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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G
管理番号 1374396
審判番号 不服2020-15514  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-10 
確定日 2021-06-15 
事件の表示 特願2017- 61183「電解コンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月18日出願公開、特開2018-164024、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年3月27日の出願であって、令和2年6月26日付けで拒絶理由が通知され、令和2年7月10日に手続補正がなされ、令和2年8月25日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対し、令和2年11月10日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年8月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
「本願の請求項1-4に係る発明は、以下の引用文献1ないし3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項 1-4
・引用文献等 1-3

<引用文献等一覧>
1.特開昭63-303040号公報
2.特開2016-171257号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2011-187932号公報」

第3 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、令和2年7月10日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
誘電体酸化皮膜を有する陽極及び陰極と、前記陽極及び陰極の間に配置されたセパレータと、前記セパレータに保持された導電性高分子及び電解液とを備えたコンデンサにおいて、
前記電解液が、下記化学式1で表される化合物を含有した溶媒を含み、
前記陰極は銅を0.05?0.50%含有する、純度が99.8%未満のアルミニウムであることを特徴とする電解コンデンサ。
【化1】


ここで、R^(1)はC_(X)H_(2X)で表され、Xは1以上の整数であり、
nは1以上の整数であり、
R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6)及びR^(7)はH又はC_(Y)H_(2Y+1)で表され、Yは1以上の整数である
【請求項2】
前記電解液が、ラクトンを含有した第1溶媒と、前記化学式1で表される前記化合物を含有した前記溶媒を第2溶媒として含む請求項1記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記第2溶媒は、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール及びこれらの誘導体、並びに、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール及びこれらの誘導体の少なくとも一つを含有した請求項2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記第1溶媒は、γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトンの少なくとも一つを含有した請求項2又は3に記載の電解コンデンサ。」

第4 引用発明、引用文献等
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
ア 「[産業上の利用分野]
本発明は、電解コンデンサ陰極用アルミニウム合金箔の製造方法に関するものである。」(第1頁左下欄第14-16行)

イ 「本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決して、静電容量、耐折強度、引張強度、テープ接着性などの要求性能を全て満足する電解コンデンサ陰極用アルミニウム箔の製造方法を提供する目的でなされたものである。」(第1頁右下欄第19行-第2頁左上欄第3行)

ウ「[実施例]
以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明する。
第1表に示すように、通常陰極箔に使用されている99.80%のAlに対して種々の割合のCuを添加した素材を均熱化処理を行ない、直ちに熱間圧延を行なって所定の板厚とした。
その後1次冷間圧延、中間焼鈍、および2次冷間圧延を行ない製品厚(50μm)とした。
上記1次および2次の冷間圧延時の圧下率ならびに中間焼鈍温度は、第1表に示すごとく各試料ごとに設定した。」(第2頁右下欄第17行-第3頁左上欄第8行)

エ 「以上の測定結果を第1表に示す。第1表に示すごとく、No.2,No.3,No.6,No.7は、本発明の実施例であり静電容量、引張強度耐折強度、テープ接着性のすべてに良好な値を示している。」(第3頁右上欄第16-20行)

オ 「

」(第4頁)

(2)引用文献1に記載された技術事項
よって、引用文献1には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
ア 「(1)」「ア」より、引用文献1は、「電解コンデンサ陰極用アルミニウム合金箔の製造方法」に関するものであることがわかる。

イ 「(1)」「オ」の「第1表」の「Cu量重量%」より、「No.2,No.6,No.7」は「0.30重量%」、「No.3」は「0.60重量%」であることを読み取ることができる。
よって、「(1)」「ウ」ないし「(1)」「オ」の「第1表」より、「通常陰極箔に使用されている99.80%のAlに対して」、「0.30重量%」及び「0.60重量%」の「割合のCuを添加した素材を均熱化処理を行ない、直ちに熱間圧延を行なって所定の板厚とし、その後1次冷間圧延、中間焼鈍、および2次冷間圧延を行ない製品厚(50μm)とした。」との技術事項を読み取ることができる。

(3)引用文献1に記載された技術
したがって、上記「(2)」より、引用文献1には、次の技術(以下、「引用文献1に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「通常陰極箔に使用されている99.80%のAlに対して、0.30重量%及び0.60重量%の割合のCuを添加した素材を均熱化処理を行ない、直ちに熱間圧延を行なって所定の板厚とし、その後1次冷間圧延、中間焼鈍、および2次冷間圧延を行ない製品厚(50μm)とした、電解コンデンサ陰極用アルミニウム合金箔の製造方法。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、アルミニウム、タンタル等の酸化皮膜が形成されている金属表面を陽極酸化処理等によって絶縁性の酸化皮膜を誘電体として形成したものを陽極側電極として用いる。この陽極側電極に対向させて陰極側電極を配置し、陽極側電極と陰極側電極の間にセパレータを介して巻回したコンデンサ素子を、電解液を保持させることで巻回型の電解コンデンサを得ることができる。電解コンデンサに要求される性能としては、優れた等価直列抵抗(以下、「ESR」と略記する。)が求められる。」

「【0004】
また、特許文献2には、化学重合法により、セパレータの表面に導電性高分子を付着させて、導電化させた巻回型の電解コンデンサが開示されている。しかしながら、化学重合法により、セパレータの表面に導電性高分子を付着させても、セパレータの表面に導電性高分子が付着しすぎてしまい、セパレータと電解液との接触が全くなくなってしまうため、電解コンデンサのESRが劣る問題があった。」

「【0006】
【特許文献1】 特開2009-111174号公報
【特許文献2】 特開平01-090517号公報」

よって、引用文献2には、【背景技術】として次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「アルミニウムの酸化皮膜を誘電体として形成したものを陽極側電極として用い、この陽極側電極に対向させて陰極側電極を配置し、陽極側電極と陰極側電極の間にセパレータを介して巻回したコンデンサ素子を電解液に保持させ、セパレータの表面に導電性高分子を付着させて、導電化させた巻回型の電解コンデンサ。」

3 引用文献3について
(1)引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
ア 「【0001】
本発明は、電解コンデンサに使用する電解液、およびそれを用いた電解コンデンサに関するものである。」

イ 「【0006】
すなわち、本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、高い電導度と高い火花電圧を両立した電解コンデンサ用電解液、およびそれを用いた電解コンデンサを提供することである。」

ウ 「【0008】
【化1】

エ 「【0010】
本発明の電解液は、電解質(D)を含有することに特徴がある。
電解質(D)は、特定構造を有する多価アルコール(A)と一般式(1)で表わされるホウ酸アニオンとの錯体アニオン(B)とアンモニウムカチオン(C)からなる塩である。多価アルコール(A)は2個以上の水酸基を有する化合物であり、分子量は80?200の物が好ましい。すべての2個の水酸基についてその2個の水酸基を結ぶ最短経路に炭素原子、又は炭素原子と窒素原子が介在し、該炭素原子及び窒素原子の合計個数が3個以上である構造を有する。そのような多価アルコールは、ホウ酸アニオンとの錯体を形成するが、エチレングリコールやグリセリンのように、ホウ酸アニオンの4つのヒドロキシル基のすべてに反応せず、ホウ酸アニオンのヒドロキシル基を1つ以上の残したまま、錯体を形成できる。
【0011】
錯体アニオン(B)はホウ酸アニオン1分子に対して、多価アルコール(A)1分子もしくは、2分子が錯体を形成していると推定され、1価のアニオンである。錯体アニオン(B)にはホウ酸アニオンのヒドロキシル基が1つ以上存在しているためヒドロキシルアニオンのキャリア効果があり、アルミ化成皮膜の修復反応を促進させる役割を果たす。つまり、通常は水の電気分解により生成するヒドロキシルアニオンによりアルミ化成皮膜を修復するが、本発明の電解液では、水の電気分解により生成するヒドロキシルアニオンに加えて、錯体アニオンのヒドロキシル基があるため、修復の効率が良く火花電圧が高いと考えられる。また、錯体を形成しているので、電解質(D)の有機溶媒(E)への溶解性が高い。その結果、電解質(D)を含有するアルミニウム電解コンデンサ用電解液は火花電圧が高くなる。また、その効果が高いため、電導度は高く保持したまま火花電圧を高くすることができる。」

オ 【0012】
多価アルコール(A)は、すべての2個の水酸基を結ぶ最短経路に炭素原子、又は炭素原子と窒素原子が介在し該炭素原子及び窒素原子の合計個数が3個以上である構造を有するものであり、一般式(2)?(4)で表される化合物などがある。」

カ「【0015】
【化4】

一般式(4)のR_(3)、R_(4)は、水素原子、又はニトロ基、シアノ基、エーテル基を有していてもよい炭素数が1?10の炭化水素基であり、o、pは1?5の整数であり、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3プロパンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、1,3,5-シクロヘキサントリオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等があり、o、pは1?2の整数が特に好ましい。」

キ 「【0016】
本発明において、アンモニウムカチオン(C)としては、アミジニウムカチオン、第4級アンモニウムカチオン、第3級アンモニウムカチオン、第2級アンモニウムカチオン、第1級アンモニウムカチオン、アンモニウムカチオン(NH4^(+))等が含まれる。上記アンモニウムカチオン(C)は、一種または二種以上を併用してもよい。
・・・(省略)・・・
【0021】
・・・(省略)・・・
第3級アンモニウムカチオンとしては、炭素数1?4のアルキル基を有するトリアルキルアンモニウムカチオン{トリエチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウムおよびトリメチルアンモニウム等}等が挙げられる。
・・・(省略)・・・。」

ク 【0023】
電解質(D)の合成方法は、アンモニウム塩{モノメチル炭酸塩、水酸化物塩等}と水と共にホウ酸、多価アルコール(A)を混合し、100℃で減圧脱水後、有機溶媒(E)に室温で溶かす方法、またはアンモニウムカチオン(C)成分となるアミンと共に、ホウ酸、多価アルコール(A)を有機溶媒(E)中に室温で混合する方法が好ましい。」

ケ 「【0024】
電解質(D)は、有機溶媒(E)に溶解させて本発明の電解液とする。有機溶媒(E)は、非プロトン性有機溶媒(G)、又はプロトン性有機溶媒(H)を含有する非プロトン性有機溶媒(G)である。・・・ (省略)・・・。」

コ 「【0032】
これらの有機溶媒の中で、非プロトン性有機溶媒(G)としてはγ-ブチロラクトン、スルホランからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましく、特にγ-ブチロラクトンが最も好ましい。プロトン性有機溶媒(H)としてはエチレングリコールが好ましい。」

サ 「【0045】
本発明の電解液は、アルミニウム電解コンデンサ用として好適である。アルミニウム電解コンデンサとしては、特に限定されず、例えば、捲き取り形の電解コンデンサであって、陽極表面に酸化アルミニウムが形成された陽極(酸化アルミニウム箔)と陰極アルミニウム箔との間に、セパレーターを介在させて捲回することにより構成されたコンデンサが挙げられる。本発明の電解液を駆動用電解液としてセパレーターに含浸し、陽陰極と共に、有底筒状のアルミニウムケースに収納した後、アルミニウムケースの開口部を封口ゴムで密閉して電解コンデンサを構成することができる。」

シ 「【0057】
<実施例7>
トリエチルアミン3.4g(34mmol)とホウ酸2.1g(34mmol)と1,4-ブタンジオール(A-1)3.1g(34mmol)をγ-ブチロラクトン(E-1)90g中で混合し溶解させ、本発明の電解液を得た。水分含量は、1.5%に調整した。」

ス 「【0068】
表1から明らかなように、本発明(実施例1?9)の電解液では30℃における電解液の比電導度は高く、火花電圧を高めることができた。」

(2)引用文献3に記載された技術
よって、「(1)」「サ」及び「(1)」「シ」より、引用文献3には、次の技術(以下、「引用文献3に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「トリエチルアミン3.4g(34mmol)とホウ酸2.1g(34mmol)と1,4-ブタンジオール3.1g(34mmol)をγ-ブチロラクトン90g中で混合し溶解させて得た、アルミニウム電解コンデンサ用電解液。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明2とを対比する。
ア 引用発明2における「アルミニウムの酸化皮膜を誘電体として形成した」「陽極側電極」が、本願発明1における「誘電体酸化皮膜を有する陽極」に相当する。

イ 引用発明2における「陰極側電極」が、本願発明1における「陰極」に相当する。

ウ 引用発明2における「陽極側電極と陰極側電極の間」の「セパレータ」が、本願発明1における「前記陽極及び陰極の間に配置されたセパレータ」に相当する。

エ 引用発明2における「セパレータの表面に」「付着させ」た「導電性高分子」が、本願発明1における「前記セパレータに保持された導電性高分子」に相当する。

オ 引用発明2における「電解液」が、本願発明1における「電解液」に相当する。

カ 引用発明2における「電解コンデンサ」が、本願発明1における「コンデンサ」、及び「電解コンデンサ」に相当する。

キ 本願発明1では「前記電解液が、下記化学式1で表される化合物を含有した溶媒を含み、【化1】(記載省略)ここで、R^(1)はC_(X)H_(2X)で表され、Xは1以上の整数であり、nは1以上の整数であり、R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6)及びR^(7)はH又はC_(Y)H_(2Y+1)で表され、Yは1以上の整数である」のに対し、引用発明2では「電解液」がどのような化合物を含んでいるか示されていない点で相違する。

ク 引用発明2における「陰極側電極」と本願発明1とは、「陰極」の点で一致する。
しかしながら、「陰極」について、本願発明1では、「銅を0.05?0.50%含有する、純度が99.8%未満のアルミニウムである」とされているのに対し、引用発明2では、材質や組成について示されていない点で相違する。

(2)一致点・相違点
よって、上記本願発明1と引用発明2との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「誘電体酸化皮膜を有する陽極及び陰極と、前記陽極及び陰極の間に配置されたセパレータと、前記セパレータに保持された導電性高分子及び電解液とを備えたコンデンサ、
であることを特徴とする電解コンデンサ。」

(相違点1)
本願発明1では「前記電解液が、下記化学式1で表される化合物を含有した溶媒を含み、【化1】(記載省略)ここで、R^(1)はC_(X)H_(2X)で表され、Xは1以上の整数であり、nは1以上の整数であり、R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6)及びR^(7)はH又はC_(Y)H_(2Y+1)で表され、Yは1以上の整数である」のに対し、引用発明2では「電解液」がどのような化合物を含むんでいるか示されていない点。

(相違点2)
「陰極」について、本願発明1では、「銅を0.05?0.50%含有する、純度が99.8%未満のアルミニウムである」とされているのに対し、引用発明2では、材質や組成について示されていない点。

(3)相違点についての判断
(相違点1について)
ア 引用文献3に記載された技術には、「トリエチルアミン3.4g(34mmol)とホウ酸2.1g(34mmol)と1,4-ブタンジオール3.1g(34mmol)をγ-ブチロラクトン90g中で混合し溶解させた、アルミニウム電解コンデンサ用電解液。」が示されている。

イ 引用文献3に記載された技術の電解液を得るのに用いられた「1,4-ブタンジオール」は、本願発明1における「化学式1で表される化合物」のうち、「【化1】

」の「R^(1)」を「C_(2)H_(4)」(Xは2)、「nは1」(あるいは、「R^(1)」を「CH_(2)」(Xは1)、「nは2」)とし、「R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6)及びR^(7)」を「H」とした化合物であるが、本願発明1のように電解液の「溶媒」に含有されている化合物であるといえるか否か、明らかでない。

ウ そこで、まず、引用文献3に記載された技術の電解液における「1,4-ブタンジオール」が、アルミニウム電解コンデンサ用電解液の「溶媒」といえるか否かを検討する。

a 「1,4-ブタンジオール」は、前記「第4」「3 引用文献3について」「(1)」の摘記事項「エ」(以下、引用文献3の摘記事項については、見出しのカナ文字にカギ括弧を付して、「エ」などと記載する。)に「2個以上の水酸基を有する化合物であり、」「すべての2個の水酸基についてその2個の水酸基を結ぶ最短経路に炭素原子」「が介在し、該炭素原子」「の合計個数が3個以上である構造を有する。」と記載された「多価アルコール」であって、「カ」の「一般式(4)」「

」において「R_(3)、R_(4)は、水素原子」、「o」は1の整数、「p」は2の整数」(あるいは、「o」は2の整数、「p」は1の整数)とした化合物である。

b そして、引用文献3に記載された技術は、引用文献3の「ク」に記載された「電解質(D)の合成方法」、つまり、「アンモニウムカチオン(C)成分となるアミンと共に、ホウ酸、多価アルコール(A)を有機溶媒(E)中に」「混合する方法」の一例であるから、引用文献3に記載された技術のの電解液の「1,4-ブタンジオール」は、引用文献3の「ク」に記載された「多価アルコール(A)」の一例である。
また、引用文献3に記載された技術の電解液の「トリエチルアミン」は、引用文献3の「キ」、「ク」のとおり、「アンモニウムカチオン(C)成分となるアミン」の一例であり、引用文献3に記載された技術の電解液の「γ-ブチロラクトン」は、引用文献3の「ク」、「ケ」及び「コ」のとおり、「電解質(D)」を溶解させる「有機溶媒(E)」の一例である。

c ここで、引用文献3の「エ」には、「多価アルコール(A)」について、「本発明の電解液は、電解質(D)を含有することに特徴がある。電解質(D)は、特定構造を有する多価アルコール(A)と一般式(1)で表わされるホウ酸アニオンとの錯体アニオン(B)とアンモニウムカチオン(C)からなる塩である。多価アルコール(A)は」「ホウ酸アニオンとの錯体を形成するが、」「ホウ酸アニオンのヒドロキシル基を1つ以上の残したまま、錯体を形成できる。」「本発明の電解液では、」「錯体アニオンのヒドロキシル基があるため、修復の効率が良く火花電圧が高いと考えられる。」と記載されている。

d よって、引用文献3の「エ」の記載より、引用文献3に記載された技術の電解液において、「1,4-ブタンジオール」(「多価アルコール(A)」)はこれと等モル(34mmol)の「ホウ酸」と結合して「ヒドロキシル基を1つ以上」含む「錯体アニオン」を形成し、該「錯体アニオン」が、等モル(34mmol)の「トリエチルアミン」から生成する「アンモニウムカチオン(C)」とともに「塩」、すなわち「電解質(D)」を形成していることがわかる。

e したがって、引用文献3に記載された技術の電解液を得るのに用いられた「1,4-ブタンジオール」は、「電解質(D)」を形成しているのであって、(「電解質(D)」を「溶解」して「電解液」とするための)「有機溶媒(E)」ではない。
なお、引用文献3に記載された技術の電解液における「有機溶媒(E)」は、「γ-ブチロラクトン」である(前記「b」)。

エ よって、引用文献3に記載された技術の電解液を得るのに用いられた「1,4-ブタンジオール」は、アルミニウム電解コンデンサ用電解液の「溶媒」とはいえない。

オ 以上のとおり、引用文献3に記載された技術には、上記相違点1に係る「前記電解液が、下記化学式1で表される化合物を含有した溶媒を含」む(化学式1の記載省略)点が記載されておらず、また、引用文献1にも、上記相違点1に係る構成は記載されていないから、当業者といえども、引用発明2及び引用文献1、3に記載された技術的事項から、上記相違点1に係る本願発明1の構成を容易に想到することはできない。

(4)まとめ
したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用文献2に記載された発明及び引用文献1、3に記載された技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4は、本願発明1に所定の技術的事項を付加して減縮した発明であるから、本願発明1と同様に、上記相違点1に係る「前記電解液が、下記化学式1で表される化合物を含有した溶媒を含」む(化学式1の記載省略)構成を有するものである。
よって、本願発明2ないし4は、本願発明1について述べたのと同様の理由により、当業者であっても、引用文献2に記載された発明及び引用文献1、3に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 原査定について
原査定では、「上記引用文献1に記載のCu含有量を特定した陰極用アルミニウム合金箔や上記引用文献3に記載の電解液を、上記引用文献2に記載の周知の巻回型のハイブリッド電解コンデンサに適用することに格別の困難性はない。」として、「請求項1-4に係る発明は、当業者であれば容易になし得たものである」としている。
しかし、上記「第5」「1」「(3)」「ウ」及び「エ」で述べたとおり、引用文献3に記載の電解液における「1,4-ブタンジオール」はアルミニウム電解コンデンサ用電解液の「溶媒」とはいえないから、「引用文献3に記載の電解液を、上記引用文献2に記載の周知の巻回型のハイブリッド電解コンデンサに適用」しても、請求項1-4に係る発明とはならない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-05-31 
出願番号 特願2017-61183(P2017-61183)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 須原 宏光
清水 稔
発明の名称 電解コンデンサ  

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