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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特39条先願  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1375852
異議申立番号 異議2020-700133  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-28 
確定日 2021-04-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6567722号発明「ミリ波アンテナ用フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6567722号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし20〕について訂正することを認める。 特許第6567722号の請求項1ないし6、10、12及び15ないし20に係る特許を維持する。 特許第6567722号の請求項7ないし9、11、13及び14に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6567722号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし20に係る特許についての出願は、平成30年4月6日(優先権主張 平成29年4月6日、平成30年1月25日)の出願であって、令和1年8月9日にその特許権の設定登録(請求項の数20)がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和2年2月28日に特許異議申立人 野田 澄子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし20)がされ、同年5月15日付けで取消理由が通知され、同年7月15日に特許権者 日東電工株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、同年9月18日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年12月4日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年同月25日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、令和3年2月4日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和2年12月4日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる、」とあるのを「前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり、10GHzで測定した誘電率が2.0以下であり、前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれ、前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであり、前記有機溶媒がN-メチルピロリドンである、」と訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6、10、12及び15ないし20についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項13を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項14を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10、12及び15ないし17の記載を訂正前の請求項7ないし9、11、13及び14を削除したことに伴い、訂正前の請求項7ないし9、11、13及び14の記載を引用しないものとなるように訂正する。
併せて、請求項17を直接又は間接的に引用する請求項18ないし20についても、請求項17を訂正したことに伴う訂正をする。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1は請求項1並びに請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6、10、12及び15ないし20についての訂正であり、そのうちの請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1における「前記フィルムの多孔質の構造」を「前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるもの」に限定した上で、「10GHzで測定した誘電率が2.0以下」のものに限定し、「ポリマー」を「該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであり、前記有機溶媒がN-メチルピロリドンである」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項1による請求項1についての訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)請求項2ないし6についての訂正について
訂正事項1による請求項2ないし6についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)請求項7についての訂正について
訂正事項2は請求項7についての訂正であり、請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2による請求項7についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項2による請求項7についての訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)請求項8についての訂正について
訂正事項3は請求項8についての訂正であり、請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3による請求項8についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項3による請求項8についての訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)請求項9についての訂正について
訂正事項4は請求項9についての訂正であり、請求項9を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4による請求項9についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項4による請求項9についての訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)請求項11についての訂正について
訂正事項5は請求項11についての訂正であり、請求項11を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項5による請求項11についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項5による請求項11についての訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)請求項13についての訂正について
訂正事項6は請求項13についての訂正であり、請求項13を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項6による請求項13についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項6による請求項13についての訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)請求項14についての訂正について
訂正事項7は請求項14についての訂正であり、請求項14を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項7による請求項14についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項7による請求項14についての訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)請求項10、12及び15ないし17についての訂正について
訂正事項1による請求項10、12及び15ないし17についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項8による請求項10、12及び15ないし17についての訂正は、引用する請求項を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1による請求項10、12及び15ないし17についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないし、訂正事項8による請求項10、12及び15ないし17についての訂正も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(10)請求項18ないし20についての訂正について
訂正事項1による請求項18ないし20についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、訂正事項8による請求項18ないし20についての訂正は、請求項17についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1による請求項18ないし20についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないし、訂正事項8による請求項18ないし20についての訂正は、請求項17についての訂正と同様に願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、請求項1ないし20についての訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、請求項1ないし20についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項2ないし20は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし20は一群の請求項に該当するものである。そして、請求項1ないし20についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし20に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし20〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし20に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの空孔率が60%以上であり、
前記空孔の平均孔径が50μm以下であり、
前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、
前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり、
10GHzで測定した誘電率が2.0以下であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれ、
前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであり、
前記有機溶媒がN-メチルピロリドンである、
ことを特徴とする、前記フィルム。
【請求項2】
前記フィルムの空孔率が70%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記空孔の平均孔径が30μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記空孔の平均孔径が10μm以下であることを特徴とする、請求項3に記載のフィルム。
【請求項5】
前記空孔の孔径分布の半値全幅が15μm以下であることを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
前記空孔の孔径分布の半値全幅が10μm以下であることを特徴とする、請求項5に記載のフィルム。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
前記液浸長が300μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
10GHzで測定した誘電率が1.5以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
(削除)
【請求項15】
厚さが50μm?500μmであることを特徴とする、請求項1?6、10及び12のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項16】
ミリ波アンテナ用の基板に使用するフィルムであることを特徴とする、請求項1?6、10、12及び15のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項17】
請求項1?6、10、12,15及び16のいずれか1項に記載されているフィルムと、該フィルムの少なくとも一方の面の上に設けられた導電層とを含む、積層体。
【請求項18】
前記導電層が、接着剤層を介して前記フィルムの面上に設けられていることを特徴とする、請求項17に記載の積層体。
【請求項19】
接着剤層を介して又は介さずに複数積層された前記フィルムのフィルム積層体を含むことを特徴とする、請求項17に記載の積層体。
【請求項20】
前記導電層が、前記フィルムまたはフィルム積層体の両面に設けられ、該フィルム層の両面の導電層を電気的に接続するための導通部がさらに設けられていることを特徴とする、請求項17?19のいずれか1項に記載の積層体。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由(決定の予告)の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和2年2月28日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし7及び9ないし15に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし15に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由2(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし7及び9ないし16に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし16に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)申立理由3(甲第2号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし3、7ないし12、15及び17ないし20に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3、7ないし12、15及び17ないし20に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(4)申立理由4(甲第2号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし3、7ないし12、15及び17ないし20に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3、7ないし12、15及び17ないし20に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(5)申立理由5(甲第3号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし7及び9ないし14に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(6)申立理由6(甲第3号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし7及び9ないし16に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし16に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(7)申立理由7(甲第4号証に基づく新規性)
本件特許の請求項17、19及び20に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項17、19及び20に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(8)申立理由8(甲第4号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項17、19及び20に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証等に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項17、19及び20に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(9)申立理由9(甲第5号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1、3ないし7、9、10、13及び14に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3ないし7、9、10、13及び14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(10)申立理由10(甲第5号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1、3ないし7、9、10、13、14及び16に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3ないし7、9、10、13、14及び16に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(11)申立理由11(甲第7号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし6、11及び16に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6、11及び16に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(12)申立理由12(甲第7号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし6、11及び16に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6、11及び16に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(13)申立理由13(甲第8号証の出願に係る先願発明と同一)
本件特許の請求項1ないし20に係る発明は、本件特許の優先日前を優先日とする下記の特許掲載公報(甲第8号証)の出願に係る発明と同一であり、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし20に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(14)申立理由14(サポート要件)
本件特許の請求項3ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許発明3ないし6で規定された「平均孔径」及び「半値全幅」の数値は、「連泡構造を含む」空泡の数値であるのに対し、実施例で示されている「平均孔径」及び「半値全幅」の数値は、「独立孔のみ」についての数値であることは明白である。
すなわち、本件特許発明3ないし6で規定された「多孔質ポリイミドフィルム」は本件特許の発明の詳細な説明において何ら実証されていない。
したがって、本件特許発明3ないし6は発明の詳細な説明に記載されたものではない。

・本件特許発明7及び8では、それぞれ、「独立孔が全孔の80%以上」及び「独立孔のみ(すなわち、独立孔が100%)」と規定されているが、これらの数値は本件特許の発明の詳細な説明の実施例において何ら実証されていない。
したがって、本件特許発明7及び8は発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(15)申立理由15(明確性要件)
本件特許の請求項3ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許発明7及び8では、それぞれ、「独立孔が全孔の80%以上」及び「独立孔のみ(すなわち、独立孔が100%)」と規定されているが、本件特許の発明の詳細な説明にはどのようにして識別を行ったのか具体的に記載されていない。
したがって、本件特許発明7及び8は明確であるとはいえない。

・本件特許発明3ないし6で規定された「平均孔径」及び「孔径分布」が、それぞれ、個数基準であるのか、体積基準であるのか不明である。
したがって、本件特許発明3ないし6は明確であるとはいえない。

(16)証拠方法
甲第1号証:再公表特許第2010/137728号
甲第2号証:特開平7-202439号公報
甲第3号証:J.Photopolym.Sci.Technol.,Vol.28,No.6,2015
甲第4号証:J.Photopolym.Sci.Technol.,Vol.29,No.3,2016
甲第5号証:特開2003-26850号公報
甲第6号証:特開2014-11769号公報
甲第7号証:特開2013-213198号公報
甲第8号証:特許第6567591号公報
甲第9号証:US9,356,341 B1
甲第10号証:特許研究 No.41 2006/3
甲第11号証:特開2016-58717号公報
甲第12号証:特開2009-187657号公報
甲第13号証:特開2007-123238号公報
甲第14号証:日本ゴム協会誌第53巻 第11号 1980
甲第15号証:JIS Z 2343-1
甲第16号証:FIAのウェブページ(https://www.fia-sims.com/p40-interface-science.html)のプリントアウト
甲第17号証:三和化工株式会社のウェブページ(http://www.sanwa-chemi.co.jp/polyethylene/index.html)のプリントアウト
甲第18号証:株式会社プリンス技研のウェブページ(http://www.plinst.jp/ppm02.html)のプリントアウト
甲第19号証:株式会社北陸カラーフォームのウェブページ(https://www.peicolor.co.jp/archives/21)のプリントアウト
甲第20号証:特許出願2019-140884における令和2年6月30日付け起案の拒絶理由通知書
甲第21号証:特許出願2019-140884における令和2年9月4日付け意見書
甲第22号証:特開2011-111470号公報
甲第23号証:ベックマン・コールター株式会社のウェブページ(https://www.beckman.jp/resources/fundamentals/particle-size-distribution/basics/statistics)のプリントアウト
甲第24号証:株式会社島津製作所のウェブページ(https://www.an.shimadzu.co.jp/powder/lecture/practice/p01/lesson17.htm)のプリントアウト
甲第25号証:新潟大学工学部微粒子材料工学研究室のウェブページ(http://www.gs.niigata-u.ac.jp/^(~)kimlab/labo/operation/ImageJ.html)のプリントアウト
なお、甲第15ないし25号証は令和3年2月4日に特許異議申立人から提出された意見書に添付されたものである。また、証拠の表記は、特許異議申立書及び上記意見書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

2 取消理由(決定の予告)の概要
令和2年9月18日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。

(1)取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし7及び9ないし15に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか又は本件特許の請求項1ないし20に係る発明は、上記甲1に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし20に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)取消理由2(甲2を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし3、7ないし12、15及び17ないし20に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか又は本件特許の請求項1ないし3、7ないし12及び15ないし20に係る発明は、上記甲2に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3、7ないし12及び15ないし20に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)取消理由3(甲5を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし7、9、10、13及び14に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか又は本件特許の請求項1ないし10、13、14及び17ないし20に係る発明は、上記甲5に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10、13、14及び17ないし20に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(4)取消理由4(甲7を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし6、11及び16ないし20に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6、11及び16ないし20に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(5)取消理由5(明確性要件)
本件特許の請求項3ないし20に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許発明7は「前記フィルムの多孔質の構造が、独立孔が全孔の80%以上を占める構造である」という発明特定事項を有するものであり、本件特許発明8は「前記フィルムの多孔質の構造が独立孔のみからなる構造である」という発明特定事項を有するものであるが、請求項7及び8を含め、特許請求の範囲には、何をもって、「孔」が「連通孔」ではなく「独立孔」であると判断するのか、「独立孔が全孔の80%以上を占める」と判断するのか、また、「独立孔のみからなる」と判断するのかは記載されていないし、本件特許の発明の詳細な説明にも記載されていない。
したがって、本件特許発明7及び8並びに請求項7又は8を直接又は間接的に引用する本件特許発明9ないし20に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎としても、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。

・本件特許発明3ないし6は、それぞれ「前記空孔の平均孔径が30μm以下である」、「前記空孔の平均孔径が10μm以下である」、「前記空孔の孔径分布の半値全幅が15μm以下である」及び「前記空孔の孔径分布の半値全幅が10μm以下である」という発明特定事項を有するものであるが、請求項3ないし6を含め、特許請求の範囲には、「平均孔径」及び「孔径分布」が、それぞれ「個数基準」であるのか、「体積基準」であるのか、又は「個数基準」や「体積基準」以外の基準であるのかは記載されていないし、本件特許の発明の詳細な説明にも記載されていない。
したがって、本件特許発明3ないし6並びに請求項3ないし6のいずれかを直接又は間接的に引用する本件特許発明7ないし20に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎としても、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。

(6)取消理由6(甲8の出願に係る先願発明と同一)
本件特許の請求項1ないし6及び13ないし16に係る発明は、本件特許の優先日前を優先日とする特許掲載公報(甲8)の出願に係る発明と同一であり、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6及び13ないし16に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第5 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
当合議体は、以下のとおり、上記第4に記載の取消理由1ないし6には理由がないと判断する。
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「樹脂組成物、それを含む積層膜及びその積層膜を部品に用いる画像形成装置」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。

・「【請求項1】
全孔数の80%以上が独立孔からなる多孔質構造を有し、平均孔径が0.01μm以上0.9μm以下であって、全孔数の80%以上が平均孔径より±30%以内の孔径を有する、エンジニアリングプラスチックにより構成される樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物がポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンのうちの少なくとも一つからなることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。」

・「【0001】
本発明は、断熱材、軽量構造材、吸着材、吸音材、触媒担体等に用いられる有機高分子多孔質体、及び、低誘電率を有する電子部品用基材、又、断熱性、吸音性、軽量性等を有する宇宙航空や輸送車両用材料に関する。また本発明は、複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に用いられる機能部材及び該機能部材を用いた画像定着装置に関する。」

・「【0005】
本発明を詳細に説明するために、図面を通じて以下に発明を実施するための形態を示す。なお、個々に開示する実施形態は、本発明である樹脂組成物、それを含む積層膜及びその積層膜を部品に用いる画像形成装置が実際に用いられる例であり、これに限定されるものではない
(本発明の実施形態)
図1は本実施形態における樹脂組成物及びその上に形成した離型層、弾性層及び基材からなる積層膜の断面を概略的に示したものである。
本実施形態における、樹脂組成物の多孔質構造は、機械特性の観点からいうと、空隙部分が曲面の樹脂壁によって区切られた独立孔からなる。独立孔は、一つ一つの孔が独立しており、孔と孔との間に樹脂の壁を有する。そのため、樹脂の弾性率のみでなく、孔中の気圧の効果により、連続孔に比べ、樹脂組成物全体として高弾性率を発現することが期待される。また、独立孔になっていることにより、画像形成プロセスにおいて発生した不純物等が多孔層内部に侵入するのを低減し、材料劣化、物性変化の発現を抑制することができる。また、本実施形態の多孔質構造において、独立孔が全孔の80%以上を占めている。ここで「独立孔」とは、隣接する孔との間に存在する樹脂の壁の穴が開いていないものをいう。
本実施形態における、樹脂組成物の孔径は0.01μm以上0.9μm以下の範囲から適宜選択される。断熱性の観点からいうと、孔径は空気の平均自由行程以下になることが好ましい。孔径が平均自由行程(空気の場合は65nm)以下になると、そこに含まれる空気の熱伝導率が低下し、真空とみなせるようになる。そのため、樹脂組成物全体として熱伝導率が低下し、断熱性向上が見込めるからである。しかしながら、孔径が0.01μmより小さくなると、無孔膜に構成が類似してくるため、孔部の樹脂壁を介した熱伝導による伝播が大きくなる。そのため樹脂組成物全体として熱伝導率の上昇を招き、断熱材として用いることが難しくなる。また後述するように、孔径は溶液の粘度により制御することができるが、0.01μm以下の孔径を実現しようとした場合、溶液の粘度が非常に高くなるため、製膜のハンドリングが非常に困難となる。
また、本発明の樹脂組成物の多孔質構造は、孔径10μm以上のマクロボイドのない構造である。巨大な空孔が多くなると圧縮及び引張りのような外的な物理変化に対して材料が劣化しやすくなるからである。また、後述するように、導電制御剤との関係で、マクロボイドを含まないことが好ましい。さらに、本発明では、樹脂組成物の平均孔径が0.1μm以上0.9μm以下の範囲とする。本実施形態における粒径の測定方法は特に限定せず、従来の測定方法を用いることができ、水銀圧入法やSEM観察後の画像解析を用いることができる。」

・「【0006】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
・・・(略)・・・
(実施例1)
ポリイミド前駆体であるポリアミック酸のN-メチルピロリドン(NMP)溶液(商品名UワニスA、宇部興産(株)製、樹脂濃度20重量%)を用意した。ポリアミック酸溶液に塩化リチウムを15重量%となるように加え、溶解させた。このときの樹脂粘度は120,000cPであった。基材として120μm厚のポリイミド材(商品名:カプトン、東レデュポン(株)製)を用意し、コーターを用いて、上記溶液を基材上にキャストした。その後、キャスト膜を室温で蒸留水中に浸漬し、5分間放置した。基材を水中から取り出し、得られた膜を蒸留水で洗浄した。
付着した水を拭き取り、膜を乾燥炉に入れた。80℃で1時間乾燥したのち、10℃/分の昇温速度で、150℃まで温度が上昇するようにした。150℃で30分加熱後、10℃/分の昇温速度で、250℃まで温度が上昇するようにした。250℃で10分加熱後、10℃/分の昇温速度で、350℃まで温度が上昇するようにし、350℃で10分間加熱を行うことによりポリイミド樹脂組成物を作製した。
・・・(略)・・・
(実施例5)
基材に流延したキャスト膜に溶剤置換調節材(ユーポア、ガーレー値210sec/100cc、宇部興産(株)製)を被せて相転移を行った以外は、実施例1と同様の方法によりポリイミド樹脂組成物を作製した。
・・・(略)・・・
(実施例7)
塩化リチウムの量を調整して、ポリアミック酸溶液の樹脂粘度を105、000cPとし、キャスト膜に溶剤置換調節材(ユーポア、ガーレー値300sec/100cc、宇部興産(株)製)を被せて相転移した以外は実施例5と同様の方法によりポリイミド樹脂組成物を作製した。
独立孔の平均孔径は0.40μmであり、個数分布を検討すると0.28?0.52μmの間に全孔数の93%が含まれていた。また空孔率は61%であり、全孔数のうち95%が独立孔であった。得られた多孔膜の膜厚は150μmであった。断面をSEMにより観察したところ、図5(5,000倍)に示すものであった。
・・・(略)・・・
(実施例17)
ポリアミック酸の樹脂濃度を10重量%とし、塩化リチウムの量を調整して、ポリアミック酸溶液の樹脂粘度を100、000cPとした以外は、実施例7と同様の方法によりポリイミド樹脂組成物を作製した。
独立孔の平均孔径は0.50μmであり、個数分布を検討すると0.35?0.65μmの間に全孔数の86%が含まれていた。また空孔率は85%であり、全孔数のうち87%が独立孔であった。得られた多孔膜の膜厚は130μmであった。」

イ 甲1発明
甲1に記載された事項を、特に実施例17に関して整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「独立孔の平均孔径は0.50μmであり、個数分布を検討すると0.35?0.65μmの間に全孔数の86%が含まれ、空孔率は85%であり、全孔数のうち87%が独立孔である膜厚が130μmのポリイミド樹脂組成物の多孔膜。」

(2)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「高周波用多層回路基板」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高周波領域での使用に好適な多層回路基板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、信号伝送量の増大やコンピューターなどにおける信号処理速度の増大のため、信号の高周波化の流れが一段と加速されつつあり、それに伴って信号の高周波化に対応できる多層回路基板の要求が高まっている。一般的に、信号が高周波化すると、信号伝送速度の遅れが問題となる。これを解決するためには、多層回路基板に用いる誘電体の誘電率を低くすることが重要となってくる。」

・「【0015】実施例3
実施例1と同様にして作製した厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート発泡フイルム2の両面に、厚さ35μmの銅箔(古河サーキットフォイル(株)社製、片面TSTO処理)3を、接着剤としてトリアジン系の樹脂(三菱瓦斯化学(株)社製、BTA-304グレード)を50μm厚に塗布し、170?220℃に加熱することにより接着させた。このようにして作製した両面銅張積層板に塩酸系のエッチング液を用いて所定の回路を形成させた。この際、発泡フイルム2へのエッチング液の染み込みは全くなく、発泡フイルム2の劣化も認められなかった。次に、作製した両面回路の内層回路板1の2枚間に、前記内層回路板1に用いたのと同じ、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート発泡フイルムの両面にトリアジン系の樹脂接着剤を50μm厚に塗布したプリプレグ4を重ね、その両外側の回路面上に、Qガラスよりなるガラス繊維布にエポキシ樹脂を含浸させてBステージまで予備硬化させて作った厚さ300μmのプリプレグ4をそれぞれ配し、その上に外層回路用金属箔5として厚さ18μmの銅箔(古河サーキットフォイル(株)社製、片面TSTO処理)をそれぞれ重ねて、ホットプレス法により、5?50kg/cm^(2)、120?220℃、1?3時間の条件にて積層させて図3に示す如き構成の6層回路基板を得た。この6層回路基板の外層回路用銅箔に塩酸系のエッチング液を用いて所定の回路を形成させた後、所定の位置にドリルによりスルーホールを形成し、無電解銅メッキにより内層回路と外層回路とを導通させることにより、所望の6層回路基板を得た。得られた6層回路基板は、誘電率が小さく、高周波用として好適なものであった。」

・「【0021】実施例9
厚さ100μmのポリエーテルイミド製フイルム(住友ベークライト(株)製、商品名FS1400、ガラス転移温度217℃)を室温の高圧容器中に設置し、ゲージ圧50kg/cm^(2)の炭酸ガスを室温にて24時間浸透させた後、高圧容器より樹脂フイルムを取り出し、180℃に加熱し発泡させて厚さ110μm、気泡率80%、気泡の平均径15μm以下の独立気泡のポリエーテルイミド発泡フイルム2を作製した。この発泡フイルム2の表面は、凹凸もなく、非常に平滑であった。次に、このポリエーテルイミド発泡フイルム2を用いた他は実施例3と同様にして図3に示す如き構成の6層回路基板を得た。この6層回路基板の外層回路用銅箔に塩酸系のエッチング液を用いて所定の回路を形成させた後、所定の位置にドリルによりスルーホールを形成し、無電解銅メッキにより内層回路と外層回路とを導通させることにより、所望の6層回路基板を得た。得られた6層回路基板は、誘電率が小さく、高周波用として好適なものである上に、耐熱性、寸法安定性、耐衝撃性にも優れていた。」

イ 甲2発明
甲2に記載された事項を、特に実施例9に関して整理すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「厚さ100μmのポリエーテルイミド製フイルム(住友ベークライト(株)製、商品名FS1400、ガラス転移温度217℃)を室温の高圧容器中に設置し、ゲージ圧50kg/cm^(2)の炭酸ガスを室温にて24時間浸透させた後、高圧容器より樹脂フイルムを取り出し、180℃に加熱し発泡させて作製した厚さ110μm、気泡率80%、気泡の平均径15μm以下の独立気泡で、6層回路基板形成時に誘電率が小さく、高周波用として好適なポリエーテルイミド発泡フイルム2。」

(3)甲5に記載された事項等
ア 甲5に記載された事項
甲5には、「多孔質ポリイミド樹脂の製造方法および多孔質ポリイミド樹脂」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0002】
【従来の技術】一般に、ポリイミド樹脂は、高い絶縁性能を有するために、信頼性の必要な部品、部材として、回路基板、プリント配線基板などとして電子・電気機器や電子部品に広く応用されている。
【0003】最近では、高度情報化社会に対応した大量の情報を蓄積し、その情報を、高速に処理し、高速に伝達するための電子機器において、これらに使用されるポリイミド樹脂にも、高性能化、特に、高周波化に対応した電気的特性として、低誘電率化および低誘電正接化が要求されている。」

・「【0028】また、樹脂溶液の塗布は、例えば、スピンコータ、バーコータなどの公知の塗布方法によればよく、基材の形状や、皮膜の厚さに合わせて、適宜好適な方法により塗布すればよい。また、その乾燥後の厚みが、0.1?50μm、好ましくは、1?25μmとなるように塗布することが好ましい。」

・「【0047】合成例1
攪拌機および温度計を備えた500mLのセパラブルフラスコに、p-フェニレンジアミン10.8gを入れ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)247.2gを加えて攪拌し、p-フェニレンジアミンを溶解させた。
【0048】その溶液に、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4gを徐々に加え、その後、30℃以下の温度で2時間攪拌を続け、濃度14重量%のポリイミド樹脂前駆体溶液を得た。
【0049】合成例2
攪拌機および温度計を備えた500mLのセパラブルフラスコに、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン29.2gを入れ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)360.3gを加えて攪拌し、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンを溶解させた。
【0050】その溶液に、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4gを徐々に加え、その後、30℃以下の温度で2時間攪拌を続け、濃度14重量%のポリイミド樹脂前駆体溶液を得た。
【0051】実施例1
合成例1で得られたポリイミド樹脂前駆体溶液70重量部に対して、合成例2で得られたポリイミド樹脂前駆体溶液30重量部を混合し、ポリイミド樹脂前駆体混合溶液を得た。このポリイミド樹脂前駆体混合溶液に、重量平均分子量500のポリエチレングリコールジメチルエーテルを、ポリイミド樹脂前駆体混合溶液中の樹脂成分100重量部に対して66重量部の割合で配合し、攪拌して透明な均一の樹脂溶液を得た。
【0052】この樹脂溶液を、厚さ25μmのステンレス箔(SUS304)上に、スピンコータを用いて、乾燥後の皮膜の厚さが21μmとなるように塗布し、熱風循環式オーブン中で、95℃で10分間乾燥し、NMPを飛散させた。その後、さらに、熱風循環式オーブン中で、180℃で20分間完全乾燥させ、ポリエチレングリコールジメチルエーテルのミクロ相分離構造を有するポリイミド樹脂前駆体からなる皮膜を形成した。
【0053】次いで、皮膜を、100mm×60mmのシート状に切断し、500mLの耐圧容器に入れ、100℃の雰囲気中、25MPaに加圧した後、圧力を保ったままガス量にして約5L/分の流量で二酸化炭素を注入、排気してポリエチレングリコールジメチルエーテルを抽出する操作を2時間行なった。
【0054】次いで、250℃で24時間予備加熱して、ポリエチレングリコールジメチルエーテルを抽出除去して得たポリイミド樹脂前駆体中の孔(セル)形状が保持(固定)されるようにした。
【0055】その後、1.3Paの真空下で、375℃にて2時間加熱し、多孔質ポリイミド樹脂からなる皮膜を形成した。
【0056】得られた多孔質ポリイミド樹脂からなる皮膜の断面のSEM観察像を画像処理して求めた。その結果を図2に示す。また、その画像処理から求めた孔(セル)のサイズは0.193μmであった。また、誘電率(ε)は、2.539(測定周波数1MHz)であった。なお、これらの測定方法(以下の実施例および比較例において同じ)を下記に示す。
【0057】SEM観察:多孔質ポリイミド樹脂からなる皮膜シートを、集束イオンビーム加工装置(FIB)(セイコーインスツルメンツ(株)製SMI9200)を用い、イオン源として液体金属Gaを用いて、加速電圧30kV、ビーム電圧0.8μAで切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立製作所製S-570)を用いて、加速電圧10kVにて観察した。
【0058】誘電率:横河ヒューレット・パッカード(株)社製HP4284AプレシジョンLCRメーターにより測定した。
【0059】実施例2
重量平均分子量500のポリエチレングリコールジメチルエーテルを、ポリイミド樹脂前駆体混合溶液中の樹脂成分100重量部に対して80重量部の割合で配合することによって、樹脂溶液を調製した以外は、実施例1と同様の操作により、多孔質ポリイミド樹脂からなる皮膜を形成した。
【0060】得られた多孔質ポリイミド樹脂からなる皮膜の断面のSEM観察像を画像処理して求めた。その結果を図3に示す。また、その画像処理から求めた孔(セル)のサイズは0.194μmであった。また、誘電率(ε)は、2.200(測定周波数1MHz)であった。」

・「【図2】



・「【図3】



イ 甲5発明
甲5に記載された事項を、特に実施例1及び2に関して整理すると、甲5には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認める。

「下記合成例1で得られたポリイミド樹脂前駆体溶液70重量部に対して、下記合成例2で得られたポリイミド樹脂前駆体溶液30重量部を混合し、ポリイミド樹脂前駆体混合溶液を得、このポリイミド樹脂前駆体混合溶液に、重量平均分子量500のポリエチレングリコールジメチルエーテルを、ポリイミド樹脂前駆体混合溶液中の樹脂成分100重量部に対して66重量部又は80重量部の割合で配合し、攪拌して透明な均一の樹脂溶液を得、この樹脂溶液を、厚さ25μmのステンレス箔(SUS304)上に、スピンコータを用いて、乾燥後の皮膜の厚さが21μmとなるように塗布し、熱風循環式オーブン中で、95℃で10分間乾燥し、NMPを飛散させ、その後、さらに、熱風循環式オーブン中で、180℃で20分間完全乾燥させ、ポリエチレングリコールジメチルエーテルのミクロ相分離構造を有するポリイミド樹脂前駆体からなる皮膜を形成し、次いで、皮膜を、100mm×60mmのシート状に切断し、500mLの耐圧容器に入れ、100℃の雰囲気中、25MPaに加圧した後、圧力を保ったままガス量にして約5L/分の流量で二酸化炭素を注入、排気してポリエチレングリコールジメチルエーテルを抽出する操作を2時間行ない、次いで、250℃で24時間予備加熱して、ポリエチレングリコールジメチルエーテルを抽出除去して得たポリイミド樹脂前駆体中の孔(セル)形状が保持(固定)されるようにし、その後、1.3Paの真空下で、375℃にて2時間加熱し、形成した多孔質ポリイミド樹脂からなる、孔(セル)のサイズ0.193μm又は0.194μm、誘電率(ε)2.539(測定周波数1MHz)又は2.200(測定周波数1MHz)である皮膜。
ただし、孔(セル)のサイズ0.193μm、誘電率(ε)2.539(測定周波数1MHz)はポリエチレングリコールジメチルエーテルを66重量部の割合で配合した場合であり、孔(セル)のサイズ0.194μm、誘電率(ε)2.200(測定周波数1MHz)はポリエチレングリコールジメチルエーテルを80重量部の割合で配合した場合である。

合成例1:攪拌機および温度計を備えた500mLのセパラブルフラスコに、p-フェニレンジアミン10.8gを入れ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)247.2gを加えて攪拌し、p-フェニレンジアミンを溶解させ、その溶液に、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4gを徐々に加え、その後、30℃以下の温度で2時間攪拌を続け、得た濃度14重量%のポリイミド樹脂前駆体溶液。

合成例2:攪拌機および温度計を備えた500mLのセパラブルフラスコに、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン29.2gを入れ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)360.3gを加えて攪拌し、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンを溶解させ、その溶液に、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4gを徐々に加え、その後、30℃以下の温度で2時間攪拌を続け、得た濃度14重量%のポリイミド樹脂前駆体溶液。」

(4)甲7に記載された事項等
ア 甲7に記載された事項
甲7には、「多孔質樹脂シート及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0001】
本発明は、低い比誘電率および誘電正接を有する多孔質樹脂シートとその製造方法に関する。この多孔質樹脂シートは、回路用基板、帯電話用アンテナ(当審注:「携帯電話用アンテナ」の誤記と認める。)などの高周波回路に使用される低誘電率材料、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、断熱材等の広範囲な基板材料として利用可能である。」

・「【0026】
前記ポリイミド前駆体は、略等モルの有機テトラカルボン酸二無水物とジアミノ化合物(ジアミン)とを、通常、有機溶媒中、0?90℃で1?24時間程度反応させることにより得られる。前記有機溶媒として、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒が挙げられる。」

・「【0071】
実施例1
ポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg:217℃、比重:1.27、非晶性)を二軸押出機により厚さ0.8mmの単層シートとした。未発泡の単層シートを、500ccの耐圧容器に入れ、槽内を120℃、25MPaの二酸化炭素雰囲気中に5時間保持することにより、二酸化炭素を含浸させた。その後、300MPa/秒でこのシートを大気圧に戻した後、連続的に210℃のオイル浴中に60秒間通し、気泡を成長させ、すばやく取り出し、その後氷を入れた水により急激に冷却して、厚さ1.81mmのポリエーテルイミドからなる多孔質樹脂シートを得た。得られた多孔質樹脂シートの表面には、厚さ1μmの無孔層を有していた。」

・「【0072】
実施例2
ポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg:217℃、比重1.27、非晶性)を二軸押出機により厚さ0.8mmの単層シートとした。未発泡の単層シートを、500ccの耐圧容器に入れ、槽内を210℃、25MPaの二酸化炭素雰囲気中に1時間保持することにより、二酸化炭素を含浸させた。その後、300MPa/秒でこのシートを大気圧に戻した後、厚さ1.55mmのポリエーテルイミドからなる多孔質樹脂シートを得た。得られた多孔質樹脂シートの表面には、厚さ1μmの無孔層を有していた。」

・「【0073】
比較例1
厚さが0.035mmである単層シートを用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ0.065mmのポリエーテルイミドからなる多孔質樹脂シートを得た。この多孔質樹脂シート10枚をエポキシ接着シート(日東シンコー社製、「B-EL10#40」)により積層し、オートクレーブにより150℃、15kg/cm^(2)の条件で3時間処理し、厚さ1.01mmの積層シートを作製した。得られた多孔質樹脂シートの表面には、厚さ1μmの無孔層を有していた。」

・「【0074】
【表1】



イ 甲7発明
甲7には、実施例2の多孔質樹脂シートとして、次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認める。

「ポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg:217℃、比重:1.27、非晶性)を二軸押出機により厚さ0.8mmの単層シートとし、未発泡の単層シートを、500ccの耐圧容器に入れ、槽内を210℃、25MPaの二酸化炭素雰囲気中に1時間保持することにより、二酸化炭素を含浸させ、その後、300MPa/秒でこのシートを大気圧に戻して得た厚さ1.55mm、比誘電率1.73、空孔率71%、孔径3.0μmのポリエーテルイミドからなる多孔質樹脂シート。」

(5)甲8の出願に係る発明(先願発明)
本件特許の優先日前を優先日とする甲8の出願の請求項1ないし14に係る発明(以下、順に「先願発明1」のようにいう。)は次のとおりである。

「【請求項1】
ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記ベース材料層の少なくとも一方の表面に、該ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されており、
前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれ、
前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの10%未満である、
ことを特徴とする、前記フィルム。
【請求項2】
前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの5%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記スキン層の厚さは1?5μmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記ベース材料層の両面に前記スキン層が形成されていることを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記スキン層は液体不透過性であることを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
前記ベース材料層の空孔率が60%以上であることを特徴とする、請求項1?5のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項7】
前記ベース材料の空孔率が95%以下であることを特徴とする、請求項1?6のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項8】
前記ベース材料層の平均孔径が10μm以下であることを特徴とする、請求項1?7のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項9】
前記ベース材料層の孔径分布の半値全幅が10μm以下であることを特徴とする、請求項1?8のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項10】
60GHzで測定した誘電率が2.0以下であることを特徴とする、請求項1?9のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項11】
前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであることを特徴とする、請求項1?10のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項12】
前記有機溶媒がN-メチルピロリドンであることを特徴とする、請求項11に記載のフィルム。
【請求項13】
厚さが50μm?500μmであることを特徴とする、請求項1?12のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項14】
ミリ波アンテナ用の基板に使用するフィルムであることを特徴とする、請求項1?13のいずれか1項に記載のフィルム。」

2 取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「多孔膜」は、「ポリイミド樹脂組成物」からなり、「空孔率は85%」であり、甲1の【0001】によると、「低誘電率を有する電子部品材料」に関するものであるから、本件特許発明1における「ポリマー材料からなるベース材料層」に「空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルム」に相当する。
甲1発明における「多孔膜」は、「空孔率は85%」であるから、本件特許発明1における「前記フィルムの空孔率が60%以上であり」という発明特定事項を有するものである。
甲1発明における「多孔膜」は、「独立孔の平均孔径は0.50μmであり、個数分布を検討すると0.35?0.65μmの間に全孔数の86%が含まれ」るものであるから、本件特許発明1における「空孔」は、「微細」であって、「前記空孔の平均孔径が50μm以下であり」という発明特定事項を有するものである。
甲1発明における「多孔膜」は、「全孔数のうち87%が独立孔」であるから、本件特許発明1における「前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり」という発明特定事項を有するものである。
甲1発明における「多孔膜」は、「ポリイミド樹脂組成物」からなるものであるから、本件特許発明1における「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる」という発明特定事項を有するものである。
甲1発明における「ポリイミド樹脂組成物」は、甲1の【0006】によると「ポリイミド前駆体であるポリアミック酸のN-メチルピロリドン(NMP)溶液」から作製されるものであるから、甲1発明における「多孔膜」は、本件特許発明1における「前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであり、前記有機溶媒がN-メチルピロリドンである」という発明特定事項を有するものである。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの空孔率が60%以上であり、
前記空孔の平均孔径が50μm以下であり、
前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれ、
前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであり、
前記有機溶媒がN-メチルピロリドンである、
前記フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点1-2>
本件特許発明1においては、「10GHzで測定した誘電率が2.0以下であり」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、上記相違点について検討する。
相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項について、甲1には甲1発明が有している又は有している蓋然性が高いといえるような記載はないし、そのようなことが本件特許の優先日の時の当業者の技術常識であるともいえない。
したがって、相違点1-1は実質的な相違点である。
また、甲1には、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有し、かつ優れた回路基板加工性を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ」(本件特許の発明の詳細な説明の【0015】)、「優れた電気特性を有するものであるとともに、耐プレス性に優れ、加工後も高い絶縁抵抗値を示すことから、回路基板加工性の点でも優れている」(同【0072】)という甲1発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件特許発明2ないし6、10、12及び15について
本件特許発明2ないし6、10、12及び15は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件特許発明16ないし20について
本件特許発明16ないし20は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6、10、12及び15は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件特許発明1ないし6、10、12及び15ないし20は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし6、10、12及び15ないし20に係る特許は、取消理由1によっては取り消すことはできない。

3 取消理由2(甲2を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「ポリエーテルイミド発泡フイルム2」は、「気泡率80%、気泡の平均径15μm以下の独立気泡で、誘電率が小さく、高周波用として好適な」ものであるから、本件特許発明1における「ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルム」に相当する。
甲2発明における「ポリエーテルイミド発泡フイルム2」は、「気泡率80%」であるから、本件特許発明1における「前記フィルムの空孔率が60%以上であり」という発明特定事項を有するものである。
甲2発明における「ポリエーテルイミド発泡フイルム2」は、「気泡の平均径15μm以下の独立気泡の」ものであるから、本件特許発明1における「前記空孔の平均孔径が50μm以下であり」という発明特定事項を有するものである。
甲2発明における「ポリエーテルイミド発泡フイルム2」は、「独立気泡」のものであるから、本件特許発明1における「前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり」という発明特定事項を有するものである。
甲2発明における「ポリエーテルイミド発泡フイルム2」は、「ポリエーテルイミド製フイルム(住友ベークライト(株)製、商品名FS1400、ガラス転移温度217℃)」からなるものであるから、本件特許発明1における「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる」という発明特定事項を有するものである。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの空孔率が60%以上であり、
前記空孔の平均孔径が50μm以下であり、
前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる、
前記フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-1>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-2>
本件特許発明1においては、「10GHzで測定した誘電率が2.0以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-3>
本件特許発明1においては、「前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであり、前記有機溶媒がN-メチルピロリドンである」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、事案に鑑み相違点2-1及び相違点2-3について検討する。
相違点2-1及び2-3に係る本件特許発明1の発明特定事項について、甲2には甲2発明が有している又は有している蓋然性が高いといえるような記載はないし、そのようなことが本件特許の優先日の時の当業者の技術常識であるともいえない。
したがって、相違点2-1及び2-3は実質的な相違点である。
また、甲2には、甲2発明において、相違点2-1及び2-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲2発明において、相違点2-1及び2-3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有し、かつ優れた回路基板加工性を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ」、「優れた電気特性を有するものであるとともに、耐プレス性に優れ、加工後も高い絶縁抵抗値を示すことから、回路基板加工性の点でも優れている」という甲2発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、相違点2-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明であるとはいえないし、甲2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件特許発明2、3、10、12、15及び17ないし20について
本件特許発明2、3、10、12、15及び17ないし20は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件特許発明16について
本件特許発明16は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし3、10、12、15及び17ないし20は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件特許発明1ないし3、10、12及び15ないし20は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3、10、12及び15ないし20に係る特許は、取消理由2によっては取り消すことはできない。

4 取消理由3(甲5を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲5発明を対比する。
甲5発明における「皮膜」は、「下記合成例1で得られたポリイミド樹脂前駆体溶液70重量部に対して、下記合成例2で得られたポリイミド樹脂前駆体溶液30重量部を混合し、ポリイミド樹脂前駆体混合溶液を得、このポリイミド樹脂前駆体混合溶液に、重量平均分子量500のポリエチレングリコールジメチルエーテルを、ポリイミド樹脂前駆体混合溶液中の樹脂成分100重量部に対して66重量部又は80重量部の割合で配合し、攪拌して透明な均一の樹脂溶液を得、この樹脂溶液を、厚さ25μmのステンレス箔(SUS304)上に、スピンコータを用いて、乾燥後の皮膜の厚さが21μmとなるように塗布し、熱風循環式オーブン中で、95℃で10分間乾燥し、NMPを飛散させ、その後、さらに、熱風循環式オーブン中で、180℃で20分間完全乾燥させ、ポリエチレングリコールジメチルエーテルのミクロ相分離構造を有するポリイミド樹脂前駆体からなる皮膜を形成し、次いで、皮膜を、100mm×60mmのシート状に切断し、500mLの耐圧容器に入れ、100℃の雰囲気中、25MPaに加圧した後、圧力を保ったままガス量にして約5L/分の流量で二酸化炭素を注入、排気してポリエチレングリコールジメチルエーテルを抽出する操作を2時間行ない、次いで、250℃で24時間予備加熱して、ポリエチレングリコールジメチルエーテルを抽出除去して得たポリイミド樹脂前駆体中の孔(セル)形状が保持(固定)されるようにし、その後、1.3Paの真空下で、375℃にて2時間加熱し、形成した」「孔(セル)のサイズ0.193μm又は0.194μm、誘電率(ε)2.539(測定周波数1MHz)又は2.200(測定周波数1MHz)」のものであるから、本件特許発明1における「ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルム」に相当する。
甲5発明における「皮膜」は、甲5の図2及び3からみて、空孔率が60%以上である蓋然性が高く、本件特許発明1における「前記フィルムの空孔率が60%以上であり」という発明特定事項を有するものである。
甲5発明における「皮膜」は、「孔(セル)のサイズ0.193μm又は0.194μm」であるから、本件特許発明1における「前記空孔の平均孔径が50μm以下であり」という発明特定事項を有するものである。
甲5発明における「皮膜」は、原料及び製造方法が本件特許発明1と完全には同じでないとしても概略同じであること並びに図2及び3からみて、独立気泡構造を有するといえるから、本件特許発明1における「前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり」という発明特定事項を有するものである。
甲5発明における「皮膜」は、「多孔質ポリイミド樹脂からなる」ものであるから、本件特許発明1における「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる」という発明特定事項を有するものである。
甲5発明における「ポリイミド樹脂前駆体溶液」は、「N-メチル-2-ピロリドン(NMP)」に、「p-フェニレンジアミン」及び「3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物」、又は、「1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン」及び「3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物」等の原料を溶解させたものであるから、甲5発明における「皮膜」は、本件特許発明1における「前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであり、前記有機溶媒がN-メチルピロリドンである」という発明特定事項を有するものである。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの空孔率が60%以上であり、
前記空孔の平均孔径が50μm以下であり、
前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれ、
前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであり、
前記有機溶媒がN-メチルピロリドンである、
前記フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点5-1>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり」と特定されているのに対し、甲5発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点5-2>
本件特許発明1においては、「10GHzで測定した誘電率が2.0以下であり」と特定されているのに対し、甲5発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、上記相違点について検討する。
相違点5-1及び5-2に係る本件特許発明1の発明特定事項について、甲5には甲5発明が有している又は有している蓋然性が高いといえるような記載はないし、そのようなことが本件特許の優先日の時の当業者の技術常識であるともいえない。
したがって、相違点5-1及び5-2は実質的な相違点である。
また、甲5には、甲5発明において、相違点5-1及び5-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲5発明において、相違点5-1及び5-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有し、かつ優れた回路基板加工性を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ」、「優れた電気特性を有するものであるとともに、耐プレス性に優れ、加工後も高い絶縁抵抗値を示すことから、回路基板加工性の点でも優れている」という甲5発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は甲5発明であるとはいえないし、甲5発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件特許発明2ないし6及び10について
本件特許発明2ないし6及び10は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲5発明であるとはいえないし、甲5発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件特許発明17ないし20について
本件特許発明17ないし20は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲5発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)取消理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6及び10は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件特許発明1ないし6、10及び17ないし20は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし6、10及び17ないし20に係る特許は、取消理由3によっては取り消すことはできない。

5 取消理由4(甲7を主引用文献とする進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲7発明を対比する。
甲7発明における「多孔質樹脂シート」は、「ポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg:217℃、比重:1.27、非晶性)」からなり、「比誘電率1.73」のものであるから、本件特許発明1における「ポリマー材料からなるベース材料層」に「空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルム」に相当する。
甲7発明における「多孔質樹脂シート」は、「空孔率71%」であるから、本件特許発明1における「前記フィルムの空孔率が60%以上であり」という発明特定事項を有するものである。
甲7発明における「多孔質樹脂シート皮膜」は、「孔径3.0μm」であるから、本件特許発明1における「微細な空孔」であって「前記空孔の平均孔径が50μm以下であり」という発明特定事項を有するものである。
甲7発明における「多孔質樹脂シート」は、「ポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg:217℃、比重:1.27、非晶性)」からなるものであるから、本件特許発明1における「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる」という発明特定事項を有するものである。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの空孔率が60%以上であり、
前記空孔の平均孔径が50μm以下であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる、
前記フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点7-1>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり」と特定されているのに対し、甲7発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点7-2>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり」と特定されているのに対し、甲7発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点7-3>
本件特許発明1においては、「10GHzで測定した誘電率が2.0以下であり」と特定されているのに対し、甲7発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点7-4>
本件特許発明1においては、「前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであり、前記有機溶媒がN-メチルピロリドンである」と特定されているのに対し、甲7発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、事案に鑑み相違点7-2及び7-4について検討する。
甲7には、甲7発明において、相違点7-2及び7-4に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲7発明において、相違点7-2及び7-4に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有し、かつ優れた回路基板加工性を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ」、「優れた電気特性を有するものであるとともに、耐プレス性に優れ、加工後も高い絶縁抵抗値を示すことから、回路基板加工性の点でも優れている」という甲7発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、相違点7-1及び7-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲7発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし6及び16ないし20について
本件特許発明2ないし6及び16ないし20は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲7発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)取消理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし6及び16ないし20に係る発明は、特許第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし6及び16ないし20に係る特許は、取消理由4によっては取り消すことはできない。

6 取消理由5(明確性要件)について
(1)判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。

(2)明確性要件の判断
本件特許発明3ないし6は、それぞれ「前記空孔の平均孔径が30μm以下である」、「前記空孔の平均孔径が10μm以下である」、「前記空孔の孔径分布の半値全幅が15μm以下である」及び「前記空孔の孔径分布の半値全幅が10μm以下である」という発明特定事項を有するものである。

他方、本件特許の発明の詳細な説明には、「平均孔径」及び「孔径分布」に関して、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。

・「【0052】
(平均孔径及び孔径分布の評価)
平均孔径及び孔径分布は、走査電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM-6510LV)を用いて多孔形状を観察することにより行った。サンプルを剃刀にて切断して、断面は露出させた。さらに表面に白金蒸着後、観察を行った。平均孔径及び孔径分布(半値全幅)は、SEM画像解析より算出した。画像解析は、SEM像に2値化を施し、孔を識別後、孔径を算出し、ヒストグラム化した。解析ソフトはImageJを用いた。また、孔径評価における孔径は、より実際の構造を表している最大径を値として適用した。」

また、令和2年12月4日に特許権者が提出した意見書に添付された乙第1号証(ImageJ日本語情報 ImageJマニュアル:Analyze(解析)メニュー、2014年1月31日、シーサー株式会社)には、本件特許の発明の詳細な説明の【0052】中の解析ソフト「ImageJ」は、粒子解析を行う際、「対象物の数を数え」るものであることが記載され(2/15ページの「Analyze Particles(粒子解析)…」の欄)、解析結果として、「particle count(粒子数)」が表示されるものであることが記載されている(3/15ページ)。

そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の【0052】における「平均孔径」及び「孔径分布」の算出が、「個数基準」で行われること及び個々の孔の最大径を値として適用することを当業者であれば理解でき、その結果として、本件特許発明3ないし6における「前記空孔の平均孔径が30μm以下である」、「前記空孔の平均孔径が10μm以下である」、「前記空孔の孔径分布の半値全幅が15μm以下である」及び「前記空孔の孔径分布の半値全幅が10μm以下である」という発明特定事項がどのようなものか当業者であれば理解できるといえる。

なお、特許異議申立人は、令和3年2月4日に提出した意見書において、「平均粒径」が、「個数基準」に基づくものなのか、「体積基準」に基づくものなのか、依然として不明確である旨主張するが、上記のとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載から、「平均粒径」が、「個数基準」に基づくものであることを当業者であれば理解できるので、該主張は採用できない。

したがって、本件特許発明3ないし6並びに請求項3ないし6のいずれかを直接又は間接的に引用する本件特許発明10、12及び15ないし20に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎としても、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

(3)取消理由5についてのむすび
したがって、本件特許の請求項3ないし6、10、12及び15ないし20に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、取消理由5によっては取り消すことはできない。

7 取消理由6(甲8の出願に係る先願発明と同一)について
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と先行する請求項を全て引用する先願発明14を対比するに、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの空孔率が60%以上であり、
前記空孔の平均孔径が50μm以下であり、
前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれ、
前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであり、
前記有機溶媒がN-メチルピロリドンである、
前記フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点8>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり、10GHzで測定した誘電率が2.0以下であり」と特定されているのに対し、先行する請求項を全て引用する先願発明14においては、そのようには特定されていない点。

そして、相違点8について検討するに、相違点8は、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえないし、先行する請求項を全て引用する先願発明14の発明特定事項を本件特許発明1において上位概念として表現したことによる差異であるともいえないし、単なるカテゴリー表現上の差違であるともいえない。
したがって、本件特許発明1は先行する請求項を全て引用する先願発明14と同一であるとはいえない。

また、本件特許発明1を先行する請求項を全て引用する先願発明14以外の先願発明1ないし14のいずれと対比しても、少なくとも上記相違点8で相違する。
したがって、本件特許発明1は先行する請求項を全て引用する先願発明14以外の先願発明1ないし14のいずれとも同一であるとはいえない。

よって、本件特許発明1は先願発明1ないし14のいずれとも同一であるとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし6、15及び16について
本件特許発明2ないし6、15及び16は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、「前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり、10GHzで測定した誘電率が2.0以下であり」という発明特定事項を有しているものであるのに対し、先願発明1ないし14はいずれも上記発明特定事項を有していない。
したがって、本件特許発明2ないし6、15及び16は先願発明1ないし14のいずれとも同一であるとはいえない。

(3)取消理由6についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6、15及び16は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし6、15及び16に係る特許は、取消理由6によっては取り消すことはできない。

なお、甲8に係る特許に対する特許異議の申立て(異議2020-700132号)において、甲8に係る特許の特許請求の範囲を訂正する訂正の請求がされているが、該訂正後の各請求項に係る発明のいずれも「10GHzで測定した誘電率が2.0以下であり」という発明特定事項を有していないので、該訂正が認められたとしても、上記判断は左右されない。

第6 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由5(甲3に基づく新規性)、申立理由6(甲3を主引用文献とする進歩性)、申立理由7(甲4に基づく新規性)、申立理由8(甲4を主引用文献とする進歩性)、申立理由11(甲7に基づく新規性)、請求項10、12及び17ないし20についての申立理由13(甲8の出願に係る先願発明と同一)並びに申立理由14(サポート要件違反)である。
そこで、これらの申立理由について検討する。

1 申立理由5(甲3に基づく新規性)及び申立理由6(甲3を主引用文献とする進歩性)について
(1)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、おおむね次の事項が記載されている。なお、原文の摘記は省略し、特許異議申立人が提出した翻訳文を摘記する。図及び表の摘記も省略した。

・「フレキシブルプリント回路用の大面積多孔質超低誘電率ポリイミド基板を製造するための高圧CO_(2)ガス雰囲気下での高強度UV露光装置の開発」(第747ページのタイトル)

・「図4は、6.5MPaのCO_(2)圧力とUVレベル80(-130mw/cm^(2))で調整した多孔性PIフィルムの断面のSEM顕微鏡写真を示している。ほとんどの気孔は互いに隔離されているが、いくつかの気孔は相互につながっている。」(第751ページ左欄中段)

・「図4 6.5MPaのCO_(2)圧力とUVレベル80で調整した多孔性ポリイミドフィルムの断面のSEM顕微鏡写真。」(第751ページ左欄下から第1ないし3行)

・「図5(a)-(d)は、PIフィルムの多孔質構造に対する予備乾燥時間の影響を示している。予備乾燥時間は、2.2装置セクションのシーケンス(1)で予熱された可動プレート上の溶媒を蒸発させる時間である。」(第751ページ右欄第10ないし14行)

・「図5 多孔質構造に対する予備乾燥時間の影響」(第752ページ左欄下から第1及び2行)

・「表1 予備乾燥時間の孔構造に及ぼす影響」(第752ページ右欄上段)

・「図6 開発したプロセスを使用して調整した多孔質ポリイミドフィルム上の電気回路のSEM顕微鏡写真」(第753ページ左欄下から1ないし3行)

イ 甲3発明
甲3に記載された事項を整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。なお、特許異議申立人が提出した甲3の翻訳文は全文訳ではなく、翻訳文同士の関係が不明であるから、特許異議申立人の認定したような発明は認定できず、当審で適切と考える発明を甲3発明として認定した。

「ほとんどの気孔は互いに隔離されているが、いくつかの気孔は相互につながっているフレキシブルプリント回路用の大面積多孔質超低誘電率ポリイミド基板。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる、
前記フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-1>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの空孔率が60%以上であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-2>
本件特許発明1においては、「前記空孔の平均孔径が50μm以下であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-3>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-4>
本件特許発明1においては、「10GHzで測定した誘電率が2.0以下であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-5>
本件特許発明1においては、「前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであり、前記有機溶媒がN-メチルピロリドンである」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、事案に鑑み相違点3-3から検討する。
相違点3-3に係る本件特許発明1の発明特定事項について、甲3には甲3発明が有している又は有している蓋然性が高いといえるような記載はないし、そのようなことが本件特許の優先日の時の当業者の技術常識であるともいえない。
したがって、相違点3-3は実質的な相違点である。
また、甲3には、甲3発明において、相違点3-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲3発明において、相違点3-3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有し、かつ優れた回路基板加工性を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ」、「優れた電気特性を有するものであるとともに、耐プレス性に優れ、加工後も高い絶縁抵抗値を示すことから、回路基板加工性の点でも優れている」という甲3発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、相違点3-1、3-2、3-4及び3-5について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明であるとはいえないし、甲3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件特許発明2ないし6、10及び12について
本件特許発明2ないし6、10及び12は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明であるとはいえないし、甲3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)本件特許発明15及び16について
本件特許発明15及び16は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)申立理由5及び6についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6、10及び12は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件特許発明1ないし6、10、12、15及び16は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし6、10、12、15及び16に係る特許は申立理由5及び6によっては取り消すことはできない。

2 申立理由7(甲4に基づく新規性)及び申立理由8(甲4を主引用文献とする進歩性)について
(1)本件特許発明17について
申立理由7及び8に関する特許異議申立人の主張は、おおむね「甲第4号証の図3には、多孔質ポリイミドフィルムの表面に導電層(エッチングされた層)が形成された積層体が記載されている。また、甲第4号証で使用されている多孔質ポリイミドフィルムは、甲第3号証で製造されたものである。よって、甲第4号証は、本件発明17の規定を充足している。」というものであり、該主張は本件特許発明1が甲3に記載されていることを前提としたものである。
しかし、上記1のとおり、本件特許発明1は甲3発明、すなわち甲3に記載された発明であるとはいえないし、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、当然、本件特許発明17は甲4に記載された発明であるとはいえないし、甲4に記載された発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件特許発明19及び20について
本件特許発明19及び20は、請求項17を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明17の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明17と同様に、甲4に記載された発明であるとはいえないし、甲4に記載された発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)申立理由7及び8についてのむすび
したがって、本件特許発明17、19及び20は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項17、19及び20に係る特許は申立理由7及び8によっては取り消すことはできない。

3 申立理由11(甲7に基づく新規性)について
(1)本件特許発明1について
甲7には、上記第5 1(4)イのとおりの甲7発明が記載されている。
そして、本件特許発明1と甲7発明を対比するに、両者の一致点及び相違点は、上記第5 5(1)アのとおりである。
そして、上述のとおり、相違点7-2及び7-4は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲7発明であるとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし6及び16について
本件特許発明2ないし6及び16は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲7発明であるとはいえない。

(3)申立理由11についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6及び16は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし6及び16に係る特許は申立理由11によっては取り消すことはできない。

4 請求項10、12及び17ないし20についての申立理由13(甲8の出願に係る先願発明と同一)について
(1)本件特許発明10及び12について
本件特許発明10及び12は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記相違点8に係る本件特許発明1の発明特定事項を有しているものであるのに対し、先願発明1ないし14はいずれも上記発明特定事項を有していない。
したがって、本件特許発明10及び12は先願発明1ないし14のいずれとも同一であるとはいえない。

(2)本件特許発明17ないし20について
本件特許発明17ないし20は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記相違点8に係る本件特許発明1の発明特定事項を有しているものであり、その上で、「積層体」に関する発明であるのに対し、先願発明1ないし14はいずれも上記発明特定事項を有していないし、「積層体」に関する発明でもない。
したがって、本件特許発明17ないし20は先願発明1ないし14のいずれとも同一であるとはいえない。

(3)請求項10、12及び17ないし20についての申立理由13のむすび
したがって、本件特許発明10、12及び17ないし20は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項10、12及び17ないし20に係る特許は申立理由13によっては取り消すことはできない。

なお、上記第5 7(3)で示したとおり、甲8に係る特許に対する特許異議の申立て(異議2020-700132号)において、甲8に係る特許の特許請求の範囲を訂正する訂正の請求がされているが、該訂正後の各請求項に係る発明のいずれも「10GHzで測定した誘電率が2.0以下であり」という発明特定事項を有していないので、該訂正が認められたとしても、上記判断は左右されない。

5 申立理由14(サポート要件違反)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。

(3)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0010】によると、本件特許発明1の発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有することにより、ミリ波アンテナ用のシートとして有用であって、しかも優れた回路基板加工性を有する、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを提供すること」である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0011】ないし【0014】には、本件特許発明1に対応する記載があり、同【0017】ないし【0056】には、本件特許発明1の各発明特定事項について具体的な記載があり、同【0057】ないし【0072】には、本件特許発明1の実施例が記載され、該実施例においてミリ波の高周波数において低い誘電率を有すること及び優れた回路基板加工性を有することを確認している。
そうすると、当業者は「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、前記フィルムの空孔率が60%以上であり、 前記空孔の平均孔径が50μm以下であり、前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり、10GHzで測定した誘電率が2.0以下であり、前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれ、前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであり、前記有機溶媒がN-メチルピロリドンである、前記フィルム」は発明の課題を解決できると認識する。
そして、本件特許発明3ないし6は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明3ないし6に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、サポート要件に適合する。
なお、本件特許発明3ないし6で規定された「多孔質ポリイミドフィルム」が、本件特許の発明の詳細な説明における実施例にて何ら実証されていないとしても、上記判断は左右されない。

(4)申立理由14についてのむすび
したがって、本件特許の請求項3ないし6に係る特許は申立理由14によっては取り消すことはできない。

第7 令和3年2月4日に特許異議申立人が提出した意見書において特許異議申立人の主張する新たな取消理由について
令和3年2月4日に特許異議申立人が提出した意見書において、特許異議申立人は、「液浸長」、「独泡構造」及び「平均孔径」について、新たな取消理由を主張するので、これらについて検討するに、これらの理由は、訂正請求に付随して生じた理由ではないので、令和2年12月25日付け通知書で指摘したとおり、新たな取消理由として採用されないものである。
なお、これらの理由を検討したが、いずれも理由がない。

第8 結語
上記第5ないし7のとおり、本件特許の請求項1ないし6、10、12及び15ないし20に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし6、10、12及び15ないし20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項7ないし9、11、13及び14に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項7ないし9、11、13及び14に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの空孔率が60%以上であり、
前記空孔の平均孔径が50μm以下であり、
前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、
前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり、
10GHzで測定した誘電率が2.0以下であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれ、
前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであり、
前記有機溶媒がN-メチルピロリドンである、
ことを特徴とする、前記フィルム。
【請求項2】
前記フィルムの空孔率が70%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記空孔の平均孔径が30μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記空孔の平均孔径が10μm以下であることを特徴とする、請求項3に記載のフィルム。
【請求項5】
前記空孔の孔径分布の半値全幅が15μm以下であることを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
前記空孔の孔径分布の半値全幅が10μm以下であることを特徴とする、請求項5に記載のフィルム。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
前記液浸長が300μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
10GHzで測定した誘電率が1.5以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
(削除)
【請求項15】
厚さが50μm?500μmであることを特徴とする、請求項1?6、10及び12のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項16】
ミリ波アンテナ用の基板に使用するフィルムであることを特徴とする、請求項1?6、10、12及び15のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項17】
請求項1?6、10、12、15及び16のいずれか1項に記載されているフィルムと、該フィルムの少なくとも一方の面の上に設けられた導電層とを含む、積層体。
【請求項18】
前記導電層が、接着剤層を介して前記フィルムの面上に設けられていることを特徴とする、請求項17に記載の積層体。
【請求項19】
接着剤層を介して又は介さずに複数積層された前記フィルムのフィルム積層体を含むことを特徴とする、請求項17に記載の積層体。
【請求項20】
前記導電層が、前記フィルムまたはフィルム積層体の両面に設けられ、該フィルム層の両面の導電層を電気的に接続するための導通部がさらに設けられていることを特徴とする、請求項17?19のいずれか1項に記載の積層体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-04-15 
出願番号 特願2018-73641(P2018-73641)
審決分類 P 1 651・ 4- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 横島 隆裕  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 大畑 通隆
加藤 友也
登録日 2019-08-09 
登録番号 特許第6567722号(P6567722)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 ミリ波アンテナ用フィルム  
代理人 近藤 直樹  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 那須 威夫  
代理人 近藤 直樹  
代理人 須田 洋之  
代理人 西島 孝喜  
代理人 大塚 文昭  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 須田 洋之  
代理人 大塚 文昭  
代理人 上杉 浩  
代理人 上杉 浩  
代理人 西島 孝喜  
代理人 那須 威夫  

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