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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01F
審判 全部申し立て 特29条の2  H01F
管理番号 1374916
異議申立番号 異議2019-700955  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-27 
確定日 2021-04-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6519561号発明「インダクタ部品およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6519561号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、5-8、14〕、〔3、4、9-13〕、〔15、18〕、〔16、19〕、17、20について訂正することを認める。 特許第6519561号の請求項1-9、13-14に係る特許を維持する。 特許第6519561号の請求項10-12に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6519561号の請求項1ないし20に係る特許についての出願は、平成28年9月23日の出願であって、令和1年5月10日にその特許権の設定登録がされ、令和1年5月29日に特許掲載公報が発行された。

その特許についての本件特許異議の申し立ての経緯は、次のとおりである。
令和1年11月27日 :特許異議申立人 末吉 直子(以下、「申立人」という。)による請求項1ないし14に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年 2月25日付け:取消理由通知書
令和2年 4月17日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年 7月14日 :申立人による意見書の提出
令和2年 9月25日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和2年11月 5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年12月25日 :申立人による意見書の提出
なお、令和2年11月5日に訂正の請求がなされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、令和2年4月17日にされた訂正の請求は取り下げられたものとみなす。


第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の趣旨及び内容
令和2年11月5日にされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第6519561号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし20について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである(なお、下線は訂正部分を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「・・・1.0以上8.0未満である、インダクタ部品。」
と記載されているのを、
「・・・1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している、インダクタ部品。」に訂正する(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2、5、6、7、8、14も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3において、
「前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成されている、請求項1に記載のインダクタ部品。」
と記載されているのを、
「互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間に、介在層が存在しておらず、
前記コイル配線の横断面は、T字状を積層した形状であり、配線幅が小さいコイル導体層と配線幅が大きいコイル導体層とを交互に積層した形状である、インダクタ部品。」に訂正する(請求項3の記載を直接的に引用する請求項4、9、13も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項12を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項15において、
「請求項11に記載のインダクタ部品を製造する方法であって、
前記複数のコイル導体層の一部を、セミアディティブ工法により形成している、インダクタ部品の製造方法。」
と記載されているのを、
「互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している、インダクタ部品を製造する方法であって、
前記複数のコイル導体層の一部を、セミアディティブ工法により形成している、インダクタ部品の製造方法。」に訂正する(請求項15の記載を直接的に引用する請求項18も同様に訂正する)。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項16において、
「請求項11に記載のインダクタ部品を製造する方法であって、
前記複数のコイル導体層の全てを、セミアディティブ工法により形成している、インダクタ部品の製造方法。」
と記載されているのを、
「互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している、インダクタ部品を製造する方法であって、
前記複数のコイル導体層の全てを、セミアディティブ工法により形成している、インダクタ部品の製造方法。」に訂正する(請求項16の記載を直接的に引用する請求項19も同様に訂正する)。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項17において、
「請求項11に記載のインダクタ部品を製造する方法であって、
前記複数のコイル導体層の一部を、めっき成長により形成している、インダクタ部品の製造方法。」
と記載されているのを、
「互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している、インダクタ部品を製造する方法であって、
前記複数のコイル導体層の一部を、めっき成長により形成している、インダクタ部品の製造方法。」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項20において、
「請求項10に記載のインダクタ部品を製造する方法であって、
前記素体を構成する第1絶縁層に第1溝を形成する工程と、
前記第1溝内に感光性導電ペーストを塗布し、フォトリソグラフィ工法により、前記第1溝内に第1コイル導体層を形成する工程と、
前記第1絶縁層上に前記素体を構成する第2絶縁層を形成し、前記第2絶縁層に第2溝を形成する工程と、
前記第2溝内に感光性導電ペーストを塗布し、フォトリソグラフィ工法により、前記第2溝内に前記第1コイル導体層に面接触する第2コイル導体層を形成する工程と
を備える、インダクタ部品の製造方法。」
と記載されているのを、
「互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間に、介在層が存在していない、インダクタ部品を製造する方法であって、
前記素体を構成する第1絶縁層に第1溝を形成する工程と、
前記第1溝内に感光性導電ペーストを塗布し、フォトリソグラフィ工法により、前記第1溝内に第1コイル導体層を形成する工程と、
前記第1絶縁層上に前記素体を構成する第2絶縁層を形成し、前記第2絶縁層に第2溝を形成する工程と、
前記第2溝内に感光性導電ペーストを塗布し、フォトリソグラフィ工法により、前記第2溝内に前記第1コイル導体層に面接触する第2コイル導体層を形成する工程と
を備える、インダクタ部品の製造方法。」に訂正する。

(10)別の訂正単位とする求め
訂正後の請求項3、15ないし17及び20については、当該請求項について訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。

2.訂正要件についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし20について、請求項2ないし20は直接又は間接的に請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし20に対応する訂正後の請求項1ないし20は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「コイル配線」を、「前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している」としてその構造を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、本件特許の願書に添付した明細書(以下、単に「本件特許明細書」という。)の段落【0065】には、「第1実施形態のコイル配線21は、図2に示すように、単層から構成されているが、第2実施形態のコイル配線21Aは、図5に示すように、互いに面接触して積層された3層のコイル導体層210a?210cから構成されている。なお、コイル配線21Aは、2層または4層以上のコイル導体層から構成されていてもよい。」と、また、段落【0097】には、「第2実施形態のコイル配線21Aでは、図5に示すように、隣り合うコイル導体層の間、および、コイル導体層と素体の間に、介在層が存在していないが、第4実施形態のコイル配線21Cでは、図14Jに示すように、隣り合うコイル導体層210a?210cの間、および、コイル導体層210aと絶縁層11a(素体)の間の少なくとも一部に、介在層の一例としてのシード層51,52,53が存在している。・・・」と記載されている。したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項1は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
なお、訂正前の請求項1に関して特許異議申立がなされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項1については特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるものであって、また、訂正前の請求項3の「コイル導体層」の構造を「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間に、介在層が存在しておらず」と、さらに、「コイル配線」の横断面の形状を「前記コイル配線の横断面は、T字状を積層した形状であり、配線幅が小さいコイル導体層と配線幅が大きいコイル導体層とを交互に積層した形状である」として限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0097】には、「第2実施形態のコイル配線21Aでは、図5に示すように、隣り合うコイル導体層の間、および、コイル導体層と素体の間に、介在層が存在していないが、第4実施形態のコイル配線21Cでは、図14Jに示すように、隣り合うコイル導体層210a?210cの間、および、コイル導体層210aと絶縁層11a(素体)の間の少なくとも一部に、介在層の一例としてのシード層51,52,53が存在している。・・・」と、また、段落【0083】には、「また、本実施形態では、図9に示すように、コイル配線21Bの横断面は、I字状であるが、例えばコイル配線21Bが第1、第2コイル導体層210a、210bのみ、または第2、第3コイル導体層210b、210cのみによって構成されることによって、コイル配線21Bの横断面はT字状であってもよい。」と、さらに、段落【0084】には「さらに、コイル配線21Bの横断面は、T字状を積層した形状であってもよい。例えば、1つのコイル配線21Bを構成するコイル導体層が3つ以上あるとき、配線幅が小さいコイル導体層と、配線幅が大きいコイル導体層を交互に積層してもよい。」記載されている。したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項2は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
なお、訂正前の請求項3に関して特許異議申立がなされているので、訂正前の請求項3に係る訂正事項2については特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、請求項10を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項4について
訂正事項4は、請求項11を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であリ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

オ 訂正事項5について
訂正事項5は、請求項12を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であリ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

カ 訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項15の記載が訂正前の請求項11の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項11の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であリ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

キ 訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項16の記載が訂正前の請求項11の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項11の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であリ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ク 訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項17の記載が訂正前の請求項11の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項11の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるものであって、特許法第120条の 5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であリ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ケ 訂正事項9について
訂正事項9は、訂正前の請求項20の記載が訂正前の請求項10の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項10の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であリ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項[1、2、5-8、14]、[3、4、9-13]、[15、18]、[16、19]、17、20について訂正することを認める。


第3 当審の判断
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし9、13ないし20に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明20」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9、13ないし20に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している、インダクタ部品。
【請求項2】
前記コイル配線のアスペクト比は、1.5以上6.0未満である、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項3】
互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間に、介在層が存在しておらず、
前記コイル配線の横断面は、T字状を積層した形状であり、配線幅が小さいコイル導体層と配線幅が大きいコイル導体層とを交互に積層した形状である、インダクタ部品。
【請求項4】
前記コイル配線を構成する前記複数のコイル導体層は、互いに配線長が等しく、該配線長に渡って互いに面接触している、請求項3に記載のインダクタ部品。
【請求項5】
前記コイル配線の配線幅は、60μm以下である、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項6】
前記コイル配線は、前記軸方向に沿って配線幅が変化しており、
前記コイル配線の内面の一部は、前記コイル配線の内側に突出しており、
前記内面における突出量eの、前記コイル配線の最大配線幅cに対する割合(e/c)は、20%以下である、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項7】
前記割合(e/c)は、5%以下である、請求項6に記載のインダクタ部品。
【請求項8】
前記コイル配線は、前記軸方向に沿って配線幅が変化しており、
前記コイル配線の最大配線幅cと最小配線幅との差aの、前記最大配線幅cに対する割合(a/c)は、40%以下である、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項9】
前記コイル導体層のアスペクト比は、2.0以下である、請求項3に記載のインダクタ部品。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
(削除)
【請求項13】
前記コイル配線を構成する前記複数のコイル導体層には、同一のコイル径方向の幅を有する第1コイル導体層および第2コイル導体層が存在し、
前記第1コイル導体層の配線幅の中心と前記第2コイル導体層の配線幅の中心とのずれ量dの、前記第1コイル導体層および前記第2コイル導体層の配線幅cに対する割合(d/c)は、20%以下である、請求項3に記載のインダクタ部品。
【請求項14】
前記コイルの前記軸方向の長さは、前記素体の前記軸方向の幅の50%以上である、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項15】
互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している、インダクタ部品を製造する方法であって、
前記複数のコイル導体層の一部を、セミアディティブ工法により形成している、インダクタ部品の製造方法。
【請求項16】
互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している、インダクタ部品を製造する方法であって、
前記複数のコイル導体層の全てを、セミアディティブ工法により形成している、インダクタ部品の製造方法。
【請求項17】
互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している、インダクタ部品を製造する方法であって、
前記複数のコイル導体層の一部を、めっき成長により形成している、インダクタ部品の製造方法。
【請求項18】
前記複数のコイル導体層の一部を、さらに、めっき成長により形成している、請求項15に記載のインダクタ部品の製造方法。
【請求項19】
前記複数のコイル導体層の全てを、さらに、めっき成長により形成している、請求項16に記載のインダクタ部品の製造方法。
【請求項20】
互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間に、介在層が存在していない、インダクタ部品を製造する方法であって、
前記素体を構成する第1絶縁層に第1溝を形成する工程と、
前記第1溝内に感光性導電ペーストを塗布し、フォトリソグラフィ工法により、前記第1溝内に第1コイル導体層を形成する工程と、
前記第1絶縁層上に前記素体を構成する第2絶縁層を形成し、前記第2絶縁層に第2溝を形成する工程と、
前記第2溝内に感光性導電ペーストを塗布し、フォトリソグラフィ工法により、前記第2溝内に前記第1コイル導体層に面接触する第2コイル導体層を形成する工程と
を備える、インダクタ部品の製造方法。」


2.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
令和2年9月25日付けの取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。

請求項3、4、9、12、及び13に係る発明は、引用文献1ないし7に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3、4、9、12、及び13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

< 引用文献等一覧 >
引用文献1:特開2006-108383号公報(甲第9号証)
引用文献2:特開2001-93734号公報(甲第1号証)
引用文献3:特開2014-207280号公報(甲第10号証)
引用文献4:特開2002-184638号公報(甲第11号証)
引用文献5:特開2011-204899号公報(甲第13号証)
引用文献6:特開2015-204439号公報(甲第14号証)
引用文献7:特開2016-15370号公報(甲第15号証)

(2)引用文献の記載事項等
ア 引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。)

(ア)「【0012】
以下、本発明に係わる積層型電子部品の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係わる積層型電子部品として積層型インダクタの第1の実施形態を示す斜視図であり、図2は、図1に示す積層型インダクタの断面図であり、図3は、図1に示す積層型インダクタの主要部の分解斜視図である。
【0014】
各図において、本実施形態の積層型インダクタ1は、略直方体形状の電子素子2と、この電子素子2の外面に形成された1対の端子電極3A,3Bとを備えている。電子素子2は、図2に示すように、積層体4と、この積層体4の内部に形成された内部導体5とを有している。積層体4は、図3に示すように、複数枚(ここでは11枚)の非磁性体グリーンシート6?16を積層して形成されている。
【0015】
非磁性体グリーンシート6?16は、電気絶縁性を有するガラス系セラミックグリーンシートである。非磁性体グリーンシート6?16の組成は、例えば、ストロンチウム、カルシウム、アルミナ及び酸化珪素からなるガラス70wt%、アルミナ粉30wt%である。非磁性体グリーンシート6?16の厚みは、例えば10?35μm程度である。なお、このような非磁性体グリーンシート6?16の替わりに、例えばフェライト(例えば、Ni-Cu-Zn系フェライト、Ni-Cu-Zn-Mg系フェライト、Cu-Zn系フェライト、又は、Ni-Cu系フェライト等)粉末を原料としたスラリーをフィルム上にドクターブレード法により塗布して形成した磁性体グリーンシートを用いても良い。
【0016】
積層体4(電子素子2)は、4つの側面4a?4d、下面4e及び上面4fを有している。下面4eは、回路基板(図示せず)に実装される面(実装面)である。側面4a,4b同士は、X軸方向において互いに対向しており、側面4c,4d同士は、Y軸方向において互いに対向しており、下面4eと上面4fとは、Z軸方向において互いに対向している。積層体4を形成する各グリーンシート6?16は、Y軸方向に積層されている。これにより、側面4a,4b、下面4e及び上面4fは、各グリーンシート6?16の積層方向に平行な面となり、側面4c,4dは、各グリーンシート6?16の積層方向に直交(交差)する面となる。
【0017】
内部導体5は、コイル状導体17と、このコイル状導体17の両端にそれぞれ接続された引き出し導体18A,18Bとを有している。引き出し導体18A,18Bのいずれか一方は内部導体5の始端部を構成し、引き出し導体18A,18Bの他方は内部導体5の終端部を構成している。引き出し導体18Aは電子素子2の側面4aまで延びており、引き出し導体18Bは電子素子2の側面4bまで延びている。引き出し導体18A,18Bと電子素子2の上面4fとの間隔は、引き出し導体18A,18Bと電子素子2の下面(実装面)4eとの間隔よりも小さく設定されている。つまり、引き出し導体18A,18Bは、電子素子2の上面4f側に片寄って配置されている。
【0018】
このような内部導体5は、グリーンシート10に形成された導体パターン5a、グリーンシート11に形成された導体パターン5b、グリーンシート12に形成された導体パターン5c、グリーンシート13に形成された導体パターン5dにより構成されている。導体パターン5a?5dは、例えば銀またはニッケルを主成分とした導体ペーストをスクリーン印刷して形成される。
【0019】
導体パターン5aは、コイル状導体17の一部及び引き出し導体18Aを形成するものであり、グリーンシート10上で略L字状に延びて、グリーンシート10の端面に露出している。導体パターン5bは、コイル状導体17の一部を形成するものであり、グリーンシート11上で略U字状に延びている。導体パターン5cは、コイル状導体17の一部を形成するものであり、グリーンシート12上で略C字状に延びている。導体パターン5dは、コイル状導体17の一部及び引き出し導体18Bを形成するものであり、グリーンシート13上で略I字状に延びて、グリーンシート13の端面に露出している。導体パターン5a?5dは、グリーンシート10?12にそれぞれ形成されたスルーホール19a?19cにより電気的に接続されている。
【0020】
このような構成を有する電子素子2(積層体4)の寸法は、例えば0.6mm×0.3mm×0.3mmである。また、導体パターン5a?5dの幅は例えば40μm程度であり、導体パターン5a?5dの厚みは例えば12μm程度である。コイル状導体17は、長軸方向の内径が例えば320μm程度であり、短軸方向の内径が例えば120μm程度となるように構成されている。また、コイル状導体17のターン数は例えば2.5ターンであり、コイル状導体17のインダクタンス値は例えば1.8nHである。
【0021】
各端子電極3A,3Bは、電子素子2の側面4a,4bに形成され、各引き出し導体18A,18Bと電気的に接続されている。各端子電極3A,3Bは、電子素子2の側面4a,4b全体を覆うように形成されていると共に、一部を電子素子2の下面4e及び上面4fに回り込ませている。これにより、積層型インダクタ1が回路基板(図示せず)に実装されるときに、固着強度が特に問題になることは無い。電子素子2の側面4c,4dには、端子電極3A,3Bが殆ど形成されていない。ただし、電子素子2の各エッジ部分は僅かに湾曲して形成されているため、実際には電子素子2の側面4c,4dにも100μm程度の回り込みが発生している。
【0022】
端子電極3A,3Bは、例えば銀、銅及びニッケルのいずれかを主成分とした導体ペーストをスクリーン印刷するか、あるいは印刷とディップ方式を用いて形成する。なお、図2では、引き出し導体18A,18Bの幅は全体的に同等となっているが、引き出し導体18A,18Bと端子電極3A,3Bとの接合信頼性を得るために、引き出し導体18A,18Bの端部(接合部)の幅を若干広くするのが好ましい。
【0023】
このように構成される積層型インダクタ1は、積層体4を形成するグリーンシート6?16の積層方向が回路基板(図示せず)の被実装面に対して平行となるように実装されるものである。このため、積層型インダクタ1を回路基板に実装した状態では、コイル状導体17の軸心方向が被実装面に対して平行となる。このとき、電子素子2においてコイル状導体17の軸心方向に交差する側面4c,4dには、端子電極3A,3Bが殆ど存在していないので、コイル状導体17に発生するフラックスが端子電極3A,3Bにより大きく阻害されることは無い。これにより、積層型インダクタ1のQ(quality factor)値の低下を抑えることができる。
【0024】
ところで、積層型インダクタ1の電子素子2は、上下方向(Z軸方向)に対して方向性を持っている。具体的には、上述したように引き出し導体18A,18Bが電子素子2の上面4f側に片寄って配置されているため、積層型インダクタ1を上下逆さにした状態で回路基板(図示せず)に実装すると、回路基板の被実装面に対する引き出し導体18A,18Bの位置が変わってくる。この場合には、積層型インダクタ1のインダクタンス値も変化し、積層型インダクタ1の特性変化の要因となってしまう。」

(イ)「【0050】
また、図23(a)に示すように、端子電極3A,3Bの一部がほぼ積層体4の下面4eにのみ回り込むように、端子電極3A,3Bを形成しても良い。この場合でも、上述したように端子電極3A,3Bが積層体4の側面4c,4dにも僅かに回り込むことは避けられないので、図23(b)に示すように、積層体4の側面4a,4bにおいて両側エッジ部分を避けるように端子電極3A,3Bを形成しても良い。
【0051】
さらに、図24(a)に示すように、積層体4の側面4a,4bにおける下側部位のみに端子電極3A,3Bを形成すると共に、端子電極3A,3Bの一部を積層体4の下面4eに回り込ませても良い。この場合でも、上述したように端子電極3A,3Bが積層体4の側面4c,4dにも僅かに回り込むことは避けられないので、図24(b)に示すように、積層体4の側面4a,4bにおいて両側エッジ部分を避けるように端子電極3A,3Bを形成しても良い。
【0052】
また、上記実施形態では、グリーンシート6?16を積層するシート積層工法により積層体4(電子素子)を形成したが、これ以外にも、例えばセラミックスラリーと導体パターン等とを交互に印刷して積層する印刷積層工法を用いて電子素子を形成しても良い。」

(ウ)「図1



(エ)「図2



(オ)「図3



(カ)「図23




(キ)「図24



・上記(ア)の段落【0014】には、略直方体形状の電子素子2と、この電子素子2の外面に形成された1対の端子電極3A,3Bとを備えている積層型インダクタ1が記載されている。
さらに、段落【0014】には、電子素子2は、積層体4と、この積層体4の内部に形成された内部導体5とを有していることが記載されている。

・上記(ア)の段落【0016】には、積層体4は、4つの側面4a?4d、下面4e及び上面4fを有しおり、下面4eは、回路基板に実装される面であって、側面4a,4b同士は、X軸方向において互いに対向しており、側面4c,4d同士は、Y軸方向において互いに対向しており、下面4eと上面4fとは、Z軸方向において互いに対向していることが記載されている。

・上記(ア)の段落【0017】には、内部導体5は、コイル状導体17と、このコイル状導体17の両端にそれぞれ接続された引き出し導体18A,18Bとを有し、引き出し導体18A,18Bのいずれか一方は内部導体5の始端部を構成し、引き出し導体18A,18Bの他方は内部導体5の終端部を構成し、さらに、引き出し導体18Aは電子素子2の側面4aまで延びており、引き出し導体18Bは電子素子2の側面4bまで延びていることが記載されている。

・上記(ア)の段落【0019】、図3(上記(オ))には、コイル状導体17は、軸心方向に積層された導体パターン5a?5d、および導体パターン5a?5dを接続するスルーホール19a?19cによって形成されること、また、巻回された導体パターン5b、5cおよびスルーホール19bによって螺旋状となっていることが記載されている。

・上記(ア)の段落【0021】には、各端子電極3A,3Bは、電子素子2の側面4a,4bに形成され、各引き出し導体18A,18Bと電気的に接続され、さらに、電子素子2の側面4a,4b全体を覆うように形成されていると共に、一部を電子素子2の下面4e及び上面4fに回り込ませていることが記載されている。

・上記(ア)の段落【0023】には、電子素子2においてコイル状導体17の軸心方向に交差する側面4c,4dには、端子電極3A,3Bが殆ど存在していないので、コイル状導体17に発生するフラックスが端子電極3A,3Bにより大きく阻害されることは無く、これにより、積層型インダクタ1のQ(quality factor)値の低下を抑えることができることが記載されている。
してみれば、引用文献1には、端子電極3A,3Bが殆ど存在していない側面4c,4dとコイル状導体17の軸心方向が交差していることで、コイル状導体17に発生するフラックスが端子電極3A,3Bにより大きく阻害されることは無く、これにより、積層型インダクタ1のQ(quality factor)値の低下を抑えることができることが記載されているといえる。

・上記(イ)の段落【0052】には、積層体4は、セラミックスラリーと導体パターン等とを交互に印刷して積層する印刷積層工法を用いて電子素子を形成しても良いことが記載されている。
してみれば、引用文献1には、積層体4は、印刷積層工法でセラミックスラリーと導体パターン5a?5dとを交互に印刷して積層して形成したものであることが記載されているといえる。

してみると、上記記載事項を総合勘案すると引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「略直方体形状の電子素子2と、この電子素子2の外面に形成された1対の端子電極3A,3Bとを備えている積層型インダクタ1において、
電子素子2は、積層体4と、この積層体4の内部に形成された内部導体5とを有しており、
積層体4は、4つの側面4a?4d、下面4e及び上面4fを有しおり、下面4eは、回路基板に実装される面であって、側面4a,4b同士は、X軸方向において互いに対向しており、側面4c,4d同士は、Y軸方向において互いに対向しており、下面4eと上面4fとは、Z軸方向において互いに対向しており
内部導体5は、コイル状導体17と、このコイル状導体17の両端にそれぞれ接続された引き出し導体18A,18Bとを有し、引き出し導体18A,18Bのいずれか一方は内部導体5の始端部を構成し、引き出し導体18A,18Bの他方は内部導体5の終端部を構成し、さらに、引き出し導体18Aは電子素子2の側面4aまで延びており、引き出し導体18Bは電子素子2の側面4bまで延びているものであり、
コイル状導体17は、軸心方向に積層された導体パターン5a?5d、および導体パターン5a?5dを接続するスルーホール19a?19cにより形成され、また、巻回された導体パターン5b、5c、およびスルーホール19bによって螺旋状となっており、
各端子電極3A,3Bは、電子素子2の側面4a,4bに形成され、各引き出し導体18A,18Bと電気的に接続され、さらに、電子素子2の側面4a,4b全体を覆うように形成されていると共に、一部を電子素子2の下面4e及び上面4fに回り込ませたものであって、
端子電極3A,3Bが殆ど存在していない側面4c,4dとコイル状導体17の軸心方向が交差していることで、コイル状導体17に発生するフラックスが端子電極3A,3Bにより大きく阻害されることは無く、これにより、積層型インダクタ1のQ(quality factor)値の低下を抑えることができ、
積層体4は、印刷積層工法でセラミックスラリーと導体パターン5a?5dとを交互に印刷して積層して形成したものである、
積層形インダクタ1。」

イ 引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明では、高周波領域においては、図7に示すように、表皮効果および近接効果によってコイルの導体の内側に電流が集中して流れるという事実に着目し、コイルの導体幅と、この導体幅に対する導体厚みの比とを特定する手段を採用している。なお、特開平5-182832号公報には、導体の幅と積層方向における間隔の間にQ値の変動の要因があるとし(第2頁右欄第5?7行参照)、導体の幅と積層方向の間隔を選択することによって積層インダクタのQ値を向上させる手法が開示されているが(第2頁左欄第40?46行参照)、これは表皮効果および近接効果によってコイルの導体の内側に電流が集中して流れるという事実に着目したものではなく、この点で本発明とは基本的な考え方が根本的に異なるものである。」

(イ)「【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】図1は本発明に係る積層インダクタの一実施形態を示す図であり、(a)はその斜視図、(b)はその縦断面図である。
【0019】この積層インダクタ1は、図1(a)に示すように、縦1mm、横0.5mm、高さ0.5mmの直方体状の電気絶縁層体2を有しており、電気絶縁層体2の左右両側にはそれぞれ外部電極5が冠着されている。一方、電気絶縁層体2中には螺旋状のコイル3が埋設されており、このコイル3は複数個の導体パターンの端部が順次接続されて積層方向に重畳したものである。また、コイル3の両端にはそれぞれ引出導体4が連設されて左右方向逆向きに延伸しており、各引出導体4は各外部電極5に接続されて導通している。さらに、電気絶縁層体2の上面には方向マーカ6が付設されている。
【0020】ところで、コイル3は、図1(b)に示すように、その導体幅Wが従来より狭くなっているとともに、その導体厚みTが従来より厚くなっており、その結果、インダクタンス値(L値)を低下させることなくQ値を大きくすることができる。これは、高周波領域における表皮効果および近接効果によってコイル3の内側に電流が集中して流れることを踏まえ、あまり電流が流れない部分を削除すると同時に、この削除によって生じる抵抗の上昇はコイル3の厚大化によって抑制されるからである。」

(ウ)「【0021】この効果を確認するため、コイル3の導体幅Wを10?58μmの範囲で変えるとともに、コイル3の導体厚みTを5?150μmの範囲で変えて各種の積層インダクタ1を試作し、これらの積層インダクタ1をそのインダクタンス値が15nHより小さいか否かによって2群に分け、1MHz?1GHzの周波数帯域での特性をそれぞれ調べた。その結果を表1および表2にまとめて示す。表1はインダクタンス値が15nH未満の積層インダクタ1についての特性を示すものであり、表2はインダクタンス値が15nH以上の積層インダクタ1についての特性を示すものである。なお、表1、表2において、T/Wはコイル3の導体幅Wに対する導体厚みTの比を表し、LおよびRDCはそれぞれインダクタンス値および直流抵抗値を表す。
【表1】


【表2】


【0022】表1から明らかなように、インダクタンス値が15nH未満の積層インダクタ1については、コイル3の導体幅Wや導体厚みTが変化すると、それに応じてQ値も変化するが、導体幅Wが30?49μmであり、かつコイル3の導体幅Wに対する導体厚みTの比T/Wが0.4?3である場合は、Q値(100MHz)が12以上でQ値(1GHz)が35以上という基準を満たしており、導体幅Wが20?30μmであり、かつコイル3の導体幅Wに対する導体厚みTの比T/Wが2?3である場合も、同基準を満足していることがわかる。
【0023】他方、表2から明らかなように、インダクタンス値が15nH以上の積層インダクタ1については、コイル3の導体幅Wや導体厚みTが変化すると、それに応じてQ値も変化するが、導体幅Wが30?43μmであり、かつコイル3の導体幅Wに対する導体厚みTの比T/Wが0.3?0.667である場合は、Q値(100MHz)が12以上でQ値(1GHz)が33以上という基準を満たしていることがわかる。」

(エ)「【0025】ところで、このような導体厚みTの厚いコイル3を備えた積層インダクタ1を印刷積層方式で製造しようとすると、コイル3のある部位とない部位とで大きな凹凸が生じ、均一な厚みの積層インダクタ1が得られなかったり、コイル3の段差部分が外部に露出して短絡を惹起し、積層インダクタ1としての品質が損なわれたりする恐れがあるが、以下の手順で製造することにより、こうした事態を回避することが可能となる。
【0026】
・・・中略・・・

【0027】次に、図5(b)に示すように、誘電体ペースト21上に導体ペースト22をJ字形に印刷して一方の引出導体4を形成した後、図5(c)に示すように、この導体ペースト22の内側凹部(コイル3の芯部分)に誘電体ペースト23を印刷して電気絶縁層を形成するとともに、導体ペースト22の先端近傍に誘電体ペースト24を印刷して滲み防止層を形成する。そして、これら導体ペースト22、誘電体ペースト23、24が所定の厚みに達するまで印刷を繰り返す。この導体ペースト22としては、例えば、銀または銀パラジウムにPVBやメチルセルロース、アクリル樹脂などのバインダーを加え、さらに印刷性の向上や生産時の取扱いを考慮して分散剤や可塑剤を添加したものを用いることができる。後述する導体ペースト26、29、33、36についても同様である。」

(オ)「図1



(カ)「図5



(キ)「図7



・上記(ア)、及び図7(上記(キ))には、高周波領域においては、表皮効果および近接効果によってコイルの導体の内側に電流が集中して流れるという事実に着目し、コイルの導体幅と、この導体幅に対する導体厚みの比とを特定することが、さらに、上記(イ)の段落【0020】には、表皮効果および近接効果によって、コイル3の導体幅Wを従来より狭くするとともに、その導体厚みTを従来より厚くすることで、インダクタンス値(L値)を低下させることなくQ値を大きくすることができることが記載されている。

・上記(ウ)の段落【0021】ないし【0023】には、このQ値が大きくなることを確認するために、Q値(100MHz)が12以上でQ値(1GHz)が35以上という基準を設け(段落【0022】)、コイル導体の幅Wを10?58μm、厚みTを5?150μmの範囲で実験を行い(段落【0021】)、その結果として、導体幅(W)が30?49μmであって、かつ導体幅に対する導体厚み(T)の比(T/W)(本願の「アスペクト比」に相当)が0.4?3である場合には前記基準を満たす(段落【0022】)ことが記載されている。

してみると、上記記載事項を総合勘案すると引用文献2には以下の技術事項が記載されている。

「インダクタにおけるQ値を高めるために、高周波領域において表皮効果および近接効果によって電流が集中して流れるコイルの内側部分の体積を大きくするために、コイルの導体厚み(T)を厚くし、電流が流れない部分のコイルの導体幅(W)を狭くしたものにおいて、導体幅(W)が30?49μmであって、かつ導体幅に対する導体厚み(T)の比(T/W)が0.4?3である場合に、Q値(100MHz)が12以上でQ値(1GHz)が35以上という基準を満たすこと。」

ウ 引用文献3の記載事項
引用文献3には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0014】
コイル導体層18aは、図2及び図3に示すように、開口Op1内及び絶縁体層16bの表面上に設けられている。ただし、コイル導体層18aは、上側から平面視したときに、絶縁体層16bの表面上において開口Op1の周囲にはみ出している。これにより、コイル導体層18aが延在する方向に直交する断面において、コイル導体層18aはT字型の断面形状をなしている。そして、コイル導体層18aの下面は、コイル導体層18bの上面に接触している。これにより、コイル導体層19aは、コイル導体層19aが延在する方向に直交する断面において、H字型を90度回転させた断面形状をなしている。そのため、コイル導体層19aが延在する方向に直交する断面において、コイル導体層19aにおけるコイルLの内周側を向く面には、コイルLの外周側に向かって窪んだ凹部Gaが設けられている。凹部Gaの深さD1(図3参照)は、6μm以上であって、コイル導体層18a?18hの線幅W1,W2の40%以下であることが好ましい。」

(イ)「図3



(ウ)「図21



(エ)「図22



エ 引用文献4の記載事項
引用文献4には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0039】第4工程(電解めっき工程)では、ドライフィルム12の溝部13に電解めっきとしての光沢硫酸銅めっきで厚さ80μmのコイル導体層14を形成する。ここで光沢めっきとするのは、導体層14表面を鏡面状にして凹凸を少なくするためである。なお、導体層14は溝部13の深さよりも肉厚が多少大きくなるようにめっき処理してもよい。」

(イ)「【0048】第12工程(電解めっき工程)では、ドライフィルム32の溝部33に電解めっきとしての光沢硫酸銅めっきで厚さ100μmのコイル導体層34を形成する。ここで光沢めっきとするのは、導体層34表面を鏡面状にして凹凸を少なくするためである。なお、導体層34は溝部33の深さよりも肉厚が多少大きくなるようにめっき処理してもよい。ここで、導体層を厚くとり、めっき液の組成を選ぶと、ビアホールの穴を金属導体で完全に埋めることができ、信頼性上及び電気的特性上好ましい。この場合、硫酸銅めっき液の濃度は高い方が好ましく、5水塩換算で150g/リットル以上、さらに好ましくは200g/リットルである。光沢剤はいわゆるビアフィル(ビアホールを埋め尽くすこと)を目的とし、さらに均一電着性が50%以上であるものを選択する。導体層の厚さは層間絶縁層の厚さの1/2以上、さらに1以上が好ましい。」

(ウ)「【0072】端子電極45同士を接続するコイル導体50となる第1導体層20及び第2導体層40のアスペクト比は出来るだけ大きいことが好ましい。アスペクト比を上げることにより、コイル導体の渦電流損失を増やすことなく電流路の断面積を増加する事が出来る。またインダクタンス値はほとんど変わらないので、Qを効率良く上げることが出来る。」

(エ)「【0084】(3) コイル導体のアスペクト比を高くする。コイル導体50、つまり第1導体層20、第2導体層40のアスペクト比をそれぞれ上げると電流路の断面積を増やせるのでRjが減少し、Qを向上出来る。」

(オ)「図4



オ 引用文献5の記載事項
引用文献5には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0015】
(積層型インダクタの構成)
まず、図1?図5を参照して、本実施形態に係る積層型インダクタ10の構成について説明する。積層型インダクタ10は、図1及び図2に示されるように、略直方体形状の積層体12と、積層体12の長手方向の両側面にそれぞれ形成された一対の外部電極14,16と、積層体12の内部において導体パターンC1?C12がそれぞれ互いに電気的に接続されてなるコイルLとを備える。」

(イ)「図5



(ウ)「図6



カ 引用文献6の記載事項
引用文献6には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0008】
図6は、上記コイルの厚さ寸法を増大させるための従来法に基づいた製造工程を示すものである。この製造工程においては、先ず第1回目の印刷工程においてPETのシート20上に導電パターン24を印刷し、次いで第2回目の印刷工程において、その周囲に磁性体層25を印刷した後に、さらに第3回目の印刷工程において、導電パターン24上に導電パターン26を印刷し、第4回目の印刷工程においてその周囲に磁性体層26を印刷することにより上記印刷部21が作成される。」

(イ)「図6



キ 引用文献7の記載事項
引用文献7には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0024】
図3に示したように、磁性体ペーストをシート状に成形したグリーンシート11上に溝31を有する磁性体パターン21を形成し、溝31に金属ペーストを充填するように印刷して導体パターン32を形成する(s11a、s11b)?(s13a、s13b)。ここまでの手順は実施例1と同様である。実施例2ではここで絶縁層12を形成せず、再度磁性体パターン22を形成し(s14a、s14b)、その磁性体パターン22によって形成されている溝31に導体パターン33を形成する(s15a、s15b)。それによって2段分の導体パターン(以下、2段導体パターン)34が形成され、この時点で1層目の導体埋め込み層40がグリーンシート11上に形成される。そして1層目の導体埋め込み層40上に絶縁層12を形成し(s16a、s16b)、2層目の導体埋め込み層40の形成工程に移る。すなわち以後(s12a、s12b)?(s16a、s16b)と同様の工程を繰り返して2層目以降の導体埋め込み層40を順次積層していく。」

(イ)「【0029】
また落とし込み印刷法においても、実施例2と同様に1層の埋め込み導体層140に2段分の導体パターンを形成する製造方法(以下、比較例2とも言う)がある。図5に比較例2に係る製造方法の手順を示した。ここでも製造方法の流れを(s31a、s31b)?(s35a、s36b)の順に示すとともに、s31a?s36aに製造途上にある積層チップインダクタの平面図を示し、s31a?s36bにs31a?s36aにおけるd-d矢視断面図を示した。比較例2では、準備したグリーンシート11に導体パターン132と磁性体パターン121を形成する(s31a、s31b)?(s33a、s33b)。ここまでの手順は比較例1と同様である。つぎに再度導体パターン133を形成し(s34a、s34b)、次いでその導体パターン133の周囲に磁性体パターン122を印刷する(s35a、s35b)。それによって1層に2段分の導体パターン134が形成された導体埋め込み層140がグリーンシート11上に形成される。そして1層目の導体埋め込み層140を磁性体ペーストで覆って絶縁層112を形成し(s36a、s36b)、以後は(s32a、s32b)?(s36a、s36b)と同様の手順を繰り返して必要な層数分の導体埋め込み層140を形成していく。」

(ウ)「図3



(エ)「図5



ク 甲第20号証の記載事項
令和2年12月25日の申立人による意見書で挙げられた甲第20号証(特開平9-162354号公報)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0045】(実施の形態2)つぎに、実施の形態2について説明する。実施の形態2に係る集積インダクタ構造の製造にあっては、図7?図12に示すように、第1のレベルのコイル要素124(金属化層M1)は、図1に示した実施の形態1の場合と類似した、平面状螺旋形を有する集積回路基板120上の第1の金属化層M1によって形成されている。金属間誘電体126の第1の層がその上にディポジットされており、そして金属間誘電体126を介して第1のレベルのコイル要素124への接触開口部128が形成されている(図8参照)。
【0046】この接触開口部128はコイル要素と同じ形の細長い溝の形状を有し、すなわち、第1の金属化層M1である第1のレベルのコイル要素124に重なって、螺旋形コイルの長さ方向に延びており、そして、第1のレベルのコイル要素124自体より多少狭くなっている。この接触開口部128には抵抗性が低く、第1の金属化層M1よりわずかに厚めの充填材料(金属プラグ)130、例えば、金属か合金が充填されている(図9参照)。充填材料130はその溝を充填するように、ディポジションまたは表面から余分な金属をエッチ・バックする方法で、好ましくは、化学的機械的研磨方法(以下、CMPという)で、金属間誘電体126と同じ高さで、あるいは、図10に示されるように形をぴったり合わせてディポジットされており、十分に平面化された表面が残される。
【0047】また、溝内への金属の選択的ディポジションか、あるいは、ブランケット・ディポジションおよび反応性イオン・エッチングによりエッチバックによる他の公知の溝内部における貫通プラグ形成プロセスを用いてもよい。
【0048】つぎに、第2のレベルのコイル要素132がその上にディポジットされ、第1のレベルのコイル要素124に重なっており、同じ螺旋形を有する第2のレベルのコイル要素132を形成するためのパターン化が行われる(図11参照)。したがって、第2のレベルのコイル要素132は、充填材料(金属プラグ)130が充填された導電性溝を介して第1のレベルのコイル要素124に接続される。
【0049】処理工程の後半のシーケンスが繰り返され、後の層が形成されて、第3およびそれに続くコイル要素138、144が、図12に示されるような相互接続貫通構造を有して形成され、それぞれ、各螺旋形コイル要素の長さ方向に沿って延びた金属プラグ(導電性溝)130、134および140の形状をした導電性貫通構造によって相互接続された4つのレベルの金属化層M1、M2、M3およびM4で構成される積層金属構造を有する厚めのコイルが形成される(図19参照)。
【0050】上記実施の形態2によるRFコイル構造は、溝の長さ方向に沿ったコイル要素間の接触面積が増大し、接触抵抗が減ると同時に、単一の厚い金属化層を用いて形成されるコイルにより類似した構造が提供される点において利点がある。」

(イ)「図12




(3)取消理由についての当審の判断
ア 本件特許発明3について
本件特許発明3と引用発明を対比する。
・引用発明の「側面4a」及び「側面4b」は、略直方体形状である積層体4の対向する2面であって直方体の端の面といえるから、本件特許発明3の「互いに対向する2つの端面」に相当する。
また、引用発明の「下面4e」は、略直方体形状である積層体4の下面であって、「側面4a」と「側面4b」の間を接続していることは明らかであるから、本件特許発明3の「2つの端面の間に接続された底面」に相当する。
そして、引用発明の「積層体4」は、「側面4a」、「側面4b」、及び「下面4e」を有するものであるから、本件特許発明3の「互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体」に相当する。

・引用発明の「コイル状導体17」は、積層体4の内部に形成された内部導体5の一部であって、さらに、導体パターン5a、5b、5c、5dを積層したものであり、また、巻回された導体パターン5b、5c、およびスルーホール19bによって螺旋状となっていることから、本件特許発明3の「素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイル」に相当する。

・引用発明の「端子電極3A」及び「端子電極3B」は、積層体の側面4a及び側面4bに形成され、また、コイル状導体17の両端にそれぞれ接続された引き出し導体18A及び引き出し導体18Bと接続されるものであるから、本件特許発明3の「素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極」に相当する。
さらに、引用発明の「各端子電極3A,3Bは、・・・・、さらに、電子素子2の側面4a,4b全体を覆うように形成されていると共に、一部を電子素子2の下面4e及び上面4fに回り込ませたものであ」ることは、本件特許発明3の「一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され」ることに相当する。

・引用発明の「コイル状導体17の軸心方向」は、直方体形状である積層体4の対向する側面4c,4dと交差するものであるから、積層体4の他の側面4a、4b及び下面4eに沿っているといえる。
してみると、引用発明の「端子電極3A,3Bが殆ど存在していない側面4c,4dとコイル状導体17の軸心方向が交差して」いることは、本件特許発明3の「コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され」ることに相当する。

・引用発明の積層体4は、印刷積層工法でセラミックスラリーと導体パターン5a?5dとを交互に印刷して積層して形成したものであって、コイル状導体17は導体パターン5a?5dからなり、また、そのうち導体パターン5b、5cは巻回されているものであるから、印刷されるコイル状導体17の導体パターン5b、5cはセラミックスラリーの平面に沿って巻回されたものといえる。また、積層方向はコイル状導体17の軸心方向であるから、セラミックスラリーの平面は軸心方向と直交しているといえる。
そして、印刷積層工法では、印刷積層したセラミックスラリーと導体パターン5a?5dを、その後、焼成することで製品である積層型インダクタ1の積層体4及び積層体4内部の内部導体5(「コイル状導体17」)とすることが技術常識であって、また、通常、焼成前のセラミックスラリー及び導体パターン5a?5dの位置関係と、焼成後の積層体4と内部導体5の位置関係は、ほぼ変わらないものである。してみると、引用発明の積層体4内部の「コイル状導体17」の「導体パターン5b、5c」は、「コイル状導体17」の軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含むものといえる。
したがって、引用発明の「コイル状導体17」の「導体パターン5b、5c」、本件特許発明3の「コイル配線」に相当し、また、引用発明の「積層体4は、印刷積層工法でセラミックスラリーと導体パターン5a?5dとを交互に印刷して積層して形成したものである」ことは、本件特許発明3の「前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含」むことに相当する。

・引用発明の「積層形インダクタ1」は、「積層体4」、「コイル状導体17」、及び「端子電極3A,3B」を備えるものであるから、本件特許発明3の「インダクタ部品」に相当する。

・但し、本件特許発明3では「前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満である」のに対して、引用発明では導体パターンに関してその旨の特定がされていない点で相違する。

・また、本件特許発明3では、「前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間に、介在層が存在しておらず、前記コイル配線の横断面は、T字状を積層した形状であり、配線幅が小さいコイル導体層と配線幅が大きいコイル導体層とを交互に積層した形状である」のに対して、引用発明では導体パターンに関してその旨の特定がされていない点で相違する。

そうすると、本件特許発明3と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含む、インダクタ部品。」

(相違点1)
本件特許発明3では「前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満である」のに対して、引用発明では導体パターンに関してその旨の特定がされていない点。

(相違点2)
本件特許発明3では「前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間に、介在層が存在しておらず、前記コイル配線の横断面は、T字状を積層した形状であり、配線幅が小さいコイル導体層と配線幅が大きいコイル導体層とを交互に積層した形状である」のに対して、引用発明では導体パターンに関してその旨の特定がされていない点。

上記相違点について検討する。
まず、相違点2について検討する。
コイル配線を面接触して積層された介在層の存在しない複数のコイル導体層から構成することは周知の技術(必要であれば、引用文献2の段落【0027】、図5、引用文献3の図3、引用文献5の図5及び図6、引用文献6の図6、引用文献7の図3、図5参照。)である。
さらに、コイル配線の横断面の形状を、T字状を積層した形状とすることも周知の形状(必要であれば、引用文献5の図5及び図6、引用文献6の図6、引用文献7の図3、図5参照。)である。
しかしながら、コイル配線の横断面が「配線幅が小さいコイル導体層と配線幅が大きいコイル導体層とを交互に積層した形状である」ものは、引用文献2ないし7には記載されておらず周知技術であるとも認められない。また、引用文献5ないし7の「T字状を積層した形状」は、「配線幅が小さいコイル導体層と配線幅が大きいコイル導体層とを交互に積層した形状」で構成されるものではなく、各コイル導体層自体の形状が略T字状であるものを積層したものである。
そして、このような各コイル導体層自体の形状が略T字状であるものにおいて、あえて導体層を分けて「配線幅が小さいコイル導体層と配線幅が大きいコイル導体層とを」積層しT字状とする理由は存在しない。
よって、上記相違点2に係る本件特許発明3の構成は、引用発明及び引用文献2ないし引用文献7に記載される技術事項に基づいて、当業者が容易に採用し得たものではない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明3は、当業者が、引用発明及び引用文献2ないし引用文献7に記載される技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

なお、この点に関して、申立人は令和2年12月25日付け意見書において、
「d 構成要件(k)について
甲第20号証(特開平9-162354号公報)の段落0045?0049及び図8-12、19には、幅の異なる導体層を交互に積層されてなるコイル要素が記載されている。引用文献1における導体パターンを、このように幅の異なる導体層を交互に積層させて形成し、構成要件(K)の構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。」(意見書4頁16行?20行)、
と主張している。
しかしながら、引用発明の導体パターンはセラミックスラリー上に印刷されるものであって、引用発明における導体パターンに甲第20号証のものを適用して幅の異なる導体パターンを印刷すると、幅の小さなものは幅の大きなもので覆われてしまい、幅の異なる導体層を交互に積層させることはできず、T字状を積層することはできないものと認められる。
よって、上記主張は採用することができない。

イ 本件特許発明4、9、12、13について
本件特許発明4、9、13は、本件特許発明3の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件特許発明3についての判断と同様の理由により、本件特許発明4、9、13は、当業者が、引用発明及び引用文献2ないし引用文献7に記載される技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
なお、本件特許発明12については、特許請求の範囲の請求項12は本件訂正請求により削除された。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明3、4、9、13は、引用文献1に記載された発明、及び引用文献2ないし引用文献7に記載される技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
よって、請求項3、4、9、13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由等について
(1)申立理由の概要
ア 理由1(特許法第29条第1項第3号)
・訂正前の請求項1ないし5、9、10について
甲第1号証に記載された発明である。
・訂正前の請求項1、5について
甲第2号証に記載された発明である。
・訂正前の請求項1ないし5、9について
甲第3号証に記載された発明である。
・訂正前の請求項1ないし4、9について
甲第4号証に記載された発明である。

イ 理由2(特許法第29条第2項)
・訂正前の請求項1ないし10、13、14について
甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができた発明である。
・訂正前の請求項12
甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第10号証及び甲第11号証)に基づいて当業者が容易に発明することができた発明である。
・訂正前の請求項1、5、14について
甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができた発明である。
・訂正前の請求項1ないし5、9、14について
甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができた発明である。
・訂正前の請求項1ないし4、9、14について
甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができた発明である。

ウ 理由3(特許法第29条の2)
・訂正前の請求項1、2、5、14について
甲第5号証の先願明細書等に記載された発明と同一の発明である。

エ 理由4(特許法第36条第6項第1号)
・訂正前の請求項11について
訂正前の請求項11には、「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している」とあるが、面接触するコイル導体層同士の間に介在層が存在している構成が、明細書の発明の詳細な説明中に記載も示唆もされておらず、請求項11の記載は、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。

オ 理由5(特許法第36条第6項第2号)
・訂正前の請求項11について
訂正前の請求項11には、「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している」とあるが、面接触するコイル導体層同士の間にどのように介在層が存在するのか、技術的に理解できず、請求項11の記載は不明確である。

カ 証拠一覧
甲第1号証:特開2001?93734号公報(引用文献2)
甲第2号証:特開2004?207608号公報
甲第3号証:米国特許出願公開第2016/86720号明細書
甲第4号証:特開2016?72615号公報
甲第5号証:特願2016-254735号(特開2017?216428号)
甲第6号証:特開2010?165975号公報
甲第7号証:米国特許出願公開第2016/0141102号明細書
甲第8号証:国際公開第2007/080680号公報
甲第9号証:特開2006?10838号公報(引用文献1)
甲第10号証:特開2014?207280号公報(引用文献3)
甲第11号証:特開2002-184638号公報(引用文献4)
甲第12号証:特開2004-343036号公報

(2)各甲号証の記載事項

ア 甲第1号証
甲第1号証の摘記事項に関しては、上記「2.(2)イ 引用文献2の記載事項」に記載のとおりである。
そして、上記「2.(2)イ」の(イ)の段落【0019】には、直方体状の電気絶縁層体2を有し、電気絶縁層体2の左右両側にはそれぞれ外部電極5が冠着されている積層インダクタ1が、さらに、電気絶縁層体2中には螺旋状のコイル3が埋設されており、このコイル3は複数個の導体パターンの端部が順次接続されて積層方向に重畳したものであり、また、コイル3の両端にはそれぞれ引出導体4が連設されて左右方向逆向きに延伸しており、各引出導体4は各外部電極5に接続されて導通していることが記載されている。
また、図1(上記「2.(2)イ」の(オ)から、電気絶縁体層2は、4つの側面と両端の面からなる直方体状であり、さらに、一方の外部電極5は4つの側面と両端の面の一方に渡って形成され、他方の外部電極5は4つの側面と両端の面の他方に渡って形成され、コイル部3の軸方向が両端面に沿っている、ことが看取できる。さらに、【表1】には、コイル3の導体幅Wに対する導体厚みTの比T/Wを3とすることが記載されている。
してみると、引用文献2には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が開示されていると認められる。

「直方体状の電気絶縁層体2を有し、電気絶縁層体2の左右両側にはそれぞれ外部電極5が冠着されている積層インダクタ1において、
電気絶縁層体2中には螺旋状のコイル3が埋設されており、このコイル3は複数個の導体パターンの端部が順次接続されて積層方向に重畳したものであり、また、コイル3の両端にはそれぞれ引出導体4が連設されて左右方向逆向きに延伸しており、各引出導体4は各外部電極5に接続されて導通しており、
電気絶縁体層2は、4つの側面と両端の面からなる直方体状であり、さらに、一方の外部電極5は4つの側面と両端の面の一方に渡って形成され、他方の外部電極5は4つの側面と両端の面の他方に渡って形成され、コイル3の軸方向が両端面に沿っており、
コイル3の導体幅Wに対する導体厚みTの比T/Wが3であり、
コイル3の導体厚みTは、導体ペースト22が所定の厚みに達するまで印刷を繰り返したものである、
積層インダクタ1。」

イ 甲第2号証
甲第2号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
グリーンシートに凹溝を加工して該凹溝に複数個分の導電性ペーストを縦横に印刷し、複数枚のグリーンシートを積層して内部に複数のコイルを形成し、切断、焼成し、両端部に端子電極を設けることにより製造される積層型電子部品であって、
前記導電性ペーストにより構成されるコイル導体は、焼成後の断面形状において、前記凹溝の両側にコイル導体の一部が重なり、かつ、前記コイル導体の断面の厚みtと幅wとのアスペクト比t/wが0.7以上であることを特徴とする積層型電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載の積層型電子部品において、
前記アスペクト比が0.7?1.1であることを特徴とする積層型電子部品。」

(イ)「【0016】
【発明の実施の形態】図1(A)は本発明による積層型電子部品の一実施の形態を示す層構造図、図1(B)はその外観図である。1a?1nは磁性体または非磁性体からなる絶縁体層、2a?2hは絶縁体層1c?1jにそれぞれ形成した凹溝、4a?4nはそれぞれ絶縁体層1a?1nに設けたスルーホール、3a?3nはそれぞれスルーホール4a?4nに充填され、かつ3c?3jについては凹溝2a?2iを埋めるように設けられた導体であり、後述のコイル12(図6(B)参照)を形成するための導体3c?3jと後述の端子電極11(図1(B)、図6(B)参照)にコイル12を接続するための導体3a、3b、3k、3nとからなる。
【0017】
図1(B)において、10は導体3a?3nを設けた絶縁体層1a?1nの積層により構成された素体、11はその両端に設けられた端子電極である。」

(ウ)「【0026】
また、凹溝2における導体層の厚みbと幅aとのアスペクト比r=b/aを0.78以上とするにより、図6(A)の従来品(グリーンシートに凹溝を設けない構造のもの)に比較し、図6(B)に示すように、幅aの狭いコイル12を得ることができる。ここで、コイルの断面積を最も大きく、しかもコイルと絶縁体層との間の空隙形成を防止するためには、断面形状が円形あるいは円形に近い形状にすることが好ましく、そのためには、凹溝2は図示のV字形とすることが好ましい。

・・・中略・・・

【0028】
なお、前記導電性ペースト3のアスペクト比はより好ましくは0.78?1.16である。アスペクト比が1.16を超えると、導電性ペーストの印刷性が低下する傾向がある。
【0029】
グリーンシートの積層、圧着、焼成によりコイル導体は積層方向に圧縮されるので、前記グリーンシート状態におけるアスペクト比r=0.78は、焼成後のものではアスペクト比は0.7となる。また、好ましいアスペクト比の0.78?1.16は、焼成後のもののアスペクト比0.7?1.1に相当する。」

(エ)「【0032】
この実施例の試作品の焼成後のコイル断面の幅(グリーンシート状態の幅aに対応する幅)は33μmであり、アスペクト比は1.1であった。また、図6(B)に示すコイル12の対向辺の間隔D2は360μmであった。」

(オ)「【0035】
本発明は、積層方向の両端に端子電極11を設ける構造のインダクタのみならず、積層方向に直角をなす方向の両端に端子電極を設ける構造のものや、コンデンサ等他の素子を一体に形成する構造のものにも適用できる。また、モジュールとして複数の素子と一体の積層構造部品として構成することも可能である。」

(カ)「図1



(キ)「図6



・上記(イ)の段落【0016】には、コイル12は導体3c?3jより形成することが記載されており、図1(上記(カ))、図6(上記(キ))から、コイル12は螺旋状に巻き回されたものであって、素体10の両端に端子電極11が設けらること、さらに、素体10は、4つの側面と両端の面からなる直方体状であり、さらに、一方の端子電極11が4つの側面と両端の面の一方に渡って形成され、他方の端子電極11が4つの側面と両端の面の他方に渡って形成され、コイル12の軸方向が4つの側面に沿い、両端面とは交差している、ことが看取できる。

上記記載事項によれば、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が開示されていると認められる。

「導体3a?3nを設けた絶縁体層1a?1nの積層し、4つの側面と両端の面からなる直方体状である素体10と、
素体10内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイル12と、
素体10の両端に設けられた端子電極11と、
を備え、
一方の端子電極11が4つの側面と両端の面の一方に渡って形成され、他方の端子電極11が4つの側面と両端の面の他方に渡って形成され、
コイル12は、その軸方向が4つの側面に沿い、両端面とは交差するように配置されており、
絶縁体層1a?1nのうち、絶縁体層1c?1jにそれぞれ凹溝2a?2hを形成し、さらに絶縁体層1a?1nにはそれぞれスルーホール4a?4nを形成し、それぞれスルーホール4a?4n、かつ凹溝2a?2iは導体3a?3nで埋められ、導体3c?3jによってコイル12を形成し、導体3a、3b、3k、3nによって端子電極11にコイル12が接続される、
凹溝2における導体層の厚みbと幅aとの比であるアスペクト比が1.1である、
積層型電子部品。」

ウ 甲第3号証
甲第3号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。(当審訳は、特許異議申立人による抄訳文を参考にした。)

(ア)「[0019] The chip electronic component 100 according to an exemplary embodiment of the present disclosure may include a magnetic body 50,internal coil parts 41 and 42 embedded in the magnetic body 50,and first and second external electrodes 81 and 82 disposed on an outer portion of the magnetic body 50 to thereby be electrically connected to the internal coil parts 41 and 42.
(当審訳:本発明の一実施形態によるチップ電子部品100は、磁性体50と、磁性体50内に埋設された内部コイル部41、42と、磁性体50の外部に設けられた、内部コイル部41、42に電気的に接続された第1及び第2外部電極81、82と、を含んでもよい。)」

(イ)「[0029] The first and second internal coil parts 41 and 42 may be formed in a spiral shape, and the first and second internal coil parts41 and 42 formed on one surface and the other surface of the insulating substrate 20 may be electrically connected to each other through a via 45 penetrating through the insulating substrate 20.
(当審訳:第1及び第2内部コイル部41、42は螺旋状に形成され、また絶縁基板20の一面及び他面に形成された第1及び第2内部コイル部41、42は、絶縁基板20を貫通するビア45を通じて互いに電気的に接続されてもよい。)」

(ウ)「[0040] Referring to FIG. 2, each of the first and second internal coil parts 41 and 42 may include a first coil pattern part 61 formed on the insulating substrate 20 and a second coil pattern part 62 formed on the first coil pattern part 61.
(当審訳:図2に示すように、第1及び第2内部コイル部41、42は、絶縁基板20に形成された第1コイルパターン部61と、第1コイルパターン部61に形成された第2コイルパターン部62とを含む。)」

(エ)「[0045] At the time of forming the second coil pattern part 62 by electroplating using the first coil pattern part 61 as a seed layer, anisotropic plating growth that growth of the coil pattern portions in the width direction is suppressed but growth of the coil pattern portions in the thickness direction is performed may be induced by forming the first coil pattern part 61 to satisfy a≦15 μm and b/a≧7.
(当審訳:第1コイルパターン部61をシード層として電解めっきにより第2コイルパターン部62を形成する際、a≦15μm、b/a≧7を満たすように第1コイルパターン部61を形成することにより、コイルパターン部の幅方向の成長が抑制され、コイルパターン部の厚さ方向の成長が行われる異方性めっき成長が誘導される。)」

(オ)「[0050] That is, the coil pattern portions 62a, 62b, 62c, and 62d of the second coil pattern part 62 may be formed as anisotropic plating layers grown on the upper surfaces 61T of the coil pattern portions 61a, 61b, 61c, and 61d of the first coil pattern part 61 in the thickness direction in a state in which growth thereof in the width direction is suppressed.
(当審訳:すなわち、第2コイルパターン部62のコイルパターン部62a、62b、62c、62dは、第1コイルパターン部61のコイルパターン部61a、61b、61c、61dの上面61T上に、幅方向への成長が抑制された状態で厚さ方向に成長した異方性めっき層として形成されてもよい。)」

(カ)「[0053] A maximum width c of the coil pattern portions 61a, 61b, 61c, and 61d of the first coil pattern part 61 may be 50 μm to 90 μm.
(当審訳:第1コイルパターン部61のコイルパターン部61a、61b、61c、61dの最大幅cは、50μm?90μmであってもよい。)
[0054] A thickness d of the internal coil parts 41 and 42 including the first and second coil pattern parts 61 and 62 may be 200 μm to 500 μm.
(当審訳:第1及び第2コイルパターン部61、62を含む内部コイル部41、42の厚さdは、200μm?500μmであってもよい。)」

(キ)「[0057] The internal coil parts 41 and 42 according to an exemplary embodiment of the present disclosure are formed so that the first coil pattern part 61 satisfies a≦15 μm and b/a≧7, such that generation of the short-circuit between the coil patterns may be prevented and the internal coil parts 41 and 42 having a high aspect ratio (AR) may be obtained by inducing the anisotropic plating growth of the second coil pattern part 62. For example, the internal coil parts 41 and 42 may have an aspect ratio (AR) of 2.0 or more.
(当審訳:本発明の一実施形態による内部コイル部41、42は、第1コイルパターン部61がa≦15μm、b/a≧7を満たすように形成される。これにより、コイルパターン間の短絡の発生が阻害されると共に、第2コイルパターン部62の異方性めっき成長を誘導することによって、高アスペクト比(AR)を有する内部コイル部41、42が得られる。例えば、内部コイル部41、42は、2.0以上のアスペクト比(AR)を有してもよい。)」

(ク)「[0065] The first and second external electrodes 81 and 82 may be disposed on both end surfaces of the magnetic body 50 in the length (L) direction so as to be connected to the first and second internal coil parts 41 and 42 exposed to both end surfaces of the magnetic body 50 in the length (L) direction, respectively.
(当審訳:第1及び第2外部電極81、82は、それぞれ、磁性体50の長さ(L)方向の両端面に配置され、磁性体50の長さ(L)方向の両端面に露出する第1及び第2内部コイル部41、42に接続されてもよい。)」

(ケ)「[0068] The following Table 1 shows results obtained by measuring plating growth of the second coil pattern part 62 formed on the first coil pattern part 61 by electroplating while changing a (a minimum interval between coil pattern portions) and b (a maximum thickness of the coil pattern portion) of the first coil pattern part 61.
(当審訳:以下の表1は、第1コイルパターン部61上に電気めっきによって形成された第2コイルパターン部62のめっき成長を、第1コイルパターン部61のa(コイルパターン部間の最小間隔)およびb(コイルパターンの最大厚さ)を変えて測定することによって得られた結果である。)
[0069] Growth of an upper portion of the second coil pattern part 62 means a thickness of the second coil pattern part 62 formed on the upper surface 61T of the first coil pattern part 61, and growth of a side portion of the second coil pattern part 62 means a thickness of the second coil pattern part 62 formed on the side surface 61S of the first coil pattern part 61.


(当審訳:第2コイルパターン部62の上側の成長とは、第1コイルパターン部61の上面61Tに形成された第2コイルパターン部62の厚さを意味し、第2コイルパターン部62の側部の成長とは、第1コイルパターン部61の側面61Sに形成された第2コイルパターン62の厚さを意味する。)」

(コ)「



(サ)「



(シ)「



・Fig.1(上記(コ))から、磁性体50は、4つの側面と両端の面からなる直方体状であり、さらに、第1外部電極81は4つの側面と両端の面の一方に渡って形成され、第2外部電極82は4つの側面と両端の面の他方に渡って形成され、内部コイル部41、42軸方向が両端面に沿っている、こと、および、第1及び第2内部コイル部41、42は、軸方向に直交する平面に沿って巻回されている、ことが看取できる。

上記記載事項によれば、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が開示されていると認められる。

「磁性体50と、磁性体50内に埋設された第1及び第2内部コイル部41、42と、磁性体50の外部に設けられた、第1及び第2内部コイル部41、42に電気的に接続された第1及び第2外部電極81、82とを含むチップ電子部品100において、
第1及び第2内部コイル部41、42は螺旋状に形成され、また、絶縁基板20の一面及び他面に形成された第1及び第2内部コイル部41、42は、絶縁基板20を貫通するビア45を通じて互いに電気的に接続され、また、第1及び第2内部コイル部41、42は、軸方向に直交する平面に沿って巻回されており、
磁性体50は、4つの側面と両端の面からなる直方体状であり、さらに、第1外部電極81は4つの側面と両端の面の一方に渡って形成され、第2外部電極82は4つの側面と両端の面の他方に渡って形成され、内部コイル部41、42軸方向が両端面に沿っており、
第1及び第2内部コイル部41、42は、2.0以上のアスペクト比(AR)を有する、
チップ電子部品100。」

エ 甲第4号証
甲第4号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。

(ア)「【0012】
本発明の一実施形態による多層シードパターンインダクタ100は、磁性体本体50と、磁性体本体50の内部に埋め込まれた第1の内部コイル部41及び第2の内部コイル部42と、磁性体本体50の外側に配置されて第1の内部コイル部41及び第2の内部コイル部42と電気的に連結された第1の外部電極81及び第2の外部電極82と、を含む。」

(イ)「【0018】
磁性体本体50の内部に配置された絶縁基板20の一面にはコイル状の第1の内部コイル部41が形成され、絶縁基板20の一面と対向する他面にはコイル状の第2の内部コイル部42が形成される。」

(ウ)「【0022】
第1の内部コイル部41及び第2の内部コイル部42はスパイラル(spiral)状に形成され、絶縁基板20の一面と他面に形成された第1の内部コイル部41及び第2の内部コイル部42は絶縁基板20を貫通して形成されるビア45を介して電気的に接続される。」

(エ)「【0028】
よって、コイルの幅に対してコイルの厚さを増加させることにより高いアスペクト比(Aspect Ratio、AR)を有する構造の内部コイル部が求められている。
【0029】
内部コイル部のアスペクト比(AR)は、コイルの厚さをコイルの幅で割った値である。コイルの幅の増加量よりもコイルの厚さの増加量が大きいほど高いアスペクト比(AR)を具現することができる。」

(オ)「【0037】
図2を参照すると、第1の内部コイル部41及び第2の内部コイル部42は、絶縁基板20上に形成された第1のシードパターン61aと、第1のシードパターン61aの上面上に形成された第2のシードパターン61bと、第1のシードパターン61a及び第2のシードパターン61b上に形成された表面メッキ層62と、を含む。」

(カ)「【0064】
このように形成された本発明の一実施形態による第1の内部コイル部41及び第2の内部コイル部42の全厚さt_(IC)は150μm以上、アスペクト比(AR)は2.0以上であればよい。」

(キ)「【0114】
図9dを参照すると、第2のシードパターン形成用開口部71b'をメッキによって導電性金属で充填して第1のシードパターン61aの上面上に第2のシードパターン61bを形成する。」

(ク)「【0149】
多層シードパターンインダクタ100の第1の内部コイル部41及び第2の内部コイル部42は、印刷回路基板1100の実装面SMに対して水平に配置される。」

(ケ)「【0151】
図15を参照すると、本発明の他の実施形態による多層シードパターンインダクタの実装基板1000'は、実装された多層シードパターンインダクタ200の第1の内部コイル部41及び第2の内部コイル部42が印刷回路基板1100の実装面SMに対して垂直に配置される。」

(コ)「図1



(サ)「図2



(シ)「図15



・図1(上記(コ))から、磁性体50は、4つの側面と両端の面からなる直方体状であり、さらに、第1外部電極81は4つの側面と両端の面の一方に渡って形成され、第2外部電極82は4つの側面と両端の面の他方に渡って形成され、第1及び第2内部コイル部41、42の軸方向が両端面に沿っている、ことが看取できる。

上記記載事項によれば、甲第4号証には、以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が開示されていると認められる。

「磁性体本体50と、磁性体本体50の内部に埋め込まれた第1の内部コイル部41及び第2の内部コイル部42と、磁性体本体50の外側に配置されて第1の内部コイル部41及び第2の内部コイル部42と電気的に連結された第1の外部電極81及び第2の外部電極82と、を含む多層シードパターンインダクタ100において、
第1の内部コイル部41及び第2の内部コイル部42はスパイラル(spiral)状に形成され、絶縁基板20の一面と他面に形成された第1の内部コイル部41及び第2の内部コイル部42は絶縁基板20を貫通して形成されるビア45を介して電気的に接続されており、
第1の内部コイル部41及び第2の内部コイル部42の全厚さt_(IC)は150μm以上、アスペクト比(AR)は2.0以上であり、
磁性体50は、4つの側面と両端の面からなる直方体状であり、第1外部電極81は4つの側面と両端の面の一方に渡って形成され、第2外部電極82は4つの側面と両端の面の他方に渡って形成され、第1及び第2内部コイル部41、42の軸方向が両端面に沿っている、
多層シードパターンインダクタ100。」

オ 甲第5号証
本件特許出願よりも先に出願された特願2016-254735号の公開特許公報である甲第5号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。

(ア)「【0020】
<第1の実施形態>
[基本構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る電子部品の概略透視斜視図、図2はその概略透視側面図、図3はその概略透視上面図である。 なお、各図においてX軸、Y軸及びZ軸方向は相互に直交する3軸方向を示している。
【0021】
本実施形態の電子部品100は、表面実装用のコイル部品として構成される。電子部品100は、絶縁体部10と、内部導体部20と、外部電極30とを備える。
【0022】
絶縁体部10は、天面101、底面102、第1の端面103、第2の端面104、第1の側面105及び第2の側面106を有し、X軸方向に幅方向、Y軸方向に長さ方向、Z軸方向に高さ方向を有する直方体形状に形成される。絶縁体部10は、例えば、幅寸法が0.05?0.2mm、長さ寸法が0.1?0.4mm、高さ寸法が0.05?0.4mmに設計される。本実施形態において、幅寸法は約0.2mm、長さ寸法は約0.35mm、高さ寸法は約0.2mmである。

・・・中略・・・

【0026】
内部導体部20は、絶縁体部10の内部に設けられる。内部導体部20は、複数の柱状導体21と、複数の連結導体22とを有し、これら複数の柱状導体21及び連結導体22とによりコイル部20Lが構成される。
【0027】
複数の柱状導体21は、Z軸方向に平行な軸心を有する略円柱形状に形成される。複数の柱状導体21は、概略Y軸方向に相互に対向する2つの導体群で構成される。このうち一方の導体群を構成する第1の柱状導体211は、X軸方向に所定の間隔をおいて配列され、他方の導体群を構成する第2の柱状導体212も同様に、X軸方向に所定の間隔をおいて配列される。

・・・中略・・・

【0031】
複数の連結導体22は、XY平面に平行に形成され、Z軸方向に相互に対向する2つの導体群で構成される。このうち一方の導体群を構成する第1の連結導体221は、Y軸方向に沿って延び、X軸方向に間隔をおいて配列され、第1及び第2の柱状導体211,212の間を個々に接続する。他方の導体群を構成する第2の連結導体222は、Y軸方向に対して所定角度傾斜して延び、X軸方向に間隔をおいて配列され、第1及び第2の柱状導体211,212の間を個々に接続する。図示の例において、第1の連結導体221は5つの連結導体で構成され、第2の連結導体222は4つの連結導体で構成される。
【0032】
図1において、第1の連結導体221は、所定の一組の柱状導体211,212の上端に接続され、第2の連結導体222は、所定の一組の柱状導体211,212の下端に接続される。より詳細には、第1及び第2の柱状導体211,212と第1及び第2の連結導体221,222は、コイル部20Lの周回部Cn(C1?C5)を構成し、これら周回部CnがX軸方向のまわりに矩形の螺旋を描くように相互に接続される。これにより、絶縁体部10の内部において、X軸方向に軸心(コイル軸)を有する開口形状が矩形のコイル部20Lが形成される。
【0033】
本実施形態において周回部Cnは、5つの周回部C1?C5で構成される。各周回部C1?C5の開口形状は、それぞれ概略同一の形状に形成される。
【0034】
内部導体部20は、引出し部23と、櫛歯ブロック部24とをさらに有し、これらを介してコイル部20Lが外部電極30(31,32)へ接続される。
【0035】
引出し部23は、第1の引出し部231と、第2の引出し部232とを有する。第1の引出し部231は、コイル部20Lの一端を構成する第1の柱状導体211の下端に接続され、第2の引出し部232は、コイル部20Lの他端を構成する第2の柱状導体212の下端に接続される。第1及び第2の引出し部231,232は、第2の連結導体222と同一のXY平面上に配置されており、Y軸方向に平行に形成される。
【0036】
櫛歯ブロック部24は、Y軸方向に相互に対向するように配置された第1及び第2の櫛歯ブロック部241,242を有する。第1及び第2の櫛歯ブロック部241,242は、各々の櫛歯部の先端を図1において上方へ向けて配置される。絶縁体部10の両端面103,104及び底面102には、櫛歯ブロック部241,242の一部が露出している。第1及び第2の櫛歯ブロック部241,242各々の所定の櫛歯部の間には、第1及び第2の引出し部231,232がそれぞれ接続される(図3参照)。第1及び第2の櫛歯ブロック部241,242各々の底部には、外部電極30の下地層を構成する導体層301,302がそれぞれ設けられる(図2参照)。
【0037】
外部電極30は、表面実装用の外部端子を構成し、Y軸方向に相互に対向する第1及び第2の外部電極31,32を有する。第1及び第2の外部電極31,32は、絶縁体部10の外面の所定領域に形成される。
【0038】
より具体的に、第1及び第2の外部電極31,32は、図2に示すように、絶縁体層10の底面102のY軸方向両端部を被覆する第1の部分30Aと、絶縁体層10の両端面103,104を所定の高さにわたって被覆する第2の部分30Bとを有する。第1の部分30Aは、導体層301,302を介して第1及び第2の櫛歯ブロック部241,242の底部に電気的に接続される。第2の部分30Bは、第1及び第2の櫛歯ブロック部241,242の櫛歯部を被覆するように絶縁体層10の端面103,104に形成される。」

(イ)「【0092】
(実験例17)
絶縁体部を長さ(La)310μm、幅(Wa)200μm、高さ(Ha)260μm、Y軸方向の導体寸法(lc)15μm、X軸方向の導体寸法(wc)24μm、Z軸方向の導体寸法(hc)15μm、コア部寸法をY軸方向(ld)190μm、X軸方向(wd)160μm、Z軸方向(hd)190μmとした以外は、実験例7と同一の条件でサンプルを作製した。
作製したサンプルについて、実験例1と同一の条件でインダクタンス(L値)及びQ値を測定したところ、L値は4.8nH、Q値は36であった。

(ウ)「図1



(エ)「図2



(オ)「図3



(カ)「図4



(キ)「図10



(ク)「図11



上記記載事項によれば、先願である特願2016-254735号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が開示されていると認められる。

「絶縁体部10と、内部導体部20と、外部電極30とを備え、表面実装用のコイル部品として構成される電子部品100において、
前記絶縁体部10は、天面101、底面102、第1の端面103、第2の端面104、第1の側面105及び第2の側面106を有し、X軸方向に幅方向、Y軸方向に長さ方向、Z軸方向に高さ方向を有する直方体形状に形成されるものであって、
前記内部導体部20は、絶縁体部10の内部に設けられ、複数の柱状導体21と、複数の連結導体22とを有し、これら複数の柱状導体21及び連結導体22とによりコイル部20Lが構成され、
前記複数の柱状導体21は、Z軸方向に平行な軸心を有する略円柱形状に形成され、また、概略Y軸方向に相互に対向する2つの導体群で構成され、このうち一方の導体群を構成する第1の柱状導体211は、X軸方向に所定の間隔をおいて配列され、他方の導体群を構成する第2の柱状導体212も同様に、X軸方向に所定の間隔をおいて配列されるものであり、
前記複数の連結導体22は、XY平面に平行に形成され、Z軸方向に相互に対向する2つの導体群で構成され、このうち一方の導体群を構成する第1の連結導体221は、Y軸方向に沿って延び、X軸方向に間隔をおいて配列され、第1及び第2の柱状導体211,212の間を個々に接続し、他方の導体群を構成する第2の連結導体222は、Y軸方向に対して所定角度傾斜して延び、X軸方向に間隔をおいて配列され、第1及び第2の柱状導体211,212の間を個々に接続するものであり、
前記第1及び第2の柱状導体211,212と前記第1及び第2の連結導体221,222は、コイル部20Lの周回部Cn(C1?C5)を構成し、これら周回部CnがX軸方向のまわりに矩形の螺旋を描くように相互に接続され、
前記外部電極30は、表面実装用の外部端子を構成し、Y軸方向に相互に対向する第1及び第2の外部電極31,32を有し、第1及び第2の外部電極31,32は、絶縁体部10の外面の所定領域に形成され、
前記第1及び第2の外部電極31,32は、絶縁体部10の底面102のY軸方向両端部を被覆する第1の部分30Aと、絶縁体部10の両端面103,104を所定の高さにわたって被覆する第2の部分30Bとを有し、また、コイル部20Lに接続されるものであって、
絶縁体部10を長さ(La)310μm、幅(Wa)200μm、高さ(Ha)260μm、Y軸方向の導体寸法(lc)15μm、X軸方向の導体寸法(wc)24μm、Z軸方向の導体寸法(hc)15μm、コア部寸法をY軸方向(ld)190μm、X軸方向(wd)160μm、Z軸方向(hd)190μmである、
電子部品100。」

カ 甲第6号証
甲第6号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
(ア)「【0026】 さらに、図4に示すように、上記3つのコイル導体パターン2のうち、下から1つ目のコイル導体パターン2に対しては手前左隅に、2つ目のコイル導体パターン2に対しては手前左右の両隅に、3つ目のコイル導体パターン2に対しては手前右隅に、それぞれ略L字状の外部電極パターン7が、各コイル導体パターン2から独立して形成されている。そして、各外部電極パターン7はその外縁部が積層体4の外面に露出している。そして、これらの外部電極ダミーパターン2aと外部電極パターン7とが積層されることにより、コイル6の端部が電気的に接続される外部電極9が構成されている。」

(イ)「




キ 甲第7号証
甲第7号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。。(当審訳は、特許異議申立人による抄訳文を参考にした。)
(ア)「[0050] As compared to conventional inductors where each of the windings is parallel to the bottom-side electrode, the inductor presented in the present invention can have each of the windings (metal tracks) M perpendicular to the bottom-side electrode E 1 , E 2 , wherein L 1 and L 2 are metal layers for forming leads which can be soldered on a PCB board, as shown in FIG. 4 .
(当審訳:各巻線が下側電極に平行である従来のインダクタと比較して、本発明で提示されるインダクタは、下側電極E1、E2に垂直な各巻線(金属トラック)Mを有する。ここで、L1、L2は、Fig.4に示されるように、PCBボードにはんだ付けできるリードを形成するための金属層である。)」

(イ)「



ク 甲第8号証
甲第8号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
(ア)「【0041】
次に、この発明の第2実施例について説明する。
図12は、この発明の第2実施例に係る方法で製造されるインダクタの分解斜視図であり、図13は、コイル体を透過して示すインダクタの斜視図である。
この実施例は、図13に示すように、積層方向から見てL字状を成す外部電極 4’,5’を有したインダクタ1’を製造する方法である。
・・・以下略・・・ 」

(イ)「【0044】
以上のように、この実施例のインダクタ1’の製造方法によれば、外部電極4’,5’をL字状に形成して、外部電極の占有容積を小さくしたので、コイル体3をさらに大きくして、十分なインダクタンス値を得ることができる。
・・・以下略・・・」

(ウ)「【0045】
・・・前略・・・
また、この実施例では、外部電極4’,5’をL字状に形成するので、二点鎖線で示すように、十分なフィレット9, 9を外部電極4’,5’起立面に付着させることができる。そして、製造時に、外部電極4’,5’を長くしたり、又は短くしたりしておくことで、所望のフィレット付着量を得ることができる。
その他の構成、作用及び効果は、上記第1実施例と同様であるので、その記載は省略する。 」

(エ)「




ケ 甲第9号証
甲第9号証の記載事項に関しては、上記「2.(2)ア 引用文献1の記載事項」に記載のとおりである。

コ 甲第10号証
甲第10号証の記載事項に関しては、上記「2.(2)ウ 引用文献3の記載事項」に記載のとおりである。

サ 甲第11号証
甲第11号証の記載事項に関しては、上記「2.(2)エ 引用文献4の記載事項」に記載のとおりである。

シ 甲第12号証
甲第12号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁性体層及びコイル導体層が積層されてなる部品素体と、前記部品素体の表面に設けられた一対の外部電極を有し、前記コイル導体層は前記磁性体層に設けられたスルーホールを介して互いに接続され前記部品素体に埋設されるらせん状のコイルを構成し、前記コイルの両端は前記部品素体の表面に引き出され前記一対の外部電極にそれぞれ接続され、前記部品素体の積層方向の厚みをT、前記コイルの積層方向の長さをT’、前記コイルのターン数をnとしたとき、
0.50≦T’/T≦0.85
T’/n≧27μm
であることを特徴とする積層インダクタ。」

(3)当審の判断
ア 理由1(特許法第29条第1項第3号)、理由2(特許法第29条第2項)について
(ア)甲第1号証との対比・判断
a 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
・甲1発明の「両端の面」は、直方体状の電気絶縁層体2の両端の面であるから、本件特許発明1の「互いに対向する2つの端面」に相当する。
また、甲1発明の「4つの側面」は、直方体状の電気絶縁層体2の「両端の面」の間を接続していることは明らかである。また、左右の外部電極5は、4つの側面に渡って形成されるものであるから、「積層インダクタ1」は「4つの側面」のうちのいずれか1つの面を底にして載置することができるものと認められる。してみると、甲1発明の「4つの側面」のいずれか1つの面は、本件特許発明1の「前記2つの端面の間に接続された底面」に相当する。
そして、甲1発明の「電気絶縁層体2」は、「両端の面」、及び「4つの側面」を有するものであるから、本件特許発明1の「互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体」に相当する。

・甲1発明の「コイル3」は、電気絶縁層体2中に埋設された螺旋状のものであるから、本件特許発明1の「素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイル」に相当する。

・甲1発明の「外部電極5」は、電気絶縁層体2の左右両側にそれぞれ冠着され、また、コイル3の両端にそれぞれ連設される引出導体4が接続されて導通されるものであるから、本件特許発明1の「素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極」に相当する。
そして、甲1発明の「一方の外部電極5」は、4つの側面と両端の面の一方に渡って形成され、「他方の外部電極5」は4つの側面と両端の面の他方に渡って形成されるものであり、さらに、4つの側面のうちのいずれか1つの面が底となるものであるから、甲1発明の「一方の外部電極5」は、両端の面の一方と4つの側面のうち底となる面に渡って形成され、「他方の外部電極5」は、両端の面と4つの側面のうち底となる面に渡って形成されているといえる。
したがって、甲1発明の「一方の外部電極5は4つの側面と両端の面の一方に渡って形成され、他方の外部電極5は4つの側面と両端の面の他方に渡って形成され」ることは、本件特許発明1の「一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され」るに相当する。

・甲1発明の「コイル3の軸方向」は、「両端の面」に沿うものである。
ここで、引用発明では「4つの側面」の全てに「外部電極5」が形成されており、いずれの面を底面としても載置できるものであって、例えば、甲第1号証の図1に記載のような形で積層インダクタ1を載置(上記「2.(2)イ e」参照)した際には、「コイル3の軸方向」は「4つの側面」のうち底となる面に沿ったものとはならない。
してみると、甲1発明と、本件特許発明1とは、「前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面に沿うように、配置され」る点で共通する。
ただし、本件特許発明1では、コイルの軸方向が「底面」にも沿うものであるのに対して、甲1発明では、その旨の特定がされていない点で相違する。

・甲1発明の「コイル3」は、螺旋状であって、複数個の導体パターンの端部が順次接続されて積層方向に重畳したものであり、積層される導体パターンは、コイル3の軸方向に直行する平面に沿って巻回されたものと認められる。
してみると、甲1発明の「導体パターン」は、本件特許発明1の「コイル配線」に相当し、さらに、甲1発明の「コイル3」は、本件特許発明1の「前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含む」に相当する構成を有しているものといえる。
また、本件特許発明1の「アスペクト比」に関して、本件特許の明細書の段落【0054】には、「アスペクト比とは、(コイル配線21の軸方向(Y方向)の厚みt)/(コイル配線21の配線幅w)である。」と記載されており、甲1発明の「導体幅Wに対する導体厚みTの比T/W」は、本件特許発明1の「アスペクト比」に相当する。
そして、甲1発明の「コイル3の導体幅Wに対する導体厚みTの比T/W)が3であり」は、本件特許発明1の「前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり」に含まれるものである。

・甲1発明では「コイル3の導体厚みTは、導体ペースト22が所定の厚みに達するまで印刷を繰り返したものであ」り、甲1発明の「コイル3」の「導体パターン」は「導体ペースト22」同士が介在層なしに面接触して積層されているものと認められる。
したがって、甲1発明の「導体ペースト22」は、本件特許発明1の「コイル導体層」に相当する。
そして、甲1発明の「コイル3」の「導体パターン」は、本件特許発明1の「前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成される」に相当する構成を有しているものといえる。
但し、本件特許発明1では、「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している」のに対して、甲1発明では介在層が存在していない点で相違する。

・甲1発明の「積層インダクタ1」は、「電気絶縁層体2」、「コイル3」、及び「外部電極5」を備えるものであるから、本件特許発明3の「インダクタ部品」に相当する。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、3.0であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成される、インダクタ部品。」

(相違点3)
本件特許発明1では、コイルの軸方向が「底面」にも沿うようものであるのに対して、甲1発明では、その旨の特定がされていない点。

(相違点4)
本件特許発明1では「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している」のに対して、甲1発明では介在層が存在していない点。

したがって、本件特許発明1と甲1発明は相違点3及び4において相違するものであることから、甲1発明ではない。

次に、相違点3に関して検討する。
甲1発明は、「4つの側面」全てに外部電極が形成されており、積層インダクタを回路基板等に実装する際に、いずれの面を底面としても載置できるものであって、あえて、甲1発明において、「4つの側面」のうち、コイル3の軸方向に沿う面のみを底面として限定し、コイル3の軸方向が底面に沿うようにする理由が存在しない。
よって、上記相違点3に係る本件特許発明1の構成は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に採用し得たものではない。
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 本件特許発明2、5ないし8、14について
本件特許発明2、5ないし8、14は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものである。
したがって、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2、5は、甲1発明ではなく、また、本件特許発明2、5ないし8、14は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1の「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している」ことに代え、「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間に、介在層が存在しておらず、前記コイル配線の横断面は、T字状を積層した形状であり、配線幅が小さいコイル導体層と配線幅が大きいコイル導体層とを交互に積層した形状である」ことにしたものである。
したがって、本件特許発明3は本件特許発明1と同様に、甲1発明と少なくとも相違点3において相違するものであることから、甲1発明ではなく、また、本件特許発明3は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

d 本件特許発明4、9、13について
本件特許発明4、9、13は、本件特許発明3の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものである。
したがって、上記本件特許発明3についての判断と同様の理由により、本件特許発明4、9は、甲1発明ではなく、また、本件特許発明4、9、13は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

e 本件特許発明10、12について
本件訂正請求による訂正により、請求項10、12は削除され、請求項10、12に係る申立てはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。

(イ)甲第2号証との対比・判断
a 本件特許発明1について
甲2発明は、「端子電極11」(本件特許発明1の「外部電極」に相当)が「一方の端子電極11が4つの側面と両端の面の一方に渡って形成され、他方の端子電極11が4つの側面と両端の面の他方に渡って形成され」るものであり、本件特許発明1と甲2発明は、少なくとも上記相違点3の点で相違する。
そして、甲2発明においても、「4つの側面」のうち、コイル3の軸方向に沿う面のみを底面として限定する理由が存在しない。
したがって、本件特許発明1は甲2発明と少なくとも相違点3において相違するものであることから、甲2発明ではない。
また、本件特許発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

b 本件特許発明5、14について
本件特許発明5、14は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明5は、甲2発明ではない。
また、本件特許発明5、14は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

(ウ)甲第3号証との対比・判断
a 本件特許発明1について
甲3発明は、「第1外部電極81」及び「第2外部電極82」(本件特許発明1の「外部電極」に相当)が「第1外部電極81は4つの側面と両端の面の一方に渡って形成され、第2外部電極82は4つの側面と両端の面の他方に渡って形成され」るものであり、本件特許発明1と甲3発明は、少なくとも上記相違点3の点で相違する。
そして、甲3発明においても、「4つの側面」のうち、コイル3の軸方向に沿う面のみを底面として限定する理由が存在しない。
したがって、本件特許発明1は甲3発明と少なくとも相違点3おいて相違するものであることから、甲3発明ではない。
また、本件特許発明1は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

b 本件特許発明2、5、14について
本件特許発明2、5、14は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2、5は、甲3発明ではない。
また、本件特許発明2、5、14は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

c 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1の「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している」ことに代え、「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間に、介在層が存在しておらず、前記コイル配線の横断面は、T字状を積層した形状であり、配線幅が小さいコイル導体層と配線幅が大きいコイル導体層とを交互に積層した形状である」ことにしたものである。
したがって、本件特許発明3は甲3発明と少なくとも相違点3において相違するものであることから、甲3発明ではない。
また、本件特許発明3は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

d 本件特許発明4、9について
本件特許発明4、9は、本件特許発明3の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件特許発明3についての判断と同様の理由により、本件特許発明4、9は、甲3発明ではない。
また、本件特許発明4、9は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

(エ)甲第4号証との対比・判断
a 本件特許発明1について
甲4発明は、「第1外部電極81」及び「第2外部電極82」(本件特許発明1の「外部電極」に相当)が「第1外部電極81は4つの側面と両端の面の一方に渡って形成され、第2外部電極82は4つの側面と両端の面の他方に渡って形成され」ものであり、本件特許発明1と甲4発明は、少なくとも上記相違点3の点で相違する。
そして、甲4発明においても、「4つの側面」のうち、コイル3の軸方向に沿う面のみを底面として限定する理由が存在しない。
したがって、本件特許発明1は甲4発明と少なくとも相違点3において相違するものであることから、甲4発明ではない。
また、本件特許発明1は甲4発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

b 本件特許発明2、14について
本件特許発明2、14は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2は、甲4発明ではない。
また、本件特許発明2、14は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

c 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1の「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している」ことに代え、「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間に、介在層が存在しておらず、前記コイル配線の横断面は、T字状を積層した形状であり、配線幅が小さいコイル導体層と配線幅が大きいコイル導体層とを交互に積層した形状である」ことにしたものである。
したがって、本件特許発明3は甲4発明と少なくとも相違点3において相違するものであることから、甲4発明ではない。
また、本件特許発明3は甲4発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

d 本件特許発明4、9について
本件特許発明4、9は、本件特許発明3の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件特許発明3についての判断と同様の理由により、本件特許発明4、9は、甲4発明ではない。
また、本件特許発明4,9は甲4発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

イ 理由3(特許法第29条の2)について
a 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲5発明を対比する。

・甲5発明の「第1の端面103」及び「第2の端面104」は、直方体の端面であり対向するものであるから、本件特許発明1の「互いに対向する2つの端面」に相当する。
また、甲5発明の「底面102」は、直方体形状である絶縁体部10の底面であって、「第1の端面103」と「第2の端面104」の間を接続していることは明らかであるから、本件特許発明1の「2つの端面の間に接続された底面」に相当する。
そして、甲5発明の「絶縁体部10」は、「第1の端面103」、「第2の端面104」、及び「底面102」を有するものであるから、本件特許発明1の「互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体」に相当する。

・甲5発明の「コイル部20L」は、絶縁体部10の内部に形成された内部導体部20の一部であって、また、螺旋であることから、本件特許発明1の「素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイル」に相当する。

・甲5発明の「第1の外部電極31」及び「第2の外部電極32」は、絶縁体部10の外面に形成され、また、コイル部20Lに接続されるものであるから、本件特許発明1の「素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極」に相当する。
さらに、甲5発明の「第1及び第2の外部電極31,32は、絶縁体層10の底面102のY軸方向両端部を被覆する第1の部分30Aと、絶縁体層10の両端面103,104を所定の高さにわたって被覆する第2の部分30Bとを有」することは、本件特許発明1の「一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され」ることに相当する。

・甲5発明の「絶縁体部10」は、直方体形状であって、X軸方向に幅方向、Y軸方向に長さ方向、Z軸方向に高さ方向を有するものであり、「底面102」は、XY平面に平行になっているといえる。
また、甲5発明の「第1及び第2の外部電極31,32は、絶縁体層10の底面102のY軸方向両端部を被覆する第1の部分30Aと、絶縁体層10の両端面103,104を所定の高さにわたって被覆する」ものであるから、「両端面103,104」はY軸方向に離間したものであってXZ平面に平行なものといえる。
してみると、甲5発明の「底面102」と「両端面103,104」は、X軸と平行であって、X軸に沿っているといえる。
そして、甲5発明の「コイル部20L」は、周回部CnがX軸方向のまわりに矩形の螺旋を描くように相互に接続されるものであり、X軸方向がコイルの軸と認められる。
したがって、甲5発明は本件特許発明1の「前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され」ることに相当する構成を備えるものである。

・甲5発明の「コイル部20L」は、Y軸方向に沿って延びる第1の連結導体221とY軸方向に対して所定角度傾斜して延びる第2の連結導体222で、Z軸方向に平行な軸心を有しY軸方向に相互に対向する2つの導体群である第1及び第2の柱状導体211,212を接続して巻回するものであって、第1の連結導体221と第1の連結導体221で接続される第1及び第2の柱状導体211,212で形成される各平面はYZ平面に平行な平面であるから、該各平面に沿ってコイル部20Lの一部が巻回されているといえる。
また、「コイル部20L」はYZ平面に垂直なX軸方向の周りに螺旋を描くものである。
してみると、甲5発明は、本件特許発明1の「前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含」むことに相当する構成を備えるものである。

・甲5発明の「Y軸方向の導体寸法(lc)15μm」及び「X軸方向の導体寸法(wc)24μm」は、甲第5号証の図10及び図11によれば、コイル部20Lの柱状導体21の断面における「Y軸方向の寸法が15μm」及び「X軸方向の寸法が24μm」であることである。
ここで、本件特許発明1における「アスペクト比」に関しては、本件の明細書の段落【0054】に「アスペクト比とは、(コイル配線21の軸方向(Y方向)の厚みt)/(コイル配線21の配線幅w)である。」と定義されている。
してみると、甲5発明においては、コイル部20Lの軸方向はX軸方向であるから、甲5発明の「X軸方向の導体寸法(wc)」が本願における「(コイル配線21の軸方向(Y方向)の厚みt)」に相当し、「Y軸方向の導体寸法(lc)」が本願における「(コイル配線21の配線幅w)」に相当し、甲5発明におけるアスペクト比を算出すると1.6(24/15)である。
したがって、甲5発明の「Y軸方向の導体寸法(lc)15μm、X軸方向の導体寸法(wc)24μm」であることは、本件特許発明1の「前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満である」ことに含まれるものである。

・甲5発明の「電子部品100」は、「絶縁体部10」、「コイル部20L」、及び「外部電極31、32」を備えるものであるから、本件特許発明1の「インダクタ部品」に相当する。

・但し、本件特許発明1では「前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している」のに対して、甲5発明ではそのような特定がされていない点で相違する。

そうすると、本件特許発明1と甲5発明は、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.6である、
インダクタ部品。」

(相違点5)
本件特許発明1では「前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している」のに対して、甲5発明ではそのような特定がされていない点。

上記のとおり相違点5で相違するから、本件発明1は、甲5発明と同一ではない。

b 本件特許発明2、5、14について
本件特許発明2、5、14は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2、5、14は、甲5発明と同一ではない。

ウ 理由4(特許法第36条第6項第1号)
本件訂正請求による訂正により、請求項11は削除され、請求項11に係る申立てはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
なお、請求項1(本件特許発明1)が訂正前の請求項11の「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している」の点で限定された。したがって、本件特許発明1に記載の「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している」について検討する。
該記載は「少なくとも一部に、介在層が存在」するものであるから、面接触するコイル導体層同士の間に介在層が存在しない場合を含むものであって、その場合には「コイル導体層同士の間」が「面接触」するものである。そして、この状態を基準として「介在層」が存在するか否かを記載したに過ぎないことは明らかである。
そして、本願の段落【0065】には、「第1実施形態のコイル配線21は、図2に示すように、単層から構成されているが、第2実施形態のコイル配線21Aは、図5に示すように、互いに面接触して積層された3層のコイル導体層210a?210cから構成されている。」と、さらに、段落【0097】には、「第2実施形態のコイル配線21Aでは、図5に示すように、隣り合うコイル導体層の間、および、コイル導体層と素体の間に、介在層が存在していないが、第4実施形態のコイル配線21Cでは、図14Jに示すように、隣り合うコイル導体層210a?210cの間、および、コイル導体層210aと絶縁層11a(素体)の間の少なくとも一部に、介在層の一例としてのシード層51,52,53が存在している。」と記載されており、本件特許発明1の「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している」は、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

エ 理由5(特許法第36条第6項第2号)
本件訂正請求による訂正により、請求項11は削除され、請求項11に係る申立てはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
なお、上記ウと同様に請求項1について検討すると、請求項1の「前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している」は、面接触するコイル導体層同士の間に介在層が存在しない場合を基準として「介在層」が存在するか否かを記載したに過ぎず、面接触するコイル導体層同士の間に介在層が存在するということではないことは明らかであり、技術的に理解できないとまではいえず、本件特許発明1の記載が不明確であるとはいえない。


第4 むすび
以上のとおり、本件特許発明1ないし9、13、14に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件特許発明1ないし9、13、14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件の請求項10、11、12に係る特許については訂正により削除され、本件特許の請求項10、11、12に対して、特許異議申立人がした特許異議申立てについてはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している、インダクタ部品。
【請求項2】
前記コイル配線のアスペクト比は、1.5以上6.0未満である、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項3】
互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間に、介在層が存在しておらず、
前記コイル配線の横断面は、T字状を積層した形状であり、配線幅が小さいコイル導体層と配線幅が大きいコイル導体層とを交互に積層した形状である、インダクタ部品。
【請求項4】
前記コイル配線を構成する前記複数のコイル導体層は、互いに配線長が等しく、該配線長に渡って互いに面接触している、請求項3に記載のインダクタ部品。
【請求項5】
前記コイル配線の配線幅は、60μm以下である、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項6】
前記コイル配線は、前記軸方向に沿って配線幅が変化しており、
前記コイル配線の内面の一部は、前記コイル配線の内側に突出しており、
前記内面における突出量eの、前記コイル配線の最大配線幅cに対する割合(e/c)は、20%以下である、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項7】
前記割合(e/c)は、5%以下である、請求項6に記載のインダクタ部品。
【請求項8】
前記コイル配線は、前記軸方向に沿って配線幅が変化しており、
前記コイル配線の最大配線幅cと最小配線幅との差aの、前記最大配線幅cに対する割合(a/c)は、40%以下である、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項9】
前記コイル導体層のアスペクト比は、2.0以下である、請求項3に記載のインダクタ部品。
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】(削除)
【請求項13】
前記コイル配線を構成する前記複数のコイル導体層には、同一のコイル径方向の幅を有する第1コイル導体層および第2コイル導体層が存在し、
前記第1コイル導体層の配線幅の中心と前記第2コイル導体層の配線幅の中心とのずれ量dの、前記第1コイル導体層および前記第2コイル導体層の配線幅cに対する割合(d/c)は、20%以下である、請求項3に記載のインダクタ部品。
【請求項14】
前記コイルの前記軸方向の長さは、前記素体の前記軸方向の幅の50%以上である、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項15】
互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している、インダクタ部品を製造する方法であって、
前記複数のコイル導体層の一部を、セミアディティブ工法により形成している、インダクタ部品の製造方法。
【請求項16】
互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している、インダクタ部品を製造する方法であって、
前記複数のコイル導体層の全てを、セミアディティブ工法により形成している、インダクタ部品の製造方法。
【請求項17】
互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間の少なくとも一部に、介在層が存在している、インダクタ部品を製造する方法であって、
前記複数のコイル導体層の一部を、めっき成長により形成している、インダクタ部品の製造方法。
【請求項18】
前記複数のコイル導体層の一部を、さらに、めっき成長により形成している、請求項15に記載のインダクタ部品の製造方法。
【請求項19】
前記複数のコイル導体層の全てを、さらに、めっき成長により形成している、請求項16に記載のインダクタ部品の製造方法。
【請求項20】
互いに対向する2つの端面および前記2つの端面の間に接続された底面を含む素体と、
前記素体内に設けられ、螺旋状に巻き回されたコイルと、
前記素体に設けられ、前記コイルに電気的に接続された2つの外部電極と
を備え、
一方の前記外部電極は、一方の前記端面と前記底面に渡って形成され、他方の前記外部電極は、他方の前記端面と前記底面に渡って形成され、
前記コイルは、その軸方向が前記2つの端面および前記底面に沿うように、配置され、
前記コイルは、前記軸方向に直交する平面に沿って巻回されたコイル配線を含み、前記コイル配線のアスペクト比は、1.0以上8.0未満であり、
前記コイル配線は、互いに面接触して積層された複数のコイル導体層から構成され、
前記面接触するコイル導体層同士の間、および、前記コイル導体層と前記素体の間に、介在層が存在していない、インダクタ部品を製造する方法であって、
前記素体を構成する第1絶縁層に第1溝を形成する工程と、
前記第1溝内に感光性導電ペーストを塗布し、フォトリソグラフィ工法により、前記第1溝内に第1コイル導体層を形成する工程と、
前記第1絶縁層上に前記素体を構成する第2絶縁層を形成し、前記第2絶縁層に第2溝を形成する工程と、
前記第2溝内に感光性導電ペーストを塗布し、フォトリソグラフィ工法により、前記第2溝内に前記第1コイル導体層に面接触する第2コイル導体層を形成する工程と
を備える、インダクタ部品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-24 
出願番号 特願2016-186172(P2016-186172)
審決分類 P 1 651・ 16- YAA (H01F)
P 1 651・ 113- YAA (H01F)
P 1 651・ 121- YAA (H01F)
P 1 651・ 537- YAA (H01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 竹下 翔平  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 山田 正文
山澤 宏
登録日 2019-05-10 
登録番号 特許第6519561号(P6519561)
権利者 株式会社村田製作所
発明の名称 インダクタ部品およびその製造方法  
代理人 鮫島 睦  
代理人 山中 誠司  
代理人 鮫島 睦  
代理人 吉田 環  
代理人 吉田 環  
代理人 山中 誠司  

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