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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16G
管理番号 1375432
審判番号 不服2020-12400  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-04 
確定日 2021-07-06 
事件の表示 特願2019- 91442「伝動ベルト」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月26日出願公開、特開2019-163861、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年4月28日に出願された特願2015-92256号の一部を令和1年5月14日に新たな特許出願としたものであって、令和2年3月19日付けで拒絶理由通知がされ、同年5月13日に意見書が提出されたが、同年5月28日付け(発送日:同年6月9日)で拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年9月4日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年5月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1?5に係る発明は、以下の引用文献1?3に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1 特開2014-167347号公報
引用文献2 特開2004-125012号公報
引用文献3 特開2014-24928号公報

第3 本願発明
本願請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
プーリに巻き掛けられて動力を伝達する伝動ベルトにおいて、
セルロース系微細繊維と、短繊維とを含有するゴム組成物からなる層を有しており、
前記セルロース系微細繊維の繊維径の分布範囲が10?100nmを含むことを特徴とする伝動ベルト。」

なお、本願発明2?5は、本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0002】
ゴム工業分野のなかでも、特に自動車用部品においては高機能、高性能化が望まれている。このような自動車用部品に用いられるゴム製品の一つとして摩擦伝動ベルトがあり、この摩擦伝動ベルトは、例えば、自動車のエアーコンプレッサーやオルタネータなどの補機駆動の動力伝動に広く用いられている。」

(2)「【0025】
本発明では、圧縮層のゴム組成物中のポリマー成分の含有量が多くても、静粛性(静音性)を向上できる。ゴム組成物中のポリマー成分の含有量は、例えば、40?65重量%(例えば、42?60重量%)、好ましくは45?55重量%(例えば、47?53重量%)程度であってもよい。
【0026】
吸水性繊維の短繊維
吸水性繊維としては、例えば、ビニルアルコール系繊維(ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体の繊維、ビニロンなど)、セルロース系繊維[セルロース繊維(植物、動物又はバクテリアなどに由来するセルロース繊維)、セルロース誘導体の繊維]などが例示できる。セルロース繊維としては、例えば、木材パルプ(針葉樹、広葉樹パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(綿繊維(コットンリンター)、カポックなど)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然植物由来のセルロース繊維(パルプ繊維);羊毛、絹、ホヤセルロースなど動物由来のセルロース繊維;バクテリアセルロース繊維;藻類のセルロースなどが例示できる。セルロース誘導体の繊維としては、例えば、セルロースエステル繊維;再生セルロース繊維(レーヨンなど)などが挙げられる。
【0027】
これらの繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの繊維のうち、特に、セルロース系繊維(綿繊維などのセルロース繊維、レーヨンなどのセルロース誘導体繊維)、例えば、木材パルプや種子毛繊維(コットンリンターなど)を含むことが好ましい。吸水性繊維(例えば、綿繊維)は、織布又は不織布、例えば、デニム、綿帆布、ポプリン、コール天、白木綿、クレープ、金巾、ブロード、ボイル、ローンなどの形態でポリマー成分に添加してもよく、吸水性繊維は撚糸の形態でポリマー成分に添加してもよい。なお、吸水性繊維はフィブリル化していてもよい。
【0028】
吸水性繊維は短繊維の形態で圧縮層に含まれている。吸水性繊維の平均繊維径(数平均繊維径)は、例えば、10nm?10μm(例えば、20nm?1μm)程度の範囲から選択でき、通常、50nm?0.7μm(例えば、100nm?0.5μm)、好ましくは200nm?0.4μm(例えば、200nm?0.3μm)程度であってもよい。吸水性繊維の平均繊維長は、例えば、100μm?30mm程度の範囲から選択でき、通常、0.1?20mm、好ましくは0.5?10mm、さらに好ましくは0.7?5mmであり、0.5?4mm(例えば、0.7?4mm)程度であってもよい。さらに、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)(平均アスペクト比)は、例えば、2000以上(例えば、2000?100000)であり、好ましくは5000?50000、さらに好ましくは10000?40000(例えば、20000?35000)程度であってもよい。」

(3)「【0082】
(c)トルクロス測定
図4に示すように、直径55mmの駆動(Dr)プーリと、直径55mmの従動(Dn)プーリとで構成される2軸走行試験機にVリブドベルトに懸架し、450?950N/ベルト1本の張力範囲でVリブドベルトに所定の初張力を付与し、従動プーリ無負荷で駆動プーリを2000rpmで回転させたときの駆動トルクと従動トルクとの差をトルクロスとして算出した。(以下略)」

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「駆動プーリ及び従動プーリに懸架されて動力伝動に用いられる摩擦伝動ベルトにおいて、
セルロース系短繊維と、前記セルロース系短繊維とは異なる吸水性繊維の短繊維とを含有するゴム組成物からなる圧縮層を有しており、前記セルロース系短繊維の平均繊維径は100nm?0.5μmである摩擦伝動ベルト。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の技術的事項が記載されている。
「【0023】
そして、それ以外に必要に応じてシリカ、カーボンブラックのような補強剤、炭酸カルシウム、タルクのような充填剤、可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤のような通常のゴム配合物に使用されるものが使用される。
【0024】
また、圧縮ゴム層4には、上記極短繊維6以外の短繊維、例えばナイロン6、ナイロン66、ポリエステル、綿、アラミドからなる短繊維を混入し、圧縮ゴム層4の耐側圧性を向上させることが好ましい。また、プーリと接する面になる圧縮ゴム層4の表面に該短繊維を突出させ、圧縮ゴム層4の摩擦係数を低下させて、ベルト走行時の騒音を軽減させることもできる。これらの短繊維のうち、剛直で強度を有し、しかも耐摩耗性を有するアラミド短繊維が最も効果がある。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の技術的事項が記載されている。
(1)「【0016】
本発明によれば、透明性が高く、熱膨張および複屈折の発生を防止することができるセルロースナノファイバーフィルムが提供される。」

(2)「【0036】
化学的解繊処理の具体的な方法としては、例えば、酸化触媒および必要に応じて共酸化剤を使用し、セルロース繊維を酸化処理する方法が挙げられる。これにより、セルロース単位の第一級水酸基を有するC6位の炭素原子(ヒドロキシメチル基)がカルボキシ基へと酸化され、フィブリル相互の静電反発により化学的に解繊される。なお、酸化反応処理を経ることにより、セルロース繊維の分子にはカルボキシ基が導入されるが、酸化処理の進行度合いによっては、部分的にアルデヒド基が導入される場合もある。したがって、酸化処理後の解繊繊維のC6位のヒドロキシメチル基は、酸化されてアルデヒド基およびカルボキシ基の少なくとも一方に変換されていることになる。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「駆動プーリ及び従動プーリに懸架」することは、本願発明1の「プーリに巻き掛け」ることに相当し、以下同様に、
「動力伝動に用い」ることは「動力を伝達」することに、
「摩擦伝動ベルト」は「伝動ベルト」に、
「前記セルロース系短繊維とは異なる吸水性繊維の短繊維」は「短繊維」に
「ゴム組成物からなる圧縮層」は「ゴム組成物からなる層」に、それぞれ相当する。

また、引用発明の「平均繊維径は100nm?0.5μmである」「セルロース系短繊維」と、本願発明1の「繊維径の分布範囲が10?100nmを含む」「セルロース系微細繊維」とは、「セルロース系繊維」という限りにおいて共通する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。

[一致点]
「プーリに巻き掛けられて動力を伝達する伝動ベルトにおいて、
セルロース系繊維と、短繊維とを含有するゴム組成物からなる層を有している伝動ベルト。」

[相違点]
本願発明1のセルロース系繊維は、「繊維径の分布範囲が10?100nmを含む」「セルロース系微細繊維」であるのに対し、引用発明のセルロース系繊維は、「平均繊維径は100nm?0.5μmである」「セルロース系短繊維」である点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。

引用文献2及び3のいずれにも、セルロース系繊維の繊維径の「分布範囲」を規定する技術的事項の記載はなく、また、引用発明において、セルロース系繊維の繊維径の「平均」を特定した引用発明において、繊維径の「分布範囲」を改めて特定する動機付けはない。

そして、本願発明1は、繊維径の分布範囲が10?100nmを含むセルロース系微細繊維を含有したゴム組成体により、軸間距離変化、ベルト重要変化及び摩擦係数変化が少なく、耐クラック性、耐粘着摩耗性及び、ベルト強力保持率が大きい(【表1】及び段落【0102】)参照。)といった「要求される複数の特性を同時に満たす伝動ベルトを提供する」(明細書段落【0005】参照)ことを可能とする作用効果を奏するものであるところ、このような作用効果は、当業者といえども、引用発明及び引用文献2及び3に記載された技術的事項から予測できたものとは認められない。

したがって、本願発明1は、引用発明並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?5について
本願発明2?5は、上記相違点に係る本願発明1の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様に、引用発明並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?5は、当業者が引用発明並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-06-18 
出願番号 特願2019-91442(P2019-91442)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡本 健太郎  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 内田 博之
中村 大輔
発明の名称 伝動ベルト  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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