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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
管理番号 1375867
異議申立番号 異議2020-700132  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-28 
確定日 2021-05-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6567591号発明「ミリ波アンテナ用フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6567591号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし14〕について訂正することを認める。 特許第6567591号の請求項1、2、4ないし12及び14に係る特許を維持する。 特許第6567591号の請求項3及び13に係る特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6567591号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし14に係る特許についての出願は、平成29年4月6日(優先権主張 平成28年7月25日)の出願であって、令和1年8月9日にその特許権の設定登録(請求項の数14)がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和2年2月28日に特許異議申立人 野田 澄子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし14)がされ、同年5月8日付けで取消理由が通知され、同年7月3日に特許権者 日東電工株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、同年9月18日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年12月4日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年同月25日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、令和3年2月4日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和2年12月4日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれ、前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの10%未満である、」とあるのを、「前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり、前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれ、前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの10%未満であり、前記スキン層の厚さは1?5μmであり、厚さが50μm?500μmである、」と訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、4ないし12及び14についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項13を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4ないし12及び14の記載を、訂正前の請求項3及び13を削除したことに伴い、請求項4ないし12については請求項3を引用しないものとなるように訂正し、請求項14については請求項3及び13を引用しないものとなるように訂正する。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1は請求項1並びに請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、4ないし12及び14についての訂正であり、そのうちの請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1における「前記フィルムの多孔質の構造」を「前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるもの」に限定した上で、「スキン層の厚さ」を「1?5μm」に限定し、さらに、「フィルム」の「厚さ」を「50μm?500μm」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項1による請求項1についての訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)請求項2についての訂正について
訂正事項1による請求項2についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)請求項3についての訂正について
訂正事項2は請求項3についての訂正であり、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2による請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項2による請求項3についての訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)請求項13についての訂正について
訂正事項3は請求項13についての訂正であり、請求項13を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3による請求項13についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項3による請求項13についての訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)請求項4ないし12及び14についての訂正について
訂正事項1による請求項4ないし12及び14についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項4による請求項4ないし12及び14についての訂正は、引用する請求項を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1による請求項4ないし12及び14についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないし、訂正事項4による請求項4ないし12及び14についての訂正も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、請求項1ないし14についての訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、請求項1ないし14についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項2ないし14は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし14は一群の請求項に該当するものである。そして、請求項1ないし14についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし14に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし14〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし14に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記ベース材料層の少なくとも一方の表面に、該ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されており、
前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、
前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれ、
前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの10%未満であり、
前記スキン層の厚さは1?5μmであり、
厚さが50μm?500μmである、
ことを特徴とする、前記フィルム。
【請求項2】
前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの5%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記ベース材料層の両面に前記スキン層が形成されていることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記スキン層は液体不透過性であることを特徴とする、請求項1、2及び4のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
前記ベース材料層の空孔率が60%以上であることを特徴とする、請求項1、2及び4?5のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項7】
前記ベース材料の空孔率が95%以下であることを特徴とする、請求項1、2及び4?6のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項8】
前記ベース材料層の平均孔径が10μm以下であることを特徴とする、請求項1、2及び4?7のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項9】
前記ベース材料層の孔径分布の半値全幅が10μm以下であることを特徴とする、請求項1、2及び4?8のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項10】
60GHzで測定した誘電率が2.0以下であることを特徴とする、請求項1、2及び4?9のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項11】
前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであることを特徴とする、請求項1、2及び4?10のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項12】
前記有機溶媒がN-メチルピロリドンであることを特徴とする、請求項11に記載のフィルム。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
ミリ波アンテナ用の基板に使用するフィルムであることを特徴とする、請求項1、2及び4?12のいずれか1項に記載のフィルム。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由(決定の予告)の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和2年2月28日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1、2、6ないし12及び14に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、6ないし12及び14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由2(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし3及び6ないし14に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証等に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び6ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)申立理由3(甲第3号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし4及び6ないし12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4及び6ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(4)申立理由4(甲第3号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし4及び6ないし14に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証等に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4及び6ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(5)申立理由5(甲第4号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1、2、8、9、11及び12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、8、9、11及び12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(6)申立理由6(甲第4号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1、2及び8ないし14に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証等に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び8ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(7)申立理由7(甲第6号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし3及び5ないし12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(8)申立理由8(甲第6号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし3、5ないし12及び14に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証等に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3、5ないし12及び14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(9)申立理由9(サポート要件)
本件特許の請求項6ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許発明6ないし10で規定された「空孔率」、「平均孔径」、「半値全幅」及び「誘電率」は、本件特許の発明の詳細な説明において何ら実証されていない。
したがって、本件特許発明6ないし10は発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(10)申立理由10(明確性要件)
本件特許の請求項3に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許発明3で規定された「スキン層の厚さは1?5μmである」という発明特定事項の技術的意義が明確でなく、本件特許発明3は明確であるとはいえない。

(11)申立理由11(実施可能要件)
本件特許の請求項4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許発明4で規定された「前記ベース材料層の両面に前記スキン層が形成されている」という発明特定事項について、本件特許の発明の詳細な説明に、その方法が具体的に記載されていない。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明4を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(12)証拠方法
甲第1号証:特開2009-73124号公報
甲第2号証:膜(MEMBRANE),26(3),110-115(2001)
甲第3号証:J.Photopolym.Sci.Technol.,Vol.28,No.6,2015
甲第4号証:特開2003-26850号公報
甲第5号証:特開2014-11769号公報
甲第6号証:特開2013-213198号公報
甲第7号証:特開平7-202439号公報
甲第8号証:J.Photopolym.Sci.Technol.,Vol.29,No.3,2016
甲第9号証:US9,356,341 B1
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

2 取消理由(決定の予告)の概要
令和2年9月18日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。

(1)取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし3及び5ないし12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか又は本件特許の請求項1ないし3及び5ないし14に係る発明は、上記甲1に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)取消理由2(甲4を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし3、5、8、9、11及び12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか又は本件特許の請求項1ないし3、5ないし9及び11ないし14に係る発明は、上記甲4に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3、5ないし9及び11ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)取消理由3(甲6を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第5 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
当合議体は、以下のとおり、上記第4に記載の取消理由1ないし3には理由がないと判断する。
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「多孔質層を有する積層体及びその製造方法、並びに多孔質膜及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。

・「【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも片面上の高分子で構成されている多孔質層とを含む積層体であって、
前記多孔質層における微小孔の平均孔径が0.01?10μmであり、空孔率が30?80%であり、前記微小孔は、連通性の低い独立微小孔である、積層体。」

・「【請求項24】
高分子で構成されている多孔質膜であって、
前記多孔質膜における微小孔の平均孔径が0.01?10μmであり、空孔率が30?80%であり、
前記多孔質膜の厚みが5?200μmであり、且つ
ガーレー値で表して30秒/100cc以上の透気度を有する、多孔質膜。
【請求項25】
前記多孔質膜を構成する高分子成分は、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエステル系樹脂、液晶性ポリエステル系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリベンゾオキサゾール系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂、ポリベンゾチアゾール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、及びアクリル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項24に記載の多孔質膜。」

・「【0001】
本発明は、基材の少なくとも片面上に、高分子で構成され且つ連通性の低い独立した多数の微小孔が形成された多孔質層を有する積層体及びその製造方法、並びに高分子で構成され且つ連通性の低い独立した多数の微小孔が形成された多孔質膜及びその製造方法に関する。これら多孔質層を有する積層体や多孔質膜は、多孔質層や多孔質膜が有する空孔特性をそのまま利用することにより、回路用基板、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、低誘電率材料、アンテナ、セパレーター、クッション材、インク受像シート、絶縁材、断熱材、細胞培養基材等、広範囲な基板材料として利用可能である。」

・「【0044】
本発明の多孔膜積層体は、多数の微小孔からなる多孔質層を有するため柔軟性に優れると共に、優れた空孔特性を有し、しかも該多孔質層は基材に裏打ちされているため、空隙率を有する場合であっても十分な強度を発揮でき、耐折性、取扱性に極めて優れている。 また、本発明の多孔性フィルムは、多数の微小孔からなる多孔質層からなるため柔軟性に優れると共に、優れた空孔特性を有している。空孔は連通性の低い独立した構造になっているため、高い空隙率を有する場合であっても十分な強度を発揮でき、耐折性、取扱性に極めて優れている。」

・「【0045】
本発明によれば、上記特性を有し、膜質が均一な多孔膜積層体や多孔性フィルムを簡易な方法で安定して製造することができる。こうして得られる多孔膜積層体や多孔性フィルムは、上記特性を有するため、低誘電率材料、セパレーター、クッション材、インク受像シート、絶縁材、断熱材等に利用できるほか、多孔質層表面を機能化することにより、回路用基板、放熱材(ヒートシンク、放熱板)、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、アンテナ、細胞培養基材等として広く利用することができる。」

・「【0095】
多孔質層の厚みは、基材が樹脂フィルム又は金属箔の場合は、例えば0.1?100μm、好ましくは0.5?70μm、さらに好ましくは1?50μmである。厚みが薄くなりすぎると安定して製造するのが困難になり、一方厚すぎる場合には孔径分布を均一に制御することが困難になる。
【0096】
多孔質層の厚みは、基材が貫通穴を多数有する基材の場合は、例えば0.1?1000μm、好ましくは0.5?500μm、さらに好ましくは1?200μmである。厚みが薄くなりすぎると安定して製造するのが困難になり、一方厚すぎる場合には孔径分布を均一に制御することが困難になる。」

・「【0203】
次に、本発明の多孔質層単層からなる多孔質膜について説明する。
【0204】
発明の多孔質膜は、高分子で構成されている多孔質膜であって、
前記多孔質膜における微小孔の平均孔径が0.01?10μmであり、空孔率が30?80%であり、
前記多孔質膜の厚みが5?200μmであり、且つ
ガーレー値で表して30秒/100cc以上の透気度を有する、多孔質膜である。
【0205】
この多孔質膜は、前記多孔質膜を構成すべき高分子成分を含んでいる高分子溶液を、基材上にフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に浸漬し、高分子成分からなる層を前記基材から剥離し、次いで、前記高分子成分からなる層を乾燥に付すことを含む、多孔質膜の製造方法によって、得ることができる。
【0206】
前記高分子溶液を基材上にフィルム状に流延した後、相対湿度70?100%、温度15?90℃の雰囲気下に0.2?15分間保持し、その後、これを凝固液中に浸漬することが好ましい。
【0207】
前記高分子溶液は、前記多孔質膜を構成すべき高分子成分8?25重量%、水溶性ポリマー0?10重量%、水0?10重量%、及び水溶性極性溶媒30?82重量%を含んでいる混合溶液が好ましい。
【0208】
高分子成分、基材、及び凝固液については共に、上記の積層体において説明したものと同様のものから選択して用いるとよい。
【0209】
高分子成分からなる層の基材からの剥離工程は、高分子成分からなる層を基材から強制的に剥離してもよいし、あるいは、多孔質層を構成する高分子成分と基材材料との組み合わせを選択して、凝固液中に浸漬すると自然と高分子成分からなる層が基材から剥離するようにしてもよい。
【0210】
強制的な剥離は、多孔質層の厚みを均一にできる傾向があるが、強く引っ張ると多孔質層を破損してしまうおそれがあるので注意が必要となる。
【0211】
自然と剥離するようにした方が、製造は容易であるが、多孔質層の厚みに厚みむらが生じる傾向がある。多孔質層と基材が凝固液に導かれると自然と剥離するようにするためには、基材として撥水性の高いものを使用することが好ましい。例えば、フッ素系フィルム(例えば、テフロン(登録商標)フィルム)、フッ素系樹脂を張り合わせたり、コーティングしたフィルム等を用いることができる。
【0212】
得られる多孔質膜は、前記多孔質膜における微小孔の平均孔径が0.01?10μmであり、空孔率が30?80%であり、前記多孔質膜の厚みが5?200μmであり、且つガーレー値で表して30秒/100cc以上の透気度を有するものとなる。」

・「【0236】
[実施例10:積層体]
ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績社製の商品名「バイロマックスHR11NN」;固形分濃度15重量%、溶剤NMP、溶液粘度20dPa・s/25℃)を製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材であるポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製の商品名「カプトン100H」、厚み25μm)をテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ76μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に3分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させ、次いで基材から剥離させることなく室温下で自然乾燥することによって基材上に多孔質層が積層された積層体を得た。多孔質層の厚みは約32μmであり、積層体の総厚みは約57μmであった。図1は、多孔質層表面の電子顕微鏡写真であり、図2は、積層体の断面の電子顕微鏡写真である。
【0237】
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、基材と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層がポリイミドフィルムに密着しており、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、わずかに孔が見られるだけで、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約4.0μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は68%であった。」

・「【0246】
[実施例14:単層多孔性フィルム]
ポリエーテルイミド系樹脂溶液(日本GEプラスチック製、商品名「ウルテム1000」;固形分濃度20重量%、溶剤NMP)を調整し製膜用の原液とした。ガラス板上に、基材である帝人デュポン社製PETフィルム(HS74ASタイプ、厚み100μm)の易接着面を上にしてテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ102μmの条件でキャストした。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に2分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固させていると、自然と基材から多孔質層が剥離した。その後、室温下で自然乾燥することによって多孔質層だけからなるシートを得た。得られた多孔質層だけからなるシートの厚みは約27μmであった。
【0247】
この多孔性フィルムを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、わずかに孔が見られるだけで、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1.0μmの独立した微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は60%であった。」

・「



イ 甲1発明
甲1に記載された事項を、特に実施例14に関して整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「ポリエーテルイミド系樹脂溶液(日本GEプラスチック製、商品名「ウルテム1000」;固形分濃度20重量%、溶剤NMP)を調整し製膜用の原液とし、ガラス板上に、基材である帝人デュポン社製PETフィルム(HS74ASタイプ、厚み100μm)の易接着面を上にしてテープで固定し、25℃としたこの原液をフィルムアプリケーターを使用して、フィルムアプリケーターと基材とのギャップ102μmの条件でキャストし、キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に2分間保持し、その後、水中に浸漬して凝固させていると、自然と基材から多孔質層が剥離し、その後、室温下で自然乾燥することによって得た厚みは約27μmである多孔質層だけからなり、この多孔性フィルムを電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、わずかに孔が見られるだけで、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1.0μmの独立した微小孔が存在し、多孔質層内部の空孔率は60%である多孔性フィルム。」

(2)甲4に記載された事項等
ア 甲4に記載された事項
甲4には、「多孔質ポリイミド樹脂の製造方法および多孔質ポリイミド樹脂」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0003】最近では、高度情報化社会に対応した大量の情報を蓄積し、その情報を、高速に処理し、高速に伝達するための電子機器において、これらに使用されるポリイミド樹脂にも、高性能化、特に、高周波化に対応した電気的特性として、低誘電率化および低誘電正接化が要求されている。」

・「【0028】また、樹脂溶液の塗布は、例えば、スピンコータ、バーコータなどの公知の塗布方法によればよく、基材の形状や、皮膜の厚さに合わせて、適宜好適な方法により塗布すればよい。また、その乾燥後の厚みが、0.1?50μm、好ましくは、1?25μmとなるように塗布することが好ましい。」

・「【0047】合成例1
攪拌機および温度計を備えた500mLのセパラブルフラスコに、p-フェニレンジアミン10.8gを入れ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)247.2gを加えて攪拌し、p-フェニレンジアミンを溶解させた。
【0048】その溶液に、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4gを徐々に加え、その後、30℃以下の温度で2時間攪拌を続け、濃度14重量%のポリイミド樹脂前駆体溶液を得た。
【0049】合成例2
攪拌機および温度計を備えた500mLのセパラブルフラスコに、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン29.2gを入れ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)360.3gを加えて攪拌し、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンを溶解させた。
【0050】その溶液に、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4gを徐々に加え、その後、30℃以下の温度で2時間攪拌を続け、濃度14重量%のポリイミド樹脂前駆体溶液を得た。
【0051】実施例1
合成例1で得られたポリイミド樹脂前駆体溶液70重量部に対して、合成例2で得られたポリイミド樹脂前駆体溶液30重量部を混合し、ポリイミド樹脂前駆体混合溶液を得た。このポリイミド樹脂前駆体混合溶液に、重量平均分子量500のポリエチレングリコールジメチルエーテルを、ポリイミド樹脂前駆体混合溶液中の樹脂成分100重量部に対して66重量部の割合で配合し、攪拌して透明な均一の樹脂溶液を得た。
【0052】この樹脂溶液を、厚さ25μmのステンレス箔(SUS304)上に、スピンコータを用いて、乾燥後の皮膜の厚さが21μmとなるように塗布し、熱風循環式オーブン中で、95℃で10分間乾燥し、NMPを飛散させた。その後、さらに、熱風循環式オーブン中で、180℃で20分間完全乾燥させ、ポリエチレングリコールジメチルエーテルのミクロ相分離構造を有するポリイミド樹脂前駆体からなる皮膜を形成した。
【0053】次いで、皮膜を、100mm×60mmのシート状に切断し、500mLの耐圧容器に入れ、100℃の雰囲気中、25MPaに加圧した後、圧力を保ったままガス量にして約5L/分の流量で二酸化炭素を注入、排気してポリエチレングリコールジメチルエーテルを抽出する操作を2時間行なった。
【0054】次いで、250℃で24時間予備加熱して、ポリエチレングリコールジメチルエーテルを抽出除去して得たポリイミド樹脂前駆体中の孔(セル)形状が保持(固定)されるようにした。
【0055】その後、1.3Paの真空下で、375℃にて2時間加熱し、多孔質ポリイミド樹脂からなる皮膜を形成した。
【0056】得られた多孔質ポリイミド樹脂からなる皮膜の断面のSEM観察像を画像処理して求めた。その結果を図2に示す。また、その画像処理から求めた孔(セル)のサイズは0.193μmであった。また、誘電率(ε)は、2.539(測定周波数1MHz)であった。なお、これらの測定方法(以下の実施例および比較例において同じ)を下記に示す。
【0057】SEM観察:多孔質ポリイミド樹脂からなる皮膜シートを、集束イオンビーム加工装置(FIB)(セイコーインスツルメンツ(株)製SMI9200)を用い、イオン源として液体金属Gaを用いて、加速電圧30kV、ビーム電圧0.8μAで切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立製作所製S-570)を用いて、加速電圧10kVにて観察した。
【0058】誘電率:横河ヒューレット・パッカード(株)社製HP4284AプレシジョンLCRメーターにより測定した。
【0059】実施例2
重量平均分子量500のポリエチレングリコールジメチルエーテルを、ポリイミド樹脂前駆体混合溶液中の樹脂成分100重量部に対して80重量部の割合で配合することによって、樹脂溶液を調製した以外は、実施例1と同様の操作により、多孔質ポリイミド樹脂からなる皮膜を形成した。
【0060】得られた多孔質ポリイミド樹脂からなる皮膜の断面のSEM観察像を画像処理して求めた。その結果を図3に示す。また、その画像処理から求めた孔(セル)のサイズは0.194μmであった。また、誘電率(ε)は、2.200(測定周波数1MHz)であった。」

・「【図2】



・「【図3】



イ 甲4発明
甲4に記載された事項を、特に実施例1及び2に関して整理すると、甲4には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

「下記合成例1で得られたポリイミド樹脂前駆体溶液70重量部に対して、下記合成例2で得られたポリイミド樹脂前駆体溶液30重量部を混合し、ポリイミド樹脂前駆体混合溶液を得、このポリイミド樹脂前駆体混合溶液に、重量平均分子量500のポリエチレングリコールジメチルエーテルを、ポリイミド樹脂前駆体混合溶液中の樹脂成分100重量部に対して66重量部又は80重量部の割合で配合し、攪拌して透明な均一の樹脂溶液を得、この樹脂溶液を、厚さ25μmのステンレス箔(SUS304)上に、スピンコータを用いて、乾燥後の皮膜の厚さが21μmとなるように塗布し、熱風循環式オーブン中で、95℃で10分間乾燥し、NMPを飛散させ、その後、さらに、熱風循環式オーブン中で、180℃で20分間完全乾燥させ、ポリエチレングリコールジメチルエーテルのミクロ相分離構造を有するポリイミド樹脂前駆体からなる皮膜を形成し、次いで、皮膜を、100mm×60mmのシート状に切断し、500mLの耐圧容器に入れ、100℃の雰囲気中、25MPaに加圧した後、圧力を保ったままガス量にして約5L/分の流量で二酸化炭素を注入、排気してポリエチレングリコールジメチルエーテルを抽出する操作を2時間行ない、次いで、250℃で24時間予備加熱して、ポリエチレングリコールジメチルエーテルを抽出除去して得たポリイミド樹脂前駆体中の孔(セル)形状が保持(固定)されるようにし、その後、1.3Paの真空下で、375℃にて2時間加熱し、形成した多孔質ポリイミド樹脂からなる、孔(セル)のサイズ0.193μm又は0.194μm、誘電率(ε)2.539(測定周波数1MHz)又は2.200(測定周波数1MHz)である皮膜。
ただし、孔(セル)のサイズ0.193μm、誘電率(ε)2.539(測定周波数1MHz)はポリエチレングリコールジメチルエーテルを66重量部の割合で配合した場合の値であり、孔(セル)のサイズ0.194μm、誘電率(ε)2.200(測定周波数1MHz)はポリエチレングリコールジメチルエーテルを80重量部の割合で配合した場合の値である。

合成例1:攪拌機および温度計を備えた500mLのセパラブルフラスコに、p-フェニレンジアミン10.8gを入れ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)247.2gを加えて攪拌し、p-フェニレンジアミンを溶解させ、その溶液に、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4gを徐々に加え、その後、30℃以下の温度で2時間攪拌を続け、得た濃度14重量%のポリイミド樹脂前駆体溶液。

合成例2:攪拌機および温度計を備えた500mLのセパラブルフラスコに、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン29.2gを入れ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)360.3gを加えて攪拌し、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンを溶解させ、その溶液に、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4gを徐々に加え、その後、30℃以下の温度で2時間攪拌を続け、得た濃度14重量%のポリイミド樹脂前駆体溶液。」

(3)甲6に記載された事項等
ア 甲6に記載された事項
甲6には、「多孔質樹脂シート及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む単層の多孔質樹脂シートであって、厚みが1.0mm以上であり、1GHzにおける比誘電率が2.00以下であり、誘電正接が0.0050以下であり、引張弾性率が200MPa以上であることを特徴とする多孔質樹脂シート。」

・「【0001】
本発明は、低い比誘電率および誘電正接を有する多孔質樹脂シートとその製造方法に関する。この多孔質樹脂シートは、回路用基板、帯電話用アンテナなどの高周波回路に使用される低誘電率材料、電磁波シールドや電磁波吸収体などの電磁波制御材、断熱材等の広範囲な基板材料として利用可能である。」

・「【0026】
前記ポリイミド前駆体は、略等モルの有機テトラカルボン酸二無水物とジアミノ化合物(ジアミン)とを、通常、有機溶媒中、0?90℃で1?24時間程度反応させることにより得られる。前記有機溶媒として、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒が挙げられる。」

・「【0046】
本発明の多孔質樹脂シートの厚さは1.0mm以上であり、好ましくは1.2mm以上、さらに好ましくは1.3mm以上である(通常3.0mm以下)。多孔質樹脂シートの厚さが1.0mm以上であれば、例えば帯電話用アンテナに使用した場合、アンテナ特性において反射特性が低い方向にシフトし広帯域化するという利点があり、1.0mm未満であると反射特性の増大や広帯域化が得られない。」

・「【0071】
実施例1
ポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg:217℃、比重:1.27、非晶性)を二軸押出機により厚さ0.8mmの単層シートとした。未発泡の単層シートを、500ccの耐圧容器に入れ、槽内を120℃、25MPaの二酸化炭素雰囲気中に5時間保持することにより、二酸化炭素を含浸させた。その後、300MPa/秒でこのシートを大気圧に戻した後、連続的に210℃のオイル浴中に60秒間通し、気泡を成長させ、すばやく取り出し、その後氷を入れた水により急激に冷却して、厚さ1.81mmのポリエーテルイミドからなる多孔質樹脂シートを得た。得られた多孔質樹脂シートの表面には、厚さ1μmの無孔層を有していた。」

・「【0073】
比較例1
厚さが0.035mmである単層シートを用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ0.065mmのポリエーテルイミドからなる多孔質樹脂シートを得た。この多孔質樹脂シート10枚をエポキシ接着シート(日東シンコー社製、「B-EL10#40」)により積層し、オートクレーブにより150℃、15kg/cm^(2)の条件で3時間処理し、厚さ1.01mmの積層シートを作製した。得られた多孔質樹脂シートの表面には、厚さ1μmの無孔層を有していた。」

・「【0074】
【表1】



イ 甲6発明
甲6には、実施例1の多孔質樹脂シートとして、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認める。

「ポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg:217℃、比重:1.27、非晶性)を二軸押出機により厚さ0.8mmの単層シートとし、未発泡の単層シートを、500ccの耐圧容器に入れ、槽内を120℃、25MPaの二酸化炭素雰囲気中に5時間保持することにより、二酸化炭素を含浸させ、その後、300MPa/秒でこのシートを大気圧に戻した後、連続的に210℃のオイル浴中に60秒間通し、気泡を成長させ、すばやく取り出し、その後氷を入れた水により急激に冷却して、得た厚さ1.81mmで表面には厚さ1μmの無孔層を有している比誘電率1.81のポリエーテルイミドからなる多孔質樹脂シート。」

2 取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「多孔性フィルム」は、「ポリエーテルイミド系樹脂溶液(日本GEプラスチック製、商品名「ウルテム1000」;固形分濃度20重量%、溶剤NMP)を調整し製膜用の原液」とし、「多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1.0μmの独立した微小孔が存在」するものであり、【0001】及び【0045】によると「低誘電率材料」として利用可能なものであるから、本件特許発明1における「ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルム」に相当する。
甲1発明における「多孔性フィルム」は、「電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層の表面には基本的にスキン層が形成されており、わずかに孔が見られる」ものであるから、本件特許発明1における「前記ベース材料層の少なくとも一方の表面に、該ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されており」という発明特定事項を有するものである。
甲1発明における「多孔性フィルム」は、「多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1.0μmの独立した微小孔が存在」するものであるから、本件特許発明1における「前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり」という発明特定事項を有するものである。
甲1発明における「多孔性フィルム」は、「ポリエーテルイミド系樹脂溶液(日本GEプラスチック製、商品名「ウルテム1000」;固形分濃度20重量%、溶剤NMP)を調整し製膜用の原液とし」て得るものであるから、本件特許発明1における「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれ」という発明特定事項を有するものである。
甲1発明における「多孔性フィルム」の表面のスキン層は、スキン層である以上厚い訳がなく、本件特許発明1における「前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの10%未満である」という発明特定事項を有する蓋然性は高い。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記ベース材料層の少なくとも一方の表面に、該ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されており、
前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれ、
前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの10%未満である、
前記フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点1-2>
本件特許発明1においては、「前記スキン層の厚さは1?5μmであり」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点1-3>
本件特許発明1においては、フィルムの「厚さが50μm?500μm」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、上記相違点について検討する。
相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項について、甲1には甲1発明が有している又は有している蓋然性が高いといえるような記載はないし、そのようなことが本件特許の優先日の時の当業者の技術常識であるともいえない。
したがって、相違点1-1は実質的な相違点である。
また、甲1には、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ」(本件特許の発明の詳細な説明の【0015】)、「優れた電気特性を有するものであるとともに、液浸性や耐プレス性に優れ、加工後も高い絶縁抵抗値を示すことから、回路基板加工性の点でも優れている」(同【0059】)という甲1発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、相違点1-2及び1-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件特許発明2及び4ないし12について
本件特許発明2及び4ないし12は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件特許発明14について
本件特許発明14は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1、2及び4ないし12は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件特許発明1、2、4ないし12及び14は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1、2、4ないし12及び14に係る特許は、取消理由1によっては取り消すことはできない。

3 取消理由2(甲4を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲4発明を対比する。
甲4発明である「皮膜」は、「下記合成例1で得られたポリイミド樹脂前駆体溶液70重量部に対して、下記合成例2で得られたポリイミド樹脂前駆体溶液30重量部を混合し、ポリイミド樹脂前駆体混合溶液を得、このポリイミド樹脂前駆体混合溶液に、重量平均分子量500のポリエチレングリコールジメチルエーテルを、ポリイミド樹脂前駆体混合溶液中の樹脂成分100重量部に対して66重量部又は80重量部の割合で配合し、攪拌して透明な均一の樹脂溶液を得、この樹脂溶液を、厚さ25μmのステンレス箔(SUS304)上に、スピンコータを用いて、乾燥後の皮膜の厚さが21μmとなるように塗布し、熱風循環式オーブン中で、95℃で10分間乾燥し、NMPを飛散させ、その後、さらに、熱風循環式オーブン中で、180℃で20分間完全乾燥させ、ポリエチレングリコールジメチルエーテルのミクロ相分離構造を有するポリイミド樹脂前駆体からなる皮膜を形成し、次いで、皮膜を、100mm×60mmのシート状に切断し、500mLの耐圧容器に入れ、100℃の雰囲気中、25MPaに加圧した後、圧力を保ったままガス量にして約5L/分の流量で二酸化炭素を注入、排気してポリエチレングリコールジメチルエーテルを抽出する操作を2時間行ない、次いで、250℃で24時間予備加熱して、ポリエチレングリコールジメチルエーテルを抽出除去して得たポリイミド樹脂前駆体中の孔(セル)形状が保持(固定)されるようにし、その後、1.3Paの真空下で、375℃にて2時間加熱し、形成した」「孔(セル)のサイズ0.193μm又は0.194μm、誘電率(ε)2.539(測定周波数1MHz)又は2.200(測定周波数1MHz)」のものであるから、本件特許発明1における「ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルム」に相当する。
甲4発明である「皮膜」は、原料及び製造方法が本件特許発明1と完全には同じでないとしても概略同じであること並びに図2及び3からみて、表面に平滑なスキン層が形成されているといえるから、本件特許発明1における「前記ベース材料層の少なくとも一方の表面に、該ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されており」という発明特定事項を有するものである。
甲4発明である「皮膜」は、原料及び製造方法が本件特許発明1と完全には同じでないとしても概略同じであること並びに図2及び3からみて、独立気泡構造を有するといえるから、本件特許発明1における「前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり」という発明特定事項を有するものである。
甲4発明である「皮膜」は、「多孔質ポリイミド樹脂からなる」ものであるから、本件特許発明1における「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれ」という発明特定事項を有するものである。
甲4発明である「皮膜」の表面のスキン層の厚みが「皮膜」全体の厚さの10%未満であることは図2及び3からみて明らかであるし、仮にそうでないとしても、スキン層は一般に大きな厚みを有しないから、本件特許発明1における「前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの10%未満である」という発明特定事項を有する蓋然性は高い。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記ベース材料層の少なくとも一方の表面に、該ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されており、
前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれ、
前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの10%未満である、
前記フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点4-1>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり」と特定されているのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点4-2>
本件特許発明1においては、「前記スキン層の厚さは1?5μmであり」と特定されているのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点4-3>
本件特許発明1においては、フィルムの「厚さが50μm?500μm」と特定されているのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、上記相違点について検討する。
相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項について、甲4には甲4発明が有している又は有している蓋然性が高いといえるような記載はないし、そのようなことが本件特許の優先日の時の当業者の技術常識であるともいえない。
したがって、相違点4-1は実質的な相違点である。
また、甲4には、甲4発明において、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲4発明において、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ」、「優れた電気特性を有するものであるとともに、液浸性や耐プレス性に優れ、加工後も高い絶縁抵抗値を示すことから、回路基板加工性の点でも優れている」という甲4発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、相違点4-2及び4-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲4発明であるとはいえないし、甲4発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件特許発明2、5、8、9、11及び12について
本件特許発明2、5、8、9、11及び12は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲4発明であるとはいえないし、甲4発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件特許発明6、7及び14について
本件特許発明6、7及び14は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲4発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1、2、5、8、9、11及び12は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件特許発明1、2、5ないし9、11、12及び14は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1、2、5ないし9、11、12及び14に係る特許は、取消理由2によっては取り消すことはできない。

4 取消理由3(甲6を主引用文献とする進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲6発明を対比する。
甲6発明における「多孔質樹脂シート」は、「ポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg:217℃、比重:1.27、非晶性)」からなり、「比誘電率1.81」のものであるから、本件特許発明1における「ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルム」に相当する。
甲6発明における「多孔質樹脂シート」は、「厚さ1μmの無孔層を有している」ものであるから、本件特許発明1における「前記ベース材料層の少なくとも一方の表面に、該ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されており」という発明特定事項を有するものである。
甲6発明における「多孔質樹脂シート」は、「ポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg:217℃、比重:1.27、非晶性)」からなるものであるから、本件特許発明1における「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれ」という発明特定事項を有するものである。
甲6発明における「多孔質樹脂シート」の「厚さ1μmの無孔層」は全体の厚さが「1.81mm」(1801μm)であるから、甲6発明は、本件特許発明1における「前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの10%未満である」という発明特定事項を有するものである。
甲6発明における「多孔質樹脂シート」は、「厚さ1μmの無孔層を有している」ものであるから、本件特許発明1における「前記スキン層の厚さは1?5μmであり」という発明特定事項を有するものである。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記ベース材料層の少なくとも一方の表面に、該ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されており、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれ、
前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの10%未満であり、
前記スキン層の厚さは1?5μmである、
前記フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点6-1>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり」と特定されるのに対し、甲6発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点6-2>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり」と特定されているのに対し、甲6発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点6-3>
本件特許発明1においては、フィルムの「厚さが50μm?500μm」と特定されているのに対し、甲6発明においては、「厚さ1.81mm」と特定されている。

イ 判断
そこで、事案に鑑み相違点6-3から検討する。
甲6には、甲6発明において、相違点6-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
むしろ、甲6の【請求項1】の「厚みが1.0mm以上であり」及び【0046】の「本発明の多孔質樹脂シートの厚さは1.0mm以上であり、好ましくは1.2mm以上、さらに好ましくは1.3mm以上である(通常3.0mm以下)。多孔質樹脂シートの厚さが1.0mm以上であれば、例えば帯電話用アンテナに使用した場合、アンテナ特性において反射特性が低い方向にシフトし広帯域化するという利点があり、1.0mm未満であると反射特性の増大や広帯域化が得られない。」という記載によると、甲6発明において、相違点6-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することには阻害要因があるといえる。
したがって、甲6発明において、相違点6-3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ」、「優れた電気特性を有するものであるとともに、液浸性や耐プレス性に優れ、加工後も高い絶縁抵抗値を示すことから、回路基板加工性の点でも優れている」という甲6発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、相違点6-1及び6-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲6発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件特許発明2、4ないし12及び14について
本件特許発明2、4ないし12及び14は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲6発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)取消理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1、2、4ないし12及び14は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1、2、4ないし12及び14に係る特許は、取消理由3によっては取り消すことはできない。

第6 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、請求項14についての申立理由1(甲1に基づく新規性)、申立理由3(甲3に基づく新規性)、申立理由4(甲3を主引用文献とする進歩性)、申立理由7(甲6に基づく新規性)、申立理由9(サポート要件)、申立理由10(明確性要件)及び申立理由11(実施可能要件)である。
そこで、これらの申立理由について検討する。

1 請求項14についての申立理由1(甲1に基づく新規性)について
本件特許発明14は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記第5 2(1)のとおり、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえない。
したがって、本件特許発明14は、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項14に係る特許は申立理由1によっては取り消すことはできない。

2 申立理由3(甲3に基づく新規性)及び申立理由4(甲3を主引用文献とする進歩性)について
(1)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、おおむね次の事項が記載されている。なお、原文の摘記は省略し、特許異議申立人が提出した翻訳文を摘記する。図及び表の摘記も省略した。

・「フレキシブルプリント回路用の大面積多孔質超低誘電率ポリイミド基板を製造するための高圧CO_(2)ガス雰囲気下での高強度UV露光装置の開発」(第747ページのタイトル)

・「図4は、6.5MPaのCO_(2)圧力とUVレベル80(-130mw/cm^(2))で調整した多孔性PIフィルムの断面のSEM顕微鏡写真を示している。ほとんどの気孔は互いに隔離されているが、いくつかの気孔は相互につながっている。」(第751ページ左欄中段)

・「図4 6.5MPaのCO_(2)圧力とUVレベル80で調整した多孔性ポリイミドフィルムの断面のSEM顕微鏡写真。」(第751ページ左欄下から1ないし3行)

・「図5(a)-(d)は、PIフィルムの多孔質構造に対する予備乾燥時間の影響を示している。予備乾燥時間は、2.2装置セクションのシーケンス(1)で予熱された可動プレート上の溶媒を蒸発させる時間である。」(第751ページ右欄第10ないし14行)

・「図5 多孔質構造に対する予備乾燥時間の影響」(第752ページ左欄下から第1及び2行)

・「表1 予備乾燥時間の孔構造に及ぼす影響」(第752ページ右欄上段)

・「図6 開発したプロセスを使用して調整した多孔質ポリイミドフィルム上の電気回路のSEM顕微鏡写真」(第753ページ左欄下から1ないし3行)

イ 甲3発明
甲3に記載された事項を整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。なお、特許異議申立人が提出した甲3の翻訳文は全文訳ではなく、翻訳文同士の関係が不明であるから、特許異議申立人の認定したような発明は認定できず、当審で適切と考える発明を甲3発明として認定した。

「ほとんどの気孔は互いに隔離されているが、いくつかの気孔は相互につながっているフレキシブルプリント回路用の大面積多孔質超低誘電率ポリイミド基板。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれる、
前記フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-1>
本件特許発明1においては、「前記ベース材料層の少なくとも一方の表面に、該ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されており」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-2>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-3>
本件特許発明1においては、「前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの10%未満であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-4>
本件特許発明1においては、「前記スキン層の厚さは1?5μmであり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-5>
本件特許発明1においては、フィルムの「厚さが50μm?500μmである」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、事案に鑑み相違点3-2から検討する。
相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項について、甲3には甲3発明が有している又は有している蓋然性が高いといえるような記載はないし、そのようなことが本件特許の優先日の時の当業者の技術常識であるともいえない。
したがって、相違点3-2は実質的な相違点である。
また、甲3には、甲3発明において、相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲3発明において、相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ」、「優れた電気特性を有するものであるとともに、液浸性や耐プレス性に優れ、加工後も高い絶縁抵抗値を示すことから、回路基板加工性の点でも優れている」という甲3発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、相違点3-1及び3-3ないし3-5について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明であるとはいえないし、甲3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件特許発明2、4及び6ないし12について
本件特許発明2、4及び6ないし12は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明であるとはいえないし、甲3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)本件特許発明14について
本件特許発明14は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)申立理由3及び4についてのむすび
したがって、本件特許発明1、2、4及び6ないし12は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件特許発明1、2、4、6ないし12及び14は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1、2、4、6ないし12及び14に係る特許は申立理由3及び4によっては取り消すことはできない。

3 申立理由7(甲6に基づく新規性)について
甲6には、上記第5 1(3)イのとおりの甲6発明が記載されている。
そして、本件特許発明1と甲6発明を対比するに、両者の一致点及び相違点は、上記第5 4(1)アのとおりである。
そして、上述のとおり、相違点6-3は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲6発明であるとはいえない。
また、本件特許発明2及び5ないし12は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲6発明であるとはいえない。
したがって、本件特許発明1、2及び5ないし12は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1、2及び5ないし12に係る特許は申立理由7によっては取り消すことはできない。

4 申立理由9(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。

(3)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0010】によると、本件特許発明1の発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有することにより、ミリ波アンテナ用として有用な多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを提供すること」である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0011】ないし【0014】には、本件特許発明1に対応する記載があり、同【0017】ないし【0033】には、本件特許発明1の各発明特定事項について具体的な記載があり、同【0034】ないし【0059】には、本件特許発明1の実施例が記載され、該実施例においてミリ波の高周波数において低い誘電率を有することを確認している。
そうすると、当業者は「ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、前記ベース材料層の少なくとも一方の表面に、該ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されており、前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり、前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれ、前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの10%未満であり、前記スキン層の厚さは1?5μmであり、厚さが50μm?500μmである、前記フィルム」は発明の課題を解決できると認識する。
そして、本件特許発明6ないし10は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明6ないし10に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、サポート要件に適合する。
なお、本件特許発明6ないし10で規定された「空孔率」、「平均孔径」、「半値全幅」及び「誘電率」が、本件特許の発明の詳細な説明において何ら実証されていないとしても、上記判断は左右されない。

(4)申立理由9についてのむすび
したがって、本件特許の請求項6ないし10に係る特許は申立理由9によっては取り消すことはできない。

5 申立理由10(明確性要件)について
(1)判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。

(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1(訂正前の請求項3に記載された発明特定事項が記載されたものである。)の「スキン層の厚さは1?5μmである」という記載の意味は、その記載どおりであって、不明確なものではないし、本件特許の請求項1には他に不明確な記載はなく、また、本件特許の発明の詳細な説明に本件特許の請求項1に記載された各発明特定事項について具体的に記載されているから、本件特許発明1がどのようなものかを当業者は明確に理解することができる。
したがって、本件特許発明1に関して、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載は明確性要件を充足する。

(3)申立理由10についてのむすび
したがって、申立理由10によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

6 申立理由11(実施可能要件)について
(1)判断基準
本件特許発明4は「フィルム」という物の発明であるところ、物の発明の実施とは、その物の生産及び使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。

(2)実施可能要件の判断
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、おおむね次の記載がある。

・「【0017】
本発明によるフィルムは、ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、ベース材料層の表面に、ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されているものである。
発明によるフィルムにおけるスキン層は、ベース材料層の一方又は両方の表面に形成される層であって、ベース材料層を構成するポリマー材料と同じポリマー材料により構成されるものである。本発明によるフィルムが備えるベース材料層が、微細な空孔が分散形成されているものであるのに対し、スキン層にはそのような空孔がほとんど又は全く存在せず、実質的に平滑であることが、例えば顕微鏡観察などにより確認される。
本発明によるフィルムにおいて、スキン層の厚さは、フィルム全体の誘電率を上昇させないという観点から、フィルム全体の厚さの10%未満であるのが望ましく、5%以下であるのがさらに望ましい。また、スキン層の厚さは、フィルム全体の誘電率を低く抑えながらも平滑なスキン層を形成するという観点から、1?5μmであるのが望ましい。スキン層の厚さは、走査電子顕微鏡(SEM)観察のような方法により測定することができる。
スキン層は、その上に配線を形成する際のメッキ加工の容易性等の観点から、液体不透過性であるのが望ましい。
本発明によるフィルムは、高いアンテナ利得を得るために低誘電化されていることが望ましい。この観点から、その空孔率が望ましくは60%以上である。フィルムの空孔率は、95%以下であるのが望ましい。フィルムの空孔率は、電子比重計にて測定した無孔フィルムの比重と、多孔フィルムの比重とより、計算で求めることができる。
本発明によるフィルムはまた、空孔が粗大化すると、多孔質のフィルムの曲げ時の機械強度が著しく低下する、という観点から、空孔の平均孔径が10μm以下である。さらに、本発明によるフィルムにおいて、スキン層は、多孔質のフィルムの表面にアンテナ用の配線を形成する際に有用であるが、その際、スキン層の表面に凹凸があると、その上に形成された配線にも凹凸が形成されてしまう。このため、スキン層は平滑である必要がある。一方、スキン層が厚いと、フィルム全体の誘電率が上昇してしまうため、スキン層は薄くする必要がある。本発明によれば、空孔の平均孔径を10μm以下とすることにより、多孔質のフィルムの表面に薄く平滑なスキン層を形成することが容易に実現できる。
また、多孔質のフィルムの曲げ時の機械強度をより向上させる観点から、さらには、スキン層の平滑性を一層向上させる観点から、空孔の孔径分布の半値全幅が10μm以下であるのが望ましい。空孔の平均孔径や半値全幅は、フィルムの断面SEM写真の画像解析により測定することができる。
・・・(略)・・・
【0027】
前記多孔化剤の添加量は、空孔の平均孔径を十分に小さなものとする観点から、ポリイミド前駆体100重量部に対して200重量部以下とするのが好ましい。
・・・(略)・・・
【0033】
このような方法により作製し得る本発明によるフィルムは、低誘電化の観点から、60GHzで測定した誘電率が、2.0以下であるのが望ましい。フィルムの誘電率は、開放型共振器法のような方法により測定することができる。
また、上記の方法については、前記ポリマーがポリイミドである場合について詳細に述べたが、本発明によるフィルムは、乾燥誘起相分離、超臨界抽出法が適用できるとの観点から、前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれるものであるのが好ましい。
本発明によるフィルムは、塗布・乾燥工程によって製膜するという性質上、厚さが50μm?500μmであるのが望ましい。
本発明によるフィルムは、ミリ波アンテナ用の基板に使用するフィルムとして、好適に使用することができる。」

・「【0043】
参考例
(ポリイミド前駆体[BPDA/PDA, DPE]の合成)
撹拌機および温度計を備えた1000mlのフラスコに、p-フェニレンジアミン(PDA)43.2 gおよびジアミノジフェニルエーテル(DPE)20gをいれ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)768.8gを加えて撹拌し、溶解させた。次いで、この溶液にビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)147gを徐々に添加し、40℃にて2時間撹拌し、反応促進した。さらに75℃にて12時間撹拌し、エージング処理を行い、固形分濃度20wt%のポリイミド前駆体溶液を得た。このポリイミド前駆体の組成は物質量比でPDA:DPE:BPDA=0.8mol:0.2mol:1molである。
【0044】
実施例1
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリプロピレングリコール(日油(株)製 グレード:D400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部添加し、さらにジメチルアセトアミドを400重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。得られた溶液にイミド化触媒として2-メチルイミダゾールを4.2重量部、化学イミド化剤として安息香酸無水物を5.4重量部添加し、配合液とした。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、85℃で15分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリプロピレングリコールの抽出除去および残存NMPの相分離、孔形成を促進した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0045】
実施例2
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリプロピレングリコール(日油(株)製 グレード:D400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部添加し、さらにジメチルアセトアミドを400重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。得られた溶液にイミド化触媒として2-メチルイミダゾールを4.2重量部、化学イミド化剤として安息香酸無水物を1.1重量部添加し、配合液とした。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、85℃で15分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリプロピレングリコールの抽出除去および残存NMPの相分離、孔形成を促進した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0046】
実施例3
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリプロピレングリコール(日油(株)製 グレード:D400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部添加し、さらにジメチルアセトアミドを400重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、80 ℃で15分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリプロピレングリコールを抽出除去した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0047】
実施例4
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリオキシエチレンジメチルエーテル(日油(株)製 グレード:MM400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部添加し、さらにNMPを150重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。得られた溶液にイミド化触媒として2-メチルイミダゾールを4.2重量部添加し、配合液とした。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、120℃で30分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリオキシエチレンジメチルエーテルの抽出除去および残存NMPの相分離、孔形成を促進した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0048】
実施例5
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリオキシエチレンジメチルエーテル(日油(株)製 グレード:MM400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部、および粒径2μm程度のPTFE粉末を10重量部添加し、さらにNMPを150重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。得られた溶液にイミド化触媒として2-メチルイミダゾールを4.2重量部添加し、配合液とした。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、120℃で30分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリオキシエチレンジメチルエーテルの抽出除去および残存NMPの相分離、孔形成を促進した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0049】
比較例
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリプロピレングリコール(日油(株)製 グレード:D400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し300重量部添加し、さらにジメチルアセトアミドを400重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、140℃で20分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリプロピレングリコールを抽出除去した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0050】
実施例1?3及び比較例で得られたフィルムの断面と表面をSEMで観察した結果を、図1a及び図1b(実施例1)、図2a及び図2b(実施例2)、図3a及び図3b(実施例3)、及び図4a及び図4b(比較例)に示す。それぞれの図において、aは断面SEM像、bは表面SEM像である。
図から、本発明の実施例で得られたフィルムには、断面において空孔が存在せず、表面が平滑なスキン層が形成されているのに対し、比較例で得られたフィルムにはそのようなスキン層が存在せず、断面には一様に空孔が存在し、表面に凹凸が存在することが認められる。
SEM観察の結果から、実施例1?3で得られたフィルムに形成されているスキン層の厚みは、表1に示すような厚みを有するものであった。
【0051】
【表1】
・・・(略)・・ ・
【0052】
さらに、実施例1?3及び比較例で得られたフィルムについて測定された結果を、表2に示す。
【0053】
【表2】
・・・(略)・・ ・
【0054】
結果から明らかであるように、本発明によるフィルムは、高周波で低い誘電率及び誘電正接を示し、優れた電気的特性を有するものである。
また、実施例及び比較例で得られたフィルムについて、メッキ加工性を評価したところ、比較例で得られたフィルムの場合、液浸の問題があったが、実施例で得られたフィルムの場合にはそのような問題はなく、良好なメッキ加工を行うことができた。
さらに、本発明によるフィルムは、曲げ時の機械物性の点でも優れている。
【0055】
次に、実施例4及び5で得られたフィルムの断面をSEMで観察した結果を、図5(実施例4)及び図6(実施例5)に示す。
SEM観察の結果から、実施例4及び5で得られたフィルムに形成されているスキン層の厚みは、表3に示すような厚みを有するものであった。
【0056】
【表3】
・・・(略)・・・
【0057】
さらに、実施例4及び5で得られたフィルムについて測定された結果を、表4に示す。
【0058】
【表4】
・・・(略)・・・
【0059】
結果から明らかであるように、多孔構造が独泡構造である本発明によるフィルムは、優れた電気的特性を有するものであるとともに、液浸性や耐プレス性に優れ、加工後も高い絶縁抵抗値を示すことから、回路基板加工性の点でも優れている。」

イ 判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0017】ないし【0033】には、本件特許発明4の各発明特定事項、原料及び製法についての具体的な記載があり、同【0043】ないし【0059】には、実施例1ないし5として、ベース材料層の表面に実質的に平滑なスキン層が形成されたフィルムの具体的な製法が記載されている。
そして、実施例1ないし3及び比較例についての記載を比べることにより、当業者であれば、スキン層を形成するために必要とされる条件を理解することができる。
すなわち、多孔化剤であるポリプロピレングリコールをポリイミド樹脂前駆体に添加する際に、実施例1ないし3では、ポリイミド樹脂前駆体100重量部に対しポリプロピレングリコールを200重量部添加しているのに対し、比較例では、ポリイミド樹脂前駆体100重量部に対しポリプロピレングリコールを300重量部添加していることから、スキン層を形成するためには、ポリイミド前駆体に対する多孔化剤の量が多すぎてはいけないということが理解される。
塗工した配合液を乾燥させて相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製する際、実施例1ないし3では、85℃で15分間熱風乾燥させているのに対し、比較例では、140℃で20分間熱風乾燥させていることから、乾燥条件をあまり過酷なものとしてはいけないということが理解される。
本件特許の発明の詳細な説明の【0017】及び【0027】の記載から、実質的に平滑なスキン層を形成するためには、多孔化剤の添加量をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部以下とすることなどにより、空孔の平均孔径を10μm以下といった十分に小さなものとすればよいことが理解される。
さらに、当業者であれば技術常識又は経験則等から、フィルムの一方の面と他方の面とで、多孔化剤が抽出される際の条件を異なるものとすることなどにより、両面のスキン層の形成の有無を調整できるものである。

したがって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明4に係る物を生産し、使用することができる程度の記載があるといえ、本件特許発明4に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。

(3)申立理由11についてのむすび
したがって、申立理由11によっては、本件特許の請求項4に係る特許を取り消すことはできない。

第7 令和3年2月4日に特許異議申立人が提出した意見書において特許異議申立人の主張する新たな取消理由について
令和3年2月4日に特許異議申立人が提出した意見書において、特許異議申立人は、「スキン層厚さ」、「スキン層」、「独泡構造」及び「液浸長」について、新たな取消理由を主張するので、これらについて検討する。

1 「スキン層厚さ」についてのサポート要件違反及び明確性要件違反、「スキン層」についての明確性要件違反、サポート要件違反及び実施可能要件違反並びに「独泡構造」についてのサポート要件違反及び明確性要件違反について
そもそも、これらの理由は、訂正請求に付随して生じた理由ではないので、令和2年12月25日付け通知書で指摘したとおり、新たな取消理由として採用されないものである。
なお、これらの理由を検討したが、いずれも理由がない。

2 「液浸長」についての明確性要件違反について
特許異議申立人の「液浸長」についての明確性要件違反の主張は、おおむね、次のとおりである。

・多孔質構造を有するフィルムの液浸性については、粘度、表面張力等の浸透液の特性に大きく依存することは、技術常識であり、この液浸性は、浸透液の温度、浸漬のさせ方、すなわち浸漬する際のフィルム面積等にも大きく依存することも技術常識であるところ、本件特許発明1においては、「断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下である」と規定されているだけであるので、本件特許発明1並びに請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2、4ないし12及び14は不明確である。

そこで、検討する。
本件特許の発明の詳細な説明に、「本発明によるフィルムの多孔質の構造が独泡構造であることは、JISに規定されている浸透探傷試験(JIS Z 2343-1等)で用いられるような浸透液を使用して、確認することができる。好ましくは、ポリマー表面に対する接触角が25°以下、粘度が2.4mm^(2)/s(37.8℃)である浸透液を使用する。すなわち、多孔質フィルムを表面に対してほぼ垂直に切断して多孔質断面を露出させ、この断面を赤色浸透液などの浸透液に5分間浸漬後、液浸長(断面から浸透液が浸透した距離)を測定する。この液浸長が500μm以下、さらには300μm以下である場合には、本発明によるフィルムの多孔質の構造は独泡構造であるといえる。」(【0013】)及び「(液浸性の評価)ポリイミド多孔体断面を剃刀にて切断して、露出させた。赤色浸透液(太洋物産(株)製NRC-ALII)に5分間浸漬後、表面に付着した浸透液をふき取った。ポリイミド多孔体をさらに露出断面に対し垂直に切断し、液浸長を光学顕微鏡により評価した。」(【0040】)と記載されていることから、本件特許発明1における「液浸長」がどのようなものかは当業者であれば明確に理解することができる。

なお、特許異議申立人は、「JISに規定されている浸透探傷試験(JIS Z 2343-1等)で用いられるような浸透液を使用」という記載も不明確である旨主張するが、この記載自体に不明確な記載はなく、該主張は採用できない。
また、特許異議申立人は、接触角が異なる多種のポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミドに対しては、この種類に応じて液浸長が異なったものとなるので、単に「液浸長が500μm以下」という規定は不明確である旨主張するが、当業者であれば、当然、フィルムを構成するポリマーの種類に適した浸透液を選択し、「液浸長」を測定するものであるから、「液浸長が500μm以下」という規定が不明確であるとはいえず、該主張も採用できない。
さらに、特許異議申立人は、「気孔構造の特徴」を「液浸長の数値」で普遍的に表現することはできない旨の主張もするが、本件特許発明1は「断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が液浸長が500μm以下」と規定するものであり、その規定を満たすかどうかで発明を特定しているものなので、「気孔構造の特徴」を「液浸長の数値」で普遍的に表現できるかどうかは本件特許発明1の明確性とは関係がない。

したがって、本件特許発明1に関して、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、本件特許発明1並びに請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2、4ないし12及び14に関して、特許請求の範囲の記載は明確性要件を充足する。
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する「液浸長」についての明確性要件違反では、本件特許の請求項1、2、4ないし12及び14に係る特許を取り消すことはできない。

第8 結語
上記第5ないし7のとおり、本件特許の請求項1、2、4ないし12及び14に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2、4ないし12及び14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項3及び13に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項3及び13に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記ベース材料層の少なくとも一方の表面に、該ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されており、
前記フィルムの多孔質の構造が独泡構造であり、
前記フィルムの多孔質の構造が、多孔質の断面を浸透液に5分間浸漬後の液浸長が500μm以下となるものであり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれ、
前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの10%未満であり、
前記スキン層の厚さは1?5μmであり、
厚さが50μm?500μmである、
ことを特徴とする、前記フィルム。
【請求項2】
前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの5%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記ベース材料層の両面に前記スキン層が形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項5】
前記スキン層は液体不透過性であることを特徴とする、請求項1、2及び4のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
前記ベース材料層の空孔率が60%以上であることを特徴とする、請求項1、2及び4?5のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項7】
前記ベース材料の空孔率が95%以下であることを特徴とする、請求項1、2及び4?6のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項8】
前記ベース材料層の平均孔径が10μm以下であることを特徴とする、請求項1、2及び4?7のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項9】
前記ベース材料層の孔径分布の半値全幅が10μm以下であることを特徴とする、請求項1、2及び4?8のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項10】
60GHzで測定した誘電率が2.0以下であることを特徴とする、請求項1、2及び4?9のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項11】
前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであることを特徴とする、請求項1、2及び4?10のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項12】
前記有機溶媒がN-メチルピロリドンであることを特徴とする、請求項11に記載のフィルム。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
ミリ波アンテナ用の基板に使用するフィルムであることを特徴とする、請求項1、2及び4?12のいずれか1項に記載のフィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-04-23 
出願番号 特願2017-76009(P2017-76009)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
P 1 651・ 536- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 横島 隆裕  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 大畑 通隆
加藤 友也
登録日 2019-08-09 
登録番号 特許第6567591号(P6567591)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 ミリ波アンテナ用フィルム  
代理人 須田 洋之  
代理人 西島 孝喜  
代理人 近藤 直樹  
代理人 上杉 浩  
代理人 上杉 浩  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 須田 洋之  
代理人 近藤 直樹  
代理人 西島 孝喜  
代理人 大塚 文昭  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 大塚 文昭  

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