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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12P
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12P
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12P
管理番号 1374934
異議申立番号 異議2020-700907  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-26 
確定日 2021-05-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6701459号発明「核酸分子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6701459号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6701459号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成31年2月4日(優先権主張 平成30年2月9日)を国際出願日とする出願であって、令和2年5月8日にその特許権の設定登録がされ、同年5月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1?6に係る特許について、同年11月26日に特許異議申立人 加藤純子により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6701459号の請求項1?6の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1?6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
5’末端にリン酸基を有する第1の一本鎖RNAと3’末端に水酸基を有する第2の一本鎖RNAに、国際生化学連合が酵素番号として定めるEC6.5.1.3に分類され、二本鎖ニック修復活性を有するRNAリガーゼを作用させ、前記第1の一本鎖RNAと前記第2の一本鎖RNAとを連結する工程を含む一本鎖RNAの製造方法であって、以下のa)?g)の特徴を有する製造方法:
a)前記第1の一本鎖RNAが、5’末端側から順に、X1領域およびZ領域からなる一本鎖RNAであり;
b)前記第2の一本鎖RNAが、5’末端側から順に、X2領域、Y2領域、Lyリンカー領域およびY1領域からなる一本鎖であり;
c)前記X1領域と前記X2領域とが、互いに相補的な、11以上の同数のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり;
d)前記Y1領域と前記Y2領域とが、互いに相補的な、2以上の同数のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり;
e)前記Z領域が、任意のヌクレオチド数のヌクレオチド配列を含む領域であり、
前記Z領域が、5’末端側から順に、Z1領域、Lzリンカー領域及びZ2領域からなる領域であり、
前記Lzリンカー領域が、下記式(I’)で表される二価の基であり、
前記Z1領域と前記Z2領域とが、互いに相補的なヌクレオチド配列を含み;
f)Lyリンカー領域が、下記式(I)で表される二価の基であり;
g)前記第1の一本鎖RNAと前記第2の一本鎖RNAとの連結により生成する一本鎖RNAが、5’末端側から順に、前記X2領域、前記Y2領域、前記Lyリンカー領域、前記Y1領域、前記X1領域、前記Z1領域、前記Lzリンカー領域および前記Z2領域からなる連結一本鎖RNAである。

(式中、Y_(11)及びY_(21)は、それぞれ独立して、炭素数1?20のアルキレン基を表し、Y_(12)及びY_(22)は、それぞれ独立して、水素原子もしくはアミノ基で置換されていてもよいアルキル基を表すか、或いはY_(12)とY_(22)とがその末端で互いに結合して炭素数3?4のアルキレン基を表し、
Y_(11)に結合している末端の酸素原子は、前記Y1領域および前記Y2領域のいずれか一方の領域の末端ヌクレオチドのリン酸エステルのリン原子と結合しており、
Y_(21)に結合している末端の酸素原子は、前記Y2領域および前記Y1領域のY_(11)とは結合していない他方の領域の末端ヌクレオチドのリン酸エステルのリン原子と結合している。)

(式中、Y’_(11)及びY’_(21)は、それぞれ独立して、炭素数1?20のアルキレン基を表し、Y’_(12)及びY’_(22)は、それぞれ独立して、水素原子もしくはアミノ基で置換されていてもよいアルキル基を表すか、或いはY’_(12)とY’_(22)とがその末端で互いに結合し炭素数3?4のアルキレン基を表し、
Y’_(11)に結合している末端の酸素原子は、前記Z1領域および前記Z2領域のいずれか一方の領域の末端ヌクレオチドのリン酸エステルのリン原子と結合しており、
Y’_(21)に結合している末端の酸素原子は、前記Z2領域および前記Z1領域のY’_(11)とは結合していない他方の領域の末端ヌクレオチドのリン酸エステルのリン原子と結合している。)
【請求項2】
前記Lyリンカー領域および前記Lzリンカー領域は、それぞれ独立して、下記式(II-A)または(II-B)で表される構造の二価の基である、請求項1に記載の製造方法。

(式中、nおよびmは、それぞれ独立して、1から20の何れかの整数を表す。)
【請求項3】
前記X1領域、前記Y1領域および前記Z領域からなるW1領域、および前記X2領域および前記Y2領域からなるW2領域の少なくとも一方に、RNA干渉法の標的となる遺伝子の発現を抑制するヌクレオチド配列を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記RNAリガーゼが、T4バクテリオファージ由来のT4 RNAリガーゼ2、KVP40由来のリガーゼ2、Trypanosoma brucei RNAリガーゼ、Deinococcus radiodurans RNAリガーゼ、またはLeishmania tarentolae RNAリガーゼである、請求項1から3の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記RNAリガーゼが、配列番号21、22、または23に記載のアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるRNAリガーゼである、請求項1から4の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記RNAリガーゼが、T4バクテリオファージ由来のT4 RNAリガーゼ2またはKVP40由来のRNAリガーゼ2である、請求項1から3の何れか一項に記載の製造方法。」

第3 申立理由の概要及び証拠方法
特許異議申立人が請求項1?6に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び証拠方法は、次のとおりである。

1 申立理由の概要
(1)理由1:特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)
リンカーに関し、実施例2?6には、いずれもプロリン誘導体(国際公開第2012/017919号の実施例A3に記載のプロリンアミダイト(Ib))が用いられたことが記載されているが(本件明細書の段落【0077】)、甲第4号証(国際公開第2012/017919号)の実施例A3の段落(段落[0225]?[0233])のどこを見ても「プロリンアミダイト(Ib)」なるものは記載されていないので、具体的にどのような化合物が用いられているのか判断できない。
仮に、これが本件発明の範囲に含まれる何らかのプロリン誘導体であるとしても、この実施例で用いられているのは、そのプロリン誘導体のみであって他の例については一切記載がないので、本件発明1のe)、f)に規定するLzリンカー及びLyリンカーの範囲はもちろん、これよりも限定された本件発明2の式(II-A)、(II-B)で表されるリンカーについても、サポートされているとは認められない。特に、式(II-B)で表されるリジン誘導体のサポートとなるようなデータは全く示されていない。さらに、式(II-A)、(II-B)について、「式中、nおよびmは、それぞれ独立して、1から20の何れかの整数を表す。」とされているが、そのすべてについて本件発明の課題を解決し得ると認識できる根拠となる記載は本件明細書には存在しないから、サポート要件を充足しない。
また、ライゲーション部位を近接させるためには、X1領域とX2領域並びに、Y1領域及びY2領域の双方が重要な役割を果たすと考えられるところ、通常、相補配列を用いて異なる分子を近接させる場合、該相補配列にはある程度の長さが必要となることが本願出願時の技術常識であるが、上記実施例2?6では、X1領域及びY1領域の合計が24ヌクレオチドであり、これよりも少ない場合であっても、本件発明の技術的課題が解決し得る実験例は開示されていないから、これよりも遙かに短い場合を含む「前記X1領域と前記X2領域とが、互いに相補的な、11以上の同数のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり」、「前記Y1領域と前記Y2領域とが、互いに相補的な、2以上の同数のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり」という特定は、その全範囲にわたり本件発明の技術的課題を解決し得るとは認められない。
したがって、本件特許発明1?6は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)理由2:特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反)
本件明細書の実施例ではどのようなリンカーを用いているのか判然せず、仮に何らかのプロリン誘導体を用いていることを認識できたとしても、本件発明1、2に規定するリンカーの構造毎にどのような条件を設定すれば、本件発明の技術的課題を解決し得るように反応が進行するのか判然としない。その上、X1領域とX2領域並びに、Y1領域及びY2領域のヌクレオチド数が少ない場合、特にリンカーに近接するY1及びY2については、特にリンカー部分の炭化水素鎖が長い場合に、リンカーの近傍ほどヌクレオチド同士が物理的に遠ざかり、アニール反応がうまく行かないことで反応部位を近接させることができず、ライゲーション反応に支障を来すことが容易に予測できるから、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験を行う必要があると認められる。
したがって、本件発明の詳細な説明は、当業者が、本件特許発明1?6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3)理由3:特許法第29条第2項(甲第1号証を主引用例とする進歩性違反)
本件特許発明1?6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項並びに甲第3?8号証に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?6は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(4)理由4:特許法第29条第2項(甲第2号証を主引用例とする進歩性違反)
本件特許発明1?6は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項並びに甲第3?8号証に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?6は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

2 証拠方法
(1)甲第1号証:国際公開第2013/103146号
(2)甲第2号証:博士学位論文「環状化RNAのRNA干渉効果および翻訳鋳型としての性質」北海道大学,2015年3月
(3)甲第3号証:国際公開第2011/052013号の再公表特許
(4)甲第4号証:国際公開第2012/017919号
(5)甲第5号証:柴忠義著「バイオテクノロジーテキストシリーズ 遺伝子工学」株式会社講談社,1998年3月,p.19?21、47?48
(6)甲第6号証:野島博著「遺伝子工学の基礎」株式会社東京化学同人,2004年10月,p.211、236?241
(7)甲第7号証:米国特許出願公開第2018/0023122号明細書
(8)甲第8号証:国際公開第2012/005368号
(9)甲第9号証:国際公開第2019/189591号
(10)甲第10号証:国際出願PCT/JP2019/013631号の国際調査機関の見解書

第4 甲号証の記載
甲第1号証?甲第3号証、甲第7号証?甲第8号証には、以下の事項が記載されている(英語で記載されている証拠は、日本語訳で摘記する。)。

1 甲第1号証:国際公開第2013/103146号

(甲1-1)「[請求項1]標的遺伝子の発現を抑制する発現抑制配列を含む一本鎖核酸分子であって、
領域(X)、リンカー領域(Lx)および領域(Xc)を含み、
前記領域(X)と前記領域(Xc)との間に、前記リンカー領域(Lx)が連結され、
前記領域(Xc)が、前記領域(X)と相補的であり、
前記領域(X)および前記領域(Xc)の少なくとも一方が、前記発現抑制配列を含み、
前記リンカー領域(Lx)が、アミノ酸から誘導される原子団を含むことを特徴とする一本鎖核酸分子。
・・・・・・・・・・・・
[請求項10]さらに、領域(Y)および領域(Yc)を有し、
前記領域(Yc)が、前記領域(Y)と相補的であり、
前記領域(X)と前記領域(Y)とが連結して、内部領域(Z)を形成している、請求項1から9のいずれか一項に記載の一本鎖核酸分子。
[請求項11]さらに、リンカー領域(Ly)を有し、
前記領域(Y)と前記領域(Yc)との間に、前記リンカー(Ly)が連結している、請求項10記載の一本鎖核酸分子。」(請求項1、請求項10、11)

(甲1-2)「技術分野
[0001] 本発明は、遺伝子発現を抑制する一本鎖核酸分子に関し、より詳細には、アミノ酸骨格を有する一本鎖核酸分子、それを含む組成物およびその用途に関する。」([0001])

(甲1-3)「図面の簡単な説明
[0017][図1]本発明の一本鎖核酸分子の一例を示す模式図である。
[図2]本発明の一本鎖核酸分子のその他の例を示す模式図である。
・・・・・・・・・・・・
[図5]図5は、参考例で使用したssRNAを示す図である。
・・・・・・・・・・・・」([0017])

(甲1-4)「[0019]1.ssPN分子
本発明の一本鎖核酸分子は、前述のように、標的遺伝子の発現を抑制する発現抑制配列を含む一本鎖核酸分子であって、領域(X)、リンカー領域(Lx)および領域(Xc)を含み、前記領域(X)と前記領域(Xc)との間に、前記リンカー領域(Lx)が連結され、前記領域(Xc)が、前記領域(X)と相補的であり、前記領域(X)および前記領域(Xc)の少なくとも一方が、前記発現抑制配列を含み、前記リンカー領域(Lx)が、アミノ酸から誘導される原子団を含むことを特徴とする。」([0019])

(甲1-5)「[0032] 本発明のssPN分子において、前記リンカー領域は、例えば、下記式(I)で表わされる。

[0033] 前記式(I)中、例えば、
X^(1)およびX^(2)は、それぞれ独立して、H_(2)、O、SまたはNHであり;
Y^(1)およびY^(2)は、それぞれ独立して、単結合、CH_(2)、NH、OまたはSであり;
L^(1)は、n個の炭素原子を有するアルキレン鎖であり、アルキレン炭素原子上の水素原子は、OH、OR^(a)、NH_(2)、NHR^(a)、NR^(a)R^(b)、SH、もしくはSR^(a)で置換されても置換されていなくてもよく、または、
L^(1)は、前記アルキレン鎖の一つ以上の炭素原子が、酸素原子で置換されたポリエーテル鎖であり、
ただし、Y^(1)が、NH、OまたはSの場合、Y^(1)に結合するL^(1)の原子は炭素であり、OR^(1)に結合するL^(1)の原子は炭素であり、酸素原子同士は隣接せず;
L^(2)は、m個の炭素原子を有するアルキレン鎖であり、アルキレン炭素原子上の水素原子は、OH、OR^(c)、NH_(2)、NHR^(c)、NR^(c)R^(d)、SHもしくはSR^(c)で置換されても置換されていなくてもよく、または、
L^(2)は、前記アルキレン鎖の一つ以上の炭素原子が、酸素原子で置換されたポリエーテル鎖であり、
ただし、Y^(2)が、NH、OまたはSの場合、Y^(2)に結合するL^(2)の原子は炭素であり、OR^(2)に結合するL^(2)の原子は炭素であり、酸素原子同士は隣接せず;
R^(a)、R^(b)、R^(c)およびR^(d)は、それぞれ独立して、置換基または保護基であり;
mは、0?30の範囲の整数であり;
nは、0?30の範囲の整数であり;
前記領域(Xc)および前記領域(X)は、それぞれ、-OR^(1)-または-OR^(2)-を介して、前記リンカー領域(Lx)に結合し、
ここで、R1およびR2は、存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立して、ヌクレオチド残基または前記構造(I)であり、
Aは、任意の原子団であり、ただし、下記式(Ia)は、前記アミノ酸であり、かつ、下記式(Ia)は、ペプチド以外のアミノ酸である。

・・・・・・・・・・・・
[0038] L^(1)のnおよびL^(2)のmは、特に制限されず、それぞれ、下限は、例えば、0であり、上限も、特に制限されない。nおよびmは、例えば、前記リンカー領域(Lx)の所望の長さに応じて、適宜設定できる。nおよびmは、例えば、製造コストおよび収率等の点から、それぞれ、0?30が好ましく、より好ましくは0?20であり、さらに好ましくは0?15である。nとmは、同じでもよいし(n=m)、異なってもよい。n+mは、例えば、0?30であり、好ましくは0?20であり、より好ましくは0?15である。」([0032]?[0038])

(甲1-6)「[0049] 前記ピロリジン骨格を含む非ヌクレオチド構造または前記ピペリジン骨格を含む非ヌクレオチド構造は、例えば、下記式(Ib)で表わされる構造が挙げられる。本発明のssPN分子において、前記リンカー領域(Lx)および後述のリンカー領域(Ly)は、例えば、ピロリジン骨格を含む非ヌクレオチド構造およびピペリジン骨格を含む非ヌクレオチド構造を、いずれも含まない。

[0050] 前記式(Ib)中、例えば、X^(1)、X^(2)、Y^(1)、Y^(2)、L^(1)、L^(2)、R^(1)およびR^(2)は、前記式(I)と同様である。
R^(3)は、環A上のC-3、C-4、C-5またはC-6に結合する水素原子または置換基である。R^(3)が前記置換基の場合、置換基R^(3)は、1でも複数でも、存在しなくてもよく、複数の場合、同一でも異なってもよい。置換基R^(3)は、例えば、ハロゲン、OH、OR^(4)、NH_(2)、NHR^(4)、NR^(4)R^(5)、SH、SR^(4)またはオキソ基(=O)等である。R^(4)およびR^(5)は、例えば、それぞれ独立して、置換基または保護基であり、同一でも異なってもよい。
lは、1または2であり;l=1の場合、環Aは、5員環であり、例えば、前記ピロリジン骨格である。前記ピロリジン骨格は、例えば、プロリン骨格、プロリノール骨格等があげられ、これらの二価の構造が例示できる。l=2の場合、環Aは、6員環であり、例えば、前記ピペリジン骨格である。環Aは、環A上のC-2以外の1個の炭素原子が、窒素、酸素または硫黄で置換されてもよい。また、環Aは、環A内に、炭素-炭素二重結合または炭素-窒素二重結合を含んでもよい。環Aは、例えば、L型およびD型のいずれでもよい。環Aは、前記環A上のC-2以外の1個の炭素原子が、窒素、酸素、硫黄で置換されてもよく、前記環A内に、炭素-炭素二重結合または炭素-窒素二重結合を含んでもよい。
[0051]前記式(I)の構造は、例えば、下記式(I-1)?(I-4)が例示でき、下記式において、nおよびmは、前記式(I)と同じである。

」([0049]?[0051])

(甲1-7)「[0070] (2)第2のssPN分子
前記第2のssPN分子は、例えば、前記領域(X)、前記リンカー領域(Lx)および前記領域(Xc)の他に、さらに、領域(Y)および前記領域(Y)に相補的な領域(Yc)を有する分子である。前記第2のssPN分子において、前記領域(X)と前記領域(Y)とが連結して、内部領域(Z)を形成している。なお、特に示さない限り、前記第2のssPN分子は、前記第1のssPN分子の記載を援用できる。
[0071] 前記第2のssPN分子は、例えば、5’側から3’側にかけて、前記領域(Xc)、前記リンカー領域(Lx)、前記領域(X)、前記領域(Y)および前記領域(Yc)を、前記順序で有してもよい。この場合、前記領域(Xc)を、5’側領域(Xc)、前記内部領域(Z)中の前記領域(X)を、内部5’側領域(X)、前記内部領域(Z)中の前記領域(Y)を、内部3’領域(Y)、前記領域(Yc)を、3’側領域(Yc)ともいう。また、前記第2のssPN分子は、例えば、3’側から5’側にかけて、前記領域(Xc)、前記リンカー領域(Lx)、前記領域(X)、前記領域(Y)および前記領域(Yc)を、前記順序で有してもよい。この場合、前記領域(Xc)を、3’側領域(Xc)、前記内部領域(Z)中の前記領域(X)を、内部3’側領域(X)、前記内部領域(Z)中の前記領域(Y)を、内部5’領域(Y)、前記領域(Yc)を、5’側領域(Yc)ともいう。」([0070]?[0071])

(甲1-8)「[0077] 前記第2のssPN分子において、前記領域(Yc)と前記領域(Y)とは、例えば、直接連結してもよいし、間接的に連結してもよい。前者の場合、直接的な連結は、例えば、ホスホジエステル結合による連結等があげられる。後者の場合、例えば、前記領域(Yc)と前記領域(Y)との間に、リンカー領域(Ly)を有し、前記リンカー領域(Ly)を介して、前記領域(Yc)と前記領域(Y)とが連結している形態等があげられる。
[0078] 前記第2のssPN分子が前記リンカー領域(Ly)を有する場合、前記リンカー領域(Ly)は、例えば、前記ヌクレオチド残基からなるリンカーでもよいし、前述した、ピロリジン骨格およびピペリジン骨格の少なくとも一方を含む非ヌクレオチド構造を有するリンカーでもよい。後者の場合、前記リンカー領域(Ly)は、例えば、前記式(I)で表わすことができ、前記リンカー領域(Lx)における前記式(I)の説明を全て援用できる。また、前記リンカー領域(Lx)および前記リンカー領域(Ly)が、いずれも前記式(I)で表される場合、前記リンカー領域(Lx)および前記リンカー領域(Ly)中のA、X^(1)、X^(2)、Y^(1)、Y^(2)、L^(1)、L^(2)、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ、同一でも異なっていても良い。」([0077]?[0078])

(甲1-9)「[0097] 前記領域(Xc)の塩基数は、例えば、1?29塩基であり、好ましくは1?11塩基であり、好ましくは1?7塩基であり、より好ましくは1?4塩基であり、さらに好ましくは1塩基、2塩基、3塩基である。前記内部領域(Z)または前記領域(Yc)が前記発現抑制配列を含む場合、例えば、このような塩基数が好ましい。具体例として、前記内部領域(Z)の塩基数が、19?30塩基(例えば、19塩基)の場合、前記領域(Xc)の塩基数は、例えば、1?11塩基であり、好ましくは1?7塩基であり、より好ましくは1?4塩基であり、さらに好ましくは1塩基、2塩基、3塩基である。
[0098] 前記領域(Xc)が前記発現抑制配列を含む場合、前記領域(Xc)は、例えば、前記発現抑制配列のみから構成される領域でもよいし、前記発現抑制配列を含む領域でもよい。前記発現抑制配列の長さは、例えば、前述の通りである。前記領域(Xc)が前記発現抑制配列を含む場合、前記発現抑制配列の5’側および/または3’側に、さらに付加配列を有してもよい。前記付加配列の塩基数は、例えば、1?11塩基であり、好ましくは、1?7塩基である。
[0099] 前記領域(Yc)の塩基数は、例えば、1?29塩基であり、好ましくは1?11塩基であり、好ましくは1?7塩基であり、より好ましくは1?4塩基であり、さらに好ましくは1塩基、2塩基、3塩基である。前記内部領域(Z)または前記領域(Xc)が前記発現抑制配列を含む場合、例えば、このような塩基数が好ましい。具体例として、前記内部領域(Z)の塩基数が、19?30塩基(例えば、19塩基)の場合、前記領域(Yc)の塩基数は、例えば、1?11塩基であり、好ましくは1?7塩基であり、より好ましくは1塩基、2塩基、3塩基または4塩基であり、さらに好ましくは1塩基、2塩基、3塩基である。」([0097]?[0099])

(甲1-10)「[0105] 本発明のssPN分子は、前述のように、前記リンカー領域(Lx)が、前記非ヌクレオチド構造を有していればよく、その他の構成単位は、特に制限されない。前記構成単位は、例えば、ヌクレオチド残基等があげられる。前記ヌクレオチド残基は、例えば、リボヌクレオチド残基およびデオキシリボヌクレオチド残基等があげられる。前記ヌクレオチド残基は、例えば、修飾されていない非修飾ヌクレオチド残基および修飾された修飾ヌクレオチド残基等があげられる。本発明のssPN分子は、例えば、前記修飾ヌクレオチド残基を含むことによって、ヌクレアーゼ耐性を向上し、安定性を向上可能である。また、本発明のssPN分子は、例えば、前記ヌクレオチド残基の他に、さらに、非ヌクレオチド残基を含んでもよい。」([0105])

(甲1-11)「[0156]3.本発明のssPN分子の合成方法
本発明のssPN分子の合成方法は、特に制限されず、従来公知の方法が採用できる。前記合成方法は、例えば、遺伝子工学的手法による合成法、化学合成法等があげられる。遺伝子工学的手法は、例えば、インビトロ転写合成法、ベクターを用いる方法、PCRカセットによる方法等があげられる。前記ベクターは、特に制限されず、プラスミド等の非ウイルスベクター、ウイルスベクター等があげられる。これに限定されない。前記化学合成法は、特に制限されず、例えば、ホスホロアミダイト法およびH-ホスホネート法等があげられる。前記化学合成法は、例えば、市販の自動核酸合成機を使用可能である。前記化学合成法は、一般に、アミダイトが使用される。前記アミダイトは、特に制限されず、市販のアミダイトとして、例えば、RNA Phosphoramidites(2’-O-TBDMSi、商品名、三千里製薬)、ACEアミダイト、TOMアミダイト、CEEアミダイト、CEMアミダイト、TEMアミダイト等があげられる。本発明のssPN分子については、例えば、前記式(I)で表わされるリンカー領域の合成の際、後述する本発明のモノマーを使用することが好ましい。」([0156])

(甲1-12)「[0218](実施例B1)RNAの固相合成
本発明のリンカーを有するRNA(本発明の一本鎖核酸分子)を合成した。RNAは、ホスホロアミダイト法に基づき、核酸合成機(商品名ABI Expedite(登録商標) 8909 Nucleic Acid Synthesis System、アプライドバイオシステムズ)により、3’側から5’側に向かって合成した。前記合成には、RNAアミダイトとして、RNA Phosphoramidites(2’-O-TBDMSi、商品名、三千里製薬)を用いた(以下、同様)。前記アミダイトの脱保護は、定法に従い、合成したRNAは、HPLCにより精製した。以下の実施例において、RNAの合成は、特に示さない限り、同様に行った。
[0219] 具体的には、前記スキーム5の前記化合物(6)を本発明のモノマーとして用い、本実施例のRNA(Ex)として、リンカー領域(Lx)および(Ly)の構造が、それぞれ下記化学式Lgで表される一本鎖RNA(ssRNA)を合成した。
(Lg[LxまたはLyの構造])
-O(CH_(2))_(11)CO-Gly-NH(CH_(2))_(12)O-
[0220] まず、下記配列番号1に示す配列のRNAを合成した。そして、前記RNAの5’末端に、前記化合物6を連結した。つぎに、前記配列番号1に示すRNAの5’側に、前記化合物6を介して、下記配列番号2に示す配列のRNAを連結した。さらに、前記配列番号2に示すRNAの5’末端に、前記化合物6を連結した。さらに、前記配列番号2に示すRNAの5’側に、前記化合物6を介して、下記配列番号3に示す配列のRNAを連結し、実施例のssRNAを合成した。
5’-GAA-3’(配列番号1)
5’-GGCUGUUGUCAUACUUCUCAUGGUUC-3’(配列番号2)
5’-CAUGAGAAGUAUGACAACAGCC-3’(配列番号3)
[0221] 上記のようにして合成した実施例のssRNAを、以下、PK-0054という。前記PK-0054は、下記配列番号4に示すように、5’側から、前記配列番号3のRNA、前記配列番号2のRNA、および前記配列番号1のRNAが前記順序で配列され、前記配列番号3のRNA(Xcに該当する)と前記配列番号2のRNA(内部領域Zに該当する)とがリンカーLx(前記構造Lg)を介して連結され、前記配列番号2のRNA(内部領域Zに該当する)と前記配列番号1のRNA(Ycに該当する)とがリンカーLy(前記構造Lg)を介して連結されている構造である。また、下記配列に示すように、前記配列番号2のRNA配列と、前記配列番号1および3のRNA配列は、相補的な配列を有している。このため、前記PK-0054は、下記式に示すように、自己アニーリングしてステム構造をとっている。なお、下記配列において、下線部GUUGUCAUACUUCUCAUGG(配列番号5)が、GAPDH遺伝子の発現抑制に関与する領域である。

PK-0054の発現抑制領域(配列番号5)
5’-GUUGUCAUACUUCUCAUGG-3’

」([0218]?[0221])

(甲1-13)「[0245](実施例B3)RNAの固相合成
前記スキーム5の前記化合物(6)に代えて前記スキーム7の前記化合物(18)を本発明のモノマーとして用いること、前記配列番号1のRNAに代えてグアノシンを用いること、前記配列番号2のRNAに代えて下記配列番号63のRNAを用いること、および、前記配列番号3のRNAに代えて下記配列番号64のRNAを用いること以外は前記実施例B1と同様にして本実施例のRNAの固相合成を行った。なお、このようにして合成した本実施例のRNAは、リンカー領域(Lx)および(Ly)の構造が、それぞれ下記化学式Llで表される一本鎖RNA(ssRNA)である。なお、本実施例のRNAにおけるリンカー領域(Lx)(下記化学式Llで表される)を、以下において、前記実施例B1におけるリンカー領域(Lx)(前記化学式Lgで表される)と区別するために「Lx’」という。同様に、本実施例のRNAにおけるリンカー領域(Ly)(下記化学式Llで表される)を、以下において、前記実施例B1におけるリンカー領域(Ly)(前記化学式Lgで表される)と区別するために「Ly’」という。

5’-GGAAUCGAAGUACUCAGCGUAAGUUC-3’(配列番号63)
5’-ACUUACGCUGAGUACUUCGAUUCC-3’(配列番号64)

(Ll[Lx’またはLy’の構造])
-O(CH_(2))_(5)CO-Lys-NH(CH_(2))_(4)O-

[0246] なお、前記リンカーの構造L1中、「Lys」は、下記化学式で表される構造である。

よって、前記リンカーの構造L1は、下記化学式で表される。

[0247] 上記のようにして合成した実施例のssRNAを、以下、PK-0100という。前記PK-0100は、下記配列番号65に示すように、5’側から、前記配列番号64のRNA、前記配列番号63のRNA、およびグアノシンが前記順序で配列され、前記配列番号64のRNA(Xcに該当する)と前記配列番号63のRNA(内部領域Zに該当する)とがリンカーLx’(前記構造Ll)を介して連結され、前記配列番号63のRNA(内部領域Zに該当する)とグアノシン(Ycに該当する)とがリンカーLy’(前記構造Ll)を介して連結されている構造である。また、下記配列に示すように、前記配列番号63のRNA配列と、グアノシンおよび前記配列番号64のRNA配列は、相補的な配列を有している。このため、前記PK-0100は、下記式に示すように、自己アニーリングしてステム構造をとっている。

」([0245]?[0247])

(甲1-14)「[0262](参考例B1)RNAの固相合成
前記スキーム5の前記化合物6(本発明のモノマー)に代えて前記化合物122を用い、リンカー領域(Lx)および(Ly)に相当する部分の構造を、前記Lgに代えて下記Lpとする以外は前記実施例B1のPK?0054と同様にして、一本鎖RNA(ssRNA)を合成した。

[0263] 上記のようにして合成したssRNAを、以下、PK-0004という。前記PK-0004は、下記配列番号9に示すように、5’側から、前記配列番号3のRNA、前記配列番号2のRNA、および前記配列番号1のRNAが前記順序で配列され、各RNAが、前記構造Lpを介して連結されている構造である。また、前記実施例B1でも説明したように、前記配列番号2のRNA配列と、前記配列番号1および3のRNA配列は、相補的な配列を有している。このため、前記PK-0004は、下記式に示すように、自己アニーリングしてステム構造をとっている。なお、前記PK-0054と同じく、下線部GUUGUCAUACUUCUCAUGG(配列番号5)が、GAPDH遺伝子の発現抑制に関与する領域である。

5’-GAA-3’(配列番号1)
5’-GGCUGUUGUCAUACUUCUCAUGGUUC-3’(配列番号2)
5’-CAUGAGAAGUAUGACAACAGCC-3’(配列番号3)

Ex:PK-0004(配列番号9)
5’-CAUGAGAAGUAUGACAACAGCC-Lp-GGCUGUUGUCAUACUUCUCAUGGUUC-Lp-GAA-3’

PK-0004の発現抑制領域(配列番号5)
5’-GUUGUCAUACUUCUCAUGG-3’

」([0262]?[0263])

(甲1-15)「

」(図2)

(甲1-16)「

」(図5)

2 甲第2号証:博士学位論文「環状化RNAのRNA干渉効果および翻訳鋳型として性質」
(甲2-1)「ダンベル型DNAに関する研究から、血清中においては一本鎖ループ部位から先に分解されることが報告されている^(60)。また、ダンベル型DNAで、一本鎖DNAからなるループ部位を非ヌクレオチド鎖等で置換するとその生体内安定性が向上することが報告されている^(67)。そこで本研究においても、本章第1節でその設計・合成について述べ、第4節でその細胞内での高いRNA干渉効果が明らかにされたダンベル型RNA Db-23 について、その一本鎖RNAからなるループ領域を生体親和性が高く分解抵抗性の構造で置換することととした。図29に設計した修飾型ダンベル型RNAの構造と配列を示す。まず、一つめのデザインとして、ループ内のリボヌクレオチドを2’-デオキシリボヌクレオチドで置換することとした。すなわち、ループを構成するリボヌクレオチドを3、5、7塩基分の2’-デオキシリボヌクレオチドで置換したダンベル型RNA(Db-23D3,Db-23D5,Db-23D7)を設計した(図29a)。二つめのデザインとして、ループ部位を非核酸鎖のヘキサエチレングリコール鎖(hexaethylene glycol;HEG)で置換することとした^(67,99-102)。Db-23の9-ntからなるループ配列のうち、一本鎖を形成する7-nt部分をHEGで置換したDb-23HEG、およびHEGとUUジヌクレオチドで置換したDb-23HEGuuの2分子を設計した(図29b)^(102)。これらのループ部修飾ダンベル型RNAは、第1節で示した未修飾ダンベル型RNAと同様の方法で合成した。すなわち、一本鎖からなる環状ダンベル型RNA分子を2本のRNA鎖に分け、それぞれの鎖を化学的に合成した後、T4RNAリガーゼを用いて連結した(図14)^(22)。図30aに化学合成した一対のRNAオリゴマー配列をそれぞれ示し、連結反応の変性PAGE分析結果を図30bに示した。連結部位はT4RNAリガーゼの特性を考慮して設定した^(103)。T4RNAリガーゼはオリゴヌクレオチドの5’リン酸化末端と、オリゴヌクレオチドの3’水酸化末端を結合させる酵素である。一本鎖形成部位での反応が好まれ、二本鎖形成部位での連結反応は遅くなることが知られている^(103)。そのために連結部位はループ配列中の一本鎖領域に設定することを第一選択とし、それが不可能な場合にステム部位に設定した(なお、RNAの二本鎖形成部位に連結部位を設定する場合には、二本鎖RNA特異的リガーゼであるT4RNAリガーゼ2を用いると効率よく連結反応が進行する^(104,105))。」(第26頁第6行?第28頁第2行)

(甲2-2)「

」(図29)

(甲2-3)「

」(図30)

3 甲第3号証:国際公開第2011/052013号の再公表特許

(甲3-1)「【請求項1】第一の核酸鎖の3’ヒドロシル基と、第二の核酸鎖の5’リン酸基とを結合する方法であって、
前記第一の核酸鎖の少なくとも一部と前記第二の核酸鎖の少なくとも一部とに相補的に結合する第三の核酸鎖の存在下において、少なくとも1以上のリボヌクレオチドを3’末端に有する前記第一の核酸鎖と前記第三の核酸鎖との塩基対形成、および前記第二の核酸鎖と前記第三の核酸鎖との塩基対形成を、同時にまたは別々に行う工程と、その工程で得られた前記第一の核酸鎖、前記第二の核酸鎖、前記第三の核酸鎖の三者の核酸鎖の混合物に、EC6.5.1.3に分類され且つ二本鎖核酸ニック修復活性を有するRNAリガーゼを添加する工程を有し、
前記第三の核酸鎖は、前記第一の核酸鎖の3’末端の塩基を含む少なくとも1以上の連続する塩基配列と相補的な塩基配列を有し、また前記第三の核酸鎖は、前記第二の核酸鎖の5’末端の塩基を含む少なくとも1以上の連続する塩基配列と相補的な塩基配列を有し、且つ前記第二の核酸鎖に対して相補的となる前記第三の核酸鎖における塩基配列が、前記第二の核酸鎖の鎖長の1/2未満となるものであることを特徴とする方法。」(請求項1)

(甲3-2)「【0012】このような構成によれば、第一の核酸鎖と第二の核酸鎖との結合について簡便な方法を提供することができる。また、本発明によれば、RNA同士の結合において、従来のT4 RNAリガーゼ1を用いて行う方法のような、一方のRNA鎖の3’末端を保護することによって当該RNA鎖の自己環状化を防ぐような処理をする必要がなくなる。さらに、本発明によれば、T4 DNAリガーゼを用いてRNA同士の結合を行う場合の欠点、すなわち、多量の酵素を使用しなければならず、また、長い反応時間を要し、さらには、収率が低い、という欠点を解消することができる。」(【0012】)

(甲3-3)「【0033】本発明に用いるEC6.5.1.3に分類され且つ二本鎖核酸ニック修復活性を有するRNAリガーゼとは、国際生化学分子生物学連合が制定するEC番号でEC6.5.1.3に分類される酵素であり、ATP+(ribonucleotide)n+(ribonucleotide)m=AMP+diphosphate+(ribonucleotide)n+mの反応を触媒する酵素であって、二本鎖核酸におけるニックを修復する活性を有するものである。また、本発明に係るRNAリガーゼは、好ましくは、T4 バクテリオファージ由来のT4 RNAリガーゼ2である。さらに、本発明に係るRNAリガーゼは、T4バクテリオファージ由来のT4 RNAリガーゼ2、ビブリオファージ(vibriophage)KVP40由来のリガーゼ2、Trypanosoma brucei RNAリガーゼ、Deinococcus radiodurans RNAリガーゼ、若しくはLeishmania tarentolae RNAリガーゼであっても良く、EC6.5.1.3に分類されるRNAリガーゼであって二本鎖核酸ニック修復活性を有するものであればこれらのリガーゼに制限されることはない。」(【0033】)

4 甲第7号証:米国特許出願公開第2018/0023122号明細書

(甲7-1)「本発明の技術分野
[0002]本発明は、療法において使用されるものなどの、化学的に改変されたオリゴヌクレオチドの産生における使用に適しているオリゴヌクレオチドの産生のための新規プロセスに関する。
発明の背景
[0003]ホスホロアミダイト化学によるオリゴヌクレオチドおよび改変オリゴヌクレオチドの化学合成は確立されており、数十年にわたってこれらの規定の配列のバイオポリマーを合成するための選択法であった。合成プロセスは通常、単一のヌクレオチドが各ヌクレオチドの付加と共に連続的に付加される固相合成として実行され、その後のステップのための調製において成長するオリゴヌクレオチド(「オリゴ」)を付加し、脱保護するために数サイクルの化学的ステップを必要とする。ヌクレオチドの連続的付加の終わりに、オリゴは固相支持体から遊離し、さらに脱保護が起こり、次いで、未精製のオリゴヌクレオチドは、カラムクロマトグラフィーによってさらに精製される。
[0004]この方法は日常的であると考えられ、自動化することができるが、特に、目標がオリゴヌクレオチド治療剤にとって必要とされるように大規模でオリゴヌクレオチドを調製することである場合、この方法にはいくつかの欠点がある。これらの欠点としては、限定されるものではないが、以下のものが挙げられる:
[0005]1)大量のオリゴヌクレオチドを精製するには不適なものにするクロマトグラフィーの使用に付いて回る実用的な限界。大規模なクロマトグラフィーの使用は高価であり、カラムのサイズおよび性能に関する限界のため、達成するのが難しい。
[0006]2)エラー数が、合成されるオリゴヌクレオチドの長さと共に蓄積する。したがって、現在のプロセスの直線的で連続的な性質は、収率の幾何的低下をもたらす。例えば、ヌクレオチド付加の各サイクルに関する収率が99%である場合、20マーの収率は83%であろう。
[0007]3)合成オリゴヌクレオチド合成装置ならびに下流の精製および単離装備に関する規模の限界:現在、単一バッチで製造することができる生成物の最大量は、10kgの規模である。
・・・・・・・・・
[0016]本発明はさらに、少なくとも1個の改変ヌクレオチド残基を有する一本鎖オリゴヌクレオチド生成物を産生するためのプロセスであって、a)鋳型が生成物からの分離を可能にする特性を有する、生成物の配列と相補的な鋳型オリゴヌクレオチド(I)を提供すること;b)少なくとも1個のセグメントが少なくとも1個の改変ヌクレオチド残基を含有する、生成物配列のセグメントであるオリゴヌクレオチドを含有するオリゴヌクレオチド(II)のプールを提供すること;c)アニーリングを可能にする条件で(I)と(II)とを接触させること;d)セグメントオリゴヌクレオチドを連結して、生成物を形成させること; e)アニーリングした鋳型と不純物オリゴヌクレオチド鎖とを変性させること、および不純物を分離することを含む、任意の不純物を分離するために条件を変化させること;ならびに f)アニーリングした鋳型と生成物オリゴヌクレオチド鎖とを変性させること、および生成物を分離することを含む、生成物を分離するために条件を変化させることを含む、前記プロセスを提供する。
・・・・・・・・・
[0023]本発明はまた、そのような方法により作製された改変オリゴヌクレオチドおよびそのような方法における使用のためのリガーゼも包含する。
・・・・・・・・・
[0081]本発明の実施形態においては、プロセスは、治療用オリゴヌクレオチドを産生するためのプロセスである。本発明の実施形態においては、プロセスは、一本鎖治療用オリゴヌクレオチドを産生するためのプロセスである。本発明の実施形態においては、プロセスは、二本鎖治療用オリゴヌクレオチドを産生するためのプロセスである。」([0002]?[0081])

5 甲第8号証:国際公開第2012/005368号

(甲8-1)「[0130]4.本発明のssNc分子の合成方法
本発明のssNc分子の合成方法は、特に制限されず、従来公知の方法が採用できる。前記合成方法は、例えば、遺伝子工学的手法による合成法、化学合成法等があげられる。遺伝子工学的手法は、例えば、インビトロ転写合成法、ベクターを用いる方法、PCRカセットによる方法があげられる。前記ベクターは、特に制限されず、プラスミド等の非ウイルスベクター、ウイルスベクター等があげられる。」([0130])

第5 当審の判断
1 理由1:特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)
本件明細書の実施例2には、「【0077】前記一本鎖RNAは、ホスホロアミダイト法に基づき、核酸合成機(商品名NTS M-4MX-E、日本テクノサービス株式会社)を用いて合成した。前記合成には、RNAアミダイトとして、国際公開第2013/027843号の実施例2に記載のウリジンEMMアミダイト、実施例3に記載のシチジンEMMアミダイト、実施例4に記載のアデノシンEMMアミダイト及び実施例5に記載のグアノシンEMMアミダイト、および、国際公開第2012/017919号の実施例A3に記載のプロリンアミダイト(Ib)を用いた。」と記載されている(【0077】)。
一方、国際公開第2012/017919号(甲第4号証)の実施例A3には、「プロリンアミダイト(Ib)」という表現はないものの、「(実施例A3)プロリンジアミドアミダイトの合成」として、「プロリン骨格を有するリンカーを含む本発明の核酸分子を生成するため、前記スキーム3により、L-プロリンジアミドアミダイトおよびD-プロリンジアミドアミダイトを合成した。」と記載されており([0225]、[0217])、そして、「DMTr-ジアミド-L-プロリンアミダイト(化合物10)」([0229])、「DMTr-ジアミド-D-プロリンアミダイト(化合物9)」([0233])の「プロリンアミダイト」を合成したことが具体的に記載されているから、本件明細書の実施例2に記載されているプロリンアミダイトが、国際公開第2012/017919号の実施例A3に化合物10、化合物9として記載されている上記プロリンアミダイトを示していることを当業者は容易に理解することができる。
また、本件明細書には、上記実施例2の記載以外にも、Lyリンカー領域、Lzリンカー領域について、「【0054】またLyリンカー領域、Lzリンカー領域については、下記構造式(III?bに示されるプロリン骨格を有するアミダイトを国際公開第2012/017919号の実施例A4の方法にて使用することができる。また、下記構造式(III?c)、(III?d)および(III-e)のいずれかで表されるアミダイト(国際公開第2013/103146号の実施例A1?A3参照)を使用することにより、同様に核酸合成機にて調製できる。
・・・・・・・・・・・・
【0058】

・・・・・・・・・・・・
【0061】

」と記載されており(【0054】?【0061】)、プロリン誘導体(【0058】の式(III?b)で表される化合物)、リシン誘導体(【0061】の式(III-e)で表される化合物)、等の化合物をLyリンカー領域、Lzリンカー領域に使用することができることが記載されている。
本件特許発明2の式(II-A)で表されるリンカーは、本件明細書の実施例2に記載されているプロリンアミダイト、本件明細書の【0058】に記載されている式(III?b)で表されるアミダイトに該当し、本件特許発明2の式(II-B)で表されるリンカーは、本件明細書の【0061】に記載されている式(III-e)で表されるアミダイトに該当するものであるから、本件特許発明2の式(II-A)、(II-B)で表されるリンカーは、本件発明の詳細な説明に具体的に記載されているといえる。また、本件明細書には、プロリン誘導体、リシン誘導体以外のアミノ酸誘導体をLyリンカー領域、Lzリンカー領域に使用することができることが記載されている(【0054】?【0061】)から、本件特許発明1の式(I)で表されるLyリンカー領域、式(I’)で表されるLzリンカー領域も、本件発明の詳細な説明に具体的に記載されているといえる。
そして、本件明細書に、「【0023】連結一本鎖RNAは、分子内において相補性のある配列部分が並び、分子内で部分的に二重鎖を形成しうる。連結一本鎖RNA分子は、図2に示すように、X1領域とX2領域が互いに相補性を有するヌクレオチド配列を含み、さらにY1領域とY2領域が互いに相補性を有するヌクレオチド配列を含み、これらの相補性を有する配列との間で、二重鎖が形成され、LyおよびLzのリンカー領域が、その長さに応じてループ構造をとる。図2及び図4は、あくまでも、前記領域の連結順序および二重鎖部を形成する各領域の位置関係を示すものであり、例えば、各領域の長さ、リンカー領域(LyおよびLz)の形状等は、これらに限定されない。」(【0023】)、「【0033】連結一本鎖RNAにおいて、LyおよびLzのリンカー領域の長さは、特に制限されない。これらのリンカー領域は、例えば、X1領域とX2領域とが二重鎖を形成可能な長さ、あるいはY1領域とY2領域とが二重鎖を形成可能な長さであることが好ましい。LyおよびLzの各リンカー領域は、アミノ酸から誘導される原子団を有する領域である。これらのリンカー領域(Ly、Lz)は、通常、非ヌクレオチドのリンカー領域である。」(【0033】)と記載されているように、Lyリンカー領域、Lzリンカー領域の両端に結合しているヌクレオチド配列が二本鎖を形成できる長さであって、アミノ酸誘導体を含む非ヌクレオチドのリンカー領域であれば、アミノ酸の種類によらず、Lyリンカー領域、Lzリンカー領域がループ構造をとることができることを当業者は容易に理解することができるから、本件発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識から、本件明細書の実施例2?6において実際に使用することができたプロリンアミダイトの実験結果から、当該プロリンアミダイト以外のアミノ酸誘導体及び炭素数1?20のアルキレン基を包含する本件特許発明1の式(I)で表されるLyリンカー領域、式(I’)で表されるLzリンカー領域についても、同様の結果が得られることを当業者が容易に理解することができる程度に本件発明の詳細な説明の記載は記載されているといえる。
また、本件明細書の実施例2?6には、X1領域及びX2領域が12塩基のヌクレオチド配列からなるもの(実施例2)、Y1領域及びY2領域が2塩基のヌクレオチド配列からなるもの(実施例6)が記載されており(【0084】の表2)、本件特許発明1の「前記X1領域と前記X2領域とが、互いに相補的な、11以上の同数のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であ」るもの、「前記Y1領域と前記Y2領域とが、互いに相補的な、2以上の同数のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であ」るものが、本件発明の詳細な説明に具体的に記載されているといえる。そして、13塩基以上の長さであればヌクレオチド配列が二本鎖を形成するのに十分な長さであることは本願出願時の技術常識であるから、本件明細書の実施例2?6において実際に使用することができたX1領域及びY1領域の合計が24塩基のものの実験結果から、X1領域及びY1領域の合計が24塩基よりも短いものであっても、13塩基以上の長さのヌクレオチド配列を有するものであれば、同様の結果が得られることを当業者が容易に理解することができる程度に本件発明の詳細な説明の記載は記載されているといえる。
したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。

2 理由2:特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反)
上記1で述べたように、本件明細書の実施例2に記載されているプロリンアミダイトが、国際公開第2012/017919号の実施例A3に化合物10、化合物9として記載されている上記プロリンアミダイトを示していることを当業者は容易に理解することができ、また、本件明細書の実施例2?6において実際に使用することができたプロリンアミダイトの実験結果から、当該プロリンアミダイト以外のアミノ酸誘導体及び炭素数1?20のアルキレン基を包含する本件特許発明1の式(I)で表されるLyリンカー領域、式(I’)で表されるLzリンカー領域についても、同様の結果が得られることを当業者が容易に理解することができる程度に本件発明の詳細な説明の記載は記載されているといえる。
また、上記1で述べたように、本件明細書の実施例2?6において実際に使用することができたX1領域及びY1領域の合計が24塩基のものの実験結果から、X1領域及びY1領域の合計が24塩基よりも短いものであっても、13塩基以上の長さのヌクレオチド配列を有するものであれば、同様の結果が得られることを当業者が容易に理解することができる程度に本件発明の詳細な説明の記載は記載されているといえる。
したがって、本件発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識を考慮すると、本件発明1?6について、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

3 理由3:特許法第29条第2項(甲第1号証を主引用例とする進歩性違反)
(1)甲第1号証に記載された発明
上記第4の1の記載事項(甲1-1)?(甲1-10)、(甲1-12)?(甲1-16)から、甲第1号証には、「5’末端側から順に、Xc領域、Lxリンカー領域、X領域、Y領域、Lyリンカー領域及びYc領域からなる一本鎖RNAの製造方法であって、
前記X領域と前記Xc領域とが、互いに相補的な、1?29塩基からなるヌクレオチド配列であり、
前記Y領域と前記Yc領域とが、互いに相補的な、1?29塩基からなるヌクレオチド配列であり、
前記Lxリンカー領域が、アミノ酸から誘導される原子団及びアルキレン基を含む二価の基であり、
前記Lyリンカー領域が、アミノ酸から誘導される原子団及びアルキレン基を含む二価の基である、
一本鎖RNAの製造方法。」の発明が記載されていると認められる。

(2)対比
甲第1号証に記載された発明の「Xc領域」は、本件特許発明1の「X2領域」及び「Y2領域」に相当し、甲第1号証に記載された発明の「Lxリンカー領域」は、本件特許発明1の「Lyリンカー領域」に相当し、甲第1号証に記載された発明の「X領域」は、本件特許発明1の「Y1領域」及び「X1領域」に相当し、甲第1号証に記載された発明の「Y領域」は、本件特許発明1の「Z1領域」に相当し、甲第1号証に記載された発明の「Lyリンカー領域」は、本件特許発明1の「Lzリンカー領域」に相当し、甲第1号証に記載された発明の「Yc領域」は、本件特許発明1の「Z2領域」に相当する。
また、甲第1号証の上記記載事項(甲1-5)から、甲第1号証に記載された発明の「アミノ酸から誘導される原子団及びアルキレン基を含む二価の基」は、本件特許発明1の「式(I)で表される二価の基」、「式(I’)で表される二価の基」に相当する。
本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、「5’末端側から順に、X2領域、Y2領域、Lyリンカー領域、Y1領域、X1領域、Z1領域、Lzリンカー領域及びZ2領域からなる一本鎖RNAの製造方法であって、
前記X1領域と前記X2領域とが、互いに相補的な、11以上の同数のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり、
前記Y1領域と前記Y2領域とが、互いに相補的な、2以上の同数のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり、
前記Z1領域と前記Z2領域とが、互いに相補的なヌクレオチド配列を含み、
前記Z領域が、任意のヌクレオチド数のヌクレオチド配列を含む領域であり、
前記Lyリンカー領域が、下記式(I)で表される二価の基であり、

(式中、Y_(11)及びY_(21)は、それぞれ独立して、炭素数1?20のアルキレン基を表し、Y_(12)及びY_(22)は、それぞれ独立して、水素原子もしくはアミノ基で置換されていてもよいアルキル基を表すか、或いはY_(12)とY_(22)とがその末端で互いに結合して炭素数3?4のアルキレン基を表し、
Y_(11)に結合している末端の酸素原子は、前記Y1領域および前記Y2領域のいずれか一方の領域の末端ヌクレオチドのリン酸エステルのリン原子と結合しており、
Y_(21)に結合している末端の酸素原子は、前記Y2領域および前記Y1領域のY_(11)とは結合していない他方の領域の末端ヌクレオチドのリン酸エステルのリン原子と結合している。)
前記Lzリンカー領域が、下記式(I’)で表される二価の基である、

(式中、Y’_(11)及びY’_(21)は、それぞれ独立して、炭素数1?20のアルキレン基を表し、Y’_(12)及びY’_(22)は、それぞれ独立して、水素原子もしくはアミノ基で置換されていてもよいアルキル基を表すか、或いはY’_(12)とY’_(22)とがその末端で互いに結合し炭素数3?4のアルキレン基を表し、
Y’_(11)に結合している末端の酸素原子は、前記Z1領域および前記Z2領域のいずれか一方の領域の末端ヌクレオチドのリン酸エステルのリン原子と結合しており、
Y’_(21)に結合している末端の酸素原子は、前記Z2領域および前記Z1領域のY’_(11)とは結合していない他方の領域の末端ヌクレオチドのリン酸エステルのリン原子と結合している。)
一本鎖RNAの製造方法。」に係る発明である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本件特許発明1では、5’末端側から順に、X1領域およびZ領域からなり、5’末端にリン酸基を有する第1の一本鎖RNAと、5’末端側から順に、X2領域、Y2領域、Lyリンカー領域およびY1領域からなり、3’末端に水酸基を有する第2の一本鎖RNAに、国際生化学連合が酵素番号として定めるEC6.5.1.3に分類され、二本鎖ニック修復活性を有するRNAリガーゼを作用させ、前記第1の一本鎖RNAと前記第2の一本鎖RNAとを連結することにより一本鎖RNAとするのに対し、甲第1号証に記載された発明では、そのようなことは特定されていない点。

(3)相違点についての判断
相違点について検討する。
甲第1号証には、「本発明のssPN分子の合成方法は、特に制限されず、従来公知の方法が採用できる。前記合成方法は、例えば、遺伝子工学的手法による合成法、化学合成法等があげられる。遺伝子工学的手法は、例えば、インビトロ転写合成法、ベクターを用いる方法、PCRカセットによる方法等があげられる。」と記載されている(上記記載事項(甲1-11))が、甲第1号証に記載の「遺伝子工学的手法による合成法」とは、「遺伝子工学的手法は、例えば、インビトロ転写合成法、ベクターを用いる方法、PCRカセットによる方法等があげられる。」と記載されているように、DNAを鋳型にRNAを合成するなどの方法を意味していることは明らかであり、甲第1号証に記載の「遺伝子工学的手法による合成法」が、2つの一本鎖RNAを特定のRNAリガーゼを用いて連結することまでを意味していると当業者は解することはできない。また、甲第8号証にも、甲第1号証の上記記載(上記記載事項(甲1-11))と同様の記載(上記記載事項(甲8-1))がある。
一方、上記第4の2の記載事項(甲2-1)?(甲2-3)から、甲第2号証には、「5’末端にリン酸基を有する第1の一本鎖RNAと3’末端に水酸基を有する第2の一本鎖RNAに、RNAリガーゼを作用させ、前記第1の一本鎖RNAと前記第2の一本鎖RNAとを連結する工程を含む一本鎖RNAの製造方法。」の発明が記載されていると認められるものの、甲第2号証は、2箇所で連結し、環状の一本鎖RNAを合成する方法が記載されているにすぎない。
また、甲第5号証、甲第6号証は、遺伝子工学分野において、DNAリガーゼが使用されていることが記載されているにすぎず、また、甲第7号証は、オリゴヌクレオチドの製造におけるリガーゼの使用に関する記載があるだけである。
甲第3号証には、EC6.5.1.3に分類され且つ二本鎖核酸ニック修復活性を有するRNAリガーゼを用いて、第三の核酸鎖の存在下、第一の核酸鎖と第二の核酸鎖を結合させる方法が記載されているものの、甲第3号証に記載の方法は、第三の核酸鎖の存在を必要とする方法である。
そして、甲第1号証には、そもそも、5’末端側から順に、X1領域およびZ領域からなり、5’末端にリン酸基を有する第1の一本鎖RNAと、5’末端側から順に、X2領域、Y2領域、Lyリンカー領域およびY1領域からなり、3’末端に水酸基を有する第2の一本鎖RNAを連結することにより一本鎖RNAを合成することは記載も示唆もされておらず、ましてやその連結を特定のRNAリガーゼを用いて行うことも記載も示唆もされていないから、甲第2号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第3号証の記載事項を参照しても、甲第1号証に記載された発明において、5’末端側から順に、X1領域およびZ領域からなり、5’末端にリン酸基を有する第1の一本鎖RNAと、5’末端側から順に、X2領域、Y2領域、Lyリンカー領域およびY1領域からなり、3’末端に水酸基を有する第2の一本鎖RNAに、国際生化学連合が酵素番号として定めるEC6.5.1.3に分類され、二本鎖ニック修復活性を有するRNAリガーゼを作用させ、前記第1の一本鎖RNAと前記第2の一本鎖RNAとを連結することにより一本鎖RNAを合成することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
そして、本件特許発明1は、実施例2?6において一本鎖RNAの純度及び収率が、純度90%以上で11%以上の収率が得られており、固相合成法のみによる方法(比較例1)で得られた純度及び収率(純度87%、収率5%)に比べて高い純度及び収率が得られるという効果を奏するから、本件特許発明1の効果は、甲第1号証の記載から当業者が予測し得ないものである。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項並びに甲第3?8号証に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明2?6について
本件特許発明2?6は、本件特許発明1に更なる限定を加えた発明であるから、上記(1)で述べたように、本件特許発明1が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項並びに甲第3?8号証に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2?6も、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項並びに甲第3?8号証に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 理由4:特許法第29条第2項(甲第2号証を主引用例とする進歩性違反)
(1)甲第2号証に記載された発明
上記第4の2の記載事項(甲2-1)?(甲2-3)から、甲第2号証には、「5’末端にリン酸基を有する第1の一本鎖RNAと3’末端に水酸基を有する第2の一本鎖RNAに、RNAリガーゼを作用させ、前記第1の一本鎖RNAと前記第2の一本鎖RNAとを連結する工程を含む一本鎖RNAの製造方法。」の発明が記載されていると認められる。

(2)対比
本件の請求項1を引用する請求項4の記載から、甲第2号証の「T4RNAリガーゼ」は、本件特許発明1の「国際生化学連合が酵素番号として定めるEC6.5.1.3に分類され、二本鎖ニック修復活性を有するRNAリガーゼ」に該当することは明らかであるから、本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、両者は、「5’末端にリン酸基を有する第1の一本鎖RNAと3’末端に水酸基を有する第2の一本鎖RNAに、国際生化学連合が酵素番号として定めるEC6.5.1.3に分類され、二本鎖ニック修復活性を有するRNAリガーゼを作用させ、前記第1の一本鎖RNAと前記第2の一本鎖RNAとを連結する工程を含む一本鎖RNAの製造方法。」に係る発明である点で一致し、以下の点て相違する。
相違点1:本件特許発明1では、1箇所で連結し、非環状の一本鎖RNAを合成するのに対し、甲第2号証に記載された発明では、2箇所で連結し、環状の一本鎖RNAを合成する点。
相違点2:本件特許発明1では、第1の一本鎖RNAが、5’末端側から順に、X1領域、Z1領域、Lzリンカー領域およびZ2領域からなり、第2の一本鎖RNAが、5’末端側から順に、X2領域、Y2領域、Lyリンカー領域およびY1領域からなり、5’末端にリン酸基を有する第1の一本鎖RNAと3’末端に水酸基を有する第2の一本鎖RNAとを連結するのに対し、甲第2号証に記載された発明では、第1の一本鎖RNA、第2の一本鎖RNAの5’末端側から3’末端への各領域の順が逆である点。
相違点3:リンカー領域が、本件特許発明1では、特定の構造を有するアミノ酸から誘導される原子団及びアルキレン基からなるのに対し、甲第2号証に記載された発明では、ヘキサエチレングリコール(HEG)である点。

(3)相違点についての判断
相違点1について
甲第2号証は、「環状化RNAのRNA干渉効果および翻訳鋳型として性質」という表題からも明らかであるように、「環状化RNA」を対象としたものであり、また、甲第2号証の上記記載事項(甲2-1)?(甲2-3)をみても、「環状化RNA」以外の非環状の一本鎖RNAを合成することは何ら記載されていないから、甲第2号証に記載された環状の一本鎖RNAを、非環状の一本鎖RNAとすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。また、甲第3号証?甲第8号証の記載事項を参照しても、甲第2号証に記載された環状の一本鎖RNAを、非環状の一本鎖RNAとすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

相違点2について
甲第2号証には、甲第2号証に記載されている一本鎖RNAの5’末端から3’末端側への各領域の順を逆にする動機付けとなるような記載はないから、甲第2号証に記載されている一本鎖RNAの5’末端から3’末端側への各領域の順を逆にすることは、当業者が適宜なし得ることとはいえない。また、甲第2号証には、甲第2号証に記載されている環状の一本鎖RNAの代わりに、甲第1号証に記載されている非環状の一本鎖RNAを用いる動機付けとなるような記載はないから、甲第1号証の記載事項を参照しても、甲第2号証に記載されている一本鎖RNAの5’末端から3’末端側への各領域の順を逆にすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。また、甲第3号証?甲第8号証の記載事項を参照しても、甲第2号証に記載されている一本鎖RNAの5’末端から3’末端側への各領域の順を逆にすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

したがって、本件特許発明1は、相違点1、相違点2の点で、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項並びに甲第3?8号証に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、その余の相違点について検討するまでもなく、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明2?6について
本件特許発明2?6は、本件特許発明1に更なる限定を加えた発明であるから、上記(1)で述べたように、本件特許発明1が、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項並びに甲第3?8号証に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2?6も、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項並びに甲第3?8号証に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由によっては、本件特許発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-05-18 
出願番号 特願2019-562665(P2019-562665)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C12P)
P 1 651・ 536- Y (C12P)
P 1 651・ 537- Y (C12P)
最終処分 維持  
前審関与審査官 竹内 祐樹  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 安居 拓哉
高堀 栄二
登録日 2020-05-08 
登録番号 特許第6701459号(P6701459)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 核酸分子の製造方法  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 加藤 広之  
代理人 鈴木 慎吾  

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