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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 D21H
管理番号 1375694
審判番号 不服2020-10968  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-06 
確定日 2021-07-20 
事件の表示 特願2019- 92760「紙及び紙板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月26日出願公開、特開2019-218674、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成31年5月16日(優先権主張 平成30年6月15日)の出願であって、令和元年7月30日付けで拒絶理由通知がされ、令和元年9月24日に意見書及び手続補正書が提出され、令和元年11月26日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年1月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和2年5月7日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、令和2年8月6日に本件拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

(進歩性)本願請求項1?4に係る発明は、以下の引用文献1?2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平02-006683号公報
2.特開2015-183333号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正(以下、「本件補正」という。)は、以下に示すように、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
本件補正は、請求項1に係る発明の「カチオン性ポリアクリルアミド」について、その添加量を「0.01?0.08質量%」に、その範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。
また、「カチオン性ポリアクリルアミドの添加量」を「0.01?0.08質量%」とする事項は、願書に最初に添付した明細書の【0026】に記載された事項であるから、新規事項を追加するものではない。
そして、以下の「第4 本件補正発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、本件補正後の請求項1?4に係る発明は、独立特許要件、すなわち特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

第4 本件補正発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件補正発明1」?「本件補正発明4」という。)は、審判請求時の補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】
製紙原料としてカチオン要求量が100μeq/L以上の紙料を用いる抄紙工程を有し、カチオン電荷密度が200?300μeq/g、固有粘度ηが13?18.3dL/gのカチオン性ポリアクリルアミドを、全紙料固形分に対して0.01?0.08質量%の範囲で紙料に添加する、紙及び紙板の製造方法。
【請求項2】
前記紙料が、メカニカルパルプを含む製紙原料である、請求項1に記載の紙及び紙板の製造方法。
【請求項3】
前記紙料が、脱墨パルプを30質量%以上含む製紙原料である、請求項1に記載の紙及び紙板の製造方法。
【請求項4】
前記紙料が、古紙パルプを30質量%以上含む製紙原料である、請求項1に記載の紙及び紙板の製造方法。

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
本件補正発明1の発明特定事項である「カチオン要求量」に着目し、原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に公知である引用文献1の請求項1?2、6?8、11?12、第3頁左上欄第9?左下欄第6行目、第4頁左下欄第6?10行目、同右下欄第14?17行目、第5頁左下欄第12行?18行目の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明が記載されている。

(引用発明)
「紙又は板紙を製造すべく脱水にかける懸濁液が濃厚紙料の希釈によって形成した希薄紙料であって、
水性セルロース懸濁液を作り、
予備ポリマーの添加ステップとして、
主カチオン性ポリマーに基づいて測定したカチオン要求量が400g/t以上の懸濁液に対し、
2dl/g以下の極限粘度を有し、100,000?500,000の分子量をもつ低分子量水溶性合成カチオン性ポリマーを主ポリマーの添加の前に加えてカチオン要求量を300g/t以下に減少させるステップを含み、
この懸濁液を洗浄、混合及びポンピングの各ステップの中から選択した1つ又はそれ以上の剪断ステップに通し、
これらの剪断ステップのうちの1つの剪断ステップの前に、主ポリマーとして分子量500,000以上であり、極限粘度4dl/g以上の高分子量線状水溶性カチオン性ポリマーを、紙料の乾燥重量の300g/t以下、例えば50g/t(0.005%)?250g/t、特に100g/t以上、前記懸濁液に加え、
その剪断ステップの後でベントナイト及びコロイドシリカの中から選択した無機物質を加え、
この懸濁液を脱水してシート状にし、次いでこのシートを乾燥させることによって紙又は板紙を製造する方法」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に公知である引用文献2には、【0038】の記載からみて、歩留向上効果を得るには、紙料に添加する高分子の固有粘度の範囲が15?25dl/gであることが好ましいという技術的事項が記載されている。

第6 対比・判断
1.本件補正発明1について
(1)対比
本件補正発明1と引用発明とを対比する。
構成及び作用からみて、引用発明の「懸濁液」及び「懸濁液を脱水してシート状にし、次いでこのシートを乾燥させることによって紙又は板紙を製造する方法」は、本件補正発明1の「紙料」及び「抄紙工程を有する、紙及び紙板の製造方法」に相当し、
引用発明の「主カチオン性ポリマーに基づいて測定したカチオン要求量が400g/t以上の懸濁液」は、本件補正発明1の「製紙原料としてカチオン要求量が100μeq/L以上の紙料」と、「カチオン要求量が所定値以上である製紙原料」の限りで一致し、
引用発明の「分子量が500,000以上であり、極限粘度4dl/g以上の高分子量のカチオン性ポリマー」は、本件補正発明1の「カチオン電荷密度が200?300μeq/g、固有粘度ηが13?18.3dL/gのカチオン性ポリアクリルアミド」と、「高分子量のカチオン性ポリマー」である点で共通する。

したがって、本件補正発明1と引用発明との間には、次の一致点、及び、相違点がある。

<一致点>
「製紙原料としてカチオン要求量が所定値以上の紙料を用いる抄紙工程を有し、高分子量のカチオン性ポリマーを、全紙料固形分に対して0.01?0.03質量%を含む範囲で紙料に添加する、紙及び紙板の製造方法。」

<相違点1>
製紙原料のカチオン要求量の数値範囲に関し、本件補正発明1は「100μeq/L以上」であるのに対し、引用発明は「400g/t以上」であって、対応するものか不明な点。
<相違点2>
高分子量のカチオン性ポリマーに関し、本件補正発明1は「カチオン電荷密度が200?300μeq/g、固有粘度ηが13?18.3dL/gのカチオン性ポリアクリルアミド」であるのに対し、引用発明は、カチオン電荷密度については記載されておらず、固有粘度については「4dl/g以上」と下限範囲のみしか記載されていないカチオン性ポリマーである点。

(2)当審の判断
事案に鑑み、上記相違点2から検討する。本件補正発明1におけるカチオン電荷密度の数値範囲は、「カチオン電荷密度が200μeq/g未満であると濾水量が減少するおそれがあり、1000μeq/gを超えると濁度を低減する効果が得られないおそれがある。」(【0012】)の記載からみて、「濾水量」と「濁度」という2つの異なる指標がいずれも良好な結果を示す範囲を特定するものであり、本件補正発明1における固有粘度の数値範囲は、「固有粘度ηが2.7dL/g未満ではカチオン性ポリアクリルアミドの分子量が小さ過ぎるため、凝集反応が起こり得る範囲が狭く、十分な歩留まり効果が得られないおそれがある。また、固有粘度ηが18.3dL/gを超えるとカチオン性ポリアクリルアミドの分子量が大き過ぎるため、粘性が高く、濾水量を増加させる効果が十分に発揮できないおそれがある。」(【0013】)の記載からみて、「歩留率」と「濾水量」という2つの異なる指標がいずれも良好な結果を示す範囲を特定するものである。そして、本件補正発明1はカチオン電荷密度、及び、固有粘度を特定の範囲とすることによって、「濾水量を増加させ、歩留率を向上させ、濁度を低減することができる」(【0006】)という3つの異なる指標を同時に改善するものと理解できる。

一方、引用文献1には、以下の記載がされている。
「例えば不純パルプから濃厚紙料を作る場合には、脱水を促進するために、パルプ化又は濃厚紙料製造ステップで、みょうばん、タルク又はベンドナイトのような無機物質を加えるのが普通である。これらの処理はピッチ及び他の粘着物質に起因する問題を最小限に抑える効果を有する。」(第2頁右下欄第1?6行目)
「一般的には、脱水すべき紙料にカチオン性ポリマーを加えてろ水性(ろ水の「ろ」は、原文ではさんずいに戸。以下同様。)及び/又は歩留り性を改善する。」(第3頁右下欄第10?12行目)
「EP235893には、ろ水性、歩留り性、乾燥及び形成特性を改善すべく、ある剪断ステップの前に第1の合成カチオン性ポリマーを加え、且つその剪断ステップの後でベントナイトを加えることからなる方法が開示されている。」(第2頁右下欄第17行目?第3頁左上欄第3行目)
「低分子量合成ポリマーを主ポリマーの添加の前に希薄紙料に加えると、剪断ステップ前の主ポリマーの添加及び該剪断ステップ後のベントナイト又はコロイドケイ酸の添加によって得られるプロセス及び性能特性が改善される。例えば、その他の条件に応じて、ピッチ及び他の粘着物質に起因する問題を軽減させることができ、且つ湿潤強度及び/又は乾燥強度、ランナビリティ(runability)ろ水性、リンティング(linting)、不透明度等の紙の性質を改善することができるのである。」(第3頁右上欄第12行目?左下欄第6行目)
「本発明の方法の残りの部分は、“Hydrocol”プロセスと同様であるのか好ましく、分子量500,000以上の合成カチオン性ポリマーを1つの剪断ステップの前に使用し且つベントナイトをその後で使用してEP235893のように操作する。」(第4頁右上欄第12?16行目)

以上の記載を総合するに、引用発明は、従来技術において、剪断ステップにおいて合成カチオン性ポリマーを加え、且つ、剪断ステップの後でベントナイト等の無機物質を加えることで、「ろ水性、歩留り性、乾燥及び形成特性」を改善していたのに対し、さらに、予備ポリマーとして低分子量ポリマーを紙料に加えることにより、「湿潤強度及び/又は乾燥強度、ランナビリティ、ろ水性、リンティング(linting)、不透明度等」の指標をさらに改善するという追加の効果をもたらすものと理解できる。

そうすると、本件補正発明1と引用発明とは、「紙料の濾水量(ろ水性)、歩留率(歩留り性)、及び、濁度(不透明度)」の3つの指標を改善する点で軌を一にするものであるものの、本件補正発明1は、添加する高分子量のカチオン性ポリマーのカチオン電荷密度及び固有粘度を特定の数値範囲とすることにより、当該3つの指標の改善を同時に達成するのに対し、引用発明は、高分子量のカチオン性ポリマー以外に、低分子量のカチオン性ポリマーやベントナイト等の無機物質を添加することによる複合的な効果によって当該3つの指標の改善を達成するものであって、引用発明は前提とする技術思想が本件補正発明1と異なるから、引用発明には、高分子量のカチオン性ポリマーのみに着目し、そのカチオン電荷密度及び固有粘度を上記3つの指標の改善が同時に図れるよう調整することの動機が存在しない。

したがって、上記相違点1について判断するまでもなく、本件補正発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本件補正発明2?4について
本件補正発明2?4も、本件補正発明1のカチオン電荷密度及び固有粘度が特定の範囲にあるカチオン性ポリアクリルアミドを使用するという同一の発明特定事項を備えるものであるから、本件補正発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、拒絶査定において引用された引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.小括
以上のとおりであるから、本件補正発明1?4は、特許出願の際独立して特許を受けることができる発明であり、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

第7 原査定に対する判断
上記のとおり、本件補正発明1?4は、カチオン電荷密度及び固有粘度が特定の範囲にあるカチオン性ポリアクリルアミドを使用するという事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-2に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-06-29 
出願番号 特願2019-92760(P2019-92760)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (D21H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 春日 淳一  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 石井 孝明
平野 崇
発明の名称 紙及び紙板の製造方法  
代理人 特許業務法人大谷特許事務所  

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