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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06Q
管理番号 1374371
審判番号 不服2021-1127  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-27 
確定日 2021-06-10 
事件の表示 特願2018- 95016「電力取引システムおよび蓄電池」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年11月21日出願公開、特開2019-200621、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年5月17日の出願であって、令和2年7月16日に拒絶理由が通知され、同年8月18日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年11月13日付けで拒絶の査定がなされ、これに対し、令和3年1月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の理由の概要
原査定(令和2年11月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1-9に係る発明は、以下の引用文献1-5に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2008-289250号公報
2.特開2016-18504号公報
3.特開2018-22443号公報
4.特開2015-225826号公報
5.特開2003-317694号公報

第3 本願発明
本願請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、令和3年1月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲1-9に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

【請求項1】
発電所と需要家の間に配置され水素が封入され負極活物質が水素であり充電終了時の電圧と放電開始時の電圧が等しい蓄電池が、前記発電所からの電力で充電可能となっていて、前記需要家には前記蓄電池に貯えられた電力が供給可能となっている電力取引システムであって、前記蓄電池の下流側に接続された電力量計の出力に基づき前記需要家ごとに電力量料金を計算する計算機を備えた電力取引システム。
【請求項2】
前記需要家ごとに設定された最大需要電力に基づく基本料金が、前記電力量料金に加算されて電気料金を計算する計算機を備えた請求項1に記載の電力取引システム。
【請求項3】
前記蓄電池の下流側で前記需要家の上流側に設けた電力計の出力の最大値により前記基本料金を計算する計算機を備えた請求項2に記載の電力取引システム。
【請求項4】
前記蓄電池の出力に接続されたインバータを介して前記需要家に交流電力を供給する請求項1?3のいずれか一項に記載の電力取引システム。
【請求項5】
前記蓄電池は、負極と、正極と、前記負極と前記正極の間に介在するセパレータとを備えた電極体が、筒状の外装体の軸方向に積層して前記外装体の内部に収納されていて、更に前記電極体の中央を貫通する集電棒が前記外装体の内部に収納されていて、
前記負極の穴の周縁部は前記集電棒と接触しており、前記正極の外縁は前記外装体の内面と接触している請求項1または2に記載の電力取引システム。
【請求項6】
請求項1および2に記載の電力取引システムに用いる蓄電池。
【請求項7】
正極が酸化金属を有している請求項6に記載の蓄電池。
【請求項8】
負極と前記正極の間に介在するセパレータが、ポリオレフィン系不織布を親水処理したものである請求項6または7のいずれか一項に記載の蓄電池。
【請求項9】
前記蓄電池が前記需要家の構内に設置されている請求項1に記載の電力取引システム。

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1の記載事項と引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下、同様。)。

【0001】
本発明は、電力需要家内に設置され、商用電力からの供給電力を計測し、供給電力に応じて課金を行う受電システムに関わるものである。

【0015】
図1は本発明による蓄電機能付き受電システムの一実施例の構成を示すブロック図、図2は図1に示した実施例の動作状態を示す図である。
【0016】
本実施例の蓄電機能付き受電システムは、商用電源の供給元である電気事業者、電力再販業者101が提供する商用電源100と需要家201に設置される電力計200からなる。需要家201には、電力計200、充放電装置30、蓄電装置40、監視制御装置50が設けられる。監視制御装置50は、充放電制御器51、課金装置52、状態監視器53及び状態表示装置54からなる。本実施例における蓄電機能付き受電システムの動作は以下である。
【0017】
需要家201に対して電力を供給する商用電源100は、電力の需給の状態が余剰状態で通常より安価に供給できる状態である、電力が不足している状態で、需要家の負荷規制など、需要を減らすことが望ましい状態であるなどの電力の需給状態についての情報を電力供給状態S305として需要家201に提供する。
【0018】
電力計200は、商用電源100、もしくは、蓄電池40から充放電装置30を介して需要家内の負荷に供給される供給電力量を計測し、供給電力量S304として監視制御装置50に出力する。
【0019】
充放電装置30は監視制御装置50からの充放電指令S301に基づき、商用電源100から蓄電装置40への充電あるいは蓄電装置40から需要家201の負荷への放電量を任意に調整する。
【0020】
蓄電装置40は充放電装置30により制御され、商用電源100から送られる電力を蓄積する機能と、蓄積された電力を放電する機能を有するとともに、「蓄電装置40が満充電でこれ以上電力を充電できない状態である」、「満充電ではなくさらに電力を充電できる状態である」、「蓄電装置40の内部に電力が蓄えられており、放電により電力供給が可能な状態である」、「蓄電装置40に全く電力が蓄積されておらず、放電が不可能な状態である」などの充電状態S302を監視制御装置50に出力する機能を有する。
【0021】
状態監視器53は商用電源100から入力された電力需給状態S305と蓄電装置40から入力された充電状態S302をとりまとめ、システム状態S303として充放電制御器51、課金装置52、状態表示装置54に出力する。
【0022】
充放電制御器51及び課金装置52には、電力計200及び状態監視器53から供給電力量S304とシステム状態S303がそれぞれ入力される。これらの入力に応じて、充放電制御器51は充放電装置30への充放電指令S301を出力し、課金装置52は電気事業者、電力販売業者101へ課金データS306を出力する。

【0025】
また、課金装置52は、供給電力量あたりの電力料金としては、通常より安い割引料金を適用して計算した課金データS306 を電気事業者、電力販売業者101へ出力する。

【図1】


そして、【0018】、【図1】の記載からみれば、電力計200は、商用電源100からもしくは充放電装置30を介して蓄電池40から需要家内の負荷に供給される供給電力量を計測して監視制御装置50に出力するものであり、蓄電装置40は、充放電装置30を介して需要家内の負荷に電力を供給するものであって、電力計200の負荷側でなく商用電源100側に充放電装置30を介して接続されているといえる。

以上の事項からみて、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
「電気事業者、電力再販業者101が提供する商用電源100と、電力計200、充放電装置30、蓄電装置40、充放電制御器51、課金装置52、状態監視器53及び状態表示装置54からなる監視制御装置50が設けられ、電力計200は需要家201に設置される、蓄電機能付き受電システムであって(【0016】)、蓄電装置40は充放電装置30を介して需要家内の負荷に電力を供給するものであって、電力計200の負荷側でなく商用電源の供給元である電気事業者、電力再販業者101が提供する商用電源100側に充放電装置30を介して接続されて商用電源100から送られる電力を蓄積し、充放電装置30を介して蓄積された電力を放電し需要家内の負荷に電力を供給する蓄電機能付き受電システムであって(【0018】、【0020】、【図1】)、電力計200は蓄電池40から充放電装置30を介して需要家内の負荷に供給される供給電力量を計測し(【0018】)、課金装置52には電力計200からの供給電力量S304と状態監視器53からのシステム状態S303がそれぞれ入力され、これらの入力に応じて、課金装置52は電気事業者、電力販売業者101へ供給電力量あたりの電力料金として割引料金を適用して計算した課金データS306を出力する(【0022】、【0025】)、蓄電機能付き受電システム(【0016】)。」

2 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶理由で引用された上記引用文献2には、以下の記載がある。

【0014】
図1は、本発明の実施の形態における蓄電池管理装置30を含む電力供給システム10の構成を示すブロック図である。電力供給システム10は、系統電力と蓄電池からの電力とを需要者(ここでは、利用者A及びB)に供給するシステムであり、系統電源12と、蓄電池装置20と、蓄電池管理装置30とを備える。なお、本図には、需要者(利用者A及びB)の住宅40及び50も併せて図示されている。

【0025】
料金計算部36は、複数の利用者(ここでは、利用者A及びB)のそれぞれについて、少なくとも、利用者の電力メータ41及び51から送信されてきた個別電力使用量に基づいて、電気料金を計算する処理部である。より詳しくは、料金計算部36は、複数の利用者のそれぞれについて、個別電力使用量に加えて、当該利用者による蓄電池22の充電電力量、及び、当該利用者による放電電力量の少なくとも一方を考慮したうえで、電気料金を計算する。つまり、料金計算部36は、個別電力使用量に基づく電気料金と、充放電指令に基づいて蓄電池22の充放電が行われた時の電気料金単価を考慮した充電電力量、及び、放電電力量の少なくとも一方に基づく電気料金とを合わせることで電気料金を計算する。本実施の形態では、料金計算部36は、個別電力使用量に基づく電気料金、充電電力量に基づく電気料金、及び、放電電力量に基づく電気料金の3つの料金を考慮したうえで、電気料金を計算する。

上記記載からみて、引用文献2には、「料金計算部36は個別電力使用量に基づく電気料金と、充放電指令に基づいて蓄電池22の充放電が行われた時の電気料金単価を考慮した充電電力量、及び、放電電力量の少なくとも一方に基づく電気料金とを合わせることで電気料金を計算する、電力供給システム10。」が記載されているといえる。

3 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶理由で引用された上記引用文献3には、以下の記載がある。

【0005】
韓国の電気料金は、基本料金と使用量料金とに大きく分けられるが、韓国だけでなく、殆どの国で適用する料金構造である。基本料金は電気事業者と使用者との間の契約に基づく料金であり、契約電力、最大需要電力、そして超過使用付加金に関連する。使用量料金は、電気使用場所で所定期間使用された電気使用量を計量し、料金単価を適用して計算される。
【0006】
このように基本料金と使用量料金のうち基本料金は契約電力に関連する。契約電力とは、電気使用者が電気供給者に要請する最大使用電力であると表現できる。例えば、任意の使用者が電気供給者と契約電力30kWの電力契約を締結するということは、如何なる場合でもその使用者は30kWを超える電力は使用しないという双方の契約である。このような契約により、使用者が最大30kWの電力を使用できるように、電気供給者は供給設備を備えて電力を供給するようになる。

上記記載からみて、引用文献3には、「電気料金は電気使用者が電気供給者に要請する最大使用電力に関連する基本料金と、使用量料金とに分けられる。」が記載されているといえる。

4 引用文献4の記載事項
原査定の拒絶理由で引用された上記引用文献4には、以下の記載がある。

【0013】
本発明の目的は、比較的簡単な方法で、ニッケル水素電池の充電量を高い精度で表示する装置および方法を提供することにある。

【0024】
最初に本発明適用のベースとなるニッケル水素電池について説明を行い、その後に充電量表示装置について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるわけでなく、種々の変更が可能である。
【0025】
<電極の製造について> 正極材料は、アルカリ二次電池の正極用として利用可能なものであれば特に限定されるものではなく、水酸化ニッケル系の正極材料もしくは酸化銀系の正極材料であってもよい。例えば、水酸化ニッケルであってもよく、二酸化マンガンであってもよい。
【0026】
負極材料に含まれる水素吸蔵合金は、水素の吸蔵・放出が行えるものであれば特に限定されない。水素貯蔵容量、充放電特性、自己放電特性およびサイクル寿命特性の観点から、AB5型の希土類-ニッケル合金である、MmNiCoMnAlのミッシュメタルを含んだ5元系合金であることが好ましい。あるいは、超格子水素吸蔵合金といわれるLaMgNi系であることが好ましい。
【0027】
電解質は、水素を活物質とする電池で用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)などの塩を水に溶かしたものが好適である。
【0028】
導電剤としては、炭素繊維、炭素繊維にニッケルメッキを施したもの、炭素粒子、炭素粒子にニッケルメッキを施したもの、有機繊維にニッケルメッキを施したもの、繊維状ニッケル、ニッケル粒子、ニッケル箔のいずれかを単独で、または組み合わせて用いることができる。結着剤としては、熱可塑性樹脂を用いた。
【0029】
基板としては、正負極ともに、穴あき鋼板にニッケルメッキを施したものを用いた。鋼板の代わりに、弾性を有する金属板を用いることもできる。基板上に活物質を含む合材を塗布して、概ね350μmの厚みの電極を製作した。
【0030】
セパレータを形成する素材としては、例えば、ポリエチレン繊維やポリプロピレン繊維などのポリオレフィン系繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリフルオロエチレン系繊維、ポリアミド系繊維などを使用することができる。セパレータには電解液が保持されている。
【0031】
負極としては、例えば、水素吸蔵合金粉末、導電剤および結着剤に溶剤を加えてペースト状にしたものを、基板上に塗布して板状に成形し硬化させたものを使用した。同様に、正極としては、正極活物質、導電剤および結着剤に溶剤を加えてペースト状にしたものを、基板上に塗布して板状に成形し硬化させたものを使用した。

【0034】
[積層電池]
正極と、負極と、正極と負極の間に介在するセパレータとから構成される電極群が積層されて耐圧容器性のある電池ケースの内部に収納されている。ここに、電極群の積層方向は電池ケースの軸方向となっており、セパレータには予め電解液が含浸されている。正極の外縁は電池ケースに接触して電気的に接続されており、電池ケースは正極端子となる。電極体の中央には集電棒が貫通していて、負極と集電棒は、電気的に接続されていて負極端子となる。なお、電池ケースには、電解液および水素ガスの供給を行うための供給口が設けられていて、この供給口には高圧の水素ガスタンクが接続可能となっている。
【0035】
2つのタイプの電池において、電極群を電池ケースに収納して、密閉して電池を組立てる。電池の組立完了後に、1時間真空引きして、電池内部の空気を排除する。次に、1MPaの水素ガスタンクを接続して電池内部に水素ガスを封入する。再度1時間真空引きして、1MPaの水素ガスタンクから水素ガスを再度電池内部に供給する。
【0036】
電池に供給された水素ガスは、電池ケース内に設けた水素貯蔵室もしくは電池内部の隙間に保持される。このような隙間としては、正極と電池ケースの間の隙間、負極と集電棒との間の隙間、電極間の隙間および電極とセパレータの隙間が上げられる。更には、電極内部に存在する空隙にも、水素ガスが保持される。もっとも、正極で発生する酸素は、直ちに、正極の空隙に保持されている水素ガスと結合して水となる。
【0037】
電池内に封入する水素ガスの圧力は、278MPa以上となると耐圧容器となる電池ケースが大きくなる。また、負圧となると取り扱いに不便となる。現実的な水素ガス圧力は、0.2MPa?100MPaである。0.4MPa?20MPaであれば、小型の電池にも容易に適用ができるので好ましい。電極内部に保持される水素ガスの量は、水素ガス圧力に依存しており、好ましい圧力範囲において、22.4L当たり、8g?400gとなる。

【0040】
図3にニッケル水素電池1(以下単に電池と称す)の充電量と水素ガス圧力の関係を表したグラフを示す。上のグラフはニッケル水素電池の充電状態の推移を示すグラフであり、横軸を0-100%の単位で電池SOCを取り、縦軸をV単位で電池の端子電圧が示されている。下のグラフは電池内部の水素ガス圧力を示すグラフであり、横軸は上のグラフと共通に電池SOCを取り、縦軸は、水素ガス圧力がMPa単位で目盛ってある。
【0041】
グラフの中央の破線示されるところがSOC100%の点であり、正極および負極が満充電の状態である。満充電の状態から電池が放電すると、電池のSOCは中央(SOC100%)から上のグラフに沿って右に移動する。SOCの低下に応じて水素ガス圧力は、下のグラフに沿って左に移動する。SOCの低下により電池内部の水素ガス圧力が低下する。電池内の水素ガスが負極の放電により消費され、水素ガス圧力は大気圧と等しくなる。この状態をSOC0%としている。このような状態において、電池を外部電源を用いて充電すると、負極から発生する水素ガスにより電池内部の水素ガス圧力は上昇する。このとき、下のグラフは左端から中央に向けて移動して、満充電でSOC100%となる。

【0046】
以上まとめると、水素ガスが充填された電池の充電時の全反応は式(6)となり、充電時に水素ガスが発生して電池内部の圧力は上昇する。一方、放電時の全反応は式(7)となり、電池に封入されている水素ガスが消費され、電池内部の圧力が低下する。
Ni(OH)_(2) + MH → NiOOH + MH + H_(2)↑ (6)
NiOOH + MH + 1/2 H_(2) → [Ni(OH)_(2) + M + 1/2 H_(2)]→ Ni(OH)_(2) + MH (7)
【0047】
正極が満充電になって後、電池に電流を供給し続ければ、正極から酸素ガスが発生する。この酸素ガスは、負極から発生する水素ガスと反応して水(H_(2)O)となる。電池内部の圧力の上昇は生じない。もっとも、このような過充電状態の場合、電池に流れる電流値から電池の充電量を算出する方法では誤差を生じることとなる。しかし、本発明に係る充電量表示装置においては、電流値を使用せずに電池内部の水素ガスの圧力を利用しているので、正極が過充電であっても水素ガスが発生しないので誤差が生じない。別の言い方をすれば、電池のSOC100%は、正極が満充電の状態であるといえる。

上記記載からみて、引用文献4には、以下の事項が記載されている。
「ニッケル水素電池は、負極と、正極と、前記負極と前記正極の間に介在するセパレータとを備えた電極体が、筒状の外装体の軸方向に積層して前記外装体の内部に収納されていて、更に前記電極体の中央を貫通する集電棒が前記外装体の内部に収納されていて、
前記負極の穴の周縁部は前記集電棒と接触しており、前記正極の外縁は前記外装体の内面と接触し、
正極が水酸化ニッケル系の正極材料もしくは酸化銀系の正極材料を有し、
負極と前記正極の間に介在するセパレータが、ポリオレフィン系繊維であり、
電池のSOC100%は、正極が満充電の状態である。」

5 引用文献5の記載事項
原査定の拒絶理由で引用された上記引用文献5には、以下の記載がある。

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水酸化ニッケルを主成分として含む正極および水素吸蔵合金を主成分として含む負極を有するニッケル水素蓄電池に関し、特に高容量と高出力特性とを両立させた新規なニッケル水素蓄電池に関する。

【0006】
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンからなる親水処理された不織布が用いられる。セパレータの厚さは、従来、0.1?0.2mm程度である。

上記記載からみて、引用文献5には、「ニッケル水素蓄電池のセパレータは、ポリプロピレンなどのポリオレフィンからなる親水処理された不織布である。」が記載されているといえる。

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明の「電気事業者、電力再販業者101が提供する商用電源100」、「需要家201」は、それぞれ、本願発明1の「発電所」、「需要家」に相当する。
イ 引用発明の「蓄電装置40」は、充電終了時の電圧と放電開始時の電圧については記載されていないものの、「充放電装置30を介して需要家内の負荷に電力を供給するものであって、電力計200の負荷側でなく商用電源の供給元である電気事業者、電力再販業者101が提供する商用電源100側に充放電装置30を介して接続されて商用電源100から送られる電力を蓄積し、充放電装置30を介して蓄積された電力を放電し需要家内の負荷に電力を供給する」ものであるから、本願発明1の「蓄電池」における、「前記発電所からの電力で充電可能となっていて、前記需要家には前記蓄電池に貯えられた電力が供給可能となっている」点と共通の機能を有する。
ウ 引用発明の「電力計200」は、「蓄電池40から充放電装置30を介して需要家内の負荷に供給される供給電力量を計測」していることから、本願発明1における「電力量計」と同様に「蓄電池の下流側に接続された」ものといえる。
エ 引用発明の「課金装置52」は「電気事業者、電力販売業者101へ供給電力量あたりの電力料金として割引料金を適用して計算した課金データS306を出力する」ものであり、本願発明1の「計算機」は、「電力量計の出力に基づき前記需要家ごとに電力量料金を計算する」ものであるところ、両者は、いずれも、「需要家ごとに電力料金を計算する計算機」である点において共通する。
オ 引用発明の「蓄電機能付き受電システム」は、本願発明1と同様の「電力取引システム」であるといえる。

上記アないしオより、本願発明1と引用発明とは、以下の点で一致し、また相違する。
(一致点)
「蓄電池は発電所からの電力で充電可能となっていて、需要家には前記蓄電池に貯えられた電力が供給可能となっている電力取引システムであって、前記蓄電池の下流側に接続された電力量計は前記需要家ごとに電力量料金を計算する計算機を備えた電力取引システム。」

(相違点1)
「蓄電池」が、本願発明では「発電所と需要家の間に配置され」たものであるのに対して、引用発明は、そのような特定事項を有していない点。
(相違点2)
「蓄電池」が、本願発明では、「水素が封入され負極活物質が水素であり充電終了時の電圧と放電開始時の電圧が等しい」ものであるのに対して、引用発明は、そのような特定事項を有していない点。
(相違点3)
「計算機」が、本願発明では、「電力量計の出力に基づき前記需要家ごとに電力量料金を計算する」のに対して、引用発明では、「電力計200及び状態監視器53から供給電力量S304とシステム状態S303がそれぞれ入力され、これらの入力に応じて、電気事業者、電力販売業者101へ課金データS306を出力する」点。

(2)判断
(相違点3)について
引用発明において、電力の需給の状態が余剰状態で通常より安価に供給できる状態である、電力が不足している状態で、需要家の負荷規制など、需要を減らすことが望ましい状態であるなどの電力の需給状態についての情報を電力供給状態S305として需要家201に提供している。そして、課金装置に対する入力であるシステム状態S303は、電力供給状態S305に基づいている。すると、引用発明において、課金装置への入力をシステム状態S303を除いた供給電力量S304のみとする動機はない。また、課金装置への供給電力量のみで課金データを出力することは引用文献2ないし引用文献5のいずれにも記載されていない。よって、引用発明において、「課金装置」が「電力計200の出力に基づき電力量料金を計算する」ことを当業者が容易に想定できたとはいえない。
また、課金装置への供給電力量のみで課金データを出力することがいずれの引用文献にも記載されていないことから、引用文献2における「電力供給システム10」と、引用発明1および引用文献3ないし引用文献5とからも、本願発明を当業者が容易に想到できたとはいえない。
(まとめ)
したがって、本願発明は、当業者であっても、引用発明と引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2-5、9について
本願発明2-5、9は、本願発明1を減縮した発明であって、上記の1(1)相違点3に係る「電力量計の出力に基づき前記需要家ごとに電力量料金を計算する計算機」を構成に備えるから、上記1(2)で検討した理由と同様の理由により、引用発明と引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明6-8について
本願発明6-8は、本願発明1および2の電力取引システムに用いる蓄電池の発明であるところ、蓄電池の用途限定である「電力取引システム」が、上記1および2で検討したとおり、引用発明と引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではないから、本願発明6-8も、引用発明と引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-9は、当業者が引用発明および引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-05-27 
出願番号 特願2018-95016(P2018-95016)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小山 和俊  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 相崎 裕恒
上田 智志
発明の名称 電力取引システムおよび蓄電池  
代理人 鳥巣 慶太  
代理人 鹿嶌 宗  

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