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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60K
管理番号 1376348
審判番号 不服2019-14291  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-25 
確定日 2021-07-21 
事件の表示 特願2014-174825「傾斜路面に停止した時に、車両が後退又は前進することを防止するようにハイブリッド車両を制御する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月16日出願公開、特開2015- 48073〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成26年8月29日(パリ条約による優先権主張 2013年(平成25年)8月30日(IT)イタリア共和国)の出願であって、平成30年1月31日付けで拒絶理由(発送日:同年2月6日)が通知され、平成30年5月2日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年10月25日付けで拒絶理由(発送日:同年10月30日)が通知され、平成31年1月30日に意見書及び手続補正書が提出され、令和元年6月17日付けで拒絶査定(発送日:同年6月25日)がされ、これに対し、令和元年10月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲を手続補正する手続補正書が提出され、令和2年4月23日に上申書が提出され、当審において令和2年7月6日付けで拒絶理由(発送日:同年7月7日)が通知され、令和2年12月9日に意見書及び特許請求の範囲を手続補正する手続補正書が提出されたものである。


第2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和2年12月9日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願発明は、以下のとおりである。

「駆動軸(3)を備える内燃機関(2)と、主軸(5)と、差動機(8)に接続している二次軸(7)とを備えたサーボ支援型機械歯車箱(4)と、前記サーボ支援型機械歯車箱(4)の前記主軸(5)を前記内燃機関(2)の前記駆動軸(3)に接続するサーボ支援型クラッチ(6)と、駆動輪に伝達されるべきトルク(C)を生成するのに適した、前記主軸(5)及び前記二次軸(7)の両方と接続可能な軸(17)を有する可逆式電気機械(14)と、を備えるハイブリッド車両を制御する方法であって、
前記可逆式電気機械(14)は、電気エネルギを貯蔵するように形成された、貯蔵システム(16)に接続される、方法において、
該方法は、
前記ハイブリッド車両が傾斜路面で静止している、状態の発生を認識する段階と、
前記ハイブリッド車両が前記傾斜路面上で静止状態であることを保持するように、前記駆動輪に供給されるべき、目標駆動トルク(C_(OBJ))を算出する段階と、
前記貯蔵システム(16)の充電状態を検出する段階と、
前記貯蔵システム(16)の充電状態が、前記ハイブリッド車両を前記傾斜路面上で静止状態に保持するために必要な前記目標駆動トルク(C_(OBJ))を供給するのに十分である場合においてのみ、前記ハイブリッド車両を前記傾斜路面上で静止状態に保持するために必要な前記目標駆動トルク(C_(OBJ))を、前記駆動輪に供給するように、前記可逆式電気機械(14)を制御する段階と、
前記ハイブリッド車両の前記傾斜路面上での静止状態を保持するのに必要な前記目標駆動トルク(C_(OBJ))を供給するためには、前記貯蔵システム(16)の充電状態が十分ではない、状態を、運転者に送信するので、前記傾斜路面上における前記ハイブリッド車両の所望されない後進又は前進を回避するように運転者が介入できる段階と、を具備し、
前記方法は、前記ハイブリッド車両を前記傾斜路面上で静止状態で保持するために必要な、前記目標駆動トルク(C_(OBJ))を、前記駆動輪に供給するように、前記可逆式電気機械(14)を制御する前記段階は、前記可逆式電気機械(14)が以下の式[1]に従って、前記貯蔵システム(16)から供給されるために必要な、電気エネルギを算出する段階を含んでおり、
前記以下の式[1]とは、
E_(tot)=ΔE(C_(OBJ))+E_(i) [1]
ここで、
E_(i):前記ハイブリッド車両が傾斜路面上で静止している、瞬間において、前記ハイブリッド車両の電気装置の作動のために、当該電気装置により要求される、電気エネルギ、
ΔE(C_(OBJ)):前記ハイブリッド車両が傾斜路面上で静止している、瞬間において、前記目標駆動トルク(C_(OBJ))を前記駆動輪に保証するように、前記可逆式電気機械(14)により要求される、電気エネルギ、及び
E_(tot):前記ハイブリッド車両が傾斜路面上で静止している、瞬間において、前記貯蔵システム(16)により供給される、総電気エネルギ、であり、
前記方法は、前記運転者がもはやブレーキペダルに作用せず更にアクセルペダルに作用することにより、前記駆動輪に供給されるべき、前記トルク(C)の増加を要求する場合に、前記運転者が前記ハイブリッド車両により前進する意図を認識する、別の段階を具備し、
前記可逆式電気機械(14)が、以下の式[3]に従って、トルク発生器として機能することを可能にするのに必要な電気エネルギを算出する、別の段階を具備しており、
前記以下の式[3]とは、
E=ΔE(ΔC_(m))+E_(tot) [3]
ここで、
E_(tot):前記ハイブリッド車両が傾斜路面上で静止状態している、瞬間において、前記貯蔵システム(16)により供給される、総電気エネルギ、
ΔE(ΔC_(m)):アクセルペダルに作用する、前記運転者の側における前記トルク(C)の増加の要求が検出された、瞬間において、前記駆動輪に対して追加のトルク(ΔC_(m))を保証するように、前記可逆式電気機械(14)により要求される、追加の電気エネルギ、及び
E:前記アクセルペダルに作用する、前記運転者の側における前記トルク(C)の増加の要求が検出された、瞬間において、前記貯蔵システム(16)により供給される総電気エネルギ、であり
前記方法は、
前記アクセルペダルに作用する、前記運転者の側における前記トルク(C)の増加の要求が検出された、瞬間において、前記駆動輪に対して前記追加のトルク(ΔC_(m))を保証するように、前記追加の電気エネルギΔE(ΔC_(m))の供給を、前記貯蔵システム(16)の充電状態が保証するようなものであることをチェックする、別の段階をさらに具備し、
前記ハイブリッド車両は、前記ハイブリッド車両が傾斜路面上に存在するか否かを検出するのに適する、ハイブリッド車両傾斜センサを備えており、
前記ハイブリッド車両が傾斜路面上で静止している、状態の発生を認識する前記段階は、以下の状態の同時発生を認識する段階を含んでおり、
以下の状態とは、
前記ハイブリッド車両傾斜センサは、前記ハイブリッド車両が傾斜路面上に存在することを検出すること、及び
前記運転者がブレーキペダルに作用すること、であり、
モータ回転センサが前記ハイブリッド車両傾斜センサと組み合わせて使用されることを特徴とする方法。」


第3.当審において通知した拒絶の理由2について
当審において令和2年7月6日付けで通知した拒絶の理由2の概要は以下のとおりである。
理由2.(進歩性)本願の請求項1ないし3に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記の引用文献に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

《引用文献等一覧》
1.米国特許出願公開第2009/0062061号明細書(原査定の引用文献2)
2.特開2013-148111号公報(原査定の引用文献4)
3.特開2007-252024号公報(原査定の引用文献3)


第4.当審の判断
1.引用文献の記載事項等
(1)引用文献1の記載事項及び引用発明について
当審の拒絶の理由に引用した引用文献1である米国特許出願公開第2009/0062061号明細書には、「PREVENTING ROLLBACK OF A HYBRID ELECTRIC VEHICLE(当審訳:ハイブリッド電気自動車のロールバック防止)」の発明に関して、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、()内は、当審訳であり、下線は当審にて付与した。
「[0002] This invention relates generally to a powertrain for a hybrid electric vehicle (HEV) having an engine, an electric machine and a multiple-speed, powershift transmission. In particular, the invention pertains to using the powertrain to prevent rollback of the vehicle on an incline.」
([0002] 本発明は、概して、エンジン、電気機械、および多段速パワーシフトトランスミッションを有するハイブリッド電気自動車(HEV)用のパワートレインに関する。 特に、本発明は、パワートレインを使用して、傾斜路での車両のロールバックを防止することに関する。)

「[0010] In a vehicle powertrain that includes an engine and an electric machine, a method for preventing rollback of a wheeled vehicle located on an incline includes determining a magnitude of wheel torque required to prevent the vehicle from rolling back, using the electric machine to produce the required magnitude of wheel torque at the wheels, transmitting engine torque to the wheels, and reducing torque produced by the electric machine while increasing engine torque such that the sum of wheel torque produced by the engine and electric machine is substantially equal to said required magnitude of wheel torque.」
([0010] エンジンと電気機械とを含む車両用パワートレインにおいて、傾斜地に配置された車輪付き車両のロールバックを防止する方法は、車両のロールバックを防止するために必要な車輪トルクの大きさを決定することと、車輪で必要な車輪トルクの大きさを生成するために電気機械を使用することと、車輪にエンジントルクを伝達することと、エンジンと電気機械とによって生成される車輪トルクの合計が前記必要な車輪トルクの大きさに実質的に等しくなるようにエンジントルクを増加させながら、電気機械によって生成されるトルクを減少させることとを含む。)

「[0011] An electric machine (ERAD) prevents rollback prevention of a vehicle as the driver tips into the accelerator pedal. The ERAD quickly provides torque that is transmitted to the wheels to avoid rollback. The ERAD torque is necessary to provide torque to the wheels during delays caused by engine manifold filling and the transmission engagement. If the state of charge of the battery is below a reference state of charge or ERAD temperature is greater than a thermal limit, the ERAD torque capability will be reduced which requires the engine output torque to be blended with that of the ERAD.」
([0011] ドライバーがアクセルペダルを踏み込むと、電気機械(ERAD)が車両のロールバックを防止する。ERADは、ホイールに伝達されるトルクをすばやく提供し、ロールバックを回避する。ERADのトルクは、エンジンマニホールドの充填やトランスミッションの噛み合わせによる遅延時に車輪にトルクを与えるために必要である。バッテリの充電状態が基準充電状態を下回っていたり、ERADの温度が熱的限界を超えていたりすると、ERADのトルク能力が低下し、エンジン出力トルクとERADのトルクをブレンドする必要がある。)

「[0012] Finally, ERAD torque is blended off synchronously while engine torque increases, thereby maintaining a constant wheel torque. This provides an undetected transition as the engine is used for vehicle propulsion while preventing vehicle rollback」
(最後に、エンジントルクが増加する間、ERADトルクは同期してブレンドされ、それにより一定のホイールトルクを維持する。これは、エンジンが車両の推進に使用され、車両のロールバックを防止するため、検出されない移行を提供する。)

「[0021] As shown in FIGS. 1 and 2, a vehicle powertrain 12 includes an engine 14, such as a diesel or gasoline engine; a transmission 16 , such as dual wet clutch powershift transmission or another multiple ratio transmission having no torque converter; an electric machine 18, such as an CISG driveably connected to the transmission input 20 ; and an additional electric machine 22 , such as an electric motor. Electric machine 18 provides rotating power to crank engine 14 when starting the engine and generates electric power, which is supplied directly to machine 22 , or to an electric storage battery 23 or to both of these.」
([0021] 図1および図2に示すように、車両用パワートレイン12は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどのエンジン14と、デュアルウェットクラッチ式のパワーシフトトランスミッションやトルクコンバータを持たない他の多比トランスミッションなどのトランスミッション16と、トランスミッション入力20に駆動可能に接続されたCISGなどの電気機械18と、電気モータなどの追加の電気機械22とを含む。電気機械18は、エンジン始動時にクランクエンジン14に回転動力を供給し、発電した電力を電気機械22に直接供給するか、あるいはバッテリ23に直接供給するか、あるいはこれらの両方に供給する。)

「[0022] Electric machine 22 , sometimes referred to as an electric rear axle drive unit (ERAD), is connected to the final drive of a rear axle 24 and provides propulsion capability in either an electric drive or hybrid (series/parallel) drive mode. Power output by the electric machine 22 drives vehicle wheels 26, 27 through ERAD gearing 28 and a final drive unit 30, which is in the form of an inter-wheel differential mechanism. Similarly, the transmission output 32 is driveably (mechanically) connected to vehicle wheels 34, 35 through a final drive unit 36, which includes an inter-wheel differential mechanism. In front wheel drive (FWD) applications, electric machine 22 could be driveably connected to the final drive 36 of the front axle at the output 32 of the transmission 16 , in which case it is referred to as an electric front axle drive (EFAD) unit.」
([0022] 電気機械22は、電気リアアクスル駆動装置(ERAD)と呼ばれることもあり、リアアクスル24の最終駆動部に接続され、電気駆動またはハイブリッド(直列/並列)駆動モードのいずれかで推進能力を提供する。電気機械22によって出力された動力は、ERADギヤ28および車輪間差動機構の形態の最終駆動装置30を介して、車両の車輪26,27を駆動する。同様に、変速機出力32は、車輪間差動機構を含む最終駆動装置36を介して、駆動可能に(機械的に)車両車輪34,35に接続されている。前輪駆動(FWD)アプリケーションでは、電気機械22は、トランスミッション16の出力32において前車軸の最終駆動装置36に駆動可能に接続され得るが、この場合、電動前車軸駆動(EFAD)ユニットと呼ばれる。)

「[0023] FIG. 2 illustrates the input clutches 40 , 41, which selective connect the input shaft 20 of transmission 16 alternately to the even-numbered gears 42 and odd-numbered gears 43 ; an electronic transmission control module (TCM) 44 , which controls the input clutches and gearbox state through command signals to servos or solenoids that actuate the input clutches and gearbox shift forks/synchronizers; an electronic engine control module(ECM) 46 , which controls operation of engine 14 ; and an ISC 48 , which controls the CISG and ERAD operations. A vehicle control system (VCS), which is not shown, issues control commands to the TCM and ECM. Each of the VCS, TCM and ECM includes a microprocessor accessible to electronic memory and containing control algorithms expressed in computer code, which are executed repeatedly at frequent intervals. Data communication among the control modules, ECM 46 , VSC,TCM 44 and ISC 48 is carried on a communications bus 47 .」
([0023] 図2は、トランスミッション16の入力軸20を偶数ギア42と奇数ギア43に交互に選択的に接続する入力クラッチ40,41、入力クラッチおよびギアボックスシフトフォーク/シンクロナイザを作動させるサーボまたはソレノイドへの指令信号を介して入力クラッチおよびギアボックスの状態を制御する電子トランスミッション制御モジュール(TCM)44、エンジン14の動作を制御する電子エンジン制御モジュール(ECM)46、およびCISGおよびERADの動作を制御するISC48を示したものである。車両制御システム(VCS)(図示せず)は、TCMおよびECMに制御コマンドを発行する。VCS、TCMおよびECMの各々は、電子メモリにアクセス可能なマイクロプロセッサを含み、コンピュータコードで表現された制御アルゴリズムを含み、頻繁な間隔で繰り返し実行される。制御モジュール、ECM46、VSC、TCM44、およびISC48間のデータ通信は、通信バス47上で行われる。)

「[0024] Powertrain 12 includes two power paths to the load, a mechanical path and an electrical path. Power produced by engine 14 is transmitted through transmission 16 and final drive 36 in the mechanical power path to wheels 34, 35. Power produced by ERAD 22 is transmitted through ERAD gearing 28 and final drive 30 in the electrical propulsion path to wheels 26 ,27 .」
([0024] パワートレイン12は、負荷への2つの動力経路、機械的経路と電気的経路を含む。エンジン14によって生成された動力は、トランスミッション16および最終駆動部36を介して車輪34,35への機械的動力経路で伝達される。ERAD22によって生成された電力は、車輪26 , 27への電気的な推進経路において、ERADギア28および最終ドライブ30を介して伝達される。)

「[0025] FIG. 3 illustrates the steps of control algorithm for preventing vehicle rollback. As shown in FIGS. 5A-5C, the hill hold control strategy uses ERAD 22 to provide torque to accelerate the vehicle on a hill in order to prevent rollback during a period required before the engine produces output torque and the transmission transmits engine output torque to the wheels. When a tip-in occurs, the ERAD can quickly provide torque to the wheels and accelerate the vehicle to avoid rollback because the ERAD produces output torque quickly.」
([0025] 図3は、車両のロールバックを防止するための制御アルゴリズムのステップを示す。図5Aないし5Cに示すように、ヒルホールド制御戦略は、エンジンが出力トルクを生成し、トランスミッションがエンジントルクを車輪に伝達する前に必要な期間の間、ロールバックを防止するために、丘の上で車両を加速するためにトルクを提供するためにERAD22を使用する。ティップインが発生した場合には、ERADが迅速に出力トルクを発生させるため、ERADが迅速に車輪にトルクを供給して車両を加速させ、ロールバックを回避することができる。)

「[0026] The control algorithm is called for execution by the controller at step 48 when signals produced by sensors indicate that the vehicle is stopped on an incline. As FIG. 4 shows, the vehicle operator's demand for wheel torque is represented by the degree to which the engine accelerator pedal 50 is depressed, which depression is usually referred to as accelerator pedal position, pps. An electronic signal representing the accelerator pedal position produced by a pps sensor and an electronic signal representing the current vehicle speed (VS) 52 produced by a shaft speed sensor, are received as input by a driver demand determination function 54 ,accessible in electronic memory, the function being indexed by the two input variables VS and pps and producing as its output the current desired wheel torque T_(W_DES).」
([0026] 制御アルゴリズムは、センサによって生成された信号が、車両が傾斜して停止していることを示すときに、ステップ48でコントローラによって実行のために呼び出される。図4に示すように、車輪トルクに対する車両オペレータの要求は、エンジンのアクセルペダル50がどの程度踏み込まれているかによって表され、この踏み込みは、通常、アクセルペダル位置ppsと呼ばれる。ppsセンサによって生成されたアクセルペダル位置を表す電子信号と、軸速センサによって生成された現在の車速(VS)52を表す電子信号は、電子メモリにアクセス可能な運転者要求決定機能54によって入力として受信され、この機能は、2つの入力変数VSおよびppsによってインデックス化され、その出力として現在の所望のホイールトルクT_(W_DES)を生成する。)

「[0027] At step 56 , a test is made to determine whether the accelerator pedal position is greater than zero or a reference pedal position. If the result of test 56 is logically true, control passes to step 58. If the result of test 56 is false, control returns to 48.」
([0027] ステップ56では、アクセルペダル位置がゼロより大きいか、基準ペダル位置であるかを判定するためのテストが行われる。テスト56の結果が論理的に真であれば、制御はステップ58に進む。テスト56の結果が偽の場合、制御は48に戻る。)

「[0028] At step 58, a test is made to determine whether the battery's state of charge (SOC) is greater than a reference SOC. If the result of test 58 is true, control passes to 60, where a test is made to determine whether the temperature of ERAD 22 is greater than a reference temperature. If the result of test 60 is false, control passes to step 62 ,where ERAD 22 produces torque, which is transmitted to the wheels to control rollback of the vehicle on the incline.」
([0028] ステップ58では、バッテリの充電状態(SOC)が基準SOCより大きいかどうかを判定するためのテストが行われる。テスト58の結果が真であれば、制御はステップ60に進み、ここではERAD 22の温度が基準温度よりも大きいかどうかを判断するためのテストが行われる。テスト60の結果が偽の場合、制御はステップ62に進み、ここでERAD22はトルクを発生させ、それは傾斜地での車両のロールバックを制御するために車輪に伝達される。)

「[0029] Provided the accelerator pedal is depressed, the battery's SOC is above the reference SOC, and the ERAD temperature is below the reference temperature, ERAD 22 and the electric power path are used at step 62 to drive the wheel load and control vehicle rollback. If the result of test 58 is false and test 60 is true, ERAD is not currently available to provide torque to the wheels and prevent rollback. Next, control advances to step 64 ,where the appropriate input clutch of transmission 16 associated with the current gear command(the subject clutch 40 , 41 ) is commanded to stroked pressure in preparation for engagement. Steps 64 through 72 apply to conventional vehicles as well as hybrid vehicles.」
([0029] アクセルペダルが踏み込まれ、バッテリのSOCが基準SOC以上であり、ERAD温度が基準温度以下であることを条件に、ステップ62でERAD22及び電力経路が使用されて、車輪負荷を駆動し、車両のロールバックを制御する。テスト58の結果が偽であり、テスト60の結果が真である場合、ERADは車輪にトルクを供給し、ロールバックを防止するために現在利用可能ではない。次に、制御はステップ64に進み、ここで、現在のギア指令に関連付けられたトランスミッション16の適切な入力クラッチ(対象クラッチ40,41)が、係合に備えてストローク圧に指令される。ステップ64ないし72は、ハイブリッド車両と同様に、従来の車両にも適用される。)

「[0030] At step 66 a test is made to determine whether engine 14 is currently producing the demanded wheel torque. If the result of test 66 is true, a check is made at step 68 to determine whether the selected gear is engaged and the subject clutch 40, 41 of transmission 16 is prepared for engagement. If the result of either of tests 66, 68 is false, control returns to step 58.」
([0030] ステップ66では、エンジン14が現在要求されたホイールトルクを生産しているかどうかを判定するためのテストが行われる。テスト66の結果が真であれば、ステップ68で、選択されたギアが係合しているかどうかをチェックし、変速機16の対象クラッチ40,41が係合するように準備されているかどうかを判断する。テスト66,68のいずれかの結果が偽の場合、制御はステップ58に戻る。)

「[0031] If the result of tests 66 and 68 is true, the subject input clutch 40, 41 is engaged at step 70, engine torque is increased such the wheel torque reaches the demanded wheel torque at step 72, and ERAD torque is decreased at step 74 along a descending ramp concurrently with the increase in engine torque, as shown in FIG. 5B.」
([0031] テスト66および68の結果が真であれば、図5Bに示すように、対象の入力クラッチ40,41はステップ70で係合され、エンジントルクはステップ72で車輪トルクが要求された車輪トルクに達するように増加され、ERADトルクはステップ74でエンジントルクの増加と並行して下降ランプに沿って減少される。)

「[0032] FIGS. 5A-5C, represent the variation of various vehicle and powertrain variables during a period when vehicle rollback is controlled with the HEV stopped on an incline, having a positive slope, in response to tip-in and while the wheel brakes are released.」
([0032] 図5Aないし5Cは、HEVを正の勾配を有する傾斜路上に停止させた状態で、ティップインに応答して、車輪ブレーキを解除している間、車両のロールバックを制御している期間中の、車両およびパワートレインの様々な変数の変化を示す図である。)

「[0033] As FIGS. 5A and 5C show, the accelerator pedal position 80 increases following a period 76 , during which torque produced by ERAD 22 and transmitted to wheels 26 , 27 is used to hold the HEV on the incline, the accelerator pedal 50 is off (not pressed), and vehicle speed 78 is zero. The accelerator pedal position 80 increases as the operator demands wheel torque to move the vehicle forward on the incline. Accelerator pedal position 80 later decreases slightly and remains steady while the vehicle speed 78 increases steadily.」
([0033] 図5Aおよび5Cに示すように、アクセルペダル位置80は、ERAD22によって生成され、車輪26,27に伝達されるトルクが、傾斜上のHEVを保持するために使用され、アクセルペダル50はオフ(押されていない)であり、車速78はゼロである、期間76に続いて増加する。アクセルペダル位置80は、オペレータが車両を傾斜面上で前進させるために車輪トルクを要求すると増加する。アクセルペダル位置80は、後にわずかに減少し、車速78が着実に増加する間、安定した状態を維持する。)

「[0034] In FIG. 5B, following period 76, ERAD torque 82 increases rapidly in response to the increase in accelerator pedal position 80, reaches a peak, and is ramped off synchronously with the increases in engine torque and transmission output torque, thereby maintaining wheel torque without transient impulses. This provides an undetected transition as the engine is used for vehicle propulsion while preventing vehicle rollback. Engine torque 84 is at engine idle setpoint during period 76 before the rollback prevention control begins at 88 , remains low during a delay period 90 while the intake manifold and engine cylinders are filled with a combustible air-fuel mixture as a result of the tip-in, and increases rapidly after the engine is charged. Transmission output torque 92 is low during period 76, remains constant during a delay period 94 while the torque capacity of the subject input clutch 40, 41 increases, and increases rapidly with engine torque. Wheel torque increases from holding level during period 76 to the new driver demanded level when accelerator pedal 50 is depressed at the beginning of the rollback prevention control 88 .」
([0034] 図5Bにおいて、期間76に続いて、ERADトルク82は、アクセルペダル位置80の増加に応答して急速に増加し、ピークに達し、エンジントルクおよびトランスミッション出力トルクの増加に同期してランプオフされ、それにより、過渡的なインパルスなしに車輪トルクを維持する。これは、車両のロールバックを防止しながら、エンジンが車両の推進に使用されるように検出されない移行を提供する。エンジントルク84は、ロールバック防止制御が88で開始される前の期間76の間、エンジンアイドル設定点にあり、インテークマニホールドおよびエンジンシリンダがチップインの結果として可燃性の空燃混合物で満たされる間、遅延期間90の間、低いままであり、エンジンが充填された後、急速に増加する。変速機出力トルク92は、期間76の間は低く、対象入力クラッチ40,41のトルク容量が増加している間、遅延期間94の間は一定に保たれ、エンジントルクの増加に伴って急激に増加する。ホイールトルクは、ロールバック防止制御88の開始時にアクセルペダル50が踏み込まれると、期間76の間の保持レベルから新たな運転者要求レベルまで増加する。)

「[0035] FIGS. 6A-6C shows the variation of powertrain parameters with the HEV under vehicle rollback control in response to the vehicle operator releasing a wheel brake pedal. As FIGS. 6A and 6C show, the wheel brake pedal position or brake pressure 96 decreases rapidly to zero after being released, the operator tips-in to the accelerator pedal at 98 , and vehicle speed 100 increases steadily thereafter.」
([0035] 図6A-6Cは、車両オペレータがホイールブレーキペダルを解放することに応答して、車両ロールバック制御下にあるHEVのパワートレインパラメータの変化を示す。図6Aおよび図6Cに示すように、ホイールブレーキペダルの位置またはブレーキ圧96は、解放後に急速にゼロに減少し、オペレータはアクセルペダル98で踏み込み、その後、車速100は着実に増加する。)

「[0036] In FIG. 6B, following the beginning of rollback control at 98 , ERAD torque 102 increases rapidly in response to the increase driver demanded torque as indicated by the increase in accelerator pedal position, reaches a peak, and decreases to zero while engine torque 104 increases. Engine torque 104 is at engine idle level before the rollback prevention control begins at 98 , remains low during a delay period 106 while the intake manifold and engine cylinders are filled with a combustible air-fuel mixture, and increases rapidly after the engine is charged. Transmission output torque 108 is low initially, remains constant during a delay period 110 while the torque capacity of the subject input clutch 40, 41 increases, and increases rapidly with engine torque. Wheel torque 112 increases rapidly when accelerator pedal 50 is depressed at the beginning of the hill-hold control 98.」
([0036] 図6Bでは、98でのロールバック防止制御の開始に続いて、ERADトルク102は、アクセルペダル位置の増加によって示される運転者要求トルクの増加に応答して急速に増加し、ピークに達し、エンジントルク104が増加する間にゼロまで減少する。エンジントルク104は、ロールバック防止制御98でロールバック防止制御が開始される前のエンジンアイドルレベルにあり、インテークマニホールドおよびエンジンシリンダが可燃性の空燃混合気で満たされている間の遅延期間106の間は低いままであり、エンジンが充填された後に急速に増加する。変速機出力トルク108は、最初は低く、対象入力クラッチ40,41のトルク容量が増加する間、遅延期間110の間一定に維持され、エンジントルクとともに急速に増加する。車輪トルク112は、ヒルホールド制御98の開始時にアクセルペダル50が踏み込まれると急激に増加する。)

上記記載事項を踏まえると、引用文献1には、「傾斜路での車両のロールバックを防止する」ことを課題とした(上記[0002]及び[0010]を参照。)、次の、引用発明及び引用文献1記載事項が記載されているといえる。
《引用発明》
「ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどのエンジン14と、デュアルウェットクラッチ式のパワーシフトトランスミッションやトルクコンバータを持たない他の多比トランスミッションなどのトランスミッション16と、トランスミッション入力20に駆動可能に接続されたCISGなどの電気機械18と、電気リアアクスル駆動装置22(ERAD22)とを含む、ハイブリッド電気自動車(HEV)を制御する方法であって、
前記電気機械18は、エンジン始動時に前記エンジン14に回転動力を供給し、発電した電力を前記電気機械22に直接供給するか、あるいはバッテリ23に直接供給するか、あるいはこれらの両方に供給し、
センサによって生成された信号が、車両が傾斜して停止していることを示すときに、
アクセルペダル50はオフ(押されていない)であり、車速78はゼロである、期間76において、ERAD22によって生成され、車輪26,27に伝達されるトルクが、傾斜上のHEVを保持するために使用され、
期間76に続いて、アクセルペダルが踏み込まれ、バッテリ23の充電状態(SOC)が基準SOC以上であり、ERAD温度が基準温度以下であることを条件に、ERAD22及び電力経路が使用され、ERADトルク82は、アクセルペダル位置80の増加に応答して急速に増加し、ピークに達し、エンジントルクおよびトランスミッション出力トルクの増加に同期してランプオフされることで、車輪負荷を駆動し、車両のロールバックを制御する、方法。」

《引用文献1記載事項》
「前輪駆動(FWD)アプリケーションでは、電気機械22は、トランスミッション16の出力32において前車軸の最終駆動装置36に駆動可能に接続され得る」こと

(2)引用文献2の記載事項
当審の拒絶の理由に引用した引用文献2である特開2013-148111号公報には、「車両の変速機制御装置」の発明に関して、図面と共に以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と駆動輪との間の動力伝達経路中に変速機が設けられた車両の変速機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関とモータ・ジェネレータとが動力源として搭載され、内燃機関の出力軸にクラッチを介して変速機が接続されるとともにモータ・ジェネレータがその変速機の入力軸と動力伝達可能なように接続されたハイブリッド車両が知られている。このような車両に適用される制御装置として、車両が停止している場合に変速機を入力軸と出力軸との間の動力伝達が遮断されるニュートラル状態にし、内燃機関でモータ・ジェネレータを駆動して発電を行う装置が知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。」
「【0012】
図1は、本発明の一形態に係る変速機制御装置が組み込まれた車両を概略的に示している。この車両1は、走行用動力源として内燃機関(以下、エンジンと称することがある。)2及びモータ・ジェネレータ(以下、MGと略称することがある。)3を備えている。すなわち、この車両1はハイブリッド車両として構成されている。エンジン2は、周知の火花点火式内燃機関である。MG3は、ハイブリッド車両に搭載されて電動機及び発電機として機能する周知のものである。MG3は、ロータ軸3aと一体回転するロータ3bと、ロータ3bの外周に同軸に配置されて不図示のケースに固定されたステータ3cとを備えている。MG3は、バッテリ4と電気的に接続されている。車両1には前進5速の変速機10が搭載され、エンジン2及びMG3は変速機10と接続されている。また、変速機10には、車両1の駆動輪5に動力を出力するための出力部6も接続されている。出力部6は、出力ギア7と、駆動輪5に連結されたデファレンシャル機構8とを備えている。出力ギア7は、変速機10の出力軸12に一体回転するように取り付けられている。また、出力ギア7は、デファレンシャル機構8のケースに設けられたリングギア8aと噛み合っている。デファレンシャル機構8は、伝達された動力を左右の駆動輪5に分配する周知のものである。
【0013】
変速機10は、入力軸11と、出力軸12とを備えている。・・・」
「【0023】
図1に示すように入力軸11には、クラッチ手段としてのクラッチ37を介して内燃機関2の出力軸2aが接続されている。クラッチ37は、内燃機関2と入力軸11との間で動力が伝達される係合状態と、その動力伝達が遮断される解放状態とに切り替え可能な周知のものである。また、入力軸11にはMG3のロータ軸3aも一体に回転するように連結されている。
【0024】
エンジン2、MG3、変速機10及びクラッチ37の動作は、制御装置40にて制御される。制御装置40は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータユニットとして構成されている。制御装置40は、車両1を適切に走行させるための各種制御プログラムを保持している。制御装置40は、これらのプログラムを実行することによりエンジン2、MG3等の制御対象に対する制御を行っている。・・・」
「【0026】
さらに制御装置40は、シフトレバー44がドライブレンジにあっても車両1の停止中にバッテリ4の充電が必要と判断した場合には変速機10を入力軸11と出力軸12との間の動力伝達が遮断される動力伝達遮断状態に切り替えるとともにMG3を発電機として機能させる。そして、エンジン2でMG3を駆動して発電を行い、バッテリ4の充電を行う。そのため、MG3が本発明の発電機に相当する。・・・」
「【図1】


上記記載事項を踏まえると、引用文献2には、ハイブリッド車両に関して、以下に示す引用文献2記載事項が記載されているといえる。
《引用文献2記載事項》
「出力軸2aを備える内燃機関2と、入力軸11と、デファレンシャル機構8に接続している出力軸12とを備えた変速機10と、前記入力軸11を前記内燃機関2の前記駆動軸2aに接続する動作が制御装置40により制御されるクラッチ37と、前記入力軸11及び前記出力軸12の両方と接続可能なロータ軸3aを有するモータ・ジェネレータ(MG)3と、を備えるハイブリッド車両であって、前記モータ・ジェネレータ(MG)3は、バッテリ4と電気的に接続されていること」

(3)引用文献3の記載事項
当審の拒絶の理由に引用した引用文献3である特開2007-252024号公報には、「車両の制御装置」の発明に関して、図面と共に以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両等のような駆動源としての回転電機を有する車両の制御装置に関し、特に登坂時における回転電機の制御に関する。」
「【0034】
そして、ステップS2において、「回転電機MG2のトルクの方向と回転方向とが異なる(逆となる)状態となっている」、すなわち「回転電機MG2は回生状態である」とHV-ECU60が判定した場合には、HV-ECU60は、回転電機MG2に対するモータトルク指令値を0[Nm]と決定して出力する。そして、MG-ECU80は、0[Nm]というHV-ECU60からのモータトルク指令値に基づいて回転電機MG2を制御する(ステップS3)。これにより回転電機MG2は回生状態とはならず、回転電機MG2から回生電力が発生しなくなる。
【0035】
またこのとき、運転者はブレーキペダルを踏込んで車両1を停止状態にする必要がある。そこで、例えば車両1にインジケーターや警告灯等の警告手段(図示せず)を介して、車両1を一旦停止させ、再度アクセルペダルの操作(坂道発進の再度実施)を行うよう、警告を促す(ステップS4)。この警告は、HV-ECU60が0[Nm]というモータトルク指令値を出力する際に、合わせて警告手段に対して制御を行うことで実行される。こうして警告手段を介して上記のような警告を促されると、運転者は車両1を一旦停止させ、坂道発進を再度実施することとなる。」
上記記載事項を踏まえると、引用文献3には、ハイブリッド車両に関して、以下に示す引用文献3記載事項が記載されているといえる。
《引用文献3記載事項》
「ハイブリッド車両等のような駆動源としての回転電機を有する車両の登坂時における回転電機の制御に関し、回転電機のトルクの方向と回転方向とが異なる(逆となる)状態となっている際に、インジケーターや警告灯等の警告手段を介して、運転者に、ブレーキペダルを踏込んで車両を一旦停止させ、再度アクセルペダルの操作(坂道発進の再度実施)を行うよう、警告を促すこと」

2.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどのエンジン14」、「デュアルウェットクラッチ式のパワーシフトトランスミッションやトルクコンバータを持たない他の多比トランスミッションなどのトランスミッション16」、「CISGなどの電気機械18と、電気リアアクスル駆動装置22(ERAD22)」は、おのおの本願発明1の「内燃機関(2)」、「サーボ支援型機械歯車箱(4)」、「可逆式電気機械(14)」に対応するところ、
引用発明の「ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどのエンジン14と、デュアルウェットクラッチ式のパワーシフトトランスミッションやトルクコンバータを持たない他の多比トランスミッションなどのトランスミッション16と、トランスミッション入力20に駆動可能に接続されたCISGなどの電気機械18と、電気リアアクスル駆動装置22(ERAD22)とを含む、ハイブリッド電気自動車(HEV)」と、
本願発明の「駆動軸(3)を備える内燃機関(2)と、主軸(5)と、差動機(8)に接続している二次軸(7)とを備えたサーボ支援型機械歯車箱(4)と、前記サーボ支援型機械歯車箱(4)の前記主軸(5)を前記内燃機関(2)の前記駆動軸(3)に接続するサーボ支援型クラッチ(6)と、駆動輪に伝達されるべきトルク(C)を生成するのに適した、前記主軸(5)及び前記二次軸(7)の両方と接続可能な軸(17)を有する可逆式電気機械(14)と、を備えるハイブリッド車両」とは、
「内燃機関と、サーボ支援型機械歯車箱と、可逆式電気機械と、を備えるハイブリッド車両」という限りにおいて一致する。

また、引用発明の「センサによって生成された信号が、車両が傾斜して停止していることを示すときに」は、本願発明の「前記ハイブリッド車両が傾斜路面で静止している、状態の発生を認識する段階」に相当する。

さらに、引用発明において、「ERAD22によって生成され、車輪26,27に伝達されるトルク」は、「傾斜上のHEVを保持するために使用され」るものであるところ、引用発明が、前記「車輪26,27に伝達される」べき目標トルクを予め算出する段階を備えていることが明らかであることを踏まえると、
引用発明の「アクセルペダル50はオフ(押されていない)であり、車速78はゼロである、期間76において、ERAD22によって生成され、車輪26,27に伝達されるトルクが、傾斜上のHEVを保持するために使用され」は、
本願発明の「前記ハイブリッド車両が前記傾斜路面上で静止状態であることを保持するように、前記駆動輪に供給されるべき、目標駆動トルク(C_(OBJ))を算出する段階」に相当するといえる。

そして、引用発明の「バッテリ23」は、本願発明の「貯蔵システム(16)」に対応するところ、
引用発明の「期間76に続いて、アクセルペダルが踏み込まれ、バッテリ23の充電状態(SOC)が基準SOC以上であり、ERAD温度が基準温度以下であることを条件に、ERAD22及び電力経路が使用され、ERADトルク82は、アクセルペダル位置80の増加に応答して急速に増加し、ピークに達し、エンジントルクおよびトランスミッション出力トルクの増加に同期してランプオフされることで、車輪負荷を駆動し、車両のロールバックを制御する」と、
本願発明の「前記可逆式電気機械(14)が、以下の式[3]に従って、トルク発生器として機能することを可能にするのに必要な電気エネルギを算出する、別の段階を具備しており、
前記以下の式[3]とは、
E=ΔE(ΔC_(m))+E_(tot) [3]
ここで、
E_(tot):前記ハイブリッド車両が傾斜路面上で静止状態している、瞬間において、貯蔵システム(16)により供給される、総電気エネルギ、
ΔE(ΔC_(m)):アクセルペダルに作用する、前記運転者の側における前記トルク(C)の増加の要求が検出された、瞬間において、前記駆動輪に対して追加のトルク(ΔC_(m))を保証するように、前記可逆式電気機械(14)により要求される、追加の電気エネルギ、及び
E:前記アクセルペダルに作用する、前記運転者の側における前記トルク(C)の増加の要求が検出された、瞬間において、貯蔵システム(16)により供給される総電気エネルギ、であり
前記方法は、
前記アクセルペダルに作用する、前記運転者の側における前記トルク(C)の増加の要求が検出された、瞬間において、前記駆動輪に対して前記追加のトルク(ΔC_(m))を保証するように、前記追加の電気エネルギΔE(ΔC_(m))の供給を、前記貯蔵システム(16)の充電状態が保証するようなものであることをチェックする、別の段階をさらに具備している」とは、
「アクセルペダルに作用する、運転者の側におけるトルクの増加の要求が検出された、瞬間において、前記駆動輪に対して追加のトルクを保証するように、必要な電気エネルギの供給を、前記貯蔵システムの充電状態が保証するようなものであることをチェックする、別の段階をさらに具備している」という限りにおいて一致する。

してみると、本願発明と引用発明1との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
内燃機関と、サーボ支援型機械歯車箱と、可逆式電気機械と、を備えるハイブリッド車両を制御する方法であって、
前記ハイブリッド車両が傾斜路面で静止している、状態の発生を認識する段階と、
前記ハイブリッド車両が前記傾斜路面上で静止状態であることを保持するように、前記駆動輪に供給されるべき、目標駆動トルクを算出する段階と、
アクセルペダルに作用する、運転者の側におけるトルクの増加の要求が検出された、瞬間において、前記駆動輪に対して追加のトルクを保証するように、必要な電気エネルギの供給を、前記貯蔵システムの充電状態が保証するようなものであることをチェックする、別の段階をさらに具備している、方法。

《相違点1》
前提となるハイブリッド車両が、本願発明では「駆動軸(3)を備える内燃機関(2)と、主軸(5)と、差動機(8)に接続している二次軸(7)とを備えたサーボ支援型機械歯車箱(4)と、前記サーボ支援型機械歯車箱(4)の前記主軸(5)を前記内燃機関(2)の前記駆動軸(3)に接続するサーボ支援型クラッチ(6)と、駆動輪に伝達されるべきトルク(C)を生成するのに適した、前記主軸(5)及び前記二次軸(7)の両方と接続可能な軸(17)を有する可逆式電気機械(14)と、を備えるハイブリッド車両」であって、「前記可逆式電気機械(14)は、電気エネルギを貯蔵するように形成された、貯蔵システム(16)に接続される」ものであるのに対し、引用発明では「ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどのエンジン14と、デュアルウェットクラッチ式のパワーシフトトランスミッションやトルクコンバータを持たない他の多比トランスミッションなどのトランスミッション16と、トランスミッション入力20に駆動可能に接続されたCISGなどの電気機械18と、電気リアアクスル駆動装置22(ERAD22)とを含む、ハイブリッド電気自動車(HEV)」であって、「前記電気機械18は、エンジン始動時に前記エンジン14に回転動力を供給し、発電した電力を前記電気機械22に直接供給するか、あるいはバッテリ23に直接供給するか、あるいはこれらの両方に供給」するものである点。

《相違点2》
本願発明は「前記貯蔵システム(16)の充電状態を検出する段階と、
前記貯蔵システム(16)の充電状態が、前記ハイブリッド車両を前記傾斜路面上で静止状態に保持するために必要な前記目標駆動トルク(C_(OBJ))を供給するのに十分である場合においてのみ、前記ハイブリッド車両を前記傾斜路面上で静止状態に保持するために必要な前記目標駆動トルク(C_(OBJ))を、前記駆動輪に供給するように、前記可逆式電気機械(14)を制御する段階と、
前記ハイブリッド車両の前記傾斜路面上での静止状態を保持するのに必要な前記目標駆動トルク(C_(OBJ))を供給するためには、前記貯蔵システム(16)の充電状態が十分ではない、状態を、運転者に送信するので、前記傾斜路面上における前記ハイブリッド車両の所望されない後進又は前進を回避するように運転者が介入できる段階と、を具備し、
前記方法は、前記ハイブリッド車両を前記傾斜路面上で静止状態で保持するために必要な、前記目標駆動トルク(C_(OBJ))を、前記駆動輪に供給するように、前記可逆式電気機械(14)を制御する前記段階は、前記可逆式電気機械(14)が以下の式[1]に従って、前記貯蔵システム(16)から供給されるために必要な、電気エネルギを算出する段階を含んでおり、
前記以下の式[1]とは、
E_(tot)=ΔE(C_(OBJ))+E_(i) [1]
ここで、
E_(i):前記ハイブリッド車両が傾斜路面上で静止している、瞬間において、前記ハイブリッド車両の電気装置の作動のために、当該電気装置により要求される、電気エネルギ、
ΔE(C_(OBJ)):前記ハイブリッド車両が傾斜路面上で静止している、瞬間において、前記目標駆動トルク(C_(OBJ))を前記駆動輪に保証するように、前記可逆式電気機械(14)により供給される、電気エネルギ、及び
E_(tot):前記ハイブリッド車両が傾斜路面上で静止している、瞬間において、貯蔵システム(16)により供給される、総電気エネルギ」であるのに対し、
引用発明は、バッテリ23の充電状態について、「アクセルペダルが踏み込まれ、バッテリ23の充電状態(SOC)が基準SOC以上」であることを確認するものではあるが、本願発明のような上記段階を具備していない点。

《相違点3》
「アクセルペダルに作用する、運転者の側におけるトルクの増加の要求が検出された、瞬間において、前記駆動輪に対して追加のトルクを保証するように、必要な電気エネルギの供給を、前記貯蔵システムの充電状態が保証するようなものであることをチェックする、別の段階」が、本願発明では「前記可逆式電気機械(14)が、以下の式[3]に従って、トルク発生器として機能することを可能にするのに必要な電気エネルギを算出する、別の段階を具備しており、
前記以下の式[3]とは、
E=ΔE(ΔC_(m))+E_(tot) [3]
ここで、
E_(tot):前記ハイブリッド車両が傾斜路面上で静止状態している、瞬間において、貯蔵システム(16)により供給される、総電気エネルギ、
ΔE(ΔC_(m)):アクセルペダルに作用する、前記運転者の側における前記トルク(C)の増加の要求が検出された、瞬間において、前記駆動輪に対して追加のトルク(ΔC_(m))を保証するように、前記可逆式電気機械(14)により要求される、追加の電気エネルギ、及び
E:前記アクセルペダルに作用する、前記運転者の側における前記トルク(C)の増加の要求が検出された、瞬間において、貯蔵システム(16)により供給される総電気エネルギ、であり
前記方法は、
前記アクセルペダルに作用する、前記運転者の側における前記トルク(C)の増加の要求が検出された、瞬間において、前記駆動輪に対して前記追加のトルク(ΔC_(m))を保証するように、前記追加の電気エネルギΔE(ΔC_(m))の供給を、前記貯蔵システム(16)の充電状態が保証するようなものであることをチェックする」段階であるのに対し、引用発明では「期間76に続いて、アクセルペダルが踏み込まれ、バッテリ23の充電状態(SOC)が基準SOC以上であり、ERAD温度が基準温度以下であることを条件に、ERAD22及び電力経路が使用され、ERADトルク82は、アクセルペダル位置80の増加に応答して急速に増加し、ピークに達し、エンジントルクおよびトランスミッション出力トルクの増加に同期してランプオフされることで、車輪負荷を駆動し、車両のロールバックを制御する」段階である点。

《相違点4》
ハイブリッド車両が傾斜路面で静止している、状態の発生を認識する段階に関連して、本願発明は「前記ハイブリッド車両は、前記ハイブリッド車両が傾斜路面上に存在するか否かを検出するのに適する、ハイブリッド車両傾斜センサを備えており、
前記ハイブリッド車両が傾斜路面上で静止している、状態の発生を認識する前記段階は、以下の状態の同時発生を認識する段階を含んでおり、
以下の状態とは、
前記ハイブリッド車両傾斜センサは、前記ハイブリッド車両が傾斜路面上に存在することを検出すること、及び
前記運転者がブレーキペダルに作用すること、であり、
モータ回転センサが前記ハイブリッド車両傾斜センサと組み合わせて使用されること」であるのに対し、引用発明は「センサによって生成された信号が、車両が傾斜して停止していることを示すとき」に車両のロールバックを制御する方法ではあるものの、車両が傾斜して停止していることを示す信号を生成するセンサの種類、センサの組み合わせての使用及びブレーキペダルに関する規定がない点。

3.相違点の判断
(1)《相違点1》について
引用文献2には、上記1.(2)で示したとおり、次の引用文献2記載事項が記載されているところ、当該引用文献2記載事項は、引用発明及び本願発明と同様に、ハイブリッド車両に関する事項である。
《引用文献2記載事項》
「出力軸2aを備える内燃機関2と、入力軸11と、デファレンシャル機構8に接続している出力軸12とを備えた変速機10と、前記入力軸11を前記内燃機関2の前記駆動軸2aに接続する動作が制御装置40により制御されるクラッチ37と、前記入力軸11及び前記出力軸12の両方と接続可能なロータ軸3aを有するモータ・ジェネレータ(MG)3と、を備えるハイブリッド車両であって、前記モータ・ジェネレータ(MG)3は、バッテリ4と電気的に接続されていること」
ここで、本願発明と引用文献2記載事項とを対比すると、引用文献2記載事項の「出力軸2a」、「内燃機関2」、「入力軸11」、「デファレンシャル機構8」、「出力軸12」、「クラッチ37」、「変速機10」、「ロータ軸3a」、「モータ・ジェネレータ(MG)3」、「バッテリ4」は、おのおの、本願発明の「駆動軸(3)」、「内燃機関(2)」、「主軸(5)」、「差動機(8)」、「二次軸(7)」、「サーボ支援型クラッチ(6)」、「サーボ支援型機械歯車箱(4)」、「前記主軸(5)及び前記二次軸(7)の両方と接続可能な軸(17)」、「可逆式電気機械(14)」、「貯蔵システム(16)」に対応する。
ここで、引用発明に関して、引用文献1には、引用文献1記載事項、すなわち、「前輪駆動(FWD)アプリケーションでは、電気機械22は、トランスミッション16の出力32において前車軸の最終駆動装置36に駆動可能に接続され得る」ことが記載されており、引用発明において、電気リアアクスル駆動装置22(ERAD22)である「電気機械22」を、トランスミッション16の出力32において前車軸の最終駆動装置36に駆動可能に接続するように変更することが示唆されているといえる。
してみると、引用発明における、「ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどのエンジン14と、デュアルウェットクラッチ式のパワーシフトトランスミッションやトルクコンバータを持たない他の多比トランスミッションなどのトランスミッション16と、トランスミッション入力20に駆動可能に接続されたCISGなどの電気機械18と、電気リアアクスル駆動装置22(ERAD22)とを含む、ハイブリッド電気自動車(HEV)」であって、「前記電気機械18は、エンジン始動時に前記エンジン14に回転動力を供給し、発電した電力を前記電気機械22に直接供給するか、あるいはバッテリ23に直接供給するか、あるいはこれらの両方に供給」するものに代えて、引用文献2記載事項を採用し、相違点1に係る本願発明の発明特定事項の如く、前提となるハイブリット車両の構成を変更することは、当業者にとって容易である。
ゆえに、相違点1は、格別な相違点ではない。

(2)《相違点2》について
引用発明は、「バッテリ23の充電状態(SOC)」の確認を、「アクセルペダルが踏み込まれ」た後に、行っているが、引用発明は、「センサによって生成された信号が、車両が傾斜して停止していることを示すときに、アクセルペダル50はオフ(押されていない)であり、車速78はゼロである、期間76において、ERAD22によって生成され、車輪26,27に伝達されるトルクが、傾斜上のHEVを保持するために使用され」るものでもある。
ところで、引用文献3には、上記1.(3)で示したとおり、次の引用文献3記載事項が記載されているところ、当該引用文献3記載事項は、引用発明、引用文献2記載事項及び本願発明と同様に、ハイブリッド車両に関する事項である。
《引用文献3記載事項》
「ハイブリッド車両等のような駆動源としての回転電機を有する車両の登坂時における回転電機の制御に関し、回転電機のトルクの方向と回転方向とが異なる(逆となる)状態となっている際に、インジケーターや警告灯等の警告手段を介して、運転者に、ブレーキペダルを踏込んで車両を一旦停止させ、再度アクセルペダルの操作(坂道発進の再度実施)を行うよう、警告を促すこと」
ここで、本願発明と引用文献3記載事項とを対比すると、引用文献3記載事項の「回転電機のトルクの方向と回転方向とが異なる(逆となる)状態」は、車両が坂道上の静止を維持できない状態であるから、本願発明の「前記ハイブリッド車両の前記傾斜路面上での静止状態を保持するのに必要な前記目標駆動トルク(C_(OBJ))を供給するためには、前記貯蔵システム(16)の充電状態が十分ではない、状態」に対応し、引用文献3記載事項の「インジケーターや警告灯等の警告手段を介して、運転者に、ブレーキペダルを踏込んで車両を一旦停止させ、再度アクセルペダルの操作(坂道発進の再度実施)を行うよう、警告を促す」ことは、本願発明の「前記傾斜路面上における前記ハイブリッド車両の所望されない後進又は前進を回避するように運転者が介入できる」ように、前記「状態を、運転者に送信する」ことに対応する。
そして、引用発明は、「傾斜路での車両のロールバックを防止する」ための方法であることを踏まえると、上記「傾斜路での車両のロールバック」を確実に防止するために、上記「期間76」の前の段階においても、バッテリ23の充電状態(SOC)を確認する段階を設け、「バッテリ23の充電状態(SOC)」が、「ERAD22によって生成され、車輪26,27に伝達されるトルクが、傾斜上のHEVを保持する」ことが可能であるか否かを確認し、可能である場合にのみ、上記「ERAD22によって生成され、車輪26,27に伝達されるトルクが、傾斜上のHEVを保持するために使用され」るようにするとともに、上記引用文献3記載事項を採用し、可能でない場合には、「傾斜上のHEV」の所望されない後進又は前進を回避するように運転者が介入できるように、「傾斜上のHEVを保持する」ことが可能な状態ではないことを「運転者に送信する」ことは、当業者であれば、容易になし得たことというべきである。
さらに、一般に、ハイブリッド電気自動車(HEV)は、バッテリからの電力により駆動される、制御装置や様々な電気機器(例えば、ブレーキランプ、ウィンカー、ヘッドライト、エアコン等)を有することが通常であるところ、上記「バッテリ23の充電状態(SOC)」の確認は、上記「バッテリ23の充電状態(SOC)」が、「ERAD22によって生成され、車輪26,27に伝達されるトルクが、傾斜上のHEVを保持する」ことが可能であり、かつ、上記バッテリ23からの電力により駆動される、制御装置や様々な電気機器が必要とする電力を供給することが可能である、充電状態であるか否かを確認すべきこと、すなわち、本願発明における式[1]に従って、上記バッテリ23から供給されるために必要な、電気エネルギを算出する段階を踏んで確認するように構成することは、当業者にとって容易である。
ゆえに、相違点2も、格別な相違点ではない。

(3)《相違点3》について
引用発明の「バッテリ23の充電状態(SOC)」の確認は、「アクセルペダルが踏み込まれ」た後に行われるものであるから、引用発明の「基準SOC」は、「ERAD22によって生成され、車輪26,27に伝達されるトルクが、傾斜上のHEVを保持する」ことが可能であり、かつ、「ERADトルク82は、アクセルペダル位置80の増加に応答して急速に増加し、ピークに達し、エンジントルクおよびトランスミッション出力トルクの増加に同期してランプオフされることで、車輪負荷を駆動し、車両のロールバックを制御する」ことが可能である、充電状態であること、すなわち、本願発明における式[3]に従って、「ERAD22」がトルク発生器として機能することを可能にするのに必要な電気エネルギを算出する段階を経て設定されるべきものであることは、当業者にとって明らかなことである。
ゆえに、相違点3は実質的な相違点ではない。

(4)《相違点4》について
ハイブリッド車両や電気車両が傾斜路面上に存在するか否かの検出を、傾斜センサやモータ回転センサを用いて行うことは、例えば、以下のア.ないしウ.に示す、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであり、原査定の拒絶理由でも引用されていた特開平6-261417号公報、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2005-324730号公報及び特開2002-271903号公報にも記載されているように、本願の優先日前の周知技術(以下、「周知技術1」という。)であり、その採否は当業者が適宜決定し得たことである。

ア.特開平6-261417号公報の記載事項
電気自動車の駆動力制御装置に係り、特に、坂路などでの停車時に車速を略零とするように電動モータのトルク制御を行う制御装置に関して、モータ回転速度センサ66からのモータ回転速度信号SNmが表すモータ回転速度Nmに基づいて算出される車速Vが負の場合を路面が登り勾配でブレーキOFFにより車両が後退した場合と判断し、Vが負でない場合を路面が下り勾配でブレーキOFFにより車両が前進した場合と判断すること、すなわち、モータ回転センサを用いて、電気車両が傾斜路面上に存在するか否かの検出を行うこと(特に、段落【0001】、【0013】、【0015】、【0018】及び【0019】の記載を参照。)と、傾斜角センサ等により車両の傾斜角θすなわち路面の勾配を検出すること(特に、段落【0001及び【0026】の記載を参照。)の双方が記載されている。

イ.特開2005-324730号公報の記載事項
内燃機関1と、電動機として機能するM/G(Motor/Generator)50とを備えた車両100において、傾斜センサ41を備え、当該傾斜センサ41からの出力から、車両100の進行方向後方よりも前方の方が高い位置にある場合であって、かつフットブレーキあるいはハンドブレーキが作動している場合には、車両100が坂道Lsに停止していると判定すること、すなわち、傾斜角センサを用いて、ハイブリッド車両が傾斜路面上に存在するか否かの検出を行うこと(特に、段落【0001】、【0002】、【0016】及び【0039】の記載を参照。)が記載されている。

ウ.特開2002-271903号公報の記載事項
同期モーターを走行駆動源とする電気自動車やハイブリッド自動車などの自動において、三相同期モーター3の回転位置を検出する回転センサー10を備え、モーター電流がリミット値に達してもモーター3が回転しない場合は、自動車の登坂性能の限界を超える急勾配路であると判断し、トルク指令値が通常使用領域の最大値で、且つモーター3がトルク指令値の方向と反対の方向に回転しているときは、坂道発進時に自動車が急勾配路を滑り落ちている、つまり後退していると判断し、モーター電流が上記リミット値に達してもモーター3がトルク指令値の方向へ回転しない場合、つまり自動車が急勾配路を滑り落ちてモーター3がトルク指令値と反対の方向へ回転している場合は、自動車の登坂性能の限界を超える急勾配路であると判断すること、すなわち、モータ回転センサを用いて、電気車両やハイブリッド車両が傾斜路面上に存在するか否かの検出を行うこと(特に、【請求項5】、段落【0001】、【0002】、【0011】、【0014】、【0024】、【0028】及び【0030】ないし【0032】の記載を参照。)が記載されている。

また、センサを使用して制御を行う制御装置において、検出の正確性や信頼性を向上するために、複数のセンサを組み合わせて使用することは、その例示を待つまでもない周知技術(以下、「周知技術2」という。)であり、その採否は当業者が適宜決定し得たことである。
そして、引用発明において、「車両が傾斜して停止していることを示すとき」には、通常は、運転者がブレーキを踏んでいると解され、このことは、引用文献1の「[0035] 図6A-6Cは、車両オペレータがホイールブレーキペダルを解放することに応答して、車両ロールバック制御下にあるHEVのパワートレインパラメータの変化を示す。図6Aおよび図6Cに示すように、ホイールブレーキペダルの位置またはブレーキ圧96は、解放後に急速にゼロに減少し、オペレータはアクセルペダル98で踏み込み、その後、車速100は着実に増加する。」との記載とも整合することである。
してみると、引用発明において、「センサによって生成された信号が、車両が傾斜して停止していることを示すとき」の判断を具体化するにあたり、傾斜センサ及び電気リアアクスル駆動装置22(ERAD22)の回転を検出するモータ回転センサを備え、傾斜センサによって、ハイブリッド電気自動車(HEV)が傾斜路面上に存在することを検出し、運転者がブレーキを踏んでおり、モータ回転センサと前記傾斜センサとを組み合わせて使用するようにすることは、当業者が容易に想到し得たことというべきである。

4.本願発明の奏する作用効果
本願発明が奏する「追加的な構成要素なしであるがしかし可逆式電気機械14の制御により単純に、ハイブリッド車両の抗後退及び/又は抗前進装置を取得する利点を有する。(本願明細書の段落【0063】を参照。)」という作用効果は、引用発明、引用文献1記載事項、引用文献2記載事項、引用文献3記載事項、上記周知技術1及び周知技術2から、当業者が予測し得た程度のものである。
特に、上記《相違点4》に関して、本願発明が「モータ回転センサがハイブリッド車両傾斜センサと組み合わせて使用されること」について、本願明細書には、段落【0030】に「第2の変形例によれば、ハイブリッド車両は、モータ回転センサ(図示せず)を備えており、モータ回転センサ(図示せず)は、傾斜センサ(図示せず)に対して代替的に使用してもよく、又は傾斜センサ(図示せず)と組み合わせてもよく、及びハイブリッド車両が存在する路面の傾斜のむしろ正確な表示を提供するのに適する。」と記載されているのみであって、上記周知技術1及び周知技術2から、当業者が予測し得た範囲を超えるものではない。

5.請求人の主張について
請求人は、令和2年12月9日付け意見書において、「モータ回転センサが前記ハイブリッド車両傾斜センサと組み合わせて使用される」という構成、及び、当該構成によって生じる、ハイブリッド車両が存在する路面の傾斜の正確な表示を提供することができるという効果は、引用文献1ないし3には開示も示唆もされていない旨を主張する。
しかし、上記3.(4)及び4.で示したとおり、引用発明において、モータ回転センサと前記傾斜センサとを組み合わせて使用するようにすることは、上記周知技術1及び周知技術2から、当業者が容易に想到し得たことというべきであり、このことによる効果も当業者が予測し得た範囲を超えるものではないから、上記請求人の主張は採用できない。

6.小括
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献1記載事項、引用文献2記載事項、引用文献3記載事項、上記周知技術1及び周知技術2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-02-09 
結審通知日 2021-02-16 
審決日 2021-03-02 
出願番号 特願2014-174825(P2014-174825)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60K)
P 1 8・ 537- WZ (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神山 貴行  
特許庁審判長 北村 英隆
特許庁審判官 鈴木 充
渡邊 豊英
発明の名称 傾斜路面に停止した時に、車両が後退又は前進することを防止するようにハイブリッド車両を制御する方法  
代理人 胡田 尚則  
代理人 鶴田 準一  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 南山 知広  

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