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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60R
管理番号 1374652
審判番号 不服2020-15302  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-04 
確定日 2021-06-29 
事件の表示 特願2017-66121号「ステアリングホイール用エアバッグ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月1日出願公開、特開2018-167681号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年3月29日の出願であって、令和2年2月20日付けで拒絶理由が通知され、同年4月16日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月27日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)され、これに対して、同年11月4日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1
・刊行物等1及び2、刊行物等2及び3

・請求項2及び3
・刊行物等1及び2

・請求項4
・刊行物等2及び3

[刊行物等]
1.特開2005-104323号公報
2.特開2007-320503号公報
3.実願平1-104688号(実開平3-43057号)のマイクロフィルム
以下、この順にそれぞれ「引用文献1」、「引用文献2」、「引用文献3」という。

第3 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、令和2年11月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりの発明である。
「 【請求項1】
内部に膨張用ガスを流入させて膨張し、膨張完了時にステアリングホイールを覆うように配置される構成のステアリングホイール用エアバッグであって、
膨張完了時に運転者側に配置される運転者側壁部と、該運転者側壁部と対向して前記ステアリングホイール側に配置される車体側壁部と、を備えて、該車体側壁部において前後左右の略中央となる位置に、前記膨張用ガスを内部に流入させるための流入用開口を、配設させ、
膨張完了時に、前記流入用開口の中心より前側となる前側部位を、上方側から見た状態において略半円形状とし、前記流入用開口の中心より後側となる後側部位を、上方側から見た状態において左右方向の幅寸法を略一定とした略長方形状として、構成されるとともに、
膨張完了時に運転者側に配置される前記運転者側壁部から構成されて、車両の前面衝突時に、前方移動する前記運転者を受け止め可能に構成される前突用受止面と、
膨張完了時における前記前突用受止面の左右両側において、前記ステアリングホイールのリング部を操舵している前記運転者の腕部付近に配置される腕拘束部と、
を、備える構成とされ、
前記前突用受止面が、膨張完了時に、前記ステアリングホイールのリング面に対して傾斜しつつ、鉛直方向に略沿って配置され、
前記腕拘束部が、膨張完了時に、略長方形状の前記後側部位における後端側の部位において前記リング部から左右に張り出すように構成されるとともに、前記リング部を操舵している運転者の前記腕部付近の内側に配置されて、車両の斜め衝突時若しくはオフセット衝突時に、前記腕部と接触して、前記運転者の斜め前方への移動を抑制可能に、構成されていることを特徴とするステアリングホイール用エアバッグ。
【請求項2】
袋状のバッグ本体と、該バッグ本体の内部に配置されて前記バッグ本体の膨張完了形状を規制するテザーと、を備える構成とされ、
前記バッグ本体が、前記前突用受止面を構成する運転者側壁部と、膨張完了時に前記運転者側壁部と対向して前記ステアリングホイール側に配置される車体側壁部と、を備えるとともに、該車体側壁部に、内部に膨張用ガスを流入させるための流入用開口を、配設させて構成され、
前記テザーが、前記バッグ本体の膨張完了時において、前記流入用開口よりも、前記ステアリングホイールを組み付けるステアリングシャフトの軸直交方向側における後方側となる領域の内部において、前記運転者側壁部と前記車体側壁部とを連結して、膨張完了時の前記バッグ本体の後部側領域の厚さを規制する構成とされていることを特徴とする請求項1に記載のステアリングホイール用エアバッグ。
【請求項3】
前記テザーが、前記流入用開口を中心として、略左右対称となる2箇所に配置されるとともに、それぞれ、帯状として、膨張完了時の前記バッグ本体を、前記ステアリングシャフトの軸方向に沿った上方側から見た状態で、左右の外方側に位置する端側縁部を、左右の内方側に位置する中央側縁部よりも前側に位置させるように、左右方向に対して傾斜して配置されていることを特徴とする請求項2に記載のステアリングホイール用エアバッグ。
【請求項4】
袋状のバッグ本体と、該バッグ本体の内部に配置されて前記バッグ本体の膨張完了形状を規制するテザーと、を備える構成とされ、
前記バッグ本体が、前記前突用受止面を構成する運転者側壁部と、膨張完了時に前記運転者側壁部と対向して前記ステアリングホイール側に配置される車体側壁部と、を備えるとともに、該車体側壁部に、内部に膨張用ガスを流入させるための流入用開口を、配設させて構成され、
前記テザーが、前記バッグ本体の膨張完了時における前記前突用受止面の略中央付近の平面状態を確保可能に、前記運転者側壁部における前記前突用受止面の略中央と、前記車体側壁部における前記流入用開口付近と、を連結するように、配置されていることを特徴とする請求項1に記載のステアリングホイール用エアバッグ。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審が付した。以下同様である。)。
(1a)
「【請求項1】
操舵時に把持するリング部を備えたステアリングホイールにおける前記リング部の中央付近のボス部に、折り畳まれて収納されるとともに、相互に外形形状を略等しくして膨張完了時の運転者側に配置される運転者側壁部とステアリングホイール側に配置されるホイール側壁部と、を備えて構成され、さらに、
前記ホイール側壁部の中央付近に、膨張用ガスの供給用とするとともに、周縁を前記ステアリングホイールへの取付部位とする開口が配設され、
該開口付近に、膨張完了時の前記運転者側壁部と前記ホイール側壁部との離隔距離を規制して、膨張完了時の厚さを規制する厚さ規制用テザーが、配設されているステアリングホイール用エアバッグであって、
膨張完了時における前記ステアリングホイールのリング部付近に、前記厚さ規制用テザーによる前記運転者側壁部と前記ホイール側壁部との離隔距離より短い長さで、前記運転者側壁部と前記ホイール側壁部との離隔距離を規制する揺動規制用テザーが、配設されていることを特徴とするステアリングホイール用エアバッグ。」
(1b)
「【0064】
・・・
「【図12】実施形態の他の変形例のエアバッグを示す図である。
【図13】図12に示すエアバッグの膨張完了時を示す側面図である。」
(1c)
図12及び図13は、以下のとおりである。

(2)引用文献1に記載された発明

摘記(1a)の請求項1に、「前記ホイール側壁部の中央付近に、膨張用ガスの供給用とするとともに、周縁を前記ステアリングホイールへの取付部位とする開口が配設され」ていると記載されていること、実施形態の他の変形例のエアバッグを示す図である図12及び図13のステアリングホイールWとエアバッグの位置関係(摘記(1b)、(1c)参照)を総合すると、上記請求項1の「該開口付近に、膨張完了時の前記運転者側壁部と前記ホイール側壁部との離隔距離を規制して、膨張完了時の厚さを規制する厚さ規制用テザーが、配設されているステアリングホイール用エアバッグ」は、「該開口付近に、膨張完了時の前記運転者側壁部と前記ホイール側壁部との離隔距離を規制して、膨張完了時の厚さを規制する厚さ規制用テザーが、配設されている」、内部に膨張用ガスを流入させて膨張し、膨張完了時にステアリングホイールを覆うように配置される構成のステアリングホイール用エアバッグであることが明らかである。

本願明細書の段落【0016】には、「なお、実施形態において、前後・上下・左右の方向は、特に断らない限り、車両Vに搭載されたステアリングホイールWの直進操舵時を基準とするものであり、ステアリングホイールWを組み付けるステアリングシャフトSS(図2参照)の軸方向に沿った上下を上下方向とし、ステアリングシャフトSSの軸直交方向である車両Vの前後を前後方向とし、ステアリングシャフトSSの軸直交方向である車両Vの左右を左右方向として、前後・上下・左右の方向を示すものである。」と記載されているところ、この記載に対応させると、引用文献1の図12における上下が前後であり、左右が左右であるといえるから、上記(ア)で述べた「前記ホイール側壁部の中央付近に、膨張用ガスの供給用とするとともに、周縁を前記ステアリングホイールへの取付部位とする開口が配設され」ている構成は、図12を参照すると、前記ホイール側壁部の前後左右の中央付近に、膨張用ガスの供給用とするとともに、周縁を前記ステアリングホイールへの取付部位とする開口が配設される構成であると認められる。

上記ア、イ及び摘記(1a)から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明A]
「操舵時に把持するリング部を備えたステアリングホイールにおける前記リング部の中央付近のボス部に、折り畳まれて収納されるとともに、相互に外形形状を略等しくして膨張完了時の運転者側に配置される運転者側壁部とステアリングホイール側に配置されるホイール側壁部と、を備えて構成され、さらに、
前記ホイール側壁部の前後左右の中央付近に、膨張用ガスの供給用とするとともに、周縁を前記ステアリングホイールへの取付部位とする開口が配設され、
該開口付近に、膨張完了時の前記運転者側壁部と前記ホイール側壁部との離隔距離を規制して、膨張完了時の厚さを規制する厚さ規制用テザーが、配設されている、内部に膨張用ガスを流入させて膨張し、膨張完了時にステアリングホイールを覆うように配置される構成のステアリングホイール用エアバッグであって、
膨張完了時における前記ステアリングホイールのリング部付近に、前記厚さ規制用テザーによる前記運転者側壁部と前記ホイール側壁部との離隔距離より短い長さで、前記運転者側壁部と前記ホイール側壁部との離隔距離を規制する揺動規制用テザーが、配設されている、
ステアリングホイール用エアバッグ。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
(2a)
「【請求項1】
車両の助手席前方におけるインストルメントパネルの上面側に折り畳まれて収納され、膨張用ガスの流入時に、上方へ突出するとともに、前記インストルメントパネル上面と前記インストルメントパネル上方のウィンドシールドとの間を塞ぐように、車両の後方側へ展開膨張する構成とされて、
膨張完了時の前端側下面の左右方向の中央付近となる位置に、膨張用ガスを流入させるガス流入口を備えるとともに、膨張完了時における後部側となる位置に、助手席に着座した乗員を受け止め可能とされる乗員保護部を備える構成の助手席用エアバッグにおいて、
前記乗員保護部が、
前記エアバッグの膨張完了時において、左右方向の中央に前方側に凹む凹部を介在させて、左右方向に略沿って並設されて、それぞれ後方側に突出するように配設される左右の突出拘束部を、備えた構成とされるとともに、下部側を上部側よりも左右の幅寸法を広くするように構成されて、上部側の部位の幅寸法を、左右の前記突出拘束部によって、それぞれ、前記乗員の左右の肩部を受け止め可能な幅寸法とし、かつ、下部側の部位の幅寸法を、左右の前記突出拘束部によって、それぞれ、前記乗員の両腕を保護可能な幅寸法として、構成されていることを特徴とする助手席用エアバッグ。
【請求項2】
左右の前記突出拘束部における後方側への突出頂部が、膨張完了時のエアバッグにおいて、後方から見て下方側へ末広がり状に、配設されていることを特徴とする請求項1に記載の助手席用エアバッグ。」
(2b)
「【0004】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、乗員の左右の肩部から腕にかけてを、的確に保護可能な助手席用エアバッグを提供することを目的とする。」
(2c)
「【0018】
乗員保護部23は、左右両側に並設されて上下方向に延びるように後方側へ突出する突出拘束部24(24L,24R)と、左右の突出拘束部24L,24R間で前方側に凹む凹部25と、を備えて構成されている。突出拘束部24L,24Rは、図8に示すように、エアバッグ15の膨張完了時において、下部側を上部側よりも左右の幅寸法を広くして、後方側から見て外形形状を略台形状とするように、構成されている。そして、実施形態のエアバッグ15では、膨張完了時の突出拘束部24L,24Rの上部側に配置されて、乗員MPの左右の肩部MSL,MSRの前方に位置する肩拘束領域24aの左右の幅寸法W1を、乗員MPの左右の肩部MSL,MSRを受け止め可能な幅寸法とし、膨張完了時の下部側であって肩拘束領域24aの下方に配置される腕拘束領域24bの左右の幅寸法W2を、乗員MPの左右の腕MAL,MARを保護可能な幅寸法として、構成されている(図8参照)。実施形態の場合、肩拘束領域24aは、膨張完了時のエアバッグ15における突出拘束部24L,24Rの上下の略中央付近となる部位から、構成されることとなる。また、実施形態の場合、各突出拘束部24L,24Rは、エアバッグ15の膨張完了時において、後方側への突出頂部24cを、図8に示すように、後方から見て下方側へ末広がりの略「ハ」の字状に配置させるように、構成されている。また、凹部25は、上部側部位25aよりも下部側部位25bを大きく前方側に凹ませるようにして、形成されている。膨張完了時におけるこの左右の突出拘束部24L,24Rの隆起した状態と、凹部25の凹んだ状態と、は、実施形態の場合、エアバッグ15の後側壁部15eから上側壁部15a及び下側壁部15bの領域内となる前方側に延びるように、車体側部16のガス流入口18近傍となる部位にかけて連続的に延設されて、後述する第1基布30の下側部位31の部位で、凹凸状態がおさまって平面状となっている(図2参照)。」
(2d)
図1?4、図8、図9は、以下のとおりである。

3 引用文献3について
(1)引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
(3a)
「そこで本考案は、自動車の衝突事故に際し、運転者の胸部および顔面を共に充分に保護できるようにすることを目的とする。」(明細書3ページ16?18行)
(3b)
「 【実 施 例】
以下、本考案の一実施例を添付の図面に基づいて具体的に説明する。
第3図において符号6は、自動車のステアリングホイールであり、その中心部にはカバー7に覆われてインフレータと共にエアバッグ(図示省略)が折り畳んで収納されている。一方、車体の適所にはコントロールユニット8およびこれに接続して自動車の前方衝突時の衝撃を感知する複数のセンサ9が配置され、このコントロールユニット8が図示省略した継電機構を介して上記インフレータに電気的に接続することでエアバッグシステムが構成されている。
前記エアバッグは、インフレータから噴出するガスによりステアリングホイール6と運転者3との間で瞬時に膨張するものであり、第1図、第2図に示すようにその中心部には円形のガス流入口10aが開口する。そしてこのエアバッグ10には、ガス流入口10aが開口するステアリングホイール6側の内面と、これに対向する運転者3側の内面との間に膨張時保形用の4本のストラップ10bないし10eが張設されている。
上記ストラップ10bないし10eはエアバッグ10のガス流入口10aの周縁部に4等配して同芯状に配置されるもので、エアバッグ10の中心部より下方に位置する左右2本の下部ストラップ10b、10cは、運転者3の胸部付近まで膨張できる範囲で長さが短く設定されている。
またエアバッグ10の中心部より上方に位置する左右2本の上部ストラップ10d、10eは、エアバッグ10の上部が運転者3の顔面近くまで充分大きく膨張し得るように下部ストラップ10b、10cより長さが長く設定されている。
以上の構成では、センサ9が自動車の衝突を検知すると、コントロールユニット8からの信号でインフレータがガスを噴出し、エアバッグ10が第4図のように運転者3側に向かって膨張する。その際、短い下部ストラップ10b、10cの存在により、エアバッグ10の下部は外周方向へ迅速に膨出してステアリングホイール6の下方に回り込む。そしてエアバッグ10の上部は長い上部ストラップ10d、10eにより運転者の顔面付近まで大きく膨張する。
そこで、衝突の反動により運転者が前方に移動するとき、エアバッグ10はその下部で運転者の胸部がステアリングホイール6下部へ衝突するのを充分に緩衝作用し、また運転者の頭部に加わる衝撃を大きく膨らんだ上部で充分に吸収する。
第5図は本考案の他の実施例を示す。これはエアバッグ10の中心部より上方に配置する前記上部ストラップ10d、10eは省略してエアバッグ10の中心部より下方に短い下部ストラップ10a、10bのみを張設したものである。
この実施例においても下部ストラップ10a、10bの存在によりエアバッグ10の下部はステアリングホイール6の下方に回り込み、エアバッグ10の上部は運転者の顔面付近まで大きく膨張するので、前記実施例と略同様の作用効果が得られる。」(明細書5ページ1行?7ページ17行)
(3c)
第1?3図、第5図は、以下のとおりである。

(2)引用文献3に記載された発明

摘記(3b)の「前記エアバッグは、インフレータから噴出するガスによりステアリングホイール6と運転者3との間で瞬時に膨張するものであり、第1図、第2図に示すようにその中心部には円形のガス流入口10aが開口する。」という記載と、第1図、第2図、第5図(摘記(3c))を併せて参照すると、エアバッグ10は、膨張完了時にステアリングホイールを覆うように配置される構成のエアバッグ10であることが明らかであり、インフレータから噴出するガスによりステアリングホイール6と運転者3との間で瞬時に膨張する、膨張完了時にステアリングホイールを覆うように配置される構成のエアバッグ10が認定できる。

(ア)
第1図、第2図を参照すると、摘記(3b)の「そしてこのエアバッグ10には、ガス流入口10aが開口するステアリングホイール6側の内面と、これに対向する運転者3側の内面との間に膨張時保形用の4本のストラップ10bないし10eが張設されている。」という記載における「ステアリングホイール6側の内面」及び「運転者3側の内面」は、それぞれ、実質的に、ステアリングホイール6側の壁部の内面及び運転者3側の壁部の内面であることが明らかである。
(イ)
本願の明細書の段落【0016】には、「なお、実施形態において、前後・上下・左右の方向は、特に断らない限り、車両Vに搭載されたステアリングホイールWの直進操舵時を基準とするものであり、ステアリングホイールWを組み付けるステアリングシャフトSS(図2参照)の軸方向に沿った上下を上下方向とし、ステアリングシャフトSSの軸直交方向である車両Vの前後を前後方向とし、ステアリングシャフトSSの軸直交方向である車両Vの左右を左右方向として、前後・上下・左右の方向を示すものである。」と記載されているところ、この記載に対応させると、引用文献1の第2図における上下が前後であり、左右が左右であるといえるから、第1図、第2図及び上記(ア)を踏まえると、摘記(3b)の「ガス流入口10aが開口するステアリングホイール6側」は、前後左右の略中央となる位置にガス流入口10aが開口するステアリングホイール6側の壁部であることが明らかである。
(ウ)
摘記(3b)の「第5図は本考案の他の実施例を示す。これはエアバッグ10の中心部より上方に配置する前記上部ストラップ10d、10eは省略してエアバッグ10の中心部より下方に短い下部ストラップ10a、10bのみを張設したものである。」という記載、及び、「エアバッグ10の中心部より下方に位置する左右2本の下部ストラップ10b、10c」という記載から、第5図の実施例では、摘記(3b)の「4本のストラップ10bないし10eが張設されている。」という構成は、エアバッグ10の中心部より下方に位置する左右2本の下部ストラップ10b、10cが張設されている構成として特定できる。
(エ)
これらのことを踏まえると、摘記(3b)の「前記エアバッグは、インフレータから噴出するガスによりステアリングホイール6と運転者3との間で瞬時に膨張するものであり、第1図、第2図に示すようにその中心部には円形のガス流入口10aが開口する。そしてこのエアバッグ10には、ガス流入口10aが開口するステアリングホイール6側の内面と、これに対向する運転者3側の内面との間に膨張時保形用の4本のストラップ10bないし10eが張設されている。」という記載から、前後左右の略中央となる位置にガス流入口10aが開口するステアリングホイール6側の壁部の内面と、これに対向する運転者3側の壁部の内面との間に、膨張時保形用の、エアバッグ10の中心部より下方に位置する左右2本の下部ストラップ10b、10cが張設されている構成が認定できる。

上記ア、イ及び摘記(3a)、(3b)から、引用文献3には、以下の発明(以下「引用発明B」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明B]
「インフレータから噴出するガスによりステアリングホイール6と運転者3との間で瞬時に膨張する、膨張完了時にステアリングホイールを覆うように配置される構成のエアバッグ10であって、
前後左右の略中央となる位置にガス流入口10aが開口するステアリングホイール6側の壁部の内面と、これに対向する運転者3側の壁部の内面との間に、膨張時保形用の、エアバッグ10の中心部より下方に位置する左右2本の下部ストラップ10b、10cが張設され、
エアバッグ10が運転者3側に向かって膨張する際、短い下部ストラップ10b、10cの存在により、エアバッグ10の下部は外周方向へ迅速に膨出してステアリングホイール6の下方に回り込み、エアバッグ10の上部は運転者の顔面付近まで大きく膨張する、
運転者3の胸部および顔面を共に充分に保護できるエアバッグ10。」

第5 対比・判断
1 引用文献1を主たる引用文献とした場合
1-1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明Aとを対比する。

引用発明Aの「運転者側壁部」、「ホイール側壁部」及び「開口」は、それぞれ、本願発明1の「運転者側壁部」、「車体側壁部」及び「流入用開口」に相当する。
そうすると、引用発明Aの「操舵時に把持するリング部を備えたステアリングホイールにおける前記リング部の中央付近のボス部に、折り畳まれて収納されるとともに、相互に外形形状を略等しくして膨張完了時の運転者側に配置される運転者側壁部とステアリングホイール側に配置されるホイール側壁部と、を備えて構成され」る構成は、本願発明1の「膨張完了時に運転者側に配置される運転者側壁部と、該運転者側壁部と対向して前記ステアリングホイール側に配置される車体側壁部と、を備えて」いる構成に相当する。
また、引用発明Aの「前記ホイール側壁部の前後左右の中央付近に、膨張用ガスの供給用とするとともに、周縁を前記ステアリングホイールへの取付部位とする開口が配設され」る構成は、本願発明1の「該車体側壁部において前後左右の略中央となる位置に、前記膨張用ガスを内部に流入させるための流入用開口を、配設させ」る構成に相当する。

引用発明Aの「膨張完了時の運転者側に配置される運転者側壁部」は、車両の前面衝突時に、前方移動する運転者を受け止め可能に構成される受止面として機能することが明らかであるから、引用発明Aの「膨張完了時の運転者側に配置される運転者側壁部」「を備えて構成され」る構成は、本願発明1の「膨張完了時に運転者側に配置される前記運転者側壁部から構成されて、車両の前面衝突時に、前方移動する前記運転者を受け止め可能に構成される前突用受止面」「を、備える構成」に相当する。

引用発明Aの「該開口付近に、膨張完了時の前記運転者側壁部と前記ホイール側壁部との離隔距離を規制して、膨張完了時の厚さを規制する厚さ規制用テザーが、配設されている、内部に膨張用ガスを流入させて膨張し、膨張完了時にステアリングホイールを覆うように配置される構成のステアリングホイール用エアバッグ」は、本願発明1の「内部に膨張用ガスを流入させて膨張し、膨張完了時にステアリングホイールを覆うように配置される構成のステアリングホイール用エアバッグ」に相当する。

以上から、本願発明1と引用発明Aとの一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点A>
「内部に膨張用ガスを流入させて膨張し、膨張完了時にステアリングホイールを覆うように配置される構成のステアリングホイール用エアバッグであって、
膨張完了時に運転者側に配置される運転者側壁部と、該運転者側壁部と対向して前記ステアリングホイール側に配置される車体側壁部と、を備えて、該車体側壁部において前後左右の略中央となる位置に、前記膨張用ガスを内部に流入させるための流入用開口を、配設させ、
膨張完了時に運転者側に配置される前記運転者側壁部から構成されて、車両の前面衝突時に、前方移動する前記運転者を受け止め可能に構成される前突用受止面、
を、備える構成とされる、
ステアリングホイール用エアバッグ。」
<相違点A>
本願発明1は、
「膨張完了時に、前記流入用開口の中心より前側となる前側部位を、上方側から見た状態において略半円形状とし、前記流入用開口の中心より後側となる後側部位を、上方側から見た状態において左右方向の幅寸法を略一定とした略長方形状として、構成されるとともに、」
「膨張完了時における前記前突用受止面の左右両側において、前記ステアリングホイールのリング部を操舵している前記運転者の腕部付近に配置される腕拘束部、
を、備える構成とされ、
前記前突用受止面が、膨張完了時に、前記ステアリングホイールのリング面に対して傾斜しつつ、鉛直方向に略沿って配置され、
前記腕拘束部が、膨張完了時に、略長方形状の前記後側部位における後端側の部位において前記リング部から左右に張り出すように構成されるとともに、前記リング部を操舵している運転者の前記腕部付近の内側に配置されて、車両の斜め衝突時若しくはオフセット衝突時に、前記腕部と接触して、前記運転者の斜め前方への移動を抑制可能に、構成されている」のに対して、
引用発明Aは、
「膨張完了時における前記ステアリングホイールのリング部付近に、前記厚さ規制用テザーによる前記運転者側壁部と前記ホイール側壁部との離隔距離より短い長さで、前記運転者側壁部と前記ホイール側壁部との離隔距離を規制する揺動規制用テザーが、配設されている」点。

(2)判断
相違点Aについて、以下検討する。

(ア)
摘記(2a)、(2c)から、引用文献2には、
「車両の助手席前方におけるインストルメントパネルの上面側に折り畳まれて収納され、膨張用ガスの流入時に、上方へ突出するとともに、前記インストルメントパネル上面と前記インストルメントパネル上方のウィンドシールドとの間を塞ぐように、車両の後方側へ展開膨張する構成とされて、
膨張完了時の前端側下面の左右方向の中央付近となる位置に、膨張用ガスを流入させるガス流入口を備えるとともに、膨張完了時における後部側となる位置に、助手席に着座した乗員を受け止め可能とされる乗員保護部23を備える構成の助手席用エアバッグにおいて、
前記乗員保護部23が、
前記エアバッグの膨張完了時において、左右方向の中央に前方側に凹む凹部を介在させて、左右方向に略沿って並設されて、それぞれ後方側に突出するように配設される左右の突出拘束部24L,24Rを、備えた構成とされるとともに、下部側を上部側よりも左右の幅寸法を広くするように構成されて、上部側の部位の幅寸法W1を、左右の前記突出拘束部によって、それぞれ、前記乗員の左右の肩部を受け止め可能な幅寸法とし、かつ、下部側の部位の幅寸法W2を、左右の前記突出拘束部によって、それぞれ、前記乗員の両腕を保護可能な幅寸法として、構成され、
左右の前記突出拘束部24L,24Rにおける後方側への突出頂部24cが、膨張完了時のエアバッグにおいて、後方から見て下方側へ末広がり状に、配設されている、
助手席用エアバッグ。」(以下「引用文献2に記載された技術事項」という。)が記載されていると認められる。
(イ)
ここで、摘記(2c)の「突出拘束部24L,24Rは、図8に示すように、エアバッグ15の膨張完了時において、下部側を上部側よりも左右の幅寸法を広くして、後方側から見て外形形状を略台形状とするように、構成されている」という記載と、図8とを併せて参照すると、引用文献2に記載された技術事項は、「前記乗員保護部23が、前記エアバッグの膨張完了時において、左右方向の中央に前方側に凹む凹部を介在させて、左右方向に略沿って並設されて、それぞれ後方側に突出するように配設される左右の突出拘束部24L,24Rを、備えた構成とされるとともに、下部側を上部側よりも左右の幅寸法を広くするように構成されて、上部側の部位の幅寸法W1を、左右の前記突出拘束部によって、それぞれ、前記乗員の左右の肩部を受け止め可能な幅寸法とし、かつ、下部側の部位の幅寸法W2を、左右の前記突出拘束部によって、それぞれ、前記乗員の両腕を保護可能な幅寸法として、構成され、左右の前記突出拘束部24L,24Rにおける後方側への突出頂部24cが、膨張完了時のエアバッグにおいて、後方から見て下方側へ末広がり状に、配設されている」ことから、上記相違点Aに係る本願発明1の「膨張完了時に、前記流入用開口の中心より前側となる前側部位を、上方側から見た状態において略半円形状とし、前記流入用開口の中心より後側となる後側部位を、上方側から見た状態において左右方向の幅寸法を略一定とした略長方形状として、構成される」構成、及び、「前記腕拘束部が、膨張完了時に、略長方形状の前記後側部位における後端側の部位において前記リング部から左右に張り出すように構成されるとともに、前記リング部を操舵している運転者の前記腕部付近の内側に配置されて、車両の斜め衝突時若しくはオフセット衝突時に、前記腕部と接触して、前記運転者の斜め前方への移動を抑制可能に、構成されている」構成を備えるものではない。

(ア)
運転席用のエアバッグと助手席用のエアバッグとでは、保護対象となる人の姿勢・状態が異なり、そのために、形状・大きさなどの構造が異なることは、技術常識である。
この技術常識に鑑みると、「ステアリングホイール用エアバッグ」すなわち運転席用のエアバッグの発明である引用発明Aに、助手席用のエアバッグに関する引用文献2に記載された技術事項を、直ちに適用できるというものではなく、引用発明Aに、引用文献2に記載された技術事項を適用する動機付けはないといえる。
(イ)
また、仮に、引用発明Aに、引用文献2に記載された技術事項を適用して、上記相違点Aに係る本願発明1の「前記腕拘束部が、膨張完了時に、略長方形状の前記後側部位における後端側の部位において前記リング部から左右に張り出すように構成されるとともに、前記リング部を操舵している運転者の前記腕部付近の内側に配置されて、車両の斜め衝突時若しくはオフセット衝突時に、前記腕部と接触して、前記運転者の斜め前方への移動を抑制可能に、構成されている」構成にしようとすると、両腕間でエアバッグを展開させる必要があり、引用文献2に記載された技術事項において、「前記乗員保護部23が」、「下部側を上部側よりも左右の幅寸法を広くするように構成されて、上部側の部位の幅寸法W1を、左右の前記突出拘束部によって、それぞれ、前記乗員の左右の肩部を受け止め可能な幅寸法とし、かつ、下部側の部位の幅寸法W2を、左右の前記突出拘束部によって、それぞれ、前記乗員の両腕を保護可能な幅寸法として、構成され」という構成を備えないものとする必要があるから、また、その構成を備えないようにすると、引用文献2の「助手席用エアバッグでは、乗員の左右の肩部から腕にかけてを、的確に保護することができる」という課題が解決できなくなるから、引用発明Aに、引用文献2に記載された技術事項を適用することには、阻害要因が存在する。
(ウ)
さらに、上記ア(イ)のとおりであるから、引用発明Aに、引用文献2に記載された技術事項を適用しても、上記相違点Aに係る本願発明1の構成には至らない。
(エ)
したがって、引用発明Aに、引用文献2に記載された技術事項を適用して、上記相違点Aに係る本願発明1の構成を想到することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

(3)小括
よって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明(引用発明A)及び引用文献2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

1-2 本願発明2?4について
本願発明2?4は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものであるから、本願発明1と同様に、引用文献1に記載された発明(引用発明A)及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 引用文献3を主たる引用文献とした場合
2-1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明Bとを対比する。

引用発明Bの「エアバッグ10」は、「インフレータから噴出するガスによりステアリングホイール6と運転者3との間で瞬時に膨張する」から、本願発明1の「ステアリングホイール用エアバッグ」に相当する。
そうすると、引用発明Bの「インフレータから噴出するガスによりステアリングホイール6と運転者3との間で瞬時に膨張する、膨張完了時にステアリングホイールを覆うように配置される構成のエアバッグ10」は、本願発明1の「内部に膨張用ガスを流入させて膨張し、膨張完了時にステアリングホイールを覆うように配置される構成のステアリングホイール用エアバッグ」に相当する。

引用発明Bの「ガス流入口10a」、「ステアリングホイール6側の壁部」及び「運転者3側の壁部」は、それぞれ、本願発明1の「流入用開口」、「ステアリングホイール側に配置される車体側壁部」及び「運転者側壁部」に相当する。
このことと、上記アを踏まえると、引用発明Bの「前後左右の略中央となる位置にガス流入口10aが開口するステアリングホイール6側の壁部の内面と、これに対向する運転者3側の壁部の内面との間に、膨張時保形用の、エアバッグ10の中心部より下方に位置する左右2本の下部ストラップ10b、10cが張設され」る構成は、本願発明1の「膨張完了時に運転者側に配置される運転者側壁部と、該運転者側壁部と対向して前記ステアリングホイール側に配置される車体側壁部と、を備えて、該車体側壁部において前後左右の略中央となる位置に、前記膨張用ガスを内部に流入させるための流入用開口を、配設させ」る構成に相当する。

引用発明Bの「エアバッグ10」は、「運転者3の胸部および顔面を共に充分に保護できる」こから、引用発明Bの「エアバッグ10」が備えている「運転者3側の壁部」の構成は、車両の前面衝突時に、前方移動する運転者3を受け止め可能に構成される受止面として機能することが明らかである。
このことと、上記イを踏まえると、引用発明Bの「エアバッグ10」が備えている「運転者3側の壁部」の構成は、本願発明1の「膨張完了時に運転者側に配置される前記運転者側壁部から構成されて、車両の前面衝突時に、前方移動する前記運転者を受け止め可能に構成される前突用受止面」「を、備える構成」に相当する。

以上から、本願発明1と引用発明Bとの一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点B>
「内部に膨張用ガスを流入させて膨張し、膨張完了時にステアリングホイールを覆うように配置される構成のステアリングホイール用エアバッグであって、
膨張完了時に運転者側に配置される運転者側壁部と、該運転者側壁部と対向して前記ステアリングホイール側に配置される車体側壁部と、を備えて、該車体側壁部において前後左右の略中央となる位置に、前記膨張用ガスを内部に流入させるための流入用開口を、配設させ、
膨張完了時に運転者側に配置される前記運転者側壁部から構成されて、車両の前面衝突時に、前方移動する前記運転者を受け止め可能に構成される前突用受止面、
を、備える構成とされる、
ステアリングホイール用エアバッグ。」
<相違点B>
本願発明1は、
「膨張完了時に、前記流入用開口の中心より前側となる前側部位を、上方側から見た状態において略半円形状とし、前記流入用開口の中心より後側となる後側部位を、上方側から見た状態において左右方向の幅寸法を略一定とした略長方形状として、構成されるとともに、」
「膨張完了時における前記前突用受止面の左右両側において、前記ステアリングホイールのリング部を操舵している前記運転者の腕部付近に配置される腕拘束部、
を、備える構成とされ、
前記前突用受止面が、膨張完了時に、前記ステアリングホイールのリング面に対して傾斜しつつ、鉛直方向に略沿って配置され、
前記腕拘束部が、膨張完了時に、略長方形状の前記後側部位における後端側の部位において前記リング部から左右に張り出すように構成されるとともに、前記リング部を操舵している運転者の前記腕部付近の内側に配置されて、車両の斜め衝突時若しくはオフセット衝突時に、前記腕部と接触して、前記運転者の斜め前方への移動を抑制可能に、構成されている」のに対して、
引用発明Bは、
「エアバッグ10が運転者3側に向かって膨張する際、短い下部ストラップ10b、10cの存在により、エアバッグ10の下部は外周方向へ迅速に膨出してステアリングホイール6の下方に回り込み、エアバッグ10の上部は運転者の顔面付近まで大きく膨張する」点。

(2)判断
相違点Bについて、以下検討する。

引用文献2に記載された技術事項は、上記1-1(2)アのとおりである。

(ア)
上記1-1(2)イ(ア)で述べた技術常識に鑑みると、「ステアリングホイール用エアバッグ」(上記(1)ア参照)すなわち運転席用のエアバッグの発明である引用発明Bに、助手席用のエアバッグに関する引用文献2に記載された技術事項を、直ちに適用できるというものではなく、引用発明Bに、引用文献2に記載された技術事項を適用する動機付けはないといえる。
(イ)
また、仮に、引用発明Bに、引用文献2に記載された技術事項を適用して、上記相違点Bに係る本願発明1の「前記腕拘束部が、膨張完了時に、略長方形状の前記後側部位における後端側の部位において前記リング部から左右に張り出すように構成されるとともに、前記リング部を操舵している運転者の前記腕部付近の内側に配置されて、車両の斜め衝突時若しくはオフセット衝突時に、前記腕部と接触して、前記運転者の斜め前方への移動を抑制可能に、構成されている」構成にしようとすると、両腕間でエアバッグを展開させる必要があり、引用文献2に記載された技術事項において、「前記乗員保護部23が」、「下部側を上部側よりも左右の幅寸法を広くするように構成されて、上部側の部位の幅寸法W1を、左右の前記突出拘束部によって、それぞれ、前記乗員の左右の肩部を受け止め可能な幅寸法とし、かつ、下部側の部位の幅寸法W2を、左右の前記突出拘束部によって、それぞれ、前記乗員の両腕を保護可能な幅寸法として、構成され」という構成を備えないものとする必要があるから、また、その構成を備えないようにすると、引用文献2の「助手席用エアバッグでは、乗員の左右の肩部から腕にかけてを、的確に保護することができる」という課題が解決できなくなるから、引用発明Bに、引用文献2に記載された技術事項を適用することには、阻害要因が存在する。
(ウ)
さらに、引用文献2に記載された技術事項は、上記1 1-1(2)ア(イ)で述べたのと同様に、上記相違点Bに係る本願発明1の「膨張完了時に、前記流入用開口の中心より前側となる前側部位を、上方側から見た状態において略半円形状とし、前記流入用開口の中心より後側となる後側部位を、上方側から見た状態において左右方向の幅寸法を略一定とした略長方形状として、構成される」構成、及び、「前記腕拘束部が、膨張完了時に、略長方形状の前記後側部位における後端側の部位において前記リング部から左右に張り出すように構成されるとともに、前記リング部を操舵している運転者の前記腕部付近の内側に配置されて、車両の斜め衝突時若しくはオフセット衝突時に、前記腕部と接触して、前記運転者の斜め前方への移動を抑制可能に、構成されている」構成を備えるものではないから、引用発明Bに、引用文献2に記載された技術事項を適用しても、上記相違点Bに係る本願発明1の構成には至らない。
(エ)
したがって、引用発明Bに、引用文献2に記載された技術事項を適用して、上記相違点Bに係る本願発明1の構成を想到することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

(3)小括
よって、本願発明1は、引用文献3に記載された発明(引用発明B)及び引用文献2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2-2 本願発明2?4について
本願発明2?4は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものであるから、本願発明1と同様に、引用文献3に記載された発明(引用発明B)及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 原査定について
令和2年11月4日付けの手続補正により、本願発明1?4は、上記相違点Aあるいは上記相違点Bに係る本願発明の構成を有するものとなっており、上記第5で述べたとおり、拒絶査定において引用された引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-06-10 
出願番号 特願2017-66121(P2017-66121)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神田 泰貴  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 出口 昌哉
藤井 昇
発明の名称 ステアリングホイール用エアバッグ  
代理人 上田 千織  
代理人 安藤 敏之  
代理人 飯田 昭夫  
代理人 江間 路子  

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