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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1373074
審判番号 不服2019-15663  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-22 
確定日 2021-04-14 
事件の表示 特願2017-178553「ユーザの身元を認識し得る多機能識別認識システム」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月22日出願公開,特開2019- 46424〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成29年9月19日(パリ条約による優先権主張2017年9月1日 アメリカ合衆国)の出願であって,
平成29年9月19日付けで審査請求がなされ,平成30年11月22日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して平成31年2月26日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,令和1年7月10日付けで審査官により拒絶査定がなされ(謄本送達令和1年7月23日),これに対して令和1年11月22日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,令和1年12月11日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされたものである。

第2.令和1年11月22日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]

令和1年11月22日付け手続補正を却下する。

[理由]

1.補正の内容
令和1年11月22日付けの手続補正(以下,「本件手続補正」という)により,平成31年2月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,
「 【請求項1】
データベースを格納するサーバと,
インターネット接続を通じて前記サーバと通信し,複数の身元認識デバイスを有する,多機能識別リーダとを含み,
前記データベースは,複数のユーザIDを含み,各ユーザIDについて,前記データベースは,前記ユーザIDに対応するユーザを特異に識別するための対応する複数の識別フィールドを格納し,
ユーザが前記サーバに登録するときに又は前記サーバ内に既に格納されている識別データを確認するときに,複数の身元認識デバイスが前記ユーザの識別データを読み取り,前記インターネット接続を通じて前記サーバに前記識別データを送信し,各種類の識別データが前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに格納され,或いは前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに対して確認され,
前記多機能識別リーダは,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,及び二次元バーコードスキャナを含む,身元識別デバイスを有する,
多機能識別認識システム。
【請求項2】
各ユーザは,前記ユーザがどの種類の識別データを前記サーバに登録するかを選択する,請求項1に記載の多機能識別認識システム。
【請求項3】
各ユーザは,前記ユーザがどの種類の識別データを所与のサービスと関連付けるかを選択する,請求項1に記載の多機能識別認識システム。
【請求項4】
各ユーザは,異なる種類の識別データがどのように入力されるべきかについてのシーケンスを選択し,このシーケンスを所与のサービスと関連付ける,請求項1に記載の多機能識別認識システム。
【請求項5】
前記ユーザが所与のサービスにアクセスするのが許可される前に,前記ユーザの身元が前記複数の身元認識デバイスで確認されなければならない,請求項1に記載の多機能識別認識システム。
【請求項6】
前記多機能識別リーダは,虹彩スキャナ,指紋スキャナ,又は前記ユーザが個人識別番号若しくはパスワードを入力するのを可能にするキーパッドで構成される群から更に選択される,前記身元識別デバイスを有する,請求項1に記載の多機能識別認識システム。
【請求項7】
多機能識別認識システムを用いてユーザの身元を認証する方法であって,
前記ユーザがサーバに格納されたデータベースに登録するステップであって,前記データベースは,複数のユーザIDを含み,各ユーザIDについて,前記データベースは,前記ユーザIDに対応するユーザを特異に識別するための対応する複数の識別フィールドを格納するステップと,
インターネット接続を通じて前記サーバと通信し且つ複数の身元認識デバイスを有する多機能識別リーダを用いて,各ユーザについての識別データを登録するステップであって,前記ユーザが前記サーバに登録するときに,複数の身元認識デバイスが前記ユーザの識別データを読み取り,前記インターネット接続を通じて前記サーバに前記識別データを送信し,各種類の識別データが前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに格納されるステップと,
前記多機能識別リーダで前記ユーザの識別データを読み取り,該読み取った識別データを前記サーバに送信し,且つ前記読み取った識別データを前記データベースに格納された前記識別データと比較することによって,前記ユーザの身元を確認するステップとを含み,
前記多機能識別リーダは,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,及び二次元バーコードスキャナを含む,身元識別デバイスを有する,
方法。
【請求項8】
前記ユーザがどの種類の識別データを前記サーバに登録するかを各ユーザが選択するステップを更に含む,請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ユーザがどの種類の識別データを所与のサービスと関連付けるかを各ユーザが選択するステップを更に含む,請求項7に記載の方法。
【請求項10】
各ユーザが,異なる種類の識別データがどのように入力されるべきかについてのシーケンスを選択し,このシーケンスを所与のサービスと関連付けるステップを更に含む,請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記ユーザが所与のサービスにアクセスするのが許可される前に,前記ユーザの身元を前記複数の身元認識デバイスで確認するステップを更に含む,請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記多機能識別リーダは,虹彩スキャナ,指紋スキャナ,又は前記ユーザが個人識別番号若しくはパスワードを入力するのを可能にするキーパッドで構成される群から更に選択される,前記身元識別デバイスを有する,請求項7に記載の方法。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正前の請求項」という)は,
「 【請求項1】
データベースを格納するサーバと,
インターネット接続を通じて前記サーバと通信し,複数の身元認識デバイスを有する,多機能識別リーダとを含み,
前記データベースは,複数のユーザIDを含み,各ユーザIDについて,前記データベースは,前記ユーザIDに対応するユーザを特異に識別するための対応する複数の識別フィールドを格納し,
ユーザが前記サーバに登録するときに又は前記サーバ内に既に格納されている識別データを確認するときに,複数の身元認識デバイスが前記ユーザの識別データを読み取り,前記インターネット接続を通じて前記サーバに前記識別データを送信し,各種類の識別データが前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに格納され,或いは前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに対して確認され,
前記多機能識別リーダは,虹彩スキャナ,指紋スキャナ,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,二次元バーコードスキャナ,及び前記ユーザが個人識別番号若しくはパスワードを入力するのを可能にするキーパッドを含む,身元識別デバイスを有する,
多機能識別認識システム。
【請求項2】
各ユーザは,前記ユーザがどの種類の識別データを前記サーバに登録するかを選択する,請求項1に記載の多機能識別認識システム。
【請求項3】
各ユーザは,前記ユーザがどの種類の識別データを所与のサービスと関連付けるかを選択する,請求項1に記載の多機能識別認識システム。
【請求項4】
各ユーザは,異なる種類の識別データがどのように入力されるべきかについてのシーケンスを選択し,このシーケンスを所与のサービスと関連付ける,請求項1に記載の多機能識別認識システム。
【請求項5】
前記ユーザが所与のサービスにアクセスするのが許可される前に,前記ユーザの身元が前記複数の身元認識デバイスで確認されなければならない,請求項1に記載の多機能識別認識システム。
【請求項6】
多機能識別認識システムを用いてユーザの身元を認証する方法であって,
前記ユーザがサーバに格納されたデータベースに登録するステップであって,前記データベースは,複数のユーザIDを含み,各ユーザIDについて,前記データベースは,前記ユーザIDに対応するユーザを特異に識別するための対応する複数の識別フィールドを格納するステップと,
インターネット接続を通じて前記サーバと通信し且つ複数の身元認識デバイスを有する多機能識別リーダを用いて,各ユーザについての識別データを登録するステップであって,前記ユーザが前記サーバに登録するときに,複数の身元認識デバイスが前記ユーザの識別データを読み取り,前記インターネット接続を通じて前記サーバに前記識別データを送信し,各種類の識別データが前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに格納されるステップと,
前記多機能識別リーダで前記ユーザの識別データを読み取り,該読み取った識別データを前記サーバに送信し,且つ前記読み取った識別データを前記データベースに格納された前記識別データと比較することによって,前記ユーザの身元を確認するステップとを含み,
前記多機能識別リーダは,虹彩スキャナ,指紋スキャナ,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,二次元バーコードスキャナ,及び前記ユーザが個人識別番号若しくはパスワードを入力するのを可能にするキーパッドを含む,身元識別デバイスを有する,
方法。
【請求項7】
前記ユーザがどの種類の識別データを前記サーバに登録するかを各ユーザが選択するステップを更に含む,請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ユーザがどの種類の識別データを所与のサービスと関連付けるかを各ユーザが選択するステップを更に含む,請求項6に記載の方法。
【請求項9】
各ユーザが,異なる種類の識別データがどのように入力されるべきかについてのシーケンスを選択し,このシーケンスを所与のサービスと関連付けるステップを更に含む,請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ユーザが所与のサービスにアクセスするのが許可される前に,前記ユーザの身元を前記複数の身元認識デバイスで確認するステップを更に含む,請求項6に記載の方法。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正後の請求項」という)に補正された。

2.補正の適否
(1)新規事項及び目的要件
本件手続補正は,補正前の請求項1に記載の,
「多機能識別リーダは,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,及び二次元バーコードスキャナを含む,身元識別デバイスを有する」を,
「多機能識別リーダは,虹彩スキャナ,指紋スキャナ,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,二次元バーコードスキャナ,及び前記ユーザが個人識別番号若しくはパスワードを入力するのを可能にするキーパッドを含む,身元識別デバイスを有する」と補正して,補正後の請求項1とし,
補正前の請求項7に記載の,
「機能識別リーダは,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,及び二次元バーコードスキャナを含む,身元識別デバイスを有する」を,
「多機能識別リーダは,虹彩スキャナ,指紋スキャナ,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,二次元バーコードスキャナ,及び前記ユーザが個人識別番号若しくはパスワードを入力するのを可能にするキーパッドを含む,身元識別デバイスを有する」と補正して,補正後の請求項6とし,
補正前の請求項6と,補正前の請求項12を削除したものであって,
補正前の請求項1,及び,補正前の請求項7に係る補正は,本願の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載の内容の範囲内でなされたものであり,補正前の請求項1,及び,補正前の請求項7に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから,
本件手続補正は,特許法17条の2第3項の規定を満たすものであり,かつ,特許法17条の2第5項の規定を満たすものである。

(2)独立特許要件
上記(1)に検討したとおり,本件手続補正は,願書に最初に添付された明細書及び図面に記載の範囲内でなされたものであり,かつ,目的要件を満たすものであるので,
本件手続補正が,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定を満たすものであるか否か,即ち,補正後の請求項に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,以下に検討する。

(3)本件補正発明,引用文献に記載の事項及び発明
ア.本件補正発明
令和1年11月22日付の手続補正により補正された請求項1に係る発明(以下,これを「本件補正発明」という)は,上記「1.補正の内容」において,補正後の請求項1として引用された,次のとおりのものである。

「データベースを格納するサーバと,
インターネット接続を通じて前記サーバと通信し,複数の身元認識デバイスを有する,多機能識別リーダとを含み,
前記データベースは,複数のユーザIDを含み,各ユーザIDについて,前記データベースは,前記ユーザIDに対応するユーザを特異に識別するための対応する複数の識別フィールドを格納し,
ユーザが前記サーバに登録するときに又は前記サーバ内に既に格納されている識別データを確認するときに,複数の身元認識デバイスが前記ユーザの識別データを読み取り,前記インターネット接続を通じて前記サーバに前記識別データを送信し,各種類の識別データが前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに格納され,或いは前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに対して確認され,
前記多機能識別リーダは,虹彩スキャナ,指紋スキャナ,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,二次元バーコードスキャナ,及び前記ユーザが個人識別番号若しくはパスワードを入力するのを可能にするキーパッドを含む,身元識別デバイスを有する,
多機能識別認識システム。」

イ.引用文献1に記載の事項
原審における平成30年11月22日付けの拒絶理由(以下,これを「原審拒絶理由」という)に引用された,本願の第1国出願前に既に公知である,特開2003-050783号(2003年2月21日公開,以下,これを「引用文献1」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

A.「【0012】第2の問題は,個人によりまたは生体情報の種類により,認証強度に差があるという問題である。つまり,認証強度の面から見て,顔立ちに特徴が強い人/弱い人,アイリスに特徴が強い人/弱い人,音声に特徴が強い人/弱い人,指紋に特徴が強い人/弱い人など,個人によりまたは生体情報の種類により,認証強度に差がある。例えば,顔画像入力を認証に利用するアプリケーションにおいて,利用者によって,認証強度が異なり,利用者によって,不正アクセスに対するセキュリティレベルが異なってしまうという問題が起こる。」

B.「【0029】
【発明の実施の形態】(実施形態1)本発明の複合認証システムは,複合生体情報を利用して利用者認証を行なう。ここで,複合生体情報とは,指紋情報,声紋情報,顔画像情報など各々の生体情報単体(他の生体情報と組み合わされていないもの)や,それら生体情報の組み合わせ(例えば,指紋情報と顔画像情報の組み合わせ)を含むものである。本発明の複合認証システムは,複合生体情報として生体情報単体(例えば,指紋情報のみ)を選択して利用者認証を行なうこともでき,また,複合生体情報として生体情報組み合わせ(例えば,指紋情報と顔画像情報の組み合わせ)を選択して利用者認証を行なうこともできる。本発明にかかる複合認証システムは,利用者ごと,複合生体情報ごとの認証強度を計算してアプリケーションの要求する認証強度を持つ複合生体情報を選択して利用する。」

C.「【0042】生体情報入力部10は,利用者の複数種類の生体情報を取得する部分である。
【0043】評価用生体情報格納部20は,標本となる多人数の複数種類の生体情報を登録しておく部分である。
【0044】複合生体情報認証強度計算部30は,評価用生体情報に対して利用者の生体情報を区別する容易さの度合いを示す認証強度を,複合生体情報ごとに計算する部分である。利用者のFAR,FRRを計算する。
【0045】複合生体情報決定部40は,複合生体情報認証強度計算部30が計算した認証強度がアプリケーションの利用者認証時に要求する認証強度を満たしている複合生体情報を候補とし,当該候補のうち利用者認証時に用いる複合生体情報を決定する部分である。
【0046】なお,この実施形態1の複合生体情報決定部40は,オプションとして,利用者が利用者認証時に利用したい複合生体情報を,利用者自身に選択させる機能を備えている。そこで,実施形態1の複合生体情報決定部40は,通知部41と選択部42を備えている。
【0047】通知部41は,認証強度がアプリケーションの利用者認証時に要求する認証強度を満たしている複合生体情報の候補を利用者に通知する部分である。
【0048】選択部42は,通知部41を介して通知された複合生体情報の候補から,利用者認証時に用いる複合生体情報を利用者自身に選択させる部分である。
【0049】例えば,通知部41は,利用者端末のディスプレイ上に,複合生体情報の候補をリストとして提示する。利用者は,当該リストとして表示された複合生体情報の候補のうち,選択部42を介して,一つの複合生体情報を選択する。マウスのようなポインティングデバイスで指定させても良く,音声入力による指定なども可能である。本発明は特にインタフェースを限定するものではない。
【0050】複合生体情報登録部50は,生体情報入力部10より入力された利用者の生体情報を登録する部分である。また,複合生体情報決定部40により決定され,通知された利用者認証に用いる複合生体情報の選択情報も登録する。なお,利用者認証時は,この複合生体情報登録部50に登録された,選択にかかる複合生体情報に基づいて,入力された利用者の生体情報との照合が行われることとなる。複合生体情報登録部50に登録された複合生体情報とは,複合生体情報登録部50に登録された生体情報のうち上記選択にかかる複合生体情報を言う。
【0051】以上の,生体情報入力部10,評価用生体情報格納部20,複合生体情報認証強度計算部30,複合生体情報決定部40,複合生体情報登録部50が,本発明にかかる複合認証システムの生体情報の登録時に用いる構成部分である。
【0052】認証部60は,複合生体情報登録部50に登録された利用者の複合生体情報と,利用者認証時に入力される利用者の複合生体情報とを照合し,利用者認証を行う部分である。
【0053】なお,一般には,利用者生体情報の登録時と利用者認証時で,生体情報入力部10として異なる装置を用いる場合もあるが,本実施形態では,利用者生体情報の登録時も,利用者認証時も,同じ装置を兼用して用いる構成とした。
【0054】以上の,生体情報入力部10,複合生体情報登録部50,認証部60が,本発明にかかる複合認証システムの利用者認証時に用いる構成部分である。
【0055】次に,本発明にかかる複合認証システムを用いたアプリケーション例について説明する。
【0056】以下に,本発明の複合認証システムを,オンラインバンキングの認証アプリケーションに適用した例を示す。以下では,アプリケーション管理者は「銀行」とする。
【0057】まず,あらかじめ,銀行が,振込みや残高照会など,アプリケーションサービスの種類に応じて,要求する認証強度を決め,複合認証システムに通知しておく。また,複合認証システムが扱う認証方式の中から銀行が採用を希望する複数の認証方式を選択しておく。本適用例では,指紋認証,声紋認証,顔画像認証の3つの方式を採用し,それぞれのアプリケーションに対して要求する認証強度を,図6に示すように設定したものとする。
【0058】生体情報の利用者登録における処理手順の概略は以下のようなものである。
【0059】まず,利用者が複合認証システムに対して登録の申請を行うと,複合認証システムは利用者に固有の利用者識別子を割り当て,利用者に通知すると同時に,利用者識別子をデバイス内のメモリに書き込み,そのデバイスを利用者に提供する。
【0060】このデバイスが,生体情報入力部10であり,この例では,例えば,指紋読み取り装置,マイク,カメラである。また,デバイスを機能させるためのドライバやアプリケーションも必要に応じて提供する。
【0061】次に,利用者は提供された生体情報入力部10を使って,生体情報を複合認証システムに登録する。生体情報入力部10を介して入力された生体情報は,この時点で複合生体情報登録部50に格納しても良い。」

D.「【0070】また,本実施形態1では,複合生体情報決定部40が,選択部42を備えているので,例えば,利用者Aは図9のリストに基づき,利用者Bは図10のリストに基づき,利用者認証時に利用したい複合生体情報を選択することができる。使用可能な認証方式の中から好みのものを選択し,例えば,利用者Aは,3万円以上の振込には指紋単体,指紋と声紋の組み合わせ,指紋と顔画像の組み合わせ,声紋と顔画像の組み合わせから選択できる。一方,利用者Bは,3万円以上の振込には顔画像単体か声紋と顔画像の組み合わせを選択できる。このように,利用者ごとに自由に利用者認証時に用いる複合生体情報を選択することができる。
【0071】以上のように,複合生体情報決定部40は,利用者認証時に用いる複合生体情報を決定する。
【0072】次に,決定された利用者認証時に用いる複合生体情報の選択情報が,複合生体情報登録部50に通知される。なお,選択された複合生体情報に含まれていない生体情報も付属情報として複合生体情報登録部50に登録しておくことが可能であることは言うまでもない。また,生体情報入力部10を介して入力された生体情報を一時的に複合生体情報登録部50に格納していた場合,本登録される生体情報のみを残して登録しても良く,登録される生体情報を本登録とし,他の生体情報を付属情報として登録しても良い。
【0073】また,評価用生体情報格納部20の標本数を増やすため,新規に利用者登録するために入力された利用者の生体情報は,標本として,評価用生体情報格納部20に追加登録しておくことが好ましい。
【0074】以上が,生体情報の利用者登録手順の概略である。
【0075】次に,利用者認証時の処理手順の概略を説明する。
【0076】まず,利用者はオンラインバンキングのサービスを受ける際,自分の利用者識別子の入力などとともに,生体情報入力部10を介して,必要な複合生体情報にかかる生体情報を入力する。入力されたそれぞれの生体情報は,認証部60に渡される。
【0077】認証部60は,入力された複合生体情報と,複合生体情報登録部50に登録されている利用者の複合生体情報を照合する。認証部60は,照合の結果に基づいて,利用者認証を認めるか,拒否するかを決め,アプリケーション管理者にその結果を通知する。
【0078】アプリケーション管理者は,認証部60からの利用者認証結果において利用者が受理された場合のみ,当該利用者に対してアプリケーションの利用を認める。利用者認証結果において利用者が拒否された場合には,当該利用者に対してアプリケーションの利用を認めない。」

E.「【0089】(実施形態3)本発明の複合認証システムは,生体情報を用いる複合認証方式に対して,パスワード認証方式,デジタル証明書認証方式,等の他の認証方式を併用させることも可能である。実施形態3の複合認証システムとして,実施形態1などで説明した複合認証方式に対して,パスワード認証方式,デジタル証明書認証方式,等の他の認証方式を利用者の選択に応じて組み合わせた例を説明する。ここで,パスワード認証方式など他の認証方式の組み合わせについては,利用者がその要否を選択することができるものとする。」

F.「【0100】(実施形態5)実施形態5は,本発明の複合認証システムを,ネットワークを介したクライアントサーバシステムにより構築した例である。
【0101】インターネットの普及に伴い,ネットワークを介したクライアントサーバシステムにより本システムを構築することは有意義な実施形態と言える。
【0102】図13は,クライアントサーバ構成例である。生体情報入力部10をクライアントシステム100に設け,他の構成部分である,評価用生体情報格納部20,複合生体情報認証強度計算部30,複合生体情報決定部40,複合生体情報登録部50,認証部60をサーバシステム200に設け,クライアントシステム100とサーバシステム200とをネットワーク300を介して接続したものである。なお,ネットワーク300は例えばインターネットである。
【0103】さらに,図14のように,生体情報入力デバイスである生体情報入力部10aに識別子を設け,認証部60aが,生体情報登録時に用いた生体情報入力部の識別子と,アプリケーションの利用者認証時に用いた生体情報入力部の識別子が合致する場合にのみ,利用者認証を行う形態もある。」

G.「【0109】図15は,他のクライアントサーバ構成例である。この構成例は,実施形態1ではオプションとして説明したように,通知部41と選択部42を備えた構成である。クライアントサーバシステムとして構成するにあたり,通知部41を認証サーバ200b側に設け,選択部42を認証クライアント100b側に設けたものである。つまり,生体情報入力部10と,選択部42を認証クライアント100bに設け,他の構成部分である,評価用生体情報格納部20,複合生体情報認証強度計算部30,複合生体情報決定部40b(選択部42を除く),通知部41,複合生体情報登録部50,認証部60を認証サーバ200bに設け,認証クライアント100bと認証サーバ200bとをネットワーク300を介して接続したものである。
【0110】図16は,他のクライアントサーバ構成例である。認証クライアント100cに対して,生体情報入力部10に加えてパスワード入力部81を設け,パスワード登録部82,パスワード認証部83を認証サーバ200cに設け,認証クライアント100cと認証サーバ200cとをネットワーク300を介して接続した構成も有り得る。なお,図16の構成では,パスワード認証部83が認証部60cの中に設けられている構成としているが,パスワード認証部83はかならずしも認証部60cの中に設ける必要はない。」

ウ.引用文献2に記載の事項
原審拒絶理由に引用された,本願の第1国出願前に既に公知である,特開2006-209697号公報(2006年8月10日公開,以下,これを「引用文献2」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

H.「【図5 】



エ.引用文献1に記載の発明
(ア)上記Eの「他の構成部分である,評価用生体情報格納部20,複合生体情報認証強度計算部30,複合生体情報決定部40,複合生体情報登録部50,認証部60をサーバシステム200に設け」という記載,及び,上記Gの「他の構成部分である,評価用生体情報格納部20,複合生体情報認証強度計算部30,複合生体情報決定部40b(選択部42を除く),通知部41,複合生体情報登録部50,認証部60を認証サーバ200bに設け」という記載から,引用文献1においては,
“サーバシステムは,複合生体情報登録部を有する”ものであることが読み取れる。

(イ)上記Fの「クライアントシステム100とサーバシステム200とをネットワーク300を介して接続したものである。なお,ネットワーク300は例えばインターネットである」という記載,上記Gの「認証クライアント100bと認証サーバ200bとをネットワーク300を介して接続したものである」という記載,上記Fの「生体情報入力部10をクライアントシステム100に設け」という記載,上記Gの「生体情報入力部10と,選択部42を認証クライアント100bに設け」という記載,及び,同じく,上記Gの「生体情報入力部10に加えてパスワード入力部81を設け」という記載から,引用文献1においては,
“インターネットを介してサーバと接続され,生体情報入力部に加えパスワード入力部を備える認証クライアント”が存在することが読み取れる。

(ウ)上記Cの「複合生体情報登録部50は,生体情報入力部10より入力された利用者の生体情報を登録する部分である。また,複合生体情報決定部40により決定され,通知された利用者認証に用いる複合生体情報の選択情報も登録する。なお,利用者認証時は,この複合生体情報登録部50に登録された,選択にかかる複合生体情報に基づいて,入力された利用者の生体情報との照合が行われることとなる」という記載,同じく,上記Cの「まず,利用者が複合認証システムに対して登録の申請を行うと,複合認証システムは利用者に固有の利用者識別子を割り当て,利用者に通知すると同時に,利用者識別子をデバイス内のメモリに書き込み,そのデバイスを利用者に提供する」という記載,同じく,上記Cの「次に,利用者は提供された生体情報入力部10を使って,生体情報を複合認証システムに登録する。生体情報入力部10を介して入力された生体情報は,この時点で複合生体情報登録部50に格納しても良い」という記載,及び,上記Dの「例えば,利用者Aは,3万円以上の振込には指紋単体,指紋と声紋の組み合わせ,指紋と顔画像の組み合わせ,声紋と顔画像の組み合わせから選択できる。一方,利用者Bは,3万円以上の振込には顔画像単体か声紋と顔画像の組み合わせを選択できる。このように,利用者ごとに自由に利用者認証時に用いる複合生体情報を選択することができる」という記載から,引用文献1においては,
“複合生体情報登録部は,複数の利用者識別子毎に,生体情報を格納する”ものであることが読み取れる。

(エ)上記(イ)において検討した事項,及び,上記(ウ)において引用した上記Cの記載内容と,上記Dの「利用者はオンラインバンキングのサービスを受ける際,自分の利用者識別子の入力などとともに,生体情報入力部10を介して,必要な複合生体情報にかかる生体情報を入力する。入力されたそれぞれの生体情報は,認証部60に渡される」という記載,及び,同じく,上記Dの「認証部60は,入力された複合生体情報と,複合生体情報登録部50に登録されている利用者の複合生体情報を照合する」という記載から,引用文献1においては,
“利用者が,サーバに生体情報を登録する場合,又は,生体情報を入力して認証を行う場合に,生体情報入力部を介して前記生体情報を入力し,前記生体情報は,インターネットを介して,サーバの複合生体情報登録部に格納され,或いは,サーバの認証部に渡されて,前記複合生体情報登録部に格納されている利用者の複合生体情報と照合される”ものであることが読み取れる。

(オ)上記(イ)において検討した事項,上記Bの「複合生体情報として生体情報組み合わせ(例えば,指紋情報と顔画像情報の組み合わせ)を選択して利用者認証を行なうこともできる」という記載,上記Cの「生体情報入力部10は,利用者の複数種類の生体情報を取得する部分である」という記載,同じく,上記Cの「本適用例では,指紋認証,声紋認証,顔画像認証の3つの方式を採用し」という記載,同じく,上記Cの「生体情報入力部10であり,この例では,例えば,指紋読み取り装置,マイク,カメラである」という記載,及び,上記Eの「本発明の複合認証システムは,生体情報を用いる複合認証方式に対して,パスワード認証方式,デジタル証明書認証方式,等の他の認証方式を併用させることも可能である。実施形態3の複合認証システムとして,実施形態1などで説明した複合認証方式に対して,パスワード認証方式,デジタル証明書認証方式,等の他の認証方式を利用者の選択に応じて組み合わせた例を説明する」という記載と,上記(イ)において引用した上記Gの記載内容,上記(イ)において検討した事項,及び,上記(ウ)において引用した上記Dの記載内容から,引用文献1には,
“認証クライアントは,指紋読み取り装置,音声入力装置,画像撮像装置,及び,パスワード入力装置を有する”ものであることが読み取れる。

(カ)引用文献1において,「サーバ」と,「認証クライアント」が,「利用者」を認証するための“システム”を構築していることは明らかであるから,
以上,上記(ア)?上記(オ)において検討した事項から,引用文献1には,次の発明(以下,これを「引用発明」という)が記載されているものと認める。

「複合生体情報登録部を有するサーバと,
インターネットを介してサーバと接続され,生体情報入力部に加えパスワード入力部を備える認証クライアントとを有し,
複合生体情報登録部は,複数の利用者識別子毎に,生体情報を格納するものであり,
利用者が,サーバに生体情報を登録する場合,又は,生体情報を入力して認証を行う場合に,生体情報入力部を介して前記生体情報を入力し,前記生体情報は,インターネットを介して,サーバの複合生体情報登録部に格納され,或いは,サーバの認証部に渡されて,前記複合生体情報登録部に格納されている利用者の複合生体情報と照合され,
前記認証クライアントは,指紋読み取り装置,音声入力装置,画像撮像装置,及び,バスワード入力装置を有する,システム。」

オ.本件補正発明と引用発明との対比
(ア)引用発明における「複合生体情報登録部」,「利用者」,「利用者識別子」が,
本件補正発明における「データベース」,「ユーザ」,「ユーザID」に相当し,
引用発明における「認証クライアント」は,「インターネットを介してサーバと接続され,生体情報入力部に加えパスワード入力部を備える」ものであるから,「生体情報入力部であるデバイス」に相当する構成を有することは明らかであり,引用発明における,前記「生体情報入力部であるデバイス」に相当する構成は,「指紋読み取り装置,音声入力装置,画像撮像装置,及び,バスワード入力装置」を有するものであるから,
引用発明における「指紋読み取り装置,音声入力装置,画像撮像装置,及び,バスワード入力装置」と,
本件補正発明における「複数の身元認識デバイス」とは,
“身元識別手段”である点で共通し,
引用発明における「複合生体情報登録部を有するサーバ」が,
本件補正発明における「データベースを格納するサーバ」に相当し,
引用発明における「インターネットを介してサーバと接続され,生体情報入力部に加えパスワード入力部を備える認証クライアント」と,
本件補正発明における「インターネット接続を通じて前記サーバと通信し,複数の身元認識デバイスを有する,多機能識別リーダ」とは,
“インターネット接続を通じて前記サーバと通信し,複数の身元認識手段を有する,多機能識別リーダ”である点で共通する。

(イ)引用発明において,「複合生体情報登録部」が,「利用者識別子」毎に,「利用者」の「生体情報」を格納する“格納部”を有する態様を含むことは,明らかであって,
引用発明における前記“格納部”が,
本件補正発明における「識別フィールド」に相当するので,
引用発明における“複合生体情報登録部が,利用者識別子毎に,利用者の生体情報を格納部が格納する”ことが,
本件補正発明における「データベースは,複数のユーザIDを含み,各ユーザIDについて,前記データベースは,前記ユーザIDに対応するユーザを特異に識別するための対応する複数の識別フィールドを格納し」に相当する。

(ウ)上記(ア)において検討したとおり,引用発明において「生体情報入力部であるデバイス」は,「複数の身元認識デバイス」を有するものであり,
上記(イ)において検討した事項を踏まえると,引用発明において,「利用者が,サーバに生体情報を登録する場合」は,「利用者」毎の“格納部”に,当該「利用者」の「生体情報」が格納されるものであり,「生体情報を入力して認証を行う場合」は,各「利用者」毎の“格納部”に格納された「生体情報」と,入力された「生体情報」とが比較されることになることは,明らかであるから,
引用発明における「利用者が,サーバに生体情報を登録する場合,又は,生体情報を入力して認証を行う場合に,生体情報入力部を介して前記生体情報を入力し,前記生体情報は,インターネットを介して,サーバの複合生体情報登録部に格納され,或いは,サーバの認証部に渡されて,前記複合生体情報登録部に格納されている利用者の複合生体情報と照合され」と,
本件補正発明における「ユーザが前記サーバに登録するときに又は前記サーバ内に既に格納されている識別データを確認するときに,複数の身元認識デバイスが前記ユーザの識別データを読み取り,前記インターネット接続を通じて前記サーバに前記識別データを送信し,各種類の識別データが前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに格納され,或いは前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに対して確認され」とは,
“ユーザが前記サーバに登録するときに又は前記サーバ内に既に格納されている識別データを確認するときに,複数の身元認識手段が前記ユーザの識別データを読み取り,前記インターネット接続を通じて前記サーバに前記識別データを送信し,各種類の識別データが前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに格納され,或いは前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに対して確認され”るものである点で共通する。

(エ)上記(ア)?上記(ウ)において検討した事項を踏まえると,
引用発明における「認証クライアントは,指紋読み取り装置,音声入力装置,画像撮像装置,及び,バスワード入力装置を有する」と,
本件補正発明における「多機能識別リーダは,虹彩スキャナ,指紋スキャナ,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,二次元バーコードスキャナ,及び前記ユーザが個人識別番号若しくはパスワードを入力するのを可能にするキーパッドを含む,身元識別デバイスを有する」とは,
“多機能識別リーダは,指紋スキャナ,及び,パスワードを入力する入力部を有する,身元識別手段を有する”点で共通する。

(オ)引用発明においても,複数の「生体情報」,及び,「パスワード」を用いて,「利用者」の認証を行うものであるから,
引用発明における「システム」が,
本件補正発明における「多機能識別認識システム」に相当する。

(カ)以上,上記(ア)?上記(オ)において検討した事項から,
本件補正発明と,引用発明との,一致点,及び,相違点は,次のとおりである。

[一致点]
データベースを格納するサーバと,
インターネット接続を通じて前記サーバと通信し,複数の身元認識手段を有する,多機能識別リーダとを含み,
前記データベースは,複数のユーザIDを含み,各ユーザIDについて,前記データベースは,前記ユーザIDに対応するユーザを特異に識別するための対応する複数の識別フィールドを格納し,
ユーザが前記サーバに登録するときに又は前記サーバ内に既に格納されている識別データを確認するときに,複数の身元認識手段が前記ユーザの識別データを読み取り,前記インターネット接続を通じて前記サーバに前記識別データを送信し,各種類の識別データが前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに格納され,或いは前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに対して確認され,
前記多機能識別リーダは,指紋スキャナ,及び,パスワードを入力する入力部を有する,身元識別手段を有する,
多機能識別認識システム。

[相違点]
“身元識別手段”に関して,
本件補正発明においては,「虹彩スキャナ,指紋スキャナ,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,二次元バーコードスキャナ,及び前記ユーザが個人識別番号若しくはパスワードを入力するのを可能にするキーパッドを含む,身元識別デバイス」であるのに対して,
引用発明においては,「虹彩スキャナ,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,二次元バーコードスキャナ,及び前記ユーザが個人識別番号を入力するのを可能にするキーパッドを含む」ことについては,特に言及されていない点。

カ.相違点についての当審の判断
引用文献1においても,上記Aに引用した段落【0012】に,「アイリス(本願発明における「虹彩」に相当)」について言及されていて,「虹彩」,「指紋」,「パスワード」を組み合わせて用いる点は,上記Hに引用した,引用文献2の【図5】にも開示されているように,本願の第1国出願前に当業者には周知の技術事項であり,「ユーザ」の認証に,「指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,二次元バーコードスキャナ,及び前記ユーザが個人識別番号を入力するのを可能にするキーパッド」等を用いる点についても,当該技術分野にあっては,先行技術文献を引用するまでもなく,本願の第1国出願前に当業者には周知の技術事項であって,引用発明に複数の「生体情報」及び「パスワード」による認証を行うことが示されている以上,更に他の「生体情報」,及び,他の「生体情報」以外の認証手段を組み合わせることは,当業者が適宜なし得る事項である。
したがって,[相違点]は,格別のものではない。
そして,本件補正発明の構成によってもたらされる効果も,当業者であれば容易に予測できる程度のものであって,格別なものとは認められない。

キ.独立特許要件むすび
よって,本件補正発明は,引用発明及び引用文献2に記載の周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法29条2項の規定により,特許出願の際,独立して特許を受けることができない。

3.補正却下むすび
したがって,本件手続補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

よって,補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
令和1年11月22日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,これを「本願発明」という)は,平成31年2月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,上記「第2.令和1年11月22日付けの手続補正の却下の決定」の「1.補正の内容」において,補正前の請求項1として引用した,次のとおりのものである。

「データベースを格納するサーバと,
インターネット接続を通じて前記サーバと通信し,複数の身元認識デバイスを有する,多機能識別リーダとを含み,
前記データベースは,複数のユーザIDを含み,各ユーザIDについて,前記データベースは,前記ユーザIDに対応するユーザを特異に識別するための対応する複数の識別フィールドを格納し,
ユーザが前記サーバに登録するときに又は前記サーバ内に既に格納されている識別データを確認するときに,複数の身元認識デバイスが前記ユーザの識別データを読み取り,前記インターネット接続を通じて前記サーバに前記識別データを送信し,各種類の識別データが前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに格納され,或いは前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに対して確認され,
前記多機能識別リーダは,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,及び二次元バーコードスキャナを含む,身元識別デバイスを有する,
多機能識別認識システム。」

第4.原審の拒絶査定の理由
原審における令和1年7月10日付けの拒絶査定(以下,これを「原審拒絶査定」という)の理由は概略,次のとおりである。

「本願の請求項1に係る発明は,引用文献1に係る発明,及び,引用文献2に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献一覧
1.特開2003-050783号公報
2.特開2006-209697号公報」

第5.引用文献に記載の発明
原審拒絶理由に引用され,上記「第2.令和1年11月22日付けの手続補正の却下の決定」において,引用文献1として引用された,特開2003-050783号公報(2003年2月21日公開)には,上記「第2.令和1年11月22日付けの手続補正の却下の決定」の「2.補正の適否」における「(3)本件補正発明,引用文献に記載の事項及び発明」の「エ.引用文献1に記載の発明」において認定された,次の引用発明が記載されている。

「複合生体情報登録部を有するサーバと,
インターネットを介してサーバと接続され,生体情報入力部に加えパスワード入力部を備える認証クライアントとを有し,
複合生体情報登録部は,複数の利用者識別子毎に,生体情報を格納するものであり,
利用者が,サーバに生体情報を登録する場合,又は,生体情報を入力して認証を行う場合に,生体情報入力部を介して前記生体情報を入力し,前記生体情報は,インターネットを介して,サーバの複合生体情報登録部に格納され,或いは,サーバの認証部に渡されて,前記複合生体情報登録部に格納されている利用者の複合生体情報と照合され,
前記認証クライアントは,指紋読み取り装置,音声入力装置,画像撮像装置,及び,バスワード入力装置を有する,システム。」

第6.本願発明と引用発明との対比及び相違点についての当審の判断
1.対比
本願発明は,本願補正発明における,
「多機能識別リーダは,虹彩スキャナ,指紋スキャナ,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,二次元バーコードスキャナ,及び前記ユーザが個人識別番号若しくはパスワードを入力するのを可能にするキーパッドを含む」,
を,
「多機能識別リーダは,指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,及び二次元バーコードスキャナを含む,身元識別デバイスを有する」,
としたものであるから,本願発明と,引用発明との,[一致点],及び,[相違点]は,次のとおりである。

[一致点]
データベースを格納するサーバと,
インターネット接続を通じて前記サーバと通信し,複数の身元認識手段を有する,多機能識別リーダとを含み,
前記データベースは,複数のユーザIDを含み,各ユーザIDについて,前記データベースは,前記ユーザIDに対応するユーザを特異に識別するための対応する複数の識別フィールドを格納し,
ユーザが前記サーバに登録するときに又は前記サーバ内に既に格納されている識別データを確認するときに,複数の身元認識手段が前記ユーザの識別データを読み取り,前記インターネット接続を通じて前記サーバに前記識別データを送信し,各種類の識別データが前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに格納され,或いは前記ユーザに対応する前記識別フィールドのうちの1つに対して確認され,
前記多機能識別リーダは,身元識別手段を有する,
多機能識別認識システム。

[相違点]
“身元識別手段”に関して,
本願発明においては,「指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,二次元バーコードスキャナを含む,身元識別デバイス」であるのに対して,
引用発明においては,「指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,二次元バーコードスキャナを含む」ことについては,特に言及されていない点。

2.当審の判断
本件補正発明と,引用発明との[相違点]の判断において言及したとおり,「ユーザ」の認証に,「指静脈スキャナ,掌静脈スキャナ,近距離通信(NFC)スキャナ,一次元バーコードスキャナ,二次元バーコードスキャナ」等を用いることは,当該技術分野にあっては,先行技術文献を引用するまでもなく,本願の第1国出願前に当業者には周知の技術事項であって,引用発明に複数の「生体情報」及び「パスワード」による認証を行うことが示されている以上,更に他の「生体情報」,及び,他の「生体情報」以外の認証手段を組み合わせることは,当業者が適宜なし得る事項である。
したがって,[相違点]は,格別のものではない。
そして,本願発明の構成によってもたらされる効果も,当業者であれば容易に予測できる程度のものであって,格別なものとは認められない。

第7.むすび
したがって,本願発明は,本願の第1国出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-11-06 
結審通知日 2020-11-10 
審決日 2020-11-27 
出願番号 特願2017-178553(P2017-178553)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮司 卓佳  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 月野 洋一郎
石井 茂和
発明の名称 ユーザの身元を認識し得る多機能識別認識システム  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  

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