液供給管127、陰極液供給管128に純水を注入している。
【0022】
本発明の逆電流防止方法においては、陽極液供給管127や陰極液供給管128の両方に低導電性物質を注入するのが好ましいが、いずれか一方に低導電性物質を注入すればよい。例えば、陰極液供給管128のみに低導電性物質を注入して、陽極液供給管127は従来どおり陽極液(塩水)を供給して活性物質(Cl_(2))を除去してもよい。また、陽極液供給管127に、活性物質(Cl_(2))に対して2倍?20倍のモル量の亜硫酸ソーダを陽極液に供給し、酸化還元反応により活性物質(Cl_(2))を除去することも有効である。
【0023】
また、本発明の逆電流防止方法においては、電解槽100の運転停止後に、陰極液の循環を停止することが好ましい。電解槽100の運転時は、陽極液は陽極液排出部116から、陰極液は陰極液排出部118からオーバーフローしている。このオーバーフローした陽極液は塩濃度調整等のため系外に除かれることになるが、陰極液の大部分は循環苛性タンク126に回収され、陰極液供給用マニホールド124を通り、陰極室110へ循環して利用される。そのため、各バイポーラエレメント101と各々のマニホールド等の配管との間で電気回路が形成されて漏洩電流が流れる。これが、電解槽100が運転を停止した場合に逆電流の原因となる。したがって、電解槽100の運転停止後に、陰極液の循環を停止させることで、各エレメント101と陰極液排出用マニホールド120との間に形成された電気回路を切断し、漏洩電流に起因する逆電流を防止する。
【0024】
さらに、本発明の逆電流防止方法においては、電解槽100の運転停止後に、供給塩水タンク123から陽極液供給用マニホールド121に陽極液を供給する陽極液供給管127、および循環苛性タンク126から陰極液供給用マニホールド124に陰極液を供給する陰極液供給管128のうち少なくとも一方を、N_(2)ガス等の不活性ガスで置換することも好ましい。陽極液供給管127や陰極液供給管128を不活性ガスで置換することにより、各バイポーラエレメント101と各マニホールド等の配管との間に形成された電気的回路を切断して、漏洩電流に起因する逆電流を防止することができる。
【0025】
さらにまた、本発明の逆電流防止方法においては、複数の電解槽(図1に示す例においては電解槽A、Bの2槽)が一つの電気回路に組み込まれている場合、電解槽100が運転を停止した後、少なくとも1つの電解槽の陰極液循環経路を他の電解槽の陰極液循環経路から電気的に切断することが好ましい。具体的には、例えば、図1に示す陰極液供給用マニホールド124aと124bの間を、外部の循環苛性タンク126から陰極液を供給するラインの陰極液供給バルブ125a、125bを閉じることで、電解槽Aの陰極液循環経路と電解槽Bの陰極液循環経路の電気的接続を切断する。これは、特に、電解槽100を構成するエレメント101の数が多い場合に有効であり、図示例においては、電解槽A、Bおよび各マニホールド等の配管との間で形成される電位差が、電解槽Aとマニホールド等の配管との電位差と、電解槽Bとマニホールド等の配管との電位差とに分割されるため、逆電流を約1/2に低減させることができる。」

(オ)「【図1】



(カ)「【図2】



エ 甲第5号証(特開平10-28970号公報)の記載事項
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、通水式電解槽を備えて酸性イオン水とアルカリ性イオン水を生成する電解水生成装置に関する。」

(イ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記した従来の電解水生成装置においては、排水弁としてチェック機能を有した排水弁が採用されているため、電解水生成時(このとき排水弁は閉じている)、電解槽にて生成された電解水を導出する導出管が詰まった場合や導出管の導出能力以上に電解槽に水が給水されて圧力が上昇した場合には、電解槽及び給水管内の圧力が逃げなくて、給水管、排水管または電解槽の繋ぎ目等に異常に高い圧力が作用し、これらから水漏れが発生したり部品が破損したりする恐れがある。」

(ウ)「【0007】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明による電解水生成装置を示していて、この電解水生成装置は電解槽20の両電極室に処理水(水道水)を給水管11を通して給水する給水弁V1を備えていて、この給水弁V1は常閉型の電磁開閉弁であり制御装置100によって作動を制御されるようになっている。給水管11は、上記した給水弁V1とフローセンサSを介装した接続部11aと、この接続部11aの先端から上方に延びて上部が分岐し上端にて電解槽20の両流入口21a,21bにそれぞれ接続される立上部11bによって構成されていて、接続部11aには周知の浄水器Fを介して給水ホース12が接続され、また立上部11bの下端には排水弁としてのピンチバルブ50を介装した排水管13が接続されている。給水ホース12は、機外に延びていて水道管(図示省略)に接続されるようになっている。」

(エ)「【0010】電解槽20は、通水式の電解槽(水が流れている状態にて電解処理するもの)であって、一対の流入口21a,21bと一対の流出口21c,21dを有する槽本体21と、この槽本体21内に対向配設した第1及び第2の電極22,23と、これら両電極22,23間に配設されて各電極22,23を収容する第1及び第2の電極室24,25を形成する隔膜26によって構成されていて、第1電極室24には流入口21aと流出口21cが連通し、第2電極室25には流入口21bと流出口21dが連通している。各電極22,23は、チタン基材の表面に白金メッキ或いは白金イリジウムを焼成してなるもので、両電極22,23への直流電圧の印加・停止及び正負電極切換は制御装置100によって制御されるようになっている。また、各流出口21c,21dには第1及び第2の排出管31,32が接続されていて、両排出管31,32は流路切換弁V3を介して第1及び第2の導出管33,34に接続されている。」

(オ)「【0016】ステップ205では流路切換弁V3が図1の実線に示した正状態に保持されているか否かが判定され、「YES」と判定されたときにはステップ206が処理された後にステップ209,210が実行され、また「NO」と判定されたときにはステップ207が処理された後にステップ209,210が実行される。ステップ206では電解槽20の両電極22,23に所定値の直流電圧が正電圧印加されて、電極22がプラス極となり電極23がマイナス極となる。一方、ステップ207では電解槽20の両電極22,23に所定値の直流電圧が逆電圧印加されて、電極23がプラス極となり電極22がマイナス極となる。」

(カ)「【0019】このため、流路切換弁V3が図1の実線にて示した正状態で、電源スイッチ101と生成スイッチ102のオン操作により当該装置が正常に起動するときには、上記したステップ201,202,203,204,205,206,209,210の処理が実行されて、給水ホース12から浄水器Fを通過した水道水が給水弁V1とフローセンサSと給水管11を通って電解槽20の各電極室24,25に供給されるとともに、電解槽20内で電解されて各イオン水が生成され、プラス側電極22の電極室24からは水素イオンが増加した酸性イオン水が排出管31と正状態の流路切換弁V3と導出管33を通してシンク40に送られ、またマイナス側電極23の電極室25からは水酸イオンが増加したアルカリ性イオン水が排出管32と正状態の流路切換弁V3と導出管34を通してシンク40に送られる。・・・」

(キ)「【図1】



(2)取消理由1(甲第1号証を主引例としたもの)について
ア 上記(1)ア(ア)?(ク)を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明が記載されている。

「固体高分子形の水電解装置と燃料電池とを一体化して、水電解装置運転と燃料電池運転との運転モードの切換可能な可逆セルにおいて、上記可逆セルは、最も外側に各々給・集電板2、3が配置され、上記給・集電板間の中心には、電極触媒層によって構成される2枚の電極部4a、4b間に、固体電解質材料によって構成されるイオン交換膜4cが配置され、各電極部4a、4bの外側には、各々集電体5、6が配置され、上記電極部4aは、水電解運転時にはカソードとなり、上記電極部4bは、水電解運転時にはアノードとなるものであり、上記集電体5、6と上記給・集電板2、3との間には、流路12、14がそれぞれ形成された空間S_(1)、S_(2)が形成されており、水電解運転時には、流通口12bと流通口14bとを通じて純水が可逆セル内部に導入され、電源設備72から集電体5、6に与える電流が供給され、上記流路14内の水は、電気分解され、供給された電流に応じた量の酸素と水素が発生し、燃料電池運転時には、可逆セルに燃料(水素ガス)と酸化剤(酸素ガスまたは空気)を導入して可逆セルの内部で発電反応が起こり、水電解装置運転の終了後、燃料電池運転を行う前に、可逆セル内部の流路に気体を供給して、流路内に残留した電解水をセル内部から排出する可逆セルの運転方法。」(以下、「甲第1号証方法発明」という。)

「固体高分子形の水電解装置と燃料電池とを一体化して、水電解装置運転と燃料電池運転との運転モードの切換可能な可逆セルにおいて、上記可逆セルは、最も外側に各々給・集電板2、3が配置され、上記給・集電板間の中心には、電極触媒層によって構成される2枚の電極部4a、4b間に、固体電解質材料によって構成されるイオン交換膜4cが配置され、各電極部4a、4bの外側には、各々集電体5、6が配置され、上記電極部4aは、水電解運転時にはカソードとなり、上記電極部4bは、水電解運転時にはアノードとなるものであり、上記集電体5、6と上記給・集電板2、3との間には、流路12、14がそれぞれ形成された空間S_(1)、S_(2)が形成されており、水電解運転時には、流通口12bと流通口14bとを通じて純水が可逆セル内部に導入され、電源設備72から集電体5、6に与える電流が供給され、上記流路14内の水は、電気分解され、供給された電流に応じた量の酸素と水素が発生し、燃料電池運転時には、可逆セルに燃料(水素ガス)と酸化剤(酸素ガスまたは空気)を導入して可逆セルの内部で発電反応が起こり、水電解装置運転の終了後、燃料電池運転を行う前に、可逆セル内部の流路に気体を供給して、流路内に残留した電解水をセル内部から排出する可逆セル。」(以下、「甲第1号証装置発明」という。)

イ 本件発明1について
そこで、本件発明1と甲第1号証方法発明とを対比する。
(ア)甲第1号証方法発明における「電極部4a」、「流路12」、「電極部4b」、「流路14」、「イオン交換膜4c」、「可逆セル」、「純水」は、それぞれ本件発明1における「陰極」、「陰極室」、「陽極」、「陽極室」、「隔膜」、「電解セル」、「電解液」に相当する。

(イ)甲第1号証方法発明の上記「可逆セル」は、水電解運転時には、「水電解装置」として機能するものであり、これは、本件発明1の「電解システム」に相当し、甲第1号証方法発明の上記可逆セルを水電解運転することは、本件発明1の「電解方法」に相当する。

(ウ)甲第1号証方法発明において、水電解運転時に、上記可逆セル内部の流路を通じて、集電体と給・集電板との間の空間S_(1)、S_(2)に上記純水が供給された状態で電気分解が行われている点は、本件発明1の「電解セルへ通電する時に」、「陰極及び前記陽極に電解液を供給し」て、「前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態に」することに対応する。

(エ)甲第1号証方法発明における「水電解装置運転の終了後、燃料電池運転を行う前に、可逆セル内部の流路に気体を供給して、流路内に残留した電解水をセル内部から排出する」点は、本件発明1の「電解セルへの通電が停止された時に、陰極及び陽極への電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ること」に相当する。

(オ)そうすると、本件発明1と甲第1号証方法発明とは、次の点で一致する。
[一致点1-1]
少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、並びに前記陰極室と陽極室とを区画する隔膜を具備する電解セルを備える電解システムを用い、前記電解セルへ通電する時に、前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にし、前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ることを特徴とする、電解方法。

(カ)一方で、本件発明1と甲第1号証方法発明とは、次の点で相違する。
[相違点1-1]
電解セルへ通電する時に、陰極及び陽極に電解液を供給し、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にするための方法として、本件発明1が「前記電解セルへ通電する時に、前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態に」する方法を採用しているのに対して、甲第1号証方法発明は、可逆セル下方にある流通口12bと流通口14bを通じて純水が可逆セル内部に導入される方法を採用している点。

(キ)そこで、上記[相違点1-1]について検討する。
a.上記(1)アに摘記したとおり、甲第1号証には、上記[相違点1-1]に係る本件発明1の特定事項について、記載も示唆もされておらず、本件出願当時の技術常識を参酌しても、甲第1号証方法発明に対して、上記相違点に係る特定事項を備えようとする動機付けを見いだせない。

b.また、上記第3 2(3)、(4)に摘記したとおり、本件明細書等の【0016】、【0018】の記載からすると、本件発明1は、「前記電解セルへ通電する時に、前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態に」し、「前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ること」によって、逆電流の発生を可及的に防止できるという、甲第1号証方法発明の効果から予測できない有利な効果を奏するものといえる。

c.したがって、本件発明1は、甲第1号証方法発明であるとはいえず、又甲第1号証方法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて備え、さらに「前記陰極及び前記陽極への前記電解液の供給量が前記陰極又は陽極の表面積当たり、単位時間当たり、0.001?100L/(m^(2)・分)である」ことを特定するものであるから、本件発明1と同様、甲第1号証方法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲第1号証装置発明とを対比すると、上記イ(ア)?(エ)の検討結果に加えて、甲第1号証装置発明に係る「可逆セル」は、「水電解運転時」には、水の電気分解に用いられるものといえることから、本件発明4の「水の電気分解に用いられる」「システム」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明4と甲第1号証装置発明とは、次の点で一致する。
[一致点1-2]
少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、並びに前記陰極室と陽極室とを区画する隔膜を具備する電解セルと、前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段とを備え、かつ、前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ることができ、水の電気分解に用いられることを特徴とする、システム。

(ウ)一方で、本件発明4と甲第1号証装置発明とは、次の点で相違する。
[相違点1-2]
陰極及び陽極に電解液を供給し、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にするための手段として、本件発明4が「前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段」を採用しているのに対して、甲第1号証装置発明は、可逆セル下方にある流通口12bと流通口14bを通じて純水が可逆セル内部に導入される手段を採用している点。

(エ)そこで、上記[相違点1-2]について検討するに、上記イ(キ)において検討したのと同様であるから、本件発明4は、甲第1号証装置発明であるとはいえず、又甲第1号証装置発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

オ 本件発明5について
本件発明5は、本件発明4の発明特定事項をすべて備え、さらに「燃料電池としても用いられる」ことを特定するものであるから、本件発明5は、本件発明4と同様、甲第1号証装置発明であるとはいえず、又甲第1号証装置発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

カ 本件発明7について
本件発明7は、本件発明4の発明特定事項をすべて備え、さらに「前記隔膜が、親水化処理された多孔膜である」ことを特定するものである。
そして、上記(1)イのとおり、甲第2号証には、イオン透過性隔膜の電極間に挟持した構造を有するアルカリ水電解装置に使用するためのイオン透過性隔膜において、イオン透過性隔膜の電気抵抗を低下して、アルカリ水電解を効率よく行うために、多孔性構造を有する上記イオン透過性隔膜に親水性に優れた無機材料を含有させることが記載されているものの、この記載を参酌しても、上記エにおいて検討した[相違点1-2]に係る特定事項を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明7は、甲第1号証装置発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

キ 取消理由1についてのまとめ
本件発明1、4、5は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるとはいえない。
また、本件発明1、2、4、5は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
さらに、本件発明7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

(3)取消理由2(甲第3号証を主引例としたもの)
ア 上記(1)ウ(ア)?(カ)を総合勘案すると、甲第3号証には、次の発明が記載されている。

「陽極105を収容する陽極室107と、陰極108を収容する陰極室110と、前記陽極室107と前記陰極室110の間に配置されるイオン交換膜102とで構成される電解槽100と、前記陽極室107に陽極液供給部115を介して陽極液(塩水)を供給する陽極液供給用マニホールド121と、前記陰極室110に陰極液供給部117を介して陰極液(水酸化ナトリウム水溶液)を供給する陰極液供給用マニホールド124と、を有するイオン交換膜電解槽の逆電流防止方法において、前記イオン交換膜電解槽の運転停止後に、前記陰極液の循環を停止するとともに、陽極液タンクから前記陽極液供給用マニホールド121に陽極液を供給する陽極液供給管127、および、陰極液タンクから前記陰極液供給用マニホールド124に陰極液を供給する陰極液供給管128のうち少なくとも一方に、前記陽極液または前記陰極液よりも電気伝導率の低い低導電性物質である不活性ガスを注入し置換するイオン交換膜電解槽の逆電流防止方法。」(以下、「甲第3号証方法発明」という。)

「陽極105を収容する陽極室107と、陰極108を収容する陰極室110と、前記陽極室107と前記陰極室110の間に配置されるイオン交換膜102とで構成される電解槽100と、前記陽極室107に陽極液供給部115を介して陽極液(塩水)を供給する陽極液供給用マニホールド121と、前記陰極室110に陰極液供給部117を介して陰極液(水酸化ナトリウム水溶液)を供給する陰極液供給用マニホールド124と、を有するイオン交換膜電解槽の逆電流防止方法において、前記イオン交換膜電解槽の運転停止後に、前記陰極液の循環を停止するとともに、陽極液タンクから前記陽極液供給用マニホールド121に陽極液を供給する陽極液供給管127、および、陰極液タンクから前記陰極液供給用マニホールド124に陰極液を供給する陰極液供給管128のうち少なくとも一方に、前記陽極液または前記陰極液よりも電気伝導率の低い低導電性物質である不活性ガスを注入し置換するイオン交換膜電解槽。」(以下、「甲第3号証装置発明」という。)

イ 本件発明1について
そこで、本件特許発明1と甲第3号証方法発明とを対比する。
(ア)甲第3号証方法発明における「陰極108」、「陰極室110」、「陽極105」、「陽極室107」、「陽極液及び陰極液」、「イオン交換膜102」、「電解槽100」、「イオン交換膜電解槽」は、それぞれ本件発明1の「陰極」、「陰極室」、「陽極」、「陽極室」、「電解液」、「隔膜」、「電解セル」、「電解システム」に相当する。

(イ)甲第3号証方法発明における電解槽100は、陽極室107に陽極液供給用マニホールド121を介して陽極液が供給され、かつ陰極室110に陰極液供給用マニホールド124を介して陰極液が供給されることにより電解システムとして機能するものであるから、この点は、本件発明1の「電解セルへ通電する時に、陰極及び陽極に電解液を供給して、前記陰極及び陽極が流動する電解液によって常に濡れた状態にする」ことに相当する。

(ウ)甲第3号証方法発明は、イオン交換膜電解槽が運転している間は、電解を実施していることから、「電解方法」ともいえる。

(エ)そうすると、本件発明1と甲第3号証方法発明とは、次の点で一致する。
[一致点2-1]
少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、並びに前記陰極室と陽極室とを区画する隔膜を具備する電解セルを備える電解システムを用い、前記電解セルへ通電する時に、前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にし、前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ることを特徴とする、電解方法。

(オ)一方で、本件発明1と甲第3号証方法発明とは、次の点で相違する。
[相違点2-1]
電解セルへ通電する時に、陰極及び陽極に電解液を供給し、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にするための方法として、本件発明1が「前記電解セルへ通電する時に、前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態に」する方法を採用しているのに対して、甲第3号証方法発明は、陽極室に陽極液供給用マニホールドと陽極液供給部115を介して陽極液(塩水)を供給し、前記陰極室に陰極液供給用マニホールドと陰極液供給部117を介して陰極液(水酸化ナトリウム水溶液)を供給する方法を採用している点。

(カ)そこで、上記[相違点2-1]について検討する。
a.上記(1)ウに摘記したとおり、甲第3号証には、上記[相違点2-1]に係る本件発明1の特定事項について、記載も示唆もされておらず、本件出願当時の技術常識を参酌しても、甲第3号証方法発明に対して、上記相違点に係る特定事項を備えようとする動機付けを見いだせない。

b.また、上記第3 2(3)、(4)に摘記したとおり、本件明細書等の【0016】、【0018】の記載からすると、本件発明1は、「前記電解セルへ通電する時に、前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態に」し、「前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ること」によって、逆電流の発生を可及的に防止できるという、甲第3号証方法発明の効果から予測できない有利な効果を奏するものといえる。

c.したがって、本件発明1は、甲第3号証方法発明であるとはいえず、又甲第3号証方法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて備え、さらに「前記陰極及び前記陽極への前記電解液の供給量が前記陰極又は陽極の表面積当たり、単位時間当たり、0.001?100L/(m^(2)・分)である」ことを特定するものであるから、本件発明1と同様、甲第3号証方法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲第3号証装置発明とを対比すると、上記イ(ア)?(ウ)の検討結果に加えて、甲第3号証装置発明に係る「イオン交換膜電解槽」は、電解液として、塩水及び水酸化ナトリウム水溶液を用いていることから、本件発明4の「水の電気分解に用いられる」「システム」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明4と甲第3号証装置発明とは、次の点で一致する。
[一致点2-2]
少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、並びに前記陰極室と陽極室とを区画する隔膜を具備する電解セルと、前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段とを備え、前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ることができ、水の電気分解に用いられることを特徴とする、システム。

(ウ)一方で、本件発明4と甲第3号証装置発明とは、次の点で相違する。
[相違点2-2]
陰極及び陽極に電解液を供給し、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にするための手段として、本件発明4が「前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段」を採用しているのに対して、甲第3号証装置発明は、陽極室に陽極液供給用マニホールドと陽極液供給部115を介して陽極液(塩水)を供給し、前記陰極室に陰極液供給用マニホールドと陰極液供給部117を介して陰極液(水酸化ナトリウム水溶液)を供給する手段を採用している点。

(エ)そこで、上記[相違点2-2]について検討するに、上記イ(カ)において検討したのと同様であるから、本件発明4は、甲第3号証装置発明であるとはいえず、又甲第3号証装置発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

オ 本件発明7について
本件発明7は、本件発明4の発明特定事項をすべて備え、さらに「前記隔膜が、親水化処理された多孔膜である」ことを特定するものである。
そして、上記(1)イのとおり、甲第2号証には、イオン透過性隔膜の電極間に挟持した構造を有するアルカリ水電解装置に使用するためのイオン透過性隔膜において、イオン透過性隔膜の電気抵抗を低下して、アルカリ水電解を効率よく行うために、多孔性構造を有する上記イオン透過性隔膜に親水性に優れた無機材料を含有させることが記載されているものの、この記載を参酌しても、上記エにおいて検討した[相違点2-2]に係る特定事項を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明7は、甲第3号証装置発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

カ 取消理由2についてのまとめ
本件発明1、4は、甲第3号証に記載された発明であるとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるとはいえない。
また、本件発明1、2、4は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
さらに、本件発明7は、甲第3号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

(4)取消理由3(甲第5号証を主引例としたもの)
ア 上記(1)エ(ア)?(キ)を総合勘案すると、甲第5号証には、次の発明が記載されている。

「通水式電解槽20を備えて酸性イオン水とアルカリ性イオン水を生成する電解水生成装置において、上記通水式電解槽20は、水が流れている状態にて電解処理をするものであり、槽本体と、この槽本体内に対向配設した第1及び第2の電極22、23と、これら両電極間に配設されて各電極を収容する第1及び第2の電極室24、25を形成する隔膜26によって構成されており、電解水生成時には、上記第1及び第2の電極22、23に所定値の直流電流が印加されるとともに、水道水が給水管11を通して上記電極室24、25に供給されることにより、電解槽内で電解されて各イオン水が生成される電解水生成装置を使用した電解水生成方法。」(以下、「甲第5号証方法発明」という。)

「通水式電解槽20を備えて酸性イオン水とアルカリ性イオン水を生成する電解水生成装置において、上記通水式電解槽20は、水が流れている状態にて電解処理をするものであり、槽本体と、この槽本体内に対向配設した第1及び第2の電極22、23と、これら両電極間に配設されて各電極を収容する第1及び第2の電極室24、25を形成する隔膜26によって構成されており、電解水生成時には、上記第1及び第2の電極22、23に所定値の直流電流が印加されるとともに、水道水が給水管11を通して上記電極室24、25に供給されることにより、電解槽内で電解されて各イオン水が生成される電解水生成装置。」(以下、「甲第5号証装置発明」という。)

イ 本件発明1について
そこで、本件発明1と甲第5号証方法発明とを対比する。
(ア)甲第5号証方法発明の「第1及び第2電極22、23」、「第1及び第2電極室24、25」、「隔膜26」、「通水式電解槽20」、「電解水生成装置」は、それぞれ本件発明1の「陽極」及び「陰極」、「陽極室」及び「陰極室」、「隔膜」、「電解セル」、「電解システム」に相当する。

(イ)甲第5号証方法発明における通水式電解槽20は、各電極室24、25に水道水が供給されることで電解システムとして機能するものであるから、この点は、本件発明1の「電解セルへ通電する時に、陰極及び陽極に電解液を供給して、前記陰極及び陽極が流動する電解液によって常に濡れた状態にする」ことに相当する。

(ウ)そうすると、本件発明1と甲第3号証方法発明とは、次の点で一致する。
[一致点3-1]
少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、並びに前記陰極室と陽極室とを区画する隔膜を具備する電解セルを備える電解システムを用い、前記電解セルへ通電する時に、前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にし、前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ることを特徴とする、電解方法。

(エ)一方で、本件発明1と甲第5号証方法発明とは、次の点で相違する。
[相違点3-1]
電解セルへ通電する時に、陰極及び陽極に電解液を供給し、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にするための方法として、本件発明1が「前記電解セルへ通電する時に、前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態に」する方法を採用しているのに対して、甲第5号証方法発明は、給水管11を通じて第1及び第2の電極室24、25に水道水を供給する方法を採用している点。

(オ)そこで、上記[相違点3-1]について検討する。
a.上記(1)エに摘記したとおり、甲第5号証には、上記[相違点3-1]に係る本件発明1の特定事項について、記載も示唆もされておらず、本件出願当時の技術常識を参酌しても、甲第3号証方法発明に対して、上記相違点に係る特定事項を備えようとする動機付けを見いだせない。

b.また、上記第3 2(3)、(4)に摘記したとおり、本件明細書等の【0016】、【0018】の記載からすると、本件発明1は、「前記電解セルへ通電する時に、前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態に」し、「前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ること」によって、逆電流の発生を可及的に防止できるという、甲第5号証方法発明の効果から予測できない有利な効果を奏するものといえる。

c.したがって、本件発明1は、甲第5号証方法発明であるとはいえず、又甲第5号証方法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて備え、さらに「前記陰極及び前記陽極への前記電解液の供給量が前記陰極又は陽極の表面積当たり、単位時間当たり、0.001?100L/(m^(2)・分)である」ことを特定するものであるから、本件発明1と同様、甲第5号証方法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲第5号証装置発明とを対比すると、上記イ(ア)、(イ)の検討結果に加えて、甲第5号証装置発明に係る「通水式電解槽」は、水道水を電気分解して各イオン水を生成するものであるから、本件発明4の「水の電気分解に用いられる」「システム」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明4と甲第5号証装置発明とは、次の点で一致する。
[一致点3-2]
少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、並びに前記陰極室と陽極室とを区画する隔膜を具備する電解セルと、前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段とを備え、前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ることができ、水の電気分解に用いられることを特徴とする、システム。

(ウ)一方で、本件発明4と甲第5号証装置発明とは、次の点で相違する。
[相違点3-2]
陰極及び陽極に電解液を供給し、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にするための手段として、本件発明4が「前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段」を採用しているのに対して、甲第5号証装置発明は、給水管11を通じて第1及び第2の電極室24、25に水道水を供給する手段を採用している点。

(エ)そこで、上記[相違点3-2]について検討するに、上記イ(オ)において検討したのと同様であるから、本件発明4は、甲第5号証装置発明であるとはいえず、又甲第5号証装置発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

オ 本件発明7について
本件発明7は、本件発明4の発明特定事項をすべて備え、さらに「前記隔膜が、親水化処理された多孔膜である」ことを特定するものである。
そして、上記(1)イのとおり、甲第2号証には、イオン透過性隔膜の電極間に挟持した構造を有するアルカリ水電解装置に使用するためのイオン透過性隔膜において、イオン透過性隔膜の電気抵抗を低下して、アルカリ水電解を効率よく行うために、多孔性構造を有する上記イオン透過性隔膜に親水性に優れた無機材料を含有させることが記載されているものの、この記載を参酌しても、上記エにおいて検討した[相違点3-2]に係る特定事項を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明7は、甲第5号証装置発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

カ 取消理由3についてのまとめ
よって、本件発明1、4は、甲第5号証に記載された発明であるとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるとはいえない。
また、本件発明1、2、4は、甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
さらに、本件発明7は、甲第5号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

2 取消理由4、5(記載要件)について
(1)取消理由4(サポート要件)について
ア 本件発明が解決しようとする課題について、上記第3 2(1)に摘記したとおり、本件明細書等の【0006】には、「本発明の目的は、電解システム中の電解セルへの通電が停止された場合に、導電路を容易、迅速、且つ確実に遮断して、逆電流の発生を可及的に防止することのできる、電解方法を提供することである。」と記載されていることから、本件発明が解決しようとする課題は、電解システム中の電解セルへの通電が停止された場合に、導電路を容易、迅速、且つ確実に遮断して、逆電流の発生を可及的に防止することができる電解方法を提供することにあるといえる。

イ そして、上記課題を解決するための手段について、上記第3 2(2)?(6)に摘記した本件明細書等の記載を総合すると、(i)電解を行う際に、陰極室及び陽極室を電解液によって充填せずに、陰極及び陽極に電解液をかけ流すことにより通電を確保し、かつ(ii)電解セルへの通電が停止された時に、陰極室及び陽極室への電解液の供給を停止して(陰極・陽極間の)電気絶縁を得ることが、発明の詳細な説明において、上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲であると理解できる。

ウ ここで、上記第3 1のとおり、本件発明1、2、4、5、7は、(i)電解を行う際に、陰極室及び陽極室を電解液によって充填せずに、陰極及び陽極に電解液をかけ流すことにより通電を確保し、かつ(ii)電解セルへの通電が停止された時に、陰極室及び陽極室への電解液の供給を停止して(陰極・陽極間の)電気絶縁を得る点を発明特定事項として備えたものであるから、発明の詳細な説明において、上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものであるといえる。

エ したがって、本件発明1、2、4、5、7は、発明の詳細な説明に記載したものである。

オ よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

(2)取消理由5(明確性要件)について
本件訂正により、特許請求の範囲の請求項6は削除されたから、訂正前の請求項6に係る上記取消理由5は、解消した。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

3 取消理由としなかった異議申立理由について
(1)申立理由2-3(進歩性)について
ア 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて備え、さらに「前記陰極及び前記陽極への前記電解液の供給量が前記陰極又は陽極の表面積当たり、単位時間当たり、0.001?100L/(m^(2)・分)である」ことを特定するものである。

イ そして、甲第4号証には、「食塩水電解槽の性能回復方法ならびに該方法により処理された陰極を用いた生産苛性ソーダ溶液および塩素の製造方法に関」して(【0001】)、「表面積2.5dm^(2)(0.025m^(2)、横10cm×縦25cm)の電極を陰極と陽極に設置したラボ電解槽(容量:0.799dm^(3)、極間:2mm、陰極室の水平方向の断面積:0.00292m^(2))の陽極室に300g/Lの食塩水を、陰極室に苛性ソーダ濃度32重量%の苛性ソーダ溶液を6.62×10^(-3)m^(3)/hの速度で供給し、食塩水電解を行なった(電流密度:3.2kA/m^(2)、電解電流:80A、測定温度:74?77℃)。電解槽陰極の水素過電圧は運転開始当初は115mVであり、270日後には135mVに到達した。このとき、ヘキサクロロ白金酸H_(2)PtCl_(6)・6H_(2)Oを1.46×10^(-2)ミリモル(0.007566g、陰極単位面積あたり5.8×10^(-4)モル/m^(2))を供給し、陰極室の流体の線速度を2.27m/hrとした。このとき、陰極室通過時間は0.12時間、陰極室内の流体が陰極最下部から陰極最上部までの長さLを移動する平均時間は0.11時間であった。陰極上の上部、中心部、下部の過電圧は全て115mVであり、白金族化合物の添加前後での過電圧差は、それぞれ、上部20mV、中心部20mV、下部20mVであり、陰極内でのバラツキがなくなり、過電圧も低下した。」(【0043】実施例1)ことが記載されているものの、この記載を参酌しても、上記(3)イ(オ)において検討した[相違点2-1]に係る特定事項を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ したがって、本件発明2は、甲第3号証装置発明及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)申立理由5(明確性要件)について
ア 上記第3 1のとおり、本件発明5は、「前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすことによって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段」を備え、且つ「燃料電池としても用いられる」「システム」に係るものである。

イ この点について、上記第3 2(5)に摘記したとおり、本件明細書等の【0027】には、「図1のシステムは、電解液を前記陰極液貯蔵タンク31及び陽極液貯蔵タンク32中に収納し、陰極室1に水素を、陽極室2に酸素を、それぞれ供給することにより、燃料電池としても利用することができる。」と記載されている。

ウ そうすると、本件発明5に係るシステムが備える「陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段」を活用して、電解液に代えて水素及び酸素を陰極室及び陽極室にそれぞれ供給することにより、当該システムを燃料電池としても利用することができることは、当業者であれば明確に把握することができるといえる。

エ したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4、5、7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4、5、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正によって特許異議の申立てがされた請求項3、6は削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項3、6は存在しないものとなったから、請求項3、6に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、並びに前記陰極室と陽極室とを区画する隔膜を具備する電解セル
を備える電解システムを用い、
前記電解セルへ通電する時に、前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、
前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、
前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすこと
によって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態にし、
前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ることを特徴とする、電解方法。
【請求項2】
前記陰極及び前記陽極への前記電解液の供給量が、前記陰極又は陽極の表面積当たり、単位時間当たり、0.001?100L/(m^(2)・分)である、請求項1に記載の電解方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、並びに前記陰極室と陽極室とを区画する隔膜を具備する電解セルと、
前記陰極室及び前記陽極室を電解液によって充填せずに、前記陰極・前記陽極間の通電を確保するために、
前記陰極及び前記陽極の上端部近傍から前記陰極及び前記陽極に電解液を供給し、
前記供給された電解液が、前記陰極及び前記陽極に接触した後、重力によって下方へ流れ落ちる際に前記陰極及び前記陽極の全面を濡らすこと
によって、前記陰極及び前記陽極が流動する電解液によって常に濡れている状態を創出するための手段と
を備え、かつ、
前記電解セルへの通電が停止された時に、前記陰極及び陽極への前記電解液の供給を停止して、前記陰極・前記陽極間の電気絶縁を得ることができ、そして
水の電気分解に用いられることを特徴とする、システム。
【請求項5】
燃料電池としても用いられる、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
前記隔膜が、親水化処理された多孔膜である、請求項4又は5に記載のシステム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-12-14 
出願番号 特願2014-226205(P2014-226205)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C25B)
P 1 651・ 537- YAA (C25B)
P 1 651・ 113- YAA (C25B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂本 薫昭  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 粟野 正明
土屋 知久
登録日 2018-11-22 
登録番号 特許第6438739号(P6438739)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 電解方法  
代理人 三橋 真二  
代理人 中村 和広  
代理人 青木 篤  
代理人 中村 和広  
代理人 勝又 秀夫  
代理人 青木 篤  
代理人 齋藤 都子  
代理人 三間 俊介  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 齋藤 都子  
代理人 石田 敬  
代理人 三間 俊介  
代理人 古賀 哲次  
代理人 三橋 真二  
代理人 勝又 秀夫  

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