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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F26B
管理番号 1374469
審判番号 不服2019-16534  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-06 
確定日 2021-05-28 
事件の表示 特願2017-521055「間接的な音響乾燥システム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月 7日国際公開、WO2016/003601、平成29年 8月10日国内公表、特表2017-522535〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)年6月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年7月1日、米国)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成30年9月13日付けで拒絶理由の通知(平成30年10月2日発送)
平成31年3月29日に意見書及び手続補正書の提出
令和1年7月26日付けで拒絶査定(令和1年8月6日発送)
令和1年12月6日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の提出
令和2年8月27日付けで当審における拒絶理由の通知(令和2年8月28日発送)
令和2年11月20日に意見書及び手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし17に係る発明は、令和2年11月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
素材を間接的に乾燥させるためのシステムであって、
前記素材はウェブ状基質からなり、第1面と、該第1面の反対側の第2面を具え、
被乾燥コーティングが、前記素材の前記第2面を少なくとも部分的に覆い、さらに、
前記素材の第1面に対向する少なくとも一つの超音波変換器を具えた音響ヘッドと、
前記素材の第1面に対向して位置する空気送込みユニットと、
前記空気送込みユニットによって送られ、前記第1面に当てられた気流を吸込む、該第1面に対向して位置する排気筐体を有し、
前記超音波変換器からの音波の出口と前記素材の間の離間距離が、λが前記音波の波長、nが奇数の整数±0.5の範囲にあるλ×n/4に調整されている、
システム。」

第3 令和2年8月27日付けで通知した拒絶の理由
当審において、令和2年8月27日付けで通知した拒絶の理由における理由2は、概ね以下のとおりである。
<理由2(進歩性)>
本願の請求項1,6?10,13?17に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用例1?2に記載された発明に基いて、以下同様に、請求項2?4に係る発明は引用例1?4に記載された発明に基いて、請求項4?5に係る発明は引用例1?2,4に記載された発明に基いて、請求項11?12に係る発明は引用例1?3,5に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例1.米国特許出願公開第2010/0199510号明細書
引用例2.特開2004-66042号公報
引用例3.特開2012-229841号公報
引用例4.国際公開第2007/066524号
引用例5.特開2005-292291号公報

第4 引用例
1 引用例1
(1)引用例1に記載された事項
引用例1には、次の事項が記載されている(なお、翻訳は、当審が作成した仮訳である。また、下線は、参考のため当審で付与したものである。以下、同様。)。
「[0049] The present invention provides drying systems and methods that include the use of ultrasound to more effectively break down the boundary layer and thereby increase the heat and/or mass transfer rate. Example embodiments of the invention are described herein in general configurations for illustration purposes. The invention also provides specific configurations for use in specific applications such as but not limited to printing, residential and commercial cooking appliances, food processing equipment, textiles, carpets, converting industries, fabric dyeing, and so on. In particular, the invention can be configured for flexographic and gravure printing of wallpaper, gift-wrap paper, corrugated containers, folding cartons, paper sacks, plastic bags, milk and beverage cartons, candy and food wrappers, disposable cups, labels, adhesive tapes, envelopes, newspapers, magazines, greeting cards, and advertising pieces. The invention can be adapted for these and many other batch and continuous heating and drying processes.」
(訳:[0049]本発明は、より効果的に境界層を破壊し、それにより熱および/または物質移動速度を高めるために超音波の使用を含む乾燥システム及び方法を提供する。本発明の実施例は、例示の目的のための一般的な構成において、本明細書に記載されている。また、本発明は、居住用及び商業用の調理器具、食品加工機器、織物、カーペット、加工産業、織物染色(ただし、これらに限定されない)のような特定の用途での使用のための特定の構造を提供する。特に、本発明は、壁紙、贈物包装紙、段ボール容器、折り畳み式カートン、紙袋、プラスチックバッグ、ミルク及び飲料カートン、キャンディーおよび食品の包装、使い捨て容器、ラベル、接着テープ、封筒、新聞、雑誌、グリーティングカード、広告用のフレキソおよびグラビア印刷に適するように構成することができる。本発明は、これら及び他の多くのバッチ式及び連続式の加熱および乾燥プロセスに適合させることができる。)

「[0050] Referring now to the drawing figures, FIGS. 1-5 show a drying apparatus 10 according to a first example embodiment of the present invention. The drying apparatus 10 includes an air-delivery enclosure 12, an air-return enclosure 14, and at least one ultrasonic transducer 16. The ultrasonic transducer 16 delivers acoustic oscillations 18 (i.e., pulsating acoustic pressure waves) coupled with heated or ambient air 22 onto the boundary layer of a material 20 to be dried while the delivery enclosure 12 delivers a heated airflow 22 onto the material, and the return enclosure 14 draws moist air 24 away from the material. The air-delivery enclosure 12 has an air inlet 26 and at least one air outlet 28, and the air-return enclosure 14 has at least one air inlet 30 and an air outlet 32. In typical commercial embodiments, the delivery and return enclosures 12 and 18 are made of metal (e.g., sheet metal), though other materials can be used.」
(訳:[0050]ここで図面を参照すると、図1-5は、本発明の第1の実施形態に係る乾燥装置10を示している。乾燥装置10は、空気供給筐体12、空気回収筐体14、および少なくとも一つの超音波トランスデューサ16を含む。超音波トランスデューサ16は、加熱又は周囲空気22と材料20の境界層上に音響振動18(すなわち、脈動音圧波(acoustic pressure wave))を送達して、空気供給筐体12は、加熱された空気流22を材料に供給する一方、空気回収筐体14は湿った空気24を材料から引き離す。空気供給筐体12は、空気入口26と、少なくとも1つの空気出口28を有しており、空気回収筐体14は、少なくとも1つの吸気口30と排気口32とを有している。通常の商用の実施形態において、空気供給筐体12及び空気回収筐体18は金属(例、板状金属)から作られるが、他の材料を使用することができる。)

「[0051] The material 20 to be dried can be any of a wide range of materials, depending on the application. For example, in printing applications the material to be dried is ink on paper, cardboard, plastic, fabric, etc., and for food processing equipment the material is food. Thus, the material 20 can be any substance or object for which heating and drying is desired.」
(訳:[0051]乾燥させるべき材料20は、広範囲の材料の中から、用途に応じてすることができる。例えば、印刷用途において乾燥される材料は、インクが付けられた紙、ボール紙、プラスチック、布帛等であり、食品加工装置において乾燥される材料は食品である。このように、材料20は、加熱および乾燥が所望される任意の物質または物体とすることができる。)

「[0052] In the depicted embodiment, the material 20 is conveyed beneath the apparatus 10 by a conventional conveyor system 34. In alternative embodiments, the material 20 is conveyed into operational engagement with the apparatus 10 by another device and/or the apparatus is moved relative to the material.」
(訳:[0052]図示の実施形態では、材料20は、従来のコンベアシステム34によって、装置10の下に運ばれる。別の実施形態では、材料20は、別の装置によって装置10によって処理される位置に搬送され、及び/又は当該別の装置は、材料に対して相対的に移動される。)

「[0061] As shown in FIG. 5, the ultrasonic transducer 16 is positioned with its outlet 46 (where the ultrasound is emitted from) spaced from the interface surface of the material 20 to be dried by a distance D. The distance D is about (λ)(n/4), where is the wavelength of the ultrasonic oscillations 18 and n is preferably an odd integer (1, 3, 5, 7, etc.). In this way, when the ultrasonic oscillations 18 reach the interface surface of the material 20, they are at about maximum amplitude A, which maximizes the disruption of the boundary layer and results in increased water/solvent evaporation rates. For relatively lower frequency oscillations, the distance D is preferably such that n is either 1 or 3, and most preferably such that n is 1, so that the distance D is minimized. For relatively higher frequency oscillations, n can be a larger odd integer. In alternative embodiments that produce workable results, the distance D is such that n is in the range of plus (+) or minus (-) 0.5 of an odd integer (0.5 to 1.5, 2.5 to 3.5, 4.5 to 5.5, 6.5 to 7.5, etc.). In other words, the oscillations are in the ranges of 45 to 135 degrees, 225 to 315 degrees, etc. In other alternative embodiments that produce workable results, the distance D is such that n is in the range of plus (+) or minus (-) 0.25 of an odd integer (i.e., 0.75 to 1.25, 2.75 to 3.25, 4.75 to 5.25, 6.75 to 7.25, etc.). In other words, the oscillations are in the ranges of 67.5 to 157.5 degrees, 247.5 to 337.5 degrees, etc. In this way, when the ultrasonic oscillations 18 reach the interface surface of the material 20, even though they are not at maximum amplitude A, they are still close enough to it (and within the workable and/or preferred decibel ranges) for acceptable boundary layer disruption.」
(訳:[0061]図5に示すように、超音波トランスデューサ16は、出口46(超音波が発射されている)が乾燥される材料20の界面サーフェスから距離Dだけ離れた位置に配置される。距離Dが約(λ)(n/4)、λは超音波振動18の波長であり、nは奇数の整数(1、3、5、7など)であることが好ましい。このようにして、超音波振動18は、おおよそ最大振幅Aで材料20の表面に到達し、最大振幅Aは、境界層の破壊を最大にして、水/溶媒蒸発速度を増加させる。比較的低い周波数の振動の場合、距離Dは、好ましくは、nは1または3であり、最も好ましくはnが1であり、距離Dが最小となるようにする。比較的高い周波数の振動の場合、nは、より大きな奇数の整数とすることができる。実行可能な結果を生成する代替の実施形態では、距離Dはnが奇数の整数のプラス(+)又はマイナス(-)-0.5の範囲内(0.5?1.5、2.5?3.5、4.5?5.5、6.5?7.5など)である。換言すれば、振動は45?135度、225?315度の範囲内にある。実行可能な結果を生成する他の代替的な実施形態において、距離Dはnが奇数の整数のプラス(+)又はマイナス(-)-0.25の範囲内(0.75?1.25、2.75?3.25、4.75?5.25、6.75?7.25など)である。換言すれば、振動は67.5?157.5度、247.5?337.5度の範囲内にある。このようにして、超音波振動18は、材料20の表面に到達すると、それらは、最大振幅Aでないとしても、 (実行可能及び/又は好ましいデシベル範囲内おいて) 許容可能な境界層を崩壊のために最大振幅Aに十分近い。)

「[0062] In order for the ultrasonic transducer 16 to be spaced from the material 20 in this way, the apparatus 10 can be provided with a register surface fixing the distance D. For example, the register surface can be provided by a flat sheet and the material 20 can be conveyed across it on a conveyor belt driven by drive rollers before and after the sheet. Or the register surface can be provided by one or more rollers that support the material directly, by a conveyor belt supporting the material 20, or by another surface know to those skilled in the art. In any event, the register surface is spaced the distance D from the ultrasonic transducer 16 (or positioned slightly more than the distance D from the ultrasonic transducer to account for the thickness of the material 20 and the conveyor belt). Embodiments without a register surface are typically used when the material is web-based, otherwise self-supporting, or tensioned by conventional tensioning mechanisms.」
(訳:[0062]超音波トランスデューサ16が、このようにして材料20から間隔を置いて配置されるために、装置10は、距離Dを固定する位置決め面を設けることができる。例えば、位置決め面は、表面が平坦なシートによって提供されることが可能であり、材料20は、シートの前後で駆動ローラによって駆動される搬送ベルトによって伝達することができる。または、位置決め表面は、材料20を直接サポートする1つまたはそれ以上のローラーによって設けられ、材料20を支持するコンベアベルトによって設けられ、または当業者に知られている他の表面とすることができる。いずれにしても、位置決め面が超音波振動子16から距離D(または材料20およびコンベヤベルトの厚さを考慮するために、超音波トランスデューサからの距離Dよりやや長い距離)だけ離間している。位置決め面なしの実施形態は、材料20がウェブ状である、自己支持型である、または慣用的なテンション機構によって張力がかけられている場合に、典型的に使用される。)






FIG.5」

上記FIG.1から、以下のことが明らかである。
材料20は、第1面と、該第1面の反対側の第2面を具え、超音波トランスデューサ16、空気供給筐体12及び空気回収筐体14が、材料20の一方の面に対向すること。


(2)引用例1に記載された発明
上記(1)の各記載事項を総合すると、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「乾燥させるべき材料20(the material 20 to be dried)を乾燥させる乾燥システム(drying systems)であって、
前記材料20は、コンベアシステム34によって運ばれ、第1面と、該第1面の反対側の第2面を具え、
前記材料20は、インクが付けられた紙等であり、
前記材料20の一方の面に対向する少なくとも一つの超音波トランスデューサ16(The ultrasonic transducer 16)を含む乾燥装置10(The drying apparatus 10)と、
前記材料20の前記一方の面に対向して位置して、加熱された空気流22を前記材料20に供給する空気供給筐体12(an air-delivery enclosure 12)と、
湿った空気24を前記材料20から引き離し、前記材料20の前記一方の面に対向して位置する空気回収筐体14(an air-return enclosure 14)と、を有し、
前記超音波トランスデューサ16と前記材料20との距離が、λが超音波の波長、nが奇数である、λ×n/4である、
システム。」

2 引用例2
(1)引用例2に記載された事項
引用例2には、次の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】
光学製品及び液晶関連部材等は、高精度に塗布し、乾燥する必要があるので、塗布がなされた後に、塗膜面を乱すことなく塗膜の乾燥が行われる必要がある。そのために、ウェブの表面に形成された塗膜面の上から直接熱風を吹き付けられることのないように、ウェブの裏面から熱風を吹き付けて乾燥することによって塗膜面の乱れを防止する塗膜乾燥装置が使用される。」

「【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を挙げて、詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態による塗膜乾燥給気ノズルを備えた塗膜乾燥装置の構成及び塗膜乾燥装置の動作を示す模式図である。以下、前述した従来技術と同様の機能を果たす部分には、同一符号を付して、重複する説明を適宜省略する。塗膜乾燥措置10は、被塗布物としてのウェブ16を塗工するコート部11と、塗工したウェブ16を乾燥する乾燥炉12と、ウェブ16を張力一定のまま走行させる複数のロール13a?13cとを備えている。
【0013】
乾燥炉12は、内部に、ウェブ下面給気ノズル14と、排気ノズル15とを備えている。ウェブ下面給気ノズル14は、ウェブ16の下面の近傍で、ウェブ16の進行方向に向かって、一定の間隔をおいて複数設けられたノズルである。また、ウェブ下面給気ノズル14は、その長手方向が、ウェブ16の進行方向と直交するように設けられている。排気ノズル15は、気体給気部としてのウェブ下面給気ノズル14から排出された熱風を乾燥炉12の外部へと排出するノズルである。
【0014】
図2は、図1の塗膜乾燥給気ノズルの構成及び熱風の流路を示す拡大模式図である。ウェブ下面給気ノズル14は、熱風ノズル14aと、熱風給気部14bと、から構成される。熱風給気部14bは、熱風ノズル14aの熱風出口の全面を覆い、多孔質部材を備えている。多孔質部材は、多孔質燒結体材料で構成される。多孔質燒結体材料とは、粉末又は圧粉粒子を加熱して結合させ、内部に多数の細孔又は空げきを形成した材料をいう。本実施形態では、多孔質燒結体材料としては、アルミニウム、亜鉛、銅等を用い、多孔の度合いを示す空げき率が50%以下、厚み3?30mm、孔の大きさ0.1?1mm、風速0.5?20m/sのものを用いる。
【0015】
次に、本実施形態にかかるウェブ下面給気ノズル14による塗膜乾燥の動作について説明する。ウェブ16は、図1で示すように、ロール13aに巻かれて張力一定のまま走行し、コート部11で塗工され、ロール13bを介して乾燥炉12内へと入る。
【0016】
ウェブ16は、乾燥炉12内に入ると、図2で示すように、熱風ノズル14a内を流れる乾燥用気体としての熱風が、熱風給気部14bを通過してウェブ16の裏面に吹き付けるので、ウェブ16の表面に塗布された塗膜17が乾燥されながら、図1及び図2の矢印X方向に走行する。
【0017】
熱風は、熱風給気部14bの多孔質燒結体材料を通過するときに、多孔が多孔質燒結体材料の内部で網目状に張り巡らされているために、網目の間を流動し、給気面の全面から熱風の給気が行われる。全面から給気されるので、広い流体断面積で給気される。また、網目状の孔は、熱風給気部14bの内部で複雑に入り組んでいるため、熱風は、流動している途中で、流路の至る所で衝突する。給気面積が大きいため、給気量が多くても風速は小さくする。このようにして、熱風は、低い流体速度で、広い流体断面積になって熱風供給部14bから吹き出し、ウェブ16の下面に矢印Aのように吹き付ける(乾燥工程)。
【0018】
本実施形態によれば、熱風給気部が多孔質燒結体材料を備えているので、低い流体速度及び広い流体断面積の熱風を導き出すことができる。熱風が低い流体速度になるために、ウェブ幅よりも広い部分の給気面から吹き出されても、熱風は、ウェブ16の上面に回り込むことがなく、塗膜17の面、特に、塗膜17の面における幅方向の両端部は、乱されることがなく乾燥されるようになる。また、熱風が広い流体断面積になるために、低風速でも広い面積のウェブを浮上させて乾燥することができる。更に、熱風が広い流体断面積になるために、乾燥効率が低下することはなく、風速が低いことにより乾燥効率が悪くなることはない。」

「【図1】



上記【図1】から、排気ノズル15がウェブ16の下面に設けられていることが明らかである。

(2)引用例2に記載された技術
上記(1)の各記載事項を総合すると、引用例2には、以下の発明(以下「引用例2技術」という。)が記載されていると認められる。
「ウェブ16の下面に設けられたウェブ下面給気ノズル14によりウェブ16の裏面に熱風を吹き付けて、ウェブ16の下面に設けられた排気ノズル15により熱風を外部へと排出して、ウェブ16の表面に塗布された塗膜17を乾燥させること。」

第5 対比・判断
1 引用発明と本願発明との対比
(ア)引用発明の「乾燥させるべき材料20」は、本願発明の「素材」に相当する。

(イ)引用発明の「乾燥させるべき材料20を乾燥させる乾燥システム」と、本願発明の「素材を間接的に乾燥させるためのシステム」とは、「素材を」「乾燥させるためのシステム」である点に限り、一致する。

(ウ)引用発明の「前記材料20は、」「第1面と、該第1面の反対側の第2面を具え」る点は、本願発明の「前記素材は」「第1面と、該第1面の反対側の第2面を具え」る点に相当する。

(エ)引用発明の「インク」は、本願発明の「被乾燥コーティング」に相当する。また、引用発明の「前記材料20は、インクが着けられた紙等であ」るから、インクが材料20のいずれかの面を少なくとも部分的に覆っていることは明らかである。また、引用発明においては「第1面」と「第2面」とに実質的な差異がないから、インクが着けられた方が「第2面」であるといえる。
そうすると、引用発明の「前記材料20は、インクが着けられた紙等であり」は、本願発明の「被乾燥コーティングが、前記素材の前記第2面を少なくとも部分的に覆い」に相当する。

(オ)引用発明の「前記材料20の一方の面に対向する少なくとも一つの超音波トランスデューサ16を含む乾燥装置10」と、本願発明の「前記素材の第1面に対向する少なくとも一つの超音波変換器を具えた音響ヘッド」とは、「前記素材の」「面に対向する少なくとも一つの超音波変換器を具えた音響ヘッド」である点に限り、一致する。

(カ)引用発明の「前記材料20の前記一方の面に対向して位置して、加熱された空気流22を前記材料20に供給する空気供給筐体12」と、本願発明の「前記素材の第1面に対向して位置する空気送込みユニット」とは、「前記素材の」「面に対向して位置する空気送込みユニット」である点に限り、一致する。

(キ)引用発明の「湿った空気24」は、空気供給筐体12によって送られ、前記一方の面に当てられた空気であることは明らかである。
そうすると、引用発明の「湿った空気24を前記材料20から引き離し、前記材料20の前記一方の面に対向して位置する空気回収筐体14」と、本願発明の「前記空気送込みユニットによって送られ、前記第1面に当てられた気流を吸込む、該第1面に対向して位置する排気筐体」とは、「前記空気送込みユニットによって送られ、」「面に当てられた気流を吸込む、」「面に対向して位置する排気筐体」である点に限り、一致する。

(ク)引用発明の「前記超音波トランスデューサ16と前記材料20との距離が、λが超音波の波長、nが奇数である、λ×n/4である」は、本願発明の「前記超音波変換器からの音波の出口と前記素材の間の離間距離が、λが前記音波の波長、nが奇数の整数±0.5の範囲にあるλ×n/4に調整されている」に相当する。

(ケ)引用発明の「システム」は、本願発明の「システム」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「素材を乾燥させるためのシステムであって、
前記素材は、第1面と、該第1面の反対側の第2面を具え、
被乾燥コーティングが、前記素材の前記第2面を少なくとも部分的に覆い、さらに、
前記素材の面に対向する少なくとも一つの超音波変換器を具えた音響ヘッドと、
前記素材の面に対向して位置する空気送込みユニットと、
前記空気送込みユニットによって送られ、前記面に当てられた気流を吸込む、該面に対向して位置する排気筐体を有し、
前記超音波変換器からの音波の出口と前記素材の間の離間距離が、λが前記音波の波長、nが奇数の整数±0.5の範囲にあるλ×n/4に調整されている、
システム。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本願発明においては、「素材はウェブ状基質からなり」、「素材を間接的に乾燥させる」ものであり、超音波変換器、空気送込みユニット及び排気筐体が、いずれも「第1面に対向」しているのに対し、引用発明においては、「材料20は、コンベアシステム34によって運ばれ」、材料20を間接的に乾燥させるか不明であり、超音波トランスデューサ16、空気供給筐体12及び空気回収筐体14が、いずれも第1面に対向しているか不明である点。

2 相違点に関する判断
引用例2技術は、「ウェブ16の裏面に熱風を吹き付けて、」「ウェブ16の表面に塗布された塗膜17を乾燥させる」ものであるから、ウェブ16を間接的に乾燥させるものであるといえる。
引用発明と引用例2技術とは、対象物の一方の面から給気装置により熱風を吹き付けて、前記一方の面から排気装置により熱風を排気して、対象物を乾燥させる点で共通するものである。そして、引用例1の[0051]には、材料20は加熱及び乾燥が必要とされるものであれば何でも良いことが記載されていて、[0062]には、材料20としてウェブ状のものを用いることが示唆されている。さらに、引用発明は、熱風を吹き付ける面が、被乾燥コーティングが覆う面(第2面)と、覆わない面(第1面)とのどちらであるか特定されていない。
そうしてみると、引用発明に引用例2技術を適用して、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者にとって容易である。

3 本願発明の効果
本願発明の効果は、引用発明及び引用例2技術に基いて、当業者が予測できる範囲を超えるものではない。
特に、引用例2の【0002】には、「ウェブの裏面から熱風を吹き付けて乾燥することによって塗膜面の乱れを防止する」ことが記載されているから、塗膜面の乱れが防止されることは、引用例2技術に基づいて当業者が予測できる。

4 小括
上記1ないし3の検討によれば、本願発明は、引用発明及び引用例2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 請求人の主張について
請求人は、令和2年11月20日に提出した意見書において、「本願発明1は、(中略)加熱により間接的に素材を乾燥する際に起こり得る問題が生じないという顕著な効果を有します。」と主張している(以下、「主張1」という。)。
しかしながら、本願の特許請求の範囲に記載された事項は、「加熱により間接的に素材を乾燥する」ことを除外するものではない。また、本願の明細書【0055】には、「図1のシステムの多くの実施例では、以下の装置及び方法が、塗布、乾燥、及び塗布の前若しくは後、又は塗布前後のコーティング1330の特性を評価するために用いられた。(中略)・送風機:音響乾燥ヘッドと同様に、音響乾燥システムもまた再生可能な送風機から構成された。・送風機速度調整: 送風機の速度は HTI製の電気操作パネル、温度調節器と熱電対によってコントロールされた温度調節器を持っているHTIによって設計された直列の16キロワットのエアーヒーターの中に組込まれた可変周波数(VFD)を使ってコントロールされる。」と記載されており、【0057】には「図2には、ヒーター280をさらに具えた音響乾燥システム100’の第2実施例の概略図が示されている。(中略)音響ヘッド120に入る前に、ブロアファン275からの空気が、気温291でヒーター280に入って、気温292でヒーター280から離れることが示されている。」、【0058】には「コントロールパネル260への入力は、ブロアファン275の出口の圧力285、及びヒーター280の温度290である。素材1300の表面の気圧、気温292、及び音波250の波長、又はシステムの他の特性値は、被乾燥素材1300及び/又はコーティング1330に基づいて、コントロールパネル260で制御され得る。」(なお、下線は当審が付した。)と記載されている。さらに、本願の請求項1を間接的に引用する請求項10には「空気温度を定める入力」を用いることが記載されていることを踏まえると、本願発明は、「加熱により間接的に素材を乾燥する」ものを含んでいると認められる。そうすると、請求人が主張する「加熱により間接的に素材を乾燥する際に起こり得る問題が生じない」という効果は認められない。
仮に、「加熱により間接的に素材を乾燥する」ものを含んでいる本願発明が「加熱により間接的に素材を乾燥する際に起こり得る問題が生じない」という効果を奏するとすれば、引用発明に引用例2技術を適用したものも同様の効果を奏するといえる。
したがって、請求人の主張1は採用できない。

請求人は、同意見書において「引用文献2には、ウェブ16を間接的に乾燥させる発明が記載されていますが、その乾燥手段は気体の給気が前提の熱風を吹き付けるものであって、引用発明1のように加熱できない物質にも応用可能な超音波を用いて乾燥させるものではありません。」として、「超音波による乾燥装置の発明である引用発明1に、引用文献2に記載の間接的とは言え、乾燥のために熱風を吹き付けるだけの構成を適用しようとする動機づけがありません。」と主張している(以下、「主張2」という。)。
しかしながら、引用例1の[0050]には、「the delivery enclosure 12 delivers a heated airflow 22 onto the material」(空気供給筐体12は、加熱された空気流22を材料20に供給する)と記載され、[0051]には、「Thus, the material 20 can be any substance or object for which heating and drying is desired.」(このように、材料20は、加熱および乾燥が所望される任意の物質または物体とすることができる。)と記載されている。そして、引用発明は、「前記材料20の前記一方の面に対向して位置して、加熱された空気流22を前記材料20に供給する空気供給筐体12」を有するものである。
そして、引用発明と、引用例2技術とは、対象物の一方の面から給気装置により熱風を吹き付けて、前記一方の面から排気装置により熱風を排気して、対象物を乾燥させる点で共通するという点で共通するから、引用発明に引用例2記載技術を適用する動機付けがある。
仮に、引用発明が「加熱できない物質にも応用可能な超音波を用いて乾燥させるもの」であるとしても、上記のとおり、加熱できる物質に使用可能なものであることに変わりなく、引用例2技術を適用する阻害事由とはならない。
したがって、請求人の主張2は採用できない。

請求人は、同意見書において「本願発明1の説明において述べたとおり、引用文献2に記載のような、コーティングされた側の裏面を加熱すること(非音響的にエネルギーを与えられた空気を吹き付けること)は、固形スキンや気泡、膨れの形成を導き、送込まれる空気がコーティングと直接相互作用することができないため、乾燥を速める効果が少ないという課題を有している以上、当業者が、引用発明1に、熱風を吹き付けるという引用文献2に記載の事項を適用しようとすることは考えられません。」と主張している(以下、「主張3」という。)。
しかしながら、引用例1及び引用例2には、裏面を加熱することの課題が明記されていないから、当該課題は、引用発明に引用例2技術を適用することの阻害事由とはならない。さらに、上記主張1についての検討で述べたとおり、本願発明は「加熱により間接的に素材を乾燥する」(コーティングされた側の裏面を加熱する)ものを含んでいるから、当該課題は、引用発明に引用例2技術を適用することの阻害事由であるとはいえない。
したがって、請求人の主張3は採用できない。

6 まとめ
上記1ないし5の検討によれば、本願発明は、引用発明及び引用例2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-12-24 
結審通知日 2020-12-25 
審決日 2021-01-15 
出願番号 特願2017-521055(P2017-521055)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F26B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河内 誠黒田 正法  
特許庁審判長 平城 俊雅
特許庁審判官 山田 裕介
林 茂樹
発明の名称 間接的な音響乾燥システム及び方法  
代理人 木下 洋平  
代理人 亀卦川 巧  

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