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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 E02D 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 E02D |
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管理番号 | 1376711 |
異議申立番号 | 異議2020-700654 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-09-03 |
確定日 | 2021-06-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6664697号発明「既存杭を利用した基礎構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6664697号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6664697号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6664697号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成28年1月8日に出願され、令和2年2月21日にその特許権の設定登録がされ、同年3月13日に特許掲載公報が発行されたものである。 そして、その特許について、令和2年9月3日受付で特許異議申立人 岡林 茂(以下「申立人」という。)により、請求項1ないし4に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。 その後の経緯は、以下のとおりである。 令和 3年 1月 7日付け:取消理由通知 令和 3年 3月 5日 :意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本 件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る 訂正を「本件訂正」という。) 令和 3年 4月 9日 :申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を、 「既存杭と新設基礎スラプの間、もしくは既存杭及び既存基礎スラブと新設基礎スラブの間に、前記新設基礎スラプの耐力と前記既存杭の支持力から決まる所定の降伏荷重度を備えて形成され、前記既存杭に作用する荷重を調節する杭頭荷重調節部材を設けて構成され、 前記杭頭荷重調節部材が、設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材と設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材とを一体にして構成され、建物沈下には前記設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材の弾塑性変形量と前記設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材の弾性変形量で対応することを特徴とする既存杭を利用した基礎構造。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2ないし4についても同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 明細書の段落【0013】を、 「【0013】 本発明の既存杭を利用した基礎構造は、既存杭と新設基礎スラブの間、もしくは既存杭及び既存基礎スラブと新設基礎スラブの間に、前記新設基礎スラブの耐力と前記既存杭の支持力から決まる所定の降伏荷重度を備えて形成され、前記既存杭に作用する荷重を調節する杭頭荷重調節部材を設けて構成され、前記杭頭荷重調節部材が、設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材と設計苛重で弾性咆囲にある降伏荷重が大きい部材とを一体にして構成され、建物沈下には前記設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材の弾塑性変形量と前記設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材の弾性変形量で対応することを特徴とする。」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア.訂正の目的について 訂正事項1に係る訂正は、訂正前の「降伏荷重が異なる複数の部材」が「設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材と設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材」であることを特定するとともに、「基礎構造」が「建物沈下には前記設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材の弾塑性変形量と前記設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材の弾性変形量で対応する」ことを特定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (ア)訂正事項1に係る訂正に関して、本件特許の特許明細書には、次の記載がある。 「【0034】 次に、杭頭荷重調節部材3のリラクゼーションによる負担荷重減の影響を低減したい場合には、図7に示すように、降伏荷重が小さい部材3a(設計荷重で降伏)と大きい部材3bの2層構造(多層構造)で杭頭荷重調節部材3を構成すればよい。 【0035】 このとき、設計荷重では部材3bが弾性範囲にある。建物沈下には部材3aの弾塑性変形量と部材3bの弾性変形量で対応する。部材3bは弾性範囲であるためリラクゼーションが小さい。部材3aは部材3aのみ用いた場合と比較して部材3bの弾性変形量分だけ厚さを薄くできるので、リラクゼーションの影響を小さく抑えることができる。」 (イ)そうすると、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。 (ウ)また、訂正事項1に係る訂正は、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (エ)したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2について 訂正事項2に係る訂正は、明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正事項1に係る訂正による訂正後の請求項1の記載に整合させるための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項1に係る訂正は、上記「(1)イ.」のとおり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、訂正事項2に係る訂正も、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (3)一群の請求項について 訂正事項1に係る訂正前の請求項1ないし4は、請求項2ないし4が請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし4に対応する訂正後の請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (4)小括 以上のとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び明細書のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件特許発明 上記「第2」のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正特許発明1」ないし「本件訂正特許発明4」といい、これらを合わせて「本件訂正特許発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 既存杭と新設基礎スラプの間、もしくは既存杭及び既存基礎スラブと新設基礎スラブの間に、前記新設基礎スラプの耐力と前記既存杭の支持力から決まる所定の降伏荷重度を備えて形成され、前記既存杭に作用する荷重を調節する杭頭荷重調節部材を設けて構成され、 前記杭頭荷重調節部材が、設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材と設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材とを一体にして構成され、建物沈下には前記設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材の弾塑性変形量と前記設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材の弾性変形量で対応することを特徴とする既存杭を利用した基礎構造。 【請求項2】 請求項1記載の既存杭を利用した基礎構造において、 前記既存杭の杭頭部に、見掛けの杭頭断面積を大にする拡頭部材が設けられていることを特徴とする既存杭を利用した基礎構造。 【請求項3】 請求項1または請求項2に記載の既存杭を利用した基礎構造において、 前記既存杭の杭頭部から突出させた杭頭鉄筋を、前記杭頭荷重調節部材を介して前記新設基礎スラブに接続して構成されていることを特徴とする既存杭を利用した基礎構造。 【請求項4】 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の既存杭を利用した基礎構造において、 新設構造物の沈下を考慮して前記杭頭荷重調節部材の弾性と厚さが設定されていることを特徴とする既存杭を利用した基礎構造。」 第4 特許異議申立理由及び取消理由通知で通知した取消理由の概要 1.特許異議申立理由の概要 申立人は、本件訂正前の本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件特許発明1」等という。)に対して、証拠として下記甲第1号証ないし甲第5号証を提出し、次の特許異議申立理由「ア.及びイ.」を申し立てている。 ア.本件特許発明1は、甲1発明と、同一である。 イ.本件特許発明1は、甲1発明、及び甲3記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、 本件特許発明2ないし4は、甲1発明、甲3記載事項、及び甲2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、 本件特許発明3は、甲1発明、甲3記載事項、及び甲4記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 甲第1号証 特開2000-45295号公報 甲第2号証 特開2006-45891号公報 甲第3号証 「杭頭縁切り工法における杭頭部の挙動に関する繰返しせん 断実験(その3)」、永井雅他、第48回地盤工学研究発表 会(富山)、2013年7月 甲第4号証 特開平6-212646号公報 甲第5号証 拒絶理由通知書(特願2016-002587) 2.取消理由通知で通知した取消理由の概要 本件訂正前の請求項1ないし4に係る特許に対して、当審が令和3年1月7日付けの取消理由通知において通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (1)(新規性)本件特許の請求項1及び4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。 (2)(進歩性)本件特許の請求項1及び4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に例示された周知技術に基いて、本件特許の請求項3に係る発明は、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 1.甲各号証について (1)甲第1号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の記載がある。 ア.「【0009】 【発明の実施の形態】図1は、本発明による既設杭混在型杭基礎構造における既設杭の杭頭部分の断面図である。図において、既設杭1は図示されていない新設杭と共に基礎版2と一体になって杭基礎構造を構成している。新設杭は、通常の構法を持って施工されているので、その説明は省略する。既設杭1の頭部には、複数の中空孔3が上端面4に均一に配設してある。中空孔の底面には鋼製の底板5が敷設されていて、後述する弾塑性体状材料6が既設杭頭部に敷設されるのを受け支えている。底板5は、弾塑性体状材料6からの荷重を既設杭全域に均等に伝達されるように配置していることから、その大きさは適宜決定されている。 【0010】基礎版2から既設杭1への鉛直応力は、施工初期の段階では直接既設杭1の頭部に伝達させず、介在させた弾塑性体状材料6を経由して伝えられるように構成する。このため、基礎版2の底面側には、基礎版2の内部まで伸張した有底孔7を形成し、有底孔7には図示のように既設杭1の頭部を嵌入して、有底孔7の底面に弾塑性体状材料6を接触させて、既設杭1の頭部上端面4と有底孔7の底面との間には、所定の空隙8を形成保持させている。空隙8に通じている2本のパイプ9,10は、無収縮グラウトの注入と空気抜き用であり、基礎版の上の上部構造が完成して載荷荷重の状況が定着した段階で空隙8を封鎖するために予め設置している。 既設杭1の頭部と有底孔7との周面には、硬質ゴム製の緩衝体11を配置しており、既設杭1と緩衝体11とが接する間には剥離材が塗布されていて、既設杭1と基礎版2とが鉛直方向に摺動することを可能にして、上記した鉛直応力伝達が円滑に行われるのを助長している。 【0011】次に、弾塑性体状材料を図2及び図3に基づいて説明する。本発明で用いる弾塑性体状材料6は、「完全弾塑性体に近い特性を備えた」弾性材を称している(当審注:「称している」は「使用している」の誤記と認める。)。このような弾性体としては、極低降伏点鋼材等が該当しているので、極低降伏点鋼材の性質を示して弾塑性体状材料6の性質を説明する。図2は、極低降伏点鋼材の歪-応力度関係の特性を示している。極低降伏点鋼材の極限応力度は、σmax =2,400?2,600kg/cm^(2)程度であり、普通鋼の約半分である。そして、図示のように歪10%程度でこの極限応力度付近に到達し、それ以上は歪50%付近までその値が持続する特徴を持っている。本発明に用いる弾塑性体状材料6の歪-応力度関係は、図3に示すような理想的構造モデルによる「完全弾塑性体型の応力-歪関係」を指向している。同応力-歪関係は、図示のようにわずかな歪で応力度が所定値に到達しながら、それ以上に歪が増加して大きな歪に至っても、応力度が所定値付近に留まったまま推移する性質を示している。「完全弾塑性体に近い特性を備えた」弾性材としては、極低降伏点鋼の他に、低降伏点鋼や極軟鋼等も同様の特性を有している。 【0012】既設杭1と基礎版2とは、上述のように弾塑性体状材料6を介在して設定されているので、上部構造の施工時には上部構造からの鉛直応力は全て、弾塑性体状材料6を経由して既設杭1に伝達される。弾塑性体状材料6は、上記の特性を備えているので、伝達している鉛直応力が所定応力を越えると、伝達する応力を所定値以内に納めるように弾塑性体状材料6の長さを縮小させて反応し、既設杭1には所定値以上の応力を伝達しない。従って、既設杭1には、上部構造物が完成した段階までは所定の鉛直応力度より大きい応力度にならない状態を形成することになる。 【0013】図4は、本発明による既設杭混在型杭基礎構造の載荷重と杭の沈下量の関係を示す応力履歴図である。上部構造物の施工が続けられると、既設杭1は所定の応力分のみを分担するから、上部構造物の鉛直応力度の増加分は新設杭が負担して杭の沈下量を増やして行くことになる。構造物がほとんど完成し、構造物荷重がほぼ完全に作用した段階で、既設杭1の空隙8に注入用のパイプ9から無収縮グラウトを注入して既設杭1と基礎版2とを一体化し、弾塑性体状材料6の作用を完了させる。これによって、構造物の竣工時点では、既設杭1に許容可能な所定の鉛直応力を分担させ、新設杭は残りの鉛直荷重を分担して、建物全体としては性能に応じた杭応力分担状態を形成している。」 イ.「【0017】上部構造物の完成までは、既設杭1は所定の応力分のみを分担して沈下量を増やし続けるから、上部構造物の鉛直応力度の増加分は新設杭が負担して杭の沈下量を増やして行くことになる。上部構造物が完成に近くなって構造物荷重がほぼ完全に作用した段階になると、既設杭1の空隙8に注入用のパイプ9から無収縮グラウトを注入し既設杭1と基礎版2とを一体化して弾塑性体状材料6の作用を完了させる。これによって、施工作業を完了するが、この状態では、既設杭1に許容可能な鉛直応力を分担させて新設杭が残りの鉛直荷重を分担しているから、建物全体としては性能に応じた杭応力分担状態を形成して合理的な建物更新が達成されている。 【0018】 【実施例】弾塑性体状材料として、極低降伏点鋼を採用した場合の形状寸法について、実施例を以下に示す。直径1mの杭の常時許容支持力は、300tであるから、既設杭に同様の許容支持力を所定値として設定する場合について検討する。一般に、300tの荷重が作用したとき、杭の沈下量は直径の1%程度といわれることから、杭の直径が1mであると沈下量は最大1cm程度と推定される。図2に示した極低降伏点鋼の特性から、10%の歪時に所定値としたσmax=2,400kg/cm2 (当審注:「kg/cm2」は「kg/cm^(2)」の誤記と認める。以下同様。)に達して、1cmの沈下が生じるようにするためには、弾塑性体状材料を、長さ10cm、断面5.6cm×5.6cmにして、これを4本用意する必要がある。即ち、 2,400kg/cm2 ×(5.6cm×5.6cm)×4≒300t として、300tの荷重を受けて既設杭には2,400kg/cm2 の許容範囲内の応力を伝達しながら、1cmの沈下に抑えられるからである。」 ウ.図1は次のものである。 エ.上記「イ.」において、「一般に、300tの荷重が作用したとき、杭の沈下量は直径の1%程度といわれることから、杭の直径が1mであると沈下量は最大1cm程度と推定される。」と記載されていることからみて、「1cmの沈下」は杭に生じるものと認められる。 オ.図1からは「既設杭1」、「基礎版2」、「底板5」及び「弾塑性体状材料6」がいずれも「空隙8」に面していることを看取することができる。 そうすると、上記「ア.」のように「既設杭1の空隙8に注入用のパイプ9から無収縮グラウトを注入して既設杭1と基礎版2とを一体化」する場合には、底板5及び弾塑性体状材料6を含めて、既設杭1、基礎版2、底板5及び弾塑性体状材料6を一体化することになるものと認められる。 以上を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 「既設杭の頭部には、中空孔が配設してあり、 中空孔の底面には鋼製の底板が敷設されていて、弾塑性体状材料が既設杭頭部に敷設されるのを受け支えており、底板は、弾塑性体状材料からの荷重を既設杭全域に均等に伝達されるように配置しており、 弾塑性体状材料は、「完全弾塑性体に近い特性を備えた」弾性材を使用しており、このような弾性体としては、極低降伏点鋼材等が該当しており、歪10%程度で極限応力度付近に到達し、それ以上は歪50%付近までその値が持続し、 既設杭と基礎版とは、弾塑性体状材料を介在して設定されており、上部構造の施工時には上部構造からの鉛直応力は全て、弾塑性体状材料を経由して既設杭に伝達され、弾塑性体状材料は、伝達している鉛直応力が所定応力を越えると、伝達する応力を所定値以内に納め、 上部構造物の完成までは、既設杭は所定の応力分のみを分担して沈下量を増やし続け、上部構造物の鉛直応力度の増加分は新設杭が負担して杭の沈下量を増やして行き、 極低降伏点鋼の特性から、10%の歪時に所定値としたσmax=2,400kg/cm^(2)に達して、杭に1cmの沈下が生じるようにするために、弾塑性体状材料を、長さ10cm、断面5.6cm×5.6cmにして、これを4本用意し、 既設杭の空隙に無収縮グラウトを注入して既設杭、基礎版、底板及び弾塑性体状材料を一体化する 杭基礎構造。」 (2)甲第2号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の記載がある。 ア.「【0017】 図1は、本発明の実施態様を示す説明図である。本発明の基礎構造を構築するには、まず図1(1A)に示されるように支持杭体3及び杭頭2を備える杭基礎部を構築し、杭頭2の上面に厚さPの歪み材1aを設置し、次いで直接基礎部であるベタ基礎4aを構築する。次いでこれらの上方に建築物7を構築する。建築物7を構築する途中において歪み材1aが除々に歪み、図1(1B)に示すように厚さQの歪み材1bとなる。歪み材1bは縦方向に圧縮されることにより圧縮クリープ限界を超え剛性を発揮するに至り、これにより歪み材1bよりなる接合部が形成され、杭頭2及び支持杭体3からなる杭基礎部とベタ基礎4aとが該接合部を介して接合一体化されて本発明の基礎構造が完成される。 尚、本明細書においてGLとは、グランドレベルを意味する。」 イ.「【0025】 上記歪み材1が支持杭体3の上端部とともに杭頭2に埋め込まれる実施態様では、図9に示すように歪み材1が支持杭体3上端部の上面において水平方向に設置されるとともにその側面に接して垂直方向にも設けることができる。上記垂直方向の歪み材1を設置することにより、地震等により振動が発生し水平方向の力が基礎構造にかかった際に該歪み材1が杭頭2と支持杭体3及との間の緩衝材となり振動を吸収し低減することができるので好ましい。 また図10に示すように支持杭体3の上端面に接して杭保護金属キャップ18を設け、その上面にゴム板19を設けた後に水平方向に設置する歪み材1を設置することもできる。ゴム板19は、上下面が平滑なシートであってもよいし、上下面の両方或いはどちらか一方が凹凸形状であるシートであってもよい。 また図11に示すように支持杭体3の上端部及び歪み材1と杭頭2との間にコンクリート充填スペース10を設けてもよい。このとき図7にならって歪み材1と杭頭2とにあらかじめ鉄筋を設けておくこともできる(図示せず)。 またさらに図12に示すように杭頭2に埋め込まれる歪み材1が、バルブ11、圧力計12、バルブ13、及び充填部15を有するゴム製品であって、該歪み材1及び支持杭体3の上端部と杭頭2との間にコンクリート充填スペース10を設けることもできる。」 ウ.「【0031】 上述のとおり歪み材1bの歪み量(P-Q)を測定し、その歪み量が所望の量、好ましくは1cm以上20cm以下の歪み量だけ歪んだことを確認後、接合部を形成する。このとき、歪み量は各歪み材によって異なっていても良いし、同じであっても良い。ただし各歪み材の歪み量の差があまりに大きいと建築物の水平性に支障をきたす恐れがあるので、建築物7の荷重が水平面に対して大きく偏りがある場合等には、各歪み材の圧縮強度をそれぞれの支持荷重にあわせて適宜決定し、各歪み材の歪み量を調整することが望ましい。このように建築物の荷重の偏りを歪み材により調整することによって、該歪み材より下位に位置する支持杭体に対し、建築物の荷重の偏重による負荷を軽減させることができる。また歪み材設置時に油圧ジャッキを設置し該油圧ジャッキを操作することで、歪み材の歪み量を所望の量に調整してもよい。」 エ.図1、7及び11は次のものである。 【図1】 【図7】 【図11】 オ.一般に杭頭及び杭体の平面形状が円形や四角形等であることを踏まえると、図1、7及び11からは、杭頭2の断面積が支持杭体3の断面積より大きい点を看取することができる。 以上を総合すると、甲第2号証には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。 「杭頭の上面に歪み材を設置し、杭頭及び支持杭体からなる杭基礎部とベタ基礎とが接合部を介して接合一体化された基礎構造であって、 歪み材は縦方向に圧縮されることにより圧縮クリープ限界を超え剛性を発揮するに至るものであり、 各歪み材の圧縮強度をそれぞれの支持荷重にあわせて適宜決定し、各歪み材の歪み量を調整する 杭頭の断面積が支持杭体の断面積より大きい 基礎構造。」 (3)甲第3号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の記載がある。 ア.「1.はじめに 前報^(1,2))では、杭頭部に曲げ変形を生じさせる実験装置を用いた繰返しせん断実験により、杭頭にクロロプレンゴム(以下、ゴムと略称)を設置した場合の杭頭部の挙動についての検討結果を報告した。今回は、前報より圧縮強度の大きいゴムを用い、さらに摩擦材の枚数を増やしたものも含めて一連の繰返しせん断実験を行ったので、以下に報告する。」(第1335ページ左欄第1?8行) イ.「2.実験概要 本実験で用いた実験装置を図1に示す。基礎スラブ(H鋼ベース)の寸法は300×150×150mmであり、杭は直径φ48.8mm、長さ250mmの機械構造用炭素鋼(S50C)を用いた。摩擦材はFRPを下地として、変性ビニルエステル樹脂を塗布し表面をUV硬化させたもの(以下FRP板と称す)と、一般構造用圧延鋼材(SS400、表面は未処理、以下鋼板と称す)の2種類を使用した。前報で用いたゴムの圧縮強度は7.7MPaであったが、破断したものもあったため、今回は圧縮強度が10.6MPaのクロロプレンゴムを採用した。実験種類を表1に示す。表中の使用材料の組合せは、先頭のものが杭側に設置した材料となっている。実験は、H鋼ベース上の摩擦材(厚さ12mm)の他にゴム(幅70×奥行70×厚さ12mm)のみを設置する場合と、ゴムと摩擦材の間に小型の摩擦材(幅80×奥行80×厚さ12mm)を介在させる場合の2通りの組合せとした。」(第1335ページ左欄第9?24行) ウ.「3.実験結果 杭頭およびH鋼ベースの水平変位量をそれぞれSp、Sbとする。また、ゴムのみを介在させる場合はゴムの水平変位量を、ゴムと小型の摩擦材を介在させる場合は小型の摩擦材の水平変位量を中間変位量S_(m)とする。摩擦材がFRP板の場合のせん断応力比τ/σとS_(p)、S_(m)および相対変位量(S_(b)-S_(P))との関係の例を図2および図3に示す。」(第1335ページ左欄第29?35行) エ.図1は次のものである。 オ.表1は次のものである。 カ.上記「ア.及びイ.」の記載を踏まえると、上記「エ.」の図1に示されたものは、「杭」及び「基礎スラブ(H鋼ベース)」を備えるから基礎構造の「実験装置」であるといえ、その位置関係から見て、通常の基礎構造の上下を反転したものであって、「杭」の「基礎スラブ(H鋼ベース)」側が「杭頭部」であると理解することができる。 そうすると、図1からは、「杭頭部」と「基礎スラブ(H鋼ベース)」の間に「摩擦材」を介在させた基礎構造を看取することができる。 キ.上記「オ.」の表1からは、使用材料の組合せは、ゴム-FRP板、ゴム-鋼板、ゴム-FRP板-FRP板、ゴム-鋼板-鋼板であることが読み取れる。 以上を総合すると、甲第3号証には次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。 「杭頭部と基礎スラブ(H鋼ベース)との間に摩擦材を介在させた基礎構造であって、 摩擦材はFRP板と、鋼板の2種類を使用し、 H鋼ベース上の摩擦材の他にゴムのみを設置する場合と、ゴムと摩擦材の間に小型の摩擦材を介在させる場合の2通りの組合せとし、 使用材料の組合せは、ゴム-FRP板、ゴム-鋼板、ゴム-FRP板-FRP板、ゴム-鋼板-鋼板である 基礎構造。」 (4)甲第4号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の記載がある。 ア.「【0007】 【実施例】図1に本発明の第1実施例、図2に第2実施例を示す。図1において、1は各種の構造物(図示省略)の解体後の既存杭、2は既存杭1の上部に植設したアンカー筋、2aはアンカー筋2の先端部、3はアンカー筋2の基部を被覆した防錆処理層、5は新設構造物(図示省略)の基礎であり、図1に示す第1実施例において、各アンカー筋2は既存杭1の上部に適宜の手段で間隔を置き植設され、その先端部2aは新築構造物の基礎(フーチング,マツト等)5に定着され、必要に応じその基端部及び先端部2aには凹凸を形成したり又は折曲して定着力を高めるとともに、既存杭1の上端と新設構造物の基礎5との間に露出した各アンカー筋2の基部には、好ましくはエポキシ樹脂等の塗布により防錆処理層3を形成して被覆し、その第1実施例は、構造物解体後の既存杭1の上部に複数本のアンカー筋2を植設して、各アンカー筋2の先端部2aを新設構造物の基礎5に定着するとともに、既存杭1の上端と新設構造物の基礎5との間に露出した各アンカー筋2の基部を防錆処理層3で被覆する既存杭利用の構造物浮上防止法になつている。 【0008】比較的に軟弱な地盤において新築構造物を構築する際はその構造に対応した杭基礎が施工され、構造物解体後の既存杭1は、従来は不要となり撤去されるのが一般的であるが、本発明では、前記のようにその既存杭1の上部に複数本のアンカー筋2を植設して、各アンカー筋2の上端部2aを新築構造物の基礎5に定着して連結し、その既存杭1を各アンカー筋2を介し新築構造物の錘りとして、地下水位の上昇等による新築構造物の浮上を効果的に防止し、また、各アンカー筋2の基部は防錆処理層3による被覆により腐食が防止されて耐久性が高められ既存杭1を有効に利用している。 【0009】また、図2に示す第2実施例において、図中12は既存杭1の上部に複数本の杭主筋を突出させて形成したアンカー筋、12aはアンカー筋12の先端部であり、図2の第2実施例は、前記の既存杭利用の構造物浮上防止法において、その既存杭1の上部コンクリートを斫つて複数本の杭主筋を突出させてアンカー筋12とすることを特徴とする既存杭利用の構造物浮上防止法になつており、そのアンカー筋12の先端部12aは図示のように折曲して新築構造物の基礎5との接合力を高め、各アンカー筋12の基部には第1実施例と同様に好ましくはエポキシ樹脂等の塗布により防錆処理層3を形成して被覆し、各アンカー筋12は第1実施例のアンカー筋2と同様な機能を有し全体的に同様な作用、効果を有する。」 イ.上記「ア.」の段落【0009】は第2実施例についてのものであって、「各アンカー筋12は第1実施例のアンカー筋2と同様な機能を有し全体的に同様な作用、効果を有する。」と記載されているところ、第1実施例について記載された段落【0008】には「その既存杭1の上部に複数本のアンカー筋2を植設して、各アンカー筋2の上端部2aを新築構造物の基礎5に定着して連結し」と記載されているから、第2実施例においても同様に、アンカー筋12の上端部12aを新築構造物の基礎5に定着して連結するものと認められる。 ウ.上記「ア.」の段落【0009】には「既存杭利用の構造物浮上防止法」が記載されているところ、上記「イ.」での検討を踏まえると、当該方法によって構築される構造は「既存杭1」及び「新築構造物の基礎5」を含むものであるから、基礎構造といいうるものである。 以上を総合すると、甲第4号証には次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。 「既存杭の上部コンクリートを斫つて複数本の杭主筋を突出させてアンカー筋とし、アンカー筋の上端部を新築構造物の基礎に定着して連結する 基礎構造。」 2.取消理由通知で通知した取消理由について (1)本件訂正特許発明1 ア.対比 (ア)甲1発明の「既設杭」及び「基礎版」は、その構造、機能及び作用からみて、本件訂正特許発明1の「既存杭」及び「新設基礎スラブ」にそれぞれ相当する。 (イ)甲1発明において「弾塑性体状材料は、「完全弾塑性体に近い特性を備えた」弾性材を使用しており、このような弾性体としては、極低降伏点鋼材等が該当しており、歪10%程度で極限応力度付近に到達し、それ以上は歪50%付近までその値が持続」すること、及び、「既設杭と基礎版とは、弾塑性体状材料を介在して設定されており、上部構造の施工時には上部構造からの鉛直応力は全て、弾塑性体状材料を経由して既設杭に伝達され」ることを踏まえると、甲1発明の「伝達している鉛直応力が極限応力度を越えると、伝達する応力を所定値以内に納め」は、本件訂正特許発明1の前記新設基礎スラブの耐力と前記既存杭の支持力から決まる所定の降伏荷重度を備えて形成され、前記既存杭に作用する荷重を調節する」に相当する。 (ウ)甲1発明は「既設杭の空隙に無収縮グラウトを注入して既設杭、基礎版、底板及び弾塑性体状材料を一体化する」ものであるから、その「底板及び弾塑性体状材料」は一体化されたものである。また、「底板」は鋼製である一方、「弾塑性体状材料」は「完全弾塑性体に近い特性を備えた」もので、「極低降伏点鋼材等が該当」することからして、「底板」と「弾塑性体状材料」とは降伏荷重が異なることは明らかである。 そうすると、甲1発明の「底板及び弾塑性体状材料」は、本件訂正特許発明1の「杭頭荷重調節部材」に相当し、降伏荷重が異なる複数の部材を一体にして構成されているものであるといえる。 また、本件特許明細書には「一体にして構成され」との事項がどのような状態を指すのか具体的に記載されていないところ、「一体」の一般的な語義が「一つになって分けられない関係にあること」(岩波書店「広辞苑第六版」)であることに照らせば、甲1発明の「底板」は「弾塑性体状材料が既設杭頭部に敷設されるのを受け支えており」、「弾塑性体状材料からの荷重を既設杭全域に均等に伝達されるように配置してあ」るのだから、荷重の支持及び伝達に関して「底板」及び「弾塑性体状材料」は「一つになって分けられない関係にある」と認められるものであって、この点からも甲1発明の「底板及び弾塑性体状材料」は、降伏荷重が異なる複数の部材を一体にして構成されるものであるといえる。 そして、甲1発明の「底板及び弾塑性体状材料」が降伏荷重が異なる複数の部材を一体にして構成されることと、本件訂正特許発明1の「前記杭頭荷重調節部材が、設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材と設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材とを一体にして構成され」ることとは、「杭頭荷重調節部材が、降伏荷重が小さい部材と降伏荷重が大きい部材とを一体にして構成され」る点で共通する。 (エ)甲1発明の「杭基礎構造」は、「既設杭」を使用するものであるから、本件訂正特許発明1の「既存杭を利用した基礎構造」に相当する。 そうすると、本件訂正特許発明1と甲1発明とは、 「既存杭と新設基礎スラブの間に、前記新設基礎スラブの耐力と前記既存杭の支持力から決まる所定の降伏荷重度を備えて形成され、前記既存杭に作用する荷重を調節する杭頭荷重調節部材を設けて構成され、 前記杭頭荷重調節部材が、降伏荷重が小さい部材と降伏荷重が大きい部材とを一体にして構成される既存杭を利用した基礎構造。」 の点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 本件訂正特許発明1においては、降伏荷重が小さい部材が「設計荷重で降伏する」ものであるとともに、降伏荷重が大きい部材が「設計荷重で弾性範囲にある」ものであるのに対して、甲1発明は設計荷重が負荷された場合の降伏荷重が小さい部材及び降伏荷重が大きい部材の挙動が明らかでない点。 (相違点2) 本件訂正特許発明1においては、「建物沈下には設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材の弾塑性変形量と設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材の弾性変形量で対応する」のに対して、甲1発明は建物沈下の際の降伏荷重が小さい部材及び降伏荷重が大きい部材の挙動が明らかでない点。 イ.判断 (ア)事案に鑑み、まず相違点2について検討する。 (イ)本件訂正特許発明1における「建物沈下には設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材の弾塑性変形量と設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材の弾性変形量で対応する」との事項について検討すると、技術常識を踏まえれば、「建物沈下」は建物が垂直方向下方に変位することであり、「対応」の通常の意味は「両者の関係がつりあうこと」(岩波書店『広辞苑 第六版』)であるから、「建物沈下」に「対応する」とは、「降伏荷重が小さい部材の弾塑性変形量」及び「降伏荷重が大きい部材の弾性変形量」が、「建物沈下」による建物の垂直方向の変位量に釣り合う程度の量であることを意味すると解することができる。 (ウ)一方、本件訂正特許発明1の「降伏荷重が大きい部材」に相当する甲1発明の「底板」は「鋼製」であるから、その「弾性変形量」は「建物沈下」による建物の垂直方向の変位量の量に比して著しく小さいことが技術常識であって、「建物沈下」に「対応する」と言い得る程度の「弾性変形量」を生じるとは認められない。 (エ)そうすると、相違点2は実質的な相違点であるから、相違点1について検討するまでもなく、本件訂正特許発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。 (オ)また、甲第1号証には、相違点2に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項については記載も示唆もないから、本件訂正特許発明1は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件訂正特許発明2ないし4 ア.本件訂正特許発明2ないし4は、本件訂正特許発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定した発明であるから、本件訂正特許発明2ないし4と甲1発明とは、それぞれ少なくとも上記「(1)ア.」の相違点1及び2で相違する。 イ.そこで、相違点2について検討すると、甲1発明については、上記「(1)イ.」において検討したとおりである。 甲2発明は「杭頭及び支持杭体からなる杭基礎部とベタ基礎とが接合部を介して接合一体化された基礎構造」において「杭頭の上面に歪み材を設置」するものであって、「歪み材」は単一の部材であるから、甲第2号証には「杭基礎部とベタ基礎」の間に「降伏荷重が小さい部材」及び「降伏荷重が大きい部材」を設けることについては記載も示唆もない。 甲4発明は「基礎構造」において、「既存杭の上部コンクリート」から突出させた「アンカー筋の上端部を新築構造物の基礎に定着して連結する」ものであって、甲第4号証には「既存杭」と「新築構造物の基礎」との間に部材を設けることについては記載も示唆もない。 すなわち、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証には、相違点2に係る本件訂正特許発明2ないし4の発明特定事項について、何らの記載も示唆もない。 ウ.そうすると、本件訂正特許発明4は甲第1号証に記載された発明ではない。 また、本件訂正特許発明2ないし4は甲1発明、甲2発明及び甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3.取消理由通知で通知しなかった特許異議申立理由について (1)対比 上記「2.」において検討したとおり、本件訂正特許発明1ないし4と甲1発明とは、それぞれ少なくとも上記「(1)ア.」の相違点1及び2で相違する。 (2)検討 ア.そこで、相違点2について検討すると、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証については、上記「2.」において検討したとおりである。 イ.甲第3号証には、上記「1.(3)」で認定した甲3発明が記載されており、甲3発明の「摩擦材」は本件訂正特許発明1の「降伏荷重が大きい部材」に相当する。 しかしながら、甲第3号証には、上記「1.(3)ア.ないしウ.」に摘示したとおり、繰返しせん断実験における「杭頭」、「H鋼ベース」、「ゴム」及び「摩擦材」の水平変位量やせん断応力比については記載されているが、これらの部材の垂直方向の変位量については何ら記載されていない。 そして、「2.(1)イ.(イ)」で検討したとおり、本件訂正特許発明1の「建物沈下」に「対応する」とは、「降伏荷重が小さい部材の弾塑性変形量」及び「降伏荷重が大きい部材の弾性変形量」が「建物沈下」による建物の垂直方向の変位量に釣り合う程度の量であることを意味すると解することができるところ、本件訂正特許発明1の「降伏荷重が大きい部材」に相当する甲3発明の「摩擦材」は「FRP板」又は「鋼板」であるから、その「弾性変形量」は「建物沈下」による建物の垂直方向の変位量に比して著しく小さいことが技術常識であって、「建物沈下」に「対応する」と言い得る程度の「弾性変形量」を生じるとは認められない。 ウ.以上のとおり、甲第1号証ないし甲第4号証には、相違点2に係る本件訂正特許発明1ないし4の発明特定事項については、何らの記載も示唆もない。 (3)小括 そうすると、本件訂正特許発明1ないし4は、甲1発明ないし甲4発明に基いてそれぞれ当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)申立人の主張について ア.なお、申立人は意見書において、本件特許の図7(b)を挙げて、 「ここで、少なくとも「建物沈下には」、「設計荷重」すなわち降伏荷重が小さい部材の降伏荷重(σy1)が、降伏荷重が小さい部材と、降伏荷重が大きい部材とにかかる。この場合、図7(b)に示される様に、降伏荷重が大きい部材の圧縮ひずみは、設計荷重(σyl)においてεy2で一定である。すなわち、建物沈下には降伏荷重が大きい部材の弾性変形量は一定であり建物沈下量に応じた変形が生じない。 したがって、訂正により追加された「建物沈下には… 前記設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材の弾性変形量で対応する」ことは、その技術的意義を当業者が理解することができないから、不明確な発明であり、明確性要件(特許法36条6項2号)を満たさない。」(第5ページ第1?10行) と主張しているので、以下、当該主張について検討しておく。 イ.本件訂正特許発明1における「建物沈下には設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材の弾塑性変形量と設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材の弾性変形量で対応する」との事項は、上記「2.(1)イ.(イ)」で検討したとおりに解することができるものであって、その記載自体が明確でないとはいえない。 ウ.申立人が言及する本件特許の図7(b)は次のものである。 技術常識を踏まえると、図7(b)からは、降伏荷重が小さい部材3aについては、圧縮応力が設計荷重(σyl)に達すると降伏し、設計荷重(σyl)を超える圧縮応力の増大とは無関係に塑性変形することが分かる。 一方、降伏荷重が大きい部材3bについては、圧縮応力が設計荷重(σyl)の場合の圧縮ひずみがεy2であり、圧縮応力が設計荷重(σyl)を超えてσy2に至るまでの間において、圧縮応力が増大するにつれて圧縮ひずみがεy2を超えて増大することが読み取れるから、降伏荷重が大きい部材3bは、圧縮応力が設計荷重(σyl)を超えてもσy2までの間においては、弾性範囲にあって、弾性変形するものと認められる。 そうすると、申立人の「降伏荷重が大きい部材の圧縮ひずみは、設計荷重(σyl)においてεy2で一定である」との主張は、降伏荷重が大きい部材3bに設計荷重(σyl)が作用する場合の圧縮ひずみのみに着目したものであって、設計荷重(σyl)を超えた圧縮応力が作用する場合についての考慮を欠くものであるから、採用することができない。 第6 むすび 以上のとおり、本件訂正特許発明1ないし4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件訂正特許発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 既存杭を利用した基礎構造 【技術分野】 【0001】 本発明は、既存杭を再利用してなる基礎構造に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、老朽化した建物の新設、再開発などを行う場合に、既存の建物の地上部を解体した後、既存の建物の基礎杭(既存杭)を残した状態でその地盤上に新しい建物を構築し、既存杭と新設杭で建物を支持する工法が提案、実用化されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。 【0003】 一方、このような既存杭を再利用する場合には、既存杭と新設建物の柱の位置が異なるため、新設基礎スラブには柱位置と異なる場所に既存杭からの反力によって大きな応力が生じる。このため、基礎スラブを厚くするなどの対策を講じる必要がある。 【0004】 また、既存杭の支持力が小さく、新設建物の荷重が大きい場合には、既存杭に許容支持力を超える荷重が作用することがある。 【0005】 これに対し、既存杭の上端部周辺の地盤を壺掘りし、既存杭の上端部を切除した後、周辺地盤よりも剛性の小さい材料で埋め戻したり、スタイロフォーム(商標)のような低剛性材を挟むことによって既存杭が新設基礎に与える応力集中を緩和する手法が提案、実用化されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】 特開2010-133206号公報 【特許文献2】 特開2012-246656号公報 【特許文献3】 特開2012-112218号公報 【特許文献4】 特開2003-82688号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかしながら、既存杭の支持力が小さい場合の対策においては、既存杭の杭頭の切除長さや、どのような材料をどのような密度で埋め戻すかなどの材料、締固め度などの施工条件によって既存杭に作用する荷重が変化する。このため、基礎スラブに作用する荷重を安全な範囲に抑える明確な仕様を規定することが困難である。 【0008】 また、新設杭と既存杭の沈下剛性比によっては、既存杭頭を大きく切除する必要があり、例えば既存杭が山留め壁に近接する位置にあるなど、深い掘削が適用しにくい条件下では施工ができなくなることも考えられる。 【0009】 さらに、地盤材料を規定された軟らかい剛性となるように精度よく制御して施工することは非常に難しく、信頼性を確保することも難しい。このため、このような処理を行った既存杭部分の地反力を期待しない設計とすることになり、剛性、支持力が高い既存杭が無駄になってしまう。 【0010】 また、既存杭を杭として再利用する場合でも、設計は既存建物の解体前に行われることが多く、解体後に調査した杭の位置、性状などが設計で設定したものと大きく異なると、設計のやり直しが必要になり、時間や労力の大幅なロスを招くことになる。 【0011】 本発明は、上記事情に鑑み、既存杭や新設基礎スラブの支持能力に応じた荷重を負担させることができ、好適に既存杭を再利用することを可能にする既存杭を利用した基礎構造を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0012】 上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。 【0013】 本発明の既存杭を利用した基礎構造は、既存杭と新設基礎スラブの間、もしくは既存杭及び既存基礎スラブと新設基礎スラブの間に、前記新設基礎スラブの耐力と前記既存杭の支持力から決まる所定の降伏荷重度を備えて形成され、前記既存杭に作用する荷重を調節する杭頭荷重調節部材を設けて構成され、前記杭頭荷重調節部材が、設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材と設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材とを一体にして構成され、建物沈下には前記設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材の弾塑性変形量と前記設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材の弾性変形量で対応することを特徴とする。 【0014】 また、本発明の既存杭を利用した基礎構造においては、前記既存杭の杭頭部に、見掛けの杭頭断面積を大にする拡頭部材が設けられていることが望ましい。 【0016】 さらに、本発明の既存杭を利用した基礎構造においては、前記既存杭の杭頭部から突出させた杭頭鉄筋を、前記杭頭荷重調節部材を介して前記新設基礎スラブに接続して構成されていることが望ましい。 【0017】 また、本発明の既存杭を利用した基礎構造においては、新設構造物の沈下を考慮して前記杭頭荷重調節部材の弾性と厚さが設定されていることがより望ましい。 【発明の効果】 【0018】 本発明の既存杭を利用した基礎構造においては、既存杭の杭頭荷重を一定以下に抑える杭頭荷重調節部材を用いることで、既存杭や基礎スラブの支持能力に応じた荷重を負担させることができる。これにより、基礎スラブに過大な応力を生じさせることなく、性能に応じて適切に既存杭を再利用することが可能になる。 【0019】 また、既存杭が負担する荷重が明確になるため、新設の基礎構造が負担する荷重を明確にすることができる。 【0020】 さらに、発泡スチロールのように軽量で、圧縮性が大きい部材を杭頭荷重調節部材として用いることにより、対策厚さを薄くすることができるとともにその敷設作業を容易にすることができる。 【0021】 さらに、せん断剛性の小さい部材を杭頭荷重調節部材として用いることにより、新設杭に比べてせん断や曲げ耐力が小さい既存杭の負担荷重を減らすことが可能になる。 【図面の簡単な説明】 【0022】 【図1】本発明の一実施形態に係る既存杭を利用した基礎構造を示す断面図である。 【図2】本発明の一実施形態に係る既存杭を利用した基礎構造の杭頭荷重調節部材を示す断面図である。 【図3】杭頭荷重調節部材の応力とひずみの関係を示す図である。 【図4】本発明の一実施形態に係る既存杭を利用した基礎構造を示す断面図であり、既存杭の支持力に余裕がある場合の構造を示す図である。 【図5】本発明の一実施形態に係る既存杭を利用した基礎構造を示す断面図であり、新設杭と既存杭の相対位置の違いに応じて負担荷重を変える場合の構造を示す図である。 【図6】本発明の一実施形態に係る既存杭を利用した基礎構造を示す断面図であり、既存基礎スラブも再利用する場合の構造を示す図である。 【図7】本発明の一実施形態に係る既存杭を利用した基礎構造を示す断面図であり、杭頭荷重調性部材を2層構造にした場合の構造を示す図である。 【図8】本発明の一実施形態に係る既存杭を利用した基礎構造を示す断面図であり、水平荷重の分担状況を示す図である。 【図9】本発明の一実施形態に係る既存杭を利用した基礎構造を示す断面図であり、既存杭を引張荷重に抵抗させる場合の構造を示す図である。 【発明を実施するための形態】 【0023】 以下、図1から図9を参照し、本発明の一実施形態に係る既存杭を利用した基礎構造について説明する。なお、本実施形態は、新設建物/構造物を新設杭(もしくは新設の直接基礎)と既存杭とで支持する基礎構造に関するものである。 【0024】 具体的に、本実施形態の既存杭を利用した基礎構造Aは、図1及び図2に示すように、既存杭1に対し、新設基礎スラブ2の底から任意の深さh分の杭頭部を切除し、杭頭部を切除した既存杭1上に発泡スチロールなどの降伏荷重度σ_(y)が明確で降伏後の剛性が小さい杭頭荷重調節部材3を置き、その上に新設基礎スラブ2を設置あるいは構築して構成されている。 【0025】 ここで、既存杭1には降伏荷重(σ_(y)・A)以上の荷重は作用しないため、その残りの荷重が新設杭に作用する。Aは既存杭断面積である。 【0026】 また、杭頭荷重調節部材3の厚さhは、杭頭荷重調節部材3の圧縮が大きすぎて荷重調節機能を喪失しない範囲(例えば10%)に収まるように設定する。 【0027】 例えば新設建物4の沈下予測量をδ_(c)とすると、杭頭荷重調節部材3の圧縮歪みεを、降伏歪みε_(y)(2?4%)?約10%の範囲に収まるように、すなわちh=δ_(c)/εとなるよう設定する(図3参照)。 【0028】 杭頭荷重調節部材3の降伏荷重度σ_(y)は、新設基礎スラブ2の耐力と既存杭1の支持力から決定する。既存杭1に支持力の異なる杭がある場合などでは降伏荷重度σ_(y)を杭毎に変えてもよい。 【0029】 また、既存杭1に期待できる支持力が(σ_(y)・A)に対して余裕がある場合には、図4に示すように、既存杭1の杭頭部にコンクリート等で拡頭する部材(拡頭部材)5を設け、杭頭断面積を見掛けの杭頭断面積A’に広げ、σ_(y)・A’の荷重が杭頭部に作用するようにしてもよい。 【0030】 一方、前述の通り、同じ仕様の既存杭1でも新設の建物4の柱4aからの位置により新設基礎スラブ2に与える影響が異なる。 【0031】 これに対し、図5に示すように、スラブ2への影響が小さい新設柱4a(新設杭6)に近い既存杭1においては、杭頭荷重調節部材3の降伏荷重σ_(y)や拡頭面積A’を大きくすることにより大きな荷重を負担させることができる。また、影響が大きい遠い既存杭1においては、逆に杭頭荷重調節部材3の降伏荷重σ_(y)や拡頭面積A’を小さくすることでスラブ2への影響を小さく抑えることができる。 【0032】 次に、既存杭1の上に既存の基礎スラブ7がある場合には、図6に示すように、既存基礎スラブ7の上に杭頭荷重調節部材3を敷き詰め、その上に新設基礎スラブ2を設け、既存基礎スラブ7も再利用するようにしてもよい。 【0033】 この場合は、既存基礎スラブ7と既存杭1で新設建物4の荷重のσ_(y)・A_(S)を支持し、その他の荷重を新設杭6で支持するようにすればよい。なお、A_(S)は既存基礎スラブ7に敷いた杭頭荷重調節部材3の面積である。 【0034】 次に、杭頭荷重調節部材3のリラクゼーションによる負担荷重減の影響を低減したい場合には、図7に示すように、降伏荷重が小さい部材3a(設計荷重で降伏)と大きい部材3bの2層構造(多層構造)で杭頭荷重調節部材3を構成すればよい。 【0035】 このとき、設計荷重では部材3bが弾性範囲にある。建物沈下には部材3aの弾塑性変形量と部材3bの弾性変形量で対応する。部材3bは弾性範囲であるためリラクゼーションが小さい。部材3aは部材3aのみ用いた場合と比較して部材3bの弾性変形量分だけ厚さを薄くできるので、リラクゼーションの影響を小さく抑えることができる。 【0036】 さらにリラクゼーションを抑えたい場合には、杭頭荷重調節部材3の厚さhを大きくして、新設建物(新設構造物)4の沈下量が杭頭荷重調節部材3の弾性変形量内に収まるようにすればよい。言い換えれば、新設建物の沈下を考慮して杭頭荷重調節部材3の弾性(弾性係数、弾性域)と厚さを設定することで、リラクゼーションを確実に抑えるように構成することが可能になる。 【0037】 ここで、新設建物4に水平力が作用する場合で、且つ既存杭1の水平耐力が新設杭6に比べて小さい場合であっても、杭頭荷重調節部材3のせん断剛性が新設杭(コンクリート)6よりも小さいことにより、その分、既存杭1の負担水平力を小さくでき、安全を確保することが可能である(図8参照)。 【0038】 また、杭頭荷重調節部材3と既存マットスラブの間に摩擦係数が小さいシート等の部材を配設すれば、さらに既存杭1の負担水平荷重を小さくすることが可能である。 【0039】 既存杭1を引張荷重に抵抗させたい場合には、図9に示すように杭頭荷重調節部材3を介して杭頭鉄筋9を新設基礎スラブ2に接続すればよい。この場合には、圧縮荷重は杭頭荷重調節部材3の降伏荷重までしか伝達しないが、引抜荷重は既存杭1の引抜抵抗まで期待することができる。 【0040】 したがって、本実施形態の既存杭を利用した基礎構造Aにおいては、既存杭1の杭頭荷重を一定以下に抑える杭頭荷重調節部材3を用いることで、既存杭1や基礎スラブ2の支持能力に応じた荷重を負担させることができる。これにより、基礎スラブ2に過大な応力を生じさせることなく、性能に応じて適切に既存杭1を再利用することが可能になる。 【0041】 また、既存杭1が負担する荷重が明確になるため、新設の基礎構造が負担する荷重を明確にすることができる。 【0042】 さらに、発泡スチロールのように軽量で、圧縮性が大きい部材を杭頭荷重調節部材3として用いることにより、対策厚さを薄くすることができるとともにその敷設作業を容易にすることができる。 【0043】 さらに、せん断剛性の小さい部材を杭頭荷重調節部材3として用いることにより、新設杭6に比べてせん断や曲げ耐力が小さい既存杭1の負担荷重を減らすことが可能になる。 【0044】 以上、本発明に係る既存杭を利用した基礎構造の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。 【符号の説明】 【0045】 1 既存杭 2 新設基礎スラブ 3 杭頭荷重調節部材 4 新設建物 4a 柱 5 拡頭部材 6 新設杭 7 既存の基礎スラブ 9 杭頭鉄筋 A 既存杭を利用した基礎構造 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 既存杭と新設基礎スラブの間、もしくは既存杭及び既存基礎スラブと新設基礎スラブの間に、前記新設基礎スラブの耐力と前記既存杭の支持力から決まる所定の降伏荷重度を備えて形成され、前記既存杭に作用する荷重を調節する杭頭荷重調節部材を設けて構成され、 前記杭頭荷重調節部材が、設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材と設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材とを一体にして構成され、建物沈下には前記設計荷重で降伏する降伏荷重が小さい部材の弾塑性変形量と前記設計荷重で弾性範囲にある降伏荷重が大きい部材の弾性変形量で対応することを特徴とする既存杭を利用した基礎構造。 【請求項2】 請求項1記載の既存杭を利用した基礎構造において、 前記既存杭の杭頭部に、見掛けの杭頭断面積を大にする拡頭部材が設けられていることを特徴とする既存杭を利用した基礎構造。 【請求項3】 請求項1または請求項2に記載の既存杭を利用した基礎構造において、 前記既存杭の杭頭部から突出させた杭頭鉄筋を、前記杭頭荷重調節部材を介して前記新設基礎スラブに接続して構成されていることを特徴とする既存杭を利用した基礎構造。 【請求項4】 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の既存杭を利用した基礎構造において、 新設構造物の沈下を考慮して前記杭頭荷重調節部材の弾性と厚さが設定されていることを特徴とする既存杭を利用した基礎構造。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-05-31 |
出願番号 | 特願2016-2587(P2016-2587) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(E02D)
P 1 651・ 113- YAA (E02D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 湯本 照基 |
特許庁審判長 |
住田 秀弘 |
特許庁審判官 |
長井 真一 森次 顕 |
登録日 | 2020-02-21 |
登録番号 | 特許第6664697号(P6664697) |
権利者 | 清水建設株式会社 |
発明の名称 | 既存杭を利用した基礎構造 |
代理人 | 佐伯 義文 |
代理人 | 川渕 健一 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 西澤 和純 |
代理人 | 西澤 和純 |
代理人 | 佐伯 義文 |
代理人 | 川渕 健一 |