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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1376416
審判番号 不服2020-3353  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-11 
確定日 2021-07-28 
事件の表示 特願2016-521677「ロックアウトを有する患者自己管理式の薬剤の大量ボーラス投与装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月16日国際公開、WO2015/052603、平成28年11月24日国内公表、特表2016-536052〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)9月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年10月11日 米国)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成30年 7月23日付け:拒絶理由通知
平成30年10月29日 :意見書、手続補正書
平成31年 3月20日付け:拒絶理由通知
令和 1年 6月24日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
令和 1年11月 8日付け:平成31年 3月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由による拒絶査定
令和 2年 3月11日 :本件審判請求

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「患者自己管理式液体薬剤投与装置であって、
底端部及び上端部を有する軸方向キャビティを画定するハウジングと、
前記キャビティの前記底端部の近傍に設けられ、かつ、前記キャビティ内に固定配置された第1の壁並びに、前記キャビティ内において前記第1の壁に対してリザーバ満充填位置及びリザーバ空位置間でフレキシブルに変位可能な第2の壁を有するリザーバを画定するポンプと、
前記ポンプの入口ポートに接続された第1の端部及び、加圧液体薬剤源に接続可能な第2の端部を有する入口導管と、
前記ポンプの出口ポートに接続された第1の端部を有する出口導管と、
前記キャビティ内において、前記出口導管を狭窄して該出口導管に前記液体を通過させない閉位置及び、前記出口導管を非狭窄状態にして該出口導管に前記液体を通過させる開位置間で変位可能であるように配置され、かつ前記閉位置に向けて付勢されているクランプと、
前記リザーバの前記第2の壁に係合可能であり、かつ前記キャビティ内において軸方向に、前記第2の壁が前記リザーバ満充填位置にある第1の位置及び、前記第2の壁が前記リザーバ空位置にある第2の位置間で変位可能であるように配置されているプランジャと、
前記キャビティの前記上端部から延出し、前記キャビティ内において軸方向に延出位置及び押下位置間で変位可能であるように配置され、かつ、デテント及び、前記クランプに係合しかつ前記押下位置への変位時に前記クランプを前記開位置まで変位させる受け面を有するプランジャ作動ボタンと、
枢動点で前記ハウジングに枢動可能に接続され、前記ボタンが前記延出位置にありかつ前記プランジャが前記リザーバ空位置にあるときに前記ボタンの軸方向変位を防止する第1の位置及び、前記ボタンが前記延出位置にありかつ前記プランジャが前記リザーバ満充填位置にあるときに前記ボタンの軸方向変位を可能にする第2の位置をとり得るロック機構と、
前記プランジャ及び前記ボタン間に圧縮された状態で配置されたばねと、
前記キャビティ内に設けられ、前記ボタンが前記押下位置まで変位させられたときに前記ボタンの前記デテントに弾性的に係合し、前記ボタンを前記押下位置において前記ばねの力に抗して保持するスプリングキャッチと、
前記プランジャに設けられ、前記プランジャが前記第2の位置まで変位させられたときに前記ボタンの前記デテント及び前記スプリングキャッチの前記係合を解除するキャッチリリースとを含み、
前記ロック機構は、前記枢動点に対して一側に位置する第1の端部と、前記枢動点に対して他側に位置する第2の端部とを有し、前記第1の位置においては、前記ロック機構の前記第1の端部が前記ボタンに係合するとともに前記ロック機構の前記第2の端部が前記プランジャから離脱し、前記第2の位置においては、前記ロック機構の前記第1の端部が前記ボタンから離脱するとともに前記ロック機構の前記第2の端部が前記プランジャに係合し、
前記プランジャが、その長手方向に延びる外側面上に突出部をさらに有しており、前記ボタンが、その長手方向に延びる側面に沿って画定するロックデテントをさらに含み、それによって、前記ロック機構がとり得る前記第1の位置において前記ロック機構の前記第1の端部に前記ロックデテントを係合させることにより前記ボタンの軸方向変位を防止し、前記ロック機構がとり得る前記第2の位置において前記ロック機構の前記第2の端部に前記突出部を係合させることにより前記ロック機構及び前記ロックデテントの前記係合を解除して前記ボタンの軸方向変位を可能にするように構成したことを特徴とする装置。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.国際公開第2012/080862号
引用文献2.特開2008-289720号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、括弧内の日本語は、引用文献1に対応する国際出願(PCT/IB2011/055020)の日本語公表公報(特表2014-502525号公報)を参考にした当審訳である。また、下線は当審において付与した(以下同様。)。

ア「FIELD OF THE INVENTION
The present invention relates to medical devices in general, and in particular, to a patient controlled device for the self-administration of drugs, such as analgesics, and the like.」(1頁3行-6行)
(【技術分野】
本発明は、全体として医療機器に関し、より詳細には、鎮痛薬などの薬剤を自己投与するための患者自己管理式装置に関する。)

イ「An exemplary improved large volume bolus patient controlled liquid drug administration device 10 (also referred to as a "PCA" or "LVPCA") in accordance with the present invention is illustrated in the elevation view of FIG. 1. The device 10 is composed of an elongated housing 12 having respective open top and bottom ends 14 and 16 and, as illustrated in, e.g., FIG. 9, an axial cavity 18 extending through it. In the particular exemplary embodiment illustrated in the figures, the housing is injection molded from a rugged plastic material, and includes two clam-shell side walls 12A and 12B that are coupled together, e.g., with an adhesive, along a medial plane extending through the device.
As shown in the cross-sectional views of FIGS. 6-8, a reciprocating pump 20 is mounted in the cavity 18 of the housing 12 at the bottom end 16 thereof. The pump defines a closed reservoir 22 for a liquid drug, and includes a first wall, or seat, 24 that is fixed in the cavity against movement, and a second, flexible wall 26 that is axially movable in the cavity with respect to the fixed wall between a reservoir-full position (see FIG. 6), and a reservoir-empty position (see FIG. 8). An optional retention ring 102 may be used secure the flexible wall 26 to the seat 24 to define the closed reservoir 22 (see FIGS. 17 and 20).
The pump 20 includes an inlet port 28 and an outlet port 30. One end of an inlet conduit 32 is connected to the inlet port and the other end is connectable, e.g., by means of a Luer fitting (not illustrated), to a source of a pressurized liquid drug (not illustrated), which may be an infusion pump (e.g., a mechanical infusion pump, an electromechanical infusion pump or the like (not illustrated)). The outlet port is subcutaneously connectable to a patient (e.g., by a hypodermic needle, catheter or the like (not illustrated)) by an outlet conduit 34. In an embodiment, the inlet and outlet conduits comprise clear, flexible surgical tubing, and extend out the bottom end 16 of the housing 12 through a protective, flexible grommet 36.
In an embodiment of the invention, a clamp system in the form of a single clamp 38 dismounted in the cavity 18 to move between (i) a first position constricting the outlet conduit 34 (see FIGS. 12 and 15) thereby preventing the flow of liquid through it and simultaneously disengaged from the inlet conduit 32 thereby allowing the flow of liquid through it; and (ii) a second position disengaged from the outlet conduit 34 (see FIG. 11), thereby allowing the flow of liquid through it and simultaneously constricting the inlet conduit 32 thereby preventing the flow of liquid through it, the clamp being biased toward its first position. The single clamp 38 may be referred to as a "dual-direction" clamp in that it is configured to constrict a conduit at either of its first or second positions. A spring 40 resiliently biases the clamp toward its first position. In the first position, it may be seen that the clamp 38 constricts the outlet conduit 34 blocking the outflow of the pump 20 while the clamp is disengaged from the inlet conduit 32 so that the reservoir 22 takes in, or refills with, the pressurized liquid drug through the inlet port 28 of the pump. In the second position, the clamp 38 disengages from the outlet conduit 34 enabling the pump to expel the contents of the reservoir through the outlet port 30 of the pump while the clamp 38 constricts the inlet conduit 32 such that the reservoir 22 is unable to take in, or refill with, the pressurized liquid drug through the inlet port 28 of the pump. This has the advantage of avoiding the potential for bolus refill during bolus delivery. Should the bolus pump refill during bolus delivery, such a condition may allow delivery of more liquid drug to a patient over a defined period of time than the predetermined volume of successive boluses which may lead to an overdose of liquid drug. Moreover, this configuration also avoids the potential for delivery of liquid drug through the pump after bolus delivery but before an intake stroke of the pump occurs. This can be particularly undesirable if the pump malfunctions and the pump becomes stuck in its compression stroke. Should it happen, such a stuck condition may allow the liquid drug to continue flow through the pump.」(10頁22行-12頁18行)
(図1の立面図には、本発明に従う例示的な改良された患者自己管理式の液体薬剤の大量ボーラス投与装置10(「PCA」または「LVPCA」とも呼ばれる)が示されている。装置10は、細長いハウジング12から構成されており、ハウジング12は、それぞれ開いた上端部14及び底端部16と、例えば図9に示されているような、ハウジング12を貫通して延在する軸方向キャビティ18とを有する。図に示されている特定の例示的な実施形態において、ハウジング12は、耐久性に優れたプラスチック材料から射出成形されたものであり、2つのクラムシェル型の側壁12A及び12Bを含む。側壁12A及び12Bは、装置10を貫通して延在する中心面に沿って、例えば接着剤により結合されている。
図6?図8の断面図に示されているように、ハウジング12の底端部16において、ハウジング12のキャビティ18内に往復ポンプ20が設けられている。ポンプ20は、液体薬剤用の閉じたリザーバ22を画定するとともに、動かないようにキャビティ内に固定配置された第1の壁または座部24と、キャビティ内で固定壁24に対してリザーバ満充填位置(図6を参照)及びリザーバ空位置(図8を参照)間で軸方向に変位可能な第2の、フレキシブルな壁26とを含む。閉じたリザーバ22を画定するために、任意選択の保持リング102を用いて、フレキシブルな壁26を座部24に固定してもよい(図17及び図20を参照)。
ポンプ20は、入口ポート28及び出口ポート30を含む。入口導管32の一端は入口ポートに接続されており、他端は、例えばルアーフィッティング(図示せず)によって、加圧液体薬剤源(図示せず)に接続可能である。加圧液体薬剤源は、薬剤注入ポンプ(例えば、機械式注入ポンプ、電気機械式注入ポンプまたは同様のもの(図示せず))であってよい。出口ポートは、出口導管34によって患者に皮下的に(例えば、皮下注射針、カテーテルまたは同様のもの(図示せず)によって)接続可能である。或る実施形態では、入口導管及び出口導管は、透明でフレキシブルな外科用チューブを含み、ハウジング12の底端部16から保護用のフレキシブルなグロメット36を通って延出している。
本発明の或る実施形態では、単一クランプ38の形態をとるクランプシステムが、キャビティ18内において、(i)出口導管34を狭窄し(図12及び図15を参照)て出口導管34に液体を通過させないと同時に入口導管32を非狭窄状態にして入口導管32に液体を通過させる第1の位置と、(ii)出口導管34を非狭窄状態にして(図11を参照)出口導管34に液体を通過させると同時に入口導管32を狭窄して入口導管32に液体を通過させない第2の位置との間で変位するように設けられており、クランプは、第1の位置に向けて付勢されている。単一クランプ38は、第1または第2の位置のいずれかにおいて導管を狭窄するように構成されているという点で、「双方向」クランプと呼ぶことができる。クランプは、ばね40によって第1の位置に向けて弾性的に付勢される。第1の位置においては、クランプ38は、出口導管34を狭窄し、ポンプ20のオーバーフローを阻止するが、入口導管32を非狭窄状態にするので、リザーバ22は、ポンプの入口ポート28から加圧液体薬剤を取り込むすなわち加圧液体薬剤で再充填されることが分かるであろう。第2の位置においては、クランプ38が出口導管34を非狭窄状態にし、リザーバの内容物をポンプがポンプの出口ポート30から吐出するすることを可能にすると同時に、クランプ38が入口導管32を狭窄し、従って、リザーバ22は、ポンプの入口ポート28から加圧液体薬剤を取り込むすなわち加圧液体薬剤で再充填されることができない。このことは、ボーラス送達中にボーラス再充填の可能性を回避するという利点がある。ボーラス送達中にボーラスポンプが再充填されるとすれば、そのような状態において、所定の継続的なボーラス投与量よりも多くの液体薬剤が定められた期間にわたって患者に送達され、そうなれば、液体薬剤の過剰投与を招きかねない。さらに、この構成は、ボーラス送達後であるがポンプの吸気行程が発生する前に液体薬剤がポンプを通過して送達されることを回避する。このことは、ポンプの圧縮行程においてポンプが故障し、ポンプが詰まった場合に、特に望ましくない。もしそうなったら、そのようなポンプが詰まった状態下で、液体薬剤がポンプを通過して流れ続けることになってしまう。)

ウ「As illustrated in the cross-sectional views of FIGS. 6-8, an elongated plunger 48 is captivated in the cavity 18 of the housing 12 above the pump 20 for axial movement between a raised position (see FIG. 6, and a lowered position (see FIG. 8). The plunger has a lower end 48A (see also FIGS. 3 and 16) that contacts the movable wall 26 of the pump, and which has a shape that conforms to the internal shape of the fixed wall, or seat, 24 thereof. It may be seen that, if the clamp 38 is in its first position, a downward force exerted on the plunger will cause the plunger to move down from the raised position (see FIG. 4), and thereby push the movable wall of the pump toward the fixed wall thereof (see FIG. 5), until the movable wall conformably seats against the fixed wall (see FIG. 6), thereby executing an output stroke of the pump and expelling a bolus of liquid drug from the reservoir 22 of the pump to the patient. During this output stroke, the second wedge-shaped jaw 42B constricts the inlet conduit 32 so that no liquid drug can enter the reservoir.」(13頁20行-14行2行)
(図6?図8の断面図に示されているように、ハウジング12のキャビティ18内において、ポンプ20の上方に、細長いプランジャ48が、上昇位置(図6を参照)と下降位置(図8を参照)との間で軸方向に変位可能であるように内設されている。プランジャは、ポンプの可動壁26に接触する下端部48A(図3及び図16を参照)を有し、下端部48Aは、ポンプの固定壁または座部24の内部形状に合う形状を有する。クランプ38が第1の位置にある場合、プランジャに下向きの力をかけるとプランジャが上昇位置(図6を参照)から押し下げられ、それによって、ポンプの可動壁が固定壁に対して形状が合うように着座する(図8を参照)まで可動壁を固定壁に向けて押し(図7を参照)、それによってポンプの出力行程を遂行し、ボーラス投与量の液体薬剤をポンプのリザーバ22から患者に向けて吐き出すことが分かるであろう。この出力行程中、液体薬剤がリザーバに流入できないように、第2の楔形顎部42Bが入口導管32を狭窄する。)

エ「The plunger 48 is pushed down by the patient indirectly through the agency of an elongated push button 50 that is captivated in the cavity 18 of the housing 12 above the plunger for axial movement between an extended position (see FIGS. 6 and 8) and a depressed position (see FIG. 7), as well as a compression spring 52 that is axially disposed between the plunger and the button. In the particular exemplary embodiment illustrated in the figures, the button includes an axial bore extending through a lower end thereof, and an upper portion of the plunger is coaxially disposed in the bore for relative sliding axial movement therein, thereby captivating the compression spring and resulting in a more compact device 10.
The button 50 includes a detent 54 for latching the button in the depressed position, and a ledge 56 that engages the clamp 38 and moves it to its second position when the button is moved to its depressed position, as illustrated in FIG. 11. When the button (shown in cross-section) is pushed to its depressed position, the ledge 56 of the button engages an extension 58 on the lever arm of the clamp and rotates it to its second position, thereby disengaging the first wedge-shaped jaw 42A enabling outflow from the pump 20 through the outlet conduit 34 and further engaging the second wedge-shaped jaw 42B to constrict the inlet conduit 32 so that no liquid drug can enter the reservoir, as described above. Simultaneously, the latching detent engages a resilient spring catch 60 mounted in the cavity 18 in an over-center latching engagement, which holds the button in its depressed position and against the upward force of the compression spring 52.
Movement of the button 50 to its depressed position also compresses the compression spring 52 against the plunger 48 (see FIG. 7), resulting in a corresponding downward movement of the plunger against the movable wall 26 of the pump 20 and a corresponding output stroke of the pump, as described above. Thus, a single, quick depression of the button to its depressed position by the patient results in a subsequent full output stroke of the pump that is typically of an extended duration, due to the flow resistance in the device between the pump and the patient. However, since the button latches in the depressed position, as above, it is unnecessary for the patient to exert a continuous force on the button for the entire duration of the stroke.
To enable the button 50 to return automatically to its extended position at the end of the output stroke of the pump 20 (see FIG. 8), a scoop-like catch release 62 is provided on the plunger 48 that catches an end of the spring catch 60 and detaches it from the latching detent 54 in the button when the plunger reaches its lowered position. When the button returns to its extended position, the compression in the compression spring 52 is relaxed, and simultaneously, the clamp 38 is released to return to its first position, thereby initiating an intake stroke of the pump, as described above. Thus, the intake stroke of the pump is effected automatically, and no activity or monitoring of the device 10 is required on the part of the patient.」(14頁9行-15頁20行)
(ハウジング12のキャビティ18内において、プランジャの上方に、延出位置(図6を及び図8参照)と押下位置(図7を参照)との間で軸方向に変位可能であるように内設されている細長い押しボタン50の働きと、プランジャとボタンとの間において軸方向に配置された圧縮ばね52の働きとにより、プランジャ48は患者によって間接的に押し下げられる。図に示されている特定の例示的な実施形態において、ボタンは、その下端部分を貫通して延在する軸方向ボアを含み、該ボア内には、プランジャの上部部分が相対的に軸方向に摺動し得るように同軸上に配置されており、それによって圧縮ばねを内設し、よりコンパクトな装置10が得られる。
ボタン50は、ボタンを押下位置でラッチするためのデテント54と、図11に示されているような、ボタンが押下位置まで変位させられたときにクランプ38に係合しかつクランプ38を第2の位置まで変位させる受け面56とを含む。ボタン(断面図に示されている)が押下位置まで押されたとき、ボタンの受け面56は、クランプのレバーアームに設けられた延長部58に係合しかつ該クランプを第2の位置まで回転させ、それによって第1の楔形顎部42Aによる狭窄状態を解除してポンプ20から出口導管34を通過して液体薬剤が流出できるようにするとともに、第2の楔形顎部42Bにさらに係合することにより、上記したように、液体薬剤がリザーバに流入できないように入口導管32を狭窄する。同時に、ラッチングデテントは、キャビティ18内に設けられた弾性ばねキャッチ60にオーバーセンターラッチ係合(over-center latching engagement)の形態で係合し、これにより、ボタンは押下位置において圧縮ばね52の上向きの力に抗して保持される。
ボタン50が押下位置まで変位させられると、圧縮ばね52がプランジャ48に対して圧縮されることにもなり(図7を参照)、これにより、上記したように、ポンプ20の可動壁26に対するプランジャの対応する下向きの変位及びポンプの対応する出力行程がもたらされる。それゆえ、患者がボタンを押下位置まで1回で素早く押し下げると、ポンプと患者との間における装置の流れ抵抗が原因で、ポンプのその後の全出力行程(通常は長期間に及ぶ)をたどることになる。しかし、上記したように、ボタンは押下位置でラッチするので、行程の全期間にわたって患者がボタンに持続的な力を働かせる必要はない。
ポンプ20の出力行程の終わりにボタン50が延出位置に自動的に戻れるようにするために(図8を参照)、プランジャ48にスコップ様のキャッチリリース62が設けられている。キャッチリリース62は、ばねキャッチ60の端部をキャッチし、該端部を、プランジャが下降位置に到達したときに、ボタンのラッチングデテント54と係合した状態から解除する。ボタンが延出位置に戻ると、圧縮ばね52の圧縮が緩和され、同時に、クランプ38が解放されて第1の位置に戻り、それによって、上記したように、ポンプの吸気行程を開始する。このように、ポンプの吸気行程は自動的に引き起こされ、患者の側で装置10を作動させたり監視したりする必要はない。)

オ「1. A patient controlled liquid drug administration device, comprising:
a housing defining an axial cavity having inner and outer ends;
a pump mounted near an inner end of the cavity, the pump defining a reservoir having a first wall fixed in the cavity and a second wall flexibly movable therein with respect to the first wall between reservoir-full and reservoir-empty positions;
an inlet conduit having a first end connected to an inlet port of the pump and a second end connectable to a source of pressurized liquid drug;
an outlet conduit having a first end connected to an outlet port of the pump and an opposite second end subcutaneously connectable to the patient;
an outlet clamp mounted in the cavity to move between a closed position constricting the outlet conduit and thereby preventing the flow of liquid through it, and an open position disengaged from the outlet conduit, thereby allowing the flow of liquid through it, the outlet clamp being biased toward its closed position;
an inlet clamp mounted in the cavity to move between a closed position constricting the inlet conduit and thereby preventing the flow of liquid through it, and an open position disengaged from the inlet conduit, thereby allowing the flow of liquid through it;
a plunger engageable with the second wall of the reservoir and disposed for axial movement within the cavity between the first position in which the second wall is in the reservoir-full position and a second position in which the second wall is in the reservoir-empty position;
a plunger-actuating button extending from the outer end of the cavity and disposed in the cavity for axial movement between extended and depressed positions, the button having a detent for and a ledge that engages the clamp and moves it to its open position when the button is moved to its depressed position;
a spring under compression disposed between the plunger and the button;
a spring catch mounted in the cavity that resiliently engages the detent in the button when the button is moved to its depressed position and holds the button in its depressed position against the force of the spring; and
a catch release on the plunger that disengages the spring catch from the detent in the button when the plunger is moved to its second position. 」(24頁2行-25頁8行)
(【請求項1】
患者自己管理式液体薬剤投与装置であって、
内側端部及び外側端部を有する軸方向キャビティを画定するハウジングと、
前記キャビティの前記内側端部の近傍に設けられ、かつ、前記キャビティ内に固定配置された第1の壁並びに、前記キャビティ内において前記第1の壁に対してリザーバ満充填位置及びリザーバ空位置間でフレキシブルに変位可能な第2の壁を有するリザーバを画定するポンプと、
前記ポンプの入口ポートに接続された第1の端部及び、加圧液体薬剤源に接続可能な第2の端部を有する入口導管と、
前記ポンプの出口ポートに接続された第1の端部及び、該第1の端部の反対端であり、前記患者に皮下的に接続可能な第2の端部を有する出口導管と、
前記キャビティ内において、前記出口導管を狭窄して該出口導管に液体を通過させない閉位置及び、前記出口導管を非狭窄状態にして該出口導管に液体を通過させる開位置間で変位可能であるように配置され、かつ前記閉位置に向けて付勢されている出口クランプと、
前記キャビティ内において、前記入口導管を狭窄して該入口導管に液体を通過させない閉位置及び、前記入口導管を非狭窄状態にして該入口導管に液体を通過させる開位置間で変位可能であるように配置された入口クランプと、
前記リザーバの前記第2の壁に係合可能であり、かつ前記キャビティ内において軸方向に、前記第2の壁が前記リザーバ満充填位置にある第1の位置及び、前記第2の壁が前記リザーバ空位置にある第2の位置間で変位可能であるように配置されているプランジャと、
前記キャビティの前記外側端部から延出し、前記キャビティ内において軸方向に延出位置及び押下位置間で変位可能であるように配置され、かつ、デテント及び、前記クランプに係合しかつ前記ボタンが前記押下位置まで変位させられたときに前記クランプを前記開位置まで変位させる受け面を有するプランジャ作動ボタンと、
前記プランジャ及び前記ボタン間に圧縮された状態で配置されたばねと、
前記キャビティ内に設けられ、前記ボタンが前記押下位置まで変位させられたときに前記ボタンの前記デテントに弾性的に係合し、前記ボタンを前記押下位置において前記ばねの力に抗して保持するばねキャッチと、
前記プランジャに設けられ、前記プランジャが前記第2の位置まで変位させられたときに前記ボタンの前記デテント及び前記ばねキャッチの前記係合を解除するキャッチリリースとを含むことを特徴とする装置。)

カ「



キ「



(2)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は、患者自己管理式液体薬剤投与装置に関するものである(摘記事項ア、オ)。
b 底端部16及び上端部14を有する軸方向キャビティ18を画定するハウジング12(摘記事項イ、オ)。
c キャビティ18の底端部16の近傍に設けられ、かつ、前記キャビティ18内に固定配置された第1の壁24並びに、前記キャビティ18内において前記第1の壁24に対してリザーバ満充填位置及びリザーバ空位置間でフレキシブルに変位可能な第2の壁26を有するリザーバ22を画定するポンプ20(摘記事項イ、オ)。
d ポンプ20の入口ポート28に接続された第1の端部及び、加圧液体薬剤源に接続可能な第2の端部を有する入口導管32(摘記事項イ、オ)。
e ポンプ20の出口ポート30に接続された第1の端部を有する出口導管34(摘記事項イ、オ)。
f キャビティ18内において、出口導管34を狭窄して該出口導管34に液体を通過させない閉位置及び、前記出口導管34を非狭窄状態にして該出口導管34に液体を通過させる開位置間で変位可能であるように配置され、かつ前記閉位置に向けて付勢されている単一クランプ38(摘記事項イ、オ)。
g リザーバ22の第2の壁26に係合可能であり、かつキャビティ18内において軸方向に、前記第2の壁26がリザーバ満充填位置にある第1の位置及び、前記第2の壁26がリザーバ空位置にある第2の位置間で変位可能であるように配置されているプランジャ48(摘記事項ウ、エ、オ)。
h キャビティ18の上端部14から延出し、前記キャビティ18内において軸方向に延出位置及び押下位置間で変位可能であるように配置され、かつ、デテント54及び、クランプ38に係合しかつ前記押下位置まで変位させられたときに前記クランプ38を開位置まで変位させる受け面56を有するボタン50(摘記事項エ、オ)。
i プランジャ48及びボタン50間に圧縮された状態で配置された圧縮ばね52(摘記事項エ、オ)。
j キャビティ18内に設けられ、ボタン50が押下位置まで変位させられたときに前記ボタン50のデテント54に弾性的に係合し、前記ボタン50を前記押下位置において圧縮ばね52の力に抗して保持するばねキャッチ60(摘記事項エ、オ)。
k プランジャ48に設けられ、前記プランジャ48が第2の位置まで変位させられたときにボタン50のデテント54及びばねキャッチ60の係合を解除するキャッチリリース62(摘記事項エ、オ)。

(3)上記(1)、(2)から、引用文献1には,以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「患者自己管理式液体薬剤投与装置であって、
底端部16及び上端部14を有する軸方向キャビティ18を画定するハウジング12と、
前記キャビティ18の前記底端部16の近傍に設けられ、かつ、前記キャビティ18内に固定配置された第1の壁24並びに、前記キャビティ18内において前記第1の壁24に対してリザーバ満充填位置及びリザーバ空位置間でフレキシブルに変位可能な第2の壁26を有するリザーバ22を画定するポンプ20と、
前記ポンプ20の入口ポート28に接続された第1の端部及び、加圧液体薬剤源に接続可能な第2の端部を有する入口導管32と、
前記ポンプ20の出口ポート30に接続された第1の端部を有する出口導管34と、
前記キャビティ18内において、前記出口導管34を狭窄して該出口導管34に前記液体を通過させない閉位置及び、前記出口導管34を非狭窄状態にして該出口導管34に液体を通過させる開位置間で変位可能であるように配置され、かつ前記閉位置に向けて付勢されている単一クランプ38と、
前記リザーバ22の前記第2の壁26に係合可能であり、かつ前記キャビティ18内において軸方向に、前記第2の壁26が前記リザーバ満充填位置にある第1の位置及び、前記第2の壁26が前記リザーバ空位置にある第2の位置間で変位可能であるように配置されているプランジャ48と、
前記キャビティ18の前記上端部14から延出し、前記キャビティ18内において軸方向に延出位置及び押下位置間で変位可能であるように配置され、かつ、デテント54及び、前記単一クランプ38に係合しかつ前記押下位置まで変位させられたときに前記単一クランプ38を前記開位置まで変位させる受け面56を有するボタン50と、
前記プランジャ48及び前記ボタン50間に圧縮された状態で配置された圧縮ばね52と、
前記キャビティ18内に設けられ、前記ボタン50が前記押下位置まで変位させられたときに前記ボタン50の前記デテント54に弾性的に係合し、前記ボタン50を前記押下位置において前記圧縮ばね52の力に抗して保持するばねキャッチ60と、
前記プランジャ48に設けられ、前記プランジャ48が前記第2の位置まで変位させられたときに前記ボタン50の前記デテント54及び前記ばねキャッチ60の係合を解除するキャッチリリース62とを含む、患者自己管理式液体薬剤投与装置。」

2 引用文献2
(1)引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、患者自身が自己の体内に薬液を注入するための薬液注入器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療においては、手術等の後に発生する疼痛を軽減することを目的として、鎮痛剤等の薬液を自己の体内に注入する場合がある。
このような、自己の体内に薬液を注入するに際しては、その薬液を注入する専用の注入器が知られている(例えば、特許文献1参照)。」

イ「【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、その目的は、注入される薬液を、医師が予め定めていた必要十分量まで貯留させて、患者自身が正しい注入量で自己の体内に注入することができる薬液注入器を提供することにある。」

ウ「【0023】
リザーバ12は、リザーバ部材121が、上述した第1支持部材15の被覆頭部151に被せられることによって構成されるものであって、供給側チューブ14から供給される薬液の貯留にしたがって膨張するように構成されている。
リザーバ部材121は、可撓性を有した樹脂を材料として略袋状に形成され、開口側に被覆頭部151を嵌め込むことにより薬液が貯留可能な状態を構成している。より具体的には、リザーバ部材121は、押圧変形可能であって、形状保持力を有した袋状に形成された容器が選択されており、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等のプラスチック樹脂や、シリコーンゴム、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー等の合成樹脂ゴムを材料として、肉厚0.1?1mmに設定した容器状に形成される。また、このリザーバ部材121の形状としては、ドーム型形状、ベローズ形状、シリンジ形状、転動型ダイヤフラム形状等を選択することが可能である。」

エ「【0055】
[第3実施形態]
次に、上述した第1実施形態および第2実施形態の薬液注入器1,1Aとは異なる構成とされた、本発明に係る第3実施形態の薬液注入器1Bについて説明する。
図7は、第3実施形態の薬液注入器1Bの縦割り断面を示す断面図であり、リザーバ12Bに薬液が必要十分量まで貯留された状態を示している。
なお、以下においては、押しボタン23Bが配された紙面上側を『(薬液注入器1の)上側』と称し、その逆側となる紙面下側を『(薬液注入器1の)下側』と称する。
【0056】
図7に示すように、第3実施形態の薬液注入器1Bは、外装筐体としてのハウジング11Bと、ハウジング11B内に配され薬液を貯留するリザーバ12Bと、リザーバ12Bに薬液を供給する薬液供給流路としての供給側チューブ13Bと、リザーバ12Bから薬液を排出する薬液排出流路としての排出側チューブ14Bと、リザーバ12Bを押圧することによりリザーバ12Bに貯留された薬液を排出側チューブ14Bに送る押圧手段としての押圧機構20Bと、押圧機構20Bによるリザーバ12Bの押圧を規制あるいは許可をする押圧一時規制手段としての押圧規制機構30Bと、係止機構19Bを備えて大略構成される。なお、供給側チューブ13Bおよび排出側チューブ14Bは、図1に示す薬液供給チューブ7および薬液排出チューブ8と一体化されて構成される。
また、特に図示していないが、供給側チューブ13Bには、リザーバ12Bが押圧された場合に、薬液が供給側チューブ13Bに流れ込んでしまうことを防止するための逆止弁が、適宜に設けられていてもよい。
【0057】
ハウジング11Bは、図7に示すように、上方に押圧機構20Bを構成する押しボタン23Bを露出させるための上側開口部111Bを備え、略有底円筒状に形成されている。
また、ハウジング11Bは、その内部において、ハウジング11Bから延出される第1支持部15Bおよび第2支持部16Bを備える。この第1支持部15B、第2支持部16Bは、ハウジング11B内を輪切りにするように配され、内蔵される各部が安定的動作するように各部を支持する。
第1支持部15Bは、上面が平面状に形成されリザーバ部材121Bが被せられる被覆頭部151Bを有する。第1支持部15Bは、被覆頭部151Bと底部152Bを連通して供給側チューブ13Bおよび排出側チューブ14Bを嵌挿する貫通部153B,154Bとを備える。また、第2支持部16Bは、上側プランジャ22Bの往復移動を案内する貫通部161Bを備える。
【0058】
また、排出側チューブ14Bが嵌挿される第1支持部15Bは、貫通部154B上方の隣接位置に適宜の空間が設けられ、アンブレラ弁18Bが配設されている。
アンブレラ弁18Bは、リザーバ12Bに貯留された薬液が所定圧力以上の圧力で押圧された場合に、自動的に開放して排出側チューブ14Bに薬液を送り出す弁であり、図示するような傘状に形成される。
【0059】
リザーバ12Bは、リザーバ部材121Bが、上述した第1支持部15Bの被覆頭部151Bに被せられることによって構成されるものであって、供給側チューブ14Bから供給される薬液の貯留にしたがって膨張するように構成されている。また、リザーバ部材121Bは、その上方において二色成形により一体化された押圧受け部122Bを備える。
【0060】
押圧受け部122Bは、下側プランジャ21Bの逃げを許容しながら介装部材25Bから押圧を受ける受け延在部123Bと、係止機構19Bとの係止を解除する係止解除延在部124Bと、ストッパ31Bを強制的に移動させる押出部材としての押出延在部125Bとを備える。
受け延在部123Bは、下側プランジャ21B側に延在して形成され、介装部材25Bからの押圧を受ける当接面126Bを備えるとともに、下側プランジャ21Bの押下を案内するように凹状部127Bを備える。係止解除延在部124Bは、上方に延在し上端に係止機構19Bとの係止を解除する係止解除凸部128Bが設けられている。押出延在部125Bは、リザーバ12Bに薬液が必要十分量貯留された場合に、ストッパ付勢ばね32Bの付勢力に抗してストッパ31Bを許可位置に押出すように上方に延在している。
【0061】
押圧機構20Bは、下部がリザーバ部材121Bの上面と接しリザーバ12Bの膨張収縮にしたがって往復移動するピストン部材としての下側プランジャ21Bと、スライド移動させることにより下側プランジャ21Bを押下してリザーバ12Bに貯留された薬液を排出する押圧部材としての上側プランジャ22Bと、上側プランジャ22Bと一体化されて形成され外部に露出する押しボタン23Bと、下側プランジャ21Bの押下により圧縮される押圧付勢ばね24Bと、押圧付勢ばね24Bからの押圧を受け延在部123Bに伝達する介装部材25Bと、上側プランジャ22Bおよび押しボタン23Bを押圧待機位置まで戻すように付勢するボタン付勢ばね26Bとを備えて構成される。
【0062】
下側プランジャ21Bは、リザーバ部材121Bの上方に略円柱状に延び、上下方向にスライド移動するようになっている。この下側プランジャ21Bは、上側プランジャ22Bの下面と好適に当接可能に形成され、押圧付勢ばね24Bの端部と当接する当接凸状部211Bと、係止機構19Bに係止する係止凸状部212Bとを備える。
【0063】
上側プランジャ22Bは、略円柱状に形成され、下側プランジャ21Bの上面と好適に当接可能に形成される。この上側プランジャ22Bは、上方が外部に露出する押しボタン23Bと一体化されて形成されており、下側プランジャ21Bと同様に上下方向にスライド移動するようになっている。また、上側プランジャ22Bの下端には、ストッパ31Bの接続端部311Bが、内方(下側プランジャ21B側)に傾くように位置している場合に、この接続端部311Bに当接して、下方へのスライド移動を規制する当接突出部221Bが設けられている。なお、図7に示す上側プランジャ22Bは、リザーバ12Bに薬液を貯留させる押圧待機位置に位置しており、特に図示しないが、リザーバ12Bを押圧して貯留された薬液を排出する圧縮位置との間をスライド移動する。
【0064】
押しボタン23Bは、ハウジング11Bの上側開口部111Bから外部に露出するものであって、患者が押圧操作するためのものであり、上側プランジャ22Bの上方と一体化され、逆様にされた略コップ状に形成されている。押しボタン23Bの上面231Bは、患者が押圧する個所となっており、下部周縁には周方向に突出して上側開口部111Bの開口縁部に当接する突出当接部232Bが設けられている。
【0065】
押圧付勢ばね24Bは、圧縮コイルばねで構成され、上端が下側プランジャ21Bの211Bに当接し下端が介装部材25Bに当接している。
介装部材25Bは、押圧付勢ばね24Bと受け延在部123Bとの間に介装され、互いに当接する当接部251Bを備える。
ボタン付勢ばね26Bは、圧縮コイルばねで構成され、上端が押しボタン23Bの内面に当接し下端が第2支持部16Bに当接している。
【0066】
押圧規制機構30Bは、リザーバ12Bの膨張量が予め定めた容量に達するまでは押圧機構20Bによるリザーバ12Bの押圧を規制し、かつリザーバ12Bの膨張量が予め定めた容量に達した場合には規制していた押圧機構20Bによるリザーバ12Bの押圧を許可するものである。
押圧規制機構30Bは、上側プランジャ22Bの押圧待機位置から圧縮位置へのスライド移動を規制する規制部材としてのストッパ31Bと、このストッパ31Bを付勢するストッパ付勢ばね32Bとを備える。
【0067】
ストッパ31Bは、上側プランジャ22Bの押圧待機位置から圧縮位置へのスライド移動を規制あるいは許可するものであり、側面視へ字状に形成され、中間部がハウジング11Bから延出された軸支部17Bにて回転可能に軸支されている。
ストッパ31Bの一端(図示において上方配置)は、ストッパ付勢ばね32Bから付勢力を受けるようにストッパ付勢ばね32Bに接続された接続端部311Bとなっており、他端(図示において下方配置)は、押出延出部125Bから押出し力を受ける受け側端部312Bとなっている。
【0068】
ストッパ付勢ばね32Bは、一端が第2支持部16Bに固定され、他端がストッパ31Bの接続端部311Bに接続され、ストッパ31Bを下方に付勢している。
ここで、ストッパ31Bの接続端部311Bは、軸支部17Bよりも内方(下側プランジャ21B側)に配されているので、通常時においては、ストッパ31Bの接続端部311Bは、内方(下側プランジャ21B側)に傾くようになっている。
【0069】
係止機構19Bは、下側プランジャ21Bの係止凸状部212Bと係止する機構である。
係止機構19Bは、第2支持部16Bから下方に延在し、下方端に適宜の凸状部および凹状部が形成され、下側プランジャ21Bの係止凸状部212Bと好適に係止し、かつ、その係止を係止延在部124Bの係止解除凸部128Bにて解除するように形成されている。
【0070】
以上のように構成された薬液注入器1Bは、次のような作用効果を奏する。
すなわち、リザーバ12Bに薬液が貯留されていない状態においては、リザーバ12Bは収縮状態となっており、リザーバ部材121Bの一部を構成する押圧受け部122Bは、下方に位置する。
そうすると、押出延在部125Bも下方に位置し、押圧規制機構30Bのストッパ31Bは、ストッパ付勢ばね32Bの付勢力により、軸支部17Bを軸支点として回転し、ストッパ31Bの接続端部311Bは、内方(下側プランジャ21B側)に傾くように位置する。なお、この際のストッパ31Bの位置が、上側プランジャ22Bおよび押しボタン23Bが押圧待機位置から圧縮位置へのスライド移動を規制する規制位置となる。
【0071】
このように、ストッパ31Bの接続端部311Bが、内方(下側プランジャ21B側)に傾くように位置していると、上側プランジャ22Bの当接突出部221Bが当接することとなり、上側プランジャ22Bは、下方にスライド移動して下側プランジャ21Bを押圧することができない。つまり、上側プランジャ22Bおよび押しボタン23Bの押圧は規制され、押圧待機位置に位置させたままとする。
なお、この際、リザーバ12Bに貯留される薬液は、アンブレラ弁18Bにより排出側チューブ14Bに流出しないようになっているので、供給側チューブ13Bから送られてくる薬液は、好適にリザーバ12Bに貯留される。
【0072】
図7に示すように、供給側チューブ13Bから薬液が送られ、リザーバ12Bに薬液が必要十分量貯留された状態においては、リザーバ12Bは膨れ上がる。
そうすると、押圧受け部122Bは上方に移動し、リザーバ12Bに薬液が必要十分量貯留された場合には、押圧受け部122Bの一部を構成する押出延在部125Bの上端が、ストッパ31Bの受け側端部312Bに当接し、上方に押し出す。
つまり、押出延在部125Bは、ストッパ付勢ばね32Bの付勢力に抗して、ストッパ31Bを軸支部17Bを軸支点として、図示左回りに回転させる。
【0073】
そうすると、それまで内方(下側プランジャ21B側)に傾くように位置していたストッパ31Bの接続端部311Bは、図7に示すように、押圧受け部122Bと鉛直方向に揃うこととなる。なお、この際のストッパ31Bの位置が、上側プランジャ22Bおよび押しボタン23Bが押圧待機位置から圧縮位置へのスライド移動を許可する許可位置となる。
【0074】
これによって、上側プランジャ22Bの当接突出部221Bは、ストッパ31Bの接続端部311Bに当接することがなくなり、上側プランジャ22Bは、下方にスライド移動して下側プランジャ21Bを押圧することができる。
したがって、ストッパ31Bは許可位置に位置し、上側プランジャ22Bは、下方にスライド移動して下側プランジャ21Bを押圧することができる。つまり、押しボタン23Bの押圧は許可され、押圧待機位置から圧縮位置にスライド移動可能となる。
【0075】
ここで、患者は、押しボタン23Bを押して上側プランジャ22Bを下方にスライド移動させた場合には、上側プランジャ22Bは、下側プランジャ21Bを押下することとなり、押下した下側プランジャ21Bの係止凸状部212Bは、係止機構19Bに係止する。これにより、押下された下側プランジャ22Bは、押下された状態が維持される
なお、この際、患者の手から押しボタン23Bが外れた場合には、ボタン付勢ばね26Bの付勢力により、押しボタン23Bは押す前の元の位置に戻る。また、押出延在部125Bが下方に移動しているので、ストッパ31Bは、ストッパ付勢ばね32Bの付勢力によりストッパ31Bを軸支部17Bを軸支点として図示右回りに回転し、上述したような規制位置となる。
【0076】
この際、押圧付勢ばね24Bは、下側プランジャ22Bと介装部材25Bとにより圧縮され、この圧縮された押圧付勢ばね24Bは、その復元力により介装部材25Bを徐々に下方にスライド移動させる。
そうすると、介装部材25Bは、押圧受け部122Bの受け延在部123Bに押圧力を伝達し、押圧受け部122Bと一体化されるリザーバ部材121Bは、押し潰されていく。つまり、リザーバ12Bが、圧縮されていくこととなり、貯留されていた薬液は、アンブレラ弁18Bを乗り越え、排出側チューブ14Bから徐々に排出される。
【0077】
なお、リザーバ12Bに貯留されていた薬液を排出しきった場合には、再度、供給側チューブ13Bから薬液が送られ、リザーバ12Bに貯留されていき、押圧受け部122Bは上方に移動し、上方に移動した係止解除延在部124Bにて係止機構19Bの下端を移動させ、係止凸状部212Bと係止機構19Bとの係止を解除する。
【0078】
もって、患者自身は、リザーバ12Bが所定の膨張量となる、リザーバ12Bに貯留された薬液が必要十分量に達するまで待つことが必要となり、必要十分量に達した場合には、ストッパ31Bが規制位置から許可位置に好適に切り替わる。これによって、薬液を医師が予め定めていた必要十分量となる正しい注入量で、自己の体内に注入することができる。」

オ「図7



カ 摘記事項エの【0066】-【0067】、摘記事項オから、押圧規制機構30Bは、軸支部17Bに対して一側に位置する接続端部311Bと、前記軸支部17Bに対して他側に位置する受け側端部312Bとを有していることが看て取れる。

キ 摘記事項エに記載された「当接突出部221B」は、摘記事項オの図7において図示されていないが、摘記事項エの【0063】の記載等から、下図において矢印Aが指している部分であると認められる。そして、摘記事項エの【0063】には、「上側プランジャ22Bは、略円柱状に形成され」と記載されていることから、「当接突出部221B」は、略円柱状に形成された上側プランジャ22Bの長手方向に延びる側面から突出した部分であると理解できる。


(2)上記の摘記事項、及び、認定事項から、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる(以下、「引用文献2記載の技術」という。)。
「患者自身が自己の体内に薬液を注入するための薬液注入器であって、
ハウジング11Bと、
押圧変形可能なリザーバ部材121Bを有するリザーバ12Bと、
供給側チューブ13Bと、
排出側チューブ14Bと、
前記リザーバの前記リザーバ部材121Bに一体化され、前記リザーバ12Bに薬液が必要十分量貯留された状態にある上方の位置及び、前記リザーバ12Bに薬液が貯留されていない状態にある下方の位置間で移動可能であるように配置されている押圧受け部122Bと、
押圧待機位置及び圧縮位置間でスライド移動可能であるように配置された押しボタン23B及び上側プランジャ22Bと、
軸支部17Bで前記ハウジング11Bに回転可能に軸支され、前記押しボタン23B及び上側プランジャ22Bが前記押圧待機位置にありかつ前記押圧受け部122Bが前記下方の位置にあるときに前記押しボタン23B及び上側プランジャ22Bの前記押圧待機位置から前記圧縮位置へのスライド移動を規制する規制位置及び、前記押しボタン23B及び上側プランジャ22Bが前記押圧待機位置にありかつ前記押圧受け部122Bが前記上方の位置にあるときに前記押しボタン23B及び上側プランジャ22Bの前記押圧待機位置から前記圧縮位置へのスライド移動を許可する許可位置をとり得る押圧規制機構30Bと、
前記押圧受け部122B及び前記押圧受け部122B間に配置された押圧付勢ばね24Bとを含み、
前記押圧規制機構30Bは、前記軸支部17Bに対して一側に位置する接続端部311Bと、前記軸支部17Bに対して他側に位置する受け側端部312Bとを有し、前記規制位置においては、前記押圧規制機構30Bの前記接続端部311Bが前記押しボタン23B及び上側プランジャ22Bに当接するとともに前記押圧規制機構30Bの前記受け側端部312Bが前記押圧受け部122Bと当接することがなくなるとともに、前記許可位置においては、前記押圧規制機構30Bの前記接続端部311Bが前記押しボタン23B及び上側プランジャ22Bと当接することがなくなるとともに前記押圧規制機構30Bの前記受け側端部312Bが前記押圧受け部122Bに当接し、
前記押圧受け部122Bが、押出延出部125Bをさらに有しており、前記押しボタン23B及び上側プランジャ22Bが、その長手方向に延びる側面から突出した当接突出部221Bをさらに含み、それによって、前記押圧規制機構30Bがとり得る前記規制位置において前記押圧規制機構30Bの前記接続端部311Bに前記当接突出部221Bを当接させることにより前記押しボタン23B及び上側プランジャ22Bのスライド移動を規制し、前記押圧規制機構30Bがとり得る前記許可位置において前記押圧規制機構30Bの前記受け側端部312Bに前記押出延出部125Bを当接させることにより前記押圧規制機構30Bと前記当接突出部221Bとが当接することがなくなり前記押しボタン23B及び上側プランジャ22Bのスライド移動を許可するように構成した薬液注入器。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「底端部16」は、その文言の意味、機能又は構成等からみて、本件発明の「底端部」に相当する。以下同様に、「上端部14」は「上端部」に、「軸方向キャビティ18」及び「キャビティ18」は「軸方向キャビティ」及び「キャビティ」に、「ハウジング12」は「ハウジング」に、「第1の壁24」は「第1の壁」に、「第2の壁26」に、「リザーバ22」は「リザーバ」に、「ポンプ20」は「ポンプ」に、「入口ポート28」は「入口ポート」に、「入口導管32」は「入口導管」に、「出口ポート30」は「出口ポート」に、「出口導管34」は「出口導管」に、「単一クランプ38」は「クランプ」に、「プランジャ48」は「プランジャ」に、「デテント54」は「デテント」に、「押下位置まで変位させられたとき」は「押下位置への変位時」に、「受け面56」は「受け面」に、「ボタン50」は「プランジャ作動ボタン」及び「ボタン」に、「圧縮ばね52」は「ばね」に、「ばねキャッチ60」は「スプリングキャッチ」に、「キャッチリリース62」は「キャッチリリース」に、それぞれ相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点において一致する。
(一致点)
「患者自己管理式液体薬剤投与装置であって、
底端部及び上端部を有する軸方向キャビティを画定するハウジングと、
前記キャビティの前記底端部の近傍に設けられ、かつ、前記キャビティ内に固定配置された第1の壁並びに、前記キャビティ内において前記第1の壁に対してリザーバ満充填位置及びリザーバ空位置間でフレキシブルに変位可能な第2の壁を有するリザーバを画定するポンプと、
前記ポンプの入口ポートに接続された第1の端部及び、加圧液体薬剤源に接続可能な第2の端部を有する入口導管と、
前記ポンプの出口ポートに接続された第1の端部を有する出口導管と、
前記キャビティ内において、前記出口導管を狭窄して該出口導管に前記液体を通過させない閉位置及び、前記出口導管を非狭窄状態にして該出口導管に前記液体を通過させる開位置間で変位可能であるように配置され、かつ前記閉位置に向けて付勢されているクランプと、
前記リザーバの前記第2の壁に係合可能であり、かつ前記キャビティ内において軸方向に、前記第2の壁が前記リザーバ満充填位置にある第1の位置及び、前記第2の壁が前記リザーバ空位置にある第2の位置間で変位可能であるように配置されているプランジャと、
前記キャビティの前記上端部から延出し、前記キャビティ内において軸方向に延出位置及び押下位置間で変位可能であるように配置され、かつ、デテント及び、前記クランプに係合しかつ前記押下位置への変位時に前記クランプを前記開位置まで変位させる受け面を有するプランジャ作動ボタンと、
前記プランジャ及び前記ボタン間に圧縮された状態で配置されたばねと、
前記キャビティ内に設けられ、前記ボタンが前記押下位置まで変位させられたときに前記ボタンの前記デテントに弾性的に係合し、前記ボタンを前記押下位置において前記ばねの力に抗して保持するスプリングキャッチと、
前記プランジャに設けられ、前記プランジャが前記第2の位置まで変位させられたときに前記ボタンの前記デテント及び前記スプリングキャッチの前記係合を解除するキャッチリリースと、を含む装置。」

そして、本願発明と引用発明とは、以下の点において相違する。
(相違点)
本願発明は、「枢動点でハウジングに枢動可能に接続され、ボタンが延出位置にありかつプランジャがリザーバ空位置にあるときに前記ボタンの軸方向変位を防止する第1の位置及び、前記ボタンが前記延出位置にありかつ前記プランジャがリザーバ満充填位置にあるときに前記ボタンの軸方向変位を可能にする第2の位置をとり得るロック機構を含み、
前記ロック機構は、前記枢動点に対して一側に位置する第1の端部と、前記枢動点に対して他側に位置する第2の端部とを有し、前記第1の位置においては、前記ロック機構の前記第1の端部が前記ボタンに係合するとともに前記ロック機構の前記第2の端部が前記プランジャから離脱し、前記第2の位置においては、前記ロック機構の前記第1の端部が前記ボタンから離脱するとともに前記ロック機構の前記第2の端部が前記プランジャに係合し、
前記プランジャが、その長手方向に延びる外側面上に突出部をさらに有しており、前記ボタンが、その長手方向に延びる側面に沿って画定するロックデテントをさらに含み、それによって、前記ロック機構がとり得る前記第1の位置において前記ロック機構の前記第1の端部に前記ロックデテントを係合させることにより前記ボタンの軸方向変位を防止し、前記ロック機構がとり得る前記第2の位置において前記ロック機構の前記第2の端部に前記突出部を係合させることにより前記ロック機構及び前記ロックデテントの前記係合を解除して前記ボタンの軸方向変位を可能にするように構成」しているのに対し、引用発明は、そのようなロック機構を備えていない点。

第6 判断
1 (相違点)について
引用文献2には、上記第4の2(2)に記載したとおり、「軸支部17B(枢動点)でハウジング11B(ハウジング)に回転(枢動)可能に軸支(接続)され、押しボタン23B及び上側プランジャ22B(ボタン)が押圧待機位置(延出位置)にありかつ押圧受け部122B(プランジャ)が下方の位置(リザーバ空位置)にあるときに前記押しボタン23B及び上側プランジャ22B(ボタン)の前記押圧待機位置から圧縮位置へのスライド移動(軸方向変位)を規制(防止)する規制位置(第1の位置)及び、前記押しボタン23B及び上側プランジャ22B(ボタン)が前記押圧待機位置(延出位置)にありかつ前記押圧受け部122B(プランジャ)が上方の位置(リザーバ満充填位置)にあるときに前記押しボタン23B及び上側プランジャ22B(ボタン)の前記押圧待機位置から前記圧縮位置へのスライド移動(軸方向変位)を許可(可能に)する許可位置(第2の位置)をとり得る押圧規制機構30B(ロック機構)を含み、
前記押圧規制機構30B(ロック機構)は、前記軸支部17B(枢動点)に対して一側に位置する接続端部311B(第1の端部)と、前記軸支部17B(枢動点)に対して他側に位置する受け側端部312B(第2の端部)とを有し、前記規制位置(第1の位置)においては、前記押圧規制機構30B(ロック機構)の前記接続端部311B(第1の端部)が前記押しボタン23B及び上側プランジャ22B(ボタン)に当接(係合)するとともに前記押圧規制機構30B(ロック機構)の前記受け側端部312B(第2の端部)が前記押圧受け部122B(プランジャ)と当接することがなくなる(離脱する)とともに、前記許可位置(第2の位置)においては、前記押圧規制機構30B(ロック機構)の前記接続端部311B(第1の端部)が前記押しボタン23B及び上側プランジャ22B(ボタン)と当接することがなくなる(離脱する)とともに前記押圧規制機構30B(ロック機構)の前記受け側端部312B(第2の端部)が前記押圧受け部122B(プランジャ)に当接(係合)し、
前記押圧受け部122B(プランジャ)が、押出延出部125Bをさらに有しており、前記押しボタン23B及び上側プランジャ22B(ボタン)が、その長手方向に延びる側面から突出した当接突出部221Bをさらに含み、それによって、前記押圧規制機構30B(ロック機構)がとり得る前記規制位置(第1の位置)において前記押圧規制機構30B(ロック機構)の前記接続端部311B(第1の端部)に前記当接突出部221Bを当接させることにより前記押しボタン23B及び上側プランジャ22B(ボタン)のスライド移動(軸方向変位)を規制(防止)し、前記押圧規制機構30B(ロック機構)がとり得る前記許可位置(第2の位置)において前記押圧規制機構30B(ロック機構)の前記受け側端部312B(第2の端部)に前記押出延出部125Bを当接(係合)させることにより前記押圧規制機構30B(ロック機構)と前記当接突出部221Bとが当接することがなくなり(係合を解除して)前記押しボタン23B及び上側プランジャ22B(ボタン)のスライド移動(軸方向変位)を許可(可能に)するように構成」する点が記載されている(当審注:括弧内の記載は、対応する本願発明の構成である。すなわち、上記相違点における本願発明の構成は、引用文献2に記載されている。)。
そして、引用発明と引用文献2記載の技術とは、ともに鎮痛剤等の薬剤を自己投与するための装置に関する技術分野に属するものである。
また、自己投与装置において、患者自身が正しい注入量で自己の体内に注入できるようにすることは、きわめて周知な課題であり(必要に応じて、引用文献2の【0006】(第4の2(1)摘記事項イ)参照。)、引用発明及び引用文献2記載の技術も当然内在する課題であるといえる。
したがって、引用発明に引用文献2記載の技術を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、引用文献2記載の技術において、押圧規制機構30Bは押圧機構20Bの長手方向に延びる側面の外側近傍に配置されていることが看て取れる。そして、引用発明の押圧機構であるプランジャ48及びボタン50の長手方向に延びる側面の外側近傍に押圧規制機構を配置できることは、引用文献1の図6-9、図11(第4の1(1)摘記事項カ、キ参照。)から自明であるところ、引用発明に引用文献2記載の技術を採用する場合、引用発明の押圧機構であるプランジャ48及びボタン50の長手方向に延びる側面の外側近傍に押圧規制機構を配置し得るものといえるし、そのほかにも引用発明に引用文献2記載の技術を採用することを阻害する要因は見あたらない。
よって、当該押圧規制機構の端部に当接する押出延出部、当接突出部を、それぞれ引用発明のプランジャ48、ボタン50の長手方向に延びる外側面上に設けることは、当業者が通常なし得ることであり、その形状、配置等を適宜変更して本願発明の、プランジャの長手方向に延びる外側面上に備えられた「突出部」、及びボタンの長手方向に延びる側面に沿って画定された「ロックデテント」とすることは、それにより格別な効果を奏するものともいえず、当業者が適宜なし得る設計変更にすぎない。

そして、本件発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献2記載の技術から当業者が予測し得ない格別な効果を奏するものではない。
したがって、上記相違点は、当業者が容易に想到し得るものである。

2 請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において
「本願請求項1における「前記プランジャが、その長手方向に延びる外側面上に突出部をさらに有しており、前記ボタンが、その長手方向に延びる側面に沿って画定するロックデテントをさらに含み、それによって、前記ロック機構がとり得る前記第1の位置において前記ロック機構の前記第1の端部に前記ロックデテントを係合させることにより前記ボタンの軸方向変位を防止し、前記ロック機構がとり得る前記第2の位置において前記ロック機構の前記第2の端部に前記突出部を係合させることにより前記ロック機構及び前記ロックデテントの前記係合を解除して前記ボタンの軸方向変位を可能にする」という発明特定事項を、設計的事項ということはできない。なぜなら、このように配置された突出部とロックデテントとが協働して、ボーラス送達中のボーラス再充填、又は患者への液体の過剰送達若しくは過剰投与の可能性を避け、ロック機構(100)は、液体薬物の全量を送達できるように、リザーバが充填された後にのみ患者によるポンプの操作が可能になるためである(段落0036-0038)。」
と主張する。
まず、上記請求人の主張における、上記発明特定事項「のように配置された突出部とロックデテントとが協働して、ボーラス送達中のボーラス再充填、又は患者への液体の過剰送達若しくは過剰投与の可能性を避け」ることができるという主張について検討する。
請求人が主張の根拠として挙げている本願の発明の詳細な説明の記載を確認すると、段落【0036】には、「クランプシステムは、ボーラス送達中のボーラス再充填及び患者への液体薬剤の過剰送達または過剰投与の可能性を回避するように構成されていることが望ましい。」と記載されているように、例えば、「クランプシステム」が「ボーラス送達中のボーラス再充填、又は患者への液体の過剰送達若しくは過剰投与の可能性を避け」ることは記載されているものの、「突出部とロックデテントとが協働して、ボーラス送達中のボーラス再充填、又は患者への液体の過剰送達若しくは過剰投与の可能性を避け」ることは記載されていない。よって、請求人の主張は、根拠に乏しく、採用することができない。
次いで、上記請求人の主張における、上記発明特定事項「のように配置された突出部とロックデテントとが協働して・・・ロック機構(100)は、液体薬物の全量を送達できるように、リザーバが充填された後にのみ患者によるポンプの操作が可能になる」という主張について検討する。
本願の発明の詳細な説明の【0036】-【0038】には、突出部、ロックデテント、ロック機構とが協働して、液体薬物の全量を送達できるように、リザーバが充填された後にのみ患者によるポンプの操作が可能になる旨が記載されている。
引用文献2には、引用文献2記載の技術の押出延在部125B、当接突出部221B、押圧規制機構30Bとが協働して、液体薬物の全量を送達できるように、リザーバが充填された後にのみ患者によるポンプの操作が可能になる旨が記載されており(上記第4の2(1)の摘記箇所エ参照。)、当該引用文献2記載の技術を引用発明に採用する際に、押出延在部125B、当接突出部221Bの形状、配置を適宜変更して本願発明の突出部、ロックデテントとすることは、上記1にて判断したように当業者が適宜なし得る設計変更にすぎず、請求人の主張は当を得たものではない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-02-22 
結審通知日 2021-02-24 
審決日 2021-03-15 
出願番号 特願2016-521677(P2016-521677)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今関 雅子  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 倉橋 紀夫
莊司 英史
発明の名称 ロックアウトを有する患者自己管理式の薬剤の大量ボーラス投与装置  
代理人 特許業務法人 大島特許事務所  

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