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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1376576 |
審判番号 | 不服2020-15496 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-11-09 |
確定日 | 2021-08-17 |
事件の表示 | 特願2019-568122「光波長変換装置及び発光装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月26日国際公開、WO2019/244506、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特願2019-568122号(以下「本件出願」という。)は、2019年(令和元年)5月10日(先の出願に基づく優先権主張 2018年(平成30年)6月18日)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和元年12月 9日提出:手続補正書 令和2年 1月31日付け:拒絶理由通知書 令和2年 3月23日提出:意見書 令和2年 3月23日提出:手続補正書 令和2年 4月22日付け:拒絶理由通知書(最後) 令和2年 6月22日提出:意見書 令和2年 6月22日提出:手続補正書 令和2年 7月 7日付け:拒絶理由通知書(最後) 令和2年 8月20日提出:意見書 令和2年 8月20日提出:手続補正書 令和2年 9月 9日付け:令和2年8月20日にした補正の却下の決定 令和2年 9月 9日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和2年11月 9日提出:審判請求書 令和2年11月 9日提出:手続補正書 第2 原査定の概要 原査定の拒絶の理由は、概略、[A]理由1(進歩性)本件出願の請求項1?9に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、[B]理由2(明確性要件)本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない、というものである。 引用文献1:特開2017-194706号公報 引用文献2:特開2015-11308号公報 引用文献3:特開平9-222507号公報 引用文献5:特開2006-10930号公報 (当合議体注:引用文献1は主引例であり、引用文献2?3は周知技術を示す文献であり、引用文献5は副引例である。) 第3 本件発明 本件出願の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明8」という。)は、令和2年11月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本件発明1は、以下のとおりのものである。 「 入射した光によって蛍光を発する蛍光性を有する結晶粒子を主体とする蛍光相と、 透光性を有する結晶粒子を主体とする透光相と、 を有するセラミックス焼結体を備えた光波長変換部材、を備えた光波長変換装置において、 前記セラミックス焼結体の前記光が入射する側とは反対側に、光を反射する反射性を有する金属層を有するとともに、 前記セラミックス焼結体と前記金属層との間に、光の屈折率が異なる誘電体の層を有する誘電体多層膜を備え、 前記誘電体多層膜は、波長550nmの前記光が入射したときの屈折率aの高屈折率膜と、前記高屈折率膜よりも波長550nmの前記光が入射したときの屈折率が低い屈折率bの低屈折率膜と、を有し、前記高屈折率膜は、Ti、Hf、Taから選択される少なくとも1種の元素を含み、 前記誘電体多層膜は、前記光の入射側より、前記高屈折率膜、前記低屈折率膜の順に積層された構成を備え 前記セラミックス焼結体の厚みは、100μm?400μmであり、 前記誘電体多層膜の総厚みが、300nm以下である、 光波長変換部材を備え、 前記光波長変換部材の前記金属層の前記光の入射側とは反対側に、放熱部材が接合され、 前記放熱部材は、前記セラミックス焼結体より放熱性に優れている、 光波長変換装置。」 また、本件発明2?7は、本件発明1に対してさらに他の発明特定事項を付加したものであり、本件発明8は、本件発明1の「光波長変換装置」を備えた「発光装置」の発明である。 第4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明 1 引用文献1の記載事項 原査定の拒絶理由に引用文献1として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2017-194706号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付与した。 (1)「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、プロジェクターなどに用いることができる波長変換装置の製造方法に関する。 ・・・省略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかし、特許文献1に記載の光源装置では、蛍光体層における熱を下面からしか放熱できず、十分な放熱効果を得ることができなかった。これにより、波長変換部材における変換効率が低下し、所望の光出力が得られなくなるという問題があった。 【0005】 本発明は、熱による蛍光体の特性劣化を抑制するために、効率よく放熱できる波長変換装置の製造方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明に係る波長変換装置の製造方法は、波長変換部材を準備する工程と、前記波長変換部材の下面に反射膜を形成する工程と、前記波長変換部材の側面及び前記反射膜の側面が、下面から上面に向かって広がる形状となるように前記波長変換部材及び前記反射膜を加工する工程と、前記波長変換部材の側面、前記反射膜の側面及び前記反射膜の下面に金属材料を含む介在膜を形成する工程と、前記介在膜の下面と放熱部材とを、金属材料を含む接続部材を用いて接続し、前記接続部材を前記介在膜の側面に這い上がらせる工程を含む。 【発明の効果】 【0007】 本発明は、波長変換部材からの熱を効率よく放熱部材へと排熱できる波長変換装置の製造方法とすることができる。 ・・・省略・・・ 【発明を実施するための形態】 ・・・省略・・・ 【0010】 <第1実施形態> 図1に、本実施形態に係る波長変換装置100を示す。波長変換装置100は、放熱部材50と、放熱部材50上に設けられた波長変換部材10と、金属材料を含み放熱部材50と波長変換部材10を接続する接続部材40と、を有する。特に、波長変換部材10は、上面と、側面と、下面と、を有し、接続部材40は、波長変換部材10の側面及び下面と熱的に接続されている。 【0011】 これにより、波長変換部材10の劣化を抑制することができる。これは、接続部材40が、下面のみならず、側面にも熱的に接続されているため、放熱経路を増やすことができるからである。 【0012】 ここで、本明細書では、説明の便宜上、図に示す断面図の下側を「下」と表現し、上側を「上」と表現している。しかし、これらの位置関係は相対的なものであればよく、例えば各図の上下を逆にしても本明細書の範囲内であることは言うまでもない。また、本明細書における「熱的に接続されている」とは、直接接続されているものに限定されず、熱伝導性の部材を介して接続されているものも含む。 【0013】 以下、波長変換装置100における主な構成要素について説明する。 (波長変換部材10) 波長変換部材10は、LEDやLDなどの光源から照射された励起光を波長変換させるものである。波長変換部材10は例えば、蛍光体粉末と保持体とを混合させ、SPS(Spark Plasma Sintering:放電プラズマ焼結)、HIP(Hot Isostatic Pressing:熱間静水圧成形)、CIP(Cold Isostatic Pressing:冷間等方加圧成形)等の焼結法を用いて形成することができる。光源としてLDを用いる場合、LD光は光密度が高いので、波長変換部材10は発熱しやすい。しかし、放熱性に優れる波長変換装置であれば、光源としてLDを用いる場合であっても十分に使用することができる。 【0014】 波長変換部材10の形状は、板状体が好ましい。これにより、放熱部材50上に安定して波長変換部材10を配置することができる。本実施形態では、波長440?480nmの青色の励起光により励起し、波長500?540nmの緑色の光を放出するような蛍光体を用いている。このような条件を満たす波長変換部材10の材料としては、LAG系蛍光体、YAG系蛍光体などが挙げられる。保持体としては、酸化アルミ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化ルテチウム、酸化チタン、酸化クロム、酸化タングステン、五酸化二バナジウム、三酸化モリブデン、酸化ナトリウム、酸化イットリウム、二酸化ケイ素、酸化ホウ素、五酸化二リン等を用いることができる。 【0015】 波長変換部材10の側面は、下面から上面に向かって広がるように傾斜して設けることができる。つまり、波長変換部材10の側面は、下面から上面に向かうにつれて徐々に外側へ広がった形状とすることができる。このとき、傾斜角度(下面と側面が成す角度)は好ましくは5°以上85°以内、より好ましくは20°以上70°以内、さらに好ましくは30°以上60°以内とすることができる。これにより、波長変換部材10の側面における表面積を大きくすることができるため、放熱性を向上させることができる。 【0016】 さらに、図示していないが波長変換部材10の側面は、粗面とすることもできる。これにより、光を乱反射させることができるので、効率良く光を取り出すことができる。また、粗面とすることで側面の表面積が増加するため、放熱性をより向上させることができ、さらに、接続部材40や介在膜30等の側面に接着する部材との密着性も向上させることができる。 【0017】 (反射膜20) 本実施形態では、波長変換部材10と接続部材40との間に反射膜20を設けている。反射膜20は、波長変換部材10の上面側から入射した光を、再度上面側に反射させるためのものである。反射膜20は波長変換部材10の下面と接続部材40との間に設けられている。こうすることで、光を効率よく反射させ、光取り出し効率を向上させることができる。反射膜20は、単膜であってもよいし、多層膜であってもよい。本実施形態においては、反射膜20として誘電体材料よりなる第1反射膜21及び金属材料からなる第2反射膜22を設けているが、いずれか一方のみを用いることもできるし、他の構成を採用することもできる。以下、第1反射膜21と第2反射膜22について説明する。 【0018】 (第1反射膜21) 第1反射膜21は、誘電体材料からなるものを用いることができる。第1反射膜21としては、酸化ケイ素、酸化ニオブ、酸化アルミ、酸化ジルコニウム、窒化アルミ、窒化ケイ素等を用いることができる。 【0019】 第1反射膜21の膜厚は、10nm以上10000nm以下、好ましくは100nm以上1000nm以下とすることができる。これにより、浅い角度で入射した光を、全反射させることができる。 【0020】 第1反射膜21に誘電体材料を用いると、反射率が向上し、光取り出し効率は向上するものの、誘電体の熱伝導率は一般に小さいため、放熱性は低下してしまう。しかし、本発明によれば、接続部材40は、波長変換部材10の下面のみならず側面とも熱的に接続されているため、高い光取り出し効率を維持したままで、放熱性の低下も抑制することができる。 【0021】 (第2反射膜22) 第2反射膜22は、金属材料よりなるものとすることができ、第1反射膜21の下側に設けることができる。第2反射膜22は、例えば、アルミニウム、銀、ロジウムから選択された少なくとも一種の金属を含む金属膜とすることができるが、反射率の高い銀を用いるのが好ましい。これにより、第1反射膜21で反射できなかった光も反射することができるため、光を損失なく反射できる。なお、第2反射膜に銀を用いる場合は、反射膜は波長変換部材の下面のみに形成されている。すなわち、波長変換部材の側面には形成されていない。波長変換部材の側面まで反射膜を形成すると、側面の一部が露出してしまい、露出した領域から硫化し黒色化してしまう。反射膜を下面のみに設けることにより、介在膜で完全に被覆することができるため、劣化を誘発する元素に第2反射膜が晒されない。よって、硫化を抑制することができる。 ・・・省略・・・ 【0026】 (接続部材40) 接続部材40は、金属材料を含んでおり、放熱部材50と波長変換部材10と機械的に固定すると同時に、両者を熱的に接続するためのものである。接続部材40は、放熱伝導率の良い材料を用いることが好ましい。例えば、銀、金、パラジウムなどの導電ペーストや、金スズなどの共晶はんだ、低融点金属等のロウ材を用いることができる。中でも、比較的低温で溶融して接着でき、放熱性も良好な金スズとの共晶はんだを用いることが好ましい。 【0027】 接続部材40は、波長変換部材10の上面以外の領域の全てと、熱的に接続されていることが好ましい。つまり、反射膜20を有しない場合は、波長変換部材10の側面及び下面と熱的に接続されており、波長変換部材10の下側に反射膜20を有する場合は、波長変換部材10の側面、反射膜20の側面及び反射膜20の下面と熱的に接続されているのが良い。これにより、広範囲での放熱経路を確保することができる。なお、接続部材40は波長変換部材10と直接接続されている必要はなく、例えば間に介在膜30を介することもできる。 【0028】 (放熱部材50) 放熱部材50は、いわゆるヒートシンクであり、接続部材40を介して波長変換部材10と熱的に接続されている。放熱部材50は熱伝導率を考慮して選択することができる。具体的には、金、銀、アルミニウム、ニッケル、銅、鉄、タングステン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ダイヤモンド、ステンレス、真鍮、カーボン等、好ましくは鉄、より好ましくは銅を用いることができる。これにより、波長変換部材10の特性劣化を抑制することができるので、信頼性の高い波長変換装置を提供することができる。 【0029】 放熱部材50の形状は典型的には板状とすることができる。また、放熱部材50は、表面をめっき処理してもよい。めっき処理の材料としては、例えば、ニッケル/金めっきが挙げられる。こうすることで、放熱部材50の腐食を防止することができる。 ・・・省略・・・ 【0037】 <第2実施形態> 波長変換装置100と異なる形態として、図3に示す波長変換装置200のような構成とすることもできる。波長変換装置200は、第1実施形態に示した第1反射膜21と第2反射膜22との間に、誘電体多層膜よりなる第3反射膜23を有する。第3反射膜23は、第1反射膜21に対して主に垂直方向に入射する光を反射することができる。この構成では、誘電体多層膜により、反射率は向上するものの放熱性が低下する。しかし、本発明においては、下面のみならず側面にも接続部材を設けているため、一定の効果が期待できる。 【0038】 誘電体多層膜は、第1反射膜21における誘電体膜の材料のうち、屈折率が異なる2種以上の層を所定の膜厚で交互に積層したものを用いることができる。例えば、酸化ケイ素/酸化ニオブ、酸化ケイ素/酸化アルミ等を2ペア以上積層したものが好ましい。」 (2)図1 (3)図3 2 引用発明 引用文献1の上記1において、【0013】の記載から、波長変換部材は、蛍光体粉末と保持体とを混合させ、焼結法を用いて形成することが把握できる。また、【0014】の記載から、波長440?480nmの青色の励起光により励起し、波長500?540nmの緑色の光を放出する蛍光体粉末の材料としてLAG系蛍光体を用いたものが把握できる。さらに、【0014】の記載から、保持体として酸化アルミを用いたものが把握できる。 そうしてみると、引用文献1には、第2実施形態の波長変換装置として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「放熱部材と、放熱部材上に設けられた波長変換部材と、金属材料を含み放熱部材と波長変換部材を接続する接続部材と、を有する波長変換装置であって、 波長変換部材は、上面と、側面と、下面と、を有し、接続部材は、波長変換部材の側面及び下面と熱的に接続され、 波長変換部材は、蛍光体粉末と保持体とを混合させ、焼結法を用いて形成し、波長440?480nmの青色の励起光により励起し、波長500?540nmの緑色の光を放出する蛍光体粉末としてLAG系蛍光体を用い、保持体として酸化アルミを用い、 波長変換部材と接続部材との間に反射膜を設け、反射膜として誘電体材料よりなる第1反射膜及び金属材料からなる第2反射膜を設けて、 第1反射膜と第2反射膜との間に、誘電体多層膜よりなる第3反射膜を有し、第3反射膜は、第1反射膜に対して主に垂直方向に入射する光を反射することができ、誘電体多層膜は、屈折率が異なる2種以上の層を所定の膜厚で交互に積層したものを用いた、 波長変換装置。」 第5 対比・判断 1 本件発明1について (1)対比 本件発明1と引用発明とを対比する。 ア 光波長変換部材 引用発明の「波長変換部材」は、「蛍光体粉末と保持体とを混合させ、焼結法を用いて形成し」、「波長440?480nmの青色の励起光により励起し、波長500?540nmの緑色の光を放出する蛍光体粉末としてLAG系蛍光体を用い、保持体として酸化アルミを用い」る。 上記構成からみて、引用発明の「LAG系蛍光体」は、入射した光によって蛍光を発する蛍光性を有するといえる。また、技術常識から、引用発明の「蛍光体粉末として」の「LAG系蛍光体」は、結晶粒子であるといえる。そうしてみると、引用発明の「波長変換部材」は、入射した光によって蛍光を発する蛍光性を有する結晶粒子を主体とする蛍光相を有するといえる。 また、技術常識から、引用発明の「保持体として」の「酸化アルミ」は、透光性を有する結晶粒子であるといえる。そうしてみると、引用発明の「波長変換部材」は、透光性を有する結晶粒子を主体とする透光相を有するといえる。 さらに、引用発明の「波長変換部材」は、「蛍光体粉末と保持体とを混合させ、焼結法を用いて形成」するものであることと、引用発明の「蛍光体粉末」及び「保持体」の材料からみて、引用発明の「波長変換部材」は、セラミックス焼結体であるといえる。 上記の点を総合すると、引用発明の「波長変換部材」は、本件発明1の「セラミックス焼結体」に相当する。また、引用発明の「波長変換部材」は、本件発明1の「セラミックス焼結体」の「入射した光によって蛍光を発する蛍光性を有する結晶粒子を主体とする蛍光相と、透光性を有する結晶粒子を主体とする透光相と、を有する」との要件を満たす。 イ 金属層 引用発明は、「放熱部材と、放熱部材上に設けられた波長変換部材と、金属材料を含み放熱部材と波長変換部材を接続する接続部材と、を有」し、「波長変換部材は、上面と、側面と、下面と、を有し、接続部材は、波長変換部材の側面及び下面と熱的に接続され」、「波長変換部材と接続部材との間に反射膜を設け、反射膜として誘電体材料よりなる第1反射膜及び金属材料からなる第2反射膜を設けて」いる。 上記構成からみて、引用発明の「第2反射膜」は、「波長変換部材」の光が入射する側とは反対側にあるといえる。また、技術常識から、引用発明の「第2反射膜」が、光を反射する反射性を有し、層をなすことは明らかである。 そうしてみると、引用発明の「金属材料からなる第2反射膜」は、本件発明1の「反射性を有する金属層」に相当する。 ウ 誘電体多層膜 引用発明は、「第1反射膜と第2反射膜との間に、誘電体多層膜よりなる第3反射膜を有し、第3反射膜は、第1反射膜に対して主に垂直方向に入射する光を反射することができ」、また、引用発明の「誘電体多層膜」は、「屈折率が異なる2種以上の層を所定の膜厚で交互に積層したものを用いた」ものである。 上記イの構成と上記構成からみて、引用発明の「誘電体多層膜よりなる第3反射膜」は、「波長変換部材」と「金属材料からなる第2反射膜」との間にあり、光の屈折率が異なる誘電体の層を有するといえる。また、上記アの「波長500?540nmの緑色の光を放出する蛍光体粉末としてLAG系蛍光体を用い」ていることから、引用発明の「誘電体多層膜よりなる第3反射膜」は、波長550nmの光が入射したときの屈折率の高屈折率膜と、前記高屈折率膜よりも波長550nmの光が入射したときの屈折率が低い低屈折率膜を有するといえる。 そうしてみると、引用発明の「誘電体多層膜よりなる第3反射膜」は、本件発明1の「誘電体多層膜」に相当する。また、引用発明の「誘電体多層膜よりなる第3反射膜」は、本件発明1の「誘電体多層膜」の「波長550nmの前記光が入射したときの屈折率aの高屈折率膜と、前記高屈折率膜よりも波長550nmの前記光が入射したときの屈折率が低い屈折率bの低屈折率膜と、を有」するとの要件を満たす。 エ 光波長変換部材 上記アないしウを総合すると、引用発明の「波長変換部材」、「金属材料からなる第2反射膜」及び「誘電体多層膜」を有する部材は、本件発明1の「光波長変換部材」に相当する。 また、引用発明の「波長変換部材」、「金属材料からなる第2反射膜」及び「誘電体多層膜」を有する部材は、本件発明1の「光波長変換部材」の、「セラミックス焼結体を備えた」との要件及び「前記セラミックス焼結体の前記光が入射する側とは反対側に、光を反射する反射性を有する金属層を有するとともに、前記セラミックス焼結体と前記金属層との間に、光の屈折率が異なる誘電体の層を有する誘電体多層膜を備え」との要件を満たす。 オ 放熱部材 上記イの構成からみて、引用発明の「放熱部材」は、「金属材料からなる第2反射膜」の光の入射側とは反対側に接合されているといえる。 そうしてみると、引用発明の「放熱部材」は、その文言どおり、本件発明1の「放熱部材」に相当する。また、引用発明の「放熱部材」は、本件発明1の「放熱部材」の「前記光波長変換部材の前記金属層の前記光の入射側とは反対側に」「接合され」との要件を満たす。 カ 光波長変換装置 上記アないしオを総合すると、引用発明の「波長変換装置」は、本件発明1の「光波長変換装置」に相当する。また、引用発明の「波長変換装置」は、本件発明1の「光波長変換装置」の「光波長変換部材、を備えた」との要件を満たす。 (2)一致点及び相違点 以上より、本件発明1と引用発明とは、 「 入射した光によって蛍光を発する蛍光性を有する結晶粒子を主体とする蛍光相と、 透光性を有する結晶粒子を主体とする透光相と、 を有するセラミックス焼結体を備えた光波長変換部材、を備えた光波長変換装置において、 前記セラミックス焼結体の前記光が入射する側とは反対側に、光を反射する反射性を有する金属層を有するとともに、 前記セラミックス焼結体と前記金属層との間に、光の屈折率が異なる誘電体の層を有する誘電体多層膜を備え、 前記誘電体多層膜は、波長550nmの前記光が入射したときの屈折率aの高屈折率膜と、前記高屈折率膜よりも波長550nmの前記光が入射したときの屈折率が低い屈折率bの低屈折率膜と、を有する、 光波長変換部材を備え、 前記光波長変換部材の前記金属層の前記光の入射側とは反対側に、放熱部材が接合された、 光波長変換装置。」の点で一致し、以下の点で相違するか、一応相違する。 (相違点1) 「誘電体多層膜」が、本件発明1は、「前記高屈折率膜は、Ti、Hf、Taから選択される少なくとも1種の元素を含」むのに対して、引用発明の「誘電体多層膜」は、このような特定がなされていない点。 (相違点2) 「誘電体多層膜」が、本件発明1は、「前記光の入射側より、前記高屈折率膜、前記低屈折率膜の順に積層された構成を備え」るのに対して、引用発明の「誘電体多層膜」は、このような特定がなされていない点。 (相違点3) 「セラミックス焼結体」が、本件発明1は、「厚みは、100μm?400μmであ」るのに対して、引用発明の「波長変換部材」の厚みは、明らかでない点。 (相違点4) 「誘電体多層膜」が、本件発明1は、「総厚みが、300nm以下である」のに対して、引用発明の「誘電体多層膜」の総厚みは、明らかでない点。 (相違点5) 「放熱部材」が、本件発明1は、「前記セラミックス焼結体より放熱性に優れている」のに対して、引用発明の「放熱部材」は、この点が一応明らかでない点。 (3)判断 事案に鑑みて、誘電体多層膜に関する相違点1、2及び4について、まとめて検討する。 原査定の拒絶理由に引用文献5として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された、特開2006-10930号公報(以下、同じく「引用文献5」という。)の【0037】?【0043】には、ソーダライムガラス基板、下地膜(酸化亜鉛膜)、銀合成膜、密着改善膜(酸化亜鉛膜)、低屈折率膜(酸化珪素膜)、高屈折率膜(酸化ニオブ膜)をこの順に形成した例1の高反射鏡が記載されている。また、上記高反射鏡は、光の入射側より、高屈折率膜、低屈折率膜の順に積層されているといえる。 しかしながら、引用文献5の技術分野(【0001】)及び産業上の利用可能性(【0095】)には、それぞれ、「本発明は、主としてプロジェクションテレビや携帯電話等の小型の液晶ディスプレイ用バックライトモジュールに用いられる高反射鏡に関する。」、「本発明の高反射鏡は、プロジェクションテレビや携帯電話等の小型の液晶ディスプレイ用バックライトモジュールに用いられる高反射鏡として有用である。」と記載されている。 そして、引用発明は、「波長変換装置」であるから、引用文献5に記載された高反射鏡が用いられるプロジェクションテレビや携帯電話等の小型の液晶ディスプレイ用バックライトモジュールとは技術分野が異なる。また、引用発明における「誘電体多層膜よりなる第3反射膜」は、波長変換装置における「第1反射膜と第2反射膜との間に」設けられるものであるところ、引用文献5に記載された高反射鏡が用いられるのはプロジェクションテレビや携帯電話等の小型の液晶ディスプレイ用バックライトモジュールであって、設けられる部材が異なることから、設けられる部材の形状や材料、屈折率や熱伝導性など物性が異なるものである。 そうしてみると、引用発明における「誘電体多層膜よりなる第3反射膜」と引用文献5に記載された高反射鏡とは、適用される技術分野が異なり、また、適用される部材も異なることから、引用発明における「誘電体多層膜よりなる第3反射膜」として、引用文献5に記載された高反射鏡を用いる動機付けはない。 したがって、当業者であっても、引用発明1に引用文献5に記載された事項を適用して上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることが容易になし得たということはできない。 なお、引用発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成を適用することは、原査定の拒絶の理由に示された、引用文献2(特開2015-11308号公報)、引用文献3(特開平9-222507号公報)のいずれの文献にも示されておらず、また、周知技術であるともいえない。 (4)小括 以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?3、5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。 2 本件発明2?8について 本件発明2?8は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2?8も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?3、5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。 第6 明確性要件について 令和2年11月9日に提出された手続補正書により補正されたので、原査定の拒絶の理由2(明確性要件)は解消された。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-07-28 |
出願番号 | 特願2019-568122(P2019-568122) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 小久保 州洋 |
特許庁審判長 |
榎本 吉孝 |
特許庁審判官 |
井口 猶二 関根 洋之 |
発明の名称 | 光波長変換装置及び発光装置 |
代理人 | 名古屋国際特許業務法人 |