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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04W
管理番号 1376262
審判番号 不服2020-11661  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-21 
確定日 2021-08-10 
事件の表示 特願2016- 63948「基地局、システム、及び測定要求方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月 5日出願公開、特開2017-183811、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年3月28日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

令和元年10月31日付け 拒絶理由通知書
令和元年12月23日 意見書及び手続補正書の提出
令和2年 5月18日付け 拒絶査定
令和2年 8月21日 審判請求書及び手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年5月18日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記(引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1,2,4ないし6に対して,引用文献1,3及び4
・請求項3に対して,引用文献1ないし4

<引用文献等一覧>
引用文献1.特開2003-309516号公報
引用文献2.特表2012-522440号公報
引用文献3.特開2015-62304号公報
引用文献4.特開2014-146865号公報

第3 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下,「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は,令和2年8月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
接続する端末に対し、複数の周辺セルについて測定を行うことを要求する基地局であって、
前記端末から受信した呼制御メッセージに含まれる電池残量に基づいて、前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを検出する検出部と、
前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを示す所定の第1の情報に基づいて、前記複数の周辺セルの所定の一部であって前記端末が通信を継続するのに必要な周辺セルのみについて前記測定を行うことを前記端末に要求する要求部、とを備え、
前記要求部は、前記端末が通信を継続するのに必要な前記周辺セルの周波数を示す周波数番号を測定要求メッセージに含めて前記端末に送信する
ことを特徴とする基地局。
【請求項2】
前記検出部は、前記端末の電池残量が所定値以上となったことを検出し、
前記要求部は、前記端末の電池残量が所定値以上となったことを前記検出部が検出したときには、前記複数の周辺セルについて前記測定を行うことを前記端末に要求する、
ことを特徴とする請求項1に記載の基地局。
【請求項3】
前記所定の一部のみについて前記測定を行うことの前記要求は、前記所定の一部以外の残余の前記周辺セルについて測定を停止することの要求を含む、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の基地局。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載した基地局と、
電池により駆動され、前記電池の残量を検出した結果を示す電池残量情報を出力する電池管理部と、入力される前記電池残量情報が、前記残量が所定値よりも少ないことを示す場合、その旨を示す第2の情報を送信する報告部と、を備えることを特徴とする端末、とを有する
システム。
【請求項5】
前記基地局は、受信した前記第2の情報を前記第1の情報として使用することを特徴とする請求項4に記載したシステム。
【請求項6】
接続する端末に対し、複数の周辺セルについて測定を行うことを要求する基地局の測定要求方法であって、
前記端末から受信した呼制御メッセージに含まれる電池残量に基づいて、前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを検出する検出ステップと、
前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを示す所定の情報に基づいて、前記複数の周辺セルの所定の一部であって前記端末が通信を継続するのに必要な周辺セルのみについて前記測定を行うことを前記端末に要求する要求ステップ、とを有し、
前記要求ステップは、前記端末が通信を継続するのに必要な前記周辺セルの周波数を示す周波数番号を測定要求メッセージに含めて前記端末に送信する
ことを特徴とする測定要求方法。」

第4 引用発明及び技術的事項
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由で引用され,本願出願日前に公開された引用文献1(特開2003-309516号公報)には,図面とともに以下の記載がある。(なお,下線は当審で付与した。)

(1)「移動通信システムにおいて、移動通信ネットワークとの間で着信待ち受けまたは通信を行っている移動通信端末は、電池残量情報を移動通信ネットワークに対して報告する。ここで、移動通信ネットワークとは、無線基地局及び無線基地局制御局を含むネットワーク系のことであり、移動通信システムとは、移動通信ネットワーク及び移動通信端末を含むシステム全体のことである。」(段落【0012】)

(2)「図1を参照すると、ネットワークが移動通信端末(MS:Mobile Station)に対して通信用の設定を行う(ステップS1)。例えば、最大送信電力20dBmとする。移動通信端末は最大送信電力20dBmを送信電力の上限として通信を行うことになる(ステップS2)。ここで、移動通信端末で、電池残量が少ないことが検出されると(ステップS3)、その旨、ネットワークへ報告がなされる(ステップS4)。
この場合の報告の方法としては、電池残量と予め設定されている閾値とを比較して、その比較結果に従って報告するかどうかを決定するようにしても良い。また、報告内容としては、電池残量の割合(%)や、大中小の情報でも良いものである。」(段落【0015】,【0016】)

(3)「図3は本発明の更に他の実施例の制御手順を示す図である。待ち受け中または通信中の移動通信端末においては、最適な基地局(セル/セクタ)を選択してゾーン移行やハンドオーバを行うために、常に周辺基地局からの無線信号を受信し受信電力を監視している。監視する周辺基地局の数はネットワークから移動通信端末へ指定されるが、この数が少ないほど受信する時間が短くなるため、移動通信端末の消費電流を削減することができる。」(段落【0027】)

(4)「図3参照すると、ネットワークが移動通信端末に対して周辺基地局監視用の設定を行う(ステップS31)。例えば、周辺3基地局を監視とする。移動通信端末は周辺3基地局を監視しながら、待ち受けまたは通信を行う(ステップS32,33)。」(段落【0028】)

(5)「ここで、移動通信端末において、電池残量が少ないことが検出されると(ステップS34)、移動通信端末は、ネットワークに対して電池残量が少ないことを報告する(ステップS35)。ネットワークは移動通信端末の新しい周辺基地局監視方法を決定する(ステップS36)。この場合は、移動通信端末の電池残量が少なくなったので、監視基地局数を少なくして、消費電流の削減を図る。
ネットワークは移動通信端末に対して周辺基地局監視用の設定を行う(ステップS37)。例えば周辺1基地局を監視とする。移動通信端末は周辺1基地局を監視しながら、待ち受けまたは通信を行う(ステップS38,39)。よって、移動通信端末の消費電流が削減され、電池切れが起こりにくくなる。」(段落【0029】,【0030】)

(6)「【発明の効果】本発明により、移動通信端末において、着信待ち受け中または通信中の消費電流が削減され、電池切れが起こりにくくなる。その理由としては、移動通信システムにおいて、移動通信ネットワークとの間で着信待ち受けまたは通信を行っている移動通信端末は、電池残量情報を移動通信ネットワークに対して報告し、ネットワークはその報告にしたがって、最大送信電力、データ送受信方法、周辺基地局監視状態の各々について、消費電流を削減するように制御するからである。」(段落【0033】)

(7)図3として以下の図が記載されている。





引用文献1の上記記載,及びこの分野における技術常識を考慮すると,次のことがいえる。

ア 上記「(3)」の「待ち受け中または通信中の移動通信端末においては、最適な基地局(セル/セクタ)を選択してゾーン移行やハンドオーバを行うために、常に周辺基地局からの無線信号を受信し受信電力を監視している。監視する周辺基地局の数はネットワークから移動通信端末へ指定されるが、この数が少ないほど受信する時間が短くなるため、移動通信端末の消費電流を削減することができる。」との記載によれば,「通信中の移動通信端末」は「周辺基地局からの無線信号を受信し受信電力を監視」するものであり,また「監視する周辺基地局の数はネットワークから移動通信端末へ指定される」,すなわち「ネットワーク」は「移動通信端末」へ「監視する周辺基地局の数」を「指定」するものといえる。
ここで,上記「(6)」の「移動通信システムにおいて、移動通信ネットワークとの間で着信待ち受けまたは通信を行っている移動通信端末は、電池残量情報を移動通信ネットワークに対して報告し、ネットワークはその報告にしたがって、最大送信電力、データ送受信方法、周辺基地局監視状態の各々について、消費電流を削減するように制御する」との記載によれば,「移動通信ネットワーク」と「ネットワーク」とが同じものを表していることは明らかである。
してみれば,「移動通信ネットワーク」は,「通信中の移動通信端末に,無線信号を受信し受信電力を監視する周辺基地局の数を指定する」ものといえる。

イ 上記「(1)」の「移動通信システムにおいて、移動通信ネットワークとの間で着信待ち受けまたは通信を行っている移動通信端末は、電池残量情報を移動通信ネットワークに対して報告する。ここで、移動通信ネットワークとは、無線基地局及び無線基地局制御局を含むネットワーク系のこと」との記載によれば,「移動通信ネットワーク」は,「無線基地局及び無線基地局制御局を含む」ものといえる。

ウ 上記「(5)」の「移動通信端末において、電池残量が少ないことが検出されると(ステップS34)、移動通信端末は、ネットワークに対して電池残量が少ないことを報告する(ステップS35)。ネットワークは移動通信端末の新しい周辺基地局監視方法を決定する(ステップS36)。この場合は、移動通信端末の電池残量が少なくなったので、監視基地局数を少なくして、消費電流の削減を図る。」との記載によれば,「移動通信ネットワーク」は「移動通信端末」から,「電池残量が少ないこと」が「報告」されるものであり,「電池残量」は「移動通信端末の電池残量」であるといえる。
また,上記「(2)」の「移動通信端末で、電池残量が少ないことが検出されると(ステップS3)、その旨、ネットワークへ報告がなされる(ステップS4)。この場合の報告の方法としては、電池残量と予め設定されている閾値とを比較して、その比較結果に従って報告するかどうかを決定するようにしても良い。また、報告内容としては、電池残量の割合(%)や、大中小の情報でも良いものである。」との記載によれば,「移動通信端末」は,「移動通信ネットワーク」への「報告」を「電池残量と予め設定されている閾値とを比較して、その比較結果に従って報告するかどうかを決定する」ものであり,その報告内容としては「電池残量の割合(%)や、大中小の情報」であるといえる。
してみれば,「移動通信ネットワーク」は「移動通信端末から移動通信端末の電池残量が少ないことが報告されるものであり,報告は,移動通信端末の電池残量と予め設定されている閾値とを比較して、その比較結果に従って報告するかどうかを決定されたものであり,その報告内容としては電池残量の割合や,大中小の情報である」といえる。

エ 上記「(5)」の「移動通信端末において、電池残量が少ないことが検出されると(ステップS34)、移動通信端末は、ネットワークに対して電池残量が少ないことを報告する(ステップS35)。ネットワークは移動通信端末の新しい周辺基地局監視方法を決定する(ステップS36)。この場合は、移動通信端末の電池残量が少なくなったので、監視基地局数を少なくして、消費電流の削減を図る。ネットワークは移動通信端末に対して周辺基地局監視用の設定を行う(ステップS37)。例えば周辺1基地局を監視とする。」との記載によれば,「移動通信端末」が移動通信「ネットワークに対して電池残量が少ないことを報告する」と,「移動通信ネットワーク」は,「移動通信端末の電池残量が少なくなったので、監視基地局数を少なく」するように,「移動通信端末に対して周辺基地局監視用の設定を行う」ものである。
してみれば,「移動通信ネットワーク」は,「移動通信端末の電池残量が少ないことの報告がなされると,監視基地局数を少なくするように,移動通信端末に対して周辺基地局監視用の設定を行う」ものといえる。

したがって,上記「ア」ないし「エ」を総合すると,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「通信中の移動通信端末に,無線信号を受信し受信電力を監視する周辺基地局の数を指定する移動通信ネットワークであって,該移動通信ネットワークは,無線基地局及び無線基地局制御局を含むものであり,
移動通信端末から移動通信端末の電池残量が少ないことが報告されるものであり,報告は,移動通信端末の電池残量と予め設定されている閾値とを比較して、その比較結果に従って報告するかどうかを決定されたものであり,その報告内容としては電池残量の割合や,大中小の情報であり,
移動通信端末の電池残量が少ないことの報告がなされると,監視基地局数を少なくするように,移動通信端末に対して周辺基地局監視用の設定を行う
移動通信ネットワーク。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由で引用され,本願出願日前に公開された引用文献2(特表2012-522440号公報)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(なお,下線は当審で付与した。)

(1)「LTEシステムにおいて、エボリューションのノードB、エボリューションの基地局(Evolved NodeB,eNB)は、実際情況によって、ACTIVE(アクティブ)状態になっているユーザ設備(User Equipment,UE)にRRCReconfigration(RRC再配置)情報によって計測配置を発信、或いはUEにおける元の計測配置を修正することになるが、UEは、eNBが最新に発信された計測配置に応じてサービスセル及び/又は隣接するセルに対して計測するとともに、計測報告情報をeNBに報告することになる。」(段落【0002】)

(2)「プロトコル36.331の記述により、本回で計測配置を発信する際の計測対象ID(MeasObjectId)とUEに存在したMeasObjectIdとが同じであるが、該MeasObjectIdの対応する目標セルは、変更を発生すると、計測配置の修正は、MeasObjectIdの対応のセル増加修正リスト(cellsToAddModifyList)及びセル削除リスト(cellsToRemoveList)という2つのリストを正確に記入することにより完成する。」(段落【0003】)

(3)「2.本回で発信の必要がある計測目標セルは、UEにおける既存の計測目標セルの範囲よりも小さい。この時、eNBは、該MeasObjectIdの対応のcellsToRemoveListに、新配置が元配置より減少したセル情報を正確に記入する必要がある。」(段落【0005】)

上記記載によれば,引用文献2には,次の技術的事項が記載されていると認められる。

「eNBは,UEにRRCReconfigration情報によって元の計測配置を修正するものであって,前記計測配置の修正は、セル削除リスト(cellsToRemoveList)を正確に記入するものであり,UEは,eNBが最新に発信された計測配置に応じてサービスセル及び/又は隣接するセルに対して計測するとともに、計測報告情報をeNBに報告するものであり,本回の計測目標セルがUEにおける既存の計測目標セルの範囲よりも小さい時,eNBは,計測対象ID(MeasObjectID)に対応するcellsToRemoveListに,新配置が元配置より減少したセル情報を記入する。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由で引用され,本願出願日前に公開された引用文献3(特開2015-62304号公報)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(なお,下線は当審で付与した。)

(1)「<measurementについて( 単一セル通信の場合)>
次に、測定(measurement)について、説明を行う。基地局装置は、移動局装置に対して、RRCシグナリング(無線リソース制御信号)のRRC接続再設定(RRC Connection Reconfiguration)メッセージを使って、測定設定(Measurement configuration)メッセージを送信する。」(段落【0028】)

(2)「測定設定(Measurement configuration)メッセージには、測定識別(measId)、測定対象(Measurement objects)、報告設定(Reporting configurations)の設定の追加および/または修正および/または削除、数量設定(quantityConfig)、測定ギャップ設定(measGapConfig)、在圏セル品質スレッショルド( s-Measure)などが含まれる。」(段落【0030】)

(3)「測定対象(Measurement objects)には、測定対象識別子(measObjectId)と対応付けられた測定対象EUTRA(measObjectEUTRA)などが含まれる。」(段落【0042】)

(4)「測定対象EUTRA(measObjectEUTRA)には、EUTRA搬送波周波数情報(eutra-CarrierInfo)、測定帯域幅(measurementBandwidth)、オフセット周波数(offsetFreq)、隣接セルリスト(neighbour cell list)に関する情報、ブラックリスト(black list)に関する情報が含まれる。」(段落【0044】)

(5)「次に、測定対象EUTRA(measObjectEUTRA)に含まれる情報ついて説明する。EUTRA搬送波周波数情報(eutra-CarrierInfo)は、測定対象とする搬送波周波数を指定する。測定帯域幅(measurementBandwidth)は、測定対象とする搬送波周波数で動作する全ての隣接セル共通な測定帯域幅を示す。オフセット周波数(offsetFreq)は、測定対象とする周波数において適用される測定オフセット値を示す。」(段落【0045】)

引用文献3の上記記載,及びこの分野における技術常識を考慮すると,次のことがいえる。

ア 上記「(1)」に「基地局装置は、移動局装置に対して、・・・(中略)・・・測定設定(Measurement configuration)メッセージを送信する。」と記載され,上記「(2)」に「測定設定( Measurement configuration) メッセージには、・・・(中略)・・・・測定対象(Measurement objects)、・・・(中略)・・・が含まれる。」と記載され,上記「(3)」に「測定対象(Measurement objects)には、測定対象識別子(measObjectId)と対応付けられた測定対象EUTRA(measObjectEUTRA)などが含まれる。」と記載されていることから,基地局装置は移動局装置に対して測定設定(Measurement configuration)メッセージを送信するものであり,当該測定設定(Measurement configuration)メッセージには測定対象(Measurement objects)が含まれ,当該測定対象(Measurement objects)には測定対象識別子(measObjectId)と対応付けられた測定対象EUTRA(measObjectEUTRA)などが含まれるといえる。

イ 上記「(4)」に「測定対象EUTRA(measObjectEUTRA)には、EUTRA搬送波周波数情報(eutra-CarrierInfo)、・・・(中略)・・・が含まれる。」と記載され,上記「(5)」に「EUTRA搬送波周波数情報(eutra-CarrierInfo)は、測定対象とする搬送波周波数を指定する。」と記載されていることから,測定対象EUTRA(measObjectEUTRA)には,測定対象とする搬送波周波数を指定するEUTRA搬送波周波数情報(eutra-CarrierInfo)が含まれるといえる。

上記「ア」及び「イ」を総合すると,引用文献3には,次の技術的事項が記載されていると認められる。

「基地局装置は,移動局装置に対して測定設定(Measurement configuration)メッセージを送信するものであり,当該測定設定メッセージには測定対象(Measurement objects)が含まれ,当該測定対象には測定対象識別子(measObjectId)と対応付けられた測定対象EUTRA(measObjectEUTRA)などが含まれており,当該測定対象EUTRAには,測定対象とする搬送波周波数を指定するEUTRA搬送波周波数情報(eutra-CarrierInfo)が含まれる。」

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由で引用され,本願出願日前に公開された引用文献4(特開2014-146865号公報)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(なお,下線は当審で付与した。)

(1)「[無線ネットワーク]
基地局装置によって制御される各周波数の通信可能範囲(通信エリア)はセルとしてみなされる。このとき、基地局装置がカバーする通信エリアは周波数毎にそれぞれ異なる広さ、異なる形状であっても良い。また、カバーするエリアが周波数毎に異なっていてもよい。」(段落【0052】)

(2)「測定設定は、測定イベント情報を端末装置に設定するために用いられる複数の測定に関する設定情報である。測定設定は、測定識別子情報(Measurement ID)、測定対象識別子情報(Measurement objects ID)、測定対象情報(Measurement objects)、報告設定識別子情報(Reporting configuration ID)、報告設定情報(Reporting configuration)から構成される。測定対象識別子情報は、測定対象情報を指定および識別するためのインデックスである。また、報告設定識別子情報は、報告設定情報を指定および識別するためのインデックスである。」(段落【0066】)

(3)「測定識別子情報は、測定対象情報と報告設定情報との対応付けを行うために用いられ、具体的には測定対象識別子情報と報告設定識別子情報とのリンク設定に対する識別子として用いられる。測定対象情報とは、端末装置が行う測定の対象となる周波数を指定するために用いられる。」(段落【0067】)

(4)「基地局装置2は、端末装置1に測定設定を設定する際に、スモールセルを判定可能な情報を設定することによって、端末装置1に対して暗黙的に測定イベント条件に用いるパラメータ値の調整が必要であることを通知してもよい。」(段落【0110】)

上記「(1)」ないし「(4)」を総合すると,引用文献4には,次の技術的事項が記載されていると認められる。

「基地局装置は,端末装置に測定設定を設定するものであり,前記測定設定は測定対象情報(Measurement objects)から構成され,前記測定対象情報は前記端末装置が行う測定の対象となる周波数を指定するものである。」

第5 対比及び判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明における「移動通信端末」は,本願発明1の「端末」に含まれる。また,引用発明における「通信中の移動通信端末」は,通信するために接続することが明らかであるから本願発明1の「接続する端末」に相当する。

イ 引用発明における「周辺基地局」は,本願発明1の「周辺セル」に相当する。そして,引用発明は「無線信号を受信し受信電力を監視する周辺基地局の数を指定する」ものであり,「移動通信端末の電池残量が少ないことの報告がなされると,監視基地局数を少なくする」ものであるから,基地局が監視する「周辺基地局」は複数あるといえる。よって,引用発明の「周辺基地局」と本願発明1の「周辺セル」は「複数の周辺セル」である点で共通する。

ウ 引用発明における「監視」とは「無線信号を受信し受信電力を監視する」ことであるから,本願発明1の「測定を行う」ことに相当する。そして,「無線信号を受信し受信電力を監視する周辺基地局の数を指定」した後に,測定を行うことは自明であるから,引用発明の「無線信号を受信し受信電力を監視する周辺基地局の数を指定する」ことは,本願発明1における「複数の周辺セルについて測定を行うことを要求する」ことに相当するといえる。

エ 引用発明の「移動通信ネットワーク」は「無線基地局及び無線基地局制御局を含む」ものであり,移動通信ネットワークは,基地局を含むことが技術常識であるから,本願発明1の「基地局」と引用発明の「移動通信ネットワーク」は,移動通信ネットワークである点で共通する。

オ 上記「ア」ないし「エ」を総合すると,本願発明1における「接続する端末に対し、複数の周辺セルについて測定を行うことを要求する基地局」と,引用発明における「通信中の移動通信端末に,無線信号を受信し受信電力を監視する周辺基地局の数を指定する移動通信ネットワークであって,該移動通信ネットワークは,無線基地局及び無線基地局制御局を含むもの」は,接続する端末に対し,複数の周辺セルについて測定を行うことを要求する移動通信ネットワークである点で共通する。

カ 引用発明の「電池残量の割合や,大中小の情報」は,電池残量を報告する具体的方法を示したものといえるから,本願発明1の「電池残量」に含まれる。また,機器間で情報を送受信する際に当該情報をメッセージに含めることが技術常識であるから,引用発明においては「電池残量の割合や,大中小の情報」がメッセージに含められて送受信されるものといえる。してみれば,本願発明1における「前記端末から受信した呼制御メッセージに含まれる電池残量」と,引用発明における「移動通信端末から移動通信端末の電池残量が少ないことが報告される」「電池残量の割合や,大中小の情報」は,端末から受信したメッセージに含まれる電池残量である点で共通する。さらに,引用発明の「閾値」は,電池残量を報告するかどうかを決定するために,予め設定された値であるから,本願発明1の「所定値」に含まれるといえる。そして,引用発明は,「移動通信端末から移動通信端末の電池残量が少ないことが報告されるものであり,報告は,移動通信端末の電池残量と予め設定されている閾値とを比較して、その比較結果に従って報告するかどうかを決定されたものであ」る。つまり,「報告」は「移動通信端末の電池残量」が「閾値」と比較した結果,「電池残量」が「閾値」よりも少なくなったことに基づいてなされるものであるから,上記「報告」がなされたことに基づいて,「移動通信ネットワーク」が,「移動通信端末の電池残量」が「閾値」よりも少なくなったことを検出していることは明らかである。そうすると,引用発明における「移動通信端末から移動通信端末の電池残量が少ないことが報告されるものであり,報告は,移動通信端末の電池残量と予め設定されている閾値とを比較して,その比較結果に従って報告するかどうかを決定されたもの」であることは,本願発明1における「前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを検出する」ことに相当する。また,引用発明においても検出を行うための「検出部」を備えていることも自明である。
してみれば,本願発明1における「前記端末から受信した呼制御メッセージに含まれる電池残量に基づいて、前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを検出する検出部」と,引用発明における「移動通信端末から移動通信端末の電池残量が少ないことが報告されるものであり,報告は,移動通信端末の電池残量と予め設定されている閾値とを比較して、その比較結果に従って報告するかどうかを決定されたものであり,その報告内容としては電池残量の割合や,大中小の情報」であることは,端末から受信した電池残量が含まれるメッセージに基づいて,前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを検出する検出部である点で共通する。

キ 引用発明において「移動通信端末の電池残量が少ないことの報告がなされると,監視基地局数を少なくするように,移動通信端末に対して周辺基地局監視用の設定を行う」ことについて,上記「カ」で説明したとおり,引用発明における「報告は,移動通信端末の電池残量と予め設定されている閾値とを比較して、その比較結果に従って報告するかどうかを決定されたもの」であって,引用発明における「閾値」は本願発明1の「所定値」に含まれるから,引用発明において「移動通信端末の電池残量が少ないこと」は,本願発明1における「前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったこと」に相当する。そして,上記「カ」で説明したように,機器間で情報を送受信する際に当該情報をメッセージに含めることが技術常識であるから,引用発明における「移動通信端末の電池残量が少ないことの報告」はメッセージにより行われるものといえ,当該メッセージは,「移動通信端末の電池残量が少ないこと」を示すメッセージであるということができる。また,引用発明において「監視基地局数を少なくするように,移動通信端末に対して周辺基地局監視用の設定を行」った後に,測定を行うことは自明であるから,引用発明において「監視基地局数を少なくするように,移動通信端末に対して周辺基地局監視用の設定を行」うことは,監視基地局数を少なくして,少なくした数の周辺基地局のみについて測定を行うことを移動通信端末に要求することであるということができる。以上のことから,引用発明は,「移動通信端末の電池残量が少ないこと」を示すメッセージに基づいて,少なくした数の周辺基地局のみについて測定を行うことを移動通信端末に要求するものといえる。また,引用発明が要求を行うための「要求部」を備えていることは自明である。
してみれば,本願発明1における「前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを示す所定の第1の情報に基づいて、前記複数の周辺セルの所定の一部であって前記端末が通信を継続するのに必要な周辺セルのみについて前記測定を行うことを前記端末に要求する要求部」と,引用発明において「移動通信端末の電池残量が少ないことの報告がなされると,監視基地局数を少なくするように,移動通信端末に対して周辺基地局監視用の設定を行う」ことは,端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことに基づいて,少なくした数の周辺セルのみについて測定を行うことを端末に要求する要求部である点で共通する。

したがって,上記「ア」ないし「キ」を総合すれば,本願発明1と引用発明は,以下の点で一致し,また相違する。

<一致点>
「接続する端末に対し、複数の周辺セルについて測定を行うことを要求する移動通信ネットワークであって、
前記端末から受信した電池残量が含まれるメッセージに基づいて、前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを検出する検出部と、
前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことに基づいて、少なくした数の周辺セルのみについて前記測定を行うことを前記端末に要求する要求部、とを備える移動通信ネットワーク。」

<相違点1>
「検出部」及び「要求部」を備えるのが本願発明1においては「基地局」であるのに対して,引用発明においては「無線基地局及び無線基地局制御局を含む移動通信ネットワーク」であって,「移動通信ネットワーク」に含まれるどの「局」であるのか特定されていない点。

<相違点2>
「検出部」が,本願発明1においては「前記端末から受信した呼制御メッセージに含まれる電池残量に基づいて、前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを検出する」のに対して,引用発明においては「移動通信端末から移動通信端末の電池残量が少ないことが報告されるものであり,報告は,移動通信端末の電池残量と予め設定されている閾値とを比較して、その比較結果に従って報告するかどうかを決定されたものであり,その報告内容としては電池残量の割合や,大中小の情報」である点。

<相違点3>
「要求部」が,本願発明1においては「前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを示す所定の第1の情報に基づいて、前記複数の周辺セルの所定の一部であって前記端末が通信を継続するのに必要な周辺セルのみについて前記測定を行うことを前記端末に要求する」のに対して,引用発明においては「移動通信端末の電池残量が少ないこと」の報告がなされると,少なくした数の周辺基地局のみについて測定を行うことを移動通信端末に要求するものである点。

<相違点4>
本願発明1においては「前記要求部は、前記端末が通信を継続するのに必要な前記周辺セルの周波数を示す周波数番号を測定要求メッセージに含めて前記端末に送信する」のに対して,引用発明においては当該発明特定事項について特定されていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について判断するにあたり,事案に鑑みて,上記相違点2について先に検討する。
上記相違点2に係る「前記端末から受信した呼制御メッセージに含まれる電池残量に基づいて、前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを検出する検出部」という発明特定事項は,引用文献1ないし引用文献4には記載も示唆もされておらず,また当該技術分野における周知技術であるともいえない。
よって,引用発明において,上記相違点2に係る「前記端末から受信した呼制御メッセージに含まれる電池残量に基づいて、前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを検出する検出部」を設けることは,当業者といえども,容易に想到し得たとはいえない。
したがって,上記相違点1及び相違点3について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用文献2ないし4に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5は,本願発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても引用発明及び引用文献2ないし4に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明6について
本願発明6は,基地局の装置発明である本願発明1を,基地局の方法発明としたものである。そして,本願発明6は,上記「1 本願発明1について」で説示した相違点2に対応する「前記端末から受信した呼制御メッセージに含まれる電池残量に基づいて、前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを検出する検出ステップ」という発明特定事項を少なくとも含むものであるから,本願発明1と同様な理由により,当業者であっても引用発明及び引用文献2ないし4に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 原査定について
令和2年8月21日にされた手続補正により,本願発明1ないし6は,いずれも「前記端末から受信した呼制御メッセージに含まれる電池残量に基づいて、前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを検出する検出部」又は「前記端末から受信した呼制御メッセージに含まれる電池残量に基づいて、前記端末の電池残量が所定値よりも少なくなったことを検出する検出ステップ」という発明特定事項を備えるものとなっている。してみれば,上記「第5」の「1」ないし「3」で説示したとおり,当業者であっても,引用発明及び引用文献2ないし4に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって,原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-07-15 
出願番号 特願2016-63948(P2016-63948)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 青木 健  
特許庁審判長 廣川 浩
特許庁審判官 森田 充功
國分 直樹
発明の名称 基地局、システム、及び測定要求方法  
代理人 机 昌彦  
代理人 下坂 直樹  

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