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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C25D
管理番号 1373801
異議申立番号 異議2021-700068  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-21 
確定日 2021-05-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6726173号発明「金含有層を電着するための組成物、その使用及び方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6726173号の請求項1?12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6726173号(以下「本件特許」という。)の請求項1?12に係る特許についての出願は、2015年(平成27年) 8月21日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2014年8月25日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和 2年 6月30日にその特許権の設定の登録がされ、同年 7月22日に特許掲載公報が発行された。その後、令和 3年 1月21日に特許異議申立人 小池 潤一(以下「申立人」という。)により、請求項1?12に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明12」といい、まとめて「本件発明」という。)は、各々、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
酸性電気めっき組成物であって、
(i)少なくとも1つの金イオン源、及び
(ii)少なくとも1種のメルカプトトリアゾール又はその塩
を含み、前記少なくとも1種のメルカプトトリアゾールが以下の一般式(I)又は(II):
【化1】


(式中、R^(1)、R^(4)は、相互に独立して水素、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和(C_(1)?C_(20))炭化水素鎖、(C_(8)?C_(20))アラルキル基;置換又は非置換のフェニル基、ナフチル基又はカルボキシル基であり;且つ
R^(2)、R^(3)、R^(5)、R^(6)は、相互に独立して-S-X、水素、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和(C_(1)?C_(20))炭化水素鎖、(C_(8)?C_(20))アラルキル基;置換又は非置換のフェニル基、ナフチル基又はカルボキシル基であり;且つ
Xは水素、(C_(1)?C_(4))アルキル基又はアルカリ金属イオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン及び第4級アミンから選択される対イオンであり、且つ
R^(2)及びR^(3)のうち少なくとも1つは-S-Xであり、且つR^(5)及びR^(6)のうち少なくとも1つは-S-Xである)
を有し、
少なくとも1種のメルカプトトリアゾールが、前記酸性電気めっき組成物中で1mg/l?1g/lの範囲の濃度を有する、前記酸性電気めっき組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1種のメルカプトトリアゾールが、前記一般式(I)又は(II)を有し、
その際、R^(1)、R^(4)は相互に独立して水素又は直鎖状(C_(1)?C_(4))アルキル基であり、且つ
R^(2)、R^(3)、R^(5)、R^(6)は相互に独立して-S-X、水素又は直鎖状(C_(1)?C_(4))アルキル基であり、且つ
Xは水素、メチル基、エチル基、又はナトリウムイオン及びカリウムイオンから選択される対イオンであり;且つ
R^(2)及びR^(3)のうち少なくとも1つは-S-Xであり、且つR^(5)及びR^(6)のうち少なくとも1つは-S-Xである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種のメルカプトトリアゾールが1mg/l?1g/lの範囲の濃度を有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
少なくとも1つの合金化金属イオン源を更に含み、前記合金化金属イオンの金属がコバルト、ニッケル及び鉄から選択される、請求項1から3までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
金イオンのための錯化剤を更に含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
ピリジン及びキノリン化合物から選択される少なくとも1種の光沢剤を更に含む、請求項1から5までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
1?6のpH値を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
(i)請求項1から7までのいずれか1項に記載の酸性電気めっき組成物を準備すること;
(ii)基板を前記組成物と接触させること;及び
(iii)前記基板と少なくとも1つのアノードとの間に電流を印加し、それによって金又は金合金を前記基板上に析出させること
を含む方法。
【請求項9】
前記基板が鉄、ニッケル、銅又はそれらの合金である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基板が電気コネクタである、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
(i)使用済み金又は金合金電気めっき組成物を準備すること;
(ii)請求項1又は2で規定されたメルカプトトリアゾールを、再生用の前記使用済み金又は金合金電気めっき組成物に添加すること、及び
(iii)基板を前記組成物と接触させること;及び
(iv)前記基板と少なくとも1つのアノードとの間に電流を印加し、それによって金又は金合金を前記基板上に析出させること
を含む、方法。
【請求項12】
請求項1又は2で規定されたメルカプトトリアゾールの、電着浴における浸漬防止剤としての使用。」

第3 申立て理由の概要
申立人は、証拠方法として下記1に示す甲第1号証、甲第2号証及び甲第2号証(抄訳文)、甲第3号証の1、甲第3号証の2、甲第3号証の3、甲第3号証の4、甲第3号証の5、甲第3号証の6、甲第4号証、甲第5号証の1、甲第5号証の2、甲第5号証の3、並びに甲第6号証(以下、「甲第2号証(抄訳文)」を「甲2の訳」といい、「甲第3号証の1」?「甲第3号証の6」を総称して「甲第3号証」、また、それぞれを「甲3の1」?「甲3の6」といい、「甲第5号証の1」?「甲第5号証の3」を総称して「甲第5号証」、また、それぞれを「甲5の1」?「甲5の3」という。さらに、「甲第1号証」?「甲第6号証」を、それぞれ「甲1」?「甲6」という。)を提示し、本件特許の下記2の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記2の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1?12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである旨主張している。

1 証拠方法
甲1 :特開2006-348383号公報
甲2 :Silvana B. Dimitrijevic, et al. “CHEMICAL AND ELECTROCHEM
ICAL CHARACTERIZATION OF GOLD COMPLEX BASSED ON MERCAPTOTR
IAZOLE IN ACID MEDIA”, 17^(th) International Research/Exper
t Conference “Trends in the Development of Machinery and
Associated Technology” TMT 2013, Istanbul, Turkey, 10-11
September 2013, p.165-168
甲2の訳:甲2の第165頁“1.INTRODUCTION”の第1?3行、第20?2
2行の訳文
甲3の1:土井正、“めっき液成分の管理”、ぶんせき、2006年、第5号、p
.206-212
甲3の2:工藤富雄、“金めっきの化学”、サーキットテクノロジ、1993年
、Vol.8、No.5、p.368-372
甲3の3:脇 文雄、“プリント配線板とめっき加工 最終回 金めっき”
、サーキットテクノロジ、1990年、Vol.5、No.2、p.104-111
甲3の4:来田勝継、“貴金属めっき浴の種類と特徴”、表面技術、2004年
、Vol.55、No.10、p.626-629
甲3の5:青谷薫、“合金めっき I(Au合金めっき-1)”、初版、槇書
店、1999年6月20日、p.226-227
甲3の6:青谷薫、“合金めっき II(Au合金めっき-2)”、初版、槇書
店、2001年11月20日、p.31-32
甲4 :特開2003-268586号公報
甲5の1:特開昭60-155696号公報
甲5の2:特開昭62-287094号公報
甲5の3:特開2008-303420号公報
甲6 :特開平4-110488号公報

2 申立理由(進歩性)
(1)請求項1?3、5、7?9
刊行物:甲1?甲3、または、甲4

(2)請求項4、10
刊行物:甲1?甲3、または、甲4及び甲3

(3)請求項6
刊行物:甲1?3及び甲5、または、甲4及び甲5

(4)請求項11、12
刊行物:甲1?3及び甲6、または、甲4

第4 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
1 甲1について
(1)甲1の記載
甲1には、「改善された金合金電解質」(発明の名称)に関して、次の記載がある。なお、下線は当審が付与し、「・・・」は省略を表す(以下同様)。

「【請求項1】
一以上の金イオン源と;一以上の銀イオン源と;一以上の銅イオン源と;メルカプト-テトラゾール、メルカプト-トリアゾールおよびこれらの塩から選択される一以上の化合物と;ジチオカルボキシル官能基に対するアルファ位に非プロトン性炭素原子を有する一以上のジチオカルボン酸ならびにこれらの塩およびエステルと;を含む組成物。」
「【請求項4】
一以上のアルカリ性物質を更に含む、請求項1記載の組成物。」
「【請求項6】
a)一以上の金イオン源と;一以上の銀イオン源と;一以上の銅イオン源と;ジチオカルボキシル官能基に対するアルファ位に非プロトン性炭素原子を有する一以上のジチオカルボン酸ならびにそれらの塩およびエステルと;メルカプト-テトラゾール、メルカプト-トリアゾールおよびそれらの塩の一以上の供給源と;を含む組成物を提供する工程;
b)基体を上記組成物中に浸漬する工程;および
c)金-銀-銅合金を上記基体上に堆積させる工程;
を含む方法。
【請求項7】
前記金-銀-銅合金が、1:2?8:1の反復サイクルを用いる電流の断続により基体上に堆積される、請求項6記載の方法。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、金合金を堆積させるための改善された電解質を対象とするものである。より詳細には、本発明は、イオウを含有する有機化合物の特定の組合せを含み、改善された輝きおよび色の一様性を呈する金合金堆積物を提供する、金合金を堆積させるための改善された電解質を対象とするものである。
【背景技術】
【0002】
金合金は、長年にわたり、一般的には時計のケース、時計のバンド、眼鏡のフレーム、筆記用具、宝飾品上に、ならびに様々な他の物品上に堆積させられてきた。例えば、これらの用途で最もよく使用されてきた電気メッキ金合金は、金-銅-カドミウムであった。しかし、カドミウムは非常に有毒な金属であるため、電気メッキ業界は、低減された毒性レベルを有する代替物を探し求めてきた。無毒であることに加え、そのようなカドミウム代替物を用いて生産される金合金堆積物は、以下の物理的特徴を備えていなければならない:
1.堆積物は、要求されている通りの色を有していなければならない。通常、これらの色は、スイス基準(Swiss standard)「1-5N」(特定の黄白色からピンクまでの範囲にわたる金合金)であり、「2N」イエローグレードが好適である。
2.堆積物は、メッキ後に更なる研磨を必要としないような輝きを有していなければならない。20ミクロン程の高さの厚みを有する堆積物であっても、この輝きの程度が維持されなければならない。
3.メッキ浴は、素地金属における極めて小さな欠陥が平坦化または被覆されるような平滑化を示す堆積物を作り出さなければならない。
4.堆積物のカラットが求められるはずである。これらのカラットは、一般的に、12から18までであり、50?75%の金である。
5.すべての堆積物は適度の延性を有していなければならず、20ミクロン程の高さの厚みを有する場合であっても、要求される延性試験に合格することができなければならない。
6.堆積物は耐食性を有しているべきであり、要求される耐食性試験に合格することができなければならない。」
「【0004】
米国特許第5,256,275号は、カドミウムを排除した金合金電解質を開示している。この金合金は、金、銀および銅を含む。水溶性の金、銀および銅塩に加え、合金を電気メッキするための電解質は、様々な有機イオウ化合物、例えばチオ尿素、チオバルビツル酸、イミダゾリジンチオン、チオリンゴ酸、チオ硫酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウムおよびイソチオシアン酸ナトリウムを含み得る。・・・この米国特許第5,256,275号特許の金合金は、カドミウムを含有した金合金を上回る改良ではあるが、尚も、許容可能なメッキ速度において改善された輝きおよび色の一様性を有する堆積物をもたらす、カドミウムを含まない金合金電解質を見出すことに対するニーズが存在する。」
「【0008】
更なる態様において、当該方法により金合金組成物が堆積された物品が提供される。該物品は、8カラット?23カラットで、且つ2Nカラーまたは3Nカラー(望ましいイエローカラー?ディープイエローカラーのグレード)の金合金堆積物を含む。このような物品は、宝飾品および他の装飾品を含む。」
「【0012】
組成物は、一以上の金イオン源と、一以上の銀イオン源と、一以上の銅イオン源と、メルカプト-テトラゾールおよびメルカプト-トリアゾールならびにそれらの塩から選択される一以上の化合物と、ジチオカルボキシル官能基(-C(S)SX)に対するアルファ(α)位に非プロトン性炭素原子を有する一以上のジチオカルボン酸ならびにそれらの塩およびエステルとを含み、前述の式中のXは水素または好適な対イオンである。また、電解質組成物は、組成物を安定化させるための添加剤、および基体上に輝きのある一様な色の金合金を堆積させる上で助けとなる添加剤も含んでいてよい。」
「【0015】
任意に、広範囲にわたる様々な金錯化剤が組成物に含められ得る。」
「【0021】
使用される有機イオウ含有化合物は、ジチオカルボキシル官能基に対するアルファ位に非プロトン性炭素原子を有する一以上のジチオカルボン酸、ならびそれらの塩およびエステルとの組合せにおいて、一以上のメルカプト-テトラゾールもしくはそれらの塩、または一以上のメルカプト-トリアゾールもしくはそれらの塩、またはメルカプト-テトラゾールおよびメルカプト-トリアゾールもしくはそれらの塩の混合物から選択される。理論によって拘束されるものではないが、メルカプト-テトラゾールおよびメルカプト-トリアゾールならびにそれらのそれぞれの塩のうちの一以上との組合せにおける一以上のジチオカルボン酸ならびにそれらの塩およびエステルが、金-銀-銅合金堆積物に改善された輝きおよび色の一様性をもたらすものと考えられる。」
「【0040】
好適なメルカプト-トリアゾールは、例えば下式を有する。
【0041】
【化4】

【0042】
式中、R_(7)は水素、または直鎖状もしくは分枝状の、飽和もしくは不飽和の(C_(1)-C_(20))炭化水素基、(C_(8)-C_(20))アラルキル、置換もしくは非置換フェニルもしくはナフチル基であり;Xは水素または好適な対イオンであり、前述の対イオンには、これらに限定されるものではないが、アルカリ金属、例えばナトリウム、カリウムおよびリチウムが含まれる。フェニルおよびナフチルにおける置換基には、これらに限定するものではないが、分枝状または非分枝状の(C_(1)-C_(12))アルキル、分枝状または非分枝状の(C_(2)-C_(20))アルキレン、分枝状もしくは非分枝状の(C_(1)-C_(12))アルコキシ、ヒドロキシル、ならびにハロゲン(例えば塩素および臭素など)が含まれる。典型的には、R_(7)は水素または直鎖(C_(1)-C_(4))アルキルであり、Xは水素、ナトリウムまたはカリウムである。より典型的には、R_(7)は水素、メチルまたはエチルであり、Xは水素またはナトリウムである。最も典型的には、R_(7)は水素またはメチルであり、Xは水素である。」
「【0046】
一般的に、メルカプト-トリアゾール(1,2,4-トリアゾリウム化合物を含む)は、電解質組成物中に0.5mg/L?200mg/Lの量で、または例えば10mg/L?150mg/Lの量で、もしくは例えば50mg/L?100mg/Lの量で含められる。かかるメルカプト-トリアゾールは、一般的に、商業的に入手可能であり、または当技術分野においてよく知られた方法により調製することができる。
【0047】
また、アルカリ性物質も、組成物のpHを7?14、または例えば8?12もしくは例えば9?11に維持するために加えられ得る。」
「【0058】
組成物は、任意の好適な基体上に金-銀-銅合金を堆積させるために使用され得る。かかる基体は、これらに限定するものではないが、非導電性物質、例えば当技術分野において知られている一以上の方法により導電性にされた導電性ポリマーなど、非貴金属含有基体、例えば鉄含有基体、銅および銅合金、スズおよびスズ合金、鉛および鉛合金、亜鉛および亜鉛合金、ニッケルおよびニッケル合金、クロムおよびクロム合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金、ならびにコバルトおよびコバルト合金などを含む。電解質組成物から金-銀-銅合金と共に堆積され得る貴金属の例は、金、銀、白金、パラジウムおよびこれらの合金を含む。
【0059】
任意の好適なメッキ装置を用いて基体上に金-銀-銅合金を堆積させることができる。通常の電気メッキ装置が使用され得る。基体は陰極として機能し、可溶性または不溶性の電極が陽極として機能し得る。」

(2)甲1に記載された発明
上記(1)の記載、特に、請求項1、4、6、7、【0040】?【0042】、【0046】、【0047】、【0059】の記載より、甲1には次の甲1発明1、甲1発明2、及び甲1発明3が記載されているといえる。

<甲1発明1>
「一以上の金イオン源と;一以上の銀イオン源と;一以上の銅イオン源と;メルカプト-テトラゾール、メルカプト-トリアゾールおよびこれらの塩から選択される一以上の化合物と;ジチオカルボキシル官能基に対するアルファ位に非プロトン性炭素原子を有する一以上のジチオカルボン酸ならびにこれらの塩およびエステルと;を含む組成物であって、
前記メルカプト-トリアゾールは、以下の式(IV):

(式中、R_(7)は水素、または直鎖状もしくは分枝状の、飽和もしくは不飽和の(C_(1)-C_(20))炭化水素基、(C_(8)-C_(20))アラルキル、置換もしくは非置換フェニルもしくはナフチル基であり;Xは水素または好適な対イオンであり、前述の対イオンは、アルカリ金属が含まれ、典型的には、R_(7)は水素または直鎖(C_(1)-C_(4))アルキルであり、Xは水素、ナトリウムまたはカリウムであり、より典型的には、R_(7)は水素、メチルまたはエチルであり、Xは水素またはナトリウムであり、最も典型的には、R_(7)は水素またはメチルであり、Xは水素である。)
を有し、
前記メルカプト-トリアゾールは、組成物中に50mg/L?100mg/Lの量で含められ、
pHを7?14に維持するためにアルカリ性物質を更に含む、電気メッキ組成物。」

<甲1発明2>
「a)一以上の金イオン源と;一以上の銀イオン源と;一以上の銅イオン源と;ジチオカルボキシル官能基に対するアルファ位に非プロトン性炭素原子を有する一以上のジチオカルボン酸ならびにそれらの塩およびエステルと;メルカプト-テトラゾール、メルカプト-トリアゾールおよびそれらの塩の一以上の供給源と;pHを7?14に維持するためのアルカリ性物質と;を含む組成物を提供する工程;
b)基体を上記組成物中に浸漬する工程;および
c)金-銀-銅合金を、基体を陰極として陽極との間での1:2?8:1の反復サイクルを用いる電流の断続により基体上に堆積させる工程;
を含む方法であって、
前記メルカプト-トリアゾールは、甲1発明1で規定されたメルカプト-トリアゾールである、方法。」

<甲1発明3>
「甲1発明1で規定されたメルカプト-トリアゾールの、電気メッキにおける装飾品の輝き及び色の一様性をもたらすための使用。」

2 甲2の記載
甲2には、甲2の訳を参照すると、以下のことが記載されているといえる。

「金の電着は、新しいプロセスではなく、自動車産業、バイオメディカルプロセス、コンピュータ、電気通信、航空宇宙用途等のエレクトロニクス産業で広く使用されてきた。電気めっきされる金は、軟質金又は硬質金の何れかに分類できる。」(第165頁「1.INTRODUCTION」の第1?3行の訳)
「ボル鉱業・冶金研究所(Institute of Mining and Metallurgy Bor)において、メルカプトトリゾール(当審注:甲2に記載の「mercaptotrizole」の訳であるが、当該記載は「mercaptotriazole」の誤記であり、「メルカプトトリアゾール」が正しい。)金錯体をベースにしたまったく新しい電解浴が開発され、試験が行われた。研究によると、この新しい電解質は、硬質めっき用及び装飾めっき用の電解浴に好適に使用できることがわかった。」(第165頁「1.INTRODUCTION」の第20?22行の訳)

3 甲3の記載
3-1 甲3の1の記載
甲3の1には、「めっき液成分の管理」(論文題目)に関して、次の記載がある。




(第208頁の「表1 代表的なメッキ液(浴)の組成例と主な用途」の一部)
「4 めっき液の分析
稼働しているめっき液の成分濃度は、様々な要因で変動する。めっきされる金属イオンと陽極から溶解する金属イオンの収支は必ずしも一致しない。前の工程から持ち込まれる水洗水や汚れ、めっき後の品物に付着してめっき槽から汲くみ出されるめっき液、光沢剤の電解消耗、不純物の混入などにより、たえず変化する。生産現場において、これらは、個々に設定されている作業管理の範囲内に絶えず収まるよう管理される。これらの処理液の管理は作業者に委ねられ、作業者はめっき処理量から処理液の状態を把握し、薬品の補充や更新を行っている。」
(第209頁右欄第42行-第210頁左欄第5行)

3-2 甲3の2の記載
甲3の2には、「金めっきの化学」(論文題目)に関して、次の記載がある。

「ソフトゴールド浴(純金浴)から得られる析出皮膜特性は、優れた電気伝導性、熱伝導性、耐熱性、はんだ付け性、ボンディング性、耐食性および低応力等を有する。したがって、これら特性を要求する素子回路、回路板、半導体パッケージ、TAB、バンプ、シールド等の表面処理として利用される。
ハードゴールド浴(合金浴または光沢浴)から得られるそれは、優れた耐磨耗性、硬度、高反射性、平滑性およびソフトゴールドより劣るが耐食性、接触抵抗を有する。したがって、これら特性を要求する接点、コネクタ、端子、反射板等の表面処理として利用される。」(第368頁右欄第16-27行)
「4.3シアン系酸性浴
シアン化金カリウム等のシアノ錯体およびリン酸塩、クエン酸塩等の無機および有機酸塩を用いるpH3?6程度のめっき浴であり、基本的には遊離シアンを含有しない。
電気金めっき浴は、ソフトゴールド浴とハードゴールド浴に区分される。ソフトゴールド浴は、上記「4.2シアン系中性浴」とほぼ同等の基本浴組成、特徴、用途であるが、主としてストライク浴として使用される。
シアン系酸性浴は、ハードゴールド浴を指す場合が一般的であり、無機添加剤としてコバルトまたはニッケル塩等を含有する。ヌープ硬度130?240の光沢合金皮膜が得られる。この系の浴は、高速めっき浴としても使用され、めっき条件にもよるが通常50A/dm2(条件によっては70A/dm2も可能)の電流密度で、約60%程度の電流効率を示す。コネクタ、端子、接点等の最終表面処理として使用される。」(第369頁右欄第36行-第370頁第12行)

3-3 甲3の3の記載
甲3の3には、「プリント配線板とめっき加工」の「金めっき」(論文題目)に関して、次の記載がある。




(第105頁左欄の表1の一部)
「硬質金は金皮膜の硬度を高めるために、金属の添加剤を加える。これらの金属は、コバルト塩、ニッケル塩などが用いられる。添加剤は金の析出を抑制し、結晶の成長を妨げ、微細な結晶状態にする。これらの結晶状態は層状結晶で結晶サイズが小さくなっている。結晶サイズと硬度の関係は、結晶サイズが小さくなると硬度が高くなることが知られている^(1)'2))。硬質金の結晶状態も粒径が小さくなることから硬度が増加している。この金めっきは18カラットや、14カラット合金などの卑金属との合金めっきよりも酸化皮膜ができにくく、磨耗性も向上することから、コネクタ、接点などの工業分野で使用されている。」(第105頁右欄第1-12行)
「2.2.2 アルカリシアン金めっき浴
・・・また銅、銀などとの合金めっきにも用いられ、装飾用として使用されている。」(第105頁右欄第13行、同頁同欄第24行-第106頁第1行)

3-4 甲3の4の記載
甲3の4には、「貴金属めっき浴の種類と特徴」に関して、次の記載がある。

「2.1 酸性金めっき浴
酸性金メッキ浴はKAu(CN)_(2)がpH3近傍まで安定に存在できることが発見された^(2))。酸性の金めっきができることにより、アルカリ性の金めっきでは析出しなかったニッケル・コバルトも共析が可能となった。こうしてAu-Co、Au-Ni合金めっき浴が開発された。
酸性金めっき浴は析出外が光沢なので光沢金めっきと呼ばれたり、その電析物の硬度が高いので硬質金めっきとも呼ばれている。有機酸を基本に金属添加物と呼ばれているCo^(2+)、Ni^(2+)イオンなどが含まれている。表2に代表的な組成と各正文の働きを示す。pH3?5の範囲で、電析物は硬く光沢である。」(第626頁右欄第1-12行)



(第6262頁の「表1 金めっき浴の種類」)
「酸性金めっきの用途としては主にコネクター・接点などのエレクトロニクス分野で大量に使用されている。」(第627頁右欄第6-7行)

3-5 甲3の5の記載
甲3の5には、「Au合金めっき」に関して、次の記載がある。

「Ni含有量はpHに強く依存する。図14.22はNi含有めっき浴の挙動を示すもので、めっきのNi含有量はpHと共に連続的に減少し、C含有量はpH3までほぼ一定であるが、次いで零近くまで低下する。図14.22から4.5以下のpHでめっき浴を操作すると光沢めっきが得られ、NiもCoも多いめっき層が得られる。」(第226頁第11-15行)



(第227頁の「図14.22 クエン酸Au-Ni合金メッキ浴のpHによるNi、C含有量の変化^((17))」)

3-6 甲3の6の記載
甲3の6には、「Au合金めっき」に関して、次の記載がある。

「Co含有量はpHに強く依存する。図16.31にしめすように、めっきのCo含有量はpHと共に連続的に減少し、C含有量はpH5までほぼ一定に留まり、次いで零近くまで低下することを示す。」(第31頁左欄第29行-第32頁第2行)



(第32頁の「図16.31 pHによるCoとCおよびH共析量の変化^((10))」)

4 甲4について
(1)甲4の記載
甲4には、「電解金めっき液及び金めっき方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

「【請求項1】 下地金属溶出抑制剤を含有することを特徴とする電解金めっき液。
【請求項2】 下地金属溶出抑制剤が、含窒素複素環化合物、またはメルカプト基が直接結合した芳香環もしくは複素環を有する化合物である請求項1記載の電解金めっき液。」
「【請求項4】 請求項1または2記載の金めっき液に素材を浸漬して電解めっきを行う金めっき方法。」
「【0007】しかしながら、銅系素材に直接金めっきを行う場合、被めっき素材やめっき用治具がめっき液中に浸漬された状態でめっきを行うため、銅イオンが金めっき液中に溶出し、めっき液の使用期間が長くなると、銅イオンがめっき液中に蓄積する。」
「【0010】以上、銅系素材の場合を例にとって説明したが、鉄やニッケルなど銅以外の金属または合金素材であっても、あるいは硬質金めっきのように金を主成分とする合金めっきにおいても、被めっき素材等が金より卑な金属の場合には金属成分が溶出して金めっき液が汚染される。このため、金めっき皮膜の品質保持のために銅系素材と同様に短期間でめっき液の更新が必要となる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的とするところは、金より卑な金属または合金素材上に直接金めっきを行う場合に、素材金属のめっき液への溶出を抑制し、金めっき皮膜を長期間にわたって良好な状態で形成することができる電解金めっき液及び金めっき方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記問題を解決するために種々検討した結果、金めっき液中に、含窒素複素環化合物、またはメルカプト基が直接結合した芳香環もしくは複素環を有する化合物を下地金属溶出抑制剤として使用すれば、金より卑な金属よりなる素材や治具からめっき液中への金属の溶出を抑制することができることを見出した。」
「【0020】
【発明の実施の形態】本発明で使用する下地金属溶出抑制剤は、めっき液中で金属素材の表面に吸着して皮膜を形成するものであればいずれの抑制剤でも用いることができるが、具体的には下記の化合物を用いることが好ましい。
【0021】(1) 含窒素複素環化合物(イ)
化合物(イ)は、窒素をヘテロ原子とする複素環を有する化合物であり、例えば、ピリジン、キノリン、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、プリンおよびその誘導体を挙げることができる。中でも、アデニン、2,2’-ジピリジル、ベンゾトリアゾール、8-キノリノールまたはその塩およびこれらの誘導体を用いることが好ましい。
【0022】(2) メルカプト基が直接結合した芳香環または複素環を有する化合物(ロ)
メルカプト基が直接結合する芳香環および複素環としては、ベンゼン、チアゾール、ベンゾチアゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ピリミジン等を挙げることができる。化合物(ロ)としては、中でもチオサリチル酸、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-チオウラシル、2-チオバルビツール酸またはその塩およびこれらの誘導体が好ましい。
【0023】下地金属溶出抑制剤の添加量は、金めっき液に対する溶解度および溶出抑制効果を示す濃度がそれぞれの溶出抑制剤により異なるので一義的に定めることは出来ないが、概ね5mg/l程度添加すれば十分な溶出防止効果を示すのでこれ以上の添加量が好ましい。
【0024】本抑制剤は、それぞれの溶出抑制剤の溶解度の範囲内で多量に添加しても溶出防止効果が損なわれることは無いが、微量でも十分な効果が得られ、また薬品価格および濃度管理の容易さから、10?1000mg/lの範囲が好ましい。」
「【0029】本発明の金めっき液の金イオン源としては、可溶性の金化合物であれば使用できるが、入手の容易さ、溶解性、安定性を考慮すると、シアン化金、シアン化第一金カリウム、亜硫酸金カリウム、チオ硫酸金から選ばれるものが特に好ましい。
【0030】また、使用する金化合物に応じて、めっき液中での金イオンの安定性を制御する目的で金と錯イオンを形成する錯化剤を合わせて添加してもよい。」
「【0035】金めっき液のpH値は、緩衝剤と伝導塩の濃度調整によりpH5.0?8.0の範囲とするのが好ましく、この範囲であれば析出する金めっきの外観にムラ等の異常が発生しない。」
「【0067】
【発明の効果】本発明によれば、金めっき時の素材や治具等に使われている銅等の金より卑な金属の金めっき液への金属イオンの溶出が抑制できる。また、素材上にめっきした皮膜に銅等が共析せず、素材へ直接金めっきを行っても長期間にわたって皮膜を良好な状態に維持したまま電解金めっきを行うことができる。
【0068】本発明は、装飾用、洋食器用等の広い分野において用いることができるが、特に電子、電気機器分野において、ICと配線材料を接続するための表面処理を行う際に有用である。」

(2)甲4に記載された発明
上記(1)の記載、特に、請求項1、2、4、【0020】?【0022】、【0024】、【0029】、【0035】の記載より、甲4には次の甲4発明1、甲4発明2、及び甲4発明3が記載されているといえる。

<甲4発明1>
「金イオン源と、含窒素複素環化合物、またはメルカプト基が直接結合した芳香環もしくは複素環を有する化合物である下地金属溶出抑制剤とを含有する電解金めっき液であって、
前記下地金属溶出抑制剤は、10?1000mg/lで添加され、
pH5.0?8.0の範囲である、電解金めっき液。」

<甲4発明2>
「金イオン源と、甲4発明1で規定された下地金属溶出抑制剤とを含有する電解金めっき液に素材を浸漬して電解めっきを行う金めっき方法。」

<甲4発明3>
「甲4発明1で規定された下地金属溶出抑制剤の、電解金めっき液における下地金属溶出抑制剤としての使用。」

5 甲5の記載
5-1 甲5の1の記載
甲5の1には、「金又は金合金電着用酸性浴、電気めっき方法及び該浴の使用」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

「1. 置換ピリジン又はキノリン酸誘導体から成る群から選択される化合物を包含することを特徴とする、溶液中の水溶性化合物としての金及び少なくとも1種の電解質を含有することからなる金及び金合金の電着用水性酸性浴。」(「特許請求の範囲」の「1.」)
「23.合金金属を包含することを特徴とする特許請求の範囲第1?22項の何れかに記載の浴。
・・・
25.浴がニッケル硬化酸性金めっき浴であることを特徴とする特許請求の範囲第23又は24項記載の浴。
26.浴が鉄硬化酸性金めっき浴であることを特徴とする特許請求の範囲第23又は24項記載の浴。
27.浴がコバルト硬化金めっき浴であることを特徴とする特許請求の範囲第23又は24項記載の浴。」(「特許請求の範囲」の「23.」、「25.」?「27.」)
「該めっき浴中で可溶である置換ピリジン化合物並びにキノリン誘導体が、それほど陰極効率に影響を及ぼさずに電流密度域を増大させることにより実質的にあらゆる酸性金又は金合金めっき浴の沈着速度を増大し得ることが見出された。」(第3左下欄第9?13行)

5-2 甲5の2の記載
甲5の2には、「電気金メッキ浴」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

「(1)電着可能な形態の金及び3-(3-ピリジル)アクリル酸、3-(3-キノリル)アクリル酸及びそれらの塩から選択された1又はそれ以上の添加剤を含んでなることを特徴とする酸性電気金メッキ浴。
(2)金属添加剤を含む特許請求の範囲1記載の酸性電気金メッキ浴。
(3)金属添加剤がコバルト、ニッケル又は鉄の塩である特許請求の範囲1又は2記載の酸性電気金メッキ浴。」(「特許請求の範囲」の「(1)」?「(3)」)
「コバルト、ニッケルおよび鉄の塩のような遷移金属塩は酸性金メッキ俗における一群の添加剤としで広く用いられている。これらの化合物を含有する電気金メッキ浴は金被膜の耐摩耗性を非常に改善することが知られている。このため、コバルト及びニッケルを含有する酸性電気金メッキ浴は電子工業界で広く用いられている。」(第2頁左上欄第19行-同頁右上欄第5行)
「本発明者らは3-(3-ピリジル)アクリル酸及び3-(3-キノリル)アクリル酸が特に電気金メッキに対する効果的な添加剤であることを発見した。これらは、欧州特許出願No.86300301.8にて開示した3-アミノピリジンよりも、使用時一層安定である。そしてこれらの添加剤は使用される電流密度がたとえ一層増加してもまだ光沢被膜が得られるという点でニコチン酸よりも優れている。」(第3頁左上欄第1-9行)

5-3 甲5の3の記載
甲5の3には、「酸性金合金めっき液」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

「【0001】
本発明は、酸性金合金めっき液に関する。」
「【0003】
電子機器を接続するコネクターは、その利用特性により、表面処理として用いる金めっき皮膜に対して耐食性、耐摩擦性および電気伝導性を特に要求するため、硬質金めっきが用いられている。かかる硬質金めっきとしては、例えば金コバルト合金めっき、金ニッケル合金めっきなどが古くから知られている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
「【0023】
本発明で用いることができる光沢剤は、カルボキシル基もしくは水酸基を有する窒素原子含有化合物またはカルボキシル基を有する硫黄原子含有化合物である。カルボキシル基を有する窒素原子含有化合物としては、アミノ酸、例えば中性アミノ酸、酸性アミノ酸または塩基性アミノ酸;ピリジンカルボン酸(例えば2-ピリジンカルボン酸、3-ピリジンカルボン酸、4-ピリジンカルボン酸)およびその塩などのカルボキシル基含有ピリジン化合物;イミノ二酢酸;ニトリロ三酢酸;ジエチレントリアミン五酢酸;並びにエチレンジアミン四酢酸などが挙げられる。」

6 甲6の記載
甲6には、「金の置換・電食防止及びそれを含んだシアン系の金メッキ液」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

「〈発明が解決しようとする課題〉
ところが、セラミックパッケージのような部品には、電解メッキのために電気導通状態とした前記メタライズ面の他にも「金属部」が存在する。すなわち、セラミックパッケージの型式等を表示するためのマーカ一部がそれである。このマーカ一部は電解メッキを意図していないため電気的に非導通状態(フリーパターン)となっている。・・・そして、前記の金メッキ対象としてのメタライズ面に金メッキ処理を行う場合には、このマーカ一部にも金メッキ液が接触することになる。この時に、マーカー部表面の金属が金メッキ液により溶かされ金メッキ液中の金が置換により無電解で何着する「置換現象」が起こることとなる。」(第1頁右下欄第6行-第2頁左上欄第6行)
「このような金の置換・電食の防止を必要とする部品としては、セラミックパッケージに限定されず、トランジスタヘッダやプリント配線基板等の如きパターン金メッキを行うものであって、電気的に非導通のフリーパターンを有するもの全てが含まれる。また、そのフリーパターンがニッケル、鉄、ニッケル鉄合金、銅、銅合金などの場合に特に置換・電食が発生しやすい。
この発明はこのような従来の技術に着目してなされたものであり、電気的に非導通状態となっている金属部(フリーパターン)に金が置換して付着したり、或いは該金属部が電食により溶けて無くなったりすることを防止することができる金の置換・電食防止剤及びそれを含んだシアン系の金メッキ液を提供せんとするものである。
〈課題を解決するための手段〉
この発明に係る金の置換・電食防止剤は一種又は二種以上のメルカプト化合物から成るものである。このメルカプト化合物を金メッキ液中に添加することにより、電気的に導通されていないフリーパターンの表面にメルカプト化合物が保護膜を形成することとなり、フリーパターンへの置換・電食作用が防止されることとなる。
この発明における好適なメルカプト化合物としては、メルカプト酢酸、メルカプト安息香酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトベンゾチアゾール、チオグリコール酸アンモニウム、2-チオウラシルなどを挙げることができる。これらメルカプト化合物は一種類で使用しても良いが、二種類具」二のメルカプト化合物を混合することにより置換・電食防止効果の更なる向上が期待できる。」(第2頁右上欄第2行-同頁左下欄12行)
「従って、金メッキの開始時点において、遊離シアンを増やすために金メッキ液に0.05?0.1g/l程度のシアン化カリウムを別途添加したり、またメルカプト化合物だけを別に添加したりすることにより、メッキ開始当初の置換・電食防止効果を高めるようにすることもできる。」(第2頁左下欄第19行-同頁右下欄第5行)

第5 本件の願書に添付された明細書の記載
本件の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という)には、以下の記載がある。

「【0003】
・・・
ここで、貴金属である金が卑金属のニッケルを置換する。このような交換又は置換反応による金属の析出は、浸漬反応又は浸漬めっきとも呼ばれる。」
「【0024】
(ii)によるメルカプトトリアゾール又はその塩は、金含有層を電着する際に金浸漬反応を大幅に減少させるか又はほぼ阻害する。」
「【0082】
本発明のトリアゾール化合物とは対照的に、テトラゾール化合物は金浸漬反応を減少させる効果が著しく低い。また、テトラゾール化合物は金又は金合金電気めっき組成物における安定性が低く、このことがテトラゾール化合物の高い消費量につながり、処理中の分解生成物の濃度が増加するためにうまく機能せず、そして金電解液の寿命が減少する。」
「【0090】
・・・
【表1】

【0091】
一般に、金合金層は、テープで覆われていない基板パネルの部分に析出し、金合金は、テープで覆われた基板パネルの部分に析出しなかった。本発明によるメルカプトトリアゾールを含有する金合金浴から最小限の厚さしかない金合金層を浸漬反応により析出させた。対照的に、メルカプトアゾール化合物を含有しない金合金浴又は比較のメルカプトテトラゾール化合物を含有する金合金浴からは、著しく高い層厚の金合金層が浸漬反応により析出した。さらに、比較化合物Dは、望ましくない析出物を金合金浴中に生じさせた。本発明のトリアゾール化合物とは対照的に、テトラゾール化合物は、金合金電解質において低い安定性を示し、このことはテトラゾール化合物のより高い消費につながり、処理中の分解生成物の濃度増加による機能不全につながり、そして金電解質の寿命の減少につながる。従って、本発明のメルカプトトリアゾール化合物は、金浸漬反応を大幅に減少させるか又はほぼ阻害する。」

第6 当審の判断
当審は、次のとおり、申立人が提示した特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1?12に係る特許を取り消すことはできないと判断する。

1 甲1を主引例とした場合
(1)本件発明1と甲1発明1との対比・検討
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1の「電気メッキ組成物」、「一以上の金イオン源」は、それぞれ本件発明1の「電気めっき組成物」、「少なくとも1つの金イオン源」に相当する。

(イ)また、甲1発明1における「メルカプト-テトラゾール、メルカプト-トリアゾールおよびこれらの塩から選択される一以上の化合物」のうち、「メルカプト-トリアゾールおよび」この「塩から選択される一以上の化合物」を選択した構成は、本件発明1の「一般式」「(II)」で表される「少なくとも1種のメルカプトトリアゾール又はその塩」に相当する。

(ウ)さらに、甲1発明1の「メルカプト-トリアゾール」の「式(IV)」における「R_(7)は水素、または直鎖状もしくは分枝状の、飽和もしくは不飽和の(C_(1)-C_(20))炭化水素基、(C_(8)-C_(20))アラルキル、置換もしくは非置換フェニルもしくはナフチル基」は、本件発明1の「R^(4)は、水素、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和(C_(1)?C_(20))炭化水素鎖、(C_(8)?C_(20))アラルキル基;置換又は非置換のフェニル基、ナフチル基」に相当する。以下同様に、「Xは水素または好適な対イオンであり、前述の対イオンは、アルカリ金属が含まれ」は、「Xは水素」「又はアルカリ金属イオン」の「対イオン」に、「SX」は、「-S-X」である「R^(6)」に、「SX」と結合しないトリアゾールの炭素は、「水素」である「R^(5)」と結合するトリアゾールの炭素に相当する。

(エ)また、甲1発明1の「前記メルカプト-トリアゾールは、組成物中に50mg/L?100mg/Lの量で含められ」は、本件発明1の「少なくとも1種のメルカプトトリアゾールが」「電気めっき組成物中で1mg/l?1g/lの範囲の濃度を有する」に相当する。

(オ)さらに、甲1発明では「pHを7?14に維持するためにアルカリ性物質を更に含む」ため、甲1発明の「電気メッキ組成物」は中性またはアルカリ性であると認められる。

(カ)そうすると、上記(ア)?(オ)より、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点1>
「電気めっき組成物であって、
(i)少なくとも1つの金イオン源、及び
(ii)少なくとも1種のメルカプトトリアゾール又はその塩
を含み、前記少なくとも1種のメルカプトトリアゾールが以下の一般式(II):
【化1】


(式中、R^(4)は、水素、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和(C_(1)?C_(20))炭化水素鎖、(C_(8)?C_(20))アラルキル基;置換又は非置換のフェニル基、又はナフチル基であり;且つ
R^(5)は水素、R^(6)は、-S-Xであり;且つ
Xは水素、又はアルカリ金属イオンの対イオンである)
を有し、
少なくとも1種のメルカプトトリアゾールが、前記電気めっき組成物中で1mg/l?1g/lの範囲の濃度を有する、前記電気めっき組成物。」

<相違点1>
本件発明1では、「酸性電気めっき組成物」であるのに対し、甲1発明1では、「電気メッキ組成物」が中性又はアルカリ性である点。

イ 相違点1についての検討
(ア)例えば、上記第4の3-1?3-4で示した甲3の1?甲3の4に記載されるように、硬質めっきを行うための金めっき液(金めっき浴)には酸性の金めっき液が使用され、装飾めっきを行うための金めっき液には、アルカリ性の金めっき液が使用されることは、本件出願前における本件発明の属する技術分野における技術常識である。

(イ)また、上記第4の3-1?3-3で示した甲3の1?甲3の3に記載されるように、硬質めっきに使用する金めっき液には、コバルトやニッケルの塩が添加されており、これらの塩を含有することにより、硬度の高い金皮膜が得られることは、本件出願前における本件発明の属する技術分野における技術常識である。

(ウ)さらに、上記第4の3-4?3-6で示した甲3の4?甲3の6に記載されるように、金めっき液のpHがアルカリ性の場合、コバルトやニッケルが金めっき皮膜中に共析できないことも、本件出願前に知られている。

(エ)ここで、上記第4の1(1)で示した甲1の記載(特に、【0002】、【0008】、【0021】)によれば、甲1発明1は、装飾品における電気メッキのための組成物であって、許容可能なメッキ速度において改善された輝きおよび色の一様性を有する堆積物をもたらすことを課題としている。そして、当該課題を、メルカプト-テトラゾール及び/またはメルカプト-トリアゾールもしくはその塩と、ジチオカルボキシル官能基に対するアルファ位に非プロトン性炭素原子を有する一以上のジチオカルボン酸、ならびそれらの塩およびエステルとの組合せを組成物に含ませることによって解決しているものと認められる。

(オ)そうすると、上記第4の2で示した甲2に記載されるように、メルカプトトリアゾール金錯体をベースにした電解浴が硬質めっき用及び装飾めっき用の電解浴に好適に使用できることが知られているとしても、上記(エ)から、装飾品にめっきを行う際の課題を解決するための発明である甲1発明1の組成物を硬質めっき用に使用する動機付けがあるとはいえない。また、装飾品にめっきを行うための甲1発明1の組成物において、上記(イ)、(ウ)に示した事項に基づいてアルカリ性を酸性にしてまでコバルトやニッケルの塩を添加する動機付けもない。

(カ)また、上記(ア)の技術常識によれば、装飾品にめっきを行うための組成物である甲1発明1を酸性にすることは阻害要因があるといえる。

(キ)ここで、申立人は、特許異議申立書(第23頁第1?6行)において、甲2の記載から、「当業者は、本件発明1の式(II)で表されるメルカプトトリアゾールを含有する甲1発明の電気めっき組成物を、硬質めっきを行うために使用してみる動機を持つといえる。」と主張しているので当該主張について検討する。

(ク)甲2の記載を踏まえても、甲1発明1がメルカプト-トリアゾールを含有するからといって、甲1発明1の組成物を硬質めっきを行うために使用してみる動機付けがないことは上記(オ)で示したとおりである。

(ケ)また、上記第5の本件明細書の記載(【0082】、【0090】、【0091】)によれば、本件発明1の「メルカプトトリアゾール」は、メルカプトテトラゾール化合物に比べて、金浸漬反応を減少させる効果が高いことが理解できる。

(コ)それに対し、甲1発明1では、「メルカプト-テトラゾール」と「メルカプト-トリアゾール」は、どちらを選択してもよいものである。なお、甲1には、実施例としては、メルカプト-テトラゾールの塩を用いたものしか記載されていない。

(サ)そして、上記(オ)で示したように、甲2の記載をもって当業者が甲1発明1の組成物を硬質めっきを行うために使用してみる動機付けがあるとはいえないが、仮に、申立人が主張するように、当業者が甲1発明1の発明の組成物を硬質めっきに使用するために酸性にし得たとしても、上記(ケ)で示した本件発明1が奏する、メルカプトテトラゾール化合物を有する組成物に比べて金浸漬反応を減少させる、という効果まで予測することは困難である。

(シ)よって、申立人の主張を採用して本件発明1が進歩性を有しないと判断することはできない。

(ス)したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明と甲2、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?7と甲1発明1との対比・検討
ア 本件発明2?7と甲1発明1とを対比すると、本件発明2?7は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点1で相違し、相違点1についての判断は上記(1)イで示したとおりである。

イ そうすると、本件発明2?7は、相違点1に係る構成を備えている点で、甲1に記載された発明と甲2、甲3、甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明8?10と甲1発明2との対比・検討
ア 本件発明8?10は、「請求項1から7までのいずれか1項に記載の酸性電気めっき組成物を準備すること」を含む方法の発明であるが、甲1発明2は、「pHを7?14に維持するためのアルカリ性物質・・・を含む組成物を提供する工程」を含む方法であるから、本件発明8?10と甲1発明2とを対比した場合、少なくとも上記相違点1と同様の点で相違し、相違点1についての判断は上記(1)イで示したとおりである。

イ そうすると、本件発明8?10は、相違点1と同様の点に係る構成を備えている点で、甲1に記載された発明と甲2、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明11と甲1発明2との対比・検討
ア 対比
(ア)本件発明11と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2の「甲1発明1で規定されたメルカプト-トリアゾール」は、本件発明11の「請求項1又は2で規定されたメルカプトトリアゾール」に相当する。以下同様に、「基体を上記組成物中に浸漬する工程」は、「基板を前記組成物と接触させること」に、「金-銀-銅合金を、基体を陰極として陽極との間での1:2?8:1の反復サイクルを用いる電流の断続により基体上に堆積させる工程」は、「前記基板と少なくとも1つのアノードとの間に電流を印加し、それによって金または金合金を前記基板上に析出させること」に相当する。

(イ)また、甲1発明2の「a)一以上の金イオン源と;一以上の銀イオン源と;一以上の銅イオン源と;ジチオカルボキシル官能基に対するアルファ位に非プロトン性炭素原子を有する一以上のジチオカルボン酸ならびにそれらの塩およびエステルと;メルカプト-テトラゾール、メルカプト-トリアゾールおよびそれらの塩の一以上の供給源と;pHを7?14に維持するためのアルカリ性物質と;を含む組成物を提供する工程」は、本件発明11の「(i)使用済み金又は金合金電気めっき組成物を準備すること」における「金又は金合金電気めっき組成物を準備する」点において一致する。

(ウ)そうすると、上記(ア)、(イ)より、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点2>
「(i)金又は金合金電気めっき組成物を準備すること;
(iii)基板を前記組成物と接触させること;及び
(iv)前記基板と少なくとも1つのアノードとの間に電流を印加し、それによって金又は金合金を前記基板上に析出させること
を含む、方法。」

<相違点2>
本件発明11では「使用済み金又は金合金電気めっき組成物を準備する」のに対し、甲1発明2では、提供する「組成物」を使用済みとは特定していない点。

<相違点3>
本件発明11では、「(ii)請求項1又は2で規定されたメルカプトトリアゾールを、再生用の前記使用済み金又は金合金電気めっき組成物に添加すること」を含むのに対し、甲1発明2では、「甲1発明1で規定されたメルカプト-トリアゾール」またはその塩は提供する「組成物」に含まれ得るものであるが、再生用の使用済みの「組成物」に添加するものではない点。

イ 相違点3についての検討
(ア)事案に鑑み、相違点3から検討する。

(イ)上記第4の6で示したように、甲6には、メルカプト化合物を金の置換・電食防止剤として金メッキ液中に添加することが記載されている。

(ウ)ここで、上記第4の1(1)で示した甲1の記載(特に、【0002】、【0008】、【0021】)によれば、甲1発明2で用いる「メルカプト-トリアゾ-ル」は、装飾品における電気メッキのための組成物に含まれるものであって、ジチオカルボキシル官能基に対するアルファ位に非プロトン性炭素原子を有する一以上のジチオカルボン酸、ならびそれらの塩およびエステルとの組合せで組成物に含ませることによって、許容可能なメッキ速度において改善された輝きおよび色の一様性を有する堆積物をもたらすという課題を解決するためのものであると認められる。

(エ)そうすると、上記(イ)で示したように、メルカプト化合物が金の置換・電食防止剤として金メッキ液中に添加することが知られているとしても、甲1発明2の「甲1発明1で規定されたメルカプト-トリアゾール」、すなわち、許容可能なメッキ速度において改善された輝きおよび色の一様性を有する堆積物を装飾品にもたらすためにジチオカルボキシル官能基に対するアルファ位に非プロトン性炭素原子を有する一以上のジチオカルボン酸、ならびそれらの塩およびエステルとの組合せとして組成物に含有される甲1の「式(IV)」で表された「メルカプト-トリアゾール」を、金の置換・電食防止剤として再生用の使用済みの金メッキ液中に添加する動機付けがあるとはいえない。

(オ)ここで、申立人は、特許異議申立書(第30頁第12?17行、第31頁第21?25行)において、「甲第1号証に記載された式(IV)で表されるメルカプトトリアゾールにおいて、Xが水素である化合物は、「メルカプト化合物」(メルカプト基(-SH)を有する化合物)に該当し、かかる「メルカプト化合物」が・・・「浸漬防止剤」として作用することは、甲第6号証の記載から合理的に予測可能であり、当業者は、式(IV)で表されるメルカプトトリアゾールにおいて、Xが水素である化合物を、「浸漬防止剤」として使用してみる動機を持つ。」と主張しているので当該主張について検討する。

(カ)甲1発明2の「甲1発明1で規定されたメルカプト-トリアゾール」、すなわち、甲1の「式(IV)」で表された「メルカプト-トリアゾール」を浸漬防止剤として使用してみる動機付けがないことは上記(エ)で示したとおりである。

(キ)また、上記第5の本件明細書の記載(【0082】、【0090】、【0091】)によれば、本件発明11の「請求項1又は2で規定されたメルカプトトリアゾール」は、メルカプトテトラゾール化合物に比べて、金浸漬反応を減少させる効果が高いことが理解できる。

(ク)それに対し、甲1発明2では、「メルカプト-テトラゾール」と「メルカプト-トリアゾール」は、どちらを選択してもよいものである。なお、甲1には、実施例としては、「メルカプト-テトラゾール」の塩を用いたものしか記載されていない。

(ケ)また、甲6には、「金の置換・電食防止剤」である「メルカプト化合物」として、メルカプトトリアゾールを用いることも、メルカプトテトラゾールよりもメルカプトトリアゾールが金の置換・電食を防止できることについても記載されていない。

(コ)そして、上記(エ)で示したように、甲6の記載をもって当業者が甲1発明2の組成物に含まれる「甲1発明1で規定されたメルカプト-トリアゾール」を浸漬防止剤として使用してみる動機付けがあるとはいえないが、仮に、申立人が主張するように、当業者が甲1発明2の「甲1発明1で規定されたメルカプト-トリアゾール」を浸漬防止剤として使用し得たとしても、本件発明11が奏する、メルカプトテトラゾール化合物を添加した場合に比べて金浸漬反応を減少させる、という効果まで予測することは困難である。

(サ)よって、申立人の主張を採用して本件発明11が進歩性を有しないと判断することはできない。

(シ)したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明11は、甲1に記載された発明と甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明12と甲1発明3との対比・検討
ア 対比
(ア)本件発明12と甲1発明3とを対比すると、甲1発明3の「甲1発明1で規定されたメルカプト-トリアゾール」は、本件発明12の「請求項1又は2で規定されたメルカプトトリアゾール」に相当する。

(イ)そうすると、上記(ア)より、両者は、以下の一致点、相違点を有する。

<一致点3>
「請求項1又は2で規定されたメルカプトトリアゾールの使用」

<相違点4>
本件発明12では、「請求項1又は2で規定されたメルカプトトリアゾール」を、「電着浴における浸漬防止剤として」使用するのに対し、甲1発明3では、「甲1発明1で規定されたメルカプト-トリアゾール」を、「電気メッキにおける装飾品の輝き及び色の一様性をもたらすため」に使用している点。

イ 相違点4についての検討
(ア)上記(4)イ(イ)?(エ)で示した理由と同様に、メルカプト化合物が金の置換・電食防止剤として金メッキ液中に添加することが知られているとしても、甲1発明3の「甲1発明1で規定されたメルカプト-トリアゾール」、すなわち、許容可能なメッキ速度において改善された輝きおよび色の一様性を有する堆積物を装飾品にもたらすために、ジチオカルボキシル官能基に対するアルファ位に非プロトン性炭素原子を有する一以上のジチオカルボン酸、ならびそれらの塩およびエステルとの組合せとして組成物に含有される「式(IV)」で表された「メルカプト-トリアゾール」を、金の置換・電食防止剤として使用する動機付けがあるとはいえない。

(イ)また、申立人は、特許異議申立書(第30頁第12?17行)において、上記(4)イ(オ)と同様の主張をしているが、上記(4)イ(カ)と同様に、メルカプト化合物が金の置換・電食防止剤として金メッキ液中に添加することが知られているとしても、甲1発明3の「甲1発明1で規定されたメルカプト-トリアゾール」、すなわち、甲1の「式(IV)」で表される特定のメルカプト化合物を浸漬防止剤として使用する動機付けがあるとはいえない。

(ウ)さらに、仮に、申立人が主張するように、甲1発明3の発明の「甲1発明1で規定されたメルカプト-トリアゾール」を浸漬防止剤として使用し得たとしても、上記(4)イ(キ)?(コ)と同様の理由で、本件発明12が奏する、メルカプトテトラゾール化合物を添加した場合に比べて金浸漬反応を減少させる、という効果まで予測することは困難である。

(エ)よって、申立人の主張を採用して本件発明12が進歩性を有しないと判断することはできない。

(オ)したがって、本件発明12は、甲1に記載された発明と甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものはいえない。

2 甲4を主引例とした場合
(1)本件発明1と甲4発明1との対比・検討
ア 対比
(ア)本件発明1と甲4発明1とを対比すると、甲4発明1の「電解金めっき液」は、本件発明1の「電気めっき組成物」に相当し、同様に、「金イオン源」は、「少なくとも1つの金イオン源」に相当する。

(イ)また、上記第5の本件明細書の記載(【0003】、【0024】)から、本件発明1の「メルカプトトリアゾール又はその塩」は、金含有層を電着する際に金浸漬反応を大幅に減少させるかまたはほぼ阻害するものであり、金浸漬反応とは、貴金属である金が卑金属を置換する反応であると認められ、上記第4の4(1)の【0012】から、甲4発明1の「下地金属溶出抑制剤」は、金より卑な金属よりなる素材や治具からめっき液中への金属の溶出を抑制するものであると認められるから、甲4発明1の「含窒素複素環化合物、またはメルカプト基が直接結合した」「複素環を有する化合物である下地金属溶出抑制剤」は、本件発明1の「少なくとも1種のメルカプトトリアゾール又はその塩」に対し、浸漬防止剤である点において一致する。

(ウ)さらに、上記(イ)を踏まえると、甲4発明1の「前記下地金属溶出抑制剤は、10?1000mg/lで添加され」は、本件発明1の「少なくとも1種のメルカプトトリアゾールが、前記酸性電気めっき組成物中で1mg/l?1g/lの範囲の濃度を有する」に対し、浸漬防止剤が、「電気めっき組成物中で1mg/l?1g/lの範囲の濃度を有する」点において一致する。

(エ)そうすると、上記(ア)?(ウ)より、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点4>
「電気めっき組成物であって、
(i)少なくとも1つの金イオン源、及び
(ii)浸漬防止剤
を有し、
前記浸漬防止剤が、前記電気めっき組成物中で1mg/l?1g/lの範囲の濃度を有する、前記電気めっき組成物。」

<相違点5>
本件発明1では、「酸性電気めっき組成物」であるのに対し、甲4発明1では、「電解金めっき液」が「pH5.0?8.0の範囲である」点。

<相違点6>
本件発明1では、浸漬防止剤として、「(ii)少なくとも1種のメルカプトトリアゾール又はその塩を含み、前記少なくとも1種のメルカプトトリアゾールが以下の一般式(I)又は(II):
【化1】


(式中、R^(1)、R^(4)は、相互に独立して水素、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和(C_(1)?C_(20))炭化水素鎖、(C_(8)?C_(20))アラルキル基;置換又は非置換のフェニル基、ナフチル基又はカルボキシル基であり;且つR^(2)、R^(3)、R^(5)、R^(6)は、相互に独立して-S-X、水素、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和(C_(1)?C_(20))炭化水素鎖、(C_(8)?C_(20))アラルキル基;置換又は非置換のフェニル基、ナフチル基又はカルボキシル基であり;且つXは水素、(C_(1)?C_(4))アルキル基又はアルカリ金属イオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン及び第4級アミンから選択される対イオンであり、且つR^(2)及びR^(3)のうち少なくとも1つは-S-Xであり、且つR^(5)及びR^(6)のうち少なくとも1つは-S-Xである)」を有するものであるのに対し、甲4発明1では、浸漬防止剤が「含窒素複素環化合物、またはメルカプト基が直接結合した複素環を有する化合物」である点。

イ 相違点6についての検討
(ア)事案に鑑み、相違点6から検討する。

(イ)甲4には、上記第4の4(1)から、【0021】に「含窒素複素環化合物」の例として「トリアゾール」が挙げられ、【0022】に「メルカプト基が直接結合した芳香環もしくは複素環を有する化合物」の例が挙げられている。

(ウ)しかし、甲4には、本件発明1が特定する「一般式(I)又は(II)」で表される「メルカプトトリアゾール」に含まれる化合物またはその塩については記載されていない。

(エ)ここで、第4の1(1)で示した甲1(【0041】?【0042】)には、本件発明1が特定する「一般式(I)又は(II)」で表される「メルカプトトリアゾール」に含まれる化合物が記載されているものの、上記第4の1(1)で示した甲1の記載(【0002】、【0008】、【0021】)によれば、甲1に記載された「メルカプト-トリアゾール」またはその塩は、ジチオカルボキシル官能基に対するアルファ位に非プロトン性炭素原子を有する一以上のジチオカルボン酸、ならびそれらの塩およびエステルと組合せることで、装飾品における電気メッキにおいて、許容可能なメッキ速度で改善された輝きおよび色の一様性を有する堆積物をもたらすという課題を解決するために組成物に含まれるものであるから、甲1の「メルカプト-トリアゾール」が「含窒素複素環化合物」または「メルカプト基が直接結合した芳香環もしくは複素環を有する化合物」であるとしても、上記課題を解決するために組成物に含ませている「メルカプト-トリアゾール」を下地金属溶出抑制剤として用いる動機付けがあるとはいえない。

(オ)ここで、申立人は、特許異議申立書(第26頁?第27頁の(4-3)イ(カ)?(ケ))において、甲4には、「含窒素複素環化合物(イ)」と「メルカプト基が直接結合した芳香環もしくは複素環を有する化合物(ロ)」が例示され、これらは互いに相反する関係になく、(イ)、(ロ)の両方の条件を満たす化合物を下地金属溶出抑制剤として使用することを志向するといえると主張すると共に、(イ)の中には「トリアゾール」が例示され、「トリアゾール」にメルカプト基が直接結合した化合物は本件発明1の電気めっき液の成分(ii)に該当すると主張しているので当該主張について検討する。

(カ)甲4には、「含窒素複素環化合物(イ)」及び「メルカプト基が直接結合した芳香環もしくは複素環を有する化合物(ロ)」としてそれぞれいくつかの化合物が例示されているが、(イ)または(ロ)の化合物としてメルカプトトリアゾールを用いること、(イ)で選択した含窒素複素環化合物に(ロ)に基づいてメルカプト基を直接結合した化合物を用いること、及び、(ロ)においてメルカプト基が直接結合する複素環としてトリアゾールを用いることについては記載も示唆もされていない。

(キ)そうすると、甲4の記載からは、本件発明1が特定する「一般式(I)又は(II)」で表される「メルカプトトリアゾール」に到達するために、当業者であれば、甲4に記載された「含窒素複素環化合物(イ)」と「メルカプト基が直接結合した芳香環もしくは複素環を有する化合物(ロ)」の両方の条件を満たす化合物を下地金属溶出抑制剤として使用することを志向し得たとはいえないし、さらに、(イ)の化合物として「トリアゾール」を選択した上で(ロ)の条件を適用して「トリアゾール」にメルカプト基を直接結合する化合物に到達し得たということもできない。

(ク)なお、上記(エ)、(キ)で示したように、甲4及び甲1の記載からは、甲4発明1の「下地金属溶出抑制剤」として本件発明1が特定する「一般式(I)又は(II)」で表される「メルカプトトリアゾール」を用いる構成に到達することはできないが、仮に、申立人が主張するように、当業者が甲4発明1の「下地金属溶出抑制剤」として、異議申立書の第26頁の(c)?(f)に記載されたメルカプトトリアゾールに到達できたとしても、上記第5の本件明細書(【0082】、【0090】、【0091】)に記載されているような、本件発明1が奏する、メルカプトテトラゾール化合物を有する組成物に比べて金浸漬反応を減少させる、という効果まで予測することは困難である。

(ケ)よって、申立人の主張を採用して本件発明1が進歩性を有しないと判断することはできない。

(コ)したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?7と甲4発明1との対比・検討
ア 本件発明2?7と甲4発明1とを対比すると、本件発明2?7は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、少なくとも上記相違点6で相違し、相違点6についての判断は上記(1)イで示したとおりである。

イ そうすると、本件発明2?7は、相違点6に係る構成を備えている点で、他の相違点について検討するまでもなく、甲4に記載された発明と甲3、甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明8?10と甲4発明2との対比・検討
ア 本件発明8?10は、「請求項1から7までのいずれか1項に記載の酸性電気めっき組成物を準備すること」を含む方法の発明であるから、「甲4発明1で規定された下地金属溶出抑制剤」を電解金めっき液に含む甲4発明2と対比した場合において少なくとも上記相違点6と同様の点で相違し、相違点6についての判断は上記(1)イで示したとおりである。

イ そうすると、本件発明8?10は、相違点6と同様の点に係る構成を備えている点で、他の相違点について検討するまでもなく、甲4に記載された発明と甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明11と甲4発明2との対比・検討
ア 本件発明11は、「請求項1又は2で規定されたメルカプトトリアゾール」を用いる方法に係る発明であるから、「甲4発明1で規定された下地金属溶出抑制剤」を用いる甲4発明2と対比した場合において少なくとも上記相違点6と同様の点で相違し、相違点6についての判断は上記(1)イで示したとおりである。

イ そうすると、本件発明11は、相違点6と同様の点に係る構成を備えている点で、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明12と甲4発明3との対比・検討
ア 本件発明12は、「請求項1又は2で規定されたメルカプトトリアゾール」を用いる使用に係る発明であるから、「甲4発明1で規定された下地金属溶出抑制剤」を用いる甲4発明3と対比した場合において少なくとも上記相違点6と同様の点で相違し、相違点6についての判断は上記(1)イで示したとおりである。

イ そうすると、本件発明12は、相違点6と同様の点に係る構成を備えている点で、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、申立人が提示した特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-04-26 
出願番号 特願2017-511313(P2017-511313)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C25D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 池田 安希子  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 亀ヶ谷 明久
増山 慎也
登録日 2020-06-30 
登録番号 特許第6726173号(P6726173)
権利者 アトテツク・ドイチユラント・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング
発明の名称 金含有層を電着するための組成物、その使用及び方法  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 上島 類  
代理人 前川 純一  

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