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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B05C
管理番号 1373096
審判番号 不服2020-5065  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-14 
確定日 2021-04-15 
事件の表示 特願2015-229668「塗布ユニット、塗布装置、被塗布対象物の製造方法および基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 1日出願公開、特開2017- 94287〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年11月25日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 1年 6月18日付け:拒絶理由通知書
同年 8月21日 :手続補正書及び意見書の提出
令和 2年 1月 8日付け:拒絶査定
同年 4月14日 :手続補正書及び審判請求書の提出
同年 9月29日 :上申書の提出

第2 令和 2年 4月14日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和 2年 4月14日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正によってなされた補正の内容は,下記の補正を含むものである。
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の
「塗布材料を収納する容器と,
前記容器内に収容された前記塗布材料を塗布対象面に塗布するための塗布針とを備え,
前記容器の底部分に第1の孔が開口され,前記容器の上蓋部分に第2の孔が開口され,前記塗布針は,前記第1および第2の孔を通る直線に沿って移動可能に設けられ,前記塗布針を駆動するためにモータの回転運動を前記直線の方向における運動に変換する機構を備えた,塗布ユニットであって,
前記第1の孔の壁の最下端に面取りが設けられ,
前記面取りがC0.5以下のC面取りである,塗布ユニット。」
を本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の
「塗布材料を収納する容器と,
前記容器内に収容された前記塗布材料を塗布対象面に塗布するための塗布針とを備え,
前記容器の底部分に第1の孔が開口され,前記容器の上蓋部分に第2の孔が開口され,前記塗布針は,前記第1および第2の孔を通る直線に沿って移動可能に設けられ,
前記第1の孔の壁の最下端に面取りが設けられた塗布ユニットにおいて,
前記塗布針を駆動するためにモータの回転運動を前記直線の方向における運動に変換する機構を備え,
前記塗布針により複数回塗布動作を繰り返す,塗布ユニットであって,
前記面取りが塗布材料溜まりの発生を抑制するC0.5以下のC面取りである,塗布ユニット。」とする補正。

2 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「塗布ユニット」及び「C0.5以下のC面取り」について,それぞれ「前記塗布針により複数回塗布動作を繰り返す」及び「塗布材料溜まりの発生を抑制する」なる限定を付加するものであって,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)本件補正発明
本件補正後の請求項1に記載される発明(以下,「本件補正発明」という。)は,上記1の本件補正後の請求項1に記載したとおりのものである。

(2)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である,特開2010-62385号公報(平成22年 3月18日出願公開。以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある(下線は当審が付加。)。
「【請求項1】
塗布針と,
穴が底に形成されたフラックス容器と,
前記塗布針の先端を前記穴を介して前記フラックス容器の内部から外部へ突出させる移動機構とを備えた,フラックス塗布装置。
【請求項2】
前記フラックス容器はフラックスを収容するためのものであり,
前記移動機構は,前記塗布針の前記先端を,待機時において前記フラックスの液面となる位置より下に位置するよう保持し,かつ塗布時において前記穴を介して前記フラックス容器の内部から外部へ突出させる,請求項1に記載のフラックス塗布装置。」
「【請求項6】
前記穴の下部が面取りされている,請求項1?5のいずれかに記載のフラックス塗布装置。」
「【0013】
図1は,本発明の実施の形態1におけるフラックス塗布装置の概略構成図である。
図1を参照して,本実施の形態のフラックス塗布装置21は,主に,塗布針1と,塗布針支持部材2と,フラックス容器3と,蓋4と,移動機構16とを有している。
【0014】
塗布針1は,塗布針支持部材2に下向きに支持されている。複数の塗布針1が,塗布対象(たとえば,BGA)の複数の外部パッドと同一ピッチに配置されていてもよい。塗布針1は,蓋穴7を通る部分より底穴8を通る部分の方が径が小さい形状である。塗布針1は,蓋穴7からフラックス容器3に挿入されている。
【0015】
移動機構16は,塗布針支持部材2を上下に移動させるための第一の上下移動機構と,フラックス容器3を上下に移動させるための第二の上下移動機構とを有している。移動機構16は,公知の移動機構を利用することができる。公知の移動機構は,たとえばサーボモータを利用したもの,カムとバネを利用したもの等がある。
【0016】
フラックス容器3は,フラックスを収容するための容器である。フラックス容器3は,フラックス容器の底5に形成された底穴8を有している。底穴8の径は,表面張力によりフラックス13が底穴8からフラックス容器3の外へ漏れ出さない程度の大きさであり,底穴8を通る部分の塗布針1の径より大きい。底穴8と底穴8を通る部分の塗布針1との隙間は小さい。したがって,フラックス容器3に収容されたフラックス13の乾燥を防ぐことができる。
【0017】
蓋4は,フラックス容器3の開口部を覆いフラックス容器3の内部空間を外部空間に対して閉塞している。蓋4は,蓋穴7を有している。蓋穴7の径は,蓋穴7を通る部分の塗布針1の径より大きい。蓋穴7と蓋穴7を通る部分の塗布針1との隙間は小さい。したがって,フラックス容器3に収容されたフラックス13の乾燥を防ぐことができる。
【0018】
塗布針1の先端9は,待機状態においてフラックス容器3にフラックス13が収容されたときのフラックスの液面となる位置6より下に位置していることが好ましい。塗布針1の先端部の周面は,塗布針テーパ10のように,先端に向かって細くなるテーパ状であり,先端9に平坦面が形成されていることが好ましい。底穴8は上部が面取りされていることが好ましい。面取りにより上部面取りテーパ11が形成されている。底穴8は下部が面取りされていることが好ましい。面取りにより下部面取りテーパ12が形成されている。」
「【0020】
図2(A)を参照して,本実施の形態のフラックス塗布を行うに際して,フラックス容器3内にフラックス13が収容され,フラックス容器3の下方に塗布対象14が配置される。待機時には,塗布針1は,フラックス容器3の蓋穴7からフラックス容器3に挿入されている。そして,塗布針1の先端9は,フラックス容器3に収容されたフラックス13に浸漬された状態で保持されている。
【0021】
次に,図2(B)に示すように,塗布時においては,移動機構16の第一の上下塗布機構は,塗布針支持部材2をフラックス容器3に対して下降させる。塗布針支持部材2の下降によりフラックス容器3の底穴8から塗布針1の先端9が突出する。このとき,フラックス13は,塗布針1の先端9に付着する。
【0022】
次に,図2(C)に示すように,移動機構16の第一および第二の上下移動機構は,塗布針1およびフラックス容器3の双方を一緒に塗布対象14に対して下降させ,塗布針1の先端9に付着したフラックス13を塗布対象14の塗布面15に接触させる。これにより,フラックス13は,塗布対象14の塗布面15に塗布される。」
「【0028】
図2(A)に示すように,塗布針1の先端9は,待機時においては,常時フラックス13に浸漬しているため,塗布針1の先端9に付着したフラックス13が乾燥することは無い。一方,フラックス容器3の底穴8の下部面取りテーパ12に付着したフラックス13は,連続で塗布を行う場合は,塗布針1の突出動作により攪拌され,乾燥することは無い。しかしながら,フラックス容器3内にフラックス13が収容された状態で長時間塗布されずに放置された場合,下部面取りテーパ12に付着したフラックス13は,徐々に乾燥するおそれがある。このため,長時間放置後の初回塗布時にフラックス13が多目に塗布される場合がある。その場合は,塗布動作とは別に,図2(A)に示した状態から,図2(B)に示した状態のように塗布針1の先端9をフラックス容器3から突出させ,再度,図2(A)の状態に戻す動作が数回繰り返される。これにより,フラックス容器3内のフラックス13が攪拌されて乾燥しにくくなるため,長時間塗布しなかった場合の初回塗布時にも安定したフラックス塗布をすることができる。また,最終塗布動作からの経過時間を管理し,決められた時間が経過した後,塗布動作を行う場合には,必ず上記動作実施後に塗布を行なうようにしてもよい。これによりさらに安定したフラックス塗布をすることができる。」
「【0033】
フラックス容器3の底穴8の下部は,面取りされている。これにより,塗布針1の先端9が再びフラックス容器3に収容されるときに,フラックス容器3の底穴8の下側に形成された下部面取りテーパ12により塗布針1に付着したフラックス13がフラックス容器3に戻り易い。したがって,フラックス13は,フラックス容器3に再収容され易い。」
「【図1】


「【図6】



(3)引用発明
上記(2)の【請求項1】,【請求項2】,【請求項6】,【0013】ないし【0022】から,引用文献1には,下記の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「フラックスを収容するフラックス容器と,
前記フラックス容器内に収容された前記フラックスを塗布対象の塗布面に塗布するための塗布針とを備え,
前記フラックス容器の底に底穴が形成され,前記フラックス容器の蓋に蓋穴を有し,
前記塗布針は,前記蓋穴からフラックス容器に挿入され,塗布針支持部材の下降により底穴から突出するものであって,塗布針支持部材を上下に移動させるための第一の上下移動機構によって移動させられ,
前記底穴の下部は面取りされている,
フラックス塗布装置。」

(4)対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「フラックス」,「フラックス容器」,「塗布対象の塗布面」,「フラックス容器の底」,「底穴」,「フラックス容器の蓋」,「蓋穴」,「底孔の下部」及び「フラックス塗布装置」はそれぞれ,本件補正発明の「塗布材料」,「容器」,「塗布対象面」,「底部分」,「第1の孔」,「上蓋部分」,「第2の孔」,「第1の孔の壁の最下端」及び「塗布ユニット」に相当する。
引用発明の「塗布針」は,引用文献1の図1に示されるようにまっすぐな形状であって,「前記蓋穴からフラックス容器に挿入され,塗布針支持部材の下降により底穴から突出するもの」であるから,本件補正発明の「前記塗布針は,前記第1の孔および第2の孔を通る直線に沿って移動可能に設けられ」なる事項をみたす。
引用発明の塗布装置は,上記(2)の【0028】に,「連続で塗布を行う」ことが記載されており,また,引用文献1の図6に示されるように複数の塗布対象(14)を備えるものであり,また常識的にも塗布針を一回だけ使用するものではないことから,本件補正発明の「塗布針により複数回塗布動作を繰り返す,塗布ユニット」であると言える。

そうすると,本件補正発明と引用発明とは以下の点で一致する。
「塗布材料を収納する容器と,
前記容器内に収容された前記塗布材料を塗布対象面に塗布するための塗布針とを備え,
前記容器の底部分に第1の孔が開口され,前記容器の上蓋部分に第2の孔が開口され,前記塗布針は,前記第1および第2の孔を通る直線に沿って移動可能に設けられ,
前記第1の孔の壁の最下端に面取りが設けられた塗布ユニットにおいて,
前記塗布針により複数回塗布動作を繰り返す,
塗布ユニット。」

そして,本件補正発明と引用発明は,以下の相違点1及び2で相違する。
・相違点1
塗布針を駆動するための機構について,本件補正発明は,「モータの回転運動を前記直線の方向における運動に変換する機構を備え」と特定するのに対し,引用発明ではこのように特定されていない点。
・相違点2
面取りについて,本件補正発明は,「塗布材料溜まりの発生を抑制するC0.5以下のC面取り」と特定するのに対し,引用発明ではこのように特定されていない点。

上記相違点について検討する。
・相違点1について
引用発明の塗布針を駆動する塗布針支持部材を上下に移動させるための第一の上下移動機構について,引用文献1には,「公知の移動機構が使用することができ」,「たとえばサーボモータを利用したもの」と記載されている(上記(2)の【0015】)。
そして,移動機構について,汎用のサーボモータを利用したものを採用した場合,モータは回転運動し,かつ塗布針及び塗布針支持部材は上下方向に直線運動するので,その間には「モータの回転運動を直線の方向における運動に変換する機構」が備えられることが自明である。また,塗布針を直線に沿って移動させる移動機構として,「モータの回転運動を直線の方向における運動に変換する機構」を備えたものも周知である(必要であれば,原査定の拒絶の理由で引用された,本願出願前に,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2015-112576号公報(平成27年 6月22日公開)の【0028】参照。)。
そうすると,引用発明の塗布針を駆動するための機構について,引用文献1の【0015】の記載に基づいて,上記移動機構を採用すること,すなわち,「モータの回転運動を直線の方向における運動に変換する機構」を備えたものとすることは当業者が容易に想到し得たことである。

・相違点2について
引用発明における「底孔の下部の面取り」は,塗布針1の先端9が再びフラックス容器3に収容されるときに,フラックス容器3の底穴8の下側に形成された下部面取りテーパ12により塗布針1に付着したフラックス13がフラックス容器3に戻り易くするためのものである(上記(2)の【0033】)から,引用発明においても,本件補正発明と同じく,フラックスが前記底穴の先端に留まるのが抑制されるものである。
そして,この場合のフラックスの戻り易さは,面取りの形状のみならず,フラックスの粘度及び密度,底穴の径,塗布針の太さ及び塗布針の突出距離,塗布針と穴壁との距離及びフラックス容器に収容されたフラックスの重さによる底穴への液圧,等の種々のパラメータが関与するものである。そして,面取りの形状については,これらの種々のパラメータを勘案した上で塗布装置毎に当業者が適宜に設計するものであり,その設計結果として,引用発明における底穴の下部の面取りをC0.5以下のC面取り形状とすることは格別のことではないし,それによる効果も格別の効果であるとは言えない。

そして,これらの相違点1及び2に係る事項を総合的に検討しても,塗布材料を長時間安定して塗布することが可能となる,という本件補正発明の効果が当業者が予測し得ない格別顕著なものとも言えない。

よって,本件補正発明は,引用発明,すなわち引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)請求人の審判請求書における主張について
請求人は審判請求書において,おおむね下記の点アないしウを主張している。
ア 本件補正発明は,段落[0049]?[0052]に記載されているように「高速駆動による塗布針の繰り返し塗布」, すなわち塗布針による塗布を高速で繰り返すこと,を採用するものであり,高速駆動による塗布針の繰り返し塗布に特有の課題である塗布材料の量のばらつきを防ぐものであるのに対し,引用文献1には,塗布針を高速に駆動して繰り返し塗布を行うことやそれに伴う課題について開示していない。
イ 引用文献1,引用文献1の先行文献として記載された特許文献(特開平10-51120号)は,いずれも複数本の塗布針を採用しており,引用文献1等の技術分野は,複数の塗布針を前提としたものであるから,引用文献1から塗布針1本タイプに変更することを当業者が想起できず,また,複数の塗布針を駆動すると移動機構の負荷が大きくなるので, 本件補正発明のように塗布針により高速で繰り返し塗布することは困難と理解するのが当業者の認識である。
ウ 本件補正発明がC面取りをC0.5以下と特定することは,高速駆動による塗布針の繰り返し塗布に特有の課題を解決するための格別の効果が存在すると言えるので,引用発明の底孔の下部の面取りから当業者が適宜に設計する事項ではない。
上記主張について検討する。
上記アについて検討する。
本件補正発明は,「高速駆動による塗布針の繰り返し塗布」を特定するものではないし,本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0049】ないし【0052】やその他の箇所にも塗布針を「高速駆動」させる繰り返し塗布については記載されていない。
よって,請求人の本件補正発明が高速駆動による塗布針の繰り返し塗布であることに基づく主張アは,本件補正発明の特定事項に基づくものではないので採用しない。
上記イについて検討する。
引用発明は複数本の塗布針を特定するものではない。また,本件補正発明も,塗布針1本タイプを特定するものではないので,この点は引用発明との相違点とならない。
さらに,引用文献1の【0015】及び引用文献1の先行文献として記載された特許文献(特開平10-51120号)の【0007】では,塗布針の駆動機構について,それぞれ「公知の駆動機構」として「たとえばサーボモータを使用したもの」が記載されており,引用発明が複数本の塗布針であったとしても,本件補正発明で特定される「モータの回転運動を直線の方向における運動に変換する機構」を備える構成とすることを阻害するものではない。そして,上記アで検討したように,本件補正発明は「高速駆動による塗布針の繰り返し塗布」を特定するものではない。
よって,上記イの主張は採用しない。
上記ウについて検討する。
まず,「C0.5以下のC面取り」について,本願明細書の発明の詳細な説明には,以下の箇所でのみ明示的に記載されている。
「【0017】
好ましくは,面取りは,C面取りである。
好ましくは,面取りは,C0.5以下である。」
「【0055】
たとえば,第1の孔の壁の最下端に設けられるC面取りは,C0.5に限定されるものではない。たとえば,C0.5以下としてもよいし,それ以外のものであってもよい。さらに,面取りの角度が,45°以外の角度であってもよい。」
そして,本願明細書の発明の詳細な説明には,「高速駆動による塗布針の繰り返し塗布」については記載されておらず,上記【0017】及び【0055】の記載内容からしても,C0.5以下のC面取りを高速駆動による塗布針の繰り返し塗布と関連づけた効果は記載されていない。また,審判請求書で示す添付資料の図も「C0.5以下のC面取り」に境界的な意義があることを示すものではない。
加えて,特定の条件下の有意な効果が示される面取りの形状が存在するにしても,フラックスの粘度及び密度,底穴の径,塗布針の太さ及び塗布針の突出距離,塗布針と穴壁との距離及びフラックス容器に収容されたフラックスの重さによる底穴への液圧,等の種々のパラメータが関与するものであるので,その適切な形状は変わりうるものであり,C0.5以下の面取りであることのみをもって格別顕著な効果が認められるものではない。
よって,上記ウの主張は採用しない。

以上より,請求人の主張は採用しない。

(6)本件補正についてのむすび
以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり,同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和 2年 4月14日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし4に係る発明は,令和 1年 8月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,前記第2[理由]1の補正前の請求項1に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。

引用文献1:特開2010-62385号公報
引用文献2:特開2015-112576号公報

3 引用文献等
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から,「塗布ユニット」,「面取り」について「前記塗布針により複数回塗布動作を繰り返す」,「塗布材料溜まりの発生を抑制する」なる限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(4)に記載したとおり,引用発明,すなわち引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明,すなわち引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-02-05 
結審通知日 2021-02-09 
審決日 2021-02-26 
出願番号 特願2015-229668(P2015-229668)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B05C)
P 1 8・ 575- Z (B05C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高崎 久子岩田 行剛  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 神田 和輝
細井 龍史
発明の名称 塗布ユニット、塗布装置、被塗布対象物の製造方法および基板の製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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