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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1374820 |
審判番号 | 不服2020-6407 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-05-12 |
確定日 | 2021-06-09 |
事件の表示 | 特願2017- 38576「半導体発光デバイスの表面処理」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月10日出願公開、特開2017-139472〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 平成29年 3月 1日 :出願(平成24年10月1日に出願した特願2014-534016号(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年10月6日、米国)の一部を新たな特許出願としたもの) 平成29年 3月 2日 :上申書 平成30年 1月16日付け :拒絶理由通知 平成30年 4月19日 :意見書、手続補正書 平成30年 7月31日付け :拒絶理由通知 平成31年 2月 6日 :意見書、手続補正書 令和 元年 7月19日付け :拒絶理由通知 令和 元年10月21日 :意見書、手続補正書 令和 元年12月26日付け :拒絶査定 令和 2年 5月12日 :本件審判請求、手続補正書 第2 令和2年5月12日付け手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年5月12日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1?9の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。 「【請求項1】 半導体発光デバイスであって、 発光領域を含む半導体構造と、 上端が平坦化された複数の山部から成る前記半導体構造の表面と、を含み、 前記上端が平坦化された複数の山部は、前記複数の山部それぞれが上端に平坦部を含んでおり、前記上端の前記平坦部に当たる光は内部全反射を受け、かつ、 前記上端が平坦化された複数の山部から成る前記表面は、平均表面粗さ(Ra)が少なくとも10%減少された結果として134nm未満であり、表面特徴の最大高さ(Rmax)が少なくとも20%減少された結果として1050nm未満であり、かつ、前記半導体材料の層厚は10μm未満である、 デバイス。 【請求項2】 平坦化された山部それぞれは、1つの平坦な上端部を有する、 請求項1に記載のデバイス。 【請求項3】 前記デバイスは、さらに、前記表面の上に波長変換材料を含む、 請求項1に記載のデバイス。 【請求項4】 前記デバイスは、さらに、マウントを含み、 前記半導体構造は、前記マウントに取付けられている、 請求項1に記載のデバイス。 【請求項5】 前記半導体構造は、 n型領域と、 p型領域と、 前記n型領域と前記p型領域との間における前記発光領域と、 前記n型領域に対するn型コンタクトと、 前記p型領域に対するp型コンタクトと、 を含む、請求項1に記載のデバイス。 【請求項6】 前記表面は、前記n型領域の表面を含む、 請求項5に記載のデバイス。 【請求項7】 前記n型コンタクトは、ギャップによって、活性領域、前記p型領域、および前記p型コンタクトから絶縁されている、 請求項5に記載のデバイス。 【請求項8】 前記ギャップは、絶縁材料で満たされている、 請求項7に記載のデバイス。 【請求項9】 半導体構造であり、 n型領域であり、前記n型領域の表面は、上端が平坦化された複数の山部から成り、前記上端が平坦化された複数の山部は、前記複数の山部それぞれが上端に平坦部を含んでおり、前記上端の前記平坦部に当たる光は内部全反射を受ける、n型領域と、 p型領域と、 前記n型領域と前記p型領域との間における発光領域と、 前記n型領域に対するn型コンタクトと、 前記p型領域に対するp型コンタクトと、 を含む、半導体構造と、 前記n型領域の前記表面の上の波長変換材料と 前記半導体構造を支持するマウントと、 を含み、 前記上端が平坦化された複数の山部から成る前記表面は、平均表面粗さ(Ra)が少なくとも10%減少された結果として134nm未満であり、表面特徴の最大高さ(Rmax)が少なくとも20%減少された結果として1050nm未満であり、かつ、前記半導体材料の層厚は10μm未満である、 発光デバイス。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 令和元年10月21日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1?9の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 半導体発光デバイスであって、 発光領域を含む半導体構造と、 上端が平坦化された複数の山部から成る前記半導体構造の表面と、を含み、 前記上端が平坦化された複数の山部は、前記複数の山部それぞれが上端に平坦部を含んでおり、前記上端の前記平坦部に当たる光は内部全反射を受け、かつ、 前記上端が平坦化された複数の山部から成る前記表面は、平均表面粗さが少なくとも10%減少されており、かつ、表面特徴の最大高さが少なくとも20%減少されている、 デバイス。 【請求項2】 平坦化された山部それぞれは、1つの平坦な上端部を有する、 請求項1に記載のデバイス。 【請求項3】 前記デバイスは、さらに、前記表面の上に波長変換材料を含む、 請求項1に記載のデバイス。 【請求項4】 前記デバイスは、さらに、マウントを含み、 前記半導体構造は、前記マウントに取付けられている、 請求項1に記載のデバイス。 【請求項5】 前記半導体構造は、 n型領域と、 p型領域と、 前記n型領域と前記p型領域との間における前記発光領域と、 前記n型領域に対するn型コンタクトと、 前記p型領域に対するp型コンタクトと、 を含む、請求項1に記載のデバイス。 【請求項6】 前記表面は、前記n型領域の表面を含む、 請求項5に記載のデバイス。 【請求項7】 前記n型コンタクトは、ギャップによって、活性領域、前記p型領域、および前記p型コンタクトから絶縁されている、 請求項5に記載のデバイス。 【請求項8】 前記ギャップは、絶縁材料で満たされている、 請求項7に記載のデバイス。 【請求項9】 半導体構造であり、 n型領域であり、前記n型領域の表面は、上端が平坦化された複数の山部から成り、前記上端が平坦化された複数の山部は、前記複数の山部それぞれが上端に平坦部を含んでおり、前記上端の前記平坦部に当たる光は内部全反射を受ける、n型領域と、 p型領域と、 前記n型領域と前記p型領域との間における発光領域と、 前記n型領域に対するn型コンタクトと、 前記p型領域に対するp型コンタクトと、 を含む、半導体構造と、 前記n型領域の前記表面の上の波長変換材料と 前記半導体構造を支持するマウントと、 を含み、 前記上端が平坦化された複数の山部から成る前記表面は、平均表面粗さが少なくとも10%減少されており、かつ、表面特徴の最大高さが少なくとも20%減少されている、 発光デバイス。」 2 補正の適否 (1)新規事項について 本件補正において、請求項1、9について「平均表面粗さ(Ra)」について「134nm未満であり」、「表面特徴の最大高さ(Rmax)」について「1050nm未満であ」るとの補正がなされている。 当該補正に関して、本願の願書に添付された明細書又は図面(以下「本件明細書」という。なお、本件明細書は、出願当初のものから補正されていない。)には、以下の記載がある。 「【0018】 下記の表は、粗化後にプラズマ処理をしていない粗面を、600Wのプラズマで60秒処理された粗面と比較している。Raは表面の平均粗さであり、Rmaxは表面特徴の最大高さである。光出力は、任意のユニットで与えられる。 【表1】 【0019】 上記の表に例示されるように、光出力及び表面粗さは両方とも、処理された表面に対して減少する。例えば、本発明の実施形態による処理の結果として、平均表面粗さは、いくつかの実施形態では少なくとも10%、いくつかの実施形態では少なくとも20%、いくつかの実施形態では少なくとも30%減少される。本発明の実施形態による処理の結果として、表面特徴の最大高さは、いくつかの実施形態では少なくとも20%、いくつかの実施形態では少なくとも30%、いくつかの実施形態では少なくとも40%減少される。」 以上の記載においては、表面が処理された結果として、Raが133.4nm、Rmaxが1049nmであることは読み取れるものの、本件補正のようにRaが134nm、Rmaxが1050nmという数値は読み取れない。また、本件明細書の他の記載及び技術常識を勘案したとしても、本件補正のような数値とすることは、当業者にとって自明であるといえないから、上記補正は、新たな技術的事項を導入するものといえる。 さらに、本件補正における「134nm未満」、「1050nm未満」の「未満」とする補正についても、本件表1におけるRaが133.4nm、Rmaxが1049nmとの値が、上限値あるいは下限値であることを示す記載はない。また、本件明細書の「【発明が解決しようとする課題】」の「【0004】本発明の目的は、デバイスからの光束の最大量を制御することができる発光デバイスを提供することである。」等の記載から見ても、本件明細書に記載された技術的事項は、光束を制御することや調整することを目的としているにとどまり、光束を一定の数値以下、未満にすることを目的としていないことから、本件明細書において「未満」等の明示的な記載がない以上、上記「未満」とする補正についても、当業者にとって自明であるとはいえず、新たな技術的事項を導入するものといえる。 したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 (2)独立特許要件について 上記(1)において説示したように、本件補正は新規事項を追加するものであるが、本件補正が新規事項を追加するものではないと仮定し、以下のとおり検討する。 本件補正は、本件補正前の請求項1?9に記載された発明を特定するために必要な事項である、「平均表面粗さ」、「表面特徴の最大高さ」について、それぞれ「134nm未満であり」、「1050nm未満であり」と限定するものであって、補正前の請求項1?9に記載された発明と補正後の請求項1?9に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。 そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?9に記載される発明(以下「本件補正発明1」などという。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定する要件を満たすか)について検討する。 ア 本件補正発明1?8について 本件補正発明1は、上記1(1)に記載したとおりのものであり、「前記上端が平坦化された複数の山部から成る前記表面は、平均表面粗さ(Ra)が少なくとも10%減少された結果として134nm未満であり、表面特徴の最大高さ(Rmax)が少なくとも20%減少された結果として1050nm未満であり、かつ、前記半導体材料の層厚は10μm未満である」との記載がある。 当該記載に関して、「少なくとも10%減少された」、「少なくとも20%減少された」との記載(以下「減少の記載」という。)は、何らかの対象となるものがあり、当該対象と比較して減少されることが規定されていると解されるが、本件補正発明1には、当該対象となるものが示されておらず、上記減少の記載は、どのような態様を意味しているのか不明瞭となっている。 ここで、本件補正発明1の「上端が平坦化された複数の山部から成る」の記載から、上記減少の記載の比較される対象を、上端が平坦化されていない山部を推測することにより把握することも考えられるが、平坦化された山部から平坦化されていない山部の形状を推測することは、山部の形状について推測可能性のある限定(例えば、山部の斜面が、断面でみて、直線状であったり、曲線状であればどのような数式により表現される曲線であったりするのかが明確な場合など)がなされていない限り、できない。そして、本件補正発明1の山部がそのような推測可能性のある形状の山部に限定される旨の記載は、本件補正発明1の特定事項にも本件明細書にも存在せず、むしろ、本件明細書には、光電気化学(PEC)エッチングにより得られた山部が記載されており、この山部の形状は推測可能性がないと解されることから、比較の対象を上記のように把握しようとしても、上記減少の記載は、どのような態様を意味しているのか不明瞭である。 本件請求項1を引用する本件補正発明2?8についても同様である。 したがって、本件補正発明1?8は、明確でない。 イ 本件補正発明9について 上記アで説示したことと同様に、本件補正発明9についても、明確でない。 ウ 小括 したがって、本件補正発明1?9に係る本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第3項、及び特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和2年5月12日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本件補正前の発明は、令和元年10月21日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1?9に係る発明であるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、 「(新規性)この出願の請求項1?9に係る発明は、その優先日前に頒布された引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (進歩性)この出願の請求項1?9に係る発明は、その優先日前に頒布された引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が不備であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 引用文献1 特開2006-179511号公報」 というものである。 3 新規性、進歩性について (1)引用文献1について ア 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1である、特開2006-179511号公報(平成18年7月6日公開)には、図面とともに、次の記載がある。 (ア)「【請求項1】 窒化物半導体基板と、前記窒化物半導体基板の第1の主表面の側に、n型窒化物半導体層と、前記窒化物半導体基板から見て前記n型窒化物半導体層より遠くに位置するp型窒化物半導体層と、前記n型窒化物半導体層およびp型窒化物半導体層の間に位置する発光層とを備えた発光装置であって、 前記窒化物半導体基板の比抵抗が0.5Ω・cm以下であり、 前記p型窒化物半導体層の側をダウン実装し、前記窒化物半導体基板の前記第1の主表面と反対側の主表面である第2の主表面から光を放出し、 前記窒化物半導体基板の前記第2の主表面には溝が形成されている、発光装置。 【請求項2】 前記溝の断面形状はV字状である、請求項1に記載の発光装置。」 (イ)「【0014】 さらに、次のような問題がある。サファイア基板上に形成されたGaN系発光装置をダウン実装して、サファイア基板の裏面を光の放出面にする場合、サファイアの屈折率が1.8程度であり、GaNの屈折率が2.4程度であるので、光を発生し伝播させてきたGaN層とサファイア基板との界面で、所定の入射角以上の光は全反射して、外に出ない。すなわち、入射角θ≧sin^(- 1)(1.8/2.4)≒42°の範囲の光は、GaN層内に止まり、外に出ない。このため、サファイア基板の主面における発光効率が低下する。しかし、発光効率の問題も重要であるが、それだけに止まらない。上記全反射した光はGaN層を伝播し、GaN層の側部から出射される。上記の全反射する光量はかなりの割合を占め、また、GaN層は薄いため、側部から出射される光のエネルギー密度は高くなる。GaN層の側部に位置してその光に照射される封止樹脂は損傷を受け、発光装置の寿命を短縮するという問題を生じる。」 (ウ)「【0048】 次に、本発明例AのLEDの製造方法について説明する。 ・・・ (a8)その後、ダイシングにより基板のN面上に断面形状がV字状の溝80を形成した。図3に示すように、溝の深さT3は40μm、溝80の側壁とGaN基板1の第2の主表面と平行な平面との成す角度θは60°、隣接する溝80のピッチPは150μmとした。 (a9)その後に、図3および図4に示すように、チップ境界50が側面として現れるようにスクライブを行ない、チップ化したものを発光装置とした。チップ化した発光装置は、光の放出面が300μm□(1辺の長さが300μmの四角形)の形状で、発光層が300μm□の形状をとる。すなわち図4において、L1=300μmであり、L2=400μmである。また、素子分離溝の幅L3=100μmであり、n電極の1つの辺の幅D=100μmである。 (a10)図1を参照して、リードフレームのマウント部21aに、上記チップのp型GaN層側が接するように搭載して、発光装置を形成した。マウント部に塗布した導電性接着剤14によって発光装置とマウントとを固定するとともに、導通が得られるようにしている。 ・・・ (a12)さらに、n電極とリードフレームのリード部とをワイヤボンドにより導通させた後、エポキシ系樹脂により樹脂封止を行なって発光装置をランプ化した。」 (エ)「【0176】 (試験および試験結果): 本発明例S9?S12および比較例T9を、それぞれ積分球内に搭載した後所定の電流を印加し、集光されディテクタから出力される光出力値の比較を行なった。その結果、本発明例S9は2.2W、本発明例S10は2.3W、本発明例S11は2.3W、本発明例S12は2.4Wの出力が得られた。一方、比較例T9の出力は1.6Wであった。このように、GaN基板の光出射面側(第2の主面側)を溝80により凹凸加工したものは、いずれもGaN基板とエポキシ樹脂15との接触界面の面積が比較的大きいこと、当該界面が発光層の面に対して様々な角度を有することから界面での全反射が防止されやすいこと、などの理由により、比較例T9より本発明例S9?S12は高い光出力を得ることができる。 【0177】 次に、図64?図69を参照して、溝の深さ、隣接する溝のピッチ、溝の側壁とGaN基板の第2の主表面に平行な面と形成される角度θ(図3参照)、溝の間に形成される凸部の形状が、光出力に対して与える影響について、発明者が検討した結果を示す。図64は、溝の深さと光の取出し倍率とを関係を示すグラフである。図65は、隣接する溝のピッチと光取出し倍率との関係を示すグラフである。図66は、溝の側壁とGaN基板の第2の主表面に平行な面と形成される角度θと光取出し倍率との関係を示すグラフである。図67は、溝の間に形成される凸部の形状および配置と光取出し倍率との関係を示すグラ フである。図68は、図67において示した凸部の円錐四方配置を説明するための平面模式図である。図69は、図67において示した円錐六方配置を説明するための平面模式図である。なお、図64?図67に示したデータは、基本的に上述した本発明例S9と同様の構造のLEDであって、各グラフの横軸に示された特性について変更した試料を準備し、当該試料を用いて測定したものである。 【0178】 図64に示したグラフの横軸は溝の深さ(μm)を示し、縦軸は光の取出し倍率を示している。なお、縦軸に示された光の取出し倍率は、溝が形成されていない場合を基準とした場合の相対値である。図64から分かるように、溝の深さが100μm、200μm、300μm のいずれの場合も、溝が形成されていない場合より光の取出し倍率が1.2 以上となっている。つまり、溝を形成しない場合より、溝を形成した方が光の取出し量(基板から出射される光量)が大きくなることが分かる。また、図64には、溝の深さが深くなるほど、光の取出し倍率が大きくなる傾向が示されている。」 (オ)図1は以下のとおりである。 (カ)図3は以下のとおりである。 (キ)図4は以下のとおりである。 (ク)上記(ア)?(エ)の記載を参酌しつつ、図1、3から、GaN基板1(窒化物半導体基板)には複数の溝が形成されており、GaN基板1(窒化物半導体基板)の溝が形成されている面の溝がない部分は平坦であることが看て取れる。 イ 上記記載及び図面から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 引用発明 「窒化物半導体基板と、前記窒化物半導体基板の第1の主表面の側に、n型窒化物半導体層と、前記窒化物半導体基板から見て前記n型窒化物半導体層より遠くに位置するp型窒化物半導体層と、前記n型窒化物半導体層およびp型窒化物半導体層の間に位置する発光層とを備えた発光装置であって、 前記p型窒化物半導体層の側をダウン実装し、前記窒化物半導体基板の前記第1の主表面と反対側の主表面である第2の主表面から光を放出し、 前記窒化物半導体基板の前記第2の主表面には複数の溝が形成されており、 前記溝の断面形状はV字状であり、 窒化物半導体基板の溝が形成されている面の溝がない部分は平坦であり、 一つの実施形態として、溝の深さT3は40μm、溝80の側壁とGaN基板1の第2の主表面と平行な平面との成す角度θは60°、隣接する溝80のピッチPは150μmとし、 他の実施形態として、GaN基板の光出射面側(第2の主面側)を溝80により凹凸加工したものは、いずれもGaN基板とエポキシ樹脂15との接触界面が発光層の面に対して様々な角度を有することから界面での全反射が防止されやすいこと、などの理由により、高い光出力を得ることができる、 発光装置。」 (2)対比 本願発明と引用発明を対比する。 ア 引用発明の「窒化物半導体基板と、前記窒化物半導体基板の第1の主表面の側に、n型窒化物半導体層と、前記窒化物半導体基板から見て前記n型窒化物半導体層より遠くに位置するp型窒化物半導体層と、前記n型窒化物半導体層およびp型窒化物半導体層の間に位置する発光層とを備えた発光装置」は、半導体発光デバイスであること、及び発光領域を含む半導体構造であることは明らかであるから、本願発明の「半導体発光デバイス」、「発光領域を含む半導体構造」に相当する。 イ 上記アから、本願発明と引用発明は、 以下の一致点で一致し、以下の相違点で一応相違する。 <一致点> 「半導体発光デバイスであって、 発光領域を含む半導体構造と、を含む デバイス。」 <相違点> 本願発明が、「上端が平坦化された複数の山部から成る前記半導体構造の表面と、を含み、前記上端が平坦化された複数の山部は、前記複数の山部それぞれが上端に平坦部を含んでおり、前記上端の前記平坦部に当たる光は内部全反射を受け、かつ、前記上端が平坦化された複数の山部から成る前記表面は、平均表面粗さが少なくとも10%減少されており、かつ、表面特徴の最大高さが少なくとも20%減少されている」のに対し、引用発明は、「窒化物半導体基板の前記第2の主表面には溝が形成されており、前記溝の断面形状はV字状であり、窒化物半導体基板の溝が形成されている面の溝がない部分は平坦であり、一つの実施形態として、溝の深さT3は40μm、溝80の側壁とGaN基板1の第2の主表面と平行な平面との成す角度θは60°、隣接する溝80のピッチPは150μmとし、他の実施形態として、GaN基板の光出射面側(第2の主面側)を溝80により凹凸加工したものは、いずれもGaN基板とエポキシ樹脂15との接触界面が発光層の面に対して様々な角度を有することから界面での全反射が防止されやすいこと、などの理由により、高い光出力を得ることができる」点。 (3)判断 ア 相違点に係る本願発明の「上端が平坦化された複数の山部から成る前記半導体構造の表面と、を含み、前記上端が平坦化された複数の山部は、前記複数の山部それぞれが上端に平坦部を含んで」について 引用発明は、「窒化物半導体基板の前記第2の主表面には複数の溝が形成されており、前記溝の断面形状はV字状であり、窒化物半導体基板の溝が形成されている面の溝がない部分は平坦であ」ることから、このような形状は、見方を変えて表現すれば、山部の上端を平坦化した形状といえるものである。 したがって、上記本願発明の構成について、実質的な相違点とはいえない。 イ 相違点に係る本願発明の「上端の前記平坦部に当たる光は内部全反射を受け」について 引用文献1における「【0014】・・・光を発生し伝播させてきたGaN層とサファイア基板との界面で、所定の入射角以上の光は全反射して、外に出ない。」等の記載から見て、引用発明は、半導体構造の界面の光の全反射に着目していることは明らかであり、また、引用発明において「GaN基板の光出射面側(第2の主面側)を溝80により凹凸加工したものは、いずれもGaN基板とエポキシ樹脂15との接触界面が発光層の面に対して様々な角度を有することから界面での全反射が防止されやすい」ことから、引用発明は、接触界面を単に平坦にすることよりも、凹凸加工することにより全反射を防止しているといえ、よって、引用発明が平坦部分において光が全反射することを前提に、それを可能な範囲で減らすことを想定していることは明らかである。 したがって、引用発明においても、上記本願発明の構成を有しているといえるから、上記本願発明の構成について、実質的な相違点とはいえない。 ウ 相違点に係る本願発明の「上端が平坦化された複数の山部から成る前記表面は、平均表面粗さが少なくとも10%減少されており、かつ、表面特徴の最大高さが少なくとも20%減少されている」について (ア)後記4でも説示するように、「少なくとも10%減少された」、「少なくとも20%減少された」との記載は、何に対して10%、あるいは20%減少されるか明らかでなく、実質的な限定がなされているとはいえないから、上記本願発明の構成について、実質的な相違点とはいえない。 (イ)以下、上記「少なくとも10%減少された」、「少なくとも20%減少された」との記載が、上端が平坦化されていない山部の態様から、「平均表面粗さが少なくとも10%減少されており」、「表面特徴の最大高さが少なくとも20%減少されている」と解して、検討する。なお、そのように解釈したとしても、後記4で説示するように、依然として、どのような態様を意味しているのか不明瞭ではあるが、斜面が断面直線状な山部の形状であるならば、上端が平坦化されていない山部の態様を推測可能であることから、本願発明が、このような態様を少なくとも含むと解して検討を進める。 本願発明の平均表面粗さについて、本願明細書の表1によればRaが用いられており、Raは一般的に算術平均粗さを意味するから、本願発明の平均表面粗さは算術平均粗さRaであると解する。 引用発明は、「一つの実施形態として、溝の深さT3は40μm、溝80の側壁とGaN基板1の第2の主表面と平行な平面との成す角度θは60°、隣接する溝80のピッチPは150μm」であることから、斜面が断面直線状の山部の形状であると考えることができ、よって、引用発明の態様は、図3の紙面で表される面を断面としたときに、山部の底辺の長さが150μm、山部の底角が60°、山部の上端が平坦化された平坦面と底辺の距離が40μmと言い換えることができるものである。この形状を上記断面において数学的に捉えれば、一辺が150μmの正三角形において、底辺から40μmの高さ部分で正三角形の上端(上部)が平坦化された形状であるといえる。ここで上記正三角形の高さは75×√3≒130μmであることから、正三角形の上端の平坦化により、高さが130μmから40μmに減じることになり、概略、引用発明において、山部の高さは、上端が平坦化されていないものとして推測される元の正三角形から70%近く減少しており、本願発明に係る、上端が平坦化されていない山部の態様から「平均表面粗さが少なくとも10%減少されており」、「表面特徴の最大高さが少なくとも20%減少されている」との数値範囲を満たしていると推認される。 また、仮にそうでないとしても、本願発明で規定された程度の数値限定は、引用発明において溝の形状を適宜設計することにより、当業者が適宜設定しうる程度のことにすぎない。 エ 作用効果について 本願発明と引用発明との間に仮に相違点があるとしても、その相違点に係る本願発明の効果について、引用発明から、当業者が予測しうる程度のものにすぎない。 (4)小括 したがって、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 また、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 4 明確性について 上記第2の2(2)アと同様に、本願発明にも「少なくとも10%減少された」、「少なくとも20%減少された」との減少の記載が含まれており、上記減少の記載は、どのような態様を意味しているのか不明瞭である。 したがって、本願発明は明確でなく、本願は、特許請求の範囲の記載が不備であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 また、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 さらに、本願は、特許請求の範囲の記載が不備であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-12-25 |
結審通知日 | 2021-01-05 |
審決日 | 2021-01-22 |
出願番号 | 特願2017-38576(P2017-38576) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L) P 1 8・ 575- Z (H01L) P 1 8・ 121- Z (H01L) P 1 8・ 561- Z (H01L) P 1 8・ 537- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 本田 博幸、吉野 三寛 |
特許庁審判長 |
山村 浩 |
特許庁審判官 |
近藤 幸浩 井上 博之 |
発明の名称 | 半導体発光デバイスの表面処理 |
代理人 | 伊東 忠重 |
代理人 | 伊東 忠彦 |
代理人 | 大貫 進介 |