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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1373727
審判番号 不服2020-13508  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-28 
確定日 2021-05-25 
事件の表示 特願2015-204572号「溶媒含有コーティングでコーティングされたウエハのためのベーキングデバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成28年6月30日出願公開、特開2016-119452号、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 令和2年9月28日になされた手続補正を却下する。 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)10月16日(パリ条約による優先権主張 2014年11月25日 ドイツ)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 1月15日 :翻訳文提出
平成30年 6月25日 :手続補正書の提出
令和元年 5月17日付け:拒絶理由通知書
令和元年 8月27日 :意見書、手続補正書の提出
令和元年12月 5日付け:拒絶理由通知書
令和2年 3月 3日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 5月19日付け:拒絶査定
令和2年 9月28日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和3年 3月 8日 :上申書の提出

第2 令和2年9月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年9月28日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、補正前(令和2年3月3日付け手続補正によるもの)の特許請求の範囲の請求項1につき、
「【請求項1】
溶媒を含むコーティング(15)でコーティングされたウエハ(14)のためのベーキングデバイス(10)であって、
ベーキングチャンバ(16)、ウエハ(14)のためのサポート(12)、パージガスのための導入口(30)、およびコーティング(15)から蒸発した溶媒が加えられたパージガスのための排気(40)を有し、
導入口は、ウエハ(14)の上方に配置された拡散要素(30)として形成されて、実質的にウエハ(14)の表面全体の上にパージガスを均一に供給し、
排気は、拡散要素(30)を半径方向に囲み、ベーキングチャンバ(16)の天井(22)に配置された排気リング(40)として形成され、
環状の排気チャネル(42)は、排気リング(40)の背後に形成され、
放出システムは、排気チャネルを排出システムに接続し、放出システムは、均等に分布した位置(48)で排気チャネル(42)に接続された複数の排出チャネル(44)を含み、
排気チャネルと排出チャネルは、天井要素と一体化され、天井要素は、ベーキングチャンバの天井を形成し、拡散要素を中央に含むベーキングデバイス。」
とあったものを、
「【請求項1】
溶媒を含むコーティング(15)でコーティングされたウエハ(14)のためのベーキングデバイス(10)であって、
ベーキングチャンバ(16)、
ウエハ(14)のためのサポート(12)、
パージガスのための導入口(30)、
コーティング(15)から蒸発した溶媒が加えられたパージガスのための排気(40)および、
排出システムと接続する放出システム、を有し、
サポートは、ベーキングチャンバの中に一体化され、サポート上にウエハの配置を形成し、
導入口は、ウエハ(14)の上方に配置された拡散要素(30)として形成されて、実質的にウエハ(14)の表面全体の上にパージガスを均一に供給し、
排気は、拡散要素(30)を半径方向に囲み、ベーキングチャンバ(16)の天井(22)に配置された排気リング(40)として形成され、
排気リングは、天井でベーキングチャンバからの流路接続を形成し、
放出システムは、流路接続に接続する複数の放出チャネルを含み、複数の放出チャネルは、排気リングの背後に形成された排気チャネル(42)に接続され、排気チャネルと複数の放出チャネルは、天井要素と一体化され、天井要素は、ベーキングチャンバの天井を形成し、拡散要素を中央に含む ベーキングデバイス。」
に補正するものである(下線は当審が付したもので、補正箇所を示すものである。)。

2.補正の目的
(1)令和2年9月28日の拒絶査定不服審判請求における、本件請求人の補正の目的に係る主張の概略
本件審判請求書の「【請求の理由】」「(3)本願発明が特許されるべき理由」「(a)補正の説明」には、
「5つの構成要件を列記して記載するとともに、段落[0031]?[0033]、[0034]、[0053]の記載に基づいてサポートおよび排気リングの構成を限定的に減縮するものである。」と記載されている。

(2)目的外補正
ア 本件補正は、本件補正前の請求項1の「環状の排気チャネル(42)」の「環状の」が削除されるとともに、本件補正前の請求項1の「均等に分布した位置(48)で排気チャネル(42)に接続された複数の排出チャネル(44)」との構成を削除するものである。

イ そうすると、本件補正は、「環状」でない構成の「排気チャネル(42)」を新たに含む補正であるとともに、「均等に分布した位置(48)で排気チャネル(42)に接続された複数の排出チャネル(44)」を含まない構成も新たに含む補正であって、発明特定事項を拡張する補正事項を含むと認められるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」には、該当しない。
なお、本件補正後の請求項1の「放出チャネル」が何を意味しているのか、必ずしも明確ではないが、仮に「放出チャネル」が「排出チャネル」を意味していると解したとしても、「均等に分布した位置(48)で」排気チャネル(42)に接続された態様以外の構成も含むことになるので、依然として、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」には、該当しない。
また、特許法第17条の2第5項第1、3、4号にそれぞれ規定する、請求項の削除、誤記の訂正、さらには、明りようでない記載の釈明のいずれにも該当しない。

ウ よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項も目的としない補正を含むものである。

3.補正却下の決定についてのむすび
以上2.での検討によれば、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
令和2年9月28日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年3月3日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものである(以下それぞれを「本願発明1」等という。)ところ、その請求項1に係る発明は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記「第2」[理由]「1.」に記載のとおりの次のものである(なお、AないしHは分説のために当審が付した。)。
「【請求項1】
A 溶媒を含むコーティング(15)でコーティングされたウエハ(14)のためのベーキングデバイス(10)であって、
B ベーキングチャンバ(16)、ウエハ(14)のためのサポート(12)、パージガスのための導入口(30)、およびコーティング(15)から蒸発した溶媒が加えられたパージガスのための排気(40)を有し、
C 導入口は、ウエハ(14)の上方に配置された拡散要素(30)として形成されて、実質的にウエハ(14)の表面全体の上にパージガスを均一に供給し、
D 排気は、拡散要素(30)を半径方向に囲み、ベーキングチャンバ(16)の天井(22)に配置された排気リング(40)として形成され、
E 環状の排気チャネル(42)は、排気リング(40)の背後に形成され、
F 放出システムは、排気チャネルを排出システムに接続し、放出システムは、均等に分布した位置(48)で排気チャネル(42)に接続された複数の排出チャネル(44)を含み、
G 排気チャネルと排出チャネルは、天井要素と一体化され、天井要素は、ベーキングチャンバの天井を形成し、拡散要素を中央に含む
H ベーキングデバイス。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1、2に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、
この出願の請求項3?6に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、
この出願の請求項7?9に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1?3に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2007-194269号公報
引用文献2:特開2004-165614号公報
引用文献3:実願平4-86337号(実開平6-45335号)のCD-ROM

3.引用文献の記載事項及び引用発明
(1)引用文献1
ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2007-194269号公報(平成19年8月2日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。
(ア)「【請求項1】
処理室内で被処理基板を熱処理する熱処理装置であって、
上記被処理基板を載置して熱処理する熱処理板と、この熱処理板を上方から覆い、上記処理室の一部を構成する蓋体と、を具備し、
上記蓋体は、上面部と、この上面部の周端部に垂設される周側部とを具備し、上面部には、処理室内に気体を供給する供給口が設けられ、上面部の側部には、上記処理室内の気体を排気する複数の排気口が設けられ、かつ、上記各排気口に連通すると共に、各排気口と略等距離の部位に排出口を有する排気管を、蓋体に対して着脱可能に装着してなる、
ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
処理室内で被処理基板を熱処理する熱処理装置であって、
上記被処理基板を載置して熱処理する熱処理板と、この熱処理板を上方から覆い、上記処理室の一部を構成する蓋体と、を具備し、
上記蓋体は、上面部と、この上面部の周端部に垂設される周側部とを具備し、上面部には、処理室内に気体を供給する供給口が設けられ、上面部の側部には、上記処理室内の気体を排気する複数の排気口が設けられ、かつ、上記各排気口に連通すると共に、各排気口と略等距離の部位に排出口を有する排気管を、蓋体に対して着脱可能に装着し、
上記蓋体の周側部の内方側に、周側部と共働して排気通路を構成し、かつ、複数の通気孔を有する排気分散リングを、蓋体に対して着脱可能に配設してなる、
ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の熱処理装置において、
上記蓋体の上面部に、互いに等間隔の4個の排気口を設け、
上記排気管は、上記排気口の2箇所にそれぞれシール部材を介して連通する2個の排気管体と、両排気管体を連通する連結管体とを具備し、かつ、連結管体に排出口を設けた、
ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項4】
請求項3記載の熱処理装置において、
上記排気管体に対して連結管体を着脱可能に形成してなる、ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の熱処理装置において、
上記排気管の略中心部に、取付孔を有する取付部材を突設し、この取付部材の取付孔を貫挿する固定部材を、上記蓋体の上面部に設けられた取付受け部に着脱可能に固着してなる、ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項6】
請求項2記載の熱処理装置において、
上記排気分散リングは、上下に対峙する上部片と下部片を有する断面略コ字状に形成され、上部片及び下部片には、互いにずれた位置に複数の通気孔が形成されると共に、上部片の通気孔に対して下部片の通気孔の開口率を高くした、ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項7】
請求項1又は2記載の熱処理装置において、
上記蓋体における供給口部には、供給口を介して処理室内に供給される気体を放射方向に分流する放射流路を有する分散ノズルが更に具備されている、ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項8】
請求項1ないし5のいずれかに記載の熱処理装置において、
上記排気管の内側表面に、揮発成分の付着がしにくく、かつ、付着が剥離し易い合成樹脂製のコーティング皮膜を施してなる、ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項9】
請求項1ないし5のいずれかに記載の熱処理装置において、
上記排気管内に、揮発成分の付着がしにくく、かつ、付着が剥離し易い合成樹脂製の内装管体を嵌挿してなる、ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項10】
請求項1ないし5のいずれかに記載の熱処理装置において、
上記排気管に不純物回収部を介設してなる、ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項11】
請求項1,2,3,4,5,8,9又は10のいずれかに記載の熱処理装置において、
上記排気管に、2個の排出口を設け、各排出口に接続する排出管路のいずれか一方に、排気流体の詰まりを検出する詰まり検出手段を設け、他方の排出管路には、上記詰まり検出手段からの信号に基づいて開閉する切換弁を介設してなる、ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項12】
請求項1,2,3,4,5,8,9,10又は11のいずれかに記載の熱処理装置において、
上記排気管の排出口に接続する排出管路における排出口の近傍部位に排気装置を介設してなる、ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の熱処理装置において、
上記蓋体に設けられる排気口を、この排気口から排気管に流れる排気が平面視において螺旋状に流れるように形成してなる、ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項14】
請求項2又は6記載の熱処理装置において、
上記排気分散リングにおける周側部と対向する面に、螺旋溝を形成し、この螺旋溝により排気口から排気管に流れる排気が平面視において螺旋状に流れるように形成してなる、ことを特徴とする熱処理装置。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
この発明は、熱処理装置に関するもので、更に詳細には、例えば半導体ウエハやLCDガラス基板等の基板を例えば加熱処理する熱処理装置に関するものである。」

(ウ)「【0010】
このように構成することにより、排気分散リングによって処理室内に供給される気体を均一に分散して、被処理基板の熱処理の温度を均一にすることができる。・・・
【0016】
このように構成することにより、供給口から供給される気体を分散ノズルによって放射方向に均一に分散させることができる。」

(エ)「【0061】
次に、上記ホットプレートユニット(HP)及びチリングホットプレートユニット(CHP)を構成するこの発明に係る熱処理装置について、図4ないし図17を参照して詳細に説明する。ここでは、この発明に係る熱処理装置をレジスト塗布されたウエハWをプリベーク処理する加熱装置に適用した場合について説明する。
【0062】
◎第1実施形態
図4は、この発明に係る熱処理装置の第1実施形態の使用状態を示す断面図、図5は、上記熱処理装置の要部を示す平面図、図6ないし図8は、それぞれ図5のI-I線に沿う拡大断面図, II-II線に沿う拡大断面図及びIII-III線に沿う拡大断面図である。
【0063】
上記熱処理装置50は、図4に示すように、ケーシング51内に、上下動自在な蓋体52と、蓋体52の下側に位置し、蓋体52と共働して処理室53を構成するサポートリング54を備えている。
【0064】
サポートリング54は、例えば上下面が開口した略円筒状の形態を有し、その内側に熱処理板としての加熱プレート55を収容している。加熱プレート55を収容することにより,サポートリング54の下面が閉鎖されている。加熱プレート55は、厚みのある円盤形状を有し、その上面に被処理基板であるウエハWを載置し加熱するものである。この場合、加熱プレート55には、給電により発熱するヒータ56が内蔵されており、加熱プレート55自体を所定の温度に加熱し維持できるようになっている。つまり、所定の温度に加熱された加熱プレート55にウエハWを載置することによって、ウエハWを所定温度に加熱できる。
【0065】
加熱プレート55には、例えば3つの貫通孔55aが形成されており、各貫通孔55aには、ウエハWの裏面を支持して昇降する支持ピン57がそれぞれ挿入されている。支持ピン57は、例えばシリンダ等を備えた昇降機構58により上下動する。支持ピン57は、加熱プレート55の上方まで上昇して主ウエハ搬送機構21との間でウエハWを授受したり、受け取ったウエハWを加熱プレート55に載置したりできる。
【0066】
サポートリング54の上面には、Oリング59が設けられ、サポートリング54の上面と蓋体52の周側部52bの下端部との隙間から処理室53内の気体が流出しないようになっている。
【0067】
蓋体52は、上面部である天板52aと、この天板52aの周端部に垂設される周側部52bとによって下面側が開口した略有底円筒状の形態を有している。天板52aは、加熱プレート55上のウエハWに対向している。天板52a上の中央部には、気体例えば空気,窒素ガス又は不活性ガス等のガスのガス供給源60に連通したパージ用ガスのガス供給管61が接続する供給口62が設けられている。したがって、ガス供給源60の空気,窒素ガス又は不活性ガス等のガスを、ガス供給管61を介して供給口62に供給し、供給口62から処理室53内に導入することができる。
【0068】
また、天板52aの側部には、処理室53内のガスを排気する複数例えば互いに等間隔の4個の排気口63が設けられている。各排気口63には、排気管64が連通されており、排気管64における各排気口63と略等距離の部位に設けられた排出口65に、例えば合成樹脂製のチューブにて形成される排気管64の口径に比べて小口径の排出管路66が接続されている。
【0069】
上記排気管64は、図5,図6,図7及び図9に示すように、排気口63の2箇所にそれぞれシール部材であるOリン67a(当審注:「Oリング67a」の誤記と認める。)を介して連通する2個の排気管体64aと、両排気管体64aを連通する連結管体64bとを具備する略H字状に形成されており、連結管体64bの中間部に排出口65が設けられている。これら排気管体64a及び連結管体64bは、それぞれ例えばアルミニウム合金製の四角筒状の押出形材にて形成されている。なお、排気管体64aの端部開口部は、端塞ぎ材64cによって閉塞されている。
【0070】
また、排気管体64aの両端底部には連通孔64dが穿設されており、この連通孔64d内にOリング67aを介して天板52aの上面に突出した排気口63が嵌挿された状態で、排気口63と排気管体64aとが気密に連通されている(図6参照)。
【0071】
また、連結管体64bの両端部には、排気管体64aの一側部を掴持する断面略コ字状の連結部材64eが溶接等の固定手段によって一体に形成されており、この連結部材64eに設けられた連通孔64f内にシール部材例えばOリン67b(当審注:「Oリング67b」の誤記と認める。)を介して排気管体64aの側部に突出した連通口64gが嵌挿された状態で、連結部材64eに設けられた取付孔(図示せず)を貫通する固定ねじ68を排気管体64aの側部にねじ結合することによって、排気管体64aと連結管体64bとが着脱可能に形成されている(図5,図7及び図9参照)。
【0072】
また、図5,図8及び図9に示すように、排気管64の略中心部に位置する連結管体64bの中心部の一側上端部には、取付孔69aを有する取付部材69が突設されている。この取付部材69の取付孔69aには、固定部材である固定ボルト70が貫挿され、蓋体52の天板52aの上面に設けられた取付受け部であるナット71に着脱可能に螺合されて締結固着されるように構成されている。この際、固定ボルト70の頭部70aと取付部材69との間には、コイルばね72が介在されて、固定ボルト70のナット71への締結力が増大されて排気管64を蓋体52側に押圧する力が均等に負荷されるようになっている。
【0073】
上記のように、排気管64の略中心部に位置する連結管体64bの中心部の一側上端部に設けられた取付部材69の取付孔69aを貫挿する固定ボルト70を蓋体52に設けられたナット71に締結固着することによって、排気口63と排気管64に設けられた連通孔64dとが気密に連通される。また、排気管64は、2個の排気管体64aと、両排気管体64aを連通する連結管体64bとからなる略H字状に形成されているので、上記固定ボルト70とナット71とを締結固着した際に、多少撓んで排気口63と排気管64の連通孔64dとが気密に連通される。
【0074】
一方、上記蓋体52における供給口62部には、供給口62を介して処理室53内に供給されるガスを放射方向に分流する分散ノズル73が配設されており、この分散ノズル73の下方と加熱プレート55との間には、例えば多数の通気孔(図示せず)を設けた円形状の2つの第1及び第2の整流板74,75が上下に並設されている。また、蓋体52の周側部52bの内方側には、周側部52bと共働して排気通路76を構成する排気分散リング77が蓋体52に対して着脱可能に配設されている。なお、排気通路76の下端開口部に、加熱プレート55に載置されたウエハWより上方に位置している。
【0075】
この場合、分散ノズル73は、図9に示すように、円盤状に形成されており、中心部に供給口62に連通する円形凹所73aが設けられ、この円形凹所73aに連通する複数(図面では8個の場合を示す)の放射流路73bが放射方向に設けられている。
【0076】
また、排気分散リング77は、図10に示すように、上下に対峙する上部片77aと下部片77bと、上部片77aと下部片77bの処理室側端部を連結する鉛直片77cとを有する断面略コ字状に形成され、上部片77a及び下部片77bには、互いにずれた位置に複数の通気孔78a,78bが形成されると共に、上部片77aの通気孔78aに対して下部片77bの通気孔78bの開口率が高く形成されている。
【0077】
このように、排気分散リング77の上部片77aの通気孔78aに対して下部片77bの通気孔78bの開口率を高くすることにより、排気の下流側の上部片77aにて分散させた排気流を、更に上流側の下部片77bに設けられた通気孔78bにより分散させることができ、処理室53内の排気流れの均一性を高めることができる。
【0078】
なお、排気分散リング77の上部片77aの外周部には、適宜間隔を置いて複数例えば12個の切欠き(図示せず)が設けられており、天板52aと周側部52bとの間に排気分散リング77の上部片77aを挟持した状態で、天板52aの外周部に設けられた貫通孔52c(図9参照)を貫通する取付ボルト(図示せず)を上部片77aの切欠きを介して周側部52bの上端部にねじ結合することで、天板52aと排気分散リング77及び周側部52bとが固定されている。また、取付ボルトの締結を解除することによって、天板52aと排気分散リング77及び周側部52bとを分解することができる。」

(オ)「【0084】
また、上記のように構成されるこの発明に係る熱処理装置50は、図13に示すように、多段に配置されており、各熱処理装置50の排気管64に接続する排出管路66が、レジスト塗布・現像処理システムの背面部に鉛直状に設置される排気ダクト84に接続されている。なお、排気ダクト84の下部には、ダクト内圧調整弁85を介設した専用ホース86が接続されると共に、専用ホース86には排気手段例えばエジェクタ87が接続されている。また、排気ダクト84には、排気ダクト84内の圧力を検出する圧力センサ88が取り付けられており、この圧力センサ88によって排気ダクト84内の圧力が監視されている。・・・
【0086】
そして、露光装置において露光処理が終了し、主ウエハ搬送機構21に保持されたウエハWは、搬入出口83からケーシング51内に搬送され、加熱プレート55の上方で予め上昇して待機していた支持ピン57に受け渡される。続いて蓋体52が下降し、サポートリング54と一体となって処理室53が形成される。このとき、供給口62から処理室53内に供給されたガスは、図4に示すように、分散ノズル73によって放射方向に分流された後、第1の整流板74,第2の整流板75を通過して、気流の方向が蓋体52の周側部52b側に向けられる。第2の整流板75を通過したガスは、ウエハW表面に達することなく、周側部52bと排気分散リング77とで構成された排気通路76を通って排気口63から排気管64内に流れ、排気管64に設けられた排出口65を介して排出管路66から排気される。この際、ガス中の昇華物等の不純物の一部は、排気通路76を通過する際に排気分散リング77に付着し、排気口63から排気されたガスは、排気管64を通過する際に、ガス中の昇華物等の不純物の一部が排気管64の内側表面に付着されると共に、不純物回収部82を通過して不純物が回収されてから、排出口65に接続する排出管路66を介して外部に排気される。したがって、排出管路66には不純物の付着を少なくすることができる。・・・
【0090】
この第1実施形態によれば、蓋体52の周側部52bにおけるウエハWよりも高い位置に排気口63を設けたので、蓋体52の天板52aから導入されたガスが蓋体52の周側部52bに向かって流れる。この結果、ガスがウエハW表面に直接吹き付けられることがなくなり、ウエハW表面のレジスト膜中の溶剤の揮発が気流の動向に左右されることがなくなる。したがって、ウエハWの外縁部が不安定な気流により悪影響を受けることがなくなり、ウエハW外縁部においても均一な膜厚のレジスト膜が形成される。
【0091】
また、排気管64及び排気分散リング77が蓋体52に対して着脱可能に形成され、また、排気管64の排気管体64aと連結管体64bが分解可能に形成されているので、蓋体52から排気管64を取り外してクリーニングすることができる。また、装置本体から蓋体52を取り外すと共に、排気管64と排気分散リング77取り外してクリーニングすることができる。したがって、メンテナンスをより簡単にすることができる。」

(カ)図4、5、9、10及び13は次のとおりである。
【図4】

【図5】

【図9】

【図10】

【図13】


イ 上記アによれば、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
・上記「ア」「(エ)」の記載を踏まえて上記「ア」「(カ)」の図4を見ると、排気通路76は、第1及び第2の整流板74,75を円形に囲み、排気通路76は処理室53から見て排気分散リング77の下部片77bの背後に設けられていることが見てとれる。

(2)引用発明
上記(1)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(なお、aないしmは、当審が分説のために付し、構成aなどという。)。
「a レジスト塗布されたウエハWをプリベーク処理する加熱装置に適用した熱処理装置50であって(【0061】)、
b 前記熱処理装置50は、ケーシング51内に、上下動自在な蓋体52と、蓋体52の下側に位置し、蓋体52と共働して処理室53を構成するサポートリング54を備え(【0063】)、
c 前記サポートリング54は、上下面が開口した略円筒状の形態を有し、その内側に熱処理板としての加熱プレート55を収容し、その上面に被処理基板であるウエハWを載置し加熱するものであり(【0064】)、
d 前記蓋体52は、上面部である天板52aと、この天板52aの周端部に垂設される周側部52bとによって下面側が開口した略有底円筒状の形態を有し、天板52aは、加熱プレート55上のウエハWに対向し、天板52a上の中央部には、空気,窒素ガス又は不活性ガスのガス供給源60に連通したパージ用ガスのガス供給管61が接続する供給口62が設けられ(【0067】)、
e 前記天板52aの側部には、処理室53内のガスを排気する複数の排気口63が設けられ、各排気口63には、排気管64が連通されており、排気管64における各排気口63と略等距離の部位に設けられた排出口65に排出管路66が接続され(【0068】)、
f 前記排気管64は、排気口63の2箇所にそれぞれシール部材であるOリング67aを介して連通する2個の排気管体64aと、両排気管体64aを連通する連結管体64bとを具備する略H字状に形成されており、連結管体64bの中間部に排出口65が設けられ(【0069】)、
g 前記排気管64の略中心部に位置する連結管体64bの中心部の一側上端部には、取付孔69aを有する取付部材69が突設され、この取付部材69の取付孔69aには、固定部材である固定ボルト70が貫挿され、蓋体52の天板52aの上面に設けられた取付受け部であるナット71に着脱可能に螺合されて締結固着されるように構成され(【0072】)、
h 前記排気管64の略中心部に位置する連結管体64bの中心部の一側上端部に設けられた取付部材69の取付孔69aを貫挿する固定ボルト70を蓋体52に設けられたナット71に締結固着することによって、排気口63と排気管64に設けられた連通孔64dとが気密に連通され、排気管64は、2個の排気管体64aと、両排気管体64aを連通する連結管体64bとからなる略H字状に形成されているので、上記固定ボルト70とナット71とを締結固着した際に、多少撓んで排気口63と排気管64の連通孔64dとが気密に連通され(【0073】)、
i 前記蓋体52における供給口62部には、供給口62を介して処理室53内に供給されるガスを放射方向に分流する分散ノズル73が配設されており、この分散ノズル73の下方と加熱プレート55との間には、多数の通気孔を設けた円形状の2つの第1及び第2の整流板74,75が上下に並設され、蓋体52の周側部52bの内方側には、周側部52bと共働して排気通路76を構成する排気分散リング77が蓋体52に対して着脱可能に配設され(【0074】)、
j 前記排気分散リング77は、上下に対峙する上部片77aと下部片77bと、上部片77aと下部片77bの処理室側端部を連結する鉛直片77cとを有する断面略コ字状に形成され、上部片77a及び下部片77bには、互いにずれた位置に複数の通気孔78a,78bが形成され(【0076】)、
k 前記供給口62から処理室53内に供給されたガスは、分散ノズル73によって放射方向に分流された後、第1の整流板74,第2の整流板75を通過して、気流の方向が蓋体52の周側部52b側に向けられ、第2の整流板75を通過したガスは、ウエハW表面に達することなく、周側部52bと排気分散リング77とで構成された排気通路76を通って排気口63から排気管64内に流れ、排気管64に設けられた排出口65を介して排出管路66から排気され、ガス中の昇華物等の不純物の一部は、排気通路76を通過する際に排気分散リング77に付着し、排気口63から排気されたガスは、排気管64を通過する際に、ガス中の昇華物等の不純物の一部が排気管64の内側表面に付着されると共に、不純物回収部82を通過して不純物が回収されてから、排出口65に接続する排出管路66を介して外部に排気され(【0086】)、
l 前記排気通路76は、第1及び第2の整流板74,75を円形に囲み、排気通路76は処理室53から見て排気分散リング77の下部片77bの背後に設けられている(上記「(1)」「イ」)、
m 熱処理装置(【0001】)。」

4.対比・判断
4-1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「ウエハW」及び「熱処理装置50」は、本願発明1の「ウエハ(14)」及び「ベーキングデバイス(10)」(構成H)にそれぞれ相当する。
また、「レジスト」が溶媒を含むことは本願優先日当時周知の事項であるから、引用発明の「レジスト塗布されたウエハW」は、本願発明1の「溶媒を含むコーティング(15)でコーティングされたウエハ(14)」に相当する。
したがって、引用発明の「レジスト塗布されたウエハWをプリベーク処理する加熱装置に適用した熱処理装置50」(構成a)は、本願発明1の「溶媒を含むコーティング(15)でコーティングされたウエハ(14)のためのベーキングデバイス(10)」(構成A)に相当する。

イ(ア)引用発明の「熱処理装置50」は、「ケーシング51内に、上下動自在な蓋体52と、蓋体52の下側に位置し、蓋体52と共働して処理室53を構成するサポートリング54を備え」(構成b)るものであるから、当該「ケーシング51」は、本願発明1の「ベーキングチャンバ(16)」に相当する。

(イ)また、引用発明の「上下面が開口した略円筒状の形態を有し、その内側に熱処理板としての加熱プレート55を収容し、その上面に被処理基板であるウエハWを載置し加熱するものであ」る「サポートリング54」(構成c)は、本願発明1の「ウエハ(14)のためのサポート(12)」に相当する。

(ウ)さらに、引用発明において、「前記蓋体52における供給口62部には、供給口62を介して処理室53内に供給されるガスを放射方向に分流する分散ノズル73が配設されており、この分散ノズル73の下方と加熱プレート55との間には、多数の通気孔を設けた円形状の2つの第1及び第2の整流板74,75が上下に並設され」(構成i)ているから、引用発明の「多数の通気孔」は、加熱プレート55上のウエハWの上の蓋体52に並設された「第1及び第2の整流板74,75」に設けられているといえる。
そうすると、引用発明の「パージ用ガス」及び「多数の通気孔」は、本願発明1の「パージガス」及び「導入口(30)」にそれぞれ相当し、引用発明の「第1及び第2の整流板74,75」に設けた「多数の通気孔」は、本願発明1の「パージガスのための導入口(30)」に相当する。

(エ)そして、引用発明の「ガス中の昇華物等の不純物」には、レジストから昇華した溶媒が含まれることは本願優先日当時周知の事項である。
したがって、引用発明の当該ガスは、本願発明1の「コーティング(15)から蒸発した溶媒が加えられたパージガス」に相当する。
よって、引用発明の「周側部52bと排気分散リング77とで構成された排気通路76」は、本願発明1の「コーティング(15)から蒸発した溶媒が加えられたパージガスのための排気(40)」に相当する。

(オ)以上(ア)ないし(エ)によれば、引用発明の「熱処理装置50」が、構成b、c及びiの構成を有することは、本願発明1の「ベーキングデバイス(10)」が、「ベーキングチャンバ(16)、ウエハ(14)のためのサポート(12)、パージガスのための導入口(30)、およびコーティング(15)から蒸発した溶媒が加えられたパージガスのための排気(40)を有」(構成B)することに相当する。

ウ 引用発明の「前記蓋体52における供給口62部には、供給口62を介して処理室53内に供給されるガスを放射方向に分流する分散ノズル73が配設されており、この分散ノズル73の下方と加熱プレート55との間には、多数の通気孔を設けた円形状の2つの第1及び第2の整流板74,75が上下に並設され」ている「第1及び第2の整流板74,75」(構成i)は、ガスを放射方向に分流した後、整流するものであるから、ガスを拡散する機能を有する要素であると認められる。
したがって、引用発明の「第1及び第2の整流板74,75」は、本願発明1の「拡散要素(30)」に相当する。
さらに、引用発明の「パージ用ガス」は、「分散ノズル73によって放射方向に分流された後、第1の整流板74,第2の整流板75を通過して、気流の方向が蓋体52の周側部52b側に向けられ、第2の整流板75を通過したガスは、ウエハW表面に達することなく、周側部52bと排気分散リング77とで構成された排気通路76を通って排気口63から排気管64内に流れ」(構成k)るものであって、「ウエハW表面に達することなく」とされているものの、「パージ用ガス」の機能からいえば、ウエハW表面の上の領域まで供給されていることは明らかであるから、「パージ用ガス」はウエハW表面の上に供給しているといえる。
以上によれば、引用発明の上記構成i及びkに係る「第1及び第2の整流板74,75」に設けた「多数の通気孔」は、本願発明1の「ウエハ(14)の上方に配置された拡散要素(30)として形成されて、実質的にウエハ(14)の表面全体の上にパージガスを均一に供給し」ている「導入口」(構成C)と、「ウエハ(14)の上方に配置された拡散要素(30)として形成されて、ウエハ(14)の表面の上にパージガスを供給し」ている「導入口」(以下「構成C´」という。)の点で一致する。

エ 引用発明の「蓋体52」は、本願発明1の「天井(22)」に相当するから、引用発明の「第1及び第2の整流板74,75を円形に囲み、排気通路76は処理室53から見て排気分散リング77の下部片77bの背後に設けられている」「排気通路76」(構成l)は、本願発明1の「拡散要素(30)を半径方向に囲み、ベーキングチャンバ(16)の天井(22)に配置された排気リング(40)として形成され」ている「排気」(構成D)に相当する。

オ 引用発明において、「蓋体52の周側部52bの内方側には、周側部52bと共働して排気通路76を構成する排気分散リング77が蓋体52に対して着脱可能に配設され」(構成i)、「前記排気分散リング77は、上下に対峙する上部片77aと下部片77bと、上部片77aと下部片77bの処理室側端部を連結する鉛直片77cとを有する断面略コ字状に形成され」(構成j)ていることから、「排気通路76」は、「排気分散リング77」の「下部片77b」の背後に形成されており、円形状であるといえる。
したがって、引用発明の上記構成i及びjの構成を備える「排気通路76」は、本願発明1の「環状」であって「排気リング(40)の背後に形成され」ている「排気チャネル(42)」(構成E)に相当する。

カ(ア)引用発明において「排気管64は、排気口63の2箇所にそれぞれシール部材であるOリング67aを介して連通する2個の排気管体64aと、両排気管体64aを連通する連結管体64bとを具備する略H字状に形成されており、連結管体64bの中間部に排出口65が設けられ」(構成f)ているから、引用発明の「2個の排気管体64a」は、本願発明1の「均等に分布した位置(48)で排気チャネル(42)に接続された」「複数の排出チャネル(44)」と、「分布した位置(48)で排気チャネル(42)に接続された」「複数の排出チャネル(44)」の点で一致する。

(イ)引用発明の「第2の整流板75を通過したガス」は、「排気通路76を通って排気口63から排気管64内に流れ、排気管64に設けられた排出口65を介して排出管路66から排気され」(構成k)るから、引用発明の「排気通路76」は、「排気口63」を介して「排気管64」に接続され、さらには、「排気管64に設けられた排出口65を介して排出管路66」に接続されているといえる。
したがって、引用発明の「排気口63」、「排気管64」、「排出口65」、「排出管路66」と接続されている構成は、本願発明1の「排出システム」に相当する。

(ウ)したがって、引用発明における、「排気口63」を介して「排気管64」に接続し、さらには、「排出口65を介して排出管路66」に接続している構成、及び、「排気管64は、排気口63の2箇所にそれぞれシール部材であるOリング67aを介して連通する2個の排気管体64aと、両排気管体64aを連通する連結管体64bとを具備する略H字状に形成されており、連結管体64bの中間部に排出口65が設けられ」ている「2個の排気管体64a」を含む構成は、本願発明1の「放出システムは、排気チャネルを排出システムに接続し」、「均等に分布した位置(48)で排気チャネル(42)に接続された複数の排出チャネル(44)を含」(構成F)むことと、「放出システムは、排気チャネルを排出システムに接続し」、「分布した位置(48)で排気チャネル(42)に接続された複数の排出チャネル(44)を含」(構成F´)む点で一致する。

キ(ア)引用発明の「蓋体52」は、「熱処理装置50」の「ケーシング51内に、上下動自在な蓋体52と、蓋体52の下側に位置し、蓋体52と共働して処理室53を構成するサポートリング54を備え」(構成b)るから「ケーシング51」の天井を形成するといえる。
したがって、引用発明の「蓋体52」が構成bの構成を備えることは、本願発明1の「天井要素は、ベーキングチャンバの天井を形成」することに相当する。

(イ)引用発明の「蓋体52」は、「蓋体52における供給口62部には、供給口62を介して処理室53内に供給されるガスを放射方向に分流する分散ノズル73が配設されており、この分散ノズル73の下方と加熱プレート55との間には、多数の通気孔を設けた円形状の2つの第1及び第2の整流板74,75が上下に並設され、蓋体52の周側部52bの内方側には、周側部52bと共働して排気通路76を構成する排気分散リング77が蓋体52に対して着脱可能に配設され」(構成i)るから、本願発明1の「天井要素は、」「拡散要素を中央に含む」との構成を有する。

(ウ)以上(ア)及び(イ)によれば、引用発明の「蓋体52」が上記構成b、iの構成を備えることは、本願発明1の「排気チャネルと排出チャネルは、天井要素と一体化され、天井要素は、ベーキングチャンバの天井を形成し、拡散要素を中央に含む」(構成G)ことと、「天井要素は、ベーキングチャンバの天井を形成し、拡散要素を中央に含む」(構成G´)ことの点で一致する。

ク 以上アないしキによれば、本願発明1と引用発明は、下記〈一致点〉で一致するとともに、下記〈相違点1〉?〈相違点3〉で相違する。
〈一致点〉
「A 溶媒を含むコーティング(15)でコーティングされたウエハ(14)のためのベーキングデバイス(10)であって、
B ベーキングチャンバ(16)、ウエハ(14)のためのサポート(12)、パージガスのための導入口(30)、およびコーティング(15)から蒸発した溶媒が加えられたパージガスのための排気(40)を有し、
C´ 導入口は、ウエハ(14)の上方に配置された拡散要素(30)として形成されて、ウエハ(14)の表面の上にパージガスを供給し、
D 排気は、拡散要素(30)を半径方向に囲み、ベーキングチャンバ(16)の天井(22)に配置された排気リング(40)として形成され、
E 環状の排気チャネル(42)は、排気リング(40)の背後に形成され、
F´ 放出システムは、排気チャネルを排出システムに接続し、放出システムは、分布した位置(48)で排気チャネル(42)に接続された複数の排出チャネル(44)を含み、
G´ 天井要素は、ベーキングチャンバの天井を形成し、拡散要素を中央に含む
H ベーキングデバイス。」

〈相違点1〉
パージガスの供給について、本願発明1は「実質的にウエハ(14)の表面全体の上に」「均一に供給」するのに対して、引用発明は、「ガスは、ウエハW表面に達することなく、周側部52bと排気分散リング77とで構成された排気通路76を通って排気口63から排気管64内に流れ」と特定されるにとどまる点。

〈相違点2〉
放出システムが、本願発明1は、「均等に分布した」位置(48)で排気チャネル(42)に接続されるのに対して、引用発明はこのように特定されない点。

〈相違点3〉
「排気チャネルと排出チャネル」について、本願発明1は、「天井要素と一体化され」ているのに対して、引用発明は、「排気通路76」と「排気管体64a」について、それぞれ「周側部52bと共働して排気通路76を構成する排気分散リング77が蓋体52に対して着脱可能に配設され」るものであり、「排気管64の略中心部に位置する連結管体64bの中心部の一側上端部に設けられた取付部材69の取付孔69aを貫挿する固定ボルト70を蓋体52に設けられたナット71に締結固着することによって、排気口63と排気管64に設けられた連通孔64dとが気密に連通され、排気管64は、2個の排気管体64aと、両排気管体64aを連通する連結管体64bとからなる略H字状に形成されている」ものである点。

(2)判断
事案に鑑みて、相違点3から検討する。
ア 本願発明1は、「排気チャネルと排出チャネルは、天井要素と一体化され」ることを発明特定事項とするところ、当該「天井要素と一体化され」との表現に関して、本願の発明の詳細な説明には、
「【0045】
更に、ベーキングチャンバ16の天井22を形成する天井要素50の上面図を示す図4から分かるように、排気チャネル42と排出チャネル44は、拡散要素30を中央に含む天井要素50と一体化される。排出チャネル44は、ベーキングチャンバ16とは反対方向に面する側の上の拡散要素30の「上方」に配置される。
【0046】
排出チャネル44の特別な形状は、2つの目的を有する。1つは、放出ユニット46の吸引効果が、一様な方法で排気チャネル42中に配置されるように形成されることである。これは、排気チャネルが排気チャネル42に接続された場所48の間の排出チャネルの長さ、および放出ユニット46に向かう接続の長さが均一であることを必要とする。他は、放出ユニット46に向かう接続が、必要な場所に便利に配置されて、ベーキングデバイスの全体のレイアウトの大きな変更の必要無しに、天井要素50に対して、従来技術の設計を有する天井要素で天井要素を置き換えられるようにすることである。」と記載されている。また、図2、4は下記のものである。
【図2】

【図4】


イ 図2、4から、天井要素50の一部は板状の部材であり、当該板状の部材の上側には排出チャネル44として溝状部が形成され、下側には排気チャネル42として円形の溝状部が形成されていることが見てとれる。

ウ 上記アによれば「図4から分かるように」とされていることから、「排気チャネルと排出チャネルは、天井要素と一体化され」ているとの発明特定事項は、一部が板状の部材である「天井要素50」、「当該板状の天井要素50の下側に円形の溝状部として形成されている排気チャネル42」、及び「当該板状の天井要素50の上側に溝状部として形成されている排出チャネル44」の関係を特定しているといえ、当該「天井要素と一体化」とは、「天井要素に溝状部を形成する」ような一体化を意味していると解することができる。
そして、「一体化」に関して「一体」が一般的に「[名]一つになって分けられない関係にあること「-化」」(広辞苑第五版)との意味で用いられていることを参酌しても、上記のような解釈をすることに格別の齟齬はなく整合している。
したがって、「排気チャネルと排出チャネルは、天井要素と一体化され」ているとの発明特定事項は、引用発明における「排気チャネルと排出チャネルを天井要素に着脱可能に配設する」といった各部材を着脱可能とする態様を想定していないというべきである。

エ 次に、引用発明の「排気通路76」と「排気管体64a」を「蓋体52」と一体化することが、引用発明及び周知技術から容易に想到し得たことであるか検討する。

引用発明が、「排気通路76を構成する排気分散リング77」と「排気管体64a」が「蓋体52」に着脱可能に構成されるものであることは、引用文献1において、
「【請求項1】
処理室内で被処理基板を熱処理する熱処理装置であって、
上記被処理基板を載置して熱処理する熱処理板と、この熱処理板を上方から覆い、上記処理室の一部を構成する蓋体と、を具備し、
上記蓋体は、上面部と、この上面部の周端部に垂設される周側部とを具備し、上面部には、処理室内に気体を供給する供給口が設けられ、上面部の側部には、上記処理室内の気体を排気する複数の排気口が設けられ、かつ、上記各排気口に連通すると共に、各排気口と略等距離の部位に排出口を有する排気管を、蓋体に対して着脱可能に装着してなる、
ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
処理室内で被処理基板を熱処理する熱処理装置であって、
上記被処理基板を載置して熱処理する熱処理板と、この熱処理板を上方から覆い、上記処理室の一部を構成する蓋体と、を具備し、
上記蓋体は、上面部と、この上面部の周端部に垂設される周側部とを具備し、上面部には、処理室内に気体を供給する供給口が設けられ、上面部の側部には、上記処理室内の気体を排気する複数の排気口が設けられ、かつ、上記各排気口に連通すると共に、各排気口と略等距離の部位に排出口を有する排気管を、蓋体に対して着脱可能に装着し、
上記蓋体の周側部の内方側に、周側部と共働して排気通路を構成し、かつ、複数の通気孔を有する排気分散リングを、蓋体に対して着脱可能に配設してなる、
ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の熱処理装置において、
上記蓋体の上面部に、互いに等間隔の4個の排気口を設け、
上記排気管は、上記排気口の2箇所にそれぞれシール部材を介して連通する2個の排気管体と、両排気管体を連通する連結管体とを具備し、かつ、連結管体に排出口を設けた、
ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項4】
請求項3記載の熱処理装置において、
上記排気管体に対して連結管体を着脱可能に形成してなる、ことを特徴とする熱処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の熱処理装置において、
上記排気管の略中心部に、取付孔を有する取付部材を突設し、この取付部材の取付孔を貫挿する固定部材を、上記蓋体の上面部に設けられた取付受け部に着脱可能に固着してなる、ことを特徴とする熱処理装置。」(上記「3.」「(1)」「ア」「(ア)」)と記載されており、また、「発明が解決しようとする課題」として「【0005】しかしながら、特開2003-318091号公報記載の技術においては、上記昇華物等の不純物の発生が多い場合には、短期間に排気管が目詰まりを生じてしまい、そのためにメンテナンスを頻繁に行わなければならないという問題があった。また、排気用整流板にも不純物が付着するが、排気用整流板は排気圧力を圧損させるために複数設けられるので、クリーニングやメンテナンス作業が面倒であるという問題もあった。【0006】この発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、熱処理により発生する昇華物等の不純物による目詰まりに対するメンテナンス作業を容易に行えるようにした熱処理装置を提供することを目的とする。」と記載されていることから、排気管64及び排気分散リング77を蓋体52に対して着脱可能に形成することは、課題解決のために必要な構成であることは明らかである。
そうすると、引用発明は「排気管64及び排気分散リング77が蓋体52に対して着脱可能に形成され」ることで、「取り外してクリーニングすることができ」、「メンテナンスをより簡単にすることができる」ことが必須の要件であり、仮に、部材を一体化することが周知技術であったとしても、そのような周知技術を採用すると「取り外してクリーニングすることができ」なくなり、「メンテナンスをより簡単にすることができ」なくなることから、周知技術を適用することに阻害要因があるというべきであり、引用発明において、上記相違点3の構成となすことは容易に想到し得たことではない。
また、引用文献2、3の記載を踏まえても、上記阻害要因を解消することとはならない。

エ よって、相違点1及び2を検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

4-2 本願発明2?9について
本願発明2ないし9は本願発明1を減縮した発明であるから、本願発明1と同じ理由により、本願発明2ないし9は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明できたものではない。
また、本願発明3ないし6は、当業者が引用発明及び引用文献2の記載に基づいて容易に発明できたものではない。
さらに、本願発明7ないし9は、当業者が引用発明及び引用文献2、3の記載に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-05-07 
出願番号 特願2015-204572(P2015-204572)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 57- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 今井 彰  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 野村 伸雄
松川 直樹
発明の名称 溶媒含有コーティングでコーティングされたウエハのためのベーキングデバイス  
代理人 山田 卓二  
代理人 中野 晴夫  
代理人 徳山 英浩  

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