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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  B01J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01J
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B01J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
管理番号 1375847
異議申立番号 異議2020-700375  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-02 
確定日 2021-04-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6615193号発明「排気ガス処理用モレキュラーシーブ触媒」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6615193号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕、14について訂正することを認める。 特許第6615193号の請求項1?6、8?14に係る特許を維持する。 特許第6615193号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6615193号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?14に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)10月 6日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2014年10月 7日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和 1年11月15日に特許権の設定登録がなされ、令和 1年12月 4日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の全請求項に係る特許に対し、特許異議申立人 岩部 英臣(以下、「申立人」という。)より、令和 2年 6月 2日付けで特許異議の申立てがなされたものであり、その後の経緯は次のとおりである。
令和 2年 8月18日付け 取消理由通知
同年11月20日付け 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
令和 3年 1月29日付け 意見書の提出(申立人)

第2 訂正の適否について
令和 2年11月20日付けで請求された訂正請求の請求の趣旨、及び、訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、それぞれ次の1、2のとおりのものであるところ、当審は、本件訂正の適否につき、次の3に説示するとおり、適法になされたものと判断する。

1 請求の趣旨
本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?13、14について訂正することを求める。

2 本件訂正の内容
(1)本件訂正は、以下のア?オの訂正事項からなるものである(当審注:下線を付した部分が訂正箇所である。)。

ア 特許請求の範囲の請求項1に「AFX骨格と15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCu担持ゼオライトを含み、ゼオライトが、3重量パーセント未満の合成後アルカリ含有量を有し、0.1?15μmの結晶平均サイズを有する、排気ガス処理用触媒」と記載されているのを、「AFX骨格と15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCu担持ゼオライトを含み、ゼオライトが、3重量パーセント未満の合成後アルカリ含有量を有し、0.1?15μmの結晶平均サイズを有し、かつゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有する、排気ガス処理用触媒」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?13も同様に訂正する。)との事項(以下、単に「訂正事項1」という。)。

イ 特許請求の範囲の請求項3に「金属担持ゼオライト」と記載されているのを、「Cu担持ゼオライト」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。)との事項(以下、単に「訂正事項2」という。)。

ウ 特許請求の範囲の請求項7を削除するとの事項(以下、単に「訂正事項3」という。)。

エ 特許請求の範囲の請求項11に「触媒組成物」と記載されているのを、「触媒」に訂正する(請求項11の記載を引用する請求項12?13も同様に訂正する。)との事項(以下、単に「訂正事項4」という。)。

オ 特許請求の範囲の請求項14に「SCR還元剤とNO_(x)を含む排気ガスとの混合物を、AFX骨格と15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCu担持ゼオライトを含む触媒に接触させるステップを含む、排気ガス処理方法であって、ゼオライトが、3重量パーセント未満の合成後アルカリ含有量を有し、0.1?15μmの結晶平均サイズを有し、前記接触によりNO_(x)の少なくとも一部を窒素と水とに還元する、方法」と記載されているのを、「SCR還元剤とNO_(x)を含む排気ガスとの混合物を、AFX骨格と15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCu担持ゼオライトを含む触媒に接触させるステップを含む、排気ガス処理方法であって、ゼオライトが、3重量パーセント未満の合成後アルカリ含有量を有し、0.1?15μmの結晶平均サイズを有し、ゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有し、かつ前記接触によりNO_(x)の少なくとも一部を窒素と水とに還元する、方法」に訂正するとの事項(以下、単に「訂正事項5」という。)。

(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?13は、いずれも直接的又は間接的に請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?13は一群の請求項である。そして、特許請求の範囲についてする上記訂正事項1?4に係る訂正は、これらの一群の請求項1?13に対して請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に従うものである。

3 本件訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、請求項1に記載のCu担持ゼオライトを含む排気ガス処理用触媒を「ゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有」するという事項により限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、「ゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有」するという事項は、本件明細書の段落【0013】に基づくから、訂正事項1による訂正は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項1による訂正は、請求項1に記載のCu担持ゼオライトを含む排気ガス処理用触媒について、下位概念の触媒に限定するものであり、訂正前の請求項1に係る発明のカテゴリー、対象、目的を変更するものではないから、事実上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項3の「金属担持ゼオライト」について、請求項3が引用している請求項1及び2における「Cu担持ゼオライト」と整合しておらず明瞭でなかったところ、「Cu担持ゼオライト」と訂正して明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2による訂正は、請求項3にある「金属担持ゼオライト」について、記載を明瞭にするため請求項1及び2における「Cu担持ゼオライト」と整合するように「Cu担持ゼオライト」と訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項2による訂正は、記載を明瞭にするためのものであって、訂正前の請求項3に係る発明のカテゴリー、対象、目的を変更するものではないから、事実上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3
訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項7を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって新規事項の追加にあたらず、事実上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(4)訂正事項4
訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項11の「触媒組成物」について、請求項11が引用している請求項1における「触媒」と整合しておらず明瞭でなかったところ、これを「触媒」と訂正して明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項4による訂正は、請求項3にある「触媒組成物」について、請求項1における「触媒」と整合するようにして記載を明瞭にするため「触媒」と訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項11の「触媒組成物」は、請求項11が引用している請求項1における「触媒」を意味するものであったが用語が異なるために記載が明瞭でなかったところを、訂正により明瞭にするためのものであって、訂正前の請求項11に係る発明のカテゴリー、対象、目的を変更するものではないから、事実上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(5)訂正事項5
訂正事項5による訂正は、訂正前の請求項14に記載の排気ガス処理方法を「ゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有し」との事項により限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、「ゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有」するという事項は、本件明細書の段落【0013】に基づくから、訂正事項5による訂正は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項5による訂正は、請求項14に記載の排気ガス処理方法について、用いる触媒を下位概念の触媒に限定するものであり、訂正前の請求項14に係る発明のカテゴリー、対象、目的を変更するものではないから、事実上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(5)独立特許要件について
なお、本件特許異議の申立てにおいては、訂正前の全ての請求項1?14について特許異議の申立てがされているので、前記請求項1?14に対応する本件訂正後の請求項1?14に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?13〕、14について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は適法にされたものであるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?14に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明14」ということがあり、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、令和 2年11月20日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。なお、本件発明7は存在しないものとなった。

「【請求項1】
AFX骨格と15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCu担持ゼオライトを含み、ゼオライトが、3重量パーセント未満の合成後アルカリ含有量を有し、0.1?15μmの結晶平均サイズを有し、かつゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有する、排気ガス処理用触媒。
【請求項2】
Cu担持ゼオライトが、Cuを、0.1から8重量パーセント含有する、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
Cu担持ゼオライトが、Cuを0.5から5重量パーセント含有する、請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
前記Cuが非骨格銅である、請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
前記SARが20から40である、請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
前記SARが20から30である、請求項1に記載の触媒。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記触媒が、NH_(3)のNO_(x)との反応を促進して窒素と水とを選択的に形成する効果を有する、請求項1に記載の触媒。
【請求項9】
前記触媒がハニカムモノリスへと押し出されている、請求項1に記載の触媒。
【請求項10】
請求項1に記載の触媒、並びに、アルミナ、シリカ、セリア、ジルコニア、チタニア、及びそれらの組み合わせから選択される一以上のバインダを含む、触媒ウォッシュコート。
【請求項11】
a.フロースルーハニカムモノリス及びウォールフロー型フィルタから選択される、基材と
b.前記基材上及び/又は前記基材内に配置され、請求項1に記載の触媒を含む、触媒コーティングと
を含む、排気ガス処理システム。
【請求項12】
前記触媒コーティングの少なくともの一部分の下流の酸化触媒を更に含む、請求項11に記載の排気ガス処理システム。
【請求項13】
前記触媒コーティングの上流に配置されたNO_(x)捕集又はNO_(x)吸蔵触媒を更に含む、請求項11に記載の排気ガス処理システム。
【請求項14】
SCR還元剤とNO_(x)を含む排気ガスとの混合物を、AFX骨格と15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCu担持ゼオライトを含む触媒に接触させるステップを含む、排気ガス処理方法であって、ゼオライトが、3重量パーセント未満の合成後アルカリ含有量を有し、0.1?15μmの結晶平均サイズを有し、ゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有し、かつ前記接触によりNO_(x)の少なくとも一部を窒素と水とに還元する、方法。」

第4 取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?14に係る特許(なお、ここでは、当該各請求項に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明14」といい、これらをまとめて「本件特許発明」という。)に対して令和 2年 8月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)取消理由1 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
本件特許発明7は、「ゼオライトの結晶相の大部分がAFX骨格を有する」ことを特定するものであるが、当業者が「大部分」の意味を理解することができない。
してみれば、本件特許発明7は明確であるとはいえない。

(2)取消理由2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア AFXゼオライトを「含」むとの点について
本件特許発明の課題は、本件明細書の段落【0004】の記載から、350℃?550℃の温度でSCRとして効率よく作動できる改善されたSCR触媒に対する需要を満たすことであると解される。
本件明細書に記載の試験結果は、触媒におけるゼオライトが、銅で促進されたSARが22のAFXゼオライト単独である場合のものである。そして、本件明細書には、「AFX骨格と15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCu担持ゼオライト」以外のゼオライトも含む触媒についての試験結果は記載されていない。
ゼオライトの触媒性能は試験結果がなければ予測が困難であることが多いことが技術常識であるから、本件特許発明1のうち「AFX骨格と15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCu担持ゼオライト」以外のゼオライトも含む触媒について、課題を解決できることが試験結果により裏付けられているとはいえない。してみれば、本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。
「大部分」の意味が不明である本件特許発明7、本件特許発明1を引用する本件特許発明2?6、8?13、及び、本件特許発明1と同様の発明特定事項を有する本件特許発明14についても、本件特許発明1と同様のことがいえる。
以上のとおりであるから、本件特許発明1?14は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

イ シリカアルミナ比(SAR)について
本件特許発明1のうち、AFXゼオライトのSARが「15」という下限値に至るまでのあらゆる範囲の触媒が、優れた水熱安定性及び良好なSCR性能を示し課題を解決できるものであると当業者が理解できるとはいえない。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2?4、7?13、及び、本件特許発明1と同様の発明特定事項を有する本件特許発明14についても、本件特許発明1と同様のことがいえる。
以上のとおりであるから、本件特許発明1?4、7?14は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

2 取消理由についての判断
(1)取消理由1 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
本件訂正により、訂正前の請求項7は存在しないものとなった。よって、本件特許発明7に関するものである上記1(1)に記載の取消理由1は、理由がない。

(2)取消理由2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア AFXゼオライトを「含」むとの点について
本件訂正により、訂正前の請求項1及び14における「ゼオライト」が、本件発明1及び14において、「ゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有」するものとなった。これにより、本件発明1及び14において「AFX骨格と15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCu担持ゼオライト」以外のゼオライトによる影響は限定的なものとなり、本件発明1及び14は、銅で促進されたSARが22のAFXゼオライト単独である実施例の試験結果から、課題を解決できることが裏付けられたものとなった。
よって、AFXゼオライトを「含」むとの点についての上記1(2)アに記載の取消理由2は、理由がない。

イ シリカアルミナ比(SAR)について
(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には、下記の記載がある。

「AFX骨格を有するゼオライトの使用については以前記載した。しかしながら、このゼオライトは特に350℃を上回る温度で水熱安定性に乏しいことが報告された。」(段落【0004】)
「少なくとも15のSARを有するAFXゼオライトは、特に既知のAFXゼオライト触媒と比較して優れた水熱安定性及び良好なSCR性能を示した。」(段落【0005】)

(イ) また、本件明細書の実施例で参照される図1から、銅で促進されたSARが22のAFXゼオライトからなる触媒が、800℃で5時間水熱的に老化した後でも350℃?500℃の各温度で80?20%以上のNOx変換率を示している一方、SARが8で同様の量の銅をローディングしたAFXゼオライトからなる触媒は、800℃で5時間水熱的に老化した後には350℃?500℃の温度域で全くNOx変換を示さないという試験結果を読み取ることができる。

(ウ) また、上記1(2)アに記載のとおり、本件発明の課題は、350℃?550℃の温度でSCRとして効率よく作動できる改善されたSCR触媒に対する需要を満たすことである。

(エ) 上記(ア)から、SCRが15未満である従来のAFXゼオライト触媒は、350℃を上回る温度で水熱安定性に乏しいものの、全く触媒活性を示さないものではないことが示唆されている。また、上記(イ)に示した試験結果は、予め設定した条件で水熱的老化を行い、模擬の排気ガスを用いたものであるとともに、実車走行試験など実際の使用環境において測定したとは記載されていない以上、実験室環境における試験結果である。そして、上記(ウ)から、本件発明は、実験室環境ではなく、実際の使用環境における課題を解決するためのものであるといえる。

(オ) 上記(エ)を踏まえて上記(イ)に示した試験結果をさらに検討すると、SARが8で同様の量の銅をローディングしたAFXゼオライトからなる触媒が800℃で5時間水熱的に老化した後には350℃?500℃の温度域で全くNOx変換を示さないという結果は、実験室環境におけるものである以上、実際の使用環境においても同様にNOx変換を示さないことを直ちに意味するものではなく、実際の使用環境においてある程度の触媒活性を奏するものである可能性もあると解釈できるものである。

(カ) 一方、上記(イ)に示した試験結果は、銅で促進されたSARが22のAFXゼオライトからなる触媒が、SARが8で同様の量の銅をローディングしたAFXゼオライトからなる触媒と比較して、水熱的老化後に350℃?500℃の温度域でのNOx変換が高いことを示している。また、SARが高いゼオライトのほうが、SARが低いゼオライトよりも水熱安定性が高い傾向にあることはもとより技術常識である。そして、実験室環境での試験は、概ね実際の使用環境を模したり、実際の使用環境より過酷な条件を採用して加速試験を行ったりすることが通常であり、実際の使用環境における結果を予測するためになされるものである。これらのことと、上記(オ)に示した解釈から、銅で促進されたAFXゼオライト触媒は、実際の使用環境においても、SARが高いほうがNOx変換が高い傾向にあることが示されているといえるとともに、SARが8と22の中間である15のAFXゼオライトは、実際の使用環境においてSARがそれ以下のゼオライトよりも高いNOx変換能を有する蓋然性が高いといえる。そして、このことは、上記(ア)に摘示した「少なくとも15のSARを有するAFXゼオライトは、特に既知のAFXゼオライト触媒と比較して優れた水熱安定性及び良好なSCR性能を示した」(段落【0005】)との記載を裏付けている。

(キ) してみれば、本件発明1は、AFXゼオライトのSARが「15」という下限値に至るまでの触媒が、AFXゼオライトのSARが15未満の触媒の触媒に比べて優れた水熱安定性及び良好なSCR性能を示し、それにより本件特許発明の課題を解決できるものであると、本件明細書の記載及び技術常識から当業者が理解できるものである。

(ク) 本件発明1を引用する本件発明2?4、8?13、及び、本件発明1と同様に「AFX骨格と15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCu担持ゼオライトを含む触媒」という発明特定事項を有する方法の発明である本件発明14についても、本件発明1と同様のことがいえる。

(ケ) 以上のとおりであるから、本件発明1?4、8?14は、SARの範囲の点で、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。よって、シリカアルミナ比(SAR)についての上記1(2)イに記載の取消理由2は、理由がない。また、本件訂正により、訂正前の請求項7は存在しないものとなったから、本件特許発明7に関するものである上記1(2)イに記載の取消理由2は、理由がない。

3 取消理由2に関する申立人の主張について
申立人は、シリカアルミナ比(SAR)についての上記1(2)イに記載の取消理由2に関して、令和 3年 1月29日付け意見書の第4?8頁において、本件明細書の実施例に開示されたSARが8である触媒が本件特許発明(本件発明)の課題の解決に必要な温度域でのNOx変換を示さないものであることを根拠に、「SARが『15』である触媒が、本件特許発明の課題を解決できる程度の水熱安定性及び良好なSCR性能を示すものであると予想することは困難である」(第5頁第3?5行)と結論づけている。
しかしながら、本件明細書の実施例で開示されたSARが8である触媒は、上記2(2)イ(オ)に示したとおり、実際の使用環境においても図1に示された結果と同様にNOx変換を示さないことを直ちに意味するものではなく、実際の使用環境においてある程度の触媒活性を奏するものである可能性もあると解釈できるものであるし、実施例で開示されたSARが22である触媒の試験結果及び技術常識を考慮すれば、上記第2(2)イ(カ)に示したとおり、「少なくとも15のSARを有するAFXゼオライトは、特に既知のAFXゼオライト触媒と比較して優れた水熱安定性及び良好なSCR性能を示した」(段落【0005】)との記載は裏付けられているといえる。
そうすると、申立人の主張は採用できない。

第5 取消理由通知で採用されなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
本件訂正前の請求項1?14に係る特許に対して令和 2年 6月 2日付け特許異議申立書により申し立てられ、令和 2年 8月18日付け取消理由通知で採用されなかった特許異議申立理由は、以下のとおりである。

(1)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
ア ゼオライトの合成条件について
本件特許明細書には、本件訂正前の請求項1に係る発明の排気ガス処理用触媒を製造する方法について、原料出発物質の種類、反応温度及び反応時間等の記載があるだけであり、原料出発物質の組成等、AFXゼオライトの他の合成条件については何ら開示されていない。本件明細書の記載だけでは、特に合成後アルカリ含有量について、どのようにして本件訂正前の請求項1に係る排気ガス処理用触媒を製造することができるのか理解することはできない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正前の請求項1に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
本件訂正前の請求項14に係る発明に係る発明についても同様である(特許異議申立書第8?9、17?18頁)。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア 合成後アルカリ含有量及び結晶平均サイズについて
本件明細書の実施例では、「合成後アルカリ含有量」及び「結晶平均サイズ」が記載されていなく、本件訂正前の請求項1に係る発明における「合成後アルカリ含有量」の範囲(3重量パーセント未満)及び「結晶平均サイズ」の範囲(0.1?15μm)であれば、発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていない。このため、本件訂正前の請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
本件訂正前の請求項14に係る発明についても同様である(特許異議申立書第10?11、20?21頁)。

イ Cuの範囲について
本件訂正前の請求項2に係る発明は、Cuを0.1から8重量パーセント含有することを特定しているが、Cuの上限を8重量パーセントとすることについて、発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない。また、実施例では、Cuの量が何ら記載されていない。よって、本件訂正前の請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
同様に、本件訂正前の請求項3に係る発明も、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである(特許異議申立書第12?13頁)。

ウ 「非骨格銅」について
本件訂正前の請求項4に係る発明における「非骨格銅」については、発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない。よって、本件訂正前の請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである(特許異議申立書第13頁)。

エ セリアをバインダとして用いることについて
本件訂正前の請求項10に係る発明では「セリア…から選択される一以上のバインダを含む」と特定されているところ、発明の詳細な説明の段落【0040】及び【0053】にはセリアをバインダとして用いることが記載されていない。よって、本件訂正前の請求項10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである(特許異議申立書第16頁)。

(3)特許法第36条第6項第2号(明確性)について
ア SSZ-16について
本件訂正前の請求項1及び14に係る発明は、Cu担持ゼオライトがAFX骨格を有することを特定しているところ、AFX骨格を有するゼオライトとして「SSZ-16」が知られている。一方、本件明細書の【0035】には、「ある実施態様では、AFXゼオライトがSSZ-16でなく、触媒組成物がSSZ-16を実質的に含まない。」と記載され、本件訂正前の請求項1に係る発明にはSSZ-16が含まれないとも解釈できるから、本件訂正前の請求項1及び14に係る発明の「Cu担持ゼオライト」にSSZ-16が含まれるか否か不明である(特許異議申立書第11頁、21頁)。

イ 合成後アルカリ含有量について
本件訂正前の請求項1及び14に係る発明における「合成後アルカリ含有量」は、本件明細書【0023】において、「ここで、合成後アルカリ含有量とは、合成の結果としてゼオライト中に生じるアルカリ金属(即ち、合成出発物質に由来するアルカリ)の量をさし、合成後に添加されるアルカリ金属を含まない。」と定義されているが、本件明細書には、測定方法及び算出方法に関する具体的な説明が無いとともに、「合成後アルカリ含有量(重量パーセント)」が何の重量に対する割合であるのか説明されていない。また、「合成後アルカリ含有量」は本件特許の出願時における技術常識と呼べるものでもない(特許異議申立書第11?12、21?22頁)。

ウ 「金属担持ゼオライト」との記載について
本件訂正前の請求項3に記載の「金属担持ゼオライト」は、当該請求項3が引用する本件訂正前の請求項1における「Cu担持ゼオライト」と整合していないため、本件訂正前の請求項3に係る発明は明確でない(特許異議申立書第13頁)。

エ 「非骨格銅」の意味について
本件訂正前の請求項4に記載の「非骨格銅」について、本件明細書には記載がなく、「骨格銅」についての記載があるのみであって、「骨格銅」ではないものとは、どのような状態の銅が含まれるのか不明であるため、本件訂正前の請求項4に係る発明は明確でない(特許異議申立書第14頁)。

オ 「触媒がハニカムモノリスへと押し出されている」の意味について
本件訂正前の請求項9に記載の「触媒がハニカムモノリスへと押し出されている」について、触媒が押し出されることと「ハニカムモノリスへと」という表現との関係が不明である。また、「押し出」しは、物の製造方法に該当し、本件訂正前の請求項9である触媒(物)を特定するものではない。よって、本件訂正前の請求項9は明確でない(特許異議申立書第9頁)。

カ 「触媒組成物」との記載について
本件訂正前の請求項11における「請求項1に記載の触媒組成物」との記載は、本件訂正前の請求項1における「触媒」と整合していないから、本件訂正前の請求項11に係る発明は明確でない(特許異議申立書第16?17頁)。

キ 「触媒コーティングの少なくとも一部分の下流の酸化触媒を更に含む」の意味について
本件訂正前の請求項12における「触媒コーティングの少なくとも一部分の下流の酸化触媒を更に含む」の意味、特に、「少なくとも一部分」、「一部分の下流」及び「下流の酸化触媒」の表現自体の意味及びこれらの表現の関係性が不明確である。よって、本件訂正前の請求項12に係る発明は明確でない(特許異議申立書第17頁)。

ク 「触媒コーティングの上流」の意味について
本件訂正前の請求項13における「触媒コーティングの上流」の意味するところが不明である。「触媒コーティング」は物であるが、物には上流という概念がない。よって、本件訂正前の請求項13に係る発明は明確でない(特許異議申立書第17頁)。

(4)特許法第29条第2項(進歩性)について
本件訂正前の請求項1?14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2、3又は5号証の記載事項と、甲第4号証の記載事項とから、当業者が容易に発明をすることができたものである。なお、甲第6号証は甲第5号証の公表特許公報であり、甲第5号証の翻訳文として提出された(特許異議申立書第26頁(カ)参照)。

証拠方法
甲第1号証:Dustin W. Fickel et al., Copper Coordination in Cu-SSZ-13 and Cu-SSZ-16 Investigated by Variable-Temperature XRD, Journal of Physical Chemistry C, 2010年, No. 114, p. 1633-1640(及び抄訳)
甲第2号証:米国特許第5194235号明細書(及び抄訳)
甲第3号証:Yashodhan Bhawe et al., Effect of Cage Size on the Selective Conversion of Methanol to Light Olefins, ACS Catalysis, 2012年, Vol. 2, p. 2490-2495(及び抄訳)
甲第4号証:特表2012-508096号公報
甲第5号証:国際公開第2013/079954号
甲第6号証:特表2015-500138号公報

2 当審の判断
(1)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
ア ゼオライトの合成条件について
本件発明1は、「AFX骨格と15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCu担持ゼオライトを含」むとともに、ゼオライトが、「3重量パーセント未満の合成後アルカリ含有量を有し、0.1?15μmの結晶平均サイズを有し、かつゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有」ことを特定するものである。
ここで、ゼオライトのSARについては、原料中のSi原子とAl原子の原子比により調節できることは技術常識であるから、当業者であれば本件発明1に規定される範囲のSARのものを製造できるといる。
アルカリ含有量については、本件発明におけるアルカリ含有量は「合成の結果としてゼオライト中に生じるアルカリ金属(即ち、合成出発物質に由来するアルカリ)の量をさし、合成後に添加されるアルカリ金属を含まない。」(本件明細書の段落【0023】)と定義される以上、出発物質中のアルカリ含有量を調節し、ゼオライト合成後、アルカリを添加しない状態で、ゼオライト中のアルカリ含有量をICP等の慣用手段により確認することで、当業者であれば本件発明1に規定される程度のアルカリ含有量のものを製造できるといえる。
結晶平均サイズについては、本件明細書の段落【0034】に記載された結晶の粉砕等により、当業者であれば調節可能であるといえる。
「ゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有」することについては、本件明細書の実施例で、具体的な合成方法とともに「高純度AFXゼオライト」が生成したことが記載されている(段落【0071】参照)ことからみて、当業者であれば、ゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%がAFX骨格を有するゼオライトを製造できるといえる。
そうすると、本件発明1に記載のゼオライトは、本件明細書の記載及び技術常識から、当業者が製造できるものであり、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及び14を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。
してみれば、異議申立理由(1)アは、理由がない。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア 合成後アルカリ含有量及び結晶平均サイズについて
本件発明2においてCuの上限を8重量パーセントとすることについては、当該上限は、発明の詳細な説明の段落【0017】に記載の「約0.1?約10重量パーセント」の範囲内にあることから、発明の詳細な説明に記載されていると同然といえる。
ここで、本件発明の課題は、上記第4 1(2)アに記載されるように、350℃?550℃の温度でSCRとして効率よく作動できる改善されたSCR触媒に対する需要を満たすことであると解される。
そして、上記第4 2(2)イ(キ)に示したとおり、本件発明1は、AFXゼオライトのSARが「15」という下限値に至るまでの触媒が、AFXゼオライトのSARが15未満の触媒の触媒に比べて優れた水熱安定性及び良好なSCR性能を示し、それにより本件発明の課題を解決できるものであると当業者が理解できるものである以上、SARとは直接関係のないものである合成後アルカリ含有量及び結晶平均サイズにかかわらず、課題を解決できるものであると当業者は理解するといえる。
本件発明14についても同様のことがいえる。
よって、本件発明1及び14は、合成後アルカリ含有量及び結晶平均サイズの点で、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
してみれば、異議申立理由(2)アは、理由がない。

イ Cuの範囲について
上記アに記載したのと同様、本件発明2及び3は、AFXゼオライトのSARが「15」という下限値に至るまでの触媒が、AFXゼオライトのSARが15未満の触媒の触媒に比べて優れた水熱安定性及び良好なSCR性能を示し、それにより本件発明の課題を解決できるものであると当業者が理解できるものである以上、SARとは直接関係のないCuの含有量にかかわらず、課題を解決できるものであると当業者は理解するといえる。
よって、本件発明2及び3は、Cuの範囲について、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
してみれば、異議申立理由(2)イは、理由がない。

ウ 「非骨格銅」について
本件発明4に係る「非骨格銅」について、本件明細書の【0012】には、「アルミノケイ酸塩のゼオライト構造の大部分は、アルミナ及びシリカから構成されるが、アルミニウム以外の骨格金属(すなわち、金属置換したゼオライト)を含み得る。本明細書で使用されるように、ゼオライトに関する「金属置換された」という用語は、ゼオライトの骨格が、置換金属によって置換された1以上のアルミニウム又はケイ素の骨格原子を有することを意味する。対照的に、「金属交換された」という用語は、ゼオライトが、骨格構造に関連して余剰骨格(extra‐framework)又は遊離金属イオンを有するが、それらが骨格自身の部分を形成しないことを意味する。金属交換されたAFX骨格の例は、骨格鉄の原子及び/又は骨格銅の原子を有するものを含む。」と記載されている。
当該記載から、ゼオライトの骨格を形成する銅を骨格銅というとともに、それ以外の銅、例えば、余剰骨格又は遊離金属イオンとなる銅が、骨格銅ではない銅、すなわち非骨格銅であることは明らかである。そうすると、本件発明4における「非骨格銅」は、発明の詳細な説明に記載されたと同然のものであるといえる。
よって、本件発明4は、「非骨格銅」に関して、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
してみれば、異議申立理由(2)ウは、理由がない。

エ セリアをバインダとして用いることについて
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】には、「本発明の別の態様では、AFX骨格と約15?約50のシリカアルミナ比(SAR)とを有する金属担持ゼオライトと、アルミナ、シリカ、セリア、ジルコニア、チタニア、及びそれらの組み合わせから選択される一以上のバインダとを含む、触媒ウォッシュコートが提供される。」と記載されており、セリアをバインダとして用いることについて明記されている。
よって、本件発明10は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
してみれば、異議申立理由(2)エは、理由がない。

(3)特許法第36条第6項第2号(明確性)について
ア SSZ-16について
本件明細書の【0035】の「ある実施態様では、AFXゼオライトがSSZ-16でなく、触媒組成物がSSZ-16を実質的に含まない。」との記載は、「ある実施形態」、すなわち単なる一例として記載したものであり、本件発明を限定する記載ではないことは明らかである。そうすると、本件発明1及び14に係る「AFX骨格と15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCu担持ゼオライト」は、SSZ-16を包含することを許容するものであり、SSZ-16を包含しうるか包含し得ないかに関して本件発明1及び14が不明確であるとはいえない。
してみれば、異議申立理由(3)アは、理由がない。

イ 合成後アルカリ含有量について
本件明細書の段落【0023】の「ここで、合成後アルカリ含有量とは、合成の結果としてゼオライト中に生じるアルカリ金属(即ち、合成出発物質に由来するアルカリ)の量をさし、合成後に添加されるアルカリ金属を含まない。」との定義について、合成の結果としてゼオライト中に生じるアルカリ金属は、ICP発光分析などの元素分析により定量的に測定できることは技術常識から明らかであり、また、本件訂正後の請求項1及び14には「ゼオライトが、3重量パーセント未満の合成後アルカリ含有量を有し」と記載されていることから、合成後アルカリ含有量は、ゼオライトの重量に対するアルカリ金属の重量の比として算出される値であることは明らかである。
よって、合成後アルカリ含有量に関して本件発明1及び14が不明確であるとはいえない。
してみれば、異議申立理由(3)イは、理由がない。

ウ 「金属担持ゼオライト」との記載について
本件訂正により、本件訂正前の請求項3に係る「金属担持ゼオライト」は、本件発明3において「Cu担持ゼオライト」に訂正され、本件発明3が引用する本件発明1における「Cu担持ゼオライト」と整合するものとなった。
してみれば、異議申立理由(3)ウは、理由がない。

エ 「非骨格銅」の意味について
本件発明4に係る「非骨格銅」について、本件明細書の【0012】には、「アルミノケイ酸塩のゼオライト構造の大部分は、アルミナ及びシリカから構成されるが、アルミニウム以外の骨格金属(すなわち、金属置換したゼオライト)を含み得る。本明細書で使用されるように、ゼオライトに関する「金属置換された」という用語は、ゼオライトの骨格が、置換金属によって置換された1以上のアルミニウム又はケイ素の骨格原子を有することを意味する。対照的に、「金属交換された」という用語は、ゼオライトが、骨格構造に関連して余剰骨格(extra‐framework)又は遊離金属イオンを有するが、それらが骨格自身の部分を形成しないことを意味する。金属交換されたAFX骨格の例は、骨格鉄の原子及び/又は骨格銅の原子を有するものを含む。」と記載されている。
当該記載から、ゼオライトの骨格を形成する銅を骨格銅といい、それ以外の銅、例えば、余剰骨格又は遊離金属イオンとなる銅を、骨格銅ではない銅、すなわち非骨格銅ということは明らかである。
よって、「非骨格銅」の意味に関して本件発明4が不明確であるということはできず、異議申立理由(3)エは、理由がない。

オ 「触媒がハニカムモノリスへと押し出されている」の意味について
本件訂正後の請求項9の「触媒がハニカムモノリスへと押し出されている」との記載は、本件発明9に係る触媒が、ハニカムモノリスへと押し出された状態のものであることを意味することは、本件訂正後の請求項9の記載自体から明らかである。
よって、「触媒がハニカムモノリスへと押し出されている」との記載に関して本件発明9が不明確であるということはできず、異議申立理由(3)オは、理由がない。

カ 「触媒組成物」との記載について
本件訂正により、本件訂正前の請求項11における「触媒組成物」は、本件発明11において「触媒」に訂正され、本件発明11が引用する本件発明1における「排気ガス処理用触媒」と整合するものとなった。
よって、異議申立理由(3)カは、理由がない。

キ 「触媒コーティングの少なくとも一部分の下流の酸化触媒を更に含む」の意味について
本件発明12は、「前記触媒コーティングの少なくともの一部分の下流の酸化触媒を更に含む、請求項11に記載の排気ガス処理システム。」というものであり、ここで「触媒コーティングの少なくとも一部分の下流の酸化触媒を更に含む」との記載は、排気ガス処理システムにおいて「触媒コーティング」の全体又は一部分である「少なくとも一部分」からみて「下流」の「酸化触媒」を「更に含む」という意味であることは明らかであって、明確な表現である。
よって、異議申立理由(3)キは、理由がない。

ク 「触媒コーティングの上流」の意味について
本件発明13は、「前記触媒コーティングの上流に配置されたNO_(x)捕集又はNO_(x)吸蔵触媒を更に含む、請求項11に記載の排気ガス処理システム。」というものであり、ここで「触媒コーティングの上流」は、排気ガス処理システムにおいて触媒コーティングからみて上流を意味することは明らかである。また、本件発明13は排気ガス処理システムの発明であり、排気ガス処理システムは上流・下流の概念を有し得るものであることは明らかである以上、本件発明13において上流が特定されていることについて、その意味するところは明確である。
よって、異議申立理由(3)クは、理由がない。

(4)特許法第29条第2項(進歩性)について
ア 甲第1号証の記載事項及び引用発明
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった文献である甲第1号証には、次の事項が記載されている。

(ア)「Nitrogen oxides (NO_(x)) are a major atmospheric pollutant produced through the combustion of fossil fuels in internal combustion engines. Copper-exchanged zeolites are promising as selective catalytic reduction catalysts for the direct conversion of NO into N_(2) and O_(2), and recent reports have shown the enhanced performance of Cu-CHA catalysts over other zeolite frameworks in the NO decomposition of exhaust gas streams. In the present study, Rietveld refinement of variable-temperature XRD synchrotron data obtained for Cu-SSZ-13 and Cu-SSZ-16 is used to investigate the location of copper cations in the zeolite pores and the effect of temperature on these sites and on framework stability. 」(第1633頁 Abstract 第1?7行)
(当審仮訳:窒素酸化物(NO_(x))は、内燃機関での化石燃料の燃焼によって生成される主要な大気汚染物質である。銅交換ゼオライトは、NOをN_(2)およびO_(2)に直接変換するための選択的接触還元触媒として有望であり、最近の報告では、排気ガス流のNO分解において、Cu-CHA触媒が、他のゼオライトフレ-ムワ-クよりも向上した性能を有することが示されている。本研究では、Cu-SSZ-13およびCu-SSZ-16で得られた可変温度XRDシンクロトロンデ-タのリ-トベルト解析を用いて、ゼオライト細孔内の銅カチオンの位置と、これらのサイトおよびフレ-ムワ-クの安定性に対する温度の効果について調査した。)

(イ)「A related small-pore zeolite of interested is SSZ-16 (AFX)」(第1633頁右欄第8行)
(当審仮訳:関連する対象の小細孔ゼオライトは、SSZ-16(AFX)である。)

(ウ)「3.2 Cu-SSZ-16. The chemical composition analyses of the synthesized SSZ-16 crystals show that they have a silica-to-alumina (SiO_(2)/Al_(2)O_(3)) ratio of 9. The crystals measure approximately 1 μm in size (see Figure 2b). After copper ion exchange, the SSZ-16 crystals maintain their previous morphology, and chemical analysis of the crystals indicate a 5.65 wt % of Cu loading. Compositional analysis also shows the that Cu-SSZ-16 has an extra-framework cation-to-T atom ratio composition (Cu/(Si + Al)) of 0.08 and a Cu/Al ratio equal to 0.449.」(第1638頁右欄第1?9行)
(当審仮訳:3.2 Cu-SSZ-16. 合成されたSSZ-16の結晶の化学組成分析によれば、シリカーアルミナ(SiO_(2)/A1_(2)O_(3))の比が9であることが示される。結晶は、約1μmのサイズを有している(図2b参照)。銅のイオン交換の後、SSZ-16の結晶は、従前の形態を保持しており、結晶の化学分析によれば、5.65wt%のCuが担持されていることを示す。また、Cu-SSZ-16については、組成分析により、格子外カチオンとT原子との比率組成(Cu/(Si+Al)が0.08であり、Cu/Al比で0449であることを示す。)

イ 甲第1号証に記載の発明
上記ア(ア)によれば、甲第1号証は、銅交換ゼオライトがNOをN_(2)およびO_(2)に直接変換するための選択的接触還元触媒として有望であることを背景とする研究に関する論文であり、甲第1号証に記載の研究内容は、Cu-SSZ-13およびCu-SSZ-16で得られた可変温度XRDシンクロトロンデ-タのリ-トベルト解析を使用いて、ゼオライト細孔内の銅カチオンの位置と、これらのサイトおよびフレ-ムワ-クの安定性に対する温度の効果について調査したというものである。
上記ア(イ)によれば、Cu-SSZ-16ゼオライトはAFX骨格を有するものである。
上記ア(ウ)によれば、研究における具体的な調査対象として、AFXゼオライトである、シリカアルミナ比が9のSSZ-16を合成し、銅をイオン交換してCu-SSZ-16を作製したことが記載され、当該Cu-SSZ-16は、結晶サイがは約1μmであり、5.65wt%のCuが担持され、(Cu/(Si+Al)が0.08であり、Cu/Al比で0449であったことが記載されている。
また、上記ア(ア)からみて、上記ア(ウ)に記載のCu-SSZ-16はNOをN_(2)およびO_(2)に直接変換するための選択的接触還元触媒として用いることが意図されたものであるといえる。

よって、甲第1号証には、下記の発明(引用発明)が記載されている。

「AFX骨格と9のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCuが担持されたCu-SS-16ゼオライトであり、当該ゼオライトCu-SSZ-16は、約1μmの結晶サイズを有し、5.65wt%のCuが担持され、(Cu/(Si+Al)が0.08であり、Cu/Al比で0.449である、NOをN_(2)およびO_(2)に直接変換するための選択的接触還元触媒。」

ウ 甲第2?5号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった文献である甲第2?5号証には、それぞれ、概略次の事項が記載されている。

(ア)甲第2号証について
ゼオライトは種々の炭化水素転換に触媒活性を示すものであるところ、甲第2号証は、SSZ-16をより低コストのテンプレートを用いて生成する方法を提供することを目的とする発明を開示するものであり、SSZ-16ゼオライトのYO_(2)/W_(2)O_(3)モル比は約5:1超であり得、合成したままのシリカアルミナ比は、典型的に8:1から約15:1であることが記載されている(特に第1欄「1. Discussion of Rlate Art」の第1?3行、第2欄第33?35行、第3欄第47?49行)。

(イ)甲第3号証について
甲第3号証には、メタノールから軽質オレフィンへの選択的転換触媒として、Si/Al比16.7のAFX骨格を有するゼオライトを合成したことについて記載されている(特に「Abstract」、「Table 1.」)。

(ウ)甲第4号証について
甲第4号証には、CHA結晶構造を有するゼオライトを含む触媒物品を対象とする発明を開示する。このゼオライトは低アルカリ含有量であり、低シリカ/アルミナ比、例えば約15未満、より具体的には約10未満のシリカ/アルミナ比を有する。低アルカリ含有量の低シリカ/アルミナ比のCHAゼオライトは、良好な熱水安定性および少なくとも約50%を超えるNOx変換を示すことが記載されている(特に段落【0007】、【0016】)。

(エ)甲第5号証について
甲第5号証には、還元剤によりNO_(x)を窒素元素(N_(2))及び水に転換させる選択的触媒還元(SCR)触媒に関し、高濃度のセリウムを、ある金属増強・低SARゼオライトに組み込むことで、材料の水熱安定性、低温触媒性能、及び/又は触媒の新しい状態と劣化した状態での触媒能の不変性を改善できることを見出したこと、及び、適切なゼオライトは、小孔ゼオライトであり、好ましくは、ACO、AEI、AEN、AFN、AFT、AFX、ANA、APC、APD、ATT、CDO、CHA、DDR、DFT、EAB、EDI、EPI、ERI、GIS、GOO、IHW、ITE、ITW、LEV、KFI、MER、MON、NSI、OWE、PAU、PHI、RHO、RTH、SAT、SAV、SIV、THO、TSC、UEI、UFI、VNI、YUG及びZONからなる群から選択されるフレームワーク型コードを有するものであり、好ましいSi/Al比の例として15?17が挙げられることが記載されている(特に第1頁「1. Field of Invention」、同頁下から第7行?第2頁第4行、第4頁第4?7行、第5頁第18?21行、第7頁第21?23行)。

エ 対比・判断
(ア)対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「Cu-SS-16ゼオライト」、「NOをN_(2)およびO_(2)に直接変換するための選択的接触還元触媒」は、それぞれ、本件発明1の「Cu担持ゼオライト」、「排気ガス処理用触媒」に相当する。
また、引用発明が「AFX骨格と9のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCuが担持されたゼオライトCu-SS-16であ」ることは、本件発明1が「AFX骨格」「を有するCu担持ゼオライトを含」み、「かつゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有する」ものであることに相当し、引用発明における「ゼオライトCu-SSZ-16」が「約1μmの結晶サイズを有する」ことは、本件発明1における「ゼオライト」が「0.1?15μmの結晶平均サイズを有」することに相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明は、「AFX骨格を有するCu担持ゼオライトを含み、ゼオライトが0.1?15μmの結晶平均サイズを有し、かつゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有する、排気ガス処理用触媒。」である点で一致し、両者は下記の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1のCu担持ゼオライトは「15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有する」のに対し、引用発明の「Cu-SSZ-16ゼオライト」は「9のシリカアルミナ比(SAR)」を有する点
<相違点2>
本件発明1のゼオライトは「3重量パーセント未満の合成後アルカリ含有量を有」するのに対し、引用発明のゼオライトは3重量パーセント未満の合成後アルカリ含有量を有するか否か不明である点

(イ)相違点についての検討及び進歩性の判断
事案に鑑み、上記相違点1について検討する。
甲第2号証は、合成方法の発明についてのものであり、合成したSSZ-16のYO_(2)/W_(2)O_(3)モル比が約5:1超になり得、合成したままのシリカアルミナ比は、典型的に8:1から約15:1であることになり得る旨記載されているものの、15?50の範囲内のシリカアルミナ比を意図的に選択することは記載も示唆もされていない。また、甲第4号証は、CHAゼオライトに限定して記載されたものであり、SSZ-16ゼオライトのSARを15?50の範囲内にすることについて記載も示唆もされていない。そうすると、引用発明において、Cu-SSZ-16ゼオライトのSARを15?50の範囲内に変更する動機付けを甲第2号証又は甲第4号証から見出すことはできない。
さらに、甲第3号証に記載されたSi/Al比16.7のAFX骨格を有するゼオライトは、メタノールから軽質オレフィンへの選択的転換触媒として記載されたものであり、また、甲第5号証に記載された、好ましいSi/Al比の例として15?17が挙げられるゼオライトは、還元剤によりNO_(x)を窒素元素(N_(2))及び水に転換させる選択的触媒還元(SCR)触媒に関するものである。ここで、甲第3及び5号証には、ゼオライトを、還元剤を用いず、NOをN_(2)およびO_(2)に直接変換するための選択的接触還元触媒に用いることは記載も示唆もされていない。加えて、触媒の技術分野において、反応が異なれば適した触媒の構成も異なることが技術常識であるから、引用発明において、Cu-SSZ-16ゼオライトのSARを、甲第3号証及び甲第5号証を参照して15?50の範囲内に変更する動機付けを見出すことはできない。
してみれば、甲第2?5号証の記載を検討しても、引用発明においてゼオライトのSARを15?50の範囲内に変更し、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たとはいえない。

そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明及び甲第2?5号証から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明1を引用し本件発明1の発明特定事項を全て有する触媒の発明である本件発明2?6、8?9、本件発明1を引用し本件発明1の発明特定事項を全て有する触媒を含む触媒ウォッシュコートの発明である本件発明10、本件発明1を引用し本件発明1の発明特定事項を全て有する触媒を含む排気ガス浄化システムの発明である本件発明11?13、SCR還元剤とNO_(x)を含む排気ガスとの混合物を本件発明1の発明特定事項を全て有する触媒に接触させる方法の発明である本件発明14についても同様である。

以上のとおりであるから、本件発明1?6、8?14は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2?5号証の記載から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件発明1?6、8?14について、異議申立理由(4)は理由がない。
また、本件訂正により、訂正前の請求項7は存在しないものとなったから、本件発明7について、異議申立理由(4)は理由がない。

第6 申立人の追加的主張について
申立人は、令和 3年 1月29日付け意見書の第1?4頁において、下記の事項について主張する。
「当業者であっても、少なくとも『ゼオライトの結晶相』及び『少なくとも90重量%が、AFX骨格』を理解すること及びこれを求めることができない。」(第1頁第17?18行)

ここで、本件特許に係る出願前の2015年6月11日公開された刊行物である国際公開第2015/084930号には、下記のとおり記載されている。

「Applicants have discovered that the novel synthesis method described herein is capable of producing a high phase purity CHA zeolite, i.e., phase purities of 95% to more than 99% (as determined by Rietveld (XRD) analysis, for example). As used herein, the term phase purity with respect to a zeolite means the amount of a single crystalline phase of the zeolite (e.g., based on weight) relative to total weight of all phases (crystalline and amorphous) in the zeolite substance.」(第4頁第11?15行)
(当審仮訳:本出願人らは、本明細書に記載されている新規合成方法は、高相純度、すなわち、相純度が(例えば、リートフェルト(XRD)分析で決定して)95%?99%超であるCHAゼオライトを生成できることを発見した。本明細書では、ゼオライトに関して相純度という用語は、ゼオライト物質中のすべての相(結晶質及び非晶質)の全重量に対するゼオライトの単一結晶相の(例えば、重量に基づいた)量を意味する。)

また、本件特許に係る出願前に公開された刊行物である特表平10-501515号公報には、下記の通り記載されている。

「1.希土類含有結晶アルミノケイ酸塩ゼオライトであって、以下によって特徴付けられる、アルミノケイ酸塩ゼオライト:(1)ZSM-5とZSM-11との共晶構造を有し、ここで該ZSM-5の結晶構造を有する部分と該ZSM-11の結晶構造を有する部分との重量比が0.1?10であり」(請求項1)
「実施例において、単位格子パラメーターおよびZSM-5の結晶構造を有する部分とゼオライト生成物のZSM-11の結晶構造を有する部分との重量比を、X線回折法により測定した。」(第10頁第6?8行)

以上のとおり、X線回折(XRD)により材料中のゼオライトの特定の結晶相の含有量を重量%で特定することは、本件特許の出願時に周知技術であったと認められる。
そうすると、本件発明1の「ゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有する」ことは、当業者が明確に把握でき、かつ求めることができるものであり、当該発明特定事項に起因して本件発明1が明確でないとか、本件発明1を当業者が実施できないとはいえない。
また、上記に反する証拠は申立人により提出されておらず、また、当審においても見出すことができない。
よって、申立人の追加的主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1?6、8?14に係る特許を取り消すことができない。
また、他に請求項1?6、8?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項7は訂正により削除されたため、これらの請求項に係る特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AFX骨格と15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCu担持ゼオライトを含み、ゼオライトが、3重量パーセント未満の合成後アルカリ含有量を有し、0.1?15μmの結晶平均サイズを有し、かつゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有する、排気ガス処理用触媒。
【請求項2】
Cu担持ゼオライトが、Cuを、0.1から8重量パーセント含有する、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
Cu担持ゼオライトが、Cuを0.5から5重量パーセント含有する、請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
前記Cuが非骨格銅である、請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
前記SARが20から40である、請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
前記SARが20から30である、請求項1に記載の触媒。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記触媒が、NH_(3)のNOxとの反応を促進して窒素と水とを選択的に形成する効果を有する、請求項1に記載の触媒。
【請求項9】
前記触媒がハニカムモノリスへと押し出されている、請求項1に記載の触媒。
【請求項10】
請求項1に記載の触媒、並びに、アルミナ、シリカ、セリア、ジルコニア、チタニア、及びそれらの組み合わせから選択される一以上のバインダを含む、触媒ウォッシュコート。
【請求項11】
a.フロースルーハニカムモノリス及びウォールフロー型フィルタから選択される、基材と
b.前記基材上及び/又は前記基材内に配置され、請求項1に記載の触媒を含む、触媒コーティングと
を含む、排気ガス処理システム。
【請求項12】
前記触媒コーティングの少なくともの一部分の下流の酸化触媒を更に含む、請求項11に記載の排気ガス処理システム。
【請求項13】
前記触媒コーティングの上流に配置されたNOx捕集又はNOx吸蔵触媒を更に含む、請求項11に記載の排気ガス処理システム。
【請求項14】
SCR還元剤とNOxを含む排気ガスとの混合物を、AFX骨格と15から50のシリカアルミナ比(SAR)とを有するCu担持ゼオライトを含む触媒に接触させるステップを含む、排気ガス処理方法であって、ゼオライトが、3重量パーセント未満の合成後アルカリ含有量を有し、0.1?15μmの結晶平均サイズを有し、ゼオライトの結晶相の少なくとも90重量%が、AFX骨格を有し、かつ前記接触によりNOxの少なくとも一部を窒素と水とに還元する、方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-30 
出願番号 特願2017-518196(P2017-518196)
審決分類 P 1 651・ 853- YAA (B01J)
P 1 651・ 536- YAA (B01J)
P 1 651・ 851- YAA (B01J)
P 1 651・ 537- YAA (B01J)
P 1 651・ 121- YAA (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安齋 美佐子  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 岡田 隆介
後藤 政博
登録日 2019-11-15 
登録番号 特許第6615193号(P6615193)
権利者 ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
発明の名称 排気ガス処理用モレキュラーシーブ触媒  
代理人 園田・小林特許業務法人  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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