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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1374346
審判番号 不服2019-4974  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-15 
確定日 2021-05-20 
事件の表示 特願2015-102779「集中力増進剤」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月22日出願公開、特開2016-216391〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成27年5月20日を出願日とする特許出願であって、平成31年2月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月15日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、当審において、令和2年5月7日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年6月11日に意見書が提出されるとともに、同日に手続補正書が提出された。さらに、令和2年10月7日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年12月3日に意見書が提出されるとともに、同日に手続補正書が提出された。

2.本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、令和2年12月3日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
なお、以下の下線は、令和2年12月3日提出の手続補正書による補正箇所を示す。

「【請求項1】
プロポリス又はその処理物の1種又は2種以上を有効成分として含有する、健常者の集中力増進(但し、慢性疲労症候群の改善を除く。)剤であって、
前記処理物は、プロポリス原塊に、粉砕、超臨界抽出、水若しくはエタノール抽出、抽出物の濃縮若しくは粉末化、又は粉末の造粒の処理が施されたものである、前記集中力増進剤。」

3.当審が通知した拒絶理由の概要
当審が令和2年6月11日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明について通知した、令和2年10月7日付けの拒絶の理由の概要は、「この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」という理由を含み、概略、以下の点を指摘している。

本願請求項1?3に係る発明が解決しようとする課題(以下「本願発明の課題」という。)は、集中力増進作用を有する剤、食品、医薬品を提供することであると認められるところ、本願明細書の発明の詳細な説明において、集中力増進作用があることが確認されているのは、その製造法も、成分組成も明らかでないプロポリス300(株式会社山田養蜂場製、ブラジル産のプロポリスエキス)のみである。
一方、例えば、特許第3676272号公報に記載があるとおり、プロポリスの抽出物は、その抽出溶媒により、含まれる成分が異なることが一般的に知られているから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、本願の請求項1?3に特定される「超臨界抽出、水若しくは親水性有機溶媒抽出、抽出物の濃縮若しくは粉末化、又は粉末の造粒の処理が施されたもの」により集中力が増進され、本願発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。
よって、請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

4.本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識
(1)本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書における発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)には、以下の摘記ア?ウの記載がある。

摘記ア 発明の概要 (【0004】?【0006】)
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、プロポリスの新規な用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、プロポリスに集中力を増進する作用があることを見出した。本発明は、この新規な知見に基づくものである。
【0006】
すなわち、本発明は、プロポリス又はその処理物を有効成分として含有する、集中力増進剤を提供する。」

摘記イ 発明を実施するための形態 (【0012】?【0015】)
「【0012】
プロポリスは、プロポリス原塊であってもよく、プロポリス原塊に、粉砕、超臨界抽出、水又は親水性有機溶媒抽出、抽出物の濃縮又は粉末化、粉末の造粒等の処理が施されたプロポリス処理物であってもよい。これらの中でもプロポリスの親水性有機溶媒抽出により得られる親水性有機溶媒抽出物は、プロポリスの有効成分が、短時間で効率的にバランスよく抽出されたものであるため好ましい。抽出に使用する親水性有機溶媒としてはエタノールが好ましい。
【0013】
プロポリス又はプロポリスの処理物は、市販されているものを用いてもよい。プロポリス又はプロポリスの処理物の具体例としては、例えば、株式会社山田養蜂場のプロポリス300、・・・等が挙げられる。
【0014】
本発明の集中力増進剤には、上述したプロポリス原塊又はプロポリスの処理物を1種のみの形態で用いてもよいし、2種以上の形態を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明の集中力増進剤は、プロポリス又はプロポリスの処理物を有効成分として含有しているため、集中力を増進すること、すなわち、集中力を高めることができる。」

摘記ウ 実施例(【0028】?【0032】)
「【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
〔試験方法〕
健常なボランティア150人を対象とし、8週間毎日、プロポリス300 3粒(株式会社山田養蜂場製、ブラジル産のプロポリスエキス 226.8mg/3粒)を飲用してもらった。飲用前後で「集中できない」程度を3段階のスコア(1:あり(集中できない)、2:ややあり(やや集中できない)、3:なし(集中できる))で評価するアンケートを実施した。アンケート結果から「1:あり」及び「2:ややあり」を「あり」、「3:なし」を「なし」としてクロス集計表を作成し、飲用前と飲用後の症状の有無をMcNemar検定により解析した。
【0030】
表1に解析結果を示す。表中の網掛けは、8週間の飲用後に改善がみられたことを示す。
【0031】
【表1】

【0032】
プロポリスの飲用により、集中力が有意に増進されたことが示された。」

(2)本願出願時の技術常識
特許第3676272号公報(平成17年7月27日発行)に以下の記載があるとおり、プロポリスの抽出物は、その抽出溶媒により、含まれる成分が異なることは、本願出願時の技術常識である。なお、以下において、下線は当審で付した。

・【0017】
「親水性有機溶媒抽出物は、抽出溶媒として親水性有機溶媒又はその水希釈液を用いて、プロポリス原料中の親水性有機溶媒に可溶な成分を抽出することによって得られるが、健康食品としての組成物の製造には親水性有機溶媒としてはエタノールを用いることが好ましい。この親水性有機溶媒抽出物には、フラボノイド類、ポリフェノール類、有機酸類、テルぺノイド類等の種々の有効成分が含まれており、活性酸素消去作用、免疫賦活作用、消炎作用、抗癌作用等の健康増進作用を発揮する。」
・【0020】
「水抽出物は、抽出溶媒として水を用いて、プロポリス原料中の水に可溶な成分を抽出することによって得られる。この水抽出物には、有機酸類、多糖類、蛋白質等の種々の有効成分が含まれており、抗酸化作用、ラジカル捕捉促進作用、ヒアルロニダーゼ阻害活性、抗癌作用等の健康増進作用を発揮する。」
・【0023】
「超臨界抽出物は、公知の超臨界流体抽出装置を用い、超臨界流体を臨界温度以上及び臨界圧力以上の条件下で超臨界状態にした超臨界流体とプロポリス原料とを接触させることにより、プロポリス原料から所定の成分を抽出したものである。超臨界流体として二酸化炭素を用いる場合は、31.1℃の臨界温度以上及び72.8気圧(7.4MPa)の臨界圧力以上として超臨界流体状態となった二酸化炭素によってプロポリス原料を抽出する。この二酸化炭素を用いた超臨界抽出物には、フラボノイド類、テルぺノイド、その他の疎水性生理活性物質等が含まれており、ヒアルロニダーゼ阻害活性、抗癌作用、浮腫抑制作用等の健康増進作用を発揮することが確認されている。」
・【0045】
「実施形態のプロポリス組成物は、親水性有機溶媒抽出物と、水抽出物と、超臨界抽出物との3種類の抽出物を含有するものである。前記各抽出物は、それぞれ異なる抽出溶媒(抽出方法)により抽出されたものであることから、互いに異なる有効成分を含有している。このプロポリス組成物は、これら異なる有効成分の相乗効果により、1種類の抽出物又は2種類の抽出物の混合物と比較して、健康食品及び美容製剤としてのより高い効能と効果を発揮することができ、優れた健康食品及び美容製剤を得ることができる。」

5.当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号に規定する要件について
特許法第36条第6項第1号は、特許請求の範囲の記載が適合するものでなければならない要件として、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」(いわゆる「サポート要件」)を規定している。
そして、特許請求の範囲の記載が、同要件に適合するか否かは、特許請求の範囲と明細書の発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、を検討して判断すべきものである。
そこで、本願の特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすか否か、以下、検討する。

(2)本願発明について
ア 特許請求の範囲の記載及び上記4.(1)の摘記アによれば、本願発明が解決しようとする課題(以下「本願発明の課題」という。)は、「プロポリス又はその処理物を有効成分として含有する、健常者の集中力増進(但し、慢性疲労症候群の改善を除く。)剤を提供すること」であると認められる。

イ 本願発明は、請求項1の記載によれば、有効成分として、「プロポリス」、又は、「プロポリス原塊に、粉砕、超臨界抽出、水若しくはエタノール抽出、抽出物の濃縮若しくは粉末化、又は粉末の造粒の処理」の7種の選択肢の処理のいずれかの処理が施された「プロポリス処理物」、の、1種又は2種以上を含有する、健常者の集中力増進(但し、慢性疲労症候群の改善を除く。)剤の発明であるから、本願の特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすためには、少なくとも、当業者が、出願時の技術常識に照らし、発明の詳細な説明の記載から、「プロポリス」、又は、上記7種の選択肢の処理のいずれか1種での処理が施されたプロポリス処理物により、健常者の集中力の増進(但し、慢性疲労症候群の改善を除く。)がなされ、本願発明の課題が解決できることを認識できる必要がある。

ウ 以下、本願発明に特定される、「プロポリス原塊に、・・・超臨界抽出、水若しくはエタノール抽出・・・又は・・・の処理が施されたものである」「プロポリスの処理物」により、本願発明の課題が解決できることを当業者が認識できるかについて検討する。
まず、発明の詳細な説明には、プロポリス、又は、「プロポリス原塊に、粉砕、超臨界抽出、水又は親水性有機溶媒抽出、抽出物の濃縮又は粉末化、粉末の造粒等の処理が施されたプロポリス処理物」を有効成分として含有していることで、集中力を増進することができることについての形式的な記載があり、「抽出に使用する親水性有機溶媒としてはエタノールが好ましい」との記載もされている(上記4.(1)の摘記イ)。
しかしながら、プロポリス又はプロポリスの処理物に健常者の集中力を増進(但し、慢性疲労症候群の改善を除く。)する作用があるとの出願時の技術常識が存在したとはいえないから、当業者は、具体的な試験結果によらなければ、プロポリスあるいはプロポリス処理物により健常者の集中力の増進(但し、慢性疲労症候群の改善を除く。)がなされ、本願発明の課題が解決できることは理解できない。
そして、具体的な試験結果に関し、発明の詳細な説明の実施例には、「プロポリス300」(株式会社山田養蜂場製、ブラジル産のプロポリスエキス)を健常者(当審注:慢性疲労症候群患者は含まれないと解される。)に服用させたところ、集中力が増進されたことを示す試験結果が記載されており(上記4.(1)の摘記ウ)、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、その抽出条件や成分組成が不明であるが、実施例の「プロポリス300」なる名称の特定の「プロポリスエキス」の製品、すなわち、実施例の特定のプロポリスの抽出物の製品である「プロポリス300」により、本願発明の課題が解決できることは認識できる。
しかしながら、実施例以外の他の発明の詳細な説明の記載を検討しても、「プロポリス300」の製造法も、成分組成も記載されておらず、発明の詳細な説明の記載からは、実施例の特定のプロポリスの抽出物の製品である「プロポリス300」が、プロポリスをどのような抽出溶媒で抽出した抽出物からの製品であるのかは明らかでない。
一方、上記4.(2)で説示したとおり、プロポリスの抽出物は、その抽出溶媒により、含まれる成分が異なることは、本願出願時の技術常識であり、含まれる成分が異なれば、その薬理作用も当然異なると解されるから、実施例の特定のプロポリスの抽出物の製品である「プロポリス300」において確認された集中力増進作用が、これとは異なる抽出溶媒で抽出された、抽出物等の場合でも奏されることを当業者は理解できない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から、本願発明の有効成分とされる「プロポリス又はその処理物」のうち、少なくとも、プロポリス原塊に、「超臨界抽出」、「水抽出」又は「エタノール抽出」のいずれかの処理が施された、それぞれに含まれる成分が異なるプロポリスの処理物については、これにより、集中力が増進され、本願発明の課題が解決できることを当業者が認識できるとはいえない。
よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、本願発明について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすとはいえない。

(3)請求人の主張について
ア 請求人の主張の内容
請求人は、令和2年12月3日提出の意見書の(3-2)において、以下の主張をしている。

「本願明細書の実施例において集中力増進作用があることが確認されているプロポリス300(請求人の製品)は、「超臨界抽出」で得たエキス、「水抽出」で得たエキス、及び「親水性有機溶媒(エタノール)抽出」で得たエキスの混合物を含みます。プロポリス300が3種のエキスを含むことは公知です(下記参考URL参照。同ホームページの印刷物を本意見書にも添付しています。)。
参考URL:https://www.3838.com/shopping/camp/p300_t3_2/
・・・
したがって、本願請求項1における特定事項である「前記処理物は、プロポリス原塊に、粉砕、超臨界抽出、水若しくはエタノール抽出、抽出物の濃縮若しくは粉末化、又は粉末の造粒の処理が施されたものである」との事項は、本願明細書の実施例において集中力増進作用があることが確認されているプロポリス300とよく整合しており、本願発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲内のものであると思料します。」

イ 請求人の主張に対する検討
請求人の上記主張について検討する。
上記意見書に添付された参考URL(検索日2020年12月1日)の印刷物の2頁目の中段の左欄には、以下の記載がある。
「一般的にはアルコールによる抽出方法が用いられますが、これだけでは抽出しきれない有用成分もあります。そこで私たちが『プロポリス300』に採用しているのが山田養蜂場独自の「3種抽出法」です。
山田養蜂場では、アルコール・水・超臨界という3種類の抽出法を組み合わせることによって、ミツバチが作った希少なプロポリスの有用成分をしっかり取り出しています。

アルコール抽出で抽出できる成分
アルテピリンC、フラボノイド、p-クマル酸、など
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
水抽出で抽出できる成分
アミノ酸、ミネラル類など
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
超臨界抽出で抽出できる成分
テルペノイドなど」
(なお、上記において、下線は当審が付した。また、写真の摘記は省略した。)

上記参考URLに記載される情報によれば、「プロポリス300」が、アルコール・水・超臨界という3種類の抽出法を組み合わせて製造されたものであり、これら3種の抽出による抽出物の混合物を含むものであることは理解できる。
そして、上記参考URLに記載の情報が、たとえ出願時に公知であったとしても、本願発明のプロポリス処理物は、「プロポリス原塊に、粉砕、超臨界抽出、水若しくは親水性有機溶媒抽出、抽出物の濃縮若しくは粉末化、又は粉末の造粒の処理が施されたもの」であって、抽出物が、「超臨界抽出」、「水抽出」又は「エタノール抽出」のいずれかの処理によるものであれば足りるものとして特定されており、これら3種の抽出を組み合わせた処理によるもの、つまり、3種の抽出物の混合物を含むものに特定されているのではない。
かえって、上記参考URLに記載される情報は、上記3種の抽出の「いずれか」の処理による抽出物の抽出成分が異なるとの上記技術常識と整合し、上記(2)の判断を覆すに足るものではない。

よって、請求人の主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本願については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-03-09 
結審通知日 2021-03-16 
審決日 2021-03-30 
出願番号 特願2015-102779(P2015-102779)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 基章  
特許庁審判長 井上 典之
特許庁審判官 松本 直子
渕野 留香
発明の名称 集中力増進剤  
代理人 阿部 寛  
代理人 吉住 和之  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 坂西 俊明  

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