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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 産業上利用性  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1374932
異議申立番号 異議2021-700167  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-16 
確定日 2021-05-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6744488号発明「パワーモジュール用基板およびパワーモジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6744488号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6744488号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成30年4月20日(優先権主張 平成29年5月26日)を国際出願日とする出願であって、令和2年8月3日に特許権の設定登録がされ、令和2年8月19日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、令和3年2月16日に特許異議申立人関豊美子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1ないし4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
絶縁基板と、該絶縁基板にろう材を介して接合された金属板とを備えており、
該金属板は、側面に、2つの第1平面部に挟まれた凹の角である第1角部を有している第1金属板と、側面に、2つの前記第1平面部にそれぞれ対向する2つの第2平面部が交わる凸の角である第2角部を有している第2金属板とを有しており、
前記第1金属板の前記側面における厚み方向の表面粗さは、前記第1平面部の表面粗さより前記第1角部の表面粗さの方が小さいパワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記第1平面部から前記第1角部にかけて、前記表面粗さは徐々に小さくなっている請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項3】
前記第1角部は平面視で凹曲面である請求項1または請求項2に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のパワーモジュール用基板と、
該パワーモジュール用基板の前記金属板上に搭載された電子部品とを備えるパワーモジュール。」

第3 特許異議申立理由の概要
理由1 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきでものである。

理由2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきでものである。

理由3 特許法第36条第6項第2号(明確性違反)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきでものである。

理由4 特許法第29条第1項柱書(発明非該当)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2001-110953号公報
甲第2号証:特開平8-64734号公報
甲第3号証:川勝一郎、有賀正、「リン銅ロウの銅に対するヌレ性に関する研究」、金属表面技術、1972年、23巻、6号、30-36頁

第4 特許異議申立人の主張
1 理由1(実施可能要件違反、特許法第36条第4項第1号)について(特許異議申立書第4頁第4行-第11頁第17行)
(1)本件特許明細書に記載された手段、作用、及び効果について
本件特許明細書の段落0010、0013、0014の記載によれば、本件特許明細書には、以下の手段、作用、及び効果が記載されていると理解できる。
・第1金属板21の側面における厚み方向の表面粗さにおいて、第1平面部21aの表面粗さより第1角部21bの表面粗さの方が小さいことで、第1角部21bの方が隣接する第1平面部21aよりもろう材の濡れ性がよくなること。
・第1角部21bの方が隣接する第1平面部21aよりもろう材の濡れ性がよいことで、第1金属板21の側面におけるろう材3の這い上がりが、第1平面部21aよりも第1角部21bにおいて大きくなること。
・その結果、第1金属板21と第2金属板22との間の絶縁性に優れたパワーモジュール用基板10が得られること。

(2)周知技術について
ア 甲第1号証の段落0015、0016、0018、0020、0026、図1及び表1の記載によれば、甲第1号証には「金属板6の表面粗さが大きい場合に、金属板6の表面粗さが小さい場合に比べて、ろう材5の金属板6への濡れ性がよいこと」が記載されている。
イ 甲第2号証の段落0008、0009、0023ないし0026の記載によれば、甲第2号証には「放熱体9 の主面が中心線平均粗さRa≧0.1 μmの粗面となっているとき、放熱体9 に対するろう材10の濡れ性が良く、Ra<0.1 μmの場合、放熱体9 に対するろう材10の濡れ性が充分改善されないこと」が記載されている。
ウ 甲第3号証の第31頁右段落第5行-第32頁左段落第12行(「ロウ材が・・・増加する。」)の記載によると、甲第3号証には「接合母材の表面粗さとロウ材の濡れ性との関係について、表面のあらいほうがこまかいものよりも広がりは良好であること」が記載されている。
よって、甲第1号証ないし甲第3号証には、次の周知技術が記載されている。
「金属板に対するろう材の濡れ性について、金属板の表面粗さが大きい場合、表面粗さが小さい場合に比べて、濡れ性が向上する。」

(3)実施可能性について
上記「(1)」「(2)」より、本件特許明細書に記載された手段とその作用・効果との関係は、周知技術における手段とその作用・効果との関係と真逆である。
したがって、当業者は、本件特許の明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識に基づいて、本件特許発明1ないし4を実施しようとした場合に、どのようにすれば本件特許の明細書の作用・効果を得ることができるのか、理解できない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1ないし4を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

2 理由2(サポート要件違反、特許法第36条第6項第1号)について(特許異議申立書第11頁第18行-第12頁第14行)
上記「1」(2)に記載した周知技術によれば、金属板に対するろう材の濡れ性について、金属板の表面粗さが大きい場合、表面粗さが小さい場合に比べて、濡れ性が向上する。すなわち、本件特許発明1は、第1の角部の方が隣接する第1平面部よりもろう材の濡れ性が悪くなる場合も含む。
このため、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2ないし4は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものである。

3 理由3(明確性違反、特許法第36条第6項第2号)について(特許異議申立書第12頁第15行-第13頁第6行)
(1)本件特許発明1の発明特定事項による技術的な意味は、上記「1」(1)ないし(3)で述べたとおり、周知技術とは真逆である。このため、上記発明特定事項の技術的意味を、当業者は理解できない。また、本件特許の出願時の技術常識を考慮すると、発明の課題を達成するための発明特定事項が不足していることは明らかである。
このため、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2ないし4は明確でない。

(2)特許請求の範囲には「前記第1金属板の前記側面における厚み方向の表面粗さは、前記第1平面部の表面粗さより前記第1角部の表面粗さの方が小さい」と記載されているが、第1平面部の表面粗さよりも第1角部の表面粗さの方がどの程度小さければ、第1角部へのろう材の濡れ性が、第1平面部へのろう材の濡れ性よりもよくなるのか、当業者には明確に理解できない。
このため、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2ないし4は明確でない。

4 理由4(発明非該当、特許法第29条第1項柱書)(特許異議申立書第13頁第7行-第13頁第14行)
本件特許発明1は、課題を解決するための手段として、「前記第1金属板の前記側面における厚み方向の表面粗さは、前記第1平面部の表面粗さより前記第1角部の表面粗さの方が小さい」ことを含む。
しかし、上記「1」(2)に記載した周知技術に照らせば、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能である。
このため、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2ないし4は、「自然法則を利用した技術思想の創作」ではないから、「発明」に該当しない。

第5 当審の判断
1 理由1(実施可能要件違反)について
(1)本件発明1ないし4の実施可能要件についての検討
ア 本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、金属板の側面の表面粗さと、ろう材3の這い上がりの程度について、次のとおり記載されている。
「【0014】
ここで、第1金属板21の側面の表面粗さの測定は、第1金属板21の厚み方向に測定する。ろう材3の第1金属板21の側面における這い上がりの程度に影響を与えるのは、ろう材3の這い上がり方向である第1金属板21の厚み方向であるからである。・・・(途中省略)・・・表面粗さは、例えば、金属板2(第1金属板21)が銅板であり、一般的な金型による打ち抜き加工によって形成された側面(をさらに追加工した側面)を有するものであって、ろう材3が銀-銅合金を主成分とするものである場合であれば、第1平面部21aの表面粗さが0.3?1.0μmで、第1角部21bの表面粗さが0.1μm?0.5μmとすることができる。このときの第1平面部21aの表面粗さと第1角部21bの表面粗さとで、例えば0.1μm以上の差があれば、上記のような効果を奏するものとなる。また、この程度の表面粗さであれば、第1平面部21aにおいても、金属板2(第1金属板21)の厚みの1/5?1/2程度までろう材3が這い上がって、金属板2(第1金属板21)の側面から絶縁基板1の上面にかけてろう材3に凹曲面のメニスカス形状のフィレット部が形成され、応力を緩和しやすくなる。」

イ 次に、本件特許の出願時における技術常識について検討する。
本件特許の出願時において、溶融した金属の立ち上がりに「ヌレの力」が大きく影響すること、及び、ヌレ性やヌレの力がピークとなる表面粗さが存在し、表面が粗すぎると却ってヌレ性やヌレの力が低下することは技術常識である。必要であれば、特開平6-112085号公報の段落【0028】の「ヌレ力は、積層セラミックコンデンサの実装時に、はんだの立ち上がりに大きく影響する」、段落【0013】の「平均表面粗さが1.0μmを超えると、表面が粗すぎるため却ってはんだヌレ性が低下してしまい、外部電極のはんだ付け性が低下する。」、段落【0027】の「ヌレ力のピークは平均表面粗さが0.5μmのときであり、それ以下になるとヌレ力は減少する。これは、平均表面粗さの減少により外部電極の界面エネルギーが低下することによるものと考えられる。なお、図6より、本実験例で最も好ましい平均表面粗さは、0.4?0.6μmである。」、及び図6を


参照。

ウ したがって、本件特許明細書における、金属板の側面の表面粗さと、ろう材3の這い上がりの程度について記載に誤りはなく、当業者は、「ろう材の濡れ性」がピークとなる表面粗さを超えた領域で、金属板の厚み方向における第1平面部21aの表面粗さと第1角部21bの表面粗さとに差を持たせ、金属板の厚み方向における第1平面部21aの表面粗さより、第1角部21bの表面粗さを小さくすることで、「凹の角である第1角部21bの方が隣接する第1平面部21aよりもろう材の濡れ性がよくなるので、図6に示す例のように、第1金属板21の側面におけるろう材3の這い上がりが、第1平面部21aよりも第1角部21bにおいて大きくなる。」(本件特許明細書の段落【0013】)との作用効果が得られることは明らかである。

エ よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
また、本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし4についても同様である。

(2)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人は、表面粗さと濡れ性との関係について、甲第1ないし3号証に記載された周知技術と本件特許明細書の記載が真逆であるとして、本件特許明細書には、当業者が本件特許発明1ないし4を容易に実施できる程度に記載されていない旨主張している。

イ しかしながら、甲第1号証(段落0015、0016、0018、0020、0026、図1及び表1参照。)には、表面粗さが「3.0μm以下」である場合にろう材の這い上がりがないことが記載され、また、甲第2号証(段落0008、0009,0023ないし0026参照。)には、表面粗さが「0.1μm以上」である場合に、ろう材と放熱体との濡れ性が良いことが記載されているものの、甲第1号証及び甲第2号証で言及された表面粗さの範囲は、本件特許明細書に記載された範囲を外れている(上記(1)アのとおり、0.1?1.0μmの範囲が用いられている。)。
また、甲第1号証及び甲第2号証は、本件特許発明1と異なり、金属板の「表面」における表面粗さと、ろう材との濡れ性や這い上がりとの関係について記載しているのであって、本件特許発明1ないし4が特定する金属板の「側面」における「厚み方向」の表面粗さと、ろう材との濡れ性や這い上がりとの関係については、何ら記載されていない。
よって、甲第1号証、甲第2号証の記載は本件特許明細書の記載と矛盾しない。

ウ また、甲第3号証は、銅板の「表面」に「一方向研磨でアラサをつけた」場合に、「平均アラサ1μ以下の場合は、広がり形状は二重にならず、ほとんどみかけの広がりは見られない」が、「中心線平均アラサが1μ以上になると広がり形状は二重にな」り、「平均アラサが増加すると、真の広がりはほぼ一定であるが、見かけの広がりは増加する」という研究結果であって、本件特許明細書に記載されたものとは実験内容も条件も異なるから、甲第3号証の記載は、本件特許明細書に記載された「金属板の側面」における「厚み方向」の表面粗さとろう材の濡れ性や這い上がりとの関係を否定する根拠とはならない。

エ したがって、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された周知技術は、特定の条件、数値範囲でのみ当てはまる技術にすぎず、普遍的に妥当する技術ではないから、本件特許明細書に記載された手段、作用・効果とは矛盾しない。

オ よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(3)まとめ
よって、本件の請求項1ないし4に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。

2 理由2(サポート要件違反)について
(1)本件特許における発明が解決しようとする課題、及び発明の詳細な説明に記載された解決手段について

ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次のとおり記載されている。
「【0010】
パワーモジュール用基板10は、図1?図3に示す例のように、絶縁基板1と、絶縁基板1の上面にろう材3を介して接合された金属板2とを備えている。金属板2は、側面に、2つの第1平面部21aに挟まれた凹の角である第1角部21bを有している第1金属板21と、側面に、2つの第1平面部21aにそれぞれ対向する2つの第2平面部22aが交わる凸の角である第2角部22bを有している第2金属板22とを有している。そして、第1金属板21の側面における厚み方向の表面粗さは、第1平面部21aの表面粗さより第1角部21bの表面粗さの方が小さい。」
「【0013】
これに対して、上記のような実施形態のパワーモジュール用基板10によれば、凹の角である第1角部21bの方が隣接する第1平面部21aよりもろう材の濡れ性がよくなるので、図6に示す例のように、第1金属板21の側面におけるろう材3の這い上がりが、第1平面部21aよりも第1角部21bにおいて大きくなる。これにより、図4および図5に示す例のように、第1角部21bから絶縁基板1上へのろう材3の広がりが従来のものに比較して抑えられる。したがって、第1金属板21と第2金属板22との間の絶縁性に優れたパワーモジュール用基板10となる。また、凹の角である第1角部21bを有している第1金属板21と、凸の角である第2角部22bを有している第2金属板22とを近接して配置しても両者間の絶縁性を確保することができるので、小型のパワーモジュール用基板10とすることができる。
【0014】
ここで、第1金属板21の側面の表面粗さの測定は、第1金属板21の厚み方向に測定する。ろう材3の第1金属板21の側面における這い上がりの程度に影響を与えるのは、ろう材3の這い上がり方向である第1金属板21の厚み方向であるからである。・・・(以下、省略)。」

イ 本件特許における発明が解決しようとする課題
本件特許における発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の上記段落【0013】に記載されているとおり、「パワーモジュール用基板10」において、「凹の角である第1角部21bの方が隣接する第1平面部21aよりもろう材の濡れ性がよくなる」ようにし、「第1角部21bから絶縁基板1上へのろう材3の広がりが従来のものに比較して抑えられ」、「第1金属板21と第2金属板22との間の絶縁性に優れたパワーモジュール用基板10」とすることである。

ウ 発明の詳細な説明に記載された解決手段について
本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された解決手段は、本件特許明細書の上記段落【0010】、【0014】に記載された、次のとおりのものである。
「第1金属板21の側面の表面粗さの測定」を「第1金属板21の厚み方向に測定」し、「第1金属板21の側面における厚み方向の表面粗さは、第1平面部21aの表面粗さより第1角部21bの表面粗さの方が小さい」ものとすること。

(2)サポート要件についての検討
ア 本件の特許請求の範囲の請求項1には、発明を特定するための事項として「前記第1金属板の前記側面における厚み方向の表面粗さは、前記第1平面部の表面粗さより前記第1角部の表面粗さの方が小さい」ことが記載されているから、上記(1)ウに記載した解決手段が反映されている。
よって、本件特許発明1について、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。

イ また、本件特許発明2ないし4は、いずれも本件特許発明1に従属する請求項に係る発明であり、上記の事項を含むものであるから、本件特許発明2ないし4に関しても、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものである。

(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人は、上記「第4」「1」(2)に記載した周知技術によれば、本件特許発明1は、第1の角部の方が隣接する第1平面部よりもろう材の濡れ性が悪くなる場合も含むから、本件特許発明1ないし4は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲を超えるものである、と主張をしている。

イ しかし、上記「1」(2)で述べたとおり、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された周知技術は、特定の条件、数値範囲で当てはまる技術にすぎず、普遍的に妥当する技術ではないから、本件特許明細書に記載された手段、作用・効果とは矛盾しない。
そして、本件の本件特許発明1ないし4に関して、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは、上記(2)で述べたとおりである。
したがって、特許異議申立人の当該主張は採用できない。

(4)まとめ
よって、本件の請求項1ないし4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。

3 理由3(明確性違反)について
(1)特許請求の範囲の明確性についての検討
本件特許の特許請求の範囲の請求項1には「前記第1金属板の前記側面における厚み方向の表面粗さは、前記第1平面部の表面粗さより第1角部の表面粗さの方が小さい」と記載されているが、該記載に不明確な点はない。

(2)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人は、本件特許発明1の発明特定事項による技術的な意味が上記「第4」「1」(2)に記載した周知技術とは真逆であることを根拠に、本件特許発明1の発明特定事項による技術的な意味を理解できず、また、発明の課題を解決するための発明特定手段が不足しているので、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2ないし4は明確でないと主張している。
しかし、本件特許発明1の発明特定事項による技術的な意味が、上記「第4」「1」(2)に記載した周知技術と矛盾しないことは、上記「1」(2)で述べたとおりである。
よって、特許異議申立人の主張は根拠を欠き、採用できない。
なお、本件特許発明1の発明特定事項の技術的な意味が十分理解でき、発明の課題を解決するための発明特定手段が、課題を解決するために十分であることは、上記「2」(2)に記載したとおりである。

イ また、特許異議申立人は、本件特許の特許請求の範囲の記載では、「第1平面部の表面粗さよりも第1角部の表面粗さの方がどの程度小さければ、第1角部へのろう材の濡れ性が、第1平面部へのろう材の濡れ性よりも良くなるのか、当業者は明確に把握できない」と主張している。
しかし、本件特許発明1は、「第1金属板の前記側面における厚み方向の表面粗さ」に関して、「前記第1平面部の表面粗さ」と「前記第1角部の表面粗さ」の大小関係を特定した発明であって、表面粗さについての「差」の程度を特定した発明ではない。
なお、表面粗さについての「差」の程度については、本件特許明細書の段落【0014】に「このときの第1平面部21aの表面粗さと第1角部21bの表面粗さとで、例えば0.1μm以上の差があれば、上記のような効果を奏するものとなる。」と記載されているが、該数値は「例示」であって、表面粗さについての「差」の程度は当業者が実施に当たり、必要とされる効果等に基づいて適宜決定すべき事項であるから、「第1平面部の表面粗さよりも第1角部の表面粗さの方がどの程度小さ」いかを特許請求の範囲に記載しなければ発明が明確とならないわけではない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

4 理由4(発明非該当、特許法第29条第1項柱書)について
本件特許発明1ないし4の発明特定事項が、課題を解決するために十分であることは、上記「2」(2)に記載したとおりである。
特許異議申立人は、上記「第4」「1」(2)に記載した周知技術に照らせば、本件特許発明1の手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能であると主張するが、上記「第4」「1」(2)に記載した周知技術と本件特許明細書に記載された課題を解決するための手段とが矛盾しないことは、上記「1」(2)で述べたとおりである。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第2条第1項に定義される発明に該当し、特許法第29条第1項柱書で規定する発明である。
以上のとおり、本件特許発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号の規定に該当せず、取り消されるべきものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由1ないし4によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-05-18 
出願番号 特願2019-519522(P2019-519522)
審決分類 P 1 651・ 14- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 536- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 庄司 一隆  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 山田 正文
須原 宏光
登録日 2020-08-03 
登録番号 特許第6744488号(P6744488)
権利者 京セラ株式会社
発明の名称 パワーモジュール用基板およびパワーモジュール  

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