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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1375314
審判番号 不服2020-15002  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-28 
確定日 2021-07-06 
事件の表示 特願2015-159577「撮像素子,イメージセンサ,撮像装置,および情報処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月16日出願公開,特開2017- 38011,請求項の数(14)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2015年(平成27年) 8月12日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 1年 8月 2日付け:拒絶理由通知
令和 1年10月 7日 :意見書,手続補正書の提出
令和 1年12月25日付け:拒絶理由(最後)通知
令和 2年 3月 9日 :意見書の提出
令和 2年 7月15日付け:拒絶査定(原査定)
令和 2年10月28日 :審判請求書の提出

第2 原査定の概要
1 原査定(令和 2年 7月15日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

理由1 本願請求項1-14に係る発明は,以下の引用文献1-3に記載された発明に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1 特開2009-49524号公報
引用文献2 特開2012-209486号公報
引用文献3 特開2013-183056号公報

第3 本願発明
本願請求項1-14係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明14」という。)は,令和 1年10月 7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-14に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
光透過性を有し所定の軸方向に配向された有機光電変換膜と,それに電圧を印加し信号電荷を取り出すための電極を含み,前記所定の軸に平行な偏光成分を検出する第1の光検出層と,
前記第1の光検出層より下層にあり,前記第1の光検出層で吸収された成分以外の偏光成分を検出する,無機光電変換素子を含む第2の光検出層と,
を含むことを特徴とする撮像素子。」

なお,本願発明2-14は,本願発明1の全ての構成を有する発明である。

第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下同様である。)

「【0001】
本発明は,多数の画素を有する固体撮像素子を備える撮像装置に関する。」

「【0019】
以下,本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の説明では,入射光のうちの青色(B)の波長域(一般的には約380nm?約520nm)の光をB光といい,緑色(G)の波長域(一般的には約450nm?約610nm)の光をG光といい,赤色(R)の波長域(一般的には約550nm?約700nm)の光をR光といい,赤外(IR)の波長域(一般的には約680nm?約3000nm)の光をIR光という。
【0020】
(第一実施形態)
図1は,本発明の第一実施形態である固体撮像素子の概略構成を示す平面模式図である。
図1に示す固体撮像素子200は,入射光のうちのR光に応じたR信号を出力可能な画素202Rと,入射光のうちのG光に応じたG信号を出力可能な画素202Gと,入射光のうちのB光に応じたB信号を出力可能な画素202Bとの3種類の画素を備え,これらの画素が,シリコン等の基板201上の行方向Xとこれに直交する列方向Yに二次元状に配列されている。」

「【0025】
図2は,図1に破線(イ)で囲った4つの画素の断面を1つに合成して図示した図である。
基板201は例えばn型のシリコン基板であり,この上にはpウェル層211が形成されている。基板201とpウェル層211とを合わせた部分が半導体基板を構成している。pウェル層211上には入射光に対して透明な絶縁層220が形成されている。絶縁層220上には,画素202Rの構成要素であるR光を透過するカラーフィルタ222R,画素202Gの構成要素であるG光を透過するカラーフィルタ222G,及び画素202Bの構成要素であるB光を透過するカラーフィルタ222Bからなるカラーフィルタ層が形成されている。カラーフィルタ層上には,画素毎に分割された入射光に対して透明な材料(例えば,ITOや薄い金属膜)からなる画素電極225が形成されている。画素電極225上には,IR光を吸収してこれに応じた電荷を発生する光電変換膜226が形成されている。光電変換膜226上には,入射光に対して透明な材料(例えば,ITOや薄い金属膜)からなる共通電極227が形成されている。共通電極227上には,入射光に対して透明な保護層228が形成されている。これら光電変換膜226,共通電極227,及び保護層228は,全ての画素で共通の1枚構成となっている。保護層228上の各画素に対応する位置には,各画素に入射光を集光するためのマイクロレンズ229が形成されている。
【0026】
光電変換膜226は,IR光を吸収してこの光に応じた電荷を発生すると共に,可視光を透過する有機光電変換材料(例えば,フタロシアニン系有機材料やナフタロシアニン系有機材料)で構成されている。光電変換膜226は,無機材料で構成したものであっても良い。画素電極225と共通電極227とに所定のバイアス電圧を印加して光電変換膜226に電界を印加すると,光電変換膜226では,入射したIR光の光量に応じた信号電荷が発生する。光電変換膜226は,上記光電変換材料を,スパッタ法やレーザアブレーション法,印刷技術,スプレー法等で画素電極225上に積層することで形成される。
【0027】
尚,光電変換膜226と共通電極227は,それぞれ画素毎に対応して分割してあっても良い。共通電極227を画素毎に分割した場合は,分割した共通電極227を共通配線で接続して,それぞれに同一のバイアス電圧が印加できるようにしておけば良い。
【0028】
画素202R,画素202G,及び画素202Bは,それぞれ,pウェル層211の一部と,カラーフィルタと,画素電極225と,光電変換膜226の一部と,共通電極227の一部と,マイクロレンズ229とを含んで構成されている。画素202R,画素202G,及び画素202Bの各々の構造は,カラーフィルタを除いて共通であるため,以下では,この共通の構造を,画素202Rを代表して説明する。
【0029】
画素202Rのカラーフィルタ222Rの上には画素電極225が形成されている。この画素電極225と,この画素電極225に対向する共通電極227と,これらに挟まれた光電変換膜226とにより,IR光を検出する有機光電変換素子が構成される。
【0030】
画素202Rのpウェル層211内には,その表面から内側に形成されたn型の不純物層(以下,n層という)212が形成されている。n層212の表面から内側には,n層212よりも不純物濃度の高い暗電流抑制用のp型の不純物層(以下,p層という)213が形成されている。このpウェル層211とn層212とp層213とにより,光電変換素子であるフォトダイオード(PD)214が構成されている。フォトダイオード214で発生した電荷はn層212に蓄積される。
【0031】
フォトダイオード214の左隣には,少し離間して信号読出回路215が形成されている。信号読出回路215は,例えば既存のCMOS型イメージセンサで用いられる3トランジスタ構成または4トランジスタ構成等のトランジスタ回路が用いられ,行選択走査部203や画像信号処理部204も既存のCMOS型イメージセンサで用いられるものと同じものを用いることができる。」

「【0039】
以上までに説明した構造が,各画素で共通の構造である。次に,各画素で異なる構造部分について説明する。
【0040】
画素202Rのフォトダイオード214上方には,このフォトダイオード214に対応するカラーフィルタ222Rが形成されている。画素202Gのフォトダイオード214上方には,このフォトダイオード214に対応するカラーフィルタ222Gが形成されている。画素202Bのフォトダイオード214上方には,このフォトダイオード214に対応するカラーフィルタ222Bが形成されている。
【0040】
このような構成により,画素202Rのフォトダイオード214は,R光を検出する第1の光電変換素子として機能し,画素202Gのフォトダイオード214は,G光を検出する第2の光電変換素子として機能し,画素202Bのフォトダイオード214は,B光を検出する第3の光電変換素子として機能する。このように,固体撮像素子200の各画素には,有機光電変換素子とフォトダイオード214とが含まれた構成となっている。
【0042】
次に,このような構成の固体撮像素子200の動作について説明する。
【0043】
固体撮像素子200に光が入射すると,画素202Rでは,入射光のうちのIR光が光電変換膜226で吸収され,R光,G光,B光,紫外光が光電変換膜226を透過する。透過した光のうちのR光はカラーフィルタ222Rを透過し,フォトダイオード214に吸収される。
【0044】
画素202Gでは,入射光のうちのIR光が光電変換膜226に吸収され,R光,G光,B光,紫外光が光電変換膜226を透過する。透過した光のうちのG光はカラーフィルタ222Gを透過し,フォトダイオード214に吸収される。
【0045】
画素202Bでは,入射光のうちのIR光が光電変換膜226で吸収され,R光,G光,B光,紫外光が光電変換膜226を透過する。透過した光のうちのB光はカラーフィルタ222Bを透過し,フォトダイオード214に吸収される。
【0046】
画素202Rにおける光電変換膜226では,入射したIR光の光量に応じた信号電荷が発生する。画素202Rの光電変換膜226で発生した信号電荷は,画素202Rの画素電極225に集約され,画素202Rのコンタクト部224を通り,画素202Rの信号読出回路217で信号に変換されて,列信号線208にIR信号として出力される。
【0047】
画素202Gにおける光電変換膜226では,入射したIR光の光量に応じた信号電荷が発生する。画素202Gの光電変換膜226で発生した信号電荷は,画素202Gの画素電極225に集約され,画素202Gのコンタクト部224を通り,画素202Gの信号読出回路217で信号に変換されて,列信号線208にIR信号として出力される。
【0048】
画素202Bにおける光電変換膜226では,入射したIR光の光量に応じた信号電荷が発生する。画素202Bの光電変換膜226で発生した信号電荷は,画素202Bの画素電極225に集約され,画素202Bのコンタクト部224を通り,画素202Bの信号読出回路217で信号に変換されて,列信号線208にIR信号として出力される。」

「【0065】
図5は,被写体照度に対する光電変換素子214からの出力信号(PD信号)と有機光電変換素子からの出力信号(膜信号)の関係を示した図である。
有機光電変換素子は,光電変換素子214よりも受光面積が大きいため,そのダイナミックレンジが光電変換素子214のダイナミックレンジよりも大きくなっている。つまり,被写体に,光電変換素子214では出力信号が飽和して白とびしてしまう高照度領域があった場合でも,有機光電変換素子によってこの高照度領域を,白とびを起こすことなく撮像することが可能となっている。
【0066】
例えば,図6(a)に示すように,雲の存在する青空を背景にした建物を撮像する場合を考える。この被写体では,雲と青空のある領域が,光電変換素子214からの出力信号が飽和してしまう照度レベルである高照度領域となっているものとする。このような被写体を本実施形態のデジタルカメラで撮影すると,カラー画像データ生成部171で生成されたカラー画像データは,図6(b)に示すように,高照度領域が白とびしたものとなってしまい,雲の部分の輪郭が消されたものとなってしまう。これに対し,赤外画像データ生成部172で生成された赤外画像データは,図6(c)に示すように,高照度領域が白とびしていないものとなる。
【0067】
本実施形態のデジタルカメラでは,輪郭画像データ生成部173が,図6(c)に示した赤外画像データから輪郭情報を抽出して図6(d)に示したような輪郭画像データを生成し,画像合成部174が,図6(d)に示す輪郭画像データと図6(b)に示したカラー画像データとを合成して,図6(e)に示すような合成画像データを生成するものとしている。図6(d)に示す輪郭画像データには雲の輪郭が残っているため,これと図6(b)に示すカラー画像データとを合成することで,図6(b)の高照度領域で白とびして消えてしまっていた雲の輪郭を再現することが可能となる。」

「【0070】
以上のように,本実施形態のデジタルカメラは,ダイナミックレンジの狭い光電変換素子214から得られた信号により生成したカラー画像データに,ダイナミックレンジの広い有機光電変換素子から得られた信号により生成した被写体の輪郭を表す輪郭画像データを合成して,記録媒体21への記録用画像データを生成している。このため,光電変換素子214だけでは白とびしてしまう高照度領域が被写体にあったとしても,この高照度領域にある被写体の輪郭を忠実に再現した画像データを得ることができる。」

「【図1】




「【図2】



(2)ここで,引用文献1に記載されている事項を検討する。
ア 引用文献1の段落0020及び図1の記載を参酌すると,引用文献1の「固体撮像素子200」は,「画素202R」,「画素202G」及び「画素202B」を備え,これらの画素がシリコン等の「基板201」に二次元状に配列されているものである。

イ 引用文献1の段落0025及び図2の記載を参酌すると,引用文献1の「基板201」の上には「pウェル層211」が形成されており,「基板201」と「pウェル層211」とを合わせた部分が「半導体基板」を構成しており,「半導体基板」の「pウェル層211」の上には「絶縁層220」が,「絶縁層220」の上には,「カラーフィルタ層」が形成されている。
そして,「カラーフィルタ層」上には「画素電極225」が,「画素電極225」上には,「光電変換膜226」が,「光電変換膜226」上には,「共通電極227」が,それぞれ形成されている。
ここで,引用文献1の段落0026には,「光電変換膜226」が,「IR光を吸収してこの光に応じた電荷を発生すると共に,可視光を透過する有機光電変換材料(例えば,フタロシアニン系有機材料やナフタロシアニン系有機材料)で構成」されており,「画素電極225と共通電極227とに所定のバイアス電圧を印加して光電変換膜226に電界を印加すると,」「入射したIR光の光量に応じた信号電荷が発生する」ものである点が記載されている。

ウ 引用文献1の段落0029には,「画素202R」における,「画素電極225」と,この「画素電極225」に対向する「共通電極227」と,これらに挟まれた「光電変換膜226」とにより,「IR光を検出する有機光電変換素子」が構成される点が記載されている。
また,引用文献1の段落0030には,「画素202R」における,「pウェル層211」と,「pウェル層211」内に内側に形成された「n層212」と,「n層212」の表面から内側に形成された「p層213」とにより,「光電変換素子であるフォトダイオード(PD)214」が構成される点が記載されている。
ここで,引用文献1の段落0028には,「画素202R」,「画素202G」及び「画素202B」の各々の構造が,「カラーフィルタを除いて共通」である点も記載されている。

エ 引用文献1の段落0043-0045には,「画素202R」,「画素202G」及び「画素202B」において,「入射光のうちのIR光が光電変換膜226で吸収され,R光,G光,B光,紫外光が光電変換膜226を透過する」とともに,カラーフィルタを透過した光が,「フォトダイオード214に吸収される」点が記載されている。
また,段落0046-0048には,「光電変換膜226で発生した信号電荷」が,「画素電極225に集約され」る点も記載されている。

(3)上記(1),(2)から,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「 画素202R,画素202G及び画素202Bを備え,これらの画素がシリコン等の基板201に二次元状に配列されている固体撮像素子200であって,
基板201の上にはpウェル層211が形成されており,基板201とpウェル層211とを合わせた部分が半導体基板を構成しており,
pウェル層211の上には絶縁層220が,絶縁層220の上には,カラーフィルタ層が形成されており,
カラーフィルタ層上には画素電極225が,画素電極225上には,光電変換膜226が,光電変換膜226上には,共通電極227が,それぞれ形成されており,
光電変換膜226は,IR光を吸収してこの光に応じた電荷を発生すると共に,可視光を透過する有機光電変換材料(例えば,フタロシアニン系有機材料やナフタロシアニン系有機材料)で構成されており,
画素202R,画素202G及び画素202Bにおいて,
画素電極225と,この画素電極225に対向する共通電極227と,これらに挟まれた光電変換膜226とにより,IR光を検出する有機光電変換素子が構成され,
画素電極225と共通電極227とに所定のバイアス電圧を印加して光電変換膜226に電界を印加すると,入射したIR光の光量に応じた信号電荷が発生するものであり,
pウェル層211と,pウェル層211内に内側に形成されたn層212と,n層212の表面から内側に形成されたp層213とにより,光電変換素子であるフォトダイオード(PD)214が構成され,
入射光のうちのIR光が光電変換膜226で吸収され,R光,G光,B光,紫外光が光電変換膜226を透過し,透過した光のうちのカラーフィルタを透過した光が,フォトダイオード214に吸収され,
光電変換膜226で発生した信号電荷は,画素電極225に集約される固体撮像素子200。」

2 引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
本開示は,偏光有機光電変換素子,偏光有機光電変換素子の製造方法,偏光光学素子,撮像装置および電子機器に関する。本開示は,例えば,有機光電変換層を用いた偏光有機撮像装置に適用して好適な偏光有機光電変換素子およびその製造方法ならびにこの偏光有機光電変換素子を用いた偏光光学素子ならびにこの偏光有機光電変換素子あるいは偏光光学素子を用いた撮像装置あるいは各種の電子機器に関する。」

「【0024】
〈1.第1の実施の形態〉
[偏光有機光電変換素子]
第1の実施の形態による偏光有機光電変換素子を図1Aに示す。
【0025】
図1Aに示すように,この偏光有機光電変換素子は,第1の電極11と第2の電極12との間に有機光電変換材料からなる有機光電変換層13が挟まれた構造を有する。有機光電変換層13は,その面内で少なくともその一部が予め所定の方向に一軸配向されたものである。例えば,図1Bに示すように,この有機光電変換層13は,その全体が同一の方向に一軸配向されたものである。第1の電極11および第2の電極12のうちの少なくとも受光面側の一方は,光電変換しようとする光,例えば可視光に対して透明であり,他方は光電変換しようとする光に対して透明であっても透明でなくてもよい。例えば,第1の電極11および第2の電極12のうちの一方はグラウンド電極(接地電極),他方はバイアス印加電極として用いられる。第1の電極11および第2の電極12は,必要に応じて,基板上に形成されたものであってもよい。第1の電極11および第2の電極12のうちの少なくとも受光面側の一方を基板上に形成する場合,その基板としては光電変換しようとする光に対して透明なものが用いられる。この偏光有機光電変換素子においては,例えば第2の電極12側が受光面となる場合,入射光は,この第2の電極12を透過して,あるいはこの第2の電極12が基板上に形成されている場合にはこれらの基板および第2の電極12を透過して,有機光電変換層13に入射する。」

「【0028】
有機光電変換層13を構成する有機光電変換材料としては従来公知の各種のものを用いることができ,光電変換しようとする光の波長などに応じて適宜選ばれる。有機光電変換材料としては,具体的には,例えば,次のような各種の有機色素を用いることができるが,これらに限定されるものではない。使用する有機色素は,例えば,この有機色素の最高被占軌道(HOMO)および最低空軌道(LUMO)のバンド構造を考慮して第1の電極11および第2の電極12と仕事関数が揃うように選ばれるが,第1の電極11および第2の電極12と有機光電変換層13との間に中間層(バッファ層)を形成する場合には必ずしもそのようにする必要はない。有機光電変換層13は,一種類の有機光電変換材料で構成してもよいし,二種類以上の有機光電変換材料を組み合わせて,例えば二種類以上の有機光電変換材料を混合して構成してもよい。有機光電変換層13の厚さは必要に応じて選ばれるが,例えば,この偏光有機光電変換素子の動作時に印加される電界の強度や成膜安定性などを考慮して,好適には30nm以上500nm以下に得られる。」

「【0029】
?前略?
・Pigment Blue 7
フタロシアニンコバルト(II)
【化25】

?後略?


「【0033】
[偏光有機光電変換素子の動作]
例えば,この偏光有機光電変換素子の第1の電極11をバイアス印加電極,第2の電極12をグラウンド電極(電位=0)として用い,第1の電極11にバイアス電圧を印加する。例えば,第2の電極12を透明に構成する。この状態で偏光有機光電変換素子の第2の電極12側に光が入射すると,この光は第2の電極12を透過して有機光電変換層13に入射する。この際,この入射光のうちの有機光電変換層13の配向軸に平行な方向の偏光成分だけが有機光電変換層13により光電変換される。すなわち,この有機光電変換層13への光の入射により電子および正孔が生成され,そのうち電子は第2の電極12に移動し,正孔は第1の電極11に移動してそれぞれ捕集される。これによって,第1の電極12と第2の電極15との間に外部回路を接続した場合,この外部回路に光電流が流れる。この光電流を測定することにより,偏光有機光電変換素子に入射した光のうちの有機光電変換層13の配向軸に平行な方向の偏光成分の検出を行うことができる。このとき,有機光電変換層13に入射する光の偏光の状態および波長に応じて光電流が得られる。」

「【図1】



(2)上記(1)の,特に図1Bに関する記載を参酌すると,上記引用文献2には次の発明(以下,「引用文献2に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。
「 第1の電極11と第2の電極12との間に有機光電変換材料からなる有機光電変換層13が挟まれた構造を有する偏光有機光電変換素子であって,
有機光電変換層13は,その全体が同一の方向に一軸配向されたものであり,
有機光電変換層13を構成する有機光電変換材料としては従来公知の各種のもの,具体的には,例えばフタロシアニンコバルトのような有機色素を用いることができ,
偏光有機光電変換素子に入射した光のうちの有機光電変換層13の配向軸に平行な方向の偏光成分の検出を行う偏光有機光電変換素子。」

3 引用文献3について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0022】
無機光電変換部11B,11Rはそれぞれ、pn接合を有するフォトダイオード(Photo Diode)であり、半導体基板11内に、例えば、面S1側から無機光電変換部11B,11Rの順に形成されている。これらのうち、無機光電変換部11Bは、青色光を選択的に検出して青色に対応する信号電荷を蓄積させるものであり、例えば半導体基板11の面S1に沿った選択的な領域から、多層配線層51との界面近傍の領域にかけて延在して形成されている。無機光電変換部11Rは、赤色光を選択的に検出して赤色に対応する信号電荷を蓄積させるものであり、例えば無機光電変換部11Bよりも下層(面S2側)の領域に形成されている。尚、青(B)は、例えば450nm?495nmの波長域、赤(R)は、例えば620nm?750nmの波長域にそれぞれ対応する色であり、無機光電変換部11B,11Rはそれぞれ、上記波長域のうちの一部または全部の波長域の光を検出可能であればよい。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明1の「光電変換膜226」は,「IR光を吸収してこの光に応じた電荷を発生すると共に,可視光を透過する有機光電変換材料(例えば,フタロシアニン系有機材料やナフタロシアニン系有機材料)で構成されて」いるから,本願発明1の「光透過性を有」する「有機光電変換膜」である点で共通する。
また,引用発明1の「画素電極225」と「共通電極227」は,「所定のバイアス電圧を印加して光電変換膜226に電界を印加する」ものであり,「光電変換膜226」で発生した信号電荷が,「画素電極225」に集約されるから,本願発明1の「電圧を印加し信号電荷を取り出すための電極」である点で共通する。
そして,引用発明1の「IR光を検出する有機光電変換素子」が,本願発明1の「前記所定の軸に平行な偏光成分を検出する第1の光検出層」と,「第1の光検出層」である点で共通する。

イ 引用発明1の「光電変換素子であるフォトダイオード(PD)214」は,「pウェル層211と,pウェル層211内に内側に形成されたn層212と,n層212の表面から内側に形成されたp層213とにより」構成されるものであるところ,「pウェル層211」,「pウェル層211内に内側に形成されたn層212」及び「n層212の表面から内側に形成されたp層213」はいずれもシリコン等の無機材料からなることは技術常識であるから,無機光電変換素子を含む光検出層であるといえる。
また,引用発明1の「光電変換素子であるフォトダイオード(PD)214」は,「光電変換膜226を」「透過した光のうちのカラーフィルタを透過した光」を吸収するから,「有機光電変換素子」で吸収された成分以外の光成分を検出するものであるといえる。
そして,引用発明1の「光電変換素子であるフォトダイオード(PD)214」は,「有機光電変換素子」の下層にあることは明らかである。
すると,引用発明1の「光電変換素子であるフォトダイオード(PD)214」と,本願発明1の「第2の光検出層」とは,「前記第1の光検出層より下層にあり,前記第1の光検出層で吸収された成分以外の光成分を検出する,無機光電変換素子を含む第2の光検出層」である点で共通する。

ウ 引用発明1の「固体撮像素子200」と,本願発明1の「撮像素子」とは,「撮像素子」である点で共通する。

エ したがって,本願発明1と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「 光透過性を有する有機光電変換膜と,それに電圧を印加し信号電荷を取り出すための電極を含む第1の光検出層と,
前記第1の光検出層より下層にあり,前記第1の光検出層で吸収された成分以外の光成分を検出する,無機光電変換素子を含む第2の光検出層と,
を含むことを特徴とする撮像素子。」

(相違点)
(相違点1)第1の光検出層について,本願発明1は,「所定の軸方向に配向された有機光電変換膜」を備え,「所定の軸に平行な偏光成分を検出する」と特定されているのに対し,引用発明1は,そのように特定されていない点。
(相違点2)第2の光検出層について,本願発明1は,「前記第1の光検出層で吸収された成分以外の偏光成分を検出する」と特定されているのに対し,引用発明1は,そのように特定されていない点。

(2)相違点についての判断
ア 上記相違点1について検討する。
引用文献2に記載された発明に示されているように,「有機光電変換材料」で構成された「光電変換膜226」において,「その全体が同一の方向に一軸配向させて「光電変換膜226」の軸方向に平行な方向の偏光成分の検出を行う」ことは,本願出願前において公知の技術であると認められる。
しかしながら,引用発明1は,引用文献1の段落0065,0070等に記載されているように,「有機光電変換素子は,光電変換素子214よりも受光面積が大きいため,そのダイナミックレンジが光電変換素子214のダイナミックレンジよりも大きくなっている。」ことを利用し,「ダイナミックレンジの狭い光電変換素子214から得られた信号により生成したカラー画像データに,ダイナミックレンジの広い有機光電変換素子から得られた信号により生成した被写体の輪郭を表す輪郭画像データを合成して,記録媒体21への記録用画像データを生成している。」ものである。
ここで,引用発明1の「有機光電変換材料」で構成された「光電変換膜226」において,その全体が同一の方向に一軸配向させて「光電変換膜226」の軸方向に平行な方向の偏光成分の検出を行うようにすると,検出し得る光成分の量は減少するため,「光電変換膜226」のダイナミックレンジは小さくなるから,引用発明1に引用文献2に記載された発明を適用することには,阻害要因があるといえる。
なお,引用発明1及び引用文献2には,フタロシアニン系の有機光電変換材料が記載されているが,引用発明1も引用文献2も,複数種類の材料の中の1つとして例示されているだけであるから,この点のみをもって引用発明1に引用文献2に記載された発明を適用する動機があるとはいえない。
また,相違点1に係る構成は,引用文献3にも記載されていない。
してみると,引用発明1に引用文献2-3に記載された発明を適用したとしても,上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることはできない。

イ そして,上記相違点1に係る本願発明1の構成は,本願出願前において周知技術であるともいえない。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明1及び引用文献2-3に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2-14について
本願発明2-14は,本願発明1の全ての構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1及び引用文献2-3に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明1-14は,当業者が引用発明1及び引用文献2-3に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-06-16 
出願番号 特願2015-159577(P2015-159577)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上田 智志  
特許庁審判長 河本 充雄
特許庁審判官 小川 将之
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 撮像素子、イメージセンサ、撮像装置、および情報処理装置  
代理人 三木 友由  
代理人 森下 賢樹  
代理人 青木 武司  
代理人 村田 雄祐  

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