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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
管理番号 1376722
異議申立番号 異議2020-700126  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-28 
確定日 2021-07-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6568545号発明「増強された汚れ保持容量を有するフィルタ構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6568545号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。 特許第6568545号の請求項1、2、4?6、8?11に係る特許を維持する。 特許第6568545号の請求項3、7、12?14に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6568545号(設定登録時の請求項の数は14。以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2015年(平成27)年6月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年6月26日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、令和1年8月9日にその特許権の設定登録がされ、同年8月28日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1?14に係る特許に対し、特許異議申立人である浜口大樹より、令和2年2月28日に特許異議の申立てがされたものであり、その後の経緯は次のとおりである。
令和2年 5月12日付け: 取消理由通知
同年 8月12日 : 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年10月22日 : 意見書の提出(特許異議申立人)
同年12月22日付け: 取消理由通知(決定の予告)
令和3年 4月 2日 : 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年 5月20日 : 意見書の提出(特許異議申立人)
なお、令和2年8月12日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
令和3年4月2日に特許権者より請求された訂正(以下、「本件訂正」という。)は適法になされたものと判断する。
以下、その理由につき詳述する。

1 訂正の内容
本件訂正は、本件特許請求の範囲の訂正であって、一群の請求項1?14を訂正の単位として請求されたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に従うものであるところ、その訂正の内容(訂正事項)は、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「第1および第2の繊維含有フィルタ層の繊維は異なる繊維径を有し、各繊維含有フィルタ層は異なる細孔径等級を有し、中間層は第1または第2の繊維含有フィルタ層のいずれかよりも粗い細孔径を有する、」とあるのを、「第1および第2の繊維含有フィルタ層の繊維は異なる繊維径を有し、各繊維含有フィルタ層は異なる細孔径を有し、中間層は第1または第2の繊維含有フィルタ層のいずれよりも粗い細孔径を有し、」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、「液体濾過装置。」を「第1の繊維含有フィルタ層のナノ繊維は、10nmから1,000nmの繊維直径を有し、第2の繊維含有フィルタ層のナノ繊維は、10nmから1,000nmの繊維直径を有するナノ繊維を含む、液体濾過装置。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3、7、12?14を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「細孔径等級」及び「いずれかよりも」を、それぞれ「細孔径」及び「いずれよりも」に訂正するものであり、いずれも、用語の意味するところに判然としないところがあったものを明瞭化し、明細書の実施例などの記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められ(なお、後者に関しては、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと捉えることもできる。)、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3及び7の記載に基づき、請求項1に記載された「第1の繊維含有フィルタ層」及び「第2の繊維含有フィルタ層」を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3、7、12?14を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。
よって、標記結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は適法になされたものと認められるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2、4?6、8?11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明4」?「本件発明6」、「本件発明8」?「本件発明11」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4?6、8?11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)入口、濾液出口および残留物出口を有するホルダー;および
(b)前記ホルダー内に配置され、当該ホルダーを上流区画と下流区画とに分離する複合媒体を含む液体濾過装置であって、前記複合媒体が
(i)対向する第1および第2の面を有する多孔質中間層、
(ii)中間層の第1の面上に配置された第1の繊維含有フィルタ層、および
(iii)中間層の第2の面上に配置された第2の繊維含有フィルタ層
を含み、第1および第2の繊維含有フィルタ層の繊維は異なる繊維径を有し、各繊維含有フィルタ層は異なる細孔径を有し、中間層は第1または第2の繊維含有フィルタ層のいずれよりも粗い細孔径を有し、第1の繊維含有フィルタ層は、10nmから1,000nmの繊維直径を有するナノ繊維を含み、第2の繊維含有フィルタ層は、10nmから1,000nmの繊維直径を有するナノ繊維を含む、液体濾過装置。
【請求項2】
第1および第2の繊維含有フィルタ層の繊維は、熱可塑性ポリマーおよび熱硬化性ポリマーからなる群から選択されるポリマー材料である請求項1に記載の液体濾過装置。
【請求項4】
中間層が不織布を含む請求項1に記載の液体濾過装置。
【請求項5】
不織布がポリマーナノ繊維を含む請求項4に記載の液体濾過装置。
【請求項6】
ポリマーナノ繊維がポリプロピレンから作られる請求項5に記載の液体濾過装置。
【請求項8】
第1および第2の繊維含有フィルタ層が、電界紡糸されたナノ繊維マットを含む請求項1に記載の液体濾過装置。
【請求項9】
ナノ繊維が、熱可塑性ポリマーおよび熱硬化性ポリマーからなる群から選択されるポリマー材料である請求項8に記載の液体濾過装置。
【請求項10】
ナノ繊維が、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、ナイロン、ポリイミド、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリスルホン、セルロース、酢酸セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリウレタン、ポリ(尿素ウレタン)、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルイミド、ポリアクリロニトリル、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリプロピレン、ポリアニリン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(ビニルブチレン)、それらのコポリマーおよび組み合わせからなる群から選択されるポリマー材料である請求項8に記載の液体濾過装置。
【請求項11】
ナノ繊維が、ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン6,6-6,10、ナイロン-6コポリマー、ナイロン-6,6コポリマー、ナイロン-6,6-6,10コポリマー、およびそれらの混合物からなる群から選択されるポリマー材料である請求項8に記載の液体濾過装置。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審は、令和2年5月12日付け及び同年12月22日付けで取消理由を通知したが、前者の通知は、設定登録時の請求項1?14に係る発明に対するものであり、その要旨は、次の取消理由1?3のとおりである。また、後者の通知(決定の予告)は、当該取消理由1?3のうちの取消理由3については、令和2年8月12日にされた訂正後の請求項1?14に係る発明についても妥当するというものである。
(1)取消理由1(明確性要件違反)
設定登録時の請求項1?14に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由2(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1?14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)取消理由3(進歩性欠如)
設定登録時の請求項1?14に係る発明(令和2年8月12日にされた訂正後の請求項1?14に係る発明)は、その特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明にあたる、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同条の規定に違反してされたものである。
(刊行物一覧)
甲第1号証:特開2009-6272号公報
甲第2号証:特開2010-407号公報
甲第3号証:特開2013-236985号公報
なお、主たる証拠は、甲第3号証であり、甲第1、2号証は、周知技術を示すためのものである。また、以下では、これらを単に「甲1」などという。

2 取消理由についての当審の判断
(1)取消理由1、2(明確性要件違反、サポート要件違反)について
ア 取消理由1、2における具体的な指摘事項
上記取消理由1、2は、要するに、次の(ア)?(ウ)の点から、明確性要件及びサポート要件に適合しないとしたものである。
(ア) 請求項1記載の「細孔径等級」に関して
設定登録時の請求項1には「異なる細孔径等級」との記載があるが、「異なる細孔径」との異同も含め、その意図するところを正確に理解することができないから、当該請求項1の記載は明確性要件に適合しない。
このことは、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?14についても同様である。
(イ) 請求項1記載の「いずれかよりも」に関して
設定登録時の請求項1には「いずれかよりも」との記載があるが、当該記載を文字通り解釈すると、請求項1に係る発明の「中間層」は、「第1または第2の繊維含有フィルタ層」のいずれか一方よりも粗い細孔径を有するものと解するのが相当である。
一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者において、当該請求項1に係る発明の課題が解決できると認識できる範囲は、上記「中間層」が、「第1または第2の繊維含有フィルタ層」のいずれよりも粗い細孔径を有する場合に限られるというべきであるから、当該請求項1の記載はサポート要件に適合しない。
このことは、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?14についても同様である。
(ウ) 請求項12?14に関して
設定登録時の請求項12?14に係る発明については、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、何ら記載されていない。
また、設定登録時の請求項13に記載されたフィルタ形態については、発明の詳細な説明において何ら説明がないこともあり、その内容が明確とはいえない。
したがって、当該請求項12?14の記載はサポート要件に適合しないし、当該請求項13の記載は明確性要件に適合しない。
イ 取消理由1、2についての当審の判断
本件訂正を踏まえて、上記取消理由1、2についてあらためて検討すると、本件訂正により、請求項1の関連記載は、「第1および第2の繊維含有フィルタ層の繊維は異なる繊維径を有し、各繊維含有フィルタ層は異なる細孔径を有し、中間層は第1または第2の繊維含有フィルタ層のいずれよりも粗い細孔径を有し、」となり、また、請求項12?14は削除されたため、本件訂正後の請求項の記載には、上記ア(ア)?(ウ)に係る明確性要件違反及びサポート要件違反の不備はないから、上記取消理由1及び2は妥当しない。

(2)取消理由3(進歩性欠如)について
ア 甲3(特開2009-6272号公報)の記載事項
甲3には、「筒状フィルター」(発明の名称)に関する、次の技術的事項が記載されている。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材に巻回されているろ過層を含む筒状フィルターであって、
前記ろ過層は、ろ過対象物の流入側から順番に連続して巻回されている不織布層A、不織布層B、不織布層Cの少なくとも3種類の不織布層で構成されており、
不織布層A、不織布層B及び不織布層Cの合計質量は、筒状フィルター全体の質量の20質量%以上であり、
不織布層Aの平均孔径は15μm以上23μm未満であり、不織布層Bの平均孔径は不織布層Aの平均孔径の0.62倍以上0.9倍未満であり、不織布層Cの平均孔径は不織布層Aの平均孔径の0.2倍以上0.62倍未満であり、
不織布層A、不織布層B及び不織布層Cの合計質量に対して、不織布層Aの含有量は3質量%以上35質量%以下であり、不織布層Bの含有量は10質量%以上40質量%以下であり、不織布層Cの含有量は50質量%以上85質量%以下であることを特徴とする筒状フィルター。
【請求項2】
不織布層Cの平均孔径が不織布層Bの平均孔径の0.25倍以上0.95倍未満である請求項1に記載の筒状フィルター。
【請求項3】
不織布層Cを構成する繊維の平均繊維径が0.3μm以上3.0μm以下であり、不織布層Cの目付が5g/m2以上120g/m2以下である請求項1又は2に記載の筒状フィルター。
【請求項4】
不織布層A、不織布層B及び不織布層Cが、ポリプロピレン樹脂からなる単一繊維で構成された不織布である請求項1?3のいずれか1項に記載の筒状フィルター。
【請求項5】
不織布層A、不織布層B及び不織布層Cは、メルトブローン不織布である請求項1?4のいずれか1項に記載の筒状フィルター。
【請求項6】
前記ろ過層を構成するメルトブローン不織布が3種類以上6種類以下である請求項5に記載の筒状フィルター。
【請求項7】
不織布層A、不織布層B、不織布層Cがそれぞれ1種類のメルトブローン不織布で構成されている請求項5又は6に記載の筒状フィルター。
【請求項8】
前記筒状フィルターにおいて、下記の測定方法で測定したろ過精度とろ過寿命が、下記の条件(a)及び条件(b)のうち、いずれかを満たす請求項1?7のいずれか1項に記載の筒状フィルター。
条件(a):ろ過精度が0.75μm未満、且つ、ろ過寿命が600リットル以上である
条件(b):ろ過精度が0.75μm以上1.00μm未満、且つ、ろ過寿命が1100リットル以上である。
[ろ過精度]
JIS Z 8901に準ずる試験用粉体(JIS11種)を水に分散させて濃度20ppmの試験用懸濁液を作製し、試験用懸濁液に含まれる粉体(ダスト)の粒子径別の個数(M)と、筒状フィルターを用いて試験用懸濁液を流速20リットル/分でろ過し、ろ過開始後5分の濾液に含まれるダストの粒子径別の個数(N)とを粒度分布測定機を用いて測定する。各粒子径別に下記式に基づいて遮断率を算出し、遮断率が90%になる粒子径を筒状フィルターのろ過精度とする。
遮断率(%)=[(M-N)/M]×100
[ろ過寿命]
JIS Z 8901に準ずる試験用粉体(JIS11種)を水に分散させて濃度20ppmの試験用懸濁液を作製する。次に試験用懸濁液を均一に攪拌しながら筒状フィルターの外周側から内周側中空部へ向かって、20リットル/分の流量で通過させ、この流量を維持するための通水圧力が0.2MPaになったときの総通水量(リットル)を筒状フィルターのろ過寿命とする。」
・「【0016】
本発明の筒状フィルターは、ろ過対象物の流入側から、平均孔径が特定の範囲を満たす不織布層A、不織布層B及び不織布層Cを、不織布の平均孔径が小さくなる順に配置してなるろ過層を含むため、ろ過対象物(例えば、水、切削油、塗料などの液体)中の固形物(粒子)が、大きいサイズのものから順番に除かれる。その上、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cの合計質量に対する不織布層A、不織布層B及び不織布層Cの含有量を特定の値にすることで、それぞれの平均孔径を有する不織布層A、不織布層B及び不織布層Cにおいて、対応するサイズの固形物をほぼ完全に除去でき、筒状フィルターの高いろ過精度と長いろ過寿命を両立している。
【0017】
本発明の筒状フィルターにおいて、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cは、筒状フィルターの流入側から不織布層A、不織布層B、不織布層Cの順番に連続して配置されている。本発明において、不織布層が連続しているとは、不織布層と不織布層の間に他の部材がない場合と不織布層と不織布層の間に他の部材がある場合を含む。例えば、不織布層Aを構成する不織布と、不織布層Bを構成する不織布の末端部を接着する若しくは合わせること、不織布層Aの不織布と、不織布層Bの不織布の一部を重ね合わせることなどにより、他の部材を介在することなく不織布層Aと不織布層Bが連続して形成していてもよい。或いは、不織布層Bを形成した後、他の部材を、不織布層Aと不織布層Bの間にスペーサー層として巻回した後、不織布層Aを形成してもよい。他の部材としては、例えば不織布層A及び不織布層Bの平均孔径の範囲を満たさない不織布などを用いる。同様に、不織布層Bと不織布層Cの間にもスペーサー層を設けてもよい。スペーサー層を設けることで、不織布同士の貼り付きを防ぎ、筒状フィルターのろ過寿命を長くし、通水圧損を低下する可能性がある。
【0018】
以下、図面などを用いて本発明の筒状フィルターを詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態の筒状フィルターの部分破断側面図である。図1に示されているように、本発明の筒状フィルター1は、芯材2と、芯材2に巻回されているろ過層3を含む。また、筒状フィルター1において、ろ過層3は、支持不織布4で巻回されていることが好ましい。」
・「【0021】
<不織布層A>
本発明の筒状フィルターにおいて、不織布層Aは不織布層B及び不織布層Cよりも流入側に置し、不織布層B及び不織布層Cに対する前ろ過層として機能し、不織布層B及び/又は不織布層Cでろ過するのに適したサイズの固形物は通過させつつ、不織布層B及び/又は不織布層Cでろ過するには大きすぎるサイズの固形物を捕集し、不織布層B及び/又は不織布層Cには可能な限り流出させない。
【0022】
不織布層Aの平均孔径は、15μm以上23μm未満である。好ましくは16μm以上22μm以下であり、17μm以上21μm以下であることがより好ましい。不織布層Aの平均孔径がこの範囲を満たすことで、不織布層Aで捕集する固形物と不織布層Aを通過する固形物のバランスがとれる上、筒状フィルター全体を通じた孔径の勾配の配分が容易となる。不織布層Aの平均孔径が15μmよりも小さいと、不織布層Aの平均孔径が小さくなりすぎるため、不織布層Aでサイズの大きい固形物からサイズの小さい固形物まで捕集されるようになり、不織布層Aを通過して不織布層B及び/又は不織布層Cに流出する固形物が少なくなる。すなわち、不織布層Aの中でも流入側に近い部分に集中して大部分の固形物が捕集されるようになるため、不織布層Aの構成繊維間の空隙が、他の不織布層に比べて、極端に早く、捕集した固形物によって完全に詰まった状態(この状態を「閉塞(した状態)」とも称す。)となり、筒状フィルターのろ過寿命が低下する。不織布層Aの平均孔径が23μm以上になると、不織布層Aを通過して不織布層B及び/又は不織布層Cに流出する固形物の量が増えすぎるため、不織布層Aが十分に固形物を捕集する前に、不織布層B及び/又は不織布層Cが閉塞しやすくなり、筒状フィルターのろ過寿命が低下する。不織布層Aは、上記平均孔径の範囲を満たす不織布を1種類用いて構成してもよいし、上記平均孔径の範囲を満たす不織布を2種類以上用いて構成してもよい。不織布層Aに平均孔径の異なる2種類以上の不織布を用いる構成としては、例えば、平均孔径が22μm、20μm、18μmの不織布を用いて不織布層Aを構成することが挙げられる。不織布層Aに限らず、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cの各層において、平均孔径が異なる不織布を2種類以上用いる場合、流入側から流出側にかけて、平均孔径が小さくなるように平均孔径が異なる不織布を順番に巻回し、それぞれの不織布層を形成することが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0024】
不織布層Aの平均繊維径(不織布層Aを構成する繊維の平均繊維径)は、平均孔径が上記範囲を満たすものとなる平均繊維径であればよく、特に限定されないが、2.0μm以上8.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは2.3μm以上6.0μm以下であり、さらに好ましくは2.5μm以上5.0μm以下である。不織布層Aの平均繊維径がこの範囲を満たすと、平均孔径が上記範囲を満たしやすくなる上、不織布層B及び不織布層Cの前ろ過層としての効果が より高いものとなる。不織布層Aの平均繊維径が8.0μmよりも大きいと、不織布層Aの平均孔径が上記範囲の上限を超えやすく、平均孔径の範囲を満たしにくくなるおそれがある。また、不織布層Aを構成する繊維の平均繊維径が大きくなると、不織布層Aの目付によっては孔径分布のバラつきが大きくなりやすく、不織布層Aの最大孔径が極端に大きくなるおそれがある。不織布層Aの平均繊維径が2.0μm未満であると不織布層Aの平均孔径が小さくなり、上記平均孔径の範囲を満たしにくくなるおそれがあり、その結果、筒状フィルターのろ過寿命が低下すると考えられる。
・・・(中略)・・・
【0026】
不織布層Aの最大孔径は、16μm以上50μm以下であることが好ましい。より好ましくは20μm以上40μm以下であり、さらに好ましくは22μm以上36μm以下である。ろ過用途に使用する不織布において、不織布の最大孔径は、不織布を通過しうる固形物のサイズに影響を与える。不織布層Aの最大孔径が上記範囲を満たすことで、不織布層Aが不織布層B及び/又は不織布層Cで捕集することが好ましいサイズの固形物は通過させ、不織布層B及び/又は不織布層Cで捕集するにはサイズが大きすぎる固形物は捕集し、下流側には極力流出させないようになる。不織布層Aの最大孔径が50μmよりも大きいと、不織布層Aを通過しうる固形物のサイズが大きくなるため、不織布層B及び/又は不織布層Cにサイズが大きすぎる固形物が流れ込むようになり、不織布層B及び/又は不織布層Cが急速に閉塞し、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。不織布層Aの最大孔径が16μmよりも小さいと、不織布層B及び/又は不織布層Cにサイズが大きすぎる固形物が流れこむことは抑えられるが、不織布層Aで捕集される固形物の割合が多くなることで、不織布層Aが他の不織布層よりも早い段階で閉塞し、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。
【0027】
不織布層Aの最多孔径は、10μm以上28μm以下であることが好ましい。より好ましくは12μm以上24μm以下であり、さらに好ましくは15μm以上20μm以下である。ろ過用途に使用する不織布において、不織布の最多孔径は、不織布の最大孔径と同様、不織布を通過しうる固形物のサイズに影響を与える。不織布層Aの最多孔径が上記範囲を満たすことで、不織布層Aは、不織布層B及び/又は不織布層Cで捕集することが好ましいサイズの固形物は通過させ、不織布層B及び/又は不織布層Cで捕集するにはサイズが大きすぎる固形物は捕集し、下流側には極力流出させないようになる。不織布層Aの最多孔径が28μmよりも大きいと、不織布層Aを通過しうる固形物のサイズが大きくなるため、不織布層B及び/又は不織布層Cにサイズが大きすぎる固形物が流れ込むようになり、不織布層B及び/又は不織布層Cが急速に閉塞し、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。不織布層Aの最多孔径が10μmよりも小さいと、不織布層B及び/又は不織布層Cにサイズが大きすぎる固形物が流入すること は抑えられるが、不織布層Aで捕集される固形物の割合が多くなることで、不織布層Aが他の不織布層よりも早く閉塞し、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。」
・「【0028】
<不織布層B>
不織布層Bは、不織布層Cの前ろ過層として機能し、不織布層Aを通過してきた固形物のうち、不織布層Cでろ過するのに適したサイズよりも大きい、比較的大きいサイズの固形物を捕集し、かつ不織布層Cでろ過するのに適したサイズの固形物は、ある程度捕集するものの不織布層Cにむけて流出させる役割を持つ。
【0029】
不織布層Bの平均孔径は、不織布層Aの平均孔径の0.62倍以上0.9倍未満である。好ましくは0.62倍以上0.85倍以下であり、0.63倍以上0.82倍以下であることがより好ましい。不織布層Bの平均孔径が不織布層Aの平均孔径に対して一定の範囲を満たす倍率であると、不織布層Aと不織布層Bの間における平均孔径の勾配が適度なものとなり、主に筒状フィルターのろ過寿命の向上に寄与すると考えられる。不織布層Bの平均孔径が不織布層Aの平均孔径の0.9倍以上であると、不織布層Aと不織布層Bの間における平均孔径の勾配が小さくなりすぎる、すなわち、不織布層Bの平均孔径と不織布層Aの平均孔径の差が小さい。そのため、不織布層Bが、不織布層Aを通過した固形物のうち、比較的大きい固形物を捕集するという機能を持たなくなり、不織布層Bよりさらに流出側の不織布層Cに、不織布層Aを通過した固形物の大部分が流れ込み、不織布層Cが他の不織布層よりも早く閉塞し、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。不織布層Bの平均孔径が不織布層Aの平均孔径の0.62倍未満であると、不織布層Aと不織布層Bの間における平均孔径の勾配が大きくなりすぎる、すなわち、不織布層Bの平均孔径が不織布層Aの平均孔径に対し急激に小さくなる。そのため、不織布層Aを通過した固形物の大部分が不織布層Bで捕集され、不織布層Bが他の不織布層よりも早く閉塞されるようになり、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。不織布層Aが平均孔径が異なる2種類以上の不織布で構成されている場合、平均孔径の範囲を満たす2種類以上の不織布のうち、最も平均孔径の小さい不織布の平均孔径の値に基づいて、不織布層Bの平均孔径が決定される。例えば、不織布層Aが22μm、20μm、18μmの不織布で構成されている場合、不織布層Bの平均孔径の範囲は、不織布層Aを構成する平均孔径18μmの不織布の平均孔径の値を用いて決定され、不織布層Bの平均孔径の範囲は11.2μm以上16.2μm未満になる。不織布層Bは、上記平均孔径の範囲を満たす不織布を1種類用いて構成してもよいし、上記平均孔径の範囲を満たす不織布を2種類以上用いて構成しても構わない。
・・・(中略)・・・
【0031】
不織布層Bの平均繊維径(不織布層Bを構成する繊維の平均繊維径)は、平均 孔径が上記範囲を満たすものとなる平均繊維径であればよく、特に限定されないが、1.5μm以上4.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは1.6μm以上3.0μm以下であり、さらに好ましくは1.8μm以上2.6μm未満である。不織布層Bの平均繊維径がこの範囲を満たすことで、平均孔径が上記範囲を満たしやすくなる上、不織布層Cの前ろ過層としての効果がより高いものとなる。不織布層Bの平均繊維径が4.0μmよりも大きいと、不織布層Bの平均孔径が上記範囲の上限を超えやすく、平均孔径が上記範囲を満たしにくくなるおそれがある。また、不織布層Bの平均繊維径が大きくなると、不織布層Bの目付によっては孔径分布にのバラつきが大きくなりやすく、不織布層Bの最大孔径が極端に大きくなり、筒状フィルターのろ過精度が低下するおそれがある。不織布層Bの平均繊維径が1.5μm未満であると、不織布層Bの平均孔径が上記範囲の下限を下回りやすく、平均孔径が上記範囲を満たしにくくなるおそれがあり、その結果、筒状フィルターのろ過寿命が低下すると考えられる。
・・・(中略)・・・
【0033】
不織布層Bの最大孔径は、10μm以上30μm以下であることが好ましい。より好ましくは12μm以上24μm以下であり、さらに好ましくは15μm以上20μm以下である。ろ過用途に使用する不織布において、不織布の最大孔径は、不織布を通過しうる固形物のサイズに影響を与える。不織布層Bの最大孔径が上記範囲を満たすことで、不織布層Bが不織布層Cで捕集することが好ましいサイズの固形物は通過させ、不織布層Cで捕集するにはサイズが大きすぎる固形物は捕集し、不織布層Cには極力流出させないようになる。不織布層Bの最大孔径が30μmよりも大きいと、不織布層Bを通過しうる固形物のサイズが大きくなるため、不織布層Cにサイズが大きすぎる固形物が流れ込むようになり、不織布層Cが急激に閉塞し、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。不織布層Bの最大孔径が10μmよりも小さいと、不織布層Cにサイズが大きすぎる固形物が流入することは抑えられるが、不織布層Bで捕集される固形物の割合が多くなることで、不織布層Bが他の不織布層よりも早い段階で閉塞し、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。
【0034】
不織布層Bの最多孔径は、6μm以上18μm以下であることが好ましい。より好ましくは8μm以上16μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上15μm以下である。ろ過用途に使用する不織布において、不織布の最多孔径は、不織布の最大孔径と同様、不織布を通過しうる固形物のサイズに影響を与える。不織布層Bの最多孔径が上記範囲を満たすことで、不織布層Bが不織布層Cで捕集することが好ましいサイズの固形物は通過させ、不織布層Cで捕集するにはサイズが大きすぎる固形物は捕集し、不織布層Cには極力流出さないようになる。不織布層Bの最多孔径が18μmよりも大きいと、不織布層Bを通過しうる固形物のサイズが大きくなるため、不織布層Cにサイズが大きすぎる固形物が流れ込 むようになり、不織布層Cが急激に閉塞し、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。不織布層Bの最多孔径が6μmよりも小さいと、不織布層Cにサイズが大きすぎる固形物が流入することは抑えられるが、不織布層Bで捕集される固形物の割合が多くなることで、不織布層Bが他の不織布層よりも早い段階で閉塞し、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。」
・「【0035】
<不織布層C>
不織布層Cは、ろ過層を構成する不織布層A、不織布層B及び不織布層Cの中で、最も流出側に位置するろ過層であり、筒状フィルターのろ過精度に大きな影響を与える。
【0036】
不織布層Cの平均孔径は、不織布層Aの平均孔径の0.2倍以上0.62倍未満である。好ましくは不織布層Aの平均孔径の0.3倍以上0.62倍未満であり、0.35倍以上0.62倍未満であることがより好ましく、0.4倍以上0.61倍以下であることがさらに好ましい。本発明の筒状フィルターにおいて、不織布層Cの平均孔径は不織布層Aの平均孔径に対し、一定の範囲を満たす倍率である。すなわち、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cで構成されたろ過層の中で、最も流入側に位置する不織布層Aの平均孔径と、最も流出側に位置する不織布層Cの平均孔径の比が、一定の範囲を満たしている。そのため、不織布層Aと不織布層Cの間における平均孔径の勾配、すなわち、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cで構成されるろ過層において、平均孔径の勾配が適度なものとなり、主に筒状フィルターのろ過寿命の向上に寄与すると考えられる。不織布層Cの平均孔径が不織布層Aの平均孔径の0.62倍以上であると、不織布層Aと不織布層Cの間における平均孔径の勾配が小さくなりすぎる。そのため、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cで構成されるろ過層全体の平均孔径の勾配が小さくなり、同一の不織布を巻き続けた筒状フィルターのような構成となることで、筒状フィルターのろ過精度とろ過寿命を両立することが難しくなる。また、不織布層Cの平均孔径が大きいため、筒状フィルターのろ過精度が低下するおそれがある。不織布層Cの平均孔径が不織布層Aの平均孔径の0.2倍未満となると、不織布層Aと不織布層Cの間における平均孔径の勾配が大きくなりすぎる。そのため、不織布層A及び/又は不織布層Bが、不織布層Cの前ろ過層として十分に機能しなくなり、不織布層Cで捕集するには大きすぎるサイズの固形物が不織布層Cに流入するようになり、不織布層Cが不織布層A及び/又は不織布層Bよりも早い段階で閉塞するようになり、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。不織布層Aが異なる2種類以上の不織布で構成されていて、不織布の平均孔径がそれぞれ異なる場合、平均孔径の範囲を満たす2種類以上の不織布のうち、最も平均孔径の小さい不織布の平均孔径の値に基づいて、不織布層Cの平均孔径が決定される。例えば、不織布層Aに平均孔径が22μm、20μm、18μmの不織布で構成されている場合、不織布層Cの平均孔径の範囲は、不織布 層Aを構成する不織布のうち、最も値が小さい不織布の平均孔径18μmに基づいて決定され、不織布層Cの平均孔径の範囲は3.6μm以上11.2μm未満である。不織布層Cは、上記平均孔径の範囲を満たす不織布を1種類用いて構成してもよいし、上記平均孔径の範囲を満たす不織布を2種類以上用いて構成してもよい。
【0037】
上記のとおり、本発明の筒状フィルターでは、不織布層Cの平均孔径が不織布層Aの平均孔径の0.2倍以上0.62倍未満であればよいが、不織布層Cの平均孔径が、この倍率を満たしつつ、不織布層Bの平均孔径の0.25倍以上0.95倍未満であることが好ましい。不織布層Cの平均孔径は、不織布層Bの平均孔径の0.5倍以上0.92倍以下であることがより好ましく、0.6倍以上0.9倍以下であることがさらに好ましい。不織布層Cの平均孔径が不織布層Bの平均孔径の0.25倍以上0.95倍未満であると、不織布層Bと不織布層Cの間における平均孔径の勾配がより適度なものとなり、筒状フィルターのろ過精度とろ過寿命の向上に寄与すると考えられる。不織布層Cの平均孔径が不織布層Bの平均孔径の0.95倍以上であると、不織布層Bと不織布層Cの間における平均孔径の勾配が小さくなりすぎる、すなわち、不織布層Cと不織布層Bの平均孔径の差が小さいため、不織布層Cが不織布層Bを通過した固形物の大部分を捕集できなくなり、筒状フィルターのろ過精度が低下するおそれがある。不織布層Cの平均孔径が不織布層Bの平均孔径の0.25倍よりも小さいと、不織布層Bと不織布層Cの間における平均孔径の勾配が大きくなりすぎる、すなわち、不織布層Cの平均孔径が不織布層Bの平均孔径に対して急激に小さくなる。そのため、不織布層Cにサイズが大きい固形物が流れ込みやすくなり、不織布層Cが不織布層A及び/又は不織布層Bよりも早い段階で閉塞しやすくなり、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。不織布層Bが異なる2種類以上の不織布で構成されていて、不織布の平均孔径がそれぞれ異なる場合、平均孔径の範囲を満たす2種類以上の不織布のうち、最も平均孔径の小さい不織布の平均孔径の値に基づいて、不織布層Cを構成する不織布の平均孔径が決定される。例えば、不織布層Bが、平均孔径がそれぞれ14μm、12μm、10μmの不織布で構成されている場合、不織布層Cの平均孔径の範囲は、不織布層Aの平均孔径に対し0.2倍以上0.62倍未満という範囲を満たしつつ、不織布層Bを構成する平均孔径10μmの不織布の平均孔径の値に基づいて決定される2.5μm以上9.5μm未満の範囲を満たすことが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0039】
不織布層Cの平均繊維径(不織布層Cを構成する繊維の平均繊維径)は、平均孔径が上記範囲を満たすものとなるような平均繊維径であればよく、特に限定されないが、0.3μm以上3.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.5μm以上2.5μm以下であり、さらに好ましくは0.8μm以上2. 3μm以下である。不織布層Cの平均繊維径がこの範囲を満たすことで、平均孔径が上記範囲を満たしやすい上、ろ過精度が高い筒状フィルターが得られるようになる。不織布層Cの平均繊維径が3.0μmよりも大きいと、平均孔径が上記範囲の上限を超えやすく、平均孔径が上記範囲を満たしにくくなるおそれがある。また、不織布層Cの平均繊維径が大きくなると、不織布層Cの目付によっては孔径分布のバラつきが大きくなりやすく、不織布層Cの最大孔径が極端に大きくなり、ろ過精度が低下するおそれがある。不織布層Cの平均繊維径が0.3μm未満であると、平均孔径が上記範囲の下限を下回りやすく、平均孔径が上記範囲を満たしにくくなるおそれがある。その結果、不織布層Cが不織布層A及び不織布層Bと比較して、極端に平均孔径の小さい層となることで、不織布層Cが他の層よりも早く閉塞し、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。
・・・(中略)・・・
【0041】
不織布層Cの最大孔径は、8μm以上20μm以下であることが好ましい。より好ましくは10μm以上18μm以下であり、さらに好ましくは12μm以上18μm以下である。不織布層Cの最大孔径がこの範囲を満たすことで、本発明の筒状フィルターは高いろ過精度を発揮することができる。不織布層Cの最大孔径が20μmよりも大きいと、不織布層Cを通過しうる固形物のサイズが大きくなるため、不織布層Cの積層回数を増やさないと筒状フィルターのろ過精度が低下するおそれがある。不織布層Cの最大孔径が8μmよりも小さいと、不織布層Cが不織布層A及び不織布層Bと比較して、極端に最大孔径の小さい層になり、不織布層Cが他の不織布層よりも早く閉塞することで、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。
【0042】
不織布層Cの最多孔径は5μm以上15μm以下であることが好ましい。より好ましくは6μm以上14μm以下であり、さらに好ましくは8μm以上12μm以下である。不織布層Cの最多孔径がこの範囲を満たすことで、本発明の筒状フィルターは高いろ過精度を発揮することができる。不織布層Cの最多孔径が15μmよりも大きいと、不織布層Cを通過しうる固形物のサイズが大きくなるため、不織布層Cの積層回数を増やさないと、筒状フィルターのろ過精度が低下するおそれがある。不織布層Cの最多孔径が5μmよりも小さいと、不織布層Cが不織布層A及び不織布層Bと比較して、極端に最多孔径の小さい層になり、不織布層Cが他の不織布層よりも早く閉塞することで、筒状フィルターのろ過寿命が低下するおそれがある。」
・「【0043】
不織布層A、不織布層B及び不織布層Cは、上述したとおり、各不織布層が1種類の不織布で構成されていてもよく、各不織布層の平均孔径の範囲を満たす不織布を2種類以上用いて構成されていてもよい。各不織布層を、上記平均孔径の範囲を満たし、平均孔径が異なる2種類以上の不織布で構成する場合、各不織布間は、平均孔径が異なる不織布同士を接着して巻回されていてもよく、異なる不織布の端部同士を5cmから15cmほど重ねて巻回してもよいし、末端部を合わせた状態で次の不織布を巻回し始めることで、つなぎ目がなく、かつ平均孔径が異なる不織布を連続するように巻回してもよい。また、平均孔径が異なる不織布の間に、他の部材例えばスペーサー層を介在させてもよい。上記スペーサー層を設けることで、不織布同士の貼り付きを防ぎ、筒状フィルターのろ過寿命が長くなる可能性や、通水圧損が低下する可能性があるためである。上記スペーサー層は隣接する不織布層の平均孔径の範囲を満たさない不織布などで構成されていればよい。」
・「【0048】
不織布層A、不織布層B及び不織布層Cの不織布の種類は特に限定されず、例えば長繊維(例えば、110mmよりも長い繊維長を有する繊維や、実質的に連続している繊維)不織布であってもよく、短繊維(例えば、3mm以上110mm以下の繊維長を有する繊維)不織布であってもよい。長繊維不織布としては、例えばスパンボンド不織布、メルトブロー法により得られるメルトブローン不織布、エレクトロスピニング法(静電紡糸法、電界紡糸法)を用いて得られる不織布などを用いることができる。短繊維不織布としては、短繊維を用い、湿式抄紙法、カード機を用いたカード法及びエアレイ法などによりウェブを作製し、さらにウェブを一体化させることにより得られるものを用いることができる。カード法によると、パラレルウェブ、セミランダムウェブ、ランダムウェブ、クロスウェブ及びクリスクロスウェブなどのウェブを作製することができる。ウェブの一体化は、接着剤による接合、繊維を軟化又は溶融させることによる熱接着(サーマルボンド)、ニードルパンチ及び高圧水流処理(スパンレース)から選択される一つ又は複数の方法により実施される。
【0049】
不織布層A、不織布層B及び不織布層Cは、油剤を使わずに製造でき、繊維くずが少なく、使用中の繊維脱落の発生が少ないことから、長繊維不織布であることが好ましく、メルトブローン不織布であることがより好ましい。メルトブローン不織布は、繊維径の分布が大きい不織布とすることができる。メルトブローン不織布において、繊維径の大きい繊維によって構成された繊維間空隙では固形物(粒子)が通過しやすく、繊維径の小さい繊維によって構成された繊維間空隙では微小粒子を捕捉するので、メルトブローン不織布からなる不織布を複数周巻回しても、目詰まりし難い。また、メルトブロー法によれば、適度な厚さを有する不織布を得やすい。
【0050】
不織布層A、不織布層B及び不織布層Cを構成する材料は特に限定されず、例えば熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどのポリエステル系樹脂;低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン樹脂、アイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックなどのポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリブテン-1樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、エチレン-プロピレン共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド系樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド(ポリフェニレンスルフィド)などのエンジニアリング・プラスチックなどが挙げられる。
【0051】
上述した熱可塑性樹脂、或いは例挙していないが、公知の熱可塑性樹脂の中から選択して不織布を作製し、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cを形成し、本発明の筒状フィルターに用いることができる。不織布及び筒状フィルターの生産性、筒状フィルターを使用する際の耐薬品性(耐酸性、耐塩基性、各種有機溶剤に対する耐性)が高いという観点から、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cは、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリブテン-1樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、エチレン-プロピレン共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂で構成されることが好ましく、少なくともポリプロピレン樹脂を含んでいることがさらに好ましい。ポリプロピレン樹脂はポリオレフィン系樹脂の中では比較的高融点の樹脂であることから、ある程度高い温度の液体をろ過できるほか、耐薬品性も良好であり、低コストである。なお、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cを構成する熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂に限定されず、本発明の筒状フィルターに求められる性能によってポリオレフィン系樹脂以外の熱可塑性樹脂を適宜選択して使用することができる。筒状フィルターに対し、耐熱性が求められる用途であれば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイドで不織布層A、不織布層B及び不織布層Cを構成することが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイドで構成することがより好ましい。
【0052】
また、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cを構成する繊維は、単一繊維であってもよく、複合繊維であってもよい。単一繊維は、分割型複合繊維の割繊により形成される繊維や、いわゆる海島型複合繊維から海成分を溶脱させ、島成分を極細繊維とした繊維も含む。複合繊維としては、同心芯鞘型、偏心芯鞘型、サイドバイサイド型、分割型などのいずれの複合繊維であってもよい。不織布層A、不織布層B及び不織布層Cは、単一繊維で構成されることが好ましい。不織布層A、不織布層B及び不織布層Cを構成する繊維が複合繊維、例えば、芯成分がポリプロピレン、鞘成分がポリエチレンの芯鞘型複合繊維であると、筒状フィルターを使用できる温度が、ポリエチレンの融点に依存するようになるため、ポリプロピレンの単一繊維を使用したときよりも耐用温度が低下する場合があるなど、組み合わせた樹脂によって使用できる条件が変わるだけでなく、使用状況の変化によって筒状フィルターの性能が変わりやすくなるおそれがある。これらの点から、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cはポリプロピレン樹脂からなる単一繊維であることが特に好ましい。なお、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cを構成する繊維は、ポリプロピレン樹脂からなる単一繊維に限定されず、本発明の筒状フィルターに求められる性能によってポリプロピレン樹脂以外の熱可塑性樹脂を使用した繊維を適宜選択して使用できる。筒状フィルターに対し、耐熱性が求められる用途であれば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイドを含む単一繊維や複合繊維で不織布層A、不織布層B及び不織布層Cを構成することが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ポリカーボネート及びポリフェニレンサルファイドからなる群から選ばれる熱可塑性樹脂の単一繊維で構成することがより好ましい。」
・「【0053】
<他の部材>
ろ過層3は、本発明の効果を阻害しない範囲において、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cに加えて、他の部材を含んでもよい。他の部材は、不織布層Aの外側(流入側)及び/又は不織布層Cの内側(流出側)に配置することができる。まず、他の部材が不織布層Aよりも流入側に配置される場合を説明する。他の部材が不織布層Aよりも流入側に配置される場合、他の部材は、その平均孔径が不織布層Aの平均孔径より大きいことが好ましい。このような構造とすることで、本発明の筒状フィルターのろ過寿命がより長いものとなりうる。次に、他の部材が不織布層Cよりも流出側に配置される場合を説明する。他の部材が不織布層Cよりも流出側に配置される場合、他の部材は、その平均孔径が不織布層Cの平均孔径より小さいことが好ましい。このような構造とすることで、本発明の筒状フィルターのろ過精度がより高いものとなりうる。
【0054】
また、上述したとおり、他の部材がろ過性能に影響を与えないものであれば、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cの層間にスペーサー層として配置してもよく、各不織布層が、その層の平均孔径の条件を満たす2種類以上の不織布を含む場合は、その不織布の間にスペーサー層として配置されることもある。この場合、他の部材の平均孔径はろ過機能に影響を与えないような十分に大きい平均孔径であることが好ましい。上記不織布層の層間に挿入する他の部材や、上記各不織布の間に挿入する他の部材の平均孔径が十分に大きくない(例えば平均孔径が26μmの場合が挙げられる)と、他の部材と不織布層Aの平均孔径が近いことにより他の部材の閉塞が起きやすい。また、他の部材の巻き回数が1周から10周程度であると、その量が不織布層A、不織布層B及び不織布層Cと比較して少ないことから、他の部材の閉塞が起きやすい。他の部材が閉塞してしまうと、不織布層A、不織布層B、不織布層Cを十分にろ過に使用する前に他の部材の閉塞に伴い筒状フィルターのろ過寿命に達するため好ましくない。他の部材としては、巻き回数が少なくても閉塞しにくい十分に粗い不織布やネット、具体的には平均孔径が30μm以上、より好ましくは35μm以上、さらに好ましくは40μm以上の不織布やネットが用いられる。この場合において、他の部材の巻き回数は、10周よりも多くなると、不織布層A、不織布層B及び不織布層Cの割合が低下することから1周以上10周以下が好ましく、1周以上5周以下がより好ましい。平均孔径が異なる不織布の間にスペーサー層を設ける具体例としては、不織布層Aを平均孔径20μmの不織布と平均孔径16μmの不織布で構成する場合、平均孔径が16μmの不織布を巻回して不織布層を形成し、そこに平均孔径が32μmの不織布を1周以上5周以下巻回した後、平均孔径が20μmの不織布を巻回する構成が挙げられる。不織布層A、不織布層B及び不織布層Cの層間、或いは各不織布層の平均孔径が異なる不織布の間にスペーサー層を設ける場合、スペーサー層は不織布層A、不織布層B及び不織布層Cの合計質量に対し10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下である。或いは、スペーサー層を構成する材料、例えば不織布、ネットといった布帛やシートの巻き回数が1周以上10周以下であることが好ましく、より好ましくは1周以上5周以下である。」

イ 甲3に記載された発明
(ア)甲3の請求項1には、次の発明(以下、「甲3フィルター1」という。)が記載されているといえる。
『芯材に巻回されているろ過層を含む筒状フィルターであって、
前記ろ過層は、ろ過対象物の流入側から順番に連続して巻回されている不織布層A、不織布層B、不織布層Cの少なくとも3種類の不織布層で構成されており、
不織布層A、不織布層B及び不織布層Cの合計質量は、筒状フィルター全体の質量の20質量%以上であり、
不織布層Aの平均孔径は15μm以上23μm未満であり、不織布層Bの平均孔径は不織布層Aの平均孔径の0.62倍以上0.9倍未満であり、不織布層Cの平均孔径は不織布層Aの平均孔径の0.2倍以上0.62倍未満であり、
不織布層A、不織布層B及び不織布層Cの合計質量に対して、不織布層Aの含有量は3質量%以上35質量%以下であり、不織布層Bの含有量は10質量%以上40質量%以下であり、不織布層Cの含有量は50質量%以上85質量%以下であることを特徴とする筒状フィルター。』
(イ)また、甲3の【0017】、【0043】、【0054】には、上記不織布層A、B、Cの層間に、さらにスペーサー層を挿入することが記載され、特に【0054】には、当該スペーサー層の平均孔径は、不織布層A、B、Cの平均孔径よりも十分に大きいものであること、及び、当該スペーサー層は不織布などにより構成されていることが記載されているから、甲3には、次の発明(以下、「甲3フィルター2」という。)についても記載されているということができる。
『「甲3フィルター1」の不織布層A、B、Cの層間に、これらよりも平均孔径の大きい、不織布のスペーサー層を挿入したもの』
(ウ)さらに、上記「甲3フィルター1」、「甲3フィルター2」は、甲3の請求項8に記載されているように、懸濁液に含まれる粉体(ダスト)などをろ過するために用いられるものであり、なにがしかの液体濾過装置に組み込まれて使用されるものと解するのが合理的であるから、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
『「甲3フィルター1」又は「甲3フィルター2」を組み込んだ液体濾過装置』

ウ 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲3発明(なかでも「甲3フィルター2」を用いた場合)とを対比する。
まず、両者のフィルター、すなわち、本件発明1の「複合媒体」と、これと相当関係にある甲3発明における「甲3フィルター2」との構成上の異同についてみると、「甲3フィルター2」における「不織布層A」、「不織布層B」、「不織布層C」は、この順に平均孔径(本件発明1における「細孔径」に対応するもの)が小さくなるものであり、また、当該平均孔径の大小は、各不織布層の平均繊維径(本件発明1における「繊維径」に対応するもの)の大小に関係するものであることが理解できる(甲3の【0024】、【0031】、【0039】に記載された各層の平均繊維径の数値などを参照した。なお、この点は本件特許明細書の【0071】に記載された一般論とも符合する。)。
また、当該「甲3フィルター2」における「スペーサー層」は、例えば、「不織布層A」と「不織布層B」の層間に挿入されるものであり、当該「不織布層A」、「不織布層B」のいずれよりも平均孔径の大きいものであるから、これら「不織布層A」、「不織布層B」、「スペーサー層」は、それぞれ本件発明1における「第2の繊維含有フィルタ層」、「第1の繊維含有フィルタ層」、「中間層」に相当するものということができる(「スペーサー層」を「不織布層B」と「不織布層C」の層間に挿入した場合についても同じ)。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは、次の一致点及び相違点を有するものと認められる。
・一致点
「複合媒体を含む液体濾過装置であって、前記複合媒体が
(i)対向する第1および第2の面を有する多孔質中間層、
(ii)中間層の第1の面上に配置された第1の繊維含有フィルタ層、および
(iii)中間層の第2の面上に配置された第2の繊維含有フィルタ層
を含み、第1および第2の繊維含有フィルタ層の繊維は異なる繊維径を有し、各繊維含有フィルタ層は異なる細孔径を有し、中間層は第1または第2の繊維含有フィルタ層のいずれよりも粗い細孔径を有する、液体濾過装置。」
・相違点1
本件発明1の液体濾過装置は、「(a)入口、濾液出口および残留物出口を有するホルダー;および(b)前記ホルダー内に配置され、当該ホルダーを上流区画と下流区画とに分離する複合媒体を含む液体濾過装置」であるのに対して、甲3発明は、液体濾過装置の詳細が不明である点。
・相違点2
本件発明1の複合媒体は、「第1の繊維含有フィルタ層は、10nmから1,000nmの繊維直径を有するナノ繊維を含み、第2の繊維含有フィルタ層は、10nmから1,000nmの繊維直径を有するナノ繊維を含む」という構成を具備しているのに対して、甲3発明の甲3フィルター2は、このような構成を具備していない点。
(イ) 相違点についての検討
事案に鑑み、はじめに相違点2について検討をする。
「甲3フィルター2」における不織布層A、不織布層B及び不織布層Cを構成する繊維についてみると、甲3の【0024】には、「不織布層Aの平均繊維径(不織布層Aを構成する繊維の平均繊維径)は、平均孔径が上記範囲を満たすものとなる平均繊維径であればよく、特に限定されないが、2.0μm以上8.0μm以下であることが好ましい。」ということが、また、同【0031】には、「不織布層Bの平均繊維径(不織布層Bを構成する繊維の平均繊維径)は、平均孔径が上記範囲を満たすものとなる平均繊維径であればよく、特に限定されないが、1.5μm以上4.0μm以下であることが好ましい。」ということが、さらに同【0039】には、「不織布層Cの平均繊維径(不織布層Cを構成する繊維の平均繊維径)は、平均孔径が上記範囲を満たすものとなるような平均繊維径であればよく、特に限定されないが、0.3μm以上3.0μm以下であることが好ましい。」ということが、それぞれ記載されているから、「甲3フィルター2」における不織布層A、不織布層B及び不織布Cを構成する繊維として、本件発明1において使用されているような「10nmから1,000nmの繊維直径を有するナノ繊維」はそもそも想定されていないと解するのが合理的である。
そうである以上、仮に甲1又は甲2に、フィルターに使用される不織布として、本件発明1と同程度の繊維直径を有するものが記載されているとしても、そのような不織布を想定していない甲3発明に、それを適用することは、当業者といえども容易に想到し得ないというべきである。
(ウ) まとめ
以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に対して進歩性が欠如するということはできない。

エ 本件発明2、4?6、8?11について
本件発明2、4?6、8?11は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記ウの本件発明1についての検討と同様、甲3発明に対して進歩性が欠如するということはできない。

3 小括
上記2(1)、(2)のとおり、請求項1、2、4?6、8?11に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとも、同法第29条第2項の規定に違反してされたものともいえず、同法第113条第4号及び第2号には該当しないため、上記取消理由1(サポート要件違反)、取消理由2(明確性要件違反)及び取消理由3(進歩性欠如)を理由に、当該特許を取り消すことはできない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 標記特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が、特許異議申立書において主張する特許異議申立理由のうち、当審が上記取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
すなわち、当該理由は、特許法第29条第2項所定の規定違反に係る進歩性欠如であり、上記甲1を主たる証拠として、設定登録時の請求項1?11に係る特許は甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるため特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである、というものである。

2 上記特許異議申立理由(甲1を主たる証拠とする進歩性欠如)についての当審の判断
(1)甲1の記載事項
甲1(特開2009-6272号公報)には、以下の記載事項がある。
ア 「【請求項1】
静電紡糸法により製造された、平均繊維径が10?1000nmであるナノファイバーと、平均繊維径が5μmより大きい繊維で構成された不織布または織布からなる基材とが積層されたシートであり、以下(1)?(3)の条件を全て満足することを特徴とする液体フィルター用濾材。
(1)平均ポアサイズが0.1?10μmであること、
(2)JIS11種ダストの捕集効率が90%以上であること、
(3)シートの縦方向および横方向の平均引張強力B(kgf/15mm)が目付A(g/m2)に対して下式を満足すること。
(100×B)/A≧1.0 」
イ 「【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の濾材は、平均繊維径が10?1000nmのナノファイバーと、平均繊維径が5μmより大きい繊維で構成された不織布または織物である基材とが積層されたシートでなければならない。ナノファイバーの平均繊維径が1000nmよりも大きい場合には、極細化が十分でなく、繊維表面積が低下し、フィルターとしての捕集効率が著しく低下する。また、ナノファイバーの平均繊維径が10nmよりも小さい場合には、加工性が低下し、安定な生産が困難な場合がある。捕集効率と生産性双方を考慮した場合、好ましくは、平均繊維径は40?800nmであることが好ましく、更に好ましくは、100?600nmであることが好ましい。一方、不織布または織物を構成する基材の平均繊維径は5μmより大きい繊維である必要がある。不織布または織物を構成する基材の平均繊維径が5μm以下であると、後述するようにシートの引張強力が低く、フィルターとして加工する際の加工性が悪くなるばかりか、フィルターとしての耐久性も悪くなる。フィルターとしての捕集性能はナノファイバー層で確保し、フィルターの加工性や耐久性は基材で確保するようにするのがよい。基材の平均繊維径として、好ましくは6μm以上200μm以下、更に好ましくは7μm以上180μm以下である。」
ウ 「【0029】
次いでこのようにして得られたナノファイバーと基材とを、エンボスやカレンダーによるサーマルボンド、または各種接着剤によるケミカルボンド等により接着させ、積層シートとすればよい。積層の構成としては、積層体の最表面が基材となる状態であれば特に制限されるものではなく、例えば図2に示すようなナノファイバーの単一層の両面が基材でサンドイッチされた状態、あるいは図3に示すような複数のナノファイバー層と基材層が積層された積層体の両面が基材でサンドイッチされた状態、いずれの場合も好適に採用できる。一方、積層体の最表面がナノファイバーとなる場合は、外部からの物理的損傷によりナノファイバーが破損される恐れがあるため、好ましくない。また該積層シートは、必要に応じて熱プレスまたは冷間プレスによって目的とする厚さに調整することも可能である。」
エ 「【0052】
【図1】本発明の液体フィルター用濾材を構成するナノファイバーを製造する装置を示す模式図。
【図2】本発明の液体フィルター用濾材を構成する積層シート(単一層のナノファイバー層)の構造を示す断面模式図。
【図3】本発明の液体フィルター用濾材を構成する積層シート(複数のナノファイバー層)の構造を示す断面模式図。」
オ 「【図3】



(2)甲1に記載の発明(甲1発明)
上記(1)ア?オの記載によれば、甲1(特に図3)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「静電紡糸法により製造された、平均繊維径が10?1000nmであるナノファイバーと、平均繊維径が5μmより大きい繊維で構成された不織布または織布からなる基材とが積層されたシートであり、複数のナノファイバー層と基材層が積層された積層体の両面が基材でサンドイッチされた状態にあり、以下(1)?(3)の条件を全て満足する、液体フィルター用濾材。
(1)平均ポアサイズが0.1?10μmであること、
(2)JIS11種ダストの捕集効率が90%以上であること、
(3)シートの縦方向および横方向の平均引張強力B(kgf/15mm)が目付A(g/m2)に対して下式を満足すること。
(100×B)/A≧1.0」

(3)本件発明1についての判断
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における液体フィルター用濾材は、本件発明1における複合媒体に相当し、その構成部材たる甲1発明の複数のナノファイバー層及びその間の基材層は、それぞれ本件発明1の第1、第2の繊維含有フィルタ層及び中間層に相当するものの、両発明は少なくとも次の相違点を有するものといえる。
・相違点
本件発明1では、「第1および第2の繊維含有フィルタ層の繊維は異なる繊維径を有し、各繊維含有フィルタ層は異なる細孔径を有」することが特定されているのに対し、甲1発明では、「複数のナノファイバー層」の繊維は異なる繊維径を有し、各繊維含有フィルタ層は異なる細孔径を有することが示されていない点。

イ 相違点についての検討
特許異議申立人は、上記相違点について、特許異議申立書及び令和3年5月20日付け意見書にて、「甲第1号証の段落[0015]には、ナノファイバーの平均繊維径として10から1000nmの範囲で選択できると記載されている以上、上記のとおり本件特許にも記載されている一般的技術的事項を勘案すれば、耐用年数を増加させるために、第1および第2繊維含有フィルタ層を異なる繊維径とすることは一般的である。・・・第1および第2繊維含有フィルタ層を異なる繊維径とすることは当業者からすれば当然である。・・・さらに、甲第3号証に、・・・が記載されており、フィルタの設計にあっては、フィルタ層の繊維径を違えることが一般的であることを意味している。これはナノ繊維であろうとなかろうと相違するものではない。」(特許異議申立書P.23の3?18行目)、「甲第1号証の段落[0015]の「ナノファイバー層」においては、異なる繊維径を有する繊維を選択することを特徴として排除されていないから、甲第1号証において「基材」の両側に配置されるそれぞれの「ナノファイバー層」が異なる繊維径を有することはいわゆる当業者にして当然の技術的事項である。したがって、・・・甲第1号証に記載されているに等しい事項である。」(意見書P.5の25?29行目)と主張する。
そこで、当該主張を踏まえて、上記相違点について検討をする。
上記の主張は、要するに、甲1発明の「基材」の両側に配置されるそれぞれの「ナノファイバー層」が異なる繊維径を有することは甲1に記載されているに等しい事項であるというものであるが、甲1を子細にみても、その実施例の欄には、上記図3の濾材についての具体的な説明は認められず、当該図3の濾材において、異なる繊維径の「ナノファイバー層」が当然に採用されているとは言い難い。また、そのように異なる繊維径の「ナノファイバー層」を採用しなければならない事情を伺わせる記載も見当たらない。
その上、当該図3の濾材において使用されている複数の基材層は、甲1の【0015】に記載されているように、単にフィルターの加工性や耐久性を確保するためのものであり、捕集性能を確保するためのものではないことに照らすと、甲1発明における複数の基材層は、甲3の【0053】に記載されているような、フィルターのろ過精度を高めるためにその平均孔径(繊維径)に配慮したものであるとは到底いえない。そうである以上、複数のナノファイバー層をも含めた甲1発明に係る液体フィルター用濾材全体についてみても、繊維径について配慮され、もってそのろ過精度の向上が図られているとは認められない。
このような甲1の記載に鑑みると、上記相違点に係る構成を含む、本件発明1の全体構成により奏される効果、すなわち、異なるナノ繊維径のフィルタ層を複数配置した構成において、「いずれの繊維フィルタマット層よりもずっと粗い細孔径を有する多孔質中間層を有する繊維フィルタマット層を分離することにより、このような繊維濾過構造における目詰まり抵抗は、繊維フィルタマット層が互いに直接接触している(即ち、各濾過マット層の間に配置された多孔質支持中間層がない)濾過構造と比べて、大幅に改善される」(【0054】)という効果は、甲1の記載などからは当業者の予測し得ない顕著な効果であるというべきである。
以上を併せ考えると、甲1発明の「基材」の両側に配置されるそれぞれの「ナノファイバー層」が異なる繊維径を有することは甲1に記載されているに等しい事項であるという特許異議申立人の主張は採用することはできず、また、本件発明1が奏する顕著な効果に照らすと、上記相違点に係る本件発明1の構成が甲1発明から容易想到の事項であるともいえない。
そして、このような判断は、甲1?3のすべての記載をみても変わりはない。
したがって、本件発明は、甲1?甲3に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明に対して進歩性が欠如するということはできない。

(4)本件発明2、4?6、8?11についての判断
本件発明2、4?6、8?11は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(3)の本件発明1についての検討と同様、甲1発明に対して進歩性が欠如するということはできない。

3 小括
上記2のとおり、本件発明1、2、4?6、8?11は、甲1発明に対して進歩性が欠如するということはできないので、請求項1、2、4?6、8?11に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないため、取り消すことはできない。

第6 むすび
以上の検討のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1、2、4?6、8?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2、4?6、8?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
更に、本件特許の請求項3、7、12?14は、本件訂正により削除され、これらの請求項に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)入口、濾液出口および残留物出口を有するホルダー;および
(b)前記ホルダー内に配置され、当該ホルダーを上流区画と下流区画とに分離する複合媒体を含む液体濾過装置であって、前記複合媒体が
(i)対向する第1および第2の面を有する多孔質中間層、
(ii)中間層の第1の面上に配置された第1の繊維含有フィルタ層、および
(iii)中間層の第2の面上に配置された第2の繊維含有フィルタ層
を含み、第1および第2の繊維含有フィルタ層の繊維は異なる繊維径を有し、各繊維含有フィルタ層は異なる細孔径を有し、中間層は第1または第2の繊維含有フィルタ層のいずれよりも粗い細孔径を有し、第1の繊維含有フィルタ層は、10nmから1,000nmの繊維直径を有するナノ繊維を含み、第2の繊維含有フィルタ層は、10nmから1,000nmの繊維直径を有するナノ繊維を含む、液体濾過装置。
【請求項2】
第1および第2の繊維含有フィルタ層の繊維は、熱可塑性ポリマーおよび熱硬化性ポリマーからなる群から選択されるポリマー材料である請求項1に記載の液体濾過装置。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
中間層が不織布を含む請求項1に記載の液体濾過装置。
【請求項5】
不織布がポリマーナノ繊維を含む請求項4に記載の液体濾過装置。
【請求項6】
ポリマーナノ繊維がポリプロピレンから作られる請求項5に記載の液体濾過装置。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
第1および第2の繊維含有フィルタ層が、電界紡糸されたナノ繊維マットを含む請求項1に記載の液体濾過装置。
【請求項9】
ナノ繊維が、熱可塑性ポリマーおよび熱硬化性ポリマーからなる群から選択されるポリマー材料である請求項8に記載の液体濾過装置。
【請求項10】
ナノ繊維が、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、ナイロン、ポリイミド、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリスルホン、セルロース、酢酸セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリウレタン、ポリ(尿素ウレタン)、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルイミド、ポリアクリロニトリル、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリプロピレン、ポリアニリン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(ビニルブチレン)、それらのコポリマーおよび組み合わせからなる群から選択されるポリマー材料である請求項8に記載の液体濾過装置。
【請求項11】
ナノ繊維が、ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン6,6-6,10、ナイロン-6コポリマー、ナイロン-6,6コポリマー、ナイロン-6,6-6,10コポリマー、およびそれらの混合物からなる群から選択されるポリマー材料である請求項8に記載の液体濾過装置。
【請求項12】(削除)
【請求項13】(削除)
【請求項14】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-22 
出願番号 特願2016-571207(P2016-571207)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B01D)
P 1 651・ 121- YAA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高▼ 美葉子  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 宮澤 尚之
正 知晃
登録日 2019-08-09 
登録番号 特許第6568545号(P6568545)
権利者 イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン
発明の名称 増強された汚れ保持容量を有するフィルタ構造  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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