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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L |
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管理番号 | 1376690 |
異議申立番号 | 異議2020-700403 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-06-10 |
確定日 | 2021-06-07 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6620132号発明「シール材及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6620132号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6620132号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨・審理範囲 1.本件特許の設定登録までの経緯 本件特許第6620132号に係る出願(特願2017-176309号、以下「本願」ということがある。)は、平成29年9月14日に出願人三菱電線工業株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、令和元年11月22日に特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、令和元年12月11日に特許掲載公報が発行されたものである。 2.本件特許異議の申立ての趣旨 本件特許につき、令和2年6月10日付けで特許異議申立人山川隆久(以下「申立人」ということがある。)により、「特許第6620132号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。(以下、当該申立てを「申立て」ということがある。) 3.審理すべき範囲 上記2.の申立ての趣旨からみて、特許第6620132号の特許請求の範囲の請求項1ないし9に係る発明についての特許を審理の対象とすべきものであって、本件特許異議の申立てに係る審理の対象外となるものはない。 4.以降の手続の経緯 令和2年 9月30日付け 取消理由通知 令和2年12月 2日 意見書・訂正請求書 令和2年12月21日付け 通知書(申立人あて) 令和3年 1月25日 意見書(申立人) 第2 申立人が主張する取消理由 申立人が主張する取消理由は、同人が提出した本件特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第12号証を提示し、具体的な取消理由として、概略、以下の(1)及び(2)が存するとしている。 (1)本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、甲第10号証又は甲第11号証に記載された発明に基づいて、また、甲第1号証、甲第10号証、甲第11号証又は甲第12号証に記載された発明及び甲第2号証並びに甲第3号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由A」という。) (2)本件の請求項1ないし9の記載は、いずれも記載不備であり、特許法第36条第6項第1号又は同条同項第2号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていないから、本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許は、上記要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由B」という。) ・申立人提示の甲号証 甲第1号証:再公表特許第2006/068099号 (なお、申立人は、「国際公開第2006/068099号」と表示しているが、再公表特許公報と国際公開パンフレットは刊行日が異なる別異の刊行物であるから、実際に提示された再公表特許公報が甲第1号証刊行物となる。) 甲第2号証:特開2006-342241号公報 甲第3号証:特開2002-173543号公報 甲第4号証:特開2001-348462号公報 甲第5号証:2016年9月にダイキン工業株式会社により作成・配布されたものと認められる「高機能フッ素ゴム ダイエル」のカタログ(写し) 甲第6号証:2003年5月にダイキン工業株式会社により作成・配布されたものと認められる「ダイエルG-912」の技術資料(写し) 甲第7号証:2019年1月10日に信越化学株式会社により作成(改訂)されたものと認められる「SIFEL3590-N」なる製品の安全データシート(写し) 甲第8号証:特開2013-1880号公報 甲第9号証:特開2008-138071号公報 甲第10号証:国際公開第2011/040576号 甲第11号証:国際公開第2015/020004号 甲第12号証:特開平4-255746号公報 (以下、上記「甲第1号証」ないし「甲第12号証」を、それぞれ、「甲1」ないし「甲12」と略記することがある。) 第3 当審が通知した取消理由の概要 当審は、本件特許第6620132号に対する下記第2に示す特許異議の申立てを審理した上、以下の取消理由を通知した。 ●本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1」という。) ●本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載された発明又は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1ないし9に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2」という。) ●本件特許の請求項1ないし9は、その記載が不備であり、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由3」という。) 第4 令和2年12月2日付訂正請求による訂正の適否 1.訂正内容 令和2年12月2日付訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、訂正前の請求項1を訂正することにより同項を直接又は間接的に引用する請求項2ないし7及び9を訂正し、同請求項8を別途訂正することにより同項を引用する請求項9を訂正するものであるから、本件特許に係る請求項1ないし9を一群の請求項ごとに訂正するものであり、本件特許に係る明細書を訂正するものであって、以下の訂正事項を含むものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物、及び/又は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するシロキサン骨格の化合物を含み、」と記載されているのを、 「前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含む一液型の液体材料であり、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?7及び9についても同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項8に「前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するビニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物、又は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するビニル基を2以上有するシロキサン骨格の化合物であり、」と記載されているのを、「前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するビニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物の一液型の液体材料であり、」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9についても同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 明細書の【0007】に「前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物、及び/又は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するシロキサン骨格の化合物を含み、」と記載されているのを、「前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含む一液型の液体材料であり、」に訂正する。 2.検討 以下の検討において、本件訂正前の請求項1ないし9をそれぞれ項番に従い「旧請求項1」のようにいい、訂正後の請求項1ないし9についてそれぞれ項番に従い「新請求項1」のようにいう。) (1)訂正の目的 ア.訂正事項1及び2に係る訂正 上記訂正事項1又は2に係る訂正では、旧請求項1又は8について、水素サイト保護剤の種別の並列的選択肢の一部を削除すると共に、明細書の【0021】に記載されていた「水素サイト保護剤は、一液型の液状材料であることが好ましい。」との事項を付加することにより、旧請求項1又は8に対してその特許請求の範囲を減縮して新請求項1又は8としていることが明らかであるから、訂正事項1及び訂正事項2に係る各訂正は、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ.訂正事項3に係る訂正 上記訂正事項3に係る訂正では、訂正事項1に係る訂正がされたことに伴い請求項1ないし7及び9の記載との間で不整合となり、明瞭でないものとなった明細書の記載を単に正したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 ウ.小括 したがって、本件訂正における上記訂正事項1ないし3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる目的要件に適合する。 (2)新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無 上記(1)でそれぞれ説示したとおり、訂正事項1及び2に係る各訂正は、水素サイト保護剤の種別の並列的選択肢の一部を削除すると共に、訂正前の明細書の記載に基づいて、請求項1及び請求項8に係る特許請求の範囲を実質的に減縮していることが明らかであり、また、訂正事項3に係る訂正は、訂正事項1に係る訂正がされたことに伴い、請求項1ないし7及び9の記載との間で不整合となり、明瞭でないものとなった明細書の記載を単に正したものであるから、訂正事項1ないし3に係る訂正は、いずれも、新たな技術的事項を導入するものではなく、訂正前の各請求項に係る特許請求の範囲を実質的に変更又は拡張するものでもない。 したがって、上記各訂正事項に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。 (3)独立特許要件について 本件特許異議の申立ては、請求項1ないし9の全ての請求項についてされているから、本件訂正に係る訂正の適否の検討において、独立特許要件につき検討すべき請求項が存するものではない。 3.訂正に係る検討のまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項並びに第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正を認める。 第5 訂正後の本件特許に係る請求項に記載された事項 訂正後の本件特許に係る請求項1ないし9には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 未架橋ゴム組成物を用いて製造されるシール材であって、 前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤とを含有し、 前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含む一液型の液体材料であり、 前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であり、且つ前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であり、 前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋した後、放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合したゴム組成物で形成されているシール材。 【請求項2】 請求項1に記載されたシール材において、 前記未架橋ゴム組成物が、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤を更に含有するシール材。 【請求項3】 請求項2に記載されたシール材において、 前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が4.0よりも小さいシール材。 【請求項4】 請求項1乃至3のいずれかに記載されたシール材において、 前記未架橋ゴム組成物における無機充填剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して5質量部以下であるシール材。 【請求項5】 請求項1乃至4のいずれかに記載されたシール材において、 前記未架橋ゴム組成物における前記熱架橋剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して0.5質量部以上2.5質量部以下であるシール材。 【請求項6】 請求項2又は3に記載されたシール材において、 前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であるシール材。 【請求項7】 請求項2、3、又は6に記載されたシール材において、 前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が1.0以上であるシール材。 【請求項8】 未架橋ゴム組成物を用いて製造されるシール材であって、 前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤と、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤とを含有し、 前記水素含有フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体であり、 前記熱架橋剤は、パーオキサイドであり、 前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するビニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含む一液型の液体材料であり、 前記架橋助剤は、トリアリルイソシヌレートであり、 前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して5質量部以上15質量部以下であり、 前記未架橋ゴム組成物における前記熱架橋剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して0.5質量部以上2.0質量部以下であり、 前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して2質量部以上5質量部以下であり、 前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であり、 前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下であり、 前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋した後、放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合したゴム組成物で形成されているシール材。 【請求項9】 請求項1乃至8のいずれかに記載されたシール材の製造方法であって、 前記未架橋ゴム組成物を、所定の温度に加熱して前記水素含有フッ素ゴムを前記熱架橋剤により架橋させた後、放射線を照射して前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合を切断して生じる炭素のラジカルに前記水素サイト保護剤を結合させるシール材の製造方法。」 (以下、各請求項に記載された事項で特定される発明を項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明9」といい、「本件発明」と総称することがある。) 第6 当審の判断 当審は、 当審が通知した上記取消理由及び申立人が主張する上記取消理由についてはいずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、 と判断する。 以下、当審が通知した取消理由及び申立人が主張する取消理由につき具体的に検討・詳述する。 I.取消理由1及び2並びに取消理由Aについて 当審が通知した取消理由1及び2並びに申立人が主張する取消理由Aは、いずれも特許法第29条に違反して特許されたものであることをいうものであるから、併せて検討する。 1.各甲号証に記載された事項及び各甲号証に記載された発明 上記取消理由1及び2並びに取消理由Aにつき検討するにあたり、各甲号証に記載された事項を確認し、記載された事項に基づき、甲1、甲10、甲11及び甲12に記載された各発明の認定を行う。(記載事項に係る下線は、当審が付した。) (1)甲1 ア.甲1に記載された事項 甲1には、以下の事項が記載されている。 (1a) 「【請求項1】 (a) 架橋性フッ素ゴムと、 該架橋性フッ素ゴム100重量部に対して、 (b) 2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖に少なくとも有機珪素化合物(c)中のヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(架橋性フッ素ゴム(a)を除く)と、 (c) 分子中に2個以上のヒドロシリル基を有し少なくとも前記反応性フッ素系化合物(b)中のアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物とを合計[(b)+(c)]で1?10重量部の量で含有し、さらに、 (d)加硫剤(d-1)と、必要により共架橋剤(d-2)とを含むゴム組成物。 【請求項2】 上記反応性フッ素系化合物(b)と、上記反応性有機珪素化合物(c)とが液状であり、触媒の存在下に反応してゲル化し得るものであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。 【請求項3】 上記架橋性フッ素ゴム(a)が、 (イ)フッ化ビニリデン系の架橋性フッ素ゴム(FKM)単独、または (ロ)上記架橋性FKMに加えて、架橋性パーフルオロフッ素ゴム(FFKM)を含むものであることを特徴とする請求項1?2の何れかに記載のゴム組成物。 【請求項4】 上記架橋性フッ素ゴム(a)100重量部に対して、反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)とを合計で1?10重量部の量で、加硫剤(d-1)を0.5?2.5重量部の量で、共架橋剤(d-2)を3?6重量部の量で含む請求項1?3の何れかに記載のゴム組成物。 【請求項5】 請求項1?4の何れかに記載のゴム組成物を一次加硫成形後、150℃?300℃の温度で、常圧?減圧下に二次加硫してなるプラズマ処理装置用シール材。」 (1b) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、反応性を有する硬化前のゴム組成物、及びプラズマ処理装置用シール材に関し、さらに詳しくは、特に半導体製造プロセスなどで、高温下で長時間継続的に使用しても相手部材とのベタツキ・固着が発生し難く、パーティクル発生の問題がなく、低コストで製造可能であるプラズマ処理装置用シール材を得ることができ、反応性を有する硬化前の未加硫ゴム組成物、及び該組成物を加硫成形してなるプラズマ処理装置用シール材等に関する。 【背景技術】 【0002】 従来より半導体製造分野などでは、耐プラズマ性に優れたエラストマー材料として、パーフロロエラストマー(FFKM)が使用されていた。 しかしながら、パーフロロエラストマーは非常に高価である。そのため、パーフロロエラストマー(FFKM)に代えて、より安価なフッ素ゴム(FKM)が使用されることが多い。 【0003】 ところが、近年半導体の微細化傾向が強まり、半導体製造工程において、半導体用部材の微細化加工に際し、気相中でプラズマによりエッチング処理するドライエッチング方式が主流となっている。 このドライプロセスにおいて、半導体製造装置に組み込まれているフッ素ゴム(FKM)製シール部材の使用環境は厳しくなりつつあり、フッ素ゴム製シール部材までも、プラズマエッチングされて劣化し、シール性能の低下を引起したり、あるいは、フッ素ゴム製シール部材中に配合されている充填材が露出・脱落し、パーティクルの発生などが起こり、メンテナンス回数の増加につながり、半導体製造工程に悪影響を及ぼす可能性がある。 【0004】 またフッ素ゴム(FKM)成形品を、耐プラズマ性などが求められる半導体製造分野などで継続使用すると、フッ素ゴム成形品の表面にベタツキ(粘着)が発生し、相手部材と粘着してしまうことがある。この現象は、特に半導体製造プロセスで用いられるような高温下で起こりやすい。そのため、例えば、各種半導体製造プロセスで使用される各種処理装置の出入口に設置されるゲート弁などの開閉部のシール材としてフッ素ゴムシール材を使用した場合には、ゲート弁の迅速な開閉に支障をきたし、ゲート弁の開閉の遅延、脱落などのトラブルが発生するという問題もある。 ・・(中略)・・ 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、半導体製造プロセス等で高温下に長時間継続的に使用しても相手部材とのベタツキ・固着が発生し難く、パーティクル発生の問題が生じないプラズマ処理装置用シール材が低コストで得られるような、加硫可能で反応性を有する硬化前のゴム組成物、及び該組成物を加硫成形してなるプラズマ処理装置用シール材を提供することを目的としている。」 (1c) 「【発明の効果】 【0015】 本発明によれば、従来のフッ素ゴム(FKM)よりも耐プラズマ性に優れ、半導体製造プロセス等で高温下に長時間継続的に使用しても相手部材とのベタツキ・固着が発生し難く、パーティクル発生の問題が生じないプラズマ処理装置用シール材が低コストで得られるような、加硫可能なゴム組成物が提供される。 また本発明によれば、該組成物を一次加硫成形後、150?300℃、好ましくは200℃?280℃の温度で常圧?減圧下に、好ましくは真空オーブン中で二次加硫してなる、上記諸特性を具備したプラズマ処理装置用シール材が提供される。 【0016】 上記ゴム組成物の一次加硫成形後の二次加硫を上記条件下、特に、好ましい条件下に行うと、諸反応をより完結に近づけることができ、その結果未反応成分の残量が極めて少なくなり、プラズマ処理装置用シール材として使用してもパーティクルの発生がなく、相手材との固着がなく、耐プラズマ性などにバランスよく優れるため好ましい。 また、本発明に係るプラズマ処理装置用シール材に代表される加硫成形物は、相手部材との非粘着性に優れ、金型離型性が良好であるため、熱プレス等によりプラズマ処理装置用シール材などを、効率よく低コストで安全に製造可能である。」 (1d) 「【0020】 以下、この未加硫ゴム組成物に含まれる各成分について初めに説明する。 <架橋性フッ素ゴム(a)> 架橋性フッ素ゴム(a)としては、本発明の目的に照らして各種半導体ドライプロセスで使用されるプラズマ(プラズマエッチング処理)に対する耐性を示すシール材が得られるようなゴム材が望ましく、ベースゴム材料(a)としては一般的に耐プラズマ性に優れた公知のフッ素ゴムが使用される。 【0021】 本発明では、上記架橋性フッ素ゴム(a)としては、 (イ)フッ化ビニリデン系の架橋性フッ素ゴム(FKM)単独で用いてもよく、また (ロ)上記架橋性FKMに加えて、架橋性パーフルオロフッ素ゴム(FFKM)を含んでいてもよい。 架橋性フッ素ゴム(a)としては、例えば、「フッ素系材料の開発」(1997年、シーエムシー社刊、山辺、松尾編、64pの表1)に挙げられているようなものを使用でき、具体的には、 (1)2元系のビニリデンフルオライド(VDF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体ゴム(FKM)、四フッ化エチレン(TFE)/プロピレンゴム、3元系のビニリデンフルオライド(VDF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/テトラフルオロエチレン(TFE)共重合体ゴム、四フッ化エチレン(TFE)/プロピレン/ビニリデンフルオライド(VDF)共重合体ゴム、ビニリデンフルオライド(VDF)/四フッ化エチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体ゴムに代表されるように、主鎖炭素(C)-炭素(C)結合を構成している炭素(C)の一部に直接結合する水素が存在し、主鎖炭素(C)-水素(H)結合が存在する通常のフッ化ビニリデン系のフッ素ゴム(FKM); ・・(中略)・・ などが挙げられる。 【0022】 このような架橋性フッ素ゴム(a)のうちで、上記架橋性のFKMとしては、商品名「バイトン」(デュポン社製)、「ダイエルG902、G912」(ダイキン工業社製)、「ミラフロン」(旭化成社製)、「フローレル」(3M社製)、「テクノフロン」(ソルベイソレクシス社製)などの商品名で上市されているものを何れも使用可能である。 本発明においては、ベースゴム(a)として、より安価なFKMが単独で、またはFKMを主成分とし、FFKMなどを少量で配合したものが主に使用される。耐プラズマ性の観点からは、架橋性のFFKMを用いると最も優れたシール材を与えるが、コスト高となる。これに対して本発明では、より安価で汎用性のあるFKMをベースに、その耐プラズマ性、粘着性を改善し、低コストで半導体シール材としての使用に十分に耐えうるシール用ゴム材料が得られている。」 (1e) 「【0023】 ・・(中略)・・ <反応性フッ素系化合物(b)> 反応性フッ素系化合物(b)としては、2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖に少なくとも有機珪素化合物(c)中のヒドロシリル基(≡Si-H)と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有するものが用いられる。この2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造は、硬化反応に寄与する。 【0024】 このような反応性フッ素系化合物(b)としては、好適には、前記特開2003-183402号公報(特許文献2)の[0016]?[0022]に記載のフッ素系エラストマー、特開平11-116684号公報(特許文献3)あるいは特開平11-116685号公報(特許文献4)[0006]?[0014]に記載のパーフルオロ化合物等と同様のものが使用可能である。 【0025】 具体的には、反応性フッ素系化合物(b)は、前記特開2003-183402号公報(特許文献2)にも記載されているように、下記式(1)で表される。 CH_(2)=CH-(X)_(p)-(R_(f)-Q)_(a)-R_(f)-(X)_(p)-CH=CH_(2) ・・・・・(1) 式(1)において、Xは独立に-CH_(2)-、-CH_(2)O-、CH_(2)OCH_(2)-、-Y-NR^(1)SO_(2)-または-Y-NR^(1)-CO-(但し、Yは-CH_(2)-または-Si(CH_(3))_(2)-Ph-(Ph:フェニレン基)であり、R^(1)は水素原子又は置換あるいは非置換の1価炭化水素基)を示し、R_(f)は2価パーフロロアルキレン基又は2価パーフロロポリエーテル基を示し、pは独立に0又は1であり、aは0以上の整数である。また、Qは下記一般式(2)、(3)または(4)で表される。 【0026】 【化1】 【0027】 式(2)?(4)において、X、p、R^(1)は上記と同様の意味を示し、R^(3)は置換または非置換の2価炭化水素基である。また、R^(4)は結合途中に酸素原子、窒素原子、ケイ素原子及び硫黄原子の1種又は2種以上を介在させてもよい置換または非置換の2価炭化水素基、あるいは下記式(5)又は(6)で表される官能基である。 【0028】 【化2】 【0029】 式(5)、(6)において、R^(5)は置換または非置換の1価炭化水素基、R^(6)は炭素原子、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子及び硫黄原子の1種又は2種以上を主鎖構造中に含む基である。 このような反応性フッ素系化合物(b)として、上市されているものとしては、例えば、「SIFEL」(信越化学工業(株)製)が挙げられる。」 (1f) 「【0038】 ・・(中略)・・ <加硫剤(d-1)、共架橋剤(d-2)> 本発明に係る未加硫ゴム組成物には、架橋成分(d)として、通常、加硫剤(d-1)と、必要により共架橋剤(d-2)とが含まれ、好ましくは加硫剤と共架橋剤の両者が含まれている。 【0039】 このような加硫剤(d-1)及び共架橋剤(d-2)としては、従来より公知のものを広く使用でき、加硫剤(d-1)としては、未加硫ゴム組成物中の架橋性フッ素ゴム(a)の種類等に応じて種々選択され、好ましく用いられるFKMの加硫形式としては、ポリアミン加硫、ポリオール加硫、パーオキサイド加硫(過酸化物加硫)、トリアジン加硫などが選択可能であり、中でも、パーオキサイド加硫が好ましい。パーオキサイド加硫では、パーティクルの発生源となる酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどの受酸剤を未加硫ゴム組成物中に配合する必要がなく、得られたシール材の使用中にパーティクルを発生させる恐れがない点で好ましい。 【0040】 このパーオキサイド加硫では、例えば、本願出願人が先に提案した特開2003-155382号公報の[0018]等に記載の過酸化物架橋剤を好ましく用いることができる。 また、共架橋剤(d-2)としては、同公報の[0019]等に記載の過酸化物架橋用架橋助剤を用いることができる。 【0041】 まず、加硫剤(d-1)として使用される上記過酸化物架橋剤としては、具体的には、例えば、具体的には、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂社製「パーヘキサ 25B」)、ジクミルパーオキサイド(日本油脂社製「パークミル D」)、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルジクミルパーオキサイド(日本油脂社製「パークミル D」)、ベンゾイルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5ジ(t-ブチルパーオキサイド)ヘキシン-3(日本油脂社製「パーヘキシン25B」)、2,5-ジメチル-2,5ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、α,α'-ビス(t-ブチルペルオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン(日本油脂製「パーブチル P」)、α,α'-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラクロルベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーベンゾエート等を挙げることができる。 【0042】 これらのうち、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド(日本油脂社製「パークミル D」)、ベンゾイルパーオキサイド(日本油脂社製「ナイパーB」)、α,α'-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン(日本油脂製「パーブチル P」)が好ましく用いられる。これらの架橋剤は、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。 【0043】 本発明においては、上記加硫剤として過酸化物架橋剤を単独で使用してもよいが、必要により、この過酸化物架橋剤(d-1)と共に共架橋剤(d-2)(過酸化物架橋用架橋助剤とも言う。)を用いることができる。 共架橋剤(d-2)としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製「タイク、TAIC」)、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルトリメリテート、N,N'-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタルアミド、エチレングリコール・ジメタクリレート(三新化学社製「サンエステル EG」)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(三新化学社製「サンエステル TMP」)、多官能性メタクリレートモノマー(精工化学社製「ハイクロス M」)、多価アルコールメタクリレートおよびアクリレート、メタクリル酸の金属塩などのラジカルによる共架橋可能な化合物が挙げられる。これらの共架橋剤は、1種または2種以上組合わせて用いることができる。 【0044】 これらの共架橋剤のうちでは、反応性に優れ、得られるシール材の耐熱性を向上させる傾向があるトリアリルイソシアヌレートが好ましい。」 (1g) 「【0044】 ・・(中略)・・ <配合組成> 本発明に係るゴム組成物には、上記架橋性フッ素ゴム(固形分)(a)100重量部に対して、反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)とを合計で通常1?10重量部、好ましくは2?6重量部の量で、 加硫剤(架橋剤)(d-1)を通常0.5?2.5重量部、好ましくは0.5?2.0重量部の量で、 必要により共架橋剤(d-2)を含む場合には、共架橋剤(d-2)を通常3?6重量部、好ましくは4?6重量部の量で含むことが望ましい。 【0045】 上記反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)との合計((b)+(c))が上記範囲より少ないと、得られるシール材の耐プラズマ性の向上が認められない傾向があり、また上記範囲より多いと製造工程上、混練り作業がきわめて困難となる傾向がある。 また、上記加硫剤(架橋剤)(d-1)が上記範囲より少ないと架橋反応が不十分となる傾向があり、また上記範囲より多いと反応が早すぎて、完全な所望の成型物を得るのが困難となる傾向がある。 【0046】 また、上記共架橋剤(d-2)が上記範囲より少ないと架橋不足となる傾向があり、また上記範囲より多いと得られるシール材を、特にプラズマ処理装置用シール材として用いる上で、その架橋密度が高くなりすぎて、伸び等の物性面に悪影響を及ぼし、シール材に高温、圧縮時に割れが発生するなどの傾向がある。 なお、反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)とは、通常、ほぼ等量(重量比)で用いられるが、必要により例えば、(b)>(c)の量で用いてもよい。 【0047】 上記(未加硫)ゴム組成物には、必要により、さらに受酸剤、充填材などが含まれていてもよい。 ・・(中略)・・ <充填材> 本発明では、充填材は可能な限り使用しないのが望ましいが、本発明の目的・効果を逸脱しない範囲で必要に応じて(例えば、物性の改善などを目的として)、有機、無機系の各種充填材を配合することもできる。 【0048】 無機充填材としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等が挙げられる。 有機充填材としてはポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。 これら有機、無機充填材は、1種または2種以上組合わせて用いてもよい。」 (1h) 「【0060】 このように本発明に係るプラズマ処理装置用シール材に代表される加硫成形体は、従来品と比較し、飛躍的に耐プラズマ性、非粘着性が向上しており、充填材の配合が全く不要(組成物あるいは加硫成形体中の充填材含有量:0重量%)?含有するとしても極微量(例:1.0?10.0重量%程度)に抑制可能であるため、プラズマ処理装置用シール材として用いてもパーティクルが発生しないという優れた効果がある。加えて真空オーブンを用いた二次加硫でゲル化反応を完遂させ未反応成分を実質上揮散させているため、半導体製造装置系内の放出ガスによる汚染も軽減できる。また、該シール材は、その価格がフッ素ゴム(FKM)と同等であり安価である。 [実施例] 以下、本発明の好適態様について実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。 [測定条件等] <常態物性> JIS K6251、K6253に準拠し、常態物性(硬度、引張り強さ、伸び、100%モジュラス)を測定。 <圧縮永久歪(%)> JIS-K6262に準拠し、200℃×70時間、圧縮率25%の条件で測定を実施。 <固着試験(N)> サイズAS568A-330のO-リングを成形可能な金型にて成形したO-リングを図1に示すようにフランジに装着し、フランジをメタルタッチ状態までボルト圧締めした後、所定の試験温度(180℃)で72時間電気炉で加熱する。72時間経過後、フランジを速やかに電気炉から取り出し、室温(25℃)まで放冷した後、ボルトを取り外したフランジを300mm/minの速度で引きはがすときの力の最大値からフランジの自重による力を差引いたものを固着力とした。 <耐プラズマ性> 特開2004-134665号公報にも記載されているように、平行平板型低温プラズマ照射装置(電極径φ300mm、電極間距離50mm)を用い、アース側電極とプラズマ源とを対向させ、アース側電極上に試験片となるシール材を載置して、試験片のプラズマ源側表面をパンチングメタルで遮蔽し、さらにその表面をスチールウールで遮蔽して、シール材がプラズマ照射によりイオンの影響を受けず、ラジカルの影響のみを受けるようにセットした。 【0061】 次いで、出力RF500W、プラズマ照射時間3時間、ガス混合比O_(2)/CF_(4)=180/20(cc/分、流量比(容積比))、ガス総流量150sccm、真空度80Paの条件で、プラズマ照射試験を行った。 このときの試験前後のシール材の重量(質量)を測定し、試験前の質量(g)をx、試験後の質量をy(g)として下記式により質量減少率を算出した。 【0062】 該質量減少率(%)が少ないほど耐プラズマ性に優れることを示す。 質量減少率(%)=[(x-y)/x]×100 [実施例1] 架橋性フッ素ゴムとして「ダイエルG912」{パーオキサイド加硫可能な3元系含フッ素共重合体=ビニリデンフルオライド(CF_(2)=CH_(2))/ヘキサフルオロプロピレン(CF_(3)-CF=CF_(2))/テトラフルオロエチレン(CF_(2)=CF_(2))、フッ素含量71質量%、ムニー粘度ML1+10(100℃)76、ダイキン工業(株)製。}に、 2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な成分である「SIFEL8070A/B」{信越化学工業(株)製}および、 架橋剤{「パーヘキサ25B」、日本油脂社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン}、並びに共架橋剤{「TAIC」、日本化成社製、トリアリルイソシアヌレート}を添加(配合)し、 オープンロールを用いて60℃の温度で1.0時間混練し、ゴムコンパウンドを得た。 【0063】 このゴムコンパウンドを金型に充填し、圧力50kgf/cm^(2)をかけて、165℃の温度で15分間加熱し、架橋成形を行った(一次加硫成形)。 次いで、上記金型から一次加硫された成形体を取り出し、真空オーブン(真空度:30Pa)での減圧下に、200℃で12時間加熱した(二次加硫)。 得られた成形体について、表1に示す常態物性、圧縮永久歪(%)、固着試験(N)、耐プラズマ性(重量減少率(%)、条件3時間遮蔽)を上記試験条件下で測定した。 【0064】 その結果を表1に示す。 [実施例2?5] 実施例1において、配合組成等を表1のように変えた以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。 得られた成形体について、表1に示す常態物性、圧縮永久歪(%)、固着試験(N)、耐プラズマ性(重量減少率(%)、条件3時間遮蔽)を上記試験条件下で測定した。 【0065】 その結果を表1に示す。 [実施例6] 実施例1において、二次加硫条件を表1に示すように、200℃×12時間から、180℃×12時間に変えた以外は実施例1と同様に一次?二次加硫成形を行い、成形体を得た。 【0066】 得られた成形体について、表1に示す常態物性、圧縮永久歪(%)、固着試験(N)、耐プラズマ性を上記試験条件下で測定した。 その結果を表1に示す。 実施例6では、表1によれば、未反応成分「有」となっているが、極微量に過ぎず、また基本的な常態物性、圧縮永久歪、固着性、耐プラズマ性は問題なく良好であり、本シール材を装着する箇所がウェハー処理のチャンバー付近以外の配管等であれば、全く問題なく使用できる。またこの実施例6での「有」は極微量の未反応成分量に過ぎず、チャンバー付近でも十分に使用可能である。 [比較例1] 実施例1において、表1の配合組成に示すように、「SIFEL8070A/B」{信越化学工業(株)製}を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、成形体を得た。 【0067】 得られた成形体について、表1に示す常態物性、圧縮永久歪(%)、固着試験(N)、耐プラズマ性を上記試験条件下で測定した。 その結果を表1に示す。 [比較例2] 実施例1において、表1の配合組成に示すように、過酸化物系でない専用の架橋剤及び充填材が含有された「SIFEL3701A/B」{信越化学工業(株)製}をその使用法に従いLIM成形により成形体とした。 【0068】 なお、この比較例2は、特開2003-183402号公報(特許文献2)の実施例4に相当する(リム成形タイプの「SIFEL」)。 得られた成形体について、表1に示す常態物性、圧縮永久歪(%)、固着試験(N)、耐プラズマ性を上記試験条件下で測定した。 その結果を表1に示す。 【0069】 【表1】 【0070】 [パーティクル試験] 上記実施例1で得られた成形体と同様にしてO-リングを形成し、図2に模式的に示すパーティクル量測定装置20のA部材に形成されたシール装着溝(図示せず)に装着して、流体シリンダによる駆動装置25により前進後退するヘッド23の当接離脱(バルブの開閉動作にあたる)を所定回数行った後、パーティクル発生個数の測定(N=3)を行った。 【0071】 その結果、開閉動作回数0万回(取付け直後の100サイクル)では、4.5個/100サイクル、動作回数1万回後では0.6個/100サイクル、3万回後では0.2個/100サイクル、5万回後では0.7個/100サイクル、10万回後では0.3個/100サイクルとなった。 また、実施例2?6で得られた成形体と同様にして得たO-リング(寸法:同上)についても上記と同様のパーティクル試験を行ったところ、上記と同様の結果、すなわち、動作回数0万回(取付け直後の100サイクル)では数個/100サイクル、1?5万回では何れも1個以下/100サイクルという極めて少ないパーティクル発生量となった。」 イ.甲1に記載された発明 甲1には、上記ア.の記載事項(特に摘示(1h)の【0060】ないし【0071】の実施例1ないし実施例6及び表1(下線部))からみて、 「パーオキサイド加硫可能なビニリデンフルオライド(CF_(2)=CH_(2))/ヘキサフルオロプロピレン(CF_(3)-CF=CF_(2))/テトラフルオロエチレン(CF_(2)=CF_(2))3元系含フッ素共重合体(a)100重量部、2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な成分である「SIFEL8070A/B」又は「SIFEL3701A/B」なる商品名の製品組成物2ないし11重量部、過酸化物架橋剤としての2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン1重量部及び共架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート4重量部からなる未加硫ゴム組成物を加硫成形してなるO-リング。」 に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 (2)甲10 事案に鑑み、甲10につき記載された事項の確認及び記載された発明を認定する。 ア.甲10に記載された事項 (2a) 「[請求項1] フッ素ゴムと、下式(A)で表わされる化合物を含むことを特徴とする架橋性フッ素ゴム組成物。 (X-)_(x)(Z-)_(z)Y ・・・(A) Xは下式(X)で表わされる基であり、Zは下式(Z)で表わされる基であり、Yはペルフルオロ飽和炭化水素基または該基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された(x+z)価の基であり、xは3以上の整数であり、zは0以上の整数であり、x+zは3以上の整数である。 U-(CF_(2))_(a)O(CF_(2)CF_(2)O)_(b)- ・・・(X) R^(F)O(CF_(2)CF_(2)O)_(c)- ・・・(Z) ただし、Uは、不飽和炭化水素、臭素原子及びヨウ素原子からなる群から選ばれる1種以上を持つ1価の基であり、R^(F)は、炭素数が1?20の直鎖のペルフルオロアルキル基または該基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基であり、aは0?20の整数であり、bは1?200の整数であり、cは3?200の整数である。 ・・(中略)・・ [請求項4] 前記式(A)で表わされる化合物が、下式(A2)で表わされる化合物である、請求項1に記載の架橋性フッ素ゴム組成物。 ・・(中略)・・ [請求項7] 前記式(A)で表わされる化合物を、前記フッ素ゴム100質量部に対して1?50質量部含有する、請求項1?6のいずれか1項に記載の架橋性フッ素ゴム組成物。 [請求項8] 前記フッ素ゴムが、テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、及びテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1?6のいずれか1項に記載の架橋性フッ素ゴム組成物。 [請求項9] さらに、有機過酸化物を含有する、請求項1?8のいずれか1項に記載の架橋性フッ素ゴム組成物。 [請求項10] 請求項1?9のいずれかに記載の架橋性フッ素ゴム組成物を架橋してなることを特徴とする架橋ゴム物品。 [請求項11] 前記架橋ゴム物品がシール材である請求項10に記載の架橋ゴム物品。」(第24頁?第26頁) (2b) 「[0006] しかしながら、フッ素ゴム、特に、テトラフルオロエチレンを共重合成分とするフッ素ゴムは低温下での柔軟性に劣り、低温環境でのシール性に課題があった。 (0007) したがって、本発明の目的は、低温下での柔軟性に優れた架橋ゴム物品を得ることが可能な架橋性フッ素ゴム組成物および架橋ゴム物品を提供することである。」 (2c) 「[0042] 本発明の架橋性フッ素ゴム組成物において、化合物(A)の含有量は、フッ素ゴムの100質量部に対して、好ましくは1?50質量部であり、より好ましくは5?50質量部であり、最も好ましくは10?50質量部である。化合物(A)の含有量が少なすぎると、低温での柔軟性を向上できないことがあり、低温特性の改善効果が小さい場合がある。化合物(A)の含有量が多すぎると、架橋後のゴム物品から化合物(A)がブリードアウトすることがある。化合物(A)の含有量が、フッ素ゴムの100質量部に対して1?50質量部であれば、架橋速度が速く、低温特性に優れた架橋ゴム物品が得られ易くなる。 [0043] [フッ素ゴム] 次に、本発明の架橋性フッ素ゴム組成物に用いるフッ素ゴムについて説明する。 [0044] フッ素ゴムとしては、特に限定はない。フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/フッ化ビニリデン系共重合体、ヘキサフルオロプロピレン/エチレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体等が挙げられる。これらを1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、又はテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体が、耐薬品性に優れるという理由から好ましく用いられる。 ・・(中略)・・ [0047] [有機過酸化物] 本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、更に有機過酸化物を含有させることができる。有機過酸化物としては、加熱下、容易にラジカルを発生するものであればいずれも使用できる。なかでも、半減期が、1分となる温度が130?220℃であるものが好ましく使用できる。その具体例としては、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロへキサン、2,5-ジメチルへキサン-2,5-ジヒドロパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-へキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-へキシン-3、ジベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)へキサン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等が挙げられ、好ましくはα,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼンである。有機過酸化物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。 [0048] 有機過酸化物の含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1?5質量部であり、より好ましくは0.2?4質量部であり、最も好ましくは0.5?3質量部である。この範囲にあると、有機過酸化物の架橋効率が高く、無効分解の生成量も抑制できる。ただし、架橋性フッ素ゴム組成物を放射線照射により架橋処理する場合は、有機過酸化物は、特に含有させる必要はない。」 (2d) 「[0057] (架橋ゴム物品) 本発明の架橋ゴム物品は、上記本発明の架橋性フッ素ゴム組成物を、押出成形、射出成形、トランスファー成形、プレス成形等の従来公知の方法で成形し、架橋することで得られる。成形と架橋は同時に行ってもよく、それぞれ別工程で行ってもよい。 [0058] 例えば、架橋ゴム物品1個分のまたは数個分の形状を有する金型のキャビティに、有機過酸化物を含有する架橋性フッ素ゴム組成物を充填し、金型を加熱することで架橋ゴム物品(一次架橋物)が得られる。加熱温度は、好ましくは130?220℃、より好ましくは140?200℃、最も好ましくは150?180℃である。また、この架橋ゴム物品(一次架橋物)を必要に応じて、電気、熱風、蒸気などを熱源とするオーブンなどでさらに加熱して、架橋を進行させる(二次架橋ともいう。)ことも好ましい。二次架橋を行うことにより、架橋ゴム物品に含有される有機過酸化物の残渣が分解、揮散して、低減される。二次架橋時の加熱温度としては、好ましくは150?280℃、より好ましくは180℃?260℃、最も好ましくは200?250℃である。二次架橋時間は、好ましくは1?48時間、より好ましくは、4?24時間である。 [0059] また、本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、電子線、γ線などの電離性放射線を照射して架橋することもできる。電離性放射線の照射により架橋ゴム物品を製造するには、例えば、本発明の架橋性フッ素ゴム組成物を適当な溶媒中に溶解分散して懸濁溶液とし、これを塗布などにより成形し、乾燥させた後に、電離性放射線を照射して架橋ゴム物品を得る方法や、本発明の架橋性フッ素ゴム組成物を所定の形状に成形した後、電離性放射線を照射して架橋ゴム物品を得る方法等が挙げられる。電離性放射線の照射量は、適宜選定すればよいが、1?300kGyが好ましく、10?200kGyが好ましい。 [0060] 本発明の架橋ゴム物品は、自動車等の輸送機械、一般機器、電気機器等の幅広い分野において、Oリング、シート、ガスケット、オイルシール、ベアリングシール等のシール材、ダイヤフラム、緩衝材、防振材、電線被覆材、工業ベルト類、チューブ・ホース類、シート類などの各部材として広い範囲で好適に使用できる。なかでも、低温での柔軟性に優れ、更には、強度、硬度、モジュラス、圧縮永久歪み性など基本特性にも優れているので、Oリング、シート、ガスケット、オイルシール、ベアリングシール等のシール材として好ましく用いることができる。」 イ.甲10に記載された発明 甲10には、上記ア.の記載事項(特に摘示(2a)の[請求項1]、[請求項4]、[請求項7]及び[請求項9]ないし[請求項11]、摘示(2c)の[0048]及び摘示(2d)の[0058]ないし[0060]の各下線部の記載)からみて、 「フッ素ゴム100質量部に対して、下式(A)で表わされる化合物1?50質量部及び更に有機過酸化物0.1?5質量部を含有する架橋性フッ素ゴム組成物を架橋してなるシール材である架橋ゴム物品。 (X-)_(x)(Z-)_(z)Y ・・・(A) Xは下式(X)で表わされる基であり、Zは下式(Z)で表わされる基であり、Yはペルフルオロ飽和炭化水素基または該基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された(x+z)価の基であり、xは3以上の整数であり、zは0以上の整数であり、x+zは3以上の整数である。 U-(CF_(2))_(a)O(CF_(2)CF_(2)O)_(b)- ・・・(X) R^(F)O(CF_(2)CF_(2)O)_(c)- ・・・(Z) ただし、Uは、不飽和炭化水素、臭素原子及びヨウ素原子からなる群から選ばれる1種以上を持つ1価の基であり、R^(F)は、炭素数が1?20の直鎖のペルフルオロアルキル基または該基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基であり、aは0?20の整数であり、bは1?200の整数であり、cは3?200の整数である。」 に係る発明(以下「甲10発明」という。)が記載されている。 (3)甲11 事案に鑑み、次に甲11につき記載された事項の確認及び記載された発明を認定する。 ア.甲11に記載された事項 (3a) 「[請求項1] 含フッ素エラストマーと、2個以上の架橋性不飽和二重結合を有する芳香族化合物と、を含有することを特徴とする架橋性含フッ素エラストマー組成物。 [請求項2] 前記2個以上の架橋性不飽和二重結合を有する芳香族化合物が、芳香環に結合したビニル基またはアリル基を2個以上有する、請求項1に記載の架橋性含フッ素エラストマー組成物。 [請求項3] 前記2個以上の架橋性不飽和二重結合を有する芳香族化合物が、下式(1)で表される基(1)を2個以上有する含フッ素芳香族化合物、及び芳香環に結合するビニル基を2個以上有する芳香族炭化水素のいずれか一方又は両方を含む、請求項1又は2に記載の架橋性含フッ素エラストマー組成物。 [化1] [式中、sは0又は1であり、R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)はそれぞれ独立に水素原子又はフッ素原子である。] [請求項4] 前記含フッ素芳香族化合物が、前記基(1)を2個以上有する含フッ素芳香族化合物を含み、 前記基(1)を2個以上有する含フッ素芳香族化合物が、 下式(A)で表される含フッ素芳香族化合物(A)、並びに 下式(x)で表される含フッ素芳香族化合物(x)と、前記基(1)とフェノール性水酸基とを有する芳香族化合物(y1)及び前記基(1)と芳香環を置換するフッ素原子とを有する芳香族化合物(y2)のいずれか一方または両方と、フェノール性水酸基を3個以上有する芳香族化合物(z)とを、脱HF剤存在下に縮合反応させて得られ、前記基(1)及びエーテル結合を有する含フッ素芳香族化合物(B)、のいずれか一方又は両方を含む、請求項3に記載の架橋性含フッ素エラストマー組成物。 [化2] [式中、nは0?6の整数、aは0?5の整数、bは0?4の整数、cは0?4の整数であり、a+c+nは2?6、a+bは2?9であり、Zは単結合、-O-、-S-、-CO-、-C(CH_(3))_(2)-、-C(CF_(3))_(2)-、-SO-、又は-SO_(2)-であり、Rf^(1)は炭素数1?8のフルオロアルキル基であり、Y^(1)及びY^(2)はそれぞれ独立に前記基(1)である。芳香環内のFはその芳香環の水素原子が全てフッ素原子で置換されていることを表す。] [化3] [式中、Nは0?3の整数、d、eはそれぞれ独立に0?3の整数であり、Rf^(2)及びRf^(3)はそれぞれ独立に炭素数1?8のフルオロアルキル基である。芳香環内のFはその芳香環の水素原子が全てフッ素原子で置換されていることを表す。] ・・(中略)・・ [請求項9] 前記2個以上の架橋性不飽和二重結合を有する芳香族化合物の含有量が、前記含フッ素エラストマーの質量に対して0.1?15質量%である、請求項1?8のいずれか一項に記載の架橋性含フッ素エラストマー組成物。 [請求項10] 有機過酸化物をさらに含有し、その含有量が、前記含フッ素エラストマーの質量に対して0.1?5質量%である、請求項1?9のいずれか一項に記載の架橋性含フッ素エラストマー組成物。 ・・(中略)・・ [請求項14] さらに、前記2個以上の架橋性不飽和二重結合を有する芳香族化合物以外の架橋助剤を含有し、その含有量が、前記含フッ素エラストマーの質量に対して0.1?3質量%である、請求項1?13のいずれか一項に記載の架橋性含フッ素エラストマー組成物。 [請求項15] 2個以上の架橋性不飽和二重結合を有する芳香族化合物/該芳香族化合物以外の架橋助剤の質量比が1/30?150/1である、請求項14に記載の架橋性含フッ素エラストマー組成物。 [請求項16] 前記2個以上の架橋性不飽和二重結合を有する芳香族化合物以外の架橋助剤が、トリアリルイソシアヌレートである、請求項14または15に記載の架橋性含フッ素エラストマー組成物。 [請求項17] 請求項1?16のいずれか一項に記載の架橋性含フッ素エラストマー組成物を架橋させてなる架橋物。」(第52頁?第56頁) (3b) 「[0006] 本発明は、架橋反応性に優れ、その架橋物が耐熱性および耐薬品性に優れる架橋性含フッ素エラストマー組成物及びその架橋物を提供することを目的とする。」 (3c) 「[0069] 本発明の架橋性含フッ素エラストマー組成物中、架橋性芳香族化合物の含有量は、含フッ素エラストマーの質量に対して0.1?15質量%が好ましく、0.1?12質量%がより好ましく、0.1?10質量%が最も好ましい。 [0070] 架橋性芳香族化合物の含有量が上記の範囲内にあると、架橋性含フッ素エラストマー組成物は架橋反応性に優れ、得られる架橋物は、耐熱性、耐薬品性、及び圧縮永久歪みを始めとするゴム物性に優れる。」 (3d) 「[0107] 架橋性含フッ素エラストマー組成物中の有機過酸化物の含有量は、含フッ素エラストマーの質量に対して0.1?5質量%が好ましく、0.2?4質量%がより好ましく、0.5?3質量%が最も好ましい。 [0108] 有機過酸化物の含有量が上記範囲の下限値以上であれば、架橋性含フッ素エラストマー組成物は架橋反応性に優れる。有機過酸化物の含有量が上記範囲の上限値以下であれば、有機過酸化物の架橋効率に優れ、分解物の生成量が抑制される。 [0109] 本発明の架橋性含フッ素エラストマー組成物には、本発明における2個以上の架橋性不飽和二重結合を有する芳香族化合物以外の架橋助剤を含有することが好ましい。 [0110] 2個以上の架橋性不飽和二重結合を有する芳香族化合物以外の架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメタリルイソシアヌレート(TMAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリメタリルシアヌレート(TMAC)、メチルジアリルイソシアヌレート(MeDAIC)、ジアリルイソシアヌレートダイマー(DAIC-dimer)等が挙げられる。・・(中略)・・中でも、TAIC又はDAIC-dimerが好ましい。 [0111] 2個以上の架橋性不飽和二重結合を有する芳香族化合物以外の架橋助剤を含有する場合、その含有量は、含フッ素エラストマーの質量に対して0.1?3質量%が好ましく、0.1?2質量%がより好ましく、0.1?1質量%が最も好ましい。 [0112] 本発明において、2個以上の架橋性不飽和二重結合を有する芳香族化合物/該芳香族化合物以外の架橋助剤の質量比は、1/30?150/1が好ましく、1/20?120/1がより好ましく、1/10?100/1が最も好ましい。この範囲にあると、架橋性含フッ素エラストマー組成物が、架橋反応性に優れ、それから得られた架橋物は、機械特性、耐熱性、耐薬品性に優れる。」 (3e) 「[0119] ・・(中略)・・ 〔架橋物〕 本発明の架橋物は、前記架橋性含フッ素エラストマー組成物を架橋させてなる。 [0120] 架橋方法としては、加熱、放射線照射等の方法が適用できる。架橋性含フッ素エラストマー組成物が有機過酸化物を含有する場合、加熱による架橋が好ましい。 [0121] 本発明の架橋物は、通常、架橋物の用途に応じた形状の成形体として製造される。 [0122] 該成形体は、例えば前記架橋性含フッ素エラストマー組成物を成形し、該成形と同時に、又は該成形の後に架橋を行うことにより製造できる。 [0123] 架橋性含フッ素エラストマー組成物の成形方法としては、押出成形、射出成形、トランスファー成形、プレス成形等の公知の成形方法を採用できる。 ・・(中略)・・ [0125] 成形時に高温で加熱することにより、成形と同時に架橋が進行する。しかし、前記温度では、充分な架橋にはさらに長時間を要する場合が多いことから、短時間加熱し成形をした後、得られた含フッ素エラストマー組成物の架橋物(以下、一次架橋物と記す。)を、電気、熱風、蒸気等を熱源とするオーブン等でさらに加熱して架橋を進行させること(以下、二次架橋と記す。)が好ましい。二次架橋を行うことによって、架橋物の架橋が充分に進行し、また、架橋物に含まれる有機過酸化物の残渣が分解、揮散し、その量が低減される。 ・・(中略)・・ [0127] 本発明の架橋性含フッ素エラストマー組成物から得られた架橋物は、機械特性、耐薬品性、耐熱性等に優れる。」 イ.甲11に記載された発明 甲11には、上記ア.の記載事項(特に摘示(3a)の[請求項1]ないし[請求項4]、[請求項9]、[請求項10]及び[請求項17]の各下線部の記載)からみて、 「含フッ素エラストマーと、含フッ素エラストマーの質量に対して0.1?15質量%の下式(A)で表される含フッ素芳香族化合物(A)と、前記含フッ素エラストマーの質量に対して0.1?5質量%の有機過酸化物をさらに含有する架橋性含フッ素エラストマー組成物を架橋させてなる架橋物。 [化1] [式中、sは0又は1であり、R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)はそれぞれ独立に水素原子又はフッ素原子である。] [化2] [式中、nは0?6の整数、aは0?5の整数、bは0?4の整数、cは0?4の整数であり、a+c+nは2?6、a+bは2?9であり、Zは単結合、-O-、-S-、-CO-、-C(CH_(3))_(2)-、-C(CF_(3))_(2)-、-SO-、又は-SO_(2)-であり、Rf^(1)は炭素数1?8のフルオロアルキル基であり、Y^(1)及びY^(2)はそれぞれ独立に前記基(1)である。芳香環内のFはその芳香環の水素原子が全てフッ素原子で置換されていることを表す。]」 に係る発明(以下「甲11発明」という。)が記載されている。 (4)甲12 事案に鑑み、甲12につき記載された事項の確認及び記載された発明を認定する。 ア.甲12に記載された事項 (4a) 「【請求項1】 (A)フッ化ビニリデンを構成モノマー単位として含有し、かつ、有機過酸化物で加硫可能なフッ素ゴムポリマー100重量部、 (B)分子内に少なくとも1個のケイ素原子に結合するアルケニル基を含有し、アミン当量が500?10万であるアミノ基含有オルガノポリシロキサン1?300重量部、および (C)(A)成分および(B)成分を加硫するのに十分な量の有機過酸化物からなる加硫性ゴム組成物。 ・・(中略)・・ 【請求項4】 (A)のフッ素ゴムポリマー100重量部に対し、(B)のオルガノポリシロキサンが5?100重量部、(C)の有機過酸化物が0.5?5重量部である請求項1の加硫性ゴム組成物。」 (4b) 「【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は加硫性ゴム組成物に関し、さらに詳しくはフッ素ゴムと特定のシリコーンを主成分とする低温特性に優れたフッ素ゴム組成物に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 フッ素ゴムは耐熱性、耐油性、耐燃料油性等においては他の特殊ゴムと比較して抜群の性能を有しているが、低温での可撓性の不足が大きな欠点となっている。 【0003】 これを解消するために低温特性に優れたシリコーンゴムとブレンドする方法が提案されている。しかし、両者の共加硫性が低いためにシリコーンゴムの効果が十分発揮されているとはいえない。また、両者の相溶性も低く、得られるゴムの加工性も十分とはいえず、加硫物の層間剥離がおこることもしばしば見られる。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は従来技術の技術的課題を背景になされたもので、フッ素ゴムのポリマーとシリコーンポリマーを直接反応させ化学的に結合させることで層間剥離を防止し、その結果加工性、低温特性に優れたフッ素ゴム組成物を提供することを目的とする。」 (4c) 「【0011】 本発明に使用される(B)成分のオルガノポリシロキサンは、アルケニル基とアミノ基を有するものである。ここで、アミノ基としては、1級、2級、3級のアミノ基があるが、前述のフッ素ゴムポリマーとの反応面から1級または2級のアミノ基が採用される。アルケニル基は、1分子中に少なくとも1個有ればよい。また、かかるオルガノポリシロキサンとしては、分子量1000程度の液状のものから分子量100万程度のガム状のものまで任意の分子量のものが採用可能である。 【0012】 本発明に使用される(B)成分のオルガノポリシロキサンの好適なものとしては化2で示されるものがある。 【0013】 【化2】(式は省略) 【0014】 (化2において、R^(1)は2価の炭化水素基、R^(2)はアルケニル基、R^(3)は置換または非置換の炭化水素基、nは0または4以下の正の整数、0<a<3,0<b<3,0≦c<3,0<a+b+c<3) 【0015】 ・・(中略)・・また、(B)成分中 のアルケニル基は、(B)成分を有機過酸化物で効率的に加硫させるための部位となる。(B)成分の具体例を挙げると、次の化3,化4,化5,化6などが挙げられる。 【0016】 【化3】(式は省略) 【0017】 【化4】(式は省略) 【0018】 【化5】(式は省略) 【0019】 【化6】(式は省略) 【0020】 化3,化4,化5および化6において、Meはメチル基、Phはフェニル基、Viはビニル基を示す。これらは単独でまたは2種以上の混合物として用いることができる。」 (4d) 「【0024】 また、有機過酸化物加硫においては架橋助剤もしくは、共架橋剤を適宜使用することにより効果がみられる。これらはパーオキシラジカルとポリマーラジカルとに対して反応活性を有するものであれば原則的に有効であり、その種類は限定されない。好ましいものとしては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレート、トリアリルホスフェートなどが挙げられる。」 イ.甲12に記載された発明 甲12には、上記ア.の記載事項(特に摘示(4a)の【請求項1】及び【請求項4】の各下線部の記載)からみて、 「(A)フッ化ビニリデンを構成モノマー単位として含有し、かつ、有機過酸化物で加硫可能なフッ素ゴムポリマー100重量部、(B)分子内に少なくとも1個のケイ素原子に結合するアルケニル基を含有し、アミン当量が500?10万であるアミノ基含有オルガノポリシロキサン5?100重量部、および(C)有機過酸化物0.5?5重量部からなる加硫性ゴム組成物。」 に係る発明(以下「甲12発明」という。)が記載されている。 (5)他の各甲号証に記載された事項 ア.甲2 甲2には、 「(a) 架橋性フッ素ゴムと、 該架橋性フッ素ゴム100重量部に対して、 (b) 2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖に少なくとも有機珪素化合物(c)中のヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物[架橋性フッ素ゴム(a)を除く。]と、 (c) 分子中に2個以上のヒドロシリル基を有し少なくとも前記反応性フッ素系化合物(b)中のアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物とを合計[(b)+(c)]で1?10重量部の量で含有し、さらに、 (d)共架橋剤とを含むゴム組成物を加熱下に加圧して予備成形し、得られた予備成形体に、放射線処理することを特徴とするフッ素ゴムシール材の製造方法。」(【請求項4】) が記載されており、当該「フッ素ゴムシール材」が、「特に半導体製造プロセスなどで、長時間継続的に使用してもクラックの発生がなく耐クラック性に優れ、またプラズマ環境下に長時間置かれても重量変化(低減)が少なく耐プラズマ性(耐ラジカル性)に優れ、プラズマ処理装置用シール材として好適に使用することができる」こと(【0010】及び【0015】)も記載されている。 イ.甲3 甲3には、ふっ素系エラストマーを、架橋剤により成形した後、電離性放射線によって更に架橋してなる耐プラズマ性ふっ素系エラストマー成形体が記載されており(【請求項2】)、当該架橋剤としてポリオール、ポリアミン、過酸化物等のふっ素系エラストマーで一般的に用いられているものが使用可能であること(【0024】)、共架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート、(メタ)アクリレート系モノマー等を用いることができること(【0026】)、成形体の製造において、架橋剤をふっ素系エラストマーに添加した成形材料を金型に充填し、加熱プレスした後、放射線を照射すること(【0032】)及び当該成形体を用いてシール材を製造できること(【0035】)も記載されている。 ウ.甲4 甲4には、フッ素ゴムとフロロシリコーンゴムとの混合物をゴム成分とし、かつ過酸化物架橋剤を含有するプラズマ性ゴム組成物を所定形状に成型し、架橋してなることを特徴とするプラズマ処理装置用ゴム材料が記載されており(【請求項1】及び【請求項2】)、当該ゴム材料の製造にあたり、過酸化物架橋剤、共架橋剤をフッ素ゴムとフロロシリコーンゴムとの混合物であるゴム成分に添加したゴム組成物を金型に充填し加熱プレスする加硫成形の方法によりシート状、リング状などの形状の成形物とすること(【0022】?【0023】)及び当該ゴム材料がプラズマ処理装置用のシール材として有効であること(【0024】)も記載されている。 エ.甲5及び甲6 甲5及び甲6には、それぞれ、「ダイエル_(TM)」なる商品名の高機能フッ素ゴム群及び「ダイエル_(TM)G-912」なる商品名のパーオキサイド加硫グレードの3元共重合フッ素ゴムについて記載されている。 オ.甲7 甲7には、「SIFEL3590-N」なる商品名の混合物につき記載されており、この混合物は、パーフルオロポリエーテル混和物であり、成分としてフルオロアルキル変性オルガノシロキサン及びトルエンを含有することが記載されている(「1/6頁」「3.組成、成分情報」の欄)。 カ.甲8及び甲9 甲8には、分子鎖両末端にアルコキシシリル基などを有するジオルガノポリシロキサン、ケイ素原子に結合した加水分解性基を3個以上有するシラン化合物又はその部分加水分解縮合物及び硬化触媒を有するマスキング用液状組成物が記載されている(【請求項1】)。 甲9には、一分子中に二個以上のアルケニルを有するポリフルオロジアルケニル化合物、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を二個以上有する含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサン及び触媒量の白金族化合物を含有するマスキング用硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物が記載されている(【請求項1】)。 2.検討 本件発明1ないし9につき、各甲号証に記載された発明又は記載に基づき検討する。 (1)甲1発明に基づく検討 ア.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と上記甲1発明とを対比すると、甲1発明における「パーオキサイド加硫可能なビニリデンフルオライド(CF_(2)=CH_(2))/ヘキサフルオロプロピレン(CF_(3)-CF=CF_(2))/テトラフルオロエチレン(CF_(2)=CF_(2))3元系含フッ素共重合体(a)」は、ビニリデンフルオライドに由来する炭素-水素結合を有すること及びフッ素ゴムの一種であることは当業者に自明であるから、本件発明1における「水素含有フッ素ゴム」に相当する。 また、甲1発明における「2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)」は、アルケニル基を2個以上を有すると共に、パーフロロポリエーテル構造またはパーフロロアルキレン構造なるパーフルオロ骨格を有するものであるから、本件発明1における「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含」むものである限りにおいて「水素サイト保護剤」に相当する。 さらに、甲1発明における「過酸化物架橋剤としての2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン」は、上記「3元系含フッ素共重合体(a)」を加熱により架橋する「架橋剤」であるから、本件発明1における「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」に相当することが明らかである。 そして、甲1発明における「未加硫ゴム組成物」は、本件発明1における「未架橋ゴム組成物」に相当すると共に、甲1発明における「O-リング」は、シール材として使用することを意図するものである(必要ならば摘示(1a)【請求項5】参照)から、本件発明1における「シール材」に相当する。 してみると、本件発明1と上記甲1発明とは、 「未架橋ゴム組成物を用いて製造されるシール材であって、 前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、水素サイト保護剤とを含有し、 前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含み、 前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋したゴム組成物で形成されているシール材。」 で一致し、下記の各点で相違する。 相違点1a:「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含」む「水素サイト保護剤」につき、本件発明1では「一液型の液体材料であり」、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」のに対して、甲1発明では「一液型の液体材料であ」ること及び「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」ことにつき特定されていない点 相違点2a:本件発明1では「前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であり、且つ前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であ」るのに対して、甲1発明では「3元系含フッ素共重合体(a)100重量部、2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な成分である「SIFEL8070A/B」又は「SIFEL3701A/B」なる商品名の製品組成物2ないし11重量部、過酸化物架橋剤としての2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン1重量部」である点 相違点3a:本件発明1では「放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合した」のに対して、甲1発明では「未加硫ゴム組成物を加硫成形してなる」点 (イ)検討 ●相違点1aについて 事案に鑑み、相違点1aにつき検討すると、甲1発明に係る実施例で使用される上記「SIFEL8070A/B」又は「SIFEL3701A/B」なる商品名の製品組成物は、「2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)」、「分子中に2個以上のヒドロシリル基を有し少なくとも前記反応性フッ素系化合物(b)中のアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)」及び「(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒」を含有するものであり、少なくとも「(b)」成分と「(c)」成分とは事前の反応防止のため分別包装された多液型の組成物であることが明らかであって、また、「(b)」成分におけるアルケニル基は「(c)」成分におけるヒドロシリル基と反応するものであるから、本件発明1における「水素サイト保護剤」についての「一液型の液体材料であ」ること及び「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」ことという2点につき実質的に相違するものと認められる。 そして、甲1ないし甲12の記載を検討しても、甲1発明において、「水素サイト保護剤」としての「SIFEL8070A/B」又は「SIFEL3701A/B」なる商品名の製品組成物に代えて、分子内に「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」アルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含む「一液型の液体材料」を使用すべきことを当業者が想起し得る事項が存するものとも認められない。 してみると、上記相違点1aは、実質的な相違点であって、さらに甲1ないし12に記載された事項を組み合わせたとしても、甲1発明において、当業者が適宜なし得ることであるということはできない。 (ウ)申立人の主張について 申立人は、令和3年1月25日付け意見書において、参考資料1(特開2004-51834号公報)を提示し、その特許請求の範囲の請求項1には、概略、(A)アルケニル基を有するフルオロポリエーテル化合物、(B)H-Si含有有機ケイ素化合物及び(C)ヒドロシリル化反応触媒を含有してなる硬化性フルオロポリエーテル組成物が記載され、【0036】には、当該組成物が一液タイプで構成されていても2液タイプで構成されていてもよいことが記載されており、また、参考資料2(「SIFEL8000シリーズ」に係る製品リスト)を提示し、2液加熱硬化型である「SIFEL8070A/B」と1液加熱硬化型である「SIFEL8470」とが硬化物の針入度物性の点で同一であることが記載されており、これらの記載からみて、1液型のものでも2液型のものであっても硬化物の点で同様のものが得られていることから、甲1発明における(b)及び(c)の2液型のものにつき、1液型とすることが当業者が適宜なし得たことである旨主張している(意見書第2頁第15行?第3頁下から第2行)。 そこで、上記申立人の主張につき検討すると、上記参考資料1は(A)ないし(C)を含有する硬化性組成物に係るものであり、また、参考資料2は、成分不明なポッティングゲル用の硬化性組成物に係るものであって、いずれにしても、甲1発明のように水素含有フッ素ゴムを含有しないものであるから、参考資料1及び参考資料2にそれぞれ上記のような記載が存したとしても、甲1発明における(b)及び(c)の2液型のものにつき、1液型とすることを動機付ける事項であるとはいえないし、当該構成につき想到容易であるということはできないから、その余につき検討するまでもなく、本件発明1について、甲1発明に基づき進歩性を欠くとすることはできない。 以上のとおりであるから、申立人の上記主張は当を得ないものであり、採用することができない。 (エ)小括 したがって、相違点2a及び3aにつき検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことができない。 イ.他の本件発明について 本件発明8につき検討すると、本件発明8は、本件発明1のシール材において、水素含有フッ素ゴム、熱架橋剤及び水素サイト保護剤の種別がそれぞれ特定され、また、水素サイト保護剤及び熱架橋剤の使用量比が規定され、さらに、架橋助剤を使用すること、その使用量比及び他の成分との使用量比に係る事項が付加されているのであるから、甲1発明との間で少なくとも上記相違点1aないし3aが存在することが明らかであり、結局、本件発明1に係る上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明8についても、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明であるということはできず、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということもできない。 また、本件発明1又は8を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし7及び9についても、上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明であるということはできず、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということもできない。 ウ.甲1発明に基づく検討のまとめ 以上のとおり、本件発明1ないし9は、いずれも甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)甲10発明に基づく検討 ア.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と上記甲10発明とを対比すると、甲10発明における「フッ素ゴム」は、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体などのフッ化ビニリデンに由来する炭素-水素結合を有するものを使用できることが記載されている([0044])から、本件発明1における「水素含有フッ素ゴム」に相当する。 また、甲10発明における「式(A)で表わされる化合物」は、その定義からみて、3個以上の「U」なる不飽和炭化水素基を有するパーフルオロポリエーテル構造またはパーフルオロ炭化水素構造なるパーフルオロ骨格を有するものであるから、当該化合物を含む点に限って、本件発明1における「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含」む「水素サイト保護剤」に相当する。 さらに、甲10発明における「有機過酸化物」は、上記「フッ素ゴム」と共に架橋性フッ素ゴム組成物を構成し、当該「フッ素ゴム」を加熱により架橋する「架橋剤」であるものと認められるから、本件発明1における「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」に相当することが明らかである。 そして、甲10発明における「架橋性フッ素ゴム組成物」は、本件発明1における「未架橋ゴム組成物」に相当すると共に、甲10発明における「シール材である架橋ゴム物品」は、本件発明1における「シール材」に相当する。 してみると、本件発明1と上記甲10発明とは、 「未架橋ゴム組成物を用いて製造されるシール材であって、 前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、水素サイト保護剤を含有し、 前記水素サイト保護剤は、分子内に炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含み、 前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋したゴム組成物で形成されているシール材。」 で一致し、下記の各点で相違する。 相違点1b:「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含」む「水素サイト保護剤」につき、本件発明1では「一液型の液体材料であり」、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」のに対して、甲10発明では「一液型の液体材料であ」ること及び「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」ことにつき特定されていない点 相違点2b:本件発明1では「前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であり、且つ前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であ」るのに対して、甲10発明では「フッ素ゴム100質量部に対して、下式(A)で表わされる化合物1?50質量部及び更に有機過酸化物0.1?5質量部を含有する架橋性フッ素ゴム組成物」である点 相違点3b:本件発明1では「放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合した」のに対して、甲10発明では「架橋性フッ素ゴム組成物を架橋してなる」点 (イ)検討 ●相違点1bについて 事案に鑑み相違点1bにつき検討すると、甲10には、「式(A)の化合物」につき「架橋助剤」であること([0063]?[0068])が記載されているのみであり、シール材を構成する場合においても、多段階の熱架橋により構成することのみであって、放射線を照射することについて記載されていない。 してみると、甲10発明において、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」「水素サイト保護剤」を使用することは、本件発明1との間で実質的な相違点であるものと認められる。 そして、甲1ないし12の記載を検討しても、甲10発明において、「式(A)の化合物」を「水素サイト保護剤」として使用することを当業者が想起し得る事項が存するものとも認められない。 してみると、上記相違点1bは、実質的な相違点であって、さらに甲1ないし12に記載された事項を組み合わせたとしても、甲10発明において、当業者が適宜なし得ることであるということはできない。 (ウ)小括 したがって、相違点2b及び3bにつき検討するまでもなく、本件発明1は、甲10発明、すなわち甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 イ.他の本件発明について 本件発明8につき検討すると、本件発明8は、本件発明1のシール材において、水素含有フッ素ゴム、熱架橋剤及び水素サイト保護剤の種別がそれぞれ特定され、また、水素サイト保護剤及び熱架橋剤の使用量比が規定され、さらに、架橋助剤を使用すること、その使用量比及び他の成分との使用量比に係る事項が付加されているのであるから、甲10発明との間で少なくとも上記相違点1bないし3bが存在することが明らかであり、結局、本件発明10に係る上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明8についても、甲10発明、すなわち甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 また、本件発明1又は8を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし7及び9についても、上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、甲10発明、すなわち甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 ウ.甲10発明に基づく検討のまとめ 以上のとおり、本件発明1ないし9は、いずれも甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)甲11発明に基づく検討 ア.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と上記甲11発明とを対比すると、甲11発明における「含フッ素エラストマー」は、VDF/HFP共重合体、TFE/VDF/HFP共重合体などのVDF(フッ化ビニリデン)に由来する炭素-水素結合を有するものを使用できることが記載されている([0074])から、本件発明1における「水素含有フッ素ゴム」に相当する。 また、甲11発明における「式(A)で表わされる含フッ素芳香族化合物」は、その定義からみて、式(1)で表されるビニル基を2個以上有するパーフルオロポリエーテル構造またはパーフルオロ炭化水素構造なるパーフルオロ骨格を有するものであるから、当該化合物を含む限りにおいて、本件発明1における「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含」む「水素サイト保護剤」に相当する。 さらに、甲11発明における「有機過酸化物」は、上記「含フッ素エラストマー」と共に「架橋性含フッ素エラストマー組成物」を構成し、当該「含フッ素エラストマー」を加熱により架橋する「架橋剤」であるものと認められるから、本件発明1における「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」に相当することが明らかである。 そして、甲11発明における「架橋性含フッ素エラストマー組成物」は、本件発明1における「未架橋ゴム組成物」に相当すると共に、甲11発明における「架橋性含フッ素エラストマー組成物を架橋させてなる架橋物」は、本件発明1における「シール材」が未架橋ゴム組成物を架橋させることによって製造される架橋物である点で一致する。 してみると、本件発明1と上記甲11発明とは、 「未架橋ゴム組成物を用いて製造される架橋物であって、 前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、水素サイト保護剤を含有し、 前記水素サイト保護剤は、分子内に炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含み、 前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋したゴム組成物で形成されている架橋物。」 で一致し、下記の各点で相違する。 相違点1c:「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含」む「水素サイト保護剤」につき、本件発明1では「一液型の液体材料であり」、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」のに対して、甲11発明では「式(A)で表される含フッ素芳香族化合物(A)」につき「一液型の液体材料である」こと及び「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」ことにつき特定されていない点 相違点2c:本件発明1では「前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であり、且つ前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であ」るのに対して、甲11発明では「フッ素ゴム100質量部に対して、下式(A)で表わされる化合物1?50質量部及び更に有機過酸化物0.1?5質量部を含有する架橋性フッ素ゴム組成物」である点 相違点3c:本件発明1では「放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合した」のに対して、甲11発明では「架橋性フッ素ゴム組成物を架橋してなる」点 相違点4:本件発明1では「シール材」であるのに対して、甲11発明では「架橋物」であり、用途が特定されていない点 (イ)検討 ●相違点1cについて 事案に鑑み相違点1cにつき検討すると、甲11には、「式(A)で表わされる化合物」を含む芳香族化合物につき「架橋性芳香族化合物」であると記載されており([0019])、また、架橋方法として、加熱、放射線照射等の方法が適用できる旨が記載され、多段階の熱架橋により架橋することは記載されているものの、熱架橋の後に放射線を照射して架橋物を得ることについては記載されていない([0120]?[0126])。 してみると、甲11発明において、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」「水素サイト保護剤」を使用することは、本件発明1との間で実質的な相違点であるものと認められる。 そして、甲1ないし12の記載を検討しても、甲11発明において「式(A)で表わされる化合物」を含む芳香族化合物を「水素サイト保護剤」として使用することを当業者が想起し得る事項が存するものとも認められない。 してみると、上記相違点1cは、実質的な相違点であって、さらに甲1ないし12に記載された事項を組み合わせたとしても、甲11発明において、当業者が適宜なし得ることであるということはできない。 (ウ)小括 したがって、相違点2c、相違点3c及び相違点4につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲11発明、すなわち甲11に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことができない。 イ.他の本件発明について 本件発明8につき検討すると、本件発明8は、本件発明1のシール材において、水素含有フッ素ゴム、熱架橋剤及び水素サイト保護剤の種別がそれぞれ特定され、また、水素サイト保護剤及び熱架橋剤の使用量比が規定され、さらに、架橋助剤を使用すること、その使用量比及び他の成分との使用量比に係る事項が付加されているのであるから、甲11発明との間で少なくとも上記相違点1cないし3c及び4が存在することが明らかであり、結局、本件発明11に係る上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明8についても、甲11発明、すなわち甲11に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 また、本件発明1又は8を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし7及び9についても、上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、甲11発明、すなわち甲11に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということもできない。 ウ.甲11発明に基づく検討のまとめ 以上のとおり、本件発明1ないし9は、いずれも甲11に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)甲12発明に基づく検討 ア.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲12発明とを対比すると、甲12発明における「(A)フッ化ビニリデンを構成モノマー単位として含有し、かつ、有機過酸化物で加硫可能なフッ素ゴムポリマー」は、フッ化ビニリデンに由来する炭素-水素結合を有するものであるから、本件発明1における「水素含有フッ素ゴム」に相当する。 また、甲12発明における「(C)(A)成分および(B)成分を加硫するのに十分な量の有機過酸化物」は、上記「フッ素ゴムポリマー」と共に加熱することにより加硫、すなわち架橋する「架橋剤」であるものと認められるから、本件発明1における「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」に相当することが明らかである。 そして、甲12発明における「加硫性ゴム組成物」は、本件発明1における「未架橋ゴム組成物」に相当する。 してみると、本件発明1と上記甲12発明とは、 「未架橋ゴム組成物であって、 前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤を含む、未架橋ゴム組成物。」 で一致し、下記の各点で相違する。 相違点1d:本件発明1では、「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含」み、「一液型の液体材料であり」、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」「水素サイト保護剤」を使用するのに対し、甲12発明では「(B)分子内に少なくとも1個のケイ素原子に結合するアルケニル基を含有し、アミン当量が500?10万であるアミノ基含有オルガノポリシロキサン」を使用する点 相違点2d:本件発明1では「前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であり、且つ前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であ」るのに対して、甲12発明では「(A)フッ化ビニリデンを構成モノマー単位として含有し、かつ、有機過酸化物で加硫可能なフッ素ゴムポリマー100重量部、(B)分子内に少なくとも1個のケイ素原子に結合するアルケニル基を含有し、アミン当量が500?10万であるアミノ基含有オルガノポリシロキサン1?300重量部、および(C)(A)成分および(B)成分を加硫するのに十分な量の有機過酸化物からなる加硫性ゴム組成物」である点 相違点3d:本件発明1では「放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合した」のに対して、甲12発明では「加硫性ゴム組成物」である点 相違点5:本件発明1では「シール材」であるのに対して、甲12発明では「加硫性ゴム組成物」であり、加硫されていること及び加硫物に係る用途が特定されていない点 (イ)検討 ●相違点1dについて 事案に鑑み相違点1dにつき検討すると、甲12には「(B)分子内に少なくとも1個のケイ素原子に結合するアルケニル基を含有し、アミン当量が500?10万であるアミノ基含有オルガノポリシロキサン」を使用することは記載されているものの、当該化合物につきパーフルオロ骨格を有する場合が記載又は示唆されておらず(摘示(4c)【0014】及び【0020】)、本件発明1における「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」を含む「水素サイト保護剤」を使用することが記載されていない。 してみると、甲12発明において、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」を含む「水素サイト保護剤」を使用することは、本件発明1との間で実質的な相違点であるものと認められる。 また、甲1ないし12の記載を検討しても、甲12発明において、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」を含む「水素サイト保護剤」を使用することを当業者が想起し得る事項が存するものとも認められない。 してみると、上記相違点1dは実質的な相違点であって、さらに甲1ないし12に記載された事項を組み合わせたとしても、甲12発明において、当業者が適宜なし得ることであるということはできない。 (ウ)小括 したがって、相違点2d、3d及び相違点5につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲12発明、すなわち甲12に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことができない。 イ.他の本件発明について 本件発明8につき検討すると、本件発明8は、本件発明1のシール材において、水素含有フッ素ゴム、熱架橋剤及び水素サイト保護剤の種別がそれぞれ特定され、また、水素サイト保護剤及び熱架橋剤の使用量比が規定され、さらに、架橋助剤を使用すること、その使用量比及び他の成分との使用量比に係る事項が付加されているのであるから、甲12発明との間で上記相違点1dないし3d及び5が存在することが明らかであり、結局、本件発明12に係る上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明8についても、甲12発明、すなわち甲12に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 また、本件発明1又は8を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし7及び9についても、上記ア(イ)で説示した理由と同一の理由により、甲12発明、すなわち甲12に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということもできない。 ウ.甲12発明に基づく検討のまとめ 以上のとおり、本件発明1ないし9は、いずれも甲12に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3.取消理由1、2及びAに係る検討のまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1ないし9は、いずれも、甲1に記載された発明ではなく、甲1、甲10、甲11又は甲12に記載された発明に基づいて、又は甲1、甲10、甲11又は甲12に記載された発明に基づき、他の甲号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 よって、当審が通知した取消理由1及び2並びに申立人が主張する取消理由Aは、いずれも理由がない。 II.取消理由B及び取消理由3について 申立人が主張する上記第2に示した取消理由B及び当審が通知した取消理由3は、いずれも特許法第36条第6項に係るものであって、以下それぞれ検討する。 1.取消理由Bについて (1)取消理由Bの概要 申立書の記載(第36頁?第39頁「エ.記載不備の理由」の欄)からみて、申立人が主張する取消理由Bは大別して以下の2点をいうものと認められる。 (a)各請求項の記載では、各項記載の発明が明確でないというもの。 (特許法第36条第6項第2号に適合しないとの点。いわゆる「クレームの明確性要件」。申立書第36頁ないし第38頁の「(ア)」ないし「(カ)」。) (b)各請求項の記載では、各項記載の発明が、明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないというもの。 (特許法第36条第6項第1号に適合しないとの点、いわゆる「サポート要件」。申立書第38頁ないし第39頁の「(キ)」ないし「(ケ)」。) (2)検討 以下、申立人が主張する各点につきそれぞれ検討する。 ア.特許法第36条第6項第2号に係る点 (ア)「(ア)」の点について 申立人が主張する「(ア)」の点は、請求項1における「前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋した後、放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合したゴム組成物で形成されているシール材」なる記載が、「シール材」なる物の発明につき、製造方法による事項で規定されている、いわゆる「プロダクトバイプロセスクレーム」で記載されていることにより、発明が明確でないというものと認められる。 しかしながら、本件発明は、水素含有フッ素ゴムを熱架橋剤又は熱架橋剤と架橋助剤との組合せの存在下で熱架橋した後放射線架橋して水素サイト保護剤を反応させてシール材を構成するものであり、未加硫ゴム組成物に含有される各成分は、それぞれ明確に特定されているものといえるところ、「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含む一液型の液体材料」はあくまで放射線架橋時に炭素-水素結合の切断により発生する炭素ラジカルに結合して水素が結合していた部分(サイト)に反応して保護する「水素サイト保護剤」であるから、本件発明の「シール材」は、水素含有フッ素ゴムが有する炭素-水素結合のうち、熱架橋に関与せず、放射線架橋時に切断されて発生した炭素ラジカルの架橋に関与しないものにつき当該水素サイト保護剤が結合・保護している構造を有する(架橋)ゴム組成物により形成されているものと解するのが自然であり、いかなるゴム組成物材料により形成されているかは明確であるものといえる。 してみると、本件請求項1の上記記載により、本件発明1の「シール材」が不明確になっているものとはいえず、請求項1の記載では本件発明1が明確でないということはできない。 また、同様の記載が存する請求項8についても同様である。 したがって、請求項1及び8並びに同各項を引用する請求項2ないし7及び9につき、各項の記載では、各項に係る発明が明確でないということはできない。 (イ)「(イ)」の点について 申立人が主張する「(イ)」の点は、本件特許に係る明細書において各現象が起こることが証明されていないことに基づき、本件の各請求項に記載された「熱架橋剤が水素含有フッ素ゴムを架橋させていること」などの規定が存在することにより、各請求項に係る発明が明確でないというものと認められる。 しかしながら、甲1にも見られるとおり、フッ化ビニリデン系などの水素原子を有する架橋性フッ素ゴムにつき、有機過酸化物などの加硫剤(「架橋剤」と実質的に同義と認められる。)又は加硫剤とトリアリルイソシアヌレートなどの共架橋剤(本件発明でいう「架橋助剤」と同義と認められる。)との組合せの存在下、熱加硫(「熱架橋」と同義と認められる。)することは、当業者の技術常識であるものと認められ、甲2にも見られるとおり、架橋性フッ素ゴムに対して、放射線を照射することにより、架橋することも当業者の技術常識であるものと認められる。 また、アルケニル基を有する不飽和化合物のラジカル重合機構に見られるとおり、有機ラジカルの近傍にアルケニル基を有する不飽和化合物が存在した場合、ラジカルと不飽和化合物のアルケニル基の炭素-炭素二重結合部が反応することも当業者の技術常識であるものと認められる。 なお、申立人は、上記各現象が起こらない作用機序につき何ら論証していない。 してみると、本件の各請求項に記載された上記各現象が起こることは、その技術常識に照らして、当業者が理解できるものと認められる。 したがって、本件の各請求項に記載では、各項に係る発明が明確でないということはできない。 (ウ)「(ウ)」及び「(エ)」の点について 「(ウ)」の点につき検討すると、本件発明でいう「水素含有フッ素ゴム」はフッ化ビニリデン系のものなどの水素原子をその化学構造中に有するフッ素ゴムを意味し、水素分子を含有するものでないことが明らかである。 また、「(エ)」の点につき検討すると、上記イ.でも説示したとおり、有機ラジカルに対して結合するのは、アルケニル基の炭素-炭素二重結合部であることが当業者の技術常識であるから、本件請求項における「炭素のラジカルに結合するアルケニル基」についても同様に明らかである。 よって、申立人の上記「(ウ)」及び「(エ)」の主張は、当を得ないものである。 (エ)「(オ)」の点について 「(オ)」の点につき検討すると、本件請求項1又は8に記載された「パーフルオロ骨格の化合物」は、骨格部分に存在する炭素に結合する水素原子の全てがフッ素原子に置換された化合物を意味するもの解するのが自然である。 してみると、当該化合物がいかなる化合物であるのか当業者に明らかであり、本件請求項1又は8及び同各項を引用する請求項2ないし7及び9に係る記載では、各項記載の発明が明確でないということはできない。 (オ)「(カ)」の点について 「(カ)」の点につき検討すると、本件発明における「水素サイト保護剤」は、「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物」をその含有量の多寡はともかく含むことにより、当該化合物が炭素ラジカルに結合して水素が結合していた部分(サイト)に反応・結合して保護するものと認められるから、当該化合物を含有するのであれば、他の成分を含む場合であってもその機能を発現するものと解することができ、当該「水素サイト保護剤」の使用量の規定がないからといって、発明が明確でないということはできない。 また、その他の成分が含まれた場合、水素サイト保護剤としての機能を発現しないとする要因が存するものとも認められない。 してみると、本件の請求項1ないし7及び9の記載では、各項記載の発明が明確でないということはできない。 (カ)小括 以上のとおり、申立人の「(ア)」ないし「(カ)」の主張は、いずれも当を得ないものであり、本件の請求項1ないし9の記載は、各項に係る発明が明確である。 イ.特許法第36条第6項第1号に係る点 (ア)「(キ)」及び「(ク)」の各点について 申立人が主張する「(キ)」の点は、水素含有フッ素ゴムに対する水素サイト保護剤の含有量及び水素サイト保護剤と熱架橋剤との含有量比に係る請求項1に規定された数値範囲の上限又は下限となった場合に本件発明の解決課題を解決できるとはいえず、また、「(ク)」の点は、「水素含有フッ素ゴム」、「熱架橋剤」、「水素サイト保護剤」及び「架橋助剤」の各成分の種別につき、実施例で使用された成分以外の成分を使用した場合に本件発明の解決課題を解決できるとはいえないことにより、たとえ本件特許に係る出願時の技術常識に照らしても、本件請求項1ないし9に係る発明の範囲まで、本件特許に係る明細書において開示された内容を拡張ないし一般化できるものではないというものと認められる。 しかしながら、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明には、本件発明では「耐プラズマ性の低い部位である水素含有フッ素ゴムの水素サイトが、放射線が照射されたときに炭素-水素間の結合が切断されて炭素のラジカルを生じ、その炭素のラジカルに水素サイト保護剤が結合することにより保護されるので、これを用いることにより耐プラズマ性の優れるゴム製品を製造することができる」ことが記載され(【0009】)、「水素サイト保護剤は、分子内に水素含有フッ素ゴムの炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物、及び/又は、分子内に水素含有フッ素ゴムの炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するシロキサン骨格の化合物を含むことが好ましい」ことが記載される(【0015】)と共に、実施例に係る記載(「実施例1」)において、具体的データに基づき、本件発明の解決課題を解決できる効果を奏することが開示されているから、当該記載・開示に基づき、当業者であれば、請求項1に記載された事項を具備する本件発明1が、解決すべき課題を解決できるであろうと認識することができるものといえる。 また、申立人が主張する、水素含有フッ素ゴムに対する水素サイト保護剤の含有量及び水素サイト保護剤と熱架橋剤との含有量比に係る請求項1に規定された数値範囲の上限又は下限となった場合に反応性が変化すること(「(キ)」)並びに「水素含有フッ素ゴム」、「熱架橋剤」、「水素サイト保護剤」及び「架橋助剤」の各成分の種別につき、実施例で使用された成分以外の成分を使用した場合に実施例と同様の組成物が得られるとはいえないこと及び反応性が変化すること(「(ク)」)により、本件発明の課題が解決できないものとなる因果関係については論証されておらず、課題解決ができない場合につき具体的に示されていない。 してみると、本件の請求項1ないし9の各項に記載された事項を具備する場合であっても本件発明の課題を解決できない場合が存するものとは認められず、本件の請求項1ないし9の各項に記載された事項を具備する発明であれば本件発明の解決課題を解決できるものと認められる。 (イ)「(ケ)」の点について 「(ケ)」の点につき検討すると、甲7によれば「SIFEL3590-N」は、パーフルオロポリエーテル混和物であるといえるところ、申立人が主張する当該「SIFEL3590-N」が甲9に記載された成分(A)ないし(D)を含むものである蓋然性が高いとすべき根拠が存するものとはいえない。 してみると、申立人の上記「(ケ)」の主張は、その前提を欠くものであって、当を得ないものである。 そして、本件特許に係る明細書の実施例に係る記載からみて、「水素サイト保護剤の一液型の液状材料である分子内にビニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物(SIFEL3590-N 信越化学工業社製、粘度(23℃):50Pa・s)」を使用した場合に本件発明の課題を解決できるような効果を奏していることが看取できる。 したがって、本件の請求項1ないし9の各項に記載された事項を具備する発明であれば本件発明の解決課題を解決できるものと認められる。 (ウ)小括 以上のとおり、申立人の「(キ)」ないし「(ケ)」の主張は、いずれも当を得ないものであり、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明には、本件の請求項1ないし9の各項に記載された事項を具備する発明であれば本件発明の解決課題を解決できるものと当業者が認識することができるように記載されているものと認められるから、本件請求項1ないし9の記載は、各項に係る発明が本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。 ウ.取消理由Bに係る検討のまとめ 以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし9の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものであり、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしているから、申立人が主張する取消理由Bは理由がない。 2.取消理由3について (1)取消理由3の概要 当審が通知した取消理由3は、本件特許の請求項1ないし9は、その記載が不備であり、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであるというものであり、より具体的には、各請求項の記載では、各項記載の発明が、明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないというもの(特許法第36条第6項第1号に適合しないとの点、いわゆる「サポート要件」)である。 (2)検討 そこで上記取消理由3につき再度検討すると、甲7によれば「SIFEL3590-N」は、パーフルオロポリエーテル混和物であるといえるところ、特許権者が提出した乙第3号証(国際公開第2019/009250号)の記載([0040]?[0046])に照らすと、「SIFEL3590-N」はパーフルオロポリエーテルの分子鎖両末端にビニル基を有する化合物、すなわち「分子内に水素含有フッ素ゴムの炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物」を含む「水素サイト保護剤」であると解することができる。 そして、本件特許に係る明細書の実施例1に係る記載からみて、「水素サイト保護剤の一液型の液状材料である分子内にビニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物(SIFEL3590-N 信越化学工業社製、粘度(23℃):50Pa・s)」を使用した場合に本件発明の課題を解決できるような「耐プラズマ性」などの効果を奏していることが看取できる。 してみると、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、当業者ならば、本件の請求項1ないし9の各項に記載された事項を具備する発明であれば本件発明の解決課題を解決できるものと認識することができるものと認められるから、本件の請求項1ないし9の各項に記載された事項を具備する本件発明1ないし9は、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができる。 (3)取消理由3についてのまとめ したがって、本件の請求項1ないし9の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、特許法第36条第6項の規定を満たしている。 よって、上記取消理由3は理由がない。 III.当審の判断のまとめ よって、本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許は、当審が通知した取消理由及び申立人が主張する取消理由につき、いずれも理由がなく、取り消すことができない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正については適法であるからこれを認める。 また、本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許は、当審が通知した理由並びに申立人が主張する理由及び提示した証拠によっては、取り消すことができない。 ほかに、本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 シール材及びその製造方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、シール材及びその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 シリコーンゴムは、耐酸素プラズマ性は高いものの、耐フッ素プラズマ性がやや低いゴム成分として知られている。フッ化ビニリデン系フッ素ゴム(以下、「FKM」という。)は、耐フッ素プラズマ性は高いものの、耐酸素プラズマ性がやや低いゴム成分として知られている。テトラフルオロエチレン-パーフルオロビニルエーテル系フッ素ゴム(以下、「FFKM」という。)は、耐酸素プラズマ性及び耐フッ素プラズマ性のいずれも高いものの、シリコーンゴムやFKMと比較すると高価なゴム成分として知られている。そこで、これらのゴム成分を混合して用いることが提案されている。例えば、特許文献1には、シリコーンゴムとFFKMとを混合して用いること、及びFKMとFFKMとを混合して用いることが開示されている。特許文献2には、FKMとFFKMとを混合して用いることが開示されている。特許文献3には、シリコーンゴムとFKMとを混合して用いることが開示されている。 【0003】 また、耐プラズマ性を高める技術として、特許文献4及び5には、FKMに反応性フッ素系化合物を添加することが開示されている。さらに、特許文献6には、FKMに過剰な架橋助剤を添加し、FKMを加熱して架橋助剤により架橋させるのに加えて、放射線を照射して余剰の架橋助剤により更に架橋させ、それによって架橋密度を高めることによりゴム物性自体を向上させることが開示されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】 特許第4778782号公報 【特許文献2】 特許第4628814号公報 【特許文献3】 特開2001-348462号公報 【特許文献4】 特許第4675907号公報 【特許文献5】 特許第5189728号公報 【特許文献6】 特許第4381087号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明の課題は、耐プラズマ性の優れるシール材を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明は、未架橋ゴム組成物を用いて製造されるシール材であって、前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤とを含有し、前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含む一液型の液体材料であり、前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であり、且つ前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であり、前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋した後、放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合したゴム組成物で形成されている。 【0008】 本発明は、本発明のシール材の製造方法であって、前記未架橋ゴム組成物を、所定の温度に加熱して前記水素含有フッ素ゴムを前記熱架橋剤により架橋させた後、放射線を照射して前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合を切断して生じる炭素のラジカルに前記水素サイト保護剤を結合させる。 【発明の効果】 【0009】 本発明によれば、耐プラズマ性の低い部位である水素含有フッ素ゴムの水素サイトが、放射線が照射されたときに炭素-水素間の結合が切断されて炭素のラジカルを生じ、その炭素のラジカルに水素サイト保護剤が結合することにより保護されるので、これを用いることにより耐プラズマ性の優れるゴム製品を製造することができる。 【発明を実施するための形態】 【0010】 以下、実施形態について詳細に説明する。 【0011】 実施形態に係る未架橋ゴム組成物は、ゴム製品、特に、例えば半導体のエッチング装置やプラズマCVD装置のようなプラズマを使用する装置に使用される耐プラズマ性の優れるOリング等のシール材の製造に好適に用いられるものであって、ゴム成分の水素含有フッ素ゴムと熱架橋剤と水素サイト保護剤とを含有する。 【0012】 本出願における「水素含有フッ素ゴム」とは、高分子の主鎖に水素が結合した炭素が含まれたフッ素ゴムである。水素含有フッ素ゴムは、単量体として、例えば、ビニリデンフルオライド(VDF)、プロピレン(Pr)、エチレン(E)等を含むことが好ましい。 【0013】 水素含有フッ素ゴムとしては、例えば、ビニリデンフルオライド(VDF)の重合体(PVDF)、ビニリデンフルオライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)とプロピレン(Pr)との共重合体(FEP)、ビニリデンフルオライド(VDF)とプロピレン(Pr)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体、エチレン(E)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体(ETFE)、エチレン(E)とテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)とテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体等が挙げられる。水素含有フッ素ゴムは、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。 【0014】 熱架橋剤は、所定の温度に加熱されたときに水素含有フッ素ゴムを架橋させる化合物である。熱架橋剤としては、例えば、パーオキサイド、ポリオール、ポリアミン、トリアジン等が挙げられる。熱架橋剤は、プラズマ雰囲気下でのパーティクルの発生の原因となる受酸剤を用いる必要がないという観点から、これらのうちのパーオキサイドを用いることが好ましい。パーオキサイドとしては、例えば、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゼン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエイト等が挙げられる。熱架橋剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンを用いることがより好ましい。熱架橋剤の含有量(A)は、十分に架橋を進め、シール材として良好な物性を得るという観点から、水素含有フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上2.5質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上2.0質量部以下である。 【0015】 水素サイト保護剤は、放射線が照射されたときに水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する化合物である。ここで、本出願における「水素サイト」とは、水素含有フッ素ゴムを構成する高分子の主鎖における水素が結合した炭素の部位をいう。具体的には、例えばVDF成分におけるC-H結合部位である。水素サイト保護剤は、分子内に水素含有フッ素ゴムの炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物、及び/又は、分子内に水素含有フッ素ゴムの炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するシロキサン骨格の化合物を含むことが好ましい。 【0016】 アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等が挙げられる。アルケニル基は、これらのうちのビニル基が好ましい。 【0017】 分子内にアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物としては、例えば、パーフルオロポリエーテル構造の化合物、パーフルオロアルキレン構造の化合物等が挙げられる。 【0018】 分子内にアルケニル基を有するシロキサン骨格の化合物としては、例えば、メチルビニルシロキサンの重合体、ジメチルシロキサンの重合体、ジメチルシロキサンとメチルビニルシロキサンとの共重合体、ジメチルシロキサンとメチルビニルシロキサンとメチルフェニルシロキサンとの共重合体等が挙げられる。その他、付加重合の液状シリコーンゴムである分子中にアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。 【0019】 これらのパーフルオロ骨格の化合物やシロキサン骨格の化合物は、分子内にアルケニル基を2個以上有することが好ましい。2個以上のアルケニル基は、同一であってもよく、また、異なっていてもよい。水素サイト保護剤が分子内にアルケニル基を2個以上有せば、水素サイトの保護に加え、水素含有フッ素ゴム間を架橋する架橋助剤としても機能することができる。 【0020】 水素サイト保護剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、分子内にアルケニル基を有するパーフルオロポリエーテル構造の化合物を用いることがより好ましく、分子内にアルケニル基を2個以上有するパーフルオロポリエーテル構造の化合物を用いることが更に好ましい。 【0021】 水素サイト保護剤は、一液型の液状材料であることが好ましい。その場合、水素サイト保護剤の23℃における粘度は、パーフルオロ骨格の化合物の場合、好ましくは30Pa・s以上100Pa・s以下、より好ましくは40Pa・s以上70Pa・s以下であり 、シロキサン骨格の化合物の場合、好ましくは100Pa・s以上150Pa・s以下、より好ましくは120Pa・s以上140Pa・s以下である。 【0022】 水素サイト保護剤の含有量(B)は、耐プラズマ性を高める観点から、水素含有フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは1質量部以上20質量部以下、より好ましくは5質量部以上15質量部以下である。水素サイト保護剤の含有量(B)は、耐プラズマ性を高める観点から、熱架橋剤の含有量(A)よりも多いことが好ましい。水素サイト保護剤の含有量(B)の熱架橋剤の含有量(A)に対する比(B/A)は、耐プラズマ性を高める観点から、好ましくは2.5以上30以下、より好ましくは5.0以上10以下である。 【0023】 実施形態に係る未架橋ゴム組成物は、架橋助剤を更に含有していてもよい。架橋助剤は、水素含有フッ素ゴムが熱架橋剤により架橋するときに、水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように水素含有フッ素ゴムと結合する化合物である。 【0024】 架橋助剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5-トリス(2,3,3-トリフルオロ-2-プロペニル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン)、トリス(ジアリルアミン)-S-トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N-ジアリルアクリルアミド、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6-トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5-ノルボルネン-2-メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどが挙げられる。架橋助剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、トリアリルイソシアヌレートを用いることがより好ましい。 【0025】 架橋助剤の含有量(C)は、水素含有フッ素ゴム100質量部に対して、シール材として良好な物性を得る観点から好ましくは1質量部以上10質量部以下、より好ましくは2質量部以上5質量部以下である。架橋助剤の含有量(C)は、耐プラズマ性を高める観点から、熱架橋剤の含有量(A)よりも多いことが好ましい。架橋助剤の含有量(C)の熱架橋剤の含有量(A)に対する比(C/A)は、架橋助剤を過不足なく反応させ、シール材として良好な物性を得るという観点から、好ましくは1.0以上4.0よりも小さく、より好ましくは2.0以上3.0以下である。 【0026】 実施形態に係る未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムの含有量よりも少なければ、水素含有フッ素ゴム以外のゴム成分であるシリコーンゴムやテトラフルオロエチレンとパープルオロビニルエーテルとの共重合体のように高分子の主鎖に水素が結合した炭素が含まれないフッ素ゴムを含有していてもよい。実施形態に係る未架橋ゴム組成物は、製造するゴム製品によっては、カーボンブラックやシリカなどの補強材、可塑剤、加工助剤、加硫促進剤、老化防止剤等を含有していてもよい。但し、プラズマ雰囲気下でのパーティクルの発生が問題となるようなゴム製品の製造に用いられる場合には、カーボンブラック、シリカ、金属酸化物等の粉状の無機充填剤の含有量は、水素含有フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、最も好ましくは0質量部である。粉状の有機充填剤は、PVDFやETFEのような水素含有フッ素樹脂粉等の場合、後述の放射線の照射時に水素含有フッ素ゴムとの間の架橋による物性向上を期待することができる。 【0027】 実施形態に係る未架橋ゴム組成物は、オープンロールなどの開放式のゴム混練機、或いは、ニーダーなどの密閉式のゴム混練機を用いて製造することができる。 【0028】 次に、実施形態に係る未架橋ゴム組成物を用いたゴム製品の製造方法について説明する。 【0029】 ゴム製品の製造方法では、まず、実施形態に係る未架橋ゴム組成物の所定量を、予熱した金型のキャビティに充填し、次いで型締めした後、その状態で、所定の成形温度及び所定の成形圧力で所定の成形時間だけ保持する。このとき、実施形態に係る未架橋ゴム組成物がキャビティの形状に成形されるとともに、水素含有フッ素ゴムが熱架橋剤により架橋して可塑性を喪失する。この成形は、プレス成形であってもよく、また、射出成形であってもよい。成形温度は、例えば150℃以上180℃以下である。成形圧力は、例えば0.1MPa以上25MPa以下である。成形時間は、例えば3分以上20分以下である。 【0030】 そして、金型を型開きし、内部から成形品を取り出して冷却した後、成形品に対して放射線を照射する。このとき、放射線が照射されて水素含有フッ素ゴムの水素サイトの炭素-水素間の結合が切断されて炭素のラジカルを生じ、その炭素のラジカルに水素サイト保護剤が結合する。放射線としては、例えば、α線、β線、γ線、電子線、イオン等が挙げられる。放射線は、これらのうちの電子線又はγ線を用いることが好ましい。放射線の照射線量は、耐プラズマ性を高める観点から、好ましくは10kGy以上100kGy以下、より好ましくは30kGy以上80kGy以下である。 【0031】 以上により、実施形態に係る未架橋ゴム組成物から、水素含有フッ素ゴムが熱架橋剤により架橋するとともに、水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断された後の炭素に水素サイト保護剤が結合したゴム組成物で形成されたゴム製品が得られる。 【0032】 以上の構成の実施形態に係る未架橋ゴム組成物によれば、耐プラズマ性の低い部位である水素含有フッ素ゴムの水素サイトが、放射線が照射されたときに炭素-水素間の結合が切断されて炭素のラジカルを生じ、その炭素のラジカルに水素サイト保護剤が結合することにより保護されるので、これを用いることにより耐プラズマ性の優れるゴム製品を製造することができる。また、水素サイト保護剤は、水素含有フッ素ゴムと反応するので、ブリードアウトが問題となることはない。 【実施例】 【0033】 (ゴム組成物) 以下の実施例1?2及び比較例1?3のゴム組成物を調製した。それぞれの構成については表1にも示す。 【0034】 <実施例1> ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体からなる水素含有フッ素ゴム(ダイエルG912 ダイキン工業社製)に、この水素含有フッ素ゴム100質量部に対して、熱架橋剤のパーオキサイドである2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(パーヘキサ25B 日本油脂社製)1.5質量部、水素サイト保護剤の一液型の液状材料である分子内にビニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物(SIFEL3590-N 信越化学工業社製、粘度(23℃):50Pa・s)10質量部、及び架橋助剤のトリアリルイソシアヌレート(タイク 日本化成社製)4質量部を配合して混練した未架橋ゴム組成物を調製した。続いて、この未架橋ゴム組成物を、成形温度165℃、成形圧力5MPa、及び成形時間15分としてプレス成形した後、加熱温度200℃及び加熱時間4時間で熱処理してシート状のゴム組成物を得た。そして、このシート状のゴム組成物に対して、照射線量30kGyのγ線を 照射した。このγ線を照射したシート状のゴム組成物を実施例1とした。 【0035】 <実施例2> 水素サイト保護剤として、一液型の液状材料である分子内にビニル基を有するシロキサン骨格の化合物(KE-1830 信越化学工業社製、粘度(23℃):130Pa・s)を配合したことを除いて実施例1と同様にして作製したシート状のゴム組成物を実施例2とした。 【0036】 <比較例1> 水素サイト保護剤を配合していないことを除いて実施例1と同様にして作製したシート状のゴム組成物を比較例1とした。 【0037】 <比較例2> 水素サイト保護剤を配合せず、水素含有フッ素ゴム100質量部に対して、シリコーンゴム(KE-941-U 信越化学工業社製)を20質量部配合したことを除いて実施例1と同様にして作製したシート状のゴム組成物を比較例2とした。 【0038】 <比較例3> 水素サイト保護剤を配合せず、水素含有フッ素ゴム100質量部に対して、テトラフルオロエチレンとパーフルオロビニルエーテルとの共重合体(FFKM:AFLASPremiumPM1100 旭硝子社製)を20質量部配合したことを除いて実施例1と同様にして作製したシート状のゴム組成物を比較例3とした。 【0039】 【表1】 【0040】 (試験方法) <耐プラズマ性> 実施例1?2及び比較例1?3のそれぞれについて、マイクロ波プラズマ発生機を用いて、伸張率10%として、O_(2)プラズマ照射試験及びCF_(4)プラズマ照射試験を行い、質量減量、クラックの有無、及びパーティクルの発生の有無を調べた。試験では、反応ガスとしてO_(2)及びCF_(4)を用い、O_(2)プラズマ照射試験では、それらの流量比を50:1とし、CF_(4)プラズマ照射試験では、それらの流量比を1:50とした。また、反応圧力を100Pa及びプラズマ照射時間を60分とした。 【0041】 <引張特性> 実施例1?2及び比較例1?3のそれぞれについて、JISK6251に基づいて引張試験を行い、100%モジュラス(M_(100):100%伸び時における引張応力)、引張強さ(TB)、及び切断時伸び(EB)を測定した。 【0042】 <圧縮永久ひずみ> 実施例1?2及び比較例1?3のそれぞれについて、JISK6262:2013に基づき、試験時間72時間及び試験温度200℃として圧縮永久ひずみの測定を行った。 【0043】 (試験結果) 試験結果を表1に示す。 【0044】 表1によれば、水素サイト保護剤を用いた実施例1及び2は、O_(2)プラズマ及びCF_(4)プラズマのいずれに対しても、優れた耐プラズマ性を有することが分かる。一方、水素サイト保護剤を用いていない比較例1?3は、O_(2)プラズマに対して、パーティクルの発生は無いものの、質量減量が大きく(特に比較例1)、クラックが発生していることが分かる。また、CF_(4)プラズマに対しては、比較例1及び3は優れた耐プラズマ性を有するものの、比較例2は、パーティクルの発生は無いとしても、質量減量が大きく、クラックが発生していることが分かる。なお、引張特性及び圧縮永久ひずみについては、実施例1?2と比較例1?3との間での優劣は認められなかった。 【産業上の利用可能性】 【0045】 本発明は、シール材及びその製造方法の技術分野について有用である。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 未架橋ゴム組成物を用いて製造されるシール材であって、 前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤とを含有し、 前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物を含む一液型の液体材料であり、 前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であり、且つ前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であり、 前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋した後、放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合したゴム組成物で形成されているシール材。 【請求項2】 請求項1に記載されたシール材において、 前記未架橋ゴム組成物が、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤を更に含有するシール材。 【請求項3】 請求項2に記載されたシール材において、 前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が4.0よりも小さいシール材。 【請求項4】 請求項1乃至3のいずれかに記載されたシール材において、 前記未架橋ゴム組成物における無機充填剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して5質量部以下であるシール材。 【請求項5】 請求項1乃至4のいずれかに記載されたシール材において、 前記未架橋ゴム組成物における前記熱架橋剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して0.5質量部以上2.5質量部以下であるシール材。 【請求項6】 請求項2又は3に記載されたシール材において、 前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であるシール材。 【請求項7】 請求項2、3、又は6に記載されたシール材において、 前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が1.0以上であるシール材。 【請求項8】 未架橋ゴム組成物を用いて製造されるシール材であって、 前記未架橋ゴム組成物は、水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤と、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤とを含有し、 前記水素含有フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体であり、 前記熱架橋剤は、パーオキサイドであり、 前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するビニル基を2以上有するパーフルオロ骨格の化合物の一液型の液体材料であり、 前記架橋助剤は、トリアリルイソシヌレートであり、 前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して5質量部以上15質量部以下であり、 前記未架橋ゴム組成物における前記熱架橋剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して0.5質量部以上2.0質量部以下であり、 前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して2質量部以上5質量部以下であり、 前記未架橋ゴム組成物における前記水素サイト保護剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が5.0以上10以下であり、 前記未架橋ゴム組成物における前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下であり、 前記未架橋ゴム組成物が、所定の温度に加熱されて前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋した後、放射線が照射されて前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合したゴム組成物で形成されているシール材。 【請求項9】 請求項1乃至8のいずれかに記載されたシール材の製造方法であって、 前記未架橋ゴム組成物を、所定の温度に加熱して前記水素含有フッ素ゴムを前記熱架橋剤により架橋させた後、放射線を照射して前記水素含有フッ素ゴムの炭素-水素間の結合を切断して生じる炭素のラジカルに前記水素サイト保護剤を結合させるシール材の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-05-27 |
出願番号 | 特願2017-176309(P2017-176309) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L) P 1 651・ 537- YAA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 安田 周史 |
特許庁審判長 |
佐藤 健史 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 近野 光知 |
登録日 | 2019-11-22 |
登録番号 | 特許第6620132号(P6620132) |
権利者 | 三菱電線工業株式会社 |
発明の名称 | シール材及びその製造方法 |
代理人 | 特許業務法人前田特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人前田特許事務所 |