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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1376219
審判番号 不服2020-10694  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-31 
確定日 2021-07-13 
事件の表示 特願2017-512914「粒状の水により活性化可能な発光物質」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月17日国際公開、WO2016/037872、平成29年11月30日国内公表、特表2017-535936〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)8月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年9月9日、欧国)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和元年 7月31日付け:拒絶理由通知書(同年8月7日発送)
令和元年11月 6日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 4月 7日付け:拒絶査定(同月14日送達)
令和2年 7月31日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?13に係る発明は、令和2年7月31日に提出された手続補正により補正された請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
各々の粒子が水により活性化可能な電池に電気的に結合された固体光源と前記水により活性化可能な電池の少なくとも一部を囲む吸水性シェルとを含んでいる粒子を有する、水により活性化可能な発光粒状物質であって、前記吸水性シェルは光透過性ポリマー及び吸水性ポリマーの少なくとも一方を含む、水により活性化可能な発光粒状物質。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

1.特開2001-111111号公報
2.特表2010-524512号公報(周知技術を示す文献)
3.国際公開第2011/092936号(周知技術を示す文献)
4.特開2012-75407号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2001-111111号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
p形半導体とn形半導体で形成される発光ダイオ-ドのアノ-ド電極とカソ-ド電極の上に、それぞれ水溶液で起電力を発生する組成物を積層したことを特徴とする半導体発光装置。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、外部電源を用いることなく簡単な構成で発光させることができる半導体発光装置に関する。」
「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態に係る半導体発光装置1の縦断正面図である。LED20の一例として、GaN、InGaNを発光層とした窒素化合物系青色LEDを形成するものとする。図1において、n形半導体21は、例えばn側層基板上にn型のGaN電流拡散層とAlGaNクラッド層とを積層したGaN系化合物半導体の積層構造としている。」
「【0013】
LED20のアノ-ド電極23の上に、K2S2O8(ペルオキソ二硫酸カリウム)を積層する。また、カソ-ド電極24の上に、Mg(マグネシュ-ム)を積層する。」
「【0016】図3は、本発明の別の実施の形態に係る半導体発光装置1aを示す縦断正面図である。この半導体発光装置1aは、LED20の周囲をエポキシ樹脂等の樹脂25でコ-テングするものである。このように、LED20の周囲をエポキシ樹脂等の樹脂25でコ-テングすることにより、水溶液内に含有されている不純物でLED20が劣化することを防止して、LED20の動作の信頼性を高めることができる。」
「【0019】本発明の半導体発光装置は、外部電源がない場所でも水溶液があれば動作して出力光を発射するものであるから、海難救助用具や災害時の光源として使用することができる。また、前記のように様々な色の発色が得られるので玩具や装飾品としても広汎な利用が可能である。さらに、物品が水溶液で濡れたかどうかを検知するセンサとしても使用することができる。
【0020】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1に係る発明の上記特徴によれば、発光ダイオ-ドのアノ-ド電極とカソ-ド電極の上に、それぞれ水溶液で起電力を発生する組成物を積層している。このため、外部電源を用いることなく水溶液内で発光ダイオ-ドを簡単に動作させることができる。また、透明容器内に異なる発色の発光ダイオ-ドを投入することにより、様々な混合色の光源を得ることができる。」
「図1


「図3


(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)から、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

<引用発明>
「p形半導体とn形半導体で形成される発光ダイオ-ドのアノ-ド電極とカソ-ド電極の上に、それぞれ水溶液で起電力を発生する組成物を積層したことを特徴とする半導体発光装置。」

2 引用文献2
(1)引用文献2に記載された事項
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特表2010-524512号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

「【0002】
医療用途および非医療用途において、個体的事象、すなわち、所定の個体に特有の事象を注記することを所望する多くの事例が存在する。所定の個体に特有の事象を注記することを所望し得る医療用途の例として、病徴、薬物の投与等を含む1つ以上の対象の生理学的パラメータの発現が挙げられるが、これらに限定されない。所定の個体に特有の事象を注記することを所望し得る非医療用途の例として、特定の種類の食物の摂取(例えば、食事制限中の個体用)、運動療法の開始等が挙げられるが、これらに限定されない。」
「【0009】
本発明は、摂取可能な事象マーカ(すなわち、IEM)およびIEMから発せられる信号を受信するように構成された個体用信号受信機を含む新規なシステムによって可能になる。IEMの実施形態は、識別子を含み、識別子は、生理学的に許容される担体に存在してもよく、または存在しなくてもよい。識別子は、消化管内部標的部位等の、内部標的部位との接触時に作動することを特徴とする。個体用信号受信機は、生理学的位置、例えば、体内または身体に関連付けられ、かつIEMから信号を受信するように構成される。」
「【0052】
図3は、本発明の一実施形態に従うIEMのICの例示的デバイス構成を示す。一実施形態では、ICチップの基板204は、ボルタ電池の陽極(S1)に連結され、陽極(S1)は、基板204の裏側に塗膜されるマグネシウム(Mg)206の層であることが可能である。基板204の反対側面において、本例において塩化銅(CuCl)である陰極(S2)材料202の層が存在する。電極202および206、ならびに電解質液としての役割を果たす体液は、ボルタ電池を形成する。基板204上に製作されるIEMのIC回路は、ボルタ電池の帰路回路を形成する「外部」回路である。本質的に、IEMのICは、この「外部」回路のインピーダンスを変化させ、それによって体液を流れる総電流量が変化する。受信回路、例えば、以下により詳細に説明する体液に接触する個体用健康受信機は、この電流変化を検出し、符号化されたメッセージを受信することが可能である。
【0053】
ボルタ電池の2つの電極S1およびS2も、ICの伝送電極としての役割を果たすことに留意されたい。本構成は、ICチップの複雑性を大幅に低減する。さらに、多くの場合、流体と金属の界面が、高インピーダンスを呈するため、ボルタ電池電極とは異なる別の対の電極を使用することは、追加の高インピーダンスを回路に導入する可能性があり、それによって、伝送効率が低下し、電力消費が増加する。したがって、伝送のためにボルタ電池電極を使用することによって、IC回路の電力効率も向上する。
【0054】
IEMのICは、電源が投入されると、一意的な識別コードを伝送する摂取可能な送信機として機能する。このICは、例えば、上述のように、薬学的に許容される運搬媒体内にパッケージ化可能である。IEMを胃の内部に飲み込むと、一体型ボルタ電池または電池は、胃酸を電池電解質として使用して主要チップに電源を入れ、その後ブロードキャストを開始する。さらに、いくつかのピルを摂取して、同時に伝送することが可能である。動作中、一意的な識別コードは、例えば、BPSK変調を使用してブロードキャストされる。このブロードキャストは、例えば、後述の受信機によって受信および復調可能であり、この受信機は、皮膚下に埋め込まれるか、患者の身体組織に接触している。受信機は、タイムスタンプを有する識別コードを復号および格納することが可能である。」
「【0075】
図12は、本発明に従うIEMの特定の実施形態の分解図を提供する。図12において、IEM1200は、例えば、厚さが300μmである2酸化シリコン基板1201を含む。底面上に、例えば、厚さが8μmであるマグネシウム1202の電極層が存在する。Mg電極層1202および基板1201の底面の間に、例えば、厚さが1000オングストロームであるチタン層1203が配置される。基板1201の上面に、例えば、厚さが6μmである電極層(CuCl)1204が配置される。上側電極層1204および基板1201の間に、例えば、厚さが1000オングストロームであるチタン層1205と、例えば、厚さが5μmである金層1206が配置される。
【0076】
上記の信号生成および発信プロトコルは、例えば、標的部位および/または環境との接触後に、実質的に同時に発生する作動および伝送の観点から説明しているが、特定の実施形態では、IEMの作動および信号の伝送は、別々の事象であることが可能であり、すなわち、事象は、ある持続時間によって分離される異なる時刻に発生し得る。例えば、IEMは、摂取前に作動を提供する導電媒体を含んでもよい。特定の実施形態では、IEMは、消化前に外部から作動可能であるように、流体、電解質スポンジ、または他の導電媒体に封入される。これらの実施形態では、受信機は、対象の標的部位から信号が伝送される場合のみ、伝送信号を検出するように構成される。例えば、システムは、適切な事象マーキングを確実にする身体組織との接触時にのみ伝送が発生するように構成されてもよい。例えば、作動は、IEMの処理によって発生可能である。処理または接触により破裂する感圧膜を用いてもよく、この場合、破裂によって、電解質材料が電池要素の連結を可能にする。代替として、胃におけるゲルカプセルの分解も、貯蔵された電解質を解放し、IEMを作動させることが可能である。スポンジ(IEMの近傍に水を保持する導電性材料から構成される)にIEMを封入することによって、少量の液体の存在下で作動が発生可能になる。本構成は、導電性流体の非存在下における伝送性能不足に対抗する。」
「図3


「図12


(2)引用文献2に記載された技術的な事項
上記【0076】には、「スポンジ(IEMの近傍に水を保持する導電性材料から構成される)にIEMを封入することによって、少量の液体の存在下で作動が発生可能になる。本構成は、導電性流体の非存在下における伝送性能不足に対抗する。」と記載され、「IEM(摂取可能な事象マーカ)」が例示されている。
一方、上記【0052】?【0053】に記載のとおり、IEM(摂取可能な事象マーカ)のICを駆動する電源は「ボルタ電池」であって、その原理に鑑みれば、上記「スポンジ」による効果は、「IEM(摂取可能な事象マーカ)」に限らず、一般的な「ボルタ電池」においても得られ得る効果と理解できる。
したがって、引用文献2には、スポンジ(ボルタ電池の近傍に水を保持する導電性材料から構成される)にボルタ電池を封入することによって、少量の液体の存在下で作動が発生可能になり、導電性流体の非存在下における伝送性能不足に対抗し得る、との技術事項が開示されるといえる。

3 引用文献3
(1)引用文献3に記載された事項
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、国際公開第2011/092936号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

「[0055] [第3の実施形態]
次に、第3の実施形態に係る電源システムを搭載するカプセル装置について説明する。
図9は、主に大腸で作動するカプセル装置の断面構成を示している。ここで、本実施形態の構成部位については、前述した第1の実施形態の構成部位と同等のものには同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
このカプセル装置1における電源システムの電源部6(図示せず)は、前述した第1の実施形態と同じ構成である。
[0056] 本実施形態のカプセル装置1は、カプセル本体5の外面に、陰極として作用するアルミニウムで形成された電極22と、陽極として作用する炭素で構成された電極23を形成し、消化器内容物を電解液とするボルタ電池を構成する。前述した第2の実施形態における電極と同等である。これらの電極22,23は、溶液保持のための多孔体薄膜25に覆われ、更にゼラチン膜24で覆われている。
[0057] このような構成により、ゼラチン膜24は、投与した後、大腸に到達するまで間、溶解せずに胃液や小腸内の物質が電極22,23に付着することを防止する。そして、大腸に到達する頃に、ゼラチン膜24が溶解して、消化器内容物が電極22,23に接して発電を開始する。この時、多孔体薄膜25は、電極22,23が電解液で浸漬されるように保持して、大腸内で消化器内容物における電解液の水分量が少なくなった状態でも、電極2,3を常時、消化器内容物に浸すことができ、安定して起電を行うことができる。」
「図9


(2)引用文献3に記載された技術的な事項
上記[0055]によれば、「第3の実施形態」として記載されるものは、「主に大腸で作動するカプセル装置」であるが、上記[0056]のとおり、当該「カプセル装置」を作動させる構成は「ボルタ電池」であって、当該「ボルタ電池」の電極は、「溶液保持のための多孔体薄膜25に覆われ」ている。
そして、当該「多孔体薄膜25」は、「電極22,23が電解液で浸漬されるように保持して、大腸内で消化器内容物における電解液の水分量が少なくなった状態でも、電極2,3を常時、消化器内容物に浸すことができ、安定して起電を行うことができる」との機能を有するものであるところ、「電解液の水分量が少なくなった状態でも」、「安定して起電を行うことができる」との機能は、一般的な「ボルタ電池」においても、電極を「多孔体薄膜」により覆うことによって得られる効果と理解できる。
したがって、引用文献3には、電解液の水分量が少なくなった状態でも、安定して起電を行うために、「ボルタ電池」の電極を「多孔体薄膜」により覆う、との技術事項が開示されているといえる。

4 引用文献4
(1)引用文献4に記載された事項
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2012-75407号公報(以下「引用文献4」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

「【0013】
図1に示すように、湿式電池1は、湿電池であり、陽極2および陰極3の電極と、吸収体4とを具備する。
湿式電池1の陽極2および陰極3は、それぞれ、イオン化傾向の大小異なる、金属、その合金、または、フェライト等で構成される。
湿式電池1の陽極2は、イオン化傾向の比較的小さい金属や、その合金、または、フェライト(例えば、銅、銀、または、これらを主とする合金)で構成される。
湿式電池1の陰極3は、イオン化傾向の比較的大きい金属や、その合金、または、フェライト(例えば、マグネシウム、アルミニウム、または、これらを主とする合金)で構成される。
【0014】
湿式電池1の吸収体4は、これが水や海水等に浸された際に、当該水や海水等を吸収することができるものである。湿式電池1の吸収体4は、例えば、綿や、紙や、多孔質の不織布等の素材で構成される。
湿式電池1の吸収体4は、その陽極2と陰極3とに接触するように、陽極2と陰極3との間に配置される。
【0015】
このように構成された湿式電池1は、その吸収体4が水や海水等に浸されて水や海水等を吸収した際に、当該水や海水等が電解液となって、発電を開始する。
電解液となる水や海水がなくなった場合(電解液がなくなった場合)には、再び、吸収体4に水や海水等を浸して吸収体4に水や海水等を吸収させることで、湿式電池1は再び発電を開始する。
したがって、湿式電池1によれば、交換を要さずに繰返しこれを使用することができ、引いては、環境汚染を引起すことを防止することができる。
【0016】
また、湿式電池1は、その吸収体4が水を吸収した際にこれが電解液となるように、予め、塩化ナトリウムに代表される電解質を吸収体4に設けて構成してもよい。
このように湿式電池1が構成されることにより、その吸収体4が水に浸されて水を吸収した際に、より湿式電池1が発電を開始しやすくなる。」
「図1


(2)引用文献4に記載された技術的な事項
上記記載より、引用文献4には、陽極および陰極の電極と、陽極と陰極とに接触するように配置される吸収体とを具備する「湿式電池」が開示されており、当該「吸収体」は、水や海水等に浸されて水や海水等を吸収した際に、当該水や海水等が電解液となって、発電を開始し、電解液となる水や海水がなくなった場合(電解液がなくなった場合)には、再び、吸収体4に水や海水等を浸して吸収体4に水や海水等を吸収させることで、湿式電池は再び発電を開始するものである。
したがって、引用文献4には、「湿式電池」の陽極と陰極とに接触するように「吸収体」を配置することにより、当該「吸収体」に「水や海水等」を含ませて発電を開始させる、との技術事項が開示されるといえる。なお、当該「湿式電池」が、いわゆる「ボルタ電池」であることは、技術常識に照らして、明らかである。

第5 対比、判断
1 本願発明と引用発明を、以下に対比する。
(1)ここで、本願発明を再掲すると、
本願発明は、「各々の粒子が水により活性化可能な電池に電気的に結合された固体光源と前記水により活性化可能な電池の少なくとも一部を囲む吸水性シェルとを含んでいる粒子を有する、水により活性化可能な発光粒状物質であって、前記吸水性シェルは光透過性ポリマー及び吸水性ポリマーの少なくとも一方を含む、水により活性化可能な発光粒状物質。」であるから、
発光粒状物質は、複数の粒子からなり、
各々の粒子は、
水により活性化可能な電池に電気的に結合された固体光源と、
前記水により活性化可能な電池の少なくとも一部を囲む吸水性シェルと、を含んでいる、粒子であると解される。

(2)一致点及び相違点
ア 引用発明の「発光ダイオ-ド」は、「p形半導体とn形半導体で形成される」ものであり、固体である「半導体」で構成された「発光する素子」であるから、本願発明の「固体光源」に相当する。
イ 引用発明は、「アノ-ド電極とカソ-ド電極の上に、それぞれ水溶液で起電力を発生する組成物を積層した」構成を備えており、上記構成からみれば、「アノード電極」とその上に積層した「組成物」及び「カソード電極」とその上に積層した「組成物」は、それぞれの「電極」と「組成物」とが電気的に接続され、一体化したものといえる。
ここで、いわゆる「電池」とは、「アノード」及び「カソード」を備え、起電力を発生するものであるから、引用発明の上記一体化した「アノード電極」と「組成物」及び「カソード電極」と「組成物」は、一般的な電池の「アノード」及び「カソード」ということができる。
してみると、引用発明の「アノ-ド電極」とその上に積層した「組成物」及び「カソード電極」とその上に積層した「組成物」は、本願発明の「水により活性化可能な電池」に相当するといえる。
ウ 引用発明の「アノード電極」及び「カソード電極」は、「発光ダイオード」の電極であるから、上記ア?イを踏まえると、引用発明は、本願発明の「水により活性化可能な電池に電気的に結合された固体光源」を備えるといえる。
エ 上記アのとおり、引用発明の「発光ダイオ-ド」は、本願発明の「固体光源」に相当するものであるところ、「発光ダイオード」、「アノード電極」、「カソード電極」及び「組成物」を合わせたものは粒子状といえるものである。
一方、本願発明の「粒子」は、上記(1)のとおり、「水により活性化可能な電池に電気的に結合された固体光源」と「水により活性化可能な電池の少なくとも一部を囲む吸水性シェル」とを含んでいる粒子である。
そして、上記ア?ウを踏まえつつ、引用発明の上記「発光ダイオ-ド」、「アノード電極」、「カソード電極」及び「組成物」を合わせたものと本願発明の「粒子」とを対比してみれば、引用発明と本願発明とは、「水により活性化可能な電池に電気的に結合された固体光源を含んでいる粒子を有する」点で、一致するといえる。
オ 引用発明の「半導体発光装置」は、「発光ダイオード」、「アノード電極」、「カソード電極」及び「組成物」を含むものであるところ、上記したように、当該「発光ダイオ-ド」、「アノード電極」、「カソード電極」及び「組成物」を合わせたものは、粒子状であるから、当該「半導体発光装置」も粒子状であるといえる。
また、引用発明の「半導体発光装置」は、「発光ダイオード」の「アノ-ド電極とカソ-ド電極の上に、それぞれ水溶液で起電力を発生する組成物を積層した」構成を備えるものであって、水溶液により発光するものである。
したがって、引用発明の「半導体発光装置」は、本願発明の「水により活性化可能な発光粒状物質」に相当するといえる。
カ 上記ア?オのとおりであるから、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「水により活性化可能な電池に電気的に結合された固体光源を含んでいる粒子を有する、水により活性化可能な発光粒状物質」

<相違点1>
粒子に関して、
本願発明は、「各々の粒子」(複数の粒子)であるのに対し、
引用発明は、各々の粒子(複数の粒子)であるか不明である点。
<相違点2>
粒子に関して、
本願発明は、「水により活性化可能な電池の少なくとも一部を囲む吸水性シェル」を含み、当該「吸水性シェル」は、「光透過性ポリマー及び吸水性ポリマーの少なくとも一方を含む」のに対し、
引用発明は、「吸水性シェル」を備えておらず、「吸水性シェルは光透過性ポリマー及び吸水性ポリマーの少なくとも一方を含む」との構成も備えてはいない点。

(3)判断
ア 相違点1について
引用文献1の【0019】には、引用発明の用途として、「海難救助用具や災害時の光源」、「玩具や装飾品」及び「物品が水溶液で濡れたかどうかを検知するセンサ」が例示されている。
ここで、引用発明の「発光ダイオード」、「アノード電極」、「カソード電極」及び「組成物」を合わせたもの(以下「発光ダイオード等」という。)は、上記(2)のエで説示したように、粒子状の物体であり、例示されている用途の光源等に用いる場合には、発光ダイオ-ド等を、複数使用することも当然想定されているといえる。
したがって、引用文献1に例示されている、引用発明の用途に鑑みれば、引用発明の発光ダイオード等を、複数用いることは、当業者であれば容易になし得ることである。

イ 相違点2について
上記第4の2?4(引用文献2?4)のとおり、いわゆる「ボルタ電池」の電極に、水(電解質)を保持する部材を配置して、少量の水(電解質)であっても、安定した作動を可能としたり、水(電解質)の供給によって作動させたりすることは、周知技術である。
一方、一般的に発光装置等が安定して作動するようにすることは周知の課題であるところ、引用発明の用途について、引用文献1の【0019】には、「海難救助用具や災害時の光源」、「玩具や装飾品」及び「物品が水溶液で濡れたかどうかを検知するセンサ」が例示されており、当該用途に鑑みれば、引用発明においても、安定した作動や、少量の水を検知し得る作動が求められるとの課題を有していることは明らかといえる。
してみると、引用発明において、上記課題に基づいて、周知技術を採用し、発光ダイオ-ドの「アノ-ド電極」、「カソ-ド電極」、「組成物」を覆うように、水(電解質)を保持する部材を配置することは、当業者であれば、容易になし得ることである。
また、引用発明は、光を放射する「半導体発光装置」であるから、「水(電解質)を保持する部材」が、光を遮る箇所に配置される場合に、光透過性が必要となることは明らかであると共に、「組成物」に対して、水(電解質)を保持する機能が必要なのであるから、「水(電解質)を保持する部材」に、「吸水性」が求められることは自明といえる。
してみると、当該「水(電解質)を保持する部材」の材料が、「光透過性ポリマー及び吸水性ポリマーの少なくとも一方を含む」ことは、当然の構成といえる。

(4)小括
上記(1)?(3)のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

2 審判請求人の主張
(1)請求人は、令和元年11月6日提出の意見書において、引用文献1に記載の半導体光源装置の発明は、基本的に「海水等の水溶液内」への「投入」を想定しており(引用文献1の段落0014)、このことは「外部電源を用いることなく水溶液内で発光ダイオ-ドを簡単に動作させることができる」という引用文献1の段落0020の[発明の効果]の記載等からも明らかです。そこで、引用文献1においては、水溶液に依る化学反応が生じやすいように電池部(電極23、24)を露出させておく構造が不可欠であると共に、水中での長い使用が見込まれることから「水溶液中に含有されている不純物による劣化を防止し、半導体発光装置の信頼性を高める」ように「発光ダイオ-ドの周囲を樹脂でコ-テング」すること(引用文献1の段落0009及び0021等)が最優先事項であります。このような引用文献1に記載の発明において、技術分野の異なる引用文献1乃至4に記載の発明における電解液を保持する吸水性材料の構成を、殊更適用しようにも、何ら動機づけがない(意見書の第1頁第44行?第2頁第4行)旨、主張している。
しかしながら、上記1の(3)イのとおり、引用発明において、周知技術を適用する動機はあるといえる。また、「発光ダイオ-ドの周囲を樹脂でコ-テング」する態様は、引用文献1においては、「別の実施の形態」であって、必ずしも必要は構成ではない。
(2)請求人は、上記意見書において、仮に、引用文献1に記載の発明において、敢えて、本願発明のように、「『前記水により活性化可能な電池の少なくとも一部を囲む』吸水性シェル」が「光透過性ポリマー及び吸水性ポリマーの少なくとも一方を含む」という構成を配することを考えたとしても、「前記水により活性化可能な電池の少なくとも一部を囲む」ことから水溶液中への露出が低下し化学反応の促進の妨げとなり、光源に対するコーティングと合わせての二重構造で嵩張ってしまうという不利な点をもたらすこととなり、明らかに阻害要因がある(意見書の第2頁第4行?第10行)旨、主張している。
しかしながら、上記1の(3)イのとおり、「水(電解質)を保持する部材」は、安定した作動や、少量の水を検知し得る作動のために配置する部材であるから、電極の露出が低下するとしても、化学反応の促進の妨げとはならないものである。
また、引用発明は、「コーティング」を必須の構成とするものではないが、仮に、引用文献1の図3に記載される如き「樹脂コーティング」を備えるとしても、当該「樹脂コーティング」は、図3からみてとれるとおり、発光ダイオードにおける半導体が露出する周囲を、水溶液に触れないようにコーティングして、発光ダイオードを保護するものであって、電極を覆うものではないから、「水(電解質)を保持する部材」を配置することを妨げるものではない。
(3)請求人は、審判請求書において、引用文献2乃至4の何れにおいても、本願発明のように、「前記水により活性化可能な電池の少なくとも一部を囲む吸水性シェル」が「前記吸水性シェルは光透過性ポリマー及び吸水性ポリマーの少なくとも一方を含む」という構成も開示しておらず、尚且つ、当該構成を有することによって、「電池」、「固体光源」及び「吸水性シェル」を含む「粒子」を有する「水により活性化可能な発光粒状物質」を実現できるような技術的思想は何ら開示されていない(審判請求書の第4頁第14行?第20行)旨、主張している。
しかしながら、上記1の(3)イのとおり、引用文献2?4は、「水(電解質)を保持する部材」を配置することは周知技術であることを示す文献であり、本願発明の「前記吸水性シェルは光透過性ポリマー及び吸水性ポリマーの少なくとも一方を含む」という構成を示している必要はなく、引用発明に当該周知技術を適用することにより、本願発明のような構成とすることは容易になし得る事項であると、判断を示している。
(4)請求人は、審判請求書において、本願発明は、「吸水シェル」に係る当該構成によって、「発光粒状物質」を事前に水に曝しておいた後にスプレーすることにより(本願明細書の段落0048等)、乾燥している環境においてさえも発光することができ、また、海上等に浮揚可能な粒子を提供するための浮揚性も併せて実現することができます。本願発明は、このような構成を各々有する粒子を含む「発光粒状物質」の発明であり、引用文献1乃至4の何れにおいても、上述のような、事前に水に曝した上でのスプレーや浮揚性を実現する複数の粒子を含む「発光粒状物質」の発明に至る技術的思想は、何ら開示も示唆もされていない(審判請求書の第4頁第22行?第29行)旨、主張している。
しかしながら、「事前に水に曝しておいた後にスプレーすること」や「浮揚性を実現する」ことは、本願発明において、そのような具体的な構成は特定されておらず、本願請求項1の記載に基づいた主張とはいえない。
なお、上記第4の4(2)のとおり、引用文献4の【0022】には、「電解液となる水や海水がなくなった場合(電解液がなくなった場合)には、再び、吸収体4に水や海水等を浸して吸収体4に水や海水等を吸収させることで、湿式電池は再び発電を開始するものである。」と記載されており、「吸収体」を配置することにより、乾燥している環境においても発光させ得るものとなることは、当業者であれば予想し得る機能である。
また、上記1の(3)イのとおり、引用発明の用途として「海難救助用具」が例示されていることに鑑みれば、浮揚性の実現は、当業者が所望によりなし得る事項である。

上記のとおりであるから、請求人の主張は、上記判断を左右するものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-02-12 
結審通知日 2021-02-15 
審決日 2021-02-26 
出願番号 特願2017-512914(P2017-512914)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大和田 有軌  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 吉野 三寛
星野 浩一
発明の名称 粒状の水により活性化可能な発光物質  
代理人 柴田 沙希子  

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