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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1373421
審判番号 不服2019-15981  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-27 
確定日 2021-05-13 
事件の表示 特願2016-150406「非水電解質二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月 1日出願公開、特開2018- 18785、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年 7月29日を出願日とする出願であって、令和 1年 6月17日付けで拒絶理由が通知され、同年 7月22日付けで意見書が提出され、同年 8月23日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月27日付けで拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
正極活物質を含有する正極活物質層を備える正極、負極、および該正負極間に介在するセパレータを有する電極体と、
非水電解質と、
を含む非水電解質二次電池であって、
前記正極活物質層内、前記正極活物質層表面、前記セパレータ表面、および前記セパレータ内の少なくともいずれかに、Ag含有ゼオライトが配置されている、
非水電解質二次電池。」

第3 原査定の概要
原査定(令和 1年 8月23日付け拒絶査定)における拒絶理由の概要は次のとおりである。
理由1.この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の引用文献1、2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2000-77103号公報
2.特開2001-319687号公報

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1
1-1 引用文献1の記載
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2000-77103号公報)には、「リチウム二次電池および機器」(発明の名称)に関して、次の記載がある(なお、「…」によって記載の省略を表す。また、下線は当審が付した。以下同様。)。

1ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】正極,負極,リチウムイオンを含む電解質からなるリチウム二次電池において、該リチウム二次電池内部に発生する不純物または副生成物を吸収,結合あるいは吸着によって捕捉する機能を有する捕捉物質を有することを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】請求項1において、前記捕捉物質が、陽イオンを含む不純物または副生成物を吸収,結合あるいは吸着によって捕捉する機能を有することを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項3】請求項1において、前記捕捉物質が、フッ化物イオンを含む不純物または副生成物を吸収,結合あるいは吸着によって捕捉する機能を有することを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項4】請求項1において、前記捕捉物質が、コバルトイオン,ニッケルイオン,マンガンイオン,銅イオンまたはアルミニウムイオンを吸収,結合あるいは吸着によって捕捉する機能を有することを特徴とするリチウム二次電池。

【請求項10】請求項1,2,3及び4のいずれかにおいて、前記捕捉物質がアルカリ金属,アルカリ土類金属,珪素,アルミニウム,チタンより選択された一種類以上の元素を有する金属酸化物を含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項11】請求項1,2,3,4及び10のいずれかにおいて、前記捕捉物質が細孔径0.3?0.5nmのゼオライトからなることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項12】請求項1,2,3,4,10及び11のいずれかにおいて、前記捕捉物質が多孔質表面または細孔構造を有することを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項13】請求項1又は3において、前記捕捉物質がフッ化物イオンと塩を形成することを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項14】請求項1,3及び13のいずれかにおいて、前記捕捉物質がアルカリ土類金属,銀またはスズのいずれか1種類以上の元素を含むことを特徴とするリチウム二次電池。」

1イ 「【0003】【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、高温サイクル試験後のリチウム二次電池の解体分析を行った結果、リチウム二次電池の高温劣化の原因は、(1)正極,電池容器,集電体から電解液へ溶出したリチウムイオン以外の陽イオンが負極へ吸着あるいは還元・析出することにより、負極の充放電を阻害していること、(2)電解質の分解により発生したフッ化水素が正極活物質を腐食し、正極容量を低下させていることを突き止めた。(1)で原因となる金属は、正極活物質から溶出したマンガン,コバルト,ニッケル,鉄など、電池容器から溶出したニッケル,鉄,アルミニウムなど、集電体や電極タブから溶出したアルミニウム,銅,ニッケルなどが挙げられる。また(2)の反応過程によって、正極活物質からマンガン,コバルト,ニッケル,鉄などの金属が溶出すると、さらに(1)の機構により負極容量の低下が促進される。
【0004】本発明の目的は、実際に電池が使用される高温環境においても、長寿命かつ自己放電率の小さなリチウム二次電池を提供することにある。」

1ウ 「【0009】上で述べた構成のリチウム二次電池の高温サイクル特性の劣化と自己放電率の増大を抑制するために、発明者らは鋭意検討した結果、以下で説明する新しい技術の開発に至った。
【0010】その第一の手段として、マンガンイオン,コバルトイオン,ニッケルイオン,鉄イオン,銅イオン,アルミニウムイオンなどの陽イオンが負極へ到達する前に、吸着,錯体形成,還元・析出反応によって、それらの陽イオンを捕捉する捕捉物質を利用することである。第二の手段として、これらの陽イオンが負極に到達しても、吸着,錯体形成,還元・析出反応によって、負極容量低下をもたらす陽イオンを選択的に捕捉する捕捉物質を利用することである。第三の手段として、6フッ化リン酸リチウム,4フッ化ホウ酸リチウムなどの電解質に含まれる微量のフッ化水素を、中和,イオン交換、あるいは溶解度の低いフッ化物塩の生成反応によって捕捉できる捕捉物質を利用することである。
【0011】比表面積の大きな炭素材料を本発明に利用すると、電池内部で発生した陽イオンやフッ化物イオンからなる不純物を補足、除去することができる。その例として、比表面積が1000m^(2)/gあるいは細孔容積が0.1cc/g以上となる活性炭がある。このような活性炭をセパレータや正極,負極の表面または内部に保持させる方法によって、電池劣化をもたらす陽イオンまたはフッ化物イオンが負極活物質粒子へ付着することを抑制することが可能となる。…活性炭と同様な補足作用を有し、1000m^(2)/g以上の比表面積をもつ材料としてケッチェンブラック。本発明は活性炭やケッチェンブラックに限定されず、炭素粒子内部に細孔、または空隙を有する高比表面積の炭素であれば、電池内に存在する不純物の除去が可能である。無機材料からなる捕捉物質としては、シリカゲル,ゼオライト,活性アルミナ,チタニア、あるいはアルミニウムを電解酸化処理により作製した多孔質アルミナ,MgO,CaO,SrO,BaOなどの塩基性酸化物を使用でき、これらは電池内部で発生した陽イオンやフッ化物イオンからなる不純物を補足,除去する作用を有する。シリカゲル,ゼオライト,活性アルミナ,チタニア,多孔質アルミナを用いた場合、不純物の吸着量を高めるために、酸化物の比表面積は1000m^(2)/g以上であることが望ましい。」

1エ 「【0015】フッ化物イオンを捕捉する場合は、陽イオンの捕捉物質と同様な材料が利用可能である。例えば、シリカゲル,多孔質アルミナ,活性アルミナ,アルミニウム表面を電解酸化処理により多孔質アルミナ層を形成させた材料、チタニア,ゼオライトなどがある。これらの物質は、高比表面積を有するため、フッ化物イオンの吸着やイオン交換による電解液からの除去が可能である。特に、細孔径が0.3?0.5nmのゼオライトが、分子サイズの大きな電解液用溶媒の吸着を抑制し、フッ化物イオンを効率的に捕捉し、リチウム二次電池の高温サイクル特性の向上に有効である。
【0016】…
【0017】フッ化物イオンを捕捉するための別の方法として、それと捕捉物質が反応した際に生成するフッ化物塩の溶解度が小さくなる捕捉物質に着目した。その結果、本発明者らはCa,Baなどのアルカリ土類金属または酸化物を負極合剤層の最表面またはセパレータ表面に保持させることにより、フッ化物イオンをMgF_(2),CaF_(2),BaF_(2)などのフッ化物塩として捕捉できることを見出した。アルカリ土類金属の酸化物の捕捉機構については、未だ明らかでないが、アルカリ土類金属-酸素結合が開裂し、アルカリ土類金属-フッ素結合が新たに生成すると推定される。アルカリ土類金属を負極に保持させる方法として、電解液中にマグネシウム,バリウム,カルシウムなどのアルカリ土類金属の塩化物塩,硝酸塩,硫酸塩,炭酸塩などの塩を溶解させ、負極を充電することにより、負極合剤の最表面のみにアルカリ土類金属を析出させる電気化学的手段がある。このような方法によると、電解液と接する負極最表面にてフッ化物イオンを補足でき、捕捉物質を負極合剤内部に均一に分散させるよりも、少量の捕捉物質で補足効果が得られる。酸化物を負極,セパレータ,電池缶内壁に固定する場合は、アルカリ土類金属の塩化物塩,硝酸塩,硫酸塩,炭酸塩,酸化物などを水やアルコールに溶解させ、その溶液を負極活物質,セパレータ、あるいは電池缶の内壁などに付着させた後に、大気中にて加熱乾燥することにより、アルカリ土類金属の酸化物を固定することができる。負極活物質の替わりに、負極活物質と比較して実際上リチウムイオンを吸蔵しないアセチレンブラック,ケッチェンブラックなどのカーボンブラックをアルカリ土類金属塩を溶解させた溶液に浸漬し、その粉末を大気中あるいは酸素雰囲気中で加熱処理してアルカリ土類金属酸化物を保持させた粉末を負極合剤に添加しても、本発明の効果が得られる。」

1オ 「【0020】(実施例1)本実施例で使用した正極活物質は、平均粒径20μm,最大粒径80μmのLiMn_(2)O_(4)粉末である。この正極活物質と天然黒鉛,ポリフッ化ビニリデンの1-メチル-2-ピロリドン溶液を混合し、充分に混練したものを正極スラリーとした。LiMn_(2)O_(4),天然黒鉛,ポリフッ化ビニリデンの混合比は、重量比で90:6:4とした。このスラリーを、ドクターブレード法によって、厚さ20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の表面に塗布した。正極寸法は、幅54mm,長さ500mmである。この正極を100℃で2時間乾燥した。
【0021】負極は以下の方法で作製した。負極活物質は平均粒径5μm,比表面積5m^(2)/gの非晶質炭素粉末であり、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な材料である。本実施例の捕捉物質は、比表面積1000?3000m^(2)/gの範囲にある5種類の活性炭であり、非晶質炭素と比較するとリチウムイオンをほとんど吸蔵・放出しない材料である。非晶質炭素,活性炭およびポリフッ化ビニリデンを、重量比87:3:10で混合し、有機溶媒として1-メチル-2-ピロリドンを添加して、充分に混練して5種類の負極スラリーを調製した。使用した捕捉物質は、比表面積が1000?1100m^(2)/g、細孔容積が0.10?0.30cc/gの活性炭C2、比表面積が1450?1700m^(2)/g、細孔容積が0.45?0.65cc/gの活性炭C3、比表面積が1600?1800m^(2)/g、細孔容積が0.60?0.80cc/gの活性炭C4、比表面積が1800?2200m^(2)/g、細孔容積が0.70?1.00cc/gの活性炭C5、比表面積が2800?3000m^(2)/g、細孔容積が1.5?1.8cc/gの活性炭C6の5種類であり、活性炭の平均粒径は5種類とも20μm以下である。このスラリーを、ドクターブレード法によって、厚さ10μmの銅箔からなる負極集電体の表面に塗布し、5種類の負極を作製した。負極寸法は、幅56mm,長さ560mmである。この負極を100℃で2時間乾燥した。
【0022】図1に、本発明の円筒型リチウム二次電池の断面構造を示す。電池の外寸法は、高さ65mm,直径18mmである。電極群は、正極1と負極2の間にセパレータ3を介して巻き取られた捲回式構造である。本実施例で使用したセパレータは、それぞれ厚さ25μmのポリエチレン製多孔質シートである。細孔径と気孔率はそれぞれ0.1?1μm,40?50%である。各電極の上部に溶接した正極リード5と負極リード7は、それぞれ反対向きに取り付けられており、正極リード5は電池蓋6の底面へ、負極リード7は電池缶4の底面へ溶接した。電解液を缶開口部より導入し、安全弁19を設けた電池蓋6と電池缶4をパッキン10を介してかしめて電池を密閉した。使用した電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの等体積混合溶媒1リットルに、1モル相当の6フッ化リン酸リチウム(LiPF_(6))を含有する溶液である。

【0024】表1に、本実施例の電池の60℃サイクル試験結果を示した。表中に、実施例毎に試験を行った電池番号,電池に使用した正極活物質,負極活物質および捕捉物質を記載した。また、容量維持率は初期放電容量に対する放電容量の割合であり、50,300,500サイクル時点での測定値を示した。放電電流は、定格容量を1時間で放電可能な放電電流値に設定した。
【0025】
【表1】



1カ 「【0028】(比較例1)捕捉物質を用いていない点の他は、実施例1と同一仕様の正極,電解液,セパレータを用いて円筒型リチウム二次電池を製作した。本比較例では、負極を以下のように変更した。平均粒径5μm,比表面積5m^(2)/gの非晶質炭素粉末とポリフッ化ビニリデンを、重量比90:10で混合し、有機溶媒として1-メチル-2-ピロリドンを添加して、十分に混練して負極スラリーを調製した。このスラリーを、ドクターブレード法によって、厚さ10μmの銅箔からなる負極集電体の表面に塗布した。負極寸法は、幅56mm,長さ560mmである。この負極を100℃で2時間乾燥した。本比較例の電池をB11とする。」

1キ 「【0032】(実施例3)平均粒径2μmのシリカゲル,平均粒径2μmと細孔径0.5nmのシリカ・アルミナからなるゼオライト、平均粒径2μmの活性アルミナの3種類の捕捉物質から、一種類ずつをジメトキシエタンに分散させ、その溶液を厚さ30μmのポリブロピレン製セパレータにコーティングし、室温で真空乾燥した。このような方法で不織布表面にシリカゲル,ゼオライト,活性アルミナを付着させた3種類のセパレータを製作した。正極,負極,電解液は、比較例1の電池B11と同一仕様のものを使用した。本実施例の3種類の不織布毎に、3種類の図1に示した円筒型リチウム二次電池を製作した。シリカゲル,ゼオライト,活性アルミナを使用した電池を、それぞれA301,A302,A303と表記する。
【0033】上で使用した同一仕様のシリカゲル,ゼオライト,活性アルミナの3種類の捕捉物質から、一種類ずつをジメトキシエタンに分散させ、その溶液を比較例1と同1条件で作製した負極へ塗布し、乾燥しジメトキシエタンを除去した。これらの捕捉物質の添加量は非晶質炭素重量に対して3%とした。これらの3種類の負極のそれぞれに、比較例1記載の正極,セパレータ,電解液を組み合わせて、図1の円筒型リチウム二次電池を製作した。シリカゲル,ゼオライト,活性アルミナを使用した電池を、それぞれA304,A305,A306と表記する。
【0034】Mg(OH)_(2),Ca(OH)_(2),Ba(OH)_(2),Sr(OH)_(2)を500℃で加熱することにより、シリカゲル表面に付着したMg(OH)_(2 )を(当審注:水酸化物を加熱して酸化物を得ることは通常のことであるから、当該「シリカゲル表面に付着したMg(OH)_(2) を」なる記載は不適切な混入であり削除すべきものと考えられる。)MgO,CaO,BaO,SrOを作製した。これらの4種類の酸化物をそれぞれボールミルで微粉化し、分級することにより平均粒径10μmの酸化物粉末を調製した。これをジメトキシエタンに分散させ、比較例1記載の負極表面に塗布,乾燥し、4種類の負極を作製した。ここで使用した4種類の捕捉物質の添加量は、非晶質炭素重量に対して3%とした。正極,電解液,セパレータは比較例1と同一仕様のものを用い、図1に示した電池を作製した。MgO,CaO,BaO,SrOを用いた電池を、それぞれA307,A308,A309A,A310と表記する。
【0035】上で用いたシリカゲルにMg(OH)_(2 )水溶液を含浸させ、500℃で加熱することにより、シリカゲル表面に付着したMg(OH)_(2 )をMgOへ変化させた。これをボールミルで微粉化し、分級することにより平均粒径10μmのMgO担持シリカゲル粉末を調製した。これをジメトキシエタンに分散させ、比較例1記載の負極表面に塗布,乾燥した。ここで使用した捕捉物質の添加量は、非晶質炭素重量に対して3%とした。正極,電解液,セパレータは比較例1と同一仕様のものを用い、図1に示した電池を作製した。この電池をA311と表記する。
【0036】本実施例で作製した11種類の電池の平均放電電圧は3.7V、定格容量は0.9Ah,3.3Whである。表1に、本実施例の電池の60℃サイクル試験結果を示した。」

1ク 「【0045】(実施例11)実施例1と同一仕様の正極,セパレータ,電解液を用いて円筒型リチウム二次電池を製作した。本実施例で使用したゼオライトは、細孔径が0.3,0.5nm、平均粒径が5μmのシリカ・アルミナからなるゼオライトであり、水、またはアルコール,1-メチル-2-ピロリドン,プロピレンカーボネート,ジメチルカーボネート,γ-ブチロラクトンなどの非水極性溶媒にゼオライトを分散させ、その溶液中に炭酸リチウム,塩化リチウムなどのリチウム塩を溶解させて、プロトンをリチウムイオンで交換したゼオライトを使用した。このゼオライトを負極に混合し、ゼオライト混合負極を作製した。負極合剤の重量組成は非晶質炭素:ゼオライト:バインダー=87:3:10として、厚さ10μmの銅箔に塗布,プレス後に負極として使用した。平均細孔径が0.3,0.5nmのゼオライトを添加した本実施例の電池を、それぞれA111,A112とする。表1に、本実施例の電池の60℃サイクル試験結果を示した。
【0046】上で用いたゼオライトにCa(OH)_(2 )水溶液を含浸させ、500℃で加熱することにより、ゼオライト表面に付着したCa(OH)_(2 )をCaOへ変化させた。これをボールミルで微粉化し、分級することにより平均粒径10μmのCaO被覆ゼオライト粉末を調製した。これをジメトキシエタンに分散させ、比較例1記載の負極表面に塗布,乾燥した。ここで使用した捕捉物質の添加量は、非晶質炭素重量に対して3%とした。正極,電解液,セパレータは比較例1と同一仕様のものを用い、図1に示した電池を作製した。この電池をA113と表記する。」

1-2 引用文献1に記載された発明
ア 上記1イによれば、引用文献1では、リチウム二次電池が高温劣化する原因が、(1)正極活物質等から電解液へ溶出したマンガンやコバルト、ニッケル等の陽イオンが負極へ吸着あるいは還元・析出することによって負極の充放電を阻害すること、及び、(2)電解質の分解により発生したフッ化水素が正極活物質を腐食し、正極容量を低下させていることであることであると突き止めたことを踏まえて、引用文献1に記載された発明が解決しようとする課題(以下単に「課題」という。)は、高温環境においても、長寿命かつ自己放電率の小さなリチウム二次電池を提供することである。

イ 上記1ウによれば、上記課題を解決する手段とは、マンガンやコバルト、ニッケル等の陽イオンを、吸着,錯体形成,還元・析出反応によって捕捉する捕捉物質を利用すること(第一、第二の手段)、及び、電解質に含まれる微量のフッ化水素を、中和,イオン交換、あるいは溶解度の低いフッ化物塩の生成反応によって捕捉できる捕捉物質を利用すること(第三の手段)である(【0010】)。
そして、陽イオンやフッ化物イオンからなる不純物を補足、除去する補足物質として、ゼオライトや活性炭等を用いることができる(【0011】)。
なお、ここで、フッ化物イオンとは、上記アの検討も踏まえると、電解質に微量に含まれるものであるか、電解質の分解により発生されるフッ化水素由来のもの、つまり、電解質由来のものであると解される。

ウ 上記1エによれば、補足物質として、Ca,Baなどのアルカリ土類金属またはその酸化物を負極合剤層の最表面またはセパレータ表面に保持させることにより、フッ化物イオンをMgF_(2),CaF_(2),BaF_(2)などのフッ化物塩として捕捉できる(【0017】)。

エ 上記1オには、実施例1として、正極活物質としてLiMn_(2)O_(4)粉末を含むスラリーを正極集電体に塗布した正極と、負極活物質として非晶質炭素粉末、捕捉物質として5種類の活性炭のいずれかを含む負極と、正極と負極の間のセパレータと、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの等体積混合溶媒にLiPF_(6)を含有する電解液とを含むリチウム二次電池が記載されている。
また、上記1カには、比較例1として、捕捉物質を用いていない点の他は、実施例1と同一仕様の正極,電解液,セパレータを用い、負極活物質として非晶質炭素粉末を含む負極を含むリチウム二次電池B11が記載されている。
また、上記1キには、実施例3として、4種類の捕捉物質を用いたリチウム二次電池が記載されており、そのうちリチウム二次電池A302は、シリカ・アルミナからなるゼオライトを分散させた溶液をポリプロピレン製セパレータにコーティングしたセパレータと、正極、負極、電解液は、比較例1の電池B11と同一仕様のものを使用している。
したがって、実施例3のリチウム二次電池A302は、正極活物質としてLiMn_(2)O_(4)粉末を含むスラリーを正極集電体に塗布した正極と、負極活物質として非晶質炭素粉末を含む負極と、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの等体積混合溶媒にLiPF_(6)を含有する電解液と、シリカ・アルミナからなるゼオライトを分散させた溶液をポリプロピレン製セパレータにコーティングしたセパレータとを含むリチウム二次電池である。そして、実施例3のリチウム二次電池は、ゼオライトを含んでいるから、上記イの検討によれば、正極活物質等から電解液へ溶出したマンガン等の陽イオンや、電解質由来のフッ化物イオンからなる不純物を捕捉、除去することができるものである。

オ したがって、引用文献1には、実施例3のリチウム二次電池A302に注目すると、次の発明が記載されていると認められる。

「正極活物質としてLiMn_(2)O_(4)粉末を含むスラリーを正極集電体に塗布した正極と、負極活物質として非晶質炭素粉末を含む負極と、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの等体積混合溶媒にLiPF_(6)を含有する電解液と、シリカ・アルミナからなるゼオライトを分散させた溶液をポリプロピレン製セパレータにコーティングしたセパレータとを含むリチウム二次電池であって、
上記ゼオライトは、正極活物質等から電解液へ溶出したマンガン等の陽イオンや、電解質由来のフッ化物イオンからなる不純物を捕捉、除去するものである、
リチウム二次電池。」(以下、「引用発明1」という。)

2 引用文献2
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2001-319687号公報)には、「リチウムイオン二次電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

2ア 「【特許請求の範囲】【請求項1】 LiMn_(2)O_(4)を正極物質とし、Mnよりも標準酸化還元電位の高い金属種がイオンとして電解液又は電極に添加されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】 Mnよりも標準酸化還元電位の高い金属種がAg,Zn,Sn,Cu,Ptから選ばれた1種又は2種以上である請求項1記載のリチウムイオン二次電池。」

2イ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来のコバルト酸リチウムLiCoO_(2)に代え、原料コスト,環境保全性,低毒性等の点で有利なLiMn_(2)O_(4)が正極物質として使用され始めている。しかし、LiMn_(2)O_(4)正極を組み込んだリチウムイオン二次電池では、高温作動時に正極からMn成分が主にMn^(2+)となって溶出し、還元反応によって負極表面に析出する。負極へのMn析出は、容量低下,抵抗増大等により電池全体の特性を劣化させる原因となる。そこで、負極特性を改善するために、溶出したMn成分が負極の特性に及ぼす悪影響を抑制することが要求される。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、Mnよりも標準酸化還元電位の高い金属種をイオンとして電解液,電極等の反応場に添加し、Mn析出に優先して当該金属種を析出させることにより、LiMn_(2)O_(4)正極から溶出するMn成分の悪影響を抑え、良好な負極特性を維持し、充放電容量の劣化が少ないリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。本発明のリチウムイオン二次電池は、その目的を達成するため、LiMn_(2)O_(4)を正極物質とし、電解液又は電極にMnよりも標準酸化還元電位が高い金属種をイオンとして添加していることを特徴とする。Mnよりも標準酸化還元電位が高い金属種としては、Ag,,Zn,Sn,Cu,Pt等がある。たとえば、Agイオン供給源として過塩素酸銀,6フッ化リン酸銀,4フッ化ホウ酸銀,6フッ化ヒ酸銀,硫酸銀,硝酸銀等を電極や電解液に添加するとき、Mn析出に優先して電解液からAgが負極表面に析出する。
【0006】
【作用】本発明者等は、Mn^(2+)が溶存した電解液を含むリチウムイオン二次電池においてカーボン負極の特性が劣化する状況を種々調査検討した。負極へのMn析出は、次の不可逆的還元反応によって生成した金属Mnや追随する副反応生成物が負極表面に堆積する現象である。
Mn^(2+)+2e^(-)→Mn
【0007】したがって、Mnの不可逆的反応を抑制する成分を電解液,電極等の反応場に存在させると、負極へのMn析出が抑制されることが判る。このような前提で、反応場に種々の成分を添加することにより、負極へのMn析出に及ぼす影響を調査した。その結果、金属イオン添加物としてMnよりも標準酸化還元電位が高い、すなわち負極で反応しやすい金属種を反応場に存在させると、Mn成分の還元に先行して当該金属種が負極に析出し、電解液に接する負極材の表面に析出物皮膜が形成されることが判った。なかでも、電気伝導性の良好なAgを金属種として使用すると、生成したAg系皮膜により電解液中のMn成分から負極が保護され、しかもAg系皮膜の優れた電気伝導性によって負極内部の抵抗も低減する。
【0008】Agは、過塩素酸銀,6フッ化リン酸銀,4フッ化ホウ酸銀,6フッ化ヒ酸銀,硫酸銀,硝酸銀等のAgイオン供給源として電解液に添加される。或いは、これら銀塩を含む正極又は負極を使用することによっても、反応場にAgイオンを存在させることができる。正極に含まれる銀塩は、電解液に溶出し、負極では銀塩が共存することによりMn成分の析出に先行して負極表面にAg系皮膜となって析出する。この点,従来のAg担持負極は湿式又は乾式の前処理によって作成されているが、本発明ではこのような前処理を不要とし、Agイオンを電池内に共存させる簡便な方法を採用し、電気化学的析出反応を利用して均一なAg系皮膜を負極表面に生成させているため、少量の添加で十分な効果が発現される。負極表面がAg系皮膜で覆われるため、Mn成分による充放電容量の劣化がないことは勿論、Ag無添加の系に比較して充放電容量自体も向上する。これは、負極に皮膜として析出したAgが負極物質のグラファイトと層間化合物を生成することにより、電極内部の抵抗が低減し、グラファイト材の構造が安定化することによるものと推察される。」

第5 当審の判断
1 本願発明1と引用発明1との対比
ア 引用発明1の「正極活物質としてLiMn_(2)O_(4)粉末を含むスラリーを正極集電体に塗布した正極」、「負極活物質として非晶質炭素粉末を含む負極」は、それぞれ、本願発明1の「正極活物質を含有する正極活物質層を備える正極」、「負極」に相当する。

イ 引用発明1の「シリカ・アルミナからなるゼオライトを分散させた溶液をポリプロピレン製セパレータにコーティングしたセパレータ」は、正極及び負極の間にあるものであるから、本願発明1の「正負極間に介在するセパレータ」に相当する。

ウ 上記ア、イの検討を踏まえると、引用文献1の「正極」、「負極」、及び「セパレータ」は合わせて、本願発明1の「電極体」に相当する。

エ 引用発明1の「エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの等体積混合溶媒にLiPF_(6)を含有する電解液」は、本願発明1の「非水電解質」に相当する。

オ 引用発明1の「リチウム二次電池」は、上記ウのとおり「非水電解質」を含むものであるから、本願発明1の「非水電解質二次電池」に相当する。

カ 引用発明1が「正極活物質等から電解液へ溶出したマンガン等の陽イオンや、電解質由来のフッ化物イオンからなる不純物を捕捉、除去する」「シリカ・アルミナからなるゼオライト」を「分散させた溶液をポリプロピレン製セパレータにコーティング」していることと、本願発明1が「前記正極活物質層内、前記正極活物質層表面、前記セパレータ表面、および前記セパレータ内の少なくともいずれかに、Ag含有ゼオライトが配置されている」こととは、「前記正極活物質層内、前記正極活物質層表面、前記セパレータ表面、および前記セパレータ内の少なくともいずれかに、」「ゼオライトが配置されている」点で共通している。

キ したがって、本願発明1と引用発明1は、次の点で一致し、また、相違する。

(一致点)
「 正極活物質を含有する正極活物質層を備える正極、負極、および該正負極間に介在するセパレータを有する電極体と、
非水電解質と、
を含む非水電解質二次電池であって、
前記正極活物質層内、前記正極活物質層表面、前記セパレータ表面、および前記セパレータ内の少なくともいずれかに、ゼオライトが配置されている、
非水電解質二次電池。」

(相違点1)
「ゼオライト」が、本願発明1では「Ag含有ゼオライト」であるのに対して、引用発明1では「シリカ・アルミナからなるゼオライト」であり、Agを含有するものではない点。

2 相違点1についての判断
(1)引用文献1の記載に基く検討
ア 引用文献1には、上記1アの請求項14に、捕捉物質として銀を含むことを特徴するものが記載されているので、引用発明1において、銀を含む捕捉物質がどのような態様で使用され得るかについて検討する。

イ 引用文献1の発明の詳細な説明には、銀を含む捕捉物質について何ら記載されていないため、銀を含む捕捉物質が具体的にどのような物質(化合物)であり、どのような態様で使用され、また、どのような機能を有するものであるか不明である。しかしながら、上記1アの請求項14には、銀は、捕捉物質であるアルカリ土類金属と並列に記載されている金属であることから、アルカリ土類金属を含む捕捉物質と同様の態様及び機能を有するものであると仮定して検討する。

ウ まず、アルカリ土類金属を含む捕捉物質について検討する。引用文献1の上記1エの段落【0017】によれば、CaやBaなどのアルカリ土類金属またはその酸化物は、フッ化物イオンと反応した際に溶解度が小さいフッ化物塩を生成するものである。ここで、上記フッ化物イオンとは、電解質に微量に含まれるか、電解質の分解により発生されるフッ化水素由来のものと解され(第4の1の1-2イ参照。)、正極活物質を腐食し正極容量を低下させるものである。そこで、引用文献1では、フッ化物イオンをCaやBaなどのアルカリ土類金属またはその酸化物と反応させて溶解度が小さいフッ化物塩を生成し、電解液中のフッ化物イオン濃度を低下させることによって、正極活物質の腐食や正極容量の低下を抑制している。

エ アルカリ土類金属を含む捕捉物質を含む二次電池は、引用文献1の上記1キに実施例3として、また、上記1クに実施例11として記載されており、4種類の酸化物粉末(MgO,CaO,BaO,SrO)のいずれかを負極表面に塗布乾燥させたもの(【0034】)、MgO担持シリカゲル粉末を負極表面に塗布乾燥させたもの(【0035】)、CaO被覆ゼオライト粉末を負極表面に塗布乾燥させたもの(【0046】)が開示されている。

オ したがって、請求項14に記載された銀が、仮に、アルカリ土類金属と同様の態様及び機能を有するものであるとすれば、銀の酸化物(もしくは他の銀化合物)の形態で負極の表面等に配置されるか、銀の酸化物(もしくは他の銀化合物)で被覆したゼオライトの形態で負極の表面等に配置されることにより、フッ化物イオンと反応してフッ化物塩を生成するものであると推測される。

カ よって、引用文献1の記載に基けば、引用発明1に捕捉物質として銀を含ませることができたとしても、フッ化物イオンと反応してフッ化物塩を生成させる酸化銀粉末(もしくは他の銀化合物の粉末)を、他の捕捉物質であるゼオライトと共に負極の表面等に配置するか、銀の酸化物(もしくは他の銀化合物)で被覆したゼオライトの形態で負極の表面等に配置することが考えられるだけであり、捕捉物質であるゼオライトに代えてAg含有ゼオライトの形態で、すなわち、通常のゼオライトに含まれるNaイオンをAgでイオン交換したゼオライトの形態で使用すべきとする理由がない。

なお、ここで、本願発明1の「Ag含有ゼオライト」が「Agでイオン交換したゼオライト」を意味すると解されるのは次の理由による。
本願明細書には、「Ag含有ゼオライト」に関して、「当該非水電解質二次電池においては、前記正極活物質層内、前記正極活物質層表面、前記セパレータ表面、および前記セパレータ内の少なくともいずれかに、Ag含有ゼオライトが配置されている。このような構成によれば、正極活物質からの溶出金属をゼオライトでトラップすることができるのみならず、ゼオライトから放出されたAgイオンを負極に析出させて担持させることができる」(【0008】)、「本実施形態では、Ag含有ゼオライトが用いられる。すなわち、ゼオライトは、二酸化ケイ素からなる骨格を基本とし、一部のケイ素がアルミニウムで置換されることによって、結晶格子全体が負に帯電しており、電荷のバランスを取るために、1価の陽イオンを含む。通常のゼオライトは、1価の陽イオンとしてNaイオンを含むが、本実施形態で用いられるゼオライトは、1価の陽イオンとしてAgイオンを含む。」(【0025】)、「通常のゼオライトは、Naイオンを含有するのに対し、本実施形態で用いられるゼオライトは、Agイオンを含有する。」(【0027】)、「Ag含有ゼオライトは、Na含有ゼオライトのNaイオンをAgイオンと交換することにより入手することができ、市販品として入手することも可能である。」(【0028】)と記載されている。
上記記載によると、ゼオライトは、二酸化ケイ素からなる骨格において一部のケイ素(4価)をアルミニウム(3価)で置き換えることによって、結晶格子が負に帯電しており、電荷のバランスをとるために、通常のゼオライトは1価の陽イオンとしてNaイオンを含むものであるが、本願発明1のゼオライト、すなわち、Ag含有ゼオライトは、1価の陽イオンとしてNaイオンをAgイオンと交換したものである。このようにゼオライトがAgを含有することができるのは、ゼオライトが持っているイオン交換機能によるものであり、さらに、正極活物質からの溶出金属をゼオライトでトラップするとともに、Agをゼオライトから放出することができるのは、ゼオライトの有するイオン交換機能によるものであることが理解される。
よって、本願発明1の「Ag含有ゼオライト」は「Agでイオン交換したゼオライト」を意味するものであるということができる。

キ つまり、引用文献1の記載に基けば、引用発明1において、相違点1に係る本願発明1の特定事項とすること、すなわち、ゼオライトに代えてAg含有ゼオライトとすることが、当業者にとって容易になし得ることであるということはできない。

(2)引用文献2の記載に基く検討
ア 引用文献2の上記2イによれば、引用文献2に記載された発明が解決しようとする課題は、LiMn_(2)O_(4)正極を組み込んだリチウムイオン二次電池では、高温作動時に正極からMn成分が主にMn^(2+)となって溶出し、還元反応によって負極表面に析出すると、容量低下、抵抗増大等により電池全体の特性を劣化させる原因となるので、溶出したMn成分が負極の特性に及ぼす悪影響を抑制して負極特性を改善することである(【0004】)。

イ 引用文献2の上記2イによれば、正極から溶出するMnイオンよりも標準酸化還元電位が高い、すなわち負極で反応しやすい金属種であるAgを電解液中に添加することによって、Mn成分の還元に先行してAg系皮膜が負極に析出し、生成したAg系皮膜により電解液中のMn成分から負極が保護されるとともに、Ag系皮膜の優れた電気伝導性によって負極内部の抵抗も低減するので、上記課題を解決することができる(【0007】)。また、Agを添加するための具体的方法としては、過塩素酸銀等の銀塩を電解液に添加するか、銀塩を含む正極又は負極を使用する方法がある(【0008】)。

ウ 上記(1)では、引用文献1の請求項14に、銀を含む捕捉物質が記載されている点について、引用文献1の記載に基いて、銀を含む捕捉物質がどのような態様で使用され得るかについて検討したが、引用文献2の上記ア、イの検討に基いて、銀がどのような形態で使用され得るかについて以下検討する。

エ 上記イに記載したように、電解液中に添加されるAgは、Mnよりも標準酸化還元電位が高く、Mn成分の還元に先行してAg系皮膜が負極に析出することによって、負極へのMnの析出を抑制するものである。したがって、引用文献2に開示された電解液中にAgを供給する過塩素酸銀等の銀塩は、Mnを捕捉、除去する機能を有する物質ではなく、電解液中にAgを供給しても、Mnイオンは電解液中に存在し続けるものと解されるので、引用文献1でいうところの「捕捉物質」には該当しない。

オ したがって、引用発明1において、銀を含む捕捉物質であれば、ゼオライトと共に電池内に配置する動機付けがあるといえるが、引用文献2に記載の銀塩は銀を含む捕捉物質には該当しないので、引用発明1のリチウム二次電池において、銀を含む捕捉物質として、引用文献2に記載の銀塩を添加する動機付けがない。

カ また、仮に、溶出するMnイオンの悪影響を抑制するという別の動機付けによって、引用発明1のリチウム二次電池に引用文献2に記載の銀塩を、上記イに記載したように、電解液に添加するか、銀塩を含む正極又は負極を使用することが可能であったとしても、単に銀塩を添加しただけでは、ゼオライトに含まれる陽イオンの少なくとも一部をAgイオンに置換しているとまではいえないし、当該銀塩から供給されるAgイオンは負極に析出させるために電解液中に供給されるべきものであるから、引用発明1のゼオライトをAgでイオン交換することによってAg含有ゼオライトとすることの動機付けにはならない。

キ つまり、引用文献2の記載を参照しても、引用発明1において、相違点1に係る本願発明1の特定事項とすること、すなわち、ゼオライトに代えてAg含有ゼオライトとすることが、当業者にとって容易になし得ることであるということはできない。

(3)本願発明1の効果について
ア 引用発明1は、リチウム二次電池が高温劣化する原因である、電解液中に溶出するマンガン等の陽イオンや、電解液に含まれるフッ化水素由来のフッ化物イオンを、捕捉物質によって捕捉、除去することによって、高温環境下においても長寿命なリチウム二次電池を提供することができるとの効果を奏する。

イ 引用文献2に記載された発明は、LiMn_(2)O_(4)正極を組み込んだリチウムイオン二次電池では、高温作動時に正極からMn成分が主にMn^(2+)となって溶出し、還元反応によって負極表面にMnが析出すると、容量低下、抵抗増大等により電池全体の特性を劣化させる原因となるところ、Agを電解液中に添加することによって、Mn成分の還元に先行してAg系皮膜が負極に析出し、生成したAg系皮膜により電解液中のMn成分から負極が保護されるとともに、Ag系皮膜の優れた電気伝導性によって負極内部の抵抗を低減することができるとの効果を奏する。

ウ 一方、本願発明1は、従来の非水電解質二次電池において、高温での充放電時に正極活物質から溶出するマンガン等の金属を、ゼオライトを用いてトラップしていたが、従来のゼオライトでは繰り返し充放電時の金属リチウム析出耐性が十分ではなかったという課題に対し、ゼオライトに代えて、Ag含有ゼオライトを使用することによって、正極活物質からの溶出金属をトラップするのみならず、ゼオライトから放出されたAgイオンを負極に析出させることにより、負極の抵抗を減少させるのみならず、金属リチウムが負極に析出することを抑制する能力である金属リチウム析出耐性を高めることができるとの効果を奏する。

エ したがって、本願発明1は、単に、正極活物質から溶出するマンガン等の金属をトラップするのみならず、負極における金属リチウム析出耐性を高めるという、引用文献1及び引用文献2のいずれにも記載も示唆もされていない異質な効果を奏するものである。

(4)小活
以上から、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえず、また、上記相違点1に係る本願発明1の特定事項を備えることによって格別の効果を奏するものであるから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明と、引用文献2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1、2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-04-23 
出願番号 特願2016-150406(P2016-150406)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 井上 猛
池渕 立
発明の名称 非水電解質二次電池  
代理人 安部 誠  

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