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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A23D
管理番号 1374952
異議申立番号 異議2021-700194  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-22 
確定日 2021-06-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6745579号発明「炒め調理用の油脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6745579号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6745579号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成26年11月28日の出願であって、令和2年8月6日に特許権の設定登録がされ、令和2年8月26日にその特許公報が発行され、令和3年2月22日に、その請求項1に係る発明の特許に対し、菅原 結(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6745579号の請求項1?7に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項によって特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
HLBが4.7?8の乳化剤(a)、HLBが2.5以下の乳化剤(b)および食用油脂を含有する、麺類の炒め調理用の油脂組成物であって、
乳化剤(a)および(b)の合計の配合量が、食用油脂に対して1.5?20重量%である、麺線同士の付着を抑制するための油脂組成物。」

第3 申立理由の概要及び証拠方法
特許異議申立人は、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第5号証を提出して、以下の申立理由を主張している。

(証拠方法)
甲第1号証:特開2009-72163号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:理研ビタミン株式会社の公式ホームページ、「蒸留ジグリセリン脂肪酸エステル」、[online]、公開年月日不明、[検索日2021年2月17日]、インターネット URL: https://www.rikenvitamin.jp/chemicals/product/polyglycerin/002.html (以下「甲2」という。)
甲第3号証:理研ビタミン株式会社の公式ホームページ、「ポリグリセリン脂肪酸エステル」、[online]、公開年月日不明、[検索日2021年2月17日]、インターネットURL:https://www.rikenvitamin.jp/chemicals/product/polyglycerin/003.html (以下「甲3」という。)
甲第4号証:Rakutenレシピの公式ホームページ、「ピリ辛!ラー油焼き蕎麦 86円 レシピ・作り方」、[online]、2020年2月16日、[検索日2021年2月18日]、インターネット URL: https://recipe.rakuten.co.jp/recipe/1380011760/ (以下「甲4」という。)
甲第5号証:特開2002-199851号公報 (以下「甲5」という。)

(申立理由の概要)
申立理由1(新規性)
本件発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

第4 当審の判断

1 甲1?甲5の記載

(1)甲1の記載
甲1a「【請求項1】
下記のA成分とB成分とを含有することを特徴とする香味油組成物。
A成分:トリグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはテトラグリセリン不飽和脂肪酸エステル;
B成分:ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルおよび/またはプロピレングリコール脂肪酸エステル;
【請求項2】
ラー油(辣油)、葱油またはガーリックオイルである、請求項1に記載の香味油組成物。」

甲1b「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水相への分散性が改善され、且つ室温下で乳化剤に起因する濁りの発生が抑えられた香味油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、香味油に(a)トリグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはテトラグリセリン不飽和脂肪酸エステルと(b)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルおよび/またはプロピレングリコール脂肪酸エステルとを組み合わせて含有せしめることにより、目的に叶う香味油組成物が得られることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
・・・・・
【0010】
本発明で言うところの香味油とは、例えば唐辛子、花山椒、陳皮、黒胡麻、白胡麻、麻の実、けしの実、胡椒、桂皮、八角などの香辛料類、例えば五香粉、七味唐辛子、カレー粉、ガラムマサラなどの調合香辛料類、並びに例えば長ねぎ(青い部分)、生姜、にんにく、玉ねぎ、人参、セロリ、紫蘇、茗荷などの香味野菜類などと油脂とを接触させ、香辛料や香味野菜に含まれる香味成分や色素類などを油脂に移行させたものを指し、具体的には、例えばラー油(辣油)、葱油およびガーリックオイル(アーリオオイルとも言う。)などが挙げられる。・・・・・
【0011】
香味油の製造に用いられる油脂としては、食用可能な油脂であれば特に制限はないが、例えばオリーブ油、ごま油、こめ油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、なたね油、パーム油、パームオレイン、パーム核油、ひまわり油、ぶどう油、綿実油、やし油、落花生油などの植物油脂が好ましく、これら植物油脂のサラダ油が特に好ましい。本発明においては、これらの油脂を一種類で用いても良いし、二種類以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0012】
本発明の香味油組成物は、A成分(トリグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはテトラグリセリン不飽和脂肪酸エステル)とB成分(ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルおよび/またはプロピレングリコール脂肪酸エステル)の二群の食品用乳化剤を含有することを特徴とするものである。」

甲1c「【0035】
[モノエステル体含有量測定法]
HPLCを用いて、以下に示す分析条件でエステル組成分析を行い、データ処理装置によってクロマトグラム上に記録されたモノエステル体に該当するピークの面積から、モノエステル体含有量を面積百分率(%)として求める。
〈HPLC分析条件〉
装置 島津高速液体クロマトグラフ
ポンプ(型式:LC-10A;島津製作所社製)
カラムオーブン(型式:CTO-10A;島津製作所社製)
データ処理装置(型式:C-R7A;島津製作所社製)
カラム GPCカラム(型式:SHODEX KF-802;昭和電 工社製)
2本連結
移動相 THF
流量 1.0mL/min
検出器 RI検出器(型式:RID-6A;島津製作所社製)
カラム温度 40℃
検液注入量 15μL(in THF)
【0036】
[実施例1]
[香味油組成物の作製]
(1)原材料
1)辣油(市販品;エスビー食品社製)
2)ジグリセリンオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)
3)トリグリセリンオレイン酸エステル(試作品)
4)テトラグリセリンオレイン酸エステル(商品名:SYグリスターMO-3S;阪本薬品工業社製)
5)ペンタグリセリンオレイン酸エステル(商品名:サンソフトA-171E;太陽化学社製)
6)デカグリセリンオレイン酸エステル(商品名:ポエムJ-0381V;理研ビタミン社製)
7)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(商品名:ポエムPR-300;理研ビタミン社製)
8)プロピレングリコールオレイン酸エステル(商品名:リケマールPO-100V;理研ビタミン社製)
【0037】
(2)香味油組成物の配合
上記原材料を用いて作製した香味油組成物(試料1?12)の配合組成を表1に示した。この内、試料1?5は本発明に係る実施例であり、試料6?12はそれらに対する比較例である。
【0038】
【表1】

【0039】
(3)香味油組成物の作製
表1に示した配合に基づいて辣油と各種乳化剤とを混合し、約50℃に加熱して溶解し香味油組成物(試料1?12)を作製した。なお、各試料の一回の作製量は30gとした。」

(2)甲2の記載
甲2a「蒸留ジグリセリン脂肪酸エステル」(標題)

甲2b「

」(表)

(3)甲3の記載
甲3a「ポリグリセリン脂肪酸エステル」(標題)

甲3b「

」(表)

(4)甲4の記載
甲4a「ピリ辛!ラー油焼き蕎麦 86円 レシピ・作り方」(標題)

甲4b「作り方
□1 使用した商品と価格
蕎麦1玉=19円
豚肉タンルート1kg=648円
白ねぎカット500g=148円
油揚げ5枚=46円
焼き海苔50枚=380円

□2 料理分の食材と価格
蕎麦=19円
豚肉=34円
白ねぎ=15円
油揚げ=10円
海苔=8円
食材合計=86円

□3 油揚げは細かくカットしておきます。

□4 豚肉、油揚げ、白ねぎ、料理酒をフライパンに入れて肉に火が通るまで炒めます。

□5 蕎麦を入れ、麺つゆとラー油も入れて炒めたらお皿に盛り付けます。

□6 海苔を刻んでかけて、白ごまを振りかけたら完成。」(作り方)
(決定注:□数字は、□付き数字を表す。)

(5)甲5の記載
甲5a「【請求項1】HLB2以下のショ糖脂肪酸エステルよりなる麺類改質剤。
【請求項2】(A)HLB5以上のショ糖脂肪酸エステル、及び、
(D)糖類化合物を含有する乳化剤液を噴霧乾燥して得られることを特徴とする麺類改質剤。
【請求項3】前記乳化剤液が、さらに(B)レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種の乳化剤を含有することを特徴とする請求項2記載の麺類改質剤。
【請求項4】前記乳化剤液が、さらに(C)食用油脂を含有することを特徴とする請求項2又は3記載の麺類改質剤。」

甲5b「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は、麺線同士の付着が長期間にわたり防止できる技術について鋭意検討を重ねた結果、特定のショ糖脂肪酸エステルを麺生地に練り込むことにより、または、特定のショ糖脂肪酸エステルを用いて調製した乳化剤液を噴霧乾燥したものを麺生地に練り込むことにより、麺線同士の付着が長期間にわたり防止できることを見い出し、本発明に至った。
【0008】すなわち、本発明に係る第1の麺類改質剤は、HLB2以下のショ糖脂肪酸エステルよりなるものである。
【0009】本発明に係る第2の麺類改質剤は、HLB5以上のショ糖脂肪酸エステル(A)及び糖類化合物(D)を含有する乳化剤液を噴霧乾燥して得られるものである。
【0010】この第2の麺類改質剤においては、上記乳化剤液が、さらに、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種の乳化剤(B)を含有する場合がある。また、該乳化剤液が、食用油脂(C)を含有する場合もある。
・・・・・
【0016】
【発明の実施の形態】1.第1の麺類改質剤
第1の麺類改質剤は、HLB2以下である低HLBのショ糖脂肪酸エステルよりなり、通常、ショ糖脂肪酸エステル単独で麺生地に粉体混合して用いられる。構成する脂肪酸としては、炭素数が12?22の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸、あるいはこれらの混合物が挙げられ、上記エステルのHLB値が2以下となるように適宜に選択される。
【0017】2.第2の麺類改質剤
(A)成分
第2の改質剤で使用する(A)成分は、ショ糖脂肪酸エステルであり、HLB値は5以上である。構成する脂肪酸としては、炭素数が12?22の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸、あるいはこれらの混合物が挙げられ、上記エステルのHLB値が5以上となるように適宜に選択される。
【0018】(B)成分
第2の改質剤で使用する(B)成分は、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種である。
・・・・・
【0022】ポリグリセリン脂肪酸エステルは、平均重合度が2?10のポリグリセリンに脂肪酸がエステル結合したものである。構成する脂肪酸は、炭素数が12?22の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸あるいはこれらの混合物が挙げられる。
・・・・・
【0025】(C)成分
第2の改質剤で使用する食用油脂としては、大豆油、ナタネ油、綿実油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油などの植物性油脂やラード、牛脂、魚油などの動物性油脂、および、それらのエステル交換油、水添油などがあるが利用できる。特にこれらの油脂のうち、常温で液状の油脂が好ましい。また、原料の油脂は上記の油脂を単独ではなく、2種類以上を混合して用いてもかまわない。」

甲5c「【0040】4.作 用
本発明者らは、麺類に対する上記改質剤の作用を鋭意検討した結果、次のような事項を見い出した。
【0041】すなわち、第1の改質剤においては、低HLBのショ糖脂肪酸エステルを麺生地に練り込むことにより、該ショ糖脂肪酸エステルが麺保存中に麺の界面(表面)に滲出するため、麺線同士の結着が抑制されること。なお、第1の改質剤では、第2の改質剤ほどの高い食感向上効果は得にくい。但し、油脂の代わりに低HLBショ糖脂肪酸エステルを添加することにより、原料の混合時における撹拌に伴う摩擦熱の発生を抑制して、グルテン膜同士のすべりを改善することにより、グルテン膜の延展性を向上させることができ、これにより、グルテン形成による歯応えを有する食感が得られる。
【0042】第2の改質剤においては、(1)ショ糖脂肪酸エステルと他の乳化剤及び/又は食用油脂を用いて調製した乳化剤製剤がグルテンの水和を促進させ、麺特有のコシ感をもたらすこと、(2)当該乳化剤製剤が麺保存中に麺の界面に滲出するため、麺線同士の結着が抑制されること、(3)当該乳化剤製剤の噴霧乾燥物が水に対して優れた分散性を有すること。」

2 甲1に記載された発明

甲1は、「水相への分散性が改善され、且つ室温下で乳化剤に起因する濁りの発生が抑えられた香味油組成物」(甲1b)として、「下記のA成分とB成分とを含有することを特徴とする香味油組成物。A成分:トリグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはテトラグリセリン不飽和脂肪酸エステル;B成分:ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルおよび/またはプロピレングリコール脂肪酸エステル;」(甲1a)に関し記載するものであって、実施例1中の記載において、比較例の一つとして、【表1】(甲1c【0038】)中の「試料10」に示される配合に基づいて、原材料として、「辣油(市販品:エスビー食品社製)」「98」、「ジグリセリンオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)」「1」、「ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(商品名:ポエムPR-300;理研ビタミン社製)」「1」「合計100」を混合し、約50℃に加熱して溶解し「香味油組成物」を作製したことが記載されている(甲1c)。
「モノエステル体含有量を面積百分率(%)として求める」(甲1c【0035】)と記載されていることから、上記配合割合の単位は%と理解される。

そうすると、甲1には、
「辣油(市販品:エスビー食品社製)98%、ジグリセリンオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)1%、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(商品名:ポエムPR-300;理研ビタミン社製)1%を混合し、約50℃に加熱して溶解し作製された香味油組成物」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

3 本件発明と甲1発明との対比

(1)甲1発明の「辣油(市販品:エスビー食品社製)」は、「香味油」、すなわち、香辛料類等と油脂とを接触させ、香辛料等に含まれる香味成分や色素類などを油脂に移行させたものであり、香味油の製造に用いられる油脂は、食用可能な油脂であるから(甲1b)、本件発明の「食用油脂」に該当する。

(2)甲1発明の「香味油組成物」は、前記(1)より、食用油脂の組成物であるから、本件発明の「油脂組成物」に相当する。

(3)甲1発明の「ジグリセリンオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)」及び「ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(商品名:ポエムPR-300;理研ビタミン社製)」は、乳化剤であるから(甲1b)、本件発明の「HLBが4.7?8の乳化剤(a)」及び「HLBが2.5以下の乳化剤(b)」と、2種類の乳化剤である点で共通する。

(4)甲1発明の「ジグリセリンオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)1%」及び「ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(商品名:ポエムPR-300;理研ビタミン社製)1%」の合計の配合量は、食用油脂である「辣油(市販品:エスビー食品社製)98%」に対して、2.0%[=100×(1%+1%)/98%]といえ、%は重量%と同程度の値と理解されるから、本件発明の「乳化剤(a)および(b)の合計の配合量が、食用油脂に対して1.5?20重量%」と、2種類の乳化剤の合計の配合量が、食用油脂に対して1.5?20重量%であることに該当する。

そうすると、本件発明と甲1発明とは、
「2種類の乳化剤および食用油脂を含有する、油脂組成物であって、
2種類の乳化剤の合計の配合量が、食用油脂に対して1.5?20重量%である、油脂組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:2種類の乳化剤について、本件発明は、HLBが4.7?8の乳化剤(a)及びHLBが2.5以下の乳化剤(b)であるのに対し、甲1発明は、HLBがそのようなものか明らかでない点
相違点2:油脂組成物について、本件発明は、麺線同士の付着を抑制するためのものであるのに対し、甲1発明は、麺線同士の付着を抑制するためのものとの特定がない点
相違点3:油脂組成物について、本件発明は、麺類の炒め調理用であるのに対し、甲1発明は、麺類の炒め調理用との特定がない点

4 判断

(1)相違点1について

ア 甲1発明の「ジグリセリンオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)」のHLBについて
理研ビタミン株式会社の公式ホームページには、商品の説明として、「品名」「ポエムDO-100V」は、「主成分」「ジグリセリン モノオレート」、「HLB」「7.3」及び「主用途」の一つとして乳化剤が示されている(甲2b)。
また、本件明細書には、以下の記載がある。
「【0037】乳化剤 以下の実験例においては、下記の乳化剤を使用した。なお、各乳化剤のHLBはカタログ記載の数値である。
・モノオレイン酸ジグリセリン(HLB:7.4、理研ビタミン、ポエムDO100V)」
商品名として同じものと見なせる理研ビタミン株式会社のポエムDO100Vに関し、特に、HLBを時期によって変化させている特別な事情はみあたらず、理研ビタミン社製の商品名「ポエムDO-100V」は、「主成分」が「ジグリセリン モノオレート」すなわちジグリセリンオレイン酸エステルであり、「HLB」が「7.3」程度の「乳化剤」であると理解できる。
そうすると、甲1発明の「ジグリセリンオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)」は、本件発明の「HLBが4.7?8の乳化剤(a)」に該当すると認められる。

イ 甲1発明の「ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(商品名:ポエムPR-300;理研ビタミン社製)」のHLBについて
理研ビタミン株式会社の公式ホームページには、商品の説明として、「品名」「ポエムPR-300」は、「主成分」「ポリグリセリン ポリリシノレート」、「HLB」「0.5」及び「主用途」の一つとしてW/O乳化剤が示されている(甲3b)。
また、本件明細書には、「【0037】・・・ヘキサグリセリン縮合リシノレート(HLB:0.5、理研ビタミン、ポエムPR300)」の記載がある。
商品名として同じものと見なせる理研ビタミン株式会社のポエムPR-300に関し、特に、HLBを時期によって変化させている特別な事情はみあたらず、理研ビタミン社製の商品名「ポエムPR-300」は、「主成分」が「ポリグリセリン ポリリシノレート」すなわちポリグリセリン縮合リシノール酸エステルであり、「HLB」が「0.5」程度の「乳化剤」であると理解できる。
そうすると、甲1発明の「ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(商品名:ポエムPR-300;理研ビタミン社製)」は、本件発明の「HLBが2.5以下の乳化剤(b)」に該当すると認められる。

ウ したがって、相違点1は、実質的な相違点とは認められない。

(2)相違点2について

ア 甲1には、甲1発明の「香味油組成物」が、麺線同士の付着を抑制するためのものであることについての記載や示唆はなされていない。
また、甲1発明の「香味組成物」が麺線同士の付着を抑制する用途に用いることが記載されているに等しいといえる本件出願時の技術常識も存在しない。
したがって、甲1発明の「香味油組成物」が、麺線同士の付着を抑制するためのものであるとは認められない。


イ 特許異議申立人は、特許異議申立書8頁9?18行において、「甲5には、「(1)ショ糖脂肪酸エステルと他の乳化剤及び/又は食用油脂を用いて調製した乳化剤製剤がグルテンの水和を促進させ、麺特有のコシ感をもたらすこと、(2)当該乳化剤製剤が麺保存中に麺の界面に滲出するため、麺線同士の結着が抑制されること」が記載されている。そして、甲1の「ジグリセリンオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)」及び「ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(商品名:ポエムPR-300;理研ビタミン社製)」は乳化剤であることから、麺の界面に滲出して麺線同士の結着が抑制する効果を有する。よって、甲1には麺線同士の結着が抑制するための油脂組成物が開示されている」と主張している。

しかしながら、甲5は「【請求項1】HLB2以下のショ糖脂肪酸エステルよりなる麺類改質剤。【請求項2】(A)HLB5以上のショ糖脂肪酸エステル、及び、(D)糖類化合物を含有する乳化剤液を噴霧乾燥して得られることを特徴とする麺類改質剤。」(甲5a)(決定注:下線は当審が付与。以下同様。)に関し記載するものであって、甲5には、以下の事項が記載されている。

「【0007】・・本発明者は、麺線同士の付着が長期間にわたり防止できる技術について鋭意検討を重ねた結果、特定のショ糖脂肪酸エステルを麺生地に練り込むことにより、または、特定のショ糖脂肪酸エステルを用いて調製した乳化剤液を噴霧乾燥したものを麺生地に練り込むことにより、麺線同士の付着が長期間にわたり防止できることを見い出し、本発明に至った。
【0008】すなわち、本発明に係る第1の麺類改質剤は、HLB2以下のショ糖脂肪酸エステルよりなるものである。
【0009】本発明に係る第2の麺類改質剤は、HLB5以上のショ糖脂肪酸エステル(A)及び糖類化合物(D)を含有する乳化剤液を噴霧乾燥して得られるものである。
【0010】この第2の麺類改質剤においては、上記乳化剤液が、さらに、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種の乳化剤(B)を含有する場合がある。また、該乳化剤液が、食用油脂(C)を含有する場合もある。」(甲5b)、及び、

「【0040】4.作 用・・・麺類に対する上記改質剤の作用を鋭意検討した結果、次のような事項を見い出した。
【0041】すなわち、第1の改質剤においては、低HLBのショ糖脂肪酸エステルを麺生地に練り込むことにより、該ショ糖脂肪酸エステルが麺保存中に麺の界面(表面)に滲出するため、麺線同士の結着が抑制されること。・・・・・
【0042】第2の改質剤においては、(1)ショ糖脂肪酸エステルと他の乳化剤及び/又は食用油脂を用いて調製した乳化剤製剤・・・、(2)当該乳化剤製剤が麺保存中に麺の界面に滲出するため、麺線同士の結着が抑制されること・・・」(甲5c)

これらの記載より、甲5には、少なくとも乳化剤成分として特定のショ糖脂肪酸エステルを用いると、麺線同士の付着が長期間にわたり防止できる態様が示されていると理解できる。

一方、甲1発明は、「香味油組成物」に含有される乳化剤として、「ジグリセリンオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)1%」及び「ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(商品名:ポエムPR-300;理研ビタミン社製)1%」のみを用いたものであり、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルを用いたものではない。

そして、油脂組成物において、含有する乳化剤の種類が異なれば、各乳化剤により奏される作用は当然異なり、同様の作用を有しているとはいえない。

そうすると、甲1発明の香味油組成物は、甲5に記載の特定のショ糖脂肪酸エステルを含有するものではないから、甲1発明の香味油組成物の用途の理解に、甲5の記載を参照して、麺線同士の付着を長期間にわたり防止できるという用途が記載されているに等しいと理解しなければならない理由は存在しない。

したがって、特許異議申立人の前記主張を採用することはできない。

ウ 以上より、相違点2は、実質的な相違点といえる。

(3)小括
したがって、相違点3を検討するまでもなく、本件発明は、本件出願前に頒布された甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。

5 まとめ
以上より、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-05-31 
出願番号 特願2014-242109(P2014-242109)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (A23D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鳥居 敬司  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 齊藤 真由美
冨永 保
登録日 2020-08-06 
登録番号 特許第6745579号(P6745579)
権利者 昭和産業株式会社
発明の名称 炒め調理用の油脂組成物  
代理人 小野 新次郎  
代理人 中村 充利  
代理人 山本 修  

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