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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1374236
審判番号 不服2020-2050  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-14 
確定日 2021-05-12 
事件の表示 特願2018-76566「近位連結されたSCRシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年9月27日出願公開、特開2018-150936〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、2013年(平成25年)10月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年10月18日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2015-537407号の一部を平成30年4月12日に新たな特許出願としたものであって、平成30年5月8日に審査請求がなされると同時に手続補正書が提出され、平成31年2月13日付け(発送日:同年2月19日)で拒絶理由が通知され、令和元年5月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月9日付け(発送日:同年10月15日)で拒絶査定がされ、これに対して、令和2年2月14日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、令和2年3月26日付けで前置報告がされ、令和2年6月29日に上申書が提出されたものである。

第2 令和2年2月14日にされた手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
令和2年2月14日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 本件補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前(令和元年5月17日の手続補正書)の請求項1として、
「【請求項1】
エンジンからのNOxを含有する排気ガスを処理するためのシステムであって、前記システムは、:
NOxの選択的触媒還元のための第1触媒組成物を有し、かつ、第1体積を有するフロースルーモノリスと、
粒子状物質の削減、及び、NOxの選択的触媒還元のための第2触媒組成物を有し、かつ、第2体積を有する、近位連結された粒子状物質フィルタと、
約1:2を下回る、前記第1体積の前記第2体積に対する体積比とを備え、
前記フロースルーモノリスは、前記近位連結された粒子状物質フィルタと流体連通し、かつ、前記近位連結された粒子状物質フィルタの上流に組み込まれ、
前記第1触媒組成物が、単位体積当たりの重量における第1の充填で前記フロースルーモノリス上に存在し、第2触媒組成物が、単位体積当たりの重量における第2の充填で前記近位連結された粒子状物質フィルタ上に存在し、かつ前記第2の充填に対する前記第1の充填の比率が、約15:1から約1.5:1であり、
前記フロースルーモノリスが、前記近位連結された粒子状物質フィルタと比較して、より低い熱容量を有する、
システム。」
とあったものを、
「【請求項1】
エンジンからのNOxを含有する排気ガスを処理するためのシステムであって、前記システムは、:
NOxの選択的触媒還元のための第1触媒組成物を有し、かつ、第1体積を有するフロースルーモノリスと、
粒子状物質の削減、及び、NOxの選択的触媒還元のための第2触媒組成物を有し、かつ、第2体積を有する、近位連結された粒子状物質フィルタと、
約1:2を下回る、前記第1体積の前記第2体積に対する体積比とを備え、
前記フロースルーモノリスは、前記近位連結された粒子状物質フィルタと流体連通し、かつ、前記近位連結された粒子状物質フィルタの上流に組み込まれ、
前記第1触媒組成物が、単位体積当たりの重量における第1の充填で前記フロースルーモノリス上に存在し、第2触媒組成物が、単位体積当たりの重量における第2の充填で前記近位連結された粒子状物質フィルタ上に存在し、かつ前記第2の充填に対する前記第1の充填の比率が、約15:1から約1.5:1であり、
前記フロースルーモノリスが、前記近位連結された粒子状物質フィルタと比較して、より低い熱容量を有し、前記フロースルーモノリスが、前記近位連結された粒子状物質フィルタの比熱の約20から約80%の、比熱を有する、
システム。」
と補正することを含むものである(下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)。

上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「フロースルーモノリス」について、「前記フロースルーモノリスが、前記近位連結された粒子状物質フィルタの比熱の約20から約80%の、比熱を有する」との限定を付加するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて、検討する。

2 引用文献、引用発明
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、米国特許出願公開第2011/0138776号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、「DIESEL ENGINE EXHAUST TREATMENT SYSTEM」に関して、図面(特に、図1を参照。)と共に次の記載がされている(下線は、理解の一助のために当審が付したものである。また、仮訳は当審が作成したものである。以下同様。)。

ア「[0001] Embodiments described herein relate to a diesel engine exhaust treatment system, and more particularly, to an exhaust treatment system which utilizes a selective reduction catalyst (SCR) in combination with an SCR-coated diesel particulate filter, where the system achieves reduced backpressure in comparison with a system which utilizes a single SCR-coated filter.」
(仮訳)[0001] 本明細書に記載の実施形態は、ディーゼルエンジン排気処理システムに関し、より詳細には、SCRコーティングされたディーゼルパティキュレートフィルターを組み合わせた選択的還元触媒(SCR)を用いた排気処理システムに関するものであって、当該システムは単一のSCRコーティングされたフィルタを利用するシステムと比較して、背圧の低減を達成する。

イ「[0010] Embodiments of the invention meet those needs by providing a diesel engine exhaust treatment system which utilizes a first SCR catalyst positioned upstream from a diesel particulate filter which has been coated with a second SCR catalyst (referred to herein as an SCR filter or SCR-coated filter). The SCR filter has a low catalyst loading, such that a lower backpressure is achieved over the use of a stand-alone SCR filter having a higher catalyst loading. The exhaust treatment system also provides effective catalyst efficiency for removal of NOx.
[0011] According to one aspect, a diesel exhaust gas treatment system is provided which comprises a diesel particulate filter positioned in an exhaust stream, where the diesel particulate filter includes an inlet, an outlet, and at least one porous wall. The system includes a first SCR catalyst positioned at the inlet of the filter through which exhaust gas flows, and a second SCR catalyst coated on the filter. By coated “on,” we mean that the catalyst 1) is coated on the filter such that it is positioned on the surface of the walls, inlet or outlet, 2) is coated on the porous walls such that it permeates the filter, i.e., it is positioned within the filter; or 3) is coated so that it is both within the porous filter walls and on the surface of the walls. In one embodiment, the SCR catalyst is within the walls of the filter.
[0012] The first SCR catalyst preferably has a loading of about 2 to 4 g/in.^(3) The second SCR catalyst coated on the filter preferably has a loading of from about 0.5 to 1.2 g/in.^(3) The first and second catalysts may comprise zeolite and a base metal selected from copper and iron.」
(仮訳)[0010] 本発明の実施形態は、第2のSCR触媒(SCRフィルター又はSCRでコーティングされたフィルタと呼ぶ)で被覆されたディーゼルパティキュレートフィルターの上流に配置された第1のSCR触媒を用いるディーゼルエンジン排気処理システムを提供することによって、これらのニーズを満たす。このSCRフィルターは、低触媒充填を有し、その結果、より低い背圧が、より高い触媒充填を有するスタンドアローンSCRフィルターの使用により達成される。排気処理システムはまた、NOx除去のための有効な触媒効率も提供する。
[0011] 一態様によれば、ディーゼル排気ガス処理システムは、排気流中に配置されたディーゼルパティキュレートフィルターを含み、その排気流中でディーゼルパティキュレートフィルターは、入口と、出口と、少なくとも1つの多孔質壁を含んでいる。このシステムは、排気ガスが流れるフィルタの入口に配置される第1のSCR触媒、および、フィルタ上にコーティングされた第2のSCR触媒を含む。フィルター“上”にコーティングされることとは、本発明者らにおいては、その触媒が、1)壁の表面上、入口または出口に配置されるように、フィルタ上にコーティングされ、2)フィルターを透過するように多孔質壁上にコーティングされ、すなわち、フィルター内に配置され、または、3)多孔質フィルタ壁内および壁表面の両方においてコーティングされていることを意味する。一実施形態では、SCR触媒はフィルターの壁内にある。
[0012] 第1のSCR触媒は、好ましくは、約2ないし4g/in^(3)の充填量を有する。フィルターにコーティングされた第2のSCR触媒は、約0.5ないし1.2g/in^(3)の充填量であることが好ましい。第1および第2の触媒は、ゼオライトおよび銅および鉄から選択された金属を有してもよい。

ウ「[0027] The use of an exhaust treatment system which includes a first SCR catalyst upstream from a diesel particulate filter coated with a second SCR catalyst allows the SCR coated filter to have a lower catalyst loading over the use of a stand-alone SCR filter. The system substantially reduces backpressure in the system over the use of a stand-alone SCR filter, while still providing efficient removal of NOx removal.
[0028] Referring now to FIGS. 1A and 1B, embodiments of the diesel exhaust treatment system 10 are illustrated. As shown in FIG. 1A, the exhaust treatment system is coupled to an exhaust manifold 12 of a diesel engine and includes a diesel oxidation catalyst 14 which is positioned upstream from a diesel particulate filter 18 which includes an inlet 40 and an outlet 44.
[0029] The diesel oxidation catalyst 14 may be coated on a refractory inorganic oxide or ceramic honeycomb substrate as a washcoat at about 0.1 to about 1 g/ft^(3) and utilizes a catalyst material selected from platinum, palladium, or a combination thereof, and may also contain zeolites. The washcoat may further comprise a binder such as alumina, silica, titania, or zirconia.
[0030] A first SCR catalyst 16 is positioned at the inlet 40 of the diesel particulate filter 18 and is separate from the filter. The first SCR catalyst may comprise a zeolite and a base metal selected from copper and iron. The first SCR catalyst washcoat is coated to a loading of from about 1 to about 4 g/in.^(3) and is prepared by coating a porous inert substrate with a slurry containing a base metal, zeolite, and binder material such as alumina, silica, titania or zirconia. Alternatively, the base metal/zeolite may be combined with ceramic binders/fibers and extruded into a monolith.
[0031] The first SCR catalyst 16 functions as a “flow through” SCR catalyst, i.e., the exhaust gas flows through one or more channels in the substrate in contrast to the second SCR catalyst, in which exhaust gas flows through the porous walls of the SCR-coated filter as will be explained in further detail below.
[0032] A second SCR catalyst 20 is coated on and/or in the walls of diesel particulate filter 18. Referring now to FIG. 2, an enlarged view of the coated diesel particulate filter 18 of FIG. 1 is shown.」
(仮訳)[0027] 第2のSCR触媒でコーティングされたディーゼルパティキュレートフィルターの上流にある第1のSCR触媒を有する排気処理システムの使用は、SCRコーティングされたフィルターが、スタンドアローンSCRフィルターの使用より低い触媒充填量であることを可能にする。システムは、スタンドアローン型SCRフィルターの使用を通じてシステム内の背圧を実質的に減少させ、NOxの効果的な除去を依然として提供する。
[0028] ここで図1Aおよび図1Bを参照すると、ディーゼル排気処理システム10の実施形態が示されている。図1Aに示すように、排気処理システムは、ディーゼルエンジンの排気マニホルド12に連結され、入口40及び出口44を備えたディーゼルパティキュレートフィルター18から上流に位置付けられる、ディーゼル酸化触媒14を備えている。
[0029] ディーゼル酸化触媒14は、約0.1から約1g/ft^(3)のウォッシュコートとして耐火性無機酸化物またはセラミックハニカム基材上にコーティングすることができる白金、パラジウム、又はそれらの組み合わせから選択される触媒物質を使用し、ゼオライトを含んでいてもよい。ウォッシュコートは、アルミナ、シリカ、チタニア、又はジルコニアのような結合剤を含むことができる。
[0030] 第1のSCR触媒16は、ディーゼルパティキュレートフィルター18の入口40に配置され、フィルターから独立している。第1のSCR触媒は、ゼオライトと、銅及び鉄から選択された金属とを有してもよい。第1のSCR触媒ウォッシュコートは、約1ないし約4g/in^(3)の充填量でコーティングされ、アルミナ、シリカ、チタニア又はジルコニアのような卑金属、ゼオライトおよび結合剤材料を含むスラリーを用いて多孔質不活性支持体をコーティングすることによって調製される。また、卑金属/ゼオライトは、セラミック結合剤/繊維と組み合わせて、モノリスに押し出すことができる。
[0031] 第1のSCR触媒16は“フロースルー”SCR触媒として機能する。すなわち、下でさらに詳細に説明されるように、排気ガスは、SCRコーティングフィルタの多孔質壁を通って排気ガスが流れる第2のSCR触媒に対して、基板の1つまたはそれ以上のチャンネルを通って流れる。
[0032] 第2のSCR触媒20は、ディーゼルパティキュレートフィルター18の壁上及び/または中にコーティングされている。図2を参照すると、図1のコーティングされたディーゼルパティキュレートフィルター18の拡大図が示されている。

エ「[0036] Because the second SCR catalyst 20 permeates the walls of the filter, this allows for greater contact time with the exhaust gas as it passes through those porous walls and thus higher NOx conversion. For example, the SCR washcoat may be drawn in from the inlet and outlet of the filter so that it at least partially permeates the walls. The washcoat may also be coated so that a small overlayer coating is provided at the inlet and/or outlet of the filter as long as it generates reduced backpressure. The second SCR catalyst washcoat is coated at a loading of from about 0.5 to about 1.2 g/in.^(3) and may comprise a zeolite catalyst material and a base metal such as copper or iron. The remainder of the catalyst washcoat may comprise a binder, and a support material such as alumina, silica, titania, or zirconia.」
(仮訳)[0036] 第2のSCR触媒20は、フィルターの壁に浸透するので、多孔質壁と、従ってより高いNOx転化を通過する際には、排ガスとのより長い接触時間を可能にする。例えば、SCRウォッシュコートは、壁を少なくとも部分的に浸透するようになったフィルタの入口および出口から引くようにしてもよい。また、ウォッシュコートは、背圧減少を生成する限り、フィルタの入口および/または出口に設けられている小さいオーバーコーティングでコーティングされてもよい。第2のSCR触媒ウォッシュコートは、約0.5ないし約1.2g/in^(3)の充填量でコーティングされたゼオライト触媒と、銅または鉄のような卑金属を含んでいてもよい。触媒ウォッシュコートの残りの部分は、結合剤と、アルミナ、シリカ、チタニア、またはジルコニアのような支持材料を含むことができる。

オ「[0046] A conventional SCR catalyst was positioned upstream from an SCR-coated filter having a low washcoat loading of 1.1 g/in^(3) in accordance with the invention. The system backpressure and conversion efficiencies of the exhaust gas treatment system was compared with a system including a single SCR-coated filter at a higher washcoat loading of 2.1 g/in^(3).
[0047] The steady state backpressure was measured at a bench flow reactor. The gas flow included 5% CO_(2), 4.5% H_(2)O and the balance N_(2), and the total flow rate was 16.1 liter/min. The backpressure measurement was carried out at 150℃. As shown in FIG. 3, the use of a single SCR-coated filter with a loading of 2.1 g/in^(3) (SCRF_H, 1”Dx3”L) generated significantly higher backpressure than a bare high porosity (HP) filter substrate. In contrast, an SCR-coated filter with a catalyst loading of 1.1 g/in^(3) (SCRF_L, 1”Dx3”L) generated significantly lower backpressure than the first, higher loaded SCR filter (SCRF_H) and only slightly higher backpressure than a bare filter. The combination of a conventional SCR catalyst (1”Dx1”L) and a second, lower loaded SCR filter (SCR+SCRF_L) with a total catalyst loading equal to that of the first, higher loaded SCR filter (SCRF_H), generated a lower backpressure than the SCRF_H alone.」
(仮訳)[0046] 本発明によれば、従来のSCR触媒が、1.1g/in^(3)のウォッシュコート充填を有するSCRコーティングされたフィルターの上流に配置された。排ガス処理装置のシステム背圧および変換効率は、2.1g/in^(3)のウォッシュコート含有量で単一のSCRコーティングフィルターを含むシステムと比較された。
[0047] 定常状態背圧は、ベンチ流動反応器で測定した。ガス流は、5%のCO_(2)、4.5%のH_(2)O及び残部N_(2)を用い、総流量は16.1リットル/分であった。背圧の測定は、図3に示すように150℃で行い、2.1g/in^(3)の充填量を有する単一のSCRコーティングされたフィルター(SCRF_H、1インチD×3インチL)の使用は、高空隙率(HP)フィルター基材よりも著しく高い背圧を生成する。対照的に、1.1g/in^(3)の触媒充填量でSCRコーティングされたフィルター(SCRF_L、1インチD×3インチL)は、第1の、より高い充填のSCRフィルター(SCRF_H)よりも有意に低い背圧およびベアフィルターよりも僅かに高い背圧を発生する。従来のSCR触媒(1インチD×1インチL)と第2の、より低い充填のSCRフィルターとの組み合わせ(SCR+SCRF_L)は、第1の、より高い充填量のSCRフィルター(SCRF_H)と同等の全触媒充填量であり、SCRF_H単独よりも低い背圧を発生する。

カ「4. The treatment system of claim 1 wherein said first SCR catalyst has a loading of about 2 to 4 g/in.^(3)
5. The treatment system of claim 1 wherein said second SCR catalyst has a loading of about 0.5 to 1.2 g/in.^(3)」
(仮訳)請求項4. 前記第1のSCR触媒は、約2ないし4g/in^(3)の充填量を有することを特徴とする、請求項1に記載の処理システム。
請求項5. 前記第2のSCR触媒は、約0.5ないし1.2g/in^(3)の充填量を有することを特徴とする、請求項1に記載の処理システム。

キ 上記記載事項イ及びウ並びに本願の優先日前の技術常識から、第1のSCR触媒16は、NOxの選択的触媒還元のための触媒充填物を有するフロースルー触媒であり、かつ、モノリスが押し出されたものであることから、フロースルーモノリスであるといえる。そして、図1の図示内容及び出願時の技術常識を考慮すると、第1のSCR触媒16が何らかの体積を有することは明らかであり、第1の体積を有しているといえる。

ク 上記記載事項イないしエ並びに本願の優先日前の技術常識から、第2のSCR触媒20がコーティングされたディーゼルパティキュレートフィルター18は、粒子状物質の削減、及びNOxの選択的触媒還元のための触媒充填物を有するものといえる。そして、図1の図示内容及び出願時の技術常識を考慮すると、第2のSCR触媒20がコーティングされたディーゼルパティキュレートフィルター18が何らかの体積を有することは明らかであり、第2の体積を有しているといえる。

ケ 上記記載事項イ及びカから、第1のSCR触媒16の触媒充填物が、約2ないし4g/in^(3)の充填で第1のSCR触媒16上に存在すること、及び、第2のSCR触媒20の触媒充填物が、約0.5ないし1.2g/in^(3)の充填でディーゼルパティキュレートフィルター18上に存在することがわかるから、第2のSCR触媒20での充填に対する第1のSCR触媒16での充填の比率を計算すると、最大で4÷0.5=8、最小で2÷1.2=1.7と求まるから、当該比率は、約8:1から約1.7:1の範囲であるといえる。

コ 上記記載事項オ及び出願時の技術常識から、上流側の従来のSCR触媒と下流側の第2のより低い充填のSCRフィルターとの組み合わせ(SCR+SCRF_L)においては、上流側に配置される従来のSCR触媒の体積が1インチD×1インチL、すなわち1インチの直径×1インチの長さからなるものであり、その下流側に組み合わせられる第2のSCRコーティングされたフィルターの体積が、1インチD×3インチLすなわち1インチの直径×3インチの長さからなるものであるといえるから、引用文献1には、上流側のSCR触媒と下流側のより低い充填のSCRコーティングされたフィルターとを組み合わせたものにおいて、上流側のSCR触媒の体積の下流側のより低い充填のSCRコーティングされたフィルターの体積に対する体積比を1:3としたものが記載されているといえる。

上記記載事項及び認定事項並びに図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

〔引用発明〕
「ディーゼルエンジンからのNOxを含有する排気ガスを処理するための排気ガス処理システムであって、前記システムは、:
NOxのSCRのための第1のSCR触媒16における触媒充填物を有し、かつ、第1の体積をする、フロースルーモノリスである第1のSCR触媒16と、
粒子状物質の削減、及び、NOxのSCRのための第2のSCR触媒20の触媒充填物を有し、かつ、第2の体積を有する、ディーゼルパティキュレートフィルター18と、
を備え、
前記第1のSCR触媒16は、前記ディーゼルパティキュレートフィルター18と流体連通し、かつ、前記ディーゼルパティキュレートフィルター18の上流に組み込まれ、
前記第1のSCR触媒16の触媒充填物が、約2ないし4g/in^(3)の充填で前記第1のSCR触媒16上に存在し、第2のSCR触媒20の触媒充填物が、約0.5ないし1.2g/in^(3)の充填で前記ディーゼルパティキュレートフィルター18上に存在し、かつ前記第2のSCR触媒20での充填に対する前記第1のSCR触媒16での充填の比率が、約8:1から約1.7:1である、
システム。」

また、上記記載事項オ及び認定事項コから、引用文献1には、次の事項(以下、「引用文献1記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献1記載事項〕
「上流側のSCR触媒と下流側のより低い充填のSCRコーティングされたフィルターとを組み合わせたものにおいて、上流側のSCR触媒の体積の、下流側のより低い充填のSCRコーティングされたフィルターの体積に対する体積比を、1:3とすること。」

(2)引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2006-70878号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「エンジンの吸排気系構造」に関して、図面(特に、図1ないし図4を参照。)と共に次の記載がされている。

ア「【0002】
従来より、ターボ過給機及び排気フィルタ装置を備えたエンジンがある。このターボ過給機は、排気のエネルギ(排気流)を利用してエアを過給するものであって、エンジンから排気が排出される直後の、排気のエネルギ損失が少ない位置、即ちエンジン近傍に配置することが好ましい。また、排気フィルタ装置、例えばDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)は、フィルタに堆積した煤を燃焼除去して再生する必要がある。煤の燃焼除去は、例えば、エンジンの燃焼行程における主噴射後に後噴射を行い、この後噴射された燃料をDPFに設けられた触媒で酸化反応させ、その反応熱により煤を燃焼させることによって行う。つまり、DPFを通過する排気の温度が低い場合には、より多くの燃料を後噴射させる必要があるため、DPFは、排気温度が高い位置、即ちエンジン近傍に配置することが好ましい。」

上記記載事項及び図1ないし4の図示内容から、引用文献2には、以下の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献2記載事項〕
「DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)を、排気温度が高い、エンジン近傍に配置すること。」

(3)引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2010-77955号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置」に関して、図面(特に、図1及び2を参照。)と共に次の記載がされている。

ア「【0001】
この発明は、農作業車に搭載したディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置に関する。特に、排気ガスを浄化するDPF装置(ディーゼルパティキュレートフィルター)の配置等における分野に属する。」

イ「【0007】
このような構成により、農作業車に搭載したディーゼルエンジンにおいて、排気側に接続するターボ過給器(1)から排出される排気ガスをDPF(2)に流入させて排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集する。この捕集によって堆積した粒子状物質(PM)を燃焼させDPF(2)の再生を行うとき、DPF(2)がターボ過給器(1)下側の空間部にエンジン本体に近接して配置されているから、排気ガスの熱を低下させることなくDPF(2)内を高温にすることができる。」

上記記載事項並びに図1及び2の図示内容から、引用文献3には、以下の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献3記載事項〕
「ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置において、ディーゼルパティキュレートフィルターをエンジン本体に近接して配置して、ディーゼルパティキュレートフィルター内を高温にすること。」

(4)引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2008-255890号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「内燃機関の排気浄化装置」に関して、図面(特に、図1及び2を参照。)と共に次の記載がされている。

ア「【0001】
本発明は内燃機関の排気浄化装置に関する。」

イ「【0007】
一方、排気マニホルド5は排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に連結され、排気タービン7bの出口は酸化触媒12の入口に連結される。この酸化触媒12の下流には酸化触媒12に隣接して排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するためのパティキュレートフィルタ13が配置され、このパティキュレートフィルタ13の出口は排気管14を介してNOx選択還元主触媒15の入口に連結される。このNOx選択還元主触媒15の出口には酸化触媒16が連結される。本発明によればNOx選択還元主触媒15上流の排気管14内にNOx選択還元主触媒15よりも容積、熱容量および圧損の小さいNOx選択還元補助触媒17が配置される。」

ウ「【0011】
また、NOx選択還元補助触媒17およびNOx選択還元主触媒15は低温で高いNOx浄化率を有するアンモニア吸着タイプのFeゼオライトから構成されるか、或いはアンモニアの吸着機能がないチタン・バナジウム系の触媒から構成される。酸化触媒16は例えば白金からなる貴金属触媒を担持しており、この酸化触媒16はNOx選択還元主触媒15から漏出したアンモニアを酸化する作用をなす。
【0012】
図2に図1に示されるNOx選択還元補助触媒17およびNOx選択還元主触媒15の拡大斜視図を示す。図2からわかるようにNOx選択還元主触媒15は互いに交差する複数の薄肉隔壁30によって分離された軸線方向に延びる複数のセル31を有しており、NOx選択還元補助触媒17も互いに交差する複数の薄肉隔壁32によって分離された軸線方向に延びる複数のセル33を有している。
【0013】
一方、図2に示されるようにNOx選択還元補助触媒17はNOx選択還元主触媒15に比べて軸線方向の長さが短かく、しかもNOx選択還元補助触媒17はNOx選択還元主触媒15に比べて小さな径を有する。従ってNOx選択還元補助触媒17はNOx選択還元主触媒15に比べて容積が小さく、従って熱容量も小さい。
【0014】
また、NOx選択還元補助触媒17による圧損を小さくすると共にNOx選択還元補助触媒17の熱容量を小さくするために図2に示される如くNOx選択還元補助触媒17のセル33の流路面積はNOx選択還元主触媒15のセル31の流路面積よりも大きく形成されており、NOx選択還元補助触媒17の薄肉隔壁32の厚みはNOx選択還元主触媒15の薄肉隔壁30の厚みに比べて薄く形成されている。
【0015】
また、NOx選択還元主触媒15の薄肉隔壁31はセラミックから形成されているがNOx選択還元補助触媒17の熱容量を更に小さくするためにNOx選択還元補助触媒17の薄肉隔壁32を金属板から形成することもできる。
【0016】
ところでNOx選択還元主触媒15は白金等の貴金属を担持していないので触媒反応による昇温が行われず、従って機関始動後NOx選択還元主触媒15はNOx選択還元主触媒15に流入する排気ガス温によって温度上昇せしめられる。この場合、酸化触媒12において酸化反応が開始されれば排気ガス温は上昇するがNOx選択還元主触媒15は下流に配置されているためNOx選択還元主触媒15が温度上昇してNOxの選択還元が開始されるまで時間を要し、斯くして機関始動後にNOxの良好な浄化作用を確保することができなくなる。
【0017】
しかしながら本発明ではNOx選択還元主触媒15の上流に、NOx選択還元主触媒15に比べて容積および熱容量が小さく、従って始動後早期に活性化されるNOx選択還元補助触媒17が配置されているので機関始動後早期にNOxの選択還元作用が開始される。その結果、NOxの浄化率を向上することができる。」

上記記載事項並びに図1及び2の図示内容から、引用文献4には、以下の事項(以下、「引用文献4記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献4記載事項〕
「NOx選択還元主触媒15の上流に、NOx選択還元主触媒15よりも熱容量の小さいNOx選択還元補助触媒17を配置すること、及び、NOx選択還元主触媒15のセラミックから形成される薄肉隔壁31に対してNOx選択還元補助触媒17の薄肉隔壁32を金属板から形成してNOx選択還元補助触媒17の熱容量を更に小さくすること。」

3 対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ディーゼルエンジン」はその機能、構成又は技術的意義からみて本件補正発明の「エンジン」に相当し、以下同様に、「NOx」は「NOx」に、「排気ガス」は「排気ガス」に、「排気ガス処理システム」は「システム」に、「SCR」は「選択的触媒還元」に、「第1のSCR触媒16における触媒充填物」は「第1触媒組成物」に、「第1の体積」は「第1体積」に、「フロースルーモノリスである第1のSCR触媒16」は「フロースルーモノリス」に、「第2のSCR触媒20の触媒充填物」は「第2触媒組成物」に、「第2の体積」は「第2体積」に、「ディーゼルパティキュレートフィルター18」は「粒子状物質フィルタ」に、それぞれ相当する。

上記相当関係を踏まえると、引用発明の「約2ないし4g/in^(3)の充填」及び「約0.5ないし1.2g/in^(3)の充填」がそれぞれ本件補正発明の「単位堆積当たりの重量における第1の充填」及び「第2の充填」に相当するから、引用発明の「前記第1のSCR触媒16の触媒充填物が、約2ないし4g/in^(3)の充填で前記第1のSCR触媒16上に存在し、第2のSCR触媒20の触媒充填物が、約0.5ないし1.2g/in^(3)の充填で前記ディーゼルパティキュレートフィルター18上に存在し、かつ前記第2のSCR触媒20での充填に対する前記第1のSCR触媒16での充填の比率が、約8:1から約1.7:1である」と本件補正発明の「前記第1触媒組成物が、単位体積当たりの重量における第1の充填で前記フロースルーモノリス上に存在し、第2触媒組成物が、単位体積当たりの重量における第2の充填で前記粒子状物質フィルタ上に存在し、かつ前記第2の充填に対する前記第1の充填の比率が、約15:1から約1.5:1であり」とは、「前記第1触媒組成物が、単位体積当たりの重量における第1の充填で前記フロースルーモノリス上に存在し、第2触媒組成物が、単位体積当たりの重量における第2の充填で前記粒子状物質フィルタ上に存在し、かつ前記第2の充填に対する前記第1の充填の比率が、所定の範囲であり」という限りにおいて一致する。

そうすると、本件補正発明と引用発明との間には、次の一致点及び相違点がある。

〔一致点〕
「エンジンからのNOxを含有する排気ガスを処理するためのシステムであって、前記システムは、:
NOxの選択的触媒還元のための第1触媒組成物を有し、かつ、第1体積を有するフロースルーモノリスと、
粒子状物質の削減、及び、NOxの選択的触媒還元のための第2触媒組成物を有し、かつ、第2体積を有する、粒子状物質フィルタと、
前記フロースルーモノリスは、前記粒子状物質フィルタと流体連通し、かつ、前記粒子状物質フィルタの上流に組み込まれ、
前記第1触媒組成物が、単位体積当たりの重量における第1の充填で前記フロースルーモノリス上に存在し、第2触媒組成物が、単位体積当たりの重量における第2の充填で前記粒子状物質フィルタ上に存在し、かつ前記第2の充填に対する前記第1の充填の比率が、所定の範囲である、
システム。」

〔相違点1〕
「前記第1体積の前記第2体積に対する体積比」に関して、本件補正発明においては、「約1:2を下回る」のに対して、引用発明においては、かかる事項を備えるか否か不明な点。

〔相違点2〕
「粒子状物質フィルタ」に関して、本件補正発明においては、「近位連結された」粒子状物質フィルタであるのに対して、引用発明においては、ディーゼルパティキュレートフィルター18が近位連結されたものであるか否か不明な点。

〔相違点3〕
「前記第2の充填に対する前記第1の充填の比率」に関して、本件補正発明においては、「約15:1から約1.5:1」であるのに対して、引用発明においては、「約8:1から約1.7:1」である点。

〔相違点4〕
本件補正発明は、「前記フロースルーモノリスが、前記近位連結された粒子状物質フィルタと比較して、より低い熱容量を有し、前記フロースルーモノリスが、前記近位連結された粒子状物質フィルタの比熱の約20から約80%の、比熱を有する」のに対して、引用発明はかかる事項を備えるか否か不明な点。

上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
上記2.(1)で述べたように、引用文献1には、引用文献1記載事項として「上流側のSCR触媒と下流側のより低い充填のSCRコーティングされたフィルターとを組み合わせたものにおいて、上流側のSCR触媒の体積の、下流側のより低い充填のSCRコーティングされたフィルターの体積に対する体積比を、1:3とすること」が記載されている。
引用発明は、「第1のSCR触媒16」が、「第2のSCR触媒20の触媒充填物を有し」ている「ディーゼルパティキュレートフィルター18」の上流に組み込まれるものであり、引用文献1の図1には上流側の「第1のSCR触媒16」が下流側の「第2のSCR触媒20の触媒充填物を有し」ている「ディーゼルパティキュレートフィルター18」よりも明らかに小さく図示されていることを踏まえると、引用発明において、引用文献1記載事項に鑑みて、上流側の「第1のSCR触媒16」の体積の、下流側の「ディーゼルパティキュレートフィルター18」の体積比を、1:3程度にすることは、当業者が容易になし得たことである。この体積比1:3は、1:2を下回るものに該当する。
したがって、引用発明及び引用文献1記載事項に基いて、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用文献2記載事項は「DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)を、排気温度が高い、エンジン近傍に配置すること。」というものであり、引用文献3記載事項は「ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置において、ディーゼルパティキュレートフィルターをエンジン本体に近接して配置して、ディーゼルパティキュレートフィルター内を高温にすること。」というものであり、これらの記載事項によれば、ディーゼルパティキュレートフィルター、すなわち粒子状物質フィルタをエンジン本体に近位連結して配置することは、当業者にとって、本願優先日前の周知技術(以下、「周知技術」という。)であったといえる。
引用文献1の段落[0030]の記載及び図1の図示内容を踏まえると、引用発明においては、ディーゼルパティキュレートフィルター18は第1のSCR触媒16の近くに配置されていることが理解できるから、上記周知技術を適用して、ディーゼルパティキュレートフィルター18をエンジンに近位連結されたものとすることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、引用発明において、上記周知技術を適用して、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
引用発明は、第2のSCR触媒20での「約0.5ないし1.2g/in^(3)の充填」に対する第1のSCR触媒16での「約2ないし4g/in^(3)の充填」の比率が「約8:1から約1.7:1」であり、この数値範囲は本件補正発明の「約15:1から約1.5:1」に全て包含されるものであるから、実質的な相違点ではない。
また、引用発明において、第1のSCR触媒16及び第2のSCR触媒20での触媒充填物の充填量をどの程度にするかは、排気ガス処理システムにおいて求められるNOx除去性能や排気ガスの流動性能等を考慮して当業者が適宜設計すべき事項であるし、本願明細書の段落【0019】等の記載を考慮しても、本件補正発明における「約15:1から約1.5:1」との数値限定に臨界的な意義は認められない。
したがって、引用発明において、上記相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるということもできる。

(4)相違点4について
引用文献4記載事項は「NOx選択還元主触媒15の上流に、NOx選択還元主触媒15よりも熱容量の小さいNOx選択還元補助触媒17を配置すること、及び、NOx選択還元主触媒15のセラミックから形成される薄肉隔壁31に対してNOx選択還元補助触媒17の薄肉隔壁32を金属板から形成してNOx選択還元補助触媒17の熱容量を更に小さくすること。」というものである。
異なる材料であればその比熱も互いに異なることや、金属板の方が一般にセラミックよりも比熱が小さいことは、当業者の技術常識である。
引用発明も引用文献4記載事項もともに、上流側と下流側とにSCR触媒を直列に配置して排気ガス中のNOxを効果的に除去するものとして共通の技術であるから、引用発明の上流側の第1のSCR触媒16と、下流側の第2のSCR触媒20の触媒充填物を有するディーゼルパティキュレートフィルター18とにおいて、排気ガス中のNOxの除去を効果的に行うために、引用文献4記載事項を適用して、上流側の第1のSCR触媒16を下流側のディーゼルパティキュレートフィルター18よりも熱容量及び比熱が小さなものとすることは、当業者が容易になし得たことである。その際に、上流側の第1のSCR触媒16の比熱を下流側のディーゼルパティキュレートフィルター18に対してどの程度にするかは、上流側と下流側とにおける熱容量のバランスや触媒の活性化の速度等に鑑みて、当業者が適宜選択すべき事項である。さらに、本願明細書の段落【0021】等の記載を考慮しても、本件補正発明の「約20から80%」という数値限定に臨界的な意義は認められない。
したがって、引用発明において、引用文献4記載事項を適用して、上記相違点4に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(5)効果について
本件補正発明が奏する効果は、全体としてみても、引用発明、引用文献1記載事項、周知技術及び引用文献4記載事項から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

(6)まとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明、引用文献1記載事項、周知技術及び引用文献4記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(7)審判請求書における主張について
審判請求人は、令和2年2月14日の審判請求書において、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし4に対して、以下の主張をしている。

(主張)「引用文献4は、NOx選択還元補助触媒17の熱容量が、NOx選択還元主触媒15の熱容量よりも単に小さいと記載しているに過ぎず、熱容量の大きさの比率について具体的な数値は一切記載されておらず、熱容量の大きさの比率をどの程度をすべきかについて教示も示唆もしていない。
たとえ引用文献1から4を組み合わせても補正後の本願請求項1の発明の構成にはならず、更には、引用文献4には、熱容量の大きさの比率について教示も示唆も存在しないため、たとえ当業者であっても、引用文献1-4を組み合わせて補正後の本願請求項1の発明に想到するのは、容易ではない。」

以下、上記主張について検討する。
上記「(4)相違点4について」で述べたとおり、引用文献4記載事項は「NOx選択還元主触媒15の上流に、NOx選択還元主触媒15よりも熱容量の小さいNOx選択還元補助触媒17を配置すること、及び、NOx選択還元主触媒15のセラミックから形成される薄肉隔壁31に対してNOx選択還元補助触媒17の薄肉隔壁32を金属板から形成してNOx選択還元補助触媒17の熱容量を更に小さくすること。」というものであり、異なる材料であればその比熱も互いに異なることや、金属板の方が一般にセラミックよりも比熱が小さいことが当業者の技術常識であることを踏まえると、引用文献4には熱容量だけでなく、比熱についても記載ないし示唆されているといえる。そして、引用発明において、引用文献4記載事項を適用する際に、上流側の第1のSCR触媒16の比熱を下流側のディーゼルパティキュレートフィルター18に対してどの程度にするかは、上流側と下流側とにおける熱容量のバランスや触媒の活性化の速度等に鑑みて、当業者が適宜選択すべき事項である。また、本願明細書の段落【0021】等の記載を考慮しても、本件補正発明の「約20から80%」という数値限定に臨界的な意義は認められない。
そして、上記対比・判断において述べたとおり、引用発明において、引用文献1記載事項、周知技術及び引用文献4記載事項を適用して、上記相違点1ないし4に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、出願人の上記主張は採用できない。

(8)上申書における主張について
審判請求人は、令和2年6月29日の上申書において、審判請求時の補正による請求項1及び11における「前記第2の充填に対する前記第1の充填の比率」に関する数値範囲を「約4:1から約2:1」に限定するとともに、「比熱」に関する数値範囲を「約25から約75%」又は「約35から約65%」と限定するとの補正案を提示している。
しかしながら、「前記第2の充填に対する前記第1の充填の比率」については上記(3)で述べたとおり、引用発明においては「約8:1から約1.7:1」であり、補正案の数値範囲と重複するものである。さらに、上記(3)で述べたとおり、この数値範囲は当業者が適宜設計すべき事項にすぎず、本願明細書を考慮しても補正案の数値範囲とすることの臨界的意義も認められない。「比熱」に関する数値範囲についても、上記(4)で述べたとおり、当業者が適宜選択すべき事項にすぎないし、本願明細書を考慮しても当該数値範囲とすることの臨界的意義も認められない。
したがって、補正案で提示された請求項1に係る発明も、本件補正発明と同様に、引用発明、引用文献1記載事項、周知技術及び引用文献4記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正(令和2年2月14日にされた手続補正)は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし12に係る発明は、令和元年5月17日の手続補正により補正がされた請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
この出願については、平成31年2月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。なお、意見書及び手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
●理由1(特許法第29条第2項)について
・請求項 1-2、5、8-9
・引用文献等 1-4

・請求項 3-4、6-7
・引用文献等 1-6

・請求項 10-11
・引用文献等 1-7

・請求項 12
・引用文献等 1-4、7

<引用文献等一覧>
1.米国特許出願公開第2011/0138776号明細書
2.特開2006-70878号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2010-77955号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2008-255890号公報
5.特表2012-518537号公報(周知技術を示す文献)
6.特表2010-524677号公報(周知技術を示す文献)
7.米国特許出願公開第2010/0180579号明細書

3 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(米国特許出願公開第2011/0138776号明細書)、引用文献2(特開2006-70878号公報)、引用文献3(特開2010-77955号公報)及び引用文献4(特開2008-255890号公報)並びにその記載事項及び引用発明は、上記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。

4 当審の判断
本件補正発明は、上記「第2〔理由〕1」で述べたように、本願発明における「フロースルーモノリス」について、「前記フロースルーモノリスが、前記近位連結された粒子状物質フィルタの比熱の約20から約80%の、比熱を有する」との限定を付加したものであるから、本願発明の発明特定事項をすべて含んでいる。

そして、本願発明の発明特定事項をすべて含んでいる本件補正発明が、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおり、引用発明、引用文献1記載事項、周知技術及び引用文献4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用文献1記載事項、周知技術及び引用文献4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献1記載事項、周知技術及び引用文献4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-11-24 
結審通知日 2020-12-01 
審決日 2020-12-15 
出願番号 特願2018-76566(P2018-76566)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲村 正義菅野 京一小笠原 恵理村山 禎恒  
特許庁審判長 北村 英隆
特許庁審判官 西中村 健一
鈴木 充
発明の名称 近位連結されたSCRシステム  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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