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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16G
管理番号 1373809
異議申立番号 異議2021-700096  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-28 
確定日 2021-05-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6730869号発明「複列シールチェーン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6730869号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6730869号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成28年7月15日に出願され、令和2年7月7日にその特許権の設定登録がされ、令和2年7月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年1月28日に特許異議申立人田口雅士(以下、「異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6730869号の請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
1対の内プレートの両端部をブシュで結合した内リンクと、1対のプレートの両端部にピンを配置した外リンクとを、前記ブシュに前記ピンを嵌挿して交互に連結し、かつ前記ブシュを前記内プレートの外側面から所定量突出し、該突出部を囲むように配置したシールリングを前記内プレートと前記プレートとの間に圧縮状態で挟持した単列シールチェーンを、前記ピンを共通にして幅方向に複列配置した複列シールチェーンにおいて、
前記複列シールチェーンの幅方向最外側の前記外リンクの外側の前記プレートを、所定板厚の1枚の外プレートとし、該1対の外プレートに前記ピンを固定し、
前記最外側の1対の外プレート以外の前記外リンクのプレートであって、前記内プレートの間に配置されるプレートを、前記外プレートの板厚より厚い1枚のプレートからなる中間プレートとし、該中間プレートの両端部に前記ピンの径より大きい径からなるピン孔を形成してなる、
ことを特徴とする複列シールチェーン。
【請求項2】
前記外プレート及び内プレートの板厚を、シールリングを備えていないノンシールチェーンであってJIS規格により規格された2列標準チェーンの外プレート及び内プレートより所定量薄く形成し、1枚からなる前記中間プレートの板厚を、2枚からなる前記2列標準チェーンの中間プレートより薄く形成し、
前記複列シールチェーンにおける前記単列シールチェーンの幅方向中央線が、前記2列標準チェーンの各単列チェーンの幅方向中央線と一致してなる、
請求項1記載の複列シールチェーン。
【請求項3】
前記複列シールチェーンの前記両外プレートの外側面間距離である全幅が、前記2列標準チェーンと一致してなる、
請求項2記載の複列シールチェーン。
【請求項4】
前記中間プレートの1対の前記ピン孔中心間の距離であるピン孔ピッチが、前記外プレートのピン孔中心間の距離であるピン孔ピッチより短い、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の複列シールチェーン。
【請求項5】
前記中間プレートの1対のピン孔の外側端の距離が、前記外プレートの1対のピン孔の外側端の距離以下である、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の複列シールチェーン。
【請求項6】
前記中間プレートの板厚は、前記外プレートの板厚より厚くかつ2倍と等しいか又はそれより小さい、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の複列シールチェーン。
【請求項7】
前記複列シールチェーンは、2列の前記単列シールチェーンからなる、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の複列シールチェーン。」

第3 申立理由の概要
1)請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
2)請求項1ないし7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、5及び6号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2002-139106号公報
甲第2号証:実願昭58-186430号(実開昭60-93055号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開平10-184816号公報
甲第4号証:実願昭54-100093号(実開昭56-17437号)のマイクロフィルム
甲第5号証:特開2010-169252号公報
甲第6号証:特開2008-286289号公報

第4 各甲号証に記載の事項及び発明
1 甲第1号証
(1)甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、伝動用及び搬送用チェーンであって、チェーン内に封入した潤滑剤の漏失防止及び外部からチェーン内への異物の侵入を防止するシールリングを有するシールチェーンに関するものである。」
「【0014】図2は本発明の実施の形態2に係るシールチェーンの要部断面図である。図2に示すシールチェーンは、ブシュ11が圧嵌された内リンクプレート12と、ピン13が圧嵌された外リンクプレート14とを交互に連結している。ブシュ11上にはローラ15が遊嵌されている。一方(上方)の内リンクプレート12と一方(上方)の外リンクプレート14との間でブシュ11の外周面上に同心状に一方(上方)のシールリング16c(Oリング)が装着されている。また、ブシュ11の端面と他方(下方)の外リンクプレート14との間でピン13の外周面上に同心状に他方(下方)のシールリング16d(Oリング)が装着されている。」
「【0024】図6は本発明の実施の形態6に係るシールチェーンの要部断面図である。図6に示すシールチェーンは、2列のシールチェーンであり、ブシュ11が圧嵌された内リンクプレート12と、ピン13が圧嵌された中間リンクプレート14’及び外リンクプレート14とを交互に連結している。ブシュ11上にはローラ15が遊嵌されている。上方の内リンクプレート12及びブシュ11の端面と上方の外リンクプレート14との間にピン13と同心状に2本の上方のシールリング16kが装着されている。そして、この2本の上方のシールリング16kはOリングである。また、中間リンクプレート14’とこれに対向する内リンクプレート12との間、及び下方の内リンクプレート12と下方の外リンクプレート14との間でピン13の外周面上にピン13と同心状に別のシールリング16mがそれぞれ装着されている。そして、この別のシールリング16mはその断面形状がX字形状をしている。」
「【0029】図9は本発明の実施の形態8に係るシールチェーンの平面図である。図9に示すシールチェーンは、2列のシールチェーンであり、ブシュ(不図示)が圧嵌された内リンクプレート12と、ピン13が圧嵌された中間リンクプレート14’及び外リンクプレート14とを交互に連結している。ブシュ(不図示)上にはローラ15が遊嵌されている。また、図9に示すシールチェーンは、シールチェーンの長手方向で隣接するピン13またはブシュ14まわりのシールリングがシールチェーンの1箇所以上で異なるシールリング16rとシールリング16sを備えている。」
「【0032】上記本発明の実施の形態1?8は、ピンとブシュ間の潤滑剤の漏失防止及びピンとブシュ間への外部からの異物の侵入を防止するシールリングを有するシールチェーンであるが、本発明はブシュとローラ間の潤滑剤の漏失防止及びブシュとローラ間への外部からの異物の侵入を防止する他のシールリングを有するシールチェーンにも適用できるものであり、さらに、前記シールリング及び前記他のシールリングを有するシールチェーンにも適用できるものである。この場合、前記シールリング及び前記他のシールリングは、その使用条件に応じて、その材質、形状、特性、色及びその装着数を1本のシールチェーンの中で2種類以上組合せるものである。」
「【0034】また、本発明は、ブシュの端部が内リンクプレートより突出する形式のもの、ブシュの端部が内リンクプレートの外側面と面一の形式のもの、あるいはブシュの端部が内リンクプレートの外側面より没入している形式のもののいずれにも適用できるものである。」
「【図2】


「【図6】


「【図9】


(2)甲第1号証に記載の技術的事項
上記甲第1号証の記載から、次の技術的事項が認定できる。
ア.段落【0024】及び【図6】から、1対の内リンクプレート12の両端部にブシュ11を圧嵌した内側に位置するリンクと、対となる外リンクプレート14及び中間リンクプレート14’の両端部にピン13を圧嵌した外側に位置するリンクとを、前記ブシュ11に前記ピン13を嵌挿して交互に連結したリンクチェーンが構成されていること。
イ.段落【0029】及び【図9】において「ブシュ」が不図示であるものの、段落【0029】において、「シールチェーンの長手方向で隣接するピン13またはブシュ14まわりのシールリング」(当該記載中の「ブシュ14」は、「ブシュ11」の誤記と認める。)と記載されていること、さらに段落【0014】には、「一方(上方)の内リンクプレート12と一方(上方)の外リンクプレート14との間でブシュ11の外周面上に同心状に一方(上方)のシールリング16c(Oリング)が装着されている。」と記載されており、ブシュ11の長手方向において一方の外周面にシールリング16cが装着されている態様が【図2】に示されていること、加えて、段落【0034】には、「ブシュの端部が内リンクプレートから突出する形式のもの」あるいは突出しない形式のものの「いずれにも適用できる」と記載されていることから、【図9】において不図示の「ブシュ」は、ブシュ11の端面を内リンクプレート12の外側面のうち一方から外リンクプレート14又は中間リンクプレート14’に向けて所定量突出した突出部を有するとともに、ブシュ11の突出部またはピン13のまわりにシールリング16rとシールリング16sが装着されていること。
ウ.段落【0026】、【0029】、【図6】及び【図9】から、シールリング16k、16m、16r及び16sは、そのシール性能を確保するために、内リンクプレート12と外リンクプレート14又は中間リンクプレート14’との間で挟持されていること。
エ.段落【0024】、【図6】及び【図9】から、2列シールチェーンにおいて、ピン13を圧嵌する1対の外リンクプレート14、14及び2枚の中間リンクプレート14’、14’であって、前記1対の外リンクプレート14、14は、2列シールチェーンの外側に位置するとともに、2枚の中間リンクプレート14’、14’は、2枚の内リンクプレート12、12の間に配置され、2枚合わせた厚さは1枚の外プレートよりも厚い合計板厚であること。
(3)甲第1号証に記載の発明
上記の甲第1号証に記載の技術的事項を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認めることができる。
<甲1発明>
「1対の内リンクプレート12の両端部にブシュ11を圧嵌した内側に位置するリンクと、対となる外リンクプレート14及び中間リンクプレート14’の両端部にピン13を圧嵌した外側に位置するリンクとを、前記ブシュ11に前記ピン13を嵌挿して交互に連結し、かつ、前記ブシュ11の端面を前記内リンクプレート12の外側面のうち一方から外リンクプレート14又は中間リンクプレート14’に向けて所定量突出した突出部を有し、前記ブシュ11の突出部またはピン13のまわりにシールリング16rとシールリング16sが装着され、前記シールリング16r又はシールリング16sを前記内リンクプレート12と前記外リンクプレート14及び前記中間リンクプレート14’との間で挟持したシールチェーンを、前記ピン13を共通にして幅方向に2列配置した2列シールチェーンにおいて、
前記2列シールチェーンの前記外側に位置する前記外リンクプレート14を、所定板厚の1枚の外リンクプレート14とし、1対の外リンクプレート14、14に前記ピン13を圧嵌し、
前記外側に位置するリンクのプレートであって、前記内リンクプレート12、12の間に配置される中間リンクプレート14’、14’を、2枚のプレートからなり合計板厚は1枚の外リンクプレート14よりも厚い中間リンクプレート14’、14’とし、該中間リンクプレート14’、14’の両端部に前記ピン13が圧嵌されるピン孔を形成してなる
2列シールチェーン。」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(1-1)実用新案登録請求の範囲の第1項及び第2項
「(1)屈曲の中心となるピン(16)を長くして、ピンリンクプレート(15)及びセンターリンク(13)の間にローラリンク(12)を屈曲自在に連結して構成される多列チェーンにおいて、上記ピンリンクプレート(15)及びセンターリンク(13)とローラリンク(12)間にスペーサー(14)(22)を、僅かに圧縮される状態で挿入したことを特徴とする多列チエーン。
(2)上記スペーサー(14)(22)を弾性に富むゴム系のリングとした実用新案登録請求の範囲第1項記載の多列チエーン。」
(1-2)明細書第3ページ第3行ないし第4ページ第20行
「すなわちチエーンの組立、特に多列化チエーンの場合、すべて同一隙間(δ)で組立てることはできず、各リンク間の該隙間(δ)が時には大きく、時には小さくなりすぎてチエーン屈曲に支障を招くことになる。
したがって、本考案はチエーン硬直という問題を発生させることなく、各リンク間隙間(δ)を常に一定に保ち、片寄り防止を目的とした多列チェーンを提供するものである。
すなわち各リンク間隙間(δ)を一定に保持するためにゴム等の弾性体から成るリングを該隙間(δ)に挿入して構成したものである。
以下、本考案に係る多列チエーンの1実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
ここでは多列チエーンとして第3図、第4図に示すように、3列チエーンを例にとり説明するに、ピンリンク(11)、ローラリンク(12)、センターリンク(13)、及びスペーサー(14)とから構成されている。また上記ピンリンク(11)は2本のピン(16)の両側に圧入・カシメられたピンリンクプレート(15)から、一方ローラリンク(12)は2枚のローラリンクプレート(17)をブシユ(18)に圧入し、該ブシユ(18)外周にローラ(19)を回動自由に挿入してある。(時にはローラ(19)を省いたブシユチエーン形式としてもよい)
さらにセンターリンク(13)はピンリンクプレート(15)及びローラリンクプレート(17)より張力のバランスを考えて、比較的厚い1枚の板から成っている。ピンリンクプレート(15)に対し垂直に圧入・樹立した2本のピン(16)(16)に、上記スペーサー(14)を挿入し、該1本のピン(16)にローラリンク(12)を、さらにスペーサー(14)、センターリンク(13)、スペーサー(14)、ローラリンク(12)、スペーサー(14)、センターリンク(13)、スペーサー(14)、ローリンク(12)、スペーサー(14)をそれぞれ第3図のように順次挿入してゆく、最後にピンリンクプレート(15)を圧入・カシメすることで、3列チエーンの1ピッチが組み立てられる。」
(1-3)明細書第5ページ第1行ないし第6ページ第1行
「この場合、スペーサー(14)の挿入法は問わず、内径をピン外径に密着挿入し、ブシユ(18)両端面(20)(20)と僅かに圧縮される状態で接触させても又第3図のブシユ(18)両端面(20)(20)をローラリンクプレート(17)よりいく分延ばして、該ブシユ(18)外径にスペーサー(14)を挿入して各リンクプレートで両側から接触させることでもよく、さらには該スペーサー(14)をリンクに円溝を設けて、該溝にはめ込むこともできる。その他、種々の挿入法が考えられるが、要するにピンリンクプレート(15)とセンターリンク(13)間に屈曲自在にピン(16)を中心に軸支されるローラリンク(12)が両サイドに配置される該スペーサー(14)(14)によって横ズレを生じなければよく、一方該スペーサー(14)の断面形状も第3図に示すような円形に限らず、X字状断面、だ円状断面等でもよく、スペーサー(14)としての機能は十分である。
さらに該スペーサー(14)の材質としてはゴム系で弾性に極めて富む材料が好ましい訳であるが、ゴム系の材質に限らずウレタン、バネ効果を有す金属性の座金等を用いることができる。」
(1-4)明細書第6ページ第10行ないし第7ページ第15行
「以上、述べたように本考案に係る多列チエーンは、ピン(16)の屈曲部に弾性体のスペーサー(14)(20)を挿入して多列化したもので、各ピンリンク(11)、ローラリンク(12)及びセンターリンク(13)間にはスペーサー(14)(20)が挿入され、上記各リンクはピン(16)を中心として屈曲はするが、横ズレをして一方向に片寄ることはなく、スプロケットとスムーズに巻き付くことができる。
また、該スペーサー(14)(22)はゴム等の弾性体で構成されており、該スペーサー(14)(20)は単に横ズレ防止としての機能のみならず、スプロケットとの噛み合い時の衝撃によって生じる振動・騒音を抑制し非常に静かな動力伝達を可能ならしむ。
特に多列チエーンでは1ピッチ当りのスプロケットとの噛み合い箇所が多くなり、しかもピン(16)の長さが長くなる等、チエーン剛性は低下し、その分各部の振動、並びに騒音は激しくなるが、該スペーサー(14)(20)の防振作用により、その効果は非常に著しい。
さらに該スペーサー(14)(22)によって各リンクが片寄らないため、スプロケットの歯とバランス良く噛み合い、該スプロケットの片摩耗を防止するのみならず、チェーン自体の片荷重に基づく破損防止においても大きな効果を呈す等、該スペーサー(14)(22)は多列チエーンの構成上なくてはならないものである。」
(1-5)第3図



(1-6)第4図



(2)甲第2号証に記載の技術的事項
上記甲第2号証の記載から、次の技術的事項が認定できる。
ア.上記(1-2)、第3図及び第4図から、
(ア)1対のローラリンクプレート(17)(17)の両端部をブシユ(18)(18)に圧入して結合したローラーリンク(12)を形成すること、
(イ)1対のピンリンクプレート(15)(15)の両端部に2本のピン(16)(16)の両側を圧入したピンリンク(11)と、その2本のピン(16)(16)に挿入したセンターリンク(13)(13)とにより、外リンクを形成すること、
(ウ)ローラリンク(12)と、外リンクとを、ピン(16)にスペーサー(14)、ブシユ(18)、スペーサー(14)、センターリンク(13)、スペーサー(14)、ブシユ(18)、スペーサー(14)、センターリンク(13)、スペーサー(14)、ブシユ(18)、スペーサー(14)を順次挿入して交互に連結し、3列チエーンを形成すること。
イ.上記(1-1)及び(1-3)から、ブシユ(18)両端面(20)(20)をローラリンクプレート(17)よりいく分延ばして、ピンリンクプレート(15)、ローラリンク(12)及びセンターリンク(13)の間に僅かに圧縮される状態でスペーサー(14)を前記ブシユ(18)外径に挿入すること。
ウ.上記(1-2)及び第3図から、センターリンク(13)は比較的厚い1枚の板から成ること。
エ.上記(1-2)及び(1-3)から、各リンク間隙間(δ)を一定に保持するために、スペーサー(14)の材質としてゴム系で弾性に極めて富む材料が好ましく、ゴム系の材質に限らずウレタン、バネ効果を有す金属性の座金等が用いられること。
(3)甲第2号証に記載の発明
上記の甲第2号証に記載の技術的事項を総合すると、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認めることができる。
<甲2発明>
「1対のローラリンクプレート(17)(17)の両端部をブシユ(18)(18)に圧入して結合したローラーリンク(12)と、
1対のピンリンクプレート(15)(15)の両端部に2本のピン(16)(16)の両側を圧入し、その2本のピン(16)(16)にセンターリンク(13)(13)を挿入した外リンクとを、
前記ピン(16)にスペーサー(14)、ブシユ(18)、スペーサー(14)、センターリンク(13)、スペーサー(14)、ブシユ(18)、スペーサー(14)、センターリンク(13)、スペーサー(14)、ブシユ(18)、スペーサー(14)を順次挿入して交互に連結し、3列チエーンを形成し、
前記ブシユ(18)両端面(20)(20)を前記ローラリンクプレート(17)よりいく分延ばして、前記ピンリンクプレート(15)、前記ローラリンク(12)及び前記センターリンク(13)の間に僅かに圧縮される状態でスペーサー(14)を前記ブシユ(18)外径に挿入し、
前記センターリンク(13)は比較的厚い1枚の板から成る
3列チエーン。」

3 甲第3号証
甲第3号証の記載から、次の技術的事項が認定できる。
(1)段落【0030】及び【図10】から、第1アウタプレート8と、第1インナーリンク7aと、中間プレート15と、第2インナーリンク7bと、第2アウタプレート9とから形成されるユニット16を複数個連結して形成される複列式タイミングチェーン。
(2)段落【0031】及び【0032】から、複列式タイミングチェーンを構成する第1インナーリンク7aのインナープレートと第2インナーリンク7bのインナープレートの間に中間プレート15が配置されること、さらに、対応する【図10】からは、該中間プレート15の板厚が第1及び第2アウタプレート8、9の板厚よりも厚く形成されていることが看取できる。
(3)段落【0032】及び【0033】から、中間プレート15の第1貫通孔17にピン12を挿入するとともに、第2貫通孔18にピン13を挿入すること、さらに、対応する【図12】からは、該中間プレート15にピン12及びピン13が取り付けられていることが看取できる。

4 甲第4号証
甲第4号証の記載から、次の技術的事項が認定できる。
(1)明細書第4ページ第9行ないし第17行及び第2図から、二連チエーン10の左列10Aと右列10Bとの間に中リンクプレート13がピン12を挿通して介入されていること。
(2)第2図からは、中リンクプレート13の板厚が外リンクプレート11の板厚よりも厚く形成されていることが看取できる。

5 甲第5号証
甲第5号証の記載から、次の技術的事項が認定できる。
段落【0015】、【0017】ないし【0019】、【図1】及び【図4】か4ら、外プレート1、1と内プレート2、2の間にシール6、6が封入されたシールチェーンにおいて、外プレート1及び内プレート2の厚さb_(0)を標準チェーンの外プレート(イ)及び内プレート(ロ)の厚さB_(0)に比較して薄くすることで、幅寸法を従来のJIS40の標準チェーンと同じとすること。

6 甲第6号証
甲第6号証の記載から、次の技術的事項が認定できる。
(1)段落【0026】から、伝動用多列チェーン100の連結ピン140のピン径を、中間プレート120のピン孔121の径より小さく設定されていること。
(2)段落【0027】及び【図3】から、伝動用多列チェーン100において、中間プレート120のピン孔121のピン孔間ピッチを、外プレート130のピン孔間ピッチより狭く設定されていること。

第5 当審の判断
1 本件発明1と甲1発明との対比・判断について
(1)甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「内リンクプレート12」は、本件発明1の「内プレート」に相当する。甲1発明の「ブシュ11」は、本件発明1の「ブシュ」に相当する。甲1発明の「1対の内リンクプレート12の両端部にブシュ11を圧嵌した」構成は、本件発明1の「1対の内プレートの両端部をブシュで結合した」構成に相当するので、甲1発明の「内側に位置するリンク」は、本件発明1の「内リンク」に相当する。すなわち、甲1発明の「1対の内リンクプレート12の両端部にブシュ11を圧嵌した内側に位置するリンク」は、本件発明1の「1対の内プレートの両端部をブシュで結合した内リンク」に相当する。
甲1発明の「外リンクプレート14」は、本件発明1の「外プレート」に相当する。甲1発明の「中間リンクプレート14’」は、本件発明1の「中間プレート」に相当する。甲1発明の「ピン13」は、本件発明1の「ピン」に相当する。本件発明1の「外プレート」と「中間プレート」とは「1対のプレート」として「外リンク」を構成するものであり、上述の相当関係を踏まえると、甲1発明の「対となる外リンクプレート14及び中間リンクプレート14’」は、本件発明1の「1対のプレート」に相当し、甲1発明の「対となる外リンクプレート14及び中間リンクプレート14’の両端部にピン13を圧嵌した」構成は、本件発明1の「1対のプレートの両端部にピンを配置した」構成に相当し、甲1発明の「外側に位置するリンク」は、本件発明1の「外リンク」に相当するものである。さらに、甲1発明の「前記ブシュ11に前記ピン13を嵌挿して交互に連結」することは、本件発明1の「前記ブシュに前記ピンを嵌挿して交互に連結」することに相当する。
甲1発明の「前記ブシュ11の端面を前記内リンクプレート12の外側面のうち一方から外リンクプレート14又は中間リンクプレート14’に向けて所定量突出した突出部を有」することは、本件発明1の「前記ブシュを前記内プレートの外側面から所定量突出」することに相当する。
甲1発明の「シールリング16r」又は「シールリング16s」のうち一方は、「前記ブシュ11の突出部」のまわりに装着されているものであるから、本件発明1の「該突出部を囲むように配置したシールリング」に相当する。甲1発明の「前記シールリング16r又はシールリング16sを前記内リンクプレート12と前記外リンクプレート14及び前記中間リンクプレート14’との間で挟持した」ことは、本件発明1の「シールリングを前記内プレートと前記プレートとの間に圧縮状態で挟持した」こととの関係において、「シールリングを前記内プレートと前記プレートとの間に挟持した」限りにおいて共通する。
甲1発明の「シールチェーン」は、本件発明1の「単列シールチェーン」に相当する。すなわち、甲1発明の「シールチェーンを、前記ピン13を共通にして幅方向に2列配置した2列シールチェーン」は、本件発明1の「単列シールチェーンを、前記ピンを共通にして幅方向に複列配置した複列シールチェーン」に相当する。
甲1発明の「前記2列シールチェーンの前記外側に位置する前記外リンクプレート14を、所定板厚の1枚の外リンクプレート14とし、1対の外リンクプレート14、14に前記ピン13を圧嵌」することは、本件発明1の「前記複列シールチェーンの幅方向最外側の前記外リンクの外側の前記プレートを、所定板厚の1枚の外プレートとし、該1対の外プレートに前記ピンを固定」することに相当する。
甲1発明の「前記外側に位置するリンクのプレートであって、前記内リンクプレート12、12の間に配置される中間リンクプレート14’、14’」は、本件発明1の「前記最外側の1対の外プレート以外の前記外リンクのプレートであって、前記内プレートの間に配置されるプレート」に相当する。
甲1発明の「2枚のプレートからなり合計板厚は1枚の外リンクプレート14よりも厚い中間リンクプレート14’、14’」は、本件発明1の「前記外プレートの板厚より厚い1枚のプレートからなる中間プレート」との関係において、「外プレートの板厚より厚い中間プレート」の限りにおいて共通する。
甲1発明の「該中間リンクプレート14’、14’の両端部に前記ピン13が圧嵌されるピン孔を形成してなる」ことは、本件発明1の「該中間プレートの両端部に前記ピンの径より大きい径からなるピン孔を形成してなる」こととの関係において、「該中間プレートの両端部にピンを通すピン孔を形成してなる」限りにおいて共通する。

以上のとおりであるので、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「1対の内プレートの両端部をブシュで結合した内リンクと、1対のプレートの両端部にピンを配置した外リンクとを、前記ブシュに前記ピンを嵌挿して交互に連結し、かつ前記ブシュを前記内プレートの外側面から所定量突出し、該突出部を囲むように配置したシールリングを前記内プレートと前記プレートとの間に挟持した単列シールチェーンを、前記ピンを共通にして幅方向に複列配置した複列シールチェーンにおいて、
前記複列シールチェーンの幅方向最外側の前記外リンクの外側の前記プレートを、所定板厚の1枚の外プレートとし、該1対の外プレートに前記ピンを固定し、
前記最外側の1対の外プレート以外の前記外リンクのプレートであって、前記内プレートの間に配置されるプレートを、外プレートの板厚より厚い中間プレートとし、該中間プレートの両端部にピンを通すピン孔を形成してなる
複列シールチェーン。」
[相違点1-1]本件発明1は、「シールリングを前記内プレートと前記プレートとの間に圧縮状態で挟持した」ものであるのに対し、甲1発明は、シールリングを圧縮状態で挟持ものか明らかでない点。
[相違点1-2]本件発明1は、中間プレートを「前記外プレートの板厚より厚い1枚のプレートからなる」ものとしているのに対し、甲1発明は、中間リンクプレート14’が2枚のプレートから形成されるものである点。
[相違点1-3]本件発明1は、中間プレートのピン孔を「前記ピンの径より大きい径からなる」ものとしているのに対し、甲1発明は、中間リンクプレート14’、14’の両端部のピン孔にピン13を圧嵌するものであってピン13の径よりも小さいものである点。

(2)判断
ア.まず、上記相違点1-2について検討する。
甲第2号証(上記第4 2(2)ウ.を参照。)、甲第3号証(上記第4 3(2)を参照。)及び甲第4号証(上記第4 4(2)を参照。)には、「外プレートの板厚より厚い1枚のプレートからなる中間プレート」(以下、「周知技術1」という。)が記載されている。
ここで、甲1発明では、中間プレートを2枚のものとしていることから、当該箇所における強度の向上が図られており、周知技術1の中間プレートにおいても、1枚を分厚くすることで中間プレートの強度の向上を図るものであるから、甲1発明と周知技術1とは作用・機能の共通性を有しているといえる。
したがって、甲1発明において、上記周知技術1を適用することで相違点1-2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たものである。
イ.次に、上記相違点1-3について検討する。
甲1発明は、外リンクプレート14及び中間リンクプレート14’のピン孔にピン13を圧嵌するものであり、それにより、「上方のシールチェーンの外リンクプレート14、シールリング16k、ブシュ11、シールリング16m、中間リンクプレート14’及びピン13によってリンク内部に閉空間を形成しており、潤滑剤が該閉空間に充填されている」(段落【0001】、【0032】の記載及び【図6】を参照。)との技術的事項(以下、「甲1技術的事項」という。)を含む構成となっている。
ここで、甲第6号証(上記第4 6(1)を参照。)には、「中間プレートのピン孔をピンの径より大きい径からなる」ものとすること(以下、「甲6技術的事項」という。)が記載されているが、甲第6号証に記載のチェーンがシールチェーンであるかは明らかではない。
甲1発明において甲6技術的事項を適用すると、2枚の中間リンクプレート14’、14’のピン孔がピン13の径よりも大きくなることで、2枚の中間リンクプレート14’、14’が遊嵌されることとなり、中間リンクプレート14’、14’が相対的に動いてしまうこととなる。そうすると、2枚の中間リンクプレート14’、14’の間に隙間が生じることにより、上記甲1技術的事項における閉空間が形成されず、潤滑剤がチェーン外に漏れ出してしまうこととなってしまう。
このように、甲1発明において甲6技術的事項を適用することには、シールチェーンとしての機能を阻害するものであることから、当業者が容易に想到し得たものということはできない。
ここで、上記ア.における検討を踏まえ、甲1発明に周知技術1を適用することで甲1発明の2枚の中間プレート14’、14’を1枚とした前提で甲6技術的事項を適用すれば、少なくとも中間プレートからの潤滑剤の漏れ出しは発生しないともいうことができるが、これは、甲1発明に周知技術1を適用することが当業者にとって容易であることを前提として、さらに甲6技術的事項を適用することが当業者にとって容易であるという論理を積み上げることであり、いわゆる「容易の容易」にあたるものであるから、これを当業者が容易に想到し得たものということはできないものである。
なお、異議申立人は、該相違点1-3に対応する技術的事項が甲第2号証ないし甲第4号証に記載されている旨主張しているが、甲第2号証については、下記の相違点2-2のとおりピン孔とピンの径の関係は不明であるし、甲第3号証及び甲第4号証についても同様にピン孔とピンの径の関係について不明であって、少なくとも甲第6号証と同程度に明確にピン孔とピンの径の関係を示すものではない。
ウ.以上のとおりであるから、相違点1-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明と、甲第2号証ないし甲第4号証及び甲第6号証に記載された技術的事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、このほかの甲第5号証にも、本件発明1の上記相違点1-3に係る構成についての記載はない。

2 本件発明1と甲2発明との対比・判断について
(1)甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「ローラリンクプレート(17)(17)」は、本件発明1の「内プレート」に相当する。甲2発明の「ブシユ(18)(18)」は、本件発明1の「ブシュ」に相当する。甲2発明の「1対のローラリンクプレート(17)(17)の両端部をブシユ(18)(18)に圧入して結合した」構成は、本件発明1の「1対の内プレートの両端部をブシュで結合した」構成に相当し、甲2発明の「ローラーリンク(12)」は、本件発明1の「内リンク」に相当する。
甲2発明のローラーリンク(12)のブシユ(18)を挟む「ピンリンクプレート(15)」と「センターリンク(13)」の対、又は、「センターリンク(13)」の対は、本件発明1の「1対のプレート」に相当し、甲2発明の「2本のピン(16)(16)」は、本件発明1の「ピン」に相当し、甲2発明における「ピンリンクプレート(15)」と「センターリンク(13)」の対、又は、「センターリンク(13)」の対と「2本のピン(16)(16)」とからなる構成は、本件発明1の「1対のプレートの両端部にピンを配置した外リンク」に相当する。
甲2発明の「前記ピン(16)に」「ブシユ(18)」を「挿入」する点は、本件発明1の「前記ブシュに前記ピンを嵌挿」する点に相当する。
上述の相当関係を踏まえると、甲2発明のピンリンクプレート(15)に圧入した「ピン(16)に」「スペーサー(14)、ブシユ(18)、スペーサー(14)、センターリンク(13)、スペーサー(14)、ブシユ(18)、スペーサー(14)、センターリンク(13)、スペーサー(14)、ブシユ(18)、スペーサー(14)」を「順次挿入して」ローラーリンク(12)と外リンクとを「交互に連結」することは、本件発明1の「内リンク」と「外リンク」とを「ブシュに前記ピンを嵌挿して交互に連結」することに相当する。また、甲2発明の当該構成は、単列チェーンを形成しピン(16)を共通にした「3列チェーン」を構成するものといえるので、本件発明1の「単列シールチェーンを、前記ピンを共通にして幅方向に複列配置した複列シールチェーン」との関係において、「単列チェーンを、前記ピンを共通にして幅方向に複列配置した複列チェーン」である限りにおいて共通する。
甲2発明の「前記ブシユ(18)両端面(20)(20)を前記ローラリンクプレート(17)よりいく分延ば」す点は、本件発明1の「前記ブシュを前記内プレートの外側面から所定量突出」する点に相当する。また、甲2発明の「前記ピンリンクプレート(15)、前記ローラリンク(12)及び前記センターリンク(13)の間に僅かに圧縮される状態でスペーサー(14)を前記ブシユ(18)外径に挿入し」たことは、本件発明1の「該突出部を囲むように配置したシールリングを前記内プレートと前記プレートとの間に圧縮状態で挟持した」こととの関係において、「該突出部を囲むように配置したスペーサーを前記内プレートと前記プレートとの間に圧縮状態で挟持した」限りにおいて共通する。
甲2発明の「ピンリンクプレート(15)」は、本件発明1の「前記複列シールチェーンの幅方向最外側の前記外リンクの外側の前記プレート」との関係において、「前記複列チェーンの幅方向最外側の前記外リンクの外側の前記プレート」の限りにおいて共通する。
甲2発明の「前記センターリンク(13)は比較的厚い1枚の板から成る」点は、本件発明1の「前記内プレートの間に配置されるプレートを、前記外プレートの板厚より厚い1枚のプレートからなる中間プレートと」する点に相当する。
甲2発明の「センターリンク(13)」を「ピン(16)」に「挿入」する構成は、ピン(16)がセンターリンク(13)に形成された孔を貫通していることは明らかであり、本件発明1の「該中間プレートの両端部に前記ピンの径より大きい径からなるピン孔を形成してなる」こととの関係において、「該中間プレートの両端部に前記ピンを挿入するピン孔を形成してなる」限りにおいて共通する。

以上のとおりであるので、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「1対の内プレートの両端部をブシュで結合した内リンクと、1対のプレートの両端部にピンを配置した外リンクとを、前記ブシュに前記ピンを嵌挿して交互に連結し、かつ前記ブシュを前記内プレートの外側面から所定量突出し、該突出部を囲むように配置したスペーサーを前記内プレートと前記プレートとの間に圧縮状態で挟持した単列チェーンを、前記ピンを共通にして幅方向に複列配置した複列チェーンにおいて、
前記複列チェーンの幅方向最外側の前記外リンクの外側の前記プレートを、所定板厚の1枚の外プレートとし、該1対の外プレートに前記ピンを固定し、
前記最外側の1対の外プレート以外の前記外リンクのプレートであって、前記内プレートの間に配置されるプレートを、前記外プレートの板厚より厚い1枚のプレートからなる中間プレートとし、該中間プレートの両端部に前記ピンを挿入するピン孔を形成してなる
複列チェーン。」
[相違点2-1]
本件発明1は、「シールリング」を用いた「複列シールチェーン」であるのに対し、甲2発明は、「スペーサー」を用いた「3列チエーン」であって、シール性を有するものか不明である点。
[相違点2-2]
本件発明1は、「該中間プレートの両端部に前記ピンの径より大きい径からなるピン孔を形成してなる」構成を備えているのに対し、甲2発明は、「センターリンク(13)」のピン孔の径と「ピン(16)」の径との関係が不明である点。

(2)判断
上記相違点2-1について検討する。
甲2発明におけるスペーサーは、「各リンク間隙間(δ)を一定に保持するため」のものであって、「材質としてゴム系で弾性に極めて富む材料が好ましく、ゴム系の材質に限らずウレタン、バネ効果を有す金属性の座金等が用いられる」(いずれも上記第4 2(2)エ.を参照。)ものであるが、シール性を有しているものではない。このため、甲2発明における「3列チエーン」は、シール性を有していないといえる。
そして、甲2発明のスペーサーの材質を変更してシールチェーンに転用すべき動機付けを甲第2号証から把握することはできない。そうすると、甲2発明において、上記相違点2-1に係る構成とすることが当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
以上のとおりであるから、相違点2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、甲第1号証、甲第3号証ないし甲第6号証にも、本件発明1の上記相違点2-1に係る構成についての記載はない。

3 本件発明2ないし本件発明7について
本件発明2ないし本件発明7は、本件発明1を更に限定するものであり、甲1発明との間に少なくとも上記相違点1-1ないし相違点1-3を有するものである。同様に、甲2発明との間に少なくとも上記相違点2-1及び相違点2-2を有するものである。したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明2ないし本件発明7は、甲1発明又は甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-05-10 
出願番号 特願2016-140874(P2016-140874)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F16G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 克久  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 内田 博之
杉山 健一
登録日 2020-07-07 
登録番号 特許第6730869号(P6730869)
権利者 大同工業株式会社
発明の名称 複列シールチェーン  
代理人 特許業務法人近島国際特許事務所  

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