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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1375599
審判番号 不服2021-710  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-18 
確定日 2021-07-20 
事件の表示 特願2019-205579「半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 2月13日出願公開,特開2020- 25134,請求項の数(14)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年9月15日に出願した特願2015-182083号の一部を令和元年11月13日に新たな特許出願としたものであって,令和2年8月4日付けで拒絶理由通知がされ,同年9月10日付けで意見書が提出され,同年10月15日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和3年1月18日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の理由の概要
原査定(令和2年10月15日付け拒絶査定)の理由の概要は次のとおりである。

本願の請求項1?14に係る発明は,以下の引用文献1?5に記載された発明に基づいて,若しくは,以下の引用文献6,1?5に記載された発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2013-194291号公報
2.特開2006-206985号公報
3.特開2002-076189号公報
4.特開2009-224705号公報
5.特開2010-251719号公報
6.国際公開第2009/142077号

第3 本願発明
本願請求項1?14に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明14」といい,まとめて「本願発明」ともいう。)は,令和3年1月18日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
互いに対向する第1及び第2の主面を持つ半導体基板の前記第1の主面に第1の主電極を形成する工程と,
前記半導体基板の前記第2の主面に第2の主電極を形成する工程と,
前記第1及び第2の主電極の表面を活性化する表面活性化処理を行う工程と,
前記第1及び第2の主電極の表面を清浄化する表面清浄化処理を行う工程と,
前記表面活性化処理及び前記表面清浄化処理の後に,前記第1及び第2の主電極上にそれぞれ第1及び第2のNi膜をPを含むめっき液を用いた湿式成膜法により同時に形成する工程と,
前記第1及び第2のNi膜をPを含むめっき液を用いた湿式成膜法により同時に形成する工程の後に,前記半導体基板を加熱することで前記第1及び第2のNi膜に含まれる結晶性Niの割合を変化させて前記第1及び第2のNi膜がそれぞれ2%以上の結晶性Niを含むようにする工程とを備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。」

なお,本願発明2?14は,本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2013-194291号公報)には,次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下,同様である。)。
「【技術分野】
【0001】
この発明は,半導体装置およびその半導体装置の製造方法に関するもので,特に電力用パワー半導体装置の1つであるIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等の表裏導通型の半導体装置の電極部に,はんだ付け性に優れた合金膜を備えた半導体装置およびその製造方法に係るものである。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記特許文献1に示された技術は,メッキ処理時に裏面汚染を防止することとウエハのそりを抑制するために,ウエハのそり方向を制御して膜応力も制御して剥離テープを貼付することが示されている。この様な技術では,安定した品質を維持するための製造条件の管理も難しいため,製造コストの低減は難しい。また,ウエハにテープを貼付しそれを剥離するためプロセス数を増加させているため,必然的にウエハのハンドリング回数も増加し,そのことに起因したウエハ破損の確率も増加する。そのため,歩留まり低下の懸念もあり,製造コストを低減するのは難しいという問題点がある。
【0006】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたものであって,IGBT等の表裏導通型の半導体装置において,表裏に設けられた通電用金属膜として,はんだのぬれ性に優れた合金膜をウエハのそりをさらに増長させることのない半導体装置およびその半導体装置の製造方法を提供することを目的としている。」

「【課題を解決するための手段】
【0007】
・・・
そして第3の発明は,次のステップを備えた半導体装置の製造方法である。すなわち,ステップ1.半導体基板の第1の主面に第1の主電極,および第2の主面に第2の主電極を形成するステップ。
ステップ2.第1の主電極および第2の主電極をプラズマクリーニングを行い,脱脂後酸洗いといった表面を清浄にするステップ。
ステップ3.第1の主電極および第2の主電極を第1のジンケート処理後に,このジンケートを剥離するステップ。
ステップ4.第1の主電極および第2の主電極を第2のジンケート処理を行うステップ。
ステップ5.第1の主電極および第2の主電極上に非晶質の無電解Niメッキを行うステップ。
ステップ6.非晶質の無電解Niメッキ上に無電解Auメッキを行うステップ。」

「【発明の効果】
【0008】
・・・
第3の発明に係る半導体装置の製造方法は,上記のようなステップを備えているので,第1の主電極および第2の主電極上に同時に非晶質の無電解Niメッキに引き続き,無電解Auメッキを行うので,ウエハのさらなるそりの増長が抑制でき,かつ非晶質の無電解Niメッキ層を有しているので,温度や応力変化に伴う無電解Niメッキ層の結晶構造が変化したり,粒界ボイドが発生して皮膜が割れたりすることがなく,歩留まりの向上や,それに伴うエネルギー消費の削減,さらには,はんだ付け性の向上した半導体装置を製造できるという効果がある。」

「【発明を実施するための形態】
【0010】
以下,この発明をより理解するため,本願発明のすべての実施の形態で採用しているメッキ処理やジンケート処理についての一般的な概略を説明する。
まず無電解Niメッキ,無電解Auメッキ,無電解Pdメッキ方法について説明する。なお,実施の形態は,全てウエハ状態で行うものとする。
(1)ウエハ上のAl合金電極に,一般的に知られた脱脂,酸洗いした後にメッキをしても,強固な付着力を有したメッキ層は形成できない。その理由は,ウエハ上のAl合金の表面には,強固な有機物残渣と酸化膜が形成されているためである。前記の残渣や酸化物が除去できずにメッキ膜が付着すると,Alとメッキ金属との間で金属拡散が生じないため満足な付着力が確保できず,容易に剥離し,はんだ付けなどの電極の表面処理には使えない。
(2)前述した結果より,ウエハ上でのAl合金電極へのメッキは,プラズマクリーニング,脱脂,酸洗い,第1ジンケート処理,ジンケート剥離,第2ジンケート処理,メッキの順番に実施する。なお,各工程の間には十分な水洗時間を確保し,前の工程の処理液や残渣が次工程に持ち込まれない様にする必要がある。一般的なメッキと異なる点は,プラズマクリーニング,ジンケート処理とジンケート剥離が工程内に付与されていることである。
(3)以下,各工程にそってその概略を説明する。最初にプラズマクリーニングについて説明する。プラズマクリーニングとはAl合金電極上に焼きついてしまった一般的なメッキ前処理で除去できない有機物残渣を,プラズマで酸化分解するか叩き出し表面を清浄にする処理方法である。続いて脱脂,酸洗いを行う。脱脂はAl合金表面に残留した軽度の有機物汚染や酸化膜を除去するために行う。続いて,Al表面を中和し,Alの表面をエッチングして面を荒らし,後工程での処理液の反応性を高め,メッキの付着力を向上させるための処置を行う。ついで,ジンケート処理というものを実施し,その後,メッキをすることで,強固な付着力を持ったメッキ膜を成膜する。
(4)次に,ジンケート処理について詳しく説明する。ジンケート処理とは,Al合金の表面にAlの酸化膜を除去しつつ亜鉛(以下Znと記す。)の皮膜を形成する処理である。具体的には,Znがイオンとして溶解した水溶液に,Al合金を浸漬すると,Znの方がAlよりも標準酸化還元電位が貴であるため,Alがイオンとして溶解しこの時生じた電子によってZnイオンがAl合金の表面で電子を受け取りAlの表面にZnの皮膜を作る。またこの時にAlの酸化膜も除去される。この後,Znで被覆されたAl合金を濃硝酸に浸漬しZnを溶解させると共に,Al表面に薄くて均一なAl酸化物皮膜を形成する。そして再度Al合金を,Zn処理液に浸漬してAl合金表面をZnで被覆しなおかつAlの酸化膜を除去する。この操作によって,Alの酸化膜層は薄くなると共に平滑になる。回数を増やすほどAlの表面は均一になり,メッキ膜の出来ばえも良くなるが,生産性を考慮すると2回多くても3回が一般的である。
(5)そして,無電解Niメッキを実施する。Znで被覆されたAl合金皮膜を無電解Niメッキ液に浸漬すると,最初は,Znの方がNiよりも標準酸化還元電位が卑であるため,Al合金上にNiが析出する。続いて表面がNiで覆われると,メッキ液中に含まれる還元剤の作用によって,自動触媒的にNiが析出する。ただし,この自動触媒的析出時には,還元剤の成分がメッキ膜に取り込まれるため,無電解Niメッキ皮膜は合金となり,また還元剤の濃度が高いと非晶となる。一般に還元剤として次亜りん酸が利用されているため,無電解NiメッキにはPが含まれている。
(6)さらに,無電解Auメッキを実施する。置換型の無電解Auメッキは,無電解Niメッキの上に施すものであり,メッキ液中に含まれる錯化剤の作用によってNiとAuが置換する作用を利用したものである。置換型であるためNiの表面がAuで被覆されてしまうと反応が停止するため,厚く成膜するのは難しく,多くても0.1um,一般的には0.05um程度の成膜をするものが多いが,はんだ付け用として利用する場合は,Auメッキの厚さは上述した値でも少なすぎるといったことはない。
(7)最後に,無電解Pdメッキについて説明する。無電解Pdメッキは,無電解Niメッキの上に付着させ,さらにその上に無電解Auメッキを施して利用するもので,Pdの優れたバリヤ性により,無電解Niメッキ皮膜が無電解Auメッキ皮膜を押しのけて這い上がり,それが酸化膜となってはんだ付け性等を低下させることを防止するため行うものである。無電解Pdメッキの膜厚は0.3um程度でバリヤ性が確保される。また,一般に無電解Niメッキと同様に,還元剤として次亜りん酸を利用しており,そのため無電解Pdメッキ膜も非晶となる例が多い。また置換型Auメッキは無電解Pdメッキ膜とその下にある無電解Niメッキ膜から電子を得てPd表面に置換析出する。」

以上によれば,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「次のステップを備えた半導体装置の製造方法。
ステップ1.半導体基板の第1の主面に第1の主電極,および第2の主面に第2の主電極を形成するステップ。
ステップ2.第1の主電極および第2の主電極をプラズマクリーニングを行い,脱脂後酸洗いといった表面を清浄にするステップ。
ステップ3.第1の主電極および第2の主電極を第1のジンケート処理後に,このジンケートを剥離するステップ。
ステップ4.第1の主電極および第2の主電極を第2のジンケート処理を行うステップ。
ステップ5.第1の主電極および第2の主電極上に,還元剤として次亜りん酸が含まれるめっき液を用いて非晶質の無電解Niメッキを行うステップ。
ステップ6.非晶質の無電解Niメッキ上に無電解Auメッキを行うステップ。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2006-206985号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0016】
このような無電解ニッケル-リンめっき皮膜の中でも,特に,上記無電解ニッケル-リンめっき皮膜がNi結晶を含むと共に,上記無電解ニッケル-リンめっき皮膜の,2θ/θスキャン法薄膜X線回折により検出されるNi結晶のNi(111)面の回折強度とNi(200)面の回折強度との比(Ni(200)面の回折強度)/(Ni(111)面の回折強度)が1/10以下,好ましくは1/20以下,更に好ましくは1/30以下,特に好ましくは0であるものは,皮膜に含まれる各々のNi結晶が,特定の方向に配向していることから,皮膜を加熱した際に起こる各々のNi結晶の成長の方向性も一定方向となり,加熱による内部応力の増加が,特に起こりにくいものとなることから好ましい。」

以上から,引用文献2には,以下の事項が記載されている。
「無電解ニッケル-リンめっき皮膜がNi結晶を含むと共に,上記無電解ニッケル-リンめっき皮膜の,2θ/θスキャン法薄膜X線回折により検出されるNi結晶のNi(111)面の回折強度とNi(200)面の回折強度との比(Ni(200)面の回折強度)/(Ni(111)面の回折強度)が1/10以下であるものは,皮膜に含まれる各々のNi結晶が,特定の方向に配向していることから,皮膜を加熱した際に起こる各々のNi結晶の成長の方向性も一定方向となり,加熱による内部応力の増加が,特に起こりにくいものとなること。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2002-076189号公報)には,次の事項が記載されている。
「【0029】また更に前記ニッケルメッキ層7は,例えば,アンモニア分解ガス雰囲気中,約850℃?870℃の温度で約10?30分程度熱処理を加えておくとニッケルメッキ層7の表層部(表面から約300オングストロームの深さ)より金の析出を阻害するホウ素が揮散除去され,これによってニッケルメッキ層7の表面に金メッキ層8をより一層均一,かつ強固に被着させることができ,同時にニッケルメッキ層7に内在する応力が緩和されてクラック等の不具合が生じ難くなるとともにニッケルの結晶粒が粒成長して緻密化し,耐食性がさらに向上する。従って,前記ニッケルメッキ層7は,一旦,アンモニア分解ガス雰囲気中,約850℃?870℃の温度で約10?30分程度熱処理を加えておくことが好ましい。」

以上によれば,引用文献3には,以下の事項が記載されている。
「ニッケルメッキ層7に熱処理を加えておくとニッケルメッキ層7の表層部(表面から約300オングストロームの深さ)より金の析出を阻害するホウ素が揮散除去され,これによってニッケルメッキ層7の表面に金メッキ層8をより一層均一,かつ強固に被着させることができ,同時にニッケルメッキ層7に内在する応力が緩和されてクラック等の不具合が生じ難くなるとともにニッケルの結晶粒が粒成長して緻密化し,耐食性がさらに向上すること。」

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2009-224705号公報)には,次の事項が記載されている。
「【0022】
前記熱処理(アニール)は,270℃以上の温度で行うことが好ましい。熱処理温度を270℃以上とすることで,形成される銅薄膜3の結晶性を良好なものとし抵抗値を小さくすることができる。熱処理温度の上限については,合金膜2あるいは複合膜が溶解しない程度とすればよいが,実用的には400℃以下とすることが好ましい。また,熱処理時間は任意であるが,Mnが十分に拡散するに足る時間とすればよい。最適熱処理時間は温度によっても異なるが,例えば20分以上とすることが好ましい。」

以上によれば,引用文献4には,以下の事項が記載されている。
「熱処理温度を270℃以上とすることで,形成される銅薄膜3の結晶性を良好なものとし抵抗値を小さくすることができること。」

5 引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(特開2010-251719号公報)には,次の事項が記載されている。
「【0056】
図2は,実施の形態にかかる半導体装置のおもて面電極の別の一例について示す断面図である。図2では,電極以外のその他の半導体構造は,図示省略する(以下,図3についても同様)。エミッタ電極6は,第1のアルミニウム膜61と第1のニッケル膜62との間に,チタンを主成分とする金属膜(以下,第1のチタン膜とする)63を備えていても良い。第1のチタン膜63は,高融点を有する。
【0057】
図3は,実施の形態にかかる半導体装置の裏面電極の別の一例について示す断面図である。コレクタ電極9は,第2のアルミニウム膜91と第2のニッケル膜92との間に,チタンを主成分とする金属膜(以下,第2のチタン膜とする)93を備えていても良い。第1のチタン膜63および第2のチタン膜93は,第3の金属膜に相当する。」

「【0087】
なお,従来と同様にジンケート処理を行う場合でも,第1のチタン膜63を設けることで,実施の形態と同様の効果を得ることができる。その理由は,次に示すとおりである。ジンケート処理のエッチングによって,第1のニッケル膜62の表面に,その下層に達する凹部が生じたとしても,第1のニッケル膜62の下にある第1のチタン膜63でエッチングを止めることができる。これにより,エミッタ電極6の表面に,第1のアルミニウム膜61が露出するのを防ぐことができるので,エミッタ電極6とはんだとの密着性を確保することができる。第2のチタン膜93についても同様である。」

6 引用文献6について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6(国際公開第2009/142077号)には,次の事項が記載されている。
「技術分野
[0001] この発明は,半導体装置の製造方法に関し,特に電力変換装置などに用いられるパワー半導体装置であって,半導体装置のおもて面および裏面に電極を有する80?200μmの厚さの半導体装置の製造方法に関する。」

「[0016] そこで,レジスト膜を用いないで無電解めっきを行う方法として,次のような方法が提案されている。パッド電極上に亜鉛置換法により亜鉛置換皮膜を置換析出させ,ついで,純水で洗浄した後,対極にステンレスの棒材にニッケルめっきを施したものを用い,該対極を負電極として被めっき基板である半導体基板に微小な正電位を印加しながら酸化還元型の無電解ニッケルめっき液に浸漬することにより,半導体基板の裏面及び側面にめっきレジストを塗布することなく,複数個のパッド電極上に均一な膜厚の無電解ニッケルめっき皮膜による突起電極が得られる(例えば,下記特許文献参照。)。」

「発明が解決しようとする課題
・・・
[0021] この発明は,上述した従来技術による問題点を解消するため,半導体基板の表裏の両面にめっき膜を形成する方法において,めっき膜の応力を半導体基板の両面で相殺し,半導体基板の反りを抑制することができる半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。また,この発明は,半導体装置をはんだ接合により実装するに際し,電極として積層された金属膜が剥離しにくい半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。」

「[0057] (実施の形態2)
実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法について説明する。実施の形態2の説明および添付図面について,実施の形態1と重複する説明は省略する。実施の形態2では,実施の形態1と同様に,図1に示すフローチャートにしたがい,ステップS1?ステップS8の工程を行う。これにより,半導体基板1の表裏両面に,同時に無電解ニッケルめっき処理および置換金めっき処理を連続して行う。また,実施の形態2において,ステップS7の工程で半導体基板1の裏面に蒸着またはスパッタで順次積層する金属は,チタン,アルミニウムである。
[0058] 図7および図8は,実施の形態2にかかる半導体装置の製造過程を示す断面図である。上述したステップS1?S3までの工程では,実施の形態1と同様に,半導体基板1の表面層に,図示省略したベース領域およびエミッタ領域が形成される。そして,図2に示すように,半導体基板1のおもて面に,層間絶縁膜7およびアルミニウム電極6が形成される。
[0059] 上述したステップS4?S7までの工程において,半導体基板1の裏面に,図示省略するバッファ層およびコレクタ層が形成される。そして,図7に示すように,半導体基板1の裏面に,裏面電極として,チタン膜12およびアルミニウム膜16が順次積層される。チタン膜12およびアルミニウム膜16の各膜厚は,例えば0.2μm,2.0μmとする。アルミニウム膜16は,第2の金属膜に相当する
[0060] 上述したステップS8の工程において,図8に示すように,アルミニウム電極6およびアルミニウム膜16の表面に,同時にニッケルめっき膜14が形成される。そして,そのニッケルめっき膜14の表面に置換金めっき膜15が形成される。このとき,アルミニウム電極6の表面に,無電解ニッケルめっき処理の前処理としてダブルジンケート処理を行う。その理由は,実施の形態1と同様である。また,ニッケルめっき膜14および置換金めっき膜15の膜厚は,実施の形態1と同様である。これにより,半導体基板1の裏面に,裏面電極(チタン膜12およびアルミニウム膜16),ニッケルめっき膜14および置換金めっき膜15が積層されてなるコレクタ電極9(図12参照)が形成される。
[0061] アルミニウム膜16を形成することにより,半導体基板1の表裏両面を同じ基板条件に近づけることができる。アルミニウム膜16に代えて,アルミニウムシリコン膜または亜鉛膜を形成しても良い。半導体基板1の裏面にアルミニウム膜16を形成することで,半導体基板1の裏面にも,半導体基板1のおもて面と同様にダブルジンケート処理を行う。その理由は,アルミニウム電極6と同様である。そのため,ダブルジンケート処理および無電解めっき処理を,半導体基板1の表裏両面に同時に行うことができる。これにより,半導体基板1の反りを抑制することができる。
[0062] また,このような構成で裏面電極を形成することで,実施の形態1と同様に,半導体基板1と裏面電極との密着性を向上させることができる。その理由は,次に示すとおりである。図9および図10は,実施の形態2にかかる半導体装置の裏面電極について示す断面図である。上述したステップS7の工程により,半導体基板1の裏面には,図9に示すように,裏面電極として,チタン膜12およびアルミニウム膜16が積層される。その後,ダブルジンケート処理中のエッチングによって,アルミニウム膜16の表面に下層に達する凹凸が生じたとしても,アルミニウム膜16と半導体基板1との間にあるチタン膜12でエッチングを止めることができる。そのため,図10に示すように,凹凸が生じたアルミニウム膜16の表面にニッケルめっき膜14が形成されたとしても,ニッケルめっき膜14は,密着力の低い半導体基板1とは接触せずに,チタン膜12と密着する。これにより,半導体基板1と裏面電極との密着力が向上し,半導体基板1から,裏面電極と各めっき膜とが積層されてなるコレクタ電極9が剥離しにくくなる。また,本実施の形態2においても,実施の形態1と同様に,チタン膜の代わりにモリブデン(Mo)膜を形成してもよい。
[0063] 以上,説明したように,実施の形態2によれば,実施の形態1と同様の効果が得られる。また,半導体基板1の裏面の表面層にアルミニウム膜16が形成されるため,半導体基板1の裏面にもダブルジンケート処理を行うことで,無電解めっき処理において,ニッケルめっき膜14が形成されやすくなる。さらに,無電解めっき処理を行う直前には,半導体基板1の表裏両面にアルミニウム膜が形成されていることになり,ダブルジンケート処理を行うに際し,半導体基板1の表裏両面に同時に行うことができる。これにより,半導体基板1の反りを抑制することができる。したがって,表裏両面に電極を有する半導体基板1を,高い良品率で製造することができる。」

以上によれば,引用文献6には,以下の発明(以下,「引用発明6」という。)が記載されていると認められる。
「半導体基板のおもて面にアルミニウム電極6を形成する工程と,
半導体基板の裏面に,裏面電極として,チタン膜12およびアルミニウム膜16を順次積層する工程と,
無電解ニッケルめっき処理の前処理として,アルミニウム電極6およびアルミニウム膜16に同時にダブルジンケート処理を行う工程と,
無電解ニッケルめっき処理および置換金めっき処理を連続して行い,アルミニウム電極6およびアルミニウム膜16の表面に,同時にニッケルめっき膜14を形成し,そのニッケルめっき膜14の表面に置換金めっき膜15を形成する工程とを有する半導体装置の製造方法。」

第5 対比・判断
1 引用発明1を主引用例とする進歩性について
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「半導体基板の第1の主面」「および第2の主面」が互いに対向していることは技術常識であるから,引用発明1の「半導体基板の第1の主面に第1の主電極,および第2の主面に第2の主電極を形成するステップ」は,本願発明1の「互いに対向する第1及び第2の主面を持つ半導体基板の前記第1の主面に第1の主電極を形成する工程と,前記半導体基板の前記第2の主面に第2の主電極を形成する工程」に相当する。

(イ)本願明細書【0022】には,「表面活性化処理として例えばプラズマを利用したプラズマクリーニングを行う」と記載されていることからすると,本願発明1の「表面活性化処理」はプラズマクリーニングを含んでいるから,引用発明1の「ステップ1.第1の主電極および第2の主電極をプラズマクリーニングを行い,脱脂後酸洗いといった表面を清浄にするステップ」は,本願発明1の「前記第1及び第2の主電極の表面を活性化する表面活性化処理を行う工程」に相当する。

(ウ)本願明細書の【0030】には,「表面清浄化処理としてジンケート処理を行う」と記載されていることからすると,本願発明1の「表面清浄化処理」は,ジンケート処理を含んでいるといえるから,引用発明1の「ステップ2.第1の主電極および第2の主電極を第1のジンケート処理後に,このジンケートを剥離するステップ」及び「ステップ3.第1の主電極および第2の主電極を第2のジンケート処理を行うステップ」は,本願発明1の「前記第1及び第2の主電極の表面を清浄化する表面清浄化処理を行う工程」に相当する。

(エ)引用発明1の「第1の主電極および第2の主電極上に,還元剤として次亜りん酸が含まれるめっき液を用いて非晶質の無電解Niメッキを行うステップ」は,ステップ2及び3の後に行うものであり,Pを含むメッキ液を用いた湿式成膜法であって,第1及び第2の主電極上にNi膜が同時に形成されることは明らかであるから,本願発明1の「前記表面活性化処理及び前記表面清浄化処理の後に,前記第1及び第2の主電極上にそれぞれ第1及び第2のNi膜をPを含むめっき液を用いた湿式成膜法により同時に形成する工程」に相当する。

(オ)以上から,本願発明1と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「互いに対向する第1及び第2の主面を持つ半導体基板の前記第1の主面に第1の主電極を形成する工程と,
前記半導体基板の前記第2の主面に第2の主電極を形成する工程と,
前記第1及び第2の主電極の表面を活性化する表面活性化処理を行う工程と,
前記第1及び第2の主電極の表面を清浄化する表面清浄化処理を行う工程と,
前記表面活性化処理及び前記表面清浄化処理の後に,前記第1及び第2の主電極上にそれぞれ第1及び第2のNi膜をPを含むめっき液を用いた湿式成膜法により同時に形成する工程とを備える半導体装置の製造方法。」

<相違点>
相違点1:本願発明1は,「前記第1及び第2のNi膜をPを含むめっき液を用いた湿式成膜法により同時に形成する工程の後に,前記半導体基板を加熱することで前記第1及び第2のNi膜に含まれる結晶性Niの割合を変化させて前記第1及び第2のNi膜がそれぞれ2%以上の結晶性Niを含むようにする工程」を備えているのに対し,引用発明1は,そのような工程を備えていない点。

イ 相違点についての判断
引用発明1の効果として,引用文献1の前記第4の1の【0008】には,「非晶質の無電解Niメッキ層を有しているので,温度や応力変化に伴う無電解Niメッキ層の結晶構造が変化したり,粒界ボイドが発生して皮膜が割れたりすることがなく,歩留まりの向上や,それに伴うエネルギー消費の削減,さらには,はんだ付け性の向上した半導体装置を製造できるという効果がある。」と記載されているところ,上記非晶質の無電解Niメッキ層を,「2%以上の結晶性Niを含むようにする」と,上記効果が得られなくおそれがあるから,引用発明1において,相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることには阻害要因がある。そして,このことは,引用文献2?5に記載されている事項に左右されない。
また,引用文献2?5には,前記第4の2?5にそれぞれ示した事項が記載されているものの,いずれの文献にも,相違点1に係る本願発明1の「前記半導体基板を加熱することで前記第1及び第2のNi膜に含まれる結晶性Niの割合を変化させて前記第1及び第2のNi膜がそれぞれ2%以上の結晶性Niを含むようにする工程」については記載も示唆もされていないから,仮に,引用発明1に引用文献2?5に記載された発明を適用したとしても,相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は得られない。
したがって,本願発明1は,引用発明1及び引用文献2?5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(2)本願発明2?14について
本願発明2?14は,本願発明1を減縮したものであり,いずれも本願発明1の全ての発明特定事項を有しているから,本願発明1と同様の理由により,引用発明1及び引用文献2?5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2 引用発明6を主引用例とする進歩性について
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明6とを対比する。
(ア)引用発明6の「半導体基板のおもて面」と「半導体基板の裏面」とは,互いに対向していることは明らかであるから,引用発明6の「半導体基板のおもて面」,「アルミニウム電極6」,「半導体基板の裏面」,「裏面電極」は,それぞれ,本願発明1の「半導体基板の」「第1の主面」,「第1の主電極」,「半導体基板の」「第2の主面」,「第2の主電極」に相当する。
そして,引用発明6の「半導体基板のおもて面にアルミニウム電極6を形成する工程と,半導体基板の裏面に,裏面電極として,チタン膜12およびアルミニウム膜16を順次積層する工程」は,本願発明1の「互いに対向する第1及び第2の主面を持つ半導体基板の前記第1の主面に第1の主電極を形成する工程と,前記半導体基板の前記第2の主面に第2の主電極を形成する工程」に相当する。

(イ)前記1(1)ア(ウ)で検討したように,本願発明1の「表面清浄化処理」は,ジンケート処理を含んでいるといえる。
そうすると,引用発明6の「無電解ニッケルめっき処理の前処理として,アルミニウム電極6およびアルミニウム膜16に同時にダブルジンケート処理を行う工程」は,本願発明1の「前記第1及び第2の主電極の表面を清浄化する表面清浄化処理を行う工程」に相当する。

(ウ)引用文献6の前記第4の6の[0016]の記載から,無電解ニッケルめっき処理には,無電解ニッケルめっき液が用いられるものであり,この処理は湿式成膜法であるといえる。
また,引用発明6の「ダブルジンケート処理」は,「無電解ニッケルめっき処理の前処理として」行われるものであるから,「ダブルジンケート処理」の後に,「無電解ニッケルめっき処理」が行われるものである。
そうすると,引用発明6の「無電解ニッケルめっき処理および置換金めっき処理を連続して行い,アルミニウム電極6およびアルミニウム膜16の表面に,同時にニッケルめっき膜14を形成し,そのニッケルめっき膜14の表面に置換金めっき膜15を形成する工程」と,本願発明1の「前記表面活性化処理及び前記表面清浄化処理の後に,前記第1及び第2の主電極上にそれぞれ第1及び第2のNi膜をPを含むめっき液を用いた湿式成膜法により同時に形成する工程」とは,「前記表面清浄化処理の後に,前記第1及び第2の主電極上にそれぞれ第1及び第2のNi膜をめっき液を用いた湿式成膜法により同時に形成する工程」である点で共通する。

(エ)以上から,本願発明1と引用発明6との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「互いに対向する第1及び第2の主面を持つ半導体基板の前記第1の主面に第1の主電極を形成する工程と,
前記半導体基板の前記第2の主面に第2の主電極を形成する工程と,
前記第1及び第2の主電極の表面を清浄化する表面清浄化処理を行う工程と,
前記表面清浄化処理の後に,前記第1及び第2の主電極上にそれぞれ第1及び第2のNi膜をめっき液を用いた湿式成膜法により同時に形成する工程とを備える半導体装置の製造方法。」

<相違点>
相違点2:本願発明1は,「前記第1及び第2の主電極の表面を活性化する表面活性化処理を行う工程」を備えているのに対し,引用発明6は,そのような工程を備えていない点。

相違点3:「めっき液」について,本願発明1は,「Pを含む」のに対し,引用発明6は,「Pを含む」かどうか不明である点。

相違点4:本願発明1は,「前記第1及び第2のNi膜をPを含むめっき液を用いた湿式成膜法により同時に形成する工程の後に,前記半導体基板を加熱することで前記第1及び第2のNi膜に含まれる結晶性Niの割合を変化させて前記第1及び第2のNi膜がそれぞれ2%以上の結晶性Niを含むようにする工程」を備えているのに対し,引用発明6は,そのような工程を備えていない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み相違点4から検討する。
相違点4は,前記1(1)ア(オ)に示した,本願発明1と引用発明1との相違点1と同じ内容であるから,引用文献1には,相違点4に係る発明特定事項が記載も示唆もされていないことは明らかである。
また,引用文献2?5には,前記第4の2?5にそれぞれ示した事項が記載されているものの,いずれの文献にも,相違点4に係る「前記半導体基板を加熱することで前記第1及び第2のNi膜に含まれる結晶性Niの割合を変化させて前記第1及び第2のNi膜がそれぞれ2%以上の結晶性Niを含むようにする工程」については記載も示唆もされていない。
そうすると,仮に,引用発明6に引用文献1?5に記載された発明を適用したとしても,相違点4に係る本願発明1の発明特定事項は得られない。
よって,相違点2,3について判断するまでもなく,本願発明1は,引用発明6及び引用文献1?5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(2)本願発明2?14について
本願発明2?14は,本願発明1を減縮した発明であって,いずれも本願発明1の全ての発明特定事項を有しているから,本願発明1と同様の理由により,引用発明6及び引用文献1?5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
1 理由(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により,本願発明1?14は,「前記半導体基板を加熱することで前記第1及び第2のNi膜に含まれる結晶性Niの割合を変化させて前記第1及び第2のNi膜がそれぞれ2%以上の結晶性Niを含むようにする工程」という事項を有するものとなっており,拒絶査定において引用された引用文献1?5に記載された発明に基づいて,若しくは,引用文献6,1?5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。
したがって,原査定の理由1を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-06-30 
出願番号 特願2019-205579(P2019-205579)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 綿引 隆  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 河本 充雄
小川 将之
発明の名称 半導体装置の製造方法  
代理人 特許業務法人高田・高橋国際特許事務所  

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