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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02F
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  G02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02F
管理番号 1372724
異議申立番号 異議2019-700622  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-05 
確定日 2021-03-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6465740号発明「液晶シール剤及びそれを用いた液晶表示セル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6465740号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6465740号の請求項1-12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6465740号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成27年5月11日に出願され、平成31年1月18日にその特許権の設定登録がされ、平成31年2月6日に特許掲載公報が発行された。その後、令和元年8月5日に森川真帆(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和元年11月11日付けで取消理由(発送日令和元年11月13日)が通知され、その指定期間内である令和元年12月27日に意見書の提出及び訂正請求がされ、令和2年2月5日に申立人から意見書が提出され、令和2年6月30日付けで取消理由(決定の予告)(発送日令和2年7月6日)が通知され、その指定期間内である令和2年8月28日に意見書の提出及び訂正請求がされ、令和2年10月28日に申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1 訂正の内容
令和2年8月28日の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の(1)?(4)のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1
請求項1に
「平均粒子径A[μm]の熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)、平均粒子径B[μm]のフィラー(c)、硬化性化合物(d)、及びエポキシ樹脂(g)を含有し、前記(g)がビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、A[μm]及びB[μm]が、下記式(I)及び(II)で表される条件を満たす液晶滴下工法用液晶シール剤。」とあるのを、
「平均粒子径A[μm]の熱硬化剤(a)及び硬化促進剤(b)、平均粒子径B[μm]のフィラー(c)、硬化性化合物(d)、及びエポキシ樹脂(g)を含有し、前記(a)が有機酸ヒドラジド化合物、前記(b)がイミダゾール、前記(g)がビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、A[μm]及びB[μm]が、下記式(I)及び(II)で表される条件を満たす液晶滴下工法用液晶シール剤。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?12も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
請求項2に、
「前記(a)が、有機酸ヒドラジド化合物である請求項1に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。」とあるのを、
「前記(a)が、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントインである請求項1に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。」
に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3?12も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
請求項3に、
「前記(b)が、有機酸及び/又はイミダゾールである請求項1又は2に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。」とあるのを、
「前記(b)が、2,4-ジアミノ-6(2’-メチルイミダゾール(1’))エチル-s-トリアジン・イソシアヌル酸付加物である請求項1又は2に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。」
に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4?12も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
請求項5に、
「液晶シール剤の総量を100質量部としたときの(a)及び/又は(b)の含有量が0.1質量部以上30質量部未満である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。」とあるのを、
「液晶シール剤の総量を100質量部としたときの(a)及び(b)の含有量が0.1質量部以上30質量部未満である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6?12も同様に訂正する。)。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1、4について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1、4は、いずれも「熱硬化剤(a)」、「硬化促進剤(b)」について、「(a)及び/又は(b)」の記載を「(a)及び(b)」と限定し、訂正事項1はさらに「前記(a)が有機酸ヒドラジド化合物、前記(b)がイミダゾール」と限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項1、4は「(a)及び(b)」に限定し、訂正事項1はさらに「前記(a)が有機酸ヒドラジド化合物、前記(b)がイミダゾール」と限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項1、4は、特許請求の範囲に記載されていたことは明らかであるから、訂正事項1、4は明細書等に記載されているものと認められる。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2は、「有機酸ヒドラジド化合物」を「1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン」と限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項2は「有機酸ヒドラジド化合物」を「1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン」と限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
「1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン」は、段落【0014】に記載されているから、訂正事項2は明細書等に記載されているものと認められる。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項3は、「硬化促進剤(b)」について、「有機酸及び/又はイミダゾール」を「2,4-ジアミノ-6(2’-メチルイミダゾール(1’))エチル-s-トリアジン・イソシアヌル酸付加物」と限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項3は「有機酸及び/又はイミダゾール」を「2,4-ジアミノ-6(2’-メチルイミダゾール(1’))エチル-s-トリアジン・イソシアヌル酸付加物」と限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
「2,4-ジアミノ-6(2’-メチルイミダゾール(1’))エチル-s-トリアジン・イソシアヌル酸付加物」は、段落【0015】に記載されているから、訂正事項3は明細書等に記載されているものと認められる。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1?12は、請求項2?12が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?12は、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとにされたものである。

3 小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1?4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 訂正後の請求項1?12に係る発明
上記訂正請求により訂正された請求項1?12に係る発明(以下、「本件発明1」等、あるいはまとめて「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。(下線は訂正箇所を示す。)

「【請求項1】
平均粒子径A[μm]の熱硬化剤(a)及び硬化促進剤(b)、平均粒子径B[μm]のフィラー(c)、硬化性化合物(d)、及びエポキシ樹脂(g)を含有し、前記(a)が有機酸ヒドラジド化合物、前記(b)がイミダゾール、前記(g)がビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、A[μm]及びB[μm]が、下記式(I)及び(II)で表される条件を満たす液晶滴下工法用液晶シール剤。
0.5μm≦A≦3μm・・・(I)
0.005×A≦B≦0.3×A・・・(II)
【請求項2】
前記(a)が、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントインである請求項1に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項3】
前記(b)が、2,4-ジアミノ-6(2’-メチルイミダゾール(1’))エチル-s-トリアジン・イソシアヌル酸付加物である請求項1又は2に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項4】
前記(c)が、シリカ及び/又はアルミナである請求項1及至3に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項5】
液晶シール剤の総量を100質量部としたときの(a)及び(b)の含有量が0.1質量部以上30質量部未満である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項6】
液晶シール剤の総量を100質量部としたときの(c)の含有量が1質量部以上20質量部未満である請求項1乃至5 のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項7】
前記硬化性化合物(d)が(メタ)アクリル化エポキシ樹脂である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項8】
前記硬化性化合物(d)がレゾルシンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリルエステル化物である請求項1乃至7のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項9】
更に熱ラジカル重合開始剤(e)を含有する請求項1乃至8のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項10】
更にシランカップリング剤(f)を含有する、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項11】
2枚の基板により構成される液晶表示セルにおいて、一方の基板に形成された請求項1乃至10のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤の堰の内側に液晶を滴下した後、もう一方の基板を貼り合わせ、その後熱により硬化することを特徴とする液晶表示セルの製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤を硬化して得られる硬化物でシールされた液晶表示セル。」

2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?12に係る特許に対して令和2年6月30日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

取消理由(進歩性)
請求項1?12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:国際公開第2014/109266号
甲第2号証:国際公開第2013/002177号
甲第3号証:特開2010-277072号公報
追加文献1:国際公開第2011/061910号(申立人が特許異議申立書(以下「申立書」という。)26頁で提示した文献)
追加文献2:国際公開第2011/001895号(申立人が申立書26頁で提示した文献)
参考資料1:特開2009-139922号公報(申立人が令和2年2月5日に提出した意見書(以下「申立人意見書」という。)で提示した文献)
参考資料2:特開2012-238006号公報(申立人が申立人意見書で提示した文献)
参考資料3:特開2010-14771号公報(申立人が申立人意見書で提示した文献)
参考資料4:特開2008-15155号公報(申立人が申立人意見書で提示した文献)
参考資料5:特開2015-79077号公報(申立人が申立書37頁、申立人意見書で提示した文献)
参考資料6:特開2015-69011号公報(申立人が申立書37頁、申立人意見書で提示した文献)
参考資料7:特開2015-21984号公報(申立人が申立書37頁、申立人意見書で提示した文献)
参考資料8:特許第5531166号公報(申立人が申立書37頁、申立人意見書で提示した文献)

また、令和元年11月11日付けで特許権者に通知した取消理由において、上記取消理由に加えて、次の取消理由も通知されている。

取消理由(新規性)
請求項1、2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

3 取消理由通知に記載した取消理由(新規性進歩性)について
(1)引用文献の記載
ア 甲第1号証
甲第1号証には、次の記載があり、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。(下線は当審で付与。以下同じ。)
(ア)「背景技術
[0002]近年の液晶表示セルの大型化に伴い、液晶表示セルの製造方法として、より量産性の高い、いわゆる液晶滴下工法が提案されている(特許文献1、2参照)。具体的には、一方の基板に形成された液晶シール剤からなる堰の内側に液晶を滴下した後、もう一方の基板を貼り合わせることにより液晶が封止される液晶表示セルの製造方法である。」

(イ)「発明が解決しようとする課題
[0010]本発明は、一方の基板に形成された液晶シール剤からなる堰の内側に液晶を滴下した後、もう一方の基板を貼り合わせ、液晶シール剤部を加熱のみによって硬化することにより液晶表示セルを製造する液晶滴下工法に用いられる液晶シール剤に関するものであり、熱による反応が速いため、工程を通して液晶に対して極めて汚染性が低く、さらには液晶の液晶シール剤への差込耐性に優れ、かつ、脱泡等のハンドリング性にも優れ、その他、基板への塗布性、貼り合わせ性、接着強度等に優れているため、いかなる設計の液晶パネルにも適応可能である液晶シール剤を提案するものである。」

(ウ)「[0032]本発明の液晶シール剤は、(c)(メタ)アクリロイル基を有する硬化性樹脂を含有する。このような硬化性樹脂としては、例えば(メタ)アクリルエステル、エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリルエステルとしては、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、フロログリシノールトリアクリレート等が挙げられる。
エポキシ(メタ)アクリレートは、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応により公知の方法で得られる。原料となるエポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、2官能以上のエポキシ樹脂が好ましく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン骨格を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂、その他、カテコール、レゾルシノール等の二官能フェノール類のジグリシジルエーテル化物、二官能アルコール類のジグリシジルエーテル化物、及びそれらのハロゲン化物、水素添加物等が挙げられる。これらのうち液晶汚染性の観点から、レゾルシンジグリシジルエーテル等のレゾルシン骨格を有するエポキシ樹脂が好ましい。また、エポキシ基と(メタ)アクリロイル基との比率は限定されるものではなく、工程適合性及び液晶汚染性の観点から適切に選択される。
したがって、好ましい(メタ)アクリロイル基を有する硬化性樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、レゾルシン骨格を有する硬化性樹脂であり、例えば、レゾルシンジグリシジルエーテルのアクリル酸エステルやレゾルシンジグリシジルエーテルのメタクリル酸エステルである。」

(エ)「[0041]本発明の液晶シール剤では、(h)無機フィラーを用いて、接着強度向上や耐湿信頼性向上を図ることができる。この無機フィラーとしては、溶融シリカ、結晶シリカ、シリコンカーバイド、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸リチウムアルミニウム、珪酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、硝子繊維、炭素繊維、二硫化モリブデン、アスベスト等が挙げられ、好ましくは溶融シリカ、結晶シリカ、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウムであり、より好ましくは溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、タルクである。これら無機フィラーは2種以上を混合して用いてもよい。その平均粒径は、大きすぎると狭ギャップの液晶セル製造時に上下ガラス基板を貼り合わせる際のギャップ形成がうまくできない等の不良要因となるため、3μm以下が適当であり、好ましくは2μm以下である。粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定器(乾式)(株式会社セイシン企業製;LMS-30)により測定することができる。
・・・
[0043]本発明の液晶シール剤には、さらに必要に応じて、硬化促進剤や、顔料、レベリング剤、消泡剤、溶剤等の添加剤を配合することができる。
[0044]上記硬化促進剤としては、有機酸やイミダゾール等を挙げることができる。・・・」

(オ)「補正された請求の範囲 ・・・
[請求項1](a)熱ラジカル重合開始剤、(b)ラジカル重合防止剤、(c)(メタ)アクリロイル基を有する硬化性樹脂、及び(d)有機フィラーを含有する液晶滴下工法用液晶シール剤であって、
前記成分(b)が下記式(1)乃至(3)のいずれかで表されるラジカル重合防止剤、又はピペリジン骨格を有するラジカル重合防止剤である液晶滴下工法用液晶シール剤。・・・
・・・
[請求項8]さらに、(e)エポキシ基を有する硬化性樹脂及び(f)熱硬化剤を含有する請求項1乃至7のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
[請求項9]前記成分(f)が有機酸ヒドラジドである請求項8に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
[請求項10]さらに、(g)シランカップリング剤を含有する請求項1乃至9のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
[請求項11]さらに、(h)無機フィラーを含有する請求項1乃至10のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
・・・
[請求項13]請求項1乃至11のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤の製造方法であって、前記成分(c)に対して前記成分(b)を溶解する工程を含む液晶滴下工法用液晶シール剤の製造方法。
・・・
[請求項15]請求項1乃至12のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤、又は請求項13若しくは14に記載の製造方法によって得られる液晶滴下工法用液晶シール剤を硬化して得られる硬化物でシールされた液晶表示セル。」(35頁1行?39頁7行)

(カ)表1は以下のとおりである。


(キ)表1の実施例1?3から、(メタ)アクリロイル基を有する硬化性樹脂(c)として、レゾルシンジグリシジルエーテルのエポキシアクリレートを含有していること、エポキシ基を有する硬化性樹脂(e)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を1部使用していること、熱硬化剤(f)として、セバシン酸ジヒドラジド(SDH)をジェットミルにより、平均粒径1.5μmに微粉砕して、0.7部使用していること、無機フィラー(h)としてシリカ(X-24-9163A信越化学工業株式会社)が1.5部使用されていること、実施例1?3の成分(a)?(h)の総和が25.72部であることが看て取れる。

(ク)上記(ア)?(キ)の記載を踏まえると以下の甲1発明が記載されていると認められる。

甲1発明
「一方の基板に形成された液晶シール剤からなる堰の内側に液晶を滴下した後、もう一方の基板を貼り合わせ、液晶シール剤部を加熱のみによって硬化することにより液晶表示セルを製造する液晶滴下工法に用いられる液晶シール剤に関するものであり、熱による反応が速いため、工程を通して液晶に対して極めて汚染性が低く、さらには液晶の液晶シール剤への差込耐性に優れ、かつ、脱泡等のハンドリング性にも優れ、その他、基板への塗布性、貼り合わせ性、接着強度等に優れているため、いかなる設計の液晶パネルにも適応可能である液晶シール剤であり、
(a)熱ラジカル重合開始剤、(b)ラジカル重合防止剤、(c)(メタ)アクリロイル基を有する硬化性樹脂、及び(d)有機フィラーを含有する液晶滴下工法用液晶シール剤であって、
さらに、(e)エポキシ基を有する硬化性樹脂及び(f)熱硬化剤を含有し、前記成分(f)が有機酸ヒドラジドであり、
さらに、(g)シランカップリング剤、(h)無機フィラーを含有し、
さらに必要に応じて、硬化促進剤を配合することができ、上記硬化促進剤としては、有機酸やイミダゾール等を挙げることができ、
実施例として、
(メタ)アクリロイル基を有する硬化性樹脂(c)として、レゾルシンジグリシジルエーテルのエポキシアクリレートを含有し、
エポキシ基を有する硬化性樹脂(e)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を1部使用し、熱硬化剤(f)として、セバシン酸ジヒドラジド(SDH)をジェットミルにより、平均粒径1.5μmに微粉砕して、0.7部使用し、無機フィラー(h)としてシリカ(X-24-9163A信越化学工業株式会社)が1.5部使用され、成分(a)?(h)の総和が25.72部である、
液晶シール剤。」

イ 甲第2号証
甲第2号証には、次の記載があり、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(ア)「[0001]本発明は、液晶汚染を引き起こすことがほとんどない液晶滴下工法用シール剤に関する。また、本発明は、該液晶滴下工法用シール剤の製造方法、並びに、該液晶滴下工法用シール剤を用いてなる上下導通材料及び液晶表示素子に関する。」

(イ)「[0005]これに対して、滴下工法と呼ばれる液晶表示素子の製造方法が検討されている。滴下工法では、まず、2枚の電極付き透明基板の一方に、スクリーン印刷により長方形状のシールパターンを形成する。次いで、シール剤未硬化の状態で液晶の微小滴を透明基板の枠内全面に滴下塗布し、真空下で他方の透明基板を重ねあわせ、常圧に戻した後シール部に紫外線を照射して仮硬化を行う。その後、液晶アニール時に加熱して本硬化を行い、液晶表示素子を作製する。この方法では、極めて高い効率で液晶表示素子を製造することができ、現在この滴下工法が液晶表示素子の製造方法の主流となっている。
[0006]液晶滴下工法は、真空注入法と比べて液晶導入工程時間の大幅な短縮が 可能となる一方でシール剤が未硬化の状態で液晶と接するために、シール剤の成分が液晶に溶出しやすく、液晶汚染の原因となるという問題があった。
このような液晶汚染を防止する方法として、光硬化熱硬化併用型シール剤を用いて、紫外線の照射と加熱とによる二段階硬化を行う方法が用いられている(例えば、特許文献1、2)。上記光硬化熱硬化併用型シール剤としては、光硬化成分として(メタ)アクリル樹脂と光重合開始剤、及び、熱硬化成分としてエポキシ樹脂と熱硬化剤を含有するものが挙げられる。
しかしながら、このような光硬化熱硬化併用型シール剤を用いても、シール剤による液晶汚染が発生し、その結果、得られる液晶表示素子に色ムラ等の表示不良が生じるという問題があった。」

(ウ)「[0015]上記エポキシ(メタ)アクリレートを合成するための原料となるエポキシ樹脂は特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂・・・等が挙げられる。」

(エ)「[0045]本発明の液晶滴下工法用シール剤は、更に、必要に応じて、粘度調整の為の反応性希釈剤、チクソ性を調整する揺変剤、パネルギャップ調整の為のポリマービーズ等のスペーサー、3-P-クロロフェニル-1,1-ジメチル尿素等の硬化促進剤、消泡剤、レベリング剤、その他添加剤等を含有してもよい。」

(オ)「[0064](実施例1)
・・・
[0065](シール剤成分の混合)
硬化性樹脂として、ビスフェノールA型エポキシアクリレート(ビスフェノールA型エポキシ樹脂のアクリル酸変性物、ダイセルサイテック社製、「エベクリル3700」、硬化性樹脂A)30重量部、部分アクリル変性エポキシ樹脂(硬化性樹脂C)60重量部、及び、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「エピコート1001」、硬化性樹脂D)10重量部を加熱溶解させて均一溶液とした。この硬化性樹脂の混合液に、光ラジカル重合開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(BASF Japan社製、「IRGACURE651」)1.7重量部、及び、ラジカル重合禁止剤としてハイドロキノン0.05重量部を配合して加熱溶解させ、更に、シランカップリング剤としてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製、「KBM-403」)1.7重量部を配合し、混合攪拌した。次いで、得られた混合物を室温に冷却した後に、無機充填剤として球状シリカ(アドマテックス社製、「SO-E3」、平均粒子径1.0μm)50重量部、及び、熱硬化剤としてアジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製、「ADH」、平均粒子径1.0μm)6.0重量部を混合攪拌した後、セラミックス3本ロールミルにて均一分散させ、真空脱泡処理前シール剤を得た。」

(カ)「[0078](実施例6)
各シール剤成分の量を表1に示した量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、真空脱泡処理したシール剤を得た。無機充填剤として、球状シリカに加えてナノシリカ粒子(日本アエロジル社製、「RX-200」、平均粒子径0.012μm)を使用した。
[0079](実施例7)
各シール剤成分の量を表1に示した量に変更したこと、及び、真空脱泡処理工程の条件を表1に示した条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして、真空脱泡処理したシール剤を得た。無機充填剤として、球状シリカに加えてナノシリカ粒子(日本アエロジル社製、「RX-200」、平均粒子径0.012μm)を使用した。」

(キ)「[請求項1] ラジカル重合性化合物を含有する硬化性樹脂とラジカル重合開始剤を含有する液晶滴下工法用シール剤であって、
溶存している酸素の分圧が10?4000Paであることを特徴とする液晶滴下工法用シール剤。
・・・
[請求項4] 請求項1記載の液晶滴下工法用シール剤及び/又は請求項3記載の上下導通材料を用いてなることを特徴とする液晶表示素子。」(37頁2行?14行)

(ク)表1は以下のとおりである。




(ケ)表1の実施例6、7から、熱硬化剤としてアジピン酸ジヒドラジドを6重量部、無機充填剤としてナノシリカをそれぞれ3重量部、15重量部使用すること、及び実施例6、7の総重量部はそれぞれ152.45重量部、154.45重量部であることが看て取れる。

(コ)上記(ア)?(ケ)の記載を踏まえると以下の甲2発明が記載されていると認められる。

甲2発明
「液晶滴下工法用シール剤を用いてなる液晶表示素子に関し、液晶汚染を引き起こすことがほとんどない液晶滴下工法用シール剤であって、
硬化促進剤を含有してもよく、
実施例として、
硬化性樹脂として、ビスフェノールA型エポキシアクリレート(硬化性樹脂A)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「エピコート1001」、硬化性樹脂D)、及び、
シランカップリング剤、
熱硬化剤としてアジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製、「ADH」、平均粒子径1.0μm)6重量部、
無機充填剤として、ナノシリカ粒子(日本アエロジル社製、「RX-200」、平均粒子径0.012μm)を下記総重量部において、それぞれ3重量部、15重量部、を含み、
総重量部がそれぞれ152.45重量部、154.45重量部である、
液晶滴下工法用シール剤。」

ウ 甲第3号証
甲第3号証には、次の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル構造を有する樹脂微粒子(a)及び光硬化樹脂(b)を含有し、E型粘度計を用いて測定した25℃における粘度が100Pa・s以下であり、プリベイク後の粘度が100Pa・s以上400Pa・s以下である液晶シール剤。
【請求項2】
光硬化樹脂(b)がエポキシ(メタ)アクリレートである請求項1に記載の液晶シール剤。
【請求項3】
エポキシ(メタ)アクリレートがレゾルシンジグリシジルエーテルとアクリル酸の反応生成物を50質量%以上含む請求項2に記載の液晶シール剤。」

(イ)「【0009】
本発明は液晶滴下工法の際の液晶のシール剤中への差込現象の抑制を課題とし、差込現象の低減された液晶シール剤及びそれを用いた液晶表示セルを提供する。」

エ 追加文献1
追加文献1には、次の記載がある。
「[0066]・・・
*3:球状シリカ(信越化学工業株式会社製、商品名:X-24-9163A;一次平均粒径110nm)」

オ 追加文献2
追加文献2には、次の記載がある。
「[0061]・・・
*5:球状シリカ(信越化学工業株式会社製:X-24-9163A;一次平均粒径110nm)。」

カ 参考資料1
参考資料1には、次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶シール剤及びそれを用いた液晶表示セルに関する。より詳しくは、一方の基板に形成された光熱硬化併用型又は熱硬化型の液晶シール剤の堰の内側に液晶を滴下した後、もう一方の基板を貼り合わせ、該液晶シール剤を硬化させることにより液晶が封止される液晶表示セルの製造に用いる液晶シール剤及びそれを用いて製造された液晶表示セルに関する。」

(イ)「【0069】
実施例3及び4、比較例2及び3(熱硬化型)
表4に記載のアクリル化エポキシ樹脂、エポキシ樹脂、シランカップリング剤を混合して樹脂液を得た。次に無機充填剤、熱硬化剤、硬化促進剤、疎水性ヒュームドシリカを混合し、そして、実施例3、4と比較例2の液晶シール剤を得るには、さらにゴム粉末又はシリコーン樹脂粉末を加え3本ロールにより混練し、液晶シール剤を得た。
【0070】
表4
実施例3 実施例4 比較例2 比較例3
アクリル化
エポキシ樹脂 *1 90 90 90 90
エポキシ樹脂 *2 10 10 10 10
熱硬化剤 *3 19 19 19 19
硬化促進剤 *4 3 3 3 3
無機充填剤 *5 25 25 25 25
シリコーンゴム
粉末 *6 20 - - -
複合シリコーン
ゴム粉末 *7 - 20 - -
シリコーン樹脂
粉末 *8 - - 20 -
シランカップ
リング剤 *9 1 1 1 1
疎水性ヒューム
ドシリカ *10 10 10 10 10
【0071】
表4 中の数値は質量部である。
*1:レゾルシンジグリシジルエーテルの全アクリル化物(合成例1)
*2:レゾルシンジグリシジルエーテル(日本化薬株式会社製:RGE-H)
*3:アジピン酸ジヒドラジド微粉砕品(大塚化学株式会社製:ADHをジェットミルで平均粒径1.5μmに微粉砕したもの)
*4:トリス(3-カルボキシプロピル)イソシアヌレート粉砕品(四国化成工業株式会社製:C3-CIC酸をジェットミルで平均粒径1.5μmに微粉砕したもの)
*5:球状アルミナ(シーアイ化成株式会社製:ナノテックアルミナSPC;1次平均粒径50nm)
*6:球状シリコーンゴム粉末:直鎖ジメチルポリシロキサン架橋粉末(信越化学工業製:KMP-594;真比重0.97、平均粒径5μm、JIS-Aゴム硬度30)
*7:球状シリコーン樹脂被覆直鎖ジメチルポリシロキサン架橋粉末(信越化学工業製:KMP-600;真比重0.99、平均粒径5μm、JIS-Aゴム硬度30)
*8:球状シリコーン樹脂粉末:球状ポリメチルシルセスキオキサン架橋粉末(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製:トスパール145;真比重1.32、平均粒径4.5μm)
*9:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(チッソ株式会社製:サイラエースS-510)
*10:疎水性ヒュームドシリカ(株式会社トクヤマ製:PM-20L)」

キ 参考資料2
参考資料2には、次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶シール剤及びそれを用いた液晶表示セルに関する。より詳しくは、液晶滴下工法による液晶表示セルの製造に好適な液晶シール剤及びそれを用いて製造された液晶表示セルに関する。」

(イ)「【0033】
[実施例4]
エポキシアクリレート樹脂KAYARADR-94220(日本化薬株式会社製;ビスフェノールFエポキシ樹脂のエポキシアクリレート)75重量部、エポキシ樹脂RE-203(日本化薬株式会社製;エポキシ当量233g/eq、エチレンオキサイド付加ビスフェノールS型エポキシ樹脂)25重量部、光開始剤KAYACURERPI-4(日本化薬株式会社製;2-イソシアナトエチルメタクリレートと2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチルプロパン-1-オンとの反応生成物)5重量部、シランカップリング剤サイラエースS-510(チッソ株式会社製;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)1.5重量部を混合して樹脂液を得た。次にフィラーとしてナノテックアルミナSPC(シーアイ化成株式会社製;球状アルミナ、平均粒径50nm)17.5重量部、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物(ロームアンドハース株式会社製;パラロイドEXL-2655)3重量部をビーズミルで均一に混合し、更にアジピン酸ジヒドラジド微粉砕品(大塚化学株式会社製;ADH-Sをジェットミルで平均粒径1.5μm、最大粒径5μmに微粉砕したもの)7重量部、トリス(2-カルボキシプロピル)イソシアヌレート粉砕品(四国化成工業株式会社製:C3-CIC酸をジェットミルで平均粒径1.5μm、最大粒径5μmに微粉砕したもの)1重量部を混合、三本ロールにより混練して本発明の液晶シール剤を得た。液晶シール剤の粘度(25℃)は350Pa・sであった(25℃、R型粘度計(東機産業株式会社製))。」

ク 参考資料3
参考資料3には、次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶シール剤及びそれを用いた液晶表示セルに関する。より詳しくは、液晶滴下工法による液晶表示セルの製造に好適な液晶シール剤及びそれを用いて製造された液晶表示セルに関する。」

(イ)「【0044】
実施例1、比較例1及び2
表1に記載のアクリル化エポキシ樹脂、エポキシ樹脂、シランカップリング剤を混合して樹脂液を得た。次に無機充填剤、熱硬化剤、硬化促進剤、疎水性ヒュームドシリカを混合し、そして、実施例1と比較例1の液晶シール剤を得るには、さらに有機ベントナイト又はベントナイトを加え3本ロールにより混練し、液晶シール剤を得た。
【0045】
表1
実施例1 比較例1 比較例2
アクリル化エポ
キシ樹脂 *1 90 90 90
エポキシ樹脂 *2 10 10 10
熱硬化剤 *3 19 19 19
硬化促進剤 *4 3 3 3
無機充填剤 *5 25 25 25
有機ベント
ナイト *6 10 - -
ベントナイト *7 - 10 -
シランカップ
リング剤 *8 1 1 1
疎水性ヒューム
ドシリカ *9 10 10 10
【0046】
表1中の数値は重量部である。
*1:レゾルシンジグリシジルエーテルの全アクリル化物(日本化薬株式会社製
: 合成例1)
*2:レゾルシンジグリシジルエーテル(日本化薬株式会社製:RGE-H)
*3:アジピン酸ジヒドラジド微粉砕品(大塚化学株式会社製:ADHをジェットミルで平均粒径1.5μmに微粉砕したもの)
*4:トリス(2-カルボキシプロピル)イソシアヌレート粉砕品(四国化成工業株式会社製:C3-CIC酸をジェットミルで平均粒径1.5μmに微粉砕したもの)
*5:球状アルミナ(シーアイ化成株式会社製:ナノテックアルミナSPC;一次平均粒径50nm)
*6:有機ベントナイト(株式会社ホージュン製:エスベンC)
*7:ベントナイト(株式会社ホージュン製:ベンゲル)
*8:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(チッソ株式会社製:サイラエースS-510)
*9:疎水性ヒュームドシリカ(株式会社トクヤマ製:PM-20L;平均一次粒子径0.03μm)」

ケ 参考資料4
参考資料4には、次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶シール剤及びそれを用いた液晶表示セルに関する。より詳しくは、液晶滴下工法による液晶表示セルの製造に好適な液晶シール剤及びそれを用いて製造された液晶表示セルに関する。」

(イ)「【0037】
実施例5
エポキシアクリレート樹脂KAYARADR-94220(日本化薬株式会社製;ビスフェノールFエポキシ樹脂のエポキシアクリレート)75重量部、エポキシ樹脂RE-203(日本化薬株式会社製;エポキシ当量233g/eq、エチレンオキサイド付加ビスフェノールS型エポキシ樹脂)25重量部、光開始剤KAYACURE RPI-4(日本化薬株式会社製;2-イソシアナトエチルメタクリレートと2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチルプロパン-1-オンとの反応生成物)5重量部、シランカップリング剤サイラエースS-510(チッソ株式会社製;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)1.5重量部を混合して樹脂液を得た。次にフィラーとしてナノテックアルミナSPC(シーアイ化成株式会社製;球状アルミナ、平均粒径50nm)17.5重量部、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物(ロームアンドハース株式会社製;パラロイドEXL-2655)3重量部をビーズミルで均一に混合し、更にアジピン酸ジヒドラジド微粉砕品(大塚化学株式会社製;ADH-Sをジェットミルで平均粒径1.5μm、最大粒径5μmに微粉砕したもの)7重量部、トリス(2-カルボキシエチル)イソシアヌレート粉砕品(四国化成工業株式会社製:CIC酸をジェットミルで平均粒径1.5μm、最大粒径5μmに微粉砕したもの)1重量部を混合三本ロールにより混練して本発明の液晶シール剤を得た。液晶シール剤の粘度(25℃)は320Pa・sであった(25℃、R型粘度計(東機産業株式会社製))。
【0038】
実施例6
エポキシアクリレート樹脂KAYARAD R-94220(日本化薬株式会社製; ビスフェノールFエポキシ樹脂のエポキシアクリレート)75重量部、エポキシ樹脂RE-203(日本化薬株式会社製;エポキシ当量233g/eq、エチレンオキサイド付加ビスフェノールS型エポキシ樹脂)25重量部、光開始剤KAYACURE RPI-4(日本化薬株式会社製;2-イソシアナトエチルメタクリレートと2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチルプロパン-1-オンとの反応生成物)5重量部、シランカップリング剤サイラエースS-510(チッソ株式会社製;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)1.5重量部を混合して樹脂液を得た。次にフィラーとしてナノテックアルミナSPC(シーアイ化成株式会社製;球状アルミナ、平均粒径50nm)17.5重量部、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物(ロームアンドハース株式会社製;パラロイドEXL-2655)3重量部をビーズミルで均一に混合し、更にアジピン酸ジヒドラジド微粉砕品(大塚化学株式会社製;ADH-Sをジェットミルで平均粒径1.5μm、最大粒径5μmに微粉砕したもの)7重量部、トリス(2-カルボキシプロピル)イソシアヌレート粉砕品(四国化成工業株式会社製:C3-CIC酸をジェットミルで平均粒径1.5μm、最大粒径5μmに微粉砕したもの)1重量部を混合、三本ロールにより混練して本発明の液晶シール剤を得た。液晶シール剤の粘度(25℃)は350Pa・sであった(25℃、R型粘度計(東機産業株式会社製))。」

コ 参考資料5
参考資料5には、次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶滴下工法に使用される液晶シール剤に関する。より詳細には、ディスペンスやスクリーン印刷といった塗布作業性に優れ、かつ液晶の液晶シール剤への差込耐性にも優れる液晶滴下工法用液晶シール剤に関する。」

(イ)「【0023】
本願発明の液晶滴下工法用液晶シール剤は、熱硬化剤(c)を含有しても良い。
この熱硬化剤は特に限定されるものではなく、多価アミン類、多価フェノール類、ヒドラジド化合物等を挙げることができるが、固形の有機酸ヒドラジドが特に好適に用いられる。例えば、芳香族ヒドラジドであるサリチル酸ヒドラジド、安息香酸ヒドラジド、1-ナフトエ酸ヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6-ピリジンジヒドラジド、1,2,4-ベンゼントリヒドラジド、1,4,5,8-ナフトエ酸テトラヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジド等をあげることが出来る。また、脂肪族ヒドラジド化合物であれば、例えば、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、1,4-シクロヘキサンジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、N,N’-ヘキサメチレンビスセミカルバジド、クエン酸トリヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン等のヒダントイン骨格、好ましくはバリンヒダントイン骨格(ヒダントイン環の炭素原子がイソプロピル基で置換された骨格)を有するジヒドラジド化合物、トリス(1-ヒドラジノカルボニルメチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(3-ヒドラジノカルボニルプロピル)イソシアヌレート、ビス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート等をあげることができる。この熱硬化剤は、単独で用いても2種以上混合しても良い。硬化反応性と潜在性とのバランスから好ましくは、イソフタル酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、トリス(1-ヒドラジノカルボニルメチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(3-ヒドラジノカルボニルプロピル)イソシアヌレートであり、特に好ましくはマロン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドである。かかる熱硬化剤を使用する場合の含有量としては、液晶シール剤の総量を100質量部とした場合に、1?30質量部程度である。
【0024】
本願発明の液晶滴下工法用液晶シール剤は、更に熱ラジカル重合開始剤(d)を含有しても良い。・・・」

サ 参考資料6
参考資料6には、次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶滴下工法に使用される液晶シール剤に関する。より詳細には、液晶の液晶シール剤への差込耐性に優れ、更にゲル化を引き起こし難い為、作業性においても優れ、また接着強度等のような液晶シール剤としての一般的な特性においても優れる液晶滴下工法用液晶シール剤に関する。」

(イ)「【0018】
本発明の液晶シール剤は、成分(D)熱硬化剤を含有しても良い。熱硬化剤は特に限定されるものではなく、多価アミン類、多価フェノール類、ヒドラジド化合物等を挙げることができるが、固形の有機酸ヒドラジドが特に好適に用いられる。例えば、芳香族ヒドラジドであるサリチル酸ヒドラジド、安息香酸ヒドラジド、1-ナフトエ酸ヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6-ピリジンジヒドラジド、1,2,4-ベンゼントリヒドラジド、1,4,5,8-ナフトエ酸テトラヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジド等を挙げることができる。また、脂肪族ヒドラジド化合物であれば、例えば、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、1,4-シクロヘキサンジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、N,N’-ヘキサメチレンビスセミカルバジド、クエン酸トリヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン等のヒダントイン骨格、好ましくはバリンヒダントイン骨格(ヒダントイン環の炭素原子がイソプロピル基で置換された骨格)を有するジヒドラジド化合物、トリス(1-ヒドラジノカルボニルメチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(3-ヒドラジノカルボニルプロピル)イソシアヌレート、ビス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート等を挙げることができる。この熱硬化剤は、単独で用いても2種以上混合してもよい。硬化反応性と潜在性とのバランスから好ましくは、イソフタル酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、トリス(1-ヒドラジノカルボニルメチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(3-ヒドラジノカルボニルプロピル)イソシアヌレートであり、特に好ましくはマロン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドである。かかる(D)熱硬化剤を使用する場合の使用量としては、液晶シール剤の総量を100質量部とした場合に、0.5?10質量部の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは1?5質量部程度である。」

(ウ)「【0021】
本発明の液晶シール剤には、さらに必要に応じて、熱ラジカル重合開始剤、光ラジカル重合開始剤、硬化促進剤、有機フィラー、並びに顔料、レベリング剤、消泡剤、溶剤等の添加剤を配合することができる。
【0022】
上記熱ラジカル重合開始剤とは、加熱によりラジカルを生じ、連鎖重合反応を開始させる化合物であれば特に限定されないが、・・・」

シ 参考資料7
参考資料7には、次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示セルの製造方法及びその方法によって製造される液晶表示セルに関する。より詳細には、製造工程中に液晶が液晶シール剤へ差し込まず、安定に液晶表示セルを製造することができる製造方法、及びその方法によって製造される液晶表示セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の液晶表示セルの大型化に伴い、液晶表示セルの製造方法として、より量産性の高い、いわゆる液晶滴下工法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。この液晶滴下工法は、具体的には、一方の基板に形成された液晶シール剤からなる堰の内側に液晶を滴下した後、もう一方の基板を貼り合わせ、その後液晶シール剤を硬化する製造方法である。」

(イ)「【0017】
本発明の液晶表示セルの製造方法に使用される液晶シール剤は、上記条件を満たす有機フィラー(a)を含有すれば、他の構成成分は特に限定されないが、(b)熱ラジカル重合開始剤、(c)(メタ)アクリロイル基を有する硬化性化合物を含有する場合が特に好ましい。
【0018】
上記成分(b)熱ラジカル重合開始剤は、加熱によりラジカルを生じ、連鎖重合反応を開始させる化合物であれば特に限定されないが、・・・」

(ウ)「【0025】
上記熱硬化剤は特に限定されるものではなく、多価アミン類、多価フェノール類、ヒドラジド化合物等を挙げることができるが、固形の有機酸ヒドラジドが特に好適に用いられる。例えば、芳香族ヒドラジドであるサリチル酸ヒドラジド、安息香酸ヒドラジド、1-ナフトエ酸ヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6-ピリジンジヒドラジド、1,2,4-ベンゼントリヒドラジド、1,4,5,8-ナフトエ酸テトラヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジド等をあげることが出来る。また、脂肪族ヒドラジド化合物であれば、例えば、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、1,4-シクロヘキサンジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、N,N’-ヘキサメチレンビスセミカルバジド、クエン酸トリヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン等のヒダントイン骨格、好ましくはバリンヒダントイン骨格(ヒダントイン環の炭素原子がイソプロピル基で置換された骨格)を有するジヒドラジド化合物、トリス(1-ヒドラジノカルボニルメチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(3-ヒドラジノカルボニルプロピル)イソシアヌレート、ビス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート等をあげることができる。この熱硬化剤は、単独で用いても2種以上混合しても良い。硬化反応性と潜在性とのバランスから好ましくは、イソフタル酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、トリス(1-ヒドラジノカルボニルメチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(3-ヒドラジノカルボニルプロピル)イソシアヌレートであり、特に好ましくはマロン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドである。かかる熱硬化剤を使用する場合の含有量としては、液晶シール剤の総量を100質量部とした場合に、1?30質量部程度である。」

ス 参考資料8
参考資料8には、次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示セルの製造方法及びその方法によって製造される液晶表示セルに関する。より詳細には、製造工程中に液晶が液晶シール剤へ差し込まず、安定に液晶表示セルを製造することができる製造方法、及びその方法によって製造される液晶表示セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の液晶表示セルの大型化に伴い、液晶表示セルの製造方法として、より量産性の高い、いわゆる液晶滴下工法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。この液晶滴下工法は、具体的には、一方の基板に形成された液晶シール剤からなる堰の内側に液晶を滴下した後、もう一方の基板を貼り合わせ、その後液晶シール剤を硬化する製造方法である。」

(イ)「【0017】
本発明の液晶表示セルの製造方法に使用される液晶シール剤は、上記条件を満たす(a)有機フィラーを含有すれば、他の構成成分は特に限定されないが、(b)熱ラジカル重合開始剤、(c)(メタ)アクリロイル基を有する硬化性化合物を含有する場合が特に好ましい。
【0018】
上記(b)熱ラジカル重合開始剤は、加熱によりラジカルを生じ、連鎖重合反応を開始させる化合物であれば特に限定されないが、・・・」

(ウ)「【0025】
上記熱硬化剤は特に限定されるものではなく、多価アミン類、多価フェノール類、ヒドラジド化合物等を挙げることができるが、固形の有機酸ヒドラジドが特に好適に用いられる。例えば、芳香族ヒドラジドであるサリチル酸ヒドラジド、安息香酸ヒドラジド、1-ナフトエ酸ヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6-ピリジンジヒドラジド、1,2,4-ベンゼントリヒドラジド、1,4,5,8-ナフトエ酸テトラヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジド等を挙げることができる。また、脂肪族ヒドラジド化合物であれば、例えば、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、1,4-シクロヘキサンジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、N,N’-ヘキサメチレンビスセミカルバジド、クエン酸トリヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン等のヒダントイン骨格、好ましくはバリンヒダントイン骨格(ヒダントイン環の炭素原子がイソプロピル基で置換された骨格)を有するジヒドラジド化合物、トリス(1-ヒドラジノカルボニルメチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(3-ヒドラジノカルボニルプロピル)イソシアヌレート、ビス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート等を挙げることができる。この熱硬化剤は、単独で用いても2種以上混合してもよい。硬化反応性と潜在性とのバランスから好ましくは、イソフタル酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、トリス(1-ヒドラジノカルボニルメチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(3-ヒドラジノカルボニルプロピル)イソシアヌレートであり、特に好ましくはマロン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドである。かかる熱硬化剤を使用する場合の含有量としては、液晶シール剤の総量を100質量部とした場合に、1?30質量部程度である。」

(2)甲1発明が主引用発明の場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
甲1発明と本件発明1を対比する。
a 甲1発明の「(f)熱硬化剤」、「(h)無機フィラー」、「(c)(メタ)アクリロイル基を有する硬化性樹脂」、「エポキシ基を有する硬化性樹脂(e)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂」は、それぞれ本件発明1の「熱硬化剤(a)」、「フィラー(c)」、「硬化性化合物(d)」、「エポキシ樹脂(g)を含有し、前記(g)がビスフェノールA型エポキシ樹脂」に相当する。
また、甲1発明において「熱硬化剤(f)として、セバシン酸ジヒドラジド(SDH)」を用いることは、本件発明1の熱硬化剤(a)が「有機酸ヒドラジド化合物」であることに相当する。

b 甲1発明において「熱硬化剤(f)として、セバシン酸ジヒドラジド(SDH)をジェットミルにより、平均粒径1.5μmに微粉際して」使用しているから、当該構成は、本件発明1の「0.5μm≦A≦3μm・・・(I)」とする要件を満たしている。

c 上記a、bから、甲1発明と本件発明1は、以下の点で一致し、相違点1、2で相違する。

<一致点>
「平均粒子径A[μm]の熱硬化剤(a)、フィラー(c)、硬化性化合物(d)、及びエポキシ樹脂(g)を含有し、前記(a)が有機酸ヒドラジド化合物、前記(g)がビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、
A[μm]が、下記式(I)で表される条件を満たす液晶滴下工法用液晶シール剤。
0.5μm≦A≦3μm・・・(I)」

<相違点1>
本件発明1は「平均粒子径A[μm]の」イミダゾールである「硬化促進剤(b)」(0.5μm≦A≦3μm)を含有するのに対し、甲1発明では「有機酸やイミダゾール等」の「硬化促進剤を配合することができ」ると特定されているものの、平均粒子径についての特定はなく、「(メタ)アクリロイル基を有する硬化性樹脂(c)として、レゾルシンジグリシジルエーテルのエポキシアクリレートを含有し、エポキシ基を有する硬化性樹脂(e)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を1部使用し、熱硬化剤(f)として、セバシン酸ジヒドラジド(SDH)をジェットミルにより、平均粒径1.5μmに微粉砕して、0.7部使用し、無機フィラー(h)としてシリカ(X-24-9163A信越化学工業株式会社)が1.5部使用され、成分(a)?(h)の総和が25.72部である」実施例に、硬化促進剤を配合することができるとの特定がなされていない点。

<相違点2>
フィラーについて、本件発明1は「平均粒子径B[μm]」であり、式「0.005×A≦B≦0.3×A・・・(II)」で表される条件を満たすのに対し、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。

(イ)判断
相違点1について、検討する。
甲1発明における実施例において、硬化促進剤を配合することが特定されていないものの、甲1発明は硬化促進剤を配合することをそもそも想定しているものであるから、甲1発明の実施例において、硬化促進剤を配合することは当業者が容易に想到しうると判断できる余地はある。
ここで、熱硬化剤と硬化促進剤を併用するに際して、硬化促進剤は液晶シール剤の硬化を進めるために添加されるものであるから、液晶シール剤の保存安定性に不利な影響を与えるものであることは自明である。このような事情を勘案した上で、以下a?dの乙第1号証?乙第4号証に示される事項を見れば、熱硬化剤として有機酸ヒドラジド化合物、硬化促進剤としてイミダゾールを併用した場合に、保存安定性に悪影響を与えることは当業者であれば理解でき、技術常識であるといえる。
一方、甲第1号証の記載を見ても、上記技術常識について何ら示唆されておらず、また、「有機酸ヒドラジド化合物」と「イミダゾール」を選択的に併用することについて明示的な示唆はない。
他方、本件明細書において「【0012】・・・すなわち、熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)の平均粒子径は、0.5μm以上3μm以下である。平均粒子径が小さいと、保存安定性が悪くなる傾向がある。・・・フィラー(c)の平均粒子径は、熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)の平均粒子径の1000分の5以上1000分の300以下である。フィラー(c)の平均粒子径がこの範囲である場合には、フィラー(c)の粒子は熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)の粒子との静電引力が強まり、熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)の表面に引き寄せられ、熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)と硬化性化合物(d)の間に効率よく入り込む。」と記載されていることから、本件発明1は、熱硬化剤、硬化促進剤の平均粒子径を一定範囲にすると共に、フィラーの平均粒子径を熱硬化剤、硬化促進剤の平均粒子径と比較して、大幅に一定程度小さくすることにより、保存安定性を担保している(以下「本件ポイント」という。)と解される。また、本件明細書の表1(下記参照)に記載された実施例1と実施例2を比較すると、両実施例は、イミダゾールである硬化促進剤(b)の有無を除けば、熱硬化剤(a)として有機酸ヒドラジド化合物を用いたことを含めて同じ成分及び概ね同じ成分比で構成されており、イミダゾールは保存安定性に悪影響を及ぼすにもかかわらず、実施例1と実施例2の保存安定性評価は、それぞれ9%、8%であり、概ね同等の保存安定性を有していることが読み取れる。したがって、実施例1は、本件ポイントを前提とした上で、有機酸ヒドラジド化合物とイミダゾールを併用し、保存安定性を担保した態様であるといえる。そして、実施例1は、本件発明1の構成を満たしているから、本件発明1の効果を指し示しているといえる。
このような状況に鑑みれば、甲1発明が、熱硬化剤として有機酸ヒドラジド化合物を用いること、及び硬化促進剤としてイミダゾールを用いることを、それぞれ特定していたとしても、両者を併用すべき積極的な理由はない。また、仮に選択肢の一つとして両者を併用したとしても、イミダゾール(硬化促進剤)を用いない場合と同等の保存安定性を担保するようなことまで、当業者が容易に想到しうる事項であるといえない。そして、有機酸ヒドラジド化合物とイミダゾールを併用して、イミダゾールを用いない場合と同等の保存安定性を担保するとの本件発明1の効果について、当業者が予測できたものとはいえない。
また、他の甲各号証、追加文献、参考資料を参照したとしても、上記判断に影響を与えるものではない。

【表1】


a 乙第1号証(国際公開2016/186127号)
特許権者が、令和2年8月28日付け意見書(以下「特許権者意見書」という。)において提示した乙第1号証には、次の記載がある。
「【0080】【表2】


表2から、セバシン酸ジヒドラジドを用いた比較例2、3、5、6において、更にイミダゾール系硬化剤が添加された比較例3、6の保存安定性が悪いことが看て取れる。

b 乙第2号証(特開昭63-81119号公報)
特許権者が、特許権者意見書において提示した乙第2号証には、次の記載がある。





表1、2から、エイコサンニ酸ジヒドラジドを用いた比較例5、7において、更に2-メチルイミダゾールが添加された比較例7の貯蔵安定性が悪いことが看て取れる。

c 乙第3号証(特開平9-3166号公報)
特許権者が、特許権者意見書において提示した乙第3号証には、次の記載がある。

「【0021】(実施例2)潜在性硬化促進剤〔A〕を下記表2の組成物に3.0部添加し、これを3本ロールを用いて均一に混合し、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0022】
【表2】

【0023】(比較例4)上記表2の組成物に、硬化促進剤である2-メチルイミダゾール0.2部を、層状無機化合物に担持させることなく、そのまま添加し、その他は実施例2と同様にして高粘度液体状の熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
・・・
【0028】
【表3】



【0021】-【0023】の記載を参酌しつつ、表3から、アジピン酸ジヒドラジドを用いた実施例2、比較例4において、更に2-メチルイミダゾールが添加された比較例4の貯蔵安定性が悪いことが看て取れる。

d 乙第4号証(特開2014-202912号公報)
特許権者が、特許権者意見書において提示した乙第4号証には、次の記載がある。
「【0087】
【表1】


表1から、セバシン酸ジヒドラジドを用いた実施例、比較例がある中で、1-ベンジル-2-メチルイミダゾールが添加された比較例1の保存安定性が悪いことが看て取れる。

(ウ)申立人の主張について
a 申立人は、令和2年10月28日付け意見書(以下「申立人意見書2」という。)において、「本件明細書の実施例以外の箇所には、「平均粒子径の大きく異なる、<有機酸ヒドラジド等 の熱硬化剤(a)>及び/又は<有機酸、イミダゾール等の硬化促進剤(b)>と、(C)フィラーを用いることにより、液晶滴下工法用液晶シール剤の保存安定性を改善する」との技術思想は開示されているものの、「熱硬化剤(a):有機酸ヒドラジドと、硬化促進剤(b):イミダゾールとを併用すること」は明示されておらず、ましてや、「この併用により悪化する保存安定性を、(a)熱硬化剤及び(b)硬化促進剤と、(C)フィラーとの平均粒子径を大きく異ならせることにより改善する」との技術思想は何ら開示されていない。」(5頁7行?16行)旨主張する。
当該主張について検討すると、上記(イ)で説示したように、本件明細書の実施例1において、本件ポイントを前提として、有機酸ヒドラジド化合物とイミダゾールを併用した上で、保存安定性を担保していることは読み取れる。

b 申立人は、申立人意見書2において、「しかしながら、 乙第1号証?乙第4号証における熱硬化剤は、実施例1では用いられていない、「DDH」のような長鎖アルキレン基の両末端にヒドラジノ基(-NHNH_(2))を有する化合物であり、また、乙第5号証における熱硬化剤は、実施例1で用 いられている「アミキュアVDH」であるが、硬化促進剤としてイミダゾールが添加されていない(シリカの表面処理剤として使用)ものであり、また、乙第6号証?乙第9号証は、有機酸ヒドラジドとイミダゾール系硬化剤の併用に言及していない。
したがって、乙第1号証?乙第9号証を以て、「アミキュアVDHを含む、有機酸ヒドラジド一般において、これとイミダゾールを併用することで、液晶シール剤の保存安定性が悪化することが当該技術分野において技術常識である」とはいえない。」(10頁13行?末行)旨主張する。
当該主張について検討すると、申立人が主張するように、乙第1号証?乙第4号証には、特定の材料について記載されているのみであるが、上記(イ)で説示したように、熱硬化剤と硬化促進剤を併用するに際して、そもそも硬化促進剤は液晶シール剤の保存安定性に不利な影響を与えるものであることなどを考慮すると、乙第1号証?乙第4号証において、特定の材料しか開示がないとしても、当業者であれば、特定の材料の上位概念となる、熱硬化剤として有機酸ヒドラジド化合物、硬化促進剤としてイミダゾールを併用した場合に、保存安定性に悪影響を与えることは理解できるものである。

よって、申立人の主張は採用できない。

(エ)小活
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

イ 本件発明2?12について
本件発明2?12は、本件発明1に従属し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1と同様の理由(上記ア参照)により、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、同様に、本件発明2?12は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(3)甲2発明が主引用発明の場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
甲2発明と本件発明1を対比する。
a 甲2発明の「アジピン酸ジヒドラジド」、「ナノシリカ粒子」、「ビスフェノールA型エポキシアクリレート(硬化性樹脂A)」、「ビスフェノールA型エポキシ樹脂(硬化性樹脂D)」は、それぞれ本件発明1の「熱硬化剤(a)、前記(a)が有機酸ヒドラジド化合物」、「フィラー(c)」、「硬化性化合物(d)」、「エポキシ樹脂(g)を含有し、前記(g)がビスフェノールA型エポキシ樹脂」に相当する。

b 甲2発明において「アジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製、「ADH」、平均粒子径1.0μm)」を使用しているから、当該構成は、本件発明1の(熱硬化剤の平均粒子径が)「0.5μm≦A≦3μm・・・(I)」とする要件を満たしている。

c 甲2発明において「アジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製、「ADH」、平均粒子径1.0μm)」、「ナノシリカ粒子(日本アエロジル社製、「RX-200」、平均粒子径0.012μm)」を使用していることから、甲2発明においてA=1.0μm、B=0.012μmとなり、B=0.012×Aとなるから、本件発明1の式(II)を満たしている。

d 上記a?cから、甲2発明と本件発明1は、以下の点で一致し、相違点Aで相違する。
<一致点>
「平均粒子径A[μm]の熱硬化剤(a)及び平均粒子径B[μm]のフィラー(c)、硬化性化合物(d)、及びエポキシ樹脂(g)を含有し、前記(a)が有機酸ヒドラジド化合物、前記(g)がビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、
A[μm]及びB[μm]が、下記式(I)及び(II)で表される条件を満たす液晶滴下工法用液晶シール剤。
0.5μm≦A≦3μm・・・(I)
0.005×A≦B≦0.3×A・・・(II)」

<相違点A>
本件発明1は「平均粒子径A[μm]の」イミダゾールである「硬化促進剤(b)」(0.5μm≦A≦3μm)を含有するのに対し、甲2発明では「硬化促進剤を含有してもよく」と特定されているものの、平均粒子径についての特定はなく、「硬化性樹脂として、ビスフェノールA型エポキシアクリレート(硬化性樹脂A)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「エピコート1001」、硬化性樹脂D)、及び、シランカップリング剤、熱硬化剤としてアジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製、「ADH」、平均粒子径1.0μm)6重量部、無機充填剤として、ナノシリカ粒子(日本アエロジル社製、「RX-200」、平均粒子径0.012μm)を下記総重量部において、それぞれ3重量部、15重量部、を含み、総重量部がそれぞれ152.45重量部、154.45重量部である」実施例に、硬化促進剤を含有するとの特定がなされていない点。

(イ)判断
相違点Aは、上記(2)ア(ア)の相違点1と概ね同じであるから、上記(2)ア(イ)と同様の理由により、本件発明1は、甲2発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、本件発明1は、甲2発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

イ 本件発明2?12について
本件発明2?12は、本件発明1に従属し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1と同様の理由(上記ア参照)により、甲2発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、同様に、本件発明2?12は、甲2発明、甲第1号証、甲第3号証に記載された事項、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第36条第6項第1号)の概要
(1)特許異議申立理由の要旨
取消理由通知において採用しなかった、訂正前の請求項1?12に係る特許に対して申し立てられた特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

本件明細書の【0012】の記載、及び実施例1、2、比較例2から、「0.005×A≦B≦0.3×A・・・(II)」の関係式、上限値及び下限値を導き出せず、本件発明1?12は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件請求項1?12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)判断
本件請求項1において、
「 0.5μm≦A≦3μm・・・(I)
0.005×A≦B≦0.3×A・・・(II)」
との記載がなされており、当該記載について、本件明細書には、「【0012】平均粒子径A[μm]の熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)、平均粒子径B[μm]のフィラー(c)及び硬化性化合物(d)を含有し、A[μm]及びB[μm]が、下記式(I)及び(II)で表される条件を満たす液晶滴下工法用液晶シール剤。
0.5μm ≦ A ≦ 3μm ・・・ (I)
0.005×A ≦ B ≦ 0.3×A ・・・ (II) [数式(I)に関して]数式(I)は、平均粒子径の大きい熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)の、平均粒子径を規定している。すなわち、熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)の平均粒子径は、0.5μm以上3μm以下である。平均粒子径が小さいと、保存安定性が悪くなる傾向がある。従って、0.5μm未満である場合、本発明の効果が十分に得られない場合がある。また、平均粒子径が大きすぎると、液晶表示セルのギャップより大きくなりギャップ不良を起こす可能性がある。平均粒子径の更に好ましい範囲は、1μm以上3μm 以下であり、特に好ましくは、1μm以上2μm以下である。[数式(II)に関して]数式(II)は、熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)とフィラー (c)の平均粒子径の関係を示したものである。すなわち、フィラー(c)の平均粒子径は、熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)の平均粒子径の1000分の5以上1000分の300以下である。フィラー(c)の平均粒子径がこの範囲である場合には、フィラー(c)の粒子は熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)の粒子との静電引力が強まり、熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)の表面に引き寄せられ、熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)と硬化性化合物(d)の間に効率よく入り込む。フィラー(c)の平均粒子径は、更に好ましくは、1000分の5以上1000分の200以下であり、特に好ましくは、1000分の8以上1000分の100 以下である。」と記載されており、表1には、式(I)、(II)を満たしている実施例1が記載されると共に、硬化促進剤を含まず、式(II)を満たしていない比較例2が記載されている。
上記記載のなかで、特に「フィラー(c)の平均粒子径がこの範囲である場合には、フィラー(c)の粒子は熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)の粒子との静電引力が強まり、熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)の表面に引き寄せられ、熱硬化剤(a)及び/又は硬化促進剤(b)と硬化性化合物(d)の間に効率よく入り込む。」との記載で示されている事象は、熱硬化剤、硬化促進剤の反応性に影響を与える事象であることは明らかであり、本件明細書における「【発明の効果】【0011】本発明の液晶シール剤は、保存安定性が良好なため、従来課題となっていた塗布作業中に粘度が上昇することによる塗布条件の見直しをする必要がないため、作業性に優れ、また耐液晶汚染性が良好な液晶シール剤である。」との記載等も参酌すれば、式(II)は保存安定性の担保に関連する指標であると理解するのが自然である。
したがって、これらの記載によれば、式(I)、(II)を規定する根拠となる作用機序については、発明の詳細な説明から、当業者がその技術内容について理解できる程度であること、また、式(I)、(II)を満たした場合と満たさない場合の実施例、比較例について記載されていること、さらに、式(I)、(II)を満たす範囲において、上記作用機序が明らかに機能しない場合が想定されるなどの格別の事情も認められないことから、式(I)、(II)の技術的意義は、当業者が理解できる程度のものであり、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。
また、本件発明2?12についても、同様に、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(3)申立人の主張について
申立人は、申立書において、本件明細書の【0012】の記載、及び実施例1、2、比較例2から、数式(II)の関係式、上限値及び下限値を導き出せるとは到底いえない(41頁下から9行?42頁8行)旨主張する。
しかしながら、上記(2)で説示したように、本件明細書の【0012】や実施例、比較例等の記載から見れば、式(II)の技術的意義は理解できるものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。
よって、申立人の主張は採用できない。

(4)小活
したがって、本件請求項1?12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径A[μm]の熱硬化剤(a)及び硬化促進剤(b)、平均粒子径B[μm]のフィラー(c)、硬化性化合物(d)、及びエポキシ樹脂(g)を含有し、前記(a)が有機酸ヒドラジド化合物、前記(b)がイミダゾール、前記(g)がビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、
A[μm]及びB[μm]が、下記式(I)及び(II)で表される条件を満たす液晶滴下工法用液晶シール剤。
0.5μm≦A≦3μm・・・(I)
0.005×A≦B≦0.3×A・・・(II)
【請求項2】
前記(a)が、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントインである請求項1に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項3】
前記(b)が、2,4-ジアミノ-6(2’-メチルイミダゾール(1’))エチル-s-トリアジン・イソシアヌル酸付加物である請求項1又は2に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項4】
前記(c)が、シリカ及び/又はアルミナである請求項1及至3に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項5】
液晶シール剤の総量を100質量部としたときの(a)及び(b)の含有量が0.1質量部以上30質量部未満である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項6】
液晶シール剤の総量を100質量部としたときの(c)の含有量が1質量部以上20質量部未満である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項7】
前記硬化性化合物(d)が(メタ)アクリル化エポキシ樹脂である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項8】
前記硬化性化合物(d)がレゾルシンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリルエステル化物である請求項1乃至7のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項9】
更に熱ラジカル重合開始剤(e)を含有する請求項1乃至8のいずれか一項に記載の液
晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項10】
更にシランカップリング剤(f)を含有する、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤。
【請求項11】
2枚の基板により構成される液晶表示セルにおいて、一方の基板に形成された請求項1乃至10のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤の堰の内側に液晶を滴下した後、もう一方の基板を貼り合わせ、その後熱により硬化することを特徴とする液晶表示セルの製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用液晶シール剤を硬化して得られる硬化物でシールされた液晶表示セル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-02-26 
出願番号 特願2015-96391(P2015-96391)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02F)
P 1 651・ 113- YAA (G02F)
P 1 651・ 537- YAA (G02F)
P 1 651・ 851- YAA (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 越河 勉  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 井上 博之
野村 伸雄
登録日 2019-01-18 
登録番号 特許第6465740号(P6465740)
権利者 日本化薬株式会社
発明の名称 液晶シール剤及びそれを用いた液晶表示セル  
代理人 小笠原 亜子佳  
代理人 小笠原 亜子佳  

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