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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08B |
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管理番号 | 1374973 |
異議申立番号 | 異議2020-700800 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-10-15 |
確定日 | 2021-06-16 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6681499号発明「化学修飾されたセルロース微細繊維、及び化学修飾されたセルロース微細繊維を含む高耐熱性樹脂複合体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6681499号の請求項1?13に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6681499号の請求項1?13に係る特許についての出願は、令和元年5月31日の出願であって、令和2年3月25日に特許権の設定登録がされ、令和2年4月15日に特許掲載公報が発行された。その特許について令和2年10月15日に特許異議申立人金井澄子(以下「申立人」という。)により本件特許異議の申立てがされ、令和3年1月26日付けで取消理由が通知され、特許権者より令和3年3月29日に意見書が提出されたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1?13に係る発明(以下「本件発明1?13」、総称して「本件発明」ともいう。)は、本件特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下であり、アルカリ可溶分が12質量パーセント以下であり、セルロースI型の結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維。 【請求項2】 熱分解開始温度(T_(D))が270℃以上であり、数平均繊維径が10nm以上、1μm未満である、請求項1に記載の化学修飾されたセルロース微細繊維。 【請求項3】 エステル化セルロース微細繊維である、請求項1又は2に記載の化学修飾されたセルロース微細繊維。 【請求項4】 水酸基の平均置換度が0.5以上である、請求項1?3のいずれか一項に記載の化学修飾されたセルロース微細繊維。 【請求項5】 化学修飾されたセルロース微細繊維の製造方法であって、 重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下であり、アルカリ可溶分が12質量パーセント以下であるセルロース原料を、非プロトン性溶媒を含む分散液中で解繊してセルロース微細繊維を得ることと、 修飾化剤を含む溶液を前記分散液に加えて前記セルロース微細繊維を修飾することにより、重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下であり、アルカリ可溶分が12質量パーセント以下であり、セルロースI型の結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維を得ることと、 を含む、方法。 【請求項6】 化学修飾されたセルロース微細繊維の熱分解開始温度(T_(D))が270℃以上であり、数平均繊維径が10nm以上、1μm未満である、請求項5に記載の方法。 【請求項7】 前記非プロトン性溶媒がジメチルスルホキシドであり、かつ、前記修飾化剤が酢酸ビニル又は無水酢酸である、請求項5又は6に記載の方法。 【請求項8】 請求項1?4のいずれか一項に記載の化学修飾されたセルロース微細繊維0.5?40質量%と、樹脂とを含む樹脂複合体。 【請求項9】 前記化学修飾されたセルロース微細繊維が、分散安定剤と、前記分散安定剤中に分散された前記化学修飾されたセルロース微細繊維とを含む分散体の形態で前記樹脂複合体中に分散されており、前記分散体中の前記化学修飾されたセルロース微細繊維の含有率が10?90質量%である、請求項8に記載の樹脂複合体。 【請求項10】 前記分散安定剤が、界面活性剤、及び沸点160℃以上の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載の樹脂複合体。 【請求項11】 前記樹脂が、熱可塑性樹脂である、請求項8?10のいずれか一項に記載の樹脂複合体。 【請求項12】 請求項8?11のいずれか一項に記載の樹脂複合体を含む自動車用部材。【請求項13】 請求項8?11のいずれか一項に記載の樹脂複合体を含む家電用部材。」 第3 令和3年1月26日付けで通知した取消理由の概要 令和3年1月26日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 1(サポート要件)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは、実施例1?3以外の化学修飾されたセルロース微細繊維を含む本件発明1?13が、本件発明が解決しようとする課題を解決するとは理解できない。 したがって、本件発明1?13は、本件特許明細書に記載されたものでないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2(進歩性)本件発明1?4、8?13は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明、周知の事項及び甲第4号証記載の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 <引用文献等> 甲第1号証:再公表2017/131035号公報 甲第2号証:特開2014-9276号公報 甲第4号証:特開2019-6875号公報 甲第7号証:国際公開第2016/148233号 甲第10号証:森田栄太郎、‘濃アルカリ溶液抽出による赤松サルファイト・パルプのヘミセルロース’、工業化学雑誌、1962年、第65巻、第8号、p.170?172 甲第11号証:久松眞 他4名、‘各種食品廃棄物に含まれる糖類の分析’、三重大学生物資源学部紀要、平成7年3月25日、第14号、p.143?149 甲第13号証:特開2014-101604号公報 甲第14号証:木村良次 他1名、‘パルプ及び製紙に関する研究:第20報 紙の透気度に就ての基礎的実験(4)’、木材研究、昭和34年、第21号、p.1?11 第4 令和3年1月26日付けで通知した取消理由についての当審の判断 1 サポート要件について (1)本件発明が解決しようとする課題は、「車載用途、家電用途等の部材における成形及び使用に耐え得る、高い力学物性、及び熱エージング耐性(特に耐黄変性)を有するセルロース微細繊維及びこれを含む樹脂複合体を提供すること」(【0014】)である。 (2)本件特許明細書の【0139】の【表1】を参照すると、実施例1?6は、本件発明において特定する「重量平均分子量(Mw)が100000以上」、「重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下」、「アルカリ可溶分が12質量パーセント以下」、「セルロースI型の結晶化度が60%以上」を満たすものである。 (3)そして、熱エージング後のYIの変化(ΔYI)について、【0133】に「多孔質シートをオーブンに入れ、150℃、大気下で3000時間運転を行い、熱エージングを行った。熱エージング前、熱エージング後それぞれの多孔質シートの黄変度合いをYI測定によって評価した。YI測定はコニカミノルタ社の分校測色計CM-700dを用い、反射型(SCI+SCE)、測定径3mmの条件で測定を行い、任意の5カ所のYIの平均値を求めた。熱エージング後のYIから熱エージング前のYIを減算し、ΔYIを得た。」と記載され、実施例1?6及び比較例1?6をみると、ΔYIが36以下のものが、耐黄変性に係る熱エージング耐性を解決していると理解できる。 また、実施例1?6及び比較例1?6の「シート強度」は、【0134】を参照すると、実施例1?6及び比較例1?6の「多孔質シートをオーブンに入れ、150℃、大気下で3000時間運転を行い、熱エージングを行った。」ものの強度であって、当該条件が、車載用途、家電用途等の部材の通常の熱履歴と比べて大幅に過酷な条件であることは明らであるから、実施例1?6として記載されている「シート強度」が「○」及び「△」であるものは、シート強度に係る熱エージング耐性を解決していると理解できる。 (4)そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、実施例1?6の化学修飾されたセルロース微細繊維が、上記本件発明の課題を解決すると理解できるから、本件発明1は、上記本件発明の課題を解決すると理解でき、本件特許明細書に記載されたものである。 (5)また、本件発明2?13は、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、同様の理由により、本件特許明細書に記載されたものである。 2 本件発明1の進歩性について (1)甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、以下の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、セルロースアシレートを用いたナノファイバーおよび不織布に関する。」 イ 「【0069】 〔実施例1〕 セルロース(原料:綿花リンター)に、アシル化剤および触媒としての硫酸を混合し、反応温度を40℃以下に保ちながらアシル化を実施した。なお、アシル化剤としては、酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、プロピオン酸無水物、酪酸および酪酸無水物から、目的とする置換度に応じて単独または複数を組み合わせて選択することができ、実施例1においては、酢酸を用い、アセチル基(下記表1中、「Ac」と略す。)でアシル化した。 原料となるセルロースが消失してアシル化が完了した後、さらに40℃以下で加熱を続けて、所望の重合度に調整した。 次いで、酢酸水溶液を添加して残存する酸無水物を加水分解した後、60℃以下で加熱を行うことで部分加水分解を行い、置換度を調整した。 残存する硫酸を過剰量の酢酸マグネシウムにより中和した。酢酸水溶液から再沈殿を行い、さらに、水での洗浄を繰り返すことにより、セルロースアシレートを合成した。 合成したセルロースアシレートを、ジクロロメタン90%、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)10%の混合溶媒に溶解させ、4g/100cm^(3)のセルロースアシレート溶液を調製し、図1に示すナノファイバー製造装置110を用いて、20×30cmのセルロースアシレートナノファイバーからなる不織布を作製した。」 ウ 「【0071】 〔実施例4〕 原料の綿花リンターにアルカリ精製処理を施し、ヘミセルロース量を意図的に調整したこと以外は、実施例1と同様の方法で、ナノファイバーからなる不織布を作製した。」 エ 「【0079】 合成した各セルロースアシレートについて、上述した方法により、置換度、ヘミセルロース量、6%溶液粘度、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)ならびに分子量分布(Mw/Mn)を測定した。結果を下記表1に示す。」 オ 「【0081】 」 (2)甲1発明 甲第1号証の実施例4には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「アルカリ精製処理を施し、ヘミセルロース量を意図的に調整したセルロース(原料:綿花リンター)に、アシル化剤および触媒としての硫酸を混合し、反応温度を40℃以下に保ちながらアシル化を実施し、原料となるセルロースが消失してアシル化が完了した後、さらに40℃以下で加熱を続けて、所望の重合度に調整し、 次いで、酢酸水溶液を添加して残存する酸無水物を加水分解した後、60℃以下で加熱を行うことで部分加水分解を行い、置換度を調整し、 残存する硫酸を過剰量の酢酸マグネシウムにより中和し、酢酸水溶液から再沈殿を行い、さらに、水での洗浄を繰り返すことにより、セルロースアシレートを合成し、 合成したセルロースアシレートを、ジクロロメタン90%、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)10%の混合溶媒に溶解させ、4g/100cm^(3)のセルロースアシレート溶液を調製して製造したセルロースアシレートナノファイバーであって、 重量平均分子量(Mw)が200000、分子量分布(Mw/Mn)が2.6であり、ヘセミロース量が0.05質量%であり、セルロースI型の結晶化度が60%以上である、セルロースアシレートナノファイバー。」 (3)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 ア 甲1発明の「重量平均分子量(Mw)が200000」であることは、本件発明1の「重量平均分子量(Mw)が100000以上」であることに相当する。 イ 甲1発明の「分子量分布(Mw/Mn)が2.6であ」ることは、本件発明1の「重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下であ」ることに相当する。 ウ 甲1発明の「セルロースアシレートナノファイバー」は、「置換度を調整し」たものであるから、本件発明1の「化学修飾されたセルロース微細繊維」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。 <一致点> 「重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下である、化学修飾されたセルロース微細繊維。」 <相違点1> 本件発明1は、「アルカリ可溶分が12質量パーセント以下であ」るのに対して、甲1発明は、ヘセミロース量が0.05質量%であるが、アルカリ可溶分の量が不明である点。 <相違点2> 本件発明1は、「セルロースI型の結晶化度が60%以上である」のに対して、甲1発明のセルロースI型の結晶化度が不明である点。 (4)判断 まず、相違点2について検討する。 甲1発明は、「セルロース(原料:綿花リンター)に、アシル化剤および触媒としての硫酸を混合し、反応温度を40℃以下に保ちながらアシル化を実施し、原料となるセルロースが消失してアシル化が完了し」、「酢酸水溶液を添加して残存する酸無水物を加水分解した後、60℃以下で加熱を行うことで部分加水分解を行い、置換度を調整し」、「残存する硫酸を過剰量の酢酸マグネシウムにより中和し、酢酸水溶液から再沈殿を行」ったものである。 ここで、特許権者が提出した乙第1号証(セルロース学会編、「セルロースの事典(新装版)」、株式会社朝倉書店、2013年3月25日 第3刷発行、p.92、93、132?135、160?163)及び乙第2号証(西野孝、‘セルロースの構造と力学的極限’、Journal of the Society of Materials Science,Janan、2008年1月、Vol.57、No.1、p.97?103)を参照すると、セルロースは、一端溶解してアシル化すると、セルロースアシレートIIとなることが技術常識である。 そうすると、甲1発明のセルロースアシレートナノファイバーは、その製造方法に基づくと、セルロースが消失し、セルロースアシレートIIとなるものであるから、甲1発明において、「セルロースI型の結晶化度が60%以上」とすることの動機付けはなく、むしろ、阻害要因があるといえる。 また、甲第4、10、11、13及び14号証を参照しても、甲1発明において、セルロースアシレートIIとしたものを「セルロースI型の結晶化度が60%以上」とすることの動機付けはない。 (5)周知である事実について 甲第3号証:磯貝明、‘ナノファイバー技術による新しい文化・産業の創出’、機能紙研究会誌、平成19年11月、No.46、p.3?12 甲第5号証:仙波健 他4名、‘セルロースナノファイバー強化エンジニアリングプラスチックの特性’、京都市産業技術研究所研究報告、2018年、No.8、p.37?42 甲第6号証:特開2013-44076号公報 甲第8号証:ya Hiraoki 他3名、‘Moleculer Mass and Molecular-Mass Distribution of TEMPO-Oxidized Celluloses and TEMPO-Oxidized Cellulose Nanofibrils’、ACS Publications、2015年1月13日 甲第9号証:栗原隆紀、‘セルロースナノファイバーとポリアクリルアミド系高分子との複合化に関する研究’、[online]、2015年3月24日、インターネット<URL:http://doi.org/10.15083/00008351> 甲第12号証:特開2019-65454号公報 甲第15号証:特開2016-87966号公報 上記各号証は、異議申立書及び証拠説明書に記載された本件出願日前における各周知の事実を立証するものであるが、これらの各記載を参照しても、甲1発明において、セルロースアシレートIIとしたものを「セルロースI型の結晶化度が60%以上」とすることの動機付けはない。 (6)小括 したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲第2?15号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 3 本件発明2?4、8?13の進歩性について 本件発明2?4、8?13は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記2と同じ理由で、本件発明2?4、8?13は、甲1発明及び甲第2?15号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 第5 令和3年1月26日付けで通知した取消理由以外の申立て理由についての当審の判断 1 甲第3号証を主引用発明とした本件発明1?4、8?13の進歩性について (1)甲3発明 甲第3号証の図8(8頁)のセルロースI型の結晶化度が85%程度であるものに着目し、「4.セルロースのTEMPO触媒酸化」の欄(7頁右欄?9頁左欄)の記載を総合すると、甲第3号証には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。 「TEMPO酸化触媒を漂白クラフトパルプ、リンター等の天然セルロース繊維に適用し、 セルロースI型の結晶化度が85%程度である セルロースシングルナノファイバー。」 (2)対比 本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「セルロースシングルナノファイバー」は、「TEMPO酸化触媒を漂白クラフトパルプ、リンター等の天然セルロース繊維に適用し」たものであるから、本件発明1の「化学修飾されたセルロース微細繊維」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。 <相違点3> 本件発明1は、「重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下であ」るのに対して、甲3発明は、重量平均分子量及び重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が不明である点。 <相違点4> 本件発明1は、「アルカリ可溶分が12質量パーセント以下であ」るのに対して、甲3発明は、アルカリ可溶分が不明である点。 (3)判断 上記相違点について検討する。 <相違点3について> 甲第8号証の11頁のTable S2には、重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下の範囲のTEMPO酸化されたセルロースナノファイバーが記載されている。 しかし、甲3発明のセルロースシングルナノファイバーが甲第8号証の11頁の表S2のセルロースナノファイバーであるとはいえない。また、甲3発明において、甲第8号証の重量平均分子量や重量平均分子量と数平均分子量との比を採用する動機付けはない。 <相違点4について> 甲第3号証の7頁右欄のセルロースナノファイバーの製造方法を参照しても、甲3発明のアルカリ可溶分がどの程度でるのかは不明であって、12質量パーセント以下であるとまではいえない。 <本件発明1の奏する効果について> そして、本件発明1は、上記相違点3及び4に係る本件発明1の事項を有することで、高い力学物性と高耐熱性という格別な効果を有する(【0015】)。 (4)小括 したがって、本件発明1は、甲3発明及び甲第1、2、4?15号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 (5)本件発明2?4、8?13について 本件発明2?4、8?13は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(3)と同じ理由で、本件発明2?4、8?13は、甲3発明及び甲第1、2、4?15号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 2 甲第12号証を主引用発明とした本件発明1?4、8?13の進歩性について (1)甲12発明 甲第12号証の【0010】、【0039】、【0045】、【0046】には、以下の発明(以下「甲12発明」という。)が記載されている。、 「アルカリ溶液で処理するアルカリ処理を行い、 結晶化度が、60%以上であり、 重合度が、50?1500である、 I型結晶構造のセルロース繊維である微細繊維状セルロース繊維。」 (2)対比 本件発明1と甲12発明とを対比すると、セルロースは、C_(6)H_(12)O_(5)の多糖類であって、その分子量が162であるから、甲12発明の「重合度が、50?1500である」ことは、重量平均分子量が8100?243000であることである。 また、甲12発明の「微細繊維状セルロース繊維」は、「アルカリ溶液で処理するアルカリ処理を行」ったものであるから、本件発明1の「化学修飾されたセルロース微細繊維」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲12発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。 <相違点5> 本件発明1は、「重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下であ」るのに対して、甲12発明は、重合度が、50?1500(重量平均分子量が8100?243000)であって、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が不明である点。 <相違点6> 本件発明1は、「アルカリ可溶分が12質量パーセント以下であ」るのに対して、甲12発明は、アルカリ可溶分が不明である点。 (3)判断 上記相違点について検討する。 <相違点5について> 甲第12号証には、【0006】に、微細繊維状セルロース繊維の再分散性を高くすることが示唆されている。 しかし、微細繊維状セルロースの再分散性と、重量平均分子量及び重量平均分子量と数平均分子量との比との相関関係についての技術常識は、何ら示されていないから、甲12発明の微細繊維状セルロース繊維において、再分散性を高める動機付けがあるとしても、甲第8号証の重量平均分子量及び重量平均分子量と数平均分子量との比を採用する理由はない。 <相違点6について> 甲第12号証の【0046】にアルカリ処理を行うことが記載されているとしても、甲12発明のアルカリ可溶分がどの程度であるかは不明であって、12質量パーセント以下であるとまではいえない。 <本件発明1の奏する効果について> そして、本件発明1は、上記相違点5及び6に係る本件発明1の事項を有することで、高い力学物性と高耐熱性という格別な効果を有する(【0015】)。 (4)小括 したがって、本件発明1は、甲12発明及び甲第1?11、13?15号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 (5)本件発明2?4、8?13について 本件発明2?4、8?13は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(3)と同じ理由で、本件発明2?4、8?13は、甲12発明及び甲第1?11、13?15号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由及び異議申立の理由によっては、本件請求項1?13に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-06-04 |
出願番号 | 特願2019-102318(P2019-102318) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08B)
P 1 651・ 537- Y (C08B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 佐久 敬 |
特許庁審判長 |
藤原 直欣 |
特許庁審判官 |
佐々木 正章 村山 達也 |
登録日 | 2020-03-25 |
登録番号 | 特許第6681499号(P6681499) |
権利者 | 旭化成株式会社 |
発明の名称 | 化学修飾されたセルロース微細繊維、及び化学修飾されたセルロース微細繊維を含む高耐熱性樹脂複合体 |
代理人 | 三間 俊介 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 中村 和広 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 齋藤 都子 |