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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1374953
異議申立番号 異議2021-700082  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-22 
確定日 2021-06-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6733154号発明「ウエルドを有する成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6733154号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯
特許第6733154号(請求項の数3。以下、「本件特許」という。)は、平成27年11月19日を出願日とする特許出願(特願2015-226201号)に係るものであって、令和2年7月13日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年7月29日である。)。
その後、令和3年1月22日に、本件特許の全請求項(請求項1?3)に係る特許に対して、特許異議申立人である岩崎 勇(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。


第2 特許請求の範囲の記載
特許第6733154号の特許請求の範囲の記載は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?3に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1?3に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明3」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)

「【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)、および、エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩およびオキサゾリン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有するゴム質重合体(B)を含み、電子顕微鏡観察において、前記ポリアミド樹脂(A)が連続相(α)、前記反応性官能基を有するゴム質重合体(B)が分散相(β)を形成し、かつ、分散相(β)中にポリアミド樹脂(A)と反応性官能基を有するゴム質重合体(B)の反応により生成した化合物よりなる粒子径1?100nmの微粒子を含有し、分散相(β)中における前記微粒子の占める面積が10%以上であるモルフォロジーを有する熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であって、固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品。
【請求項2】
前記スルーホールに接するウエルドの長さ(L[mm])の、成形品ウエルド部の厚み(T[mm])に対する比(L/T)が0.1?100である請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物を射出成形する請求項1または2に記載の成形品の製造方法。」


第3 申立理由の概要及び証拠方法
申立人がした申立ての理由の概要は、以下に示すとおりである(以下、条文ごとに「申立理由1」?「申立理由4」という。)。

1 申立理由の概要
(1)申立理由1
本件発明1?3は、本件出願日前に頒布された以下の刊行物である甲第1及び2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、本件発明1?3に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2)申立理由2
本件発明1?3は、本件出願日前に頒布された以下の刊行物である甲第1又は2号証に記載された発明及び甲第1?2号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?3に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

(3)申立理由3及び4
本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本件発明1?3の特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。(申立理由3)
また、本件の特許請求の範囲の請求項1?3の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件発明1?3の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。(申立理由4)

2 証拠方法
申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開2011-63015号公報
甲第2号証:特開2011-195814号公報
参考資料1:特開平11-158372号公報
参考資料2:特開平04-73919号公報
参考資料3:特許第4161860号明細書
参考資料4:特許第6499531号明細書
参考資料5:特許第5697020号明細書

以下、「甲第1号証」?「甲第2号証」を「甲1」?「甲2」、「参考資料1」?「参考資料5」を「参1」?「参5」という。


第4 当審の判断
当審は、申立人が主張する上記申立理由についてはいずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1?3に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、と判断する。
以下、各申立理由につき検討するが、事案に鑑み、申立理由3及び4、申立理由1及び2につき併せて、この順で検討する。

1 申立理由3及び4について
事案に鑑み、申立理由3、申立理由4の順に検討した後、申立人の主張について検討するが、申立人の主張は、申立理由3及び4に対してまとめてなされているので、申立理由3及び4でまとめて検討する。

(1)申立理由3について
ア 特許法第36条第4項第1号の考え方について
一般に「方法の発明における発明の実施とは,その方法の使用をすることをいい(特許法2条3項2号),物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(同項1号),方法の発明については,明細書にその方法を使用できるような記載が,物の発明については,その物を製造する方法についての具体的な記載が,それぞれ必要があるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその方法を使用し,又はその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。」とされている〔平成22年(行ケ)10348号判決参照。〕。
以下、この観点に立って検討する。

イ 特許請求の範囲の記載
上記「第2」に記載したとおりである。

ウ 本件明細書の記載
本件明細書には、以下の事項が記載されている。

(本1)「【0013】
本発明の成形品において、スルーホールに接するウエルドの長さ(L[mm])の、ウエルドにおける成形品の厚み(T[mm])に対する比(L/T)は、0.1?100が好ましい。L/Tを0.1以上とすることにより、ウエルドの長さを適度に確保し、成形品の厚みを適度に抑えて流動距離を短くし、溶融樹脂の流動中の冷却を抑制することができるため、ウエルド強度およびウエルド靱性をより向上させることができる。一方、L/Tを100以下とすることにより、ウエルドの長さを適度に抑え、成形品の厚みを適度に確保することができるため、ウエルド靱性をより向上させることができる。
【0014】
L/Tは、例えば、成形品の厚みや、スルーホールの位置など成形品の形状、ゲート位置やゲート数などの成形条件によって所望の範囲に調整することができる。」

(本2)「【0017】
本発明で用いるポリアミド樹脂とは、アミド結合を有する高分子からなる樹脂のことであり、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる原料とするものである。その原料の代表例としては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを2種以上併用してもよい。
【0018】
本発明において、特に有用なポリアミド樹脂は、150℃以上の結晶融解温度を有するポリアミド樹脂である。かかるポリアミド樹脂は、耐熱性や強度に優れる。150℃以上の結晶融解温度を有するポリアミド樹脂の具体的な例としては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリペンタメチレンアジパミド(ポリアミド56)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリペンタメチレンセバカミド(ポリアミド510)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ポリアミド6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド66/6I/6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリデカンアミドコポリマー(ポリアミド6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ポリアミドXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/M5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/5T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンアジパミドコポリマー(5T/56)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。
【0019】
とりわけ好ましいものとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド510、ポリアミド410、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/66、ポリアミド66/6T、ポリアミド6T/6I、ポリアミド66/6I/6、ポリアミド6T/5T、ポリアミド10Tなどを挙げることができる。
【0020】
これらのポリアミド樹脂を、成形性、耐熱性、靱性、表面性などの必要特性に応じて2種以上用いることも実用上好適であるが、これらの中で、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66/6T、ポリアミド10Tがさらに好ましい。
【0021】
ポリアミド樹脂の末端基濃度には特に制限はないが、末端アミノ基濃度が1.5×10^(-5)mol/g以上であるものが、反応性官能基を有するゴム質重合体との反応性の面で好ましい。ここでいう末端アミノ基濃度とは、85%フェノール-エタノール溶液にポリアミド樹脂を溶解し、チモールブルーを指示薬として使用し、塩酸水溶液で滴定することで測定できる。
【0022】
ポリアミド樹脂の重合度には特に制限がなく、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度として、1.5?7.0の範囲が好ましい。相対粘度が1.5以上であれば、ウエルド靱性をより向上させることができる。1.8以上がより好ましい。一方、相対粘度が7.0以下であれば、成形性を向上させることができる。5.0以下がより好ましい。」

(本3)「【0023】
本発明において、反応性官能基を有するゴム質重合体(B)は、エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩およびオキサゾリン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する。以下、これらの反応性官能基を有するゴム質重合体を単に「反応性官能基を有するゴム質重合体」と記載する場合がある。とりわけエポキシ基、酸無水物基、カルボキシル金属塩は反応性が高く、しかも分解、架橋などの副反応が少ないため好ましく用いられる。
【0024】
前記記載の酸無水物基を構成する酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸が好適に用いられる。酸無水物基をゴム質重合体に導入する場合、その方法としては、通常公知の技術で行うことができ、特に制限はないが、例えば、酸無水物とゴム質重合体の原料である単量体とを共重合する方法、酸無水物をゴム質重合体にグラフトさせる方法などを用いることができる。
【0025】
また、エポキシ基をゴム質重合体に導入する場合、その方法としては、通常公知の技術で行うことができ、特に制限はないが、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどのα,β-不飽和酸のグリシジルエステル化合物などのエポキシ基を有するビニル系単量体をゴム質重合体の原料である単量体と共重合する方法、エポキシ基を有する重合開始剤または連鎖移動剤を用いてゴム質重合体を重合する方法、エポキシ化合物をゴム質重合体にグラフトさせる方法などを用いることができる。
【0026】
アミノ基をゴム質重合体に導入する場合、その方法としては、通常公知の技術で行うことができ、特に制限はないが、例えば、アミノ化合物とゴム質重合体の原料である単量体とを共重合する方法、アミノ基をゴム質重合体にグラフトさせる方法などを用いることができる。
【0027】
カルボキシル基をゴム質重合体に導入する場合、その方法としては、通常公知の技術で行うことができ、特に制限はないが、例えば、カルボキシル基を有する不飽和カルボン酸系単量体をゴム質重合体の原料である単量体と共重合する方法などを用いることができる。不飽和カルボン酸の具体的な例としては、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。
【0028】
また前記カルボキシル基の一部を金属塩としたカルボキシル金属塩も反応性官能基として有効であり、例えば、(メタ)アクリル酸金属塩などが挙げられる。金属塩の金属は、特に限定されないが、好ましくは、ナトリウムなどのアルカリ金属やマグネシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛などが挙げられる。
【0029】
また、オキサゾリン基をゴム質重合体に導入する場合、その方法としては、通常公知の技術で行うことができ、特に制限はないが、例えば、2-イソプロペニル-オキサゾリン、2-ビニル-オキサゾリン、2-アクリロイル-オキサゾリン、2-スチリル-オキサゾリンなどのオキサゾリン基を有するビニル系単量体をゴム質重合体の原料である単量体と共重合する方法などを用いることができる。
【0030】
本発明において、反応性官能基を有するゴム質重合体のゴム質重合体とは、一般的にガラス転移温度が室温より低い重合体を含有し、分子間の一部が共有結合・イオン結合・ファンデルワールス力・絡み合い等により、互いに拘束されている重合体のことを指す。例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、該ブロック共重合体の水素添加物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ブタジエン-イソプレン共重合体などのジエン系ゴム、エチレン-プロピレンのランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレン-ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレンと炭素数5以上のα-オレフィンとの共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体などが好ましい例として挙げられる。
【0031】
これらの中でも、ポリアミド樹脂との相溶性の観点から、エチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体が好ましく用いられる。エチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体における不飽和カルボン酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸とアルコールとのエステルである。不飽和カルボン酸エステルの具体的な例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。エチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体中のエチレン成分と不飽和カルボン酸エステル成分の重量比は特に制限はないが、好ましくは90/10?10/90、より好ましくは85/15?15/85の範囲である。エチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体の数平均分子量は特に制限されないが、流動性、機械特性の観点から1000?70000の範囲が好ましい。
【0032】
反応性官能基を有するゴム質重合体における、一分子鎖当りの官能基の数については、特に制限はないが、通常1?10個が好ましく、架橋等の副反応を少なくする為に1?5個がより好ましい。また、官能基を全く有さない分子が含まれていても構わないが、その割合は少ない程好ましい。」

(本4)「【0036】
前記モルフォロジーを有する熱可塑性樹脂組成物(以下、「ポリアミド樹脂-ゴム質重合体複合組成物(α-β)」と記載する場合がある)の製造方法としては、以下の調製法(1)?(3)の方法が好ましい。生産性の観点から、調製法(3)の方法がより好ましい。
【0037】
調製法(1)としては、例えば、特開2008-156604号公報に記載の方法が挙げられる。すなわち、ポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体を、スクリュー長さLとスクリュー直径Dの比L/Dが50以上で複数箇所のフルフライトゾーンおよびニーディングゾーンを有する二軸押出機に投入し、スクリュー中のニーディングゾーンの樹脂圧力のうち最大の樹脂圧力をPkmax(MPa)、スクリュー中のフルフライトゾーンの樹脂圧力のうち最小の樹脂圧力をPfmin(MPa)としたときに、
Pkmax≧Pfmin+0.3
を満たす条件で溶融混練して製造する方法が挙げられる。なお、L/Dとは、スクリュー長さLを、スクリュー直径Dで割った値のことである。スクリュー長さとは、スクリュー根元の原料が供給される位置(フィード口)にあるスクリューセグメントの上流側の端部から、スクリュー先端部までの長さである。また、押出機において、原材料が供給される側を上流、溶融樹脂が吐出される側を下流ということがある。かかる方法においては、ニーディングゾーンの樹脂圧力を、フルフライトゾーンの樹脂圧力より、ある範囲で高めることにより、ポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体との反応を効果的に促進させることが可能となる。
【0038】
調製法(2)としては、例えば、国際公開第2009/119624号に記載の方法が挙げられる。すなわち、ポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体を伸張流動しつつ溶融混練して製造する方法が挙げられる。ここで、伸張流動とは、反対方向に流れる2つの流れの中で、溶融した樹脂が引き伸ばされる流動形態のことである。一方、一般的に用いられる剪断流動とは、同一方向で速度の異なる2つの流れの中で、溶融した樹脂がせん断変形を受ける流動形態のことである。ポリアミド樹脂-ゴム質重合体複合組成物(α-β)の製造に利用する伸張流動混練では、溶融混練時に一般的に用いられる剪断流動と比較し、分散効率が高いことから、特にリアクティブプロセッシングの様に反応を伴うアロイ化の場合、反応が効率的に進行することが可能となる。
【0039】
調製法(3)としては、例えば、特開2011-063015号公報に記載の方法が挙げられる。すなわち、ポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体を伸張流動しつつ溶融混練した後に切り欠き型ミキシングスクリューで溶融混練する方法が挙げられる。
【0040】
調製法(3)において、伸張流動しつつ溶融混練するゾーン(伸張流動ゾーン)の前後での流入効果圧力降下は100?500kg/cm^(2)(9.8?49MPa)であることが好ましい。かかる伸張流動ゾーンの前後での流入効果圧力降下とは、伸張流動ゾーン手前の圧力差(ΔP)から、伸張流動ゾーン内での圧力差(ΔP_(0))を差し引くことで求めることができる。伸張流動ゾーンの前後での流入効果圧力降下が9.8MPa以上である場合には、伸張流動ゾーン内での伸張流動の形成される割合が高く、また圧力分布をより均一にすることができる。また伸張流動ゾーンの前後での流入効果圧力降下が49MPa以下である場合には、押出機内での背圧が適度な範囲に抑制され、安定的な製造が容易となる。
【0041】
調製法(3)において、押出機のスクリューにおける一つの伸張流動ゾーンの長さをLkとし、スクリュー直径をDとすると、Lk/D=3?8であることが、混練性、反応性の観点から、好ましい。
【0042】
調製法(3)において、伸張流動ゾーンを形成するための具体的な方法としては、ディスク先端側の頂部とその後面側の頂部との角度である螺旋角度θが、スクリューの反回転方向に0°<θ<90°の範囲内にあるツイストニーディングディスクにより形成する方法、フライト部にスクリュー先端側から後端側に向けて断面積が縮小されてなる樹脂通路が形成されているフライトスクリューにより形成する方法、押出機中に設けられた、溶融樹脂の通過する断面積が暫時減少させた樹脂通路から形成する方法などが好ましい例として挙げられる。
【0043】
調製法(3)において、切り欠きとは、スクリューフライトの山の部分を削ってできたものを示す。切り欠き型ミキシングスクリューは樹脂充満率を高くすることが可能で、その切り欠き型ミキシングスクリューを連結させたミキシングゾーンを通過する溶融樹脂は、押出機シリンダー温度の影響を受けやすい。そのため、押出機前半の伸張流動ゾーンで反応促進して発熱した溶融樹脂でも、後半の切り欠き型ミキシングスクリューからなるミキシングゾーンで効率的に冷却され、樹脂温度を低下させることが可能となる。また前半の伸張流動ゾーンで反応促進させているため、後半のミキシングゾーンを通過する際の樹脂の溶融粘度は高くなっており、切り欠き型ミキシングスクリューの切り欠きによる剪断が有効に作用して反応も促進されるようになる。すなわち、伸張流動しつつ溶融混練した後に切り欠き型ミキシングスクリューで溶融混練する手法は、樹脂温度上昇を抑制しながら、混練性、反応性を向上させることが可能で、スクリュー長さLとスクリュー直径Dの比L/Dが短い汎用の大型押出機で処理量を増加させても、発熱による樹脂劣化を抑制し、衝撃吸収性等に優れるポリアミド樹脂-ゴム質重合体複合組成物(α-β)を得ることが可能となる。
【0044】
調製法(3)において、切り欠き型ミキシングスクリューにより溶融混練するゾーン(以下、「ミキシングゾーン」ということがある。)は、1条ネジでスクリューピッチの長さが0.1D?0.5D、かつ切り欠き数が1ピッチ当たり8?16個である切り欠き型ミキシングスクリューを連結させて構成されることが、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率向上、混練性向上、反応性向上の観点から好ましい。スクリューピッチの長さが0.1D?0.3D、かつ切り欠き数が1ピッチ当たり10?15個である切り欠き型ミキシングスクリューを連結させて構成されることが、より好ましい。ここで1条ネジとは、スクリューが360度回転した際にスクリューフライトの山部分が1箇所であることを示す。
【0045】
調製法(3)において、押出機のスクリューにおける一つのミキシングゾーンの長さをLmとし、スクリュー直径をDとすると、Lm/D=5?15であることが、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率向上、混練性向上、反応性向上の観点から好ましい。
【0046】
調製法(3)において、ミキシングゾーンは2箇所以上に設けることが、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率の向上、混練性向上、反応性向上の観点から好ましい。
【0047】
調製法(3)において、ミキシングゾーンを構成する切り欠き型ミキシングスクリューの75%以上が、スクリュー軸の回転方向とは逆廻りのネジ廻り方向であることが、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率向上、混練性向上、反応性向上の観点から好ましい。
【0048】
調製法(3)において、伸張流動ゾーンにおける押出機シリンダー設定温度をCk、ミキシングゾーンにおける押出機シリンダー設定温度をCmとすると、Ck-Cm≧60を満足させつつ溶融混練することが、溶融樹脂の大幅な冷却効率向上に加え、混練性、反応性も大幅に向上できるため好ましい。一般に化学反応は反応温度が高い方が進行しやすく、逆に言うと、樹脂温度が低下すると、ポリアミド樹脂と反応性官能基の反応率は低下する方向に行く。しかし、調製法(3)においては、ミキシングゾーンのシリンダー設定温度を下げて樹脂温度を低下させても、逆に反応を進行させることができ、高速引張時の衝撃吸収性、耐衝撃性、耐熱性をより大きくできる。これは、前半に伸張流動しつつ溶融混練するゾーンを設けてポリアミド樹脂と反応性官能基の反応を促進させているため、ミキシングゾーンを通過する際の溶融粘度が高くなっており、樹脂温度を低下させて更に溶融粘度を高くすると、切り欠き型ミキシングスクリューの切り欠きによる剪断が更に強く作用して、樹脂温度低下による反応率低下を補う以上に反応が促進されるようになるためと考えられる。この効果は伸張流動ゾーンの後に切り欠き型ミキシングスクリューからなるミキシングゾーンを設けたスクリュー構成で初めて発現する。一方で例えば、前半に伸張流動を形成できない一般のニーディングディスクで溶融混練した場合には、熱可塑性樹脂と反応性官能基の反応率は低いため、そのニーディングディスクゾーンの後に切り欠き型ミキシングスクリューから構成されるミキシングゾーンを設けていても、ミキシングゾーンを通過する際の溶融粘度は低い。そのため、切り欠き型ミキシングスクリューの切り欠きによる剪断も小さく、前半に伸張流動しつつ溶融混練するゾーンを有する場合に比べて反応の進行が低くなる。
【0049】
調製法(3)において、使用する押出機としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、三軸以上の多軸押出機が挙げられる。中でも、単軸押出機と二軸押出機が好ましく用いられ、特に二軸押出機が好ましく用いられる。またかかる二軸押出機のスクリューとしては、特に制限はなく、完全噛み合い型、不完全噛み合い型、非噛み合い型等のスクリューが使用できるが、混練性、反応性の観点から、好ましくは、完全噛み合い型である。また、スクリューの回転方向としては、同方向、異方向どちらでもよいが、混練性、反応性の観点から、好ましくは同方向回転である。本発明において、最も好ましいスクリューは、同方向回転完全噛み合い型である。
【0050】
調製法(3)は、L/Dが50未満である汎用の二軸押出機を使用した溶融混練に好ましく適用され、スクリュー直径Dの大きい二軸押出機で処理量を増加させても、発熱による樹脂劣化を抑制し、かつ耐熱性、耐衝撃性、衝撃吸収性等を有するポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0051】
調製法(3)において、押出機のスクリューの全長に対する伸張流動しつつ溶融混練するゾーン(伸張流動ゾーン)の合計の長さの割合は10?35%であり、かつ押出機のスクリューの全長に対する切り欠き型ミキシングスクリューにより溶融混練するゾーン(ミキシングゾーン)の合計の長さの割合は20?35%であることが、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率の向上、混練性向上、反応性向上の観点から好ましい。
【0052】
調製法(3)において、押出機中での滞留時間が30?300秒であることが好ましい。かかる滞留時間とは、原料が供給されるスクリュー根本の位置(フィード口)から、原料と共に、着色剤等を投入し、着色剤等を投入した時点から、押出機の吐出口より押出され、その押出物への着色剤による着色度が最大となる時点までの時間のことである。滞留時間が30秒以上である場合、押出機中での反応が十分に促進され、ポリアミド樹脂-ゴム質重合体複合組成物(α-β)の特性(耐熱性、耐衝撃性のバランス等)や、特異な粘弾性特性を顕著に発現させた衝撃吸収性がより向上する。滞留時間が300秒以下である場合、滞留時間が長いことによる樹脂の熱劣化を抑制することができる。」

(本5)「【0064】
得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより、スルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品を得ることができる。」

(本6)「【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。まず、各実施例および比較例における評価方法について説明する。
【0066】
(1)モルフォロジー観察
各実施例および比較例で得られたダンベル型試験片の断面方向中心部を1?2mm角に切削し、四酸化ルテニウムで反応性官能基を有するゴム質重合体(B)を染色後、0.1μm以下(約80nm)の超薄切片をウルトラミクロトームにより-196℃で切削し、3万5千倍に拡大して透過型電子顕微鏡で観察した。得られた画像について、基本構造および分散相(β)内の1?100nmの微粒子の有無を観察し、更に分散相中における微粒子の占める面積は、Scion Corporation社製画像解析ソフト「Scion Image」を使用し算出した。
【0067】
(2)引張強度および引張破断伸び測定
各実施例および比較例で得られたウエルドを有する引張試験片およびウエルドを有しない引張試験片について、速度を1000mm/minとすること以外はISO527-1,2に従い、チャック間距離を115mmとし、引張試験を実施し、引張強度および引張破断伸びを測定した。なお、引張破断伸びは、チャック間距離115mmを基準とした破断伸びとした。測定はそれぞれ4本の試験片について行い、数平均値を算出した。
【0068】
(3)シャルピー衝撃強度測定
各実施例および比較例で得られた衝撃試験片について、ISO179に従い、シャルピー衝撃試験を実施し、衝撃強度を測定した。
【0069】
(4)引張最大荷重および引張破断変位測定
各実施例および比較例で得られたスルーホールに接するウエルドを有する角板について、ゲートから60mmの地点にあるスルーホールに接するウエルドの長さLが5mmとなるように幅13mm、長さ80mmの試験片を切出した。得られた試験片について、速度50mm/min、チャック間距離を30mmとし、引張試験を実施し、引張最大荷重および引張破断変位を測定した。測定はそれぞれ4本の試験片について行い、数平均値を算出した。
【0070】
スルーホールに接するウエルドを有する成形品において、引張強度や引張最大荷重および引張破断伸びや引張破断変位が高いほど、低速変形による割れを抑制することができ、シャルピー衝撃強度が高いほど、高速変形による割れを抑制することができる。
【0071】
各実施例および比較例に用いた原材料を以下に示す。
ポリアミド樹脂A:融点225℃、樹脂濃度0.01g/mlの98%硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度が2.70であるポリアミド6樹脂。
反応性官能基を有するゴム質重合体A:グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体「“ボンドファースト”(登録商標)BF-7L」(住友化学(株)製)。
反応性官能基を有するゴム質重合体B:エチレン-メタクリル酸-メタクリル酸亜鉛塩共重合体「“ハイミラン”(登録商標)1706」(三井・デュポンポリケミカル(株)製)。
【0072】
(実施例1)
ポリアミド樹脂Aおよび反応性官能基を有するゴム質重合体Bを表1に示す配合組成で混合し、窒素フローを行いながら、スクリュー径が65mm、2条ネジの2本のスクリューのL/D=45の同方向回転完全噛み合い型二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX-65αII)を使用し、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数300rpm、押出量200kg/hで溶融混練を行い、吐出口(L/D=45)よりストランド状の溶融樹脂を吐出した。スクリュー構成は、L/D=13の位置から、ニーディングディスク先端側の頂部とその後面側の頂部との角度である螺旋角度θが、スクリューの反回転方向に20°であるツイストニーディングディスクをLk/D=5.0分連結させて、伸張流動しつつ溶融混練するゾーン(伸張流動ゾーン)を形成させた。さらに伸張流動ゾーンの下流側に、L/D=0.5の逆スクリューゾーンを設けた。スクリュー全長に対する伸張流動ゾーンの合計の長さの割合(%)を、(伸張流動ゾーンの合計長さ)÷(スクリュー全長)×100により算出すると、11%であった。また、ツイストニーディングディスクの手前の圧力差(ΔP)から、伸張流動ゾーン内での圧力差(ΔP_(0))を差し引くことにより、伸張流動ゾーン前後における流入効果圧力降下を求めた結果、19.6MPaであった。更にL/D=23および31の位置から、1条ネジでスクリューピッチが0.25Dかつ切り欠き数が1ピッチ当たり12である切り欠き型ミキシングスクリューを、それぞれLm/D=5.0分連結させて、2箇所のミキシングゾーンを形成させた。スクリュー全長に対するミキシングゾーンの合計の長さの割合(%)を、(ミキシングゾーンの合計長さ)÷(スクリュー全長)×100により算出すると、22%であった。またミキシングゾーンを構成する切り欠き型ミキシングスクリューのうち、スクリュー軸の回転方向とは逆廻りのネジ廻り方向であるスクリューの割合(%)は80%とした。ベント真空ゾーンをL/D=38の位置に設け、ゲージ圧力-0.1MPaで揮発成分の除去を行った。吐出樹脂をストランド状に引いて冷却バスを通過させて冷却し、ペレタイザーにより引取りながら裁断することにより、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。
【0073】
得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを、FANUC社製 S-2000i成形機を用いて、成形温度260℃、金型温度80℃、射出速度100mm/秒、スクリュー回転数100rpmの条件で射出成形することにより、長さ127mm、幅10mm、厚み4mmのダンベル型試験片を得た。このとき、金型の溶融樹脂を流し込む箇所を長さ方向の片端とすることにより、ウエルドを有しない引張試験片を作製し、溶融樹脂を流し込む箇所を長さ方向の両端とすることにより、長さ方向の中央部にウエルドを有する引張試験片を作製した。また、前述の引張試験片の平行部から長さ80mmに切り出し、ノッチ加工を行うことにより衝撃試験片を作製した。
【0074】
また、射出速度を20mm/秒とすること以外は前述と同様の条件で射出成形することにより、長さ119mm、幅80mm、厚み2mm、幅方向の中央部にあるゲートから20mm、60mm、100mm距離に直径8mmのスルーホールを有する角板を得た。前述の方法により評価した結果を表1に示す。なお、モルフォロジー観察では、ポリアミド樹脂が連続相(α)、反応性官能基を有するゴム質重合体が分散相(β)を形成すること、分散相(β)中に、ポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体の反応により生成した化合物よりなる粒子径1?100nmの微粒子を有すること、分散相(β)中における微粒子の占める面積が30%であることを確認した。
・・・
【0076】
(比較例2?3)
ポリアミド樹脂Aと、反応性官能基を有するゴム質重合体AまたはBとを表1に示す配合組成で混合し、窒素フローを行いながら、スクリュー径が65mm、2条ネジの2本のスクリューのL/D=45の同方向回転完全噛み合い型二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX-65αII)を使用し、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数300rpm、押出量200kg/hで溶融混練を行い、吐出口(L/D=45)よりストランド状の溶融樹脂を吐出した。スクリュー構成は、L/D=13、23、31の位置から、一般のニーディングディスクを、それぞれL/D=5.0分連結させて、ニーディングゾーンを形成させた。さらにニーディングゾーンの下流側に、L/D=0.5の逆スクリューゾーンを設けた。スクリュー全長に対するニーディングゾーンの合計の長さの割合(%)を、(ニーディングゾーンの合計長さ)÷(スクリュー全長)×100により算出すると、33%であった。ベント真空ゾーンをL/D=38の位置に設け、ゲージ圧力-0.1MPaで揮発成分の除去を行った。吐出樹脂をストランド状に引いて冷却バスを通過させて冷却し、ペレタイザーにより引取りながら裁断することにより、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。
【0077】
得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを、実施例1と同様の条件で射出成形することにより、引張試験片、衝撃試験片、スルーホールに接するウエルドを有する試験片を得た。
【0078】
前述の方法により評価した結果を表1に示す。なお、モルフォロジー観察では、ポリアミド樹脂が連続相(α)、反応性官能基を有するゴム質重合体が分散相(β)であることを確認したが、分散相(β)中に、ポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体の反応により生成した化合物よりなる微粒子は認められなかった。
【0079】
【表1】



エ 検討
(ア)本件発明1について
本件発明1を以下のとおり、熱可塑性樹脂組成物に関連する(a-1)、(a-2)、成形品に関連する(b)に分けて、この順で実施可能要件について検討する。

(a-1)ポリアミド樹脂(A)、および、エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩およびオキサゾリン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有するゴム質重合体(B)を含み、
(a-2)電子顕微鏡観察において、前記ポリアミド樹脂(A)が連続相(α)、前記反応性官能基を有するゴム質重合体(B)が分散相(β)を形成し、かつ、分散相(β)中にポリアミド樹脂(A)と反応性官能基を有するゴム質重合体(B)の反応により生成した化合物よりなる粒子径1?100nmの微粒子を含有し、分散相(β)中における前記微粒子の占める面積が10%以上であるモルフォロジー(以下、「特定のモルフォロジー」という。)を有する熱可塑性樹脂組成物

(b)該熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であって、固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品

(ア-1)(a-1)の点について
「ポリアミド樹脂(A)」について、【0017】?【0022】には、使用できる各種ポリアミド樹脂が例示されており、また、「エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩およびオキサゾリン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有するゴム質重合体(B)」について、【0023】?【0032】には、使用できる各種ゴム質重合体(B)が例示されているから、当業者であれば、これらの中から「ポリアミド樹脂(A)」、「エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩およびオキサゾリン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有するゴム質重合体(B)」を選び、これらを含む熱可塑性樹脂組成物を得ることができるといえる。

(ア-2)(a-2)の点について
まず、上記「特定のモルフォロジー」を有する熱可塑性樹脂組成物を得るためには、材料として、「ポリアミド樹脂(A)と反応性官能基を有するゴム質重合体(B)の反応により生成した化合物」が生成すること、すなわち、両者が反応することが必要である。
この点に関し、「ポリアミド樹脂(A)」について、本件明細書の【0017】には、「アミド結合を有する高分子からなる樹脂のことであり、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる原料とするもの」であることが記載されているから、その末端には、カルボキシル基又はアミノ基を有するといえる。
一方、「ゴム質重合体(B)」は、その「反応性官能基」として、「エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩およびオキサゾリン基」からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有することが特定されている。
そして、技術常識からみて、「反応性官能基を有するゴム質重合体(B)」の反応性官能基として列挙される「エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩およびオキサゾリン基」が「ポリアミド樹脂(A)」のカルボキシル基又はアミノ基と反応できることは、当業者が理解することができるといえる。

次に、上記の材料の組み合わせを用いて、ポリアミド樹脂(A)が連続相(α)、反応性官能基を有するゴム質重合体(B)が分散相(β)を形成し、かつ、分散相(β)中にポリアミド樹脂(A)と反応性官能基を有するゴム質重合体(B)の反応により生成した化合物よりなる粒子径1?100nmの微粒子を含有し、分散相(β)中における前記微粒子の占める面積が10%以上であるモルフォロジーを形成できるかを検討する。
発明の詳細な説明の【0036】?【0052】には、上記「特定のモルフォロジー」を有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法として、調整法(1)?(3)の方法が好ましいことが記載され、その具体的な調整法として、調整法(3)による方法が実施例1に記載され、上記「特定のモルフォロジー」が得られることが確認されている。

(ア-3)(a-1)、(a-2)の点に関する検討のまとめ
してみれば、発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、本件発明にかかる「ポリアミド樹脂(A)」、「エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩およびオキサゾリン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有するゴム質重合体(B)」を選択し、発明の詳細な説明に開示される調整法により、「特定のモルフォロジー」を有する熱可塑性樹脂組成物を作ることができるように記載されているといえる。

(ア-4)(b)の点について
発明の詳細な説明の【0064】には、「得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより、スルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品を得ることができる」と記載され、実施例に関する記載である【0074】及び同段落中で参照する【0073】には、その具体的な射出成形条件が記載されるとともに、スルーホールを有する角板を得たことが記載され、【表1】には、「スルーホールに接するウエルドを有する試験片の測定結果」と記載されているから、当該スルーホールを有する角板は、「スルーホールに接するウエルド」を有するものといえる。
してみれば、(a-1)、(a-2)の点を備える熱可塑性樹脂組成物を、発明の詳細な説明に記載の【0074】、【0073】の記載を参照して、射出成形を行えば、該「熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であって、固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」を製造することができることを当業者が理解することができるといえる。
よって、発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、本件発明1にかかる「熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であって、固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」を作ることができるように記載されているといえる。

そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がなされているものと認められる。

(イ)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を直接引用し、成形品の「スルーホールに接するウエルドの長さ(L[mm])と成形品ウエルド部の厚み(T[mm])の関係(L/T)を規定したものである。
本件発明1を引用する部分については、上記(ア)で述べたとおりである。
そして、「L/T」について、発明の詳細な説明の【0013】には、「本発明の成形品において、スルーホールに接するウエルドの長さ(L[mm])の、ウエルドにおける成形品の厚み(T[mm])に対する比(L/T)は、0.1?100が好ましい。L/Tを0.1以上とすることにより、ウエルドの長さを適度に確保し、成形品の厚みを適度に抑えて流動距離を短くし、溶融樹脂の流動中の冷却を抑制することができるため、ウエルド強度およびウエルド靱性をより向上させることができる。一方、L/Tを100以下とすることにより、ウエルドの長さを適度に抑え、成形品の厚みを適度に確保することができるため、ウエルド靱性をより向上させることができる」ことが記載され、その調整方法として、【0014】には、「L/Tは、例えば、成形品の厚みや、スルーホールの位置など成形品の形状、ゲート位置やゲート数などの成形条件によって所望の範囲に調整することができる」ことが記載されている。
してみれば、発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、本件発明2にかかる「前記スルーホールに接するウエルドの長さ(L[mm])の、成形品ウエルド部の厚み(T[mm])に対する比(L/T)が0.1?100である」成形品を作ることができるように記載されているといえる。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明2を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がなされているものと認められる。

(ウ)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1?2にかかる「成形品」の製造方法であって、射出成形によるものであることを規定するものである。
そして、上記(ア)で述べたように、発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、射出成形により、本件発明1にかかる「熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であって、固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」を作ることができるように記載されているといえるから、本件発明3にかかる「製造方法」も、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、使用できるといえる。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明3を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がなされているものと認められる。

(2)申立理由4について
ア 特許法第36条第6項第1号の考え方について
一般に「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、明細書のサポート要件の存在は、特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。」とされている。(平成17年(行ケ)10042号判決参照。)
以下、この観点に立って検討する。

イ 特許請求の範囲の記載
上記「第2」に記載したとおりである。

ウ 本件明細書の記載
(ア)本件発明の課題
本件発明の課題について、以下の事項が記載されている。

(本7)「【0007】
本発明は、上記のような実情に鑑み、固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品において特に生じやすい割れを抑制することができる、ウエルド靭性に優れた成形品を提供することにある。」

(イ)本件明細書のその他の記載
本件明細書には、上記(ア)で指摘した課題、及び、上記(1)ウに示した記載に加えて、以下の事項が記載されている。

(本8)「【0002】
ポリアミド樹脂は、機械特性、耐熱性、耐薬品性などに優れることから、自動車・車両関連部品、資材・建材部品、スポーツ用品、電気・電子部品などに広く利用されている。これらの用途においては、モジュール化、軽量化に伴い、成形品形状が複雑化され、ウエルドを有する成形品が使用されている。一般的に、射出成形におけるウエルドは、金型キャビティ内に射出された溶融樹脂流が分岐・合流する部位に発生する。このようなウエルドは、溶融樹脂が合流して融着しているものの、樹脂の均一な混合が行われないこともあり、非ウエルドに比べて機械特性が低下しやすい傾向にある。特に、近年の成形品は、小型化や薄肉化に加え、形状の複雑化がさらに進んでいる。中でも、他部品との締結や嵌合を行うための固定手段としてのスルーホールを有する成形品を射出成形により成形する場合、スルーホール近傍で溶融樹脂流が分岐・合流するためウエルドの発生は避けられず、ウエルドを起点に割れが頻発する課題が生じている。ウエルドを起点とする割れを抑制する方法としては、スルーホールの後加工によりウエルドを発生させない方法や、成形品の厚肉化や形状変更などにより割れを抑制する方法などが考えられるが、作業工数の増加や意匠性の低下を伴うため、ウエルド靭性に優れた材料が求められている。」

(本9)「【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品において特に生じやすい割れを抑制することができる、ウエルド靭性に優れた成形品を提供することができる。」

(本10)「【0011】
本発明の成形品は、後述する熱可塑性樹脂組成物からなり、固定手段であるスルーホール(以下、単に「スルーホール」と記載する場合がある)と、スルーホールに接するウエルドを有することを特徴とする。固定手段であるスルーホールとは、締結や嵌合などの後加工により他部品と固定するために用いられる貫通孔を指し、例えば、ネジ孔や金属挿入孔などが挙げられる。スルーホールを有する成形品を射出成形により成形する場合、スルーホール近傍で溶融した熱可塑性樹脂組成物流が分岐・合流するため、スルーホールに接するウエルドが発生する。ここで、本発明におけるウエルドとは、熱可塑性樹脂組成物合流部における合流角θが150°以下である部分を指す。なお、合流角θとは、熱可塑性樹脂組成物合流部におけるそれぞれの熱可塑性樹脂組成物流に対する垂線のなす角度であり、合流角が0°の場合は分岐した熱可塑性樹脂組成物流が正面から合流することを意味し、合流角が180°の場合は分岐した熱可塑性樹脂組成物流が合流しないことを意味する。また、本発明においてウエルドがスルーホールに接するとは、スルーホール側のウエルド端部とスルーホールとの距離が、後述するウエルドの長さ(L)の5%以下であることを指す。スルーホール側のウエルド端部とスルーホールとの距離が0であるときに本発明の効果がより顕著に奏される。かかるウエルドは、割れの起点となりやすい傾向にあるが、本発明においては、後述する特定の熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、スルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品という特定の用途において、ウエルド靱性を向上させ、割れを抑制することができる。以下、スルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品を、単に「成形品」と記載する場合がある。」

(本11)「【0034】
本発明の成形品を構成する熱可塑性樹脂組成物は、電子顕微鏡観察において、前記ポリアミド樹脂(A)が連続相(α)、前記反応性官能基を有するゴム質重合体(B)が分散相(β)を形成し、かつ分散相(β)中にポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体の反応により生成した化合物よりなる粒子径1?100nmの微粒子を含有し、更に分散相(β)中における前記微粒子の占める面積が10%以上であるモルフォロジーを有することを特徴とする。分散相内の構造を前記のように高度に制御することにより、ウエルド靭性に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。分散層(β)中にポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体の反応により生成した化合物よりなる粒子径1?100nmの微粒子を含有することにより、成形品を射出成形する際や成形品に外力がかかった際における分散層(β)の層状変形を抑制することができるため、ウエルド靱性を向上させることができる。分散相(β)中における前記微粒子の占める面積が10%以上であると、かかる効果が顕著に奏される。」

エ 本件発明の技術的意義
サポート要件を検討する前に、本件発明の技術的意義について、以下に検討する。

(ア)本件発明の課題
熱可塑性樹脂組成物合流部における合流角θが150°以下である部分であるウエルドにおいて(なお、合流角θとは、熱可塑性樹脂組成物合流部におけるそれぞれの熱可塑性樹脂組成物流に対する垂線のなす角度である)、溶融樹脂が合流して融着しているものの、樹脂の均一な混合が行われないこともあり、非ウエルドに比べて機械特性が低下しやすい傾向にあり、スルーホールを有する成形品を射出成形により成形する場合、スルーホール近傍で溶融樹脂流が分岐・合流するためウエルドの発生は避けられず、ウエルドを起点に割れが頻発する課題が生じているため、ウエルド靱性に優れた材料が求められていることを前提として(【0002】、【0011】)、
本件発明1及び2は、
「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品において特に生じやすい割れを抑制することができる、ウエルド靭性に優れた成形品を提供する」(【0007】)ことを課題とし、
本件発明3は、
「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品において特に生じやすい割れを抑制することができる、ウエルド靭性に優れた」成形品の製造方法を提供することを課題としている。

(イ)課題を解決するための技術的手段
この課題を解決するため、本件明細書の【0034】には、「分散相(β)中にポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体の反応により生成した化合物よりなる粒子径1?100nmの微粒子を含有し、更に分散相(β)中における前記微粒子の占める面積が10%以上であるモルフォロジーを有することを特徴とする。分散相内の構造を前記のように高度に制御することにより、ウエルド靭性に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。分散層(β)中にポリアミド樹脂と反応性官能基を有するゴム質重合体の反応により生成した化合物よりなる粒子径1?100nmの微粒子を含有することにより、成形品を射出成形する際や成形品に外力がかかった際における分散層(β)の層状変形を抑制することができるため、ウエルド靱性を向上させることができる。分散相(β)中における前記微粒子の占める面積が10%以上であると、かかる効果が顕著に奏される」と記載されている。
そして、上記「特定のモルフォロジー」を有する実施例1が、そのようなモルフォロジーを有しない比較例3と比べて、スルーホールに接するウエルドを有する試験片において、引張最大荷重、引張破断変位がともに改善されていることが具体的に示されている。

(ウ)本件発明の効果
本件発明によれば、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品において特に生じやすい割れを抑制することができる、ウエルド靭性に優れた成形品を提供することができる」(【0009】)という効果を奏すると記載されている。

(エ)本件発明の技術的意義についてまとめ
以上を踏まえると、本件発明の技術的意義とは、上記「特定のモルフォロジー」を有する熱可塑性樹脂組成物により「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」とすることによって、スルーホールに接するウエルドを有する成形品であっても、成形品を射出成形する際や成形品に外力がかかった際における分散層(β)の層状変形を抑制することができるため、ウエルド靱性を向上させることができ、ウエルドにおける割れを抑制することができる、というものである。

オ 検討
本件発明の上記技術的意義をふまえて、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。

上記(1)エ(ア)(ア-1)?(ア-3)で述べたように、「ポリアミド樹脂」と「エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩およびオキサゾリン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有するゴム質重合体(B)」を含み、【0036】?【0052】に記載される調整法によって樹脂組成物を調整すれば、上記「特定のモルフォロジー」を有する熱可塑性樹脂組成物を得ることができると理解することができる。

そして、本件発明1?3には、上記「特定のモルフォロジー」を有する「熱可塑性樹脂組成物からなる成形品」と特定されており、上記エ(イ)で述べたとおり、本件明細書には、「特定のモルフォロジー」を有する熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であると、ウエルド靱性が向上できる作用機序が記載され、実施例でも具体的に確認されていることから、当該特定事項を有すれば、上記技術的意義を有し、本件発明の課題を解決できることを当業者が理解することができるといえる。

よって、本件発明1?3は、発明の詳細な説明に記載したものである。

(3)申立人の主張の検討
ア 主張の内容
申立人は、以下の点を主張している。

本件特許の請求項1では、ゴム質重合体(B)の有する反応性官能基は、「エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩およびオキサゾリン基からなる群より選ばれる」ことが規定されているものの、実施例で実際に使用して効果を示しているものは、「エポキシ基」及び「カルボキシル基、カルボキシル金属塩」にすぎない。反応性官能基が「酸無水物基」、「アミノ基」、「オキサゾリン基」の場合については、本件特許の明細書の実施例で実際に使用して効果を検証しておらず、また、「エポキシ基」及び「カルボキシル基、カルボキシル金属塩」と「酸無水物基」、「アミノ基」、「オキサゾリン基」との間には、基の性質に共通点は何ら存在しないため、「エポキシ基」及び「カルボキシル基、カルボキシル金属塩」が効果を有するとしても、それをもって「酸無水物基」、「アミノ基」、「オキサゾリン基」までもが同様の効果を有すると類推することができない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されていない発明を包含している。

イ 検討
上記主張について検討する。
申立人は、「エポキシ基」及び「カルボキシル基、カルボキシル金属塩」と「酸無水物基」、「アミノ基」、「オキサゾリン基」との間には、基の性質に共通点は何ら存在しないと主張しているが、上記(1)エ(ア)で述べたとおり、ポリアミド樹脂が有するアミノ基又はカルボキシル基と反応し得る官能基という共通点を有しているし、この材料を用いて特定のモルフォロジーを生じる調整法が発明の詳細な説明の【0036】?【0052】に記載され、実施例で「特定のモルフォロジー」を生じていることが確認されている。また、上記(2)エ(イ)で述べたように、発明の詳細な説明の【0034】の記載から、「特定のモルフォロジー」を生じることにより、本件発明の課題を解決できると当業者が認識することができるといえる。
これに対して、申立人は、「エポキシ基」及び「カルボキシル基、カルボキシル金属塩」が効果を有するとしても、それをもって「酸無水物基」、「アミノ基」、「オキサゾリン基」までも同様の効果を有すると類推することができないとすべき具体的な反証を挙げた上で、発明の課題が解決できると認識できないこと、及び、発明を実施することができないことを主張している訳ではない。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。

(4)申立理由3及び4のまとめ
よって、申立人が主張する申立理由3及び4は、いずれも理由がない。


2 申立理由1及び2について
(1)各甲号証及び参考資料の記載、並びに、各甲号証に記載された発明
ア 甲1
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】
下記(I)または(II)の熱可塑性樹脂組成物を押出機により製造する際、伸張流動しつつ溶融混練した後に切り欠き型ミキシングスクリューで溶融混練することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(I)熱可塑性樹脂(A)および反応性官能基を有する樹脂(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物
(II)熱可塑性樹脂(A)、熱可塑性樹脂(A)とは異なる熱可塑性樹脂(C)および反応性官能基を有する化合物(D)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
・・・
【請求項12】
熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド樹脂・・・から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
・・・
【請求項14】
反応性官能基を有する樹脂(B)が、反応性官能基を有するゴム質重合体・・・から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?13のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
反応性官能基を有する樹脂(B)の反応性官能基が、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩、エポキシ基、酸無水物基、およびオキサゾリン基から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?14のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
・・・
【請求項17】
熱可塑性樹脂(A)がポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1?16のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
・・・
【請求項20】
請求項1?19のいずれかに記載の製造方法により得られる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項21】
請求項20記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【請求項22】
成形品がフィルム、シートおよび繊維から選ばれる少なくとも1種である請求項21記載の成形品。」

(1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、スクリュー長さLとスクリュー直径Dの比L/Dが短い汎用の大型押出機で処理量を増加させても、発熱による樹脂劣化を抑制し、かつ耐熱性・耐衝撃性のバランス、衝撃吸収性等に優れる熱可塑性樹脂組成物を得るための製造方法を提供することを課題とする。」

(1c)「【発明の効果】
【0011】
本発明から、スクリュー長さLとスクリュー直径Dの比L/Dが短い汎用の大型押出機で処理量を増加させても、発熱による樹脂劣化を抑制し、かつ耐熱性・耐衝撃性のバランス、衝撃吸収性等に優れる熱可塑性樹脂組成物を得るための製造方法を提供することが可能となる。」

(1d)「【0070】
本発明により製造される熱可塑性樹脂組成物は、高速変形ほど柔軟になるという非粘弾性特性が顕著に発現し、大荷重、高速度の衝撃を受けた際にも、対象物に与える最大荷重が低く破壊を起こさずに大きなエネルギーを吸収することができる。」

(1e)「【0083】
本発明により製造される熱可塑性樹脂組成物の成形方法は、任意の方法が可能であり、成形形状は、任意の形状が可能である。成形方法としては例えば、押出成形、射出成形、中空成形、カレンダ成形、圧縮成形、真空成形、発泡成形等が可能であり、ペレット状、板状、フィルム又はシート状、パイプ状、中空状、箱状等の形状に成形することができる。
【0084】
このようにして得られた本発明の成形品は、耐衝撃性、耐熱性、衝撃吸収性に優れるが、特に薄厚の成形品や細長の成形品、繊維やフィルムの場合、格別の効果を有するものである。
【0085】
本発明により製造される熱可塑性樹脂組成物から繊維を製造する場合には、公知の紡糸・延伸技術を使用することができる。延伸・紡糸技術としては、例えば、溶融紡糸した糸や押出機から吐出されたストランドを、一旦巻き取ってから延伸する方法や、溶融紡糸した糸や押出機から吐出されたストランドを一旦巻き取ることなく連続して延伸する方法等が利用される。
【0086】
本発明により製造される熱可塑性樹脂組成物からフィルムを製造する場合には、公知のフィルム成形技術を使用することができる。例えば、押出機にTダイを配置してフラットフィルムを押し出す方法や、さらにこのフィルムを一軸または二軸方向に延伸して延伸フィルムを得る方法や、押出機にサーキュラーダイを配置して円筒状フィルムをインフレートするインフレーション法などの方法が利用される。
【0087】
また、本発明を二軸押出機で実施する場合には、その二軸押出機から直接、前記の製糸工程または製膜工程を実施するようにしても良い。
【0088】
本発明により製造される熱可塑性樹脂組成物の成形体の用途は、コネクター、コイルをはじめとして、センサー、LEDランプ、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電機・電子部品用途に適している他、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品用途、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク、DVD等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品、パソコン等の電子機器筐体に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・冷却系・ブレーキ系・ワイパー系・排気系・吸気系各種パイプ・ホース・チューブ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、電池周辺部品、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクター、ドアグロメットコネクター、ヒューズ用コネクター等の各種コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、トルクコントロールレバー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウオッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、サンバイザーブラケット、インストルメントパネル、エアバッグ周辺部品、ドアパッド、ピラー、コンソールボックス、各種モーターハウジング、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ドアパネル、ルーフパネル、フードパネル、トランクリッド、ドアミラーステー、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、グリルエプロンカバーフレーム、ランプベゼル、ドアハンドル、ドアモール、リアフィニッシャー、ワイパー等の自動車・車両関連部品等に好適に使用される。
【0089】
本発明の熱可塑性樹脂組成物はフィルムおよびシート用途としても好適であり、包装用フィルムおよびシート、自動車部材用フィルムおよびシート、工業用フィルムおよびシート、農業・土木用フィルムおよびシート、医療用フィルムおよびシート、電気・電子機器部材用フィルムおよびシート、生活雑貨用フィルムおよびシート等に好適に使用される。
【0090】
本発明により製造される熱可塑性樹脂組成物は、繊維としても好適であり、長繊維、短繊維、モノフィラメント、捲縮加工糸等のいずれでも良く、用途としても、ユニフォーム、ワーキングウェア、スポーツウェア、Tシャツ等の衣料用、ネット、ロープ、スパンボンド、研磨ブラシ、工業ブラシ、フィルター、抄紙網等の一般資材・産業資材・工業資材用、毛布、布団側地、カーテン等の寝装・インテリア用品用、歯ブラシ、ボディブラシ、眼鏡フレーム、傘、カバー、買い物袋、風呂敷等の生活雑貨用等に好適に使用される。
【0091】
本発明により製造される熱可塑性樹脂組成物は、ノートパソコン等の電子機器筐体、電機・電子部品等にも好適に使用される。
【0092】
本発明により製造される熱可塑性樹脂組成物は、自動車内外装部品、自動車外板等にも好適に使用される。
【0093】
本発明により製造される熱可塑性樹脂組成物は、建材としても好適であり、土木建築物の壁、屋根、天井材関連部品、窓材関連部品、断熱材関連部品、床材関連部品、免震・制振部材関連部品、ライフライン関連部品等にも好適に使用される。
【0094】
本発明により製造される熱可塑性樹脂組成物は、スポーツ用品としても好適であり、ゴルフクラブやシャフト、グリップ、ゴルフボール等のゴルフ関連用品、テニスラケットやバトミントンラケットおよびそのガット等のスポーツラケット関連用品、アメリカンフットボールや野球、ソフトボール等のマスク、ヘルメット、胸当て、肘当て、膝当て等のスポーツ用身体保護用品、スポーツウェア等のウェア関連用品、スポーツシューズの底材等のシューズ関連用品、釣り竿、釣り糸等の釣り具関連用品、サーフィン等のサマースポーツ関連用品、スキー・スノーボード等のウィンタースポーツ関連用品、その他インドアおよびアウトドアスポーツ関連用品等にも好適に使用される。」

(1f)「【実施例】
【0095】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0096】
本実施例および比較例に用いた熱可塑性樹脂(A)は以下の通りである。
(A-1):融点225℃、98%硫酸中0.01g/mlでの相対粘度2.75、アミノ末端基量5.8×10^(-5)mol/g、カルボキシル末端基量5.8×10^(-5)mol/gのポリアミド6樹脂。
・・・
【0097】
同様に、反応性官能基を有する樹脂(B)は以下の通りである。
(B-1):グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体「ボンドファースト BF-7L」(住友化学社製)。
・・・
【0100】
同様に、(A)(B)(C)(D)以外の成分は以下の通りである。
・・・
(F-1):熱安定剤「IR1098」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)。
(F-2):熱安定剤「IR1010」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)。
(F-3):熱安定剤「PEP36」(ADEKA社製)。
(F-4):熱安定剤「AO80」(ADEKA社製)。
【0101】
(1-1)試験片の射出成形
日精樹脂工業社製射出成形機(NP7-1F)を用いて、成形温度260℃(実施例17、24および比較例8、15では280℃、実施例19、20および比較例10、11では220℃、実施例21および比較例12では310℃、実施例25、28および比較例16、19では200℃、実施例26、27および比較例17、18では300℃、実施例39?54、比較例28?35では290℃)、金型温度80℃(実施例24、27および比較例15、18では130℃)、射出圧力下限圧+5kgf/cm^(2)の条件により、JIS-5Aダンベル型試験片(長さ75mm×端部幅12.5mm×厚さ2mm)およびJIS-1号短冊型試験片(長さ80mm×幅10mm×厚さ4mm)を作製した。
【0102】
(1-2)引張試験による引張弾性率および引張破断伸度の評価
射出成形により得られたJIS-5Aダンベル型試験片を、オートグラフAG100kNG(島津製作所製)に供し、チャック間距離を50mmとし、100mm/min、500mm/min、1000mm/minの速度で、引張試験を実施し、各速度における引張弾性率および引張破断伸度を評価した。なお、引張破断伸度は、チャック間距離50mmを基準とした破断伸度とした。
【0103】
(1-3)衝撃強度の評価
射出成形により得られたJIS-1号短冊型試験片を、東洋精機社製シャルピー衝撃試験機611に供し、ISO179に従い、50%RHにおけるシャルピー衝撃試験を実施した。測定は23℃、-20℃、-30℃で実施した。
【0104】
(1-4)荷重たわみ温度の評価
射出成形により得られたJIS-1号短冊型試験片を、東洋精機社製HDTテスターS3-MHに供し、23℃、50%RHの条件で48時間調湿したサンプルについて、ISO75-1,2に従い荷重たわみ温度(荷重0.45MPa、1.80MPa)を測定した。
【0105】
実施例1?10、17?30、33?36、39?48、比較例7
表1、2、3、4、5、8、9、10に示す配合組成で混合し、窒素フローを行いながら、スクリュー径が65mm、スクリューは2条ネジの2本のスクリューのL/D=45の同方向回転完全噛み合い型二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX-65αII)を使用し、表1、2、3、4、5、8、9、10に示すシリンダー温度、スクリュー回転数、押出量で溶融混練を行い、吐出口(L/D=45)よりストランド状の溶融樹脂を吐出した。その際、原料と共に着色剤を投入し、押出物への着色が最大となる時間を滞留時間として測定し、その滞留時間を表1、2、3、4、5、8、9、10に示した。またスクリュー構成はAとして、L/D=13の位置から、ニーディングディスク先端側の頂部とその後面側の頂部との角度である螺旋角度θが、スクリューの半回転方向に20°としたツイストニーディングディスクをLk/D=5.0分連結させて、伸張流動しつつ溶融混練するゾーン(伸張流動ゾーン)を形成させた。さらに伸張流動ゾーンの下流側に、L/D=0.5の逆スクリューゾーンを設けた。スクリュー全長に対する伸張流動ゾーンの合計の長さの割合(%)を、(伸張流動ゾーンの合計長さ)÷(スクリュー全長)×100により算出すると、11%であった。また、ツイストニーディングディスクの手前の圧力差(ΔP)から、伸張流動ゾーン内での圧力差(ΔP_(0))を差し引くことで、伸張流動ゾーン前後での流入効果圧力降下を求めた結果、200kg/cm^(2)であった。更にL/D=23および31の位置から、1条ネジでスクリューピッチが0.25Dかつ切り欠き数が1ピッチ当たり12である切り欠き型ミキシングスクリューを、それぞれLm/D=5.0分連結させて、2箇所のミキシングゾーンを形成させた。スクリュー全長に対するミキシングゾーンの合計の長さの割合(%)を、(ミキシングゾーンの合計長さ)÷(スクリュー全長)×100により算出すると、22%であった。またミキシングゾーンを構成する切り欠き型ミキシングスクリューのうち、スクリュー軸の回転方向とは逆廻りのネジ廻り方向であるスクリューの割合(%)は80%とした。ベント真空ゾーンはL/D=38の位置に設け、ゲージ圧力-0.1MPaで揮発成分の除去を行った。ダイヘッドを通過して4mmφ×23ホールから吐出された溶融樹脂は温度計で樹脂温度を測定し、またゲル化物の有無を目視で確認した。その後、吐出樹脂はストランド状に引いて冷却バスを通過させて冷却し、ペレタイザーにより引取りながら裁断することにより、熱可塑性樹脂組成物のペレット状のサンプルを得た。該サンプルを80℃で12時間以上真空乾燥後、前記した射出成形を実施し、各種評価を行った。混練条件および各種評価結果を表1、2、3、4、5、8、9、10に示す。」

(1g)「【表1】



(イ)甲1に記載された発明
甲1の実施例2に着目すると、【0096】?【0100】に用いる材料が記載され、【表1】に配合組成が記載され、溶融混練の条件が【0105】、【表1】に記載され、溶融混練し、ペレット状のサンプルを作成した後に該ペレット状のサンプルから製造する試験片の射出成形の条件が【0101】に記載されているから、以下の発明が記載されているといえる。

「(A-1):融点225℃、98%硫酸中0.01g/mlでの相対粘度2.75、アミノ末端基量5.8×10^(-5)mol/g、カルボキシル末端基量5.8×10^(-5)mol/gのポリアミド6樹脂を70重量部、
(B-1):グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体「ボンドファースト BF-7L」(住友化学社製)を30重量部、
(F-1):熱安定剤「IR1098」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.2重量部、及び
(F-2):熱安定剤「IR1010」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.2重量部
の各成分を各配合組成で混合し、
窒素フローを行いながら、スクリュー径が65mm、スクリューは2条ネジの2本のスクリューのL/D=45の同方向回転完全噛み合い型二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX-65αII)を使用し、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数350rpm、押出量250kg/hで溶融混練を行い、吐出口(L/D=45)よりストランド状の溶融樹脂を吐出樹脂温度344℃で吐出することにより得られる溶融樹脂であって、
該溶融樹脂を製造する押出機の条件として、
原料と共に着色剤を投入し、押出物への着色が最大となる時間を滞留時間として測定し、その滞留時間を80秒とし、
また、スクリュー構成はAとして、L/D=13の位置から、ニーディングディスク先端側の頂部とその後面側の頂部との角度である螺旋角度θが、スクリューの半回転方向に20°としたツイストニーディングディスクをLk/D=5.0分連結させて、伸張流動しつつ溶融混練するゾーン(伸張流動ゾーン1箇所)を形成させ、さらに伸張流動ゾーンの下流側に、L/D=0.5の逆スクリューゾーンを設け、スクリュー全長に対する伸張流動ゾーンの合計の長さの割合(%)を、(伸張流動ゾーンの合計長さ)÷(スクリュー全長)×100により算出すると、11%であり、また、ツイストニーディングディスクの手前の圧力差(ΔP)から、伸張流動ゾーン内での圧力差(ΔP_(0))を差し引くことで、伸張流動ゾーン前後での流入効果圧力降下を求めた結果、200kg/cm^(2)である条件であり、
更にL/D=23および31の位置から、1条ネジでスクリューピッチが0.25Dかつ切り欠き数が1ピッチ当たり12である切り欠き型ミキシングスクリューを、それぞれLm/D=5.0分連結させて、2箇所のミキシングゾーンを形成させ、その際、スクリュー全長に対するミキシングゾーンの合計の長さの割合(%)を、(ミキシングゾーンの合計長さ)÷(スクリュー全長)×100により算出すると、22%であり、またミキシングゾーンを構成する切り欠き型ミキシングスクリューのうち、スクリュー軸の回転方向とは逆廻りのネジ廻り方向であるスクリューの割合(%)は80%とし、
ベント真空ゾーンはL/D=38の位置に設け、ゲージ圧力-0.1MPaで揮発成分の除去を行うものであり、
該溶融樹脂は、ダイヘッドを通過して4mmφ×23ホールから吐出されることによって得られたものであり、
当該溶融樹脂をストランド状に引いて冷却バスを通過させて冷却し、ペレタイザーにより引取りながら裁断することにより、熱可塑性樹脂組成物のペレット状のサンプルを得た上、
該サンプルを80℃で12時間以上真空乾燥後、
成形温度260℃、金型温度80℃、射出圧力下限圧+5kgf/cm^(2)の条件により射出成形することにより作製した試験片」(以下、「甲1発明」という。)

イ 甲2
(ア)甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(2a)「【請求項1】
ポリアミド樹脂を含む樹脂(A)100重量部に対して、芳香族オキシカルボニル単位(S)、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位(T)、および芳香族ジカルボニル単位(U)から選ばれる少なくとも1種の構造単位と3官能以上の有機残基(D)とを含み、かつ、Dの含有量が樹状ポリエステルを構成する全単量体に対して7.5?50モル%の範囲である樹状ポリエステル樹脂(B)0.01?180重量部、および酸無水物(C)0.01?30重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物。
・・・
【請求項4】
ポリアミド樹脂を含む樹脂(A)がポリアミド樹脂(A1)と反応性官能基を有する樹脂(A2)を配合してなり、電子顕微鏡で観察されるモルホロジーにおいて、ポリアミド樹脂(A1)が連続相、反応性官能基を有する樹脂(A2)が分散相を形成し、かつ分散相(A2)中に(A1)と(A2)の反応により生成した化合物よりなる粒子径1?100nmの微粒子を含有し、更に分散相(A2)中における前記微粒子の占める面積が20%以上であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
反応性官能基を有する樹脂(A2)が、反応性官能基を有するゴム質重合体であることを特徴とする請求項4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
反応性官能基を有する樹脂(A2)の反応性官能基が、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩、エポキシ基、酸無水物基、オキサゾリン基から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4または5に記載のポリアミド樹脂組成物。」

(2b)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、流動性と機械特性のバランスに優れるポリアミド樹脂組成物およびその製造方法を提供することを課題とする。」

(2c)「【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、流動性と機械特性のバランスに優れるポリアミド樹脂組成物を提供することができる。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、通常の射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、押出成形、プレス成形などの成形方法によって、優れた表面外観(色調)、機械的性質を有する成形品、シート、パイプ、フィルム、繊維などに加工することが可能である。」

(2d)「【0085】
・・・逆に反応を進行させることができ、高速引張時の衝撃吸収性、耐衝撃性、耐熱性をより大きくできる。・・・」

(2e)「【0167】
本発明では酸無水物(C)を配合することで、ポリアミド樹脂を含む樹脂(A)に樹状ポリエステル樹脂(B)のみを配合したポリアミド樹脂組成物と比較すると、樹状ポリエステル樹脂(B)の添加量が少なくても十分な流動性向上効果を発現でき、耐加水分解性、ウエルド特性、成形時寸法安定性、成形時突き出しピンによる変形性も改良される。」

(2f)「【0186】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、通常公知の射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することができ、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、シート、繊維などとして利用でき、フィルムとしては、未延伸、一軸延伸、二軸延伸などの各種フィルムとして、繊維としては、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維として利用することができる。特に、本発明においては流動性に優れる点を活かして、自動車部品等の大型射出成形品や厚み0.01?1.0mmの薄肉部位を有する射出成形品に加工することが可能である。
【0187】
本発明において、上記各種成形品は、自動車部品、電子機器筐体、電気・電子部品、建材、スポーツ用品、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。具体的な用途としては、エアフローメーター、エアポンプ、サーモスタットハウジング、エンジンマウント、イグニッションホビン、イグニッションケース、クラッチボビン、センサーハウジング、アイドルスピードコントロールバルブ、バキュームスイッチングバルブ、ECUハウジング、バキュームポンプケース、インヒビタースイッチ、回転センサー、加速度センサー、ディストリビューターキャップ、コイルベース、ABS用アクチュエーターケース、ラジエータタンクのトップ及びボトム、クーリングファン、ファンシュラウド、エンジンカバー、シリンダーヘッドカバー、オイルキャップ、オイルパン、オイルフィルター、フューエルキャップ、フューエルストレーナー、ディストリビューターキャップ、ベーパーキャニスターハウジング、エアクリーナーハウジング、タイミングベルトカバー、ブレーキブースター部品、各種ケース、各種チューブ、各種タンク、各種ホース、各種クリップ、各種バルブ、各種パイプなどの自動車用アンダーフード部品、トルクコントロールレバー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウオッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、サンバイザーブラケット、各種モーターハウジングなどの自動車用内装部品、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ドアミラーステー、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、グリルエプロンカバーフレーム、ランプリフレクター、ランプベゼル、ドアハンドルなどの自動車用外装部品、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクター、ドアグロメットコネクターなど各種自動車用コネクター、リレーケース、コイルボビン、光ピックアップシャーシ、モーターケース、ノートパソコンハウジングおよび内部部品、CRTディスプレーハウジングおよび内部部品、プリンターハウジングおよび内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型モバイルなどの携帯端末ハウジングおよび内部部品、記録媒体(CD、DVD、PD、FDDなど)ドライブのハウジングおよび内部部品、コピー機のハウジングおよび内部部品、ファクシミリのハウジングおよび内部部品、パラボラアンテナなどに代表される電気・電子部品を挙げることができる。またノートパソコン等の電子機器筐体にも好適である。更に、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、ビデオカメラ、プロジェクターなどの映像機器部品、レーザーディスク(登録商標)、コンパクトディスク(CD)、CD-ROM、CD-R、CD-RW、DVD-ROM、DVD-R、DVD-RW、DVD-RAM、ブルーレイディスクなどの光記録媒体の基板、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品、などに代表される家庭・事務電気製品部品を挙げることができる。また電子楽器、家庭用ゲーム機、携帯型ゲーム機などのハウジングや内部部品、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEPランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドホン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、トランス部材、コイルボビンなどの電気・電子部品、サッシ戸車、ブラインドカーテンパーツ、配管ジョイント、カーテンライナー、ブラインド部品、ガスメーター部品、水道メーター部品、湯沸かし器部品、ルーフパネル、断熱壁、アジャスター、プラ束、天井釣り具、階段、ドアー、床などの建築部材、釣り糸、漁網、海藻養殖網、釣り餌袋などの水産関連部材、植生ネット、植生マット、防草袋、防草ネット、養生シート、法面保護シート、飛灰押さえシート、ドレーンシート、保水シート、汚泥・ヘドロ脱水袋、コンクリート型枠などの土木関連部材、歯車、ねじ、バネ、軸受、レバー、キーステム、カム、ラチェット、ローラー、給水部品、玩具部品、結束バンド、クリップ、ファン、テグス、パイプ、洗浄用治具、モーター部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などの機械部品、マルチフィルム、トンネル用フィルム、防鳥シート、植生保護用不織布、育苗用ポット、植生杭、種紐テープ、発芽シート、ハウス内張シート、農ビの止め具、緩効性肥料、防根シート、園芸ネット、防虫ネット、幼齢木ネット、プリントラミネート、肥料袋、試料袋、土嚢、獣害防止ネット、誘因紐、防風網などの農業部材、紙おむつ、生理用品包材、綿棒、おしぼり、便座ふきなどの衛生用品、医療用不織布(縫合部補強材、癒着防止膜、人工器官補修材)、創傷被服材、キズテープ包帯、貼符材基布、手術用縫合糸、骨折補強材、医療用フィルムなどの医療用品、カレンダー、文具、衣料、食品等の包装用フィルム、トレイ、ブリスター、ナイフ、フォーク、スプーン、チューブ、プラスチック缶、パウチ、コンテナー、タンク、カゴなどの容器・食器類、ホットフィル容器類、電子レンジ調理用容器類化粧品容器、ラップ、発泡緩衝剤、紙ラミ、シャンプーボトル、飲料用ボトル、カップ、キャンディ包装、シュリンクラベル、蓋材料、窓付き封筒、果物かご、手切れテープ、イージーピール包装、卵パック、HDD用包装、コンポスト袋、記録メディア包装、ショッピングバック、電気・電子部品等のラッピングフィルムなどの容器・包装、天然繊維複合、ポロシャツ、Tシャツ、インナー、ユニホーム、セーター、靴下、ネクタイなどの各種衣料、カーテン、イス貼り地、カーペット、テーブルクロス、布団地、壁紙、ふろしきなどのインテリア用品、キャリアーテープ、プリントラミ、感熱孔版印刷用フィルム、離型フィルム、多孔性フィルム、コンテナバッグ、クレジットカード、キャッシュカード、IDカード、ICカード、紙、皮革、不織布等のホットメルトバインダー、磁性体、硫化亜鉛、電極材料等粉体のバインダー、光学素子、導電性エンボステープ、ICトレイ、ゴルフティー、ゴミ袋、レジ袋、各種ネット、歯ブラシ、文房具、水切りネット、ボディタオル、ハンドタオル、お茶パック、排水溝フィルター、クリアファイル、コート剤、接着剤、カバン、イス、テーブル、クーラーボックス、クマデ、ホースリール、プランター、ホースノズル、食卓、机の表面、家具パネル、台所キャビネット、ペンキャップ、ガスライターなどとして有用である。またスポーツ用品としても好適であり、ゴルフクラブやシャフト、グリップ、ゴルフボール等のゴルフ関連用品、テニスラケットやバトミントンラケットおよびそのガット等のスポーツラケット関連用品、アメリカンフットボールや野球、ソフトボール等のマスク、ヘルメット、胸当て、肘当て、膝当て等のスポーツ用身体保護用品、スポーツウェア等のウェア関連用品、スポーツシューズの底材等のシューズ関連用品、釣り竿、釣り糸等の釣り具関連用品、サーフィン等のサマースポーツ関連用品、スキー・スノーボード等のウィンタースポーツ関連用品、その他インドアおよびアウトドアスポーツ関連用品等にも好適に使用される。」

(2g)「【実施例】
【0188】
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明の骨子は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0189】
(1)射出成形
(1-1)参考例13?30、実施例18?43、70?95、比較例24?44、61?81の引張試験片
日精樹脂工業社製射出成形機(NP7-1F)を用いて、表に記載のシリンダー温度、金型温度に設定し、射出圧力下限圧+5kgf/cm^(2)の条件により、JIS-5Aダンベル型試験片(長さ75mm×端部幅12.5mm×厚さ2mm)を作製した。
【0190】
(1-2)参考例31?41、実施例1?17、55?69、比較例1?23、45?60の引張試験片、曲げ試験片、Izod衝撃試験片
住友重機社製射出成形機(SG75H-MIV)を用いて、表に記載のシリンダー温度、金型温度に設定し、射出圧力下限圧+5kgf/cm^(2)の条件により、ASTM1号ダンベル型試験片、1/2”×5”×1/4”の棒状試験片および1/8インチノッチ付きIzod衝撃試験片を作製した。
【0191】
(2)モルホロジー観察
射出成形により得られたJIS-5Aダンベル型試験片の断面方向中心部を1?2mm角に切削し、四酸化ルテニウムで反応性官能基を有する樹脂(A2)を染色後、0.1μm以下(約80nm)の超薄切片をウルトラミクロトームにより-196℃で切削し、3万5千倍に拡大して透過型電子顕微鏡で観察した。得られた画像について、基本構造および分散相(A2)内の1?100nmの微粒子の有無を確認し、更に分散相中における微粒子の占める面積は、Scion Corporation社製画像解析ソフト「Scion Image」を使用し算出した。
【0192】
(3)流動性
住友重機社製射出成形機(SG75H-MIV)を用いて、表に記載のシリンダー温度、金型温度に設定し、射出圧力を30MPaに設定し、200mm長×10mm幅×1mm厚の棒流動試験片を用い、保圧0での棒流動長を測定した。流動長が大きいほど流動性に優れることを示している。
【0193】
(4)引張弾性率および引張破断伸度の評価
射出成形により得られたJIS-5Aダンベル型試験片を、オートグラフAG100kNG(島津製作所製)に供し、チャック間距離を50mmとし、100mm/min、500mm/min、1000mm/minの速度で、引張試験を実施し、各速度における引張弾性率および引張破断伸度を評価した。なお、引張破断伸度は、チャック間距離50mmを基準とした破断伸度とした。
【0194】
(5)引張強度の評価
射出成形により得られたASTM1号ダンベル型試験片を用いて、テンシロンUTA-2.5T(オリエンテック社製)に供し、ASTM-D638に準じて、23℃、湿度50%の雰囲気下で、評点間距離114mm、歪み速度10mm/minで引張試験を行い評価した。
【0195】
(6)曲げ弾性率の評価
射出成形により得られた1/2”×5”×1/4”の棒状試験片を用いて、テンシロンRTA-1T(オリエンテック社製)に供し、ASTMーD790に準じて、23℃、湿度50%の雰囲気下で、試料評点間距離100mm、歪み速度3mm/minで曲げ試験を行い評価した。
【0196】
(7)衝撃強度の評価
射出成形により得られた1/8インチノッチ付きIzod衝撃試験片を用いて、ASTMーD256に従い、23℃、湿度50%の雰囲気下でIzod衝撃強度を評価した。
【0197】
参考例1
撹拌翼および留出管を備えた500mLの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸51.93g(0.38モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル19.1g(0.10モル)、テレフタル酸5.86g(0.035モル)、トリメシン酸21.2g(0.10モル)、安息香酸5.55g(0.045モル)、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレ-ト11.3g(0.059モル)および無水酢酸65.3g(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で2時間反応させた。3時間かけて290℃まで昇温した後、重合温度を290℃に保持したまま30分で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、撹拌トルクが2.5kg・cmに到達したところで重合反応を停止し内容物を水中に吐出した。得られた樹状ポリエステル(B-1)は、110℃で4時間加熱乾燥した後ブレンダーを用いて粉砕し、エタノールおよび脱イオン水で洗浄した。その後、真空加熱乾燥機を用いて110℃で16時間真空乾燥し、得られた粉体状樹状ポリエステルを各種測定に供した。
【0198】
得られた樹状ポリエステル(B-1)について核磁気共鳴スペクトル分析を行った結果、トリメシン酸含有量は14モル%であった。
【0199】
核磁気共鳴スペクトルは、サンプルをペンタフルオロフェノール50重量%:重クロロホルム50重量%混合溶媒に溶解し、40℃でプロトン核の核磁気共鳴スペクトル分析を行った。p-オキシベンゾエート単位由来の7.44ppmおよび8.16ppmのピーク、4,4’-ジオキシビフェニル単位由来の7.04ppm、7.70ppmのピーク、テレフタレート単位由来の8.31ppmのピーク、エチレンオキシド単位由来の4.75ppmのピーク、トリメシン酸由来の9.25ppmのピークが検出された。各ピークの面積強度比から、トリメシン酸含有量を算出し、小数点以下は四捨五入した。
【0200】
得られた樹状ポリエステルの融点は235℃、液晶開始温度は191℃で数平均分子量12500であった。高化式フローテスターを用い、温度270℃、剪断速度100/sで測定した溶融粘度は18Pa・sであった。
【0201】
なお、融点(Tm)は示差走査熱量測定において、ポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)とした。
【0202】
液晶開始温度は、剪断応力加熱装置(CSS-450)により剪断速度100(1/秒)、昇温速度5.0℃/分、対物レンズ60倍において測定し、視野全体が流動開始する温度として測定した。
【0203】
また、分子量は以下の条件で、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)法により測定した。
カラム :K-806M(2本)、K-802(1本)(昭和電工)
溶媒 :ペンタフルオロフェノール/クロロホルム=35/65(重量%)
流速 :0.8mL/min
試料濃度:0.08%(wt/vol)
注入量 :0.200mL
温度 :23℃
検出器 :示差屈折率(RI)検出器(東ソー製RI-8020)
校正曲線:単分散ポリスチレンによる校正曲線を使用。」

(2h)「【0222】
参考例25、26
表2に示す配合組成で混合し、窒素フローを行いながら、スクリュー径が65mm、スクリューは2条ネジの2本のスクリューのL/D=45の同方向回転完全噛み合い型二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX-65αII)を使用し、表2に示すシリンダー温度、スクリュー回転数、押出量で溶融混練を行い、吐出口(L/D=45)よりストランド状の溶融樹脂を吐出した。その際のスクリュー構成はBとして、L/D=13の位置から、ニーディングディスク先端側の頂部とその後面側の頂部との角度である螺旋角度θが、スクリューの半回転方向に20°としたツイストニーディングディスクをLk/D=5.0分連結させて、伸張流動しつつ溶融混練するゾーン(伸張流動ゾーン)を形成させた。さらに伸張流動ゾーンの下流側に、L/D=0.5の逆スクリューゾーンを設けた。スクリュー全長に対する伸張流動ゾーンの合計の長さの割合(%)を、(伸張流動ゾーンの合計長さ)÷(スクリュー全長)×100により算出すると、11%であった。また、ツイストニーディングディスクの手前の圧力差(ΔP)から、伸張流動ゾーン内での圧力差(ΔP_(0))を差し引くことで、伸張流動ゾーン前後での流入効果圧力降下を求めた結果、200kg/cm^(2)(19.6MPa)であった。更にL/D=23および31の位置から、1条ネジでスクリューピッチが0.25Dかつ切り欠き数が1ピッチ当たり12である切り欠き型ミキシングスクリューを、それぞれLm/D=5.0分連結させて、2箇所のミキシングゾーンを形成させた。スクリュー全長に対するミキシングゾーンの合計の長さの割合(%)を、(ミキシングゾーンの合計長さ)÷(スクリュー全長)×100により算出すると、22%であった。またミキシングゾーンを構成する切り欠き型ミキシングスクリューのうち、スクリュー軸の回転方向とは逆廻りのネジ廻り方向であるスクリューの割合(%)は80%とした。ベント真空ゾーンはL/D=38の位置に設け、ゲージ圧力-0.1MPaで揮発成分の除去を行った。ダイヘッドを通過して4mmφ×23ホールから吐出された溶融樹脂は温度計で樹脂温度を測定し、またゲル化物の有無を目視で確認した。その後、吐出樹脂はストランド状に引いて冷却バスを通過させて冷却し、ペレタイザーにより引取りながら裁断することにより、ポリアミド樹脂を含む樹脂(A)のペレット状のサンプルを得た。該サンプルを80℃で12時間以上真空乾燥後、前記した射出成形を実施し、各種評価を行った。混練条件および各種評価結果を表2に示す。」

(2i)「【0227】
【表2】



(2j)「【0231】
実施例1?43、比較例1?44
表4?8に示す配合組成で混合し、窒素フローを行いながら、スクリュー径が30mm、スクリューは2条ネジの2本のスクリューのL/D=35の同方向回転完全噛み合い型二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX-30α)を使用し、表4?8に示すシリンダー温度、スクリュー回転数、押出量で溶融混練を行い、吐出口(L/D=35)よりストランド状の溶融樹脂を吐出した。その際のスクリュー構成はFとして、L/D=7、16、25の位置から始まる3箇所のニーディングゾーンを設け、各ニーディングゾーンの長さLk/Dは、順番にLk/D=3.0、3.0、3.0とした。さらに各ニーディングゾーンの下流側に、逆スクリューゾーンを設け、各逆スクリューゾーンの長さLr/Dは、順番にLr/D=0.5、0.5、0.5とした。また、スクリュー全長に対する前記ニーディングゾーンの合計長さの割合(%)を、(ニーディングゾーンの合計長さ)÷(スクリュー全長)×100により算出すると、ニーディングゾーンの合計長さの割合は26%であった。ベント真空ゾーンはL/D=30の位置に設け、ゲージ圧力-0.1MPaで揮発成分の除去を行った。ダイヘッドを通過して4mmφ×2ホールから吐出された溶融樹脂はストランド状に引いて冷却バスを通過させて冷却し、ペレタイザーにより引取りながら裁断することにより、ポリアミド樹脂組成物のペレット状のサンプルを得た。該サンプルを80℃で12時間以上真空乾燥後、前記した射出成形を実施し、各種評価を行った。混練条件および各種評価結果を表4?8に示す。
・・・
【0233】
【表5】



(2k)「【0251】
本参考例、実施例および比較例に用いたポリアミド樹脂(A1)は以下の通りである。
(A1-1):融点225℃、98%硫酸中0.01g/mlでの相対粘度2.75、アミノ末端基濃度5.8×10^(-5)mol/gのナイロン6樹脂。
・・・
【0252】
同様に、反応性官能基を有する樹脂(A2)は以下の通りである。
(A2-1):グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体「“ボンドファースト”(登録商標)BF-7L」(住友化学社製)。
・・・
【0254】
同様に、樹状ポリエステル樹脂(B)は以下の通りである。
(B-1):参考例1
(B-2):参考例2
(B-3):参考例3
(B-4):参考例4
(B-5):参考例5
(B-6):参考例6
(B-7):参考例7
(B-8):参考例8
(B-9):参考例9。
【0255】
同様に、酸無水物(C)は以下の通りである。
(C-1):無水フタル酸(鹿1級)(関東化学社製)。
(C-2):無水マレイン酸(1級)(キシダ化学社製)。
・・・
【0258】
同様に、耐熱剤(F)は以下の通りである。
(F-1):「“Irganox”(登録商標)1098」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
(F-2):「“Irganox”1010」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)。」

(イ)甲2に記載された発明
甲2の参考例25(【表2】)のポリアミド樹脂を含む樹脂(A)を使用する実施例30(【表5】)に着目すると、【0197】には、樹状ポリエステル(B-1)の合成が記載され、【0222】、【表2】には、参考例25のポリアミド樹脂を含む樹脂(A)の製造が記載され、【0189】、【0231】、【表5】には、実施例30の樹脂組成物の製造と射出成形について記載されているから、以下の発明が記載されているといえる。

「(A1-1):融点225℃、98%硫酸中0.01g/mlでの相対粘度2.75、アミノ末端基濃度5.8×10^(-5)mol/gのナイロン6樹脂を70重量部、
(A2-1):グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体「“ボンドファースト”(登録商標)BF-7L」(住友化学社製)を30重量部、
(F-1):「“Irganox”(登録商標)1098」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.2重量部、及び
(F-2):「“Irganox”1010」(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.2重量部
の各成分を各配合組成で配合し、溶融混練を行い得られた溶融樹脂であって、
連続相樹脂が上記(A1-1)であり、分散相樹脂が上記(A2-1)であり、分散相における1?100nmの微粒子の割合が24%であるモルホロジーを有するポリアミド樹脂を含む樹脂(A)を100重量部、
樹状ポリエステル樹脂(B-1)を1重量部、
酸無水物(C-1):無水フタル酸(鹿1級)(関東化学社製)を0.5重量部
の各成分を各配合組成で配合し、溶融混練を行い、得られたペレット状のサンプルを、80℃で12時間以上真空乾燥した後、
シリンダー温度250℃、金型温度80℃に設定し、射出圧力下限圧+5kgf/cm^(2)の条件により射出成形することにより作製された試験片」(以下、「甲2発明」という。)

ウ 参考資料1
参考資料1には、以下の事項が記載されている。

(参1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は結晶性部分的芳香族ポリアミド樹脂にエチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体及びポリオレフィンを含有したポリアミド樹脂組成物に関するものであり、耐熱性が優れ、また耐衝撃性、良ウエルド伸度、耐薬品性、吸水による寸法、物性変化の少ない成形品を得ることができ、シリンダーヘッドカバー、ワイヤーハーネスコネクター、ラジエタータンク、エアーインティクマニホールド、イグニッションコイルケース等の自動車部品、各種スイッチ部品、コネクター、ソケット、開閉器等の電気電子部品、機械部品及び建築部品など広範囲に利用することができる。しかしその中でも特にワイヤーハーネスコネクターに好適に使用されるものである。
【0002】
【従来の技術】従来よりポリアミド樹脂はその優れた物理的および化学的性質より、自動車、電気・電子、機械、建築等広範囲に利用されているが、近年産業界全般にみられる材料の高機能性追求の中でポリアミド樹脂に対する要求も一段と厳しくなっているのが現状である。特に自動車や電気・電子部品においては耐熱性、低吸水性(吸水による寸法、物性変化が少ないこと)、耐薬品性、耐衝撃性等の要求がますます強くなっている。例えば耐熱性の優れる高融点ポリアミドである部分的芳香族ポリアミドの使用が検討されているが、部分的芳香族ポリアミドは一般的に使用されている脂肪族ポリアミド、例えばポリカプラミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)に比べ耐衝撃性が劣るという欠点を有している。
【0003】そこで耐衝撃性を改良する方法として、特開昭60-118735号公報には部分的芳香族ポリアミドを含むポリアミド樹脂に酸無水物と過酸化物による変性ポリオレフィンと未変性ポリオレフィンを添加し耐衝撃性を向上させることが記載されている。この方法では、結晶性部分芳香族ポリアミドは融点が高いので300℃以上の高温で成形加工する必要があり、酸無水物と過酸化物による変性ポリオレフィンのごとく、ポリマー主鎖を形成していない酸無水物単位は高温では熱分解を起こし易く、またウエルド伸度が低いという欠点もある。
【0004】また部分的芳香族ポリアミドの耐衝撃性を改良する方法として特開昭61-283653号公報には無水マレイン酸含有エチレン共重合体を添加することが記載されているが、この方法では実用条件下で使用する場合には、わずかな水分の吸水により弾性率が大幅に低下したり、また熱変形温度が低下するという欠点を有しており、熱変形温度を向上させるためには、成形時金型表面温度を100℃以上の高温にしなければならないという欠点を有している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は成形時の金型温度が低温(100℃以下)で耐熱性評価のメジャーである熱変形温度が優れ、耐衝撃性、良ウエルド伸度、耐薬品性、吸水による寸法および物性変化の少ない成形品を得、しかも高温加工時の熱分解が少なく、成形加工時さらにその成形品に全体的に均斉のとれた諸物性を有するポリアミド樹脂組成物を得ることを課題とするものである。」

(参1b)「【0021】
【発明の実施の形態】前記方法によって得られた本発明組成物は種々の成形品に成形することができ、その成形方法としては、一般に用いられる方法である、たとえば射出成形方法、押し出し成形方法、ブロー成形方法などを採用できる。また成形品として具体的には、電気・電子分野では、コイルボビン、モータ、変圧器、封止材、ケース、コネクター、スイッチ、SMT対応部品、基板、ソケット、プラグ開閉器、端子板、プリンター部品等、自動車分野では、ワイヤーハーネスコネクター、冷却水系部品、エンジン廻り機構部品、ランプソケット、コイルボビン、封止材ケース、燃料噴射ポンプ部品等が挙げられ、その他には、既存のナイロン樹脂では高温機械物性、耐薬品性吸水による寸法、物性変化等で困難な用途が挙げられる。その内においても特にワイヤーハーネスコネクターに適しているが、本発明はこれらの用途に限定されるものではない。」

(参1c)「【0022】
【実施例】以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
なお本発明における物性の評価は以下の方法により測定した。
・・・
(4)アイゾット衝撃強度(ノッチ付):ASTM D-256に準じて測定した。
・・・
(7)ウェルド部伸度:中央部に樹脂が合流されるように樹脂を同時に注入して得られたASTM規格の1号ダンベル(3mm)を用い、ASTM D-638に準じて測定した。
【0023】実施例1?7、比較例1?7
同方向35φ2軸押出機〔東芝(株)TEX35〕を使用し、表1に示す各A成分(結晶性部分芳香族ポリアミド)の融点より約10?15℃高い温度にてシリンダー温度を設定した。スクリュー回転数は100vpmに固定し、ホッパー側よりA成分、表2に示すB成分(エチレン-アクリル酸エステル系エラストマー)、表3に示すC成分(ポリオレフィン)および離型剤(モンタン酸カルシウム0.4PHR)、熱安定剤(イルガノックスB1171 0.5PHR)をそれぞれ投入した。押出機ノズルより吐出したストランドは水冷後カッターによりカッティング(2.5φ×2.5)し、テストする為のペレットを得た。水冷後カッティングした樹脂ペレットは直ちに130℃×3時間熱風乾燥し、ペレット水分率を0.1%以下にした。得られた種々の樹脂ペレットを東芝IS-100型射出成形機を使用し目的とするテストピースを成形した。
成形条件:
シリンダー温度:A成分の融点より10?15℃高い温度に設定
金型表面温度:60?70℃の範囲内
【0024】
【表1】

・・・
【0026】
【表3】

【0027】次に得られたテストピースの各々の物性を測定した結果を表4?6に示す。
・・・
【0029】
【表5】

・・・
【0031】
【発明の効果】・・・また耐衝撃性を改良するため、C成分のみを配合(比較例5)すれば耐衝撃性は大幅に向上するが、ウエルド伸度は全く向上せず反対に低下することが判る。」

エ 参考資料2
参考資料2には、以下の事項が記載されている。

(参2a)「特許請求の範囲
1.コイルを巻回したコイルボビンの軸上を貫通する孔に鉄心を嵌着し、しかる後前記コイルボビンに巻回したコイルの上から射出成形により絶縁被膜を形成することを特徴とするコイル組立体の製造方法。」

(参2b)「〔実施例〕
次に本発明について図面を参照して説明する。
第1図(a)、(b)はそれぞれ本発明の第一の実施例を説明するための電磁継電器に用いるコイル組立体の外周射出成形前後の断面図である。
第1図(a)に示すように、本実施例はまずコイル端子4が植設されたコイルボビン1にコイル2を巻回し、その一端をコイル端子4と接続する0次に、コイルボビン1の貫通孔(第3図の7)に鉄心3が圧入嵌着される。」

(参2c)「図面の簡単な説明
第1図(a)、(b)はそれぞれ本発明の第一の実施例を説明するためのコイル組立体の外周射出成形前後の断面図、第2図(a)、(b)はそれぞれ本発明の第二の実施例を説明するためのコイル組立体の外周射出成形前後の断面図、第3図(a)、(b)はそれぞれ従来の一例を説明するためのコイル組立体の外周射出成形前後の断面図である。
1・・・コイルボビン、2・・・コイル、3・・・鉄心、4・・・コイル端子、5・・・絶縁被膜、6・・・ヨーク、7・・・ボビン貫通穴。



オ 参考資料3
参考資料3には、以下の事項が記載されている。

(参3a)「【請求項1】
使用時に外部に露呈させておくことが必要とされる要露呈部を有する特定部品を含む複数の部品をプリント基板に取りつけて構成したユニット本体を射出成形されたモールド部で被覆してなるモールド形電子制御ユニットであって、
前記プリント基板側に開口した開口部を軸線方向の一端側に有し、内部空間を外部に開放させるための孔部を軸線方向の他端側に有するとともに、前記軸線方向の他端側に向いた状態で前記軸線を取り囲むように延びるパッキン受け面を外側に有して、一端側が前記プリント基板に固定された部品ケースと、前記特定部品を隙間なく嵌合させて収容し得る形状の部品収容凹部と該部品収容凹部内に一端が開口した窓部とを有して前記部品ケースの一端側の開口部から該部品ケースの一端側の内周に圧入された第1のパッキンと、前記パッキン受け面に固定された第2のパッキンとを具備し、
前記特定部品が前記第1のパッキンの部品収容凹部内に収容されるとともに、該特定部品の要露呈部が前記窓部を通して前記部品ケースの内部空間に露呈され、
前記第2のパッキンは、前記モールド部の射出成形時に射出成形用金型の型面に当接して成形用樹脂が前記部品ケースの孔部側に流れるのを阻止するように設けられ、
前記第1のパッキンにより、前記部品ケース内への樹脂の流入が阻止されていること、
を特徴とするモールド形電子制御ユニット。」

(参3b)「【0036】
図1に示したように、モールド部Mの幅方向の両端には翼状の突出部Maが形成され、各突出部Maには、ユニットを取付箇所に固定する際に用いるボルト等の締結具を挿通するための取付け孔hが形成される。」

(参3c)「【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係わるモールド形電子制御ユニットの上面図である。
・・・
【図1】



カ 参考資料4
参考資料4には、以下の事項が記載されている。

(参4a)「【請求項1】
基板に実装される電気コネクタであって、
前記基板の端子に圧入される圧入端子を保持する第1ハウジングと、
前記基板にねじにより締結される第2ハウジングと、を備え、
前記第1ハウジングおよび前記第2ハウジングは、
別体であり、前記圧入端子の圧入および前記第2ハウジングの締結により、前記基板と共に組み付けられ、
前記第1ハウジングおよび前記第2ハウジングが仮組みされた状態であっても、
前記圧入端子が圧入される向きとは逆の向きへと、前記第1ハウジングに対する前記第2ハウジングの変位が許容される、
ことを特徴とする電気コネクタ。」

(参4b)「【0018】
アウターハウジング20(第2ハウジング)は、第1ハウジング10とは別途、絶縁性の樹脂から射出成形されている。このアウターハウジング20は、図2の上方からインナーハウジング10に被せられる。」

(参4c)「【図2】



キ 参考資料5
参考資料5には、以下の事項が記載されている。

(参5a)「【請求項1】
回路導体の表面に対して樹脂が射出成型された射出成型基板と、
プリント基板と、
第1の電子部品と、
を具備し、
前記プリント基板には、第2の電子部品が搭載され、
前記射出成型基板には、前記プリント基板が搭載されるプリント基板搭載部が形成され、
前記プリント基板が、前記プリント基板搭載部に搭載された状態で、前記プリント基板の上面に露出するプリント基板側導体部と、前記射出成型基板の上面に露出する射出成型基板側導体部とが、前記第1の電子部品を介して電気的に接合され、
前記プリント基板は、略矩形であり、前記プリント基板と前記射出成型基板とを接続する前記第1の電子部品が、前記プリント基板の対向する辺にそれぞれ設けられる場合において、対向する辺のそれぞれの前記第1の電子部品が、互いにずれた位置に配置され、
対向する辺のそれぞれの前記第1の電子部品の、前記プリント基板の当該辺に垂直な中心線は、互いに重なり合うことがないことを特徴とする基板。」

(参5b)「【図1】



(3)本件発明1について
ア 甲1発明に基づく検討
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「(B-1):グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体「ボンドファーストBF-7L」」は、本件明細書の実施例で使用される「反応性官能基を有するゴム質重合体A」として使用される製品と同一の製品であり(【0071】、【表1】)、また、グリシジル基は、「エポキシ基」であるから、本件発明1における「エポキシ基」を有する「ゴム質重合体(B)」に相当する。
さらに、甲1発明における「試験片」は、成形品である限りにおいて、本件発明1における「成形品」と一致している。
また、甲1発明のモルフォロジーについて、上記(1)イ(ア)で摘記した甲2の参考例25には、甲1発明と同一の組成物を同一の製造条件で溶融混練し、また、射出成形により試験片を得ることが記載され、甲2の参考例25で得られた試験片の物性も甲1発明の物性と同一であるから、甲1発明と甲2の参考例25は、同一の試験片を得ているといえる。そして、甲2の参考例25(【表2】)には、連続相がポリアミド樹脂、分散相がゴム質重合体であり、分散相に1?100nmの微粒子が24%含まれることが記載されているから、甲1発明もこのモルフォロジーを有しているといえ、このモルフォロジーは、本件発明1における「特定のモルフォロジー」に相当する。

したがって、本件発明1と甲1発明は、下記の点で一致し、下記の点で相違している。

一致点:「ポリアミド樹脂(A)、および、エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩およびオキサゾリン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有するゴム質重合体(B)を含み、電子顕微鏡観察において、前記ポリアミド樹脂(A)が連続相(α)、前記反応性官能基を有するゴム質重合体(B)が分散相(β)を形成し、かつ、分散相(β)中にポリアミド樹脂(A)と反応性官能基を有するゴム質重合体(B)の反応により生成した化合物よりなる粒子径1?100nmの微粒子を含有し、分散相(β)中における前記微粒子の占める面積が10%以上であるモルフォロジーを有する熱可塑性樹脂組成物からなる成形品」

相違点1:成形品が、本件発明1では、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する」のに対し、甲1発明では、当該特定がない点。

(イ)検討
相違点1は、実質的な相違点であるといえるから、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
次に、相違点1について、本件発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かを検討する。

本件発明1は、上記1(2)エで述べたように、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品において特に生じやすい割れを抑制することができる、ウエルド靭性に優れた成形品を提供する」(【0007】)ことを課題として、概略、上記「特定のモルフォロジー」を有する熱可塑性樹脂組成物により「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」とする発明であり、そして、成形品を射出成形する際や成形品に外力がかかった際における分散層(β)の層状変形を抑制することができるため、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品において特に生じやすい割れを抑制することができる、ウエルド靭性に優れた成形品を提供することができる」(【0009】)という効果を奏するものである。

一方、甲1には、「スクリュー長さLとスクリュー直径Dの比L/Dが短い汎用の押出機で処理量を増加させても、発熱による樹脂劣化を抑制し、かつ耐熱性、耐衝撃性のバランス、衝撃吸収性等に優れる熱可塑性樹脂組成物を得るための製造方法を提供すること」(【0008】)を課題とし、概略、「(I)熱可塑性樹脂(A)および反応性官能基を有する樹脂(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物」を「押出機により製造する際、伸張流動しつつ溶融混練した後に切り欠き型ミキシングスクリューで溶融混練することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法」(【請求項1】)とする発明が記載されており、そして、「スクリュー長さLとスクリュー直径Dの比L/Dが短い汎用の大型押出機で処理量を増加させても、発熱による樹脂劣化を抑制し、かつ耐熱性・耐衝撃性のバランス、衝撃吸収性等に優れる熱可塑性樹脂組成物を得るための製造方法を提供することが可能となる」(【0011】)という効果を奏するものである。

そうすると、いくら、甲1に記載の熱可塑性樹脂組成物の成形体の用途として、甲1の【0088】?【0094】に「コネクター」、「リレーケース」、「コイルボビン」、「各種端子板」、「プリント基板」、「点火装置ケース」などの「固定手段であるスルーホール」を有する成形品であって、「スルーホールに接するウエルドを有する」ことが見込まれる用途のいくつかが例示されていたとしても、甲1には、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品において特に生じやすい割れを抑制することができる」という点や「ウエルド靱性に優れる」という課題や効果が記載されていないものであるから、甲1発明において、甲1に記載された上記課題の解決のために複数例示されている用途の中から、「コネクター」、「リレーケース」、「コイルボビン」、「各種端子板」、「プリント基板」、「点火装置ケース」という用途を選び、本件発明1とする動機付けがあるとはいえない。

よって、本件発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)申立人の主張の検討
a 主張の内容
申立人は、以下の点、主張している。
(a)参考資料1は、本件発明1と同様にポリアミド樹脂を主体とした樹脂組成物に関するものであり、本件発明1と同様に「ウエルド伸度(靱性)」の向上を目的とするものであるから、参考資料1に開示される成形品の具体例も当然、本件特許発明1で規定されるような「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」であると考えられ、参考資料1に開示される具体例(【0021】)のうち、「コイルボビン」、「ケース」、「コネクター」、「基板」、「端子板」は、甲1の【0088】に開示される具体例に挙げられているから、甲1に記載されるこれらの用途は、本件発明1で規定されるような「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」に相当すると言わざるを得ない。

(b)ネジ穴、開口部などのスルーホールを固定手段として有する部品を射出成形によって得る場合には、何ら特別なことを行わなくても当然、本件発明1に規定されるような「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」となることは、当業者にとって明白であり、「コイルボビン」、「リレーケース」、「点火装置ケース」、「コネクター」及び「プリント基板」がネジ穴、開口部などのスルーホールを固定手段として有することは技術常識であるから(参考資料2?5)、甲1には、特定のモルフォロジーを有する熱可塑性樹脂組成物が開示されているだけでなく、かかる熱可塑性樹脂組成物を本件発明1で規定されるような特定の形状を有する成形品に使用することも実質的に開示されている。

(c)甲1には、ウエルド靱性が向上するという本件発明1の効果は明記されていないかもしれないが、甲1の【0011】には、「耐熱性、耐衝撃性のバランス、衝撃吸収性等に優れる」ことが開示されており、「耐衝撃性」や「衝撃吸収性」が靱性と同様の機械的特性であり、これらの物性が向上すれば、靱性も同様に向上し、靱性の一種であるウエルド靱性も同様に向上することは当業者に自明である。

b 検討
上記主張について検討する。
申立人の主張(a)、(b)は、甲1には、固定手段であるスルーホールを有する成形品であって、ウエルドを有することが見込まれる用途である「コネクター」、「リレーケース」、「コイルボビン」、「各種端子板」、「プリント基板」、「点火装置ケース」に適用された甲1発明が記載されているといえるから、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」との点は相違点ではないとする前提を置いた主張であるから、この点について検討する。
上記(イ)で述べたのと同様に、いくら、甲1に記載の熱可塑性樹脂組成物の成形体の用途として、甲1の【0088】?【0094】に「コネクター」、「リレーケース」、「コイルボビン」、「各種端子板」、「プリント基板」、「点火装置ケース」などの「固定手段であるスルーホール」を有する成形品であって、「スルーホールに接するウエルドを有する」ことが見込まれる用途のいくつかが例示されていたとしても、甲1には、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品において特に生じやすい割れを抑制することができる」という点や「ウエルド靱性に優れる」という課題や効果が記載されていないものであるから、甲1に記載された「スクリュー長さLとスクリュー直径Dの比L/Dが短い汎用の押出機で処理量を増加させても、発熱による樹脂劣化を抑制し、かつ耐熱性、耐衝撃性のバランス、衝撃吸収性等に優れる熱可塑性樹脂組成物を得るための製造方法を提供すること」という課題の解決のために複数例示されている用途の中から、「コネクター」、「リレーケース」、「コイルボビン」、「各種端子板」、「プリント基板」、「点火装置ケース」という用途を選んだものを甲1発明ということはできない。

よって、申立人の主張(a)、(b)を採用できない。

そして、上記のとおり、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」との点は、実質的な相違点であるから、甲1発明を「スルーホールに接するウエルドを有する」「コネクター」、「リレーケース」、「コイルボビン」、「各種端子板」、「プリント基板」、「点火装置ケース」に成形することにより、ウエルド靱性を向上させることが甲1の記載から当業者に予測可能であったかを検討するために、申立人の主張(c)を検討する。
本件明細書でいうウエルド靱性について、本件明細書の【0002】には、ウエルドにおいて、溶融樹脂が合流して融着しているものの、樹脂の均一な混合が行われないこともあり、非ウエルドに比べて機械特性が低下しやすい傾向にあり、スルーホールを有する成形品を射出成形により成形する場合、スルーホール近傍で溶融樹脂流が分岐・合流するためウエルドの発生は避けられず、ウエルドを起点に割れが頻発する課題が生じていると記載されているように、ウエルドの有無で機械特性は大きく異なるものであるところ、甲1には、ウエルドに関する効果について記載ないし示唆があるとはいえないから、甲1の記載から、ウエルド靱性も同様に向上することは当業者に自明であるとはいえない。

そして、仮に、ウエルドが無い場合において機械特性が向上すれば、ウエルドがある場合の機械特性も向上するといえるとしても、本件明細書の【0070】には、「スルーホールに接するウエルドを有する成形品において、引張強度や引張最大荷重および引張破断伸びや引張破断変位が高いほど、低速変形による割れを抑制することができ、シャルピー衝撃強度が高いほど、高速変形による割れを抑制することができる」と記載されているのに対し、甲1の【0070】には、「高速変形ほど柔軟になるという非粘弾性特性が顕著に発現し、大荷重、高速度の衝撃を受けた際にも、対象物に与える最大荷重が低く破壊を起こさずに大きなエネルギーを吸収することができる」ことが記載されているのみであり、低速変形による割れを抑制することは記載されていない。
したがって、仮にウエルドが無い場合において機械特性が向上すれば、ウエルドがある場合の機械特性も向上するといえるとしても、甲1の記載から当業者が予測できるのは、高速変形による割れを抑制できるという点までであり、低速変形による割れの抑制については、甲1の記載から、当業者が予測できるということができないから、申立人の主張する、「耐衝撃性」や「衝撃吸収性」が靱性と同様の機械的特性であって、ウエルド靱性は靱性の一種であるから、甲1の記載から、ウエルド靱性も同様に向上することは当業者に自明であるとの主張を採用できない。

また、参考資料1の比較例5にみるように、アイゾット衝撃強度が大きくても、ウェルド部伸度が小さい場合もあり、「耐衝撃性」や「衝撃吸収性」が靱性と同様の機械的特性であり、これらの物性が向上すれば、靱性も同様に向上し、靱性の一種であるウエルド靱性も同様に向上するとの技術常識が示されているともいえない。よって、技術常識を考慮しても、「耐衝撃性」や「衝撃吸収性」が向上すると、ウエルド靱性も同様に向上することは当業者に自明であるとの主張を採用できない。

よって、当業者が、甲1の記載から、ウエルド靱性が向上することを予測し得ないから、甲1発明を「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」に適用することは動機づけられない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえないし、また、甲1に記載された発明、及び、甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲2発明に基づく検討
(ア)対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「(A2-1):グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体「“ボンドファースト”(登録商標)BF-7L」(住友化学社製)」は、本件明細書の実施例で使用される「反応性官能基を有するゴム質重合体A」として使用される製品と同一の製品であり(【0071】、【表1】)、また、グリシジル基は、「エポキシ基」であるから、本件発明1における「エポキシ基」を有する「ゴム質重合体(B)」に相当する。
さらに、甲2発明における「試験片」は、成形品である限りにおいて、本件発明1における「成形品」と一致している。

したがって、本件発明1と甲2発明は、下記の点で一致し、下記の点で相違している。

一致点:「ポリアミド樹脂(A)、および、エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩およびオキサゾリン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有するゴム質重合体(B)を含む熱可塑性樹脂組成物からなる成形品」

相違点2:成形品が、本件発明1では、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する」のに対し、甲2発明では、当該特定がない点。

相違点3:熱可塑性樹脂組成物が、本件発明1では、「電子顕微鏡観察において、前記ポリアミド樹脂(A)が連続相(α)、前記反応性官能基を有するゴム質重合体(B)が分散相(β)を形成し、かつ、分散相(β)中にポリアミド樹脂(A)と反応性官能基を有するゴム質重合体(B)の反応により生成した化合物よりなる粒子径1?100nmの微粒子を含有し、分散相(β)中における前記微粒子の占める面積が10%以上であるモルフォロジーを有する」のに対し、甲2発明では、(A1-1)ナイロン6樹脂、(A2-1):グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体、(F-1)、(F-2)を配合した樹脂組成物は、分散相における1?100nmの微粒子の割合が24%であるモルホロジーを有することが記載されているものの、これに樹状ポリエステル樹脂(B-1)、酸無水物(C-1)をさらに配合して溶融混練した後に、このモルホロジーを有することが特定されていない点。

(イ)検討
事案に鑑み、相違点2から検討する。
相違点2は、実質的な相違点であるといえるから、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

次に、相違点2について、本件発明1は、甲2に記載された発明、及び、甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かを検討する。

本件発明1は、上記1(2)エで述べたように、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品において特に生じやすい割れを抑制することができる、ウエルド靭性に優れた成形品を提供する」(【0007】)ことを課題として、概略、上記「特定のモルフォロジー」を有する熱可塑性樹脂組成物により「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」とする発明であり、そして、成形品を射出成形する際や成形品に外力がかかった際における分散層(β)の層状変形を抑制することができるため、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品において特に生じやすい割れを抑制することができる、ウエルド靭性に優れた成形品を提供することができる」(【0009】)という効果を奏するものである。

一方、甲2には、「流動性と機械特性のバランスに優れるポリアミド樹脂組成物およびその製造方法を提供すること」(【0005】)を課題とし、概略、ポリアミド樹脂に反応性官能基を有するゴム質重合体を含み、特定のモルフォロジーを有するポリアミド樹脂を含む樹脂(A)に対して、特定の構造を有する樹状ポリエステル樹脂(B)と酸無水物(C)を特定量配合してなるポリアミド樹脂組成物(【請求項1】、【請求項4】?【請求項6】)とする発明が記載されており、そして、「流動性と機械特性のバランスに優れるポリアミド樹脂組成物を提供することができる」(【0017】)という効果を奏するものである。

そうすると、いくら、甲2に記載のポリアミド樹脂組成物の用途として、甲2の【0186】?【0187】に「コイルボビン」、「リレーケース」、「コネクター」、「プリント配線板」、「各種端子板」、「アジャスター」、「クリップ」などの「固定手段であるスルーホール」を有する成形品であって、「スルーホールに接するウエルドを有する」ことが見込まれる用途のいくつかが例示されていたとしても、甲2には、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品において特に生じやすい割れを抑制することができる」という点や「ウエルド靱性に優れる」という課題や効果が記載されていないものであるから、甲2発明において、甲2に記載された上記課題の解決のために複数例示されている用途の中から、「コイルボビン」、「リレーケース」、「コネクター」、「プリント配線板」、「各種端子板」、「アジャスター」、「クリップ」という用途を選び、本件発明1とする動機付けがあるとはいえない。

よって、相違点3については検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明とはいえないし、また、甲2に記載された発明、及び、甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)申立人の主張の検討
a 主張の内容
申立人は、以下の点、主張している。
(a)甲2の【0187】に開示される成形品の具体例のうち、少なくとも「コイルボビン」、「リレーケース」、「コネクター」、「プリント配線板」及び「各種端子板」は、本件発明1で規定されるような「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」に相当する。
また、甲2の具体例のうち、「アジャスター」、「クリップ」は、それぞれ、本件明細書の【0015】に成形品の具体例として挙げられている「アジャスタープレート」及び「ケージクリップ」と同様のものであるといえる。
したがって、甲2には、本件発明1で規定されるような特定の形状を有する成形品を使用することも実質的に開示されている。

(b)甲2には、ウエルド靱性が向上するという本件発明1の効果は明記されていないかもしれない。
しかしながら、甲2には、「流動性と機械物性のバランスに優れる」ことが開示されており、甲2の実施例では、機械特性の具体例として「引張弾性率」、「引張破断伸度」、「引張強度」、「曲げ弾性率」、「衝撃強度」などを評価しており、これらは靱性と同様の機械的特性であり、これらの物性が向上すれば、靱性も同様に向上し、靱性の一種である「ウエルド靱性」も同様に向上することは当業者に自明である。したがって、ウエルド靱性が向上するという本件発明1の効果も実質的に開示又は示唆されている。

b 検討
上記主張について検討する。
上記(a)の主張は、甲2には、固定手段であるスルーホールを有する成形品であって、ウエルドを有することが見込まれる用途である「コイルボビン」、「リレーケース」、「コネクター」、「プリント配線板」、「各種端子板」、「アジャスター」、「クリップ」に適用された甲2発明が記載されているといえるから、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」との点は相違点ではないという前提を主張するものであるから、この点について検討する。

上記(イ)で述べたのと同様に、いくら、甲2に記載のポリアミド樹脂組成物の用途として、甲2の【0186】?【0187】に「コイルボビン」、「リレーケース」、「コネクター」、「プリント配線板」、「各種端子板」、「アジャスター」、「クリップ」などの「固定手段であるスルーホール」を有する成形品であって、「スルーホールに接するウエルドを有する」ことが見込まれる用途のいくつかが例示されていたとしても、甲2には、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品において特に生じやすい割れを抑制することができる」という点や「ウエルド靱性に優れる」という課題や効果が記載されていないものであるから、甲2に記載された「流動性と機械特性のバランスに優れるポリアミド樹脂組成物およびその製造方法を提供すること」という課題の解決のために複数例示されている用途の中から、「コイルボビン」、「リレーケース」、「コネクター」、「プリント配線板」、「各種端子板」、「アジャスター」、「クリップ」という用途を選んだものを、甲2発明であるとはいえず、実質的な相違点である。

そして、ウエルド靱性について、本件明細書の【0002】には、「他部品との締結や嵌合を行うための固定手段としてのスルーホールを有する成形品を射出成形により成形する場合、スルーホール近傍で溶融樹脂流が分岐・合流するためウエルドの発生は避けられず、ウエルドを起点に割れが頻発する課題が生じている」と記載されているとおり、本件発明は、スルーホールに起因するウエルドを起点とした割れを防ぐことを課題の前提としているところ、甲2の【0167】には、ウエルドに関する効果について、酸無水物(C)を配合すると、ポリアミド樹脂を含む樹脂(A)に樹状ポリエステル樹脂(B)のみを配合したポリアミド樹脂組成物と比較し、樹状ポリエステル樹脂(B)の添加量が少なくても十分な流動性向上効果を発現することができ、ウエルド特性も改良されることが記載されているものの、スルーホールに接するウエルドについては、何ら記載ないし示唆していないから、甲2の記載から、「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」におけるウエルド靱性が向上するとの点が、当業者に自明であるとはいえない。

そして、仮に、ウエルドの有無や、ウエルドがスルーホールによるものか否かによらず、機械特性が向上すれば、ウエルド靱性が向上するといえるとしても、本件明細書の【0070】には、「スルーホールに接するウエルドを有する成形品において、引張強度や引張最大荷重および引張破断伸びや引張破断変位が高いほど、低速変形による割れを抑制することができ、シャルピー衝撃強度が高いほど、高速変形による割れを抑制することができる」と記載されているのに対し、甲2には、「高速引張時の衝撃吸収性、耐衝撃性、耐熱性をより大きくできる」(【0085】)と記載されているのみで、低速変形による割れを抑制することは記載されていない。
したがって、仮に「耐衝撃性」や「衝撃吸収性」が靱性と同様の機械的特性であって、ウエルド靱性は靱性の一種であるとしても、甲2の記載から当業者が予測できるのは、高速変形による割れを抑制できるという点までであり、低速変形による割れの抑制については、甲2の記載から、当業者が予測できるということができないから、申立人の主張する、「引張弾性率」、「引張破断伸度」、「引張強度」、「曲げ弾性率」、「衝撃強度」が向上するとの甲2の記載から、ウエルド靱性も同様に向上することは当業者に自明であるとの主張を採用できない。

また、参考資料1の比較例5にみるように、アイゾット衝撃強度が高くても、ウェルド部伸度が小さい場合もあり、「衝撃強度」が靱性と同様の機械的特性であり、これらの物性が向上すれば、靱性も同様に向上し、靱性の一種であるウエルド靱性も同様に向上するとの技術常識が示されているともいえない。よって、技術常識を考慮しても、「衝撃強度」が向上すると、ウエルド靱性も同様に向上することは当業者に自明であるとの主張を採用できない。

よって、当業者が、甲2の記載から、ウエルド靱性が向上することを予測し得ないから、甲2発明を「固定手段であるスルーホールと、スルーホールに接するウエルドを有する成形品」に適用することは動機づけられない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2に記載された発明とはいえないし、また、甲2に記載された発明、及び、甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明2?3について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?3も、上記(3)と同様の理由から、甲1又は甲2に記載された発明とはいえないし、甲1又は甲2に記載された発明、及び、甲1又は甲2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)申立理由1及び2のまとめ
よって、申立理由1及び2によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。


第5 むすび
したがって、申立人が主張する申立理由1?4及び証拠方法によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-05-27 
出願番号 特願2015-226201(P2015-226201)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 536- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中根 知大  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 橋本 栄和
佐藤 玲奈
登録日 2020-07-13 
登録番号 特許第6733154号(P6733154)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 ウエルドを有する成形品  

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