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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
管理番号 1373765
審判番号 不服2020-7057  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-25 
確定日 2021-05-06 
事件の表示 特願2020- 15206「ガラス基板への塗工用ポリアミック酸溶液」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 8月27日出願公開、特開2020-128527〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、令和2年1月31日(優先権主張:平成31年2月6日、特願2019-019764号)を出願日とする特許出願であって、その後の手続の経緯は以下のとおりである。

令和2年 3月 9日 :手続補正書の提出
同年 3月24日付け:拒絶理由通知
同年 4月 9日 :意見書の提出
同年 4月16日付け:拒絶査定
同年 5月25日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 7月15日付け:拒絶理由通知
同年 9月18日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月22日付け:審尋
同年12月24日 :回答書の提出


第2 特許請求の範囲の記載
本願の請求項1?2に係る発明は、令和2年9月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリアミック酸(PAA)と溶媒とからなる、ガラス基板への塗工用溶液であって、粒子径5μm以上、10μm以下の異物数が0.6個/g以上、10個/g以下であり、粒子径0.5μm以上、1.0μm以下の異物数が100個/g超、8000個/g以下であることを特徴とするガラス基板への塗工用PAA溶液。」


第3 当審が通知した拒絶理由の概要
令和2年7月15日付けで当審が通知した拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。

「1.(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2009-275090号公報
引用文献2:特開平06-157750号公報
引用文献3:特開平05-186592号公報」


第4 当審の判断
当審は、当審が通知した上記拒絶理由のとおり、依然としてこの出願の本願発明1は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
以下、詳述する。

1 引用文献1(特開2009-275090号公報)が主引例の理由1(進歩性)について
(1)引用文献1に記載された事項
(引1a)「【請求項1】
3、3’、4、4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンを反応させてなるポリアミド酸の溶液を支持体上に塗布し加熱した後、フィルムを支持体から剥がしフィルムの周囲を固定し、さらに加熱処理を行うことを特徴とする、ディスプレイ用ポリイミドフィルムの製造方法。」

(引1b)「【0016】
なお、本発明で言う還元粘度とは、30℃ で0. 5wt% という条件で、ポリアミド酸のN,N’-ジメチルアセトアミド溶液を作成し、それをオストワルド粘度計で測定して得られた値である。

使用するポリアミド酸溶液は、パーティクル含有量が少ないほど好ましい。ここでパーティクルとは、空気中の塵、埃、溶媒に未溶解成分などを言う。パーティクルが多いと、光散乱等が生じてしまったり、表面の平滑性が失われる。
【0017】
具体的には、0.3μm以上のパーティクル含有量は50000個/g以下であることが好ましい。パーティクルの含有量は少ないほど好ましい。
【0018】
0.3μmのパーティクルの除去方法としては、メンブレンフィルターなどを用いてポリアミド酸溶液を濾過する方法が挙げられる。効率良く濾過するためには、ポリアミド酸合成前の、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物を溶液の状態でメンブレンフィルターを用いて濾過した後にポリアミド酸溶液の合成をはじめても良い。」

(引1c)「【0019】
本発明のポリイミドフィルムの作製方法について説明する。ポリイミドフィルムの作成には、ポリアミド酸溶液を支持体上に塗工し、加熱後に剥離するソルベントキャスト法が適用できる。例えば、ポリアミド酸溶液をスピンコート法、スプレイコート法等や、バーコーター等により支持体上に塗工したり、スリットを設けたダイから押し出したりし、熱処理した後フィルムを引き剥がし、再び熱処理を行う。 ポリアミド酸を塗布する支持体として、表面が平滑で耐熱性のある材料であれば特に限定はないが、たとえば、ガラス板、ポリイミドやポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルム、表面を鏡面処理した金属板を用いることが好ましい。
【0020】
支持体の形状としては、特に限定はないが、ガラス板、ステンレスドラム、ステンレスエンドレスベルトが一般的である。ドラムやベルトを用いると、フィルムを連続的に生産することができ、好ましい。」

(引1d)「【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施形態の変更が可能である。
【0033】

還元粘度(ηred)
オストワルド粘度計を用い、30℃ においてポリアミド酸0 .5wt%N、N’-ジメチルアセトアミド溶液の還元粘度を求めた。
ガラス転移温度(Tg)
DSCを用い、試験片を室温から400℃まで10℃/分の割合で昇温する。階段状変化前後のベースラインに2本の延長線を引き、延長線間の1/2直線と吸熱曲線の交点からTgを求めた。階段状変化がない場合には、TgはN.D.とした。
透明性
分光光度計により200nmから800nmの可視・紫外線透過率を測定した。透過率が1%以下となる波長(カットオフ波長)、および、400nmにおける透過率を透明性の指標とした。カットオフ波長が低い程、また、400nmにおける透過率が高いほど、透明性が良好であることを意味する。
線膨張係数(CTE)
熱機械分析により、荷重0.5g/膜厚1μm、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100℃?200℃の範囲での平均値として線熱膨張係数を求めた。温度が変化しても寸法変化の小さい、すなわち、低い値であることが 望まれる。
フィルムの形状
得られたフィルムを室温で目視で観察し、曲がっている(カールしている)かどうかを確認した。カールしていないフィルムがディスプレイ用フィルムとして適している。
<ポリアミド酸の製造>
ポリテトラフルオロエチレン製シール栓付き攪拌器、攪拌翼、窒素導入管を備えた容積2000mLのガラス製セパラブルフラスコに、モレキュラーシーブを用いて脱水したN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を1017g入れ、トランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン(t-CHDA)50gを加え、完全に溶解するまで攪拌した。なお、この反応溶液におけるジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は、全反応液に対して15重量%であった。水浴で25℃に冷却しながら、3,3’、4、4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)129.5gを加え、激しく攪拌した。15分後、フラスコを120℃に加熱し反応を続けた。15分後加熱をやめそのまま攪拌を続け5時間反応を行い、透明で粘稠なポリアミド酸溶液(A)を得た。得られたポリアミド酸の還元粘度は2.3dL/gであった。
<ポリイミドフィルムの製造>
(実施例1)
溶液Aをガラス板上にバーコーター(松尾産業株式会社製K303マルチコーター)で流延し、室温で3分、ついで、100℃で10分間乾燥させた後ガラス板から引き剥がした。引き剥がしたフィルムをピンのついた金属枠に固定し、窒素雰囲気下300℃で60分乾燥させることにより厚み56μmの無色透明のフィルムを得た。
(実施例2)
溶液Aを用いて、ガラス板上に張ったポリイミドフィルム(アピカルAH、(株)カネカ製)上にバーコーターで流延し、室温で3分、ついで、150℃で2分間乾燥させた。ポリイミドフィルム(アピカルAH)とキャストフィルムからなる積層フィルムをガラスから剥がし、さらにポリイミドフィルム(アピカルAH)を引っ張って剥がしキャストフィルムを得た後、実施例1と同様の操作を行い厚み65μmの無色透明のフィルムを得た。
(比較例1)
溶液Aを用いて、ガラス板上にバーコーターで流延し、室温で3分、ついで、100℃で10分間乾燥させた後、ガラス板から引き剥がさずにそのまま窒素雰囲気下300℃で60分乾燥させた。その後、ガラス板からフィルムを剥がし厚み58μmの無色透明のフィルムを得た。
(比較例2)
溶液Aを用いて、ガラス板上にバーコーターで流延し、室温で3分、ついで、150℃で2分間乾燥させた後、ガラス板から引き剥がさずにそのまま窒素雰囲気下350℃で60分乾燥させた。その後、ガラス板からフィルムを剥がし厚み60μmの無色透明のフィルムを得た。 得られたポリイミドフィルムについて、その評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】



(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、ディスプレイ用ポリイミドフィルムの製造方法において、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンを反応させてなるポリアミド酸の溶液を支持体状に塗布し加熱する工程が記載されており(摘記(引1a))、上記支持体上に塗布するポリアミド酸の溶液に着目すると、以下の発明が記載されているものと認められる。
「支持体上に塗布する、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンを反応させてなるポリアミド酸の溶液」(以下、「引用発明1」という。)

(3)本願発明1について
ア 本願発明1の技術的意義
(ア)本願発明1は、発明の詳細な説明によれば、PAA溶液に異物が多量に混入していると、フレキシブル基板とした際に欠陥となることから、PAA溶液中の異物ができるだけ除去されたPAA溶液が望まれていたことを「前提の技術的課題」とし(段落【0003】)、極微細な孔径を有するフィルタにPAA溶液を通して濾過することにより異物を除去する方法では、異物を完全に除去することは困難であり、コストも高くなることから(段落【0004】?【0006】)、粒子径が5μm以上の異物数を極めて低いレベルとしたガラス基板への塗工用PAA溶液を提供することを課題とするものである(段落【0007】、【0010】)。
そして、上記異物について、粒子径5μm以上、10μm以下の異物数が10個/g以下であり、粒子径0.5μm以上、1.0μm以下の異物数が100個/g超、8000個/g以下であれば、PAA溶液から得られるPIフィルムをフレキシブル基板として用いた際の異物の個数を許容範囲にできる、というものである(段落【0008】、【0012】)。
(イ)発明の詳細な説明には、実施例1?5及び比較例1?4が記載されているが、実施例1?5は、「粒子径5μm以上、10μm以下の異物数が0.6個/g以上、10個/g以下」(要件1)及び「粒子径0.5μm以上、1.0μm以下の異物数が100個/g超、8000個/g以下」(要件2)を満たし、PIフィルムの異物数が1(個/10cm^(2))以下となるものであり、比較例1及び2は、要件1及び要件2を満たさず、PIフィルムの異物数が2(個/10cm^(2))以上となるものであり、比較例3及び4は、要件1を満たさず、要件2を満たし、PIフィルムの異物数が2(個/10cm^(2))以上となるものである。
これらの実施例及び比較例に基づけば、要件1及び要件2を満たす場合はPIフィルムの異物数が1(個/10cm^(2))以下となるが(実施例1?5)、要件1を満たさないものは、要件2を満たすか否かにかかわらず、PIフィルムの異物が2(個/10cm^(2))以上となっており(比較例1?4)、発明の詳細な説明に「本発明のPAA溶液は、粒子径が5μm以上の異物数が極めて少ないレベルに維持されているので・・・フレキシブル基板を製造するためガラス基板塗工用溶液として好適に用いることができ」(【0010】)と記載されるとおり、5μm以上の異物数を0.6?10個/gとすることにより、PIフィルムからなるフレキシブル基板とした際の欠陥を減らすことができることを理解できる。

イ 本願発明1と引用発明1との対比・判断
(ア)対比
引用発明1の「ポリアミド酸の溶液」は、溶媒を含むことは明らかであるから、本願発明1の「ポリアミック酸(PAA)と溶媒とからなる、PAA溶液」に相当する。
また、引用発明1の「支持体」は、本願発明1の「ガラス基板」と、「支持体」である限りにおいて一致する。
さらに、引用発明1のPAA溶液は、支持体上に塗布するものであるから、「塗工用」であることは明らかである。
そうすると、本願発明1と引用発明1は以下の点で一致する。
「ポリアミック酸(PAA)と溶媒とからなる、支持体への塗工用溶液」

そして、両者は下記の点で相違する。
<相違点1>
本願発明1は、PAA溶液について、「ガラス基板」への塗工用であるのに対し、引用発明1は、「支持体」への塗工用である点。
<相違点2>
本願発明1は、PAA溶液について、「粒子径5μm以上、10μm以下の異物数が0.6個/g以上、10個/g以下であり、粒子径0.5μm以上、1.0μm以下の異物数が100個/g超、8000個/g以下」であるのに対し、引用発明1はそのような特定がない点。

(イ)判断
a 相違点1に関し、引用文献1には、支持体としてガラス板を用いることが好ましいことが記載されており、さらに、具体的にも、支持体としてガラス板が用いられている(摘記(引1c)及び(引1d))。
そうすると、支持体としてガラス板を用いることは、当業者ならば容易に想到し得ることである。

b 相違点2に関し、引用文献1には、有機EL照明装置、有機ELやLCD等の表示装置に用いることができる透明性に優れたポリイミドフィルムの製造方法に関するものであること、光散乱、平滑性の観点から、使用するポリアミド酸溶液は、パーティクル(異物)含有量が少ないほど好ましいこと、具体的には、0.3μm以上のパーティクル含有量は50000個/g以下であることが記載され、0.3μmのパーティクルの除去方法としては、メンブレンフィルターなどを用いてポリアミド酸を合成する前の溶液を濾過する方法が挙げられている(摘記(引1b))。
c そして、0.3μmのパーティクルの除去方法は、メンブレンフィルターで濾過することから、0.3μm以下の孔径のフィルタで濾過することは明らかであり、これにより、0.3μmよりはるかに大きいパーティクル、例えば、粒子径5μm以上、10μm以下の異物は実質的に含まれないと解されるし、また、経済性の観点から極微量の異物は許容しつつも、このような大きな異物の数を極めて低いレベルとすることは、当業者ならば容易に想到し得ることである。
そうすると、相違点2のうち、上記要件1は実質的な相違点ではないし、仮に相違するとしても、5?10μmの異物を0.6?10個/gとすることは、当業者ならば容易に想到し得ることである。

d さらに、引用発明1は、0.3μm以下のフィルタを用いて濾過する方法により、0.3μmよりわずかに大きい、例えば、0.5μm?1.0μmの異物も大半は除去されており、引用文献1には、0.3μm以上のパーティクル含有量は50000個/g以下であり、パーティクルの含有量は少ないほど好ましいことが記載されていることから、引用発明1において、0.5?1.0μmの粒子径の異物について、8000個/g以下のように50000個/g以下の範囲内で個数の上限値を設定することは、動機付けられるといえる。
e また、フィルターで濾過されたPAA溶液には、フィルターの孔径以上の粒子径を有する異物が若干存在し、その粒子径が小さいほどより多く存在することは、本願優先日時点の技術常識であり、引用発明1の場合、5μm以上の異物よりも0.5?1.0μmの異物の方が多く含まれていると解するのが自然である。そして、引用発明1において、0.5?1.0μmのような比較的小さい個々の異物は、5μm以上のような大きい粒子径の異物と比べて、照明装置や表示装置に用いるポリイミドフィルムの光散乱や平滑性への影響が小さい一方で、0.5?1.0μmのような比較的小さい粒子径の異物を、5μm以上のような大きい粒子径の異物と同程度の個数まで除去しようとすると、処理工程が増えて設備等のコストや処理時間が多くなって経済性に劣ることも、本願優先日時点の技術常識であるといえる。これらのことから、引用発明1のポリアミド酸の溶液において、ポリイミドフィルムの光散乱を抑制して平滑性を向上するための経済性も考慮して、PAA溶液中の比較的小さい異物が、比較的大きい異物よりも多く残存するのを許容することは、当業者にとって動機付けられるといえる。
f そうすると、引用発明1において、0.3μmより粒子径が大きい異物のうち、5μm以上の異物と比べて除去するのにコストや時間を要する0.3μmに近い粒径、例えば、0.5?1.0μmの異物の個数を、100個以上/gのように下限値を設定することは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、相違点2のうち、上記要件2のように、0.5?1.0μmの異物を100超?8000個/gとすることは、当業者ならば容易に想到し得ることである。

g 以上のとおりであるから、引用発明1において、5?10μmの異物を0.6?10個/gとし、0.5?1.0μmの異物を100超?8000個/gとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 本願発明1の効果について
発明の詳細な説明には、本願発明1の効果として、「本発明のPAA溶液は、粒子径が5μm以上の異物数が極めて少ないレベルに維持されているので、電子素子が形成されたPIフィルムからなるフレキシブル基板を製造するためガラス基板塗工用溶液として好適に用いることができる」(【0010】)と記載されており、本願発明1の具体例である実施例1?5の濾液を用いて得られたPIフィルムは、その異物数が1個/10cm^(2)以下であったことが記載されている。
一方、上記イで述べたように、引用発明1は粒子径が5μm以上の異物を実質的に含んでいないものである。また、引用文献1には、ポリイミドフィルムにするためのポリイミド酸溶液について、パーティクルが多いと、ポリイミドフィルムに光散乱等が生じてしまったり、表面の平滑性が失われることが記載されており(摘記(引1a)及び(引1b))、溶液における異物数が多いとフィルムの異物数が多くなり影響を及ぼすことは当業者に公知のことである。これは、ポリイミドフィルムはポリアミド酸を原料としてイミド化して、溶媒を蒸発させて形成するものであり、ポリイミド中の異物はポリアミド酸の塗工用溶液中に含まれる大きい径の異物の量が多い程、その量が多くなるといえるところ、ポリアミド酸の塗工用溶液中に存在する大きい径の異物が少ないのであれば、ポリイミドフィルム中の異物も少なくなり、光散乱や平滑性に影響しているものと予測される。さらに、粒子径の大きい異物が、粒子径の小さい異物に比べて、光散乱や平滑性の欠陥として検出されやすいことは本願優先日時点の技術常識である。これらの引用文献1の記載及び技術常識から、引用発明1のポリアミド酸の溶液は、粒子径が5μm以上の異物を実質的に含んでいないために、これを用いて製造したポリイミドフィルムにも、大きな径の異物は含まれておらず、光散乱や平滑性の欠陥もなく、有機EL照明装置や表示装置に用いることができるもの(引用文献1の【0001】)であるといえる。
そうすると、本願発明1の上記効果は、当業者の予測の範囲内であるといえる。

エ 小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求人の主張
請求人は、令和2年9月18日提出の意見書において、「本願発明1は、用途が限定された、ポリアミック酸と溶媒と異物とからなる一種の新規な「組成物」に関する発明であり、この組成物を構成する異物については、特定の粒子径の異物数の下限が規定されている。
このような組成物は、引用文献1?3には、記載も示唆もされていない。
・・・
これに対し、特定の粒子径の異物数の下限を設けて、下限未満の異物数を有する組成物よりも、下限以上の異物数とした組成とすることが、課題解決の手段とするものである。
このような技術思想は、引用文献1?3には記載も示唆もされておらず、引用文献1?3が、本願発明1の動機付けとならないことは明白である。」旨主張している。
しかしながら、上記(3)で述べたとおり、引用発明1において、有機EL照明装置や表示装置に用いることができるポリイミドフィルムの光散乱を抑制し、平滑性を向上するとともに、それを達成するための経済性も考慮して、PAA溶液中の比較的小さい粒子径の異物の存在を許容することは動機付けられるといえる。
この点について、令和2年10月22日付けで審尋を行ったところ、請求人は、令和2年12月24日提出の回答書において、「本願においては、(本来少なければ少ないほど好ましい筈の)異物数において下限を設けているが、これは経済性を確保するための手段であることに他ならない。
このような経済性の観点は、審判長が指摘するように、一般的には、その要因は「適宜設定される」ものともいえる。
ただ、本願において規定されている、「粒子径5μm以上、10μm以下の異物数が0.6個/g以上、粒子径0.5μm以上、1.0μm以下の異物数が100個/g超、8000個/g以下である」溶液から得られるフィルムをAOIで評価した場合に、「その異物数が、1個/10cm^(2)以下」となるという驚くべき知見は、単なる「適宜設定」するだけでは得られないことは明白である。
何故ならば、溶液における異物数(パーティクルカウンタ)とフィルムにおける異物数(AOI)を関連付けることは、引用文献1?3には記載がなく、当業者に全く知られていないばかりか、常識的には、「粒子径5μm以上、10μm以下の異物数が0.6個/g以上、粒子径0.5μm以上、1.0μm以下の異物数が100個/g超、8000個/g以下」を有する溶液から、「その異物数が、1個/10cm^(2)以下」となるフィルムが得られるということは、想定外のことであるからである。」旨主張している。
しかしながら、上記(3)で述べたように、ポリアミド酸の溶液における異物数が多いとフィルムの異物数が多くなり影響を及ぼすことは当業者に公知のことであり、粒子径の大きな異物が、光散乱や平滑性の欠陥として検出されやすいことは本願優先日時点の技術常識である。そして、引用発明1のポリアミド酸の溶液には、5μm以上の比較的大きな異物は実質的に含まれず、これを用いたPIフィルムにも光散乱や平滑性を低下させる粒子径の比較的大きな異物は含まれないのであるから、本願発明1における「異物数が、1個/10cm^(2)以下」となるフィルムが得られるという効果が「想定外のこと」とはいえない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 引用文献2(特開平06-157750号公報)が主引例の理由1(進歩性)について
(1)引用文献2に記載された事項
(引2a)「【請求項1】溶媒の存在下ジアミン成分およびテトラカルボン酸成分を混合し、それを重合反応させることによるポリアミド酸溶液の製造法において、
1(注:原文は○の中に1、以下同様。) 一種以上のジアミンからなるジアミン成分を溶媒に溶解する工程、
2 一種以上のテトラカルボン酸からなるテトラカルボン酸成分を溶媒に溶解する工程、
3 得られた各成分溶液をジアミン成分およびテトラカルボン酸成分が実質上当量となるように計量し、容器に分注する工程、
4 容器に分注された混合物を所定時間反応させることにより重合反応を進行させる工程、
の4工程よりなることを特徴とするポリアミド酸溶液の製造法。
【請求項2】ジアミン成分および/またはテトラカルボン酸成分のそれぞれの溶液が、フィルター処理した溶液であって、得られたポリアミド酸溶液に含まれる0.3μm以上のパーティクル数が10000個/gワニス以下であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド酸溶液の製造法。」

(引2b)「【0014】また、本発明の製造法は、ジアミン成分および/またはテトラカルボン酸成分溶液の段階でフィルター処理を施すことによりパーティクル含有量を極めて少なくできることも特徴としている。この場合、循環ろ過による処理が、パーティクル除去効率の高い点で優れ、またフィルター通過液をクリーンボトルに直接計量分注することができるため、パーティクル含有量の少ないポリアミド酸溶液を得るのに好ましい。パーティクル含有量の少ないポリアミド酸溶液は、ファインパターンを形成する電子材料用途、あるいはパーティクルの存在が散乱損失をもたらす光学材料用途に特に重要であるが、ポリアミド酸溶液に含まれる0.3μm以上のパーティクル数が10000個/gワニス以下の低パーティクル含有量においてその有用性が高い。」

(引2c)「【0029】
【実施例】以下に、実施例をもって、本発明をより詳細に説明する。
ジアミン成分またはテトラカルボン酸成分を含有する溶液の調製
2,2-ビストリフルオロメチルベンジジン(ABL-21)800.0gをγ-ブチロラクトン1200gに溶解した溶液(A液、1.249mol/kg)とピロメリット酸二無水物(PMDA)120.0gをγ-ブチロラクトン1880gに溶解した溶液(B液、0.2751mol/kg)、ヘキサフルオロイソプロピリデンフタル酸二無水物(6FDA)220.0gをγ-ブチロラクトン1780gに溶解した溶液(C液、0.4952mol/kg)、150.0g(0.4684mol)のABL-21、200.0g(0.9169mol)のPMDA、10.00g(0.0403mol)のビシクロ(2,2,2)オクトー7ーエンー2,3,5,6ーテトラカルボン酸二無水物、および9.00g(0.0999mol)のエチルセロソルブを660gのγ-ブチロラクトンに混合し、70℃で1時間処理した溶液(D液、0.4750mol/kgテトラカルボン酸成分)、250.0(0.7807mol)のABL-21、10g(0.0402mol)の1,3ービス(3ーアミノプロピル)テトラメチルジシロキサンを440gのγ-ブチロラクトンに溶解した溶液(E液、1.173mol/kgジアミン成分)および希釈媒体としてγ-ブチロラクトン(F液)を用意した。
【0030】温度による密度変化の影響を除去するため恆温室においてA,B,C,D,E,F液のそれぞれを用い、精密定量ポンプの設定流量、設定時間と給液量の関係を明らかにし定量性を確認した。
【0031】実施例1
上記精密定量ポンプを、A液およびB液の各成分について60.0mmol/分の流量で15.0秒に設定し、混合器を介して乾燥窒素雰囲気下に100mlポリエチレン製ボトルに注入し密栓した。同様操作を10個のボトルについて繰返し24時間後に粘度を測定したところそれぞれ100ポイズ(22℃以下同じ)でバラツキはなく、その固形分を分析したところ12.1wt%であった。
【0032】実施例2
混合器を使用しない他は実施例1と同様に、5個のボトルにA液、B液をそれぞれ注入密栓したのち、ボトルを5秒間振盪した。24時間後に粘度を測定したところ、それぞれ100ポイズでバラツキは認められなかった。
【0033】比較例1
乾燥窒素雰囲気下に5.00gのABL-21および3.4056gのPMDAを100mlガラス製セパラブルフラスコに精秤し、61.64gのγ-ブチロラクトンを添加し乾燥窒素雰囲気下に攪拌混合した。その固形分濃度は12.0wt%であり、24時間後に粘度を測定したところ130ポイズであった。
【0034】実施例3
精密定量ポンプを、A液についてはジアミン成分を60.0mmol/分の流量で15.0秒に、B液についてはテトラカルボン酸成分を54.0mmol/分の流量で15.0秒に、C液についてはテトラカルボン酸成分を6mmol/分の流量で15.0秒に設定し、混合器を介して乾燥窒素雰囲気下にボトルに注入し密栓した。同様の操作を5個のボトルについて繰返し24時間後に粘度を測定したところいずれも70ポイズでバラツキはなく、その固形分を分析したところ12.7wt%であった。
【0035】実施例4
精密定量ポンプを、D液およびE液の各成分について60.0mmol/分の流量で15.0秒に、F液については0ml/分、30.0ml/分、60.0ml/分のそれぞれの流量で15.0秒に設定した。D、E、Fの各液について、0.1μm孔径のテフロン製メンブレンフィルターを用い、ポンプにより一晩循環処理した後、フィルター処理の出口液を精密定量ポンプに導き、設定に従い乾燥窒素雰囲気下にクリーンボトルに注入密栓し、15秒間振盪した。48時間後に粘度を測定したところ、それぞれ1700ポイズ(固形分濃度、35.6wt%)、260ポイズ(同、29.9wt%)、48ポイズ(同、25.8wt%)であり、それぞれのポリアミド酸溶液の0.3μm以上のパーティクル数は、800、700、300個/gワニスであった。」

(2)引用文献2に記載された発明
引用文献2には、溶媒の存在下ジアミン成分およびテトラカルボン酸成分を混合し、それを重合反応させることによるポリアミド酸溶液の製造法が記載され(摘記(引2a))、特に、その具体例である実施例4には、精密定量ポンプを、D液(テトラカルボン酸成分)およびE液(ジアミン成分)の各成分について60.0mmol/分の流量で15.0秒に、F液(γ-ブチロラクトン)については0ml/分、30.0ml/分、60.0ml/分のそれぞれの流量で15.0秒に設定し、D、E、Fの各液について、0.1μm孔径のテフロン製メンブレンフィルターを用い、ポンプにより一晩循環処理した後、フィルター処理の出口液を精密定量ポンプに導き、設定に従い乾燥窒素雰囲気下にクリーンボトルに注入密栓し、15秒間振盪し、48時間後に粘度を測定したところ、それぞれ1700ポイズ(固形分濃度、35.6wt%)、260ポイズ(同、29.9wt%)、48ポイズ(同、25.8wt%)であり、それぞれのポリアミド酸溶液の0.3μm以上のパーティクル数は、800、700、300個/gワニスであったことが記載されている(摘記(引2c))。
そうすると、上記実施例4におけるF液の流量を60.0mmol/分として得られたポリアミド酸溶液に着目すると、以下の発明が記載されているものと認められる。

「精密定量ポンプを、D液(テトラカルボン酸成分)およびE液(ジアミン成分)の各成分について60.0mmol/分の流量で15.0秒に、F液(γ-ブチロラクトン)について60.0ml/分の流量で15.0秒に設定し、D、E、Fの各液について、0.1μm孔径のテフロン製メンブレンフィルターを用い、ポンプにより一晩循環処理して得られた、0.3μm以上のパーティクル数が300個/gワニスであるポリアミド酸溶液」(以下、「引用発明2」という。)

(3)本願発明1と引用発明2との対比・判断
ア 対比
引用発明2の「ポリアミド酸溶液」は、溶媒を含むことは明らかであるから、本願発明1の「ポリアミック酸(PAA)と溶媒とからなる、PAA溶液」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明2は以下の点で一致する。
「ポリアミック酸(PAA)と溶媒とからなる、PAA溶液」

そして、両者は下記の点で相違する。
<相違点3>
本願発明1は、「粒子径5μm以上、10μm以下の異物数が0.6個/g以上、10個/g以下であり、粒子径0.5μm以上、1.0μm以下の異物数が100個/g超、8000個/g以下」であるのに対し、引用発明2は、「0.3μm以上のパーティクル数が300個/gワニス」である点。
<相違点4>
本願発明1は、「ガラス基板への塗工用」であるのに対し、引用発明2はそのような特定がない点。

イ 判断
(ア)相違点3に関し、引用発明2は、0.1μm孔径のフィルターを用いていることを考慮すると、フィルター孔径の50倍以上100倍以下の粒子径を有する5?10μmのパーティクルは実質的に存在せず、5μm未満の粒子径のパーティクルが300個であると解され、0.5?1.0μmの粒子径のパーティクルは300個以下であり、「粒子径0.5μm以上、1.0μm以下の異物数が8000個/g以下」を満たすことは明らかである。
(イ)また、フィルターの孔径以上の粒子径を有する異物は、粒子径が小さいほど、数が多く存在することは本願優先日時点の技術常識であり、0.3μm以上のパーティクル数が300個/gワニスである引用文献2においては、0.3μmの異物が最も多く、0.3μmから粒子径が大きくなるにつれて異物の数が少ないものであることは明らかである。このことから、0.3μm以上で比較的0.3μmに近い0.5?1.0μmの粒子径範囲の異物は、100個/g以上の個数で存在していると解される。
(ウ)仮に、引用発明2において、0.5?1.0μmの粒子径範囲の異物が100個/g以下であるとしても、引用発明2は「一晩循環処理」することで「0.3μm以上のパーティクル数が300個/gワニス」としたものであり、経済性の観点からは処理時間を短くしたいことは、本願優先日時点の技術常識である。また、引用文献2には、「パーティクル含有量の少ないポリアミド酸溶液は、ファインパターンを形成する電子材料用途、あるいはパーティクル存在が散乱損失をもたらす光学材料用途に特に重要であるが、ポリアミド酸溶液に含まれる0.3μm以上のパーティクル数が10000個/gワニス以下の低パーティクル含有量においてその有用性が高い」ことが記載されており(【0014】)、ファインパターンを形成する電子材料用途やパーティクル存在が散乱損失をもたらす光学材料用途では、ポリアミド酸溶液に含まれる0.3μm以上のパーティクル数が10000個/gワニス以下であっても有用であることが示されている。
そうすると、循環処理に要するコスト及び時間といった経済性を考慮して、上記「0.3μm以上のパーティクル数が10000個/ワニス以下」となる範囲で、0.5?1.0μmの異物の数を100個/g超となるようにすることは動機付けられるといえる。
以上によれば、相違点3は実質的な相違点ではない。仮にそうでないとしても、経済性、光散乱等を考慮して、異物数を所定の範囲とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(エ)相違点4に関し、引用文献2には、パーティクル含有量の少ないポリアミド酸溶液は、ファインパターンを形成する電子材料用途、あるいはパーティクルの存在が散乱損失をもたらす光学材料用途に特に重要であることが記載されている(摘記(引2b))。
そして、電子材料用途、光学材料用途において、ポリアミド酸をガラス基板に 塗工してポリイミドフィルム等とすることは、当業者に周知の事項であるから(例えば、引用文献1の摘記(引1c)及び(引1d)を参照)、引用発明2のポリアミド酸溶液をガラス基板への塗工に用いることに、格別の困難性は存在しない。

(4)請求人の主張
令和2年9月18日提出の意見書における「異物数の下限」の主張については、上記1(4)で述べたとおりである。
さらに、請求人は、上記意見書において、「引用発明2に記載されたポリアミド酸溶液は、0.1μm孔径のフィルターを用いて得られた溶液である。これに対し、本願発明のポリアミド酸溶液は、公称孔径が1.0μm以上、4.0μm以下のフィルタで、循環濾過することにより得られた溶液である。
すなわち、フィルタの孔径に10倍以上の差があり、本願と引用発明では、用いたフィルタの孔径が全く異なる。
そうであるから、本願発明1のポリアミド酸溶液は、粒子径0.5μm以上、1.0μm以下の異物数が100個/g超存在するのである。
これに対し、0.1μm孔径のフィルターを用いて得られた、0.3μm以上のパーティクル数が300個/gワニスであるポリアミド酸溶液中には、粒子径0.5μm以上、1.0μm以下の異物数が100個/g超存在する蓋然性は極めて低いとする方が合理的である。」旨も主張している。
しかしながら、引用文献2における0.1μm孔径のフィルターを用いて得られた、0.3μm以上のパーティクル数が300個/gワニスであるポリアミド酸溶液中には、そのフィルターの孔径から、パーティクルの粒子径はほとんどが0.1μmオーダー(0.3μm以上、1.0μm未満)であると考えられ、そうすると、上記ポリアミド酸溶液中には、粒子径0.5μm以上、1.0μm以下のパーティクルが100個/g超は存在すると考えるのが自然である。
また、上記(3)のとおり、仮に100個/g超存在しなくとも、経済性等を考慮して、許容するパーティクル量を調整することは、当業者が適宜行うことにすぎない。その効果も格別顕著なものとは認められない。
なお、引用文献2に記載された発明として、上記(2)のとおり、「0.3μm以上のパーティクル数が300個/gワニスであるポリアミド酸溶液」を引用発明2として認定したが、これは異物数は基本的には少なければ少ないほど好ましいことを前提として認定したものであり、引用文献2の実施例4には、「0.3μm以上のパーティクル数が700個/gワニスであるポリアミド酸溶液」や「0.3μm以上のパーティクル数が800個/gワニスであるポリアミド酸溶液」も記載されている。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のとおり、本願発明1は、引用文献2に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 引用文献3(特開平05-186592号公報)が主引例の理由1(進歩性)について
(1)引用文献3に記載された事項
(引3a)「【請求項1】ポリイミドまたはその誘導体を固形分濃度として3?60%含有し、その溶液粘度が1?1200ポイズであり、0.3μm以上のパーティクルの含有量が10000個/g以下であることを特徴とする低パーティクル含有ポリイミド溶液。
【請求項2】ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸もしくはその誘導体を固形分濃度として3?60%含有し、その溶液粘度が1?1200ポイズであり、0.3μm以上のパーティクルの含有量が10000個/g以下であることを特徴とする低パーティクル含有ポリイミド前駆体溶液。
【請求項3】ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸もしくはその誘導体を固形分濃度として3?60%含有し、その溶液粘度が30?3000ポイズであり、0.3μm以上のパーティクルの含有量が10000個/g以下であることを特徴とする低パーティクル含有ポリイミド前駆体溶液。
【請求項4】予め孔径0.2μm以下のフィルターでろ過処理した溶媒、ジアミン成分およびテトラカルボン酸成分を使用し、重合反応させて得られる、ポリアミック酸、その誘導体またはポリイミドを、固形分濃度として3?60%含有し、その溶液粘度が1?1200ポイズであるポリイミド前駆体およびポリイミド溶液を、孔径が0.2μm以下のメンブレンフィルターでさらにろ過処理することを特徴とする請求項1または請求項2記載の溶液の製造法。
【請求項5】ジアミン成分とテトラカルボン酸成分またはその誘導体を溶媒中に溶解、重合反応させて得られるポリイミド前駆体溶液において、重合反応による溶液粘度の上昇が緩やかで、ジアミンとテトラカルボン酸またはその誘導体の溶解時溶液粘度が30ポイズ以下である、ジアミンとテトラカルボン酸無水物またはその誘導体の組み合わせからなるポリイミド前駆体溶液を、その溶液粘度が30ポイズ以下である状態下に、孔径0.2μm以下のメンブレンフィルターによるろ過処理によりパテーィクルを除去し、その後、重合反応を完結させることにより30ポイズ以上の粘度を有するポリイミド前駆体溶液を得ることを特徴とする、請求項3記載のポリイミド前駆体溶液の製造法。
【請求項6】ジアミン成分またはテトラカルボン酸成分には少なくとも1種類のフッ素を含有するジアミンまたはテトラカルボン酸またはそれらの誘導体が含まれていることを特徴とする請求項1?3記載の低パーティクル含有溶液。
【請求項7】同一の芳香環にアミノ基と炭素数1?20のフルオロアルキル基またフルオロアルコキシ基が結合するジアミンを10%以上含有するジアミン成分を用いる請求項5の製造法。」

(引3b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ポリイミド前駆体あるいはポリイミド溶液に係わり、特にパーティクル含有量が少なく、光学材料として好適な耐熱性樹脂が得られるポリイミド前駆体あるいはポリイミド溶液に関する。
・・・
【0009】
【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明の目的は、耐熱性に優れたポリイミド樹脂を光学材料として使用するに際し、とくに5μ程度以上の厚膜コーティングに適当な高粘度のポリイミド前駆体溶液において、光学材料として好ましくない光損失の要因の一つである光散乱の原因であるパーティクルの問題を実質的に改善した、ポリイミド、あるいはポリイミド前駆体溶液を提供することである。」

(引3c)「【0044】
【実施例】以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
実施例1
以下の操作は、クラス10000(測定値300以下)のクリーンルーム内でおこない、必要に応じてクラス100(測定値10以下)のクリーンベンチおよびクリーンオーブンを使用した。
【0045】ジアミン成分として、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ベンジジンをクロロホルムに溶解し、孔径0.2μmのPTFE製メンブレンフィルター(アドバンテック社製)を用い、乾燥窒素雰囲気下で処理したのち、液体微粒子計数器(リオン社製、KL-20-K)を用い、この溶液10ml中に含まれるパーティクル数を測定したところ0.3μm以上のパーティクル数は10個以下であった。フィルター処理したジアミン溶液は、減圧下に溶媒を留去・乾燥し、重合反応に使用した。
【0046】テトラカルボン酸成分として、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物をアセトンに溶解し、同様に処理・測定したところ、この溶液10ml中に含まれる0.3μm以上のパーティクル数は10個以下であった。フィルター処理したテトラカルボン酸無水物溶液は、減圧下に溶媒を留去・乾燥し、重合反応に使用した。
【0047】溶媒としてN,N-ジメチルアセトアミドを同様に処理し、10ml中に含まれる0.3μm以上のパーティクル数10以下のN,N-ジメチルアセトアミドを得た。
【0048】上記のように、予めフィルター処理された13.70gの2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ベンジジンと、19.05gの2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを185gのN,N-ジメチルアセトアミドに溶解し、窒素雰囲気下に約36時間反応させ、固形分15%のポリアミック酸溶液を得た。25℃におけるこの溶液の粘度は110ポイズ(フィジカ社製RHEOLAB MC20を使用して、コーン・プレート法により測定した。以下同様)であった。孔径0.2μmのPTFE製メンブレンフィルター(アドバンテック社製)を用い、乾燥窒素で2.7Kg/cm^(2)の加圧下に処理したのち、液体微粒子計数器を用い、溶媒で希釈した溶液10ml中に含まれるパーティクル数を測定したところ、0.3μm以上のパーティクル数は5330個であり、ポリアミック酸溶液1g当たりに換算した0.3μm以上のパーティクル含有量は8900個であった。
【0049】このポリアミック酸溶液を、シリコンウエハー上にスピンコートし、70℃で2時間、160℃で1時間、300℃で1時間保持して10μmのポリイミド膜を形成した。
【0050】1mWのHe-Neレーザーを用い、ストリーク光法により光損失の測定をおこなったところ、ここで得られたポリイミド膜の光損失は0.7dB/cmであった。
【0051】実施例2?12
異なった条件で調整したポリイミド前駆体溶液を用いて作成したポリイミド膜の光損失を、実施例1と同様の方法で評価し、その結果を表1、表2に示した。
【0052】比較例1
使用するジアミン成分、テトラカルボン酸成分および溶媒を予めフィルター処理しない点を除き実施例1と同様に、一般的な操作によりポリアミック酸溶液を調整し、乾燥窒素5Kg/cm^(2) の加圧下に、孔径0.2μmのPTFE製メンブレンフィルター(アドバンテック社製)で処理し、実施例1と同様に製膜したポリイミド膜の光損失を測定した。この結果を表2に示した。
【0053】比較例2
異なった条件で調整したポリイミド前駆体溶液を用いて作成したポリイミド膜の光損失を、実施例1と同様の方法で評価し、その結果を表2に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】以下の実施例および参考例においては、ジアミン成分、テトラカルボン酸成分、溶媒ともに予めフィルター処理により低パーティクル化していないものを使用した。
【0057】実施例13
攪拌ばね、窒素導入管を備えた3Lの平底セパラブルフラスコへ2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物100.0g(225.2mmol)、2,2’-ビストリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル72.1g(225.2mmol)を装入、窒素気雰囲気下とした。そこへN,N-ジメチルアセトアミド975.8gを添加、モーター羽根で攪拌したところ、モノマーは25分間で溶解し、この時の粘度は1ポイズであった。つぎにポンプ(日本フィーダー社製SXW 1-822)により、孔径0.1μmフィルター(日本ミリポア社製、F-16 WGFV)で15分間循環ろ過を行なったところ、溶液中のパーティクル数は、0.3μm以上が500個/gであり、この時の粘度は2ポイズであった。
【0058】つづいて100ccクリーンボトル10本へ分注し、密栓後常温放置した。36時間後の溶液の粘度は各ボトルとも1200ポイズと一定であり、0.3μm以上のパーティクル数は、520個/gであった。
【0059】実施例14?20
表3に示す原料組成を用いて、実施例13と同様の重合反応、ろ過処理を行なった。結果を同じ表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】参考例 1
攪拌ばね、窒素導入管を備えた1Lの平底セパラブルフラスコへ、2,2-ビス(4-(4-(アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン80.3g(154.8mmol)、N,N-ジメチルアセトアミド456.1gを装入し、ピロメリット酸無水物33.8g(154.8mmol)を30分間で添加 した。モノマーは添加終了後15分で溶解したが、この時の粘度はすでに50ポイズ以上であって、実施例13と同様の循環ろ過は実質的に不可能であり、製造法2によっては、低パーティクル含有ポリイミド前駆体溶液は得られなかった。
【0062】参考例2
攪拌ばね、窒素導入管を備えた2Lの平底セパラブルフラスコへ、オキシジアニリン50.3g(248.5mmol)、N,N-ジメチルアセトアミド938.9gを装入し、PMDA54.2g(248.5mmol)を30分間で添加した。モノマーは添加終了後25分で溶解したが、この時の粘度はすでに50ポイズ以上であって、実施例13と同様の循環ろ過は実質的に不可能であり、製造法2によっては、低パーティクル含有ポリイミド前駆体溶液は得られなかった。
【0063】参考例3
攪拌ばね、窒素導入管を備えた3Lの平底セパラブルフラスコへ、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物の243.1g(547.2mmol)、2,2’-ビストリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニルの175.3g(547.5mmol)を装入、窒素雰囲気下とした。そこへN,N-ジメチルアセトアミド2362.3gを添加、モーター羽根で攪拌したところ、モノマーは25分間で溶解した。36時間後の溶液の粘度は、260ポイズであった。得られた溶液を窒素加圧器で3.0Kg/cm^(2) に加圧し、孔径0.1μmフィルター(日本ミリポア社製、F-16 WGFV)でろ過し、100ccクリーンボトルに分注した。0.3μm以上のパーティクル数は、2000個/gと充分に低いパーティクル数であったが、溶液粘度はボトル間で65?220ポイズのバラツキが生じ、ポリイミド膜作成にあたって極めて不便であり、実用に耐えるものではなかった。」

(2)引用文献3に記載された発明
引用文献3には、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸もしくはその誘導体を固形分濃度として3?60%含有し、その溶液粘度が1?1200ポイズであり、0.3μm以上のパーティクルの含有量が10000個/g以下である低パーティクル含有ポリイミド前駆体溶液が記載され(摘記(引3a))、特に、その具体例である実施例13には、攪拌ばね、窒素導入管を備えた3Lの平底セパラブルフラスコへ2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物100.0g(225.2mmol)、2,2’-ビストリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル72.1g(225.2mmol)を装入、窒素気雰囲気下とし、そこへN,N-ジメチルアセトアミド975.8gを添加、モーター羽根で攪拌したところ、モノマーは25分間で溶解し、この時の粘度は1ポイズであり、つぎにポンプ(日本フィーダー社製SXW 1-822)により、孔径0.1μmフィルター(日本ミリポア社製、F-16 WGFV)で15分間循環ろ過を行なったところ、溶液中のパーティクル数は、0.3μm以上が500個/gであり、この時の粘度は2ポイズであり、つづいて100ccクリーンボトル10本へ分注し、密栓後常温放置し、36時間後の溶液の粘度は各ボトルとも1200ポイズと一定であり、0.3μm以上のパーティクル数は、520個/gであったことが記載されている(摘記(引3c))。
そうすると、上記実施例13において得られたポリアミック酸溶液に着目すると、以下の発明が記載されているものと認められる。

「攪拌ばね、窒素導入管を備えた3Lの平底セパラブルフラスコへ2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物100.0g(225.2mmol)、2,2’-ビストリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル72.1g(225.2mmol)を装入、窒素気雰囲気下とし、そこへN,N-ジメチルアセトアミド975.8gを添加、モーター羽根で攪拌し、つぎにポンプ(日本フィーダー社製SXW 1-822)により、孔径0.1μmフィルター(日本ミリポア社製、F-16 WGFV)で15分間循環ろ過を行ない、つづいて100ccクリーンボトル10本へ分注し、密栓後常温放置して得られた、0.3μm以上のパーティクル数が520個/gであるポリアミック酸溶液」(以下、「引用発明3」という。)

(3)本願発明1と引用発明3との対比・判断
ア 対比
引用発明3の「ポリアミック酸溶液」は、溶媒を含むことは明らかであるから、本願発明1の「ポリアミック酸(PAA)と溶媒とからなる、PAA溶液」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明3は以下の点で一致する。
「ポリアミック酸(PAA)と溶媒とからなる、PAA溶液」

そして、両者は下記の点で相違する。
<相違点5>
本願発明1は、「粒子径5μm以上、10μm以下の異物数が0.6個/g以上、10個/g以下であり、粒子径0.5μm以上、1.0μm以下の異物数が100個/g超、8000個/g以下」であるのに対し、引用発明3は、「0.3μm以上のパーティクル数が520個/g」である点。
<相違点6>
本願発明1は、「ガラス基板への塗工用」であるのに対し、引用発明3はそのような特定がない点。

イ 判断
(ア)相違点5に関し、引用発明3は、孔径0.1μmのフィルターを用いていることを考慮すると、フィルター孔径の50倍以上100倍以下の粒子径を有する5?10μmのパーティクルは実質的に存在せず、5μm未満の粒子径のパーティクルが520個であると解され、0.5?1.0μmの粒子径のパーティクルは520個以下であり、「粒子径0.5μm以上、1.0μm以下の異物数が8000個/g以下」を満たすことは明らかである。
(イ)また、フィルターの孔径以上の粒子径を有する異物は、粒子径が小さいほど、数が多く存在することは本願優先日時点の技術常識であり、0.3μm以上のパーティクル数が520個/gワニスである引用発明3においては、0.3μmの異物が最も多く、0.3μmから粒子径が大きくなるにつれて異物の数が少ないものであることは明らかである。このことから、0.3μm以上で比較的0.3μmに近い0.5?1.0μmの粒子径範囲の異物は、100個以上の数で存在していると解される。
(ウ)仮に、引用発明3において、0.5?1.0μmの粒子径範囲の異物が100個/g以下であるとしても、引用発明3は「15分間循環ろ過」を行うことで「0.3μm以上のパーティクル数が520個/gである」としたものであり、経済性の観点からは処理時間を短くしたいことは、本願優先日時点の技術常識である。また、引用文献3には、「0.3μm以上のパーティクル数が10000個/g以下、さらに良好には5000個/g以下になると・・・散乱損失は少なく、パーティクルによる散乱損失の影響を実質的に改善できる」(【0011】)及び「本発明によれば、光学材料用途において好ましくない光損失の要因である光散乱の原因となるパーティクルの問題を実質的に改善することができる」(【0064】)ことが記載され、ポリアミド酸溶液に含まれる0.3μm以上のパーティクル数が5000個/g以下であれば、光学材料用途におけてパーティクルによる光散乱を改善できることが示されている。
そうすると、循環ろ過に要するコスト及び時間といった経済性を考慮して、上記「0.3μm以上のパーティクル数が5000個/g以下」となる範囲で、0.5?1.0μmの異物の数を100個/g超となるようにすることは動機付けられるといえる。
以上によれば、相違点5は実質的な相違点ではない。仮にそうでないとしても、経済性、光散乱等を考慮して、異物数を所定の範囲とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(エ)相違点6に関し、引用文献3には、パーティクル含有量の少ないポリアミド酸溶液は、パーティクルの存在が光散乱損失の原因となる光学材料用途に特に重要であることが記載されている(摘記(引3b))。
そして、光学材料用途において、ポリアミド酸をガラス基板に塗工してポリイミドフィルム等とすることは、当業者に周知の事項であるから(例えば、引用文献1の摘記(引1c)及び(引1d)を参照)、引用発明3のポリアミド酸溶液をガラス基板への塗工に用いることに、格別の困難性は存在しない。

(4)請求人の主張
令和2年9月18日提出の意見書における「異物数の下限」の主張については、上記1(4)で述べたとおりである。
さらに、請求人は、上記意見書において、「引用発明3に記載されたポリアミド酸溶液は、0.1μm孔径のフィルターを用いて得られた溶液である。これに対し、本願発明のポリアミド酸溶液は、公称孔径が1.0μm以上、4.0μm以下のフィルタで、循環濾過することにより得られた溶液である。
すなわち、フィルタの孔径に10倍以上の差があり、本願と引用発明では、用いたフィルタの孔径が全く異なる。
そうであるから、本願発明1のポリアミド酸溶液は、粒子径0.5μm以上、1.0μm以下の異物数が100個/g超存在するのである。
これに対し、0.1μm孔径のフィルターを用いて得られた、0.3μm以上のパーティクル数が520個/gワニスであるポリアミド酸溶液中には、粒子径0.5μm以上、1.0μm以下の異物数が100個/g超存在する蓋然性は極めて低いとする方が合理的である。」旨も主張している。
しかしながら、引用文献3における0.1μm孔径のフィルターを用いて得られた、0.3μm以上のパーティクル数が520個/gであるポリアミド酸溶液中には、そのフィルターの孔径から、パーティクルの粒子径はほとんどが0.1μmオーダー(0.3μm以上、1.0μm未満)であると考えられ、そうすると、上記ポリアミド酸溶液中には、粒子径0.5μm以上、1.0μm以下のパーティクルが100個/g超は存在すると考えるのが自然である。
また、上記(3)のとおり、仮に100個/g超存在しなくとも、経済性等を考慮して、許容するパーティクル量を調整することは、当業者が適宜行うことにすぎない。その効果も格別顕著なものとは認められない。
なお、引用文献3に記載された発明として、上記(2)のとおり、「0.3μm以上のパーティクル数が520個/gであるポリアミック酸溶液」を引用発明3として認定したが、これは異物数は基本的には少なければ少ないほど好ましいことを前提として認定したものであり、引用文献3の他の実施例には、「0.3μm以上のパーティクル数が900個/gであるポリアミド酸溶液」や「0.3μm以上のパーティクル数が1200個/gであるポリアミド酸溶液」等も記載されている。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のとおり、本願発明1は、引用文献3に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて、又は、引用文献2に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基いて、又は、引用文献3に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-02-18 
結審通知日 2021-03-02 
審決日 2021-03-18 
出願番号 特願2020-15206(P2020-15206)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中川 裕文  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 安田 周史
橋本 栄和
発明の名称 ガラス基板への塗工用ポリアミック酸溶液  

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