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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C08L
管理番号 1376108
審判番号 訂正2020-390106  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2020-11-11 
確定日 2021-05-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6642008号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6642008号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、5-12〕に訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第6642008号発明(以下「本件特許」という。)は、平成28年1月7日を出願日とする特許出願(特願2016-1743号)に係るものであって、その請求項1?12に係る発明について令和2年1月8日に特許権の設定登録がなされたものである。
そして、令和2年11月11日に本件訂正審判の請求がなされ、令和3年1月14日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年2月17日に意見書及び参考資料1?2が提出されたものである。

第2 請求の趣旨及び内容
1 訂正の趣旨
本件訂正審判請求の趣旨は、「特許第6642008号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2及び5?12について訂正することを認める、との審決を求める。」というものであり、すなわち、本件特許に係る願書に添付した明細書、特許請求の範囲を下記「2 訂正の内容」の訂正事項1?10のとおりに訂正することを求めるというものである。

2 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「(メタ)アクリル重合体(P)とタングステン酸化物粒子とを含有する(メタ)アクリル樹脂組成物であって、
前記(メタ)アクリル重合体(P)100質量部に対する前記タングステン酸化物粒子の量が0.003質量部以上0.02質量部以下であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記方法3で測定した前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量(Mw)が150,000以上30,000,000以下であり、且つ
前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分を、前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む、(メタ)アクリル樹脂組成物。
<方法3>
(メタ)アクリル樹脂組成物をTHFに溶解した溶液を、GPC測定用のサンプルとする。
GPC測定では、高速液体クロマトグラフィー測定装置に、分離カラム(TSK-Gel社製、商品名:SUPER HM-H)を2本直列で使用し、検出器には示差屈折計を用いる。
分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン(THF)、移動層の流量:0.6ml/min、サンプル注入量:10μlの条件で測定を行ない、GPC分子量分布曲線を得る。得られたGPC分子量分布曲線について、分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340?1,950,000)を標準ポリマーとして、標準ポリマー換算分子量を求める。」
とあるのを
「(メタ)アクリル重合体(P)とタングステン酸化物粒子とを含有する(メタ)アクリル樹脂組成物であって、
前記(メタ)アクリル重合体(P)100質量部に対する前記タングステン酸化物粒子の量が0.003質量部以上0.02質量部以下であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記方法3で測定した前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量(Mw)が150,000以上30,000,000以下であり、且つ
前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分を、前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む、
(メタ)アクリル樹脂組成物。
<方法3>
(メタ)アクリル樹脂組成物をTHFに溶解した溶液を、GPC測定用のサンプルとする。
GPC測定では、高速液体クロマトグラフィー測定装置に、分離カラム(TSK-Gel社製、商品名:SUPER HM-H)を2本直列で使用し、検出器には示差屈折計を用いる。
分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン(THF)、移動層の流量:0.6ml/min、サンプル注入量:10μlの条件で測定を行ない、GPC分子量分布曲線を得る。得られたGPC分子量分布曲線について、分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340?1,950,000)を標準ポリマーとして、標準ポリマー換算分子量を求める。」
と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に
「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)250,000以上の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において20%以上含む、請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。」
とあるのを
「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量250,000以上の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において20%以上含む、請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に
「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)400,000以上の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において5%以上含む、請求項1、2及び5のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。」
とあるのを
「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量400,000以上の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において5%以上含む、請求項1、2及び5のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。」
と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に
「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)100,000以下の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において45%以下含む、請求項1、2、5及び6のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。」
とあるのを
「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量100,000以下の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において45%以下含む、請求項1、2、5及び6のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。」
と訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の段落【0015】、【0016】、【0017】、【0018】、【0030】、【0046】、【0047】、【0048】及び【0049】にそれぞれ「重量平均分子量(Mw)」と記載されているのを、「分子量」に訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0073】?【0076】にそれぞれ「Mw」と記載されているのを、「分子量」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0096】、【0100】、【0104】及び明細書の段落【0106】の【表1】中にそれぞれ「Mw150,000以上の成分のGPC面積比率」と記載されているのを、
「分子量150,000以上の成分のGPC面積比率」に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の段落【0096】、【0100】、【0104】及び明細書の段落【0106】の【表1】中にそれぞれ「Mw250,000以上の成分のGPC面積比率」と記載されているのを、
「分子量250,000以上の成分のGPC面積比率」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の段落【0096】、【0100】、【0104】及び明細書の段落【0106】の【表1】中にそれぞれ「Mw400,000以上の成分のGPC面積比率」と記載されているのを、「分子量400,000以上の成分のGPC面積比率」に訂正する。

(10)訂正事項10
明細書の段落【0096】、【0100】、【0104】及び明細書の段落【0106】の【表1】中にそれぞれ「Mw100,000以下の成分のGPC面積比率」と記載されているのを、「分子量100,000以下の成分のGPC面積比率」に訂正する。


第3 請求人が令和3年2月17日付けの意見書に添付して提出した資料
請求人は、令和3年2月17日付けの意見書に、以下の資料を添付して提出した。

参考資料1:蒲池幹治ら監修「ラジカル重合ハンドブック-基礎から新展開まで-」、株式会社エヌ・ティー・エス、1999年、第434頁?435、453頁
参考資料2:社団法人日本分析化学会、高分子分析研究懇談会編「新版高分子分析ハンドブック」、株式会社紀伊國屋書店、1995年1月、122頁

参考資料1、2に記載された事項は、以下のとおりである。

(1)参考資料1
参考資料1には、以下の事項が記載されている。

(参1a)「1.1 はじめに
合成高分子は分子量の異なる分子の集合体であり、したがって合成高分子の分子量は一般に平均分子量で表示される。平均分子量の測定法には光散乱法(LS)、沈降平衡法、膜浸透圧法(MO)、蒸気圧浸透圧法(VPO)、末端基測定法などがあり、前二者によって重量平均分子量(Mw)が,後三者によって数平均分子量(Mn)が求められる。これらの方法は分子量既知の標準試料を必要としない点で絶対測定法に位置づけられている。」(第434頁左欄第2?11行)

(参1b)「1.2 サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
カラム充填剤の細孔の大きさを利用し、試料分子を分子サイズの大きいものから順次分離していく液体クロマトグラフィーをSECという。充填剤(固定相)と試料分子との間に水素結合などの相互作用がないことを原則とし、同じ分子サイズの分子は種類によらず同じ位置に溶出する。したがって種類の異なる高分子の間でも、分子サイズと分子量の関係を知ることにより、分子量の相互換算が可能となる。このことよりSECは高分子の分子量測定法に位置づけられる。」(第434頁右欄第9?19行)

(参1c)「またMnとMw(さらに、z平均分子量や粘度平均分子量も求められる)が同時に測定できることから、分子量分布を求めることもでき、今ではSECは高分子の分子量測定法としてよく利用されている。」(第434頁右欄第19?23行)

(参1d)「SECで高分子の分子量を求めるには、まず高速液体クロマトグラフに目的高分子の分別に適したSECカラムを装着し、クロマトグラムを測定する。また分子量既知で分子量分布の狭いポリスチレン(PS)標準試料を用いてlogM-保持容量(V_(R))の関係を図示した較正曲線を作成する(図1参照)。次に試料高分子のSECクロマトグラムを等分に分割し(図2)、各分割点におけるクロマトグラム高さ(Hi)を求め、また図1の較正曲線から同じ保持容量における分子量Miを求める。例えば保持容量26mlにおける高さと同じ位置における分子量(図1では275,000)を求める。次式によって平均分子量を計算する。


」(第434頁右欄第24行?第435頁左欄)

(2)参考資料2
参考資料2には、以下の事項が記載されている。

(参2a)「4.5.2 サイズ排除クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィー(以下SEC)はしばしばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)とも呼ばれ、MWD測定法のなかでも最も広く用いられている方法である。」(第122頁第3?6行)


第4 当審の判断
1 訂正事項1について
(1)目的要件について
ア 目的要件の判断の前提
審判請求人は、訂正事項について、審判請求書5頁5.(3)イ(ア)aにおいて、本件訂正が特許法第126条第1項ただし書き2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである旨主張しているので、まず検討する。

明細書の誤記を目的とする訂正が認められるためには、特許がされた明細書の記載に誤記が存在し、それ自体で又は明細書又は図面の他の記載との関係で、誤りであることが明らかであり、かつ正しい記載が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面から自明な事項として定まる必要がある。

イ 目的要件の判断
訂正前及び訂正後の請求項1の記載は、上記「第2 請求の趣旨及び内容」「2 訂正の内容」「(1)訂正事項1」のとおりである。

前記訂正事項は、要するに、「(メタ)アクリル重合体(P)」について「樹脂成形体の切削加工性を良好にできる点」(段落【0046】)から特徴づけるための、「前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積」における一部の面積を画する指標として、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分」と「重量平均分子量(Mw)」を指標にしていたのを、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分」と「分子量」を指標にするものである。
そして、誤記の訂正を目的としたものとして認められるためには、(ア)訂正前の特許請求の範囲の記載がそれ自体で、又は特許された明細書の記載との関係で誤りであることが明らかであり、かつ、(イ)特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まることが必要である。
したがって、前記訂正事項が認められるためには、(ア)訂正前の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分」の記載がそれ自体で、又は明細書、特許請求の範囲の記載との関係で誤りであることが明らかであり、かつ、(イ)明細書、特許請求の範囲の記載全体から「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分」の記載が自明な事項として定まることが必要である。

(ア)訂正前の特許請求の範囲の記載がそれ自体で、又は特許された明細書、他の特許請求の範囲の記載との関係で誤りであることが明らかであることについて

まず、「訂正前の特許請求の範囲の記載がそれ自体で、誤りであることが明らかであること」について検討する。

訂正前の請求項1は、「・・・ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記方法3で測定した前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量(Mw)が150,000以上30,000,000以下であり、且つ
前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分を、前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む、(メタ)アクリル樹脂組成物。
<方法3>
(メタ)アクリル樹脂組成物をTHFに溶解した溶液を、GPC測定用のサンプルとする。GPC測定では、高速液体クロマトグラフィー測定装置に、分離カラム(TSK-Gel社製、商品名:SUPER HM-H)を2本直列で使用し、検出器には示差屈折計を用いる。分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン(THF)、移動層の流量:0.6ml/min、サンプル注入量:10μlの条件で測定を行ない、GPC分子量分布曲線を得る。得られたGPC分子量分布曲線について、分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340?1,950,000)を標準ポリマーとして、標準ポリマー換算分子量を求める。」
を発明特定事項としている。

まず、はじめに、本件訂正前の請求項1の記載のうち「GPC分子量分布曲線」について検討する。
「GPC分子量分布曲線」について、一般文献である参考資料2の(参2a)には「サイズ排除クロマトグラフィー(以下SEC)はしばしばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)とも呼ばれ」と記載され、同じく一般文献である参考資料1の(参1d)には、「サイズ排除クロマトグラフィー(以下SEC)」について、「SECで高分子の分子量を求めるには、まず高速液体クロマトグラフに目的高分子の分別に適したSECカラムを装着し、クロマトグラムを測定する。また分子量既知で分子量分布の狭いポリスチレン(PS)標準試料を用いてlogM-保持容量(V_(R))の関係を図示した較正曲線を作成する(図1参照)。次に試料高分子のSECクロマトグラムを等分に分割し(図2)、各分割点におけるクロマトグラム高さ(Hi)を求め、また図1の較正曲線から同じ保持容量における分子量Miを求める」と記載され、第2図には、縦軸に「記録計応答」、横軸に「保持容量(ml)」の曲線のグラフが記載されており、上記記載から、横軸の「保持容量(ml)」は第1図の「較正曲線」により同じ「保持容量」における「分子量Mi」に変換されること、すなわち、第2図には、縦軸が「記録計応答」であり、横軸が「分子量Mi」に変換可能な「保持容量」である「分子量分布曲線」が記載されているといえる。
そうすると、訂正前の請求項1に記載された「GPC分子量分布曲線」とは、請求人が令和3年2月17日に提出した意見書の第4頁の「((ア)及び(イ)についての説明)」の中で「本件特許請求の範囲および明細書における「GPC分子量分布曲線」は、参考資料1の435頁の図2に示されるようなものであり・・・」(第4頁第25から26行)と述べているとおり、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)」により測定された、参考資料1の第2図のような縦軸が「記録計応答」であり、横軸が「分子量Mi」である分布曲線であるといえる。

「GPC分子量分布曲線」について、訂正前の請求項1の「前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線・・・ <方法3>(メタ)アクリル樹脂組成物をTHFに溶解した溶液を、GPC測定用のサンプルとする。GPC測定では、高速液体クロマトグラフィー測定装置に、分離カラム(TSK-Gel社製、商品名:SUPER HM-H)を2本直列で使用し、検出器には示差屈折計を用いる。分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン(THF)、移動層の流量:0.6ml/min、サンプル注入量:10μlの条件で測定を行ない、GPC分子量分布曲線を得る。得られたGPC分子量分布曲線について、分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340?1,950,000)を標準ポリマーとして、標準ポリマー換算分子量を求める」の記載を確認すると、
訂正前の請求項1における「高速液体クロマトグラフィー測定装置に、分離カラム(TSK-Gel社製、商品名:SUPER HM-H)を2本直列で使用」とは、参考文献1の(参1d)の「高速液体クロマトグラフに目的高分子の分別に適したSECカラムを装着」して使用することであり、訂正前の請求項1の「<方法3>」では、「分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン(THF)、移動層の流量:0.6ml/min、サンプル注入量:10μl」の具体的な測定条件で、「示差屈折計」を用いて「記録計応答」の値を測定している。
また、訂正前の請求項1における「得られたGPC分子量分布曲線について、分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340?1,950,000)を標準ポリマーとして、標準ポリマー換算分子量を求める」とは、(参1d)の「標準資料」として「分子量既知で分子量分布の狭いポリスチレン(PS)」ではなく「分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340?1,950,000)」を用いるものであるが、(参1d)の「分子量既知で分子量分布の狭いポリスチレン(PS)標準試料を用いてlogM-保持容量(V_(R))の関係を図示した較正曲線を作成」と同様の操作を行っているといえる。
上記した「GPC分子量分布曲線」の意味を踏まえて訂正前の請求項1の「<方法3>」の記載をみると、その測定結果は、(参1d)の図2のような、縦軸に「記録計応答」である「示差屈折計」によって測定された値が、横軸に、「保持容量」を「分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340?1,950,000)を標準ポリマー」を用いて作成した「較正曲線」により変換した「分子量Mi」の「分子量分布曲線」になるといえる。

次に、訂正前の請求項1に記載された「重量平均分子量(Mw)」について検討する。
「重量平均分子量(Mw)」とは、(参1a)に記載されているように「平均分子量」を示す値であり、(参1d)の「試料高分子のSECクロマトグラムを等分に分割し(図2)、各分割点におけるクロマトグラム高さ(Hi)を求め、また図1の較正曲線から同じ保持容量における分子量Miを求める。例えば保持容量26mlにおける高さと同じ位置における分子量(図1では275,000)を求める。次式によって平均分子量を計算する。・・・」の「重量平均分子量」を意味する「Mw」の式により求められるものである。
そして、訂正前の請求項1における「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)」についても、上記(参1d)記載の手順により計算して求められるものであるといえる。

また、参考資料1の(参1c)には「今ではSECは高分子の分子量測定法としてよく利用されている」と、「SEC(サイズ排除クロマトグラフィー」、すなわち、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)」は、「高分子の分子量測定法」として汎用のものであることが記載されている。

以上を踏まえると、訂正前の請求項1における「GPC分子量分布曲線」とは、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)」により測定された、参考資料1の(参1d)の第2図のような縦軸が「記録計応答」であり、横軸が「分子量Mi」であるグラフの「分子量分布曲線」であるところ、訂正前の請求項1の「前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積」における一部の面積を画する指標として、「GPC分子量分布曲線」から(参1d)の「Mw」の計算式から算出され「平均分子量」を表す「重量平均分子量」では、「GPC分子量分布曲線」において一部の面積を画することはできないことは当業者からみれば明らかである。
したがって、訂正前の請求項1の「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分を、前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む」の記載における「重量平均分子量(Mw)」を「前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積」を画する指標として用いることは当業者にとって明らかな誤りであるといえる。

(イ)訂正後の記載に関して、特許がされた明細書、特許請求の範囲の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まることについて

上記(ア)で検討したとおり、訂正前の請求項1の「前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線・・・ <方法3>(メタ)アクリル樹脂組成物をTHFに溶解した溶液を、GPC測定用のサンプルとする。GPC測定では、高速液体クロマトグラフィー測定装置に、分離カラム(TSK-Gel社製、商品名:SUPER HM-H)を2本直列で使用し、検出器には示差屈折計を用いる。分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン(THF)、移動層の流量:0.6ml/min、サンプル注入量:10μlの条件で測定を行ない、GPC分子量分布曲線を得る。得られたGPC分子量分布曲線について、分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340?1,950,000)を標準ポリマーとして、標準ポリマー換算分子量を求める」の記載のうち「GPC分子量分布曲線」とは、(参1d)の図2のような、縦軸に「記録計応答」である「示差屈折計」によって測定された値が、横軸に、「保持容量」を「分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340?1,950,000)を標準ポリマー」を用いて作成した「較正曲線」に変換した「分子量Mi」の「分子量分布曲線」であるといえる。
そして、「GPC分子量分布曲線」において、「前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積」における一部の面積を画することができる指標は、横軸となる「保持容量」を「分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340?1,950,000)を標準ポリマー」を用いて作成した「較正曲線」に変換した「分子量Mi」のみであることは当業者にとって明らかであるといえる。

そうすると、訂正前の請求項1の「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分を、前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む」の記載について、「重量平均分子量(Mw)」が誤りであり、「分子量」が正しいことであることは、当業者にとって自明なことといえる。

ウ 小括
以上のとおり、(ア)訂正前の請求項1の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分」の記載が技術常識からみてそれ自体で誤りであることが明らかであり、かつ、(イ)「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分」の記載が技術常識からみて自明な事項として定まるといえる。
よって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものといえる。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であること(特許法第126条第3項)
ア はじめに
前記(1)で判断したとおり、本件訂正は特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、本件訂正が特許法第126条第5項の規定に適合するかどうかについては、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件当初明細書等」という。)を基準として判断する(特許法第126条第5項括弧書)。

イ 本件当初明細書等の記載
本件当初明細書等の特許請求の範囲の【請求項4】には、「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む、請求項3に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物」と記載され、本件訂正前の請求項1と同様の発明特定事項が記載されている。

ウ 検討
上記(1)イ(ア)及び(イ)で検討したとおり、本件の当初明細書等の特許請求の範囲の【請求項4】の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分」の記載についても技術常識からみてそれ自体で誤りであることが明らかであり、かつ、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分」であることが正しい記載であることが技術常識からみて自明な事項として定まり同一の意味といえる。
したがって、本件訂正後の記載である「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分」は、本件当初明細書等の記載においても自明な事項として定まるものであるということができるから、本件訂正が、本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。

エ 小括
以上によると、本件訂正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができる。
したがって、本件訂正は特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更する訂正ではないこと(特許法第126条第6項)
上記(1)イ(ア)及び(イ)で検討したとおり、訂正前の請求項1の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分」の記載が技術常識からみてそれ自体で誤りであることが明らかであり、かつ、(イ)「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分」の記載が技術常識からみて自明な事項として定まり同一の意味といえるから、本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正後における請求項に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであること(特許法第126条第7項)
本件訂正による訂正後の本件発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができるとはいえないものであるとする理由はみあたらない。
したがって、本件訂正は特許法第126条第7項の規定に適合する。

(5)まとめ
以上のとおり、本件訂正1は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同法同条第5項から第7項までの規定に適合するものである。


2 訂正事項2?4について
訂正事項2?4は、訂正前の請求項5、6、7の「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)・・・以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以上含む」ないし「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)・・・以下の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以下含む」の記載について、訂正事項1と同様に、「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量・・・以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以上含む」ないし「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量・・・以下の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以下含む」と、「GPC分子量分布曲線におけるピーク面積」における一部の面積を画する指標として「重量平均分子量(Mw)」を指標にしていたのを、「分子量」を指標にするものである。
これらの訂正は、上記1で検討したとおり、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであり、かつ、同法同条第5項から第7項までの規定に適合するものである。

3 訂正事項5?6について
訂正事項5は、訂正前の本件明細書の段落【0015】、【0016】、【0017】、【0018】、【0030】の訂正前の「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)・・・以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以上含む」の記載、また、段落【0046】、【0047】、【0048】及び【0049】の訂正前の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)・・・以下の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以下含む」の記載における、「重量平均分子量(Mw)」の記載を「分子量」と訂正、すなわち、「GPC分子量分布曲線におけるピーク面積」における一部の面積を画する指標として「重量平均分子量(Mw)」を指標にしていたのを、「分子量」を指標に訂正するものである。
訂正事項6は、訂正前の本件明細書の段落【0073】?【0076】の「前記(メタ)アクリル重合体(P)は、GPCで測定したMw・・・・以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以上含む」ないしは「前記(メタ)アクリル重合体(P)は、GPCで測定したMw・・・・以下の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以下含む」の記載における、「Mw」の記載を「分子量」と訂正、すなわち、「GPC分子量分布曲線におけるピーク面積」における一部の面積を画する指標として「重量平均分子量」を意味する「Mw」を指標にしていたのを、「分子量」を指標に訂正するものである。
これらの訂正は、上記1で検討したとおり、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであり、かつ、同法同条第5項から第7項までの規定に適合するものである。

4 訂正事項7?10について
訂正事項7?10は、訂正前の本件明細書の段落【0096】、【0100】、【0104】の及び明細書の段落【0106】の【表1】中の「Mw・・・以上の成分のGPC面積比率は・・・%」ないし「Mw・・・以下の成分のGPC面積比率は・・・%」の記載における「「Mw」(重量平均分子量)の記載を「分子量」と訂正、すなわち、「GPC分子量分布曲線におけるピーク面積」における一部の面積を画する指標として「重量平均分子量」を意味する「Mw」を指標にしていたのを、「分子量」を指標に訂正するものである。
これらの訂正は、上記1で検討したとおり、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであり、かつ、同法同条第5項から第7項までの規定に適合するものである。

第5 むすび
以上のとおり、本件訂正は、本件訂正の訂正事項1?10は、いずれも特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同法同条第5項から第7項までの規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
発明の名称 (54)【発明の名称】
(メタ)アクリル樹脂組成物及び(メタ)アクリル樹脂成形体
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル樹脂組成物及び(メタ)アクリル樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物や自動車、列車、バス等の屋根材、並びに照明装置や看板等の保護材として、太陽光や、蛍光灯・ランプ等の光源からの光に含まれる赤外線領域の光(以下、「熱線」と略する)を遮断する性質(以下、「熱線遮蔽性」と略する)を有し、可視光領域では高い全光線透過率を有する樹脂成形体が要求されている。さらに、最近では、上記の性質に加えて、切削加工時の焼き付きやカケ(バリ)の発生が抑制されていること、すなわち切削加工性が良好であること、加熱時の収縮異方性が小さいこと、屋外での使用に際して耐候性に優れていることが、樹脂成形体に要求されている。樹脂板の全光線透過率と熱線遮蔽性を向上する技術として、特許文献1?3が知られている。
【0003】
特許文献1には、無機IR吸収剤としてのセシウムタングステン酸塩と、ホスフィン系安定剤を含む透明な熱可塑性合成物質からなる熱吸収ポリマー組成物が開示されている。実施例には、セシウムタングステン酸塩を含むポリカーボネート樹脂からなるシートが開示されている。
【0004】
特許文献2には、熱線遮蔽機能を有する微粒子を、分散粒子径1?800nm、シート材1m^(2)当たり0.05g?45gで含有する熱線遮蔽樹脂シート材が開示されている。実施例には、タングステン酸化物微粒子を含むポリカーボネート樹脂板が開示されている。
【0005】
特許文献3には、酸化タングステン粒子を特定量含有した合成樹脂からなる、可視光線透過率70%以上、日射透過率65%以下である熱線遮蔽シートが開示されている。実施例には、タングステン酸化物微粒子を含み、全光線透過率が65?90%であるポリ塩化ビニル樹脂板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2013-513708号公報
【特許文献2】特開2006-219662号公報
【特許文献3】特表2010-514844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載のポリカーボネート樹脂板では、ポリカーボネート樹脂への無機IR吸収剤の混練と押出成形を、260?270℃という高温で行うため、セシウムタングステン酸塩が熱分解して樹脂板の熱吸収特性や全光線透過率が低下し、黄色に変化する。また、ポリカーボネート樹脂からなる樹脂板であるため、耐候性も不十分である。
【0008】
特許文献2記載のポリカーボネート樹脂板では、タングステン酸化物微粒子を0.05?45g/m^(2)(実施例では0.0274?0.55質量%相当)という高含有量で含むため、可視光領域の全光線透過率は十分ではない。また、ポリカーボネート樹脂からなる樹脂板であるため、耐候性も不十分である。
【0009】
特許文献3に開示されているポリ塩化ビニル樹脂板では、樹脂板の厚みが高々50?350μmの範囲内であり、樹脂板の厚みを1mm以上としたときの全光線透過率は低下する。また、ポリ塩化ビニル樹脂からなる樹脂板であるため、耐候性や加熱時の寸法変化が不十分である。
【0010】
本発明の目的は、高い全光線透過性と熱線遮蔽性を有し、且つ、切削加工性が良好な樹脂成形体を提供できる(メタ)アクリル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の[1]?[17]である。
【0012】
[1](メタ)アクリル重合体(P)とタングステン酸化物粒子とを含有する(メタ)アクリル樹脂組成物であって、
前記(メタ)アクリル重合体(P)100質量部に対する前記タングステン酸化物粒子の量が0.003質量部以上0.02質量部以下であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量(Mw)が100,000以上30,000,000以下である、(メタ)アクリル樹脂組成物。
【0013】
[2]前記(メタ)アクリル樹脂組成物が、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位を含む(メタ)アクリル重合体(P1)5質量%以上40質量%以下と、メタクリル酸メチルを含む単量体組成物(M1)60質量%以上95質量%以下とを含有する組成物(X1’)と、前記タングステン酸化物粒子と、を含有する重合性組成物(X1)の重合物であり、
前記組成物(X1’)100質量部に対する前記タングステン酸化物粒子の量が0.003質量部以上0.02質量部以下である、[1]に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【0014】
[3]ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量(Mw)が150,000以上30,000,000以下である、[1]又は[2]に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【0015】
[4]前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む、[3]に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【0016】
[5]前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量250,000以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において20%以上含む、[3]又は[4]に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【0017】
[6]前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量400,000以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において5%以上含む、[3]?[5]のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【0018】
[7]前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量100,000以下の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において45%以下含む、[3]?[6]のいずれかに
記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【0019】
[8]前記(メタ)アクリル重合体(P)が、(メタ)アクリル重合体(P)の総質量に対し、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位100質量%、又はメタクリル酸メチル由来の繰り返し単位80質量%以上100質量%未満とメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位0質量%を超えて20質量%以下を含む、[1]?[7]のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【0020】
[9]前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-エチル、アクリル酸n-プロピル及びアクリル酸2-エチルヘキシルからなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体である、[8]に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【0021】
[10]前記(メタ)アクリル樹脂組成物がホスフィン系化合物を含有しない、[1]?[9]のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【0022】
[11]前記タングステン酸化物粒子がセシウムタングステン酸化物粒子である、[1]?[10]のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【0023】
[12][1]?[11]のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物からなる(メタ)アクリル樹脂成形体。
【0024】
[13]JIS K7361-1に準拠して、波長380?780nmの範囲内で測定した全光線透過率が75%以上90%以下であり、
下記方法1で測定した、波長780?2100nmの範囲内の熱線カット率が40%以上85%以下である、(メタ)アクリル樹脂成形体。
【0025】
<方法1>
厚さ6mmのシート状の(メタ)アクリル樹脂成形体について、JIS R3106に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計を用いて波長780?2100nmの範囲内で分光透過率(単位:%)を測定する。次いで、得られた分光透過率の値を用いて、下記式(1)より波長780?2100nmの熱線カット率(単位:%)を算出する。
【0026】
〔熱線カット率(単位:%)〕=100-〔分光透過率(単位:%)〕 (1)。
【0027】
[14]下記方法2で切削加工性を評価したときに、焼き付き及び切削面のカケが観察されない、[13]に記載の(メタ)アクリル樹脂成形体。
【0028】
<方法2>
NCルーターを用い、厚さ6mmのシート状の(メタ)アクリル樹脂成形体の試験片(縦30mm×横100mm)の表面をドリル(回転数1200rpm、送り速度150mm/min)で切削する。切削後に、前記ドリル及び前記(メタ)アクリル樹脂成形体の表面の焼き付き、及び切削面のカケの有無を観察する。
【0029】
[15]前記(メタ)アクリル樹脂成形体が、(メタ)アクリル重合体(P)とタングステン酸化物粒子を含有する(メタ)アクリル樹脂組成物からなり、
前記(メタ)アクリル重合体(P)がメタクリル酸メチルとメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体であり、
前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量が150,000以上30,000,000以下である、[14]に記載の(メタ)アクリル樹脂成形体。
【0030】
[16]前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む、[15]に記載の(メタ)アクリル樹脂成形体。
【0031】
[17]前記(メタ)アクリル樹脂組成物において、(メタ)アクリル重合体(P)100質量部に対する前記タングステン酸化物粒子の量が0.003質量部以上0.02質量部以下である、[15]又は[16]に記載の(メタ)アクリル樹脂成形体。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、高い全光線透過性と熱線遮蔽性を有し、且つ、切削加工性が良好な樹脂成形体を提供できる(メタ)アクリル樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」及び「メタクリレート」から選ばれる少なくとも1種を意味する。また、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」から選ばれる少なくとも1種を意味する。また、「単量体」は未重合の化合物を意味し、「繰り返し単位」は単量体が重合することによって形成された該単量体に由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって該単位の一部が別の構造に変換されたものであってもよい。また、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる所定の成分の含有量を示す。また、「(メタ)アクリル樹脂成形体」は「樹脂成形体」とも示す。
【0034】
[(メタ)アクリル樹脂組成物]
本発明に係る(メタ)アクリル樹脂組成物は、(メタ)アクリル重合体(P)とタングステン酸化物粒子とを含有する。
【0035】
前記(メタ)アクリル重合体(P)の総質量を100質量部とするとき、前記タングステン酸化物粒子の量は0.003質量部以上0.02質量部以下である。該タングステン酸化物粒子の量が0.003質量部以上であることにより、樹脂成形体の熱線遮蔽性が良好となる。また、該タングステン酸化物粒子の量が0.02質量部以下であることにより、樹脂成形体の全光線透過性が良好となる。該タングステン酸化物粒子の量は、0.0035質量%以上0.017質量%以下が好ましく、0.004質量%以上0.015質量%以下がより好ましい。
【0036】
本発明に係る(メタ)アクリル樹脂組成物は、得られる樹脂成形体の熱線遮熱性、可視光領域の全光線透過率、耐候性、切削加工性、耐熱性等を損なわない範囲で、公知の離型剤、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、顔料、染料、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光剤、連鎖移動剤等の各種添加剤を含有することができる。
【0037】
一般的には、(メタ)アクリル樹脂組成物には、ラジカル重合開始剤の助剤として、ホスフィン系化合物が添加される。しかし、本発明に係る(メタ)アクリル樹脂組成物及び樹脂成形体は、特に、ホスフィン系化合物を含有しないことにより、樹脂成形体の透明性や機械的強度をより良好に維持できる。また、本発明に係る(メタ)アクリル樹脂組成物の製造において、後述する重合性組成物(X1)がホスフィン系化合物を含有しないことにより、重合性組成物の可使時間を長くすることができるため、製造現場において生産管理が行い易くなる。
【0038】
重合性組成物の可使時間が長くなる理由は定かでないが、ホスフィン系化合物が重合性組成物に含まれる場合、常温環境下においてもホスフィン系化合物がラジカル重合開始剤に作用して、局所的に重合が開始して、重合性組成物中にゲル化物が生成するためと推察される。即ち、重合性組成物(X1)がホスフィン系化合物を含有しないことにより、重合性組成物(X1)中におけるゲル化物の発生を抑制できると推察される。
【0039】
ここで、ホスフィン系化合物とは、リン化水素(ホスフィン)の全ての有機誘導体及びそれらの塩であり、特に芳香族ホスフィン及び脂肪族/芳香族ホスフィンからなる群から選択される化合物である。具体的には、トリフェニルホスフィン(TPP)、トリアルキルフェニルホスフィン、ビスジフェニルホスフィノエタン、トリナフチルホスフィンが挙げられる。
【0040】
本発明に係る(メタ)アクリル樹脂組成物を用いることにより、熱遮断性、透明性、切削加工性、耐候性に優れ、加熱時の収縮異方性の小さい樹脂成形体を得ることができる。より詳しくは、本発明に係る(メタ)アクリル樹脂組成物を用いることにより、蛍光灯・ランプ等の光源の光や太陽光に含まれる赤外線領域の光を遮蔽し、可視光領域で高い全光線透過率を有し、加工時の焼けやバリの発生が抑制され、高い耐候性を有し、加熱時の収縮異方性の小さい樹脂成形体を得ることができる。
【0041】
本発明に係る(メタ)アクリル樹脂組成物を用いて製造される樹脂成形体は、建造物、自動車、列車又はバスに使用される屋根材や、照明や看板に使用される保護材に好適に用いることができる。
【0042】
((メタ)アクリル重合体(P))
本発明に係る(メタ)アクリル重合体(P)を構成する単量体成分は特に限定されるものではない。しかしながら、(メタ)アクリル重合体(P)は、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位と、必要に応じてメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位とを含有する重合体であることが好ましい。該(メタ)アクリル重合体(P)を用いることにより、樹脂成形体の熱分解性が抑制され、耐候性、成形性を良好にすることができる。該(メタ)アクリル重合体(P)は、(メタ)アクリル重合体(P)の総質量100質量%に対し、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位100質量%(ポリメタクリル酸メチル)、又はメタクリル酸メチル由来の繰り返し単位80質量%以上100質量%未満とメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位0質量%を超えて20質量%以下を含有することが好ましい。また、該(メタ)アクリル重合体(P)は、(メタ)アクリル重合体(P)の総質量100質量%に対し、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位100質量%(ポリメタクリル酸メチル)、又はメタクリル酸メチル由来の繰り返し単位90質量%以上100質量%未満とメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位0質量%を超えて10質量%以下を含有することがより好ましい。
【0043】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、具体的にはアクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メ
タ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアダマンチル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ノルボルニルメチル、(メタ)アクリル酸メンチル、(メタ)アクリル酸フェンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸シクロデシル、(メタ)アク
リル酸4-t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリメチルシクロヘキシル等が挙げられる。これらは単独で使用又は2種以上を併用できる。
【0044】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの中でも、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-エチル、アクリル酸n-プロピル及びアクリル酸2-エチルヘキシルからなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体は、樹脂成形体の熱分解性を抑制し、耐候性、成形性が良好となる点から好ましい。
【0045】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量(Mw)は、100,000以上30,000,000以下である。該重量平均分子量(Mw)が100,000以上であることにより、樹脂成形体の切削加工性や機械強度が向上する。また、該重量平均分子量(Mw)が30,000,000以下であることにより、樹脂成形体の成形性が向上する。該重量平均分子量(Mw)は150,000以上30,000,000以下が好ましく、160,000以上1,000,000以下がより好ましく、180,000以上700,000以下がさらに好ましく、200,000以上500,000以下が特に好ましい。
【0046】
前記(メタ)アクリル重合体(P)は、樹脂成形体の切削加工性を良好にできる点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含むことが好ましく、45%以上含むことがより好ましく、48%以上含むことがさらに好ましい。前記範囲を満たすことにより樹脂成形体の切削加工性が良好となる理由は定かでないが、(メタ)アクリル重合体(P)の高分子量成分の割合が多くなることで、切削加工時の樹脂組成物の熱分解が起こりにくくなり、熱による焼き付きが低減すると推察される。前記範囲の上限は特に限定されないが、例えば90%以下とすれば、樹脂成形体の成形性を良好なものとすることができる。
【0047】
また、前記(メタ)アクリル重合体(P)は、樹脂成形体の曲げ強度や引張強度等の機械的特性を向上できる点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量250,000以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において20%以上含むことが好ましく、30%以上含むことがより好ましく、35%以上含むことがさらに好ましい。前記範囲の上限は特に限定されないが、例えば80%以下とすれば、樹脂成形体の成形性を良好なものとすることができる。
【0048】
また、前記(メタ)アクリル重合体(P)は、樹脂成形体の耐熱性(荷重たわみ温度等)を向上できる点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量400,000以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において5%以上含むことが好ましく、7%以上含むことがより好ましく、10%以上含むことがさらに好ましい。前記範囲の上限は特に限定されないが、例えば70%以下とすれば、樹脂成形体の成形性を良好なものとすることができる。
【0049】
また、前記(メタ)アクリル重合体(P)は、樹脂成形体の切削加工性を良好にできる点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量100,000以下の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において45%以下含むことが好ましく、30%以下含むことがより好ましく、20%以下含むことがさらに好ましい。樹脂成形体の切削加工性が良好となる理由は定かでないが、(メタ)アクリル重合体(P)の低分子量成分の割合が少なくなることで、樹脂成形体と切削加工用ドリルとの間で摩擦熱が発生しにくくなり、焼き付きが低減すると推察される。前記範囲の下限は特に限定されないが、例えば5%以上とすれば、樹脂成形体の耐熱性や機械的特性を良好なものとすることができる。
【0050】
前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量やGPC分子量分布曲線におけるピーク面積は、(メタ)アクリル樹脂組成物の製造において、重合時の連載移動剤の種類や添加量、重合温度、単量体の仕込み組成等を調整することにより制御できる。
【0051】
(タングステン酸化物粒子)
本発明に係る(メタ)アクリル樹脂組成物は、タングステン酸化物粒子を含有することにより、樹脂成形体の熱線遮蔽性が向上する。該タングステン酸化物粒子としては、WO_(X)(2.45≦X≦2.999)又はM_(Y)WO_(Z)(0.1≦Y≦0.5;2.2≦Z≦3.0;Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al及びCuからなる群から選択される少なくとも1種の元素である)で示され、且つ、六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物粒子が挙げられる。該複合タングステン酸化物粒子としては、例えば、Cs_(0.33)WO_(3)、Rb_(0.33)WO_(3)、K_(0.33)WO_(3)、Ba_(0.33)WO_(3)等が挙げられる。タングステン酸化物粒子としては、熱線遮蔽性がより向上する観点から、セシウムタングステン酸化物粒子が好ましい。タングステン酸化物粒子としては、市販品では、例えばYMDS-874(商品名、住友金属鉱山(株)製、Cs_(0.33)WO_(3))等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0052】
前記(メタ)アクリル樹脂組成物からなる樹脂成形体中におけるタングステン酸化物粒子の分散粒子径は、1nm以上800nm以下であることが好ましく、10nm以上500nm以下であることがより好ましく、20nm以上300nm以下であることがさらに好ましい。該分散粒子径が1nm以上であることにより、赤外線領域の光を遮蔽する効果が得られるとともに、粒子の表面積が小さくなり、樹脂成形体中でタングステン酸化物粒子が再凝集することを抑制できる。また、該分散粒子径が800nm以下であることにより、樹脂成形体の可視光線透過率が向上するため視認性を保持でき、熱線遮蔽性との両立が可能となる。
【0053】
タングステン酸化物粒子を(メタ)アクリル樹脂組成物中に均一分散させるために、タングステン酸化物粒子に分散剤を被覆してもよいし、(メタ)アクリル樹脂組成物中に分散剤を添加してもよい。このような分散剤としては、(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、シリコーン系樹脂やこれらの誘導体等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0054】
これらの分散剤の中でも、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位と、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位とを含有する(メタ)アクリル酸系樹脂は、タングステン酸化物粒子の(メタ)アクリル樹脂組成物中への分散性をより良好にできる観点から好ましい。また、分散剤として、メタクリル酸メチルとメタクリル酸を含む単量体の共重合体、メタクリル酸メチルとアクリル酸を含む単量体の共重合体等の(メタ)アクリル酸系樹脂を用いることもできる。なお、分散剤として(メタ)アクリル重合体(P)を用いてもよい。
【0055】
タングステン酸化物粒子に分散剤を被覆する方法としては、タングステン酸化物粒子と分散剤を溶媒に溶解、攪拌して分散液を調製した後、真空乾燥等の処理で溶媒を除去する方法等が挙げられる。
【0056】
(原料性組成物)
本発明に係る(メタ)アクリル樹脂組成物の原料である原料性組成物としては、例えば以下に示す原料性組成物(1)又は(2)が挙げられる。原料性組成物(1)は、後述する単量体組成物(M1)と前記タングステン酸化物粒子とを含む組成物である。一方、原料性組成物(2)は、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位を含む(メタ)アクリル重合体(P1)、後述する単量体組成物(M1)及びタングステン酸化物粒子を含む組成物である。前記原料性組成物としては、前記原料性組成物(2)が好ましい。前記原料性組成物が前記(メタ)アクリル重合体(P1)を含むことにより、前記原料性組成物は粘性を有する液体(以下、「シラップ」ともいう)となるため、重合時に重合収縮が起こりにくくなり、(メタ)アクリル樹脂成形体の品質を向上させることができる。
【0057】
前記原料性組成物(2)中の前記(メタ)アクリル重合体(P1)の含有量は5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。該含有量が5質量%以上であることにより、樹脂成形体を得る際の重合時間が短縮され、樹脂成形体の外観欠陥が生じにくくなる。また、該含有量が40質量%以下であることにより、前記原料性組成物(2)の粘度が適当となり、取扱い性が良好となる。
【0058】
前記原料性組成物(2)を得る方法としては、例えば、単量体組成物(M1)及びタングステン酸化物粒子に(メタ)アクリル重合体(P1)を溶解させる方法、又は単量体組成物(M1)に公知のラジカル重合開始剤を添加して、その一部重合させた後、タングステン酸化物粒子を添加する方法等が挙げられる。なお、樹脂成形体に求められる特性に応じて、原料性組成物の種類を適宜選択することが好ましい。
【0059】
(重合性組成物(X1))
本発明に係る(メタ)アクリル樹脂組成物は、特に、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位を含む(メタ)アクリル重合体(P1)5質量%以上40質量%以下と、メタクリル酸メチルを含む単量体組成物(M1)60質量%以上95質量%以下とを含有する組成物(X1’)と、前記タングステン酸化物粒子と、を含有する重合性組成物(X1)の重合物であることが好ましい。なお、前記組成物(X1’)において、前記(メタ)アクリル重合体(P1)と前記単量体組成物(M1)との合計は100質量%である。また、前記組成物(X1’)100質量部に対する前記タングステン酸化物粒子の量は0.003質量部以上0.02質量部以下であることが好ましい。
【0060】
前記組成物(X1’)中の(メタ)アクリル重合体(P1)の含有量の下限は、重合性組成物(X1)の重合時間が短縮でき、得られる樹脂成形体の外観が良好となる点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。一方、前記組成物(X1’)中の(メタ)アクリル重合体(P1)の含有量の上限は、重合性組成物(X1)が粘性を有することにより、製造時の取扱い性が良好となる点から、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0061】
前記組成物(X1’)中の単量体組成物(M1)の含有量の下限は、重合性組成物(X1)が粘性を有することにより、製造時の取扱い性が良好となる点から、60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。前記組成物(X1’)中の単量体組成物(M1)の含有量の上限は、重合性組成物(X1)の重合時間が短縮でき、得られる樹脂成形体の外観が良好となる点から、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。
【0062】
前記(メタ)アクリル重合体(P1)を構成する単量体成分は、メタクリル酸メチルを含めば特に限定されるものではないが、上述の(メタ)アクリル重合体(P)に記載した単量体を使用することができる。前記(メタ)アクリル重合体(P1)はメタクリル酸メ
チル由来の繰り返し単位を主成分として含むことができる。前記(メタ)アクリル重合体(P1)は、(メタ)アクリル重合体(P1)の総質量100質量%に対し、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位100質量%、又はメタクリル酸メチル由来の繰り返し単位60質量%以上100質量%未満と、上述の(メタ)アクリル重合体(P)に記載したメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位0質量%を超えて40質量%以下を含むことが好ましい。
【0063】
前記単量体組成物(M1)は、メタクリル酸メチルを含めば特に限定されるものではないが、メタクリル酸メチルを主成分として含むことができる。前記単量体組成物(M1)は、例えば、メタクリル酸メチルからなる単量体組成物(メタクリル酸メチル100質量%)、又はメタクリル酸メチル80質量%以上100質量%未満と、上述の(メタ)アクリル重合体(P)に記載したメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル0質量%を超えて20質量%以下を含有する単量体組成物を用いることができる。
【0064】
前記重合性組成物(X1)を重合して(メタ)アクリル樹脂組成物を得ることにより、該(メタ)アクリル樹脂組成物を用いて得られる樹脂成形体において、高分子量の重合体成分の含有量の割合を大きくすることができる。このため、樹脂成形体の切削加工性や機械的強度を向上できる。さらに、樹脂組成物の重合時間を短縮できるため、樹脂成形体の生産性を向上できる。また、残留応力が少ないため加熱時の収縮異方性が小さく、熱劣化による異物が発生しない。
【0065】
((メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法)
本発明に係る(メタ)アクリル樹脂組成物を得る方法としては、例えば前記重合性組成物(X1)に公知のラジカル重合開始剤を添加して、重合させる方法が挙げられる。
【0066】
前記ラジカル重合開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート等の有機過酸化物系重合開始剤が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0067】
前記ラジカル重合開始剤の添加量は目的に応じて適宜決めることができるが、例えば前記重合性組成物(X1)を用いる場合には、前記重合性組成物(X1)100質量部に対して、0.01質量部以上0.5質量部以下の範囲内であることが好ましい。
【0068】
重合温度は特に制限されないが、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、重合温度は180℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。重合時間は、重合硬化の進行に応じて適宜決定される。
【0069】
[(メタ)アクリル樹脂成形体]
本発明に係る(メタ)アクリル樹脂成形体(以下、(メタ)アクリル樹脂成形体(1)とも示す)は、本発明に係る(メタ)アクリル樹脂組成物からなる樹脂成形体である。また、本発明に係る他の(メタ)アクリル樹脂成形体(以下、(メタ)アクリル樹脂成形体(2)とも示す)は、JIS K7361-1に準拠して、波長380?780nmの範囲内で測定した全光線透過率が75%以上90%以下であり、後述する方法で測定した、波長780?2100nmの範囲内の熱線カット率が40%以上85%以下である樹脂成形体である。
【0070】
前記(メタ)アクリル樹脂成形体の厚みは、厚い板状から薄いフィルム状まで必要に応じて任意の厚さに調整することができる。
【0071】
前記(メタ)アクリル樹脂成形体(2)は、後述する切削加工性の評価において、樹脂成形体及び切削加工用ドリルの表面に、焼き付き及び切削面のカケが観察されないことが好ましい。ここで、焼き付きとは、樹脂成形体を切削加工したり、樹脂成形体の端面をダイヤモンドバイトのような研削機で研磨したりするときに、切削加工用のカッターや研磨用の刃に、樹脂組成物が焼き付くことをいう。焼き付きが発生した場合、切削加工用のカッターや研磨用の刃の寿命が短くなり、作業速度が低下する。
【0072】
前記焼き付き及び切削面のカケが観察されない切削加工性の高い(メタ)アクリル樹脂成形体(2)は、例えば、(メタ)アクリル重合体(P)とタングステン酸化物粒子を含有する(メタ)アクリル樹脂組成物からなり、前記(メタ)アクリル重合体(P)がメタクリル酸メチルとメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体であり、前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量が150,000以上30,000,000以下であることにより得ることができる。
【0073】
前記(メタ)アクリル重合体(P)は、GPCで測定した分子量150,000以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含むこと好ましく、45%以上含むことがより好ましく、48%以上含むことがさらに好ましい。該成分を40%以上含むことにより、樹脂成形体の切削加工性をより良好にすることができる。
【0074】
また、前記(メタ)アクリル重合体(P)は、GPCで測定した分子量250,000以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において20%以上含むことが好ましく、30%以上含むことがより好ましく、35%以上含むことがさらに好ましい。該成分を20%以上含むことにより、樹脂成形体の曲げ強度や引張強度等の機械的特性をより向上できる。
【0075】
さらに、前記(メタ)アクリル重合体(P)は、GPCで測定した分子量400,000以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において5質量%以上含むことが好ましく、7%以上含むことがより好ましく、10%以上含むことがさらに好ましい。該成分を5%以上含むことにより、樹脂成形体の荷重たわみ温度等の耐熱性をより向上できる。
【0076】
また、前記(メタ)アクリル重合体(P)は、GPCで測定した分子量100,000以下の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において45%以下含むことが好ましく、30%以下含むことがより好ましく、20%含むこと以下がさらに好ましい。該成分を45%以下含むことにより、樹脂成形体の切削加工性を良好にできる。
【0077】
前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量やGPC分子量分布曲線におけるピーク面積は、(メタ)アクリル樹脂組成物の製造において、連載移動剤の種類や添加量、重合温度、単量体の仕込み組成等を調整することで、制御することができる。
【0078】
また、前記(メタ)アクリル樹脂組成物(2)において、(メタ)アクリル重合体(P)100質量部に対するタングステン酸化物粒子の量を0.003質量部以上0.02質量部以下の範囲内とすることによっても、良好な切削加工性を有する(メタ)アクリル樹脂成形体を得ることができる。
【0079】
本発明に係る(メタ)アクリル樹脂成形体は、建造物、自動車、列車又はバスに使用する屋根材や、照明や看板に使用する保護材に好適に用いることができる。
【0080】
((メタ)アクリル樹脂成形体の製造方法)
前記(メタ)アクリル樹脂成形体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下の2つの方法が挙げられる。
(1)前記重合性組成物(X1)を鋳型に注入して、公知のキャスト重合法を用いて重合させた後に、鋳型から取り出して樹脂成形体を得る方法(注型重合法)。
(2)本発明に係る(メタ)アクリル樹脂組成物のペレットを、押出成形又は射出成形等の公知の溶融成形法を用いて成形し、樹脂成形体を得る方法。
【0081】
前記(1)の注型重合法では、鋳型内に前記重合性組成物(X1)を注入して重合させてシート状重合体を形成し、このシート状重合体を鋳型から剥離することで、樹脂成形体を得る。このような注型重合法は、光学用途など透明性が要求される用途において特に好ましい方法である。なお、注型重合法を用いる場合、具体的な重合方法としては、上述した(メタ)アクリル樹脂組成物の製造方法に記載した重合方法と同様の方法を用いることができる。
【0082】
注型重合用の鋳型は特に限定されず、公知の鋳型を用いることができる。シート状の樹脂成形体を得るための鋳型としては、セルキャスト用の鋳型と連続キャスト用の鋳型が挙げられる。セルキャスト用の鋳型は、例えば、無機ガラス、クロムメッキ金属板、ステンレス鋼板等の2枚の板状体を所定間隔で対向配置し、その縁部にガスケットを配置して、板状体とガスケットにより密封空間を形成する構成であることができる。連続キャスト用の鋳型は、例えば、同一方向へ同一速度で走行する一対のエンドレスベルトの相対する面と、その両側辺部においてエンドレスベルトと同一速度で走行するガスケットとにより密封空間を形成する構成であることができる。
【実施例】
【0083】
以下に本発明を、実施例を用いて説明する。以下において、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。また、実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下のとおりである。
MMA:メタクリル酸メチル
BA:アクリル酸n-ブチル
TPP:トリフェニルホスフィン
HPP:t-ヘキシルパーオキシピバレート(商品名、日油(株)製)
YMDS-874:タングステン酸化物粒子含有分散粉(商品名、住友金属鉱山(株)製、タングステン酸化物粒子を23.0質量%含有)
KHDS-06:六ホウ化物粒子含有分散粉(商品名、住友金属鉱山(株)製、六ホウ化物粒子を21.5質量%含有)。
【0084】
<評価方法>
実施例及び比較例における評価は以下の方法により実施した。
【0085】
(1)全光線透過率
JIS K7361-1に準拠して積分球式光線透過率測定装置(日本電色(株)製、商品名:NDH4000)を用い、樹脂成形体の試験片(縦50mm×横50mm)に平行光を入射して、波長380?780nmの範囲における、全光線透過率(平衡入射光束に対する全透過光束の割合)を測定した。
【0086】
(2)熱線カット率
JIS R3106に準拠して、熱線カット率を測定した。紫外可視近赤外分光光度計((株)日立ハイテクサイエンス製、商品名:UH4150)を用い、厚さ6mmのシート状の樹脂成形体の試験片(縦50mm×横50mm)を用いて、波長780?2100nmの範囲で分光透過率(単位:%)を測定した。次いで、得られた分光透過率の値を用いて、下記式(1)より波長780?2100nmの熱線カット率(単位:%)を算出した。
【0087】
〔熱線カット率(単位:%)〕=100-〔分光透過率(単位:%)〕 (1)。
【0088】
(3)熱線吸収剤の分散粒子径
シート状の樹脂成形体を、主平面に対して垂直方向に切断した。ウルトラミクロトーム(ライカ製、商品名:EM-ULTRACUTUCT)を用いて、前記切断面から、透過型電子顕微鏡用のサンプル1片を切り出した。透過型電子顕微鏡(商品名:JEM-1011、日本電子(株)製)を用いて、前記サンプルを倍率3万倍で観察した。熱線吸収剤の分散粒子が観察された場合には、任意の20個の分散粒子について、一次粒子径を測定し、その平均値を分散粒子径とした。
【0089】
(4)重量平均分子量(Mw)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)にて、(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量(Mw)を測定した。(メタ)アクリル樹脂組成物をTHFに溶解した溶液を、GPC測定用のサンプルとした。GPC測定では、高速液体クロマトグラフィー測定装置(東ソー(株)製、商品名:HLC-8320型)に、分離カラム(TSK-Gel社製、商品名:SUPER HM-H)を2本直列で使用した。また検出器には示差屈折計を用いた。分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン(THF)、移動層の流量:0.6ml/min、サンプル注入量:10μlの条件で測定を行った。分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340?1,950,000)を標準ポリマーとして、標準ポリマー換算分子量を求めた。
【0090】
(5)(メタ)アクリル重合体(P)の組成
(メタ)アクリル樹脂組成物をアセトンに溶解(固形分濃度10質量%)した後、このアセトン溶液を、メタノール中に投入して、沈殿物を得た。この沈殿物を、濾過して取り出した後、アセトンに再度溶解(固形分濃度10質量%)した。この沈殿物のアセトン溶液を、再度メタノール中に投入して、沈殿物を得た。この操作を3回繰り返して得られた沈殿物を、(メタ)アクリル重合体(P)とした。
【0091】
1H-NMR測定装置(日本電子株式会社製、装置名:JEOL Lambda 500型)を用いて、(メタ)アクリル重合体(P)の組成を以下の手順で測定した。まず、(メタ)アクリル重合体(P)を、固形分濃度が5.0質量%になるように、NMR測定用の重クロロホルムに溶解させ、これをNMR測定用のサンプルとした。次いで、該サンプルについて、積算回数64回、測定温度80℃の条件でNMR測定を行った。得られたNMRスペクトルの積分比から、(メタ)アクリル重合体(P)を構成する各単量体単位(構造単位)の比率(モル%)を求めた。
【0092】
(6)切削加工性
NCルーター(ローランド.デイー.ジー(株)製、商品名:MDX-540)を用い、厚さ6mmのシート状の樹脂成形体の試験片(縦30mm×横100mm)の表面をドリル(回転数1200rpm、送り速度150mm/min)で切削した。切削後の前記ドリル及び前記樹脂成形体の表面の状態を目視で観察して、下記の3段階で評価した。
○:焼き付き及び切削面のカケ(バリ)が観察されなかった。
△:焼き付きは観察されないが、切削面にカケ(バリ)が観察された。
×:焼き付きが観察された。
【0093】
[実施例1]
(1)シラップの製造
冷却管、温度計及び攪拌機を備えた反応器(重合釜)にMMA95質量部、BA5質量部からなる混合物を供給し、窒素ガスでバブリングしながら、15分間撹拌した後、温度60℃まで攪拌しながら昇温した。次いで、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.1質量部を添加し、さらに前記混合物を100℃になるまで攪拌しながら昇温した後、13分間保持した。次いで、反応器の内温が室温になるまで冷却してシラップ(A)を得た。シラップ(A)中の(メタ)アクリル重合体(P1)の含有量は27質量%であった。
【0094】
(2)注型重合
前記シラップ(A)97質量部に、MMA3質量部、ホスフィン系化合物としてTPP0.015質量部、熱線吸収剤としてタングステン酸化物粒子含有分散粉YMDS-874を0.020質量部及び重合開始剤としてHPP0.12質量部を撹拌しながら添加して、溶解した。これにより、重合性組成物(X1)を得た。
【0095】
対向して配置された2枚のSUS板の端部に、2枚のSUS板の空隙間隔が7.65mmとなるように塩化ビニル樹脂製ガスケットを設置して、鋳型を作製した。次いで、前記鋳型の中に、前記重合性組成物(X1)を流し込んだ後、塩化ビニル樹脂製ガスケットで封止し、76℃まで昇温して30分間保持した。その後、130℃まで昇温して30分間保持し、重合性組成物(X1)を重合させた。その後、室温まで冷却し、SUS板を取り除いて、厚さ6mmのシート状の樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の評価結果を表1に示す。樹脂成形体中のタングステン酸化物粒子の含有量は、(メタ)アクリル重合体(P)100質量部に対して0.0046質量部であった。
【0096】
また、樹脂成形体中の(メタ)アクリル重合体(P)は、MMA98.06質量%とBA1.94質量%からなる共重合体であり、重量平均分子量(Mw)は210,000であった。分子量150,000以上の成分のGPC面積比率は49%、分子量250,000以上の成分のGPC面積比率は36%、分子量400,000以上の成分のGPC面積比率は11%、分子量100,000以下の成分のGPC面積比率は11%であった。
【0097】
[実施例2、3]
タングステン酸化物粒子含有分散粉の添加量を表1記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。樹脂成形体の評価結果を表1に示す。
【0098】
[実施例4]
ホスフィン系化合物を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。樹脂成形体の評価結果を表1に示す。
【0099】
[比較例1]
熱線吸収剤を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。樹脂成形体の評価結果を表1に示す。得られた樹脂成形体は熱線カット率が低く、熱線遮蔽性が不十分であった。
【0100】
また、樹脂成形体中の(メタ)アクリル重合体(P)は、MMA98.02質量%とBA1.98質量%からなる共重合体であり、重量平均分子量(Mw)は200,000であった。分子量150,000以上の成分のGPC面積比率は47%、分子量250,000以上の成分のGPC面積比率は34%、分子量400,000以上の成分のGPC面積比率は10%、分子量100,000以下の成分のGPC面積比率は16%であった。
【0101】
[比較例2?4]
熱線吸収剤として六ホウ化物粒子含有粒子粉KHDS-06を用いて、その添加量を表1記載の通りとした以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。樹脂成形体の評価結果を表1に示す。比較例2及び3の樹脂成形体は熱線カット率が低く、熱線遮蔽性が不十分であった。比較例4の樹脂成形体は全光線透過率が低かった。
【0102】
[比較例5]
(1)(メタ)アクリル樹脂組成物の製造
撹拌機、還流冷却器、温度計及び窒素ガス導入口の付いた容量10Lの反応容器に、MMA98質量部、BA1.5質量部、連鎖移動剤としてn-オクチルメルカプタン(和光純薬工業(株)製)0.5質量部、開始剤としてジラウロイルパーオキサイド(日油(株)製、商品名:パーロイルL)0.5質量部及び脱イオン水200質量部を仕込んだ。
【0103】
反応容器内の空気を十分に窒素ガスで置換した後に、反応容器内の溶液を撹拌しながら、分散剤0.2質量部、及び硫酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製)0.3質量部を加えた。次いで、反応容器内の溶液を窒素ガス気流中で80℃まで加熱して懸濁重合を開始した。重合発熱を確認した後、95℃に昇温してさらに30分保持して重合懸濁液を得た。
【0104】
この重合懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄、脱水し、30℃で16時間乾燥して、(メタ)アクリル樹脂組成物を得た。(メタ)アクリル樹脂組成物中の(メタ)アクリル重合体(P)は、MMA98.50質量%とBA1.50質量%からなる共重合体であり、重量平均分子量(Mw)は110,000であった。分子量150,000以上の成分のGPC面積比率は21%、分子量250,000以上の成分のGPC面積比率は10%、分子量400,000以上の成分のGPC面積比率は1.1%、分子量100,000以下の成分のGPC面積比率は55%であった。
【0105】
(2)樹脂成形体の製造
前記(メタ)アクリル樹脂組成物を用い、射出成形機(東芝機械(株)製、商品名:IS80)を用いて、厚さ6mmのシート状の樹脂成形体を得た。樹脂成形体の評価結果を表1に示す。得られた樹脂成形体は、熱線カット率が低く、切削加工性が不十分であった。
【0106】
【表1】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル重合体(P)とタングステン酸化物粒子とを含有する(メタ)アクリル樹脂組成物であって、
前記(メタ)アクリル重合体(P)100質量部に対する前記タングステン酸化物粒子の量が0.003質量部以上0.02質量部以下であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記方法3で測定した前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量(Mw)が150,000以上30,000,000以下であり、且つ
前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分を、前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む、(メタ)アクリル樹脂組成物。
<方法3>
(メタ)アクリル樹脂組成物をTHFに溶解した溶液を、GPC測定用のサンプルとする。GPC測定では、高速液体クロマトグラフィー測定装置に、分離カラム(TSK-Gel社製、商品名:SUPER HM-H)を2本直列で使用し、検出器には示差屈折計を用いる。分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン(THF)、移動層の流量:0.6ml/min、サンプル注入量:10μlの条件で測定を行ない、GPC分子量分布曲線を得る。得られたGPC分子量分布曲線について、分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340?1,950,000)を標準ポリマーとして、標準ポリマー換算分子量を求める。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル樹脂組成物が、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位を含む(メタ)アクリル重合体(P1)5質量%以上40質量%以下と、メタクリル酸メチルを含む単量体組成物(M1)60質量%以上95質量%以下とを含有する組成物(X1’)と、前記タングステン酸化物粒子と、を含有する重合性組成物(X1)の重合物であり、
前記組成物(X1’)100質量部に対する前記タングステン酸化物粒子の量が0.0
03質量部以上0.02質量部以下である、請求項1に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項3】
(メタ)アクリル重合体(P)とタングステン酸化物粒子とを含有する(メタ)アクリル樹脂組成物であって、
前記(メタ)アクリル重合体(P)100質量部に対する前記タングステン酸化物粒子の量が0.003質量部以上0.02質量部以下であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量(Mw)が100,000以上30,000,000以下であり、
前記(メタ)アクリル樹脂組成物が、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位を含む(メタ)アクリル重合体(P1)5質量%以上40質量%以下と、メタクリル酸メチルを含む単量体組成物(M1)60質量%以上95質量%以下とを含有する組成物(X1’)と、前記タングステン酸化物粒子と、を含有する重合性組成物(X1)の重合物であり、
前記組成物(X1’)100質量部に対する前記タングステン酸化物粒子の量が0.003質量部以上0.02質量部以下である、(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項4】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量(Mw)が150,000以上30,000,000以下である、請求項3に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量250,000以上の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において20%以上含む、請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量400,000以上の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において5%以上含む、請求項1、2及び5のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量100,000以下の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において45%以下含む、請求項1、2、5及び6のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル重合体(P)が、(メタ)アクリル重合体(P)の総質量に対し、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位100質量%、又はメタクリル酸メチル由来の繰り返し単位80質量%以上100質量%未満とメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の繰り返し単位0質量%を超えて20質量%以下を含む、請求項1?7のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項9】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-エチル、アクリル酸n-プロピル及びアクリル酸2-エチルヘキシルからなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体である、請求項8に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項10】
前記(メタ)アクリル樹脂組成物がホスフィン系化合物を含有しない、請求項1?9のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項11】
前記タングステン酸化物粒子がセシウムタングステン酸化物粒子である、請求項1?10のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1?11のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物からなる(メタ)アクリル樹脂成形体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2021-04-15 
結審通知日 2021-04-20 
審決日 2021-05-06 
出願番号 特願2016-1743(P2016-1743)
審決分類 P 1 41・ 852- Y (C08L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松元 洋  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 杉江 渉
佐藤 玲奈
登録日 2020-01-08 
登録番号 特許第6642008号(P6642008)
発明の名称 (メタ)アクリル樹脂組成物及び(メタ)アクリル樹脂成形体  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  

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