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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 A61B |
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管理番号 | 1373491 |
審判番号 | 不服2020-14129 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-10-08 |
確定日 | 2021-05-11 |
事件の表示 | 特願2017- 94035「X線撮影装置、X線撮影補助装置およびX線撮影方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月29日出願公開、特開2018-187227、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願(以下「本願」と記す。)は、平成29年(2017年)5月10日の出願であって、平成31年4月1日に審査請求がなされ、令和2年1月7日付けで拒絶理由が通知され、同年3月5日に意見書及び手続補正書が提出され、同年4月3日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年5月15日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年7月29日付けで同年5月15日付けでされた手続補正についての補正の却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶査定(原査定)されたところ、同年10月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に提出された手続補正書により手続補正がなされ、同年12月16日に前置報告がなされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和2年7月29日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願の下記の請求項に係る発明は、下記の引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・請求項1,9及び11-12 ・引用文献1及び4 ・請求項2-8 ・引用文献2,1及び4 ・請求項10 ・引用文献1,3及び4 引用文献等一覧 1.特開2012-110355号公報 2.国際公開第2013/058055号 3.特開2017-60710号公報 4.国際公開第2017/033228号 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 審判請求時の補正における、特許請求の範囲の請求項1、11及び12の「前記エア袋は、前記被検体を撮影する際に身体の一部を覆って前記被検体を固定するネットと前記被検体との間に配置されている」を「前記エア袋は、ネットと前記被検体との間に配置されており、前記ネットは、動きやすい前記被検体を撮影する際に身体の一部を覆って前記被検体を固定するものである」に変更する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、同補正における、明細書の段落【0011】、【0012】及び【0013】の「前記エア袋は、前記被検体を撮影する際に身体の一部を覆って前記被検体を固定するネットと前記被検体との間に配置されている」を「前記エア袋は、ネットと前記被検体との間に配置されており、前記ネットは、動きやすい前記被検体を撮影する際に身体の一部を覆って前記被検体を固定するものである」に変更する補正は、補正により変更された請求項1,11及び12の記載に、明細書の記載をあわせるための補正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 上記特許請求の範囲及び明細書の補正が、新規事項を追加するものではないかについて検討すると、上記補正により「前記エア袋は、前記被検体を撮影する際に身体の一部を覆って前記被検体を固定するネットと前記被検体との間に配置されている」から変更された「前記エア袋は、ネットと前記被検体との間に配置されており、前記ネットは、動きやすい前記被検体を撮影する際に身体の一部を覆って前記被検体を固定するものである」という事項は、明細書の段落【0062】に開示されているから、当初明細書等に記載された事項であり、上記特許請求の範囲及び明細書の補正は新規事項を追加するものではないといえる。 そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-4に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。 第4 本願発明 本願請求項1ないし12に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明12」という。)は、令和2年10月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし12は以下のとおりである。(下線は補正箇所を表す。) 「【請求項1】 X線束を被検体に照射するX線源と、 前記被検体を透過した前記X線束を検出するX線撮像手段と、 前記被検体の呼吸による体動によって内部の空気圧が変動するエア袋と、 前記エア袋から伝達される空気圧を検出する空気圧検出手段と、 前記空気圧検出手段によって検出される空気圧に基づいて前記X線束の照射タイミングの指示に関する情報を演算する演算手段と、を備え、 前記エア袋は、ネットと前記被検体との間に配置されており、 前記ネットは、動きやすい前記被検体を撮影する際に身体の一部を覆って前記被検体を固定するものである ことを特徴とするX線撮影装置。 【請求項2】 前記演算手段は、前記空気圧検出手段によって検出される空気圧が極大値を示す時期を含むピーク期間内で前記X線束の照射を指示する情報を演算することを特徴とする請求項1に記載のX線撮影装置。 【請求項3】 前記演算手段によって演算される前記X線束の照射タイミングの指示に関する情報を操作者に認識可能に報知する報知手段を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のX線撮影装置。 【請求項4】 前記演算手段によって演算される前記X線束の照射タイミングの指示に関する情報は、無線通信によって前記報知手段に送信されることを特徴とする請求項3に記載のX線撮影装置。 【請求項5】 前記報知手段は、発する光の色の変化によって前記X線束の照射タイミングの指示に関する情報を操作者に報知することを特徴とする請求項3または請求項4に記載のX線撮影装置。 【請求項6】 前記報知手段は、発する光の強度または点滅速さの変化によって前記X線束の照射タイミングの指示に関する情報を操作者に報知することを特徴とする請求項3または請求項4に記載のX線撮影装置。 【請求項7】 前記報知手段は、発する音の変化によって前記X線束の照射タイミングの指示に関する情報を操作者に報知することを特徴とする請求項3または請求項4に記載のX線撮影装置。 【請求項8】 前記報知手段は、前記空気圧検出手段によって検出される空気圧の変動を波形で表示することによって前記X線束の照射タイミングの指示に関する情報を操作者に報知することを特徴とする請求項3または請求項4に記載のX線撮影装置。 【請求項9】 前記演算手段によって演算される前記X線束の照射タイミングの指示に関する情報に基づいて前記X線源を駆動させる制御を行う駆動制御手段を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のX線撮影装置。 【請求項10】 前記エア袋は、使い捨て可能であり、 前記エア袋と空気圧検出手段とを接続するチューブを備え、 前記エア袋における前記チューブが接続される接続部には、前記エア袋の外から内への空気の流入を許容するとともに内から外への空気の流出を禁止する逆止弁が設けられており、前記逆止弁は、前記チューブが前記接続部に接続されるときに開放されることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のX線撮影装置。 【請求項11】 被検体の呼吸による体動によって内部の空気圧が変動するエア袋と、 前記エア袋から伝達される空気圧を検出する空気圧検出手段と、 前記空気圧検出手段によって検出される空気圧に基づいてX線束の照射タイミングの指示に関する情報を演算する演算手段と、 前記演算手段によって演算される前記X線束の照射タイミングの指示に関する情報をX線撮影装置の操作者に認識可能に報知する報知手段と、を備え、 前記エア袋は、ネットと前記被検体との間に配置されており、 前記ネットは、動きやすい前記被検体を撮影する際に身体の一部を覆って前記被検体を固定するものである ことを特徴とするX線撮影補助装置。 【請求項12】 X線束を被検体に照射するX線源と、 前記被検体を透過した前記X線束を検出するX線撮像手段と、を備えるX線撮影装置を用いて撮影を行うX線撮影方法であって、 前記被検体の呼吸による体動によって内部の空気圧が変動するエア袋から伝達される空気圧を検出する検出ステップと、 前記検出ステップにおいて検出される空気圧に基づいて前記X線束の照射タイミングの指示に関する情報を演算する演算ステップと、を含み、 前記エア袋は、ネットと前記被検体との間に配置されており、 前記ネットは、動きやすい前記被検体を撮影する際に身体の一部を覆って前記被検体を固定するものであることを特徴とするX線撮影方法。」 第5 引用文献、引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審が付与した。以下同じ。) (1)「【0001】 本発明は、外部から入力される呼吸同期用信号に基づいて制御され、呼吸による体動の影響を抑制することができるようになっている、CTスキャン装置、PET装置、放射線治療シミュレーション装置、放射線治療装置等の医療機器に対して、前記呼吸同期用信号を生成して出力することができる呼吸同期用信号生成装置と、呼吸の動作を検出する体動検出センサに関するものである。」 (2)「【0015】 本実施の形態に係る呼吸同期用信号生成装置について、呼吸同期用信号生成装置を備えたCTスキャン装置を例に説明する。 CTスキャン装置1は、図1に示されているように、従来周知のCTスキャン装置と同様に、人体を走査するガントリ2、患者が仰臥する寝台3、等から概略構成されている。ガントリ2には、その中央部に、人体が挿入される所定の内径の貫通孔が明けられている。すなわち開口部5が設けられている。ガントリ2の内部には、図1には示されていないが、X線を曝射するX線源と、人体を透過したX線を検出する多数のセンサからなる検出器アレイとが、開口部5を挟んで対向する位置に設けられている。このようなX線源と検出器アレイは、お互いに開口部5を挟んで対向する位置を採りながら、開口部5を中心に円周方向に回転できるようになっている。ガントリ2には、ガントリ2と寝台3を制御したりデータを処理するコンピュータが設けられている。 【0016】 寝台3は、床に設置される台座7と、台座7の上に設けられている略長方形の板状を呈するテーブル8とから構成されている。そしてテーブル8は、図1には示されていないが、台座7の内部に設けられているテーブル駆動機構によって長手方向にスライドすることができるようになっている。このような寝台3は、ガントリ2に隣接して設置され、テーブル駆動機構を駆動すると、テーブル8が開口部5に挿入されたり、後退するようになっている。 【0017】 テーブル8の上面には、本実施の形態に係る体動検出センサ11が設けられている。体動検出センサ11は、後でその構造を詳しく説明するように、圧力を受ける受圧部がシート状に形成されたセンサであり、テーブル8の上面に患者が仰臥したときに、患者の背面が受圧部が当たるようにして、呼吸の動きによる体動を電圧の変化として検出することができる。体動検出センサ11には、フラットケーブル12が接続され、フラットケーブル12の先端には送信機14が接続されている。送信機14は、テーブル8の長辺の端面に固定されており、フラットケーブル12は十分に短いので、フラットケーブル12と送信機14が断層画像の撮影の妨げになったり患者の邪魔になることはない。 【0018】 ガントリ2の近傍には、呼吸同期用信号生成装置16が設置され、呼吸同期用信号生成装置16とガントリ2は所定の信号ケーブル18によって接続されている。呼吸同期用信号生成装置16は、オープンコレクタ端子、TTLレベルラインドライバ出力端子、START/STOP出力端子、RS422接続端子を備えているので、信号ケーブル18には、ガントリ2の入力端子19に対応する任意のタイプのケーブルを選定することができる。呼吸同期用信号生成装置16には、受信部あるいは受信機が設けられ、送信機14から送信される信号を受信することができるようになっている。なお、送信機14と受信機における通信は、電磁波漏洩による機器の誤動作を引き起こす恐れの無い、Bluetooth通信、あるいは近赤外線通信によって実施される。従って、断層画像装置1や周辺に設置されている医療機器は誤動作の恐れがない。」 (3)「【0019】 本実施の形態に係る体動検出センサ11は、図2に示されているように、上面の面積が大きいシート状を呈する中空の第1の容器21、所定の大きさの中空の第2の容器22、第2の容器22に格納されている薄膜センサ23等から概略構成されている。第1の容器21は、患者の背面とテーブルの間に挿入されて患者の背面の圧力を受ける受圧部になっているので、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等の可撓性材料から形成されているが、第2の容器22は、薄膜センサ23を保護する容器であるので、特に可撓性を有する必要はなく、本実施の形態においてはアクリル樹脂から形成されている。第1、2の容器21、22は可撓性材料からなる連結管25によって、気密的または液密的に連結され、それぞれの中空部が連通している。薄膜センサ23は、PVDF(polyvinilidene fluorite)、窒化アルミニウム、または酸化亜鉛からなる所定の大きさの薄膜状の圧電素子であり、本実施の形態においては窒化アルミニウムからなる。薄膜センサ23には、以下に説明するように所定の接続用チップを介してフラットケーブル12が接続され、フラットケーブル12には、既に説明したように、送信機14が接続されている。このような体動検出センサ11、すなわち第1、2の容器21、22と連結管25には、シリコンオイル27が封入され、薄膜センサ23は全体がシリコンオイル27中に浸された状態になっている。」 (4)「【0021】 本実施の形態に係る呼吸同期用信号生成装置を備えたCTスキャン装置1の作用を説明する。図1に示されているように、患者Kを寝台3のテーブル8の上に仰臥させる。このとき、体動検出センサ11の受圧部、すなわち第1の容器21の位置を調整して、例えば、肩胛骨近傍、臀部等の、患者の背面とテーブル8が接触する部分に受圧部が当たるように挿入する。患者Kは呼吸の動作と心臓の鼓動による体動によってわずかに動く。体動検出センサ11の受圧部は体動による圧力の変化を受ける。そして、シリコンオイル27を介して作用した圧力の変化を、薄膜センサ23において電圧の変化として検出する。受圧部の面積は十分に広いので効率よく背中の圧力を受けることができ、シリコンオイル27によって薄膜センサ23の全表面に均一に圧力が作用するので、圧力の変化を精度良く検出することができる。検出された電圧の変化を送信機14によって呼吸同期用信号生成装置16に送信する。呼吸同期用信号生成装置16では、入力された電圧の波形を処理して呼吸に同期するパルス信号、すなわち同期用信号を生成する。生成した同期用信号をガントリ2に入力する。ところで、電圧の波形には、呼吸の動作と心臓の鼓動による異なる周波数成分が含まれ、さらにはノイズも含まれている。従って、フーリエ変換、ウェーブレット変換等の周知の分析方法を適用して呼吸の動作に対応する周波数成分を抽出する。そうすると、呼吸のタイミングを得ることができる。なお、入力される電力の波形には、短時間に変化する周波数成分が多く含まれているので、ウェーブレット変換による分析方法が特に有効である。分析方法として、例えば、日本機械学会[No.01-5]福祉工学シンポジウムCD-ROM論文集[2001.8.7,東京]の論文「W301 PVDFセンサを用いた睡眠時呼吸・心拍の無拘束侵襲計測に関する研究(第2報:ウェーブレット変換を用いた呼吸心拍の検出)」に記載されている方法を適用することができる。 【0022】 テーブル8を駆動して患者Kを開口部5に挿入し、断層画像を撮影したい部位が開口部5の中心に位置するようにする。ガントリ2に入力される同期用信号に同期して、X線を曝射して断層画像を撮影する。このとき、患者Kの患者の背面とテーブルの接触部に挿入されている受圧部、すなわち、体動検出センサ11の第1の容器21とシリコンオイル27はX線を吸収しないので、断層画像にこれらが映ることはない。引き続き、テーブル8を駆動して患者Kをわずかに挿入して、同期用信号に同期して断層画像を撮影する。以下同様にして複数枚の断層画像を撮影する。」 (5)「【0024】 本実施の形態に係る断層画像装置は、色々な変形が可能である。例えば、体動検出センサ11と呼吸同期用信号生成装置16は、送受信機によって無線通信されているように説明されているが、所定の信号ケーブルによって直接接続されていてもよい。ただし、このような信号ケーブルは、寝台のテーブルの裏側や縁部に配線して、断層画像の撮影の妨げにならないようにする必要がある。また、体動検出センサ11の第1、2の容器21、22にはシリコンオイルが封入されているように説明されているが、鉱物油等の他の液体であっても同様に実施することができる。さらには、このようなシリコンオイル等の液体の代わりに、二酸化炭素、窒素ガス等の不活性ガス、空気等の気体が封入されていてもよい。そうすると、万一、第1、2の容器21、22が破損しても、液漏れ事故が発生しない。」 (6)「【図1】 」 (7)「【図2】 」 上記引用文献1の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「呼吸同期用信号を生成して出力することができる呼吸同期用信号生成装置と、呼吸の動作を検出する体動検出センサを備え、呼吸同期用信号に基づいて制御され、呼吸による体動の影響を抑制することができるようになっているCTスキャン装置及び方法において、 CTスキャン装置1は、人体を走査するガントリ2、患者が仰臥する寝台3、等から構成され、 ガントリ2には、その中央部に、人体が挿入される所定の内径の貫通孔すなわち開口部5が設けられており、ガントリ2の内部には、X線を曝射するX線源と、人体を透過したX線を検出する多数のセンサからなる検出器アレイとが、開口部5を挟んで対向する位置に設けられており、ガントリ2には、ガントリ2と寝台3を制御したりデータを処理するコンピュータが設けられており、 寝台3は、床に設置される台座7と、台座7の上に設けられている略長方形の板状を呈するテーブル8とから構成されており、テーブル8の上面には、体動検出センサ11が設けられており、 体動検出センサ11は、上面の面積が大きいシート状を呈する中空の第1の容器21、所定の大きさの中空の第2の容器22、第2の容器22に格納されている薄膜センサ23等から構成され、第1の容器21は、患者の背面とテーブルの間に挿入されて患者の背面の圧力を受ける受圧部になっており、薄膜センサ23には、所定の接続用チップを介してフラットケーブル12が接続され、フラットケーブル12には、送信機14が接続されており、テーブル8の上面に患者が仰臥したときに、患者の背面が第1の容器21である受圧部に当たるようにして、呼吸の動きによる体動を電圧の変化として検出することができるものであり、このような体動検出センサ11、すなわち第1、2の容器21、22と連結管25には、シリコンオイル27が封入され、薄膜センサ23は全体がシリコンオイル27中に浸された状態になっているが、シリコンオイルの代わりに、空気等の気体が封入されていてもよく、 ガントリ2の近傍には、呼吸同期用信号生成装置16が設置され、呼吸同期用信号生成装置16とガントリ2は所定の信号ケーブル18によって接続され、呼吸同期用信号生成装置16には、受信部あるいは受信機が設けられ、送信機14から送信される信号を受信することができるようになっており、 呼吸同期用信号生成装置を備えたCTスキャン装置1の作用は、患者Kを寝台3のテーブル8の上に仰臥させ、このとき、体動検出センサ11の受圧部、すなわち第1の容器21の位置を調整して、例えば、肩胛骨近傍、臀部等の、患者の背面とテーブル8が接触する部分に受圧部が当たるように挿入し、患者Kは呼吸の動作と心臓の鼓動による体動によってわずかに動き、体動検出センサ11の受圧部は体動による圧力の変化を受け、そして、圧力の変化を、薄膜センサ23において電圧の変化として検出し、検出された電圧の変化を送信機14によって呼吸同期用信号生成装置16に送信し、呼吸同期用信号生成装置16では、入力された電圧の波形を処理して呼吸に同期するパルス信号、すなわち同期用信号を生成し、生成した同期用信号をガントリ2に入力し、ガントリ2に入力される同期用信号に同期して、X線を曝射して断層画像を撮影するものである、 CTスキャン装置及び方法。」 2.引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、段落[0096][0098][0105][0114]等に、放射線を用いた撮影を行う装置方法において、撮影タイミングを、色、表示、音声、グラフ等で示す技術が開示されている。 3.引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、段落【0033】に生体信号を測定する空気袋に逆止弁を用いる技術が開示されている。 4.引用文献4について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、次の事項が記載されている。 「[0069] 図6は、光ファイバシート10による嚥下運動の測定例を示す図である。図6には、光ファイバシート10からの検出信号の出力波形が示されている。この出力波形は、一人の被験者(成人男性)が連続して唾液を嚥下したときの測定結果である。 [0070] 具体的には、横幅が100mm、縦幅が500mmの矩形状のシート状体12に、プラスチック光ファイバを図5の配設例に従って配設することにより光ファイバシート10を構成した。この光ファイバシート10を、伸縮性を有する材料からなる環状のネット(医療用ネット包帯)を用いて、喉頭部を中心に被験者の首回りに装着した。この状態で、プラスチック光ファイバの入力端に、光源部から一定光量の光を連続的に入射し、プラスチック光ファイバの出力端から出射される光の光量を光パワーメータを用いて測定した。」 上記引用文献4の記載事項を総合勘案すると、引用文献4には、次の技術(以下「引用文献4開示技術」という。)が記載されていると認められる。 「光ファイバシート10による嚥下運動の測定において、光ファイバシート10を、伸縮性を有する材料からなる環状のネット(医療用ネット包帯)を用いて、喉頭部を中心に被験者の首回りに装着する技術。」 5.引用文献5について 令和2年12月16日に作成された前置報告書において引用文献5として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である「“調査報告:小児撮影について?施設調査結果とともに?”,かながわ放射線だより,公益社団法人神奈川県放射線技師会, 2014年5月7日発行,Vol.67,No.1,p.15-16」には、写真とともに次の事項が記載されている。 (1)「体躯部をネット、頭をマジックバンドで固定した上で、あごの動きを専用の帯で抑制します。 以上の固定具や抑制具は小児の体動を抑制して動きによる撮影の失敗:再撮影を防止することが目的であり、かつ撮影時の安全を保つために使用しています。 」(第16ページ下方より) 上記引用文献5の記載事項及び写真を総合勘案すると、引用文献5には、次の技術(以下「引用文献5開示技術」という。)が記載されていると認められる。 「撮影時に小児の体動を抑制する固定具としてのネット」 6.引用文献6について 当審で新たに発見した、本願の出願前に頒布された刊行物である「特開平9-294733号公報」(以下「引用文献6」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【0019】そして、この発明の磁気共鳴断層撮影装置の特徴的構成として、ガントリ部1の内部空間の被検体に装着される呼吸検出器(体動検出手段)21と、呼吸検出器21からの体動検出信号に基づいてRFパルスP1とCHESSパルスP2の励起周波数を調整するための励起周波数調整手段を具備する。呼吸検出器21は、ガントリ部1の内部空間における被検体の体動を検出して体動の程度に比例した強度を持つ体動検出信号を出力するものである。この呼吸検出器21は、図3に示すように、被検体Mの腹部に巻ける長さのベルト22の片面に空気袋23が取り付けられているとともに、空気袋23の内部と連通するチューブ24により空気袋23と圧力センサ25との間が接続された構成のものである。なお、呼吸検出器21には、全て非磁性材のものが用いられる。磁性材のものだとガントリ部1の内部空間の磁場分布を乱してしまうからである。 【0020】呼吸検出器21は、図4に示すように、空気袋23を内側にしてベルト22を被検体Mの腹部に巻き付け、面ファスナー(図示省略)などで止め付けて動かないようにして使われる。被検体Mの腹部表面とベルト22の裏面の間で挟まれた空気袋23が、被検体Mの呼吸につれて伸縮する一方、空気袋23の伸縮に応じて空気圧が変化し、この圧力変化がチューブ24を介して圧力センサ25に伝達されて、圧力センサ25の出力変化として現れる。このようにして得られる圧力センサ25の出力信号の強度変化は、被検体の呼吸に伴って変われる体動の程度と比例関係にある。すなわち、体動検出信号としての圧力センサ25の出力信号は、図5に示すように、被検体の呼吸周期と同じ周期で呼吸の深度に応じた強度変化を示すのである。そして、実施例では、圧力センサ25の出力信号が装置本体側へ無線送信される構成となっている。呼吸検出器21が無線送信機能を備えているのである。」 (2)「【図3】 」 (3)「【図4】 」 上記引用文献6の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献6には、次の技術(以下「引用文献6開示技術」という。)が記載されていると認められる。 「被検体Mの腹部に巻ける長さのベルト22の片面に空気袋23が取り付けられているとともに、空気袋23の内部と連通するチューブ24により空気袋23と圧力センサ25との間が接続された構成のものである呼吸検出器21を、 空気袋23を内側にしてベルト22を被検体Mの腹部に巻き付け、面ファスナーなどで止め付けて動かないようにして使う技術。」 第6 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1を、引用発明1と比較する。 ア 引用発明1の「X線を曝射するX線源」は、本願発明1における「X線束を被検体に照射するX線源」に相当する。 イ 引用発明1の「人体を透過したX線を検出する多数のセンサからなる検出器アレイ」は、本願発明1における「被検体を透過した」「X線束を検出するX線撮像手段」に相当する。 ウ 引用発明1では、「体動検出センサ11は、上面の面積が大きいシート状を呈する中空の第1の容器21、所定の大きさの中空の第2の容器22、第2の容器22に格納されている薄膜センサ23等から構成され、第1の容器21は、患者の背面とテーブルの間に挿入されて患者の背面の圧力を受ける受圧部になっており、薄膜センサ23には、所定の接続用チップを介してフラットケーブル12が接続され、フラットケーブル12には、送信機14が接続されており、テーブル8の上面に患者が仰臥したときに、患者の背面が第1の容器21である受圧部に当たるようにして、呼吸の動きによる体動を電圧の変化として検出することができるものであ」り、「体動検出センサ11、すなわち第1、2の容器21、22と連結管25には、シリコンオイル27が封入され、薄膜センサ23は全体がシリコンオイル27中に浸された状態になっているが、シリコンオイルの代わりに、空気等の気体が封入されていてもよ」いことから、空気が封入された場合の引用発明1の「体動検出センサ11」の「上面の面積が大きいシート状を呈する中空の第1の容器21」は、本願発明1における「前記被検体の呼吸による体動によって内部の空気圧が変動するエア袋」に相当し、引用発明1の「体動検出センサ11」の「薄膜センサ23」は、本願発明1における「エア袋から伝達される空気圧を検出する空気圧検出手段」に相当する。 エ 引用発明1では、「体動検出センサ11の受圧部は体動による圧力の変化を受け、そして、圧力の変化を、薄膜センサ23において電圧の変化として検出し、検出された電圧の変化を送信機14によって呼吸同期用信号生成装置16に送信し、呼吸同期用信号生成装置16では、入力された電圧の波形を処理して呼吸に同期するパルス信号、すなわち同期用信号を生成し、生成した同期用信号をガントリ2に入力し、ガントリ2に入力される同期用信号に同期して、X線を曝射して断層画像を撮影するものである」ことから、引用発明1の「呼吸同期用信号生成装置16」は、本願発明1における「前記空気圧検出手段によって検出される空気圧に基づいて前記X線束の照射タイミングの指示に関する情報を演算する演算手段」に相当する。 オ 引用発明1の「CTスキャン装置」は、本願発明1の「X線撮影装置」に相当する。 すると、本願発明1と、引用発明1とは、次の点で一致する。 <一致点> 「X線束を被検体に照射するX線源と、 前記被検体を透過した前記X線束を検出するX線撮像手段と、 前記被検体の呼吸による体動によって内部の空気圧が変動するエア袋と、 前記エア袋から伝達される空気圧を検出する空気圧検出手段と、 前記空気圧検出手段によって検出される空気圧に基づいて前記X線束の照射タイミングの指示に関する情報を演算する演算手段と、を備え、 たX線撮影装置。」 一方で、両者は、次の点で相違する。 <相違点> エア袋が、本願発明1では「ネットと前記被検体との間に配置されており、 前記ネットは、動きやすい前記被検体を撮影する際に身体の一部を覆って前記被検体を固定するものである」のに対し、引用発明1では「患者Kを寝台3のテーブル8の上に仰臥させ」「患者の背面とテーブル8が接触する部分に」エア袋である「第1の容器21」「が当たるように挿入し」ている点。 (2)判断 前記「(1)」で記載した相違点について判断する。 ア 上記「第5 4.」の引用文献4開示技術は、光ファイバシート10というセンサを伸縮性を有する材料からなる環状のネット(医療用ネット包帯)を用いて被検者の首回りに装着する技術である。 ここで引用発明1の体動検出センサ11の中空の第1の容器21は、人体に接触させるセンサであるから、引用発明1において、第1の容器21を人体に接触させる技術として、上記引用文献4開示技術の環状のネット(医療用ネット包帯)を採用して、第1の容器21を環状のネット(医療用ネット包帯)と人体の間に配置することは、当業者ならば容易になしえたことである。 しかしながら、引用文献4開示技術の環状のネット(医療用ネット包帯)は、センサを人体に固定するものであるが、上記相違点に係る「動きやすい前記被検体を撮影する際に身体の一部を覆って前記被検体を固定するもの」ではない。 ゆえに、引用発明1に引用文献4開示技術を採用したとしても、上記相違点に係る構成とはならない。 イ 上記「第5 5.」の引用文献5開示技術は、小児の体動を抑制する固定具としてのネットである。 ここで引用発明1において、患者が小児である場合に患者を固定する技術として、上記引用文献5開示技術のネットを採用して、引用発明1に動きやすい前記被検体を撮影する際に身体の一部を覆って前記被検体を固定するネットを備えることは、当業者ならば容易になしえたことである。 しかしながら、引用発明1に引用文献5開示技術のネットを採用したとしても、引用発明1の体動検出センサ11の第1の容器21は、患者の背面とテーブル8が接触する部分に挿入されていることから、上記相違点に係る「前記エア袋は、ネットと前記被検体との間に配置されてお」るものではない。 ゆえに、引用発明1に引用文献5開示技術を採用したとしても、上記相違点に係る構成とはならない。 ウ 上記「第5 6.」の引用文献6開示技術は、呼吸検出器21の空気袋23をベルト22の内側に配置して被検体Mの腹部に巻き付け、面ファスナーなどで止め付けて動かないようにして使う技術である。 ここで引用発明1の体動検出センサ11の中空の第1の容器21は、人体に接触させるセンサであるから、引用発明1において、第1の容器21を人体に接触させる技術として、上記引用文献6開示技術を採用して、第1の容器21をベルトや面ファスナーと人体の間に配置することは、当業者ならば容易になしえたことである。 しかしながら、引用文献6開示技術のベルトや面ファスナーは、センサを人体に固定するものであるが、上記相違点に係る「エア袋は、ネットと前記被検体との間に配置されており、前記ネットは、動きやすい前記被検体を撮影する際に身体の一部を覆って前記被検体を固定するもの」ではない。 ゆえに、引用発明1に引用文献6開示技術を採用したとしても、上記相違点に係る構成とはならない。 エ さらに、引用発明1の第1の容器21を人体に固定するために、引用文献4開示技術を採用し、さらに撮影時の小児の体動を抑制するために引用文献5開示技術を採用した場合は、容器の固定の課題と人体の固定の課題の2つの課題をそれぞれ解決するためにそれぞれの技術を採用することとなり、当業者が容易になしうるものであるが、その場合には、引用文献5開示技術のネットはあくまで人体の固定目的であり、引用発明1の第1の容器21を固定するためのネットではないから、上記相違点に係る構成とはならない。 オ そして、引用発明1の第1の容器21を人体に固定するために、引用文献6開示技術を採用し、さらに撮影時の小児の体動を抑制するために引用文献5開示技術を採用した場合は、容器の固定の課題と人体の固定の課題の2つの課題をそれぞれ解決するためにそれぞれの技術を採用することとなり、当業者が容易になしうるものであるが、その場合には、引用文献5開示技術のネットはあくまで人体の固定目的であり、引用発明1の第1の容器21を固定するためのネットではないから、上記相違点に係る構成とはならない。 カ 以上のことから、上記相違点に係る発明特定事項を引用発明1、引用文献4ないし6に開示された技術から当業者が導き出すことはできない。 キ また、引用文献2は上記「第5 2.」より、放射線を用いた撮影を行う装置方法において、撮影タイミングを、色、表示、音声、グラフ等で示す技術が開示されている文献であり、引用文献3は上記「第5 3.」より、生体信号を測定する空気袋に逆止弁を用いる技術が開示されている文献であることから、引用文献2ないし3には、上記相違点に係る構成の技術は開示されていない。 ク 以上のことから、上記相違点に係る発明特定事項を引用発明1及び引用文献2ないし6に記載された技術から当業者が導き出すことはできない。 (3)小括 したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2ないし6に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 2.本願発明2ないし10について 本願発明2ないし10も、本願発明1の上記相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2ないし6に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 3.本願発明11について 本願発明11は、本願発明1の「X線束を被検体に照射するX線源と、前記被検体を透過した前記X線束を検出するX線撮像手段と、」という発明特定事項を削除し、本願発明1の末尾の「X線撮影装置」を「X線撮影補助装置」に変更した発明であることから、本願発明11も、本願発明1の上記相違点に係る発明特定事項を備えるものとなるので、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2ないし6に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 4.本願発明12について 本願発明12は、本願発明1の「X線撮影装置」を「X線撮影方法」という方法のカテゴリーに変更した発明であることから、本願発明12も、本願発明1の上記相違点に係る発明特定事項を備えるものとなるので、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2ないし6に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 第7 原査定について 審判請求時の補正により、本願発明1ないし12は「前記エア袋は、ネットと前記被検体との間に配置されており、前記ネットは、動きやすい前記被検体を撮影する際に身体の一部を覆って前記被検体を固定するものである」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1ないし4に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-04-26 |
出願番号 | 特願2017-94035(P2017-94035) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A61B)
P 1 8・ 575- WY (A61B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 伊藤 昭治 |
特許庁審判長 |
森 竜介 |
特許庁審判官 |
渡戸 正義 伊藤 幸仙 |
発明の名称 | X線撮影装置、X線撮影補助装置およびX線撮影方法 |
代理人 | 特許業務法人磯野国際特許商標事務所 |