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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F
管理番号 1374217
審判番号 不服2020-9841  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-14 
確定日 2021-06-01 
事件の表示 特願2016-129830「コイル部品及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月26日出願公開、特開2017- 22372、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成28年6月30日(優先権主張 平成27年7月10日)の出願であって、令和1年11月1日付け拒絶理由通知に対する応答時、令和2年1月9日に手続補正がなされたが、同年4月23日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対して、同年7月14日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされ、当審による令和3年2月3日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年4月5日に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、令和3年4月5日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である(なお、下線部は補正箇所を示す。)。
「【請求項1】
第1及び第2の鍔部と、前記第1及び第2の鍔部間に位置する巻芯部とを含むドラム型コアと、
前記巻芯部に巻回された第1巻回層及び前記第1巻回層上に巻回された第2巻回層を構成し、良導体からなる芯材が絶縁材料からなる被覆膜で覆われた構造を有する複数の被覆導線と、
前記被覆導線を覆う樹脂被覆層と、を備え、
前記第1巻回層を構成する前記被覆導線の巻回方向と、前記第2巻回層を構成する前記被覆導線の巻回方向は、互いに逆であり、
前記被覆導線の一部が軸方向に移動しうるよう、前記巻芯部の表面は前記軸方向に平坦であり、
前記第1巻回層を構成する隣接する前記被覆導線間のスペースにばらつきが存在し、且つ、前記第1巻回層を構成する隣接する前記被覆導線間の最大スペースは、前記被覆導線の線径よりも狭く、
前記第2巻回層を構成する前記被覆導線が前記スペースに入り込むことなく、前記スペースが前記樹脂被覆層で充填されていることを特徴とするコイル部品。
【請求項2】
前記第2巻回層を構成する隣接する前記被覆導線間のスペースにばらつきが存在し、且つ、前記第2巻回層を構成する隣接する前記被覆導線間の最大スペースは、前記被覆導線の線径よりも狭いことを特徴とする請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記第1及び第2の鍔部は、それぞれ複数の継線部を有しており、
前記複数の被覆導線の両端部は、それぞれ対応する前記継線部に接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記複数の被覆導線は、互いに絶縁された一次巻線及び二次巻線を含むことを特徴とする請求項3に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記継線部は、前記樹脂被覆層で覆われていないことを特徴とする請求項3又は4に記載のコイル部品。」

第3 当審の拒絶の理由について

1.当審拒絶理由の概要
当審において令和3年2月3日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

1-1.理由1(特許法第29条第2項)
本件出願の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項(下記引用文献2ないし5に記載された技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2015-70016号公報
引用文献2:特開2010-109267号公報
引用文献3:特開2006-114570号公報
引用文献4:実公昭48-7435号公報
引用文献5:特開昭62-31103号公報

1-2.理由2(特許法第36条第6項第2号違反)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備なため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1において、「前記被覆導線のスペース」、「前記被覆導線の最大スペース」なる記載は意味不明瞭であり、請求項1に係る発明、及び請求項1に従属する請求項2ないし5に係る発明は明確でない。

(2)請求項2においても、「前記被覆導線のスペース」、「前記被覆導線の最大スペース」なる記載について、上記(1)と同様のことがいえる。

(3)請求項5において、「前記継線部は、・・」とあるが、引用する請求項1や請求項2には「継線部」に関する記載はなく、この点において請求項5に係る発明は明確なものでない。

(4)請求項6においても、「前記被覆導線のスペース」、「前記被覆導線の最大スペース」なる記載について、上記(1)と同様のことがいえ、請求項6に係る発明、及び請求項6に従属する請求項7ないし9に係る発明は明確でない。

(5)請求項6において、「融解後における前記第1巻回層を構成する前記被覆導線の最大スペースは、前記被覆導線の線径よりも狭い・・」と記載されているが、如何にして融解後における第1巻回層を構成する被覆導線の最大スペースを被覆導線の線径よりも狭くすることを実現しているのか、その技術的手段(方法)が不明であり、請求項6に係る発明、及び請求項6に従属する請求項7ないし9に係る発明は技術的にみて明確なものでない。
(なお、発明の詳細な説明(段落【0045】、【0047】、【0056】等)には、樹脂膜の膜厚を、被覆膜に存在する欠陥部分を修復可能な範囲で十分に薄く設定することで、被覆導線の最大スペースを被覆導線の線径よりも狭くするという技術的手段(方法)が記載されているのみである点にも注意されたい。)

2.当審拒絶理由についての判断

2-1.理由1(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献及び引用発明
当審の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(特開2015-70016号公報)には、「コイル部品」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0010】
コイル部品10は、図1に示すように、コア12、巻線16及び外部電極14a,14bを備えている。
【0011】
コア12は、例えばフェライト、アルミナ等の磁性材料により構成され、巻芯部12a及び鍔部12b,12cを含んでいる。」

イ.「【0016】
巻線16は、図1に示すように、巻芯部12aに巻き付けられている導線であり、銅や銀といった導電性材料を主成分とする芯線が、ポリウレタン等の絶縁材料により被覆されることにより構成されている。巻線16は、図2に示すように、巻芯部12aに対して3重に巻き付けられている。具体的には、巻線16の1重目は、巻芯部12aの後端から前端へと前側から平面視したときに反時計回りに周回しながら巻き付けられている。巻線16の1重目とは、巻線16において巻芯部12aに直接に巻き付けられている部分である。巻線16の2重目は、巻芯部12aの前端から後端へと前側から平面視したときに反時計回りに周回しながら巻き付けられている。巻線16の2重目とは、巻線16において1重目の巻線16上に巻き付けられている部分である。巻線16の3重目は、巻芯部12aの後端から前端へと前側から平面視したときに反時計回りに周回しながら巻き付けられている。巻線16の3重目とは、巻線16において2重目の巻線16上に巻き付けられている部分である。また、巻線16の両端はそれぞれ、外部電極14a,14bに対して熱圧着により接続されている。
【0017】
ここで、巻線16が3重に巻き付けられると、2重目及び3重目において前後方向の両端に位置する巻線16が巻芯部12a上に脱落するおそれがある。そこで、コイル部品10では、2重目の前端に位置する巻線16eは、1重目において前後に隣り合う巻線16aと巻線16bとの間に形成された隙間Sp1上に位置している。より詳細には、巻線16の1重目において、前から3番目及び2番目の巻線16a,16bの間には、隙間Sp1が形成されている。そして、巻線16の2重目において、前端に位置する16eは、隙間Sp1上において巻線16a,16bに支持されている。 ・・・・・(中 略)・・・・・
【0019】
また、巻線16は、巻芯部12aの後端近傍においても巻芯部12aの前端近傍と同じ構造を有している。より詳細には、2重目の後端に位置する巻線16kは、1重目において前後に隣り合う巻線16gと巻線16hとの間に形成された隙間Sp3上に位置している。より詳細には、巻線16の1重目において、後ろから3番目及び2番目の巻線16g,16hの間には、隙間Sp3が形成されている。そして、巻線16の2重目において、後端に位置する16kは、隙間Sp3上において巻線16g,16hに支持されている。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0021】
ここで、隙間Sp1?Sp4の前後方向における幅(以下、単に隙間Sp1?Sp4の幅と呼ぶ)について説明する。コイル部品10では、巻線16は、図2に示すように、隙間が生じないように密に巻芯部12aに巻き付けられている。一方、巻線16aと巻線16bとの間、巻線16dと巻線16eとの間、巻線16gと巻線16hとの間、及び、巻線16jと巻線16kとの間には、意図的に隙間Sp1?Sp4を形成している。したがって、隙間Sp1,Sp3の幅は、1重目における巻線16aと巻線16bとの間に形成された隙間及び巻線16gと巻線16hとの間に形成された隙間を除く巻線16間に形成された隙間よりも大きい。また、隙間Sp2,Sp4の幅は、2重目における巻線16dと巻線16eとの間に形成された隙間及び巻線16jと巻線16kとの間に形成された隙間を除く巻線16間に形成された隙間よりも大きい。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0024】
しかしながら、隙間Sp1?Sp4の幅が大きすぎると、巻線16e,16f,16k,16lが隙間Sp1?Sp4内に落下する(以下、段落ちと呼ぶ)。よって、隙間Sp1?Sp4は、巻線16の直径よりも小さいことが好ましい。そして、より効果的に段落ちを防止するためには、隙間Sp1?Sp4の幅は、巻線16の直径の半分以下であることが好ましい。本願発明者は、隙間Sp1?Sp4の幅が、巻線16の直径の半分以下であることが好ましいことを立証するために、以下に説明する実験を行った。」

ウ.「【0033】
なお、コイル部品10において、巻線16は、巻芯部12aに2重以上に巻き付けられていればよい。ただし、巻芯部12aが水平方向と平行な状態で回路基板に実装される横巻きタイプのコイル部品10では、奇数重巻きであることが好ましい。横巻きタイプのコイル部品10では、鍔部12b,12cのそれぞれに外部電極14a,14bが設けられているので、巻線16の両端を巻芯部12aの両端に引き出す必要があるためである。」

エ.「



上記ア.ないしエ.から以下のことがいえる。
・上記ア.の記載事項、及びエ.の図1によれば、引用文献1に記載の「コイル部品」は、コア12と巻線16を備え、コア12は、2つの鍔部12b,12cと、2つの鍔部12b,12c間に位置する巻芯部12aとを含むものである。
・上記イ.の段落【0016】、ウ.の記載事項、及びエ.の図2によれば、巻線16は、銅や銀といった導電性材料を主成分とする芯線が絶縁材料により被覆されることにより構成され、巻芯部12aに2重以上に巻き付けられてなるものである。巻線16の1重目も2重目も、巻芯部12aの前側から平面視したときに反時計回りに周回しながら巻き付けられてなるものである。
・上記イ.の記載事項、及びエ.の図2によれば、巻線16の1重目において、隣り合う巻線間に2つの隙間Sp1,Sp3が形成され、当該2つの隙間Sp1,Sp3の幅は、巻線16間に形成された他の隙間よりも大きい、すなわち1重目で最も大きい隙間であり、巻線16の直径よりも小さく(具体的には直径の半分以下)、2重目の前端・後端にそれぞれ位置する巻線を2つの隙間Sp1,Sp3上においてそれぞれ支持するようにしてなるものである。
・上記エ.の図2によれば、巻芯部12aの表面は軸方向に平坦であることが見て取れる。

以上のことから、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されているといえる。
「2つの鍔部と、当該2つの鍔部間に位置する巻芯部とを含むコアと、
前記巻芯部に2重以上に巻き付けられ、銅や銀といった導電性材料を主成分とする芯線が絶縁材料により被覆されることにより構成されている巻線と、を備え、
前記巻線の1重目も2重目も、前記巻芯部の前側から平面視したときに反時計回りに周回しながら巻き付けられてなり、
前記巻芯部の表面は軸方向に平坦であり、
前記巻線の1重目には隣り合う巻線間に2つの隙間が形成され、当該2つの隙間は1重目で最も大きい隙間であって、前記巻線の直径よりも小さく、2重目の前端・後端にそれぞれ位置する巻線を当該2つの隙間上においてそれぞれ支持するようにしたコイル部品。」

(2)対比・判断
(2-1)本願発明1について
ア.対比
本願発明1と引用発明Aとを対比する。
(ア)引用発明Aにおける「2つの鍔部」、2つの鍔部間に位置する「巻芯部」は、それぞれ本願発明1でいう「第1及び第2の鍔部」、第1及び第2の鍔部間に位置する「巻芯部」に相当する。そして、引用発明Aにおける「コア」は、2つの鍔部と、当該2つの鍔部間に位置する巻芯部とを含むものであり、本願発明1でいう「ドラム型コア」に相当するといえるものである。
よって、本願発明1と引用発明Aとは、「第1及び第2の鍔部と、前記第1及び第2の鍔部間に位置する巻芯部とを含むドラム型コアと」を備えるものである点で一致する。

(イ)引用発明Aにおける「巻線」は、銅や銀といった導電性材料を主成分とする芯線が絶縁材料により被覆されることにより構成されてなるものであることから、本願発明1でいう良導体からなる芯材が絶縁材料からなる被覆膜で覆われた構造を有する「被覆導線」に相当するものである。また、引用発明Aにおける巻線の「1重目」が本願発明1でいう巻芯部に巻回された「第1巻回層」に相当し、「2重目」が本願発明1でいう第1巻回層上に巻回された「第2巻回層」に相当する構成を有するものである。
したがって、本願発明1と引用発明Aとは、「前記巻芯部に巻回された第1巻回層及び前記第1巻回層上に巻回された第2巻回層を構成し、良導体からなる芯材が絶縁材料からなる被覆膜で覆われた構造を有する被覆導線と」を備えるものである点で共通する。
ただし、巻芯部に巻回された被覆導線について、本願発明1では「複数」である旨特定するのに対し、引用発明Aではそのような特定を有していない点で相違する。

(ウ)本願発明1では「前記被覆導線を覆う樹脂被覆層と」を備える旨特定するのに対し、引用発明Aではそのような樹脂被覆層を有していない点で相違する。

(エ)本願発明1では「前記第1巻回層を構成する前記被覆導線の巻回方向と、前記第2巻回層を構成する前記被覆導線の巻回方向は、互いに逆」である旨特定するのに対し、引用発明Aでは1重目も2重目も、巻芯部の前側から平面視したときに反時計回りに周回しながら巻き付けられてなるものである、つまり、1重目と2重目の巻回方向は同じである点で相違する。

(オ)引用発明Aにおける「前記巻芯部の表面は軸方向に平坦であ」ることは、本願発明1でいう「前記被覆導線の一部が軸方向に移動しうるよう、前記巻芯部の表面は前記軸方向に平坦であ」ることに相当するといえる。

(カ)引用発明Aにおいて、巻線の1重目の隣り合う巻線間に形成された「2つの隙間」は、1重目で最も大きい隙間であることから、本願発明1でいう第1巻回層を構成する隣接する被覆導線間の「最大スペース」に相当する。また、引用発明Aにおける「2つの隙間」は、巻線の直径よりも小さい、すなわち巻線の線径よりも狭いものである。
したがって、本願発明1と引用発明Aとは、「前記第1巻回層を構成する隣接する前記被覆導線間の最大スペースは、前記被覆導線の線径よりも狭」い点で一致するということができる。
ただし、本願発明1では「前記第1巻回層を構成する隣接する前記被覆導線間のスペースにばらつきが存在」する旨特定するのに対し、引用発明Aではそのような明確な特定を有していない点で相違する。

(キ)本願発明1では「前記第2巻回層を構成する前記被覆導線が前記スペースに入り込むことなく、前記スペースが前記樹脂被覆層で充填されている」旨特定するのに対し、引用発明Aでは上述したようにそもそも樹脂被覆層を有しておらず、また、2重目の前端・後端にそれぞれ位置する巻線を2つの隙間上においてそれぞれ支持するようにしたものである点で相違する。

(ク)そして、引用発明Aにおける「コイル部品」は、本願発明1でいう「コイル部品」に相当するものである。

よって、上記(ア)ないし(ク)によれば、本願発明1と引用発明Aとは、
「第1及び第2の鍔部と、前記第1及び第2の鍔部間に位置する巻芯部とを含むドラム型コアと、
前記巻芯部に巻回された第1巻回層及び前記第1巻回層上に巻回された第2巻回層を構成し、良導体からなる芯材が絶縁材料からなる被覆膜で覆われた構造を有する被覆導線と、を備え、
前記被覆導線の一部が軸方向に移動しうるよう、前記巻芯部の表面は前記軸方向に平坦であり、
前記第1巻回層を構成する隣接する前記被覆導線間の最大スペースは、前記被覆導線の線径よりも狭いことを特徴とするコイル部品。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
巻芯部に巻回された被覆導線について、本願発明1では「複数」である旨特定するのに対し、引用発明Aではそのような特定を有していない点。

[相違点2]
本願発明1では「前記被覆導線を覆う樹脂被覆層」を備え、「前記スペースが前記樹脂被覆層で充填されている」旨特定するのに対し、引用発明Aではそのような樹脂被覆層を有していない点。

[相違点3]
本願発明1では「前記第1巻回層を構成する前記被覆導線の巻回方向と、前記第2巻回層を構成する前記被覆導線の巻回方向は、互いに逆」であり、「前記第2巻回層を構成する前記被覆導線が前記スペースに入り込むことなく」と特定するのに対し、引用発明Aでは1重目と2重目の巻回方向は同じであり、2重目の前端・後端にそれぞれ位置する巻線を2つの隙間上においてそれぞれ支持するようにしたものである点。

[相違点4]
本願発明1では「前記第1巻回層を構成する隣接する前記被覆導線間のスペースにばらつきが存在」する旨特定するのに対し、引用発明Aではそのような明確な特定を有していない点。

イ.相違点についての判断
まず、上記相違点3について検討する。
引用発明Aは、2重目において端に位置する巻線が巻芯部に脱落することを抑制するために、2重目の前端・後端にそれぞれ位置する巻線を2つの隙間上においてそれぞれ支持する構成を必須とするものであり(引用文献1の【請求項1】、段落【0005】?【0007】を参照)、かかる構成を実現するためには1重目と2重目の巻回方向は同じである必要があるといえる。これに対して、1重目と2重目の巻回方向を互いに逆とした場合には、1重目の巻線と2重目の巻線とが交差し、2重目の前端・後端にそれぞれ位置する巻線を2つの隙間上においてそれぞれ支持する構成に支障を来すことになるから、引用発明Aにおいて、あえて1重目と2重目の巻回方向を互いに逆とすることは動機付けがなく、むしろ阻害要因があるといえる。
したがって、例えば上記引用文献2には1重目と2重目の巻回方向を互いに逆とした構成のものが記載(段落【0033】を参照)されているとしても、引用発明Aに対してかかる構成を採用することはできず、引用発明Aにおいて相違点3に係る構成を導き出すことはできない。
なお、上記引用文献3(特に段落【0024】、図1を参照)には、巻芯部に「複数」の被覆導線を巻回したコイル部品が記載され、上記引用文献4(特に1頁右欄7?14行、第1図を参照)及び上記引用文献5(特に1頁左下欄5?9行(特許請求の範囲)、2頁左上欄14行?同頁右上欄10行、第1図?第3図を参照)には、コイル部品の巻芯部に巻き付けた巻線として、被覆導線を覆う樹脂被覆層(引用文献4の「固着層4」、引用文献5の「融着層10」)を設けることが記載されているにすぎず、上述した引用発明Aにおいて相違点3に係る構成を導き出すことはできない。

ウ.まとめ
したがって、上記相違点1、相違点2及び相違点4について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明A及び周知の技術事項(引用文献2ないし5に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2-2)本願発明2ないし5について
請求項2ないし5は、請求項1に従属する請求項であって、請求項2ないし5に係る各発明は、相違点2に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明A及び周知の技術事項(引用文献2ないし5に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2-2.理由2(特許法第36条第6項第2号違反)について
理由2の上記(1)及び(2)の指摘に対して、令和3年4月5日の手続補正により、請求項1及び請求項2において、「前記被覆導線のスペース」、「前記被覆導線の最大スペース」なる記載がそれぞれ「隣接する前記被覆導線間のスペース」、「隣接する前記被覆導線間の最大スペース」と補正され、その意味するところが明確となった。
また、理由2の上記(3)の指摘に対して、令和3年4月5日の手続補正により、請求項5について、「継線部」に関する記載のない請求項1及び請求項2の引用を削除し、請求項3又は4のみを引用するものに補正された。
さらに、理由2の上記(4)及び(5)の指摘に対して、請求項6ないし9は削除された。

したがって、当審拒絶理由で指摘した不備な点はすべて解消され、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものと認められる。

3.当審拒絶理由についてのむすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし5に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項(引用文献2ないし5に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものと認められる。

第4 原査定について

1.原査定の概要
原査定(令和2年4月23日付け拒絶査定)の概要は以下のとおりである。
(進歩性)この出願の請求項1ないし9に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項(下記引用文献2ないし4に記載の技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:実願昭50-26469号(実開昭51-108047号)のマイクロフィルム
引用文献2:特開2010-109267号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2003-168611号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2007-250787号公報(周知技術を示す文献)

2.原査定についての判断
(1)引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(実願昭50-26469号(実開昭51-108047号)のマイクロフィルム)には、「電気機器コイル」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「第1図は本考案を適用してなるつばなし電気機器コイルの一例を断面して示す。図中、(1)はつばなし巻枠、(2)はこの巻枠(1)に巻装されたコイルである。前記巻枠(1)は第2図示のようにたとえばフェノール樹脂成形品あるいはポリエステル樹脂成形品などからつばなし角筒で、その外周面は前記コイル(2)を巻装すべき巻装面(3)をなす。この巻装面(3)には、前記コイル(2)を密巻きしたとき、その第1層の絶縁電線(5)の線径(d)に対するよう断面円弧状をなす溝(4)を前記電線(5)の長手方向に沿うようにスパイラルに形成してある。」(2頁9?19行)

イ.「前記絶縁電線(5)はたとえば直径1mmの銅線に厚さ0.05mmの自己融着性電気絶縁被覆を施したものであるが図では省略してある。」(2頁19行?3頁2行)

ウ.「このコイルを製造するには巻線時につばを装着できる一般の巻線機を使用し、通常の方法で巻線を行う。すると、絶縁電線(5)の一層目は溝(4)に嵌合して正確に密巻きされる。これに順じて、2層目以降も一層目の電線(5)上に整列巻きできる。そうして、巻線が終わったら電線(2)に通電して加熱すれば電気絶縁被覆は軟化して互いに融着して一体になる。」(3頁3?10行)

エ.「



上記ア.ないしエ.から以下のことがいえる。
・上記ア.、ウ.の記載事項、及びエ.(第1図)によれば、引用文献1に記載の「電気機器コイル」は、樹脂成型品などからなるつばなし巻枠(1)と、巻枠(1)に絶縁電線(5)を巻装してなるコイル(2)とを備え、絶縁電線(5)は、巻枠(1)に対して複数の層に巻装されてなるものである。
・上記イ.の記載事項によれば、絶縁電線(5)は、銅線に自己融着性電気絶縁被覆を施したものである。
・上記ア.の記載事項、及びエ.(第1図)によれば、巻枠(1)の巻装面(3)には、1層目の絶縁電線(5)の線径に対するよう断面円弧状をなす溝(4)が絶縁電線(5)の長手方向に沿うようにスパイラルに形成されてなるものである。
そして、上記ウ.の記載事項によれば、絶縁電線(5)の1層目は溝(4)に嵌合して正確に密巻きされ、2層目以降も1層目の絶縁電線(5)上に整列巻きされ、巻線後に絶縁電線(5)の自己融着性電気絶縁被覆を軟化させて互いに融着させ一体にしてなるものである。

以上のことから、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されているといえる。
「樹脂成型品などからなるつばなし巻枠と、
前記巻枠に、銅線に自己融着性電気絶縁被覆を施した絶縁電線を複数の層に巻装してなるコイルと、を備え、
前記巻枠の巻装面には、1層目の前記絶縁電線の線径に対するよう断面円弧状をなす溝が前記絶縁電線の長手方向に沿うようにスパイラルに形成され、
前記絶縁電線の1層目は前記溝に嵌合して正確に密巻きされ、2層目以降も1層目の前記絶縁電線上に整列巻きされ、巻線後に前記絶縁電線の前記自己融着性電気絶縁被覆を軟化させて互いに融着させ一体にしてなる電気機器コイル。」

(2)対比・判断
(2-1)本願発明1について
ア.対比
本願発明1と引用発明Bとを対比する。
(ア)引用発明Bにおける「つばなし巻枠」は、本願発明1でいう「巻芯部」に相当するといえ、本願発明1と引用発明Bとは、「巻芯部と」を備えるものである点で共通する。
ただし、本願発明1では、巻芯部の両端に「第1及び第2の鍔部」を有し、当該「第1及び第2の鍔部」と、両鍔部間に位置する巻芯部とを含む「ドラム型コア」を備える旨特定するのに対し、引用発明Bではそのような特定を有していない点で相違する。

(イ)引用発明Bにおけるコイルを構成する「絶縁電線」は、銅線が自己融着性電気絶縁被覆された構成であることから、本願発明1でいう良導体からなる芯材が絶縁材料からなる被覆膜で覆われた構造を有する「被覆導線」に相当するものである。また、また、引用発明Bにおける「絶縁電線」は、巻枠に複数の層に巻装されてなるものであり、その「1層目」が本願発明1でいう巻芯部に巻回された「第1巻回層」に相当し、「2層目」が本願発明1でいう第1巻回層上に巻回された「第2巻回層」に相当する構成を有するものである。
したがって、本願発明1と引用発明Aとは、「前記巻芯部に巻回された第1巻回層及び前記第1巻回層上に巻回された第2巻回層を構成し、良導体からなる芯材が絶縁材料からなる被覆膜で覆われた構造を有する被覆導線と」を備えるものである点で共通する。
ただし、巻芯部に巻回された被覆導線について、本願発明1では「複数」である旨特定するのに対し、引用発明Aではそのような特定を有していない点で相違する。

(ウ)本願発明1では「前記被覆導線を覆う樹脂被覆層と」を備える旨特定するのに対し、引用発明Bではそのような樹脂被覆層を有していない点で相違する。

(エ)本願発明1では「前記第1巻回層を構成する前記被覆導線の巻回方向と、前記第2巻回層を構成する前記被覆導線の巻回方向は、互いに逆」である旨特定するのに対し、引用発明Bではそのような特定を有していない点で相違する。

(オ)本願発明1では「前記被覆導線の一部が軸方向に移動しうるよう、前記巻芯部の表面は前記軸方向に平坦」である旨特定するのに対し、引用発明Bでは、巻枠の巻装面は1層目の絶縁電線の線径に対するよう断面円弧状をなす溝が絶縁電線の長手方向に沿うようにスパイラルに形成されてなるものである点で相違し、さらに、本願発明1では「前記第1巻回層を構成する隣接する前記被覆導線間のスペースにばらつきが存在」する旨特定するのに対し、引用発明Bでは絶縁電線の1層目は前記溝に嵌合して正確に密巻きされるものであり、隣接する絶縁電線間のスペースにばらつきが存在するのか否か不明である点で相違するといえる。

(カ)引用発明Bにあっても、2層目は、巻装面に形成された溝に嵌合して正確に密巻きされた1層目の上に整列巻きされることから、当然、1層目における隣接する絶縁電線間の最大スペースは絶縁電線の線径よりも狭く、2層目の絶縁電線が1層目の隣接する絶縁電線間のスペースに入り込むことはないといえるものである(なお、引用文献1の第1図も参照)。
したがって、本願発明1と引用発明Bとは、「前記第1巻回層を構成する隣接する前記被覆導線間の最大スペースは、前記被覆導線の線径よりも狭く、前記第2巻回層を構成する前記被覆導線が前記スペースに入り込むこと」がない点で共通する。
ただし、本願発明1では「前記スペースが前記樹脂被覆層で充填されている」旨特定するのに対し、引用発明Bでは上述したようにそもそも樹脂被覆層を有していない点で相違する。

(キ)そして、引用発明Bにおける「電気機器コイル」は、本願発明1でいう「コイル部品」に相当するものである。

よって、上記(ア)ないし(キ)によれば、本願発明1と引用発明Bとは、
「巻芯部と、
前記巻芯部に巻回された第1巻回層及び前記第1巻回層上に巻回された第2巻回層を構成し、良導体からなる芯材が絶縁材料からなる被覆膜で覆われた構造を有する被覆導線と、を備え、
前記第1巻回層を構成する隣接する前記被覆導線間の最大スペースは、前記被覆導線の線径よりも狭く、前記第2巻回層を構成する前記被覆導線が前記スペースに入り込むことがないことを特徴とするコイル部品。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点5]
本願発明1では、巻芯部の両端に「第1及び第2の鍔部」を有し、当該「第1及び第2の鍔部」と、両鍔部間に位置する巻芯部とを含む「ドラム型コア」を備える旨特定するのに対し、引用発明Bではそのような特定を有していない点。

[相違点6]
巻芯部に巻回された被覆導線について、本願発明1では「複数」である旨特定するのに対し、引用発明Bではそのような特定を有していない点。

[相違点7]
本願発明1では「前記被覆導線を覆う樹脂被覆層」を備え、「前記スペースが前記樹脂被覆層で充填されている」旨特定するのに対し、引用発明Bではそのような樹脂被覆層を有していない点。

[相違点8]
本願発明1では「前記第1巻回層を構成する前記被覆導線の巻回方向と、前記第2巻回層を構成する前記被覆導線の巻回方向は、互いに逆」である旨特定するのに対し、引用発明Bではそのような特定を有していない点。

[相違点9]
本願発明1では「前記被覆導線の一部が軸方向に移動しうるよう、前記巻芯部の表面は前記軸方向に平坦であり、前記第1巻回層を構成する隣接する前記被覆導線間のスペースにばらつきが存在」する旨特定するのに対し、引用発明Bではそのような特定を有していない点。

イ.相違点についての判断
まず、上記相違点9について検討する。
引用発明Bは、層間紙など格別な材料を必要とせず、容易に製造でき、巻線層の落ち込みなどのおそれがない電気機器コイルを提供するために、巻枠の巻装面に、1層目の絶縁電線の線径に対するよう断面円弧状をなす溝を絶縁電線の長手方向に沿うようにスパイラルに形成してなる構成を必須とするものである(引用文献1の1頁20行?2頁7行を参照)。したがって、引用発明Bにおいて、巻枠の巻装面に溝をスパイラルに形成することを省き、あえて巻装面を軸方向に平坦なものとすることの動機付けがなく、むしろ阻害要因があるといえ、相違点9に係る構成を導き出すことはできない。
なお、上記引用文献2(特に【請求項1】、段落【0027】?【0028】、図1、図2を参照)、上記引用文献3(特に【請求項1】、段落【0019】、図1ないし図3を参照)及び上記引用文献4(特に【請求項2】、段落【0017】、図1を参照)には、2つの鍔部と、2つの鍔部間に位置する巻芯部とを含むドラム型コアを備えたコイル部品が記載されているにすぎず、上述したように引用発明Bにおいて相違点9に係る構成を導き出すことはできない。

ウ.まとめ
したがって、上記相違点5ないし8について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明B及び周知の技術事項(引用文献2ないし4に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2-2)本願発明2ないし5について
請求項2ないし5は、請求項1に従属する請求項であって、請求項2ないし5に係る各発明は、相違点9に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明B及び周知の技術事項(引用文献2ないし4に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3.原査定についてのむすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし5に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項(引用文献2ないし4に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第5 むすび

以上のとおり、本願の請求項1ないし5に係る発明は、原査定における引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項(引用文献2ないし4に記載の技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-05-11 
出願番号 特願2016-129830(P2016-129830)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01F)
P 1 8・ 121- WY (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 井上 信一
須原 宏光
発明の名称 コイル部品及びその製造方法  
代理人 緒方 和文  
代理人 鷲頭 光宏  

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