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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
管理番号 1372733
異議申立番号 異議2020-701014  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-24 
確定日 2021-03-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6716274号発明「パテ組成物及びこれを用いた補修塗装方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6716274号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6716274号の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成28年2月4日の出願であって、令和2年6月12日にその特許権の設定登録がされ、同年7月1日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1?11に係る特許に対し、同年12月24日に特許異議申立人石川琢也(以下、「申立人」という。)が、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
1 特許第6716274号の請求項1?11の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明11」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
主剤成分(I)と硬化剤成分(II)を含む組成物であって、主剤成分(I)が、重合性不飽和結合を有する不飽和ポリエステル樹脂(A)、重合性不飽和化合物(B)、及び脱水剤(C)を含み、硬化剤成分(II)が有機過酸化物を含むものであり、脱水剤(C)の配合量が、不飽和ポリエステル樹脂(A)及び重合性不飽和化合物(B)の合計質量100質量部を基準にして0.1?50質量部の範囲内にあり、主剤成分(I)中の含水量が、2000ppm以下であることを特徴とするパテ組成物。
【請求項2】
主剤の粘度が150?1800Pa・secである、請求項1に記載のパテ組成物。
【請求項3】
重合性不飽和化合物(B)が、その成分の一部としてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートおよび/またはジシクロペンテニル基含有重合性不飽和化合物を含む、請求項1又は2に記載のパテ組成物。
【請求項4】
脱水剤(C)が、無機系脱水剤である請求項1?3のいずれか1項に記載のパテ組成物。
【請求項5】
脱水剤(C)が、水吸着型脱水剤である請求項1?4のいずれか1項に記載のパテ組成物。
【請求項6】
多価金属化合物(D)をさらに含む請求項1?5のいずれか1項に記載のパテ組成物。
【請求項7】
平均粒子径が1?70μmのタルクをさらに含む請求項1?6のいずれか1項に記載のパテ組成物。
【請求項8】
平均粒子径が18?70μmの範囲内の大粒子径タルク(d1)と平均粒子径が1μm以上で且つ18μm未満の範囲内の小粒子径タルク(d2)を併用する請求項7に記載のパテ組成物。
【請求項9】
ノンスチレン型である請求項1?8のいずれか1項に記載のパテ組成物。
【請求項10】
請求項1?9のいずれか1項に記載の主剤成分(I)及び硬化剤成分(II)を混合して得られるパテ組成物。
【請求項11】
塗装体の損傷部に請求項10に記載のパテ組成物の混合物を充填し、乾燥させた後にパテ層を研磨し、その上に補修用塗料組成物を塗装する補修塗装方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、下記3の甲第1?4号証を提出し、次の1及び2について主張している(以下、甲号証は、単に「甲1」などと記載する。)。
1 特許法第29条第1項第3号について(同法第113条第2号)
本件発明1及び3?11は、甲1に記載された発明と同一であり、本件発明1、2,4?7及び9?11は、甲2に記載された発明と同一であり、本件発明1、4?7、10及び11は、甲3に記載された発明と同一であるから、本件発明1?11は、同法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、本件発明1?11に係る特許は、取り消されるべきものである。
2 同法第29条第2項について(同法第113条第2号)
本件発明1?11は、甲1?甲3に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、本件発明1?11に係る特許は、取り消されるべきものである。
3 証拠方法
甲1:特開2007-224211号公報
甲2:特開2002-121476号公報
甲3:特開2007-77176号公報
甲4:松村産業株式会社インターネットホームページ、「製品情報」の項(申立人が印刷したもの)

第4 甲1?3の記載
1 甲1
甲1には、「ノンスチレン型下地補修用パテと同下地補修用パテを用いた自動車ボディー等の補修方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(1)「【請求項1】
自動車ボディー等の塗装損傷個所を補修するための単官能及び又は多官能(メタ)アクリレートモノマーを反応性希釈剤とする不飽和ポリエステル樹脂を主体とする主剤と、有機過酸化物を主成分とする硬化剤とを含有するノンスチレン型下地補修用パテであって、
前記単官能及び又は多官能(メタ)アクリレートモノマーからなる反応性希釈剤が、環式有機化合物である不飽和ポリエステル樹脂からなることを特徴とするノンスチレン型下地補修用パテ。
(中略)
【請求項5】
促進剤、安定剤、湿潤分散剤、充填剤および着色顔料との混合物を、前記主剤に添加したペースト状からなることを特徴とする請求項1?4のいずれか記載のノンスチレン型下地補修用パテ。」
(2)「【0041】
促進剤としては、ナフテン酸又はオクチル酸の金属塩(コバルト、ジルコニウム、カルシウム、銅、亜鉛、マンガンなどの金属塩)及びジメチルアニリンやジエチルアニリンなどの第三級アミンを単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0042】
重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メトキシフェノール、P-tブチルカテコール、ピロガロールなどのキノン類、メチルエチルケトンオキシムなどのオキシム類が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0043】
その他、本発明の効果を損なわない範囲で、湿潤分散剤、充填剤、着色顔料を配合することができる。
【0044】
湿潤分散剤には、高分子量ポリカルボン酸の長鎖アミン塩又はポリカルボン酸系高分子活性剤などが使用できる。
【0045】
充填剤としては特に限定されないが、タルク、カオリン、クレー、マイカ、アルミナ、無水硅酸、含水硅酸、炭酸カルシウム、胡粉、ドロマイト、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、リトポン、パーライト、ガラス質の中空バルーン、有機質の中空バルーン、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維などを使用できる。
【0046】
着色顔料としては、酸化チタン、鉄黒、弁柄、カーボンブラックやシアニンブルー等の有機顔料、アルミペースト等を使用できる。」

2 甲2
甲2には、「補修塗料及び補修塗装方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(1)「【請求項1】 自動車ボディー等の塗装損傷箇所をスプレー塗装により補修するための主剤と、イソシアネート化合物を含有するうすめ液と、有機過酸化物を主成分とする硬化剤とを含む補修塗料であって、
前記主剤が、(a)ビニルエステル樹脂、若しくはエポキシ化合物とアクリル系モノマーを一成分として含む不飽和ポリエステル樹脂の何れか又はこれらの混合物と、反応性希釈剤との混合組成物26?55重量部に、
(b)充填剤35?65重量部を混合していることを特徴とする補修塗料。
【請求項2】 湿潤分散剤、チクソ性付与剤および低吸油量の充填剤との混合物を前記主剤に添加されている請求項1に記載の補修塗料。
【請求項3】 前記チクソ性付与剤が、微粉末の無水珪酸、含水珪酸、有機化合物系チクソ性付与剤の何れか又はこれらのうち2種以上の混合物である請求項2に記載の補修塗料。」
(2)「【0047】主剤に添加されるチクソ性付与剤は、塗装作業開始直前に主剤、うすめ液、硬化剤を混合するために攪拌されることにより、補修塗料は更に低粘度となりスプレーが可能となる。逆に塗布後は直ちに増粘することによりタレを生じさせない効果を有する。チクソ性付与剤としては、アエロジル(日本アエロジル(株)製)等の商標で市販される無水珪酸、ニプシール(日本シリカ(株)製)、カープレックス(シオノギ製薬(株)製)等の商標で市販される含水珪酸、ディスパロン(楠本化成(株)製)等の商標で市販される脂肪酸系およびポリカルボン酸系チクソ性付与剤等の一般に市販される有機チクソ性付与剤が効果的に使用できる。」
(3)「【0054】硬化促進剤には、6%ナフテン酸コバルト、8%オクチル酸コバルトおよびジメチルアニリン等のアニリン化合物やトルイジン化合物を使用した。安定剤としてはRS404(大日本インキ化学工業(株)製)等の商標で市販されるキノン化合物の希釈品を使用し、充填剤としては一般的に使用されている体質顔料のタルク粉、炭酸カルシウム、着色顔料としては酸化チタン、酸化鉄等を用いた。また体質顔料は吸油量25?40ml/100gのタルク粉末、給油量が15?25mg/100gの炭酸カルシウムを選択した。」

3 甲3
甲3には、「補修用材料及びこれを用いた車両塗装面の補修方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(1)「【請求項1】
防錆鋼板用不飽和ポリエステル樹脂、低収縮剤、及び充填剤を含有するパテ用樹脂材料。
【請求項2】
前記防錆鋼板用不飽和ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコール成分とを用いて製造され、
当該多価アルコール成分として、ジシクロペンタジエン及びその誘導体の少なくとも何れか、及び/又はビスフェノールA及びその誘導体の少なくとも何れかが使用されている、請求項1に記載のパテ用樹脂材料。
【請求項3】
前記低収縮剤としてポリスチレン系低収縮剤、及び/又はゴム系低収縮剤が使用されており、その配合量は、当該パテ用樹脂材料100重量部中、0.5?15重量部(有効成分)である、請求項1又は2に記載のパテ用樹脂材料。
【請求項4】
前記充填剤は体質顔料及び/又は着色顔料から選択される、請求項1?3の何れか一項に記載のパテ用樹脂材料。
【請求項5】
パテ用主剤(a)と当該パテ用主剤(a)を硬化させる為の(b)硬化剤とからなる補修用材料であって、
当該パテ用主剤(a)として、請求項1?4の何れか一項に記載のパテ用樹脂材料が使用されている、補修用材料。」
(2)「【0025】
上記防錆鋼板用不飽和ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコール成分とを用いて製造されており、特に当該多価アルコール成分として、ジシクロペンタジエン及びその誘導体の少なくとも何れか、及び/又はビスフェノールA及びその誘導体の少なくとも何れかを使用して製造された不飽和ポリエステル樹脂を使用することができる。より具体的には、かかる防錆鋼板用不飽和ポリエステル樹脂は、以下に詳述する多塩基酸成分、多価アルコール成分及び空乾性成分で不飽和ポリエステル樹脂固形分を作成し、反応性希釈剤成分で希釈して製造することができる。その際、多塩基酸成分、多価アルコール成分及び空乾性成分の配合合計量と反応性希釈剤成分の配合量との比(重量基準)は、55?70:30?45となる事が望ましい。」
(3)「【0031】
そして反応性希釈剤成分としては、ビニル重合性単量体を使用することができ、例えば、スチレン、α‐メチルスチレン、ジビニルトルエン、ジアリルフタレート、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル等の一種又は二種以上を使用することができる。」
(4)「【0045】
体質顔料としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、カオリン、ドロマイト、クレー、マイカ、セライト、シリカ、胡粉、アルミナ、水酸化アルミ、中空バルーン、ガラス粉などを使用することができ、中でも特にタルク、炭酸カルシウムが望ましい。例えばタルクは松村産業(株)から商品名:クラウンタルクSCで提供されており、また炭酸カルシウムは白石カルシウム(株)から入手することができる。」

第5 申立理由についての当審の判断
1 甲1?3に記載された発明
(1)甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の請求項1を引用する請求項5には、
「自動車ボディー等の塗装損傷個所を補修するための単官能及び又は多官能(メタ)アクリレートモノマーを反応性希釈剤とする不飽和ポリエステル樹脂を主体とする主剤と、
有機過酸化物を主成分とする硬化剤とを含有するノンスチレン型下地補修用パテであって、
前記単官能及び又は多官能(メタ)アクリレートモノマーからなる反応性希釈剤が、環式有機化合物である不飽和ポリエステル樹脂からなり、
促進剤、安定剤、湿潤分散剤、充填剤および着色顔料との混合物を、前記主剤に添加した、
ペースト状からなるノンスチレン型下地補修用パテ。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(2)甲2に記載された発明(甲2発明)
甲2の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3には、
「自動車ボディー等の塗装損傷箇所をスプレー塗装により補修するための主剤と、イソシアネート化合物を含有するうすめ液と、有機過酸化物を主成分とする硬化剤とを含む補修塗料であって、
前記主剤が、(a)ビニルエステル樹脂、若しくはエポキシ化合物とアクリル系モノマーを一成分として含む不飽和ポリエステル樹脂の何れか又はこれらの混合物と、反応性希釈剤との混合組成物26?55重量部に、
(b)充填剤35?65重量部を混合しており、
湿潤分散剤、チクソ性付与剤および低吸油量の充填剤との混合物を前記主剤に添加され、
前記チクソ性付与剤が、微粉末の無水珪酸、含水珪酸、有機化合物系チクソ性付与剤の何れか又はこれらのうち2種以上の混合物である補修塗料。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(3)甲3に記載された発明(甲3発明)
甲3の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4を引用する請求項5には、
「パテ用主剤(a)と当該パテ用主剤(a)を硬化させる為の(b)硬化剤とからなり、
当該パテ用主剤(a)として、
防錆鋼板用不飽和ポリエステル樹脂、低収縮剤、及び充填剤を含有するパテ用樹脂材料であり、
前記防錆鋼板用不飽和ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコール成分とを用いて製造され、
当該多価アルコール成分として、ジシクロペンタジエン及びその誘導体の少なくとも何れか、及び/又はビスフェノールA及びその誘導体の少なくとも何れかが使用され、
前記充填剤は体質顔料及び/又は着色顔料から選択されるパテ用樹脂材料、が使用されている補修用材料。」(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

2 本件発明1?11と甲1?3発明との対比・判断
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「不飽和ポリエステル樹脂」は、重合性不飽和結合を有するものであることは明らかであるから、本件発明1の「重合性不飽和結合を有する不飽和ポリエステル樹脂(A)」に相当する。
また、甲1発明の「反応性希釈剤」は「単官能及び又は多官能(メタ)アクリレートモノマー」であるから、本件発明1の「重合性不飽和化合物(B)」に相当する。
そして、甲1発明の「主剤」は、本件発明1の「主剤成分(I)」に相当する。
さらに、甲1発明の「有機過酸化物硬化剤」は、本件発明1の「有機過酸化物硬化剤成分(II)」に相当し、甲1発明の「硬化剤」は「有機過酸化物硬化剤」を主成分とするものであるから、本件発明1の「有機過酸化物を含む」「硬化剤成分(II)」に相当する。
また、甲1発明の「ノンスチレン型下地補修用パテ」は「主剤」と「硬化剤」とを含有するから、本件発明1の「主剤成分(I)と硬化剤成分(II)を含む組成物であ」る「パテ組成物」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「主剤成分(I)と硬化剤成分(II)を含む組成物であって、主剤成分(I)が、重合性不飽和結合を有する不飽和ポリエステル樹脂(A)及び重合性不飽和化合物(B)を含み、硬化剤成分(II)が有機過酸化物を含むパテ組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1-1)
本件発明1は、「主剤成分(I)」に「脱水剤(C)」を含み、「脱水剤(C)の配合量が、不飽和ポリエステル樹脂(A)及び重合性不飽和化合物(B)の合計質量100質量部を基準にして0.1?50質量部の範囲内にあ」る点が特定されているのに対し、甲1発明は、「主剤」に「促進剤、安定剤、湿潤分散剤、充填剤および着色顔料との混合物」を含む点。
(相違点1-2)
本件発明1は、「主剤成分(I)中の含水量が、2000ppm以下である」点が特定されているのに対し、甲1発明では、「主剤」の含水量については規定されていない点。

ここで、上記相違点について検討する。
(相違点1-1について)
甲1には、主剤の水分量については記載されておらず、脱水剤を含ませることについても記載がない。
また、主剤に含まれる促進剤、安定剤、湿潤分散剤、充填剤及び着色顔料は、それ自体が脱水作用を有するものがあるとしても、いずれも、脱水作用を利用するものではなく、甲1発明の主剤が脱水剤を含むものであるということはできない。
また、仮に、甲1発明の主剤に脱水剤を含有させた場合、主剤の水分量が低下することにより、特性が所望のものから変化することがあり得るし、また、どの程度の量の脱水剤を含有させることができるかどうかについての技術常識もないことから、甲1発明において、脱水剤を含有させ、さらにその含有量を「不飽和ポリエステル樹脂(A)(不飽和ポリエステル樹脂)及び重合性不飽和化合物(B)(反応性希釈剤)の合計質量100質量部を基準にして0.1?50質量部の範囲内にあ」るようにすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
なお、甲1において充填剤として例示されたものの中に、本件明細書に「脱水剤」として例示されたものがあるとしても、甲1の【0045】には、充填剤として「タルク、カオリン、クレー、マイカ、アルミナ、無水硅酸、含水硅酸、炭酸カルシウム、胡粉、ドロマイト、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、リトポン、パーライト、ガラス質の中空バルーン、有機質の中空バルーン、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維」が例示されており、充填剤として、ガラス質の中空バルーン、ガラス繊維、カーボン繊維等の、脱水剤として機能しないものも含まれている。そして、これらの中から、本件明細書に「脱水剤」として例示されたものを選択する動機付けは見いだせない。仮に、それらの中から、本件明細書に「脱水剤」として例示されたものを選択できたとしても、あくまで「充填剤」として含有させることが開示されているのであって、それらに対して乾燥処理を行うことで「脱水剤」として機能させることが示唆されているとはいえない。
したがって、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項は当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

(相違点1-2について)
甲1発明は、積極的に水分を含有させるものではないものの、甲1発明の主剤に含まれる、不飽和ポリエステル樹脂、促進剤、安定剤、湿潤分散剤、充填剤及び着色顔料には、主剤に混合する前に空気中で吸湿して、内部に水分を含むと推認できる。例えば、「クラウンタルク」は甲4によると、0.1?0.2%の水分を含むものである。そうすると、甲1発明の主剤が水分を含まないものであるということはできず、その含水量は不明というほかない。また、甲1発明の主剤に含まれる成分について、それらの含水量の総和が2000ppm以下となる技術常識も存在しない。
そして、甲1には主剤の含水量についての記載はないことから、甲1発明の主剤の含水量を、2000ppm以下とする動機付けを見出すことはできない。

(本件発明1の効果について)
一方、本件明細書の【0047】には、「主剤成分(I)自体の含水量を調整し、且つ主剤成分(I)が脱水剤(C)を特定量含有することで、長期貯蔵後の主剤成分(I)を用いて形成されたパテ層の表面乾燥性、耐水性、耐水付着性の低下が抑制され、安定した品質のパテ組成物を得ることができる効果がある。」と記載され、本件発明1について、長期貯蔵後の主剤成分(I)を用いて形成されたパテ層の表面乾燥性、耐水性、耐水付着性の低下が抑制されることは、実施例においても確認されている。
そうすると、本件発明1は、上記相違点1-1及び1-2に係る発明特定事項を備えることで、甲1発明からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであるというべきである。

(まとめ)
以上のことから、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということもできない。

イ 本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「不飽和ポリエステル樹脂」は、重合性不飽和結合を有するものであることは明らかであるから、本件発明1の「重合性不飽和結合を有する不飽和ポリエステル樹脂(A)」に相当する。
また、甲2発明の「アクリル系モノマー」は、本件発明1の「重合性不飽和化合物(B)」に相当する。
そして、甲2発明の「主剤」は、本件発明1の「主剤成分(I)」に相当する。
さらに、甲2発明の「有機過酸化物」は、本件発明1の「有機過酸化物硬化剤成分(II)」に相当し、甲2発明の「硬化剤」は「有機過酸化物」を主成分とするものであるから、本件発明1の「有機過酸化物を含む」「硬化剤成分(II)」に相当する。
また、甲2発明の「補修塗料」は「主剤」と「硬化剤」とを含有するから、本件発明1の「主剤成分(I)と硬化剤成分(II)を含む組成物であ」る「パテ組成物」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、「主剤成分(I)と硬化剤成分(II)を含む組成物であって、主剤成分(I)が、重合性不飽和結合を有する不飽和ポリエステル樹脂(A)及び重合性不飽和化合物(B)を含み、硬化剤成分(II)が有機過酸化物を含むパテ組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点2-1)
本件発明1は、「主剤成分(I)」に「脱水剤(C)」を含み、「脱水剤(C)の配合量が、不飽和ポリエステル樹脂(A)及び重合性不飽和化合物(B)の合計質量100質量部を基準にして0.1?50質量部の範囲内にあ」る点が特定されているのに対し、甲2発明は、「主剤」に「反応性希釈剤」、「充填剤」、「湿潤分散剤」、「微粉末の無水珪酸、含水珪酸、有機化合物系チクソ性付与剤の何れか又はこれらのうち2種以上の混合物である」「チクソ性付与剤」及び「低吸油量の充填剤」を含む点。
(相違点2-2)
本件発明1は、「主剤成分(I)中の含水量が、2000ppm以下である」点が特定されているのに対し、甲2発明では、「主剤」の含水量については規定されていない点。

ここで、上記相違点について検討する。
(相違点2-1について)
甲2には、主剤の水分量については記載されておらず、脱水剤を含ませることについても記載がない。
また、主剤に含まれる「反応性希釈剤」、「充填剤」、「湿潤分散剤」、「微粉末の無水珪酸、含水珪酸、有機化合物系チクソ性付与剤の何れか又はこれらのうち2種以上の混合物である」「チクソ性付与剤」及び「低吸油量の充填剤」は、いずれも、それ自体が備える特性として脱水作用を利用するものではなく、甲2発明が脱水剤を含むものであるということはできない。
また、甲2発明の主剤に脱水剤を含有させた場合、主剤の水分量が低下することにより、その特性が所望のものから変化することがあり得るし、どの程度の量の脱水剤を含有させることができるかどうかについての技術常識もないことから、「不飽和ポリエステル樹脂(A)及び重合性不飽和化合物(B)の合計質量100質量部を基準にして0.1?50質量部の範囲内にあ」る点は、当業者が容易に想到し得るものではない。
なお、「微粉末の無水珪酸、含水珪酸、有機化合物系チクソ性付与剤の何れか又はこれらのうち2種以上の混合物である」「チクソ性付与剤」のなかに、本件明細書に「脱水剤」として例示されたものが含まれるとしても、有機化合物系チクソ性付与剤など、脱水剤として機能しないものが含まれている。そして、これらの中から、本件明細書に「脱水剤」として例示されたものを選択する動機付けは見いだせない。仮に、それらの中から、本件明細書に「脱水剤」として例示されたものを選択できたとしても、あくまで「チクソ性付与剤」として含有させることが開示されているのであって、それらに対して乾燥処理を行うことで「脱水剤」として機能させることが示唆されているとはいえない。
したがって、上記相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項は当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

(相違点2-2について)
甲2発明は、積極的に水分を含有させるものではないものの、甲2発明の主剤に含まれる、「(a)ビニルエステル樹脂、若しくはエポキシ化合物とアクリル系モノマーを一成分として含む不飽和ポリエステル樹脂の何れか又はこれらの混合物」、「反応性希釈剤」、「充填剤」、「湿潤分散剤、チクソ性付与剤および低吸油量の充填剤との混合物」には、主剤に混合する前に空気中で吸湿して、内部に水分を含むと推認できる。例えば、「クラウンタルク」は甲4によると、0.1?0.2%の水分を含むものである。そうすると、甲2発明の主剤が水分を含まないものであるということはできず、その含水量は不明というほかない。また、主剤に含まれる成分について、それらの含水量の総和が2000ppm以下となる技術常識も存在しない。
そして、甲2には主剤の含水量についての記載はないことから、甲2発明の主剤の含水量を、2000ppm以下とする動機付けを見出すことはできない。

(本件発明1の効果について)
一方、上述したように、本件発明1は、長期貯蔵後の主剤成分(I)を用いて形成されたパテ層の表面乾燥性、耐水性、耐水付着性の低下が抑制されるものであり、本件発明1は、上記相違点2-1及び2-2に係る発明特定事項を備えることで、甲2発明からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであるということができる。

(まとめ)
以上のことから、本件発明1は、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということもできない。

ウ 本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「防錆鋼板用不飽和ポリエステル樹脂」は、重合性不飽和結合を有するものであることは明らかであるから、本件発明1の「重合性不飽和結合を有する不飽和ポリエステル樹脂(A)」に相当する。
また、甲3発明の「反応性希釈剤」は「単官能及び又は多官能(メタ)アクリレートモノマー」であるから、本件発明1の「重合性不飽和化合物(B)」に相当する。
そして、甲3発明の「パテ用主剤(a)」は、本件発明1の「主剤成分(I)」に相当する。
さらに、甲3発明の「(b)硬化剤」は、本件発明1の「硬化剤成分(II)」に相当する。
また、甲3発明の「補修用材料」は「パテ用主剤(a)」と「(b)硬化剤」とを含有するから、本件発明1の「主剤成分(I)と硬化剤成分(II)を含む組成物であ」る「パテ組成物」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲3発明とは、「主剤成分(I)と硬化剤成分(II)を含む組成物であって、主剤成分(I)が、重合性不飽和結合を有する不飽和ポリエステル樹脂(A)を含む、パテ組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点3-1)
本件発明1は、「主剤成分(I)」に「脱水剤(C)」を含み、「脱水剤(C)の配合量が、不飽和ポリエステル樹脂(A)及び重合性不飽和化合物(B)の合計質量100質量部を基準にして0.1?50質量部の範囲内にあ」る点が特定されているのに対し、甲3発明は、「パテ用主剤(a)」に「低収縮剤」及び「体質顔料及び/又は着色顔料から選択される」「充填剤」を含む点。
(相違点3-2)
本件発明1は、「主剤成分(I)中の含水量が、2000ppm以下である」点が特定されているのに対し、甲3発明では、「パテ用主剤(a)」の含水量については規定されていない点。
(相違点3-3)
本件発明1は、「主剤成分(I)」に「重合性不飽和化合物(B)」を含むことが特定されているのに対し、甲3発明は、そのようなことは規定されていない点。
(相違点3-4)
「硬化剤成分(II)」について、本件発明1は「有機過酸化物を含む」ことが特定されているのに対し、甲3発明の「(b)硬化剤」は、そのようなことは規定されていない点。

ここで、事案に鑑み、上記相違点3-1及び3-2について検討する。
(相違点3-1について)
甲3には、パテ用主剤(a)の水分量については記載されておらず、脱水剤を含ませることについても記載がない。
また、パテ用主剤(a)に含まれる低収縮剤及び体質顔料及び/又は着色顔料から選択される充填剤は、いずれも、それ自体が備える特性として脱水作用を利用するものではなく、甲3発明が脱水剤を含むものであるということはできない。
また、甲3発明の主剤に脱水剤を含有させた場合、主剤の水分量が低下することにより、その特性が所望のものから変化することがあり得るし、どの程度の量の脱水剤を含有させることができるかどうかについての技術常識もないことから、「不飽和ポリエステル樹脂(A)及び重合性不飽和化合物(B)の合計質量100質量部を基準にして0.1?50質量部の範囲内にあ」る点は、当業者が容易に想到し得るものではない。
なお、甲3において、低収縮剤及び体質顔料及び/又は着色顔料から選択される充填剤として例示されたもののなかに、本件明細書に「脱水剤」として例示されたものがあるとしても、これらの中には、脱水剤として機能しないものも含まれることは明らかであり、しかも、本件明細書に「脱水剤」として例示されたものを選択する動機付けもない。仮に、それらの中から、本件明細書に「脱水剤」として例示されたものを選択できたとしても、あくまで「充填剤」として含有させることが開示されているのであって、それらに対して乾燥処理を行うことで「脱水剤」として機能させることが示唆されているとはいえない。
したがって、上記相違点3-1に係る本件発明1の発明特定事項を当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。

(相違点3-2について)
甲3発明は、積極的に水分を含有させるものではないものの、甲3発明のパテ用主剤(a)に含まれる、不飽和ポリエステル樹脂、低収縮剤及び体質顔料及び/又は着色顔料から選択される充填剤には、パテ用主剤(a)に混合する前に空気中で吸湿して、内部に水分を含むと推認できる。例えば、「クラウンタルク」は甲4によると、0.1?0.2%の水分を含むものである。そうすると、甲3発明の主剤が水分を含まないものであるということはできず、その含水量は不明というほかない。また、主剤に含まれる成分について、それらの含水量の総和が2000ppm以下となる技術常識も存在しない。
そして、甲3には主剤の含水量についての記載はないことから、甲3発明の主剤の含水量を、2000ppm以下とする動機付けを見出すことはできない。

(本件発明1の効果について)
一方、上述したように、本件発明1は、長期貯蔵後の主剤成分(I)を用いて形成されたパテ層の表面乾燥性、耐水性、耐水付着性の低下が抑制されるという、上記相違点3-1及び3-2に係る発明特定事項を備えることで、甲3発明からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであるということができる。

(まとめ)
以上のことから、相違点3-3及び3-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明であるとはいえないし、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということもできない。

(2)本件発明2?11について
本件発明2?11は、本件発明1を直接的又は間接的に引用してさらに限定するものであり、本件発明1と同様な理由から、甲1発明?甲3発明であるとはいえないし、甲1発明?甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということもできない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-03-17 
出願番号 特願2016-20010(P2016-20010)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C09D)
P 1 651・ 121- Y (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 川端 修
門前 浩一
登録日 2020-06-12 
登録番号 特許第6716274号(P6716274)
権利者 関西ペイント株式会社
発明の名称 パテ組成物及びこれを用いた補修塗装方法  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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