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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1374937
異議申立番号 異議2021-700015  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-07 
確定日 2021-05-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6719871号発明「ドーナツシュガー、及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6719871号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6719871号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成27年7月10日に出願され、令和2年6月19日にその特許権の設定登録がされ、同年7月8日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許の全請求項に対し、令和3年1月7日付けで特許異議申立人 佐藤 武史(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?2に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
以下、本件特許の請求項1?2に係る発明を、請求項順にそれぞれ、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」といい、これらをまとめて「本件特許発明」ともいう。

「【請求項1】
油脂でコーティングした結晶ぶどう糖を含むドーナツシュガーであって、
前記結晶ぶどう糖の水分が、5.0?10.0質量%であり、
前記油脂は、品温70℃から冷却した際に粘度が0.1Pa・sとなる温度(T_(0.1Pa・s))が20℃以上、40.5℃未満であり、前記ドーナツシュガーが良好な口どけを有し、且つ良好なしっとり感を有することを特徴とするドーナツシュガー。
【請求項2】
結晶ぶどう糖に、融解した油脂を撹拌混合して、結晶ぶどう糖を当該油脂でコーティングする工程を含むドーナツシュガーの製造方法であって、
前記結晶ぶどう糖の水分が、5.0?10.0質量%であり、
前記油脂は、品温70℃から冷却した際に粘度が0.1Pa・sとなる温度(T_(0.1Pa・s))が20℃以上、40.5℃未満であり、前記ドーナツシュガーが良好な口どけを有し、且つ良好なしっとり感を有し、
前記撹拌混合を、50℃以下で行なうことを特徴とする製造方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第7号証(以下、それぞれ「甲1」、「甲2」などという。)を提出し、以下の申立理由を主張している。

1 申立理由
(1)申立理由1-1(進歩性)
本件特許発明1?2は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

引用文献1:特開2014-39506号公報(甲1)

(2)申立理由1-2(進歩性)
本件特許発明1は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

引用文献5:特開平9-201166号公報(甲5)

(3)申立理由2(サポート要件)
本件特許発明1?2に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

(4)申立理由3(実施可能要件)
本件特許発明1?2に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

(5)申立理由4(明確性要件)
本件特許発明1?2に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

2 証拠方法
(1)甲1:特開2014-39506号公報
(2)甲2:渡辺長男 他3名、「結晶ブドウ糖の粒度と二三の特性につい
て」、食糧研究所研究報告、1958年10月、第13号、p
.47-54
(3)甲3:ぶどう糖の日本農林規格、最終改正 平成16年7月23日
農水告第1428号
(4)甲4:特開昭60-16572号公報
(5)甲5:特開平9-201166号公報
(6)甲6:特開昭63-98354号公報
(7)甲7:田村太郎 他1名、「結晶ブドウ糖の特性に関する研究(第1
報) 市販結晶ブドウ糖の純度と品質について」、食糧研究所
研究報告、1958年10月、第13号、p.59-64

第4 甲号証に記載された事項
1 甲1の記載事項
(甲1a)「【請求項1】
粉末糖の粒子表面に、粉末糖100重量部に対して、1?15重量部の融点50?70℃の油脂の被覆層、さらにその外表面に2?10重量部の融点26?40℃の油脂の被覆層を形成した油脂被覆粉末糖。
・・・
【請求項3】
粉末糖100重量部の粒子表面を、あらかじめ加熱溶解した融点50?70℃の油脂1?15重量部でコーティングした後、該油脂の融点よりも低い温度まで冷却することで油脂の層を形成させ、次いでその外表面を、あらかじめ加熱溶解した融点26?40℃の油脂2?10重量部でコーティングすることを特徴とした油脂被覆粉末糖の製造方法。」

(甲1b)「【0002】
従来ベーカリー製品の表面に粉糖、ぶどう糖、グラニュー糖等の粉末糖を付着させること(シュガリングという)が行われてきた。しかしながら、これら粉末糖は吸湿性が強く、シュガリング後に時間が経過すると潮解して透明になる「泣き」という現象が発生するという問題があった。「泣き」が発生すると、シュガリングしたベーカリー製品の見た目も食感も悪くなるため、商品価値が低下する。そこで、粉末糖の「泣き」の発生を防止するための検討がされてきた。」

(甲1c)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでの検討により、油脂被覆粉末糖の「泣き」の発生を抑制できるようになった。本発明者らは、よりおいしい油脂被覆粉末糖を開発するために、様々な条件で油脂被覆粉末糖を作製し、食感の確認を行った。その結果、「泣き」の発生が抑制された油脂被覆粉末糖において、被覆に用いた油脂由来の油っこいぬめり感の発生やベーカリー製品の生地のパサつきの発生といった食感上の不具合が起こることが多いことに気付いた。
・・・すなわち、従来技術では、被覆に用いた油脂由来の油っこいぬめり感、ベーカリー製品の生地のパサつきの発生を抑制することはできないといえる。
【0007】
本発明の課題は、ベーカリー製品にシュガリングし、時間が経っても、油脂被覆粉末糖の油脂由来の油っこいぬめり感が発生せず、ベーカリー製品の生地のパサつきも発生させない油脂被覆粉末糖を提供することである。また、そのような油脂被覆粉末糖の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、粉末糖の粒子表面に、1層目の油脂として融点50?70℃の油脂をコーティングし、冷却し、その後、さらにその外表面に2層目の油脂として融点26?40℃の油脂をコーティングした油脂被覆粉末糖が、ベーカリー製品にシュガリングし、時間が経っても、油脂被覆粉末糖の油脂由来の油っこいぬめり感を発生せず、ベーカリー製品の生地のパサつきを発生させないことを見出した。」

(甲1d)「【0022】
本発明の油脂被覆粉末糖を製造する際に用いる粉末糖としては、通常甘味料として用いられるぶどう糖、フルクトース、シュクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース等を用いることができる。これらの粉末糖としては、結晶品、噴霧乾燥品、結晶品の微粉砕品、及びこれらの造粒品又はこれらを篩い分けした製粒品を用いることができる。粉末糖にデキストリン、粉飴、澱粉、化工澱粉、多糖類、高甘味度甘味料を混ぜても良い。
さらに、本発明の油脂被覆粉末糖において特に好適な粉末糖を検討したところ、ぶどう糖を用いた場合に、もっともおいしいと感じられることが確認されており、本発明における粉末糖としてはぶどう糖を用いることが好ましい。
・・・
【0024】
本発明の油脂被覆粉末糖は、ベーカリー製品のシュガリング用に使用することができる。ベーカリー製品としてはパンやクッキーなどがあげられるが、特に揚げパン、揚げ菓子、ドーナツに用いると良い。特にアンドーナツのように生地が薄いベーカリー製品において、生地のパサつきを発生させない効果が大きく感じられる。」

(甲1e)「【実施例】
【0026】
[試験に用いた油脂]
表1に記載した油脂A?Gを用いた。・・・油脂A?Gについて、基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996融点(上昇融点)に記載の方法に基づき、ガラスキャピラリー(ドラモンド社製、長さ75mm)を用い、自動上昇融点測定装置(エレックス科学製)により上昇融点を測定した。・・・
【0027】
【表1】

【0028】
〈コーティング方法の検討〉
実施例1:加熱ジャケットつきニーダーミキサーに無水結晶ぶどう糖(昭和産業製)100重量部を入れて90℃に加熱し60rpmで撹拌しているところに、あらかじめ90℃で加熱溶解して完全に液状にした油脂A 5重量部を滴加した。全量滴加後90℃を維持したまま10分間混合した後、加熱を止め油脂被覆粉末糖が自然に冷えるのを待った。油脂被覆粉末糖の表面温度が50℃まで下がったところで60rpmで撹拌を再開し、ここに、あらかじめ50℃で加熱溶解して完全に液状にした油脂D 5重量部を滴加した。全量滴加後10分間撹拌した後、撹拌を止め放冷した。油脂被覆粉末糖の表面温度が30℃以下になったところで、コーンスターチ(昭和産業製)10重量部を添加し60rpmで10分間撹拌したのち、撹拌装置から取り出し室温まで放冷した。
・・・
【0037】
〈油脂の融点範囲の検討〉
1層目の油脂(油脂1)と2層目の油脂(油脂2)の融点の影響を確認するため、油脂1、油脂2、および冷却終点温度を表3に記載通りの条件とし試験を行った。
加熱ジャケットつきニーダーミキサーに無水結晶ぶどう糖(昭和産業製)100重量部を入れて90℃で加熱し60rpmで撹拌しているところに、あらかじめ融点より20℃高い温度で溶解した油脂1を5重量部滴加した。全量滴加後90℃を維持したまま10分間混合した後、加熱を止め油脂被覆粉末糖の表面温度が冷却終点温度まで自然に冷えるのを待った。冷却終点温度まで下がったところで60rpmで撹拌を再開し、ここに、あらかじめ冷却終点温度に加熱溶解した油脂2を5重量部滴加した。全量滴加後10分間撹拌した後、撹拌を止め放冷した。油脂被覆粉末糖の表面温度が30℃以下(油脂Gを用いた場合には油脂被覆粉末糖の表面温度が20℃以下)になったところで、コーンスターチ(昭和産業製)10重量部を添加し60rpmで10分間撹拌したのち、撹拌装置から取り出し室温まで放冷した。作製した各油脂被覆粉末糖について、実施例1と同様にドーナツにシュガリングし官能評価を行った。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
油脂1として融点50℃?70℃の油脂を用い、かつ油脂2として融点26℃?40℃の油脂を用いた実施例2?7では油っこいぬめり感の発生およびベーカリー製品の生地のパサつきの発生が殆どなかった。特に、油脂1として融点58℃?70℃の油脂を用い、かつ油脂2として33℃?40℃の油脂を用いた実施例2?4では、油っこいぬめり感の発生およびベーカリー製品の生地のパサつきの発生が全くなかった。」

2 甲2の記載事項
(甲2a)「1.緒言
・・・結晶ブドウ糖の粒度分布を調べ,これが性状を知ることは,その製造条件に重要な手がかりとなるものと考えられる。
このような観点にもとづき,国内産およびアメリカ産の含水ならびに無水ブドウ糖について,粒度別に分別した試料を調製し,種々の特性について研究して,興味ある知見を得たので,その結果を報告する。」(47ページ左欄1?16行)

(甲2b)「2・5 結晶ブドウ糖の溶解性に及ぼす粒度の影響
粒度別結晶ブドウ糖の溶解速度を,同粒度のグラニユ糖と比較した。・・・
・・・その結果をFig.5に示す。
Fig.5によると,一般に粒度の小さいほど,結晶粒子の溶解消失時間も距離も小さい。すなわち溶解速度が大きい。80メッシュ以上の結晶粒は,どの試料も大体同程度であり,しかもグラニユ糖とほとんど変りがなかつた。ところか60メッシュ以下になると,結晶ブドウ糖の場合,試料によりかなりの差が現われてくる。この差は結晶粒子の比重の差によるのか,あるいは純度の相違によるものか,明らかにすることができなかつたので,さらに検討するつもりである。
・・・

Fig.6は,粒度別結晶ブドウ糖の,蔗糖およびクエン酸溶液中の溶解速度を比較したもので,各試料とも一般に粒度の小さいほど,溶解速度の大きいことは,蒸溜水の場合と同様である。・・・
前記各実験のそれぞれの平均値ならびにその標準偏差を,Tab.1とTab.2に示す。
・・・

」(51ページ左欄7行?53ページTab.1)

(甲2c)「3.要約
・・・
3・5 溶解速度は,結晶粒子の小さいほど大であつて,各試料とも80メッシュ以上のものは,グラニユ糖と同程度であるが,60メッシュ以下になると,試料によりかなりの差がある。・・・
・・・
以上の結果を総合して,結晶ブドウ糖は60?100メッシュのものが,正常結晶が揃い,白度もほぼ一定し,溶解速度もグラニユ糖と同程度であり,紫外部吸収が少く純度高く,商品的価値が高まるものと推察した。」(54ページ左欄7行?右欄最下行)

3 甲3の記載事項
(甲3a)「(無水結晶ぶどう糖の規格)
第3条 無水結晶ぶどう糖の規格は、次のとおりとする。

・・・
」(1ページ第3条)

(甲3b)「(含水結晶ぶどう糖の規格)
第4条 含水結晶ぶどう糖の規格は、次のとおりとする。

・・・
」(3ページ第4条)

4 甲4の記載事項
(甲4a)「2.特許請求の範囲
1.水分10?15%程度の含水結晶ブドウ糖とα-L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステルとを混合、乾燥することを特徴とする甘味料の製造法。」(1ページ左欄3?7行)

(甲4b)「α-L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステル(以下APMと略称)・・・。・・・しかし、このAPMもなお風味の点においては蔗糖より劣り、また水に対する分散性,溶解度が低く、飲料,食品に添加する場合に種々の不便な点が多い。」(1ページ右欄最下行?2ページ左上欄10行)

(甲4c)「・・・含水結晶ブドウ糖を製造する過程中の蜜分離後の生結晶の段階で所定量のAPMを加え混合乾燥したところ、このものは過度の振動によっても両者が分離することなく、常に一定の割合のAPMとブドウ糖の結合物が得られ、このものは水に易溶でしかもまるみのある人の嗜好に適合した甘味を有する甘味料が得られた。」(2ページ右上欄5?11行)

(甲4d)「この含水結晶ブドウ糖の生結晶又は含水結晶ブドウ糖に水分を加えて水分10?15%としたものにAPMを添加混合する。APMの添加量は製品の使用目的などにより任意に変更されるが、一般の食品,飲料などに用いる場合は水分10?15%の含水結晶ブドウ糖100重量部に対し0.3?10重量部の範囲で加える。混合は適宜の方法で行うことができるが、工業的には連続式又はバッチ式のニーダーを用いて15?30分程度撹拌する。連続式の場合は、これを分蜜-乾燥工程に至る工程中に組み込んでもよい。混合後約40℃の前後の温度で乾燥すると水分8.0?8.8%の粉末状のAPM含有の含水結晶ブドウ糖が得られる。
このようにして得られたAPM含有含水結晶ブドウ糖は蔗糖と同様のまるみのある甘味,風味を有し、しかも水に易溶性であるからコーヒー,紅茶などの飲料の添加の場合一般の蔗糖と同じ用い方ができ、しかも成分がブドウ糖,APMよりなっているため糖尿病患者,糖分の過度の摂取による弊害を除くために各種の甘味添加飲食物などに都合よく使用できる。」(2ページ右下欄4行?3ページ左上欄4行)

(甲4e)「〔実施例〕
含水結晶ブドウ糖生結晶(水分12.5%)1040gとAPM14.7gを混合し、これを菊水製作所(株)のニーダーで60rpmで25分間攪拌し、後40℃で1時間真空乾燥し、JIS篩48メッシュスルーの製品を得た。この物の水分は8.5%であった。
・・・
本発明により得られた製品は蔗糖に極めて近い良好な甘味を有し、水への溶解性も良好であった。」(3ページ左上欄9行?左下欄下から3行)

5 甲5の記載事項
(甲5a)「【請求項1】 ぶどう糖、デキストリン、および融点が各々45?55℃と55?65℃の異なる範囲にあり、かつ両者の融点の差が5℃以上である2種の油脂の均一混合物から成るコーティングシュガー組成物。
【請求項2】 さらに高甘味料を含有する請求項1記載のコーティングシュガー組成物。」

(甲5b)「【0010】
【発明が解決しようとする課題】斯かる現状に於て、本発明者はふりかけ直後のみならず、3日以上経過しても泣かずに、しかも適度な口溶けの良さを有すると共に、適度な甘さを感じるコーティングシュガーを提供することを目的として種々研究を重ねた結果、糖類としてぶどう糖とデキストリンを併用し、かつ油脂として融点が各々45?55℃と55?65℃の異なる範囲にあり、かつ両者の融点の差が5℃以上である2種のものを均一混合状態で併用すれば、長時間吸湿せずに商品形状を保持せしめることができ、極めて良い結果が得られることを見い出し、本発明を完成した。」

(甲5c)「【0012】
【発明の実施の形態】本発明に於て、ぶどう糖およびデキストリンからなる糖類と油脂の比率としては、重量比で1:0.08?0.12が好ましい。油脂の比率が0.08より小さくなると口溶けは良いが“泣き”の傾向が強くなり、他方0.12より大きくなると“泣き”の傾向はなくなるものの、口溶けが悪くなる傾向が強まる。
・・・
【0015】本発明に於ては、上記成分に加えさらに高甘味料を含有せしめるのがより適度な甘さを得る上で好ましい。ここに高甘味料としては、例えばステビオサイド、アスパルテームが好ましいものとして用いられる。
【0016】本発明に用いられるぶどう糖としては、例えば無水ぶどう糖と含水ぶどう糖の混合物が好ましいものとして挙げられる。」

(甲5d)「【0021】
【実施例】以下実施例を挙げて本発明をさらに説明する。
【0022】実施例1?3
表1記載の配合原料を用い、まずぶどう糖、デキストリン、でん粉およびステビオサイドをニーダーミキサーに入れて混合し、これに油脂Aおよび油脂Bをあらかじめ75℃に加熱溶融せしめて均一に混合しておいたものを加え、70℃の温度で均一になるまでさらに攪拌混合する。次いで、得られた均一物を冷水による間接冷却により5℃まで冷却する。冷却後自由粉砕機を用いて粉末化してそれぞれコーティングシュガー組成物を得た。
【0023】
【表1】

・・・
【0026】試験例
常法に従いドーナツを油揚げし、フライ後の粗熱がとれた後、得られた各ドーナツ表面に、実施例1?3および実験例1?6でそれぞれ得られたコーティングシュガー組成物をふりかけ、次いで各ドーナツをそれぞれポリエチレン製袋に入れて密封し、温度38℃、湿度60%の条件下で3日間保存後の各ドーナツにつき、パネラー10人で表面のシュガー残存率を肉眼で観察評価すると共に、表3記載の評価基準に従って、試食試験を行いその食感・食味を評価した。その結果の平均値は表4の通りであった。この表4において、シュガー残存率が60%以上で、かつ、食感・食味が3点以上のものを合格とした。」

6 甲6の記載事項
(甲6a)「本発明は、ドーナツ等の油揚げ菓子やパン類の表面にふりかける新規なドーナツシュガー及びその製造法に関する。」(2ページ左上欄3?5行)

(甲6b)「実施例 1
粉砕したグラニュー糖85kg、無水結晶ブドウ糖10kg、乳糖5kgからなる粉末糖類を三井三池化工機株式会社製ヘンシェルミキサーに投入し500rpmで回転させながら、融点を28℃に調整した水素添加菜種油脂を65℃に加熱して2.0kgを噴霧し、室温(23℃)で2分間混合した。その後融点を42℃に調整した水素添加パーム油脂を75℃に加熱して2.2kgを噴霧し、同じく室温で2分間混合して、ドーナツシュガーを得た。
このようにして得られたドーナツシュガーを、内部温度が35℃まで冷えたケーキドーナツにふりかけ試食したところザラツキや異臭味がなく、温度35℃、湿度80%の条件で1週間保存しても泣きはみられなかった。」(4ページ右下欄6行?最下行)

7 甲7の記載事項
(甲7a)「結晶ブドウ糖の品質は,前記したように分蜜の難易とも関連して,その結晶形と大きさとが関係する。・・・
・・・一応Tab.1の結果と対比して考察すると,砕片がなければ150メッシュ以下の細かい結晶が少いものの方が,大体において純度も良いように思われる。しかし,結晶をそのままなめたときの味は,その粒度からくる舌感と溶解速度に影響されるので,その効果を必要とする用途にはその意味で粒度を考える必要があろう。結晶形と不純物との関係については,別に報告する予定である。」(62ページ左欄23行?最下行)

第5 当審の判断
1 申立理由1-1(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1は、粉末糖の粒子表面に、融点50?70℃の油脂の被覆層、さらにその外表面に融点26?40℃の油脂の被覆層を形成した油脂被覆粉末糖に関する技術を開示するものである(上記(甲1a))。
そして、その具体例を示した実施例3からみて(上記(甲1e))、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明A」という。)が記載されていると認める。

甲1発明A:
「無水結晶ぶどう糖(昭和産業製)の表面に、油脂B(製品名:パーム極度硬化油(横関油脂)、上昇融点:58.0℃)の被覆層、さらにその外表面に油脂D(製品名:プレミックスオイル150(昭和産業)、上昇融点:39.7℃)の被覆層を形成した、油脂被覆粉末糖。」

イ また、甲1は、粉末糖の粒子表面を、あらかじめ加熱溶解した融点50?70℃の油脂でコーティングした後、該油脂の融点よりも低い温度まで冷却することで油脂の層を形成させ、次いでその外表面を、あらかじめ加熱溶解した融点26?40℃の油脂でコーティングする油脂被覆粉末糖の製造方法に関する技術も開示するものである(上記(甲1a))
そして、その具体例を示した実施例3からみて(上記(甲1e))、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明B」という。)も記載されていると認める。

甲1発明B:
「無水結晶ぶどう糖(昭和産業製)に、あらかじめ加熱溶解した油脂B(製品名:パーム極度硬化油(横関油脂)、上昇融点:58.0℃)を滴加し混合した後、油脂被覆粉末糖の表面温度が冷却終点温度(45℃)まで自然に冷えるのを待ち、冷却終点温度(45℃)まで下がったところで撹拌を再開し、加熱溶解した油脂D(製品名:プレミックスオイル150(昭和産業)、上昇融点:39.7℃)を滴加し撹拌した後、撹拌を止め放冷し、コーンスターチ(昭和産業製)を添加し撹拌し、室温まで放冷する、油脂被覆粉末糖の製造方法。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明Aとを対比する。

(ア)甲1には、油脂被覆粉末糖はドーナツに用いると良いことが記載され(上記(甲1d))、実施例3ではドーナツにシュガリングして官能評価を行ったことが記載されているから(上記(甲1e))、甲1発明Aの「油脂被覆粉末糖」は、本件特許発明1の「ドーナツシュガー」に相当する。

(イ)甲1発明Aの「油脂B(製品名:パーム極度硬化油(横関油脂)、上昇融点:58.0℃)」及び「油脂D(製品名:プレミックスオイル150(昭和産業)、上昇融点:39.7℃)」は、本件特許明細書【0029】【表2】に示される油脂と、品名及び上昇融点が一致することから、それぞれの油脂の、品温70℃から冷却した際に粘度が0.1Pa・sになる温度(T_(0.1Pa・s))は、40.5℃及び32.0℃であるといえる。
したがって、甲1発明Aの「油脂D(製品名:プレミックスオイル150(昭和産業)、上昇融点:39.7℃)」は、本件特許発明1の「品温70℃から冷却した際に粘度が0.1Pa・sとなる温度(T_(0.1Pa・s))が20℃以上、40.5℃未満」である「油脂」に該当する。

(ウ)甲1発明Aの「無水結晶ぶどう糖(昭和産業製)」は、本件特許発明1の「結晶ぶどう糖」と、「結晶ぶどう糖」である点で共通する。

(エ)よって、両発明は次の一致点及び相違点A1?A3を有する。

一致点:
「油脂でコーティングした結晶ぶどう糖を含むドーナツシュガーであって、
前記油脂は、品温70℃から冷却した際に粘度が0.1Pa・sとなる温度(T_(0.1Pa・s))が20℃以上、40.5℃未満であるドーナツシュガー。」である点。

相違点A1:
本件特許発明1は、「結晶ぶどう糖の水分が、5.0?10.0質量%」であると特定されているのに対し、甲1発明Aは、「無水結晶ぶどう糖(昭和産業製)」であって、水分が特定されていない点。

相違点A2:
本件特許発明1は、ドーナツシュガーが「油脂でコーティングした結晶ぶどう糖を含む」と特定されているのに対し、甲1発明Aは、油脂被覆粉末糖が「無水結晶ぶどう糖(昭和産業製)の表面に、油脂B(製品名:パーム極度硬化油(横関油脂)、上昇融点:58.0℃)の被覆層、さらにその外表面に油脂D(製品名:プレミックスオイル150(昭和産業)、上昇融点:39.7℃)の被覆層を形成した」と特定されている点。

相違点A3:
本件特許発明1は、ドーナツシュガーが「良好な口どけを有し、且つ良好なしっとり感を有する」と特定されているのに対し、甲1発明Aは、そのように特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み相違点A1について検討する。

(ア)甲1発明Aは、「無水結晶ぶどう糖(昭和産業製)」を用いているところ、ぶどう糖の日本農林規格によると、無水結晶ぶどう糖の水分は、0.5%以下であるから(上記(甲3a))、甲1発明Aの「無水結晶ぶどう糖(昭和産業製)」の水分は、0.5質量%以下といえる。
そして、甲1には、油脂被覆粉末糖を得るための粉末糖については、ぶどう糖の他、フルクトース、シュクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース等を用いることができることや、ぶどう糖を用いることが好ましいことは記載されているが(上記(甲1d))、粉末糖の水分について記載したところはない。

(イ)甲1には、粉末糖は吸湿性が強く、シュガリング後に時間が経過すると潮解して透明になる「泣き」という現象が発生するという問題があったことが記載されている(上記(甲1b))。
しかしながら、甲1は、粉末糖を油脂で被覆することで「泣き」の発生を抑制した油脂被覆粉末糖が、被覆に用いた油脂由来の油っこいぬめり感の発生やベーカリー製品の生地のパサつきの発生といった食感上の不具合が起こることが多いことに着目し、ベーカリー製品にシュガリングし、時間が経っても、油脂被覆粉末糖の油脂由来の油っこいぬめり感が発生せず、ベーカリー製品の生地のパサつきも発生させない油脂被覆粉末糖を提供することを目的とし、粉末糖の粒子表面に、1層目の油脂として融点50?70℃の油脂をコーティングし、冷却し、その後、さらにその外表面に2層目の油脂として融点26?40℃の油脂をコーティングした油脂被覆粉末糖としたものである(上記(甲1c))。
そして、実施例2?7では、1層目の油脂及び2層目の油脂の融点範囲が異なるものを用いて、油脂被覆粉末糖を作製し、「油っこいぬめり感」、「生地のパサつき」に加え「泣き」を評価した結果が示されており、いずれも「泣き」の評価は良好であったことが示されている(上記(甲1e))。

(ウ)そうしてみると、甲1の記載から、粉末糖を被覆する2層の油脂の融点範囲を特定のものとすることで、「油っこいぬめり感」、「生地のパサつき」に加え「泣き」に優れた油脂被覆粉末糖が得られていることが理解でき、甲1発明Aについて、さらに「無水結晶ぶどう糖(昭和産業製)」の水分に着目して、5.0?10.0質量%のものとすることを動機付けるところはない。

(エ)甲2は、国内産とアメリカ産の含水及び無水ブドウ糖について、粒度別に分別した試料を調製し、種々の特性について研究した結果を報告するものであり(上記(甲2a))、結晶ブドウ糖の溶解性に及ぼす粒度の影響について、一般に粒度の小さいほど結晶粒子の溶解速度が大きいこと(上記(甲2b)、(甲2c))、結晶ブドウ糖は60?100メッシュのものが、溶解速度もグラニュ糖と同程度であるなどの理由で、商品的価値が高まることが記載されている(上記(甲2c))。
甲3は、ぶどう糖の日本農林規格に関し、含水結晶ぶどう糖の水分は、7.5%以上9.5%以下であることが記載されている(上記(甲3b))。
甲4は、水分10?15%程度の含水結晶ブドウ糖とα-L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステル(以下、「APM」という。)とを混合、乾燥する甘味料の製造法に関し(上記(甲4a)?(甲4b))、得られた甘味料が水に易溶性であることが記載され(上記(甲4c)?(甲4d))、実施例では、含水結晶ブドウ糖生結晶(水分12.5%)とAPMを混合し、水分8.5%の製品を得たこと、得られた製品は蔗糖に極めて近い良好な甘味を有し、水への溶解性も良好であったことが記載されている(上記(甲4e))。
甲5は、ぶどう糖と、デキストリン、及び融点が各々45?55℃と55?65℃の異なる範囲にあり、かつ両者の融点の差が5℃以上である2種の油脂の均一混合物から成るコーティングシュガー組成物に関し(上記(甲5a))、用いるぶどう糖として、無水ぶどう糖と含水ぶどう糖の混合物が好ましいものとして挙げられることが記載されている(上記(甲5c))。
しかしながら、甲2?5には、結晶ぶどう糖又はこれを含む混合物の溶解性や水分が記載されていたり、無水ぶどう糖と含水ぶどう糖の混合物を用い得ることが記載されていたりするにすぎず、結晶ぶどう糖の水分と油脂被覆粉末糖の泣き耐性との関係について示したものではないから、甲2?5の記載を検討しても、甲1発明Aの油脂被覆粉末糖について、結晶ぶどう糖として、水分が、5.0?10.0質量%のものとする理由がない。

(オ)そして、本件特許発明1は、本件特許明細書の実施例に示されるとおり、結晶ぶどう糖の水分が、5.0?10.0質量%の範囲内であり、品温70℃から冷却した際に粘度が0.1Pa・sとなる温度(T_(0.1Pa・s))が20℃以上、40.5℃未満である油脂でコーティングした結晶ぶどう糖を含むドーナツシュガーとしたことで、油脂のコーティングによる泣き耐性を有するとともに、良好な口どけを有し、且つ良好なしっとり感を有するドーナツシュガーが得られるという、甲1発明Aからは予測できない効果を奏するものである。

ウ まとめ
以上のとおり、相違点A1は当業者が容易になし得たことではないから、相違点A2及びA3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明A及び甲2?5に示される周知技術によって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と甲1発明Bとを対比する。

(ア)上記(2)アで検討したのと同様に、甲1発明Bの「油脂被覆粉末糖」は、本件特許発明2の「ドーナツシュガー」に相当し、甲1発明Bの「油脂D(製品名:プレミックスオイル150(昭和産業)、上昇融点:39.7℃)」は、本件特許発明2の「品温70℃から冷却した際に粘度が0.1Pa・sとなる温度(T_(0.1Pa・s))が20℃以上、40.5℃未満」である「油脂」に該当し、甲1発明Bの「無水結晶ぶどう糖(昭和産業製)」は、本件特許発明2の「結晶ぶどう糖」と、「結晶ぶどう糖」である点で共通する。

(イ)甲1発明Bの「あらかじめ加熱溶解した油脂B(製品名:パーム極度硬化油(横関油脂)、上昇融点:58.0℃)を滴加し混合した後、油脂被覆粉末糖の表面温度が冷却終点温度(45℃)まで自然に冷えるのを待ち、冷却終点温度(45℃)まで下がったところで撹拌を再開し、加熱溶解した油脂D(製品名:プレミックスオイル150(昭和産業)、上昇融点:39.7℃)を滴加し撹拌した後、撹拌を止め放冷する」工程は、本件特許発明2の「前記撹拌混合を、50℃以下で行なう」工程と、「撹拌混合を、50℃以下で行なう」工程を有する点で共通する。
そして、甲1発明Bが「コーンスターチ(昭和産業製)を添加」する工程を有することは、本件特許明細書【0020】に、ドーナツシュガーにコーンスターチ等の澱粉を使用できることが記載され、実際に実施例でもコーンスターチを添加していることから、本件特許発明2に包含され、相違点とはならない。

(ウ)よって、両発明は次の一致点及び相違点B1?B3を有する。

一致点:
「結晶ぶどう糖に、融解した油脂を撹拌混合して、結晶ぶどう糖を当該油脂でコーティングする工程を含むドーナツシュガーの製造方法であって、
前記油脂は、品温70℃から冷却した際に粘度が0.1Pa・sとなる温度(T_(0.1Pa・s))が20℃以上、40.5℃未満であり、
前記撹拌混合を、50℃以下で行なう製造方法。」である点。

相違点B1:
本件特許発明2は、「結晶ぶどう糖の水分が、5.0?10.0質量%」であると特定されているのに対し、甲1発明Bは、「無水結晶ぶどう糖(昭和産業製)」であって、水分が特定されていない点。

相違点B2:
本件特許発明2は、「結晶ぶどう糖に、融解した油脂を撹拌混合して、結晶ぶどう糖を当該油脂でコーティングする工程を含むドーナツシュガーの製造方法」であって、「前記撹拌混合を、50℃以下で行なう」と特定されているのに対し、甲1発明Bは、「無水結晶ぶどう糖(昭和産業製)に、あらかじめ加熱溶解した油脂B(製品名:パーム極度硬化油(横関油脂)、上昇融点:58.0℃)を滴加し混合した後、油脂被覆粉末糖の表面温度が冷却終点温度(45℃)まで自然に冷えるのを待ち、冷却終点温度(45℃)まで下がったところで撹拌を再開し、加熱溶解した油脂D(製品名:プレミックスオイル150(昭和産業)、上昇融点:39.7℃)を滴加し撹拌した後、撹拌を止め放冷する」と特定されている点。

相違点B3:
本件特許発明2は、ドーナツシュガーが「良好な口どけを有し、且つ良好なしっとり感を有」すると特定されているのに対し、甲1発明Bは、そのように特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み相違点B1について検討するに、上記(2)イで検討したのと同様に、甲1発明Bにおいて、「無水結晶ぶどう糖(昭和産業製)」の水分に着目して、5.0?10.0質量%のものを用いることを動機付けるところはなく、甲2?5の記載を検討しても、甲1発明Bの油脂被覆粉末糖の製造方法について、結晶ぶどう糖として、水分が、5.0?10.0質量%のものを用いる理由がない。
そして、本件特許発明2は、油脂のコーティングによる泣き耐性を有するとともに、良好な口どけを有し、且つ良好なしっとり感を有するドーナツシュガーを製造することができるという、本件特許明細書記載の効果を奏するものである。

ウ まとめ
以上のとおり、相違点B1は当業者が容易になし得たことではないから、相違点B2及びB3について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1発明B及び甲2?5に示される周知技術によって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)申立人の主張について
申立人は、甲1における課題の一つは、泣きがたい粉末糖を製造することと認められるとしたうえで、甲2のFig.5及びTab.1に、含水結晶ブドウ糖は、無水結晶ブドウ糖よりも溶解速度が遅いことが示されているから、含水結晶ブドウ糖が泣きがたいことは公知であり、甲1に記載された発明において、より泣きがたい含水結晶ぶどう糖であって、水分が7.5%以上9.5%以下である含水結晶ぶどう糖を採用することは容易である旨主張している。
しかしながら、上記(2)イで述べたとおり、甲2は、結晶ブドウ糖の粒度の違いと溶解性について考察したものであって、含水結晶ブドウ糖と無水結晶ブドウ糖を比較した溶解速度については着目していないし、図や表から申立人の主張する傾向が読み取れるとしても、溶解性と泣き(潮解性)との関係について記載したものでもない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおり、本件特許発明1?2は、甲1に記載された発明並びに甲2?5に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
したがって、本件特許発明1?2に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものとはいえない。

2 申立理由1-2(進歩性)について
(1)甲5に記載された発明
甲5は、ぶどう糖、デキストリン、及び融点が各々45?55℃と55?65℃の異なる範囲にあり、かつ両者の融点の差が5℃以上である2種の油脂の均一混合物から成るコーティングシュガー組成物に関する技術を開示するものである(上記(甲5a))。
そして、その具体例を示した実施例3からみて(上記(甲5d))、甲5には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認める。

甲5発明:
「ぶどう糖、デキストリン、でん粉及びステビオサイドを混合し、油脂A(融点48℃)及び油脂B(融点60℃)の均一混合物を加え、更に撹拌混合し、冷却し、粉末化した、コーティングシュガー組成物。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲5発明とを対比する。
甲5には、実施例3で得られたコーティングシュガー組成物をドーナツ表面にふりかけ評価を行ったことが記載されているから(上記(甲5d))、甲5発明の「コーティングシュガー組成物」は、本件特許発明1の「ドーナツシュガー」に相当する。
そして、甲5発明の「ぶどう糖」は、本件特許発明1の「結晶ぶどう糖」と、「ぶどう糖」である点で共通する。
よって、両発明は次の一致点及び相違点1?4を有する。

一致点:
「油脂でコーティングしたぶどう糖を含むドーナツシュガー。」である点。

相違点1:
本件特許発明1は、ぶどう糖が「結晶ぶどう糖」であって「水分が、5.0?10.0質量%」であると特定されているのに対し、甲5発明は、「ぶどう糖」である点。

相違点2:
本件特許発明1は、ドーナツシュガーが「油脂でコーティングした結晶ぶどう糖を含む」と特定されているのに対し、甲5発明は、コーティングシュガー組成物が「油脂A(融点48℃)及び油脂B(融点60℃)の均一混合物」でコーティングされた「ぶどう糖、デキストリン、でん粉及びステビオサイド」の混合物である点。

相違点3:
本件特許発明1は、油脂について「品温70℃から冷却した際に粘度が0.1Pa・sとなる温度(T_(0.1Pa・s))が20℃以上、40.5℃未満」であると特定されているのに対し、甲5発明は、「油脂A(融点48℃)」及び「油脂B(融点60℃)」である点。

相違点4:
本件特許発明1は、ドーナツシュガーが「良好な口どけを有し、且つ良好なしっとり感を有する」と特定されているのに対し、甲5発明は、そのように特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み相違点1について検討する。

(ア)甲5には、ぶどう糖については、無水ぶどう糖と含水ぶどう糖の混合物が好ましいものとして挙げられることが記載されているだけで(上記(甲5c))、その混合比についての記載はなく、実施例で用いられたぶどう糖が、無水ぶどう糖、含水ぶどう糖、又はそれらの混合物のいずれであるかも記載されていないから、甲5発明の「ぶどう糖」の水分は不明である。

(イ)甲5には、ふりかけ直後のみならず、3日以上経過しても泣かずに、しかも適度な口溶けの良さを有すると共に、適度な甘さを感じるコーティングシュガーを提供することを目的とすることが記載されている(上記(甲5b))。
しかしながら、甲5は、糖類としてぶどう糖とデキストリンを併用し、かつ油脂として融点が各々45?55℃と55?65℃の異なる範囲にあり、かつ両者の融点の差が5℃以上である2種のものを均一混合状態で併用することで、長時間吸湿せずに商品形状を保持することができ、極めて良い結果が得られたものである(上記(甲5b))
したがって、甲5の記載から、甲5発明のコーティングシュガー組成物中の糖類からぶどう糖にのみ着目して、「結晶ぶどう糖」であって「水分が、5.0?10.0質量%」のものとする動機付けがない。

(ウ)また、上記1(2)イ(エ)で述べたとおり、甲2?3には、結晶ぶどう糖の溶解性や水分が記載されているにすぎず、甲2?3の記載を検討しても、甲5発明のコーティングシュガー組成物中の糖類からぶどう糖にのみ着目して、「結晶ぶどう糖」であって「水分が、5.0?10.0質量%」のものとする理由がない。

(エ)そして、本件特許発明1は、油脂のコーティングによる泣き耐性を有するとともに、良好な口どけを有し、且つ良好なしっとり感を有するドーナツシュガーを製造することができるという、本件特許明細書記載の効果を奏するものである。

ウ まとめ
以上のとおり、相違点1は当業者が容易になし得たことであるとはいえないから、相違点2?4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5発明及び甲2?3に示される周知技術によって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立人の主張について
申立人は、甲5と本件特許発明1とは、ドーナツシュガーの泣き抑制及び口どけの向上の両立という点で共通しているところ、甲2から、含水結晶ブドウ糖が泣きがたいことは公知であり、甲3から、含水結晶ぶどう糖及び無水結晶ぶどう糖の水分も周知であるから、甲5発明において、ぶどう糖について、含水ぶどう糖と無水ぶどう糖との混合物として、その水分を、5.0?10.0質量%とすることに困難性はなく、また、甲1に記載されるようにドーナツシュガーに使用されることが公知である、本件特許発明1と同様の油脂を用いることにも困難性は存在しない旨主張している。
しかしながら、上記1(4)でも述べたとおり、甲2は、結晶ブドウ糖の粒度の違いと溶解性について考察したものであって、含水結晶ブドウ糖と無水結晶ブドウ糖を比較した溶解速度については着目していないし、溶解性と泣き(潮解性)との関係について記載したものでもない。
また、甲1には、本件特許発明1と同様の油脂である油脂Dや油脂Eを用いることが記載されているが、それ以外の油脂も用いているのに(上記(甲1e))、甲5発明の「油脂A(融点48℃)及び油脂B(融点60℃)の均一混合物」にかえて、甲1に記載の油脂の中から、油脂D又は油脂Eを用いることを動機付けるところはない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(4)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲5に記載された発明並びに甲1?3に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
したがって、本件特許発明1に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものとはいえない。

3 申立理由2(サポート要件)及び申立理由3(実施可能要件)について
(1)申立人の主張する申立理由2及び3の概要
ア 本件特許発明の解決しようとする課題は、「高い泣き耐性を有し、且つ口どけが良好なドーナツシュガー、及びその製造方法を提供すること」である。
特許請求の範囲の記載は、「油脂でコーティングした結晶ぶどう糖を含む」であり、ドーナツシュガー中の結晶ぶどう糖の量は規定されていないのに対し、実施例は糖類として結晶ぶどう糖のみを使用している。
ドーナツシュガーの技術分野において、少量の結晶ぶどう糖と多量の他の糖類とを組み合わせて使用する場合は頻繁に存在するため(上記(甲5d)、(甲6b))、結晶ぶどう糖の量がごく僅かである場合や、結晶ぶどう糖の水分は本件特許発明の要件を満たしていても、他の糖類と組合せた結果、糖類全体としては満たさない場合が通常存在し、そのような場合においてまで、課題が解決できると理解できない。

イ 特許請求の範囲の記載は、結晶ぶどう糖に対する「品温70℃から冷却した際に粘度が0.1Pa・sとなる温度(T_(0.1Pa・s))が20℃以上、40.5℃未満」である油脂(以下、「本件油脂」という。)の量は規定していないのに対し、実施例は結晶ぶどう糖100質量部に対し、本件油脂の量が6.4質量部であるもののみである。
本件特許明細書【0018】には、口どけ及び泣き耐性から油脂と糖類の好ましい比率が記載され、油脂と糖類の比率が泣きと口どけに影響することは甲5にも記載されている(上記(甲5c))。
したがって、結晶ぶどう糖に対する本件油脂の量がどのような量であっても、課題が解決できると理解できない。

ウ 特許請求の範囲の記載は、本件油脂が一層であることや最外層の油脂の組成は規定していないのに対し、実施例は一層のみである。
油脂の泣きがたさや口どけが最外層の油脂の組成により異なることは、甲1からも理解されるとおり(上記(甲1e))、本件特許出願前の技術常識である。
したがって、二層目が任意の油脂である場合に、課題が解決できると理解できない。

エ 請求項1の記載は「油脂でコーティングした結晶ぶどう糖を含むドーナツシュガーであって、前記結晶ぶどう糖の水分が、5.0?10.0質量%であり」であるところ、結晶ぶどう糖の水分は油脂でコーティングした後の結晶ぶどう糖の水分とも解されるが、そのような場合について本件特許明細書には記載がない。
また、油脂でコーティングされる前の結晶ぶどう糖の水分を規定しているとしても、特許権者が審査段階で行った主張を踏まえると、50℃以下で撹拌混合しなければ、本件特許発明1の効果が得られない。
したがって、50℃で撹拌混合することを規定しない本件特許発明1が、課題を解決できると理解できない。

オ 甲1、甲5及び甲6の実施例の記載から、油脂の被覆時には、その融点よりも高い温度で糖類と混合しなければ糖類表面に均一に油脂を被覆できず、良好なドーナツシュガーは得られないことが理解できる(上記(甲1e)、(甲5d)及び(甲6b))。
したがって、本件特許明細書の比較例のドーナツシュガーの口どけが劣ることは、これらの油脂の融点が50℃以上であるところ、50℃以下で糖類と混合し、被覆が不均一であったためと解される。これらの油脂を50℃を超える均一被覆に適した温度で糖類と混合した場合であっても、口どけに劣る結果になると理解できない、
よって、50℃で撹拌混合することを規定しない本件特許発明1が、課題を解決できると理解できない。

カ 含水結晶ぶどう糖を用いたドーナツシュガーの泣きがたさ及び口どけを両立できるか否かは含水ぶどう糖の粒度によるところが非常に大きいと解される(上記(甲2b)及び(甲7a))。
しかしながら、本件特許明細書の実施例には、使用した含水結晶ぶどう糖の粒度について記載されていないため、どのような粒度であれば、水分が5.0?10.0質量%とすることの臨界的効果が得られるのか理解できず、また、その追試のために過度な実験を必要とされる。
そのため、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施可能な程度に明確かつ充分に記載されたものではない。
また、粒度を規定しない本件特許発明は、明細書に記載された発明ではない。

(2)発明の詳細な説明の記載
(本件a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーナツ等の菓子類、パン類等の表面に付着させるドーナツシュガーに関し、特に泣き耐性に優れ、且つ良好な口どけを有するドーナツシュガーに関する。
【背景技術】
【0002】
・・・ドーナツシュガーは、ドーナツ等に付着させた後、時間の経過とともに潮解する現象(以下、「泣き」と称する)が生じると、商品価値が損なわれるため、高い泣き耐性が求められている。一方、泣き耐性を向上するために高融点の油脂を用いて、粉末糖をコーティングすると、喫食時のドーナツシュガーの口どけの悪化、しっとり感の悪化、ドーナツ等への付着性の低下等が生じる問題がある。
【0003】
そのため、従来から、高い泣き耐性を有するとともに、良好な口どけや付着性を有するドーナツシュガーを得るため、種々の開発が行なわれている。例えば、特許文献1では、3日以上経過しても泣きがなく、しかも適度な口どけの良さを有し、適度な甘さを感じるコーティングシュガー(本明細書におけるドーナツシュガー)を目的とした、ぶどう糖、デキストリン、及び融点が45?55℃と55?65℃の異なる範囲にあり、両者の融点の差が5℃以上である2種の油脂の均一混合物からなるコーティングシュガー組成物が開示されている。・・・
【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0006】
したがって、本発明の目的は、高い泣き耐性を有し、且つ口どけが良好なドーナツシュガー、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため、従来から、検討されてきた油脂の種類、添加する副材料の選定以外の要件について種々検討した結果、使用する結晶ぶどう糖の水分が、口どけに大きな影響を与えることを見出した。
・・・
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ドーナツシュガーにおいて、油脂でコーティングした結晶ぶどう糖が、所定の水分を有しているので、油脂のコーティングによる泣き耐性を有するとともに、良好な口どけを有するドーナツシュガーを提供することができる。」

(本件b)「【0014】
[ドーナツシュガー]
・・・従来から、泣き耐性と口どけ等とを両立させるための技術としては、コーティングする油脂の融点を制御すること、コーティングを複層構造とすること等、主としてコーティングする油脂に関する検討がなされてきた。一方、コーティングされる粉末糖については、構成成分等の多くの検討はされておらず、特に粉末糖の水分に関しては、好ましい範囲等の報告はない。本発明においては、油脂でコーティングする粉末糖として、水分5.0?10.0質量%の結晶ぶどう糖を用いることで、油脂のコーティングによる泣き耐性の向上効果に影響を与えることなく、良好な口どけを有するドーナツシュガーとすることができる。一般に、ドーナツシュガーの「泣き」を考慮すると、粉末糖の水分は少ない方が良いように思われるが、上記の水分範囲であれば、ドーナツシュガーの「泣き」には影響を与えず、喫食時にはその水分により口どけが向上するものと考えられる。さらに油脂のコーティングによる泣き耐性の向上効果に影響を与えることなく、良好な口どけを有するドーナツシュガーとするため、前記結晶ぶどう糖の水分は、7.0?9.5質量%であることが好ましい。
【0015】
本発明のドーナツシュガーにおいて、結晶ぶどう糖としては、含水結晶ぶどう糖を含む粉末(含水結晶ぶどう糖(日本農林規格製品)、及び全糖ぶどう糖(日本農林規格製品)等)、及び/又は無水結晶ぶどう糖を含む粉末(無水結晶ぶどう糖(日本農林規格製品)等)を使用することができる。・・・結晶ぶどう糖の水分は、どのように調節しても良く、例えば、上記の結晶ぶどう糖を、乾燥下、又は高湿度下にて、必要に応じて撹拌等により流動させながら、上記範囲の所定の水分に調節しても良く、上記水分の結晶ぶどう糖であればそのまま用いても良い。また、上記の含水結晶ぶどう糖を含む粉末、及び無水結晶ぶどう糖を含む粉末を混合し、上記範囲の所定の水分に調節しても良い。・・・含水結晶ぶどう糖、無水結晶ぶどう糖、及び全糖ぶどう糖は、適宜市販のものを使用することができる。なお、結晶ぶどう糖の水分は、常法によって測定することができる。例えば、試料5gを正確に秤量し、105℃に調整した恒温器で1時間乾燥し、1時間放冷後、乾燥質量を秤量し、減少質量を水分として算出することができる。
【0016】
・・・本発明において、使用する油脂としては、品温70℃から冷却した際に油脂の粘度が0.1Pa・sとなる温度(T_(0.1Pa・s))が、20?45℃であることが好ましい。
【0017】
一般に、ドーナツシュガーの油脂の選定は、融点(基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996に基づき、測定した融点(上昇融点))を指標として行なわれる。上記パラメータ(T_(0.1Pa・s))は、油脂を70℃で融解した後、温度を降下した際に、所定の粘度(0.1Pa・s)に上昇する温度であり、融点と同様に所定の温度における油脂の性状の指標である。また、ドーナツシュガーを製造する際は、十分に融解した油脂を所定の温度に冷却して使用するので、上記パラメータ(T_(0.1Pa・s))は、製造時の所定の温度における、その油脂の使用し易さの指標でもある。したがって、後述のように、製造時の温度条件が重要な本発明のドーナツシュガーにおいては、融点よりも有用な指標になり得る。上記パラメータ(T_(0.1Pa・s))が、上記範囲であれば、上記水分の結晶ぶどう糖を良好にコーティングして、高い泣き耐性を有するとともに、良好な口どけを有し、且つ良好なしっとり感を有し、付着性が良好なドーナツシュガーとすることができる。・・・
【0018】
本発明のドーナツシュガーにおいて、油脂の含有量は、特に制限はないが、多過ぎると口どけが悪化する場合があり、少な過ぎると泣き耐性が低下する場合があるので、結晶ぶどう糖100質量部に対して、油脂1?15質量部が好ましく、3?10質量部がさらに好ましく5?8質量部が特に好ましい。
・・・油脂は、所定の上記パラメータ(T_(0.1Pa・s))を有する、市販の油脂を適宜使用することができる。」

(本件c)「【0022】
[ドーナツシュガーの製造方法]
・・・
【0024】
具体的な本発明のドーナツシュガーの製造方法としては、基本的には従来のドーナツシュガーの製造方法と同様である。例えば、まず所望の水分に調製した結晶ぶどう糖をミキサーに投入し、必要に応じて加温しながら撹拌する。次に融解した油脂を、上記ミキサーへ投入し、撹拌混合し、結晶ぶどう糖を当該油脂でコーティングする。その後、必要に応じてコーンスターチ等の上述の副材料を投入し、さらに撹拌混合することでドーナツシュガーを得ることができる。
【0025】
本発明の製造方法において、油脂を融解する温度や、結晶ぶどう糖に融解した油脂を撹拌混合する温度に特に制限はなく、油脂の種類に応じて、適宜調節することができる。本発明の製造方法においては、上述の通り、コーティングする結晶ぶどう糖が所定の水分を含有しているので、その水分を十分に維持させ、より良好な口どけを有するドーナツシュガーを製造するため、結晶ぶどう糖と油脂との撹拌混合を、50℃以下で行なうことが好ましい。この条件のためにも、上記パラメータ(T_(0.1Pa・s))が、上記の範囲であることが好ましい。」

(本件d)「【実施例】
【0026】
・・・
1.水分の異なる結晶ぶどう糖の調製
市販の無水結晶ぶどう糖(昭和産業株式会社製)、及び含水結晶ぶどう糖(昭和産業株式会社製)をそのまま、並びに含水結晶ぶどう糖を、乾燥条件下、又は高湿度条件下に放置し、表1に示した水分の各結晶ぶどう糖を調製した。水分の測定は、試料5gを電子天秤で正確に秤量し、105℃に調整した恒温器にて1時間乾燥させ、1時間放冷の後、同様に正確に秤量し、以下の式:
水分(質量%)=100×{(乾燥前の質量-乾燥後の質量)/(乾燥前の質量)}
により、水分(質量%)を算出した。
【0027】
【表1】

【0028】
2.油脂の選定
表2に示した通り、品温70℃から冷却した際に粘度が0.1Pa・sとなる温度(T_(0.1Pa・s))が異なる油脂を選定した。参考に上昇融点(基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996に従う融点)についても測定した。パラメータ(T_(0.1Pa・s))、及び上昇融点は、以下のように測定した。
(1)パラメータ(T_(0.1Pa・s))
レオメータ(TA instruments Japan製アドバンストレオメーターAR2000(使用プレート:40mmスチールプレート))を用い、5gの試料をセットして、70℃から10℃に10分間かけて冷却した際、粘度が0.1Pa・sとなる温度を記録した。
(2)上昇粘度
基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996に従い、ガラスキャピラリー(ドラモンド社製(長さ75mm))を用い、エレックス科学製自動上昇融点測定装置により測定した。2回測定した平均値を測定値とした。
【0029】
【表2】

【0030】
3.ドーナツシュガーの調製
表3?5に示す配合で、各実施例及び比較例のドーナツシュガーを調製した。具体的には、まず、各結晶ぶどう糖をミキサーに投入して加温・撹拌し、その中に融解した各油脂を投入し撹拌混合した。撹拌混合は、50℃以下で行なった。その後、でん粉を投入しさらに撹拌混合し、ドーナツシュガーを得た。
【0031】
4.ドーナツシュガーの評価
得られた各実施例及び比較例のドーナツシュガーを、それぞれ常法によって作製したイーストドーナツに常法によって付着させた後、ポリエチレン製の袋に入れて密封し、25℃で3日間保管した。各イーストドーナツに付着したドーナツシュガーについて、以下の評価基準により官能評価を行なった。各評価結果は、10名のパネラーによる評価点の平均値を求め、小数点以下を四捨五入して示した。
[評価基準]
(1)べたつき感
べたつき感は、目視及び手で触れた感覚を以下の基準で評価した。
5:全くべたつきがない。
4:ほとんどべたつきがない。
3:ややべたつきがあるが、許容できる範囲である。
2:べたつきがある。
1:非常にべたつきがある。
(2)口どけ
口どけは、口に入れた後の経時的な切れを以下の基準で評価した。
5:口どけが非常に良い。
4:口どけが良い。
3:口どけがやや良い。
2:口どけがやや悪い。
1:口どけが悪い。
(3)しっとり感
しっとり感は、口に入れた直後の舌触りを以下の基準で評価した。
5:非常にしっとりしている。
4:しっとりしている。
3:ややしっとりしている。
2:ややさらさらしている。
1:非常にさらさらしている。
なお、上記ドーナツシュガーのしっとり感の評価については、本発明のさらなる効果として評価している。
【0032】
5.評価結果
表3に、水分の異なる結晶ぶどう糖(表1参照)を用いて調製したドーナツシュガーの評価結果を示す。表3に示す通り、結晶ぶどう糖の水分が5.0?10.0質量%である実施例1?4のドーナツシュガーは、べたつき感の評価が良好で、すなわち泣き耐性が高く、且つ口どけの評価が良好であった。一方、結晶ぶどう糖の水分が5.0質量%未満の比較例1?3のドーナツシュガーは、べたつき感の評価は良好で、泣き耐性は高かったものの、口どけの評価は悪かった。また、結晶ぶどう糖の水分が10.0質量%を超える比較例4は、口どけの評価は良好であったが、べたつき感の評価は悪く、泣き耐性が低かった。なお、実施例1?4では、しっとり感も良好であることが認められた。
【0033】
【表3】

【0034】
また、表4に、市販の無水結晶ぶどう糖(結晶ぶどう糖A)、及び含水結晶ぶどう糖(結晶ぶどう糖F)を混合することで結晶ぶどう糖の水分を調製したドーナツシュガーの評価を示す。表4の通り、結晶ぶどう糖の水分が5.0質量%の実施例5は、べたつき感の評価が良好で、すなわち泣き耐性が高く、且つ口どけの評価が良好であった。一方、結晶ぶどう糖の水分が5.0質量%未満の比較例5のドーナツシュガーは、べたつき感の評価は良好で、泣き耐性は高いものの、口どけの評価は悪かった。したがって、結晶ぶどう糖の水分調節は、無水結晶ぶどう糖、及び含水結晶ぶどう糖を混合して調節しても、無水結晶ぶどう糖、及び/又は含水結晶ぶどう糖の水分を調節しても同様であることが認められた。実施例5においては、しっとり感も良好であることが認められた。
【0035】
【表4】

【0036】
さらに表5に、品温70℃から冷却した際に粘度が0.1Pa・sとなる温度(T_(0.1Pa・s))が異なる油脂を用いて調製したドーナツシュガーの評価結果を示す。表5に示す通り、パラメータ(T_(0.1Pa・s))が、20.2?37.4℃の油脂を単独又は混合して用いた実施例6?10は、べたつき感の評価が良好で、すなわち泣き耐性が高く、且つ比較例6及び7と比較して口どけの評価が良好であった。また、これらの実施例は、しっとり感の評価も良好であった。したがって、ドーナツシュガーに使用する油脂のパラメータ(T_(0.1Pa・s))は、20℃以上、40.5℃未満が好ましいことが示唆された。
【0037】
【表5】

【0038】
以上により、本発明による油脂でコーティングした結晶ぶどう糖を含むドーナツシュガーであって、前記結晶ぶどう糖の水分が、5.0?10.0質量%であるドーナツシュガーは、高い泣き耐性を有し、且つ口どけが良好なドーナツシュガーであることが示唆された。さらに、品温70℃から冷却した際に粘度が0.1Pa・sとなる温度(T_(0.1Pa・s))が、20℃以上、40.5℃未満である油脂を使用したドーナツシュガーは、高い泣き耐性を有し、良好な口どけを有し、且つ良好なしっとり感を有するドーナツシュガーであることが示唆された。」

(3)本件特許発明の解決しようとする課題
本件特許明細書の記載、特に上記(本件a)【0006】からみて、本件特許発明の解決しようとする課題は、「高い泣き耐性を有し、且つ口どけが良好なドーナツシュガー、及びその製造方法を提供すること」にあると認める。

(4)判断
本件特許明細書の上記(本件b)、(本件c)の一般記載及び上記(本件d)の実施例の記載から、水分が、5.0?10.0質量%である結晶ぶどう糖に、品温70℃から冷却した際に粘度が0.1Pa・sとなる温度(T_(0.1Pa・s))が20℃以上、40.5℃未満である油脂を用い、融解した油脂を50℃以下の温度で撹拌混合して、油脂でコーティングした結晶ぶどう糖を含むドーナツシュガーとすることで、上記(3)の課題を解決できることが理解できる。
また、本件特許明細書の上記(本件b)、(本件c)の一般記載及び上記(本件d)の実施例の記載は、本件特許発明のドーナツシュガーを製造することができ、使用することができるように記載されている。
したがって、本件特許発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件特許発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるから、本件特許発明が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。
同様に、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているから、本件特許発明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。

(5)申立人の主張について
上記(1)ア?カについて順に検討する。

ア 上記(1)アについて
本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記(本件a)の従来技術の課題解決手段及び本件特許発明の課題解決手段の記載、上記(本件b)【0015】の結晶ぶどう糖に関する記載から、本件特許発明のドーナツシュガーは、粉末糖として結晶ぶどう糖を用い、その水分を特定したことにより課題を解決したものであること、多量の他の糖類とを組み合わせて使用するものを意図していないことを、当業者は理解できるといえる。
よって、申立人の主張は採用できない。

イ 上記(1)イについて
本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記(本件b)【0016】?【0018】の本件油脂に関する記載及び当該技術分野の技術常識(例えば、上記(甲5c))から、結晶ぶどう糖に対する本件油脂の量の範囲について、当業者は理解できる。
よって、申立人の主張は採用できない。

ウ 上記(1)ウについて
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載の上記(本件a)【0003】の従来技術に関する記載、上記(本件c)の製造方法に関する記載、及び上記(本件d)の実施例の記載から、結晶ぶどう糖をコーティングする油脂は一層であることを、当業者は理解できる。
よって、申立人の主張は採用できない。

エ 上記(1)エについて
本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記(本件c)【0025】の記載や、技術常識(例えば、上記(甲3a)、(甲3b))から、結晶ぶどう糖の水分は、油脂でコーティングされる前の水分を規定していることを、当業者は理解できる。
また、本件特許発明1は、物の発明であるから、請求項にその物の製造工程が記載されていないからといって、サポート要件を満たさないということにはならない。
よって、申立人の主張は採用できない。

オ 上記(1)オについて
本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記(本件b)【0017】の記載及び当該技術分野の技術常識から理解できるとおり、油脂の被覆時には、その融点よりも高い温度で糖類と混合しなければ糖類表面に均一に油脂を被覆できないことを、当業者は理解できる。
そして、上記(本件d)に示される比較例は、本件油脂の条件を満たさない場合についてのものであるから適切であるし、50℃を超える温度で混合した場合の比較がないことが、課題を解決できない理由にはならない。
また、本件特許発明1に製造工程が特定されていないことにつては、上記エで述べたとおりである。
よって、申立人の主張は採用できない。

カ 上記(1)カについて
本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記(本件b)【0015】及び上記(本件d)の実施例の記載から、結晶ぶどう糖は、市販の日本農林規格製品を用いればよいことを、当業者は理解できる。
したがって、当業者であれば、市販の日本農林規格製品であって、本件特許発明の水分を満たす結晶ぶどう糖を用いて、追試を含め実施をすることができる。
よって、申立人の主張は採用できない。

(6)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1?2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第4号により取り消すべきものではない。

4 申立理由4(明確性要件)について
(1)申立人の主張する申立理由4の概要
ア 請求項1及び2に記載の「油脂」とは、糖類を直接コーティングする油脂を指すのか、ドーナツシュガー中の油脂全体を指すのか、本件特許明細書及び特許権者の審査段階での主張を考慮しても明確でない。

イ 請求項1及び2に記載の「結晶ぶどう糖の水分が、5.0?10.0質量%」とは、油脂で被覆された後の水分量を指すのか、油脂に被覆される前の水分量を指すのかが明確でない。

(2)判断
請求項1及び2の記載から、「油脂」が、結晶ぶどう糖を直接コーティングする油脂を指すこと、「結晶ぶどう糖の水分」が、油脂に被覆される前の水分を指すことは明確であり、それ以外の解釈は当業者にとって不自然であり、取り得ないものと認められる。
よって、申立人の主張は採用できない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1?2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第4号により取り消すべきものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-05-17 
出願番号 特願2015-139186(P2015-139186)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 白井 美香保吉森 晃  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 関 美祝
齊藤 真由美
登録日 2020-06-19 
登録番号 特許第6719871号(P6719871)
権利者 昭和産業株式会社
発明の名称 ドーナツシュガー、及びその製造方法  
代理人 野村 悟郎  

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