• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C08L
管理番号 1375869
異議申立番号 異議2019-700385  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-14 
確定日 2021-04-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6421448号発明「複合粒子、その製造方法及び樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6421448号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6421448号の請求項1、3?4及び7?8に係る特許を維持する。 特許第6421448号の請求項2及び5?6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6421448号(以下「本件特許」ともいう。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、
平成26年5月9日に特願2014-97660号として特許出願され、平成30年10月26日に特許権の設定登録がされ、同年11月14日に特許掲載公報が発行され、その請求項1?8に係る発明の特許に対し、令和元年5月14日に山内生平(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
令和元年 7月30日付け 取消理由通知
同年 9月30日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年10月 9日付け 手続補正指令書(方式)
同年11月15日 手続補正書
同年11月29日付け 訂正請求があった旨の通知
令和2年 2月 4日付け 訂正拒絶理由通知
同年 3月25日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 5月13日 面接
同年 5月22日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 7月22日付け 手続補正指令書(方式)
同年 8月27日 手続補正書
同年 9月15日付け 訂正請求があった旨の通知
同年11月10日付け 訂正拒絶理由通知
同年12月11日付け 意見書・手続補正書(特許権者)

なお、特許異議申立人は、令和元年11月29日付け及び令和2年9月15日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答していない。
また、特許権者は、令和2年2月4日付けの訂正拒絶理由通知に対して、指定期間内に何ら応答していない。
さらに、令和元年9月30日付けの訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和2年8月27日付け及び同年12月11日付けの手続補正により補正された同年5月22日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は『特許第6421448号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1?9からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の「板状粒子または棒状粒子である熱伝導性フィラーと、無機粒子とを混合し、メカノケミカル処理を行って複合粒子を得る工程を有することを特徴とする、熱伝導性複合粒子の製造方法であって、板状粒子または棒状粒子の平均アスペクト比が10以上であり、無機粒子の平均アスペクト比が2以下である、熱伝導性複合粒子の製造方法。」との記載を、
訂正後の請求項1の「板状粒子である酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化珪素、二酸化チタン、マイカ、チタン酸カリウム、酸化鉄、タルク、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、銅、アルミニウム、及び炭酸マグネシウムからなる群から選ばれる1種以上または
棒状粒子である炭化珪素、黒鉛、窒化珪素、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラスナイト、ホウ酸アルミニウム、及び酸化亜鉛からなる群から選ばれる1種以上
である熱伝導性フィラーと、無機粒子であるアルミナとを混合し、メカノケミカル処理を行って複合粒子を得る工程を有することを特徴とする、熱伝導性複合粒子の製造方法であって、
板状粒子または棒状粒子の平均アスペクト比が10以上であり、
板状粒子が長軸方向での平均粒子径が10?30μmであり、
棒状粒子が繊維径が平均0.1?10μmかつ短繊維長が平均10?50μmであり、
無機粒子の平均アスペクト比が2以下かつ粒径が20?50μmである、熱伝導性複合粒子の製造方法。」との記載に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2?8も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項3の「請求項1または2に記載」との記載部分を、
訂正後の請求項3の「請求項1記載」との記載に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項4の「請求項1?3のいずれかに記載」との記載部分を、
訂正後の請求項4の「請求項1又は3に記載」との記載に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
訂正前の請求項7の「請求項1?6のいずれかに記載」との記載部分を、
訂正後の請求項4の「請求項1、3、4のいずれかに記載」との記載に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の段落0011の「得られること見出し」との記載部分を、訂正後の「得られることを見出し」との記載に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の段落0040の「樹脂組成物1にたいし」との記載部分を、訂正後の
「樹脂組成物1に対し」との記載に訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア.訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「板状粒子」を「酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化珪素、二酸化チタン、マイカ、チタン酸カリウム、酸化鉄、タルク、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、銅、アルミニウム、及び炭酸マグネシウムからなる群から選ばれる1種以上」のものに限定するとともに「板状粒子が長軸方向での平均粒子径が10?30μm」であるものに限定し、
訂正前の請求項1の「棒状粒子」を「炭化珪素、黒鉛、窒化珪素、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラスナイト、ホウ酸アルミニウム、及び酸化亜鉛からなる群から選ばれる1種以上」のものに限定するとともに「棒状粒子が繊維径が平均0.1?10μmかつ短繊維長が平均10?50μm」であるのものに限定し、
訂正前の「無機粒子」を「アルミナ」に限定するとともに「粒径が20?50μm」であるものに限定するものであるから、
特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.拡張又は変更の存否
訂正事項1は、上記ア.に示したように「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
本件特許明細書の段落0019には「板状粒子は、…例えば酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化珪素、二酸化チタン、マイカ、チタン酸カリウム、酸化鉄、タルク等の炭化物粒子、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物粒子、炭化珪素等の炭化物粒子、銅、アルミニウム等の金属粒子、炭酸マグネシウムが挙げられる」との記載があり、同段落0018には「板状粒子の大きさは、長軸方向での平均粒子径が…好ましくは10?30μmである」との記載があり、
同段落0021には「棒状粒子は、…例えば炭化珪素、黒鉛、窒化珪素等の無機非酸化物系針状単結晶体無機物粉体、及びアルミナ、チタン酸カリウム、ウォラスナイト、ホウ酸アルミニウム、酸化亜鉛等の無機酸化物系針状単結晶体無機物粉体等が挙げられる」との記載があり、同段落0020には「棒状粒子としては、例えば、繊維径が平均0.1?10μmで短繊維長が…好ましくは平均10?50μm」との記載があり、
同段落0013には「無機粒子としては、…アルミナ、…などが挙げられ」との記載があり、同段落0015には「無機粒子の粒径は、…さらに好ましくは20?50μmである」との記載があるので、
訂正事項1は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(2)訂正事項2及び5?6について
ア.訂正の目的
訂正事項2及び5?6は、訂正前の請求項2及び5?6をそれぞれ削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.拡張又は変更の存否
訂正事項2及び5?6は、訂正前の請求項2及び5?6をそれぞれ削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項2及び5?6は、訂正前の請求項2及び5?6をそれぞれ削除するものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項3?4及び7について
ア.訂正の目的
訂正事項3?4は、訂正前の請求項3?4が引用する請求項の選択肢から請求項2を引用する場合のものを削除するものであり、訂正事項7は、訂正前の請求項7が引用する請求項の選択肢から請求項2及び5?6を引用する場合のものを削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.拡張又は変更の存否
訂正事項3?4及び7は、上記ア.に示したように「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項3?4及び7は、上記ア.に示したように引用する請求項の選択肢を削除するだけのものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(4)訂正事項8及び9について
ア.訂正の目的
訂正事項8は、本件特許明細書の段落0011の「得られること見出し」との記載部分を「得られることを見出し」との記載に訂正するものであり、訂正事項9は、本件特許明細書の段落0040の「樹脂組成物1にたいし」との記載部分を「樹脂組成物1に対し」との記載に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ.拡張又は変更の存否
訂正事項8及び9は、本件特許の「明細書」における「明瞭でない記載」を訂正するものであって、当該訂正によって本件特許の「特許請求の範囲」に記載された発明特定事項の定義や意味などが変更されるものでものないので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項8及び9は、上記ア.に示したよう「明瞭でない記載の釈明」を目的としたものであって、当該「釈明」は「記載の不明瞭さを正してその記載本来の意味内容を明らかにする」だけのものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(5)一群の請求項等について
訂正事項1?7に係る訂正前の請求項1?8について、その請求項2?8は請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1?8に対応する訂正後の請求項1?8は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
したがって、訂正事項1?7による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。
さらに、訂正事項8及び9による明細書の訂正は、請求項1?8からなる一群の請求項の全てと関係するから、訂正事項8及び9は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1?9による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正を認める。

第3 本件発明
上記のとおり本件訂正は容認し得るものであるから、本件訂正により訂正された請求項1?8に係る発明(以下「本1発明」?「本8発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】板状粒子である酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化珪素、二酸化チタン、マイカ、チタン酸カリウム、酸化鉄、タルク、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、銅、アルミニウム、及び炭酸マグネシウムからなる群から選ばれる1種以上または
棒状粒子である炭化珪素、黒鉛、窒化珪素、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラスナイト、ホウ酸アルミニウム、及び酸化亜鉛からなる群から選ばれる1種以上
である熱伝導性フィラーと、無機粒子であるアルミナとを混合し、メカノケミカル処理を行って複合粒子を得る工程を有することを特徴とする、熱伝導性複合粒子の製造方法であって、
板状粒子または棒状粒子の平均アスペクト比が10以上であり、
板状粒子が長軸方向での平均粒子径が10?30μmであり、
棒状粒子が繊維径が平均0.1?10μmかつ短繊維長が平均10?50μmであり、
無機粒子の平均アスペクト比が2以下かつ粒径が20?50μmである、熱伝導性複合粒子の製造方法。
【請求項2】 削除
【請求項3】板状粒子が窒化ホウ素である、請求項1記載の熱伝導性複合粒子の製造方法。
【請求項4】棒状粒子が窒化ケイ素である、請求項1又は3に記載の熱伝導性複合粒子の製造方法。
【請求項5】 削除
【請求項6】 削除
【請求項7】請求項1、3、4のいずれかに記載の製造方法で得られた熱伝導性複合粒子と、樹脂とを配合する工程を特徴とする、樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】請求項7に記載の製造方法で得られた樹脂組成物を成形する工程を有する、樹脂成形体の製造方法。」

第4 取消理由通知の概要
令和2年3月25日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知された取消理由の概要は、次の理由1?3からなるものである。

〔理由1〕本件特許の請求項1?8に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1?5に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物1:特開2013-80789号公報(甲第1号証)
刊行物2:国際公開第2013/039103号(甲第2号証)
刊行物3:特開2007-254637号公報(甲第3号証)
刊行物4:特開2013-103375号公報
刊行物5:特開2014-55257号公報
よって、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由2〕本件特許の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
無機粒子等の平均粒子径の範囲(取消理由通知(決定の予告)の2.(2)参照)
無機粒子の範囲(取消理由通知(決定の予告)の2.(3)参照)
よって、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由3〕本件特許の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
請求項5及びその従属項の記載(取消理由通知(決定の予告)の3.(1)参照)
請求項6及びその従属項の記載(取消理由通知(決定の予告)の3.(2)参照)
その他の点(取消理由通知(決定の予告)の3.(3)参照)
よって、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1.理由1(進歩性)について
(1)引用刊行物の記載事項
ア.上記刊行物1(特開2013-80789号公報)には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「【請求項1】重合性不飽和基を有する水添共役ジエン-芳香族ビニル共重合体及び重合性不飽和基を有するウレタン液状オリゴマーから選ばれる少なくとも1種と、(メタ)アクリレートモノマーと、重合開始剤とを含有する硬化性組成物からなるシート基体中に、
基体粒子の表面の少なくとも一部が該基体粒子よりも粒子径の小さい微粒子で被覆された複合粒子である熱伝導性粒子が、配向された状態で含有された、伝熱シート。」

摘記1b:段落0001及び0007
「【0001】本発明は、伝熱シートに関し、更に詳しくは、電子機器における電子部品または照明装置における光源から生じる熱を放熱するために用いることのできる伝熱シートに関する。…
【0007】電子機器の高密度化および薄型化に伴って、電子部品から発生する熱の影響がこれまで以上に深刻なものとなっており、しかも電子機器の高性能化および小型化が発熱量の増加をもたらしていることから、電子部品の熱をより高い効率で伝熱することのできる伝熱シートが求められている。」

摘記1c:段落0079?0081
「【0079】[熱伝導性粒子]
前記熱伝導性粒子は、基体粒子の表面の少なくとも一部が、該基体粒子よりも粒子径の小さい微粒子で被覆された複合粒子である。
【0080】前記微粒子は、前記基体粒子よりも小径のものである。具体的には、前記基体粒子の粒子径と前記微粒子の粒子径の比(基体粒子/微粒子)が、30?500であることが好ましく、50?300であることがより好ましい。上記範囲であると、前記基体粒子および他の前記微粒子との接触面積が大きくなり、粒子間における熱伝導がスムーズに行われ、伝熱シートの熱伝導性が良好である。
ここに「粒子径」とは、平均粒子径を表し、レーザー散乱回折法粒度分布測定装置等により測定することができる。
【0081】前記基体粒子の平均粒子径は、具体的には、10μm?500μmであることが好ましく、より好ましくは20μm?200μm、更に好ましくは20μm?150μmである。一方、前記微粒子の平均粒子径は、0.1μm?10μmであることが好ましい。
前記基体粒子及び前記微粒子の形状は、真球状でもよく、扁平に変形した球状でもよい。」

摘記1d:段落0085、0088及び0090
「【0085】前記基体粒子を構成する強磁性体粒子としては、例えば、ニッケル、鉄、コバルトなどの磁性金属よりなる粒子、化学式:MO・Fe2O3〔Mは、Mn、Fe、Ni、Cu、Mg、Znなどより選択される金属〕で表されるフェライトなどの金属酸化物などの強磁性体材料よりなる粒子が挙げられる。
前記微粒子を構成する絶縁性を有する高熱伝導性材料としては、セラミック材料及びダイアモンドから選ばれる少なくとも1種の材料が好ましい。セラミック材料としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化硼素(ボロンナイトライド)、窒化ケイ素、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素などが挙げられる。…
【0088】前記複合粒子としては、前記基体粒子が磁性金属でなくてもよく、例えば前記基体粒子が炭化ケイ素からなる粒子(SiC粒子)であり、前記微粒子がアルミニウムからなる微粒子(Al微粒子)のような構成でもよい。…
【0090】前記複合粒子を製造する方法としては、機械的な力によって粒子の複合化を行うメカノケミカル法を用いることができる。具体的には、基体粒子および微粒子とされる粒子を用意し、これらの粒子を、製造すべき複合粒子に応じた所定の混合比(質量比)で混合し、その後、ハイブリダイザー装置を用い、必要に応じて予備混合処理(OM処理(精密混合処理))を行った後、複合化処理(カプセル化処理)を施す手法が好適に用いられる。複合化処理(カプセル化処理)は、基体粒子および微粒子の材質、粒子径およびそれらの混合比(質量比)などに応じた適宜の条件によって行われ、例えば回転数13000rpm、処理時間5分間である。
このような手法によって得られる複合粒子は、物理的吸着によって基体粒子表面に微粒子が付着されてなるものである。」

摘記1e:段落0104?0106
「【0104】〔複合粒子(1)?(5)の調製〕
平均粒子径50μmのスチールビーズ(ニッチュー製、#300)と、下記の各種セラミックス粒子を用意した。
-セラミックス粒子-
・炭化ケイ素(SiC):平均粒子径0.6μm、信濃電気製錬製、SER-A06
・アルミナ:平均粒子径0.32μm、昭和電工製、WA#30000
・窒化ケイ素(SiN):平均粒子径2.4μm、電気化学工業製、SN-9FWS
・窒化硼素(BN):平均粒子径0.7μm、電気化学工業製、SP3-7
・窒化アルミニウム(AlN):平均粒子径1μm、トクヤマ製
【0105】スチールビーズと、セラミックス粒子のいずれか1種とを、質量比(スチールビーズ:セラミックス粒子)が100:6となるように混合した。次いで、スチールビーズとセラミックス粒子との混合系に対して、ハイブリダイザー装置を用い、回転数13,000rpmの条件で5分間かけて複合化処理(カプセル化処理)を施すことにより、スチールビーズからなる基体粒子の表面がセラミックス粒子からなる微粒子により被覆された複合粒子(1)?(5)を得た。
【0106】【表1】



摘記1f:段落0109及び0112?0115
「【0109】…以上のようにして、アクリロイル基含有水添スチレン-ブタジエン共重合体(以下「H-SBR(1)」という。)を得た。…
【0112】<実施例1>…樹脂製容器に、H-SBR(1)を40g、イソミリスチルアクリレート(共栄社化学製、ライトアクリレートIM-A、硬化物のガラス転移温度(Tg)-56℃)を40g、光重合開始剤(BASF社製、Irugacure1173)を2g、及び複合粒子(1)を135g仕込み、ペースト状のシート成形材料を得た。
【0113】得られたシート成形材料を、厚さ100μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂製のシートの間に挟み、これによってPET樹脂製シートの間にシート成形材料層を形成することにより、PET樹脂シート、シート成形材料層およびPET樹脂シートがこの順に積層されてなる積層体を得た。
【0114】得られた積層体に対して、その厚さ方向に0.38テスラの永久磁石2つで両面から磁場を作用させつつ室温にて1分間保持し、片面の永久磁石をはずした後すぐに当該片面に紫外線を9000mJ/cm2照射し、光硬化処理を行った。次いで、もう一方の面から永久磁石をはずし、積層体の両面からPET樹脂シートを剥がした。こうして、図1のような構造を有する、実施例1に係る厚さ1mmの伝熱シートを製造した。
【0115】<実施例2?5>…実施例1において、複合粒子(1)を複合粒子(2)?(5)のいずれか1種に代えたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2?5に係る厚さ1mmの伝熱シートを製造した。」

イ.上記刊行物2(国際公開第2013/039103号)には、次の記載がある。
摘記2a:請求項1、2及び6
「[請求項1]熱伝導性フィラーの表面に粒状、角状、繊維状、平板状からなる形状の少なくとも1種の形状を持つベーマイト、又は酸化亜鉛が結合又は付着して構成される無機フィラー複合体。
[請求項2]熱伝導性フィラーが、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、ガラスビーズ、アルミナ、又は黒鉛である請求項1に記載の無機フィラー複合体。…
[請求項6]平板状ベーマイトまたは酸化亜鉛の直径が0.05?50μm、アスペクト比が10以上である請求項1?3のいずれかに記載の無機フィラー複合体。」

摘記2b:段落0003
「[0003]…最近の電子機器においては、高性能化、小型化及び軽量化に伴い、各種の電子部品で発生する熱を効果的に外部へ放散させる熱対策が非常に重要な課題になっており、その構成材料である樹脂成形材料の放熱性改良を求める声が大きくなってきている。」

摘記2c:段落0021及び0032
「[0021]このような基材の組成は特に制限されず、炭素系材料(…)、ガラス質材料(…)、金属酸化物(例えば、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン)、鉱物系材料(…)、金属窒化物(例えば、窒化ケイ素、窒化アルミニウム)、金属炭化物(…)等が挙げられる。…
[0032]平板状ベーマイトまたは酸化亜鉛の形状としては直径が0.05?50μm、アスペクト比が10以上であることが好ましい。直径が0.05μm未満、アスペクト比10未満では熱伝導性向上効果が少なく、直径が50μmを超えると得られる樹脂組成物の強度が著しく低下するため好ましくない。」

摘記2d:段落0051及び0053
「[0051](合成例2)…品名PCTP30 平均粒径30μm(サンゴバン社製)…
[0053](合成例5)…窒化ホウ素…(電気化学製工業製 SGPS)」

ウ.上記刊行物3(特開2007-254637号公報)には、次の記載がある。
摘記3a:段落0001?0002
「【0001】本発明は、熱伝導性フィラー、それを用いた熱伝導性樹脂複合材、並びに熱伝導性フィラーの製造方法に関する。…
【0002】従来から、各種の電気・電子・電装部品、自動車部品等の多種多様な用途に樹脂材料が用いられている。しかしながら、樹脂材料は熱伝導率が小さいため、樹脂材料を用いた部品が蓄熱し易いといった問題があり、熱伝導性及び放熱特性に優れた樹脂材料が求められている。」

摘記3b:段落0032?0035
「【0032】本発明の第一及び第二の熱伝導性フィラーは、前述の基材に加えて、前記基材の表面に直接結合している微細酸化亜鉛を備えている。…
【0033】このような微細酸化亜鉛としては、…(c3)平均アスペクト比が1?50(特に好ましくは5?20)を満たすものであることがより好ましい。
【0034】…前記微細酸化亜鉛の平均アスペクト比が上記下限未満では熱伝導性フィラーの熱伝導が不十分となり、得られる樹脂複合材の熱伝導性を十分に向上させることができない傾向にあり、他方、上記上限を超えると熱伝導性樹脂複合材の溶融粘度を増加させたり、混練時に破断する微細酸化亜鉛の量が増加する傾向にある。
【0035】本発明にかかる微細酸化亜鉛の形状は、上記条件を満たすものであればよく特に限定されないが、繊維状、針状、棒状、筒状、角柱状、粒子状等の形状のものが好ましい。」

摘記3c:段落0068?0069及び0071
「【0068】(実施例2)
基材となるガラス繊維Aの裁断品(0.747g)に代えて球状シリカ(2.25g)を用いた以外は実施例1と同様にして熱伝導性フィラーを得た。…
【0069】また、実施例2で得られた熱伝導性フィラーを走査型電子顕微鏡にて観察したところ、得られた熱伝導性フィラーにおいては基材の表面にロッド状の微細酸化亜鉛が高密度で直接結合していることが確認された。また、得られた電子顕微鏡写真に基づいて微細酸化亜鉛の平均直径、平均長さを求め、得られた結果を表1に示す。…
【0071】【表1】



エ.上記刊行物4(特開2013-103375号公報)には、次の記載がある。
摘記4a:段落0045?0048
「【0045】…熱伝導性無機フィラーとしては、…絶縁性が好ましい。
【0046】…これらの絶縁性無機フィラーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの絶縁性無機フィラーのうち、絶縁性及び熱伝導性に優れる点から、窒化ホウ素や窒化アルミニウムなどの窒素化合物が好ましく、窒化ホウ素が特に好ましい。…
【0047】熱伝導性無機フィラーの形状は、球状、楕円体状、多角体形(多角錘状、正方体状、直方体状など)、棒状、繊維状、不定形状などであってもよいが、厚み方向の熱伝導性を向上できる点から、板状(鱗片状又は扁平状)が好ましい。…
【0048】…さらに、板状である場合、前記板面の平均径と厚みとのアスペクト比(板面の平均径/厚み)は、例えば、2以上、好ましくは2?50、さらに好ましくは3?30(特に5?20)程度であってもよい。」

摘記4b:段落0110、0115及び0119
「【0110】実施例3…窒化ホウ素(電気化学工業(株)製「SGP」、平均粒径18μm、アスペクト比10.07)54.9重量部及び窒化ホウ素(DP3-7))23.5重量部を使用
【0115】比較例3…窒化ホウ素の代わりに球状アルミナ(電気化学工業株製「DAW-7」、平均粒径9μm)を使用…
【0119】本発明の熱伝導性フィルムは、熱伝導性を要求される各種用途に利用でき、例えば、画像表示装置、コンピュータ、照明機器、電池などの電気・電子部品(放熱板、半導体素子、熱電変換素子、光電変換素子、電磁波吸収放熱材、基盤、セパレータなど)に利用でき、厚み方向と面方向とで異方性の熱伝導性を有するため、電気自動車やハイブリッド自動車(HEV)など、種々の分野で利用される組電池(例えば、リチウムイオン電池など)の単電池セル間に介在させる放熱フィルムとして特に有用である。」

オ.上記刊行物5(特開2014-55257号公報)には、次の記載がある。
摘記5a:段落0013?0014
「【0013】…本発明で使用する無機粒子(A)として、公知慣用の金属系ファイラー、無機化合物フィラー等が使用される。具体的には、例えば、銀、銅、アルミニウム、鉄等の金属系フィラー、アルミナ、マグネシア、ベリリア、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン等の無機系フィラー、ステアタイト、エンステタイト、ウレイマイト、ディオブサイド、コーディエライト、フォルステライト、ジルコン、ムライト、ペタライト、スポジュメン、ワラストナイト、アノーサイト、アルバイト等の複合酸化物などが挙げられる。…
【0014】電子機器等の用途で放熱性が必要とされる場合には、電気絶縁性が求められる事が多く、これらのフィラーの内、体積固有抵抗の高いアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ベリリア、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、コーディエライト、フォルステライト、ジルコン、ムライトから選択される少なくとも1種の熱伝導性フィラーの使用が好ましい。」

摘記5b:段落0033及び0039
「【0033】…実施例1…熱伝導フィラーのDAW-05(電気化学工業株式会社製球状アルミナ、平均粒子径5ミクロン)…
【0039】…実施例6…熱伝導フィラーのPCTP30(サンゴバン製窒化ホウ素)」

(2)刊行物1に記載された発明
刊行物1の請求項1(摘記1a)の「基体粒子の表面の少なくとも一部が該基体粒子よりも粒子径の小さい微粒子で被覆された複合粒子である熱伝導性粒子」との記載について、
同段落0090(摘記1d)に「前記複合粒子を製造する方法としては、機械的な力によって粒子の複合化を行うメカノケミカル法を用いることができる。具体的には、基体粒子および微粒子とされる粒子を用意し、これらの粒子を、製造すべき複合粒子に応じた所定の混合比(質量比)で混合し、その後、ハイブリダイザー装置を用い、…複合化処理(カプセル化処理)を施す手法が好適に用いられる。」との説明が記載されており、
同段落0104?0106(摘記1e)に「平均粒子径50μmのスチールビーズ(ニッチュー製、#300)と、下記の各種セラミックス粒子を用意した。…窒化硼素(BN):平均粒子径0.7μm、電気化学工業製、SP3-7…スチールビーズと、セラミックス粒子のいずれか1種とを、質量比(スチールビーズ:セラミックス粒子)が100:6となるように混合した。次いで、スチールビーズとセラミックス粒子との混合系に対して、ハイブリダイザー装置を用い、回転数13,000rpmの条件で5分間かけて複合化処理(カプセル化処理)を施すことにより、スチールビーズからなる基体粒子の表面がセラミックス粒子からなる微粒子により被覆された複合粒子(1)?(5)を得た。…表1…複合粒子(4)…スチールビーズ…窒化硼素(BN)」と説明されていることからみて、刊行物1には、
『基体粒子(平均粒子径50μmのスチールビーズ)およびセラミックス粒子からなる微粒子(平均粒子径0.7μmの窒化硼素)を混合し、機械的な力によって粒子の複合化を行うメカノケミカル法を用いる、基体粒子の表面がセラミックス粒子からなる微粒子により被覆された複合粒子である熱伝導性粒子を製造する方法。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
本1発明と刊1発明とを対比する。
刊1発明の「基体粒子(平均粒子径50μmのスチールビーズ)」は、摘記5aの「無機粒子(A)として…鉄等の金属系フィラー」との記載をも参酌するに、本1発明の「無機粒子であるアルミナ」に対して「無機粒子」という点で共通するとともに、本1発明の「粒径が20?50μm」の粒径範囲を満足する。
刊1発明の「セラミックス粒子からなる微粒子(平均粒子径0.7μmの窒化硼素)」は、刊行物1の段落0085(摘記1d)の「微粒子を構成する…高熱伝導性材料としては…窒化硼素(ボロンナイトライド)…などが挙げられる。」との記載、摘記4aの「熱伝導性無機フィラー…熱伝導性に優れる点から…窒化ホウ素が特に好ましい」との記載、及び摘記5bの「熱伝導フィラー…窒化ホウ素」との記載をも参酌するに、刊1発明の「窒化硼素」からなる「セラミックス粒子」が「粒子」である「熱伝導性」の「フィラー」に該当することが明らかであって、本件特許明細書の段落0019の「熱伝導性フィラー…窒化ホウ素」との記載にある「熱伝導性フィラー」に一致する材料でもあることから、本1発明の「板状粒子…または棒状粒子である熱伝導性フィラー」に対して「粒子である熱伝導性フィラー」という点で共通する。
刊1発明の「を混合し、機械的な力によって粒子の複合化を行うメカノケミカル法を用い…複合粒子である熱伝導性粒子を製造する方法」は、本1発明の「を混合し、メカノケミカル処理を行って複合粒子を得る工程を有する…熱伝導性複合粒子の製造方法」に相当する。
してみると、本1発明と刊1発明は、両者とも『粒子である熱伝導性フィラーと、無機粒子とを混合し、メカノケミカル処理を行って複合粒子を得る工程を有する、熱伝導性複合粒子の製造方法であって、無機粒子の粒径が20?50μmである、熱伝導性複合粒子の製造方法。』という点において一致し、次の(α)?(δ)の点において相違する。

(α)無機粒子の材質が、本1発明は「アルミナ」であるのに対して、刊1発明は「スチール」である点

(β)粒子である熱伝導性フィラーの形状と材質が、本1発明は「板状粒子である酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化珪素、二酸化チタン、マイカ、チタン酸カリウム、酸化鉄、タルク、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、銅、アルミニウム、及び炭酸マグネシウムからなる群から選ばれる1種以上または棒状粒子である炭化珪素、黒鉛、窒化珪素、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラスナイト、ホウ酸アルミニウム、及び酸化亜鉛からなる群から選ばれる1種以上」であって「板状」と「棒状」の形状に応じて材質が特定され、板状粒子の場合には「長軸方向での平均粒子径が10?30μm」であるものに特定され、棒状粒子の場合には「繊維径が平均0.1?10μmかつ短繊維長が平均10?50μm」であるものに特定されているのに対して、刊1発明は「セラミックス粒子からなる微粒子(平均粒子径0.7μmの窒化硼素)」の「形状」が不明であり、仮に「棒状」である場合には材質も異なる点

(γ)粒子である熱伝導性フィラーの「平均アスペクト比」が、本1発明は「10以上」に特定されているのに対して、刊1発明は「セラミックス粒子からなる微粒子(平均粒子径0.7μmの窒化硼素)」の「平均アスペクト比」が不明な点

(δ)無機粒子の「平均アスペクト比」が、本1発明は「2以下」に特定されているのに対して、刊1発明は「基体粒子(平均粒子径50μmのスチールビーズ)」の「平均アスペクト比」が不明な点

(4)判断
ア.相違点(α)について
刊行物1の段落0106(摘記1e)には「複合粒子(2)」として、平均粒子径が50μmのスチールビーズを基体粒子とし、平均粒子径が0.32μmのアルミナを微粒子として用いた具体例が記載されている。
しかしながら、本1発明の「無機粒子であるアルミナ」は「粒径が20?50μm」の大きさであることを特徴とするものであるのに対して、刊行物1に記載の「平均粒子径が0.32μmのアルミナ」は、その粒子径が非常に小さい「微粒子」サイズのものであるから、本1発明の「アルミナ」と刊行物1に記載の「アルミナ」が軌を一にする設計思想にあるとはいえないので、刊行物1の「アルミナ」についての記載が、本1発明の技術思想について示唆するものであるとはいえない。
また、刊行物1に記載の「アルミナ」は、刊1発明の「セラミックス粒子からなる微粒子(平均粒子径0.7μmの窒化硼素)」という小さいサイズの「微粒子」の「窒化硼素」の材質を代替し得るものとして記載されているものであって、刊1発明の「基体粒子(平均粒子径50μmのスチールビーズ)」という大きいサイズの基体粒子の材質を代替し得るものとして記載されていないので、刊1発明の「スチール」という材質を、刊行物1に記載の「アルミナ」に置き換える動機付けがあるとはいえない。

さらに、刊行物2の請求項2(摘記2a)には「熱伝導性フィラーが、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、ガラスビーズ、アルミナ、又は黒鉛である請求項1に記載の無機フィラー複合体。」との記載があり、
刊行物3の段落0021(摘記2c)には「基材の組成は…アルミナ、…窒化アルミニウム…等が挙げられる。」との記載があり、
刊行物4の段落0115(摘記4b)には「窒化ホウ素の代わりに球状アルミナ(電気化学工業株製「DAW-7」、平均粒径9μm)を使用」との記載があり、
刊行物5の段落0014(摘記5a)には「無機粒子が、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ベリリア、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、コーディエライト、フォルステライト、ジルコン、ムライトから選択される…熱伝導性フィラーの使用が好ましい」との記載があるところ、
刊行物2?5に記載の「アルミナ」は「窒化ホウ素」等を代替し得る材質のものとして記載されているにすぎないので、刊行物2?5の記載によっては、刊1発明の基体粒子としての「スチール」という材質を、刊行物1に記載の「アルミナ」に置き換える動機付けがあるとはいえない。

そして、本1発明は、上記(α)に係る構成を具備することで、本件特許明細書の実施例で確認されたとおりの格別顕著な作用効果を奏するものである。

したがって、刊1発明に、刊行物1?5に記載の技術事項を組み合わせ、さらに本件特許の出願当時の技術常識をどのように組み合わせたとしても、本1発明を当業者が容易に想到することができたとはいえない。

イ.本1発明の進歩性のまとめ
以上総括するに、上記(α)の相違点に係る構成を導き出すことが、当業者にとって容易想到であるとは認められないから、上記(β)?(δ)の相違点について検討するまでもなく、本1発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(5)本3?本4及び本7?本8発明について
本3?本4及び本7?本8発明は、本1発明を引用し、さらに限定したものであるから、本1発明の進歩性が上記のとおり否定できない以上、本3?本4及び本7?本8発明が、刊行物1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。

2.理由2(サポート要件)について
(1)無機粒子等の平均粒子径の範囲
上記第4の〔理由2〕の「2.(3)」の記載不備の具体的な内容は『本件特許の請求項1及びその従属項の記載は、当該「無機粒子」の平均粒子径を「20?50μm」の範囲に特定し、同時に当該「板状粒子」の長軸方向での平均粒子径を「10?30μm」の範囲に特定し、当該「棒状粒子」の「繊維径」と「短繊維長」を特定の範囲に特定していないので、本1?本8発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。』というものである。
これに対して、訂正後の請求項1の記載は、無機粒子の粒径が「20?50μm」の範囲に特定され、板状粒子の長軸方向での平均粒子径が「10?30μm」の範囲に特定され、棒状粒子の繊維径が「平均0.1?10μm」に、短繊維長が「平均10?50μm」に特定されている。
してみると、上記「2.(3)」に指摘した記載不備について、本件特許の請求項1及びその従属項の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。

(2)無機粒子の範囲
上記第4の〔理由2〕の「2.(4)」の記載不備の具体的な内容は『本件特許の請求項1及びその従属項の記載は、当該「無機粒子」が「アルミナ」である場合のものに特定されていないので、本1?本8発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。』というものである。
これに対して、訂正後の請求項1の記載は、無機粒子が「アルミナ」に特定されている。
してみると、上記「2.(4)」に指摘した記載不備について、本件特許の請求項1及びその従属項の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。

3.理由3(明確性要件)について
上記第4の〔理由3〕の「3.(1)」の記載不備の具体的な内容は『請求項5を請求項5が引用しているという点において不明確である。』というものであり、同「3.(2)」の記載不備の具体的な内容は『請求項6を請求項6が引用しているという点において不明確である。』というものであるところ、本件訂正により請求項5及び6は削除されている。
また、同「3.(3)」の記載不備の具体的な内容は『本件特許明細書の段落0011の「得られること見出し」との記載や、同段落0040の「得られた樹脂組成物1にたいし」等の記載は日本語として不明確であり、同段落0045の「実施例2?7」との記載、及び同段落0048の表1の「実施例3」との記載は、実施例3の具体例が本件特許の請求項1に記載された「無機粒子の平均アスペクト比が2以下」という発明特定事項を充足しない(例えば「参考例3」との記載に訂正されていない)ので、不明確である。』というものであるところ、本件訂正により、本件特許明細書の段落0011及び0040の不明確な記載が訂正され、同段落0045及び0048の記載において本1発明の発明特定事項を充足しないものが実施例として記載されている点については「第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である」とまではいえない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないとはいえない。

4.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人が主張する「特許法第29条第2項(同法第113条第2号)」の申立の理由は「本件特許発明1?8は、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか、甲1発明及び甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」というものであって、この理由は、上記第4の〔理由1〕において採用されており、
特許異議申立人が主張する「特許法第特許法第36条第6項第2号(同法113条第4号)」の申立の理由は「請求項5に従属する本件特許発明5は、不明確」であり、「請求項6に従属する本件特許発明6は、不明確」であり、「本件特許発明5及び6を引用する本件特許発明7、並びに、本件特許発明7に従属する本件特許発明8も不明確」であるというものであって、この理由は、上記第4の〔理由3〕において採用されているから、
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立の理由に該当しない。

第6 むすび
以上総括するに、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本1、本3?本4及び本7?本8発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本1、本3?本4及び本7?本8発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正前の請求項2及び5?6は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項2及び5?6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
複合粒子、その製造方法及び樹脂組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性に優れた複合粒子とその製造方法、及び該粒子を含有する樹脂組成物および樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、テレビ、携帯電話などに代表される電子機器の発展は目まぐるしく、より高密度、高出力、軽量化を目指した開発が進められている。高性能化に伴い、単位面積あたりの発熱量は増大しており、電子部品は長時間高温環境にあると、動作が不安定となり、誤動作、性能低下、故障へと繋がるため、発生した熱を効率良く放熱する要求が高まっている。また、白熱電灯や蛍光灯に対し長寿命で低消費電力かつ低環境負荷であることから、急激に需要が拡大している発光ダイオード(LED)を光源とする照明装置においても放熱対策は必須となっている。
【0003】
また、電気自動車やスマートフォンなどの電費向上として、リチウムイオン電池やモーター、インバーター等、絶縁部材の熱伝導性が特に強く求められている。
【0004】
放熱性を高めるには、熱伝導性が高い材料を使用する必要がある。これまで、高い熱伝導性を必要とする部材には、主に金属材料が用いられてきたが、電気・電子部品の小型化に適合する上で金属材料は、軽量性や成形加工性の面で難があり、なおかつ絶縁性に劣ることから、樹脂材料への代替が進みつつある。特に、熱可塑性樹脂は、成形加工の容易さ、外観、経済性、機械的強度、その他、物理的、化学的特性に優れているが、樹脂系材料は一般に熱伝導性が低いため、熱可塑性樹脂に、熱伝導性の無機フィラーを配合し、熱伝導性を高める事が検討されている。
【0005】
熱伝導性の無機フィラーとしては、例えば窒化ホウ素、窒化アルミ、アルミナ、酸化マグネシウム等が挙げられるが、その中でも高い熱伝導性を有するのが窒化ホウ素や窒化ケイ素である。しかし、窒化ホウ素は六方晶の薄片状結晶構造であり、窒化ケイ素は棒状の結晶であることから、熱伝導性に異方性があるうえ、成形時にフィラーが配向しやすいために、得られる樹脂成形体の熱伝導性も異方性が生じてしまうという問題があった。このような課題に対し、例えば特許文献1、2においては、窒化ホウ素の凝集体をフィラーとして用いる発明が開示されているが、凝集粒子は機械強度が低く、加工時の衝撃で粒子が崩壊してしまう為、高熱伝導性が付与できないという問題があった。
【0006】
また、無機粒子と異方性のある材料とを付着あるいは被覆し、無機粒子の表面特性を変える方法が多く検討されている。例えば特許文献3においては、窒化ホウ素表面にシリコーンオイルあるいはシリコーンゲルを介して酸化亜鉛やアルミナを被覆させる発明が開示されている。しかし、シリコーンオイルやシリコーンゲルは、成形時にブリードアウトする問題があった。また、無機粒子の表面に窒化ホウ素を噴霧させたうえ、焼成して得られる複合粒子が特許文献4に開示されている。しかし、このような方法で得られる複合粒子も強度が不足するうえ、熱伝導性が向上されるかどうかは不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-67507号公報
【特許文献2】特表2007-502770号公報
【特許文献3】特開2001-2830号公報
【特許文献4】特開平8-113514号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】セラミックス,34(1999)No.10,844-847
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、熱伝導性と粒子強度に優れた複合粒子とその製造方法、及び該複合粒子を含有する樹脂組成物及び成形体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、無機粒子の表面に、板状粒子または棒状粒子である熱伝導性フィラーを、メカノケミカル処理にて結合させてなる複合粒子が、熱伝導性と粒子強度を兼ね備えた熱伝導性複合粒子であることを見出した。
また、該複合粒子を含有する樹脂組成物及び成形体が、熱伝導性に優れることを見出した。
【発明の効果】
【0011】
本発明者らは、無機粒子に、高せん断の機械的衝撃を与えるメカノケミカル処理によって、板状粒子または棒状粒子である熱伝導性フィラーを結合させることにより、高熱伝導かつ高強度である粒子が得られることを見出したものである。
【0012】
本発明は、板状粒子または棒状粒子である熱伝導性フィラーと、無機粒子とをメカノケミカル処理を行うことで、複合粒子を形成するものである。メカノケミカル処理とは、複数種類の物質を乾式あるいは湿式で同時に粉砕すると、物質同士の表面結合状態が変化して複合粒子が形成される処理方法のことである(非特許文献1)。特に乾式メカノケミカル処理の場合、均一混合と複合化合物の直接合成が同時進行することが知られており、例えばCaOとTiO_(2)にメカノケミカル処理を行うことで、CaTiO_(2)が直接合成できることなどが報告されている。メカノケミカル処理は単なる混合ではなく、界面で化学反応がおこることから、得られる本発明の複合粒子は、異方性粒子の単なる凝集体に比べ、機械的強度に優れる。
また、複合粒子が機械的強度に優れることから、成形時の衝撃でも粒子形態が保持されるため、得られる成形体の熱伝導率は異方性が大きく低減する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(無機粒子)
本発明で使用する無機粒子としては、公知慣用の金属系ファイラー、無機化合物フィラー等が使用される。具体的には、例えば、銀、銅、アルミニウム、鉄等の金属系フィラー、アルミナ、マグネシア、ベリリア、シリカ、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン等の無機系フィラー、ステアタイト、エンステタイト、ウレイマイト、ディオブサイド、コーディエライト、フォルステライト、ジルコン、ムライト、ペタライト、スポジュメン、ワラストナイト、アノーサイト、アルバイト等の複合酸化物などが挙げられ、好ましくは熱伝導性フィラーである。用いる無機粒子は結晶形、粒子サイズ等が異なる1種あるいは複数種の無機粒子を組み合わせて使用する事も可能である。
【0014】
電子機器等の用途で放熱性が必要とされる場合には、電気絶縁性が求められる事が多く、これらのフィラーの内、体積固有抵抗の高いアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ベリリア、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、コーディエライト、フォルステライト、ジルコン、ムライトから選択される少なくとも1種の熱伝導性フィラーの使用が好ましい。
これらの無機粒子として、表面処理を行ったものを使用する事もできる。例えば、無機酸化物粒子などは、シラン系およびまたはチタネート系カップリング剤などで表面改質されたものを使用する事ができる。
【0015】
無機粒子の粒径は、好ましくは10?100μmであり、さらに好ましくは20?50μmである。
【0016】
また、無機粒子は複合粒子のコアとなるため、アスペクト比が低い粒子であることが好ましく、平均アスペクト比が2以下であることが好ましい。形状としては、多面体状、塊状等でもよいが、球状がより好ましい。
【0017】
(板状粒子)
本発明の板状粒子とは、熱伝導性フィラーであって、粒子の形状が長さ又は幅方向に比べて厚みが少ない形状の粒子であり、板状・薄片状・鱗片状・フレーク状とも言われる。板状粒子の平均アスペクト比は8以上であることが好ましく、より好ましくは10以上である。
【0018】
板状粒子の大きさは、長軸方向での平均粒子径が3?50μmであり、好ましくは10?30μmである。この場合の長軸方向での平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定方法で求めることができる。
【0019】
本発明の板状粒子は、熱伝導性フィラーであって、例えば酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化珪素、二酸化チタン、マイカ、チタン酸カリウム、酸化鉄、タルク等の酸化物粒子、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物粒子、炭化珪素等の炭化物粒子、銅、アルミニウム等の金属粒子、炭酸マグネシウムが挙げられる。これらの板状熱伝導性粒子は、単独で用いても二種以上を混合して用いてもよい。好ましくは、窒化ホウ素であり、特に好ましくは六方晶窒化ホウ素である。
【0020】
(棒状粒子)
本発明の棒状粒子とは、粒子の形状が長さ方向に比べて幅及び厚みが少ない形状の熱伝導フィラーであり、棒状、針状、糸状、ロッド状とも言われる。棒状粒子としては、例えば、繊維径が平均0.1?10μmで短繊維長が平均1?100μm、好ましくは平均10?50μmの微細な繊維形状のものが挙げられる。棒状粒子の平均アスペクト比は10以上であることが好ましく、より好ましくは50以上である。
【0021】
本発明の棒状粒子は、熱伝導性フィラーであって、例えば炭化珪素、黒鉛、窒化珪素等の無機非酸化物系針状単結晶体無機物粉体、及びアルミナ、チタン酸カリウム、ウォラストナイト、ホウ酸アルミニウム、酸化亜鉛等の無機酸化物系針状単結晶体無機物粉体等が挙げられる。これらの棒状熱伝導性粒子は、単独で用いても二種以上を混合して用いてもよい。好ましくは、窒化珪素である。
【0022】
板状粒子と棒状粒子はそれぞれ単独で用いても、両方を混合して用いてもかまわない。
【0023】
(メカノケミカル処理)
本発明のメカノケミカル処理とは、前記板状粒子または棒状粒子と、無機粒子とに高せん断力を与えつつ混合する処理のことである。
メカノケミカル処理を行うための機器としては、板状粒子または棒状粒子にせん断力を加え、無機粒子に固着させる事ができる装置が好ましく、エッジランナーミル、ストッツミル、ウエットパンミル、コナーミル、リングマラー等のホイール型混練機、遊星ボールミル、転動ボールミル、遠心ボールミル、振動ボールミル等のボール型混練機、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー、ナウターミキサー等のブレード型混練機、エクストルーダー等のロール型混練機が挙げられる。
旋回流型ジェットミル、流動層型ジェットミル等のジェット型粉砕機、ハンマミル、ピンミル、スクリーンミル、ターボ型ミル、遠心分級型ミル等の衝撃式粉砕機、リングローラミル、遠心ローラミル等のローラミル、攪拌槽型ミル、流通管型ミル、アニュラミル等の攪拌ミルも使用が可能であり、さらに、ホソカワミクロンのノビルタ、メカノフュージョン、奈良製作所のハイブリダイゼーションシステム、ミラーロ等の粉体の表面処理に特化した機器を使用する事も可能である。
【0024】
メカノケミカル処理は上記の機器を用いて、板状粒子または棒状粒子を無機粒子に固着させることによって、紛体の複合粒子を得ることができる。メカノケミカル処理には乾式と湿式とあるが、本発明の場合乾式処理が好ましい。メカノケミカル処理の条件により、無機粒子が粉砕し形状変化を起こし、逆に空隙が多くなる事で界面熱抵抗が大きくなり、熱伝導性が低下する場合もあるため、好ましくは、無機粒子が破砕しない条件を選択し、メカノケミカル処理を行った方が良い。
例えば、遊星ボールミルを用いて、窒化ホウ素をアルミナ粒子の様な高硬度の無機粒子に固着させる場合には、ジルコニアビーズの様に高硬度のメディアを用いて、高シェアーを加えても、アルミナ粒子の粉砕は殆ど起こらず、複合粒子が得られるが、板状粒子または棒状粒子を破砕され易い無機粒子に固着させる場合には、ナイロンビーズの様なソフトなメディアを使用するか、あるいは低シェアーの条件でメカノケミカル処理を行うことで、窒化ホウ素の層状構造の破砕を抑制し、空隙を含まない複合粒子が形成され、熱伝導率が向上する。
メカノケミカル処理の時間に特に制限は無く、選択される無機粒子の種類、メカノケミカル処理を行う機器により決定される。
【0025】
(熱伝導性複合粒子)
本発明の熱伝導性複合粒子は、無機粒子に、高せん断の機械的衝撃を与えるメカノケミカル処理によって、熱伝導性フィラーである板状粒子または棒状粒子を結合させることで、得られることができる。本発明の熱伝導性複合粒子は、無機粒子表面に熱伝導性フィラーである板状粒子または棒状粒子が化学結合していることが特徴であり、複合粒子の平均粒径は好ましくは10?100μmであり、さらに好ましくは20?50μmである。
複合粒子において、無機粒子と結合している板状粒子と棒状粒子は、それぞれ単独で結合されていても複数種結合されていてもよく、複数の板状粒子あるいは複数の棒状粒子が同時に結合していてもかまわない。
【0026】
本発明の複合粒子は、無機粒子に板状粒子または棒状粒子が結合されており、さらに無機粒子表面が板状粒子または棒状粒子で強固に被覆されていることで、異方性が大きい板状粒子または棒状粒子のアスペクト比の大きい方向の物性を均質化できることが特徴である。この特性により本発明の複合粒子は異方性の小さい高熱伝導フィラーとして有効に機能する。なお複合粒子としての異方性の確認は板状粒子または棒状粒子由来のピークをX線解析などで測定することで確認することが出来る。
【0027】
本発明の熱伝導性複合粒子において、無機粒子と板状粒子または棒状粒子の割合は、重量比で70:30より無機粒子が多い配合が好ましく、特に好ましくは90:10より無機粒子が多い場合である。
【0028】
本発明の熱伝導性複合粒子は、無機粒子表面に板状粒子または棒状粒子が結合しているものであるが、好ましくは無機粒子表面に対する板状粒子または棒状粒子による被覆率が、50%?100%であることが好ましい。これは、無機粒子表面を熱伝導性の高い粒子でなるべく隙間無く被覆することで、熱伝導率を向上させることができるからである。このときの板状粒子または棒状粒子による被覆率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた元素マッピングによって測定することが可能である。
【0029】
本発明の熱伝導性複合粒子は、熱伝導性に優れるため、熱伝導性材料として好適に使用可能である。熱伝導性材料としては、本発明の熱伝導性複合粒子単独で用いてもよいし、他の材料と組み合わせてもかまわない。例えば、他の熱伝導性フィラーと配合した熱伝導性材料としてもよいし、後述のように樹脂組成物としてもかまわない。
【0030】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、本発明の熱伝導性複合粒子を含有する。熱伝導性複合粒子が必須である以外に特に制限はなく、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、反応性のモノマーやオリゴマー、各種添加剤等を含有してかまわない。
【0031】
本発明の樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知慣用の樹脂組成物の製造方法を広く使用できる。熱可塑性樹脂組成物の場合は、複合粒子を必須として、必要に応じて、熱可塑性樹脂およびその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー、混合ロールなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240?320℃の範囲である。
【0032】
熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて外部滑剤、内部滑剤、酸化防止剤、難燃剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ガラス繊維、カーボン繊維等の補強材、各色着色剤等を添加する事ができる。
【0033】
熱可塑性樹脂組成物中の複合粒子、熱可塑性樹脂の構成比に特に制限は無く、用途で必要とされる熱伝導率に応じた構成比で配合される。通常、樹脂組成物中の全部の熱可塑性樹脂に対する無機粒子の比は容量比で75/25?35/65が好ましく、熱可塑性樹脂の量が75容量%より少なければ、充分な熱伝導性が得られ、35容量%より多ければ樹脂組成物の製造が容易であるため、好ましい。
【0034】
熱硬化性樹脂組成物の場合も、複合粒子を必須として、必要に応じて、熱硬化性樹脂、硬化剤およびその他の成分を、公知慣用の方法で、混合し、作製される。
その際、必要に応じて、熱可塑性樹脂組成物と同様にその他の成分を配合する事ができる。
【0035】
熱硬化性樹脂組成物中の複合粒子、熱硬化性樹脂の構成比に特に制限は無く、用途で必要とされる熱伝導率に応じた構成比で配合される。通常、樹脂組成物中の硬化剤等を含む全樹脂成分に対する複合粒子の比は体積比で85/15?25/75が好ましく、80/20?60/40がより好ましく、樹脂成分の量が75体積%より少なければ、充分な熱伝導性が得られ、15体積%より多ければ樹脂組成物の製造が容易であるため、好ましい。
【0036】
また、反応性モノマーや反応性オリゴマー、反応性マクロモノマーといった、反応性基を有する化合物と複合粒子を混合することでも、樹脂組成物を得ることができる。
【0037】
(樹脂成形体)
本発明の樹脂組成物は、各種の成形法で成形して成形物として用いることができる。その成形法は、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を成形する公知慣用の方法が利用でき、例えば、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、活性エネルギー線成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。成形品の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形品の用途に応じて任意に設定すればよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下ことわりのない場合、「%」は「体積%」を、「部」は「体積部」を表す。
【0039】
(実施例1)
熱伝導性複合粒子の製造
球状アルミナ(電気化学工業社製、デンカ球状アルミナDAW45)270部と窒化ホウ素(電気化学工業社製、デンカボロンナイトライドSGP)30部を、流動式混合器型複合化機(日本コークス工業株式会社製、MP5型)に投入し、回転数6000rpm、10分間のメカノケミカル処理を行い、複合粒子(C-1)を得た。
【0040】
樹脂組成物及び成形体
ビスフェノールAのグリシジルエーテル(DIC株式会社製、EPICLON850-S、エポキシ当量188g/eq.)45.5重量部、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル30(阪本薬品株式会社製、エポキシ当量412g/eq.)50重量部、ジシアンジアミド(味の素ファインテクノ株式会社製、アミキュアAH-154)4.5重量部を混合し、樹脂混合液を調整した。得られた樹脂混合液40部に対し、複合粒子(C-1)を60部配合し、三本ロールで混練・脱泡することで、樹脂組成物1を得た。得られた樹脂組成物1に対し、加熱プレス成形(仮硬化条件170℃20分、本硬化条件170℃2時間)を行い、60×110×0.8mmの樹脂成形体1-1、及び110×70×1.0mmの樹脂成形体1-2を得た。
【0041】
得られた樹脂組成物及び樹脂成形体に対し、以下の評価を行った。
【0042】
<樹脂硬化物の熱伝導性評価(厚み方向)>
得られた樹脂成形体1-1(60×110×0.8mm)から、10×10×0.8mmの試験片を切り出し、熱伝導率の測定を行った。熱伝導率の測定は、熱伝導率測定装置(LFA447nanoflash、NETZSCH社製)を用い、室温25℃において、25℃における熱伝導率をキセノンフラッシュ法によって測定した。
【0043】
<樹脂硬化物の熱伝導性評価(面内方向)>
得られた樹脂成形体1-2(110×70×1.0mm)を、熱線方式熱伝導率測定装置(QTM-500、京都電子工業製)を用いて、室温25℃において、25℃における熱伝導率を熱線方式によって測定した。
【0044】
<樹脂組成物の接着性評価>
樹脂組成物を用いて、引っ張り剪断接着強さの測定を行った。被着体は幅25mm×長さ100mm×厚み1.5mmのアルミ板(A1050)を用いて、引張試験機(ストログラフAPII、東洋精機(株)製)を用いて、引張速度10mm/min、つかみ具間隔120mmで引っ張り剪断接着強さの測定を行った。20℃における接着強度が5MPa以上であった場合を○、3MPa以上5MPa未満であった場合を△、3MPa未満であった場合を×とした。
【0045】
(実施例2?7)
実施例1において、配合量を下記表1の通りに変更した以外は同様にして、熱伝導性複合粒子(C-2)?(C-7)、樹脂組成物2-7、及び樹脂成形体2-7を作製した。
【0046】
(比較例1-15)
実施例1において、メカノケミカル処理を行わない粒子を表2の配合量に従い樹脂混合液に配合し、三本ロールで混練・脱泡する以外は同様にして、比較樹脂組成物及び比較樹脂成形体を作製した。
【0047】
配合量及び結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表中の略語は以下の通りである。
DAW45 アルミナ(電気化学工業社製、デンカ球状アルミナDAW45、粒径50μm、アスペクト比1.1)
DAW20 アルミナ(電気化学工業社製、デンカ球状アルミナDAW20、粒径20μm、アスペクト比1.1)
MSPS 炭酸マグネシウム(神島化学製、粒径30μm、アスペクト比2.5)
SGP 窒化ホウ素(電気化学工業社製、デンカボロンナイトライドSGP、粒径18μm、アスペクト比20)
PCTP30 窒化ホウ素(サンゴバン製、粒径30μm、アスペクト比30)
SP3 窒化ホウ素(電気化学工業社製、デンカボロンナイトライドSP3、粒径3μm、アスペクト比10)
CTSM2 凝集窒化ホウ素(サンゴバン製、粒径35μm、アスペクト比1.2)
SIN 窒化珪素 (タテホ化学製 窒化珪素ウィスカ 粒径50μm、アスペクト比100)
【0051】
比較例11-15においては、フィラーの混合物を用いた。
【0052】
<複合粒子のアスペクト比測定>
複合粒子のSEM観察を行い、複合粒子を10個任意に選定し、各複合粒子形状を計測し最も長い辺の長さと最も短い辺の長さを除した値を算出し、その平均値をフィラーのアスペクト比とした。
【0053】
<複合粒子の形状評価>
混練した樹脂組成物を空気中600℃で2時間脱脂処理を行うことで樹脂成分を除去して得た灰分をSEM観察した。実施例1などの樹脂組成物の灰分は無機粒子表面に板状・棒状粒子が固着された複合粒子C-1が形態変化せずそのままの状態で観察された。比較例7などの樹脂組成物の灰分は、無機粒子と板状・棒状粒子が混在している状態で観察された。
【0054】
<棒状・板状粒子被覆率測定>
複合粒子10wt%水溶液を超音波処理し減圧乾燥した。上記処理品でSEM-EDS観察を行い、複合粒子を5個任意に選定し、各複合粒子の元素マッピングを計測し、棒状・板状粒子由来の元素の面積が複合粒子面積に占める比率を算出し、その平均値を棒状・板状粒子被覆率とした。例えば無機粒子がアルミナ、棒状・板状粒子が窒化ホウ素の場合、NまたはBを計測対象元素として計測を行った。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の熱伝導性複合粒子を含有する樹脂組成物及び樹脂成形体は熱伝導性に優れることから、熱伝導性材料、特に放熱材料として好適に利用することができ、接着剤、封止材、半導体部材、電子基板等の各種電子機器部材、包装資材、建築材料、運搬機器部材等に好適に使用することが可能である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状粒子である酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化珪素、二酸化チタン、マイカ、チタン酸カリウム、酸化鉄、タルク、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、銅、アルミニウム、及び炭酸マグネシウムからなる群から選ばれる1種以上または
棒状粒子である炭化珪素、黒鉛、窒化珪素、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラストナイト、ホウ酸アルミニウム、及び酸化亜鉛からなる群から選ばれる1種以上
である熱伝導性フィラーと、無機粒子であるアルミナとを混合し、メカノケミカル処理を行って複合粒子を得る工程を有することを特徴とする、熱伝導性複合粒子の製造方法であって、
板状粒子または棒状粒子の平均アスペクト比が10以上であり、
板状粒子が長軸方向での平均粒子径が10?30μmであり、
棒状粒子が繊維径が平均0.1?10μmかつ短繊維長が平均10?50μmであり、
無機粒子の平均アスペクト比が2以下かつ粒径が20?50μmである、熱伝導性複合粒子の製造方法。
【請求項2】 削除
【請求項3】
板状粒子が窒化ホウ素である、請求項1記載の熱伝導性複合粒子の製造方法。
【請求項4】
棒状粒子が窒化ケイ素である、請求項1又は3に記載の熱伝導性複合粒子の製造方法。
【請求項5】 削除
【請求項6】 削除
【請求項7】
請求項1、3、4のいずれかに記載の製造方法で得られた熱伝導性複合粒子と、樹脂とを配合する工程を特徴とする、樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法で得られた樹脂組成物を成形する工程を有する、樹脂成形体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-04-20 
出願番号 特願2014-97660(P2014-97660)
審決分類 P 1 651・ 853- YAA (C08L)
P 1 651・ 851- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安田 周史  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 天野 斉
木村 敏康
登録日 2018-10-26 
登録番号 特許第6421448号(P6421448)
権利者 DIC株式会社
発明の名称 複合粒子、その製造方法及び樹脂組成物  
代理人 岩本 明洋  
代理人 岩本 明洋  
代理人 小川 眞治  
代理人 大野 孝幸  
代理人 大野 孝幸  
代理人 小川 眞治  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ