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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F
管理番号 1375533
審判番号 不服2020-15459  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-09 
確定日 2021-07-13 
事件の表示 特願2016- 95421「積層コイル部品」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月16日出願公開、特開2017-204565、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年5月11日の出願であって、令和元年7月19日付けで拒絶理由が通知され、令和元年9月19日に手続補正がなされ、令和2年1月30日付けで拒絶理由が通知され、令和2年4月1日に手続補正がなされたが、令和2年8月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、令和2年11月9日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年8月24日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

<理由1-A>
本願請求項5-6に係る発明は、以下の引用文献1、2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<理由1-B>
本願請求項5-6に係る発明は、以下の引用文献3、2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2000-58361号公報
2.特開平4-3407号公報
3.特開2013-89657号公報

なお、原査定の備考欄の「<付記>」で、引用文献4(特開2010-80703号公報)、引用文献5(特開平8-97025号公報)が引用された。

第3 本願発明
本願請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、令和2年11月9日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である(下線は、補正箇所を示す。)。
「【請求項1】
フェライト焼結体からなる素体と、
前記素体内に併置されている複数の内部導体が電気的に接続されて構成されたコイルと、
前記素体に配置されており、前記コイルと接続されている外部電極と、を備え、
前記外部電極は、前記素体に形成されていると共にガラスを含む焼結金属層を有し、
前記素体の表面を含む表面領域の平均結晶粒径が、前記素体における前記内部導体間の領域の平均結晶粒径よりも小さく、
前記素体の表面は、絶縁材料からなる層で覆われており、前記絶縁材料は、前記焼結金属層に含まれるガラスより軟化点が高いガラスであって、前記素体の前記表面を含む前記表面領域内における結晶粒間に存在しておらず、
前記絶縁材料からなる前記層には、前記外部電極に接続されている前記内部導体が存在していない複数の貫通孔が形成されている、積層コイル部品。
【請求項2】
前記素体の前記表面を含む前記表面領域の平均結晶粒径が、0.5?1.5μmである、請求項1に記載の積層コイル部品。
【請求項3】
前記素体の前記表面の空孔率が、10?30%である、請求項1又は2に記載の積層コイル部品。
【請求項4】
フェライト焼結体からなる素体と、
前記素体内に併置されている複数の内部導体が電気的に接続されて構成されたコイルと、
前記素体に配置されており、前記コイルと接続されている外部電極と、を備え、
前記素体の表面を含む表面領域の平均結晶粒径が、前記素体における前記内部導体間の領域の平均結晶粒径よりも小さく、
前記素体の表面は、絶縁材料からなる層で覆われており、前記絶縁材料は、前記素体の前記表面を含む前記表面領域内における結晶粒間に存在しておらず、
前記絶縁材料からなる前記層には、前記外部電極に接続されている前記内部導体が存在していない複数の貫通孔が形成されている、積層コイル部品。
【請求項5】
前記絶縁材料が、ガラスである、請求項4に記載の積層コイル部品。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、面実装型コイル部品、より詳しくは品質、特性の良い積層インダクタ、インダクタアレイ、トランス等の積層インダクタンス素子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】電子機器において、その小型化は市場要求が常にあり、使用される部品についても小型化が要求される。
【0003】元来リード付き部品であったインダクタ、コンデンサ等の電子部品は、積層工法によりセラミック、金属を同時焼成にて内部導体を具備するモノリシック構造が実用化されたことにより、その形状をより小型化することに成功してきた。現在、チップコンデンサ、チップ抵抗等においては1005形状(縦1mm、横0.5mm)等の微小素子の需要が増加しつつあり、チップインダクタにおいても同様に小型化が要求されてきている。
【0004】積層工法についてはまず、セラミック粉体をバインダ、有機溶剤とともに混合し、これをPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上にドクターブレード法等により、塗布、乾燥することでグリーンシートを得る。
【0005】得られたグリーンシート(以下シート)を機械加工、レーザ加工等によりスルーホールを形成する。これに銀、又は銀パラジウム導体ペーストをスクリーン印刷しコイルパターンを得る。このときスルーホールはペーストで充填され、他層との電気的導通を得る。
【0006】印刷されたシートを順に積層、その後ハンドリングを可能にするために軽く仮圧着し、また、その後完全にシートが一体化するように加圧着する。このあと所定の寸法で切断、チップ形状にする。
【0007】得られた生チップを脱バインダー、焼成等の熱処理を行い、焼結させる。そして、焼結されたチップをバレル等の方法で研磨し、端子電極等を銀ペーストで形成し、再び焼き付け等の熱処理を施す。さらに、電解メッキ等により端子電極に皮膜処理を施すことでセラミック絶縁体又は磁性体内にコイルを内蔵するチップインダクタを得る。」

「【0011】従来の積層圧着工程では平坦な金型に仮積層体を挟みプレス処理を行ってきた。しかしながら、これと同じ手法を用いて、1005サイズのチップを作成する際には、その積層ずれが著しく進むことがわかった。前述したように、フェライトグリーンシートは薄く、また、この上にスクリーン印刷された導体パターンは細く、しかし直流抵抗が低いことが要求されるがために印刷厚は薄くすることができない。厚膜で印刷される導体が薄いシートに印刷されることにより印刷後のシートの平滑性は著しく損なわれる。
【0012】このようなシートを一軸プレスのような平坦な板で圧力をかけて積層すると導体部にのみ圧縮圧力がかかり、その結果、その圧の逃げ場が圧の低い方向となるため、各シートを圧着一体化して未焼成フェライト素体とする際に積層ずれが発生する。この積層圧着工程においてはその積層数が多いほど顕著に発生し、1005サイズ等のクリアランスの狭いものにおいては特に深刻になる。」

「【0017】一軸プレスによって圧着を試みて、積層ずれが生じる場合と、CIPを使った場合を比較した模式図を図1に示す。この図において、1はフェライトグリーンシート、2は導体パターンを構成する導体ペーストであり、図1(a)の一軸プレスの場合、積層後における各シート間の積層ずれが顕著であり、各層間を接続するスルーホールの位置が合わなくなったり、隣接するチップ領域にまで導体位置がずれる等の不具合が発生する。・・・(省略)・・・」(当審註:「図1」とあるのは「図2」の誤記である。)

【図2】



「【0027】積層チップインダクタの圧着工程におけるずれの発生は、前述したようにチップサイズが小さくなるに従ってその悪影響が深刻となってくる。圧着工程における積層ずれは、各フェライトグリーンシートの導体パターンが印刷された部分のみ圧力が高く、印刷されない部分は圧力が低いことにより、その圧力差が問題となることが検討を重ねた結果明らかになった。従来の平坦な板に挟まれる形式の金型に仮積層体を入れプレスされる工法においては圧力の高い部分が形成きれ、また、その上下の層においては半周分だけずれて別の高圧部分が形成される(各シートに半周毎の導体パターンを形成することが一般的であるため)。これを繰り返し積層することで圧縮圧力の高低差が明確に発生し、圧の逃げ場が存在するため、各シートは積層時にずれることとなる。」

(2)引用文献1に記載された技術事項
上記(1)によれば、上記引用文献1には、次の技術事項が記載されている。
ア 段落【0001】より、引用文献1は「積層インダクタンス素子の製造方法」に関するものであることがわかる。

イ 段落【0005】より、「グリーンシート(以下シート」)」に「スルーホールを形成」し、「これに」「導体ペーストをスクリーン印刷しコイルパターンを得」、「このときスルーホールはペーストで充填され、他層との電気的導通を得」ることを読み取ることができる。

ウ 段落【0006】、【0007】より、「印刷されたシートを順に積層」「し、」「その後完全にシートが一体化するように加圧着」し、「このあと所定の寸法で切断、チップ形状に」し、「得られた生チップを」「焼結させ」、「焼結されたチップを」「研磨し、端子電極等を銀ペーストで形成し、再び焼き付け等の熱処理を施」し、「さらに、電解メッキ等により端子電極に皮膜処理を施すことで」「磁性体内にコイルを内蔵するチップインダクタを得」ることを読み取ることができる。

エ 段落【0012】及び【0027】より、「各シートを圧着一体化して未焼成フェライト素体とする際」、「シートを一軸プレスのような平坦な板で圧力をかけて積層する」と「各フェライトグリーンシートの導体パターンが印刷された部分のみ圧力が高く、印刷されない部分は圧力が低い」ことを読み取ることができる。

(3)引用文献1に記載された発明
上記アないしエより、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「積層インダクタンス素子の製造方法であって、
グリーンシート(以下シート)にスルーホールを形成し、これに導体ペーストをスクリーン印刷しコイルパターンを得、このときスルーホールはペーストで充填され、他層との電気的導通を得、
印刷されたシートを順に積層し、その後完全にシートが一体化するように加圧着し、このあと所定の寸法で切断、チップ形状にし、得られた生チップを焼結させ、焼結されたチップを研磨し、端子電極等を銀ペーストで形成し、再び焼き付け等の熱処理を施し、さらに、電解メッキ等により端子電極に皮膜処理を施すことで磁性体内にコイルを内蔵するチップインダクタを得、
各シートを圧着一体化して未焼成フェライト素体とする際、シートを一軸プレスのような平坦な板で圧力をかけて積層すると各フェライトグリーンシートの導体パターンが印刷された部分のみ圧力が高く、印刷されない部分は圧力が低い、
製造方法。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
ア 「発明が解決しようとする課題
本発明は、端子電極焼付けを行なうと同時に表面にガラスコーティングを行ない製造工程を大幅に増やすことなく耐湿性に優れたセラミックス焼成体と内部電極、および内部電極と接続された端子電極からなる電子部品ならびにその製造方法を提供するものである。」(第2頁左上欄第6-12行)

イ 「第4図に示される製造工程により、焼成まで行うのは従来法と同じであるが、端子電極塗布工程ならびに端子電極焼付け工程を以下に述べるように変更した。まず、端子電極用ペーストを銀等の貴金属と有機ビークルからなるペーストと貴金属を含まず硼珪酸鉛ガラス等のフリットガラスと有機ビークルからなるペーストを2種類作製した。まず焼成体全体にフリットガラスと有機ビークルからなるペーストを塗付した。さらに、この上から第1図に示すように貴金属ペーストを塗布した。
上記2種類のペーストを焼成体に塗布したのち、加熱炉において同時に焼付けを行なった。加熱条件は、用いる貴金属あるいはガラスフリットにより決定する。
一般にガラスフリットの主成分を硼珪酸鉛ガラスとした場合では750℃程度が好ましい。750℃以下で焼き付けると緻密なガラス層が得られにくいからである。また、貴金属ペーストとしてよく用いられる銀の場合では、750?850℃程度が好ましい。750℃以下で焼き付けると銀がポーラスで、電極として不十分である。一方、焼付け温度を850℃以上にした場合、銀がセラミックス焼成体全体に飛散し絶縁抵抗が低下する。」(第2頁右上欄第11行-同頁左下欄第14行)



ウ 「発明の効果
以上、述べたように本発明によるとセラミックス焼成体と内部電極、および内部電極と接続された端子電極からなる電子部品にガラス層コーティングを施すことより、耐湿環境下での故障率は約半分以下になった。また、従来法である樹脂塗装工程に要する時間と比較して本法のガラスコーティング法に要する時間は著しく短く、コストを引き上げることがほとんどない。」(第3頁右上欄第1-9行)

(2)引用文献2に記載された技術
よって、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「セラミックス焼成体と内部電極、および内部電極と接続された端子電極からなる電子部品において、焼成体全体にフリットガラスと有機ビークルからなるペーストを塗付し、さらに、この上から貴金属ペーストを塗布し、上記2種類のペーストを焼成体に塗布したのち、加熱炉において同時に焼付けを行なって、ガラス層コーティングを施すことより耐湿環境下での故障率を約半分以下とする技術。」

3 引用文献3について
(1)引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。) 。
ア 「【0001】
本発明は、電子部品及びその製造方法に関し、より特定的には、コイルを内蔵している電子部品及びその製造方法に関する。」

イ 「【0007】
そこで、本発明の目的は、優れた直流重畳特性を有する電子部品及びその製造方法を提供することである。」

ウ 「【0015】
電子部品10は、図1及び図2に示すように、積層体12、外部電極14(14a,14b)、接続部30(30a,30b)及びコイルLを備えている。
【0016】
積層体12は、図1に示すように、直方体状をなしており、コイルLを内蔵している。積層体12において、z軸方向の両端に位置する表面を上面及び下面と呼び、上面と下面とを接続する面を側面と呼ぶ。積層体12は、図2に示すように、磁性体層16(16a?16m)及び非磁性体層17a?17mが積層されることにより構成されている。
【0017】
磁性体層16a?16mは、磁性体材料(例えば、Ni-Cu-Zn系フェライト)からなる長方形状の層であり、z軸方向の正方向側から負方向側へとこの順に並んでいる。以下では、磁性体層16のz軸方向の正方向側の面を表面と称し、磁性体層16のz軸方向の負方向側の面を裏面と称す。
【0018】
・・・(省略)・・・非磁性体層17は、ガラスを含有する層であり、・・・(省略)・・・。」

エ 「【0019】
外部電極14aは、図1に示すように、積層体12の上面を覆うように設けられている。外部電極14bは、図1に示すように、積層体12の下面を覆うように設けられている。更に、外部電極14a,14bは、上面及び下面に隣接する側面に対して折り返されている。外部電極14a,14bは、電子部品10外の回路とコイルLとを電気的に接続する接続端子として機能する。
【0020】
コイルLは、積層体12に内蔵され、図2に示すように、コイル導体18(18a?18g)及びビアホール導体v4?v9により構成されている。コイルLは、コイル導体18及びビアホール導体v4?v9が接続されることにより螺旋状をなすように構成され、z軸方向に平行なコイル軸を有している。」

オ 「【0027】
・・・(省略)・・・、磁性体層16a?16mにおいて非磁性体層17a?17mに隣接していない部分(以下では、図3に示すように、高透磁率部19a?19mと称す)・・・(省略)・・・。」

カ 「【0031】
以上のように構成された電子部品10では、図4に示すように、z軸方向から平面視したときに、積層体12におけるコイルLよりも外側の領域は、非磁性体層17又は透磁率μ2を有する低透磁率部20により構成されている。これにより、コイルLは、開磁路構造をなしている。」



キ 「【0039】
次に、磁性体層16となるべきセラミックグリーンシートを一枚ずつ積層及び仮圧着して未焼成のマザー積層体を得る。具体的には,磁性体層16となるべきセラミックグリーンシートを1枚ずつ積層及び仮圧着する。この後、未焼成のマザー積層体に対して、静水圧プレスにて本圧着を施す。本圧着時の圧力は、例えば、1000kgf/cm^(2)である。
【0040】
次に、未焼成のマザー積層体を所定サイズにカットして、複数の未焼成の積層体12を得る。そして、未焼成の積層体12に、脱バインダー処理及び焼成を施す。焼成温度は、例えば、900℃であり、焼成時間は、例えば、2時間である。ここで、非磁性体層17に含有されている硼珪酸ガラスの軟化点は、焼成温度よりも低い800度である。そのため、焼成時に、非磁性体層17に含有されている硼珪酸ガラスは、溶融して、磁性体層16において非磁性体層17に隣接している部分に拡散する。硼珪酸ガラスは、フェライトセラミックの焼結を妨げる。そのため、硼珪酸ガラスが拡散した部分では、硼珪酸ガラスが拡散していない部分よりも、フェライトセラミックの焼結が進行しにくくなり、フェライト粒径も小さくなる。その結果、低い透磁率μ2を有する低透磁率部20が形成される。
【0041】
この後、積層体12の表面に、バレル研磨処理を施して、面取りを行う。
【0042】
次に、Agを主成分とする導電性材料からなる電極ペーストを、積層体12の上面及び下面に塗布する。そして、塗布した電極ペーストを約750℃の温度で1時間の条件で焼き付ける。これにより、外部電極14となるべき銀電極を形成する。更に、外部電極14となるべき銀電極の表面に、Niめっき/Snめっきを施すことにより、外部電極14を形成する。以上の工程により、電子部品10が完成する。」

ク 「【0043】
(効果)
以上のような電子部品10及びその製造方法によれば、優れた直流重畳特性を得ることができる。より詳細には、電子部品10では、積層体12の焼成温度よりも低い軟化点を有する硼珪酸ガラスを含有している非磁性体層17が積層体12に設けられている。これにより、積層体12の焼成時に、硼珪酸ガラスが非磁性体層17から磁性体層16に拡散し、低透磁率部20が形成される。よって、電子部品10では、非磁性体層17に加えて低透磁率部20も磁気飽和の発生の抑制に寄与するようになる。その結果、電子部品10及びその製造方法によれば、優れた直流重畳特性を得ることができる。」

ケ 「【0044】
また、電子部品10の製造方法では、シート積層法によって、開磁路構造を有する電子部品10を得ることができる。より詳細には、電子部品10の製造方法では、z軸方向から平面視したときに、コイル導体18により形成されている環状の軌道の外側に、非磁性セラミックペーストを塗布することによって、非磁性体層17を形成している。そして、焼成時には、磁性体層16において非磁性体層17に接している部分は、低透磁率部20となる。したがって、電子部品10では、図4に示すように、z軸方向から平面視したときに、コイルLよりも外側の領域は、非磁性体層17又は低透磁率部20により構成されるようになる。これにより、コイルLは、開磁路構造をなすようになる。」

コ 「【0045】
(実験)
本願発明者は、電子部品10が奏する効果をより明確にするために、以下に説明する実験を行った。」

サ 「【0047】
次に、第2の実験として、電子部品10のC点及びD点(図4参照)のフェライト粒径を観察した。図6(a)は、C点における写真であり、図6(b)は、D点における写真である。図6に示すように、高透磁率部19のフェライト粒径は、低透磁率部20のフェライト粒径よりも大きいことが分かる。」

(2)引用文献3に記載された技術事項
上記(1)によれば、引用文献3には、次の技術事項が記載されている。
ア 段落【0001】より、引用文献3は、「コイルを内蔵している電子部品」に関するものであることがわかる。

イ 段落【0015】、【0044】より、「電子部品」は、「積層体12、外部電極14」及び「コイルLを備え」、「シート積層法によって」「得ることができ」ることを読み取ることができる。

ウ 段落【0020】より、「コイルLは、積層体12に内蔵され、」「コイル導体」「及びビアホール導体」「が接続されることにより螺旋状をなすように構成され」ていることを読み取ることができる。

エ 段落【0042】より、「Agを主成分とする導電性材料からなる電極ペーストを、積層体12の上面及び下面に塗布」し、「焼き付け」、「外部電極14となるべき銀電極を形成」し、「更に、外部電極14となるべき銀電極の表面に」「めっきを施すことにより、外部電極14を形成」することを読み取ることができる。

オ 段落【0017】ないし【0018】より、「磁性体層」は「フェライトからなる」層であり、「非磁性体層」は、「ガラスを含有する」層であることが読み取れる。
よって、段落【0016】ないし【0018】、【0040】及び【0044】より、「積層体12は」、「フェライトからなる」「磁性体層」及び「ガラスを含有する」「非磁性体層」「が積層されることにより構成され」、「コイル導体」「により形成されている環状の軌道の外側に」「非磁性セラミックペーストを塗布することによって」「形成」されることを読み取ることができる。
また、「焼成時に」「非磁性体層」「に含有されている」「ガラスは」「溶融して、磁性体層」「において非磁性体層」「に隣接している部分に拡散」し、「ガラスは、フェライトセラミックの焼結を妨げ」、「そのため、」「ガラスが拡散した部分では、」「ガラスが拡散していない部分よりも」「フェライトセラミックの焼結が進行しにくくなり、フェライト粒径も小さくな」り、「その結果、低い透磁率」「を有する低透磁率部20が形成される」ことを読み取ることができる。

カ 段落【0027】、【0047】より、「磁性体層」「において非磁性体層」「に隣接していない部分」を「高透磁率部」「と称す」ると、「高透磁率部」「のフェライト粒径は、低透磁率部」「のフェライト粒径よりも大きい」ことを読み取ることができる。

(3)引用文献3に記載された発明
よって、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「コイルを内蔵している電子部品であって、
電子部品は、積層体12、外部電極14及びコイルLを備え、シート積層法によって得ることができ、
コイルLは、積層体12に内蔵され、コイル導体及びビアホール導体が接続されることにより螺旋状をなすように構成され、
Agを主成分とする導電性材料からなる電極ペーストを積層体12の上面及び下面に塗布し、焼き付け、外部電極14となるべき銀電極を形成し、更に、外部電極14となるべき銀電極の表面にめっきを施すことにより、外部電極14を形成し、
積層体12は、フェライトからなる磁性体層及びガラスを含有する非磁性体層が積層されることにより構成され、コイル導体により形成されている環状の軌道の外側に非磁性セラミックペーストを塗布することによって形成され、
焼成時に非磁性体層に含有されているガラスは溶融して、磁性体層において非磁性体層に隣接している部分に拡散し、ガラスはフェライトセラミックの焼結を妨げ、そのため、ガラスが拡散した部分では、ガラスが拡散していない部分よりもフェライトセラミックの焼結が進行しにくくなり、フェライト粒径も小さくなり、その結果、低い透磁率を有する低透磁率部が形成され、
磁性体層において非磁性体層に隣接していない部分を高透磁率部と称すると、高透磁率部のフェライト粒径は、低透磁率部のフェライト粒径よりも大きい、
電子部品。」

第5 対比・判断
令和2年11月9日の手続補正により本件補正前の請求項4が削除され、原査定の対象とされた請求項5ないし6は、それぞれ請求項4ないし5となっているので、以下、本願発明4ないし5について、引用発明1、引用発明3と対比・判断する。
1 本願発明4について
(1-1)引用発明1との対比
ア 引用発明1における「未焼成フェライト素体」を「所定の寸法で切断、チップ形状にし、得られた生チップを焼結させ、焼結されたチップ」(以下、「焼結されたチップ」という。)が、本願発明4における「フェライト焼結体からなる素体」に相当する。

イ 引用発明1における「磁性体内」に「内蔵」された「コイル」は、「スルーホール」により「他層との電気的導通を得」た「コイルパターン」で構成されているから、本願発明4における「前記素体内に併置されている複数の内部導体が電気的に接続されて構成されたコイル」に相当する。

ウ 引用発明1における「焼結されたチップ」の「端子電極」は、「コイル」の「端子電極」であることは明らかであって、しかも「端子電極等を銀ペーストで形成し、再び焼き付け等の熱処理を施し、さらに、電解メッキ等により端子電極に皮膜処理を施すことで」形成されているから、「焼結されたチップ」に配置されていることも明らかである。
よって、引用発明1における「焼結されたチップ」の「端子電極」が、本願発明4における「前記素体に配置されており、前記コイルと接続されている外部電極」に相当する。

エ 本願発明4では、「前記素体の表面を含む表面領域の平均結晶粒径が、前記素体における前記内部導体間の領域の平均結晶粒径よりも小さ」いのに対し、引用発明1では、「焼結されたチップ」における「平均結晶粒径」は不明である点で相違する。

オ 本願発明4では、「前記素体の表面は、絶縁材料からなる層で覆われており、前記絶縁材料は、前記素体の前記表面を含む前記表面領域内における結晶粒間に存在しておらず、前記絶縁材料からなる前記層には、前記外部電極に接続されている前記内部導体が存在していない複数の貫通孔が形成されている」のに対し、引用発明1では、「焼結されたチップ」の表面を絶縁材料からなる層で覆うことは示されていない点で相違する。

カ 引用発明1の「製造方法」によって製造された「積層インダクタンス素子」が、本願発明4における「積層コイル部品」に相当する。

上記アないしカより、本願発明4と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「フェライト焼結体からなる素体と、
前記素体内に併置されている複数の内部導体が電気的に接続されて構成されたコイルと、
前記素体に配置されており、前記コイルと接続されている外部電極と、を備える、
積層コイル部品。」

(相違点1)
本願発明4では、「前記素体の表面を含む表面領域の平均結晶粒径が、前記素体における前記内部導体間の領域の平均結晶粒径よりも小さ」いのに対し、引用発明1では、「焼結されたチップ」における「平均結晶粒径」は不明である点。

(相違点2)
本願発明4では、「前記素体の表面は、絶縁材料からなる層で覆われており、前記絶縁材料は、前記素体の前記表面を含む前記表面領域内における結晶粒間に存在しておらず、前記絶縁材料からなる前記層には、前記外部電極に接続されている前記内部導体が存在していない複数の貫通孔が形成されている」のに対し、引用発明1では、「焼結されたチップ」の表面を絶縁材料からなる層で覆うことは示されていない点。

(1-2)相違点についての判断
事案に鑑みて、まず、相違点2について検討する。
ア 引用文献2に記載された技術を再掲すれば、次のとおりである。
「セラミックス焼成体と内部電極、および内部電極と接続された端子電極からなる電子部品において、焼成体全体にフリットガラスと有機ビークルからなるペーストを塗付し、さらに、この上から貴金属ペーストを塗布し、上記2種類のペーストを焼成体に塗布したのち、加熱炉において同時に焼付けを行なって、ガラス層コーティングを施すことより耐湿環境下での故障率を約半分以下とする技術。」

イ しかしながら引用文献2に記載された技術には、「ガラス層コーティング」(本願発明4でいう「絶縁材料からなる層」に相当する。)に、端子電極(本願発明4でいう「外部電極」に相当する。)に接続されている内部電極(本願発明4でいう「内部導体」に相当する。)が存在していない複数の貫通孔が形成されているものとする点は、記載も示唆もされていない。

ウ そればかりか、引用文献2に記載された技術では、「緻密なガラス層を得る」ことで「耐湿環境下での故障率」を低減させているのであるから、引用文献2に記載された技術における「ガラス層コーティング」(本願発明4でいう「絶縁材料からなる層」に相当する。)に、水分の侵入を許すような「複数の貫通孔」を形成することには阻害要因がある。

エ したがって、上記相違点2は、当業者であっても、容易になし得たこととはいえない。

(1-3)まとめ
よって、本願発明4は、相違点1について検討するまでもなく、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(2-1)引用発明3との対比
ア 引用発明3における「積層体12」は、「フェライトからなる磁性体層及びガラスを含有する非磁性体層が積層されることにより構成され」、「焼成」されたものであるから、本願発明4における「フェライト焼結体からなる素体」とは、「素体」の点で共通する。
しかしながら、「素体」が、本願発明4では「フェライトの焼結体」からなるのに対し、引用発明3では、「フェライトからなる磁性体層及びガラスを含有する非磁性体層」を「焼成」したものからなる点で相違する。

イ 引用発明3における、「磁性体内」に「内蔵」された「コイル」は、「コイル導体及びビアホール導体が接続されることにより螺旋状をなすように構成され」ているから、本願発明4における「前記素体内に併置されている複数の内部導体が電気的に接続されて構成されたコイル」に相当する。

ウ 引用発明3における「外部電極14」は、「Agを主成分とする導電性材料からなる電極ペーストを積層体の上面及び下面に塗布し、焼き付け、外部電極14となるべき銀電極を形成し、更に、外部電極14となるべき銀電極の表面にめっきを施すことにより」「形成」されているから、「積層体12」に配置され、「コイル」と接続されていることは明らかである。
よって、引用発明3における該「外部電極14」が、本願発明4における「前記素体に配置されており、前記コイルと接続されている外部電極」に相当する。

エ 引用発明3の「積層体12」において、「コイル導体により形成されている環状の軌道の外側」に「積層」された「磁性体層」(「焼成」により「低透磁率部」となっているので、以下「低透磁率部」という。)及び「ガラスを含有する非磁性体層」の領域が、本願発明4における「前記素体の表面を含む表面領域」に相当する。

オ 引用発明3の「積層体12」において、「コイル導体により形成されている環状の軌道」に挟まれた部分の「磁性体層」(「磁性体層において非磁性体層に隣接していない部分」であるので、以下、「高透磁率部」という。)の領域が、本願発明4における「前記素体における前記内部導体間の領域」に相当する。

カ 上記ア、エ、オを踏まえると、引用発明3における「高透磁率部」の「フェライト粒径」が「積層体12」の(表面領域における)「低透磁率部」の「フェライト粒径」よりも大きいこと(言い換えると、「低透磁率部」の「フェライト粒径」が「高透磁率部19」の「フェライト粒径」より小さいこと)と、本願発明4とは、「前記素体の表面を含む表面領域のフェライト粒径が、前記素体における前記内部導体間の領域のフェライト粒径よりも小さ」い点で一致する。
しかしながら、本願発明4では、フェライトの「粒径」が「平均結晶粒径」であるのに対し、引用発明3では、フェライトの「粒径」をどのように定義しているのか示されていないだけでなく、(表面領域における)「ガラスを含有する非磁性体層」については焼成により溶融しているから、「粒径」を観念し得ない点で相違する。

キ 本願発明4では、「前記素体の表面は、絶縁材料からなる層で覆われており、前記絶縁材料は前記素体の前記表面を含む前記表面領域内における結晶粒間に存在しておらず、前記絶縁材料からなる前記層には前記外部電極に接続されている前記内部導体が存在していない複数の貫通孔が形成されている」のに対し、引用発明3では、「積層体12」の表面を絶縁層で覆うことは示されていない点で相違する。

ク 引用発明3における「電子部品」は、「シート積層法によって得」られ、「コイルを内蔵し」ているから、本願発明4における「積層コイル部品」に相当する。

上記アないしクより、本願発明4と引用発明3との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「素体と、
前記素体内に併置されている複数の内部導体が電気的に接続されて構成されたコイルと、
前記素体に配置されており、前記コイルと接続されている外部電極と、を備え、
前記素体の表面を含む表面領域のフェライト粒径が、前記素体における前記内部導体間の領域のフェライト粒径よりも小さい、
積層コイル部品。」

(相違点3)
「素体」が、本願発明4では「フェライトの焼結体」からなるのに対し、引用発明3では、「フェライトからなる磁性体層及びガラスを含有する非磁性体層」を「焼成」したものからなる点。

(相違点4)
本願発明4では、フェライトの「粒径」が「平均結晶粒径」であるのに対し、引用発明3では、フェライトの「粒径」をどのように定義しているのか示されていないだけでなく、「ガラスを含有する非磁性体層」については「粒径」を観念し得ない点。

(相違点5)
本願発明4では、「前記素体の表面は、絶縁材料からなる層で覆われており、前記絶縁材料は前記素体の前記表面を含む前記表面領域内における結晶粒間に存在しておらず、前記絶縁材料からなる前記層には前記外部電極に接続されている前記内部導体が存在していない複数の貫通孔が形成されている」のに対し、引用発明3では、「積層体12」の表面を絶縁層で覆うことは示されていない点。

(2-2)相違点についての判断
事案に鑑み、先ず、上記相違点3及び5について併せて検討する。
ア 相違点3について
(ア)引用発明3において、「ガラス」が、(表面領域の)「低透磁率部」における「フェライト」の粒子間に存在しないものとすることが当業者にとって容易に成し得たことであるか否かにつて検討する。
引用発明3には、「焼成時に非磁性体層に含有されているガラスは溶融して、磁性体層において非磁性体層に隣接している部分に拡散し、ガラスはフェライトセラミックの焼結を妨げ、そのため、ガラスが拡散した部分では、ガラスが拡散していない部分よりもフェライトセラミックの焼結が進行しにくくなり、フェライト粒径も小さくなり、その結果、低い透磁率を有する低透磁率部20が形成され」ることで、「非磁性体層17に加えて低透磁率部20も磁気飽和の発生の抑制に寄与するようになる。その結果、電子部品10及びその製造方法によれば、優れた直流重畳特性を得ることができる。」(引用文献3の段落【0043】参照。)というものである。

(イ)よって、引用発明3において、「ガラス」が「溶融して、磁性体層において非磁性体層に隣接している部分に拡散」することは、引用発明3の課題解決のために必要不可欠な手段であって、かかるガラスの拡散過程を省くことには、阻害要因がある。
また、一旦「非磁性体層に隣接している」「磁性体層」に拡散した「ガラス」を、再び「非磁性体層」に戻して、「ガラス」が(表面領域の)「低透磁率部」における「フェライト」の粒子間に存在しないものとすることも、物理的に実現困難なことである。

(ウ)したがって、引用発明3において、「ガラス」が(表面領域の)「低透磁率部」における「フェライト」の粒子間に存在しないものとすることは、当業者であっても、容易になし得たことではない。

(エ)また、引用発明3における「積層体12」から(表面領域の)「ガラスを含有する非磁性体層」を省き、(表面領域を)「フェライトからなる磁性体層」を「焼成」したもの(だけ)とすることも、同様の理由から、阻害要因があるだけでなく、物理的に実現困難なことである。

イ 相違点5について
(ア)次に、仮に、引用発明3において相違点3に係る構成とすることが可能であったとして、さらに、引用発明3における「積層体12」に引用文献2に記載され技術を適用して「ガラス層コーティング」を施し、ガラス層には、外部電極に接続されているコイル導体が存在していない複数の貫通孔が形成されているようにすることが容易か否かについて検討する。

(イ)引用文献2に記載された技術を再掲すれば、次のとおりである。
「セラミックス焼成体と内部電極、および内部電極と接続された端子電極からなる電子部品において、焼成体全体にフリットガラスと有機ビークルからなるペーストを塗付し、さらに、この上から貴金属ペーストを塗布し、上記2種類のペーストを焼成体に塗布したのち、加熱炉において同時に焼付けを行なって、ガラス層コーティングを施すことより耐湿環境下での故障率を約半分以下とする技術。」

(ウ)上記のとおり、引用文献2に記載された技術には、「ガラス層コーティング」(本願発明4でいう「絶縁材料からなる層」に相当する。)が、端子電極(本願発明4でいう「外部電極」に相当する。)に接続されている内部電極(本願発明4でいう「内部導体」に相当する。)が存在していない複数の貫通孔が形成されている点が、記載も示唆もされていない。

(エ)よって、仮に、引用発明3において、「ガラス」が(表面領域の)「低透磁率部」における「フェライト」の粒子間に存在しないものとし、かつ、「積層体12」が「フェライトからなる磁性体層」を「焼成」したものとすることが可能であったとし、さらに、引用文献2に記載された技術を適用して「ガラス層コーティング」を施したとしても、ガラス層には、外部電極に接続されているコイル導体が存在していない複数の貫通孔が形成されている構成とはならない。

(オ)そればかりか、引用文献2に記載された技術では、「緻密なガラス層を得る」ことで「耐湿環境下での故障率」を低減させているのであるから、引用文献2に記載された技術における「ガラス層コーティング」(本願発明4でいう「絶縁材料からなる層」に相当する。)に、水分の侵入を許すような「複数の貫通孔」を形成することは、通常考えられないことである。

ウ したがって、上記「ア」、「イ」でそれぞれ述べたとおり、相違点3及び相違点5は、当業者であっても、容易になし得たこととはいえない。

(2-3)まとめ
よって、本願発明4は、相違点4について検討するまでもなく、当業者であっても、引用文献3に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明5について
本願発明5は、本願発明4に所与の限定を付した発明であるから、本願発明4について上記「1」で述べたのと同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明できたものとはいえず、また、当業者であっても、引用文献3に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明できたものともいえない。

3 本願発明1ないし3について
上記「第2 原査定の概要」のとおり、本願発明1ないし3は原査定の対象とされていないが、本件補正により、請求項1が補正されていることに鑑み、念のため、本願発明1ないし3について進歩性の有無を検討する。
(1)本願発明1について
ア 本願発明1は、本願発明4の「前記素体の表面は、絶縁材料からなる層で覆われており、前記絶縁材料は、前記素体の前記表面を含む前記表面領域内における結晶粒間に存在しておらず、前記絶縁材料からなる前記層には、前記外部電極に接続されている前記内部導体が存在していない複数の貫通孔が形成されている」という構成(相違点2または相違点5に係る構成)と同一の構成を備えるものである。

イ よって、本願発明1についても、上記「1」「(1-1)」ないし「(1-3)」述べたのと同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

ウ また、上記「1」「(2-1)」ないし「(2-3)」で述べたのと同じ理由により、当業者であっても、引用文献3に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明できたものともいえない。

(2)本願発明2ないし3について
本願発明2ないし3は、本願発明1に所与の限定を付した発明であるから、本願発明1について上記「(1)」で述べたのと同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明できたものとはいえず、また、引用文献3に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明できたものともいえない。

4 原査定の備考欄における「<付記>」で引用された文献について
念のため、原査定の備考欄における「<付記>」で引用された引用文献4及び引用文献5についても検討する。
(1)引用文献4には、次の発明(以下、「引用文献4に記載された発明」という。)が記載されているものと認められる。
「セラミックスからなる素体2と、素体2内に形成された複数の内部電極3とを含む積層体4を有し、素体2の表面には、素体2を被覆するガラス層6が形成されており、素体2の両側面に相当する部位におけるガラス層6上には、下地電極7が形成され、内部電極3は、ガラス層6を貫通し、下地電極7の内部に達し、下地電極7の表面には、端子電極8が形成されている、セラミック積層電子部品1。」(引用文献4の段落【0015】ないし【0017】及び図1参照。)
【図1】

(2)また、引用文献5には、次の技術(以下、「引用文献5に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「Mn-Znフェライトからなる焼成体であって、気孔率が10%以上25%以下であり、結晶粒径が1μm以下であることを特徴とするチップトランス用磁性材料。」(引用文献5の段落【0019】参照。)

(3)しかし、引用文献4にも、引用文献5にも、本願発明1ないし5における「前記絶縁材料は、前記素体の前記表面を含む前記表面領域内における結晶粒間に存在しておらず、前記絶縁材料からなる前記層には、前記外部電極に接続されている前記内部導体が存在していない複数の貫通孔が形成されている」点に相当する構成は、記載も示唆もされていない。

(4)よって、本願発明1、4は引用文献4に記載された発明ではなく、また、本願発明1ないし5は、当業者であっても、引用文献4に記載された発明及び引用文献5に記載された技術に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
1 理由1-A(特許法第29条第2項)について
本件補正により、本願発明4ないし5は「前記素体の表面は、絶縁材料からなる層で覆われており、前記絶縁材料は、前記素体の前記表面を含む前記表面領域内における結晶粒間に存在しておらず、前記絶縁材料からなる前記層には、前記外部電極に接続されている前記内部導体が存在していない複数の貫通孔が形成されている」という事項を有するものとなっており、上記「第5」「1」「(1-1)」ないし「(1-3)」、「2」で述べたとおり、当業者であっても、引用文献1及び引用文献2に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。

2 理由1-B(特許法第29条第2項)について
本件補正により、本願発明4ないし5は「前記素体の表面は、絶縁材料からなる層で覆われており、前記絶縁材料は、前記素体の前記表面を含む前記表面領域内における結晶粒間に存在しておらず、前記絶縁材料からなる前記層には、前記外部電極に接続されている前記内部導体が存在していない複数の貫通孔が形成されている」という事項を有するものとなっており、上記「第5」「1」「(2-1)」ないし「(2-3)」、「2」で述べたとおり、当業者であっても、引用文献3及び引用文献2に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。

3 まとめ
したがって、原査定の拒絶の理由(理由1-A、理由1-B)を維持することはできない。
また、本願発明1ないし3についても、上記「第5」「3」で述べたとおり、当業者であっても、引用文献1及び引用文献2に基づいて容易に発明できたものとはいえず、また、引用文献3及び引用文献2に基づいて容易に発明できたものともいえない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-06-22 
出願番号 特願2016-95421(P2016-95421)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H01F)
P 1 8・ 121- WY (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐久 聖子久保田 昌晴森岡 俊行小池 秀介  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山本 章裕
清水 稔
発明の名称 積層コイル部品  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 三上 敬史  
代理人 黒木 義樹  

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