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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1376329 |
審判番号 | 不服2020-8847 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-25 |
確定日 | 2021-08-13 |
事件の表示 | 特願2018-133825「粘着剤層付偏光フィルムおよび画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月20日出願公開、特開2018-200473、請求項の数(17)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2012-174079号(以下「もとの特許出願」という。)は、平成24年8月6日を出願日とする出願である。 特願2014-146983号(以下「第2出願」という。)は、もとの特許出願の一部を平成26年7月17日に新たな特許出願としたものである。 また、特願2016-110801号(以下「第3出願」という。)は、第2出願の一部を平成28年6月2日に新たな特許出願としたものである。 さらに、特願2018-133825号(以下「本件出願」という。)は、第3出願の一部を平成30年7月17日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和 元年 6月 3日付け:拒絶理由通知書 令和 元年10月 1日 :意見書 令和 元年10月 1日 :手続補正書 令和 2年 3月25日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 2年 6月25日 :審判請求書 令和 3年 1月28日付け:拒絶理由通知書 令和 3年 3月29日 :意見書 令和 3年 3月29日 :手続補正書 2 本願発明 本件出願の請求項1?請求項17に係る発明は、令和3年3月29日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項17に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。なお、下線は補正箇所を示す。 「 【請求項1】 偏光フィルムと、当該偏光フィルムに設けられた粘着剤層を有する粘着剤層付偏光フィルムであって、 前記偏光フィルムは、偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有し、前記粘着剤層は、前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に設けられており、かつ 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系ポリマー(A)およびオニウム-フッ素含有イミドアニオン塩(B)を含有し、かつ、前記(メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して、前記オニウム-フッ素含有イミドアニオン塩(B)を0.1?10重量部含有する粘着剤組成物から形成されたものであり、 前記粘着剤層付偏光フィルムは、60℃/90%RHの恒温恒湿機に500時間投入前と投入後に測定した偏光度(%)から求められる、 式:変化量(%)ΔP=(投入前の偏光度(%))-(投入後の偏光度(%)) で表される変化量(%)ΔPが0.13以下を満足することを特徴とする粘着剤層付偏光フィルム。 【請求項2】 前記オニウム-フッ素含有イミドアニオン塩(B)におけるオニウムが、含窒素オニウム、含硫黄オニウムおよび含リンオニウムから選ばれるいずれか少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の粘着剤層付偏光フィルム。 【請求項3】 前記オニウム-フッ素含有イミドアニオン塩(B)におけるオニウムが、アンモニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウムおよびスルホニウムから選ばれるいずれか少なくとも1種であることを特徴とする請求項2記載の粘着剤層付偏光フィルム。 【請求項4】 前記オニウム-フッ素含有イミドアニオン塩(B)におけるオニウムが、不飽和結合を有しないことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。 【請求項5】 前記オニウム-フッ素含有イミドアニオン塩(B)におけるオニウムが、炭素数1?4のアルキル基を有するアルキルオニウムであることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。 【請求項6】 (メタ)アクリル系ポリマー(A)が、モノマー単位として、アルキル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシル基含有モノマーを含有することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。 【請求項7】 (メタ)アクリル系ポリマー(A)が、モノマー単位として、アルキル(メタ)アクリレートおよびカルボキシル基含有モノマーを含有することを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。 【請求項8】 前記粘着剤組成物が、さらに、架橋剤(C)を含有することを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。 【請求項9】 架橋剤(C)は、(メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して、0.01?20重量部含有することを特徴とする請求項8記載の粘着剤層付偏光フィルム。 【請求項10】 架橋剤(C)が、イソシアネート系化合物および過酸化物から選ばれるいずれか少なくとも1種であることを特徴とする請求項8または9記載の粘着剤層付偏光フィルム。 【請求項11】 (メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して、さらに、シランカップリング剤(D)を0.001?5重量部含有することを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。 【請求項12】 (メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して、さらに、ポリエーテル変性シリコーン化合物を0.001?10重量部含有することを特徴とする請求項1?11のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。 【請求項13】 (メタ)アクリル系ポリマー(A)の重量平均分子量が、50万?300万であることを特徴とする請求項1?12のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。 【請求項14】 偏光フィルムと、粘着剤層の間に、易接着層を有することを特徴とする請求項1?13のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。 【請求項15】 請求項1?14のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルムを、液晶パネルに貼り合せることにより、偏光子の劣化を招くことなく帯電防止機能を付与する方法。 【請求項16】 請求項1?14のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルムを製造方法であって、 二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる連続ウェブの偏光膜であって、熱可塑性樹脂基材に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体を空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸することにより得られた厚みが10μm以下の偏光子を準備する工程、 前記偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを貼合わせる工程により偏光フィルムを得る工程、 前記熱可塑性樹脂基材を剥離する工程、並びに 前記偏光フィルムの前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に、(メタ)アクリル系ポリマー(A)およびオニウム-フッ素含有イミドアニオン塩(B)を含有する粘着剤組成物によって粘着剤層を形成する工程を含むことを特徴とする粘着剤層付偏光フィルムの製造方法。 【請求項17】 請求項1?13のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルムを少なくとも1つ用いたことを特徴とする画像表示装置。」 3 原査定の拒絶の理由 本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)に対する原査定の拒絶の理由は、概略、本願発明1は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(引用文献1に記載された発明)に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:国際公開第2010/120105号 4 当合議体が通知した拒絶の理由 当合議体が通知した拒絶の理由は、概略、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない、というものである。 第2 当合議体の判断 1 引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(国際公開第2010/120105号)は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された文献であるところ、そこには以下の記載がある。なお、下線は、当合議体が引用発明の認定及び判断等で活用した箇所を示す。 (1)「 ・・・ 」 (参考訳: 「技術分野 [1] 本発明は、粘着剤組成物、偏光板及び液晶表示装置に関する。 背景技術 [2] 液晶表示装置(LCD;liquid crystal display)は、液体結晶を用いて映像を表示する装置であって、電力消耗が少なく、平面的に薄く作ることができるという長所を有していて、様々な分野において注目されている表示装置である。 [3] 液晶表示装置に使用される光学部材である偏光板は、通常、ポリビニルアルコール系偏光子と、上記偏光子の一面または両面に形成された保護フィルムとを含む多層構造を有する。また、偏光板は、一般的に、上記保護フィルムの一面に形成され、偏光板を液晶パネルに付着することができる粘着剤と該粘着剤上に形成された離型フィルムとを含む。 ・・・中略・・・ [8] 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [9] 本発明の目的は、粘着剤組成物、偏光板及び液晶表示装置を提供することにある。 課題を解決するための手段 [10] 本発明は、粘着樹脂と;下記化学式1の陽イオンと下記化学式2の陰イオンを有し、常温で液相である塩(salt)と;を含む粘着剤組成物に関する。」) (2)「 ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 」 (参考訳: 「[45] また、本発明において使用する塩は、陰イオンとして、下記化学式2で表示される陰イオンを含む。 [46] [化学式2] [47] [X(YO_(m)R_(f))_(n)]^(- ) ・・・中略・・・ [52] 上記のような化学式2の陰イオンは、スルホニルメチド系、スルホニルイミド系、カルボニルメチド系またはカルボニルイミド系陰イオンであることができ、具体的には、トリストリフルオロメタンスルホニルメチド、ビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ビスペルフルオロブタンスルホニルイミド、ビスペンタフルオロエタンスルホニルイミド、トリストリフルオロメタンカルボニルメチド、ビスペルフルオロブタンカルボニルイミドまたはビスペンタフルオロエタンカルボニルイミドなどの一種または二種以上の混合であることができる。 ・・・中略・・・ [77] また、本発明は、偏光子と;上記偏光子の一面または両面に形成され、本発明による粘着剤組成物の硬化物を含む粘着剤層と;を備える偏光板に関する。 [78] 本発明の偏光板に含まれる偏光子の種類は、特に限定されるものではない。本発明においては、例えば、上記偏光子として、ポリビニルアルコール系の樹脂フィルムにヨードまたは二色性染料などの偏光成分を含有させ、延伸してして製造されるフィルムを使用することができる。上記でポリビニルアルコール系の樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタルまたはエチレン-ビニルアセテート共重合体の加水分解生成物(hydrolyzed product)などを使用することができる。 ・・・中略・・・ [80] また、本発明の偏光板には、上記偏光子の一面または両面に透明保護フィルムが付着されてもよく、場合によっては、上記粘着剤が透明保護フィルムの一面に積層されてもよい。本発明の偏光板に含まれることができる保護フィルムの種類は、特に限定されず、例えばトリアセチルセルロースのようなセルロース系フィルム;ポリエチレンテレフタルレートフィルムのようなポリエステル系フィルム;ポリカーボネート系フィルム;アクリル系フィルム;ポリエーテルスルホン系フィルム;またはポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、シクロ系ポリオレフインフィルム、ノルボルネン系ポリオレフインフィルムまたはエチレン-プロピレン共重合体のようなポリオレフイン系フィルムなどの通常のフィルムを使用することができる。 ・・・中略・・・ 発明の効果 [103] 本発明の粘着剤組成物は、高温または高湿条件での耐久性、光学的物性、作業性及び粘着物性に優れた粘着剤を提供することができる。特に、本発明の粘着剤組成物は、適用される用途に適した帯電防止特性が長時間安定的に維持されることができる粘着剤を提供する」) (3)「 ・・・ 」 (参考訳: 「[106] 実施例1 [107] アクリル系共重合体の製造 [108] 窒素ガスが還流され、温度調節が容易となるように冷却装置が設置された1L反応器に、n-ブチルアクリレート(BA)98.3重量部及びヒドロキシエチルメタクリレート(2-HEMA)1.7重量部を投入し、溶剤としてエチルアセテート(EAc)100重量部を投入した。次に、酸素を除去するために窒素ガスを約1時間パージングし、反応器の温度を62℃に維持した状態で、混合物を均一にした後、開始剤としてエチルアセテートに50重量%の濃度で希釈させたアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.03重量部を投入した。次に、上記混合物を約8時間反応させてアクリル系樹脂を製造した。 [109] [110] 粘着偏光板の製造 [111] 上記製造されたアクリル系樹脂100重量部に対して、トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物(TDI-1)0.5重量部及びN-メチル-N、N、N-トリブチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド0.5重量部を混合し、適正の濃度に希釈し、コーティング液を製造した。次に、製造されたコーティング液を離型紙にコーティングし、適正条件で乾燥及び熟成させ、厚さが25μmの粘着剤を製造した。次に、製造された粘着剤を厚さが185μmのヨード系偏光板にラミネーションし、粘着偏光板を製造した。 [112] [113] 実施例2?4及び比較例1?7 [114] 下記表1及び2に示されたように、粘着剤組成物の組成を変更したことを除いて、上記実施例1と同一の方法で粘着偏光板を製造した。 [115] 表1 ・・・中略・・・ [150] 表3 」) (4)「 ・・・ ・・・ 」 (参考訳: 「[請求項1] 粘着樹脂と;下記化学式1の陽イオンと下記化学式2の陰イオンを有し、常温で液相である塩と;を含む粘着剤組成物: [化学式1] [化学式2] [X(YO_(m)R_(f))_(n)] 上記化学式1及び2で、R_(1)?R_(4)は、それぞれ独立して水素、アルキル、アルコキシ、アルケニルまたはアルキニルを示し、Xは、窒素または炭素を示し、Yは、炭素または硫黄を示し、R_(f)は、ペルフルオロアルキル基を示し、mは、1または2を示し、nは、2または3を示す。 ・・・中略・・・ [請求項6] 化学式2の陰イオンが、トリストリフルオロメタンスルホニルメチド、ビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ビスペルフルオロブタンスルホニルイミド、ビスペンタフルオロエタンスルホニルイミド、トリストリフルオロメタンカルボニルメチド、ビスペルフルオロブタンカルボニルイミドまたはビスペンタフルオロエタンカルボニルイミドであることを特徴とする請求項1に記載の粘着剤組成物。 ・・・中略・・・ [請求項14] 偏光子と;上記偏光子の一面または両面に形成され、請求項1に記載の粘着剤組成物の硬化物を含む粘着剤層と;を備える偏光板。」) 2 引用発明 引用文献1には、請求項1を引用する請求項14に係る発明として、次の偏光板の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「偏光子と;上記偏光子の一面または両面に形成され、以下の粘着剤組成物の硬化物を含む粘着剤層と;を備える偏光板。 ここで、上記粘着剤組成物は、 粘着樹脂と;下記化学式1の陽イオンと下記化学式2の陰イオンを有し、常温で液相である塩と;を含む粘着剤組成物: [化学式1] [化学式2] [X(YO_(m)R_(f))_(n)]^(-) 上記化学式1及び2で、R_(1)?R_(4)は、それぞれ独立して水素、アルキル、アルコキシ、アルケニルまたはアルキニルを示し、Xは、窒素または炭素を示し、Yは、炭素または硫黄を示し、R_(f)は、ペルフルオロアルキル基を示し、mは、1または2を示し、nは、2または3を示す。」 3 対比 本願発明1と引用発明を対比すると、以下のとおりである。 ア 粘着剤組成物 引用発明の「粘着剤組成物」は、その文言が意味するとおり、本願発明1の「粘着剤組成物」に相当する。 また、引用発明の「粘着剤組成物」は、 「粘着樹脂と;下記化学式1の陽イオンと下記化学式2の陰イオンを有し、常温で液相である塩と;を含む粘着剤組成物: [化学式1] [化学式2] [X(YO_(m)R_(f))_(n)]^(-) 上記化学式1及び2で、R_(1)?R_(4)は、それぞれ独立して水素、アルキル、アルコキシ、アルケニルまたはアルキニルを示し、Xは、窒素または炭素を示し、Yは、炭素または硫黄を示し、R_(f)は、ペルフルオロアルキル基を示し、mは、1または2を示し、nは、2または3を示す。」である。 ここで、引用発明の「粘着樹脂」は、「樹脂」であるからポリマーに該当し、引用発明の「陽イオン」及び「陰イオン」は、その化学構造からみて、それぞれアンモニウムオニウムイオン及びフッ素含有アニオンに該当する。 さらに、引用発明の「常温で液相である塩」は、「化学式1の陽イオンと」「化学式2の陰イオンを有」することから、本願発明1の「オニウム-フッ素含有イミドアニオン塩(B)」とは、「オニウム-フッ素含有」「アニオン塩」である点で共通する。 以上総合すると、引用発明の「粘着剤組成物」と、本願発明1の「粘着剤組成物」とは、「ポリマー(A)およびオニウム-フッ素含有」「アニオン塩(B)を含有」する点で共通する。 イ 偏光子、粘着剤層 引用発明の「偏光子」及び「粘着剤層」は、その文言が意味するとおり、それぞれ本願発明1の「偏光子」及び「粘着剤層」に相当する。 また、引用発明の「粘着剤層」は、「偏光子の一面または両面に形成され」、上記「粘着剤組成物の硬化物を含む」。 そうしてみると、上記アの対比結果から、引用発明の「粘着剤層」と、本願発明1の「粘着剤層」とは、「偏光子に設けられており、かつ」「ポリマー(A)およびオニウム-フッ素含有」「アニオン塩(B)を含有する粘着剤組成物から形成されたものである」点で共通する。 ウ 粘着剤層付偏光フィルム 引用発明の「偏光板」は、「偏光子と;上記偏光子の一面または両面に形成され、」「粘着剤組成物の硬化物を含む粘着剤層と;を備える」。また、本件出願時の技術水準からみて、「偏光板」は、「偏光フィルム」を含む用語として理解することが可能であるから、引用発明の「偏光板」は、本願発明1の「偏光フィルム」に相当する。 (当合議体注:引用文献1の[77]、[78]及び[80]等の記載からも確認できる事項である。) 以上によれば、引用発明の「偏光板」と、本願発明1の「偏光フィルム」とは、「当該偏光フィルムに設けられた粘着剤層を有する粘着剤層付偏光フィルム」である点で共通する。 4 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明1と引用発明は、次の構成で一致する。 「偏光フィルムと、当該偏光フィルムに設けられた粘着剤層を有する粘着剤層付偏光フィルムであって、 前記粘着剤層は、偏光子に設けられており、かつ 前記粘着剤層は、ポリマー(A)およびオニウム-フッ素含有アニオン塩(B)を含有する粘着剤組成物から形成されたものである、 粘着剤層付偏光フィルム。」 イ 相違点 本願発明1と引用発明は、以下の点で相違する。 (相違点1) 「粘着剤層付偏光フィルム」が、本願発明1は、「偏光フィルムは、偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有し、前記粘着剤層は、前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に設けられ」たものであるのに対して、引用発明は、「透明保護フィルム」を具備するか特定されておらず、「粘着剤層」、「偏光子」及び「透明保護フィルム」の上記位置関係も特定されていない点。 (相違点2) 「粘着剤層」が、本願発明1は、「(メタ)アクリル系ポリマー(A)およびオニウム-フッ素含有イミドアニオン塩(B)を含有し、かつ、前記(メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して、前記オニウム-フッ素含有イミドアニオン塩(B)を0.1?10重量部含有する粘着剤組成物から形成されたものであ」るのに対して、引用発明は、「粘着樹脂と;」「化学式1の陽イオンと」「化学式2の陰イオンを有し、常温で液相である塩と;を含む粘着剤組成物の硬化物を含む」ものであって、「化学式1及び2で、R_(1)?R_(4)は、それぞれ独立して水素、アルキル、アルコキシ、アルケニルまたはアルキニルを示し、Xは、窒素または炭素を示し、Yは、炭素または硫黄を示し、R_(f)は、ペルフルオロアルキル基を示し、mは、1または2を示し、nは、2または3を示す。」と特定されるにとどまる点。 (当合議体注:化学式1及び化学式2の摘記は省略する。) (相違点3) 「粘着剤層付偏光フィルム」が、本願発明1は、「60℃/90%RHの恒温恒湿機に500時間投入前と投入後に測定した偏光度(%)から求められる」、「式:変化量(%)ΔP=(投入前の偏光度(%))-(投入後の偏光度(%))で表される変化量(%)ΔPが0.13以下を満足する」のに対して、引用発明は、この条件を満たすか明らかでない点。 5 判断 本件出願の明細書の記載によれば、本願発明1は、「粘着剤層付偏光フィルムとしては、偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを設け、他の片側には透明保護フィルムを設けることなく、粘着剤層を設けた粘着剤層付偏光フィルムを用いる場合がある。かかる粘着剤層付偏光フィルムは、透明保護フィルムが片側にのみあるため、両側に透明保護フィルムを有する場合に比べて、透明保護フィルム一層分のコストが削減可能であるが、粘着剤層がイオン性化合物を含有させて帯電防止機能を付与する場合には、当該粘着剤層中のイオン性化合物の偏光子への影響が大きく・・・中略・・・光学特性が大きく低下する問題がある」(【0006】)という点に着目してなされた発明であって、その効果は、「前記オニウム-フッ素含有イミドアニオン塩(B)を用いることで、偏光子の劣化を招くことなく、帯電防止機能を付与できる」(【0027】)というものと理解される。 以上によれば、相違点1は、本願発明1の「偏光フィルム」の前提構成であり、相違点2は、課題(問題)を解決するための手段であり、相違点3は、上記効果(特に,偏光子の劣化を招かないこと)に関する構成といえるから、相違点1?3は、技術的に密接に関連した事項といえる。 したがって、以下では、相違点1?3をまとめて検討する。 引用文献1には、「粘着剤層」、「偏光子」及び「透明保護フィルム」の位置関係について、「本発明の偏光板には、上記偏光子の一面または両面に透明保護フィルムが付着されてもよく、場合によっては、上記粘着剤が透明保護フィルムの一面に積層されてもよい。」([80])と記載されている。また、引用文献1の請求項6及び[52]等によれば、引用発明の「化学式2の陰イオン」は、イミド系及びメチド系のものが使用できることが記載されている。 そうしてみると、引用文献1の上記記載から、当業者は、相違点1に係る構成、すなわち、「偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有し、前記粘着剤層は、前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に設けられ」たという構成、かつ、相違点2に係る構成、すなわち、「粘着剤層」が「オニウム-フッ素含有イミドアニオン塩(B)含有し」という構成を具備する、「偏光板」を選択枝の1つとして一応把握することは可能である。 しかしながら、上述したとおり、本願発明1の「偏光板」は、[1]相違点1に係る本願発明1の「偏光フィルムは、偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有し、前記粘着剤層は、前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に設けられ」という構成を採用したことによって生じた問題を解決するために、[2]相違点2に係る本願発明1の「(メタ)アクリル系ポリマー(A)およびオニウム-フッ素含有イミドアニオン塩(B)を含有し、かつ、前記(メタ)アクリル系ポリマー(A)100重量部に対して、前記オニウム-フッ素含有イミドアニオン塩(B)を0.1?10重量部含有する粘着剤組成物から形成されたものであ」るという課題解決手段を採用することによって、[3]帯電防止機能を有しつつも、相違点3に係る本願発明1の「60℃/90%RHの恒温恒湿機に500時間投入前と投入後に測定した偏光度(%)から求められる」、「式:変化量(%)ΔP=(投入前の偏光度(%))-(投入後の偏光度(%))で表される変化量(%)ΔPが0.13以下を満足する」という発明の効果を得たものである。これに対して、引用発明は、上記[1]で述べた、発明の課題の前提となる構成を欠くものであるから、このような引用発明との関係においては、上記[3]で述べた発明の効果は、当業者が予想し得る範囲を超えるものといえる。 そして、このことは、本件出願の明細書に記載された、実施例1?20、比較例1?4及び令和2年6月25日の審判請求書10頁に記載された、参考例1及び2からも確認できる事項である。 したがって、本願発明1は、引用文献1の上記記載にかかわらず、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということはできない。 6 補足説明 引用文献1の[106]?[115]及び表1に、実施例1?4として記載された、粘着偏光板の発明を主引用発明とした場合であっても、当該粘着偏光板が、上記相違点1に係る前提構成を具備していると認めることは困難であるから、上記5と同様の理由が妥当する。 したがって、結論は変わらない。 7 請求項2?請求項17に係る発明について 本件出願の請求項2?請求項17に係る発明は、本願発明1にさらに他の構成が付加された発明である。 そうしてみると、これらの発明も、前記「5」で述べたとの同じ理由により、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということはできない。 第3 原査定の拒絶の理由について 前記「第2」で述べたとおりであるから、本件出願の請求項1?請求項17に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第4 当合議体の拒絶の理由について 当合議体が通知した拒絶の理由(上記「第1 4」の理由)は、令和3年3月29日にした手続補正により解消した。 第5 むすび 以上のとおり、本件出願の請求項1?請求項17に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 したがって、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-07-30 |
出願番号 | 特願2018-133825(P2018-133825) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 小西 隆、渡邉 勇 |
特許庁審判長 |
榎本 吉孝 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 里村 利光 |
発明の名称 | 粘着剤層付偏光フィルムおよび画像表示装置 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |