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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05B
管理番号 1374671
審判番号 不服2020-974  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-24 
確定日 2021-06-10 
事件の表示 特願2017-17344「生産管理装置および生産状況表示方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年8月9日出願公開、特開2018-124849〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年2月2日に出願された特願2017-17344号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成31年 3月 8日付け:拒絶理由通知
令和 元年 5月16日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年10月28日付け:拒絶査定
令和 2年 1月24日 :審判請求書と同時に手続補正書の提出
令和 2年 8月19日付け:拒絶理由通知
令和 2年10月22日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による補正を「本件補正」という。)の提出

第2 本願発明
本件補正によって、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下の事項により特定されるとおりのものとなった。(下線は、補正箇所について請求人が付したものである。)
「【請求項1】
ワークに対して複数の生産設備で順に搬送および作業して生産物を生産する生産ラインの生産状況を管理する生産管理装置であって、
前記生産設備のそれぞれから生産情報を取得する設備情報取得部と、
前記生産ラインの生産状況を表示する表示部と、を備え、
前記表示部は、前記生産設備の設備情報とをそれぞれ表示する複数の設備情報区画を生産順序に従った並び方で表示し、さらに前記生産設備のそれぞれに対応して表示される複数のワーク情報区画にその生産設備にあるワークの在荷数を前記搬送レーン毎に表示し、
取得される前記生産情報には、ワークの識別情報が含まれ、
前記表示部は、入力デバイスに連動するポインタを表示し、前記ポインタが前記ワーク情報区画に重ね合わされたときに、当該ワーク情報区画に対応する前記生産設備にあるワークの前記識別情報を表示させる、生産管理装置。」
なお、本願発明は、本件補正前の請求項8の発明特定事項を、同補正前の請求項1に加えて限定し、新たな請求項1としたものであって、すなわち、本件補正前の請求項1を引用する請求項8に係る発明に該当する。

第3 当審拒絶理由
当審が、令和2年8月19日付けで通知した拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、「この出願の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
そして、補正前の請求項1に対して、以下の引用文献1に基づく理由(その1)、及び、以下の引用文献2及び3に基づく理由(その2)の2つの理由を通知した。
また、補正前の請求項4、5、6に対して、それぞれ下記引用文献4、2、5を追加的に提示するとともに、補正前の請求項8のうち、上記理由(その1)に係る請求項1ないし7のいずれかを引用するものに対して、以下の引用文献1、2、4及び5に基づく理由、並びに、上記理由(その2)に係る請求項1ないし7のいずれかを引用するものに対して、以下の引用文献1ないし5に基づく理由の2つの理由を通知した。

引用文献1:特開2004-94770号公報
引用文献2:特開2004-207762号公報
引用文献3:特開平11-320345号公報
引用文献4:特開平6-168250号公報
引用文献5:特開2011-90570号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、製品を複数工程で製造する場合の仕掛表示技術に係り、特に、工程毎にバッチサイズやリードタイムが異なる生産形態の場合や、製造工程中で物流数量が変わる生産形態の場合の仕掛表示技術にに関するものである。」

「【0005】
本発明の目的は複数の工程において、工程ごとにバッチサイズ、リードタイム又は物流数量が変化しても、工程毎の仕掛量を把握することができる仕掛表示技術を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明では仕掛可能容量をカップの容量に見立て、仕掛量をその中に貯まった水量にたとえ、仕掛容量をカップの高さを一定、横幅可変で表現することとし、仕掛量をその中に表示した。この表示装置又は表示方法にすれば、バッチサイズや製造リードタイムの違いによる変動量の違いは、カップの幅で吸収できる。また、工程間の物理数量の変化による仕掛量の大小も、カップの幅で吸収することが出来る。高さをそろえることにより、工程間の仕掛アンバランスが仕掛量の凸凹で判断できる。さらに、仕掛量を面積で表示するため、量的に仕掛把握が可能である。また、仕掛中の指定品種の部分だけ色を変えて強調表示できるようにした。これにより、着目品種がどこの工程に、どのくらい仕掛かっているかが把握できる。
好ましくは、工程ごとに生産予実績を表示し、生産予定にある品種、無い品種の区別を可能とする。さらに、仕掛量の推移をグラフ表示し、仕掛のトレンドの把握を行う。また、仕掛目標を設定出来るようにし、仕掛を持ちすぎか不足しているのかを判断可能とした。同様に、仕掛量と目標値の関係により仕掛の表示色を変えることにより、仕掛状態を把握しやすくした。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施の形態について、幾つかの実施例を用い、図を参照して説明する。
1.本発明の実施例におけるシステムの利用形態
図1は本発明による仕掛表示装置の画面構成の一実施例を示す平面図である。図において、画面120は図13に示す表示装置406上に表示された工程内の仕掛を表示する画面である。1201a?1201eは高さが同じであり、横幅が異なるU字状の表示図形であり、以下カップと呼ぶ。カップ1201a?1201dはそれぞれ工程1202a?1202d内の仕掛容量(カップで示すため、容量と表現したが、実際には数、数値である。)を、カップ1201eは製品倉庫1202eの仕掛量(又は数値)を表している。
【0008】
図2は仕掛目標設定画面の一実施例を示す平面図である。 図2においては、工程毎に、仕掛量が表示される。更に、工程毎に定められた目標仕掛量、警戒仕掛量、上限値仕掛量が表示される。
図1において、カップ1201a?1201e(以下、まとめて1201と言う)の横幅は、図2の仕掛容量設定画面160により設定された仕掛容量により決定される。
図1において、各A工程1202a?D工程1202d及び製品倉庫1202eについて、仕掛容量(最大の仕掛量)、目標仕掛量、警戒仕掛量、上限値仕掛量が定められ、画面表示される。
図1で、カップ1201の横幅は、物理的な仕掛棚収容量、仕掛をこの容量以下に押さえたいという目標値、工程内の処理能力などによって決定しても良い。カップ1201の高さは、どの工程における1202a?1202dカップでも、製品倉庫1202eにおけるカップ1201eでも一定にして、カップ間の量を簡単に比較することができるようにしている。仕掛表示は物流バランスモードと仕掛量監視モードの2種類を設け、モード選択ラジオボタン1208で選択することができる。各々のモードでは、カップ1201内に表示する仕掛の表示方法が異なる。物流バランスモードは、工程間の製品の流れ状況を把握する。その表示例を図3を用いて説明する。
【0009】
図3はカップを用いた仕掛量の表示方法を説明するための模式図であり、図3(a)は仕掛容量及び現在の仕掛量の表示例を、図3(b)は仕掛容量及選択された品種の仕掛量の表示例を示す。
物流バランスモードは、仕掛の流れを把握するもので、(1)全品種の仕掛量(または数値)、(2)選択された品種の仕掛量(又は数値)、(3)全品種の仕掛容量を表示する。図3において、カップ1201内の斜線で示した容量1301は工程内の仕掛量を表している。カップ1201内の数字1302は、分母に仕掛容量(200)、分子に現在の仕掛量(即ち、薄墨で表示した現在の仕掛量190)を表している。
図1の品種ドロップダウンリストボックス1204から、品種を選択すると、各工程の仕掛量中の、該当品種の仕掛量が図3(b)のように表示される。図3(b)において、2種類の斜線で表示されている量1303が選択された品種の仕掛量を示し、このように強調表示される。このとき、数字1304の分母は数字1302と同様に仕掛容量を示すが、分子は選択された品種のみを対象にした仕掛量(又は数値)となる。即ち、図3(a)の表示状態で品種ドロップダウンリストボックス1204から特定の品種を選択すると、図3(b)の表示に切り替わる。
【0010】
仕掛量監視モードは、工程内仕掛量が目標値に対しどのようになっているのかを把握するもので、(1)全品種の仕掛量(または数値)、(2)全品種の仕掛容量、(3)目標仕掛値、(4)警戒仕掛値、(5)上限仕掛値を表示する。
次に、図4を用いて、仕掛量監視モードの仕掛表示例について説明する。
図4はカップを用いた仕掛量の表示方法を説明するための模式図であり、図4(a)は仕掛値を目標仕掛値、警戒仕掛値及び上限仕掛値との関係で表示する例を示し、図4(b)?図4(d)はそれぞれ仕掛値が警戒仕掛値より小さい場合、仕掛値が警戒仕掛値超、上限仕掛値未満の場合、仕掛量が上限仕掛値以上の場合、それぞれ異なった色で表示する例を示す。」

「【0012】
また、カップ1201をクリックすると図5に示すように仕掛数の内訳画面140が表示される。
図5は本発明による表示装置における所定の工程の仕掛内訳画面の一実施例を示す平面図である。内訳画面には、品種およびその仕掛数、仕掛の合計が表示される。」

「【0016】
2.システム構成
図8は本発明による仕掛表示システムの一実施例を示すブロック図である。図において、1は複数の製造装置であり、例えば、所定の品種について、ある工程の最終の製造装置からの出力と次の工程における最終の製造装置からの出力に関するデータがデータ取得蓄積装置2に入力されることにより、仕掛量が把握できる。例えば、図1で、品種別に、C工程からの所定時間間隔における出力データとD工程からの所定時間間隔における出力データがデータ取得蓄積装置2に送付される。この場合、実際には、C工程の最終製造装置から、その出力データがデータ取得蓄積装置2に送付され、D工程における最終の製造装置から、そのの出力データがデータ取得蓄積装置2に送付される。これにより、データ取得蓄積装置2には、D工程における、品種別の仕掛量が蓄積される。このように、前の工程の最終の製造装置である第nの製造装置の所定の時刻間における出力データと次の工程の最終の製造装置である第n+1の製造装置の所定の時刻間における出力データとが品種別にデータ取得蓄積装置2に送付され、ここに品種別の仕掛量が蓄積される。データ取得蓄積装置2で取得された仕掛量に関するデータは仕掛情報DBに入力され、以前に蓄積されたデータに追加される。このように、データ取得蓄積装置2は、定期的に製造装置1より実績および仕掛情報を取得する。取得した情報は、仕掛情報DB3に蓄積する。また、仕掛情報DB3には、図2に示す仕掛目標設定画面160で設定された仕掛かり目標値も格納する。仕掛情報DB3からの情報はユーザの要求に応じてデータ取得蓄積装置2からネットワーク5を通して仕掛表示装置4に伝送され、表示される。」

「【0029】
以上述べたように、本発明では、高さが一定であるが、カップの横幅は各工程の最大仕掛容量に対応して決めているため、仕掛量を直感的に把握することができる。また、本方法をとることにより、工程の途中で、物理数量の変化により仕掛量が変化するのものについても、仕掛量を同一の基準で把握するように表示することができる。例えば、液晶パネルを製造する場合、当初6面取りのガラス1枚を仕掛量の単位としていたが、他の工程では、このガラスが6枚に分割されるため、仕掛量が異なってくる。従って、本発明は、いろいろな表示装置に応用することができる。
例えば、有料道路の混雑具合の表示に応用することができる。この場合、第1インターチェンジから第2インターチェンジ間の車の台数を仕掛量とする。カップ幅を、距離、車線数、スループットにより決める。そうすれば、インターチェンジ区間の流れの状態が一目でわかる。さらに、混雑がどの様に移動するかが予測可能である。
また、スキー場のリフトの、混雑状況の表示にも応用することができる。リフト待ち人数を仕掛量とする。カップの幅を、リフトの搬送能力により決める。そうすれば、待ち時間が仕掛量の高さにより表現され、異なるリフト間の待ち時間が比較できるようになる。」

2 引用文献1記載の技術的事項
上記1の記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
(1)引用文献1の仕掛表示装置4は、仕掛品(例えば【0029】記載のガラス)を、複数の工程(A?D工程)の製造装置で順に流して(【0001】、【0008】、【0016】、図1)、製品(例えば【0029】記載の液晶パネル)を製造する生産形態における仕掛品の流れ状況を把握し、あるいは仕掛量を監視するものであるから、この生産形態を管理するための情報を表示するものである。
(2)【0016】の記載からみて、データ取得蓄積装置2は、各工程における製造装置からの出力データが品種別に送付されて取得蓄積するものである。
(3)【0007】、【0008】の記載からみて、仕掛表示装置4の表示装置406は、工程内の仕掛を表示することで、工程間の流れ状況など、生産形態の状況を表示するものである。
(4)【0007】、【0008】、【0016】の記載、図1に示された並列するA,B工程に始まり、C工程、D工程を経過して製品倉庫に至る図示内容からみて、表示装置406は、画面120により、A?D工程の各工程について、各工程の工程名を工程アイコン1202として表示するとともに、U字状の表示図形であるカップ1201において、各工程の全品種あるいは選択された品種の仕掛量を図形及び数値で表示するものであると理解できる。したがって、表示装置406は、各工程の工程名をそれぞれ表示する複数の工程アイコン1202を生産順序に従った並び方で表示し、さらに各工程のそれぞれに対応して表示される複数のカップ1201にその工程にある仕掛量を工程毎に表示するものであることが、認められる。
(5) 上記(4)記載のとおり、仕掛量は品種毎に表示することができ、また、【0016】の記載からみて、データ取得蓄積装置2に各工程から品種別に送付されて取得蓄積される出力データには、仕掛品の品種を識別できる何らかの情報が含まれているといえる。そして、【0012】、図5の記載からみて、表示装置406は、カップ1201がクリックされたときに、当該カップ1201に対応する所定の工程の仕掛数の内訳画面140が表示されるが、この内訳画面140は、品種及びその仕掛数、仕掛品の合計を表示するから、工程にある仕掛品の品種の情報を表示させるものである。




3 引用発明
上記1及び2からみて、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「仕掛品を複数の工程の製造装置で順に流して製品を製造する生産形態の情報を表示する仕掛表示装置4であって、
前記各工程の製造装置のそれぞれから出力データを取得蓄積するデータ取得蓄積装置2と、
前記生産形態の状況を表示する表示装置406と、を備え、
前記表示装置406は、前記各工程の工程名をそれぞれ表示する複数の工程アイコン1202を生産順序に従った並び方で表示し、さらに前記各工程のそれぞれに対応して表示される複数のカップ1201にその工程にある仕掛量を工程毎に表示し、
取得される前記出力データには、仕掛品の品種の情報が含まれ、
前記表示装置406は、前記カップ1201がクリックされたときに、当該カップ1201に対応する前記工程の製造装置にある仕掛品の前記品種の情報を表示させる、仕掛表示装置4。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
(1)引用発明の「仕掛品」は本願発明の「ワーク」に相当し、以下同様に、「工程の製造装置」又は「工程」は「生産設備」に、「生産形態」は「生産ライン」に相当する。そして、引用発明の「仕掛品」を「順に流して製品を製造する」ことは、本願発明の「ワーク」を「順に搬送および作業して生産物を生産する」ことに相当する。また、本願発明の「管理」は、生産ラインに関する情報を表示することであるから、引用発明の「生産形態の情報を表示する仕掛表示装置4」は、本願発明の「生産ラインの生産状況を管理する生産管理装置」に相当する。
(2)引用発明の「出力データ」は本願発明の「生産情報」に相当し、以下同様に「データ取得蓄積装置2」は「設備情報取得部」に、「生産形態の状況」は「生産ラインの生産状況」に、「表示装置406」は「表示部」に相当する。
(3)引用発明の「各工程の工程名」は、各工程の製造装置によって行われる工程に関する情報といえるから、本願発明の「生産設備の設備情報」に相当し、以下同様に、「工程アイコン1202」は「設備情報区画」に、「カップ1201」は「ワーク情報区画」に、「仕掛量」は「ワークの在荷数」に相当する。また、引用発明の「工程毎に表示」することと、本願発明の「前記搬送レーン毎に表示」することは、「表示」する点で一致する。
(4)引用発明の「品種の情報」は、仕掛品がどの品種の製品のものであるかを示し、他の仕掛品との識別を可能とする情報であるから本願発明の「識別情報」に相当する。
(5)引用発明の「前記カップ1201がクリックされたときに」という事項は、クリックという動作が、入力デバイス(例えばマウス)に連動するポインタを、画面上に表示して、画面の特定箇所(例えばアイコン)に重ね合わせてから入力デバイスの操作部を押す動作であるから、本願発明の「入力デバイスに連動するポインタを表示し、前記ポインタが前記ワーク情報区画に重ね合わされたときに」という事項と対比すると、「入力デバイスに連動するポインタを表示し、前記ポインタを前記ワーク情報区画に重ね合わせて」という限りにおいて一致する。

2 一致点
したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
「ワークに対して複数の生産設備で順に搬送および作業して生産物を生産する生産ラインの生産状況を管理する生産管理装置であって、
前記生産設備のそれぞれから生産情報を取得する設備情報取得部と、
前記生産ラインの生産状況を表示する表示部と、を備え、
前記表示部は、前記生産設備の設備情報とをそれぞれ表示する複数の設備情報区画を生産順序に従った並び方で表示し、さらに前記生産設備のそれぞれに対応して表示される複数のワーク情報区画にその生産設備にあるワークの在荷数を表示し、
取得される前記生産情報には、ワークの識別情報が含まれ、
前記表示部は、入力デバイスに連動するポインタを表示し、前記ポインタを前記ワーク情報区画に重ね合わせて、当該ワーク情報区画に対応する前記生産設備にあるワークの前記識別情報を表示させる、生産管理装置。」

3 相違点
そして、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
(1)相違点1
本願発明では、「ワークの在荷数」を「搬送レーン毎」に表示するのに対して、引用発明1では、「搬送レーン毎」であるか不明な点。
(2)相違点2
表示部が、ワーク情報区画に対応する生産設備にあるワークの識別情報を表示させることに関して、本願発明では、「前記ポインタが前記ワーク情報区画に重ね合わされたとき」に表示させるのに対して、引用発明では、カップ1201がクリックされたときに表示させる点。

第6 判断
上記相違点について、判断する。
1 相違点1
以下、相違点1について検討する。
本願発明の「搬送レーン」は、技術常識を考慮すれば、各装置(各工程)に対応して設けられたワークの搬送手段をいうものと解される。
これに対して、引用発明は、仕掛品を複数の工程の製造装置で順に流して製品を製造する生産形態を対象としているから、製造装置に対応して仕掛品を搬送する必要があることは明らかであるところ、ワークを搬送するために、製造装置に対応して搬送手段を設けることは改めて例示するまでもない周知の技術的事項である。
したがって、引用発明において、各工程にある仕掛量を表示することに換えて、搬送レーン毎に仕掛量を表示することは、各工程の製造装置に対応して仕掛品の搬送手段を設けることに伴って、当業者が容易になし得るものである。

2 相違点2
相違点2について検討する。
まず、本願発明には、入力デバイスのクリック動作の有無については特定がないから、引用発明はポインタを重ね合わせてから、入力デバイスの操作部を押すクリック動作を行うものであるとしても、その点は実質的な相違点とは認められない。
続いて、仮に、本願発明が、ポインタをワーク情報区画に重ね合わせたときに、クリック動作を行うことなく、識別情報を表示させるものであるとしても、入力デバイスに連動して情報を提示する際に、クリック動作によって表示することも、クリック動作を伴わないで表示すること(マウスオーバーあるいはロールオーバーで知られる)も、GUIの分野における周知の技術的事項であることに鑑みれば、引用発明において、情報を提示する際に、操作者によるクリック動作を必要とするか否かは、操作者の負担、情報の重要性、表示装置における情報の見やすさ等に応じて、当業者が適宜選択する事項にすぎないものである。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

第7 請求人の主張について
1 請求人の主張の概要
請求人は、当審拒絶理由に対する令和2年10月22日提出の意見書で、概ね以下の主張をしている。
本願発明は、「前記表示部は、前記生産設備のそれぞれに対応して表示される複数のワーク情報区画にその生産設備にあるワークの在荷数を前記搬送レーン毎に表示し」、かつ、「前記ポインタが前記ワーク情報区画に重ね合わされたときに、当該ワーク情報区画に対応する前記生産設備にあるワークの前記識別情報を表示させる」ことを技術的特徴のひとつにしており、生産ラインの生産状況を作業者が直感的に把握することができるという独自の効果を有している。
これに対して、当審拒絶理由で引用した各引用文献には、本願発明の「前記表示部は、入力デバイスに連動するポインタを表示し、前記ポインタが前記ワーク情報区画に重ね合わされたときに、当該ワーク情報区画に対応する前記生産設備にあるワークの前記識別情報を表示させる」ことは開示も示唆もされておらず、引用文献1についても、各工程における仕掛量を視覚的に把握できることは開示されているが、本願発明のように「前記ポインタが前記ワーク情報区画に重ね合わされたときに、当該ワーク情報区画に対応する前記生産設備にあるワークの前記識別情報を表示させる」ことは開示も示唆もされていない。
また、本願発明は、図4にあるように生産ラインの生産状況として、生産設備にあるワークの在荷数を搬送レーン毎に表示し、詳細を把握したい場合にポインタを把握したい箇所に重ね合わせることでワークの識別情報が表示されることにより、作業者は直感的に生産状況を把握できる一方、引用発明は、図1に示されるように表示される仕掛量は数十から数百単位の量であり、仮にワークの識別情報を表示しても情報量が多く生産ラインの生産状況を作業者が直感的に把握することはできず、したがって、引用発明から本願発明を容易に想到することはできない。

2 請求人の主張に対する検討
請求人は、上記1の主張において、引用文献1には、本願発明の「前記ポインタが前記ワーク情報区画に重ね合わされたときに、当該ワーク情報区画に対応する前記生産設備にあるワークの前記識別情報を表示させる」ことが開示も示唆もない旨主張するが、請求人が主張する点は、相違点2に相当するものであり、既に上記第6の2で検討したとおり、実質的な相違点ではない又は引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
また、請求人は、作業者は直感的に生産状況を把握できる旨の作用効果を主張するが、該作用効果に関連して、本願明細書の【0062】に、「そして、表示部は、生産設備の設備情報を表示する複数の設備情報区画111,111Rを生産順序に従った並び方で表示し、さらに複数のワーク情報区画113、113Rにその生産設備にあるワークの在荷数Nを表示している。これによって、生産ラインの生産状況を作業者が直感的に把握することができる。」と記載されているところ、引用発明も同様の構成を備えるものであるから(上記第5の2の「一致点」を参照。)、同様の作用効果を奏するものと認められる。
さらに、請求人は、引用発明が、仕掛量が数十から数百単位の量であり、仮にワークの識別情報を表示しても情報量が多く生産ラインの生産状況を作業者が直感的に把握することはできないことも指摘するが、引用発明も仕掛品の「品種の情報」を把握することにより、仕掛品を、他の品種の仕掛品と識別しつつ生産ラインの生産状況を把握できるものであるし、また、本願発明においてワークの在荷数が少なく情報量が少ないことの特定は見当たらない。加えて、引用発明の仕掛量が、数十から数百単位の量に限定される理由も見出せない。
そして、請求人が、引用発明の「品種の情報」が、本願発明の「識別情報」と異なる旨を主張しているとしてみても、「識別情報」よる識別は、個々のワーク毎に1対1で行われるものに限定して解釈する理由がないし、仮に、識別情報が本願明細書記載の実施例における個々の基板毎の基板IDのような「個別の情報」であると限定して解釈しても、引用発明において生産状況の把握のために「個別の情報」を表示させることは適宜なし得た事項であり、上記のとおり、引用発明の仕掛量も数十から数百単位の量に限定される理由もないから、これを妨げる事情も存在しない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2-18について検討するまでもなく、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-03-31 
結審通知日 2021-04-06 
審決日 2021-04-21 
出願番号 特願2017-17344(P2017-17344)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 耕作  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 田々井 正吾
大山 健
発明の名称 生産管理装置および生産状況表示方法  
代理人 鎌田 健司  
代理人 野村 幸一  

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