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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61L
管理番号 1372728
異議申立番号 異議2020-700986  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-17 
確定日 2021-03-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6710139号発明「殺菌装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6710139号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6710139号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は,平成28年10月11日の出願であって,令和2年5月28日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ,同年6月17日に特許掲載公報が発行された。
その後,その特許に対し,令和2年12月17日に特許異議申立人 伊藤 泰和(以下「特許異議申立人」という。)が特許異議の申立て(対象請求項1ないし9)を行い,令和3年2月1日に手続補正書を提出した。

第2 本件特許発明
特許第6710139号の請求項1ないし9に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」という。)。
「【請求項1】
液体を供給するための吐出口に設けられる殺菌装置であって,
前記吐出口に接続される接続端と,前記接続端と反対側の開放端とを有し,前記吐出口と連通する流路を構成する管状の導光体と,
前記導光体の接続端および開放端の少なくとも一方から紫外光を入射させるよう配置され,前記導光体の内周面と外周面の間で紫外光が反射しながら前記導光体を透過するように前記導光体に紫外光を入射させる光源と,を備え,
前記光源および前記導光体は,前記導光体の内周面と空気の界面にて紫外光が全反射される一方,前記導光体の内周面と液体の界面にて紫外光が全反射されずに透過するように構成され,前記導光体の内周面に接触する液体に紫外光を照射して殺菌することを特徴とする殺菌装置。
【請求項2】
前記導光体の内周面および外周面の双方が平滑面であることを特徴とする請求項1に記載の殺菌装置。
【請求項3】
前記導光体は,石英ガラス,フッ素系樹脂またはシリコーン系樹脂で構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の殺菌装置。
【請求項4】
前記光源は,前記導光体の接続端から紫外光を入射させるよう配置され,
前記開放端に設けられ,前記導光体を透過した紫外光を反射させる反射部材をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の殺菌装置。
【請求項5】
前記反射部材は,誘電体多層膜で構成されることを特徴とする請求項4に記載の殺菌装置。
【請求項6】
前記導光体の内周面のうちの前記開放端の近傍を少なくとも被覆する親水性の被覆層が設けられることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の殺菌装置。
【請求項7】
液体の供給停止時に前記導光体の内側に残留する液体に紫外光を照射することを特徴する請求項1から6のいずれか一項に記載の殺菌装置。
【請求項8】
液体の供給停止中に前記光源を点灯させ,液体の供給中に前記光源を消灯させる制御装置をさらに備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の殺菌装置。
【請求項9】
前記制御装置は,液体の供給停止中に前記光源を間欠的に点灯させることを特徴とする請求項8に記載の殺菌装置。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は,証拠方法として下記4のとおり甲第1号証ないし甲第8号証を提出し,要旨以下のとおり主張する。
1 申立理由1(特許法29条1項3号及び2項について)
本件特許発明1は,甲第1号証に記載された発明であるか,又は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証又は甲第3号証に記載された事項に基いて,本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明6は,甲第1号証に記載された発明であるか,又は甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基いて,本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明3ないし5及び7ないし9は,甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証,第3号証及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された事項に基いて,本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本件特許発明1及び3ないし9は,特許法29条1項3号に該当又は2項の規定に違反するものであるから,本件特許の請求項1及び3ないし9に係る特許は同法113条2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(特許法36条4項1号について)
本件特許発明1は,当業者がその明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても実施不可能であるから,本件特許明細書の発明の詳細な説明は経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。
したがって,本件特許の請求項1に係る特許は,その発明の詳細な説明が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法113条4号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由3(特許法36条6項1号について)
本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載された以外の態様も含むものであり,発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
同様に本件特許発明1を引用する本件特許発明2は,発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
したがって,本件特許の請求項1及び2に係る特許は,その特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法113条4号に該当し取り消すべきものである。

4 証拠方法
甲第1号証:特開2004-122008号公報
甲第2号証:特開2015-33669号公報
甲第3号証:特開2014-39876号公報
甲第4号証:特開2004-229886号公報
甲第5号証:特開昭63-175806号公報
甲第6号証:特開昭63-231303号公報
甲第7号証:特開平11-319818号公報
甲第8号証:特開2001-252061号公報
なお,甲号証の表記は,特許異議申立書の記載に従った。以下,順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
1 申立理由1(特許法29条1項3号及び2項)について
(1)主な甲号証に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には,以下の事項が記載されている(下線は当審で付加。以下同様。)。
「【請求項1】
蛇口の出口先端部に連結され内部が流路となる紫外線透過材の連結管と,
この連結管の外側に設けられ内面が反射面のランプハウジングと,
このランプハウジングに設けられ前記連結管を透過させて前記蛇口の出口内面をも殺菌する紫外線照射用ランプと
で構成したことを特徴とする紫外線殺菌装置。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は紫外線殺菌装置に関し,水や湯などの流体の配管の蛇口部分に付着する微生物を紫外線で殺菌するようにしたものであり,特に病院などで使用される無菌水の蛇口の殺菌装置として好適なものである。」
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところが,このようなノズル2の周辺に設けた紫外線殺菌ランプ5でノズル2に向けて紫外線を照射しても金属製等で紫外線が透過しないパイプ状のノズル2の奥の内面までを完全に殺菌することが出来ず,この殺菌法を蛇口に適用しても出口部分の内面を殺菌することは難しいという問題がある。
【0009】
この発明は,上記従来技術の有する課題と現状に鑑みてなされたもので,蛇口の出口部分の内面であっても殺菌することができる紫外線殺菌装置を提供しようとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記従来技術が有する課題を解決するため,この発明の請求項1記載の紫外線殺菌装置は,蛇口の出口先端部に連結され内部が流路となる紫外線透過材の連結管と,この連結管の外側に設けられ内面が反射面のランプハウジングと,このランプハウジングに設けられ前記連結管を透過させて前記蛇口の出口内面をも殺菌する紫外線照射用ランプとで構成したことを特徴とするものである。
【0011】
この紫外線殺菌装置によれば,蛇口の出口先端部に連結され内部が流路となる紫外線透過材の連結管と,この連結管の外側に設けられ内面が反射面のランプハウジングと,このランプハウジングに設けられ前記連結管を透過させて前記蛇口の出口内面をも殺菌する紫外線照射用ランプとで構成するようにしており,蛇口の先端部に紫外線を透過する材料の連結管を連結し,その外側に内面が反射面のランプハウジングを設けて内部に紫外線照射用ランプを設置することで,水を連通管内を通過させてランプに水がかからないようにし,直接紫外線が届かない蛇口の出口部分の内面に反射面で反射した紫外線を連通管を透過させて照射するようにし,外気に触れる蛇口の出口部分の内面をも殺菌できるようにしている。」
「【0022】
この連通管11には,外側を覆うようにランプハウジング14が設けられて支持台12に取付けられており,ランプハウジング14の内面が紫外線等の反射面(鏡面)15としてある。
【0023】
このランプハウジング14は,例えば上部が略円錐面14aとされ,これに続く下部が略凹面14bとされており,ランプハウジング14内に取り付けられる紫外線照射用ランプ16からの紫外線を,このランプハウジング14の形状の反射面15によって蛇口6の出口部分7の奥の内面まで照射できるようにしてある。 このランプハウジング14内には,紫外線照射用ランプ16として円形のリング状の紫外線フラッシュランプが取付けられ,例えばキセノンフラッシュランプが用いられるほか,アーク放電ランプやエキシマランプ等が用いられ,ランプ制御装置17により発光時間:1.0μs?1.0ms,出力:0.2?500wの紫外線を発光・照射するようになっており,ランプ制御装置17では,コックなどの蛇口6の開閉操作を検出する流量センサや水圧スイッチなどの検出器18の検出信号に合わせて発光のタイミングなどが制御されるようになっている。」
「【0026】
すると,リング状の紫外線用フラッシュランプ16から周囲に均一に閃光(パルス光)が照射され,紫外線が直接連通管11を透過して蛇口6の出口部分7の内面にも照射されるとともに,紫外線照射用ランプ16の外側のランプハウジング14の反射面15によって反射された紫外線も連通管11を透過して蛇口6の出口部分7の内面にも照射される。
【0027】
これにより,コックなどの蛇口6の金属製などの出口部分7の内面であっても連通管11を透過する紫外線で殺菌することができる。」
「【図1】



イ 甲1に記載された発明
上記ア,特に【請求項1】と【図1】より,甲1には,以下の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されている。
「蛇口の出口先端部に連結され内部が流路となる紫外線透過材の連結管と,
この連結管の外側に設けられ内面が反射面のランプハウジングと,
このランプハウジング内部かつ連結管の中程の高さの外側に設けられ,前記連結管を透過させて前記蛇口の出口内面をも殺菌する紫外線照射用ランプと
で構成した紫外線殺菌装置。」

ウ 甲2に記載された事項
「【請求項1】
入口開口と出口開口とを有する流路を流れる流体に紫外線を照射し前記流体を殺菌する紫外線殺菌装置において,
管状に形成され,内側に前記流路を有し,かつ外周面に光散乱手段を有する導光体と,
前記導光体の外面に配置されて前記導光体に対して紫外線を照射する紫外線光源と,
を具備し,
前記紫外線光源から前記導光体に対して照射された紫外線が,前記光散乱手段で散乱されて,前記導光体の内周面を通して前記流路に照射される
ことを特徴とする紫外線殺菌装置。
【請求項2】
前記紫外線光源が前記導光体の少なくとも前記入口開口側又は前記出口開口側のいずれか一方の端面に配置されている
ことを特徴とする請求項1 に記載の紫外線殺菌装置。」
「【0001】
本発明は,被処理流体中に含まれる細菌,藻類,および不純物などを紫外線の照射により殺菌,分解して浄化する紫外線殺菌装置に関する。」
「【0005】
本発明の目的は,以上のような従来技術の課題に鑑みなされたものであり,少ない数の紫外線光源で広い範囲を均一に照射することができ,紫外線殺菌装置への紫外線光源の取り付けが容易で,メンテナンスが容易なインライン式の紫外線殺菌装置を提供することである。」
「【0008】
紫外線を面のように広い範囲で均一に照射させる仕組みとしては,まず,紫外線光源から導光体に対して紫外線が発せられ,紫外線が導光体の外周面に形成された光散乱手段で散乱させられ,散乱させられた紫外線が導光体の内周面を通して導光体の内側に形成された流路に向かって照射される。このとき,紫外線光源から発せられた紫外線は光散乱手段によって散乱させられるので,紫外線光源ひとつあたりの紫外線の照射範囲を広くすることができる。そのため,紫外線光源の数(例えば,UV-LEDの数)を少なくすることもできる。また,光散乱手段によって散乱させられた紫外線は,導光体の内周面から流路に向かって均一な強度で照射されるので,紫外線による殺菌効果を均一にすることができる。」

エ 甲3に記載された事項
「【請求項1】
殺菌装置であって,
一つの表面を有する導光体と,
紫外線ビームが内部全反射により前記導光体に入射するように前記紫外線ビームを出射させるべく設けられている紫外線光源であって,前記紫外線ビームが前記導光体内で内部全反射されるように前記紫外線ビームを出射させる前記紫外線光源と,
を備えており,
物体が前記表面に接触又は接近したとき,前記導光体内の前記紫外線ビームは漏れ全反射現象により前記物体に照射されることを特徴とする殺菌装置。」
「【0005】
したがって,使用者が当該タッチ式起動装置の接触領域に接触又は接近したとき,当該接触領域を消毒するタッチ式起動装置の殺菌装置を提供する必要がある。本発明の他の目的は,殺菌装置の無菌表面を提供するものである。当該無菌表面は非接触で殺菌時間により実現されるものであって,導光体内部の紫外線ビームは,殺菌過程において殺菌装置の外部に漏れ出すことはない。導光体は実質的に透明の材料から構成されているので,タッチパネルに適用することができる。」
「【0020】
図1を参照する。前記光源12から放出された紫外線ビームの一部は前記側面142に入射するとともに前記導光体14にて結合して進入し,さらに内部全反射効果により前記導光体14中で伝搬する。したがって,案内されるビーム150は前記前面144又は前記後面148から漏れ出すことはない。また,ある物体(例えば手の指)が前記導光体14の前面144に接触又は接近すると(図1に示す),案内されるビーム150の一部はこの界面を透過するとともに,この界面に近接する指の皮膚に照射される。図1に示すように,ビーム149は前記前面144を透過するとともに前記指147の接触領域に照射される。この現象はつまり漏れ全反射(Frustrated Total Internal Reflection,FTIR)現象又はエバネセント波(evanescent wave)現象である。一般的には,内部全反射が発生したとき,エバネセント波は境界に形成される。エバネセント波は境界箇所にて指数関数的に減衰し始めるので,エバネセント波は予期せず境界に接近した物体のみに作用し,その有効距離はわずかに数μmとなり,これは波長に依存することになる。エバネセント波は予期せず境界に接近した物体のみに作用するので,強い紫外線ビームを使用したとしても,前記殺菌装置10は日常生活での使用においてかなり安全である。」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「紫外線殺菌装置」は,「蛇口の出口先端部に連結され」るものであるから,本件特許発明1の「液体を供給するための吐出口に設けられる殺菌装置」であって,「紫外光を照射して殺菌する」「殺菌装置」に相当する。
甲1発明の「蛇口の出口先端部に連結され内部が流路となる紫外線透過材の連結管」は,水や湯などの流体を供給するため蛇口の出口先端部に連結される側の反対の側が開放されているから(甲1の【0001】,【図1】の記載を参照。),本件特許発明1の「吐出口に接続される接続端と,前記接続端と反対側の開放端とを有し,前記吐出口と連通する流路を構成する管状の導光体」に相当する。
甲1発明の「連結管を透過させて」「蛇口の出口内面をも殺菌する紫外線照射ランプ」は,本件特許発明1の「導光体を透過するように前記導光体に紫外光を入射させる光源」に相当する。

したがって,本件特許発明1と甲1発明は,
「液体を供給するための吐出口に設けられる殺菌装置であって,
前記吐出口に接続される接続端と,前記接続端と反対側の開放端とを有し,前記吐出口と連通する流路を構成する管状の導光体と,
前記導光体を透過するように前記導光体に紫外光を入射させる光源と,を備え,
紫外光を照射して殺菌する殺菌装置。」である点で一致する。

そして,本件特許発明1と甲1発明とは下記の相違点1-1ないし相違点1-3で相違する。
・相違点1-1
光源の配置について,本件特許発明1は,「導光体の接続端および開放端の少なくとも一方から紫外光を入射させるよう配置され」と特定するのに対し,甲1発明はこのように特定しない点。

・相違点1-2
導光体中の紫外光の伝搬について,本件特許発明1は,紫外光が「導光体の内周面と外周面の間で紫外光が反射しながら前記導光体を透過するように」とし,光源および導光体が,「導光体の内周面と空気の界面にて紫外光が全反射される一方,前記導光体の内周面と液体の界面にて紫外光が全反射されずに透過するように」と特定するのに対し,甲1発明はこのように特定しない点。

・相違点1-3
紫外光を照射して殺菌する対象を,本件特許発明1は「導光体の内周面に接触する液体」とするのに対し,甲1発明は「蛇口の出口内面」とする点。

上記相違点について検討する。
事案に鑑み,相違点1-1及び相違点1-3についてまとめて先に検討する。

甲1発明の紫外線照射用ランプは,蛇口の出口内面を殺菌するために,連結管の中程の高さの外側に設けられ,かつ内面が反射面のランプハウジングの内部に設置されているものであって,本件特許発明1の光源の「導光体の接続端および開放端の少なくとも一方から紫外光を入射させるよう」な配置とは異なるものである。
そして,甲1発明は,このように紫外線照射用ランプを設置することで「水を連通管内を通過させてランプに水がかからないようにし,直接紫外線が届かない蛇口の出口部分の内面に反射面で反射した紫外線を連通管を透過させて照射するようにし,外気に触れる蛇口の出口部分の内面をも殺菌できるようにしている」ものである(【0011】)。
したがって,上記相違点1-1及び相違点1-3は実質的な相違点であるから,本件特許発明1は,甲1発明ではない。

上記(1)ウのとおり,甲2にはおおむね,管状に形成され内側に被処理流体の流路を有し,かつ外周面に光散乱手段を有する導光体と,前記導光体の入口開口側又は出口開口側の端面に配置された紫外線光源を具備した紫外線殺菌装置を用い,紫外線光源から発せられる紫外線を光散乱手段で散乱させることによって,導光体の内側の流路の被処理流体へ紫外線を均一に照射して殺菌を行うことが記載されている。
ここで,甲1発明は,内面が反射面のランプハウジングを用いることにより,連結管に連結された蛇口の出口内面へと紫外線照射を行うもの,すなわち連結管の外に存在する蛇口内面へと紫外線照射を行うものであるから,光散乱手段を用いて導光体の内側のみを対象に被処理流体へ紫外線を均一に照射することを目的とする甲2に記載された技術的事項を甲1発明において採用すると,連結管の外に存在する蛇口内面へと紫外線照射を行えなくなるので,その採用には阻害要因がある。
したがって,当業者といえども甲1発明と甲2に記載された事項を容易に組み合わせることができたものではない。

上記(1)エのとおり,甲3にはおおむね,導光体と,紫外線ビームが前記導光体内で内部全反射されるように前記紫外線ビームを出射させる前記紫外線光源を備えた殺菌装置を用いることで,有効距離が導光体から数μmのエバネセント波を発生させ,導光体に接触又は接近した物体を殺菌することが記載されている。
ここで,甲1発明は,連結管に接触又は接近するものではない蛇口の出口内面へも紫外線照射を行うものであるから,有効距離が数μmのエバネセント波で導光体に接触又は接近した物体を殺菌する甲3に記載された技術事項を甲1発明において採用すると,蛇口の出口内面を殺菌することができなくなるので,その採用には阻害要因がある。
したがって,当業者といえども甲1発明と甲3に記載された事項を容易に組み合わせることができたものではない。

さらに,甲4ないし8にも,相違点1-1及び相違点1-3に係る事項,すなわち導光体の接続端および開放端の少なくとも一方から紫外光を入射させ,導光体の内周面に接触する液体を殺菌する技術的事項は記載されていない。
したがって,甲4ないし8に記載される技術的事項を甲1発明において採用しても,本件特許発明1を当業者が容易に発明することができたものでもない。

よって,相違点1-2について検討するまでもなく,本件特許発明1は,甲1発明,すなわち甲1に記載された発明ではないし,また,甲1発明に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

イ 本件特許発明6について
本件特許発明6は,本件特許発明1ないし5に「前記導光体の内周面のうちの前記開放端の近傍を少なくとも被覆する親水性の被覆層が設けられる」という技術的事項を追加したものである。
そうすると,本件特許発明6と甲1発明との間には,上記アにおける相違点1-1及び相違点1-3が存在するから,他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明6は甲1発明,すなわち甲1に記載された発明ではないし,また,甲1発明に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

ウ 本件特許発明3ないし5及び7ないし9について
本件特許発明3は,本件特許発明1又は2に「前記導光体は,石英ガラス,フッ素系樹脂またはシリコーン系樹脂で構成される」という技術的事項を追加したものである。
本件特許発明4は,本件特許発明1ないし3に「前記光源は,前記導光体の接続端から紫外光を入射させるよう配置され,前記開放端に設けられ,前記導光体を透過した紫外光を反射させる反射部材をさらに備える」という技術的事項を追加したものである。
本件特許発明5は,本件特許発明4に「前記反射部材は,誘電体多層膜で構成される」という技術的事項を追加したものである。
本件特許発明7は,本件特許発明1ないし6に「液体の供給停止時に前記導光体の内側に残留する液体に紫外光を照射する」という技術的事項を追加したものである。
本件特許発明8は,本件特許発明1ないし7に「液体の供給停止中に前記光源を点灯させ,液体の供給中に前記光源を消灯させる制御装置をさらに備える」という技術的事項を追加したものである。
本件特許発明8は,本件特許発明1に「前記制御装置は,液体の供給停止中に前記光源を間欠的に点灯させる」という技術的事項を追加したものである。

そうすると,本件特許発明3ないし5及び7ないし9と甲1発明との間には,上記アにおける相違点1-1及び1-3が存在するから,他の相違点について検討するまでもなく,甲1発明,すなわち甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

(3)小括
したがって,本件特許の請求項1及び3ないし9についてなされた特許は,上記申立理由1の理由では取り消すことはできない。

2 申立理由2(特許法36条4項1号)について
(1)実施可能要件の判断基準
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は「殺菌装置」なる物の発明であるところ,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから,物の発明については,明細書の発明の詳細な説明にその物を生産し,使用する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を生産し,使用することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。

(2)判断
本件特許の請求項1に係る発明は,上記「第2 本件特許発明」で記載したとおりである。

そして,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,本件特許発明1の発明特定事項である「導光体」の形状,材料及び吐出口との接続方法を【0021】ないし【0024】に記載し,同じく「光源」となる発光素子とその配置を【0025】及び【0026】に記載し,紫外光の入射方向と全反射あるいは透過するように構成するための光学機構及び原理を【0027】及び【0034】に記載する。

そして,これらの記載及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき,当業者が本件特許の請求項1に係る発明を過度の試行錯誤なく製造することができることは明らかである。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は,おおむね以下の点を主張している。
・本件特許の図1,3,4から,接続端は導光体の上部側の外周面を含み,開放端は下部側の外周面を含むものであると解釈でき,本件特許の請求項1に係る発明において,例えば,導光体の接続端である上部側外周面から紫外光を入射させるように光源が配置された場合,本件特許の請求項1に記載の「前記光源および前記導光体は,前記導光体の内周面と空気の界面にて紫外光が全反射される」という構成は実施不可能である。
・本件特許明細書において,導光体の外側への紫外光を防ぐように反射部材が設けられることが変形例として記載されていることから,一部の紫外光は導光体と空気との界面を透過すると考えられるので,本件特許の請求項1に記載の「前記光源および前記導光体は,前記導光体の内周面と空気の界面にて紫外光が全反射される」という構成は実施不可能である。

しかしながら,本件特許の請求項1に係る発明が,実施可能要件を満たすか否かは上記(1)の判断基準で判断されるべきものであり,上記(2)のとおりに「前記光源および前記導光体は,前記導光体の内周面と空気の界面にて紫外光が全反射される」という構成も実施可能であると判断されることから,特許異議申立人の主張は失当である。

(4)小括
したがって,本件特許の請求項1についてなされた特許は,上記申立理由2の理由では取り消すことはできない。

3 申立理由3(特許法36条6項1号)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなく当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否を検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比及び判断
ア 特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は,上記「第2 本件特許発明」で記載したとおりである。

イ 発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,下記の記載がある(下線は当審で付加。)。
「【0004】
飲料水などの液体を供給する機器では,ノズルなどの吐出口を通じて液体が供給される。一般に,吐出口は外部に露出しているため,菌や有機物が外部から侵入することにより吐出口にて雑菌が繁殖するおそれがある。吐出口から液体が継続的に供給されていれば,液体の流れがあるために雑菌が繁殖しにくい。一方,吐出口から液体の供給が停止される場合,吐出口に液体が残留し,残留した液体内で雑菌が繁殖しやすい状況となりうる。雑菌が繁殖した状態で液体の供給を再開してしまうと,雑菌を含む液体が供給されてしまう。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり,その例示的な目的のひとつは,吐出口を適切に殺菌する技術を提供することにある。」
「【0006】
上記課題を解決するために,本発明のある態様の殺菌装置は,液体を供給するための吐出口に設けられる殺菌装置であって,吐出口に接続される接続端と,接続端と反対側の開放端とを有し,吐出口と連通する流路を構成する管状の導光体と,導光体の内周面と外周面の間で紫外光が反射しながら導光体を透過するように導光体に紫外光を入射させる光源と,を備える。殺菌装置は,導光体の内周面に接触する液体に紫外光を照射して殺菌する。
【0007】
この態様によると,導光体の内周面における空気との界面での反射ないし全反射により導光体内部を紫外光が透過する。空気より屈折率の高い液体が内周面に接触すると,界面での全反射条件が変化し,液体が接触する箇所において導光体の内周面から紫外光が漏れ出す。このようにして,吐出口に接続される導光体の内周面から漏れ出す紫外光により,内周面に接触する液体を殺菌できる。液体が接触する箇所において選択的に紫外光が照射されるようにすることで,液体に作用する紫外光の照射量を高め,吐出口と連通する流路を効果的に殺菌することができる。
【0008】
光源は,導光体の内周面における空気との界面にて紫外光の少なくとも一部が全反射し,かつ,導光体の内周面に接触する液体との界面にて紫外光の少なくとも一部が透過するように導光体に紫外光を入射させてもよい。」
「【0022】
導光体20は,上面23と,下面24と,内周面25と,外周面26とを有する。上面23は,接続端21に設けられる円環状の端面であり,下面24は,開放端22に設けられる円環状の端面である。上面23には光源30が設けられ,下面24には反射部材34が設けられる。内周面25および外周面26は,平滑面となるように形成される。導光体20は,光源30が出力する紫外光に対して透明な材料で構成され,例えば,石英ガラス,フッ素系樹脂またはシリコーン系樹脂で構成される。光源30からの紫外光は,内周面25と外周面26の間で反射しながら導光体20を透過する。」
「【0034】
導光体20を透過する紫外光は,内周面25または外周面26に入射する入射角θが所定の全反射条件を満たしていれば,界面において全反射する。導光体20の材料が石英ガラスであり,紫外光の波長λが270nmであれば,導光体20の屈折率は約1.50である。内周面25または外周面26の界面が空気(屈折率は約1)となる場合,全反射の臨界角(第1角度ともいう)θaは約42°である。一方,内周面25または外周面26に水が残留して界面が水(屈折率は約1.37)となる場合,全反射の臨界角(第2角度ともいう)θbは約66°である。したがって,内周面25での入射角θがθa<θ<θb(例えば,42°<θ<66°)となる紫外光は,液体60が付着していない箇所では導光体20の外部に漏れ出さず,液体60が付着している箇所において導光体20の外部に漏れ出すこととなる。その結果,導光体20の内部に残留する液体60に選択的に紫外光を照射し,雑菌が繁殖しやすい液体60を狙った殺菌処理を実現できる。
【0035】
本実施の形態によれば,導光体20の内周面25に液体が接触して全反射条件が変わることを利用して導光体20の内部に残留する液体に選択的に紫外光を照射できる。その結果,導光体20の内周面25の全体から紫外光が出力される場合と比べて,内周面25の一部に付着する液体に集中的に紫外光を照射できる。これにより,発光強度がそれほど高くない発光素子32を用いる場合であっても導光体20の内周面25を効果的に殺菌することができる。また,液体の供給停止中に光源30を点灯させ,液体の供給中に光源30を消灯することで,光源30を点灯させるための電力を残留する液体への殺菌に無駄なく用いることができる。また,液体の供給中に光源30を消灯させることにより,供給される液体を通じて紫外光が外部に漏れるのを防ぐことができる。」

ウ 判断
(ア)本件特許発明1及び2の課題
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載,特に【0004】及び【0005】の記載から,本件特許発明1及び2の課題は「液体を吐出するための吐出口を適切に殺菌する技術を提供する」ことと言える。

(イ)請求項1について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載,特に【0006】ないし【0008】から,本件特許発明1は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に少なくとも形式的には記載されたものと言え,本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0006】ないし【0008】及び【0034】ないし【0035】の記載から,当業者は,液体を供給するための吐出口に管状の導光体を接続し,前記導光体の内周面と外周面の間で紫外光が反射しながら前記導光体を透過するように前記導光体に紫外光を入射させ,前記導光体の内周面と液体の界面にて紫外光が全反射されずに透過するように構成することで,前記導光体の内周面に接触する液体に紫外光を照射して殺菌を行う装置により,吐出口に接続された導光体の内部に残留する液体が,導光体を透過する紫外線に照射されて適切に殺菌されるものと理解する。
そして,本件特許の請求項1の記載は,上記アのとおりであるから,当業者は本件特許発明1には,上記発明の課題を解決できると認識できる技術手段が特定されているといえる。

したがって,本件特許の請求項1の記載は,サポート要件を充足する。

(ウ)請求項2について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載,特に【0006】ないし【0008】及び【0022】から,本件特許の請求項2に係る発明は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に少なくとも形式的には記載されたものと言え,本件特許の請求項1に従属する請求項2の記載は,本件特許の請求項2に係る発明が請求項1に係る発明の特定事項を全て有するから,本件特許の請求項2に係る発明も請求項1に係る発明と同様に課題を解決できる手段が特定されることが明らかである。

したがって,本件特許の請求項2の記載は,サポート要件を充足する。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は,おおむね以下の点を主張している。
・本件特許の請求項1には,「前記導光体の接続端および開放端の少なくとも一方から紫外光を入射させるよう配置され」と記載されており,本件特許の図1,3,4から,接続端は導光体の上部側の外周面を含み,開放端は下部側の外周面を含むものと解釈できる。ここで,光源の配置に関する実施形態として,例えば,光源としての発光素子が導光体の上部側の外周面に配置された実施形態は,本件特許明細書の記載および図には示されておらず,本件特許の請求項1の「前記導光体の接続端および開放端の少なくとも一方から紫外光を入射させるよう配置され」なる記載は,発明の詳細な説明に記載された以外の態様も含むものである。
・本件特許の請求項2には,「前記導光体の内周面および外周面の双方が平滑面であること」が記載されているが,導光体の内周面,外周面は曲面であるので数mmオーダーでは高低があり,また,数百nmオーダーで内周面,外周面を観察すれば,それらは十分に大きな凹凸を有していると考えるべきであるから,「平滑面」ではなく,本件特許明細書には,「平滑面」である具体的態様は記載されていない。

上記主張について検討するに,本件特許の請求項1及び2の記載がサポート要件を満たすか否かは上記(1)の判断基準で判断されるべきものであって,上記(2)ウのとおりに,サポート要件を充足すると判断されることから,特許異議申立人の主張は失当である。

(4)小括
したがって,本件特許の請求項1及び2についてなされた特許は,上記申立理由3の理由では取り消すことはできない。

第5 むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-15 
出願番号 特願2016-200384(P2016-200384)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A61L)
P 1 651・ 113- Y (A61L)
P 1 651・ 121- Y (A61L)
P 1 651・ 537- Y (A61L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柴田 啓二  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 神田 和輝
大畑 通隆
登録日 2020-05-28 
登録番号 特許第6710139号(P6710139)
権利者 日機装株式会社
発明の名称 殺菌装置  
代理人 村田 雄祐  
代理人 森下 賢樹  
代理人 三木 友由  

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