• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C30B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C30B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C30B
管理番号 1372669
異議申立番号 異議2020-700306  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-28 
確定日 2021-01-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6603965号発明「六方晶窒化ホウ素単結晶およびその製造方法、該六方晶窒化ホウ素単結晶を配合した複合材組成物並びに該複合材組成物を成形してなる放熱部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6603965号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6603965号の請求項1、3及び4に係る特許を維持する。 特許第6603965号の請求項2に対する特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6603965号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年2月2日に出願され、令和1年10月25日にその特許権の設定登録がされ、同年11月13日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1?4に係る特許に対して、令和2年4月28日に特許異議申立人岡本正義(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年7月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月9日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年12月7日に申立人により意見書(以下、「申立人意見書」という。)の提出がされたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「XRD解析において002面のピーク半値幅が0.4°以上の窒化ホウ素粉末とリチウム塩とを混合し、」とあるのを、「XRD解析において002面のピーク半値幅が0.4°以上であり、かつ、全酸素濃度が1質量%以上10質量%以下である窒化ホウ素粉末とリチウムを含む炭酸塩とを、得られる混合物全量に対する前記炭酸塩の含有量が20mol%以上となるよう混合し、」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、「加熱するステップ」とあるのを、「1000℃以上に加熱するステップ」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1において、「六方晶窒化ホウ素単結晶の製造方法。」とあるのを、「アスペクト比が0.3以上の六方晶窒化ホウ素単結晶の製造方法。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3において、「請求項1又は2に記載の」とあるのを、「請求項1に記載の」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4において、「請求項1?3のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項1又は3に記載の」に訂正する。

ここで、訂正前の請求項2?4は、訂正前の請求項1を引用し、これら請求項1?4は一群の請求項を構成するところ、上記訂正事項1?6に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1?4を請求の単位として請求されたものである。

2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「窒化ホウ素粉末」の全酸素濃度を限定し、「リチウム塩」を「リチウムを含む炭酸塩」に限定し、さらに、「窒化ホウ素粉末とリチウム塩との混合」における「リチウムを含む炭酸塩」の混合割合を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、願書に添付された明細書には、「原料BN粉末として全酸素濃度が1質量%以上であるものを用いることが好ましい。・・・原料BN粉末中の全酸素濃度は、・・・好ましくは10質量%以下・・・である。」(段落【0021】)、「リチウム塩としては特段限定されず、・・・Li_(2)CO_(3)などのリチウムを含む炭酸塩であれば何れも制限なく使用できる。」(段落【0022】)、及び、「原料BN粉末とリチウム塩との混合割合は特段限定されないが、混合物全量に対してリチウム塩を・・・、特に好ましくは20mоl%以上含有させてもよく、・・・。」(段落【0024】)と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載された「加熱するステップ」の加熱処理温度を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、願書に添付された明細書には、「混合した原料BN粉末とリチウム塩は加熱される。加熱温度は特段限定されないが、通常1000℃以上で行われる。」(段落【0025】)と記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1に記載された「六方晶窒化ホウ素単結晶」のアスペクト比を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、願書に添付された明細書には、「本実施形態に係るh-BN単結晶をフィラーとして用いた場合には、上記アスペクト比は1に近いほど複合材組成物中で配向しにくくなるが、1よりも僅かにずれた方がフィラー最大充填可能量は大きくなる。・・・従って、配向しにくく、かつ、大きな最大充填可能量をもつフィラーとして好ましいアスペクト比は0.3以上であり、・・・。」(段落【0014】)と記載されているから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5及び6について
訂正事項5及び6は、訂正前の請求項3及び4における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、3及び4に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3及び4に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
XRD解析において002面のピーク半値幅が0.4°以上であり、かつ、全酸素濃度が1質量%以上10質量%以下である窒化ホウ素粉末とリチウムを含む炭酸塩とを、得られる混合物全量に対する前記炭酸塩の含有量が20mol%以上となるよう混合し、1000℃以上に加熱するステップ、を有する、アスペクト比が0.3以上の六方晶窒化ホウ素単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記六方晶窒化ホウ素単結晶は、結晶ab面の最大幅が100nm以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記六方晶窒化ホウ素単結晶は、自形結晶または半自形結晶である請求項1又は3に記載の製造方法。」

2 取消理由の概要について
令和2年7月7日付けの取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1
訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証(N.F.Ostrovskaya et al., Crystallization of boron nitride from solution in a lithium borate melt, Powder Metallurgy and Metal Ceramics, 1996, Vol.35, No.11-12, p.636-639)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)取消理由2
発明の詳細な説明の段落【0002】?【0008】の記載からみて、本件発明の課題は、「結晶c軸方向の最大厚さ/結晶ab面の最大幅」で定義されるアスペクト比が0.3以上のh-BN単結晶を容易に製造することが可能な製造方法を提供することにより解決されるものといえる。
そして、発明の詳細な説明の実施例1には、XRD解析(X線源:CuKα)の002面のピーク半値幅が0.67°のh-BN原料粉末と、Li_(2)CO_(3)粉末を50mol%ずつ坩堝に入れ、窒素流通下、1000℃で5時間熱処理を行って、アスペクト比は0.33?1.5の結晶性の高いh-BN単結晶を得たことが記載されているから、実施例1に記載された製造方法は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
これに対して、甲第4号証(T.B.Hoffman et al., Optimization of Ni-Cr flux growth for hexagonal boron nitride single crystals, Journal of Crystal Growth, 2014, Vol.393, p.114-118)の記載によれば、フラックス成長法を用いて六方晶窒化ホウ素単結晶を成長させるに際して、加熱処理温度が高く(低く)なるとアスペクト比が小さく(大きく)なる傾向があるとの技術常識が存在しているといえるところ、訂正前の請求項1に係る発明は、アスペクト比が0.3以上の六方晶窒化ホウ素単結晶を製造することを特定しておらず、アスペクト比が0.3未満となるような加熱処理温度が高い条件で加熱する態様を含んでいるため、アスペクト比が0.3以上のh-BN単結晶を容易に製造することが可能な製造方法を提供しているとまでは理解できない。
また、発明の詳細な説明の段落【0023】の記載によれば、本件発明の課題を解決するために、リチウム塩フラックスは、h-BNを高濃度で溶解でき、炭酸ガスを発生する炭酸リチウムフラックスであることが必要であると解されるところ、訂正前の請求項1に係る発明は、リチウム塩が炭酸リチウムであることを特定していない。
したがって、訂正前の請求項1に係る発明、及び、これを引用する訂正前の請求項2?4に係る発明は、当業者が発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識に照らして、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえない。
よって、訂正前の請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明といえないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものである。

3 甲号証の記載事項について
(1)甲第1号証の記載事項
ア 「Turbostratic boron nitride was obtained by the carbamide method. The mix was prepared by mixing carbamide and boric acid in 3:1 ratio followed by heat treatment at a temperature of 200℃ in air. Nitriding of the mix was done under a stream of ammonia at a temperature of 1100℃. The mass content of nitrogen in the finished product was 55.9%; the mass content of boron was 44.0%. We added 24 mass % lithium carbonate (c.p. grade) to the boron nitride synthesized in this way. The mixture was held in a nitrogen medium for three hours at a temperature of 650-1450℃. The specimens were investigated by chemical analysis, x-ray diffraction, and electron microscopy.」(第636頁第8?13行)
(当審仮訳:カルバミド法により乱層構造窒化ホウ素を得た。混合物は、カルバミドとホウ酸を3:1の比率で混合し、空気中200℃の温度にて熱処理することにより調製した。混合物の窒化は、アンモニア流下、1100℃の温度にて行われた。最終生成物中の窒素の質量含有量は55.9%;ホウ素の質量含有量は44.0%であった。このようにして合成した窒化ホウ素に、24質量%の炭酸リチウム(CPグレード)を添加した。混合物を窒素媒体中に650?1450℃の温度で3時間保持した。試料を化学分析、X線回折、及び電子顕微鏡により調べた。)
イ 「Diffraction patterns (CuKα radiation) of boron nitride in the original state and specimens obtained at temperatures of 1000℃ (after washing in hot water and drying at 120℃) and 1200℃ (immediately after heat treatment) are presented in Fig. 1. Electron micrographs and electron microdiffraction patterns of individual boron nitride particles in these specimens are presented in Fig. 2. The x-ray phase analysis and electron microscopy data are summarized in Table 1.」(第636頁第14?17行)
(当審仮訳:図1に、窒化ホウ素の元の状態での回折パターン(CuKα線)と、1000℃(熱水洗い、120℃で乾燥)及び1200℃(熱処理直後)の試料を示す。これらの試料中の個々の窒化ホウ素粒子の電子顕微鏡写真と電子マイクロ回折パターンを図2に示す。X線位相分析と電子顕微鏡データは、表1に要約した。)
ウ 「

」(第637頁)
(Fig.1の説明の当審仮訳:図1.元の状態(a)及び24%Li_(2)CO_(3)との混合中で1000℃(b)及び1200℃(c)で熱処理した後の試料における窒化ホウ素の回折パターン。)
エ 「Substantial changes in the structural state of boron nitride within the entire specimen are detected by x-ray diffraction after reaction of BN_(t) with Li_(2)CO_(3) at a temperature of 1000℃ (Fig. 1). The degree of three-dimensional ordering of the structure of BN_(g) (p_(3)) is 0.77, determined by the procedure in [4] from the width the 110 and 112 lines. With an increase in treatment temperature, the value of p_(3) increases, reaching 0.89 at 1450℃ (Table 1). Simultaneously with an increase in p_(3), the morphology of the particles of graphitic boron nitride also changes (Fig. 2). An increase in the degree of three-dimensional ordering is accompanied by a transition from polycrystalline particles with unbounded grain stacking texture to individual single crystals, growth of the single crystals (Table 1), and formation of polyhedral faceting.」(第637頁第15?21行)
(当審仮訳:BN_(t)とLi_(2)CO_(3)を1000℃の温度で反応させた後、X線回折によって、試料全体での窒化ホウ素の構造状態の著しい変化を検出した(図1)。NB_(g)の構造の三次元秩序化の程度(p_(3))は0.77である(110線と112線の幅から[4]の手順によって決定された)。処理温度の上昇と共にp_(3)値は増加し、1450℃で0.89に達した(表1)。p_(3)の増加と共に、グラファイト状窒化ホウ素粒子の形態も変化する(図2)。三次元秩序化の程度の増加は、無制約の結晶粒積層集合構造を有する多結晶粒子から個々の単結晶への遷移、単結晶の成長(表1)、及び多面体の面の形成を伴う。)
オ 「

」(第638頁)
(TABLE 1の説明の当審仮訳:表1.異なる温度で熱処理した後の試料のX線回折と電子顕微鏡調査の結果)
カ 「


(第638頁)
(Fig.2の説明の当審仮訳:図2.乱層構造窒化ホウ素(a)と1000℃(b)及び1450℃(c)で結晶化した窒化ホウ素の構造。)

4 取消理由の検討
(1)取消理由1について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記3(1)アによれば、窒素含有量が55.9質量%、ホウ素含有量が44.0質量%である乱層構造窒化ホウ素に、24質量%の炭酸リチウムを添加して、この混合物を650?1450℃の温度で3時間熱処理することが記載されている。
また、甲第1号証には、上記3(1)イ及びウによれば、乱層構造窒化ホウ素の回折パターン(CuKα線)が記載され、上記(2)ウの図1(a)から、002回折ピークの半値幅が5°程度であることが見て取れる。
さらに、甲第1号証には、上記3(1)イ、エ?カによれば、熱処理前後の窒化ホウ素粒子の電子顕微鏡写真、電子マイクロ回折パターンが記載され、1450℃で熱処理した試料が、グラファイト状窒化ホウ素粒子であることや、多面体の面の形成を伴う単結晶成長であることが記載されている。また、上記3(1)カの図2(c)の電子顕微鏡写真から、六角形結晶であることが見て取れるし、同図2(c)の電子マイクロ回折パターンから、単結晶であることが見て取れる。
これら記載を整理すると、甲第1号証には、
「回折パターン(CuKα線)の002回折ピークの半値幅が5°程度であり、窒素含有量が55.9質量%、ホウ素含有量が44.0質量%である乱層構造窒化ホウ素粒子に、24質量%の炭酸リチウムを添加混合し、1450℃の温度で3時間熱処理して、多面体の面の形成を伴う単結晶成長により、六角形結晶からなるグラファイト状窒化ホウ素単結晶粒子を得る方法。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「回折パターン(CuKα線)の002回折ピークの半値幅が5°程度であ」る「乱層構造窒化ホウ素粒子」、「炭酸リチウム」、及び、「1450℃の温度で3時間熱処理」することは、それぞれ、本件発明1の「XRD解析において002面のピーク半値幅が0.4°以上であ」る「窒化ホウ素粉末」、「リチウムを含む炭酸塩」、及び、「1000℃以上に加熱する」ことに相当する。
また、甲1発明の「六角形結晶からなるグラファイト状窒化ホウ素単結晶粒子」は、六方晶系結晶の典型的な形状の六角形結晶であり、グラファイト状の層状構造の結晶であることから、本件発明1の「六方晶窒化ホウ素単結晶」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「XRD解析において002面のピーク半値幅が0.4°以上である窒化ホウ素粉末とリチウムを含む炭酸塩とを混合し、1000℃以上に加熱するステップ、を有する、六方晶窒化ホウ素単結晶の製造方法。」
の点で一致し、以下の相違点1?3で相違している。
・相違点1
本件発明1の「窒化ホウ素粉末」は、「全酸素濃度が1質量%以上10質量%以下」であるのに対して、甲1発明の「乱層構造窒化ホウ素粒子」は、「窒素含有量が55.9質量%、ホウ素含有量が44.0質量%」であり、全酸素濃度が明らかでない点。
・相違点2
本件発明1では、「リチウムを含む炭酸塩」の混合割合が、「得られる混合物全量に対する前記炭酸塩の含有量が20mol%以上」であるのに対して、甲1発明では、「炭酸リチウム」の添加量が「乱層構造窒化ホウ素粒子」に対して「24質量%」である点。
・相違点3
本件発明1では、「六方晶窒化ホウ素単結晶」の「アスペクト比が0.3以上」であるのに対して、甲1発明では、「グラファイト状窒化ホウ素単結晶粒子」のアスペクト比が明らかでない点。

(イ)相違点の検討
まず、相違点1について検討すると、甲1発明の「乱層構造窒化ホウ素粒子」は、窒素含有量が55.9質量%、ホウ素含有量が44.0質量%であり、窒素及びホウ素以外の不純物は、0.1質量%(=100質量%-55.9質量%-44.0質量%)であるといえるから、当該不純物が全て酸素であるとしても、「全酸素濃度が1質量%以上10質量%以下」を満たさないため、上記相違点1は実質的なものといえる。
したがって、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるといえない。

ウ 本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記イに示した理由と同様の理由により、甲1発明であるといえない。

エ 小括
以上で検討したとおり、本件発明1、3及び4は、甲第1号証に記載された発明であるといえないから、取消理由1に理由はない。

(2)取消理由2について
ア 本件発明1、3、4について
本件発明1では、加熱処理温度が「1000℃以上」であることが特定されると共に、「アスペクト比が0.3以上の六方晶窒化ホウ素単結晶」を製造することが特定されたため、本件発明1には、アスペクト比が0.3未満となるような高い加熱処理温度で加熱する態様を含まないことが明らかになった。
また、本件発明1では、フラックスとして用いるリチウム塩が「リチウムを含む炭酸塩」であることが特定された。
そして、発明の詳細な説明の「一般にリチウム塩フラックス、特に炭酸リチウムフラックスは溶解度が高いため,高濃度のh-BNが溶媒に溶解している。一方で,高温度領域では分解して炭酸ガスを発生する。そのため,保持過程中に蒸発を駆動力とした結晶成長が始まり,結晶と溶液の固液界面近傍での溶質濃化層の形成をともなった擬一次元成長によりc軸方向に成長したh-BN単結晶が製造されたと考える。」(段落【0023】)との記載からして、当業者であれば、「リチウムを含む炭酸塩」が、実施例1の「Li_(2)CO_(3)」と同様に、h-BNを高濃度に溶解すると共に、炭酸ガスを発生させて、c軸方向への成長を促進できると認識できる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
また、本件発明1を引用する本件発明3及び4についても、同様に、発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。

イ 申立人の主張について
申立人は、本件発明1では、加熱処理温度の上限値が特定されておらず、フラックス成長法を用いて六方晶窒化ホウ素単結晶を成長させるに際して、加熱処理温度が高く(低く)なるとアスペクト比が小さく(大きく)なる傾向があるとの技術常識を踏まえると、本件発明1は、本件発明の課題を解決できない場合を依然として含んでいるし、また、発明の詳細な説明には、アスペクト比が0.3以上の六方晶窒化ホウ素単結晶を得ることができる加熱処理温度の上限値について記載されておらず、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるから、発明の詳細な説明に開示された内容を、本件発明1にまで拡張又は一般化できない旨を主張している(申立人意見書第1?3頁の「(1)加熱処理温度について」参照)。
この点について検討するに、上記アで検討したとおり、本件発明1では、「アスペクト比が0.3以上の六方晶窒化ホウ素単結晶」を製造することが特定されたため、本件発明1には、アスペクト比が0.3未満となるような高い加熱処理温度で加熱する態様を含まないことは明らかである。
また、発明の詳細な説明には、アスペクト比が0.3以上の六方晶窒化ホウ素単結晶を得ることができる加熱処理の温度範囲は記載されていないものの、当該アスペクト比とすることは、上記技術常識を踏まえれば、発明の詳細な説明の記載から、1000℃以上であって高過ぎない加熱処理温度条件で実施できることは自明であるから、当業者の過度の試行錯誤を要することはないといえる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1、3及び4は、発明の詳細な説明に記載された発明といえるから、取消理由2に理由はない。

5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第1項及び第2項所定の規定違反に係る申立理由について
ア 申立理由の概要
申立人は、下記の甲第1号証?甲第4号証を証拠方法として、概略、次の申立理由1及び2を主張している(特許異議申立書第20?28頁の「ウ 本件特許発明と証拠に記載された引用発明との対比」参照)。
(申立理由1)
甲第1号証を主たる証拠として、訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、あるいは、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(申立理由2)
甲第2号証を主たる証拠として、訂正前の請求項1、2及び4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるか、又は、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、あるいは、訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第2号証?甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(証拠方法)
甲第1号証:N.F.Ostrovskaya et al., Crystallization of boron nitride from solution in a lithium borate melt, Powder Metallurgy and Metal Ceramics, 1996, Vol.35, No.11-12, p.636-639
甲第2号証:特開2010-37123号公報
甲第3号証:楠瀬尚史他、炭化ホウ素を原料として用い合成した六方晶BN分散エポキシハイブリッド材料の熱伝導度、日本セラミックス協会第25回秋季シンポジウム講演予稿集、2012年9月12日、2E01
甲第4号証:T.B.Hoffman et al., Optimization of Ni-Cr flux growth for hexagonal boron nitride single crystals, Journal of Crystal Growth, 2014, Vol.393, p.114-118)

イ 申立理由1の検討
(ア)本件発明1について
a 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明(上記4(1)ア参照)とを対比すると、上記4(1)イで検討したとおり、両者は、
「XRD解析において002面のピーク半値幅が0.4°以上である窒化ホウ素粉末とリチウムを含む炭酸塩とを混合し、1000℃以上に加熱するステップ、を有する、六方晶窒化ホウ素単結晶の製造方法。」
の点で一致し、以下の相違点1?3で相違している。
・相違点1
本件発明1の「窒化ホウ素粉末」は、「全酸素濃度が1質量%以上10質量%以下」であるのに対して、甲1発明の「乱層構造窒化ホウ素粒子」は、「窒素含有量が55.9質量%、ホウ素含有量が44.0質量%」であり、全酸素濃度が明らかでない点。
・相違点2
本件発明1では、「リチウムを含む炭酸塩」の混合割合が、「得られる混合物全量に対する前記炭酸塩の含有量が20mol%以上」であるのに対して、甲1発明では、「炭酸リチウム」の添加量が「乱層構造窒化ホウ素粒子」に対して「24質量%」である点。
・相違点3
本件発明1では、「六方晶窒化ホウ素単結晶」の「アスペクト比が0.3以上」であるのに対して、甲1発明では、「グラファイト状窒化ホウ素単結晶粒子」のアスペクト比が明らかでない点。

b 相違点の検討
まず、相違点1について検討すると、フラックス成長法を用いて六方晶窒化ホウ素単結晶を成長させるに際して、原料として、全酸素濃度が1質量%以上10質量%以下である窒化ホウ素粉末を使用するとの技術的事項は、甲第3号証及び甲第4号証のいずれにも記載されていないし、このような技術的事項が、本件特許に係る出願時の技術常識であることを示す証拠もない。
したがって、甲1発明の「乱層構造窒化ホウ素粒子」として、全酸素濃度が1質量%以上10質量%以下である窒化ホウ素粉末を使用することは、当業者が容易に想到し得る事項であるといえない。
したがって、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第3号証と甲第4号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記(ア)に示した理由と同様の理由により、甲1発明及び甲第3号証と甲第4号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上で検討したとおり、本件発明1、3及び4は、甲第1号証に記載された発明に基いて、あるいは、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないから、申立理由1に理由はない。

ウ 申立理由2の検討
(ア)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素含有物質と窒素含有物質とを1300℃以下で反応させて得られる粗製六方晶窒化ホウ素粉末を、大気雰囲気中60℃以下で1週間以上養生させた後に、不活性ガス雰囲気中にて1600?2200℃で再加熱処理し結晶成長させることを特徴とする、高結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項2】
大気雰囲気中60℃以下で1週間以上養生させた後再加熱する前の状態における、粗製六方晶窒化ホウ素粉末のX線回折法による黒鉛化指数(GI)が2.5以上かつ数平均粒子径が9μm以下であり、不活性ガス雰囲気中にて1600?2200℃で再加熱処理した後の高結晶性六方晶窒化ホウ素粉末のX線回折法による黒鉛化指数(GI)が1.9以下かつ数平均粒子径が10μm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の高結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項3】
粗製六方晶窒化ホウ素粉末の再加熱前に、粗製六方晶窒化ホウ素粉末100重量部に対し、アルカリ金属含有物質・アルカリ土類金属含有物質、から選ばれる1種以上の物質を50重量部以下添加することを特徴とする、請求項1または2に記載の高結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。」
と記載されている。
甲第2号証の上記記載を整理すると、甲第2号証には、
「ホウ素含有物質と窒素含有物質とを1300℃以下で反応させて得られる黒鉛化指数(GI)が2.5以上の粗製六方晶窒化ホウ素粉末を、大気雰囲気中60℃以下で1週間以上養生させた後に、粗製六方晶窒化ホウ素粉末100重量部に対し、アルカリ金属含有物質・アルカリ土類金属含有物質から選ばれる1種以上の物質を50重量部以下添加して、不活性ガス雰囲気中にて1600?2200℃で再加熱処理し結晶成長させる、高結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。」
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

(イ)本件発明1について
a 本件発明1と甲2発明との対比
甲2発明の「養生させた後」の「粗製六方晶窒化ホウ素粉末」、「不活性ガス雰囲気中にて1600?2200℃で再加熱処理」、「高結晶性六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法」は、それぞれ、本件発明1の「窒化ホウ素粉末」、「1000℃以上に加熱する」こと、「六方晶窒化ホウ素」の「製造方法」に相当するから、本件発明1と甲2発明とは、
「窒化ホウ素粉末を、1000℃以上に加熱するステップ、を有する、六方晶窒化ホウ素の製造方法。」
の点で一致し、以下の相違点4?6で相違している。
・相違点4
本件発明1の「窒化ホウ素粉末」は、「XRD解析において002面のピーク半値幅が0.4°以上であり、かつ、全酸素濃度が1質量%以上10質量%以下」のものであるのに対して、甲2発明の「養生させた後」の「粗製六方晶窒化ホウ素粉末」は、「ホウ素含有物質と窒素含有物質とを1300℃以下で反応させて得られる黒鉛化指数(GI)が2.5以上の粗製六方晶窒化ホウ素粉末を、大気雰囲気中60℃以下で1週間以上養生させた」ものである点。
・相違点5
本件発明1では、「リチウムを含む炭酸塩」を「得られる混合物全量に対する前記炭酸塩の含有量が20mol%以上となるよう混合」しているのに対して、甲2発明では、「粗製六方晶窒化ホウ素粉末100重量部に対し、アルカリ金属含有物質・アルカリ土類金属含有物質から選ばれる1種以上の物質を50重量部以下添加」している点。
・相違点6
本件発明1では、「アスペクト比が0.3以上の六方晶窒化ホウ素単結晶」が製造されているのに対して、甲2発明では、「高結晶性六方晶窒化ホウ素粉末」が製造され、当該「高結晶性六方晶窒化ホウ素粉末」は、単結晶であるか明らかでなく、そのアスペクト比も明らかでない点。

b 相違点の検討
まず、相違点4について検討する。
甲第2号証の「GIはh-BN粉末の結晶性の指標であり、結晶性が高いほどこの値が小さくなり完全に結晶化(黒鉛化)したものではGI=1.60になるとされている。」(段落【0020】)との記載、及び、「1300℃以下の比較的低温で焼成して取り出された粗製h-BN粉末には通常、ホウ酸アンモニウム、未反応ホウ素成分、窒素物質中間体、等のさまざまな不純物が含まれているが、これら不純物の中には、2000℃近い高温で再焼結する際に、h-BN粉末の高結晶化を阻害する成分と、全く逆に高結晶化を促進する成分とが並存していると推定される。・・・ところが粗製h-BN粉末を大気雰囲気中60℃以下で1週間以上養生させておくことで、高結晶化を阻害する成分の含有量を低減でき、かつ高結晶化を促進する成分はそのまま残存させることが可能となると考えられる。」(段落【0007】)との記載からして、甲2発明の「ホウ素含有物質と窒素含有物質とを1300℃以下で反応させて得られる黒鉛化指数(GI)が2.5以上の粗製六方晶窒化ホウ素粉末を、大気雰囲気中60℃以下で1週間以上養生させた後」の「粗製六方晶窒化ホウ素粉末」は、結晶性が低く、高結晶化を促進する不純物を含有しているといえるものの、その結晶性が「XRD解析において002面のピーク半値幅が0.4°以上」であるといえないし、また、高結晶化を促進する不純物が「酸素」であると共に「全酸素濃度が1質量%以上10質量%以下」になっているともいえないため、上記相違点4は実質的なものといえる。
また、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項の容易想到性に検討すると、フラックス成長法を用いて六方晶窒化ホウ素単結晶を成長させるに際して、原料として、XRD解析において002面のピーク半値幅が0.4°以上であり、かつ、全酸素濃度が1質量%以上10質量%以下である窒化ホウ素粉末を使用するとの技術的事項は、甲第3号証及び甲第4号証のいずれにも記載されていないし、このような技術的事項が、本件特許に係る出願時の技術常識であることを示す証拠もないから、甲2発明の「粗製六方晶窒化ホウ素粉末」を、「XRD解析において002面のピーク半値幅が0.4°以上であり、かつ、全酸素濃度が1質量%以上10質量%以下である窒化ホウ素粉末」とすることは、当業者が容易に想到できるものといえない。
したがって、相違点5及び6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明であるといえないし、また、甲2発明及び甲第3号証と甲第4号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(イ)本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記(ア)に示した理由と同様の理由により、甲2発明であるといえないし、また、甲2発明及び甲第3号証と甲第4号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(ウ)小括
以上で検討したとおり、本件発明1、3及び4は、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明に基いて、あるいは、甲第2号証?甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由2に理由はない。

(2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反に係る申立理由について
ア 申立理由の概要
申立人は、特許法第36条第6項第1号所定の規定違反に関して、概略、次の申立理由3を主張している(特許異議申立書第28?30頁の「エ 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)」参照)。
(申立理由3)
フラックス法による単結晶の製造方法では、加熱処理における加熱時間やフラックス配合量が重要な条件であるところ、訂正前の請求項1?4に係る発明では、加熱時間やリチウム塩配合量が特定されていないため、発明の詳細な説明に開示された内容を、訂正前の請求項1?4に係る発明にまで拡張又は一般化できない。

イ 申立理由3の検討
本件発明1では、フラックス配合量に関して、「得られる混合物全量に対する前記炭酸塩の含有量が20mol%以上となるように混合」することが特定され、一方、加熱処理の処理時間は特定されていない。
しかしながら、フラックス法による六方晶窒化ホウ素単結晶の製造方法において、フラックス配合量や加熱処理の処理時間がc軸方向の成長に影響する条件であることは、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項でもないし、また、このようなことが技術常識であることを示す証拠もないから、本件発明1は、「得られる混合物全量に対する前記炭酸塩の含有量が20mol%以上」との範囲において、また、加熱処理の処理時間に関係なく、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
そうしてみると、当業者であれば、発明の詳細な説明に開示された内容を、本件発明1及びこれを引用する本件発明3及び4にまで拡張又は一般化できると認識できるから、上記申立理由3に理由はない。

ウ 申立人の主張について
本件発明1の上記フラックス配合量に関して、申立人は、本件特許の審査経過における特許権者の主張に基づき、粗製六方晶窒化ホウ素粉末100重量部に対して、炭酸リチウムの含有割合が50重量部(14.4mol%)という甲第2号証に記載された条件下では、アスペクト比が0.3以上の六方晶窒化ホウ素単結晶が得られないことを特許権者が自認していることを根拠にして、本件発明1の炭酸リチウムの配合量の下限値(20mol%)では、本件発明の課題を解決できない旨を主張している(申立人意見書第3?5頁の「(2)リチウム塩の配合量に関する規定について」、異議申立書第30?31の「オ 訂正の可能性が考えられる事項について」参照)。
しかしながら、審査過程で特許権者が平成30年10月15日に提出した意見書において、特許権者は、甲第2号証には、六方晶窒化ホウ素結晶をc軸方向へ成長させるという思想が記載も示唆もされていないので、本件発明の効果は予測できないことを主張しているものの、粗製六方晶窒化ホウ素粉末100重量部に対して、炭酸リチウムの含有割合が50重量部(14.4mol%)という条件下では、アスペクト比が0.3以上の六方晶窒化ホウ素単結晶が得られないことは主張していないことからして、申立人の上記主張は採用できない。

第4 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2に係る特許に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
XRD解析において002面のピーク半値幅が0.4°以上であり、かつ、全酸素濃度が1質量%以上10質量%以下である窒化ホウ素粉末とリチウムを含む炭酸塩とを、得られる混合物全量に対する前記炭酸塩の含有量が20mol%以上となるよう混合し、1000℃以上に加熱するステップ、を有する、アスペクト比が0.3以上の六方晶窒化ホウ素単結晶の製造方法。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記六方晶窒化ホウ素単結晶は、結晶ab面の最大幅が100nm以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記六方晶窒化ホウ素単結晶は、自形結晶または半自形結晶である請求項1又は3に記載の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-01-19 
出願番号 特願2015-18847(P2015-18847)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C30B)
P 1 651・ 537- YAA (C30B)
P 1 651・ 113- YAA (C30B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 有田 恭子  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 宮澤 尚之
岡田 隆介
登録日 2019-10-25 
登録番号 特許第6603965号(P6603965)
権利者 国立大学法人信州大学 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 六方晶窒化ホウ素単結晶およびその製造方法、該六方晶窒化ホウ素単結晶を配合した複合材組成物並びに該複合材組成物を成形してなる放熱部材  
代理人 下田 俊明  
代理人 高田 大輔  
代理人 佐貫 伸一  
代理人 下田 俊明  
代理人 下田 俊明  
代理人 高田 大輔  
代理人 佐貫 伸一  
代理人 高田 大輔  
代理人 佐貫 伸一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ