• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16F
管理番号 1375831
審判番号 不服2020-16721  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-04 
確定日 2021-07-30 
事件の表示 特願2016-155003「積層ゴム支承」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月25日出願公開、特開2018- 13235、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る出願は、平成28年 7月19日の出願であって、令和 2年 6月 3日付けで拒絶理由通知がされ、同年 7月13日に意見書が提出され、同年 9月29日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年12月 4日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

2.原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである
この出願の請求項1-9に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2-8に記載された技術的事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開平11-201231号公報
引用文献2:特開2005-315366号公報
引用文献3:特開2003-021193号公報
引用文献4:特開2012-062968号公報
引用文献5:特開2006-275212号公報
引用文献6:特開2010-255782号公報
引用文献7:特開2010-025233号公報
引用文献8:特開2008-151337号公報

3.本願発明
本件に係る出願の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明9」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

【請求項1】
ゴム層と補強板とを交互に積層した積層ゴム部に上下方向に貫通する少なくとも1つの貫通孔を有する積層ゴム体と、前記貫通孔に封入された少なくとも1本の減衰体プラグとを備える積層ゴム支承において、
前記補強板の総厚さをT_(S)、前記ゴム層の総厚さをT_(R)、前記積層ゴム体が上面視円形の場合には直径、上面視正方形の場合には一辺の長さ、又は上面視長方形の場合には短辺の長さをDとした場合に、T_(S)≧26×T_(R)×D^(-0.5)であり、
前記各々の補強板の内周面と、前記減衰体プラグの外周面とが当接又は近接して配置されることを特徴とする積層ゴム支承。
【請求項2】
前記補強板の各々は厚さが同じであることを特徴とする請求項1に記載の積層ゴム支承。
【請求項3】
前記補強板の一部は、厚さが同じである他の補強板よりも厚いことを特徴とする請求項1に記載の積層ゴム支承。
【請求項4】
前記一部の補強板は、前記減衰体プラグの鉛直方向中央部に位置する1枚の補強板であることを特徴とする請求項3に記載の積層ゴム支承。
【請求項5】
前記一部の補強板は、前記減衰体プラグの鉛直方向において、少なくとも1枚の前記他の補強板を介して互いに離間する複数の補強板であることを特徴とする請求項3に記載の積層ゴム支承。
【請求項6】
前記減衰体プラグは、振動エネルギの吸収を塑性変形で行う減衰材料からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の積層ゴム支承。
【請求項7】
前記減衰材料は、鉛、錫、亜鉛、アルミニウム、銅、ニッケル若しくはこれらの合金又は非鉛系低融点合金からなることを特徴とする請求項6に記載の積層ゴム支承。
【請求項8】
前記減衰体プラグは、振動エネルギの吸収を塑性流動で行う減衰材料からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の積層ゴム支承。
【請求項9】
前記減衰材料は、熱硬化性樹脂と、ゴム粉とを含んでいることを特徴とする請求項8に記載の積層ゴム支承。

4.引用文献に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献1に記載された事項及び引用発明
引用文献1には、以下の事項が記載されている。

ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、地震の際に構築物に伝わる振動の周期を地震の周期よりも長くする免震構造体及びその製造方法に関するものであり、特にゴム層と金属板とが積層された積層体を備えた免震構造体及びその製造方法に関するものである。」

イ「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ゴム層の厚みをさらに薄くしてゴム層の水平方向断面積に対する厚みの比率を小さくし、積層するゴム層及び硬質層の数を多くすれば、低硬度のゴム層を用いても免震構造体の鉛直剛性を維持することができ、耐クリープ特性を維持することができるようになる。・・・
【0005】本発明はこれらの問題に鑑みてなされたものであり、ゴム層の厚みを薄くすることができ、従って充分に高い鉛直剛性と、充分に低い水平剛性と、充分に良好な耐クリープ特性とを発揮できる免震構造体及びその製造方法を提供することをその目的とするものである。」

ウ「【0015】図1には本発明の一実施形態にかかる免震構造体1の断面図が示されている。この免震構造体1は、ゴム層2と、硬質層としての金属板3とが複数枚ずつ交互に積層された積層体4を備えている。ゴム層2と金属板3とは、加硫接着されている。ゴム層2及び金属板3の平面形状は、円形である。積層体4の中央部は中空とされており、この中央部に振動減衰のために円柱状の鉛体7が充填されている。積層体4は、その外周に外皮ゴム5を備えている。ゴム層2と外皮ゴム5とは、積層体4の加硫時にゴム流動により一体とされる。金属板3には種々の金属材料が適用可能であるが、一般的にはスチールが用いられる。積層体4の上下には、スチール等からなる金属製フランジ部6a、6bが設けられている。金属製フランジ部6a、6bとこの金属製フランジ部6a、6bに当接するゴム層2とは、加硫接着されている。下方の金属製フランジ部6aは適切な連結手段(図示されず)により基礎地盤と連結され、上方の金属製フランジ部6bは適切な連結手段(図示されず)により建物、橋梁等の構築物と連結される。」

エ「【0017】ゴム層2の厚みは、1.7ミリメートル以下とされており、薄肉となっている。これにより、ゴム層2の水平方向断面積に対する厚みの比率が小さくされている。従って、鉛直方向の圧縮荷重に対するゴムの周方向の動きが拘束され、ゴムの周方向への膨らみ出しが抑えられて免震構造体の圧縮変形が小さくなり、水平剛性に対する鉛直剛性の比率が高められている。よって、ゴム層2の硬度を従来のものと同等とした場合、低い水平剛性を維持したまま、鉛直剛性をより高めることができる。また、ゴム層2を従来よりも低硬度として水平剛性をより抑えた場合でも、高い鉛直剛性を維持することができる。さらに、ゴム層2を薄肉とすることにより、ゴム層2の耐クリープ特性を向上させることができる。この観点より、ゴム層2の厚みは1.3ミリメートル以下がより好ましく、1.0ミリメートル以下が特に好ましい。なお、ゴム層2の厚みは薄いほど好ましいので本発明ではゴム層2の厚みの下限は特には限定されるものではないが、加工性を考慮すれば、ゴム層2の厚みは一般的には0.3ミリメートル以上が好ましい。」

オ「【0027】[実験1 短繊維の配合量を異ならせた実験]
[実施例1]天然ゴム(SMR CV-60)100重量部を1.5リッターのBR型バンバリーに投入し、素練りした。これに、太さが6デニールで長さが1ミリメートルのナイロン-6製の短繊維0.1重量部と、硫黄1.5重量部と、加硫促進剤としてのN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(大内新興化学工業株式会社製の商品名「ノクセラーCZ」)2.0重量部と、酸化亜鉛5重量部と、ステアリン酸1重量部と、FEFカーボンブラック19重量部と、ナフテン系プロセスオイル30重量部と、老化防止剤としてのN-フェニル-N-イソプロピル-p-フェニレンジアミン1重量部と、他の老化防止剤としての2,2,4-トリメチル-1,2ジヒドロキノリンの重合体1重量部と、パラフィンワックス2重量部と、黒サブ5重量部とを投入し、5分間混練して排出させた。排出されたゴム組成物をオープンロールで練り、ロール間ニップを締め切った状態でシーティングした。こうして得られたゴムシートの厚みが、下記の表1に示されている。
【0028】このゴムシートと金属板とを積層させて、図1に示されるような、中央に鉛体を備えた実施例1の免震構造体を作成した。この免震構造体の積層体の直径は600ミリメートル、積層体の高さは300ミリメートル、鉛体の直径は100ミリメートルである。
【0029】[実施例2、実施例3、比較例1及び比較例2]短繊維の配合量を下記の表1に示されるように変量させた他は実施例1と同様にして、実施例2、実施例3及び比較例2の免震構造体を得た。また、短繊維を全く配合しなかった他は実施例1と同様にして、比較例1の免震構造体を得た。」

カ「【0035】
【表1】



キ「【図1】



ク 摘記事項キの【図1】から、ゴム層2が8層、金属板3が7層であり、金属板3の内周面と鉛体7の外周面とが当接又は近接して配置されることが看取できる。

上記摘記事項ア?キ及び認定事項クから、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
ゴム層2と金属板3とが複数枚ずつ交互に積層された中央部は中空とされている積層体4、この中央部に振動減衰のために円柱状の鉛体7が充填されている免震構造体において、
ゴム層2は、厚さが1.0mmで8層であり直径が600mmであり、金属板3は、7層であり、
金属板3の内周面と鉛体7の外周面とが当接又は近接して配置される免震構造体。

(2)引用文献2記載された事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。

ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、道路橋、高架橋、ビル、家屋等の構造物と、その土台との間に介装する免震構造体に関する。」

イ「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、金属プラグ材料としてPbを使用せずに環境への悪影響を低減するとともに、金属プラグ材料をリサイクルするために行う金属材料の分離が容易で、金属材料の回収率を高めることができる免震構造体を提供することである。」

ウ「【0015】
硬質板12は、免震構造体11の内部に配置された内部硬質板12a、上部に配置された上部硬質板12bおよび下部に配置された下部硬質板12cとからなる。これらの硬質板12としては、例えば鋼板等の金属板、セラミックス、硬質プラスチック板等の材料を用いることができる。内部硬質板12aは、その厚さが1?6mm程度であるのがよく、枚数が2?50枚程度であるのがよい。また、上部硬質板12bおよび下部硬質板12cの厚さは10?60mm程度であるのがよい。
【0016】
ゴム層13は、主成分であるゴム成分に、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、補強剤、遅延剤、可塑剤、必要に応じて着色剤などの配合剤を配合したものである。ゴム層13は、各層の厚さが1?50mm程度であるのがよい。」

エ「【0027】
<免震構造体の詳細>
免震構造体のサイズ:径φ100mm、高さ48.4mm
内部硬質板のサイズ:径φ90mm、厚さ2mm
上部・下部硬質板のサイズ:径φ90mm、厚さ12mm
中空部の穴径:φ20mm
金属プラグの径:φ20mm
ゴム層:厚み6.8mm×3層
内部硬質板の材質:SS400(JIS G3101)
上部・下部硬質板の材質:SM490(JIS G3106)」

オ「【図1】



(3)引用文献3に記載された事項
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
ア「【0036】次に本発明免震装置の具体的な製造方法について説明する。図4および図5(ロ)に示される本発明装置において、鉛もしくは超塑性材料のコアを確実に充填するためには、特に高さ中央位置におけるコア面積が最小の部分の充填度および積層ゴム体によるコアの保持を確実にするために、中央部に厚い鋼板(補強鋼板)を採用することが考えられる。その断面構成図を図13に示す。即ち、図13では、通常、積層ゴム体の上端と下端の両方から、コアとなる超塑性金属(通常鉛)が2分割して圧入される。その結果中央部にコア材料の断層部=不連続弱点部が発生し易くなるが、上記中央部の厚い鋼板、中央インナーシム61(補強鋼板)は、この断層部弱点を保護する役目を果たすものである。」

イ「【図13】



(4)引用文献4に記載された事項
引用文献4には、以下の事項が記載されている。
ア「【0020】
図1には、本実施形態の積層支持体12が示されている。積層支持体12は、複数枚の金属板18と、同じく複数枚の円盤状のゴム板19とを厚み方向に交互に積層した(以下この積層方向を「X方向」という)積層弾性体16を備えている。剛性板としての金属板18は、円盤状とされ鋼板などの金属製とされている。弾性板としてのゴム板19は、円盤状とされ、弾性を有するゴム材で構成されている。
【0021】
積層弾性体16は、減衰材積層弾性部20と単積層弾性部24とが拘束鋼板22を介して積層されて構成されている。減衰材積層弾性部20には、交互に積層された金属板18とゴム板19の中央に金属板18及びゴム板19をX方向に貫通する円柱状の空間である中空Rが構成されている。なお、中空Rの形状は円柱状でなくてもよい。中空Rには、減衰部材30が充填されている。減衰部材30の詳細については後述する。
【0022】
単積層弾性部24は、交互に積層された金属板18とゴム板19に、前述の中空Rが構成されていない。拘束鋼板22は、金属板18よりも厚みの厚い鋼板で構成されている。たとえば、金属板18の厚みを3mm?5mmの範囲、拘束鋼板22の厚みを9mm?15mmの範囲に設定することができる。
【0023】
積層弾性体16は、減衰材積層弾性部20、拘束鋼板22、単積層弾性部24、拘束鋼板22、減衰材積層弾性部20の順に積層されて構成されている。したがって、減衰部材30は、積層弾性体16のX方向両端に互いに離間して配置されている。
【0024】
積層弾性体16は、金属板18とゴム板19の外側端面を周囲から被覆する被覆材17を有している。被覆材17によって金属板18及びゴム板19に外部から雨や光が作用しなくなり、酸素やオゾン、紫外線などによる劣化が防止される。また、被覆材17は、厚さが一定とされており、その強度にばらつきがでないようにされている。なお、被覆材17はゴム板19と同一の材料によって形成することができる。この場合、ゴム板19と被覆材17とを別体で形成しておき、後工程で加硫接着等によって一体化させることが可能である。あるいは、被覆材17とゴム板19を接着剤等で接着してもよい。」

イ「【0031】
塑性流動材32内には、塑性流動材32に対して剛体とみなせる硬質の材料で構成された硬質充填材34が、所定の体積充填率となるように複数充填されている。この「体積充填率」とは、塑性流動材32の体積と硬質充填材34の体積の和に対する硬質充填材34の体積の比を百分率で示したものである。
【0032】
硬質充填材34の材質は、塑性流動材32に対して剛体とみなせる程度の硬さを有する材料であればよい。たとえば、金属、セラミックやエンジニアリングプラスチック等を適用することができるが、これらに限定されない。金属の具体例としては、純鉄、あるいは
炭素鋼やステンレス鋼などの鉄を主成分とした粉体を挙げることができる。特に鉄は、他の金属と比較して比較的高いため温度上昇が抑制され、初期の特性を維持できるので、好ましい。
【0033】
中空Rの端部には閉塞板36が配置されている。閉塞板36は、中空RのX方向の端部を閉塞できるように、中空Rよりも大径の円盤状に形成されて中空Rに圧入されている。閉塞板36をフランジ板14及び拘束鋼板22に固定することで、中空Rを密閉することができる。」

ウ「【図1】



(5)引用文献5に記載された事項
引用文献5には、以下の事項が記載されている。
「【0014】
本実施形態のエネルギー吸収装置Aは、前記従来例と同様に鋼板等の硬質板1とゴム等の弾性体2とを上下方向に交互に複数積層して接着剤等で一体化してなる積層体3を上下一対の基板5・5間に配置し、その両基板5・5および積層体3の中心部に形成した上下方向に貫通する中空部(貫通穴)h内にエネルギー吸収体4を収容配置したもので、そのエネルギー吸収体4は、その剪断変形部(例えば図1において上側の基板5の下面と、下側の基板5の上面との間に位置する部分であって、地震等の振動吸収時に剪断変形する部分)をも含めてエネルギー吸収体全体(エネルギー吸収体4が剪断変形部のみからなる場合も含む)が、降伏点の異なる複数個の金属円柱4a?4cを上下方向に層状に積層して形成されている。特に本実施形態においては上下方向中央部の金属円柱4aの降伏点が最も小さく、その両側の金属円柱4b、4cに行くに従って降伏点が漸次大きくなるように
構成したものである。他の構成は前記従来例と同様である。
【0015】
上記エネルギー吸収体4を構成する金属円柱4a?4cの材質は適宜であるが、好ましくは従来から多用されている鉛は有害性の問題があるので、それ以外の金属を用いるのが望ましい。具体的には、例えば、金、銀、錫、銅、アルミニウム、亜鉛とからなる金属群のうちのいずれかの金属単体、または上記金属群のうちのいずれかの金属を主体とし、これに上記主体となる金属以外の上記金属群もしくは上記金属群以外の金属から選択した1種または2種以上の金属を混合した合金等を用いることができる。特に純度99.9%以上の錫を主体とし、これにビスマス、硫黄、カドミウム、金、銀、アンチモン、亜鉛の中から選択した1種または2種以上の金属を混合した合金が好適である。」

(6)引用文献6に記載された事項
引用文献6には、以下の事項が記載されている。
ア「【0020】
図1に示す本発明の一実施態様である免震装置1は、剛性を有する剛性板2と弾性を有する弾性板3とが交互に積層されてなり、該積層方向(鉛直方向)に延びる円筒状の中空部を中心部に有する積層体4と、該積層体4の中空部に圧入された免震装置用プラグ8と、積層体4及び免震装置用プラグ8の両端(上端及び下端)に固定されたフランジ板6とを具え、更に、積層体4の外周面が被覆材7で覆われている。免震装置1は、地震に伴う振動により水平方向のせん断力を受けた際に、積層体4と共に免震装置用プラグ8がせん断変形し、振動のエネルギーを効果的に吸収して、振動を速やかに減衰させることができる。
【0021】
ここで、免震装置用プラグ8は、図2に示すように、プラグ材5の複数、図示例で3個のプラグ材5の積層になり、各プラグ材の厚さをh(mm)、該厚さ方向と直交する断面の直径をD(mm)としたときに、比h/Dが0.02?0.7を満足することが肝要である。このように、上記規定を満足するプラグ材をあらかじめ加圧成型し、これらを積層して免震装置用プラグを作製することにより、厚さ方向並びに径方向での空気含有率のばらつきが緩和されると共に空気含有率も低くなる結果、全体として空気含有率が低い免震装置用プラグが提供できる。」

イ「【0030】
上記エラストマー成分として、より具体的には、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン-プロピレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム、ポリウレタン、シリコーンゴム、フッ化ゴム、多硫化ゴム、ハイパロン、エチレン酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム、エチレン-メチルアクリレート共重合体、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー等が挙げられる。これらエラストマー成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上をブレンドして用いてもよい。」

ウ「【0040】
本発明のプラグ材用の組成物は、エラストマー成分に補強性充填剤を配合してなるエラストマー組成物と、粉体とを用いる以外特に制限はなく、例えば、以下のようにして製造することができる。」

(7)引用文献7に記載された事項
引用文献7には、以下の事項が記載されている。

ア「【0021】
このプラグ用組成物に用いるエラストマー成分としては、室温でゴム弾性を呈するもの、例えば、天然ゴムや合成ゴム等のゴム、熱可塑性エラストマーを使用することができ、これらの中でも、天然ゴムや合成ゴム等のゴムを使用することが好ましい。天然ゴムや合成ゴム系のポリマーは、粘弾性体で若干の弾性は示すものの塑性が大きく、大変形にも追従でき、振動後、原点に戻ったときには再び同じ状態に再凝集できる。また、エラストマー成分がゴムの場合(即ち、エラストマー組成物がゴム組成物の場合)、プラグの減衰性能が向上する上、耐久性も向上する。上記エラストマー成分として、より具体的には、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン-プロピレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム、ポリウレタン、シリコーンゴム、フッ化ゴム、多硫化ゴム、ハイパロン、エチレン酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム、エチレン-メチルアクリレート共重合体、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー等が挙げられる。これらエラストマー成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上をブレンドして用いてもよい。」

イ「【0026】
上記エラストマー組成物には、更に樹脂を配合することが好ましい。上記エラストマー組成物は、補強性充填剤を含むものの、それだけではプラグの大変形の際、減衰性能が低下する傾向がある。これに対して、エラストマー組成物が補強性充填剤に加えて樹脂を含む場合、大変形の際にも、プラグの減衰性能を向上させることができる。また、樹脂は、加工助剤としても作用し、プラグ組成物の混練を容易にすることができる。
【0027】
上記樹脂としては、粘着付与剤としての作用を有するものが好ましく、より具体的には、フェノール樹脂、ロジン樹脂、ジシクロペンダジエン(DCPD)樹脂、ジシクロペンダジエン-イソプレン共重合体、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、脂環式系石油樹脂、C5留分とC9留分を共重合して得られる石油樹脂、キシレン樹脂、テルペン樹脂、ケトン樹脂、及びこれらの樹脂の変性樹脂等が挙げられる。これら樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、エラストマー組成物における樹脂の配合量は、上記エラストマー成分100質量部に対して20?100質量部の範囲が好ましい。樹脂の配合量が20質量部未満では、プラグの減衰性能を向上させる効果が小さく、一方、100質量部を超えると、エラストマー組成物の加工性が低下する。」

(8)引用文献8に記載された事項
引用文献8には、以下の事項が記載されている。

「【0041】
この塑性流動材30としては、たとえば、未加硫ゴム、熱可塑性エラストマー等を挙げることができるが、これらに限定されない。未加硫ゴムの主成分(ポリマー)としては、天然ゴム(NR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、スチレン・プロピレンゴム(EPM、EPDM)、シリコーンゴム(Q)等が挙げられる。さらに、未加硫ゴムや熱可塑性エラストマー等にカーボンブラック、炭酸カルシウム、オイル・樹脂等の配合剤を配合したものでもよい。特に未加硫ゴムは入手が容易であり、且つ低コストで構成できるので、好ましい。
【0042】
さらに、弾性体中空部28、すなわち、塑性流動材30内には、塑性流動材30に対して剛体とみなせる硬質の材料で構成された球形の球状体32が、所定の体積充填率となるように複数充填されている。この「体積充填率」とは、塑性流動材30の体積と球状体32の体積の和に対する球状体32の体積の比を百分率で示したものである。
【0043】
球状体30は、本発明の硬質充填材の一例であるが、硬質充填材の材質は、塑性流動材30に対して剛体とみなせる程度の硬さを有する材料であればよい。たとえば、金属、セラミックやエンジニアリングプラスチック等を適用することができるが、これらに限定されない。金属の具体例としては、純鉄、あるいは炭素鋼やステンレス鋼などの鉄を主成分とした粉体を挙げることができる。特に鉄は、他の金属と比較して比較的高いため温度上昇が抑制され、初期の特性を維持できるので、好ましい。」

5.対比、判断
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「ゴム層2」、「金属板3」、「複数枚ずつ交互に積層」、「積層体4」、「円柱状の鉛体7」、「免震構造体」は、それぞれ本願発明1の「ゴム層」、「補強板」、「交互に積層」、「減衰体プラグ」、「積層ゴム支承」に相当する。

引用発明の「中央部が中空とされている」は、引用文献1の【図1】からみて、中央部が積層体4を上下方向に貫通していることが看取できるから、本願発明1の「上下方向に貫通する貫通孔」に一致する。

引用発明の「中央部に振動減衰のために円柱状の鉛体7が充填されている」は、本願発明1の「貫通孔に封入された少なくとも1本の減衰体プラグ」と一致する。

引用発明の「金属板3の内周面と鉛体7の外周面とが当接又は近接して配置される」は、本願発明1の「前記各々の補強板の内周面と、前記減衰体プラグの外周面とが当接又は近接して配置される」に相当する。

してみると、本願発明1と引用発明とは、
「ゴム層と補強板とを交互に積層した積層ゴム部に上下方向に貫通する少なくとも1つの貫通孔を有する積層ゴム体と、前記貫通孔に封入された少なくとも1本の減衰体プラグとを備える積層ゴム支承において、
前記各々の補強板の内周面と、前記減衰体プラグの外周面とが当接又は近接して配置されることを特徴とする積層ゴム支承。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
本願発明1では、「前記補強板の総厚さをT_(S)、前記ゴム層の総厚さをT_(R)、前記積層ゴム体が上面視円形の場合には直径、上面視正方形の場合には一辺の長さ、又は上面視長方形の場合には短辺の長さをDとした場合に、T_(S)≧26×T_(R)×D^(-0.5)」であるのに対して、引用発明では、「ゴム層2は、厚さが1.0mmで8層であり直径が600mmであり、金属板3は、7層」であるが、金属板3の厚さは特定されていない点。

イ 当審の判断
上記相違点について判断すると、上記4.(2)エに摘記したとおり、引用文献2の【0027】には、内部硬質板のサイズ:径φ90mm、厚さ2mm、上部・下部硬質板のサイズ:径φ90mm、厚さ12mm、ゴム層:厚み6.8mm×3層とすることが記載されている。

しかしながら、これらの数値を上記相違点に係る数式に当てはめても、「T_(S)≧26×T_(R)×D^(-0.5)」の関係を満たすものではない。

さらに、引用文献3?8のいずれについても、当該数式の関係を満たすことは記載されておらず、当該数式の関係を示唆する記載もない。

そして、本願発明1は、前記補強板の総厚さT_(S)、前記ゴム層の総厚さT_(R)が当該数式の関係を満たすことで、「通常の地震時における性能を維持しながら、長時間地震時においてエネルギー吸収性能の低下を抑制する」という有利な効果を奏するものであるから、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?8に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえないものである。

(2)本願発明2?9について
本願発明2?9も、本願発明1の「前記補強板の総厚さをT_(S)、前記ゴム層の総厚さをT_(R)、前記積層ゴム体が上面視円形の場合には直径、上面視正方形の場合には一辺の長さ、又は上面視長方形の場合には短辺の長さをDとした場合に、T_(S)≧26×T_(R)×D^(-0.5)」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?8に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1?9は、当業者が引用発明及び引用文献2?8に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-07-07 
出願番号 特願2016-155003(P2016-155003)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 杉山 豊博  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 尾崎 和寛
間中 耕治
発明の名称 積層ゴム支承  
代理人 中井 潤  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ